特許第6281854号(P6281854)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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  • 特許6281854-熱可塑性樹脂組成物 図000008
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6281854
(24)【登録日】2018年2月2日
(45)【発行日】2018年2月21日
(54)【発明の名称】熱可塑性樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20180208BHJP
   C08K 5/521 20060101ALI20180208BHJP
   C08L 69/00 20060101ALI20180208BHJP
   C08L 97/00 20060101ALI20180208BHJP
【FI】
   C08L101/00ZBP
   C08K5/521
   C08L69/00
   C08L97/00
【請求項の数】12
【全頁数】17
(21)【出願番号】特願2012-155664(P2012-155664)
(22)【出願日】2012年7月11日
(65)【公開番号】特開2014-15579(P2014-15579A)
(43)【公開日】2014年1月30日
【審査請求日】2015年5月28日
【審判番号】不服2016-14988(P2016-14988/J1)
【審判請求日】2016年10月5日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成24年度 独立行政法人科学技術振興機構戦略的創造研究推進事業(先端的低炭素化技術開発)「天然多環芳香族からの構成単環芳香族類の単離回収基盤技術開発」に係る委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000183646
【氏名又は名称】出光興産株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100078732
【弁理士】
【氏名又は名称】大谷 保
(72)【発明者】
【氏名】増田 隆夫
(72)【発明者】
【氏名】多湖 輝興
(72)【発明者】
【氏名】龍門 尚徳
(72)【発明者】
【氏名】野寺 明夫
(72)【発明者】
【氏名】小山 啓人
(72)【発明者】
【氏名】鳥居 孝洋
(72)【発明者】
【氏名】柴田 誠之
【合議体】
【審判長】 加藤 友也
【審判官】 橋本 栄和
【審判官】 小柳 健悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2005−41969(JP,A)
【文献】 特開平11−286612(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、
リグニン含有材料を、水及びアルコールを含む混合溶媒中で下記(1)〜(4)の条件で処理することで(B)リグニン分解物を得る工程、および
(A)熱可塑性樹脂に(B)リグニン分解物を添加する工程を含み、
前記熱可塑性樹脂組成物における(A)熱可塑性樹脂の含有量は99.9〜30質量%であり、
前記熱可塑性樹脂組成物における(B)リグニン分解物の含有量は0.1〜70質量%であり、
前記リグニン含有材料が、パームヤシの樹幹・空果房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮・殻、および木材チップからなる群から選択される少なくとも1種であり、
前記リグニン分解物中の水/THF不溶分の割合が、20質量%未満であり、
前記リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量が、40質量%以上である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)混合溶媒に対するリグニンの含有量が1〜50質量%
(2)水とアルコールのモル比(水/アルコール)が1/10〜50/1
(3)温度が180〜350℃
(4)時間が1分〜10時間
【請求項2】
(A)熱可塑性樹脂が芳香族系熱可塑性樹脂である請求項1に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
(A)熱可塑性樹脂がポリカーボネートである請求項1又は2に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項4】
前記熱可塑性樹脂組成物における(A)熱可塑性樹脂の含有量が99.9〜70質量%であり、前記熱可塑性樹脂組成物における(B)リグニン分解物の含有量が0.1〜30質量%である請求項1〜3のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項5】
(A)熱可塑性樹脂及び(B)リグニン分解物の合計量100質量部に対して、0.01〜30質量部のリン系化合物(C)を(A)熱可塑性樹脂に添加する工程をさらに含む請求項1〜4のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項6】
(C)リン系化合物がリン酸エステルである請求項5に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項7】
条件(1)の混合溶媒に対するリグニンの含有量が2〜40質量%である請求項1〜6のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項8】
条件(2)の水とアルコールのモル比(水/アルコール)が、1/1〜24/1である請求項1〜7のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項9】
条件(3)の温度が200〜320℃である請求項1〜8のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項10】
条件(4)の時間が5分〜5時間である請求項1〜9のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項11】
混合溶媒のアルコールが、1−ブタノール、2−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールから選ばれる少なくとも1種である請求項1〜10のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【請求項12】
リグニン含有材料が、セルロース系バイオマスおよびパルプ製造過程に副生する黒液である請求項1〜11のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂とリグニン分解物とを含有する熱可塑性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、機械的強度(特に、耐衝撃性)、電気的特性、透明性などに優れ、エンジニアリングプラスチックとして、OA機器、電気・電子機器分野、自動車分野等様々な分野において幅広く利用されている。そして、これらの利用分野の中には、OA機器、電気・電子機器分野を中心として、難燃性を要求される分野がある。また、製品の大型化や薄肉化に伴い、高流動化が必要となってきている。さらに近年の環境意識の高まりにより、耐久性の優れた材料やバイオマス由来の原料が望まれるようになってきた。
しかしバイオマス由来の原料は、例えば、バイオエタノールの製造において特に顕著となったように、デンプンや糖など食料と競合する原料を用いる場合が多く、これにより食料価格上昇や食糧生産の減少に繋がるなど問題が指摘されていた。そこで、現在特に注目度が高いのが、食料と競合しないセルロース系バイオマスから原料を製造する技術である。
【0003】
セルロース系バイオマスとしては、例えばパームヤシの樹幹・空房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮・殻、木材チップなどが挙げられるが、これらはいずれも糖に変換できるセルロースやヘミセルロース以外にリグニンを含有している。
【0004】
このリグニンは、通常、前処理・糖化の段階で、セルロースやヘミセルロースと分離され固体の残渣として残る。これは燃料として使用することで有効利用されているが、分解することでフェノール誘導体を製造できるため、化学品やさらにはバイオプラスチックへの変換が望まれている。
また、パルプ製造過程においてもリグニンは、燃料として使用することで有効利用されているが、上記と同様に高付加価値化できる可能性がある。
以上はバイオマスから分離した固体のリグニンを燃料以外に有効利用する考え方であるが、これまで長年、樹脂、接着剤、分散剤などへの応用が検討されてきたが、優れた商品の開発には至っていない。
【0005】
熱可塑性樹脂に対して、リグニンを添加した例として以下のものが提案されている。
特許文献1ではバイオマス由来の原料に配合する技術として、ポリ乳酸を配合する技術が開示されている。ポリ乳酸の配合により、ポリカーボネート等の熱可塑性樹脂を、高流動化できるものの、高い難燃性が必要な場合、多くの石油系難燃剤を添加することが望ましく、この場合、他の特性やバイオマス度の低下が問題となる。
特許文献2では、リグニンを含む、圧縮、押出しまたは射出成形用の成形用樹脂コンパウンド材料として、木質バイオマスを水のみで処理し、有機溶媒で抽出したリグニンを配合している。これにより、成形性に優れた成形用樹脂コンパウンド材料が得られるとしている。ただし、水とアルコール混合溶媒によるリグニンの分解については触れていない。
【0006】
リグニンを溶解する技術は、主にパルプ製造において発達してきた。例えばクラフトパルプ法では、苛性ソーダ(NaOH)と硫化ソーダ(Na2S)を主成分とした化学薬品を加えて、150〜160℃程度で蒸煮する。一方、サルファイドパルプ法では、酸性亜硫酸塩と亜硫酸の混液を加えて、130〜140℃で蒸煮し木材中のリグニンをリグニンスルホン酸塩として溶出する。しかし、これらの方法ではそれぞれ強アルカリ、強酸、を使用するため反応器や使用する器具の材質あるいは操作の安全面で問題がある。また、サルファイドパルプ法では、リグニンがスルホン化されるため、その後の化学品やモノマーとしての利用先に制限が生じる。また、低分子化の程度についても述べられていない。
【0007】
一方、これらの欠点が無い方法として、有機溶媒を用いて、リグニンを低分子化するオルガノソルブ法が知られている。例えば、特許文献3では、パルプの製造方法に関して、まず、パルプ化工程において、木質材料および農産物廃棄物等を含む植物バイオマス原料(パルプ原料)と、アルコール類に可溶であってかつ常圧での沸点が150〜290℃の高沸点有機溶剤を50〜80重量%含むアルコール性溶媒とを、液比4〜10で耐圧容器に充填し、180〜230℃に加熱処理する(段落0023)。ここで、アルコールとしては、コストの観点からメタノール、エタノール、プロパノール、またはブタノールよりなる低沸点アルコールを使用するのが好ましい(段落0024)とされ、高沸点有機溶剤としては、グリセリン、およびエチレングリコール等の多価アルコール類の単体、または混合物を用いるのが好ましいとされている(段落0025)。上記の工程後パルプを分離し、廃液等からリグニンを取得する。ただし、水とアルコールの混合溶媒でのリグニンの分解については触れておらず、また、樹脂組成物としての難燃性についても述べていない。
【0008】
特許文献4では、典型的なオルガノソルブパルプ化は、木材チップ農産物廃棄物などのパルプ原料を、オルガノソルブパルプ化剤、すなわち、酢酸、アルコール(例えばメタノール、エタノール、ブタノール、イソプロパノールなど)、多価アルコール(例えばエチレングリコールなど)、アセトンなどの有機溶媒又は該有機溶媒を80重量%程度含有する水系溶媒中、100〜200℃程度で処理(蒸解)する方法であるとしている(段落0022)。オルガノソルブパルプ化剤に利用される有機溶媒として好ましいのは酢酸、アルコールであると記載されている。しかし、樹脂組成物としての難燃性について述べていない。
特許文献5では、リグノセルロース系バイオマス等から選択される1種または2種以上を、炭素数1〜8の脂肪族アルコールに5〜20体積%の水を加えた混合溶媒を用いて、アルコールの超臨界条件または亜臨界条件にて処理する前記バイオマスの分解・液化方法が開示されている。ここでは樹脂組成物としての難燃性については述べられていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2006−28299号公報
【特許文献2】特開2011−219715公報
【特許文献3】特開2008−45223公報
【特許文献4】特開2007−112841公報
【特許文献5】特開2005−296906公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、流動性及び難燃性が高く、環境性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供すること目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、熱可塑性樹脂と、特定の製造方法により得られるリグニン分解物との組み合わせによって、流動性及び難燃性の高い材料が得られることを見出した。
すなわち本発明は、以下の〔1〕〜〔14〕である。
〔1〕 熱可塑性樹脂組成物の製造方法であって、リグニン含有材料を、水及びアルコールを含む混合溶媒中で下記(1)〜(4)の条件で処理することで(B)リグニン分解物を得る工程、および(A)熱可塑性樹脂に(B)リグニン分解物を添加する工程を含み、熱可塑性樹脂組成物における(A)熱可塑性樹脂の含有量は99.9〜30質量%であり、熱可塑性樹脂組成物における(B)リグニン分解物の含有量は0.1〜70質量%であり、リグニン含有材料が、パームヤシの樹幹・空果房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮・殻、および木材チップからなる群から選択される少なくとも1種であり、
リグニン分解物中の水/THF不溶分の割合が、20質量%未満であり、
リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量が、40質量%以上である熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
(1)混合溶媒に対するリグニンの含有量が1〜50質量%
(2)水とアルコールのモル比(水/アルコール)が1/10〜50/1(3)温度が180〜350℃
(4)時間が1分〜10時間
〔2〕 (A)熱可塑性樹脂が芳香族系熱可塑性樹脂である〔1〕に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔3〕 (A)熱可塑性樹脂がポリカーボネートである〔1〕又は〔2〕に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔4〕 熱可塑性樹脂組成物における(A)熱可塑性樹脂の含有量が99.9〜70質量%であり、熱可塑性樹脂組成物における(B)リグニン分解物の含有量が0.1〜30質量%である〔1〕〜〔3〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔5〕 (A)熱可塑性樹脂及び(B)リグニン分解物の合計量100質量部に対して、0.01〜30質量部のリン系化合物(C)を(A)熱可塑性樹脂に添加する工程をさらに含む〔1〕〜〔4〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔6〕 (C)リン系化合物がリン酸エステルである〔5〕に記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔7〕 条件(1)の混合溶媒に対するリグニンの含有量が2〜40質量%である〔1〕〜〔6〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔8〕 条件(2)の水とアルコールのモル比(水/アルコール)が、1/1〜24/1である〔1〕〜〔7〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔9〕 条件(3)の温度が200〜320℃である〔1〕〜〔8〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔10〕 条件(4)の時間が5分〜5時間である〔1〕〜〔9〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔11〕 混合溶媒のアルコールが、1−ブタノール、2−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールから選ばれる少なくとも1種である〔1〕〜〔10〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
〔12〕 リグニン含有材料が、セルロース系バイオマスおよびパルプ製造過程に副生する黒液中のリグニンである〔1〕〜〔11〕のいずれかに記載の熱可塑性樹脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、流動性及び難燃性が高く、環境性に優れる熱可塑性樹脂組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施例において使用したステンレス鋼製回分式反応装置の概略構成を示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、(A)99.9〜30質量%の熱可塑性樹脂(以下、「(A)成分」と称することがある)と、(B)リグニン含有材料を、水及びアルコールを含む混合溶媒中で下記(1)〜(4)の条件で処理することで得られる、0.1〜70質量%のリグニン分解物(以下、「(B)成分」と称することがある)と、を含有する。
(1)混合溶媒に対するリグニンの含有量が1〜50質量%
(2)水とアルコールのモル比(水/アルコール)が1/10〜50/1
(3)温度が180〜350℃
(4)時間が1分〜10時間
本発明の熱可塑性樹脂組成物によれば、リグニン分解物を使用することで環境性に優れる材料が得られる。更に水及びアルコールの混合溶媒中で処理することにより得られるリグニン分解物を使用することで、流動性及び難燃性が高い熱可塑性樹脂組成物が得られる。
以下、本願発明の各成分について詳細に説明する。
【0015】
[(A)熱可塑性樹脂]
本発明において(A)熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリメチルメタクリレート樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、酢酸セルロース樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸を含む共重合体、ポリアクリロニトリル樹脂、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂(ABS樹脂)、ポリフェニレンオキサイド樹脂(PPO)、ポリケトン樹脂、ポリスルホン樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS)、フッ素樹脂、ケイ素樹脂、ポリイミド樹脂、ポリベンズイミダゾール樹脂、ポリアミドエラストマー等、及びこれらと他のモノマーとの共重合体が挙げられる。
本発明に用いられる、(A)熱可塑性樹脂としては、(B)リグニン分解物との親和性の観点から分子構造中に芳香族基を有する芳香族系熱可塑性樹脂、例えば、芳香族ポリカーボネート樹脂、スチレン系樹脂、芳香族ポリアミド樹脂、芳香族ポリエステル樹脂等が好ましい。
さらに、(A)熱可塑性樹脂として、ポリカーボネート樹脂を用いることにより、ポリカーボネート樹脂が有する優れた耐衝撃性及び耐熱性を得られる組成物に付与することができる。従って、熱可塑性樹脂としてポリカーボネート樹脂又はポリカーボネート樹脂とその他の熱可塑性樹脂との混合物を用いることが好ましい。
以下、(A)熱可塑性樹脂として好ましいポリカーボネート樹脂について説明する。
【0016】
(ポリカーボネート樹脂)
(A)熱可塑性樹脂としてのポリカーボネート樹脂は、芳香族ポリカーボネート樹脂であっても脂肪族ポリカーボネート樹脂であってもよいが、前述したように(B)成分との親和性の観点、及び耐衝撃性と耐熱性の観点から芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることが好ましい。
〈芳香族ポリカーボネート樹脂〉
芳香族ポリカーボネート樹脂としては、通常、二価フェノールとカーボネート前駆体との反応により製造される芳香族ポリカーボネート樹脂を用いることができる。芳香族ポリカーボネート樹脂は、他の熱可塑性樹脂に比べて、耐熱性、難燃性及び耐衝撃性が良好であるため樹脂組成物の主成分とすることができる。
【0017】
二価フェノールとしては、4,4’−ジヒドロキシジフェニル;1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、及び2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン〔ビスフェノールA〕等のビス(4−ヒドロキシフェニル)アルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロアルカン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)オキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルフィド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホン;ビス(4−ヒドロキシフェニル)スルホキシド;ビス(4−ヒドロキシフェニル)ケトン等を挙げることができる。なかでも、ビスフェノールAが好ましい。二価フェノールとしては、これらの二価フェノールの一種を用いたホモポリマーでも、二種以上を用いたコポリマーであってもよい。さらに、多官能性芳香族化合物を二価フェノールと併用して得られる熱可塑性ランダム分岐ポリカーボネート樹脂であってもよい。
【0018】
カーボネート前駆体としては、カルボニルハライド、ハロホーメート、炭酸エステル等が挙げられ、具体的にはホスゲン、二価フェノールのジハロホーメート、ジフェニルカーボネート、ジメチルカーボネート、及びジエチルカーボネート等が挙げられる。
【0019】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の製造においては、必要に応じて末端停止剤を用いることができ、例えば、下記一般式(A−1)で表される一価フェノール化合物が挙げられる。
【0020】
【化1】
【0021】
(式中、RA1は炭素数1〜35のアルキル基を示し、aは0〜5の整数を示す。)
一般式(A−1)で表される一価フェノール化合物としてはパラ置換体が好ましい。一価フェノール化合物の具体例としては、フェノール、p−クレゾール、p−tert−ブチルフェノール、p−tert−オクチルフェノール、p−クミルフェノール、p−ノニルフェノール、及びp−tert−アミルフェノール等を挙げることができる。これらの一価フェノールはそれぞれ単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0022】
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂は、分岐構造を有していてもよい。分岐構造を導入するためには分岐剤を用いればよく、例えば1,1,1−トリス(4−ヒドキシフェニル)エタン;α,α’,α”−トリス(4−ヒドロキシフェニル)−1,3,5−トリイソプロピルベンゼン;1−〔α−メチル−α−(4’−ヒドロキシフェニル)エチル〕−4−〔α’,α’−ビス(4”−ヒドロキシフェニル)エチル〕ベンゼン;フロログルシン、トリメリット酸、及びイサチンビス(o−クレゾール)等の官能基を三個以上有する化合物等を用いることができる。
本発明で用いる芳香族ポリカーボネート樹脂の粘度平均分子量は、樹脂組成物の物性面から、10,000〜40,000であることが好ましく、13,000〜30,000であることがより好ましい。
【0023】
また、本発明において、芳香族ポリカーボネート樹脂として、芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体であるか又は芳香族ポリカーボネート−ポリオルガノシロキサン共重合体を含むものを用いる場合、難燃性及び低温における耐衝撃性をさらに向上することができる。該共重合体を構成するポリオルガノシロキサンは、ポリジメチルシロキサンであることが難燃性の点からより好ましい。
【0024】
本発明において、ポリカーボネート樹脂、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂をその他の熱可塑性樹脂と混合して用いる場合、ポリカーボネート樹脂を(A)熱可塑性樹脂全量に対して好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%となるように用いることにより機械的強度(耐衝撃性、耐熱性等)を維持できる。ポリカーボネート樹脂、好ましくは芳香族ポリカーボネート樹脂と混合して用いられるその他の熱可塑性樹脂は、前述した(A)熱可塑性樹脂の中から任意に選択されるが、ポリカーボネート樹脂との相溶性の観点からポリエステル樹脂(PET、PBT等)、ポリ乳酸及び/又はポリ乳酸を含む共重合体、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン樹脂等のスチレン系樹脂が好ましい。
【0025】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(A)成分の含有量は、顕著な流動性及び難燃性を得る観点から、当該樹脂組成物の全体量に対して、99.9〜30質量%であり、99.9〜50質量%が好ましく、99.9〜60質量%がより好ましく、99.9〜70質量%が更に好ましい。
【0026】
[(B)リグニン分解物]
本発明において用いられる(B)リグニン分解物は、リグニン含有材料を、水及びアルコールを含む混合溶媒中で下記(1)〜(4)の条件で処理することで得られるものである。
(1)混合溶媒に対するリグニンの含有量が1〜50質量%
(2)水とアルコールのモル比(水/アルコール)が1/10〜50/1
(3)温度が180〜350℃
(4)時間が1分〜10時間
以下本発明で使用するリグニン分解物(B)について詳細に説明する。
【0027】
<リグニン含有材料>
リグニン分解物(B)の原料となるリグニン含有材料としては、特に制限されないが、例えば、リグニン含有バイオマスが用いられる。リグニン含有バイオマスとしては、パームヤシの樹幹・空果房、バガス、稲わら、麦わら、トウモロコシ残渣(コーンストーバー、コーンコブ、コーンハル)、ヤトロファ種皮・殻、木材チップなどが挙げられる。これらは、リグニン以外にセルロース、ヘミセルロースなどを含んでおり、これらのリグニン含有材料におけるリグニンの含量は通常15〜40質量%程度である。
【0028】
その他、リグニン含有材料としては、特に制限されないが、例えば、バイオエタノール製造プロセスにて、セルロース系バイオマスを前処理・糖化する工程で、セルロース、ヘミセルロースを加水分解して糖を取り出した残りの残渣がリグニンを主成分とする固体である。また、パルプ製造プロセスで生成する残渣である黒液中にリグニンが含まれる。これらも本技術の原料として利用できる。
【0029】
<混合溶媒>
本発明において使用される混合溶媒は、水及びアルコールを含む。
アルコールとしては、炭素数4以上であることが好ましい。またアルコールは、直鎖又は分岐アルコールが好ましい。用いるアルコールは、1価であっても、2価以上の多価アルコールであってもよい。また、アルコールの炭素数は、炭素数4〜20が好ましく、炭素数4〜10がより好ましく、炭素数4〜8がより好ましい。
より具体的には、アルコールとしては、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノールが挙げられる。これらの中でも、ブタノールが好ましく、更に、これらの中でも1−ブタノール、2−ブタノール及び2−メチル−1−プロパノールが好ましい。
【0030】
水とアルコールの混合溶媒を用いることで、リグニンの分解で生成するカルボン酸とアルコールが反応しエステルとなり反応性が高く重合しやすいカルボン酸を不活性化することでリグニンの分解を促進しやすくなると考えられる。
更に、当該重合抑制には、アルキル部位がある程度大きな、アルコールが好ましい。ただし、アルキル部位が大きすぎるアルコールは安定性や価格面で問題があるので好ましくない。
【0031】
(1)の条件:混合溶媒に対するリグニンの含有量
混合溶媒に対するリグニンの含有量は、1〜50質量%である。これ以下の値では相対的に溶媒(水+アルコール)の加温や、生成物と溶媒の分離にエネルギーを多く使い、プロセスのエネルギー効率が低下し、効率が悪い。またこれ以上の値では、分解が進みにくくなる。このような観点から、混合溶媒に対するリグニンの含有量は、2〜40質量%が好ましく、3〜30質量%がより好ましい。
【0032】
(2)の条件:アルコールと水の混合比
混合溶媒におけるアルコールと水の混合比は、アルコールに対する水のモル比〔(水)/(アルコール)〕が1/10〜50/1である。このモル比の値が低いと原料の水が少ないため反応が進み難くなる。このモル比の値が高すぎると相対的にアルコールが少なくなり、前述したアルコールの効果が現れにくくなる。このような観点から、アルコールに対する水のモル比〔(水)/(アルコール)〕は、1/2〜24/1が好ましく、1/1〜20/1がより好ましい。
【0033】
(3)の条件:反応温度
反応温度は、180〜350℃である。これ以下の温度では反応性が低下し、これ以上の温度では、重合によるコークの生成量が増える。このような観点から、反応温度は、200〜320℃が好ましく、220〜300℃がより好ましい。
(4)の条件:反応時間
反応時間は、1分〜10時間である。これより短いと反応の進行が十分でなく、長いと重合によるコーク生成量が増える。このため反応時間は、5分〜5時間が好ましく、10分〜3時間が好ましい。
【0034】
反応方式に、特に制限はないが、例えば通常の回分式や半回分式の反応が可能である。また、リグニン含有バイオマスあるいはリグニン+水+アルコールのスラリーをスクリューまたはポンプ等で押し出しながら反応させる方法も可能である。
反応圧力は、水/アルコール比と温度によって影響され、特に制限はないが、例えば、0.5〜30MPaが好ましい。
【0035】
以上(1)〜(4)の条件で処理して得られたリグニン分解物中に含まれる溶媒成分を除去して、熱可塑性樹脂に添加することが好ましい。また上記処理後、フィルター等で残渣と分離して得られるもの、又は、リグニン分解物を有機溶媒で溶媒抽出を行って得られる可溶成分を熱可塑性樹脂に添加してもよい。
また、リグニン分解物中の水/THF不溶分の割合は、特に制限されないが、20質量%未満が好ましく、15質量%未満がより好ましい。当該水/THF不溶分の割合の下限値は特に限定されないが、例えば、0質量%である。水/THF不溶分の割合は実施例の測定方法による。なお、THFはテトラヒドロフランである。
リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量は、40質量%以上であることが好ましく、50〜90質量%であることがより好ましく、60〜80質量%であることが更に好ましい。
【0036】
本発明の熱可塑性樹脂組成物における(B)成分の含有量は、顕著な流動性及び難燃性を得る観点から、当該樹脂組成物の全体量に対して、0.1〜70質量%であり、0.1〜50質量%が好ましく、0.1〜40質量%がより好ましく、0.1〜30質量%が更に好ましい。
【0037】
[(C)リン系化合物]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、リン系化合物(C)を含有することが好ましい。リグニン分解物(B)とリン系化合物(C)の併用により、相乗効果を有し、ハロゲン系難燃剤や、リン系難燃剤を単独で使用したときと比較し、より難燃性に優れる。
リン系化合物(C)としては、リン酸エステル、亜リン酸エステル、ホスホン酸エステル、ホスフィン等が挙げられる。
リン酸エステルとしては、例えば、次式(C−1)
【0038】
【化2】
【0039】
(ここで、RC1、RC2、RC3及びRC4は、それぞれ独立して、水素原子又は有機基を表し、Xは2価以上の有機基を表し、pは0又は1であり、qは1以上の整数であり、rは0以上の整数を表す。)で示されるリン酸エステル化合物である。
式(C−1)において、有機基とは、置換されていても、いなくてもよいアルキル基、シクロアルキル基、アリール基等である。また、置換されている場合の置換基としては、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、アリールオキシ基、アリールチオ基等がある。
更に、有機基としては、これらの置換基を組み合わせた基であるアリールアルコキシアルキル基等、又はこれらの置換基を酸素原子、窒素原子、イオウ原子等により結合して組み合わせたアリールスルホニルアリール基等を置換基としたもの等がある。
【0040】
また、式(C−1)において、2価以上の有機基Xとしては、上記した有機基から、炭素原子に結合している水素原子の1個以上を除いてできる2価以上の基を意味する。
例えば、アルキレン基、(置換)フェニレン基、多核フェノール類であるビスフェノール類から誘導されるものである。
好ましい有機基Xとしては、ビスフェノールA、ヒドロキノン、レゾルシノール、ジフエニルメタン、ジヒドロキシジフェニル、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
【0041】
リン酸エステルは、その分子量に特に制限されず、モノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物であってもよい。
具体的には、トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリオクチルホスフェート、トリブトキシエチルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、オクチルジフェニルホスフェート、トリ(2−エチルヘキシル)ホスフェート、ジイソプピルフェニルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、トリス(イソプロピルフェニル)ホスフェート、トリブチルホスフェート、ビスフェノールAビスホスフェート、ヒドロキノンビスホスフェート、レゾルシンビスホスフェート、レゾルシノール−ジフェニルホスフェート、トリオキシベンゼントリホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート等を例示できる。
【0042】
好適に用いることができる市販のリン酸エステルとしては、例えば、大八化学工業株式会社製の、TPP〔トリフェニルホスフェート〕、TXP〔トリキシレニルホスフェート〕、PFR〔レゾルシノール(ジフェニルホスフェート)〕、PX200〔1,3−フェニレン−テスラキス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート〕、PX201〔1,4−フェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート〕、PX202〔4,4’−ビフェニレン−テトラキス(2,6−ジメチルフェニル)ホスフェート〕等を挙げることができる。
【0043】
亜リン酸エステルとしては、一般式(C−2)
【0044】
【化3】
【0045】
〔式中、RC5及びRC6は、それぞれ水素,アルキル基,シクロアルキル基又はアリール基を示す。尚、シクロアルキル基及びアリール基は、アルキル基で置換されていてもよい。〕で表わされるものである。
具体的には式(C−3)〜(C−7)等を例示することができる。中でも式(C−3)は、〔アデカスタブPEP−36:旭電化工業(株)製〕である。
【0046】
【化4】
【0047】
その他、亜リン酸エステルとしては、式(C−8)〜(C−12)等を例示することができる
【0048】
【化5】
【0049】
これらのリン系化合物(C)の中でも、特に高流動化・難燃化にはリン酸エステルが有効である。また、リン系化合物(C)として、亜リン酸エステルとリン酸エステルの併用も好ましい。
リン系化合物(C)の含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計質量100質量部に対して、0.001〜30質量部が好ましく、0.01〜20質量部がより好ましい。
リン系化合物(C)が亜リン酸エステルである場合、当該亜リン酸エステルの含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計質量100質量部に対して、0.01〜3質量部が好ましく、0.01〜0.5質量部がより好ましく、0.5〜0.3質量部が更に好ましい。
リン系化合物(C)がリン酸エステルである場合、当該リン酸エステルの含有量は、(A)成分及び(B)成分の合計質量100質量部に対して、0.01〜30質量部が好ましく、0.5〜20質量部がより好ましく、1〜10質量部が更に好ましい。
【0050】
[その他の任意成分]
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、従来ポリカーボネート樹脂組成物に添加される公知の各種添加成分を含有することができ、このような任意成分として、例えば難燃向上剤としての有機スルホン酸のアルカリ(土類)金属塩、補強材、充填剤、ヒンダードアミン系光安定剤、リン系以外の酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤、染料、顔料、耐衝撃性改良用のエラストマー等を含有していてもよい。これらの任意成分の含有量は、特に制限されないが、例えば、組成物全体量に対して、0.01〜10質量%が好ましく、0.1〜5質量%が好ましく、0.1〜1質量%が好ましい。
【0051】
〔熱可塑性樹脂組成物の製造方法〕
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、前述した(A)成分、(B)成分、並びに、必要に応じて用いられる(C)成分及び各種任意成分を所定の割合で配合し、混練することにより、調製することができる。
この際の配合及び混練は、通常用いられている機器、例えば、リボンブレンダー、ドラムタンブラー等で予備混合して、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、単軸スクリュー押出機、二軸スクリュー押出機、多軸スクリュー押出機、コニーダ等を用いる方法で行うことができる。
混練の際の加熱温度は、通常240〜300℃の範囲で適宜選択される。
なお、熱可塑性樹脂以外の含有成分は、予め、熱可塑性樹脂と溶融混練、即ち、マスターバッチとして添加することもできる。
【0052】
本発明の熱可塑性樹脂組成物は、上記の溶融混練成形機を用いるか、あるいは得られたペレットを原料として、射出成形法、射出圧縮成形法、押出成形法、ブロー成形法、プレス成形法、真空成形法及び発泡成形法等により各種成形体を製造することができる。
特に、上記溶融混練方法により、ペレット状の成形原料を製造し、次いで、このペレットを用いて、射出成形、射出圧縮成形による射出成形品の製造に好適に用いることができる。
なお、射出成形方法としては、外観のヒケ防止のため、又は、軽量化のためのガス注入成形方法を採用することもできる。
【0053】
このようにして作製された本発明の成形体は、流動性及び難燃性が高く、電子・電気、OA機器、機械、自動車、建材等に好適に用いられる。
【実施例】
【0054】
本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。なお、各例で得られた熱可塑性樹脂組成物の性能試験は、次の通りに行った。
(1)メルトインデックス(MI):流動性
測定条件樹脂温260℃、荷重21.18Nにおいて、ASTM規格D−1238に準拠して測定し、流動性の指標とした。値が大きいほど流動性に優れることを示す。なお、流動性が高いと、成形温度を高めずに大型製品や薄肉製品を製造することが可能となる。
(2)酸素指数(LOI):難燃性
ASTM規格D−2863に準拠して測定し、難燃性の指標とした。なお、酸素指数とは、試験片が燃焼を維持するのに必要な最低酸素濃度を空気中の容量%で示した値である。値が大きいほど、難燃性に優れることを示す。
(3)成形外観
射出成形機より得られた試験片に対し、目視により評価した。
○:ヒケ、焼けを中心とした外観不良が見られず、良好な外観を示す。
【0055】
<リグニン分解物の調製>
〔製造例1〕リグニン分解物(水+ブタノール)
リグニン(脱アルカリ、東京化成工業(株)製)26.3g、イオン交換水155g、1−ブタノール(特級、和光純薬工業(株)製)160gを内容積0.92Lのステンレス鋼(SUS)製回分式反応装置(図1)に入れた。この時、水/1−ブタノールのモル比は4/1であり、かつ溶媒の合計量は315gで、リグニン/溶媒の質量比は1/12である。
反応装置を窒素でパージした後、270℃まで昇温し、2時間反応を行った(反応時間は、所定温度に達してからの時間とした。また熱電対にて内部温度を測定した。)。反応終了後、回分式反応装置を冷却し、温度が室温付近まで下がった後に反応装置内のものを全て取り出した。エバポレーター(70℃水浴)で溶媒を除去後、真空乾燥(110℃、1時間)して製造例1のリグニン分解物(水+ブタノール)を得た。この分解物を水/THF溶媒への溶解度を測定することで水/THF不溶分の割合を算出した。また、NMP溶媒を用いたゲル浸透クロマトグラフ(GPC)にて、分子量分布を測定し、ポリスチレン換算で重量平均分子量Mwを算出した。その結果、水/THF不溶分の割合は、9.7質量%であった。リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量は、71質量%であった。
【0056】
リグニン分解物中の分子量10,000以下のリグニン分解物の含有量は、上記GPCにて得られた分子量分布に基づいて、以下の計算式にて求めた。
リグニン分解物中の分子量10,000以下の含有量(質量%)
=〔分子量分布における分子量10,000以下の成分のピーク面積÷全ピーク面積〕×100
水/THF不溶分の割合は以下の方法で求めた。
リグニン分解物0.5gに水とTHFの混合溶媒(水/THF=3/7mL)を加え、固形物を濾過で除去した。固形分を110℃、5分間の条件で真空乾燥して、水/THF不溶分を得た。
水/THF不溶分(質量%)
=(水/THF不溶物の質量÷リグニン分解物の質量)×100
【0057】
〔比較製造例1〕リグニン分解物(水)
上記製造例1にて、水と1−ブタノールの代わりに、水のみを315g用いた以外は、同じ条件にて反応、濃縮、乾燥を行い、比較製造例1のリグニン分解物(水)を得た。水/THF不溶分の割合は、60.8質量%であった。リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量は、33質量%であった。
【0058】
〔比較製造例2〕リグニン分解物(ブタノール)
上記製造例1にて、水と1−ブタノールの代わりに、1−ブタノールのみを315g用いた以外は、同じ条件にて反応、濃縮、乾燥を行い、比較製造例2のリグニン分解物(ブタノール)を得た。水/THF不溶分の割合は、64.8質量%であった。リグニン分解物中の分子量10,000以下の分解物の含有量は、6質量%であった。
【0059】
<樹脂組成物の作製方法(実施例1〜7、比較例1〜7)>
表1に示す割合(単位:質量部)で各成分を配合し、押出機(機種名:VS40、田辺プラスチック機械(株)製)に供給し、260℃で溶融混練し、樹脂組成物のペレットを得た。得られたペレットを、80〜120℃で12時間乾燥させ後、射出成形機(型式:IS100N、東芝機械(株)製)を用い、シリンダー温度240〜260℃、金型温度40℃の条件で射出成形して試験片を得た。
得られた試験片を用いて上記方法に従って性能試験を行い、その結果を表1に示した。
【0060】
【表1】
【0061】
*1 芳香族ポリカーボネート(出光興産(株)製、出光タフロンFN1900A、粘度平均分子量19000、ガラス転移温度151℃)
*2 リン酸エステル(大八化学工業(株)製、PX202)
*3 リン酸エステル(大八化学工業(株)製、CR741)
*4 亜リン酸エステル((株)ADEKA製、PEP36)
*5 ガスが発生したため成形できなかった。
【0062】
特定量のリグニン分解物を配合することにより、高流動化と難燃化が向上する。高流動化の効果が得られることにより、大型製品や薄肉製品の成形において加工温度を高い温度としなくても、成形することが可能となる。
また、リグニン分解物と、リン系化合物とを併用することにより、難燃性が向上する(相乗効果)ほか、リン系化合物の種類によっては、更なる高流動化や色調改良が可能である。
比較例2で示すようにリグニン分解物の量が、70質量%を超えると、ガスの発生が多く成形が困難である。また、リン系化合物だけでは、難燃性の向上は大きくない。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、熱可塑性樹脂と、リグニン分解物とを含有する熱可塑性樹脂組成物であり、電子・電気、OA、機械、自動車、建材分野への利用が期待される。
図1