特許第6291511号(P6291511)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6291511
(24)【登録日】2018年2月16日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】磁気記録媒体用磁性粉
(51)【国際特許分類】
   G11B 5/706 20060101AFI20180305BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20180305BHJP
   G11B 5/84 20060101ALI20180305BHJP
   G11B 5/712 20060101ALI20180305BHJP
【FI】
   G11B5/706
   H01F1/11
   G11B5/84 Z
   G11B5/712
【請求項の数】6
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2016-5883(P2016-5883)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-139451(P2016-139451A)
(43)【公開日】2016年8月4日
【審査請求日】2017年2月13日
(31)【優先権主張番号】特願2015-10108(P2015-10108)
(32)【優先日】2015年1月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129470
【弁理士】
【氏名又は名称】小松 高
(72)【発明者】
【氏名】正田 憲司
(72)【発明者】
【氏名】大元 寛久
(72)【発明者】
【氏名】永嶋 太
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 宏幸
(72)【発明者】
【氏名】多田 稔生
【審査官】 中野 和彦
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−059032(JP,A)
【文献】 特開2012−238722(JP,A)
【文献】 特開2012−142529(JP,A)
【文献】 特開2003−296916(JP,A)
【文献】 特開2012−119030(JP,A)
【文献】 特開2001−035715(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G11B 5/706
G11B 5/712
G11B 5/84
H01F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物が被着した磁性粒子からなり、Ba/Feモル比が0.086以上、Bi/Feモル比が0.025以上、Al/Feモル比が0.030〜0.200である磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項2】
活性化体積Vactが1300〜2000nm3である請求項1に記載の磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項3】
保磁力Hcが159〜287kA/m、保磁力分布SFDが0.3〜1.0である請求項1または2に記載の磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項4】
Feの置換元素として2価の遷移金属および4価の遷移金属から選ばれる1種または2種以上の元素を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉。
【請求項5】
急冷法で形成した非晶質体を結晶化させたのちに酸洗浄を経て得られた六方晶フェライトに粉砕処理を施し、微細化する工程、
水媒体中で、前記粉砕処理により微細化された六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物を付着させる工程、
前記アルミニウム水酸化物が付着した六方晶フェライト粒子を水洗する工程、
前記水洗後の六方晶フェライト粒子を120℃以下の温度で乾燥させる工程、
を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【請求項6】
急冷法で形成した非晶質体を結晶化させたのちに酸洗浄を経て得られた六方晶フェライトに粉砕処理を施し、微細化する工程、
前記粉砕処理により微細化された六方晶フェライト粒子が分散しているpH2.0〜5.0のアルミニウム塩水溶液に、アルカリを添加してpHを7.0〜10.0に調整することにより、前記六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物を付着させる工程、
前記アルミニウム水酸化物が付着した六方晶フェライト粒子を水洗する工程、
前記水洗後の六方晶フェライト粒子を120℃以下の温度で乾燥させる工程、
を有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁気記録媒体用のM型六方晶フェライト磁性粉に関する。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体に用いる高密度記録に適した磁性粉として、六方晶フェライト磁性粉が知られている。例えば特許文献1には、希土類元素とBiを添加することにより小粒子化と磁気特性の向上を図った六方晶フェライト磁性粉が開示されている。
【0003】
一方、磁気テープ等の磁気記録媒体においては、媒体としての磁気特性が良好であることに加え、ドライブに走行させたときの耐久性に優れることが要求される。特許文献2には、表面にAlを被着させた六方晶フェライト磁性粉を用いることにより、磁気記録媒体の耐久性を改善する技術が開示されている。特許文献3には、磁性粉の表面にAl23を被着させることが記載されている。その手法として、水酸化アルミニウムを磁性粉表面に沈着させ、水洗したのち、150℃で48h乾燥加熱して表面にAl23が被着された磁性粉を得た例が示されている(段落0036)。また、特許文献4、5には、六方晶フェライト粒子の表面に水酸化アルミニウムを被着することにより、樹脂中での分散性を改善する技術が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2011−178654号公報
【特許文献2】特開2011−225417号公報
【特許文献3】特開平9−213513号公報
【特許文献4】特開昭64−61324号公報
【特許文献5】特開平4−141820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、デジタルデータの利用が増え続ける中、膨大なデータの保存を担う磁気記録媒体には磁気特性および耐久性の両面において、今後も更なる特性改善が望まれている。そのためには、例えば特許文献1に開示されるようなBiを添加した六方晶フェライト磁性粉による磁気特性向上技術と、特許文献2に開示されるようなAlを添加した六方晶フェライト磁性粉による耐久性向上技術の双方を利用することが有効であると考えられた。
【0006】
しかしながら、発明者らの検討によれば、特許文献1の手法と特許文献2の手法を利用するだけでは、媒体の磁気特性の一つとして重要であるSNR(S/N比)に関して、十分な改善が見られないことがわかってきた。昨今ではさらに高い記録密度に対応すべく、磁気記録媒体のSNRに対する要求が従来よりも厳しくなっている。
【0007】
一方、磁気記録媒体の耐久性に関しては、特許文献2に開示されるAlを添加した六方晶フェライト磁性粉によって改善が図られたが、最近では更なる向上が望まれている。特許文献3に開示されるAl23被着手法を採用しても耐久性は十分に向上しないことがわかった。また、特許文献4、5の教示によれば、水酸化アルミニウムを被着させることにより樹脂中での磁性粒子の分散性が向上するという。しかし、磁気記録媒体を構成する磁性塗膜層においては、塗膜中に分布している磁性粒子よりも、有機素材(基材)のほうが強度的に弱いので、塗膜破壊は有機素材の部分で起こりやすい。使用する磁性粒子と有機素材の量が同じであれば、分散性が良いほど磁性粒子の凝集体が有機素材中でほぐれて存在しているので、磁性粒子間を繋ぐ有機素材の厚みが相対的に薄くなることで、塗膜破壊を起こしやすくなる。また、磁性粒子と有機素材との結合面積が広がることで、塗膜破壊を起こす確率が上がる。このような状態になると磁気記録媒体の耐久性は低下することが、これまでの調査によって判っている。従って、磁気記録媒体の耐久性と磁性粒子の分散性はトレードオフの関係にあり、耐久性を向上させるうえで、分散性の向上に有利であるとされる手法を採用することは、常識的には難しいと考えられる。
【0008】
本発明は、磁気記録媒体のSNRを含めた磁気特性の向上と、耐久性の更なる向上とを同時に実現し得る磁性粉末を提供しようというものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
発明者らは詳細な研究の結果、Biを添加して磁気特性の向上を図ったM型六方晶フェライト粉において、粉体中に存在するBaの含有量を十分に確保することが、磁気記録媒体のSNR向上に極めて有効であることを見出した。Biを含有するM型六方晶Baフェライト粉の工業的な製法としては、原料混合物の溶融体を急冷して非晶質体とし、それを所定温度に加熱して結晶化させることにより六方晶フェライトを合成する手法を適用することが効果的であると考えられ、特許文献1、2でもそのような手法を採用している。通常、この手法を採用する場合、後工程において、ホウ酸バリウムを主体とする残余物質を酸によって溶解除去する処理(酸洗浄)が必要となる。Baは、BaO・6Fe23を基本構造とするM型六方晶フェライトの主要成分の1つであるが、上述の酸洗浄で当該フェライトを構成するBaの溶出が生じ、実際のBa含有量は原料配合から想定される量よりも少なくなることがある。このBa欠乏を抑止することが重要である。具体的には、六方晶Baフェライト粉末の製品において、Ba/Feモル比が安定して0.080以上となるようにBa含有量が維持されていることがSNR向上に極めて有効であることがわかった。
【0010】
また、特許文献2では焼成前の原料中にAlを配合させている。この場合、ガラス体を形成する工程でAlは酸化アルミニウム(Al23)となり、このガラス体を加熱してBaフェライトを析出させる過程でフェライト析出粒子の表面が酸化アルミニウムに被覆された状態となる。発明者らは、Al23ではなく、水酸化アルミニウム、バイヤライト、ベーマイト、非晶質の水酸化アルミニウムゲルなどで構成される「アルミニウム水酸化物」を、Bi添加Baフェライト粒子の表面に、表面処理として直接被着させることによって、磁気記録媒体の耐久性を顕著に改善できることを見出した。
本発明はこのような知見に基づいて完成したものである。
【0011】
すなわち、上記目的は、六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物が被着した磁性粒子からなり、Ba/Feモル比が0.086以上、Bi/Feモル比が0.025以上、Al/Feモル比が0.030〜0.200である磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉によって達成される。活性化体積Vactは1300〜2000nm3であることが好ましい。保磁力Hcが159〜287kA/m(約2000〜3600Oe)、保磁力分布SFDが0.3〜1.0であるものが特に好適である。六方晶フェライトのFeサイトの一部を置換する元素として2価の遷移金属および4価の遷移金属から選ばれる1種または2種以上の元素を含有することができる。本明細書ではFeの一部と置換する2価の遷移金属をM1、4価の遷移金属をM2と表記する。M1の例としてはCo、Zn等が挙げられ、M2の例としてはTi、Sn等が挙げられる。M1/Feモル比は0〜0.060、M2/Feモル比は0〜0.060の範囲とすることが望ましい。
【0012】
ここで、Ba/Feモル比、Bi/Feモル比およびAl/Feモル比は、当該粉体の分析値に基づいて、下記の各式により求まる値である。
Ba/Feモル比=Ba含有量(モル)/Fe含有量(モル)
Bi/Feモル比=Bi含有量(モル)/Fe含有量(モル)
Al/Feモル比=Al含有量(モル)/Fe含有量(モル)
また、M1/Feモル比、M2/Feモル比については、当該粉体の分析値に基づいて、下記の各式により求まる値である。
M1/Feモル比=M1含有量(モル)/Fe含有量(モル)
M2/Feモル比=M2含有量(モル)/Fe含有量(モル)
M1として複数元素(例えばCoとZn)を使用する場合、上記M1含有量は当該複数のM1元素の総モル数を採用する。同様に、M2として複数元素(例えばTiとSn)を使用する場合、上記M2含有量は当該複数のM2元素の総モル数を採用する。
【0013】
上記六方晶フェライト磁性粉は、Biを含有する六方晶Baフェライトの粉末粒子を含む水溶液(スラリー)中で、当該粒子の表面にアルミニウム水酸化物の析出を生じさせ、その後、スラリー中の粒子を水洗したのち、例えば120℃以下という低温で乾燥させる手法により得ることができる。
【0014】
具体的には、急冷法で形成した非晶質体を結晶化させたのちに酸洗浄を経て得られた六方晶フェライトに粉砕処理を施し、微細化する工程、水媒体中で、前記粉砕処理により微細化された六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物を付着させる工程、前記アルミニウム水酸化物が付着した六方晶フェライト粒子を水洗する工程、前記水洗後の六方晶フェライト粒子を120℃以下の温度で乾燥させる工程、を有する磁気記録媒体用六方晶フェライト磁性粉の製造方法が提供される。前記アルミニウム水酸化物を付着させる工程に供する六方晶フェライト粒子としては、Ba/Feモル比が0.080以上、Bi/Feモル比が0.025以上に調整されたBi含有六方晶Baフェライト粒子を適用すればよい。
【0015】
前記アルミニウム水酸化物を付着させる工程では、六方晶フェライト粒子が分散しているpH2.0〜5.0のアルミニウム塩水溶液に、アルカリを添加してpHを7.0〜10.0に調整する手法が好適である。また、上記六方晶フェライト磁性粉を用いた磁性層を有する磁気記録媒体が提供される。pHは、JIS Z8802:2011に基づき、ガラス電極を用いて測定することができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明に従う磁気記録媒体用磁性粉は、磁気記録媒体の磁気特性、特にSNRと、耐久性とを同時に高いレベルで向上させるものである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
《六方晶フェライト磁性粉》
〔成分組成〕
本発明で対象とする六方晶フェライトは、BaO・6Fe23を基本構造とするマグネトプランバイト型(M型)のものである。Feサイトの一部は2価の遷移金属M1、4価の遷移金属M2の1種以上で置換することができる。2価の遷移金属M1としてはCo、Zn等が挙げられ、4価の遷移金属M2としてはTi、Sn等が挙げられる。これらの遷移元素で置換することにより保磁力Hc等の磁気特性を調整することができる。M1/Feモル比は0〜0.060の範囲とすることが望ましく、0〜0.040の範囲とすることがより好ましい。M2/Feモル比は0〜0.060の範囲とすることが望ましく、0.001〜0.060の範囲とすることがより好ましく、0.005〜0.060の範囲とすることが一層効果的である。
【0018】
Baは、六方晶フェライトを構成する主要成分の1つであるが、酸による洗浄工程などでBaの溶出が生じると、得られた磁性粉のBaサイトの一部は空位となっているものと推察される。このような磁性粉の場合、本来の結晶構造によって得られるべき磁気特性が十分に発揮されない。特に、小粒子化を図った磁性粉では比表面積が大きいことから、Baの損失による磁気特性低下の影響が大きくなりやすい。そのため、小粒子化によるSNRの向上効果が相殺され、従来よりも高い要求レベルを満たすようなSNRを安定して実現することは困難な状況であった。
【0019】
原料混合物の非晶質体を結晶化させる手法で六方晶フェライトを合成する場合、その原料混合物中には非晶質体を得るために必要な成分としてBaやBが多量に含まれる。すなわちBaは、六方晶フェライトの構成成分であるとともに、非晶質体を得るための成分でもある。結晶化の工程で、Baは六方晶フェライトと、それ以外の結晶物質に分配される。発明者らの検討によれば、原料混合物の配合組成をコントロールすることによって、六方晶フェライトの構成成分として分配されるBaの量を、後工程での損失を見込んで、ある程度高めに調整することが可能であることがわかった。
【0020】
本発明では、磁性粉のBa/Feモル比を0.086以上とする。これにより、磁気記録媒体におけるSNRを安定して高く維持することができる。Ba/Feモル比が0.080を下回ると、SNRの低下が生じやすいことがわかった。BaO・6Fe23構造の場合、化学量論的なBa/Feモル比は約0.083である。酸洗浄の工程などでBaが溶出して、Baサイトの一部が空位となっても、その空位の量がわずかであれば、磁気特性への悪影響はあまり顕在化しないが、ある程度以上に空位が増えると急激に磁気特性の低下が生じるようになることが考えられる。本発明で対象とする六方晶フェライト磁性粉の場合、Ba/Feモル比が0.080以上であれば、本来の磁気特性が大きく崩れることはなく、その結果、磁気記録媒体におけるSNRが高く維持されるのではないかと推察される。本発明では磁性粉のBa/Feモル比を0.086以上に規定している。
【0021】
Ba/Feモル比の上限については、原料混合物中のBa含有量を過剰に設定した場合でも、化学量論量を大幅に超えるBaを配合した結晶は本質的に合成されないことから、特に定める必要はない。通常、Ba/Feモル比は0.100以下の範囲とすればよい。
なお、本発明で対象とする六方晶フェライト磁性粉の全Fe量は、25モル%以上である。
【0022】
本発明の六方晶フェライト磁性粉は、BiおよびAlを含有する。
Biは、小粒子化および磁気特性の向上に有効な元素である。原料混合物中のBiの大部分は六方晶フェライト磁性粉中に入る。種々検討の結果、Biの上記作用を十分に得るためには、磁性粉のBi/Feモル比が0.025以上となるように原料混合物中のBi添加量を調整することが効果的である。0.030以上となるように調整することがさらに効果的である。ただし、磁性粉中に非磁性成分であるBiが多量に含有されると、用途によっては、そのことに起因する磁気特性の低下が問題となる場合がある。Bi/Feモル比は0.100以下の範囲とすることが好ましく、0.060以下とすることがより好ましい。
【0023】
Alは、本発明において、六方晶フェライト粒子の表面に、表面処理としてアルミニウム水酸化物を被着させるために必要な元素である。従って、六方晶フェライトを合成するための原料中にAlを添加しておく必要はない。発明者らの研究によれば、Bi含有六方晶Baフェライト磁性粒子の表面に、水酸化アルミニウム、バイヤライト、ベーマイト、非晶質の水酸化アルミニウムゲルの1種または2種以上で構成されるアルミニウム水酸化物を被着させてなる被覆層は、磁気記録媒体(例えば磁気テープ)における磁性層の耐久性を向上させるために極めて有効であることがわかった。その理由については現時点では未解明な部分が多いが、詳細な検討の結果、上記耐久性向上作用は磁性粉中のAl/Feモル比が0.030以上となるようにアルミニウム水酸化物を被着させることによって発揮される。Al/Feモル比は0.040以上であることがより効果的であり、0.010以上であることが更に効果的である。ただし、非磁性成分であるAlが過剰に存在すると磁気特性の低下を招く要因となる。そのため、Al/Feモル比は0.200以下の範囲とすることが望ましく、0.150以下に管理してもよい。なお、前述の特許文献4、5には、磁気記録媒体の耐久性に関する課題は見られない。Biを含有する六方晶Baフェライト粒子にアルミニウム水酸化物を付着させたとき、磁気記録媒体の耐久性が顕著に向上する効果が得られることは、分散性の向上を教示する特許文献4、5から予期できないものである。
【0024】
他の成分として、希土類元素を原料中に添加することができる。希土類元素は六方晶フェライトの小粒子化に寄与する。希土類元素をRと表記するとき、磁性粉の分析においてR/Feモル比が0.001〜0.010の範囲となる量の希土類元素を1種以上、原料混合物に含有させることが効果的である。Sc、Yも本明細書では希土類元素として扱う。例えばNd、Sm、Y、Er、Ho等が好適に使用でき、なかでもNd、Sm、Yが好ましい。
【0025】
〔活性化体積Vact〕
粉体の磁気特性の計測により算出される活性化体積Vactは、1300〜2000nm3であることが望ましい。磁性粉を磁気記録媒体に使用する場合、磁性粉の充填度が大きいほどSNRの向上(ノイズの低減)には有効となる。その意味においてVactが小さい磁性粉を適用することが有利である。ただし、Vactを極度に小さくするためには粉体の粒子サイズを極めて微細にする必要があり、製造上の困難を伴う。さらに、アルカリ土類金属元素のサイトがBaであるM型六方晶フェライトの場合、粒子サイズが小さいほど酸洗浄の工程でのBa損失が増大しやすい。Ba損失は磁気特性の低下を招き、小粒子化(すなわちVact低減)によるSNR向上効果を相殺する要因となる。一方、Vactが大きいほど上述のBa損失の抑制には有利となるが、粒子サイズが大きいことに起因して磁気記録媒体のSNRを向上させる効果は減少し、昨今の厳しいSNR特性の要求に応えられなくなる。これらの点を種々検討した結果、Baを主成分とする六方晶フェライト磁性粉においてSNRの向上を特に重視する場合には、活性化体積Vactを1300〜2000nm3の範囲とすることが望ましいという知見を得た。
【0026】
上述のように、六方晶フェライト粒子の表面に被着しているAl成分の存在形態を、酸化アルミニウムではなくアルミニウム水酸化物とすることによって、磁気記録媒体の耐久性は大きく向上する。ただし、磁気記録媒体の磁性層中に分散させる磁性粒子のサイズが小さくなると、アルミニウム水酸化物被着による耐久性の向上効果は少なくなりやすいこともわかってきた。その理由は現時点で必ずしも明確ではないが、磁性層中に分散している磁性粒子のサイズが小さくなるほど、その比表面積が大きくなり、磁性層を構成する樹脂基材との界面の面積が増加することに起因して、磁性粒子と樹脂基材の間で剥離が生じる機会が増えるためではないかと推察される。種々検討の結果、Bi含有Baフェライトを用いた磁気記録媒体の場合、耐久性の観点からも、活性化体積Vactが1300nm3以上の範囲に調整されていることが有利となる。
【0027】
原料混合物の非晶質体を結晶化させる手法で六方晶フェライトを合成する場合、「非晶質体の成分組成」と「結晶化条件(特に加熱温度)」の組合せによって、得られる六方晶フェライト粉の活性化体積Vactをコントロールすることができる。
【0028】
〔磁気特性〕
本発明で対象とする磁性粉は、保磁力Hcが159〜287kA/m(約2000〜3600Oe)、保磁力分布SFDが0.3〜1.0であることが望ましい。また、飽和磁化σsは40.0〜45.0A・m2/kg、角形比SQRは0.48〜0.56であることが望ましい。これらの特性を有する磁性粉は高密度記録用の材料として有用である。
【0029】
〔比表面積Sbet〕
上述のように、磁気記録媒体のノイズ低減には、使用する磁性粉の小粒子化が有効である。粒子のサイズ的因子を比表面積で見た場合、BET一点法による比表面積Sbetは50〜110m2/gであることが望ましい。
【0030】
〔磁性粉の製造方法〕
本発明に従う六方晶フェライト磁性粉は、原料混合物の非晶質体を結晶化させる手法を用いて製造することができる。具体的には、例えば以下の工程を経ることによって製造することができる。
【0031】
(原料混合工程)
六方晶フェライト磁性粉を構成する元素および非晶質体を形成するために必要な元素を含む各種原料物質を混合して原料混合粉を得る。本発明に従う六方晶フェライト磁性粉はBaO・6Fe23型の基本構造を有し、必要に応じてFeの一部は2価あるいは4価の遷移金属の1種以上で置換され、添加元素としてBiを含有し、必要に応じて希土類元素を含有する。また、非晶質体を得るための元素としてBa、Bを多量に配合することが好適である。上記各元素のうち、金属元素の供給源としては、通常、それらの元素の酸化物や水酸化物が使用される。BaおよびBの供給源としては、それぞれBaCO3およびH3BO3を使用することが望ましい。
【0032】
Baは、六方晶フェライトの構成元素であると同時に、非晶質体を形成するための元素でもある。前述のように、本発明に従う六方晶フェライト磁性粉は高いBa/Feモル比を維持している点に特徴がある。原料配合においては、後工程での酸洗浄などでBaの損失が生じることを前提に、結晶化の工程で十分な量のBaが六方晶フェライトの方に分配されるように非晶質化に必要な元素とのバランスを考慮して、原料配合が決定される。
【0033】
各原料物質は混合機により撹拌混合され、原料混合物とされる。ヘンシェルミキサーなど撹拌羽根を有する混合機でせん断混合することが望ましい。
【0034】
(造粒工程)
得られた原料混合物は、後工程での取扱い性等を考慮して、所定の粒径を有する球状造粒品とすることが一般的である。例えばパン型造粒機を用いて、水あるいは必要に応じてバインダー成分を添加しながら球状に成形し、直径1〜50mm程度の粒状物とし、これを200〜300℃程度に加熱して乾燥させることにより造粒品が得られる。
【0035】
(非晶質化工程)
乾燥後の原料混合物(上記造粒品)を高温に昇温して溶融させ、1350〜1450℃の溶融体とする。その溶融体を急冷することにより非晶質体とする。急冷の手法としては、双ロール法、ガスアトマイズ法、水アトマイズ法、遠心アトマイズ法などが挙げられる。発明者らの検討によれば、Biを含有する非晶質体から、Ba含有量が十分に確保され、かつ活性化体積Vactが前記範囲にある小粒子化された六方晶フェライト結晶を生成させる場合には、ガスアトマイズ法により非晶質体を得ておくことがより効果的である。得られた非晶質体は、必要に応じてボールミル等により粉砕した後、粒度調整することができる。
【0036】
(結晶化工程)
上記非晶質体を600〜720℃の温度範囲で加熱保持することにより、六方晶フェライト結晶を析出させる。保持時間は通常、60〜240分とすればよい。この結晶化の熱処理によって得られた粉体には、六方晶フェライト結晶の他、非晶質体に含まれていた残余成分が結晶化した物質(主としてホウ酸バリウム結晶)が含まれる。
【0037】
(酸洗浄工程)
次に、結晶化工程で得られた粉体から、六方晶フェライト粒子を抽出するために、ホウ酸バリウムを主体とする残余物質を酸によって溶解除去する。この処理をここでは「酸洗浄」と呼ぶ。酸洗浄液としては濃度2〜12質量%の酢酸水溶液が好適である。結晶化工程で得られた粉体を酸洗浄液中に浸漬し、沸点以下の温度に保持する。液を撹拌することが効果的である。液のpHは4.0以下とすることが好ましい。上記残余成分の溶解が終了した後、固液分離して、六方晶フェライト粉を抽出する。
【0038】
前述のように、この酸洗浄によって六方晶フェライトを構成するBaの一部が溶解する。すなわち、Ba損失が生じる。Ba含有量がM型六方晶フェライトの化学量論的なBa量よりも少なくなっている場合、Baサイトの一部が空位となっていると考えられる。この空位の量がある程度以上になると急激に磁気特性の低下を引き起こすものと考えられる。特にVactが2000nm3以下であるような小粒子化されたM型六方晶フェライトでは、酸洗浄によるBa損失が生じやすい。本発明では上述のように、媒体特性としてのSNRが安定して高く維持されるBa含有量を確保する観点から、Ba/Feモル比が0.080以上である六方晶フェライト磁性粉を対象としている。発明者らの詳細な実験によれば、原料混合物の組成、および結晶化の条件(結晶化温度)をコントロールすることによって、酸洗浄でのBa損失が生じても、結果的にBa/Feモル比が0.080以上である六方晶フェライト磁性粉を得ることが可能であることが確認された。
【0039】
上記固液分離によって抽出された六方晶フェライト粉には酸洗浄液が付着しているため、それを水によって洗い落とす。この処理をここでは「水洗」と呼ぶ。水洗の初期段階として、必要に応じてアンモニア水、水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液などのアルカリ水溶液で中和する処理を行うことができる。アルカリ水溶液の濃度は、例えば水酸化ナトリウムならば0.01〜1.5mol/Lの範囲で調整すればよい。
【0040】
(粉砕工程)
このようにして得られた六方晶Baフェライトに粉砕処理を施し、微粉化しておくことが望ましい。具体的には、レーザー回折・散乱法による体積基準の粒度分布において、全粒子の90%以上が粒子径0.1〜100μmの範囲に入るように、アルミニウム水酸化物被着処理前の段階で十分に微細化しておくことが好ましい。
【0041】
(アルミニウム水酸化物被着工程)
湿式粉砕後の六方晶Baフェライト粒子を、アルミニウム塩が溶解している水溶液中に分散させ、スラリーとする。このスラリーにアルカリを添加することにより、アルミニウム水酸化物の生成反応を生じさせ、六方晶Baフェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物の層を形成する。スラリーの温度は25〜50℃程度とすればよい。反応前(アルカリ添加前)の液のpHは2.0〜5.0であることが好ましく、2.0〜4.0の範囲がより好ましい。反応前のpHが2.0より低いと六方晶Baフェライト粒子の一部が溶解しやすく、場合によっては磁気特性の低下を招く要因となる。反応時の液のpHは7.0〜10.0に調整することが好ましい。pHが7.0より低い場合あるいは10.0より高い場合は、磁気記録媒体の耐久性向上に有効なアルミニウム水酸化物を十分に生成させて六方晶フェライト粒子表面へ被着させることが難しくなる。反応終了後、スラリーを上記温度範囲で5〜30分程度撹拌することが望ましい。アルミニウム塩としては、塩化アルミニウム、硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、リン酸アルミニウム、クエン酸アルミニウム、酢酸アルミニウムなどが適用でききる。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニアなどが適用でききる。アルミニウム塩の使用量は、固形分(湿式粉砕後の六方晶Baフェライト粒子)100質量部に対し、Alの量がAl(OH)3換算で2〜17質量部となるように設定することが望ましい。
【0042】
表面にアルミニウム水酸化物が付着した六方晶Baフェライト粒子を含むスラリーをろ過などの手法により固液分離し、固形分を回収する。この固形分を十分に水洗する。具体的には、洗浄后液(ろ液)の導電率が10μS/cm以下となるまで入念に水洗を行うことが望ましい。
【0043】
水洗が終了した固形分を、120℃以下、より好ましくは115℃以下の温度で乾燥させる。乾燥時間は例えば1〜20hの範囲で選択すればよい。乾燥温度が120℃を超えて高くなると磁気記録媒体の耐久性を安定して顕著に改善することが難しくなる。乾燥温度の下限については特にこだわる必要はなく、常温でも構わない。例えば20〜120℃の範囲で設定することができる。このようにして、Bi含有六方晶Baフェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物が被着している磁性粒子からなる粉体が得られる。
【0044】
《磁気記録媒体》
本発明に従う上述の六方晶フェライト磁性粉は、磁気記録媒体の磁性層に適用される。以下、本発明に従う六方晶フェライト磁性粉が好適に使用される磁気記録媒体について、磁気テープを例に説明する。磁気テープは、磁気ヘッドと接する面を上面とすると、一般的には上から順に、磁性層、非磁性層、非磁性支持体で構成され、さらにその下にバックコート層を有する場合もある。
【0045】
〔磁性層〕
磁性層は、上述の六方晶フェライト磁性粉の粒子と、結合剤を含む。
結合剤としては、ポリウレタン樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、塩化ビニル系樹脂、スチレン、アクリロニトリル、メチルメタクリレートなどを共重合したアクリル系樹脂、ニトロセルロースなどのセルロース系樹脂、エポキシ樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアセタール、ポリビニルブチラールなどのポリビニルアルキラール樹脂などから選ばれる樹脂を単独で、または2種以上を混合して用いることができる。これらの中でもポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、セルロース系樹脂、塩化ビニル系樹脂が特に好適である。これらの樹脂は、後述する非磁性層においても結合剤として使用することができる。上記結合剤は磁性粉の分散性を向上させるため、これらの粉体表面に吸着する官能基(極性基)を持つことが好ましい。官能基としては−SO3M、−SO4M、−PO(OM)2、−OPO(OM)2、−COOM、=NSO3M、=NRSO3M、−NR12、−N+123-などが挙げられる。ここでMは水素またはNa、K等のアルカリ金属、Rはアルキレン基、R1、R2、R3はアルキル基またはヒドロキシアルキル基または水素、XはCl、Br等のハロゲンである。結合剤中の官能基の量は良好な分散性を得るために10μeq/g以上200μeq/g以下が好ましく、30μeq/g以上200μeq/g以下がさらに好ましい。
【0046】
結合剤の分子量は質量平均分子量で10000以上200000以下であることが好ましい。この範囲内にあれば、塗膜強度が十分であり、耐久性が良好であり、また分散性が向上するので好ましい。
【0047】
結合材の量は、磁性粉に対し、例えば5〜50質量%好ましくは10〜30質量%の範囲で調整される。上記樹脂とともにポリイソシアネート系硬化剤を使用することも可能である。
【0048】
磁性層には、必要に応じて添加剤を加えることができる。添加剤としては、研磨剤、潤滑剤、分散剤・分散助剤、防黴剤、帯電防止剤、酸化防止剤、溶剤、カーボンブラックなどを、所望の性質に応じて適量、市販品または公知の方法により製造されたものの中から適宜選択して使用することができる。磁性層で使用可能なカーボンブラックとしては、ゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を挙げることができる。また潤滑剤として広く用いられている脂肪酸およびその誘導体としては、脂肪酸では、カプリン酸、カプリル酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、リノレン酸、イソステアリン酸等が挙げられる。エステル類ではブチルステアレート、オクチルステアレート、アミルステアレート、イソオクチルステアレート、ブチルミリステート、オクチルミリステート、ブトキシエチルステアレート、ブトキシジエチルステアレート、2−エチルヘキシルステアレート、2−オクチルドデシルパルミテート、2−ヘキシルドデシルパルミテート、イソヘキサデシルステアレート、オレイルオレエート、ドデシルステアレート、トリデシルステアレート、エルカ酸オレイル、ネオペンチルグリコールジデカノエート、エチレングリコールジオレイル等が挙げられる。脂肪酸およびその誘導体の含有量は、強磁性体100質量部に対して、例えば0.1〜20質量部である。後述の非磁性層の場合は、非磁性粉末100質量部に対して、例えば0.01〜10質量部である。
【0049】
磁性層の厚みは、用いる磁気ヘッドの飽和磁化量やヘッドギャップ長、記録信号の帯域により最適化されるものであるが、一般には0.01〜0.15μmであり、好ましくは0.02〜0.12μmであり、さらに好ましくは0.03〜0.10μmである。磁性層は少なくとも一層あればよいが、異なる磁気特性を有する2層以上に分離した重層磁性層とする場合もある。
【0050】
〔非磁性層〕
磁性層と非磁性支持体との間に、非磁性粉末と結合剤を含む非磁性層を有することができる。非磁性層に使用する非磁性粉末は、無機物質でも有機物質でもよい。また、カーボンブラック等も使用できる。無機物質としては、例えば金属、金属酸化物、金属炭酸塩、金属硫酸塩、金属窒化物、金属炭化物、金属硫化物などが挙げられる。これらの非磁性粉末は、市販品として入手可能であり、公知の方法で製造することもできる。具体的には二酸化チタン等のチタン酸化物、酸化セリウム、酸化スズ、酸化タングステン、ZnO、ZrO2、SiO2、Cr23、α化率90〜100%のα−アルミナ、β−アルミナ、γ−アルミナ、α−酸化鉄、ゲータイト、コランダム、窒化珪素、チタンカーバイト、酸化マグネシウム、窒化ホウ素、2硫化モリブデン、酸化銅、MgCO3、CaCO3、BaCO3、SrCO3、BaSO4、炭化珪素、炭化チタンなどを、単独または2種類以上組み合わせて使用することができる。代表的にはα−酸化鉄、酸化チタン、カーボンブラックが挙げられる。
【0051】
非磁性粉末の形状は、針状、球状、多面体状、板状のいずれでもあってもよい。非磁性粉末の結晶子サイズは、4nm以上500nm以下が好ましく、4nm以上100nm以下がさらに好ましい。結晶子サイズが4〜500nmの範囲であれば、分散が困難になることもなく、また好適な表面粗さを有するため好ましい。これら非磁性粉末の平均粒径は、5〜500nmが好ましいが、必要に応じて平均粒径の異なる非磁性粉末を組み合わせたり、単独の非磁性粉末でも粒径分布を広くしたりして同様の効果をもたせることもできる。とりわけ好ましい非磁性粉末の平均粒径は、10〜200nmである。5〜500nmの範囲であれば、分散も良好で、かつ好適な表面粗さを有するため好ましい。
【0052】
非磁性粉末の比表面積は、例えば1〜150m2/gであり、好ましくは20〜120m2/gであり、さらに好ましくは50〜100m2/gである。比表面積が1〜150m2/gの範囲内にあれば、好適な表面粗さを有し、かつ、適量の結合剤で分散できる。ジブチルフタレート(DBP)を用いた吸油量は、例えば5〜100ml/100g、好ましくは10〜80ml/100g、さらに好ましくは20〜60ml/100gである。比重は、例えば1〜12、好ましくは3〜6である。タップ密度は、例えば0.05〜2g/ml、好ましくは0.2〜1.5g/mlである。タップ密度が0.05〜2g/mlの範囲であれば、飛散する粒子が少なく操作が容易であり、また装置にも固着しにくくなる傾向がある。非磁性粉末の粉体pHは2〜11であることが好ましく、6〜9の間が特に好ましい。粉体pHが2〜11の範囲にあれば、高温、高湿下または脂肪酸の遊離により摩擦係数が大きくなることを防ぐことができる。非磁性粉末の含水率は、例えば0.1〜5質量%、好ましくは0.2〜3質量%、さらに好ましくは0.3〜1.5質量%である。含水量が0.1〜5質量%の範囲であれば、分散も良好で、分散後の塗料粘度も安定しやすい。強熱減量は、20質量%以下であることが好ましい。
【0053】
また、非磁性粉末が無機粉体である場合には、モース硬度は4〜10のものが好ましい。モース硬度が4〜10の範囲であれば耐久性を確保することができる。非磁性粉末のステアリン酸吸着量は、好ましくは1〜20μmol/m2であり、さらに好ましくは2〜15μmol/m2である。非磁性粉末の25℃での水への湿潤熱は、200〜600erg/cm2(200〜600mJ/m2)の範囲にあることが好ましい。また、この湿潤熱の範囲にある溶媒を使用することができる。100〜400℃での表面の水分子の量は1〜10個/10nmが適当である。水中での等電点のpHは、3〜9の間にあることが好ましい。これらの非磁性粉末の表面には表面処理が施されることによりAl23、SiO2、TiO2、ZrO2、SnO2、Sb23、ZnOが存在することが好ましい。特に分散性に好ましいのはAl23、SiO2、TiO2、ZrO2であるが、さらに好ましいのはAl23、SiO2、ZrO2である。これらは組み合わせて使用してもよいし、単独で用いることもできる。また、目的に応じて共沈させた表面処理層を用いてもよいし、先ずアルミナで処理した後にその表層をシリカで処理する方法、またはその逆の方法を採ることもできる。また、表面処理層は目的に応じて多孔質層にしても構わないが、均質で密である方が一般には好ましい。
【0054】
非磁性層の結合剤、潤滑剤、分散剤、添加剤、溶剤、分散方法その他は、磁性層のそれが適用できる。特に、結合剤量、種類、添加剤、分散剤の添加量、種類に関しては磁性層に関する公知技術が適用できる。また、非磁性層にはカーボンブラックや有機質粉末を添加することも可能である。
非磁性層には非磁性粉末と共に、カーボンブラックを混合し表面電気抵抗を下げ、光透過率を小さくすると共に硬度を調整することができる。例えば、非磁性層にはゴム用ファーネス、ゴム用サーマル、カラー用ブラック、アセチレンブラック等を用いることができる。
【0055】
非磁性層に用いられるカーボンブラックの比表面積は、例えば100〜500m2/g、好ましくは150〜400m2/g、DBP吸油量は、例えば20〜400ml/100g、好ましくは30〜200ml/100gである。カーボンブラックの粒子径は、例えば5〜80nm、好ましくは10〜50nm、さらに好ましくは10〜40nmである。カーボンブラックの粉体pHは2〜10、含水率は0.1〜10%、タップ密度は0.1〜1g/mlが好ましい。分散剤などで表面処理したカーボンブラックを使用してもよい。樹脂でグラフト化して使用してもよいし、表面の一部をグラファイト化したものを使用してもよい。また、カーボンブラックを塗料に添加する前にあらかじめ結合剤で分散してもかまわない。これらのカーボンブラックは非磁性粉末に対して50質量%を超えない範囲、非磁性層総質量の40%を超えない範囲で使用することが好ましい。これらのカーボンブラックは単独、または組み合せで使用することができる。非磁性層で使用できるカーボンブラックは例えば「カーボンブラック便覧」カーボンブラック協会編、を参考にすることができる。それらは市販品として入手可能である。
【0056】
また非磁性層には目的に応じて有機質粉末を添加することもできる。有機質粉末としては、例えば、アクリルスチレン系樹脂粉末、ベンゾグアナミン樹脂粉末、メラミン系樹脂粉末、フタロシアニン系顔料が挙げられるが、ポリオレフィン系樹脂粉末、ポリエステル系樹脂粉末、ポリアミド系樹脂粉末、ポリイミド系樹脂粉末、ポリフッ化エチレン樹脂も使用することができる。その製法として、特開昭62−18564号公報、特開昭60−255827号公報に記されている技術が利用できる。
【0057】
非磁性層の厚みは、例えば0.1〜3.0μmであり、0.1〜2.0μmであることが好ましく、0.1〜1.5μmであることが更に好ましい。なお、この非磁性層は、実質的に非磁性であればその効果を発揮するものである。具体的には、残留磁束密度と保磁力を持たないことが一般的には好ましいが、非磁性層の残留磁束密度は10mT以下、保磁力は7.96kA/m(100Oe)以下の範囲で許容される。残留磁束密度と保磁力がこの範囲の磁性に抑えられる限り、不純物として、あるいは意図的に少量の磁性体を含んでいても、ここでいう非磁性層に該当する。
【0058】
〔非磁性支持体〕
非磁性支持体としては、二軸延伸を行ったポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、芳香族ポリアミド等の公知のものが挙げられる。これらの中でもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリアミドが好ましい。これらの支持体はあらかじめコロナ放電、プラズマ処理、易接着処理、熱処理などを施したものであってもよい。また、非磁性支持体の表面粗さはカットオフ値0.25mmにおいて算術平均粗さRaが3〜10nmであることが好ましい。非磁性支持体の厚みは、通常3〜10μmとすればよい。
【0059】
〔バックコート層〕
非磁性支持体の磁性層を有する面とは反対の面にバックコート層を設けることもできる。バックコート層には、カーボンブラックと無機粉末が含有されていることが好ましい。バックコート層形成のための結合剤、各種添加剤は、磁性層や非磁性層の処方を適用することができる。バックコート層の厚みは、1.0μm以下が好ましく、0.2〜0.8μmが更に好ましい。
【0060】
〔磁気記録媒体の製造方法〕
本発明に従う六方晶フェライト磁性粉を磁性層に使用する磁気記録媒体の製造方法は特に限定されるものではないが、以下、塗布型磁気記録媒体を例に挙げて説明する。
磁性層、非磁性層またはバックコート層を形成するための塗布液を製造する工程は、通常、少なくとも混練工程、分散工程、およびこれらの工程の前後に必要に応じて設けた混合工程からなる。個々の工程はそれぞれ2段階以上に分かれていてもかまわない。強磁性粉末(本発明に従う六方晶フェライト磁性粉)、非磁性粉末、結合剤、カーボンブラック、研磨剤、帯電防止剤、潤滑剤、溶剤などすべての原料はどの工程の最初または途中で添加してもかまわない。また、個々の原料を2つ以上の工程で分割して添加してもかまわない。例えば、ポリウレタンを混練工程、分散工程、分散後の粘度調整のための混合工程で分割して投入してもよい。混練工程ではオープンニーダ、連続ニーダ、加圧ニーダ、エクストルーダなど強い混練力をもつものを使用することが好ましい。これらの混練処理の詳細については特開平1−106338号公報、特開平1−79274号公報に記載されている。また、磁性層塗布液、非磁性層塗布液またはバックコート層塗布液を分散させるには、ガラスビーズを用いることができる。このようなガラスビーズは、高比重の分散メディアであるジルコニアビーズ、チタニアビーズ、スチールビーズが好適である。これら分散メディアの粒径と充填率は最適化して用いられる。分散機は公知のものを使用することができる。
【0061】
磁気記録媒体の製造方法では、例えば、走行下にある非磁性支持体の表面に、非磁性層塗布液を所定の膜厚となるように塗布して非磁性層を形成し、次いでその上に、磁性層塗布液を所定の膜厚となるようにして磁性層を塗布して形成する。複数の磁性層塗布液を逐次または同時に重層塗布してもよく、非磁性層塗布液と磁性層塗布液とを逐次または同時に重層塗布してもよい。上記磁性層塗布液または非磁性層塗布液を塗布する塗布機としては、エアードクターコート、ブレードコート、ロッドコート、押出しコート、エアナイフコート、スクイズコート、含浸コート、リバースロールコート、トランスファーロールコート、グラビヤコート、キスコート、キャストコート、スプレイコート、スピンコート等が利用できる。これらについては例えば(株)総合技術センター発行の「最新コーティング技術」(昭和58年5月31日)を参考にできる。
【0062】
磁性層塗布液の塗布層は、磁気テープの場合、磁性層塗布液の塗布層中に含まれる強磁性粉末にコバルト磁石やソレノイドを用いて磁場配向処理してもかまわない。ディスクの場合、配向装置を用いず無配向でも十分に等方的な配向性が得られることもあるが、コバルト磁石を斜めに交互に配置すること、ソレノイドで交流磁場を印加するなど公知のランダム配向装置を用いることが好ましい。また異極対向磁石など公知の方法を用い、垂直配向とすることで円周方向に等方的な磁気特性を付与することもできる。特に高密度記録を行う場合は垂直配向が好ましい。また、スピンコートを用いて円周配向することもできる。
【0063】
乾燥風の温度、風量、塗布速度を制御することで塗膜の乾燥位置を制御できるようにすることが好ましく、塗布速度は20〜1000m/min、乾燥風の温度は60℃以上が好ましい。また磁石ゾーンに入る前に適度の予備乾燥を行うこともできる。
【0064】
このようにして得られた塗布原反は、一旦巻き取りロールにより巻き取られ、しかる後、この巻き取りロールから巻き出され、次いでカレンダー処理に施され得る。カレンダー処理には、例えばスーパーカレンダーロールなどを利用することができる。カレンダー処理によって、表面平滑性が向上するとともに、乾燥時の溶剤の除去によって生じた空孔が消滅し磁性層中の強磁性粉末の充填率が向上するので、電磁変換特性の高い磁気記録媒体を得ることができる。カレンダー処理する工程は、塗布原反の表面の平滑性に応じて、カレンダー処理条件を変化させながら行うことが好ましい。カレンダーロールとしてはエポキシ、ポリイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド等の耐熱性プラスチックロールを使用することができる。また金属ロールで処理することもできる。
【0065】
カレンダー処理条件としては、カレンダーロールの温度を、例えば60〜110℃の範囲、好ましくは70〜110℃の範囲、特に好ましくは80〜110℃の範囲とすることができ、圧力は、例えば100〜500kg/cm(98〜490kN/m)の範囲、好ましくは200〜450kg/cm(196〜441kN/m)の範囲で、特に好ましくは300〜400kg/cm(294〜392kN/m)の範囲とすることができる。また非磁性層表面に対して、例えば上記条件でカレンダー処理を行うこともできる。
【0066】
得られた磁気記録媒体は、裁断機などを使用して所望の大きさに裁断して使用することができる。裁断機としては、特に制限はないが、回転する上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の組が複数設けられたものが好ましく、適宜、スリット速度、噛み合い深さ、上刃(雄刃)と下刃(雌刃)の周速比(上刃周速/下刃周速)、スリット刃の連続使用時間等を選定することができる。
【0067】
以上説明した磁気記録媒体は、本発明に従う六方晶フェライト磁性粒子を含むことにより、磁性層の高い耐久性を維持しつつ、高密度記録領域において優れた電磁変換特性を実現することができるものである。
【実施例】
【0068】
種々の原料調合にて六方晶フェライト磁性粉を作製し、得られた磁性粉について成分分析、磁気特性の測定、比表面積の測定、活性化体積Vactの算出を行った。また、それらの磁性粉を用いて磁気テープを作製し、電磁変換特性(再生出力、SNR)および塗膜耐久性を評価した。以下に、その方法および結果を示す。
【0069】
〔六方晶フェライト磁性粉の製造〕
《実施例1〜4》
原料として、ホウ酸H3BO3(工業用)、炭酸バリウムBaCO3(工業用)、酸化鉄Fe23(工業用)、酸化コバルトCoO(試薬90%以上)、酸化チタンTiO2(試薬1級)、酸化ビスマスBi23(工業用)、酸化ネオジムNd23(工業用)を秤量し、三井三池製FMミキサーを用いて混合し、原料混合物を得た。各例における秤量値は表1に示してある。上記原料混合物をペレタイザーに入れ、水を噴霧しながら球状に成形して造粒し、その後270℃で14h乾燥させ、粒径1〜50mmの造粒品を得た。
【0070】
上記造粒品を、白金るつぼを用いて溶融炉により溶融させた。1400℃まで昇温して60分撹拌しながら保持し、各原料物質を完全に溶融状態としたのち、その溶融物(溶湯)をノズルから出湯させて、ガスアトマイズ法にて急冷し、非晶質体を得た。得られた非晶質体を所定の温度に加熱保持することにより結晶化させ、六方晶フェライトを生成させた。その加熱保持温度を表1中に結晶化処理温度として記載してある。その温度での保持時間は60分とした。
【0071】
上記加熱保持によって得られた粉体中には、六方晶フェライトの他、ホウ酸バリウムを主体とする残余物質が含まれている。当該粉体を30〜85℃に加温した6〜10質量%酢酸水溶液に浸漬させ、撹拌しながら0.5〜2h保持して上記残余物質を液中に溶解させ、ろ過により固液分離を行い、純水を加えて洗浄した。その後、回収した固形物に純水を加えて撹拌し、湿式粉砕機スターミルで湿式粉砕した。
【0072】
湿式粉砕後の固形分を含むスラリーに塩化アルミニウム水溶液を添加した。塩化アルミニウムによるAlの添加量は、固形分100質量部に対するAl(OH)3換算で、実施例1、3、4では3.3質量部、実施例2では8.7質量部とした。塩化アルミニウム水溶液添加後のスラリーを40℃で10分撹拌した。このスラリーのpHは3.0〜4.0の範囲にあった。その後、水酸化ナトリウムを添加してpHを8.0〜9.0に調整した後、40℃で更に10分撹拌することにより、反応生成物であるアルミニウム水酸化物の層を固形分の粒子(六方晶フェライト磁性粒子)の表面に形成した。その後、ろ過により固液分離を行い、純水を加え、洗浄后液(ろ液)の導電率が10μS/cm以下となるまで水洗した。水洗後は110℃の空気中で12hの乾燥を行った。このようにしてBi含有六方晶Baフェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物を被着させた磁性粉の試料を得た。
【0073】
《比較例1〜3》
これらの比較例では、六方晶フェライト粒子の表面にアルミニウム水酸化物を被着させるための表面処理を行わなかった。六方晶フェライト磁性粉は以下に記載する方法で製造した。なお、比較例1、2は初期の原料中にAlを添加した例、比較例3はAl無添加の例である。
【0074】
原料として、ホウ酸H3BO3(工業用)、水酸化アルミニウムAl(OH)3(試薬1級)、炭酸バリウムBaCO3(工業用)、酸化鉄Fe23(工業用)、酸化コバルトCoO(試薬90%以上)、酸化チタンTiO2(試薬1級)、酸化ビスマスBi23(工業用)、酸化ネオジムNd23(工業用)を秤量し、三井三池製FMミキサーを用いて混合し、原料混合物を得た。各例における秤量値は表1に示してある。上記原料混合物をペレタイザーに入れ、水を噴霧しながら球状に成形して造粒し、その後270℃で14時間乾燥させた、粒径1〜50mmの造粒品を得た。
【0075】
上記造粒品を、白金るつぼを用いて溶融炉により溶融させた。1400℃まで昇温して60分撹拌しながら保持し、各原料物質を完全に溶融状態としたのち、その溶融物(溶湯)をノズルから出湯させて、ガスアトマイズ法にて急冷し、非晶質体を得た。得られた非晶質体を所定の温度に加熱保持することにより結晶化させ、六方晶フェライトを生成させた。その加熱保持温度を表1中に結晶化処理温度として記載してある。その温度での保持時間は60分とした。
【0076】
上記加熱保持によって得られた粉体中には、六方晶フェライトの他、ホウ酸バリウムを主体とする残余物質が含まれている。当該粉体を60〜85℃に加温した6〜10質量%酢酸水溶液に浸漬させ、撹拌しながら1〜2時間保持することにより、上記残余物質を液中に溶解させ、その後、ろ過により固液分離を行い、固形分を回収した。この酸洗浄工程では、前述のように、六方晶フェライトのBaサイトを占めているBaの一部も溶出すると考えられる。酸洗浄条件は表1中に示してある。
【0077】
上記酸洗浄後に回収された固形分を純水により洗浄し、粒子表面に付着している酢酸等の成分を除去した。洗浄后液(ろ液)の導電率が10μS/cm以下となるまで水洗した。水洗後は110℃の大気中で乾燥を行い、六方晶フェライト磁性粉の試料を得た。
【0078】
以下は各例共通である。
〔磁性粉の成分分析〕
六方晶フェライト磁性粉試料の成分分析は、アジレントテクノロジー株式会社製の高周波誘導プラズマ発光分析装置ICP(720−ES)を使用して分析した。得られた定量値から、各元素のFeに対するモル比を算出した。ある元素X(Xは例えばBa、Bi、Alなど)についてのX/Feモル比は下記の式により算出される。
X/Feモル比=X含有量(モル%)/Fe含有量(モル%)
【0079】
〔粉末磁気特性の測定〕
六方晶フェライト磁性粉試料をφ6mmのプラスチック製容器に詰め、東英工業株式会社製VSM装置(VSM−P7−15)を使用して、外部磁場795.8kA/m(10kOe)で、保磁力Hc、飽和磁化σs、角形比SQ、保磁力分布SFD(粉体のバルク状態におけるSFD値)を測定した。
【0080】
〔比表面積の測定〕
六方晶フェライト磁性粉試料について、ユアサアイオニクス株式会社製4ソーブUSを用いてBET一点法による比表面積Sbetを求めた。
【0081】
〔活性化体積Vactの算出〕
パルス磁界発生器(東英工業社製)および振動試料型磁束計(東英工業社製)を用いて、六方晶フェライト磁性粉を飽和磁化させた後、飽和磁化方向とは逆方向に磁場(逆磁場と呼ぶ)を0.76ms印加し、磁場を取り去った時の残留磁化量を測定した。この逆磁場の値を変更し、残留磁化が0Am2/kgとなるときの逆磁場の値Hr(0.76ms)を求めた。このHrを残留保磁力と呼ぶこととする。磁性体のHr値によって印加する逆磁場の値は適宜設定することができる。次に印加時間を8.4msとして同様の操作を行い、残留磁化が0Am2/kgとなるときの残留保磁力Hr(8.4ms)を求めた。更に印加時間を17sとして同様の操作を行い、残留磁化が0Am2/kgとなる時の残留保磁力Hr(17s)を求めた。Hr(0.76ms)、Hr(8.4ms)、Hr(17s)を用いて、下記(1)式からH0、KuV/kTを算出し、その値を下記(2)式に代入して活性化体積Vactを算出した。
Hr(t)=H0〔1−{(kT/KuV)ln(f0t/ln2)}0.77〕 ……(1)
ここで、k:ボルツマン定数、T:絶対温度、Ku:結晶磁気異方性定数、V:活性化体積、Hr(t):印加時間tにおける残留保磁力(Oe)、H0:10-9秒での残留保磁力(Oe)、f0:スピン歳差周波数(s-1)、t:逆磁場保持時間(s)、である。f0の値はここでは10-9(s-1)である。
Vact(nm3)=1.505×105×KuV/kT/H0 ……(2)
【0082】
〔磁気記録媒体(磁気テープ)の作製〕
以下、磁気テープ作製に関して記載する「部」および「%」は、特に断らない限り、それぞれ「質量部」および「質量%」を意味する。
【0083】
(磁性層塗布液の処方)
<磁性液>
六方晶バリウムフェライト磁性粉粒子:100.0部
オレイン酸:2.0部
塩化ビニル共重合体(日本ゼオン製MR−104):10.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂:4.0部
(重量平均分子量70000、SO3Na基:0.07meq/g)
アミン系ポリマー(ビックケミー社製DISPERBYK−102):6.0部
メチルエチルケトン:150.0部
シクロヘキサノン:150.0部
<研磨剤液>
α−アルミナ(比表面積19m2/g、真球度1.4):6.0部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂
(重量平均分子量70000、SO3Na基:0.1meq/g):0.6部
2,3−ジヒドロキシナフタレン:0.6部
シクロヘキサノン:23.0部
<非磁性フィラー液>
コロイダルシリカ(平均粒子サイズ120nm、変動係数=7%、真球度1.03):
2.0部
メチルエチルケトン:8.0部
<潤滑剤・硬化剤液>
ステアリン酸:3.0部
ステアリン酸アミド:0.3部
ステアリン酸ブチル:6.0部
メチルエチルケトン:110.0部
シクロヘキサノン:110.0部
ポリイソシアネート(日本ポリウレタン製コロネート(登録商標)L):3部
【0084】
(非磁性層塗布液の処方)
非磁性粉体 α酸化鉄(平均長軸長10nm、平均針状比:1.9、BET比表面積75m2/g):100部
カーボンブラック(平均粒径20nm):25部
SO3Na基含有ポリウレタン樹脂(平均分子量70000、SO3Na基含有量0.2meq/g):18部
ステアリン酸:1部
シクロヘキサノン:300部
メチルエチルケトン:300部
【0085】
(バックコート層塗布液の処方)
非磁性無機粉末:α酸化鉄(平均長軸長0.15μm、平均針状比:7、BET比表面積52m2/g):80部
カーボンブラック(平均粒径20nm):20部 塩化ビニル共重合体:13部
スルホン酸塩基含有ポリウレタン樹脂:6部
フェニルホスホン酸:3部
シクロヘキサノン:155部
メチルエチルケトン:155部
ステアリン酸:3部
ブチルステアレート:3部
ポリイソシアネート:5部
シクロヘキサノン:200部
【0086】
(磁気テープの作製)
磁性層塗布液は、上記磁性層塗布液の処方に従う各物質を、バッチ式縦型サンドミルにより0.5mmΦのジルコニアビーズを使用して24h分散し(ビーズ分散)、その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過することにより作製した。
非磁性層塗布液は、上記非磁性層塗布液の処方に従う各物質を、バッチ式縦型サンドミルにより0.1mmΦのジルコニアビーズを使用して24h分散し(ビーズ分散)、その後、0.5μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過することにより作製した。 バックコート層塗布液は、上記バックコート層塗布液の処方に示した物質のうち潤滑剤(ステアリン酸およびブチルステアレート)とポリイソシアネート、シクロヘキサノン200部を除いた各物質をオープン型ニーダにより混練・希釈した後、横型ビーズミル分散機により1mmΦのジルコニアビーズを用い、ビーズ充填率80%、ローター先端周速10m/秒で1パス滞留時間を2分とし、12パスの分散処理に供し、その後残りの物質を添加してディゾルバーで撹拌し、得られた分散液を1μmの平均孔径を有するフィルターを用いてろ過することにより作製した。
【0087】
厚み5μmのポリエチレンナフタレート製支持体(幅方向ヤング率:8GPa、縦方向ヤング率:6GPa)の表面上に、乾燥後の厚みが100nmになるように上記で調製した非磁性層塗布液を塗布、乾燥した後、その上に乾燥後の厚みが70nmになるように上記で調製した磁性層塗布液を塗布した。この磁性層塗布液が未乾状態にあるうちに、磁場強度0.3Tの磁場を塗布面に対し垂直方向に印加する垂直配向処理を施し、乾燥させた。その後、この支持体の反対面に乾燥後の厚みが0.4μmになるように上記で調製したバックコート層塗布液を塗布し、乾燥させた。得られたテープを金属ロールのみから構成されるカレンダーにより、速度100m/min、線圧300kg/cm、温度100℃で表面平滑化処理し、その後70℃のドライ環境で36hの熱処理を施した。熱処理後1/2インチ幅にスリットし、磁気テープを得た。
【0088】
〔電磁変換特性の測定〕
23℃±1℃の環境下にて、上記で作製した磁気テープについて、記録ヘッド(MIG、ギャップ0.15μm、1.8T)と再生用GMRヘッド(再生トラック幅1um)をループテスターに取り付けて、線記録密度200kfciの信号を記録し、その後、再生出力、SNRを測定した。このSNRが1.0dB以上となるノイズ特性を実現させることのできる六方晶フェライト磁性粉は、高密度記録化に伴う今後の厳しいニーズに対応しうる性能を有すると評価される。
【0089】
〔塗膜耐久性の評価〕
温度40℃相対湿度80%RHの環境において、IBM社製LTO(登録商標)G5(Linear Tape−Open Generation 5)ドライブから取り外した磁気記録再生ヘッドをテープ走行系に取り付け、0.6Nのテンションをかけながらテープ長20mの磁気テープを、送り出しロールからの送り出し、4.0m/sで走行させ、巻き取りロールへの巻き取る方法で3000サイクル走行させた。走行後のヘッド全面を倍率100倍のマイクロスコープで観察し、画像処理ソフト(Win Roof(Mitani Corporatipon製))による画像処理により汚れ面積(付着物が付着している部分の面積)を求めた。ヘッド面に対する汚れ面積の割合(汚れ面積率)をヘッド面汚れの指標とし、以下の基準により評価した。評点4点以上を走行耐久性良好と判断した。
評点5:汚れ面積率が0%
評点4:汚れ面積率が0%を超え5%未満
評点3:汚れ面積率が5%以上10%未満
評点2:汚れ面積率が10%以上30%未満
評点1:汚れ面積率が30%以上
以上の結果を表1にまとめて示す。
【0090】
【表1】
【0091】
表1からわかるように、本発明に従う六方晶フェライト磁性粉(実施例)は、磁気記録媒体において高いSNRを安定して発揮させることが可能であり、かつ、磁性層の塗膜耐久性についても非常に高い性能が得られた。これに対し、比較例1、2はAlを初期原料として添加し、アルミニウム水酸化物の被着処理を行わなかったので、ガラス体を形成する工程でAlは酸化アルミニウム(Al23)となり、このガラス体を加熱してBaフェライトを析出させる過程でフェライト析出粒子の表面が酸化アルミニウムに被覆された状態となった。その結果、塗膜耐久性に劣った。さらに比較例2はBa/Feモル比が0.077まで低下した六方晶フェライト磁性粉を使用したことにより、SNRの大幅な低下を招いた。比較例3はAlを含有しない配合の六方晶フェライト磁性粉を採用したものであり、塗膜耐久性が悪かった。