特許第6294443号(P6294443)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6294443基体表面を有機分子で修飾することにより、菌体を除去できる表面処理剤及び該有機分子による表面処理方法並びに抗菌処理した基体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6294443
(24)【登録日】2018年2月23日
(45)【発行日】2018年3月14日
(54)【発明の名称】基体表面を有機分子で修飾することにより、菌体を除去できる表面処理剤及び該有機分子による表面処理方法並びに抗菌処理した基体
(51)【国際特許分類】
   B05D 5/00 20060101AFI20180305BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20180305BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20180305BHJP
   C07C 323/12 20060101ALN20180305BHJP
   C07F 7/12 20060101ALN20180305BHJP
【FI】
   B05D5/00 H
   C09K3/00 R
   B05D7/24 301Z
   !C07C323/12
   !C07F7/12 L
【請求項の数】5
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2016-236403(P2016-236403)
(22)【出願日】2016年12月6日
(62)【分割の表示】特願2012-117171(P2012-117171)の分割
【原出願日】2012年5月23日
(65)【公開番号】特開2017-141430(P2017-141430A)
(43)【公開日】2017年8月17日
【審査請求日】2016年12月16日
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100093296
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 勇
(74)【代理人】
【識別番号】100173901
【弁理士】
【氏名又は名称】小越 一輝
(72)【発明者】
【氏名】中野 美紀
(72)【発明者】
【氏名】三宅 晃司
(72)【発明者】
【氏名】西村 麻里江
【審査官】 吉岡 沙織
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−155653(JP,A)
【文献】 特表2005−502736(JP,A)
【文献】 特表2007−536070(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/00
B05D
A01N
C23C 24/−30/
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH(mは3〜70の整数)、あるいは(−O−CH−CH−)OH(pは0〜70の整数)]で表わされる有機分子の使用方法であって、上記分子または上記の分子の組み合わせを用いて基体表面を修飾し、前記基体表面を洗浄することによって基体表面に付着した菌体を除去することを含む方法。
【請求項2】
前記有機分子が、HS(CH11(OCHCHOCH、HS(CH11(OCHCHOH、HS(CH11(OCHCHOCH、(CHSiCl(CH11(OCHCHOCH、(CHSiCl(CH11(OCHCHOCHから選択されるいずれか、またはこれらの組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記修飾を、金属、半導体、ガラス、セラミックス、高分子有機材料、これらの複合体もしくは積層体からなる基体、またはこれらの表面に金属、半導体、ガラス、セラミックス、もしくは高分子有機材料の被覆層を施した基体表面に適用することを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記修飾を、前記有機分子による表面修飾により自己組織化膜とすることによって行うことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【請求項5】
前記洗浄を、水洗、アルコール洗浄、有機溶剤による洗浄、不活性ガスによる洗浄のいずれか、またはその組み合わせによって行うことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料、これらの複合体若しくは積層体、これらの表面に金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料の被覆層を施した基体表面を有機分子で修飾することにより、菌体を容易に除去できる表面処理剤及び該有機分子による表面処理方法並びに抗菌処理した基体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、抗菌処理・加工商品に関する市場は広がりをみせている。高い抗菌効果のある処理方法に加え、水洗のみで容易に汚れや菌体を除去できる加工方法についても開発が行われており、容易に洗浄しやすい部材としては、特許文献1があげられる。この特許文献1は、撥水性を示すフルオロアルキル基とエチレンオキサイドで構成される親水性含有分子による表面修飾による防汚表面と水により容易に洗浄しやすい部材を開示している。このように、水洗で容易に菌体を除去できる材料があれば、大きな市場が見込まれる。
【0003】
しかし、住環境に存在する菌には様々な種類のものがあり、抗菌処理や抗菌加工がすべての菌に効果があるとは限らない。また、強固に基体表面に接着した菌の除去は困難である。多くの菌に対して、抗菌効果があるものも開発されているが、その場合は、人や環境にも毒性が強いケースが多く、また人体に対してアレルゲンとして作用する可能性がある。
【0004】
例えば、近年、抗菌効果のある金属、例えば、銀・銅・亜鉛などを用いた抗菌加工方法が開発されている。例えば、下記特許文献2には、抗菌性金属成分と該抗菌性金属成分以外の無機酸化物とから構成されるコロイド微粒子の表面が高分子化合物で修飾された抗菌性無機酸化物コロイド微粒子からなる抗菌剤が開示されている。
【0005】
また、下記特許文献3には、撥水性を示すパーフロロアルキル基含有分子による表面修飾と抗菌効果のある金属(銀・銅・亜鉛など)化合物の組み合わせによる、汚れの付着しにくい表面構造加工が開示されている。この特許文献3は、水での洗浄が前提となるものである。
【0006】
また、下記特許文献4には、銅を含むオーステナイト系ステンレス鋼による抗菌表面が開示されている。しかし、前記特許文献2、3、4については、人体に有害な物質(銅など)が含まれている。このような場合には、人体に接触することで、金属アレルギーを引き起こす事例が報告されている。
【0007】
光触媒効果がある酸化チタン(特許文献5、特許文献6)は、抗菌性に加えて、汚れの分解、浄化作用などの効果があり、半永久的な効果が期待できる。例えば、特許文献5には、光半導体である酸化チタン上に表面修飾基(反応性シリコーン、反応性フッ素化合物、水及び/又は水酸基)を結合させた表面修飾法が開示され、撥水性・撥油性・抗菌性・帯電防止に効果があるという記載がある。
【0008】
また、特許文献6には、光触媒である酸化チタニアを用いた自己洗浄効果のある表面をもつ材料が開示されている。しかし、上記特許文献5、特許文献6は、粉塵の吸引が肺に影響を与える可能性などが懸念されるなど、安全性については、検討が必要である。以上のように、容易に菌体を除去でき人体や環境に無害・無毒であることが重要である。
【0009】
この他、本願発明には直接関係しないが、参考までに特許文献7を挙げる。これはシラン化合物によるガラス質ゾルと、抗菌性可溶性ガラスと、アルコールとよりなるコート液であって、前記ガラス質ゾルが、アミノ基を含むシラン化合物とホウ素化合物よりなる高分子物質組成物並びに、合成樹脂成分とより成る、便器表面にコートされて常温で自然に放置した状態でゲル化して抗菌性可溶性ガラスを固定し、微生物の増殖を抑制して尿石汚れ及びアンモニア臭を予防する技術を開示する。
【0010】
また、本願発明には直接関係しないが、参考までに特許文献8を挙げる。これは、親水・撥油・水中撥油性並びにその長期持続性に優れた防汚膜を形成する含フッ素共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2010−229270号公報
【特許文献2】特開2002−080303号公報
【特許文献3】特開2000−232948号公報
【特許文献4】特開平11−350089号公報
【特許文献5】特開2001−214150号公報
【特許文献6】特開平11−153701号公報
【特許文献7】特開2008−308437号公報
【特許文献8】特開2010-24351号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は、個々の種類の菌において菌の表面への強固な付着を妨げ、官能基の組み合わせにより、様々な菌に対して洗浄により、容易に菌体を除去できる表面を作製するものである。本明細書における「洗浄」には、水洗、アルコール洗浄、有機溶剤による洗浄、不活性ガスによる洗浄を含む。さらに、官能基による水などの液体との親和性の制御や母材との組み合わせによる新たな機能の付与も可能である。したがって、本発明課題では用いられる環境・場所に存在する菌に対応した抗菌技術を提供するものである。本明細書における「菌」又は「菌体」等の語は、微生物一般を意味し、それには細菌、カビ、酵母類等が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、本発明者らは鋭意研究を行った結果、下記の発明を提供するものである。
【0014】
1)基体表面に、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)mOCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、又は上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾することを特徴とする洗浄により菌体を除去できる表面処理剤。上記nが11〜18の整数の場合、及び上記mが3〜6の整数の場合に、洗浄による菌体の除去に、より有効である。
【0015】
2)金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料、これらの複合体若しくは積層体からなる基体、又はこれらの表面に金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料の被覆層を施した基体表面に適用することを特徴とする上記1)記載の表面処理剤。
【0016】
3)基体表面に、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、又は上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾することを特徴とする表面処理方法。上記nが11〜18の整数の場合、及び上記mが3〜6の整数の場合に、洗浄による菌体の除去に、より有効である。
【0017】
4)前記有機分子による表面修飾により自己組織化膜とすることを特徴とする上記3)記載の表面処理方法。本明細書における「自己組織化膜」の語は、有機分子が基体表面に化学吸着し、さらに、有機分子同士の相互作用により形成された均一な分子薄膜を示す。
【0018】
5)前記有機分子の末端基の制御により、菌の種類に応じて、菌体の付着を抑制することを特徴とする上記3)又は4)記載の表面処理方法。
【0019】
6)金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料、これらの複合体若しくは積層体からなる基体、又はこれらの表面に金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料の被覆層を施した基体表面に適用することを特徴とする上記3)〜5)のいずれか一項に記載の表面処理方法。
【0020】
7)基体表面に、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、又は上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾したことを特徴とする抗菌処理した基体。
上記nが11〜18の整数の場合、及び上記mが3〜6の整数の場合に、洗浄による菌体の除去に、より有効である。
【0021】
8)前記有機分子による表面修飾により自己組織化膜としたことを特徴とする上記7)記載の抗菌処理した基体。
【0022】
9)前記有機分子の末端基の制御により、菌の種類に応じて、菌体の付着を抑制したことを特徴とする上記7)又は8)記載の抗菌処理した基体。
【0023】
10)金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料、これらの複合体若しくは積層体からなる基体、又はこれらの表面に金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料の被覆層を施した基体表面に適用したことを特徴とする上記7)〜9)のいずれか一項に記載の抗菌処理した基体。
【発明の効果】
【0024】
本発明は、個々の種類の菌において菌の表面への強固な付着を妨げ、官能基の組み合わせにより、様々な菌に対して洗浄により、容易に菌体を除去できる効果を有する。また、官能基による水などの液体との親和性の制御や母材との組み合わせによる新たな機能の付与も可能である。本発明は人体に有害な物質が存在せず、用いられる環境・場所に存在する菌に対応した抗菌技術を提供することができる。また、有機分子の末端基の制御のみで菌の付着を防ぎ、容易に菌体を除去できる効果を発現させることができる。したがって、従来技術より少ない工程であり、コストから見ても有効である。
さらに、菌によって表面認識に違いがあることから、用いる環境・場所に応じて、適切な末端基の組み合わせにより、必要に応じた菌への抗菌効果が期待できる。また、相乗して新たな機能の付与も期待できるという多くの効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】本願発明の表面処理剤を用いて、分子末端基制御による抗菌効果を発現する様子を示す模式図である。
図2】表面処理剤により分子修飾された金基板表面の模式図である。
図3】未修飾の金基板上で菌が発生した様子を示す。左図は洗浄前、中央図は水浸後、右図は水洗後の基板表面の様子を示す図である。
図4】HS(CH11(OCHCHOCHにより修飾した金基板上で菌が発生した様子を示す。左図は洗浄前、中央図は水浸後、右図は水洗後の基板表面の様子を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の水洗により菌体を除去できる表面処理剤は、基体表面に、一般式X−(CH)n−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、又は上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾するものである。該表面修飾は浸漬法、気相法、スプレー法等により行うことができる。浸漬法は、表面処理剤の水溶液又は有機溶液に基体を浸漬する方法を示す。気相法は、表面処理剤と基体を密閉空間に封入し、温度や圧力の制御により、気化した表面処理剤により表面修飾を行う方法である。表面処理剤のスプレー法は表面処理剤の水溶液又は有機溶液を基体表面に噴霧する方法である。
【0027】
本発明の水洗により菌体を除去できる表面処理剤は、上記特許文献1とは発明の構成が明確に異なるので、念のため説明する。すなわち、シリコーン樹脂の組成物としてエチレンオキサイドが含まれているが、本発明と特許文献1とは、エチレングリコールの構造が異なること。また、特許文献1は、エチレンオキサイドで構成される親水性基の効果としては、汚れを浮き上がらせて容易に除去することが目的である。これに対して、本願発明は、菌を付着しにくくし、容易に洗い流せる効果を持たせたものであり、作用・効果が明確に異なるものである。
【0028】
nを上記範囲にした理由は、前記有機分子のアルキル鎖に含まれるメチル基の数nが上記範囲の場合に、均一な分子膜を形成することができるためである。また、XをSH、SiCl3、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CHから選択した一種以上の物質とした理由は、基板と結合可能な官能基であるためである。また、Yは(−O−CH−CH−)OCH(mは3〜70の整数)]の中で、mを上記範囲とした理由は、mが20〜70のポリエチレングリコールでも効果が現れるからであり、mが3〜6の場合に、特に多くの菌体に効果がある。
【0029】
本発明の洗浄により菌体を除去できる表面処理剤を適用できる基体の代表的なものとしては、金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料、これらの複合体若しくは積層体、これらの表面に金属、半導体、酸化物等のセラミックス、高分子有機材料の被覆層を施した基体を挙げることができる。人体に対して有害物質を含んでいないので、卑近な例としては、浴槽、浴室の抗菌、洗面台、洗面所の抗菌、台所の水回り、建材、農業資材、医療機械、食品機械、家庭用電化製品の抗菌に使用できる。その他、水で洗浄によりし、菌を洗い流す目的に利用する材料については、全て適用することが可能であり、用途については、特に制限がない。
【0030】
本発明の洗浄により菌体を除去できる表面処理剤を用いた表面処理方法は、基体表面に、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、あるいは、上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾するものである。該表面処理により、基体表面に菌体が付着しても、その後洗浄により菌体を除去することができる。上記nが11〜18の整数の場合、及び上記mが3〜6の整数の場合に、洗浄による菌体の除去に、より有効である。
【0031】
前記有機分子により表面修飾するものである。そして、前記有機分子の末端基の制御により、菌の種類に応じて、菌体の付着を抑制することができる。
図1に本願発明の表面処理剤を用いて、分子末端基制御による抗菌効果を発現する様子を示す。最下層は基板、すなわち本願で言う基体であり、その上に本願発明の表面処理剤があり、さらにその上に菌が存在し、この菌が本願発明の表面処理剤と共に、洗浄で洗い流すことができる。
【0032】
上記処理の結果、本願発明は、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH、あるいは(−O−CH−CH−)OH(mは3〜70の整数)]で表わされる有機分子、あるいは、上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾し、抗菌処理した基体を提供することができる。
【実施例】
【0033】
以下、実施例および比較例に基づいて説明する。なお、本実施例はあくまで一例であり、この例によって何ら制限されるものではない。すなわち、本発明は特許請求の範囲によってのみ制限されるものであり、本発明に含まれる実施例以外の種々の変形を包含するものである。
【0034】
(実施例1、比較例1)
金属基板である金表面上においてエチレングリコールを含む分子及びエチレングリコールを含まない自己組織化膜の形成を行った。有機硫黄化合物の一種である以下の構造式で表せる分子(HS(CH11(OCHCHOCH、HS(CH11(OCHCHOH、HS(CH11(OCHCHOCH、HS(CH15CH、HS(CH16OH、以後それぞれ、S(EG3)OMe、S(EG3)OH、S(EG6)OMe、S(C15)Me、S(C16)OHと略す)をエタノール中に1〜2mMの濃度に希釈した溶液中に金基板を24時間浸漬し、自己組織化膜を生成させた。自己組織化膜生成による表面修飾後の基板表面の模式図を図2に示す。
【0035】
自己組織化膜を生成させた金基板、および、比較として、自己組織化膜を生成させていない金基板上で胞子を含む菌体を24時間以上、室温にて培養し、菌体の基板表面への接着を顕微鏡下で観察した。用いた菌は子嚢菌、担子菌、酵母を含む糸状菌類(Alternaria 属菌、Aspergillus 属菌、Bipolaris 属菌、Cladpsporium 属菌、Colletotoricum 属菌、Fusarium 属菌、Magnaporthe 属菌、Penicillium 属菌、Trichoderma 属菌、および、Rhodotorula 属菌)である。各菌の胞子発芽および菌体接着が促進される条件を考慮して、Alternaria 属菌、Bipolaris 属菌、Magnaporthe 属菌、Rhodotorula 属菌の培養には滅菌水を用い、その他の菌の培養には0.05%Yeat extract、1%Glucose、0.1M NaClを含む液体培地(0.1YGS)を用いた。
【0036】
EGを含むS(EG3)OMe、S(EG3)OH、S(EG6)OMeを修飾した表面においては、いずれの菌においても菌の生育は認められたが、菌の生育している基板を水に5秒間浸ける(水浸)、もしくは水をかけて洗浄を行った結果(水洗)、菌は基板表面から流れ落ち、表面への接着は認められなかった。以下、実施例及び比較例中の記載において「水洗」とは、口径1.8cmの水道の蛇口を半分ふさぎ、10リットル/1分の水を32cm下のサンプルに5秒間以下あてて洗浄することとする。
【0037】
この結果を、表1、図3(比較例1)、図4(実施例1)に示す。なお、図3図4のいずれも、左図は菌が発生した様子を示し、中央図は水浸後、右図は水洗後の基板表面の様子を示す。図3に示すように、未修飾金基板上で水浸もしくは水洗により除去できない菌であっても、図4に示すように、S(EG3)OMe、S(EG3)OH、S(EG6)OMeを適用した場合には、水浸もしくは水洗後に用いたすべての菌が除去されていた。表1に、金基板を用いた場合の、表面処理剤の種類と表面修飾によりもたらされる抗菌効果を示す。
【0038】
【表1】
【0039】
一方、EGを含まないS(C15)Me、S(C16)OH、及び、自己組織化膜を生成させていない金基板において(比較例1)は、図3に示すように、一部の菌においてのみ、水洗による菌体の除去が可能であったが、多くの菌において、水洗後も菌体が表面に残っていることがわかり、エチレングリコールを含む分子(S(EG3)OMe、S(EG3)OH、S(EG6)OMe)において、効果が現れることが明らかであった。
【0040】
(実施例2)
基板の違いによる影響の確認のため、酸化物基板であるガラス表面上、及び半導体基板であるSi表面上においてエチレングリコールを含む分子を用いた自己組織化膜の形成を行った。
【0041】
有機シラン化合物の一種である以下の構造式で表せる分子((CHSiCl(CH11(OCHCHOCH、以後、Si(EG6)OMeと略す)をヘキサデカン中に1〜2mMの濃度に希釈した溶液中に洗浄したSi基板及びガラス基板を24時間浸漬し、自己組織化膜を生成させた。
【0042】
自己組織化膜を生成させた基板上で菌体を24時間以上培養し、菌体の基板表面への接着を顕微鏡下で観察した。用いた菌及び培養条件は、前記段落[0035]に記載した通りである。いずれの菌においてもガラス表面上、及び半導体基板であるSi表面上において菌の生育が認められた。この結果、水浸もしくは水洗を行った結果、用いたすべての菌はいずれの基板表面からも流れ落ち、水洗後の表面への接着は認められなかった。
【0043】
これらの結果を表2、表3に示す。表2はガラス基板を用いた場合の、表面処理剤の種類と表面修飾によりもたらされる抗菌効果を示し、表3はSi基板を用いた場合の、表面処理剤の種類と表面修飾によりもたらされる抗菌効果を示している。
【0044】
【表2】
【0045】
【表3】
【0046】
(実施例3)
基板の違いによる影響の確認のため、ステンレス(SUS304)上においてにおいてエチレングリコールを含む分子を用いた自己組織化膜の形成を行った。有機シラン化合物の一種である以下の構造式で表せる分子((CHSiCl(CH11(OCHCHOCH、以後、Si(EG3)OMeと略す)をヘキサデカン中に1〜2mMの濃度に希釈した溶液中に洗浄したステンレス基板を24時間浸漬し、自己組織化膜を生成させた。
【0047】
自己組織化膜を生成させた基板上で菌体を24時間以上培養し、菌体の基板表面への接着を顕微鏡下で観察した。用いた菌及び培養条件は、前記段落[0035]に記載した通りである。いずれの菌においてもステンレス(SUS304)上において菌の生育が認められた。
【0048】
水浸もしくは水洗を行った結果、1菌を除く用いた全ての菌がステンレス基板表面から流れ落ち、水洗後の表面への接着は認められなかった。以上より、基板によらず、エチレングリコールを含む分子で表面を修飾することで、菌の付着を防ぎ、水洗により容易に菌体を除去できる効果を発現できることが明らかになった。
【0049】
この結果を、表4に示す。すなわち、表4はステンレス基板を用いた場合の、表面処理剤の種類と表面修飾によりもたらされる抗菌効果を示している。また、エチレングリコールを含む分子で表面を修飾することにより、特に子嚢菌、担子菌、酵母を含む糸状菌類に広く抗菌効果を発揮することが示された。
【0050】
【表4】
【0051】
以上については、実施例1、実施例2及び実施例3の例での確認であるが、一般式X−(CH−Y[式中、nは3〜22の整数、XはSH、SiCl、Si(OCH、Si(OCHCH、SiCl(CH、P(O)(OH)から選択した一種以上の官能基、Yは(−O−CH−CH−)OCH(mは3〜70の整数)、あるいは(−O−CH−CH−)OH(pは0〜70の整数)]で表わされる有機分子、又は上記の分子の組み合わせを用いて表面を修飾した場合においては、いずれも成長した菌体が水洗により除去が可能であったことを確認している。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明は、個々の種類の菌において菌の表面への強固な付着を妨げ、官能基の組み合わせにより、様々な菌に対して洗浄により、容易に菌体を除去できる効果を有する。また、官能基による水などの液体との親和性の制御や母材との組み合わせによる新たな機能の付与も可能である。本発明は人体に有害な物質が存在せず、用いられる環境・場所に存在する菌に対応した抗菌技術を提供することができる。また、有機分子の末端基の制御のみで菌の付着を防ぎ、容易に菌体を除去できる効果を発現させることができる。
【0053】
さらに、菌によって表面への接着条件、接着程度に違いがあることから、用いる環境・場所に応じて、適切な末端基の組み合わせにより、必要に応じた菌への抗菌効果が期待できる。また、相乗して新たな機能の付与も期待できるという多くの効果を有するので、浴槽、浴室の洗浄、洗面台、洗面所の洗浄、台所の水回り、建材、農業資材、医療機械、食品機械、家庭用電化製品の抗菌に使用でき、洗浄効果を必要とする機器に有用である。
図1
図2
図3
図4