(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
加熱されることにより、前記流路中を前記流体が流れる状態とする開状態から、前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形するノーマリーオープン・バルブである請求項1に記載のバルブ。
加熱されることにより、前記流路中の前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態から、前記流体が流れる状態とする開状態へと変形するノーマリークローズ・バルブである請求項1に記載のバルブ。
加熱されることにより、前記流路中の前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態から、前記流体が流れる状態とする開状態へと変形するノーマリークローズ・バルブ、及び加熱されることにより、前記流路中を前記流体が流れる状態とする開状態から、前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形するノーマリーオープン・バルブが、直列的に配設されてなる直列バルブである請求項1に記載のバルブ。
前記形状記憶ポリマーの少なくとも一部分の温度を変化させることによって、前記開状態及び前記閉状態を制御する手段を備えた請求項10〜12のいずれか一項に記載の流体デバイス。
加熱条件を制御することにより前記形状記憶ポリマーの変形量を制御し、前記流路中の流体の流量を制御する加熱手段を備えた請求項10〜13のいずれか一項に記載の流体デバイス。
形状記憶ポリマーからなるシートに、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で成形加工若しくは機械加工により、第1の凹部を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記第1の凹部に外力を加えて前記第1の凹部を平坦にし、前記シート上に、ノーマリークローズ・バルブを成形する工程、及び/又は、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて、第2の凹部を設け、前記シート上に、ノーマリーオープン・バルブを成形する工程を有し、
前記形状記憶ポリマーからなるシートと流路形成層とが積層されることにより形成され、幅が0.01μm〜100mmであり深さが0.01μmから100mmである流路用であり、
前記形状記憶ポリマーの少なくとも一部分が前記流路の少なくとも一部を形成する、バルブシートの製造方法。
形状記憶ポリマーからなるシートに、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で成形加工若しくは機械加工により、第1の貫通孔を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記第1の貫通孔に外力を加えて前記第1の貫通孔を平坦にし、前記シート上に、ノーマリークローズ・バルブを成形する工程、及び/又は、
前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて、第2の貫通孔を設け、前記シート上に、ノーマリーオープン・バルブを成形する工程を有することを特徴とするバルブシートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪バルブ≫
本発明のバルブは、流路に配設された形状記憶ポリマーからなるバルブであって、変形することにより、前記流路中の流体の流れを調節する。
【0013】
形状記憶ポリマーとは、成形加工後に外力を加えて変形しても、ある温度以上に加熱すると元の形状に回復するポリマーであり、ある温度(以下、形状回復温度)以上で流動性を帯びる可逆相と、可逆相が変形する温度では変形を生じない物理的又は化学的結合部位(架橋点)からなる固定相から構成されている。
図1に示すように、形状記憶ポリマーは、成形加工又は機械加工により形成した形状を樹脂中の固定相により記憶し、形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下において、記憶した形状を自由な形状に変形させることができる。そして、この変形させた状態を維持したまま形状回復温度未満の温度に冷却することで、この変形を固定することができる。この形状回復温度未満の温度に冷却して加えた変形を固定させたものを、形状回復温度以上で融点未満の温度に加熱することにより、成形加工又は機械加工により形成した形状が復元される。
【0014】
本発明においては、成形加工又は機械加工により、形状記憶ポリマーからバルブを成形する。バルブは、流路中を流体が流れる状態とする開状態、又は流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態に成形される。
更に、該形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度で、このバルブに変形を加えた後、形状回復温度未満の温度に冷却して変形を固定させる。この変形は、開状態のバルブを閉状態とする変形か、閉状態のバルブを開状態とする変形である。
このように変形の加えられたバルブを流路に配設する。変形の加えられたバルブの形状が、開状態である場合には、バルブ配設後、流路中を流体が自由に流れる。変形の加えられたバルブの形状が、閉状態である場合には、バルブ配設後、流路中の流体の流れは堰き止められている。
次いで、該バルブを形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度で加熱することにより、バルブ成形時の形状が復元する。開状態となるように変形の加えられたバルブは、加熱されることにより閉状態となり、流路中の流体の流れは堰き止められる。閉状態となるように変形の加えられたバルブは、加熱されることにより開状態となり、流路中を流体が自由に流れるようになる。
このように、本発明によれば、形状記憶ポリマーからなるバルブを流路に配設することにより、流路中の流体の流れを自在に制御することができる。
また、本発明によるバルブは、形状記憶ポリマーの少なくとも一部分が流路の少なくとも一部を形成しているため、簡便に低コストで製造でき、簡便かつ自在に開状態や閉状態を制御することができる。また、本発明のバルブは、加熱などの温度変化によって、流路中を流体が流れる状態とする開状態、又は流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態、に変形可能である。
以下、本発明のバルブの好ましい実施形態について説明するが、これらの実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために一例として説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。
【0015】
<マイクロバルブ>
本実施形態のバルブは、マイクロ流体デバイス(流体デバイス)に好適に用いられるマイクロバルブである。該マイクロバルブとしては、ノーマリーオープン・バルブ、ノーマリークローズ・バルブ、又はこれらを直列に配設してなる直列バルブが挙げられる。なお、本実施形態におけるマイクロ流体デバイスはマイクロメートルスケールであっても、ミリメートルスケールであってもよい。
以下、各マイクロバルブの詳細について説明する。
【0016】
[ノーマリーオープン・バルブ]
図2は、本発明のバルブの第1実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のバルブは、加熱されることにより、流路2中を流体が流れる状態とする開状態から、前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形するノーマリーオープン・バルブ4である。
【0017】
(凹型形状)
図2に示すように、流路2は、流路形成層1とシート3とが積層されることにより形成される。
尚、
図2においては、シート3の上に流路形成層1が積層され流路2が形成されているが、これらの上下関係は問わず、流路形成層の上にシートが積層され、この積層により流路が形成されていてもよい。
流路形成層1は、堰1aを有しており、堰1aによって流路2中の流体の流れが堰き止められている。これに対し、ノーマリーオープン・バルブ4は、定常状態においては、堰1aによって堰き止められた流体を迂回させるためのバイパスとしての流路(バイパス路)として機能する。
形状記憶ポリマーからなるシート3は、その形成時に、平坦の形状を記憶している。
図2において、ノーマリーオープン・バルブ4は、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、外力を加えることにより、凹型形状に成形されている。
ノーマリーオープン・バルブ4は、加熱前は、流体の流れが堰き止められた閉状態をバイパスするための形状を有し、流路2を流体が流れる状態とする開状態にある。ここで、
図2において、ノーマリーオープン・バルブ4の開状態とは、閉状態をバイパスするための凹型形状を有する状態である。即ち、ノーマリーオープン・バルブ4は、定常状態では、凹型形状の開状態にある。
そして、加熱後は、シート3が平坦形状に復元することにより、流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形する。
【0018】
(貫通型形状)
また、
図3に示されるように、ノーマリーオープン・バルブ4の開状態とは、閉状態をバイパスするための貫通型形状を有する状態であってもよい。
図3において、ノーマリーオープン・バルブ4は、形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、外力を加えることにより、貫通型形状に成形されている。即ち、ノーマリーオープン・バルブ4は、定常状態では、貫通型形状の開状態にある。
そして、加熱後は、シート3が平坦形状に復元することにより、ノーマリーオープン・バルブ4は、流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形する。
【0019】
ノーマリーオープン・バルブ4を構成する形状記憶ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、形状記憶性を有するエラストマー等の高分子材料を挙げることができる。
形状記憶性を有するエラストマーの具体例としては、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリノルボルネン、スチレン−ブタジエン共重合体;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、メラニン樹脂;ポリカプロラクトン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド;等のポリマーを、例えば有機過酸化物、過酸化ベンゾイルといった過酸化物を使用した熱による化学的架橋手法によって架橋されたものが挙げられる。
【0020】
[ノーマリークローズ・バルブ]
図4は、本発明のバルブの第2実施形態を示す概略断面図である。本実施形態のバルブは、加熱されることにより、流路12中の流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態から、前記流体が流れる状態とする開状態へと変形するノーマリークローズ・バルブ5である。
【0021】
(凹型形状バルブ)
図4に示すように、流路12は、流路形成層1とシート13とが積層されることにより形成される。尚、本実施形態においても、シートと流路形成層との上下関係は問わない。
流路形成層1は、堰1aを有しており、堰1aによって流路12中の流体の流れが堰き止められている。これに対し、ノーマリークローズ・バルブ5は、定常状態においては、平坦の形状を有しており、流体の流れが堰き止められた状態となっている。
形状記憶ポリマーからなるシート13は、その形成時に、凹型形状を記憶している。
図4において、ノーマリークローズ・バルブ5は、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、外力を加えることにより、平坦の形状に成形されている。
ノーマリークローズ・バルブ5は、加熱後は、流体の流れが堰き止められた閉状態をバイパスするための形状を有し、流路12を流体が流れる状態とする開状態にある。ここで、
図4において、ノーマリークローズ・バルブ5の開状態とは、閉状態をバイパスするための凹型形状を有する状態である。
よって、加熱後は、シート13が凹型形状に復元することにより、ノーマリークローズ・バルブ5は、流路中を流体が流れる状態とする開状態へと変形する。
【0022】
(貫通型形状バルブ)
また、
図5に示されるように、ノーマリークローズ・バルブ5の開状態とは、閉状態をバイパスするための貫通型形状を有する状態であってもよい。
図5において、ノーマリークローズ・バルブ5は、形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、外力を加えることにより、平坦の形状に成形されている。即ち、ノーマリークローズ・バルブ5は、定常状態では、平坦の形状の閉状態にある。
そして、加熱後は、シート3が貫通型形状に復元することにより、ノーマリークローズ・バルブ5は、流体が流れる状態とする開状態へと変形する。
【0023】
ノーマリークローズ・バルブ5を構成する形状記憶ポリマーとしては、ノーマリーオープン・バルブ4を構成する形状記憶ポリマーと同様のものを挙げることができる。
【0024】
[直列バルブ]
図6は、本発明のバルブの第3実施形態を示す概略断面図である。例えば、本実施形態のバルブは、ノーマリークローズ・バルブ24及びノーマリーオープン・バルブ25が、流路22の上流から、この順に配設されてなる直列バルブ6である。また、本実施形態のバルブは、ノーマリークローズ・バルブ24及びノーマリーオープン・バルブ25が、流路22に沿って直列的に配置されている直列バルブである。尚、本実施形態のバルブは、ノーマリーオープン・バルブ25及びノーマリークローズ・バルブ24が、流路22の上流から、この順に配設されている直列バルブであってもよい。
【0025】
本実施形態においては、ノーマリークローズ・バルブ24及びノーマリーオープン・バルブ25の開状態が、ともに凹型形状である場合について説明するが、ともに貫通型形状であってもよく、または、凹型形状及び貫通型形状の組合せであってもよい。
図6に示すように、流路22は、流路形成層21とシート23とが積層されることにより形成される。尚、本実施形態においても、シートと流路形成層との上下関係は問わない。
流路形成層21は、堰21b及び堰21cを上流側からこの順に有しており、それぞれの堰に対応するバルブとして、ノーマリークローズ・バルブ24及びノーマリーオープン・バルブ25がそれぞれ堰21b及び堰21cの直下に設けられている。
流体の流れは、先ず、流路22の上流側に位置する堰21bによって、堰き止められている。ノーマリークローズ・バルブ24は、定常状態においては、平坦の形状を有しており、流体の流れが堰き止められたままとなっている。従って、直列バルブ6は全体として閉状態にある。
次いで、シート23において、ノーマリークローズ・バルブ24が設けられている箇所の流路形成層21と接しない側を加熱することにより、ノーマリークローズ・バルブ24は、流体が流れる状態とする開状態へと変形する。堰21bを迂回した流体は、ノーマリーオープン・バルブ25が開状態であることにより、下流側に位置する堰21cをさらに迂回することができる。従って、直列バルブ6は全体として開状態にある。
次いで、シート23において、ノーマリーオープン・バルブ25が設けられている箇所の流路形成層21と接しない側を加熱することにより、ノーマリーオープン・バルブ25は、流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形する。これにより、堰21bを迂回した流体の流れは、ノーマリーオープン・バルブ25が閉状態に変化することにより、堰21cによって堰き止められる。従って、直列バルブ6は全体として閉状態にある。
形状記憶ポリマーの性質上、形状記憶ポリマーからなるバルブは、開閉状態の変化が付加逆的であるものと一般的に考えられているが、本実施形態のバルブによれば、閉状態から開状態へ、さらに開状態から閉状態へと変形し、流体の流れを柔軟に制御することができる。
【0026】
これら本実施形態のバルブによれば、形状記憶ポリマーからなるシートに形状を記憶させておくだけで簡便にかつ低コストで製造でき、加熱操作(温度操作)を行うだけで、流体の流れを簡便かつ自在に制御することができる。
【0027】
<マイクロ構造体>
本実施形態のマイクロ構造体は、流路に配設された形状記憶ポリマーからなる。該形状記憶ポリマーの形としては特に限定されず、上述したノーマリーオープン・バルブ、ノーマリークローズ・バルブ、直列バルブ等であってもよい。本実施形態のマイクロ構造体は、上述したノーマリーオープン・バルブ、ノーマリークローズ・バルブ、直列バルブ等と同様の成型方法で成型することができる。本実施形態のマイクロ構造体は、これらのバルブを適度に加熱することにより、例えば、ノーマリーオープン・バルブを一部閉状態としたもの、又はノーマリークローズ・バルブを一部開状態としたものからなることが好ましい。このように、
図7(a)に示すように、バルブを種々「半開き」の状態にすることにより、流路の幅及び深さを制限し、流体の流れを自在に選択的に制御することができる。
本実施形態のマイクロ構造体によれば、マイクロ流体デバイス中に別途ゲルろ過カラム装置等を設けずとも、
図7(b)に示すように、流体中の所望の大きさの分子を選別することができる。例えば、本実施形態の構造体によれば、血液中の赤血球とCirculating tumor cell(CTC;血中循環がん細胞)を大きさで選別することができる。また、
図7(c)に示すように、複数のマイクロ構造体を流路に配設した場合に、マイクロ構造体間の距離をあらかじめ調整することによって、液体中の所望の大きさの分子の選別をすることができる。
また、本実施形態のマイクロ構造体によれば、工程に応じてマイクロ構造体の変形量を制御することで、流体の流れを自在に選択的に制御することができる。一例として、
図7(d)に示すように、マイクロ構造体によって流体中の所望の大きさの分子を選別して一時的にせき止め、その後マイクロ構造体を加熱などによって完全に開状態にすることで、せき止めていた分子を流すことができる。
このように、本実施形態におけるマイクロ構造体は、その構造体の変形量を選択的に制御することによって、流路中におけるフィルターとして機能させることが可能である。
【0028】
上述した様に、本実施形態の流体デバイス中の流路は、流路形成層とシートとが積層されることにより形成される。
先ず、バルブシート及び流路形成層について説明する。
【0029】
[バルブシート]
本実施形態のバルブシートは、形状記憶ポリマーからなるバルブが配列されたバルブシートであって、前記バルブは、加熱されることにより、流路中を流体が流れる状態とする開状態から、前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形するノーマリーオープン・バルブ、加熱されることにより、流路中の流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態から、前記流体が流れる状態とする開状態へと変形するノーマリークローズ・バルブ、並びに、前記ノーマリークローズ・バルブ及び前記ノーマリーオープン・バルブが、直列的に配設されてなる直列バルブからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
図8は、本実施形態のバルブシート50の基本構成を示す正面図であり、
図9は、本実施形態のバルブシート50を用いたマイクロ流体デバイス57の基本構成を示す模式図である。
図8に示すように、本実施形態のバルブシート50は、ノーマリーオープン・バルブ51、ノーマリークローズ・バルブ52、及び直列バルブ53が、
図9に示されるマイクロ流体デバイス57に設けられた流路54,55,56中の流体の流れを調節できる位置に配列されている。
図8において、各バルブが制御する流路、及び各バルブを加熱するためのヒーター用配線の対応位置を示してある。
図8においては、これらのバルブを1種類ずつ配列してなるバルブシートを示しているが、配列するバルブの数及び種類については、特に限定されず、対応するマイクロ流路デバイスによって適宜組み合わされる。
本実施形態のバルブシート50の材質としては、シートを構成するバルブが形状記憶ポリマーからなるものであれば、特に限定されないが、簡便に製造できる観点及びバルブの開閉機能を安定に担保する観点からバルブ以外の部分も形状記憶ポリマーであることが好ましい。
バルブシート50の材質としての形状記憶ポリマーとしては、上述したポリウレタン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリノルボルネン、スチレン−ブタジエン共重合体;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、メラニン樹脂;ポリカプロラクトン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド;等のポリマーを、例えば有機過酸化物、過酸化ベンゾイルといった過酸化物を使用した熱による化学的架橋手法によって架橋された形状記憶性を有するエラストマーが挙げられる。
【0030】
[バルブシートの製造方法]
(第1実施形態(凹型形状バルブシートの製造方法))
本実施形態のバルブシートの製造方法は、形状記憶ポリマーからなるシートに、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の凹部を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下で、前記第1の凹部に外力を加えて前記第1の凹部を平坦にし、前記シート上に、ノーマリークローズ・バルブを形成する工程、及び/又は、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて、第2の凹部を設け、前記シート上に、ノーマリーオープン・バルブを形成する工程を有する。
このように、本実施形態のバルブシートの製造方法は、シート上に、ノーマリークローズ・バルブを形成する工程、及び/又は、ノーマリーオープン・バルブを形成する工程を有する。これらの工程は、バルブシートに配列するバルブの数及び種類によって適宜組み合わされる。以下、各工程について説明する。
【0031】
(ノーマリークローズ・バルブの成形工程)
図10に示されるように、ノーマリークローズ・バルブの形成工程において、先ず形状記憶ポリマーからなるシート60に、形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の凹部61を設ける。成形加工としては、射出成形やホットエンボスによる加工が挙げられる。機械加工としては、例えば、エンドミル62による切削加工が挙げられる。シート60は、この第1の凹部61の凹型形状を記憶している。
次いで、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下で、平板の型66を用いて、第1の凹部61に外力を加えて第1の凹部61を平坦にし、シート60上に、ノーマリークローズ・バルブ63を成形する。シート60と流路形成層64を接着(又は接合)することにより、流路65が形成される。
【0032】
(ノーマリーオープン・バルブの成形工程)
図11に示されるように、ノーマリーオープン・バルブの成形工程は、形状記憶ポリマーからなるシート70に、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、凸型形状を有する型76を用いて、シート70に外力を加えて、第2の凹部71を設け、シート70上に、ノーマリーオープン・バルブ73を成形する。シート70は、シート形成時の平坦形状を記憶している。シート70と流路形成層74を接着(又は接合)することにより、流路75が形成される。
【0033】
(第2実施形態(貫通型形状バルブシートの製造方法))
本実施形態のバルブシートの製造方法は、形状記憶ポリマーからなるシートに、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の貫通孔を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下で、前記第1の貫通孔に外力を加えて前記第1の貫通孔を平坦にし、前記シート上に、ノーマリークローズ・バルブを成形する工程、及び/又は、
前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて、第2の貫通孔を設け、前記シート上に、ノーマリーオープン・バルブを成形する工程を有する。
本実施形態のバルブシートの製造方法は、第1の実施形態と同様、シート上に、ノーマリークローズ・バルブを成形する工程、及び/又は、ノーマリーオープン・バルブを成形成する工程を有する。これらの工程は、バルブシートに配列するバルブの数及び種類によって適宜組み合わされる。以下、各工程について説明する。
【0034】
(ノーマリークローズ・バルブの成形工程)
図12に示されるように、ノーマリークローズ・バルブの成形工程は、先ず形状記憶ポリマーからなるシート80に、形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の貫通孔81を成形する。機械加工については、特に限定されず、例えば、エンドミル82による切削加工が挙げられる。シート80は、この第1の貫通孔81の貫通型形状を記憶している。
次いで、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下で、平板の型86を用いての第1の貫通孔81に外力を加えての第1の貫通孔81を平坦にし、シート80上に、ノーマリークローズ・バルブ83を成形する。シート80と流路形成層84を接着(又は接合)することにより、流路85が形成される。
【0035】
(ノーマリーオープン・バルブの成形工程)
図13に示されるように、ノーマリーオープン・バルブの成形工程は、形状記憶ポリマーからなるシート90に、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、棒型形状を有する型96を用いて、シート90に外力を加えて、第2の貫通孔91を設け、シート90上に、ノーマリーオープン・バルブ93を成形する。シート90は、シート形成時の平坦形状を記憶している。シート90と流路形成層94を接着(又は接合)することにより、流路95が形成される。
【0036】
[流路形成層]
次いで、本実施形態に用いられる流路形成層について説明する。この流路形成層は、本実施形態のバルブシートとともに、本実施形態のマイクロ流体デバイスを構成するものである。かかる流路形成層としては特に限定されないが、簡便にマイクロ流体デバイスを製造できる観点から、流路付き樹脂シートであることが好ましい。
【0037】
流路付き樹脂シートの材質としては、ポリイソプレン、ポリブタジエン、ポリクロロプレン、ポリイソブチレン、ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)、ポリウレタン、シリコーンポリマー;ポリ(ビス(フルオロアルコキシ)ホスファゼン)(PNF、Eypel−F)、ポリ(カルボラン−シロキサン)(デキシル(Dexsil))、ポリ(アクリロニトリル−ブタジエン)(ニトリルゴム)、ポリ(1−ブテン)、ポリ(クロロトリフルオロエチレン−ビニリデンフルオリド)コポリマー(Kel−F)、ポリ(エチルビニルエーテル)、ポリ(ビニリデンフルオリド)、ポリ(ビニリデンフルオリド−ヘキサフルオロプロピレン)コポリマー(バイトン(Viton))、ポリビニルクロリド(PVC)のエラストマー組成物、ポリスルホン、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、ポリテトラフルオロエチレン;クロロシラン、メチルシラン、エチルシラン、フェニルシラン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)等が挙げられる。
【0038】
これらの材質からなる樹脂シートに形成される流路の寸法としては、本実施形態のバルブによって、流体の流れを制御し得るものであれば特に限定されないが、例えば以下の寸法が好ましく挙げられる。
幅対深さの比としては0.1:1〜100:1であることが好ましく、1:1〜50:1であることがより好ましく、2:1〜20:1であることが特に好ましく、3:1〜15:1であることが最も好ましい。
流路の幅は、一例として、0.01〜1000μm、0.05〜1000μm、0.2〜500μm、1〜250μm、10〜200μmが挙げられる。また、更に一例として、流路の幅は、0.01〜100mm、0.05〜100mm、0.2〜50mm、1〜25mm、1.5〜15mmが挙げられる。
流路の深さとしては、一例として、0.01〜1000μm、0.05〜500μm、0.2〜250μm、1〜100μm、2〜20μmが挙げられる。また、更に一例として、流路の深さとしては、0.01〜100mm、0.05〜100mm、0.2〜50mm、1〜25mm、1.5〜15mmが挙げられる。
【0039】
<マイクロ流体デバイス>
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、流路に配設された形状記憶ポリマーからなるバルブを備えたマイクロ流体デバイスであって、前記バルブは、加熱されることにより、流路中を流体が流れる状態とする開状態から、前記流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態へと変形するノーマリーオープン・バルブ、加熱されることにより、流路中の流体の流れを堰き止めた状態とする閉状態から、前記流体が流れる状態とする開状態へとノーマリークローズ・バルブ、並びに、前記ノーマリークローズ・バルブ及び前記ノーマリーオープン・バルブが、流路の上流から、この順に直列的に配設されてなる直列バルブからなる群から選ばれる少なくとも一種である。
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、上述したバルブシートと流路形成層を接着(又は接合)することにより形成される。また、本実施形態のマイクロ流体デバイスは、加熱などによって形状記憶ポリマーの少なくとも一部分の温度を変化させ、開状態及び閉状態を制御する手段を備えている。
以下、本実施形態のマイクロ流路デバイスについて説明する。
【0040】
(第1実施形態)
図14は、本実施形態のマイクロ流体デバイス30の基本構成を示す模式図である。
図14に示すように、本実施形態のマイクロ流体デバイス30は、駆動源31、分岐流路32、ノーマリーオープン・バルブ33、ノーマリークローズ・バルブ34、及び直列バルブ35を備えている。分岐流路32は、分岐点37よりも上流側の流路である上流流路36と、分岐点37よりも下流側の流路である下流流路38,39,40と、からなる。
【0041】
駆動源31は、上流流路36に接続されており、所定の押出力で流体を下流側に送るものである。駆動源31としては、シリンジポンプ等が挙げられる。
【0042】
ノーマリーオープン・バルブ33、ノーマリークローズ・バルブ34、及び直列バルブ35は、それぞれ下流流路38,39,40中に設けられ、各流路中の流体の流れを選択的に(局所的に)調節できる位置に配列されている。
本実施形態のマイクロ流体デバイス30は、例えば血液等の検体から核酸等の生体分子を精製する場合の精製試料回収部に用いられる。
駆動源31によって、緩衝液等の駆動液に押し流された検体の溶解液は、上流流路36に存在する図示略のカラム等の精製装置を通り、分岐点37を通過する。検体の溶解液中、最初に分岐点37を通過するものは、不要物質であるため、開状態であるノーマリーオープン・バルブ33が設けられている下流流路38を通り、排出される。次いで、ノーマリーオープン・バルブ33に備え付けられた加熱手段33aによって、ノーマリーオープン・バルブ33は閉状態となる。
次いで、直列バルブ35に備え付けられた加熱手段35aによって、直列バルブ35は開状態となる。検体の溶解液中2番目に分岐点37を通過するものは、下流流路40を通り、第1分画物質として採取される。
次いで、加熱手段35aによって、直列バルブ35は閉状態となり、ノーマリークローズ・バルブ34に備え付けられた加熱手段34aによって、ノーマリークローズ・バルブ34は開状態となる。検体の溶解液中3番目に分岐点37を通過するものは、下流流路39を通り、第2分画物質として採取される。
このように本実施形態のマイクロ流体デバイス30によれば、精製試料回収部において検体溶解液の分画を効率よく行うことができる。
【0043】
ここで、ノーマリーオープン・バルブ33、ノーマリークローズ・バルブ34、及び直列バルブ35に備え付けられた加熱手段33a,34a,35aは、ヒーターによる加熱であってもよく、レーザー光照射による加熱であってもよい。また、加熱手段33a,34a,35aは、電極による加熱であってもよい。
加熱手段33a,34a,35aがレーザー光照射による加熱である場合には、
図15に示されるように、バルブシートの流路形成層に接する面とは反対の面側に光熱変換層140が設けられていることが好ましい。
光熱変換層140は光吸収剤を含むものである。光熱変換層140にレーザー光照射された放射エネルギーは、光吸収剤によって吸収され、熱エネルギーに変換される。発生した熱エネルギーによって、バルブは、加熱されて変形する。即ち、本実施形態のマイクロ流体デバイスは、光吸収剤を用いた加熱手段を備えていることが好ましい。
なお、本実施形態における加熱手段は、例えば、光熱変換層140が設けられているバルブシートに対して、マスクを用いて選択的な(局所的な)レーザー光照射による加熱を行ってもよい。
【0044】
光吸収剤としては、使用する波長の放射エネルギーを吸収するものであることが好ましい。放射エネルギーの波長としては、300〜2000nmが好ましく、300〜1500nmがより好ましい。
光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト粉、鉄、アルミニウム、銅、ニッケル、コバルト、マンガン、クロム、亜鉛、テルル等の微粒子金属粉末;黒色酸化チタンなどの金属酸化物粉末;芳香族ジアミノ系金属錯体、脂肪族ジアミン系金属錯体、芳香族ジチオール系金属錯体、メルカプトフェノール系金属錯体、スクアリリウム系化合物、シアニン系色素、メチン系色素、ナフトキノン系色素、アントラキノン系色素等の染料又は顔料が挙げられる。光熱変換層140は、これらの染料又は顔料と樹脂からなるものであってもよい。光熱変換層140に用いられる樹脂としては、特に限定されず、バルブシートに用いられる形状記憶ポリマーと同じものであってもよい。
また、光熱変換層140は、これらの光吸収剤を、金属蒸着膜を含む膜状の形態としたものであってもよい。
また、
図15には、バルブシートと光熱変換層140とが独立したものとして示されているが、バルブシート自体が、上述した形状記憶ポリマーと光吸収剤からなるものであってもよい。
【0045】
光熱変換層140中の光吸収剤の濃度は、光吸収剤の種類、粒子形態、分散度等によっても異なるが、5〜70体積%であることが好ましい。5体積%以上の濃度の場合、光熱変換層140の発熱によりバルブが効率よく変形する。70体積以下の濃度の場合、光熱変換層の成膜性がよく、バルブシートとの接着効率がよい。
【0046】
光熱変換層の厚さとしては、0.1μm〜5μmであることが好ましい。光熱変換層の厚さが、0.1μmの場合、十分な光吸収を行うために要求される光吸収剤の濃度が高くなりすぎないため、光熱変換層の成膜性がよく、バルブシートとの接着効率がよい。光熱変換層の厚さが、5μm以下の場合、光熱変換層中の光透過率がよいため、発熱効率がよい。
【0047】
加熱手段として電極を備える場合には、加熱条件を制御することにより、形状記憶ポリマーの変化量をより制御できる。一例として電極は、流路の上流から下流に向けて電気抵抗値が減少する構成を有する。
【0048】
(第2実施形態)
図16は、本実施形態のマイクロ流体デバイス141の基本構成を示す模式図である。本実施形態のマイクロ流体デバイス141は、例えば血液等の検体から核酸等の生体分子を精製する場合の精製装置導入部に用いられる。
図16に示すように、本実施形態のバルブシート141は、駆動源146の下流に、4つの液溜部147,148,149,150を有しており、液溜部147,148,149,150には、それぞれ、溶出液、溶解液、洗浄液、液状の検体が溜められている。そして、駆動源146の上流に位置する液溜部151には、駆動液が溜められている。更に、液溜部147,148,149の上流の流路には、それぞれ、ノーマリークローズ・バルブ153、ノーマリーオープン・バルブ154、直列バルブ155が設けられている。駆動源146から押出された駆動液が、これらバルブの開閉により、各バルブの下流に位置する液溜部に溜められている液体を選択的に押出ことにより、各液体が、液溜部147,148,149,150の下流に位置する精製装置152へと選択的に押出される。
【0049】
駆動源146によって、液溜部150に溜められている液状の検体、及び開状態であるノーマリーオープン・バルブ154が上流に設けられている液溜部148に溜められている溶解液が押出され、カラム等で構成される精製装置152を通り、検体中の生体分子が溶解され、精製装置152に捕捉される。次いで、ノーマリーオープン・バルブ154に備え付けられた加熱手段154aによって、ノーマリーオープン・バルブ154は閉状態となり、精製装置152への溶解液の流入が止められる。
次いで、直列バルブ155に備え付けられた加熱手段155aによって、直列バルブ155は開状態となり、液溜部155に溜められている洗浄液が精製装置152へ流入し、精製装置152から不要物が排出される。
次いで、加熱手段155aによって、直列バルブ155は閉状態となり、精製装置152への洗浄液の流入が止められる。
次いで、ノーマリークローズ・バルブ153に備え付けられた加熱手段153aによって、ノーマリークローズ・バルブ153は開状態となり、液溜部147に溜められている溶出液が精製装置152へ流入し、精製試料が精製装置152から溶出される。
このように本実施形態のマイクロ流体デバイス141によれば、生体分子の精製を効率よく行うことができる。
【0050】
(第3実施形態)
図17は、本実施形態のマイクロ流体デバイス241の基本構成を示す模式図である。
図17に示すように、本実施形態のマイクロ流体デバイス241は、第一面に配置されたノーマリーオープン・バルブ242と、第一面と対向した第二面に配置されたノーマリークローズ・バルブ243と、を備えている。そして、本実施形態のマイクロ流体デバイス241において、ノーマリーオープン・バルブ242とノーマリークローズ・バルブ243とが互いに対向して配置されている。
定常状態において、流体は、流路240の下部に形成されたノーマリーオープンバルブ242を介して、堰として機能しているノーマリークローズバルブ243を迂回している。
次いで、ノーマリーオープンバルブ242の下部に備え付けられた加熱手段242aによって、ノーマリーオープンバルブ242は閉状態となり、流体の流れは、ノーマリークローズ・バルブ243によって堰き止められる。
次いで、ノーマリークローズバルブ243の上部に備え付けられた加熱手段243aによって、ノーマリークローズバルブ243は開状態となり、堰き止められていた流体は再び流れ出す。
本実施形態のマイクロ流体デバイス241によれば、全体として開状態から閉状態へ、さらに閉状態から開状態へと変形するバルブを有するため、流体の流れを柔軟に制御することができる。
【0051】
(第4実施形態)
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、流路に配設された形状記憶ポリマーからなる複数のバルブから構成されるポンプを備えたものである。本実施形態においては、
図14における駆動源3や
図16における駆動源146が、上述した本実施形態のノーマリーオープン・バルブ、ノーマリークローズ・バルブ、及び直列バルブからなる群から選ばれる二つ以上からなる。ポンプを構成する複数のバルブの種類は同一でも、異なっていてもよい。
例えば、
図16における液溜部151から流体が常に流れる状態にしてある場合、バルブの開閉状態を制御することにより、複数のバルブは、駆動源(ポンプ)として機能する。
【0052】
(第5実施形態)
本実施形態のマイクロ流体デバイスは、加熱条件を制御することにより前記形状記憶ポリマーの変形量を制御し、前記流路中の流体の流量を制御する加熱手段を備える。加熱条件の例として、時間や熱量が挙げられる。
一例としてマイクロ流路デバイスを構成する流路の幅をミリメートルサイズにすることにより、加熱条件の変化に応じた形状記憶ポリマーの変化量が厳密に制御されたものとなる。
【0053】
[マイクロ流体デバイスの製造方法]
本実施形態のマイクロ流体デバイスの製造方法は、バルブシートと流路形成層からなるマイクロ流路デバイスの製造方法であって、形状記憶ポリマーからなるシートに、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の凹部を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記第1の凹部に外力を加えて前記第1の凹部を平坦にし、前記シート上に、第1のノーマリークローズ・バルブを成形する工程、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて第2の凹部を設け、前記シート上に、第1のノーマリーオープン・バルブを成形する工程、前記形状記憶ポリマーの融点未満の温度下で、成形加工若しくは機械加工により、第1の貫通孔を形成し、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下で、前記第1の貫通孔に外力を加えて前記第1の貫通孔を平坦にし、前記シート上に、第2のノーマリークローズ・バルブを成形する工程、及び、前記形状記憶ポリマーの形状回復温度以上融点未満の温度範囲の温度下で、前記シートに外力を加えて第2の貫通孔を設け、前記シート上に、第2のノーマリーオープン・バルブを成形する工程からなる群から選ばれる少なくとも一工程を有するバルブシートの製造方法によりバルブシートを製造する第1工程と、
前記第1工程において製造されたバルブシートと流路形成層とを積層する第2工程と、を有する。
【0054】
第1工程は、バルブシートの製造工程である。この第1工程は、上述した凹型形状のノーマリークローズ・バルブ(第1のノーマリークローズ・バルブ)の成形工程、貫通型形状のノーマリークローズ・バルブ(第2のノーマリークローズ・バルブ)の成形工程、凹型形状のノーマリーオープン・バルブ(第1のノーマリーオープン・バルブ)の成形工程、及び貫通型形状のノーマリーオープン・バルブ(第2のノーマリーオープン・バルブ)の成形工程からなる群から適宜組み合わせてバルブシートを製造する工程である。
第1工程には、ノーマリークローズ・バルブの成形工程とノーマリーオープン・バルブの成形工程を用いることによって成形することができる直列バルブの形成工程も含まれる。
【0055】
第2工程は、第1工程において製造されたバルブシートと流路形成層とを積層する工程である。流路形成層は、上述した材料を用いて公知の製造方法により成形される。
第2工程において、バルブシートと流路形成層とを積層した後、これらを位置合わせして接合させることが好ましい。係る第1工程及び第2工程を有する製造方法により本実施形態のマイクロ流路デバイスが製造される。
【0056】
本実施形態のマイクロ流路デバイスの製造方法によれば、簡便にかつ低コストでマイクロ流路デバイスを製造することができる。
【0057】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0058】
≪実施例1≫
<デバイス部材の作製>
[PCL(ポリカプロラクトン)シートの作製]
PCL、キシレン、及び過酸化ベンゾイルを40:60:1の重量比で混合して混合液を調製した。この混合液を2枚のガラス板ではさみ、オーブン中で80℃3時間加熱し、架橋した。
2枚のガラス板の内、片方のガラス板のポリマーと接する面の一部に、凸型モールド形状を形成しておき、ポリマー架橋時にシートの一部に凹型形状を記憶させた。
架橋後ガラス板から取り出し、アセトン中でキシレンを除去した後に乾燥させると、一部に凹型形状を有するPCLシートを得た。
【0059】
[ヒーター用配線付きガラス基板の作製]
ガラス基板上にスパッタリングにより、金属薄膜を形成した後、フォトリソグラフィーとウエットエッチングにより、金属薄膜をパターニングすることによりヒーター用配線付きガラス基板を得た。
【0060】
[流路付きPDMS(ポリジメチルシロキサン)シートの作製]
モールド(型)上に架橋前のPDMSポリマーを流し込み、オーブン中で80℃1.5時間加熱し、架橋し、PDMSシートを得た。モールドからPDMSシートを剥がし、PDMSシートに穴をあけ、チューブを接続し、流路付きPDMSシートを得た。
【0061】
<デバイスの作製>
作製したデバイス部材を用いてデバイスを作製した(
図18(a)参照)。
[ホットエンボスによるPCLシートの形状記憶]
ヒーター用配線付きガラス板上に、一部に凹型形状を有するPCLシートを、凹型形状を有する面と反対の面が、ガラス板の表面と接するように、積層し、80℃に加熱することにより、ヒーター用配線付きガラス板にPCLシートを接着した。
次いで、このPCLシートの上に、ホットエンボス用のモールドを設置し、80℃の温度下で、モールドの上から、10kNの力を加え、バルブ(ノーマリーオープン・バルブ、ノーマリークローズ・バルブ)の形状をPCLシート上に形成した(
図18(b)参照)。
このホットエンボス用のモールドは、対応するPCLシートに形成された凹型形状とは異なる位置に、凸型モールド形状を有しており、その他の箇所は平坦状である。
そのため、エンボス加工前にPCLシート上に形成されていた凹型形状は、平らになり、PCLシート上にノーマリークローズ・バルブが形成される。また、ホットエンボス用のモールドが有する凸型モールド形状に対応する箇所に、凹型形状が形成され、PCLシート上にノーマリーオープン・バルブが形成される。
【0062】
[デバイスの組み立て]
PCLシートが接着されたヒーター用配線付きガラス板、及び流路付きPDMSシートに、酸素プラズマ(100W、25Pa)を10sec照射し、PCLシート、及び流路付きPDMSシートの接着面を表面処理した。次いで、PCLシートが接着されたヒーター用配線付きガラス板のPCLシート上に、流路付きPDMSシートを、流路付きPDMSシートの流路が形成されている面と、ヒーター用配線付きガラス板に接着されたPCLシートの表面とが接するように、積層し、PCLシートが接着されたヒーター用配線付きガラス板のPCLシートに、流路付きPDMSシートを接着し、デバイスを組み立てた(
図18(c)参照)。
【0063】
[デバイスの動作確認]
デバイス中のヒーター用配線に10mAの電流を流して、発熱したヒーターにより、ヒーター用配線上のPCLを変形させた。又は、80℃に熱したホットプレート上にデバイスを載せ、PCLを変形させた。
シリンジポンプを用いて、青色色素を含む溶液をデバイスのマイクロ流路に送液し、バルブの開閉状態を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0064】
図19(a)上段は、加熱前の流路及びノーマリーオープン・バルブの断面図を示し、
図19(a)中段及び下段は、加熱前の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示す。
図19(b)上段は、加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの断面図を示し、
図19(b)中段は、ホットプレートによる加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示し、
図19(b)下段は、ヒーターによる加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示す。
図19に示されるように、ノーマリーオープン・バルブは、加熱により閉状態となり、青色色素を含む溶液の流れが堰き止められていることが確認された。
【0065】
図20(a)上段は、加熱前の流路及びノーマリークローズ・バルブの断面図模式図を示し、
図20(a)下段は、加熱前の流路及びノーマリークローズ・バルブの正面図を示す。
図20(b)上段は、加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの断面図を示し、
図20(b)下段は、ヒーターによる加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示す。
図20に示されるように、ノーマリークローズ・バルブは、加熱により開状態となり、青色色素を含む溶液の流れが確認された。
【0066】
≪実施例2≫
ヒーター用配線付きガラス基板に代えて、クロム薄膜層が積層されたガラス基板を用い、このクロム薄膜層にノーマリーオープン・バルブが設けられたPCLシートと、流路付きPDMSシートをこの順に積層した以外は、実施例1と同様の方法で、デバイスを組み立てた。
次いで、
図21(a)上段に示すように、レーザーを用いて、PDMSシートの上から、デバイスのノーマリーオープン・バルブが設けられた領域に、1064nmのレーザー光を10秒間照射し、ノーマリーオープン・バルブを加熱した。
図21(a)下段、
図21(b)下段に示すように、加熱によるノーマリーオープン・バルブの変形を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、ノーマリーオープン・バルブは、加熱により閉状態になっていることが確認された。
【0067】
≪実施例3≫
図22(a)上段に示すように、PCLシートに貫通型形状のノーマリーオープン・バルブを設けた以外は、実施例1と同様の方法で、デバイスを組み立てた。次いで、ヒーターでデバイスを加熱してPCLを変形させた。
図22(a)下段及び
図22(b)下段に示すように、加熱によるノーマリーオープン・バルブの変形を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、ノーマリーオープン・バルブは、加熱により閉状態になっていることが確認された。
【0068】
≪実施例4≫
図23(a)上段に示すように、PCLシートに貫通型形状のノーマリークローズ・バルブを設けた以外は、実施例1と同様の方法で、デバイスを組み立てた。次いで、ヒーターでデバイスを加熱してPCLを変形させた。
図23(a)下段及び
図23(b)下段に示すように、加熱によるノーマリークローズ・バルブの変形を、光学顕微鏡を用いて観察したところ、ノーマリークローズ・バルブは、加熱により開状態になっていることが確認された。
【0069】
≪実施例5≫
流路の幅を2mmにスケールアップするとともに、全体を等比率でスケールアップした以外は、実施例1と同様の方法にてデバイスを作製した。シリンジポンプを用いて、青色色素を含む溶液をデバイスの流路に送液し、バルブの開閉状態を、光学顕微鏡を用いて観察した。
【0070】
図24(a)は、加熱前の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示し、
図24(b)は、加熱後の流路及びノーマリーオープン・バルブの正面図を示す。
図24に示されるように、ノーマリーオープン・バルブは、加熱により閉状態となり、青色色素を含む溶液の流れが堰き止められていることが確認された。
【0071】
≪実施例6≫
実施例5と同様の方法にてデバイスを作製した。シリンジポンプを用いて、蛍光色素(0.05質量%スルフォローダミンB)を含む溶液をデバイスのマイクロ流路に送液し、マイクロヒーターを用いて、流路に0,11,22,44,66,110ジュールの熱量を加えていった。
図25(a)は、ノーマリーオープン・バルブの開状態と閉状態を示す。
図25(a)中、破線円で示す領域の蛍光強度を測定し、熱量を加えていない状態(0ジュール)の蛍光強度を1として、各熱量を加えたときの蛍光強度の比を算出した。結果を
図25(c)に示す。
図25(c)に示すように、加えた熱量に依存して蛍光強度が減少することが確認された。
図25(b)に示すように、流路に加える熱量が0ジュールのとき、ノーマリーオープン・バルブは、開状態であり、流路に加える熱量が22ジュールのとき(NORMALIZED VALVE OPENINGが0.5のとき)、ノーマリーオープン・バルブは、「半開き」状態であり、流路に加える熱量が66ジュールのとき、ノーマリーオープン・バルブは、ほぼ閉状態であった。このように、流路に加える熱量により、流体の流量を制御できることが確認された。
【0072】
以上の結果から、本実施形態によれば、設計の自由度を奪われることなく、容易にバルブを作製することができ、容易に流体の流れを制御できることが明らかである。