(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6322441
(24)【登録日】2018年4月13日
(45)【発行日】2018年5月9日
(54)【発明の名称】ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定方法及び測定装置
(51)【国際特許分類】
G01N 3/20 20060101AFI20180423BHJP
A61F 2/82 20130101ALI20180423BHJP
【FI】
G01N3/20
A61F2/82
【請求項の数】13
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-36754(P2014-36754)
(22)【出願日】2014年2月27日
(65)【公開番号】特開2015-161576(P2015-161576A)
(43)【公開日】2015年9月7日
【審査請求日】2016年9月13日
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001494
【氏名又は名称】前田・鈴木国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】井上 浩太
(72)【発明者】
【氏名】野 静香
(72)【発明者】
【氏名】権 志明
(72)【発明者】
【氏名】品川 裕希
(72)【発明者】
【氏名】田中 靖司
(72)【発明者】
【氏名】伊佐山 浩通
【審査官】
伊藤 幸仙
(56)【参考文献】
【文献】
国際公開第2008/001865(WO,A1)
【文献】
特開昭55−082030(JP,A)
【文献】
特表2011−525989(JP,A)
【文献】
特開2005−279076(JP,A)
【文献】
特開2007−127429(JP,A)
【文献】
池内 健,ステントの力学特性,人工臓器,2009年,38巻1号,p.46-48
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00 − 3/62
A61F 2/82
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定方法であって、
前記ステントの第1の部分を第1保持具により保持する工程と、
前記第1の部分とは前記ステントにおける長さ方向の位置が異なる第2の部分を第2保持具により保持する工程と、
前記第1保持具と前記第2保持具の相対位置を、前記第1保持具を回動させることにより前記ステントの曲げ角度が変化するように変化させ、前記第1保持具の回動により、停止している前記第2保持具が前記ステントから受ける力の大きさを測定する測定工程と、を有しており、
前記測定工程では、それぞれの内周面の延在方向が一致するように前記第1保持具および前記第2保持具を配列した状態において、これらの間に位置する回転軸を中心にして、前記第1保持具を、固定された前記第2保持具の周りに回動させ、
前記測定工程において、前記ステントから受ける力の大きさは、トルクとして測定されることを特徴とする測定方法。
【請求項2】
請求項1に記載の測定方法であって、
前記測定工程では、前記相対位置を変化させながら、前記ステントから受ける力を複数回測定することを特徴とする測定方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の測定方法であって、
前記測定工程の前に行われ、前記測定工程において前記ステントで最大の曲率が形成される屈曲位置が、所定の位置となるように調整する工程を有する測定方法。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の測定方法であって、
前記ステントの少なくとも一部を弾性変形させることによって、前記ステントの少なくとも一部の外径を、所定の大きさとする工程を有する測定方法。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれかに記載の測定方法であって
前記測定工程は、前記ステントの周辺に前記長さ方向へ向かう流体の流れを発生させながら行うことを特徴とする測定方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の測定方法であって、
前記ステントの温度を測定する工程をさらに有し、
前記測定工程では、前記第1保持具と前記第2保持具の相対位置を、第1の相対位置と第2の相対位置との間で繰り返し変化させることを特徴とする測定方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の測定方法であって、
前記ステントの内部には、当該ステントとは別体の内部ステントが収納されていることを特徴とする測定方法。
【請求項8】
ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定装置であって、
前記ステントの第1の部分を保持する第1保持具と、
前記第1の部分とは前記ステントにおける長さ方向の位置が異なる第2の部分を保持する第2保持具と、
前記第1保持具に接続しており、前記ステントの曲げ角度が変化するように前記第1保持具を回動させる駆動部と、
前記第2保持具に接続しており、前記第1保持具の回動により、停止している前記第2保持具が前記ステントを介して受けるトルクを測定する測定部と、を有しており、
前記駆動部は、それぞれの内周面の延在方向が一致するように前記第1保持具および前記第2保持具を配列した状態において、これらの間に位置する回転軸を中心にして、前記第1保持具を、固定された前記第2保持具の周りに回動させることを特徴とする測定装置。
【請求項9】
請求項8に記載の測定装置であって、
前記第1保持具及び前記第2保持具の少なくとも一方は、前記ステントの少なくとも一部を弾性変形させることによって、前記ステントの少なくとも一部の外径を変更可能なものであることを特徴とする測定装置。
【請求項10】
請求項8又は請求項9に記載の測定装置であって、
前記ステントの周辺に前記長さ方向へ向かう流体の流れを発生させる流れ発生手段を有することを特徴とする測定装置。
【請求項11】
請求項8から請求項10までのいずれかに記載の測定装置であって、
前記駆動部は、前記第1保持具が第1の位置と第2の位置との間を往復するように、前記第1保持具を回動させることを特徴とする測定装置。
【請求項12】
請求項8から請求項11までのいずれかに記載の測定装置であって、
前記ステントが配置されたチャンバー内の環境温度を測定する第1温度測定部と、
前記ステントの表面温度を測定する第2温度測定部と、を有することを特徴とする測定装置。
【請求項13】
請求項8から請求項12までのいずれかに記載の測定装置であって、
前記第1保持具の移動速度が変化するように、前記駆動部による駆動を制御可能な制御部を有することを特徴とする測定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定方法及び測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
胆管、食道、十二指腸、大腸などの消化器系体内管腔や血管が、がん細胞などにより狭窄または閉塞した場合に、体内管腔を確保する目的で、種々のステントが使用されている。しかし、体内に留置されるステントは、体内管腔の動きや体液の流れの影響を受けて、適切な留置位置から移動してしまういわゆるマイグレーションと呼ばれる現象や、留置位置からの完全な脱落や、キンクを発生する問題がある。
【0003】
現在、マイグレーションやキンクを発生しにくいステントの開発が進められているが、そのような中で、アキシアルフォース(axial force、AF)等と表記されるステントの曲げ方向への変形しやすさを表す特性が、マイグレーションの発生に大きな影響を与えうる特性であることが報告されている(非特許文献1等参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hiroyuki Isayama et al., "Measurement of radial and axial forces of biliary self-expandable metallic stents", GASTROINTESTINAL ENDOSCOPY Vol.70, Issue 1, Pages 37-44
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来提唱されているアキシアルフォースの測定方法は、一端を固定したステントに対してフォースゲージを押し当てるシンプルなものであるため、ステントの特徴を大まかに把握するのには適しているが、より詳細なステントの特徴を把握することは困難であった。すなわち、従来の測定方法は、静的な特定条件におけるステントの曲げ剛性しか測定できず、脈動やぜん動運動により常に動いている体内管腔内に留置される実使用状態下でのステントの特性を、十分に把握することができなかった。また、従来の測定方法では、フォースゲージとステントの接触位置がずれやすいため、ステントの屈曲点をステントの中心位置から離れた位置に設定することが困難であるという問題や、ステントの曲げ角度が大きい状態での測定が困難であるという問題を有している。
【0006】
本発明はこのような課題に鑑みてなされたものであって、その目的は、実使用状態下におけるステントの曲げ方向への変形しやすさを適切に測定し得る測定方法及び測定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上述の課題を解決するために、本発明に係る測定方法は、ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定方法であって、
前記ステントの第1の部分を第1保持具により保持する工程と、
前記第1の部分とは前記ステントにおける長さ方向の位置が異なる第2の部分を第2保持具により保持する工程と、
前記第1保持具と前記第2保持具の相対位置を、前記ステントの曲げ角度が変化するように変化させ、前記第1保持具又は前記第2保持具が前記ステントから受ける力の大きさを測定する測定工程と、を有する。
また、例えば、前記測定工程では、前記相対位置を変化させながら、前記ステントから受ける力を複数回測定しても良い。
【0008】
また、本発明に係る測定装置は、ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定装置であって、
前記ステントの第1の部分を保持する第1保持具と、
前記第1の部分とは前記ステントにおける長さ方向の位置が異なる第2の部分を保持する第2保持具と、
前記第1保持具に接続しており、前記第1保持具を前記ステントの曲げ角度が変化するように回動させる駆動部と、
前記第2保持具に接続しており、前記第1保持具の回動により前記第2保持具が前記ステントを介して受けるトルクを測定する測定部と、を有する。
【0009】
本発明に係る測定方法及び測定装置は、第1及び第2の保持具がステントを保持し、ステントの支持構造が安定しているため、ステントの曲げ角度を自由に変更しながら測定を行うことが可能であり、従来では測定することが困難であった大きな曲げ角度における測定も可能である。また、第1又は第2保持具がステントから受ける力の大きさを測定するため、保持具を移動又は回動させながら動的なステントの変形しやすさを測定することが可能である。また、実使用に有用な詳細な特性を取得することができるため、このような測定方法及び測定装置により取得された測定結果は、治療成績の良いステントの開発に資する。
【0010】
また、例えば、本発明に係る測定方法は、前記測定工程の前に行われ、前記測定工程において前記ステントで最大の曲率が形成される屈曲位置が、所定の位置となるように調整する工程を有してもよい。
【0011】
このような測定方法は、保持具がステントを保持する位置を変更することにより、実使用状態を適切に反映した条件で、ステントの変形しやすさを測定することが可能である。
【0012】
また、例えば、本発明に係る測定方法は、前記ステントの少なくとも一部を弾性変形させることによって、前記ステントの少なくとも一部の外径を、所定の大きさとする工程を有しても良い。
また、例えば、本発明に係る測定装置において、前記第1保持具及び前記第2保持具の少なくとも一方は、前記ステントの少なくとも一部を弾性変形させることによって、前記ステントの少なくとも一部の外径を変更可能なものであっても良い。
【0013】
ステントの外径を弾性変形によって変化させて、種々の条件でステントの変形しやすさを測定することにより、実際にあり得る体内管腔の大きさに関する条件を考慮した測定を行うことができる。
【0014】
また、例えば、本発明に係る測定方法において、前記測定工程は、前記ステントの周辺に前記長さ方向へ向かう流体の流れを発生させながら行なってもよい。
また、例えば、本発明に係る測定装置は、前記ステントの周辺に前記長さ方向へ向かう流体の流れを発生させる流れ発生手段を有してもよい。
【0015】
流れを発生させながらステントの変形しやすさを測定することにより、体液の流れが存在する実際の留置環境に近い条件で測定を行うことができる。
【0016】
また、例えば、本発明に係る測定方法は、前記ステントの温度を測定する工程をさらに有してもよく、
前記測定工程では、前記第1保持具と前記第2保持具の相対位置を、第1の相対位置と第2の相対位置との間で繰り返し変化させてもよい。
また、例えば、本発明に係る測定装置において、前記駆動部は、前記第1保持具が第1の位置と第2の位置との間を往復するように、前記第1保持具を回動させてもよい。
また、例えば、本発明に係る測定装置は、前記ステントが配置されたチャンバー内の環境温度を測定する第1温度測定部と、
前記ステントの表面温度を測定する第2温度測定部と、を有してもよい。
【0017】
保持具の位置を、第1の位置と第2の位置とを往復させながら測定を行うことにより、ステントの曲げ角度増加時の測定値(曲げに抵抗する力)及びステントの曲げ角度減少時の測定値(直線化力、復元力)を連続的にプロットしたヒステリシスカーブを取得できる。
また、保持具の位置変化を繰り返し行い、それと合わせてステントの発熱状態を知ることにより、ステントの変形しやすさに関する経時変化を測定し、ステントの耐久性を評価できる。
【0018】
また、例えば、本発明に係る測定方法において、前記ステントの内部には、当該ステントとは別体の内部ステントが収納されていてもよい。
【0019】
このような測定により、いわゆるステントインステントの状態におけるステントの変形しやすさに関する情報を得ることができる。
【0020】
また、例えば、本発明に係る測定方法の前記測定工程において、前記ステントから受ける力の大きさは、トルク、実荷重若しくは反発力として測定されてもよい。
【0021】
測定方法における力の大きさは、ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定し得る限りにおいて、どのような態様で測定されてもよい。
【0022】
また、例えば、本発明に係る測定装置は、前記第1保持具の移動速度が変化するように、前記駆動部による駆動を制御可能な制御部を有してもよい。
【0023】
保持具の移動速度を変化させて測定値を取得することにより、ステントの曲げ方向への変形しやすさを多面的に把握でき、ステントのマイグレーション特性などを詳細に把握可能である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】
図1は、本発明の一実施形態に係るステントの曲げ方向への変形しやすさを測定する測定装置の概略図である。
【
図2】
図2は、
図1に示す測定装置における保持具を表す部分拡大図である。
【
図3】
図3は、保持具に含まれるステントホルダを表す図である。
【
図4】
図4は、測定時における第1保持具及び第2保持具の相対位置を表す概念図である。
【
図5】
図5は、測定されるステントの一例を表す概略図である。
【
図6】
図6は、ステントの留置状態をあらわす概念図である。
【
図7】
図7は、測定結果の一例を表す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を、図面等を用いて説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る測定装置10の概略図である。測定装置10は、ステントの曲げ方向への変形しやすさを測定するために用いられる装置であるが、測定装置10についての説明を行う前に、測定対象であるステント80及び測定の目的であるステントの曲げ方向への変形しやすさについて説明する。
【0026】
図5は、測定対象の一例であるステント80の概略図である。ステント80は、線状部材であるフレームにより形成されており、胆管、血管、十二指腸その他の体内管腔に留置可能な筒状の外形状を有している。ステント80のサイズは、ステント80を留置する体内管腔の内径や、管腔に形成されている狭窄部の大きさに応じて決定されるが、通常、長さが2mm〜200mm程度であり、外径(外力を受けていない自由状態における外径)が3〜30mm程度である。
【0027】
ステント80は、フレームが表面に露出したベアステントであるが、測定装置10の測定対象はベアステントに限定されず、ベアステントを覆う被覆フィルムを有するカバードステントであっても良く、測定装置10は、任意の種類の医療用ステントを測定対象とすることができる。また、測定対象であるステントの外形状も、ステント80のような単純な筒状形状のものに限定されず、表面に突起を有するものや、端部がフレア状のものなど、任意の形状のステントを測定対象とすることができる。また、外周を構成するステントの内部に、これとは別体の内部ステントが収容されているステントインステントの状態におけるステントを、測定対象とすることも可能である。
【0028】
ステント80のフレームは、ニッケルチタン(Ni−Ti)合金、ステンレス鋼、タンタル、チタン、コバルトクロム合金、マグネシウム合金のような金属や、生体適合性樹脂のような合成樹脂で形成されており、ステント80は、径方向及び曲げ方向へ変形可能な弾性を有する。すなわち、ステント80が、内径の細い体内管腔やステントデリバリーカテーテルの内部等に収納され、ステント80の外周表面がこれらの内周表面により圧迫される状態では、ステント80は径方向に収縮し、ステント80の外径は自由状態より小さくなる。また、ステント80が、曲がったステントデリバリーカテーテルや体内管腔等の内部に収納されると、ステント80の外周表面がこれらの内周表面によって押されることにより、曲げ方向へ変形する(
図6参照)。
【0029】
さらに、ステントがステントデリバリーカテーテル等や体内管腔の内部から取り出されると、小さくなっていたステントの外径は広がって自由状態に戻り、曲がっていたステントは元の真っ直ぐな状態に戻る。ただし、ステントの変形挙動は、完全に弾性的な変形挙動とは異なる挙動を示す場合も多く(
図7等参照)、外力を除去しても元の形状に戻らない場合もある。
【0030】
ステント80は、ステントデリバリーカテーテル等により搬送され、留置位置である所定の体内管腔に留置されて使用される。
図6は、ステントの留置前後における胆管の状態を表す概念図であり、胆管に留置されるステントを例に、測定の目的であるステントの曲げ方向への変形しやすさについて説明する。
図6(a)に示すように、胆管は、肝臓と十二指腸を繋いでおり、通常は、ある程度曲がっている。このような胆管に対して、曲げ方向へ変形しやすいステント85を留置した場合、
図6(b)に示すように、ステント85は胆管の形状に従って曲げ方向へ変形し、胆管がステント85から受ける真っ直ぐになろうとする力(直線化力、復元力)は小さい。これに対して、曲げ方向へ変形しにくいステント86を留置した場合、
図6(c)に示すように、ステント86は十分に曲げ方向へ変形せず、胆管はステント85から直線化力を受けて、より真っ直ぐに近い形状に変形する。
【0031】
図6(c)に示す状態では、ステント86はマイグレーションや脱落を起こしやすく、また胆管が自然な状態でないためにキンク等の問題が発生しやすい。したがって、
図6(b)のような状態で留置されるステント85は、
図6(c)に示すような状態で留置されるステント86に比べて、治療成績が良好であると考えられる。
【0032】
以下、このような治療成績に影響を与えうるステントの曲げ方向への変形のしやすさを、適切に測定する測定装置10について説明する。
【0033】
図1に示す測定装置10は、チャンバー14と、ステントを保持する第1保持具20及び第2保持具30と、第1保持具20を回動させる駆動部としてのモータ40と、第2保持具30がステントを介して受けるトルクを測定する測定部50と、送風装置60と、制御部70とを有する。なお、測定装置10の説明では、鉛直方向をZ軸方向、Z軸方向に垂直であって第2保持具30の内周面32dの延在方向をX軸方向、X軸方向及びZ軸方向に垂直な方向をY軸方向として説明を行う。
【0034】
第1保持具20及び第2保持具30は、温度や湿度等の内部環境を調整可能なチャンバー14の内部に配置されている。第1保持具20は回転軸42に固定されており、上方から回転軸42によって支持される。チャンバー14の上方に配置されるモータ40の出力軸は、回転軸42を介して第1保持具20に接続しており、モータ40は、ステント80の曲げ角度が変化するように第1保持具20を回動させる。
【0035】
第2保持具30は、回転軸42と同一軸上に配置された支持軸52に固定されており、下方から支持軸52によって支持される。チャンバー14の下方に配置される測定部50は、支持軸52を介して第2保持具30に接続している。測定部50は、トルクゲージによって構成されており、第1保持具20の回動により、測定対象であるステント80(
図2参照)を介して、第2保持具30が受けるトルクを測定する。
【0036】
図2は、第1及び第2保持具20、30が、測定対象であるステント80を保持した状態を表す拡大図である。第1保持具20は、ステント80における長さ方向D1(
図5参照)の一方の端部である第1端部80aを保持する。第1保持具20は、回転軸42に固定されるブラケット24と、ブラケット24に固定されるステントホルダ22とを有する。
【0037】
図3(a)及び
図3(b)に示すように、ステントホルダ22は、分離可能な基部22aと蓋部22bとを有する。
図3(a)は基部22aと蓋部22bとが組み合わせられた状態を表しており、
図3(b)は基部22aと蓋部22bとが分離した状態を表している。基部22aと蓋部22bとは、ステントホルダ22に形成されたピン挿通孔22cに挿入される不図示の固定ピンにより連結される。
【0038】
ステントホルダ22の内部には、基部22aと蓋部22bとを接合することにより完成する貫通孔が形成されており、貫通孔の内周面22dが、ステント80における第1端部80aの外周面を圧迫することにより、第1端部80aを保持する。測定完了後は、基部22aと蓋部22bを分離することにより、ステント80を取り外すことができる。
【0039】
図2に示すように、ブラケット24には、X軸方向に沿って位置調節孔24aが複数形成されている。ステントホルダ22の端部は、固定部材26により、位置調節孔24aに接続される。第1保持具20は、ステントホルダ22とブラケット24との接続に使用する位置調節孔24aを変えることにより、第2保持具30との距離及びステント80の保持位置を調整できる。
【0040】
図2に示す第2保持具30は、ステント80における長さ方向D1の他方の端部である第2端部80bを保持する。第2保持具30は、支持軸52に固定されるブラケット34と、ブラケット34に固定されるステントホルダ32とを有する。ブラケット34及びステントホルダ32の形状は、第1保持具20のブラケット24及びステントホルダ22と同様である。第2保持具30も、第1保持具20と同様に、ステント80の固定、取り外し及び保持位置の調整を行うことができるが、詳細な説明については省略する。
【0041】
図4に示すように、第1保持具20は、回転軸42を中心に第2保持具30の周りを回動する。第1保持具20の回動中心位置は、特に限定されないが、第1保持具20と第2保持具30をX軸方向に沿って配列した状態において、第1保持具20と第2保持具30の間に位置することが好ましい。
【0042】
図1に示す送風装置60は、送風経路62を介して、チャンバー14の内部に、温風及び冷風を供給する。送風装置60は、供給する温風及び冷風の温度及び供給速度を変更することにより、チャンバー14内の温度を調整することができ、また、第1及び第2保持具20、30に保持されたステント80周辺に、ステント80の長さ方向D1へ向かう流体の流れを発生させることができる。
【0043】
制御部70は、モータ40及び送風装置60の駆動や、測定部50による測定を制御する。測定装置10は、チャンバー14内の環境温度を測定する不図示の第1温度計や、ステントの表面温度を測定する不図示の第2温度計等を有しており、制御部70は、第1温度計及び第2温度計の測定値を取得できる。制御部70は温度計の測定値を用いて送風装置60を制御し、チャンバー14の環境温度を調整できる。
【0044】
また、制御部70は、ユーザーインターフェースからの入力に応じて、第1保持具20の移動速度及び移動範囲を変えるようにモータ40を制御したり、測定部50によるトルク測定周期などを変更することができる。また、制御部70は、制御部70に内蔵される記憶部に測定結果を保存できる。
【0045】
以下、測定装置10を用いて実施されるステント80の曲げ方向への変形のしやすさの測定方法を説明する。
【0046】
まず、測定対象であるステント80をチャンバー14内に配置し、ステント80をチャンバー内の環境と熱平衡に達せさせる。次に、
図2に示すように、ステント80の第1端部80aを第1保持具20により保持し、第2端部80bを第2保持具30により保持する。この際、測定対象であるステント80の第1端部80a及び第2端部80bの外径は、貫通孔の径が異なるステントホルダ22、32を準備しておき、その中から所望のステントホルダ22、32を選択することにより調整される。さらに、第1及び第2保持具20、30に保持される第1及び第2端部80a、80bの長さや、測定時のステント80で最大の曲率が形成される屈曲位置は、ステントホルダ22、32のブラケット24、34に対する取り付け位置を選択することにより、調整される。なお、ステント80の外径は、ステントホルダ22、32の基部22aと蓋部22bとを連結する固定ピンの締め付け量により、変更することも可能である。また、ステント80が体内管腔内に留置された状態を再現するなどの目的で、ステント80の第1端部80a及び第2端部80b以外の部分(第1及び第2保持具20、30に保持されない部分)を、ステント80の外径よりも小さな所定の内径を備えるリング状や筒状のステント収縮具(図示せず)に挿通させることなどによって、ステント80を締め付けて、ステント80を弾性変形させて外径を所定の大きさとした状態で、測定を行うことも可能である。
【0047】
次に、制御部70がモータ40を駆動させて第1保持具20を回動させることにより、第1保持具20と第2保持具30の相対位置を、ステント80の曲げ角度が変化するように変化させる。さらに、制御部70は測定部50を制御し、第1保持具20の移動中及び停止中において、第2保持具30がステント80から受ける力の大きさ(トルク)を測定し、測定値を取得する。測定部50による測定は、複数回行われることが好ましく、所定周期で連続的に行われることがさらに好ましい。
【0048】
トルク測定の際における第1保持具20の動作は、制御部70によって様々なパターンで制御される。
図4に示すように、モータ40は、第1保持具20が第2保持具30に対してX軸方向に沿って直線的に配置された第1の位置A(曲げ角度0度)から、第1の位置Aに対して回転軸42を中心として反時計回りに所定角度回転した第2の位置B(
図4に示す例では曲げ角度105度)との間を往復するように、第1保持具20を回動させることができる。
【0049】
図7は、第2保持具30が第1の位置Aと第2の位置Bとの間を往復運動した際に、測定部50で測定された測定値(トルク)を示している。
図7の曲線90は、第1保持具20が第1の位置A(曲げ角度0度)から第2の位置B(曲げ角度105度)に移動する際に連続的に測定された測定値を表しており、曲げ角度増加時にステント80が示す曲げに抵抗する力を表している。これに対し、
図7の曲線92は、第1保持具20が第2の位置B(曲げ角度105度)から第1の位置A(曲げ角度0度)に移動する際に連続的に測定された測定値を表しており、曲げ角度減少時にステント80が示す直線化力(復元力)を表している。このような測定結果から、ステント80の曲げ方向の変形しやすさに関する詳細なデータを取得できる。
【0050】
また、第1保持具20の他の駆動パターンとして、第1の位置Aに対して時計回りに所定角度(
図4に示す例では曲げ角度105度)回転した第3の位置Cと、第1の位置Aに対して反時計回りに所定角度回転した第2の位置Bとの間で、第2保持具30の位置を繰り返し変化させる態様が例示される。これにより、ステント80の特性の経時変化及び耐久性に関する情報を取得できる。なお、この場合、ステント80の表面温度を継続的に取得することにより、変形に伴うステント80の発熱量の経時変化に関する情報を得ることができる。
【0051】
また、第1保持具20の第2の駆動パターンとして、第1の位置Aから第2の位置Bまで保持具を移動させ、そのまま第1保持具20を第2の位置Bに停止させたまま、測定値を継続的に取得する態様が例示される。これにより、ステント80の留置期間中における直線化力の変化に関する情報を得ることができる。
【0052】
以上のように、実施形態で示す測定装置10及びこれを用いた測定方法によれば、ステント80の静的な変形しやすさに関するデータだけでなく、ステント80の動的な変形しやすさに関するデータを取得できるので、体内管腔に留置したステント80の特性を反映した詳細なデータを取得できる。また、体内管腔におけるステント80の留置状態を考慮して、ステント80の曲げ角度、曲げ速度、屈曲点、外径などを自由に設定して、ステント80の曲げ方向の変形しやすさを測定できるので、取得されたデータは、治療成績の向上を目指すステントの開発に資する。
【0053】
本発明に係る測定方法及び測定装置は、上述した実施形態に限定されるものではなく、様々な改変を行うことができる。例えば、実施形態では、第2保持具30を固定し、第1保持具20が移動することにより、第1保持具20と第2保持具30の相対位置が変化する態様であるが、第1保持具20と第2保持具30の両方が移動可能であっても良い。
【0054】
また、
図1に示す測定装置10は、チャンバー14の内部を例えば生理食塩水や模擬胆汁などの液体で満たすなどして、液体中におけるステント80の変形挙動を測定することも可能である。この場合、送風装置60又は送風装置60の代わりに別途取り付けた不図示の流れ形成手段を用いて、ステント80周辺に長さ方向D1へ向かう液体の流れを発生させても良い。これにより、ステント80が実際の治療において留置される体内管腔(胆汁が存在する胆管、胃液が存在する十二指腸、血液が存在する血管など)により近い条件で、測定を行うことが可能である。
【0055】
また、
図2に示す例では、第1及び第2保持具20、30は、ステント80の端部80a、80bを保持するが、ステント80の保持位置は端部に限定されず、第1及び第2保持具20、30は、長さ方向D1の位置が異なる任意の2箇所を保持することができる。また、測定装置10では、トルクゲージによって構成される測定部50を用いて力の測定を行ったが、測定部50としてはこれに限定されず、ステント80からの力を実荷重や反発力(圧力)で測定する測定部を採用してもよく、ステント80の曲げ剛性を算出する測定部を採用してもよい。
【符号の説明】
【0056】
10…測定装置
14…チャンバー
20、30…保持具
22、32…ステントホルダ
24、34…ブラケット
40…モータ
42…回転軸
50…測定部
52…支持軸
60…送風装置
70…制御部
80、85、86…ステント