【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記再生処理工程において、前記予め設定された正の電位への掃引は、前記正の電位よりも低い電位から前記正の電位に掃引した後、再度前記低い電位に掃引し、再度前記正の電位に掃引することを少なくとも1回行う請求項1または2に記載の水素発生電極の再生方法。
前記再生処理工程において、前記予め設定された正の電位への掃引は、前記正の電位よりも低い電位から前記正の電位まで掃引する請求項1または2に記載の水素発生電極の再生方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の水素発生電極の再生方法を詳細に説明する。本発明は、以下に説明する水素発生電極の再生方法の実施形態に限定されるものではない。
なお、以下において数値範囲を示す「〜」とは両側に記載された数値を含む。例えば、εが数値α〜数値βとは、εの範囲は数値αと数値βを含む範囲であり、数学記号で示せばα≦ε≦βである。
【0013】
図1は、本発明の実施形態の水素発生電極の構成を示す模式的断面図である。
水素発生電極10は、絶縁基板12上に形成されるものであり、導電層14と、無機半導体層16とを有する。
【0014】
絶縁基板12は、水素発生電極10を支持するものであり、電気絶縁性を有するもので構成される。絶縁基板12は、特に限定されるものではないが、例えば、ソーダライムガラス基板(以下、SLG基板という)またはセラミックス基板を用いることができる。また、絶縁基板12には、金属基板上に絶縁層が形成されたものを用いることができる。ここで、金属基板としては、Al基板またはSUS基板等の金属基板、またはAlと、例えば、SUS等の他の金属との複合材料からなる複合Al基板等の複合金属基板が利用可能である。なお、複合金属基板も金属基板の一種であり、金属基板および複合金属基板をまとめて、単に金属基板ともいう。さらには、絶縁基板12としては、Al基板等の表面を陽極酸化して形成された絶縁層を有する絶縁膜付金属基板を用いることもできる。絶縁基板12は、フレキシブルなものであっても、そうでなくてもよい。なお、上述のもの以外に、絶縁基板12として、例えば、高歪点ガラスおよび無アルカリガラス等のガラス板、またはポリイミド材を用いることもできる。
【0015】
絶縁基板12の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、20〜20000μm程度あればよく、100〜10000μmが好ましく、1000〜5000μmがより好ましい。なお、p型半導体層20に、CIGS化合物半導体を含むものを用いる場合には、絶縁基板12側に、アルカリイオン(例えば、ナトリウム(Na)イオン:Na
+)を供給するものがあると、光電変換効率が向上するので、絶縁基板12の表面12aにアルカリイオンを供給するアルカリ供給層を設けておくことが好ましい。なお、SLG基板の場合には、アルカリ供給層は不要である。
【0016】
図1に示す水素発生電極10では、無機半導体層16の表面、すなわち、後述するn型半導体層22の表面22aに助触媒18が形成されている。助触媒18は、例えば、点在するように、島状に形成してもよい。
助触媒18は、例えば、Pt、Pd、Ni、Au、Ag、Ru、Cu、Co、Rh、Ir、Mn等により構成される単体、およびそれらを組み合わせた合金、ならびにその酸化物、例えば、NiOxおよびRuO
2で形成することができる。また、助触媒18のサイズは、特に限定されるものではなく、0.5nm〜1μmであることが好ましい。
なお、助触媒18の形成方法は、特に限定されるものではなく、塗布焼成法、光電着法、真空蒸着法、スパッタ法、含浸法等により形成することができる。
【0017】
導電層14は、絶縁基板12の表面12aに形成され、無機半導体層16に電圧を印加するものである。導電層14は、導電を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、Mo、CrおよびW等の金属、またはこれらを組み合わせたものにより構成される。この導電層14は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。この中で、導電層14は、Moで構成することが好ましい。導電層14の膜厚は、一般的に、その厚みが800nm程度であるが、導電層14は厚みが400nm〜1μmであることが好ましい。
【0018】
無機半導体層16は、起電力を発生するものである。無機半導体層16は、p型半導体層20とn型半導体層22とを有し、p型半導体層20は、n型半導体層22との界面でpn接合を形成する。p型半導体層20が導電層14上に形成されている。
無機半導体層16では、n型半導体層22を透過して到達した光を吸収して、p側に正孔を、n側に電子を生じさせる層である。p型半導体層20は、光電変換機能を有する。p型半導体層20では、pn接合で生じた正孔をp型半導体層20から導電層14側に移動させ、pn接合で生じた電子をn型半導体層22から透明電極層50側に移動させる。p型半導体層20の膜厚は、好ましくは0.5〜3.0μmであり、1.0〜2.0μmが特に好ましい。
【0019】
p型半導体層20は、例えば、カルコパイライト結晶構造を有するCIGS化合物半導体またはCu
2ZnSnS
4等のCZTS化合物半導体で構成されるのが好ましい。CIGS化合物半導体層は、Cu(In,Ga)Se
2(CIGS)のみならず、CuInSe
2(CIS)、CuGaSe
2(CGSe)等で構成してもよい。
なお、CIGS層の形成方法としては、1)多源蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、および5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
その他のCIGS層の形成方法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD法、およびスプレー法(ウェット成膜法)等が挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)またはスプレー法(ウェット成膜法)等で、11族元素、13族元素、および16族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、16族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施する等により、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0020】
n型半導体層22は、上述のようにp型半導体層20との界面でpn接合を形成するものである。また、n型半導体層22は、入射した光をp型半導体層20に到達させるため、光が透過するものである。
n型半導体層22は、例えば、CdS、ZnS,Zn(S,O)、および/またはZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)、および/またはSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)、および/またはIn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,Sn,Inからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むもので形成される。n型半導体層22の膜厚は、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。n型半導体層22の形成には、例えば、化学浴析出法(以下、CBD法という)により形成される。
なお、n型半導体層22上に、例えば、窓層を設けてもよい。この窓層は、例えば、厚み10nm程度のZnO層で構成される。また、水素発生電極10は、後述する機能層19(
図3参照)をn型半導体層22上に設け、この機能層19上に助触媒を設ける構成でもよい。
【0021】
次に、水素発生電極10の製造方法について説明する。
まず、例えば、絶縁基板12となるソーダライムガラス基板を用意する。
次に、絶縁基板12の表面12aに導電層14となる、例えば、Mo膜等をスパッタ法により形成する。
【0022】
次に、導電層14上に、p型半導体層20として、例えば、CIGS膜を形成する。このCIGS膜は、前述のいずれか成膜方法により形成される。
次に、p型半導体層20の表面20aにn型半導体層22となる、例えば、CdS層をCBD法により形成する。これにより、無機半導体層16が形成される。
次に、n型半導体層22の表面22aに、水素生成用の助触媒18として、例えば、真空蒸着法を用いてPt助触媒を担持させる。これにより、水素発生電極10が形成される。
【0023】
水素発生電極10は、酸素発生電極(図示せず)と一緒に電解水溶液に浸漬して光Lを照射すると、電解水溶液が水素と酸素に分解されて、水素ガスと酸素ガスが得られる。電解水溶液の水素と酸素の分解を連続して行う場合、初期では水素発生の特性は非常に優れているが、連続稼働によりその水素発生の特性が低下してしまう。
この場合、本発明では、水素発生電極10に対して、以下に示す再生処理を施すことで、水素発生の特性を初期の状態に近づけることができる。以下、本発明の水素発生電極10の再生方法について
図2(a)、(b)を用いて説明する。
図2(a)は、本発明の実施形態の水素発生電極の再生方法の工程を示すフローチャートであり、(b)は、本発明の実施形態の水素発生電極の再生方法に用いられる再生処理装置を示す模式図である。
【0024】
図2(a)のフローチャートに示すように、再生処理では、まず、上述のように水素発生電極10による水素発生を行う(ステップS10)。
次に、水素発生の特性の低下を判定する(ステップS12)。ステップS12の判定工程において、水素発生の特性の低下がないと判定された場合、水素発生を継続する。
一方、水素発生の特性が低下したと判定された場合、再生処理を実施する(ステップS14)。再生処理を実施することにより、水素発生電極10の水素発生の特性を初期の状態に近づけることができる。
なお、ステップS14の再生処理工程で再生された後、水素発生電極10は、再度水素発生に利用される。これにより、継続して、長期にわたり、水素発生の初期の特性を維持しつつ、水素発生することができる。
【0025】
次に、ステップS12の判定工程について説明する。
判定工程では、水素発生の特性の低下を判定するが、この水素発生の特性の低下の判定基準は、水素発生の特性の低下を判定することができれば、特に限定されるものではない。例えば、稼働時間、水素の発生量および酸素の発生量等を用いることができる。
なお、稼働時間については、例えば、タイマーを用いて測定する。水素の発生量については、例えば、発生した水素ガスを回収する際に流量計を用いて流量として測定する。水素の流量を、例えば、予め設定された時間間隔で測定する。また、酸素の発生量は、水素の発生量を代替するパラメータであり、例えば、発生した酸素ガスを回収する際に流量計を用いて流量として測定する。この場合でも、酸素の流量を、例えば、予め設定された時間間隔で測定する。
【0026】
水素発生の特性の低下を判定については、稼働時間であれば、実際の水素発生の特性の低下のいかんに関わらず、稼働時間が予め設定された時間を経過した後、水素発生の特性が低下したと判定する。
水素の発生量であれば、水素の発生量が初期の状態から、例えば、10%低下した場合、水素発生の特性が低下したと判定する。より具体的には、上述の流量を測定し、水素ガスの流量が10%低下した場合、水素発生の特性が低下したと判定する。
酸素の発生量であれば、酸素の発生量が初期の状態から、例えば、10%低下した場合、水素発生の特性が低下したと判定する。より具体的には、上述の流量を測定し、酸素ガスの流量が10%低下した場合、水素発生の特性が低下したと判定する。
【0027】
次に、ステップS14の再生処理工程について説明する。
ステップS14の再生処理工程では、例えば、
図2(b)に示す再生処理装置100を用いる。再生処理装置100は、容器102と、蓋104とを有し、容器102内に電解液103が満たされている。この状態で、容器102内に水素発生電極10、参照電極105および対極106が配置される。水素発生電極10、参照電極105および対極106はポテンションスタット107に接続される。
【0028】
再生処理工程は、水素発生電極10に対して、遮光した電解液103中で水素発生電極10の電位を予め設定された正の電位に掃引するため、容器102および蓋104は遮光性を有するもので構成される。なお、再生処理装置100を暗室等の完全に遮光した空間に配置して、遮光した電解液103中で再生処理を実施する場合には、容器102および蓋104は遮光性を有するものでなくてもよい。
なお、再生処理工程は、遮光した電解液103中で水素発生電極10になされるが、この場合、水素発生電極10に光が当たらない状態にして、水素発生電極10においてpn接合に基づく起電力を生じさせないことが好ましい。
電解液103は、例えば、pH7に調整した、0.5M Na
2SO
4、0.25M Na
2HPO
4および0.25M NaH
2PO
4の電解質と純水からなる電解液である。これ以外に電解液103として、例えば、pHが中性〜弱アルカリ(pH11程度)の電解液を用いることができる。電解液103のpHが中性〜弱アルカリ(pH11程度)であれば、水素発生電極10が損傷する等の悪影響を抑制することができる。
【0029】
ステップS14の再生処理工程では、上述のように水素発生電極10を再生処理装置100に配置し、遮光した電解液103中で水素発生電極10に光が当たらない状態にして、水素発生電極10に対して、水素発生電極10の電位を、予め設定された正の電位に掃引する。
再生処理工程において、掃引するときの電位、掃引速度、掃引方式および掃引回数等の掃引条件は、水素発生電極10の構成等に応じて設定されるものであり、予備実験を行う等して、上述の掃引条件を求めておくことが好ましい。なお、掃引は少なくとも1回行う。
掃引時の正の電位は、プラスの値であれば、特に限定されるものではない。水素発生電極10の構成等により、掃引時の正の電位は適宜個別の値となるが、例えば、1.2V
RHE〜1.9V
RHEであることが好ましく、より好ましくは、1.3V
RHE〜1.9V
RHEである。上述の範囲であれば、確実に再生処理の効果を得ることができ、水素発生電極10の水素発生の特性を初期の状態に近づけることができる。なお、掃引時の正の電位のことを掃引電位ともいう。
【0030】
また、再生処理工程において、予め設定された正の電位に掃引する掃引方式については、例えば、上述の正の電位よりも低い電位から、上述の正の電位に掃引した後、再度、上述の低い電位に掃引し、再度上述の正の電位に掃引することを少なくとも1回行う。なお、低い電位、正の電位、低い電位、正の電位と、繰り返してもよい。これ以外にも、掃引方式については、低い電位から正の電位に一方向で掃引する方式が挙げられる。掃引方式については、特に限定されるものではない。また、正の電位よりも低い電位とは、例えば、水素発生電極10を再生処理装置100に設置した状態、または0V
RHEのこという。
【0031】
上述の水素発生電極10は、光により電解水溶液を水素と酸素に分解する人工光合成モジュールに用いることができる。
以下、
図1に示す水素発生電極10を用いた人工光合成モジュールについて説明する。
図3は、本発明の実施形態の水素発生電極を用いた人工光合成モジュールの構成を示す模式的断面図である。
なお、
図3に示す人工光合成モジュール30において、
図1に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0032】
人工光合成モジュール30は、容器32内に隔壁34により水素用電解室36と酸素用電解室38とが並んで配置されている。容器32内に電解水溶液AQ供給される。電解水溶液AQを容器32内に供給するために配管、ポンプ等が必要であるが、これらの図示は省略している。
容器32は、人工光合成モジュール30の外殻を構成するものであり、電解水溶液AQが漏れることなく内部に保持することができ、かつ外部からの光Lを内部に透過させることができれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0033】
ここで、電解水溶液AQとは、例えば、H
2Oを主成分とする液体であり、蒸留水であってもよく、水を溶媒とし溶質を含む水溶液であってもよい。水の場合、例えば、電解質を含む水溶液である電解液であってもよく、冷却塔等で用いられる冷却水であってもよい。電解液の場合、例えば、電解質を含む水溶液であり、例えば、強アルカリ(KOH)、ポリマー電解質(ナフィオン(登録商標))、0.1MのH
2SO
4を含む電解液、0.1M硫酸ナトリウム電解液、0.1Mリン酸カリウム緩衝液等である。
【0034】
隔壁34は、水素用電解室36で生成された水素ガスと、酸素用電解室38で生成された酸素ガスとが混合されないように隔離するためのものである。このため、隔壁34は、上述の隔離機能を有するものであれば、その構成は、特に限定されるものではない。
なお、隔壁34は、水素用電解室36内での水素の生成によって増加した水酸イオン(pHも増加)と酸素用電解室38内での酸素の生成によって増加した水素イオン(pHは減少)とが中和するように、水酸イオンおよび水素イオンを通過させるために、容器32内を、水素用電解室36と酸素用電解室38と分離するためのものであってもよい。この場合、隔壁34は、例えば、イオン透過性、かつガス非透過性を有するもので構成される。具体的には、例えば、イオン交換膜、セラミックフィルタ、多孔質ガラス等により構成される。隔壁34の厚みは、特に限定されるものではなく、10〜1000μmであることが好ましい。
【0035】
人工光合成モジュール30では、平面状の絶縁基板12上に、例えば、2つの光電変換ユニット40と水素ガス生成部42と酸素ガス生成部44とが形成されており、これらは方向Mに電気的に直列に接続されている。
水素用電解室36に光電変換ユニット40と水素ガス生成部42が配置され、酸素用電解室38に光電変換ユニット40と酸素ガス生成部44が配置されている。
【0036】
光電変換ユニット40は、光を受光して電力を発生させ水素ガス生成部42で水素ガスを発生させるための電力および酸素ガス生成部44で酸素ガスを発生させるための電力を供給するためのものである。
光電変換ユニット40は、絶縁基板12側から順に、導電層14、p型半導体層20、n型半導体層22、透明電極層50および保護膜52が積層されて構成されており、太陽電池に用いられる光電変換素子と同様の構成を有する。
光電変換ユニット40では、上述のようにp型半導体層20とn型半導体層22で無機半導体層16が構成され、p型半導体層20とn型半導体層22の界面においてpn接合が形成されている。
無機半導体層16は、入射された光Lを吸収して、p側に正孔を、n側に電子を生じさせる層である。p型半導体層20は、光電変換機能を有する。p型半導体層20では、pn接合で生じた正孔をp型半導体層20から導電層14側に移動させ、pn接合で生じた電子をn型半導体層22から透明電極層50側に移動させる。p型半導体層20の膜厚は、好ましくは0.5〜3.0μmであり、1.0〜2.0μmが特に好ましい。
【0037】
2つの光電変換ユニット40が方向Mに直列に接続されているが、水素ガスおよび酸素ガスを発生させることができる起電力を得ることができれば、その数は限定されるものではなく、1つでも、2つ以上であってもよい。複数の光電変換ユニットを直列に接続する方が高い電圧を得ることができるため、複数の光電変換ユニットを直列接続することが好ましい。
光電変換ユニット40間に、n型半導体層22およびp型半導体層20を貫き導電層14の表面に達する開口溝P2が方向Mにおいて分離溝P1の形成位置とは異なる位置に形成されている。開口溝P2に隔壁34が設けられている。
【0038】
人工光合成モジュール30では、光電変換ユニット40に、保護膜52側から光Lが入射されると、この光Lが、保護膜52、各透明電極層50および各n型半導体層22を通過し、各p型半導体層20で起電力が発生し、例えば、透明電極層50から導電層14に向かう電流(正孔の移動)が発生する。このため、人工光合成モジュール30では、水素ガス生成部42が負極(電気分解のカソード)となり、酸素ガス生成部44が正極(電気分解のアノード)になる。
なお、人工光合成モジュール30における生成ガスの種類(極性)は、光電変換ユニットの構成および人工光合成モジュール30構成等に応じて適宜変わるものである。
【0039】
保護膜52は、弱酸性溶液および弱アルカリ性溶液に不溶であり、かつ光透過性、遮水性および絶縁性を兼ね備えるものである。
保護膜52は、透光性を有し、光電変換ユニット40を保護するため、具体的には、水素用電解室36内の水素ガス生成領域以外の部分、酸素用電解室38内の酸素ガス発生領域以外の部分を覆うように設けられるものである。具体的には、保護膜52は、透明電極層50の全面および水素発生電極10の側面を覆うものである。
保護膜52は、例えば、SiO
2、SnO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Al
2O
3およびGa
2O
3等により構成される。また、保護膜52の厚みは、特に限定されるものではなく、100〜1000nmであることが好ましい。
なお、保護膜52の形成方法は、特に限定されるものではなく、RFスパッタ法、DCリアクティブスパッタ法およびMOCVD法等により形成することができる。
また、保護膜52は、例えば、絶縁性エポキシ樹脂、絶縁性シリコーン樹脂、絶縁性フッ素樹脂等により構成できる。この場合、保護膜52の厚みは、特に限定されるものではなく、2〜1000μmが好ましい。
【0040】
水素ガス生成部42は、基本的に上述の水素発生電極10で構成されており、側面が保護膜52で覆われている。水素ガス生成部42では、n型半導体層22の表面22aに機能層19が形成されており、この機能層19の表面19aに助触媒18が形成されている。このようなことから、水素ガス生成部42においては、水素発生電極10の構成について、その詳細な説明は省略する。水素発生電極10は、電解水溶液AQ中に浸漬され、電解水溶液AQと接する。なお、水素発生電極10の側面の保護膜52により、電解水溶液AQとの接触による短絡が防止される。
【0041】
機能層19は、無機半導体層16内部への水分侵入を防ぎ、無機半導体層16内部での気泡形成を抑制するものである。機能層19には、透明性、耐水性、遮水性および導電性が要求される。機能層19により、水素発生電極10の耐久性が向上する。
機能層19は、水分子からイオン化した水素イオン(プロトン)H
+に電子を供給して水素分子、すなわち、水素ガスを発生させる(2H
++2e
− ―>H
2)ものである。水素ガス生成部42では、機能層19の表面19aが水素ガス生成面として機能する。したがって、機能層19は、水素ガスの発生領域を構成する。
【0042】
機能層19は、例えば、金属または導電性酸化物(過電圧が0.5V以下)もしくはその複合物であることが好ましい。より具体的には、機能層19は、ITO、Al、B、Ga、およびIn等がドープされたZnO、またはIMO(Moが添加されたIn
2O
3)等の透明導電膜を用いることができる。機能層19は単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、機能層19の厚さは、特に限定されるものではなく、好ましくは、10〜1000nmであり、50〜500nmがより好ましい。
なお、機能層19の形成方法は、特に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタ法およびCVD法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。水素ガス生成部42においても機能層19は必ずしも設ける必要はない。
【0043】
酸素ガス生成部44は、右側の光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60で構成され、この領域60が酸素ガスの発生領域となる。
具体的には、光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60は、水分子からイオン化した水酸イオンOH
−から電子を取り出して酸素分子、すなわち、酸素ガスを発生させる(2OH
− ―>H
2O+O
2/2+2e
−)酸素ガス生成部44であり、表面60aがガス生成領域として機能する。
導電層14の領域60の表面60aには、酸素生成用の助触媒(図示せず)を形成してもよく、この場合、助触媒は、例えば、点在するように島状に形成してもよい。
酸素生成用の助触媒は、例えば、IrO
2、CoO
x等により構成される。また、酸素生成用の助触媒のサイズは、特に限定されるものではなく、0.5nm〜1μmであることが好ましい。なお、酸素生成用の助触媒の形成方法は、特に限定されるものではなく、塗布焼成法、浸漬法、含浸法、スパッタ法および蒸着法等により形成することができる。
【0044】
上述のように、光電変換ユニット40は光電変換素子として機能するものであり、p型半導体層20とn型半導体層22を有する。p型半導体層20およびn型半導体層22は、上述の通りであるため、その詳細な説明は省略する。
なお、p型半導体層20を形成する無機半導体の吸収波長は、光電変換可能な波長域であれば、特に限定されるものではない。吸収波長としては、太陽光等の波長域、特に、可視波長域から赤外波長域を含んでいればよいが、その吸収波長端は800nm以上、すなわち、赤外波長域までを含んでいることが好ましい。その理由は、できるだけ多くの太陽光エネルギーを利用できるからである。一方、吸収波長端が長波長化することは、すなわち、バンドギャップが小さくなることに相当し、これは水分解をアシストするための起電力が低下することが予想でき、その結果、水分解のために、光電変換ユニット40を直列接続する接続数を増すことが予想できるので、吸収端が長ければ長い方がよいというわけでもない。
【0045】
透明電極層50は、透光性を有し、光をp型半導体層20に取り込み、かつ導電層14と対になって、p型半導体層20で生成された正孔および電子を移動させる(電流が流れる)電極として機能すると共に、2つの光電変換ユニット40を直列接続するための透明導電膜として機能するものである。
透明電極層50は、例えばAl、B、Ga、In等がドープされたZnO、またはITOにより構成される。透明電極層50は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、透明電極の厚みは、特に限定されるものではなく、0.3〜1μmが好ましい。
なお、透明電極の形成方法は、特に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタ法およびCVD法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。
【0046】
次に、人工光合成モジュール30の製造方法について説明する。
なお、人工光合成モジュール30の製造方法は、以下に示す製造方法に限定されるものではない。
まず、例えば、絶縁基板12となるソーダライムガラス基板を用意する。
次に、絶縁基板12の表面に導電層14となる、例えば、Mo膜等をスパッタ法により形成する。
次に、例えば、レーザースクライブ法を用いて、Mo膜の所定位置をスクライブして、絶縁基板12の幅方向に伸びた分離溝P1を形成する。これにより、分離溝P1により互いに分離された導電層14が形成される。
【0047】
次に、導電層14を覆い、かつ分離溝P1を埋めるように、p型半導体層20として、例えば、CIGS膜を形成する。このCIGS膜は、前述のいずれか成膜方法により、形成される。
次に、p型半導体層20上にn型半導体層22となる、例えば、CdS層をCBD法により形成する。
次に、方向Mにおいて、分離溝P1の形成位置とは異なる位置に、絶縁基板12の幅方向に伸び、かつn型半導体層22からp型半導体層20を経て導電層14の表面14aに達する2つの開口溝P2を形成する。この場合、スクライブ方法としては、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いることができる。
【0048】
次に、絶縁基板12の幅方向に伸び、かつn型半導体層22上に、開口溝P2を埋めるように、透明電極層50となる、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO:Al層を、スパッタ法または塗布法により形成する。
次に、開口溝P2内のZnO:Al層の一部を残すようにして除去し、導電層14の表面に達する2つの少し幅の狭い開口溝P2を再び形成する。これにより、3つの積層体(図示せず)が形成される。1つは水素発生電極10になり、残りの2つは光電変換ユニット40になる。スクライブ方法としては、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いることができる。
【0049】
次に、積層体の外面および側面と、2つの開口溝P2の底面の導電層14の表面に保護膜52となる、例えば、SiO
2膜をRFスパッタ法で形成する。
次に、2つの積層体の間で、開口溝P2に相当する位置に再度、溝を形成し、この溝に隔壁34を設ける。
次に、光電変換ユニット40のZnO:Al層を、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いて剥離し、露出したn型半導体層22の表面22aに機能層19として、例えば、アモルファスITO層を、パターニングマスクを用いたスパッタ法により形成する。
次に、n型半導体層22の表面22aに、例えば、真空蒸着法にて水素生成用の助触媒18となる、例えば、Pt助触媒を担持させる。これにより、積層体24(
図2(d)参照)を得る。その後、上述のように積層体24(
図2(d)参照)に、アルカリ性の電解液中でサイクリックボルタンメトリーを施す。これにより、水素発生電極10が形成されて、水素ガス生成部42が形成される。
【0050】
次に、光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60上の堆積物を、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いて取り除き、領域60を露出させる。これにより、酸素ガス生成部44が形成される。
絶縁基板12と略同じ大きさの容器32を用意し、この容器32内に、光電変換ユニット40、水素ガス生成部42および酸素ガス生成部44が形成された絶縁基板12を収納する。これにより、隔壁34で水素用電解室36および酸素用電解室38が形成される。このようにして、人工光合成モジュール30を製造することができる。
【0051】
人工光合成モジュール30においても、上述の水素発生電極10と同じく、水素ガス生成部42に再生処理を施すことにより、水素ガス生成部42の水素発生の特性を初期の状態に近づけることができる。このため、長期にわたり、初期の特性を維持しつつ、電解水溶液AQを電気分解することができる。
人工光合成モジュール30において、再生処理を実施する場合、例えば、水素用電解室36内の電解水溶液AQを上述の電解液103に入換え、さらに、水素用電解室36内に参照電極105および対極106を配置し、水素ガス生成部42と参照電極105および対極106をポテンションスタット107に接続する。この場合も、水素用電解室36を遮光して、遮光した電解液103中で水素ガス生成部42に光が当たらない状態にし、この状態で、予め設定された掃引条件にて再生処理を実施する。
【0052】
これ以外も、例えば、容器32を取り外し可能とし、水素ガス生成部42を、電解液103で満たされたケース(図示せず)内に人工光合成モジュール30ごと浸漬し、ケース内に上述のように水素用電解室36内に参照電極105および対極106を配置し、水素ガス生成部42と参照電極105および対極106をポテンションスタット107に接続する。この場合も、ケースを遮光して、遮光した電解液103中で水素ガス生成部42に光が当たらない状態にし、この状態で、予め設定された掃引条件にて再生処理を実施する。
【0053】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の水素発生電極の再生方法について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0054】
以下、本発明の水素発生電極の再生方法の効果について詳細に説明する。
本実施例においては、本発明の効果を確認するために、以下に示す実験例1〜13および参考例の水素発生電極を作製した。
参考例の水素発生電極は、再生処理をしないものであり、再生処理の効果の判定の基準となるものである。
【0055】
実験例1〜13の水素発生電極について、下記表1に示すように、光照射の有無、掃引方法、掃引電位にて、再生処理を実施した。
そして、再生処理した実験例1〜13の水素発生電極および参考例の水素発生電極について、ABPE(Applied bias photon-to-current efficiency)(%)を測定し、その最大値を求めた。その結果を下記表1に示す。さらにABPEの最大値(%)を元にした判定結果を下記表1に示す。
なお、本実施例では、水素発生の特性の低下の目安にABPE(%)を用いた。
【0056】
判定基準は、参考例のABPEの最大値(%)をQ(%)とし、実験例1〜13のABPEの最大値(%)をP(%)とするとき、Q(%)+1.5(%)<P(%)であるものを「A」とし、Q(%)<P(%)≦Q(%)+1.5(%)であるものを「B」とし、P(%)≦Q(%)であるものを「C」とした。
なお、ABPE(%)は、疑似太陽光を水素発生電極に照射し、ポテンショスタットを用いた3電極系にて測定した。ABPE(%)の測定条件を以下に示す。
【0057】
光源:ソーラーシミュレーター(AM1.5G) 三永電機製作所製 XES−70S1
電解液:0.5M Na
2SO
4+0.25M Na
2HPO
4+0.25M NaH
2PO
4 pH7
電気化学測定置:ポテンショスタット 北斗電工製 HZ−5000
参照電極:Ag/AgCl電極
対極:白金ワイヤー
作用極:水素発生電極
以下、実験例1〜13および参考例について説明する。
【0058】
(実験例1)
実験例1の水素発生電極は、
図1に示す水素発生電極10と同じ構成である。各部の構成は以下の通りである。実験例1の水素発生電極は、導電層に導線を接続した後、露出している部分をエポキシ樹脂で覆って絶縁した。実験例1では、
図2に示す再生処理装置100を用い、光源を用いて水素発生電極に光を照射した状態で、電解液中にて、水素発生電極の電位を、掃引電位0.9V
RHEまで掃引した。掃引方法は、0V
RHE→0.9V
RHE→0V
RHEと繰り返す方法とした。このように、低い電位、正の電位、低い電位、正の電位と繰り返す掃引方法を表1ではCVと表記する。
掃引速度は50mV/秒とした。電解液には、pH7に調整した、0.5M Na
2SO
4、0.25M Na
2HPO
4、および0.25M NaH
2PO
4の電解質と純水からなる電解液を用いた。なお、ABPE(%)の測定は、上述の通りである。
<水素発生電極の構成>
絶縁基板:ソーダライムガラス、1mm厚
導電層:Mo、500nm厚
p型半導体層:CIGS、1500nm厚
n型半導体層:CdS、50nm厚
助触媒:Pt(真空蒸着法)
【0059】
(実験例2〜13)
実験例2〜13は、実験例1の水素発生電極と同じ構成であり、すなわち、
図1に示す水素発生電極10と同じ構成である。実験例2〜13は、実験例1に比して、光照射の有無、掃引方式、および掃引電位が下記表1に示す点であること以外は、実験例1の水素発生電極と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
なお、表1のLSVとは、掃引電位を、低い電位から正の電位に一方向で掃引する方法のことをいう。
(参考例)
参考例は、実験例1の水素発生電極と同じ構成であり、すなわち、
図1に示す水素発生電極10と同じ構成である。参考例は、実験例1に比して、再生処理を施していないこと以外は、実験例1の水素発生電極と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0060】
【表1】
【0061】
上記表1に示すように、実験例1〜13から、光の照射がない実験例3〜6および実験例8〜13は、掃引方法がCVでもLSVでも十分な再生処理の効果を得ることができた。特に、掃引電位が1.3〜1.9V
RHE(実験例5、6、8〜13)では、掃引方法がCVでもLSVでも再生処理の効果が優れていた。
一方、光の照射がある実験例1、2、7は、十分な再生処理の効果を得ることができなかった。