【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人科学技術振興機構 研究成果 展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記検体は、細胞外小胞体、あるいは、前記細胞外小胞体の表面に存在する分子に特異的に結合する特異的結合物質と前記細胞外小胞体とが相互作用してなる、特異的結合物質−細胞外小胞体複合体を含む
請求項1〜10のいずれか一項に記載の電気泳動分析チップ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
一実施態様において、本発明は、検体を分析する際に用いられる電気泳動分析チップを提供する。検体としては、細胞、細胞外小胞体、微粒子、ラテックス粒子(抗体で修飾され、さらに細胞で修飾されたラテックス粒子を含む)、高分子ミセル等が挙げられる。本実施形態では、電気泳動分析チップとして、細胞外小胞体を分析するための細胞外小胞体分析チップを用いる場合について説明する。本明細書において、細胞外小胞体とは、エクソソーム(エキソソーム)、アポトーシス小体、マイクロベシクル等を含む、脂質小胞を意味するものとする。以下に、エクソソームを分析する場合を例として、本実施形態に係る細胞外小胞体分析チップ(電気泳動分析チップ)について説明する。
【0012】
[エクソソーム]
エクソソーム(エキソソーム)は、直径30〜100nm程度の脂質小胞であり、エンドソームと細胞膜との融合体として、腫瘍細胞、樹状細胞、T細胞、B細胞等、種々の細胞から、血液、尿、唾液等の体液中に分泌される。
生体内に存在する癌細胞等の異常細胞は、その細胞膜に特有のタンパク質を発現している。エクソソームは細胞の分泌物であり、その表面に分泌源の細胞由来のタンパク質を発現している。
【0013】
そこで、エクソソームの表面に発現しているタンパク質を分析することで、分泌源の細胞の異常を検出することができる。ここで、エクソソームの表面とは、細胞から分泌される脂質小胞の膜表面であって、分泌されたエクソソームが生体内の環境と接する部分をいう。
【0014】
エクソソームは、生体内で循環している血液中で検出されるため、エクソソームを分析することで、バイオプシー検査をしなくとも、生体内の異常を検出することができる。
【0015】
[エクソソームの分析]
細胞外小胞体分析チップを用いたエクソソームの分析は、一例として次のようにして行うことができる。まず、検出対象のエクソソームを精製する。次に、エクソソームと特異的結合物質とを接触させる。ここで、特異的結合物質とは、エクソソームの表面に存在する分子に特異的に結合することができる物質を意味し、詳細は後述する。次に、細胞外小胞体分析チップを用いて、エクソソームのゼータ電位を計測し、分析を行う。本分析は、エクソソームに限らず、広く細胞外小胞体一般の分析にも適用できる。
【0016】
(特異的結合物質)
特異的結合物質としては、例えば、抗体、改変抗体、アプタマー、リガンド分子等が挙げられる。抗体としては、IgG、IgA、IgD、IgE、IgM等が挙げられる。IgGとしては、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4等が挙げられる。IgAとしては、IgA1、IgA2等が挙げられる。IgMとしては、IgM1、IgM2等が挙げられる。改変抗体としては、Fab、F(ab’)
2、scFv等が挙げられる。アプタマーとしては、ペプチドアプタマー、核酸アプタマー等が挙げられる。リガンド分子としては、エクソソームの表面に存在する検出対象分子が、レセプタータンパク質である場合の、当該レセプタータンパク質のリガンド等が挙げられる。例えば、エクソソームの表面に存在する分子がインターロイキンである場合、リガンド分子としてはGタンパク質等が挙げられる。
【0017】
また、特異的結合物質は、標識物質で標識されていてもよい。標識物質としては、例えば、ビオチン、アビジン、ストレプトアビジン、ニュートラビジン、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ、グルタチオン、蛍光色素、ポリエチレングリコール、メリト酸等の電荷分子等が挙げられる。
【0018】
(エクソソームの精製)
本分析の各工程について説明する。まず、エクソソームを含有する試料から該エクソソームを精製する。試料としては、目的に応じて、血液、尿、母乳、気管支肺胞洗浄液、羊水、悪性滲出液、唾液、細胞培養液等が挙げられる。中でも、血液及び尿からは、エクソソームを精製しやすい。
【0019】
エクソソームを精製する方法としては、超遠心分離、限外ろ過、連続フロー電気泳動、クロマトグラフィー、μ−TAS(Micro−Total Analysis Systems)デバイスを使用する方法等が挙げられる。
【0020】
(エクソソームと特異的結合物質との反応)
次に、エクソソームと特異的結合物質(抗体、アプタマー等)とを接触させる。エクソソームの表面に検出対象の分子が存在した場合、特異的結合物質−エクソソーム複合体が形成される。特異的結合物質を適切に選択することにより、例えば、癌、肥満、糖尿病、神経変性疾患等の疾患に関連する異常を検出することができる。詳細については後述する。
【0021】
(ゼータ電位の計測)
一例として、特異的結合物質として抗体を使用した場合について説明する。エクソソームと抗体とを反応させた後、抗体と反応させたエクソソームのゼータ電位を計測する。ゼータ電位とは、溶液中の微粒子の表面電荷である。例えば、エクソソームが負に帯電しているのに対し、抗体は正に帯電している。このため、抗体−エクソソーム複合体のゼータ電位は、エクソソーム単独のゼータ電位と比較して正にシフトしている。したがって、抗体と反応させたエクソソームのゼータ電位を測定することによって、エクソソームの膜表面における抗原の発現を検出することができる。これは、抗体に限らず、正に帯電した特異的結合物質でも同様である。
【0022】
エクソソームのゼータ電位ζは、一例として、細胞外小胞体分析チップのマイクロ流路内で、エクソソームの電気泳動を行い、エクソソームの電気泳動速度Sを光学的に測定し、測定されたエクソソームの電気泳動速度Sに基づいて、以下の式(1)に示すスモルコフスキー(Smoluchowski)の式を用いて算出することができる。
U=(ε/η)ζ …(1)
式(1)中、Uは測定対象のエクソソームの電気泳動移動度、ε及びηは、それぞれ、サンプル溶液の誘電率及び粘性係数である。また、電気泳動移動度Uは、電気泳動速度Sをマイクロ流路内の電界強度で除して算出することができる。
【0023】
エクソソームの電気泳動速度Sは、一例として、エクソソームを、細胞外小胞体分析チップのマイクロ流路内で電気泳動し、一例として、レーザー光を、マイクロ流路内を流れるエクソソームに照射して、レイリー散乱光による粒子画像を取得することにより、測定することができる。レーザー光としては、一例として、波長488nm、強度50mWのものが挙げられる。
【0024】
[細胞外小胞体分析チップの基本構造]
図1は、細胞外小胞体分析チップの基本構造を示す斜視図である。
図2は、
図1のII−II線断面図である。細胞外小胞体分析チップ100は、第1リザーバー110と、第2リザーバー120と、第1リザーバー110と第2リザーバー120とを接続する泳動流路150と、基材160とを備えている。泳動流路150は、例えば、ミリ流路やマイクロ流路である。泳動流路150は、一例として、幅200μm、高さ50μm、長さ1000μm程度の大きさである。泳動流路150は、細胞外小胞体、あるいは、細胞外小胞体の表面に存在する分子に特異的に結合する特異的結合物質と細胞外小胞体とが相互作用してなる、特異的結合物質−細胞外小胞体複合体(一例として、抗体−エクソソーム複合体)を電気泳動するものである。特異的結合物質の一例として、抗体、アプタマー、またはこれらの組み合わせからなるものが挙げられる。アプタマーは例えば、核酸アプタマー、ペプチドアプタマーなどである。特異的結合物質が認識する分子としては、例えば抗原、膜タンパク質、核酸、糖鎖、糖脂質等が挙げられる。
泳動流路150は、その一方の端部が第1のリザーバー部と接続され、その他方の端部が第2リザーバー120と接続されている。また、第1リザーバー110及び第2リザーバー120は、基材160に設けられ、それぞれ電極130及び電極140を有している。例えば、電極130は第1リザーバー110の底部に設けられ、電極140は第2リザーバー120の底部に設けられている。
図2に示すように、電極130及び電極140は、それぞれ泳動流路150の端部の近傍に設けられている。また、例えば、第1リザーバー110は検体(例、分析対象のエクソソーム)が導入され、第2リザーバー120は緩衝液が導入される。なお、その緩衝液は第1リザーバー110に導入されてもよい。
【0025】
本細胞外小胞体分析チップ100は、細胞外小胞体のゼータ電位を計測するのに好適である。以下に、検体又は細胞外小胞体としてエクソソームを分析する場合を例として、本細胞外小胞体分析チップを用いた、エクソソームのゼータ電位の測定方法について説明する。
【0026】
まず、分析対象のエクソソームを含む試料液が、第1リザーバー110に導入される。分析対象のエクソソームは、特異的結合物質と反応させたものであってもよい。エクソソームは例えば培養上清や血清から抽出したものであり、試料液は、例えば、リン酸緩衝液(Phosphate Buffered Saline、PBS)等の緩衝液にエクソソームが懸濁されたエクソソーム懸濁液である。次に、エクソソームを含む試料液が泳動流路150に導入される。一例として、シリンジを第2リザーバー120に接続して試料液を吸引することにより、エクソソームを泳動流路150に導入することができる。次に、緩衝液を、第1リザーバー110及び第2リザーバー120に入れる。後述する液位調整手段により、第1リザーバー110と第2リザーバー120との液位(液面高)を調整して揃え、泳動流路150に生じる静水圧流の発生を防ぎ、ゼータ電位測定の精度を向上させることが可能となる。続いて、制御部(例、後述の制御部CONT、又はコンピュータ1513など)によって電極130及び140の間に電圧を印加し、エクソソームを電気泳動する。一例として、制御部は約50V/cmの電界強度の電圧を約10秒間印加する。
【0027】
電気泳動中に、泳動流路150にレーザー光を照射し、泳動流路150からの出射光であるエクソソームを介した散乱光を、対物レンズ等を用いて集光し、受光センサ(例、高感度カメラ)を用いて、エクソソーム又は特異的結合物質−エクソソーム複合体を撮影する。対物レンズの倍率は、一例として60倍程度である。レーザーの波長及び強度は、一例として、波長488nm、強度50mWである。
【0028】
続いて、制御部は、撮影した画像をもとに、エクソソーム又は特異的結合物質−エクソソーム複合体の電気泳動速度Sを算出する。そして、制御部は、電気泳動速度Sを電界強度で除して、電気泳動移動度Uを算出する。続いて、制御部は、上述したスモルコフスキーの式を用いて、エクソソーム又は特異的結合物質−エクソソーム複合体のゼータ電位を算出する。
【0029】
本実施形態における細胞外小胞体分析チップを用いることにより、特異的結合物質−エクソソーム複合体のゼータ電位の平均値だけでなく、特異的結合物質−エクソソーム複合体のゼータ電位を1粒子レベルで計測することができる。そのため、ゼータ電位の平均値からは、特異的結合物質が認識する分子(例えば、抗原等)を有するエクソソームが試料中に存在しないように思われる場合であっても、マイナーポピュレーションとして存在する、該抗原を有するエクソソームを検出することができる。
【0030】
[電気泳動分析チップの第1実施形態]
図3は、一実施態様に係る電気泳動分析チップ300を示す外観斜視図である。
図4は、
図3のIV−IV線断面図である。本実施形態の電気泳動分析チップ300は、順次積み重ねられたリザーバー部材10、流路部材30及び基板50を備えている。例えば、本実施形態における電気泳動分析チップ300は、少なくともリザーバー部材10、流路部材30及び基板50で構成された、積層構造(積層体)である。この場合、電気泳動分析チップの積層構造は三層構造となっている。また、例えば、このような電気泳動分析チップの積層構造は、リザーバー部材10と、流路部材30と、基板50とを互いに貼りあわせて形成される。
【0031】
なお、以下の説明においては、リザーバー部材10、流路部材30及び基板50が順次積み重ねられる方向をZ方向(Z軸)、リザーバー部材10、流路部材30及び基板50の長さ方向をY方向(Y軸)、Z方向及びY方向と直交するリザーバー部材10、流路部材30及び基板50の幅方向をX方向(X軸)として適宜説明する。
【0032】
リザーバー部材10は、外力などによって少なくとも一方向に弾性変形可能な材料で形成される。リザーバー部材10の材料には、一例として、エラストマーであり、シリコーンゴム、PDMS(ポリジメチルシロキサン)などが挙げられる。リザーバー部材10は、直方体形状の基材15に形成された第1リザーバー11及び第2リザーバー21を備えている。第1リザーバー11及び第2リザーバー21は、Y方向に間隔をあけて配置されている。例えば、第1リザーバー11及び第2リザーバー21は、泳動流路33の流路方向に間隔をあけて配置されている。リザーバー部材10には、第1リザーバー11と第2リザーバー21との間に、Z方向に貫通する平面視矩形状の貫通孔16が設けられている。
【0033】
第1リザーバー11は、XY平面と平行な面での断面が円形状でZ方向に延在し基材を貫通する第1保持空間12を備えている。第1保持空間12は、第1内壁面13に囲まれて形成されている。第1保持空間12は、リザーバー部材10の上面(第1面)10aに開口している。第1面10aには、第1保持空間12の開口部の周囲を 取り囲んで区画する第1突条14が、一例として、高さ数百μmで突設されている。第1突条14は、
図3に示すように、第1保持空間12と同一軸線周りに形成された平面視円弧形状の円弧部分14aと、円弧部14aの端部間を接続する弦状の直線部14bとを備えている。円弧部14aは、第1保持空間12の−Y側に配置される。直線部14bは、第1保持空間12の+Y側に配置される。
図4に示すように、直線部14bの内周面の一部は、第1保持空間12を形成する第1内壁面13を構成している。第1保持空間12の上面10aに開口する部分には、第1保持空間12を形成する直線部14bの内周面の一部を除いて、一例として、高さ1mmで面取りが形成されている。
【0034】
第2リザーバー21は、XY平面と平行な面での断面が円形状でZ方向に延在し基材を貫通する第2保持空間22を備えている。第2保持空間22は、第2内壁面23に囲まれて形成されている。第2保持空間22は、リザーバー部材10の上面10aに開口している。第1面10aには、第2保持空間22の開口部の周囲を 取り囲んで区画する第2突条24が突設されている。第2突条24は、
図3に示すように、第2保持空間22と同一軸線周りに形成された平面視円弧形状の円弧部分24aと、円弧部24aの端部間を接続する弦状の直線部24bとを備えている。円弧部24aは、第2保持空間22の+Y側に配置される。直線部24bは、第2保持空間22の−Y側に配置される。
図4に示すように、直線部24bの内周面の一部は、第2保持空間22を形成する第2内壁面23を構成している。第2保持空間22の上面10aに開口する部分には、第2保持空間22を形成する直線部24bの内周面の一部を除いて、一例として、高さ1mmで面取りが形成されている。
【0035】
基材15における第1リザーバー11よりも+Y側には、上面10aと平行で上面10aよりも−Z側に位置する上面10cが露出して設けられている。上面10aの+Y側の端縁と、上面10cの−Y側の端縁とは、ZX面と平行な側面(第2面)10dで接続される。側面10dの少なくともY方向(例、流路方向)の位置は、当該側面10dに負荷を加えたとときに、側面10dと対向する第1内壁面13が弾性変形可能な厚さとなるように設定されている(一例として、1mm程度)。側面10dには、第1内壁面13が容易に弾性変形可能なように、
図3に示すように、直線部14bと当該直線部14b以外の部分を分離する切込み17が設けられている。切込み17は、上面10aから上面10cに達する厚さで、側面10dから−Y側に向かうに従って漸次幅が小さくなる楔形状に形成されている。
【0036】
流路部材30は、第1保持空間31(流路部材側の第1保持空間)、第2保持空間32(流路部材側の第2保持空間)及び泳動流路33を備えている。第1保持空間31は、第1保持空間12と連通する位置に、Z方向に貫通して設けられている。第2保持空間32は、第2保持空間22と連通する位置に、Z方向に貫通して設けられている。泳動流路33は、基板50と対向する側の面30aに第1保持空間31と第2保持空間32とを接続するように設けられている。泳動流路33は、一例として、幅200μm、高さ50μm、長さ1000μm程度の大きさに形成されている。流路部材30は、一例として、リザーバー部材10と同様に、PDMSで形成されるが、後述するように、流路部材30には直接的に液位調整のための負荷が加わらないため、剛性が大きいプラスチック材で形成してもよい。
【0037】
基板50は、リザーバー部材10及び流路部材30よりもY方向の外側にそれぞれ延出する長さを有している。基板50の流路部材30と対向する面50aには、電極51及び電極52が流路部材30に対して露出して設けられている。電極51は一端が第1保持空間31に臨み、他端がリザーバー部材10及び流路部材30よりも+Y側に延出して露出するように設けられる。電極52は一端が第2保持空間32に臨み、他端がリザーバー部材10及び流路部材30よりも−Y側に延出して露出するように形成される。電極51及び電極52の素材としては、金、白金、カーボン等が挙げられる。
【0038】
上記のリザーバー部材10は、一例として、PDMS(東レダウコーニング(株)製 SILPOT 184)主剤と架橋剤を10:1の割合に混合し脱気させることと、PDMSを樹脂製の鋳型に注型することと、80℃で7時間加熱して固化させることで作製される。上記の流路部材30は、一例として、リザーバー部材10の作製で用いたPDMSと同じ組成のPDMSを、幅200μm、長さ40mmの立方体からなる流路モールドを有するガラス材に流して込み加熱硬化させ、硬化後に流路モールドから引き剥がすことにより作製することができる。上記の基板50は、一例として、ガラス基板にスパッタリング加工等により電極51及び電極52を形成することで作製される。一例として、リザーバー部材10、流路部材30及び基板50をそれぞれプラズマ照射して貼り合わせることにより、第1リザーバー11の第1保持空間12、31と、第2リザーバー21の第2保持空間22、32とが泳動流路33を介して接続された電気泳動分析チップ300が作製される。
【0039】
なお、
図3及び
図4では図示はしていないが、電気泳動分析チップ300には第1保持空間12の開口部及び第2保持空間22の開口部を覆うカバーが設けられていてもよい。ただし、カバーは、第1保持空間12及び第2保持空間22を密封するものではなく、第1保持空間12及び第2保持空間22を大気開放した状態で覆う構成となっている。第1保持空間12の開口部及び第2保持空間22の開口部がカバーで覆われることにより、検体による周囲の汚染又は周囲環境による検体の汚染を防止することができる。
また、カバーに、一例として、第1突条14及び第2突条24と嵌合する窪みを設け、当該窪みを第1突条14及び第2突条24と嵌合させることにより、カバーを電気泳動分析チップ300に位置決めした状態で第1保持空間12の開口部及び第2保持空間22の開口部を覆うことが可能となる。
【0040】
次に、上記の電気泳動分析チップ300を用いて検体を計測する前に、第1リザーバー11及び第2リザーバー21の液位を調整する手順について説明する。
まず、検体を含む液体(以下、適宜、検体液と称する)を第2リザーバー21の第2保持空間22に滴下する。このとき、検体液は、上面10aにおける第2保持空間22の開口部(検体導入口)を介して第2保持空間22に導入される。次に、第1リザーバー11の第1保持空間12に、例えばシリンジを挿して検体液を吸引することにより、泳動流路33に検体液を導入する。次に、第2リザーバー21の第2保持空間22に滴下した検体液と同じ検体液を、第1リザーバー11の第1保持空間12に滴下して、泳動流路33を挟んで第1保持空間12、31及び第2保持空間22、32が検体液でつながった状態とする。
【0041】
このとき、第2保持空間22、32に保持された検体液の液位が第1保持空間12、31に保持された検体液の液位よりも高いと、泳動流路33においては静水圧により第2保持空間22、32から第1保持空間12、31に向けて検体を含む検体液が流動する。泳動流路33における検体(粒子)の流動は、上述した粒子画像により確認することができる。この場合、リザーバー部材10の側面10dのうち、第1内壁面13との間の厚さが最も薄くなる、第1保持空間12の軸線を含むY軸と側面10dとが交差する位置を、液位調整部としての負荷部1(
図3及び
図4参照)とし、スティック状の負荷付与部材Sfによって負荷部1に−Y方向に向けて負荷を付与する。なお、例えば、負荷付与部材Sfは、後述の電気泳動分析装置に設けられている。
【0042】
負荷付与部材Sfによって負荷部1に−Y方向への負荷が付与されると、
図5に示すように、第1内壁面13のうち、他の箇所よりも薄くなっている、主として負荷部1と対向する位置の第1内壁面13が第1可撓部13aとして弾性変形して第1保持空間12の内部に膨出する。側面10dは、直線部14bと当該直線部14b以外の部分とが切込み17によって分離されているため、負荷部1に負荷を付与する際、付与した負荷は実質的にほぼ全てが第1内壁面13を弾性変形させるための力として寄与し、必要最小限の負荷で第1内壁面13を弾性変形させることができる。負荷付与部材Sfによって付与される負荷は、他の箇所よりも薄い負荷部1の弾性変形に費やされるため、リザーバー部材10の他の箇所の変形、及び流路部材30の泳動流路33の変形が抑制される。
【0043】
第1保持空間12の容積は、第1可撓部13aが第1保持空間12の内部に膨出することにより減少する。すなわち、負荷付与部材Sfによって負荷部1に−Y方向への負荷を付与することにより、第1保持空間12の容積が調整される。第1保持空間12に保持されている検体液の液位は、第1保持空間12の容積変化に応じて上昇(変位)する。従って、負荷付与部材Sfによる負荷部1への−Y方向への負荷を調整して、第1保持空間12の容積を調整することにより、第1保持空間12に保持されている検体液の液位を調整することができる。検体液の液位が調整され第1保持空間12における検体液の液位と、第1保持空間12における検体液の液位と第2保持空間22における検体液の液位とが面一となったことは、泳動流路33における検体(粒子)の流動が停止したことを、上述した粒子画像により確認することができる。
【0044】
第1保持空間12に保持されている検体液の液位が上昇することにより、検体液が第1保持空間12から溢れる可能性があるが、第1保持空間12の開口部の周囲に第1突条14が突設されているため、検体液が第1リザーバー11から漏れ出すことを抑制できる。また、本実施形態の電気泳動分析チップは、第1保持空間12の外側から負荷部1に対する負荷を負荷付与部材Sfによって調整して、第1保持空間12の容積を調整することにより、第1保持空間12に保持されている検体液の液位を調整することができる。
【0045】
[実施例]
平均粒子径約100nmのラテックス粒子を10
10個/ml含む検体液を第2リザーバー21の第2保持空間22に滴下した後に、例えばシリンジを用いて泳動流路33に検体液を導入した。次に、第2リザーバー21の第2保持空間22に滴下した検体液と同じ検体液を、第1リザーバー11の第1保持空間12に滴下した。ここで、例えば、貫通孔16を介して泳動流路33にレーザー光を照射して、泳動流路33内の検体(ラテックス粒子)の散乱光を顕微鏡(一例として暗視野顕微鏡)で観察した。泳動流路33内には、ブラウン運動しながら第2リザーバー21から第1リザーバー11に向かう方向に流動する検体(ラテックス粒子)が無数に観察された。
【0046】
顕微鏡で検体の流動を観察しながら負荷付与部材Sfを用いて負荷部1に−Y方向への負荷を付与して押し込んだところ、第1保持空間12に保持された検体液の液位が上昇し泳動流路33内の検体の流速が変化した。
図6は、直径4mm、高さ(深さ)3mmの第1保持空間12、31及び第2保持空間22、32を有する電気泳動分析チップ300を用いたときの、負荷部1への押し込み距離と流路内速度との関係を示す図である。
図6に示されるように、負荷部1への押し込み距離が大きくなるほど、泳動流路33内の検体の流速は小さくなることが確認された。この場合、負荷部1への押し込み距離は、負荷部1に負荷を付与して押し込んだときのY方向の位置変化である。
【0047】
さらに、負荷部1への押し込み量を増加させたところ、泳動流路33内の検体の第2リザーバー21から第1リザーバー11に向かう方向への流動は停止し、検体のブラウン運動のみが観察された。負荷部1に負荷を付与して検体の流動を停止させるために要した時間は、従来のように、例えばピペットを用いて第1リザーバー11または第2リザーバー21に対して検体液の継ぎ足しまたは吸引を適宜繰り返した場合には5分程度であったが、本実施形態の電気泳動分析チップ300を用いた場合には1分程度であった。
【0048】
このように、泳動流路33内の検体の流動が停止すると、上述したように、泳動流路33での検体の電気泳動速度Sを光学的に測定してゼータ電位を高精度に計測することが可能になる。
【0049】
以上説明したように、本実施形態では、負荷部1に負荷を付与して第1内壁面13(第1可撓部13a)を弾性変形させるという簡単な操作で第1保持空間12に保持された検体液の液位を容易に調整することが可能となる。そのため、本実施形態では、装置が大掛かりになることなく泳動流路33内の検体の流動を停止または低減させることができ、検体の分析を簡素な構成で高精度に行うことができる。また、熟練した技術者でなくとも、保持空間12に負荷を加えて変形させるという簡便な操作のみで、保持空間12の容積を変更し、第1保持空間の液位と第2保持空間の液位との高さを揃え、泳動流路33内の検体の流動を停止または低減させることができる。
本実施形態では、側面10dが切込み17によって分離されているため、負荷部1に負荷を付与する際、必要最小限の負荷で第1内壁面13を効率的に弾性変形させることができる。本実施形態では、第1突条14が第1保持空間12の開口部の周囲を取り囲み、第2突条24が第2保持空間22の開口部の周囲を取り囲んでいるため、検体の溢出を抑制することが可能である。また、本実施形態では、負荷付与部材Sfによって付与される負荷は、主として、他の箇所よりも薄い部分の負荷部1の弾性変形に費やされるため、負荷付与部材Sfによって付与される負荷によってリザーバー部材10の他の箇所、及び、流路部材30の泳動流路33が変形するがことを抑制できる。
【0050】
なお、上記第1実施形態で説明した検体液の液位調整は、第1リザーバー11の第1保持空間12に保持された検体液の液位を上昇させる方向の調整となるため、第1保持空間12に検体液を滴下する際には、第2リザーバー21の第2保持空間22に保持される液体の液位よりも低くすることが好ましい。また、液位調整時の負荷部1となる側面10d(及び上面10c)を第2リザーバー21側についても設けることも可能である。負荷部1を第1リザーバー11及び第2リザーバー21の双方に設けた場合は、検体液の液位が第1リザーバー11の第1保持空間12あるいは第2リザーバー21の第2保持空間22のどちらが高い場合でも、液位が低い方の負荷部1に負荷を付与することで、検体液の液位を調整することにより、泳動流路33内の検体の流動を停止させることが可能となる。第2保持空間22に保持された検体液の液位を調整する場合(上昇させる場合)には、第2保持空間22の開口部から検体液が溢れ出る可能性があるが、第2保持空間22の開口部の周囲に第2突条24が突設されているため、検体液が第2リザーバー21から漏れ出すことを抑制できる。
【0051】
[電気泳動分析チップの第2実施形態]
次に、電気泳動分析チップ300Aの第2実施形態について、
図7及び
図8を参照して説明する。これらの図において、
図1乃至
図6に示す第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0052】
図7及び
図8は、第2実施形態に係る電気泳動分析チップ300Aの断面図である。
図7に示す電気泳動分析チップ300Aの第1リザーバー11は、上面10a設けられた第1筒部18を備える。第1筒部18は、第1保持空間12と軸線を合致させて設けられている。第1筒部18の内周面18aは、第1内壁面13と面一に形成されている。第1筒部18の内周面18aは、第1内壁面13の一部を形成する。第1筒部18の厚さは、外周面18bに負荷が付与されたときに内周面18aが弾性変形して第1保持空間12に膨出可能な厚さに設定されている。
【0053】
電気泳動分析チップ300Aの第2リザーバー21は、上面10a設けられた第2筒部28を備える。第2筒部28は、第2保持空間22と軸線を合致させて設けられている。第2筒部28の内周面28aは、第2内壁面23と面一に形成されている。第2筒部28の内周面28aは、第2内壁面23の一部を形成する。第2筒部28の厚さは、外周面28bに負荷が付与されたときに内周面28aが弾性変形して第2保持空間22に膨出可能な厚さに設定されている。
他の構成は、上記第1実施形態と同様である。
【0054】
上記構成の電気泳動分析チップ300Aにおいて、検体液の液位を調整する手順について説明する。
一例として、第2リザーバー21の第2保持空間22に保持された検体液の液位が、第1リザーバー11の第1保持空間12に保持された検体液の液位よりも高い場合、静水圧流によって泳動流路33内では検体が第2リザーバー21から第1リザーバー11に向かう方向へ流動する。検体が第2リザーバー21から第1リザーバー11に向かう方向へ流動する場合は、
図8に示すように、第1リザーバー11の第1筒部18に対して負荷を付与する。例えば、第1筒部18の外周面18aの一部を負荷部1として、負荷付与部材Sfによって負荷を付与する。
【0055】
負荷部1として外周面18bに負荷を付与すると、第1筒部18は、負荷部1と対向する位置の内周面18aが第1可撓部として第1保持空間12内に倒れ込むように弾性変形する。内周面18aが第1保持空間12内に弾性変形することにより、第1保持空間12の容積が減少する。第1保持空間12の容積が減少することによって、第1保持空間12に保持されていた検体液の液位が上昇する。従って、上記と同様に、顕微鏡を観察しつつ、負荷部1への負荷付与量、すなわち、負荷付与部材Sfによる外周面18bへの押し込み量を調整することにより、第1保持空間12及び第2保持空間22間の検体液の液位差が解消される。その結果、第1保持空間12及び第2保持空間22間の検体液の液位差に起因して生じる泳動流路33内の検体流動が抑えられる。
【0056】
上記とは逆に、第1リザーバー11の第1保持空間12に保持された検体液の液位が、第2リザーバー21の第2保持空間22に保持された検体液の液位よりも高い場合、静水圧流によって泳動流路33内では検体が第1リザーバー11から第2リザーバー21に向かう方向へ流動する。この場合には、第2リザーバー21の第2筒部28の外周面28bに対して負荷部1として負荷を付与して、内周面28aを第1可撓部として第2保持空間22内に弾性変形させることにより、上記と同様に、第1保持空間12及び第2保持空間22間の検体液の液位差を解消して、第1保持空間12及び第2保持空間22間の検体液の液位差に起因して生じる泳動流路33内の検体流動を抑えることができる。
【0057】
本実施形態の電気泳動分析チップ300Aでは、上記第1実施形態と同様の作用・効果が得られることに加えて、第1保持空間12または第2保持空間22のいずれの検体液の液位が高い場合でも容易に液位を調整することが可能になる。さらに、本実施形態では、負荷部1である第1筒部18及び第2筒部28が筒状であり均一の厚さで形成されているため、上記第1実施形態のように、厚さが薄い負荷部1が特定箇所にある場合と比較して、負荷を付与する位置によって負荷の付与量に変動が生じることなく安定して負荷を付与することが可能になる。
【0058】
[電気泳動分析装置の第1実施形態]
次に、電気泳動分析チップを保持して電気泳動分析を行う電気泳動分析装置の第1実施形態について、
図9〜
図11を参照して説明する。これらの図において、
図1乃至
図6に示す電気泳動分析チップ300の第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
図9は、電気泳動分析チップ300Bを保持する電気泳動分析装置400の概略的な構成図である。
図10は、本実施形態で用いられる電気泳動分析チップ300Bの外観斜視図である。
【0059】
電気泳動分析装置400は、保持部410、計測部420、430、変位部440及び制御部CONTを備えている。
保持部410は、電気泳動分析チップ300Bの基板50の周縁部を−Z側から保持するとともに、基板50の側面をY方向の両側から保持する。保持部410は、電気泳動分析チップ300Bを保持して少なくともX方向に移動可能である。
【0060】
図10に示すように、電気泳動分析チップ300Bは、第1実施形態で説明した電気泳動分析チップ300と比較して、第1リザーバー11、第2リザーバー21、泳動流路33、電極51、52及び第1突条14、第2突条24をそれぞれ有するレーンがX方向に複数(
図10では4レーン)配列されている。すなわち、電気泳動分析チップ300Bは、Y方向に延在する複数(
図10では4つ)の泳動流路33が互いに平行に、X方向に間隔をあけて設けられている。電気泳動分析チップ300Bの側面10dには、X方向で隣り合う第1リザーバー11の間を分離するように切込み17が設けられている。第1突条14は、各レーンにおける第1保持空間12の開口部を独立して区画するように当該開口部の周囲に突設される。第1突条24は、各レーンにおける第2保持空間22の開口部を独立して区画するように当該開口部の周囲に突設される。貫通孔16は、第1リザーバー11と第2リザーバー21との間に複数(5つ)のレーンに跨る大きさで形成されている。
【0061】
計測部420は、光照射部421と検出部422と移動度算出部(図示せず)とを含む。光照射部421は、貫通孔16を介して+Z側から泳動流路33に光を照射する。検出部422は、泳動流路33における検体を検出する。移動度算出部は、検出部422の検出結果から検体の移動度からゼータ電位を算出する。
【0062】
計測部(第2計測部)430は、液位センサ431、432を備えている。液位センサ431は、一例として、第1保持空間12に保持された検体液に検知光を投光し、液面で反射した光を受光することにより、当該第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報を検出する。液位センサ431は、検出した検体液の液位に関する情報を制御部CONTに出力する。液位センサ432は、一例として、第2保持空間22に保持された検体液に検知光を投光し、液面で反射した光を受光することにより、当該第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報を検出する。液位センサ432は、検出した検体液の液位に関する情報を制御部CONTに出力する。
【0063】
制御部CONTは、液位センサ431によって検出された第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報、及び液位センサ432によって検出された第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報を表示装置DPに表示させる。
【0064】
図11は、電気泳動分析チップ300B、保持部410及び変位部440が示される平面図である。
変位部440は、複数のレーンの負荷部1を用いて第1保持空間12に保持された検体液の液位をレーン毎に変位可能である。変位部440は、保持枠441、押しゴマ442、443、変位調整ネジ444及び付勢部材445を備えている。押しゴマ442、443、変位調整ネジ444及び付勢部材445は、レーン毎に独立して設けられている。
【0065】
保持枠441は、X方向に延在する角筒形状を有している。保持枠441は、電気泳動分析チップ300Bにおける第1リザーバー11の+Y側に配置されている。保持枠441は、保持部410と一体的に設けられている。保持枠441における電気泳動分析チップ300Bと対向する側壁441aには、X方向に関して複数のレーンの負荷部1と同じ位置にY方向に貫通する孔部441bが形成されている。保持枠441における側壁441aと対向する側壁441cには、孔部441bと同軸で雌ネジ部441dが貫通して形成されている。
【0066】
押しゴマ442は、
図11に示すように、負荷部1と対向する−Y側の先端に鋭角のエッジ部が設けられている。押しゴマ442の+Y側は、押しゴマ443に一体的に固定されている。押しゴマ443は、軸部443aと係合部443bとを備えている。軸部443aは、孔部441bにY方向に移動自在に保持される。軸部443aは、係合部443bが側壁441cに係合したときに先端が側壁441aから突出する長さに形成されている。係合部443bは、軸部443aよりも大径に形成されている。係合部443bは、保持枠441の内部空間に配置されている。付勢部材445は、側壁441aと係合部443bとの間に配された、一例として、コイルバネで構成される。付勢部材445は、側壁441aに対して係合部443bが離間する方向(+Y側)に係合部443bを付勢する。変位調整ネジ444は、雄ねじ部444aとヘッド部444bとを備えている。雄ねじ部444aは、雌ネジ部441dと螺合している。ヘッド部444bは、側壁441cの+Y側の外側に配されている。
【0067】
上記構成の電気泳動分析装置400において、第1リザーバー11の液位を調整する際には、まず、液位調整を行うレーンに対応する変位調整ネジ444を回転する。ヘッド部444bを介して変位調整ネジ444を回転すると、雌ネジ部441dと螺合する雄ねじ部444aが、付勢部材445の付勢力に抗して雌ネジ部441d及び雄ねじ部444aのピッチと回転数に応じた移動量で−Y方向に移動する。
【0068】
変位調整ネジ444が−Y方向に移動すると、押しゴマ442及び押しゴマ443が−Y方向に移動する。押しゴマ443が−Y方向に移動することにより、押しゴマ443の先端部が調整対象レーンの負荷部1を押し込む。負荷部1が押し込まれて弾性変形すると、上述したように、第1保持空間12の容積が減ることにより、第1保持空間12に保持されている検体液の液位が上昇する。
【0069】
第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報は、液位センサ431によって検出される。第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報は、液位センサ432によって検出される。第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報及び第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報は制御部CONTを介して表示部DPに表示される。従って、作業者(オペレータ)は、表示部DPに表示される検体液の液位情報に応じて変位調整ネジ444の回転数及び回転方向を調整することにより、第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間12に保持された検体液の液位とを同一にすることができる。
【0070】
そして、他のレーンについても同様に、各レーンに対応する変位調整ネジ444の回転数及び回転方向を調整することにより、全てのレーンについて第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間12に保持された検体液の液位とを同一にすることができる。このようにして、第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間22に保持された検体液の液位との差が調整されると、上述したように、検出部422による泳動流路33における検体の検出と、移動度算出部によるゼータ電位の算出処理が行われる。
【0071】
以上説明したように、本実施形態の電気泳動分析装置400においては、複数レーンが設けられた電気泳動分析チップ300Bに対して、レーン毎に独立して第1保持空間12に保持された検体液の液位を調整することができる。そのため、本実施形態では、レーン毎に第1保持空間12及び第2保持空間22に保持された検体液の液位差に起因して生じる検体の流動を抑制することが可能となる。その結果、本実施形態では、複数のレーンが設けられる場合でも、誤差要因を低減した状態でレーン毎に検体の電気泳動速度を検出して、検体のゼータ電位を高精度に算出することが可能となる。また、本実施形態では、平行に並んだ複数レーンに対して、一方向(+Y側)からの加圧により液位調整を行っているため、装置構成の簡便化及び小型軽量化を図ることができる。また、本実施形態では、隣り合うレーンの間で切込み17を設けて負荷部1を分離しているため、各レーンにおける負荷部1に付与する負荷(弾性変形)の影響が他のレーンの負荷部1に及ぶことを抑制することができる。また、本実施形態では、レーン毎に第1保持空間12の開口部の周囲を第1突条14が区画し、各レーン毎に第2保持空間22の開口部の周囲を第2突条24が区画しているため、第1保持空間12に保持されている検体液と、第2保持空間22に保持されている検体液との少なくとも一方が開口部から溢れた場合でも、検体液が他のレーンで用いられている検体液と混じる、いわゆるコンタミが生じることを抑制できる。また、本実施形態において、電気泳動分析チップ300Bが配置され保持される保持部410と変位部440とは、保持部410に変位部440が設けられるような一体的に構成されていてもよい。この場合、保持部410には、電気泳動分析チップ300Bが配置される位置、かつ変位部440の押しゴマ442が負荷部1に接触可能な位置を示す位置決め部が予め設けられている。
【0072】
また、本実施形態では、第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報及び第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報が液位表示部DPに表示されるため、表示された液位情報を参照しながら変位部440を操作して微調整することができる。そのため、本実施形態では、マニュアル作業で液位調整を行う場合でも、検体液の液位差に起因して生じる検体の流動を容易に抑制することが可能となる。
また、上述した各実施形態における電気泳動分析チップは、第1リザーバー及び第2リザーバーを有するリザーバー部材と、該第1リザーバーと該第2リザーバーとを接続し検体が泳動する泳動流路を有する流路部材と、基板とで構成された積層構造であり、該リザーバー部材は該第1リザーバーに保持された液体と該第2リザーバーに保持された液体との少なくとも一方の液位が調整可能な液位調整部を備える。また、該第1リザーバーは第1保持空間を備え、該液位調整部は、該第1保持空間の容積を調整可能である。電気泳動分析チップは、リザーバー部材10と、流路部材30と、基板50とを順次積み重ね、貼り合わせることによって作製されるため、容易に製造することができ、また製造コストを抑えることが可能となる。また、各部材を重ねる際、リザーバー部材10と、流路部材30と、基板50のいずれか一つ以上の部材に、アライメントマーク(位置合わせ基準部)が設けられていてもよい。
【0073】
[電気泳動分析装置の第2実施形態]
次に、電気泳動分析装置の第2実施形態について、
図12及び
図13を参照して説明する。これらの図において、
図9乃至
図11に示す電気泳動分析装置400の第1実施形態の構成要素と同一の要素については同一符号を付し、その説明を省略する。
【0074】
図12は、一実施態様の電気泳動分析装置1500を示す模式図である。
電気泳動分析装置1500は、筐体1510と、電気泳動分析チップ導入口1520と、電気泳動分析チップ300Bを保持する保持部410と信号ケーブル1511と、コンピュータ1513と、オペレーションスクリーン1515とを備える。
【0075】
筐体1510内には、
図13に示すように、変位部440が設けられている。本実施形態における変位部440は、保持枠441及び押しゴマ443の構成と、押しゴマ443を駆動するアクチュエータが加わっている点が上記電気泳動分析装置400と異なる。
【0076】
保持枠441の側壁441cには、孔部441bと同軸で孔部441eが貫通して形成されている。押しゴマ443は、軸部443a、係合部443b及び軸部443cを備えている。軸部443cは、孔部441eにY方向に移動自在に保持されている。軸部443cは、付勢部材445に付勢されて係合部443bが側壁441cに当接したときに、側壁441cから+Y方向に突出する長さに形成されている。
【0077】
軸部443cの先端部と対向する位置には、アクチュエータ445が設けられている。アクチュエータ445は、制御部CONTの制御により、付勢部材445の付勢力に抗して押しゴマ443を−Y方向に移動させる力を軸部443cに付与する。
【0078】
上記構成の電気泳動分析装置1500は、以下のように動作する。まず、検査対象の検体を導入した、電気泳動分析チップ300Bを、保持部410にセットする。続いて、保持部410が矢印βの方向に移動することにより、電気泳動分析チップ300Bが、電気泳動分析装置1500の内部に移動する。
【0079】
筐体1510内に移動した電気泳動分析チップ300Bに対しては、第1リザーバー11の液位調整が行われる。
まず、制御部CONTは液位センサ431が検出した第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報及び液位センサ432が検出した第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報に基づいてアクチュエータ445の駆動量を求める。アクチュエータ445の駆動量は、一例として、押しゴマ442の押し込み量と第1保持空間12に保持された検体液の液位変化量との関係を予め保持したテーブル、あるいは当該関係に基づき導いた関数等を用いて求める。制御部CONTは、アクチュエータ445を駆動させ、押しゴマ442を介して負荷部1に負荷を付与した後に、液位センサ431、432の検出結果を確認し、第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間22に保持された検体液の液位との差が所定値内に収まるまで、上記アクチュエータ445の駆動と液位センサ431、432の検出結果の確認とを繰り返して行う(フィードバック制御する)。
【0080】
このようにして、第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間22に保持された検体液の液位との差が調整されると、上述したように、検出部422による泳動流路33における検体の検出と、移動度算出部によるゼータ電位の算出処理が行われる。
【0081】
以上説明したように、本実施形態の電気泳動分析装置1500では、上記第1実施形態の電気泳動分析装置400と同様の作用・効果が得られることに加えて、第1保持空間12に保持された検体液の液位に関する情報及び第2保持空間22に保持された検体液の液位に関する情報に応じて制御部CONTが変位部440を制御するため、容易、且つ迅速に検体液の液位差に起因して生じる検体の流動を抑制することが可能となる。
【0082】
以上、添付図面を参照しながら本発明に係る好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0083】
例えば、上記実施形態の電気泳動分析装置400、1500においては、第1リザーバー11について検体液の液位を調整する構成を例示したが、この構成に限定されるものではなく、第1リザーバー11及び第2リザーバー21の双方に変位部440を設け、検出された検体液の液位に応じて第1リザーバー11及び第2リザーバー21の一方、あるいは両方の液位を調整する構成としてもよい。
【0084】
上記実施形態では、電気泳動分析チップ300、300A、300Bの一部に押しゴマ442が当接して負荷を付与する構成としたが、この構成には限られない。例えば、
図14に示すように、第1保持空間12(または第2保持空間22)を形成する第1内壁面13(または第2内壁面23)の第1外周面19(または第2外周面29)との間で気体溜まり19a(または気体溜まり29a)を形成する可撓性を有するバルーンBLを液位調整部として設ける構成を採ることも可能である。バルーンBLは、第1外周面19(または第2外周面29)の全周または一部に設けることができる。バルーンBLを操作(押し込む等)して、気体溜まり19a(または気体溜まり29a)の体積を変化させることにより、気体溜まり19a(または気体溜まり29a)の気圧を上昇させることができる。気体溜まり19a(または気体溜まり29a)の気圧が上昇することにより、気体溜まり19a(または気体溜まり29a)に臨む第1外周面19(または第2外周面29)及び第1内壁面13(または第2内壁面23)が第1保持空間12(または第2保持空間22)内に弾性変形する。従って、バルーンBLを備えた電気泳動分析チップ300、300A、300Bにおいては、上記の体積変化に応じて第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積が変化し、当該容積変化に応じて第1保持空間12(または第2保持空間22)に保持される検体液の液位を調整することが可能となる。
【0085】
また、上記実施形態における電気泳動分析チップ300、300A、300Bは可撓性を有する材料で形成され、負荷が付与されることにより弾性変形する構成を例示したが、一例として、
図15に示すように、負荷部1のみを弾性変形可能な可撓性材料で形成し、他の箇所は剛性を有する材料で形成する構成してもよい。また、剛性を有する材料で電気泳動分析チップ300、300A、300Bを形成し、
図16に示すように、第1保持空間12(または第2保持空間22)を形成する第1内壁面13(または第2内壁面23)の一部に切欠溝13bを設けて薄肉部を複数(
図16では2つ)形成することにより、切欠溝13bで挟まれた領域を弾性変形可能な負荷部1とすることも可能である。この構成を採る場合には、電気泳動分析チップ300、300A、300Bを成形(製造)する際に同じ工程で切欠溝13bを成形することが可能なため、電気泳動分析チップ300、300A、300Bの強度(剛性)を確保しつつ、弾性変形可能な負荷部1を形成することが可能になり製造コストの低減に寄与できる。
【0086】
上記実施形態では、電気泳動分析チップ300、300A、300Bに対して第1保持空間12及び第2保持空間22の延在方向(Z方向)と交叉するY方向に沿って負荷を付与する構成を例示したが、X方向に沿って負荷を付与する構成であってもよいことは言うまでもない。また、本発明では、第1保持空間12及び第2保持空間22の延在方向に沿って負荷を付与する構成も適用可能である。
図17には、第1保持空間12及び第2保持空間22の延在方向に沿って負荷を付与する負荷付与部材Svの構成の一例が示される。
図17に示すように、負荷付与部材Svは、第1保持空間12(または第2保持空間22)の開口部を閉塞する蓋部Sv1と、蓋部Sv1の第1保持空間12(または第2保持空間22)に対向する側の面に設けられた突部Sv2とを備えている。上記の負荷付与部材Svは、蓋部Sv1が下方に移動することにより、筒状の壁部に圧縮方向の弾性変形が生じ、突部Sv2の検体液への浸漬量が増加する。これにより、第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積が減少し、検体液の液位を上昇させることができる。
【0087】
図18は、第1保持空間12及び第2保持空間22の延在方向に沿って負荷を付与する負荷付与部材Swの構成の一例が示される。負荷付与部材Swは、先端部の外径が第1保持空間12(または第2保持空間22)の開口部の径よりも小さい。負荷付与部材Swは、先端部から離間するのに従って漸次拡径する円錐台部を有している。円錐台部は、第1保持空間12(または第2保持空間22)の開口部の径よりも大きい外径の領域を有している。上記の構成の負荷付与部材Swを用い、先端部を第1保持空間12(または第2保持空間22)の開口部に挿入した後に、負荷付与部材Swを下方に移動させることにより、第1保持空間12(または第2保持空間22)の開口部は、径が大きくなる方向に弾性変形する。これにより、第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積が増加し、検体液の液位を下降させることができる。
【0088】
上記実施形態では、機械的(物理的)に電気泳動分析チップ300、300A、300Bを弾性変形させる構成を例示したが、熱的に電気泳動分析チップ300、300A、300Bを弾性変形させることも可能である。一例として、形状記憶ポリマー等の変形ポリマーを用いて熱を付与することで電気泳動分析チップ300、300A、300Bを弾性変形させることも可能である。形状記憶ポリマーは、成形加工又は機械加工により形成した形状を樹脂中の固定相により記憶し、形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下において、記憶した形状を自由な形状に変形させることができる。そして、形状記憶ポリマーは、この変形させた状態を維持したまま形状回復温度未満の温度に冷却することで、この変形を固定することができる。この形状回復温度未満の温度に冷却して加えた変形を固定させたものを、形状回復温度以上で融点未満の温度に加熱することにより、成形加工又は機械加工により形成した形状が復元される。
【0089】
一例として、
図19(a)に示すように、第1内壁面13(または第2内壁面23)に形成された窪み5は、形状回復温度未満の温度のときの形状である。形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下においては、
図19(b)に示すように、窪み5が形成されない形状として記憶することができる。従って、窪み5が形成される
図19(a)に示される状態から加熱して、窪み5が形成されない
図19(b)に示される状態に第1内壁面13(または第2内壁面23)を変形させることによって第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積を減少させることができる。また、上記の構成とは逆に、第1内壁面13(または第2内壁面23)に形成された窪み5が形状回復温度以上融点未満の温度範囲内の温度下での形状で、形状回復温度未満の温度のときの形状が窪み5が形成されない状態としてもよい。この構成では、窪み5が形成されない
図19(b)に示される状態から加熱して、窪み5が形成される
図19(a)に示される状態に第1内壁面13(または第2内壁面23)を変形させることにより、第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積を増加させることができる。
【0090】
従って、加熱後に窪み5が形成される第1領域と、加熱後に窪み5が形成されない第2領域とを双方設けておき、第1保持空間12に保持された検体液の液位と、第2保持空間22に保持された検体液の液位とに応じて、液位を下降させる場合には、第1領域を加熱し、液位を上昇させる場合には第2領域を加熱する構成としてもよい。さらに、形状回復温度未満の温度から形状回復温度以上の温度に徐々に加熱する際の、温度と変形量との相関関係を予め求めておき、第1保持空間12(または第2保持空間22)の容積変化を微小量ずつ調整可能な構成としてもよい。
【0091】
このような形状記憶ポリマーとしては、特に限定されず、例えば、形状記憶性を有するエラストマー等の高分子材料を挙げることができる。
形状記憶性を有するエラストマーの具体例としては、ポリウレタン、ポリイソプレン、ポリエチレン、ポリノルボルネン、スチレン−ブタジエン共重合体;エポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル、メラニン樹脂;ポリカプロラクトン、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリフェニレンサルファイド;等のポリマーを、例えば有機過酸化物、過酸化ベンゾイルといった過酸化物を使用した熱による化学的架橋手法によって架橋されたものが挙げられる。