(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記凹部形成工程において、前記脂肪族ポリカーボネート含有層を、50℃以上250℃以下で加熱された状態で型押し加工を施した後、前記型押し加工が施された前記脂肪族ポリカーボネート含有層と、前記脂肪族ポリカーボネート含有層が除かれた後の前記樹脂層とをプラズマに曝露することによって、前記凹部が形成される、
請求項9に記載の複合部材の製造方法。
前記複合部材の製造方法によって製造された複数の複合部材を重ね合わせることにより、前記金属層を、平面視においてメッシュ状又は格子状の導電体層となるように形成する、導電体層形成工程をさらに含む、
請求項9乃至請求項11のいずれか1項に記載の複合部材の製造方法。
前記複合部材の製造方法によって製造された複数の複合部材を重ね合わせることにより、前記金属めっき層を、平面視においてメッシュ状又は格子状の導電体層となるように形成する、導電体層形成工程をさらに含む、
請求項12に記載の複合部材の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の導電性配線のパターンを形成するためには、通常、真空プロセス、フォトリソグラフィー法に代表される、高コストであって高度に複雑化した工程ないし設備環境を用いる必要がある。さらに、そのパターンを形成した後に、その配線以外の不要な膜(該パターン形成のためだけの膜等)の除去のために別途の工程を要するため、余分なコストが掛かるとともに、電子デバイスに代表される各種の最終製品の歩留まり低下にもつながる。
【0007】
なお、従来から採用されている、上述の真空プロセスやフォトリソグラフィー法を用いたプロセスといった比較的長時間、及び/又は高価な設備を要するプロセスを採用することは、原材料や製造エネルギーの使用効率の低下ないし悪化につながる。従って、そのようなプロセスを採用することは、工業性ないし量産性の観点から好ましくない。
【0008】
また、金属インクを出発材として形成される金属配線のパターンが各種デバイスにおいて採用される場合、金属配線のパターンを高精細であり、かつ確度高く形成するためには、そのパターンを形成するための基材には、該金属インクに対する、いわば親液性とともに、それと相反する撥液性をも実現する高度な工夫が要求される。
【0009】
加えて、金属インクを用いて信頼性の高い配線を形成するためには、金属インクに含まれている溶質材料(又は溶質、以下、同じ。)と下地層又は基材ないし母材との高い親和性、換言すれば高い吸着性が要求される。そのため、該配線のためのパターンを形成するための膜の該金属インクに対する親液性及び撥液性と、金属インクに含まれている溶質材料に対する密着性との両立を実現することは、金属インクを用いた信頼性の高い配線形成のための重要な要素技術の一つである。
【0010】
したがって、金属インクを用いて配線を形成する場合、電子デバイスに代表される高度に微細化された各種デバイスのための配線(例えば、サブμm〜数十μm以下の幅の配線)の形成についての確度を高めるためには、金属インクに対する親液性及び撥液性と、金属インクに含まれている溶質材料に対する吸着性との両立を実現するという、高い次元の創意工夫が必要となる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、微細な配線形成の簡便化、及び/又は高品質化の実現に貢献し得るとともに、特に、金属インクを用いた微細な配線形成の簡便化、及び/又は高品質化の実現に大きく貢献し得る、複合部材、及びその製造方法を提供する。
【0012】
本願発明者らは、金属インクを用いた、スピンコート法、ダイコート法、ドクターブレードコート法、ディップ法、又はインクジェット(印刷)法等の塗布法を用いた金属層のパターンを形成するために、従来の方法よりも簡便で、かつ信頼性の高い方法を見出すべく、鋭意分析と検討を重ねた。
【0013】
本願発明者らの一部が創出した脂肪族ポリカーボネート含有層は、比較的低温の加熱処理を施すことにより、該脂肪族ポリカーボネート含有層の溶媒成分の消失とともに、該脂肪族ポリカーボネート自身も簡便に分解又は除去されるという特異な性質を備えている。加えて、脂肪族ポリカーボネート含有層は、撥液性が非常に高いという性質も備えている。従って、本願発明者らは、該脂肪族ポリカーボネート含有層の撥液性を活かせば、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンが形成されているときに、該パターン間の領域内に金属インクを配置し易くなり、かつ該金属インクを金属層に変えるための加熱処理を施せば、該脂肪族ポリカーボネート含有層の除去とともに、寸法精度の高い金属層を形成することが可能となると考えた。
【0014】
しかしながら、高度に微細化された金属層のパターンをより確度高く形成するためには、技術的に難易度の高いジレンマを克服することが求められることが明らかとなった。
【0015】
具体的には、該金属層のパターンを形成するために設けられるパターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層の撥液性を損なわない状況下において、その金属層の出発材である金属インクを、該パターン間の狭い基材側に、いわば引き寄せなければならない。この問題は、微細化が進めば進むほど(つまり、脂肪族ポリカーボネート含有層パターン間の間隔が狭くなるほど)、また、脂肪族ポリカーボネート含有層の撥液性が高ければ高いほど実現が困難となる。
【0016】
本願発明者らは、上述の課題に直面し、その課題を克服すべく試行錯誤を繰り返すとともに、その結果の分析及び検討を重ねた結果、以下に示す新たな着眼点及び原理に基づいて該問題が解決され得ることを見出した。そして、本願発明者らは、その原理に基づいて実際に高精細な金属層のパターンを実現することが可能であるとの知見を得ることによって、本発明を創出した。
【0017】
その着眼点及び原理とは、配線等の微細化を実現するために、材質の物性等によって差異化された、撥液(又は撥水)性を示す領域(「領域A」とする)と親液(又は親水)性を示す領域(「領域B」とする)とに対して金属インクを接触させたときに、領域Bのみに金属インクが引き寄せられる(付着する)ようにするだけではなく、さらに新たな工夫を導入することである。
【0018】
その工夫とは、金属インクの溶液中の溶質材料の、脂肪族ポリカーボネート含有層(領域A)と下地層(領域B)とに対する吸着力の差を利用することである。より具体的には、金属インク中の溶質材料(例えば、金属粒子)と上述の領域Aを構成する材質との間に働くファンデルワールス(van der Waals,以下、「vdW」と表す)相互作用と、金属インク中の溶質材料と上述の領域Bを構成する材質との間に働くvdW相互作用とを意図的に制御することである。
【0019】
従って、この手法によれば、金属インクの塗布が必要な部分には、該溶質材料(例えば、金属粒子)と対象物質との間のvdW相互作用を、いわば「引力」が作用するような材料を選定し、逆に、金属インクの塗布が不要な部分には該溶質材料と対象物質との間のvdW相互作用を、いわば「斥力」が作用するような材料を選定することが好ましいことになる。
【0020】
ここで、vdW相互作用の見積もり方は、以下のとおりである。
【0021】
(1)vdW相互作用の強さは、Hamaker定数A
132によって以下の式(1)で定まる。
【数1】
【0022】
式(1)において、A
132はHamaker定数、G(r)は幾何学的関数である。ハマカー(Hamaker)定数は材料固有のもので形や配置には依存しない。形や配置などの幾何学的な要素は関数G(r)で記述する。Hamaker定数を求めることによって、vdW相互作用が「引力」か「斥力」かを知ることができ、かつその大きさを評価することができる。Hamaker定数が正の場合は引力を、負の場合は斥力を意味する。
【0023】
また、Hamaker定数の評価は、2つの方法を用いて行うことができる。1つは、Simple spectral method(SSM)と呼ばれる方法、もう1つは、van Oss理論に基づく接触角測定から求める方法である。なお、前者は、詳しくは、D. B. Hough and L. R. White, “The Calculation of Hamaker Constants from Lifshitz Theory with Application to Wetting Phenomena”, Adv. Colloid Interface Sci., 14, pp. 3-41 (1980)に記載されている。また、後者は、詳しくは、C.J. van Oss. Interfacial Forces in Aqueous Media, Dekker, New York (1994)に記載されている。
【0024】
上述のとおり、領域Aと領域Bとを設けることによって、親液性/撥液性の選択性だけではなく、vdW相互作用の強さの違いを利用するという、いわば2つのパターニング原理を同時に採用するによって、配線等の微細化を実現する適切な材料を選定することが可能となることが明らかとなった。
【0025】
また、さらに分析と検討を重ねた結果、本願発明者らは、該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンを、いわゆるナノインプリント法(「型押し加工法」ともいう。以下、同じ)を用いて形成することが可能であることを確認した。従って、本願発明者らは、該パターンの形成から金属層の形成までを、一貫して、真空ないし減圧条件下のプロセスである、いわゆる真空プロセスを用いることなく処理することが可能となることも併せて見出した。
【0026】
本発明の1つの複合部材は、基材上に、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層を有し、その樹脂層の表面の一部に形成された凹部上に金属層を有する複合部材である。
【0027】
この複合部材によれば、樹脂層の表面の一部に形成された凹部という、いわば形状的特徴を持った領域上の少なくとも一部において金属層が設けられることになるため、該金属層を各種デバイスの配線又は電極等として活用することができる。なお、該樹脂がカルボキシル基を有することによって該樹脂層が金属インクに対する高い親液性と、金属インク内の溶質材料に対する高い吸着性とを発揮し得るため、該金属層の出発材が金属インクである場合に、その金属インクを確度高く所望の位置に配置することを可能にするため、その後の金属層のパターン精度の向上につながる。該樹脂層上に金属インクを配置することは一例にすぎない。
【0028】
また、本発明の1つの複合部材の製造方法は、基材上に、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層を形成する、樹脂層形成工程と、その樹脂層上に、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンを形成する脂肪族ポリカーボネート含有層形成工程と、該脂肪族ポリカーボネート含有層が形成されていない該樹脂層の表面の少なくとも一部に凹部を形成する凹部形成工程と、該凹部上に金属層を形成する、金属層形成工程と、を含む。
【0029】
この複合部材の製造方法によれば、その過程において、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層上に、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンが形成されている構造が形成される。また、この製造方法においては、パターン状に形成された該脂肪族ポリカーボネート含有層の下地層である樹脂層の表面の一部に凹部が形成された後に、該凹部上に金属層を形成する金属層形成工程が行われる。その結果、該樹脂層の表面の一部に形成された凹部という、いわば形状的特徴を持った領域上の少なくとも一部において金属層が設けられることになるため、該金属層を各種デバイスの配線又は電極等として活用することができる。加えて、この複合部材の製造方法によれば、例えば、加熱処理を施すことにより、該脂肪族ポリカーボネート含有層の溶媒成分の消失とともに、該脂肪族ポリカーボネートが分解又は除去されることになる。その結果、極めて簡便な方法によってその脂肪族ポリカーボネートを、実質的に残渣を残すことなく分解又は除去することができる。従って、金属層を用いた微細な配線形成の簡便化、及び/又は高品質化の実現に大きく貢献し得る。なお、該樹脂がカルボキシル基を有することによって該樹脂層が金属インクに対する高い親液性と、金属インク内の溶質材料に対する高い吸着性とを発揮し得るため、該金属層の出発材が金属インクである場合に、その金属インクを確度高く所望の位置に配置することを可能にするため、その後の金属層のパターン精度の向上につながる。該樹脂層上に金属インクを配置することは一例にすぎない。また、前述の脂肪族ポリカーボネート含有層の除去は、加熱処理に限定されない。例えば、溶剤を用いたいわゆるウェット処理方法によっても前述の脂肪族ポリカーボネート含有層を除去することができる。
【0030】
なお、上述のいずれの発明においても、その金属層上に金属めっき層(例えば、無電解めっき層及び/又は電解めっき層)をさらに有することは、導電性を高める観点から好適な一態様である。
【0031】
ところで、上述の各発明が適用可能な技術分野は広範に及ぶため、その用途は制限されない。また、少なくとも上述の複合部材の製造方法の発明において、脂肪族ポリカーボネートのパターンを採用することの1つの利点は、公知のレジスト層のパターンを用いて導電体層(例えば、金属層)を形成するよりも、格段に高い汎用性が得られることである。というのも、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンを形成する代わりに、公知のレジスト層のパターンを用いた場合には、次のような場合に支障が生じ得るためである。
【0032】
具体的には、通常、公知のレジスト層のパターンが採用されると、微細な配線を備える各種装置(例えば、半導体装置)が製造される過程を経る中で、該レジスト層の特に表面が変質(例えば、紫外光による変質)することがある。その場合、プラズマ(O
2プラズマ,Arプラズマなど)処理及び/又はいわゆるレジスト剥離液による除去工程が必要となる。しかし、該剥離液又は該プラズマへの耐性の低い材料(例えば、有機半導体材料)が、そのレジスト層と同じ上述の樹脂層上に配置されている場合、上述の耐性の低い材料に対して悪影響を及ぼすことになる。従って、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンが採用されていれば、前述のプラズマ又は剥離液を用いることなく、比較的低温の加熱処理のみによって極めて簡便に、かつ確度高く該脂肪族ポリカーボネート含有層を分解又は除去し得ることになる。なお、上述のとおり、加熱処理の代わりに、例えば、溶剤を用いたいわゆるウェット処理方法によっても、前述の脂肪族ポリカーボネート含有層を除去することができることを付言する。
【0033】
なお、本出願においては、「液体からゲル状態に至る過程」は、代表的な例で言えば、熱処理によって溶媒をある程度(代表的には、溶媒全体に対する質量比において80%以上であるがこの数値に限定されない。)除去するが、脂肪族ポリカーボネートが実質的に分解又は除去されていない状況をいう。
【0034】
また、本出願における「複合部材」は、基材上に樹脂層を有するとともに該樹脂層上に金属層を有する部材のみならず、基材上に樹脂層を有するとともに該樹脂層上に金属層及び脂肪族ポリカーボネート含有層を有する部材を含む。加えて、前述の各複合部材の該金属層上に金属めっき層が形成された部材も、本出願における「複合部材」に含まれる。さらに、前述の各複合部材の複数個を一体化した部材も本出願における「複合部材」に含まれる。また、本願における「層」は、層のみならず膜をも含む概念である。逆に、本願における「膜」は、膜のみならず層をも含む概念である。
【0035】
加えて、本出願における「基材」とは、板状体の基礎に限らず、その他の形態(例えば、曲面状)の基礎ないし母材を含む。基材の種類は特に限定されない。加えて、本願の後述する各実施形態においては、「塗布」とは、低エネルギー製造プロセス、代表的には印刷法、ディップ法、スピンコート法、バーコート法、又はスリットコート法によってある基材上に層を形成することをいう。また、本出願における「金属インク」には、常温(代表的には、0℃〜40℃)において液体である態様に限定されず、その他の態様、例えば、その液体の状態の金属インクを予備焼成した後(又は乾燥させた後)の態様(つまり、完全には固化されていないが粘性が相当高まった状態)も含まれる。
【発明の効果】
【0036】
本発明の1つの複合部材によれば、樹脂層の表面の一部に形成された凹部という、いわば形状的特徴を持った領域上の少なくとも一部において金属層が設けられることになるため、該金属層を各種デバイスの配線又は電極等として活用することができる。
【0037】
また、本発明の1つの複合部材の製造方法によれば、該樹脂層の表面の一部に形成された凹部という、いわば形状的特徴を持った領域上の少なくとも一部において金属層が設けられることになるため、該金属層を各種デバイスの配線又は電極等として活用することができる。加えて、この複合部材の製造方法によれば、例えば、加熱処理を施すことにより、該脂肪族ポリカーボネート含有層の溶媒成分の消失とともに、該脂肪族ポリカーボネートが分解又は除去されることになる。その結果、極めて簡便な方法によってその脂肪族ポリカーボネートを、実質的に残渣を残すことなく分解又は除去することができる。従って、金属層を用いた微細な配線形成の簡便化、及び/又は高品質化の実現に大きく貢献し得る。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施形態である複合部材及び該複合部材の製造方法を、添付する図面に基づいて詳細に述べる。なお、この説明に際し、全図にわたり、特に言及がない限り、共通する部分には共通する参照符号が付されている。また、図中、各実施形態の要素は必ずしも互いの縮尺を保って記載されるものではない。さらに、各図面を見やすくするために、一部の符号が省略され得る。
【0041】
<第1の実施形態>
1.複合部材及び該複合部材の製造方法
【0042】
(複合部材の全体構成)
図9は、本実施形態における一例としての複合部材110の全体構成を示す側面図である。
図9及び
図10に示すように、複合部材110は、基材10上に、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層(不可避不純物を含み得る。以下、同じ)40を有し、樹脂層40上に、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層(不可避不純物を含み得る。以下、同じ)22を有する。加えて、複合部材110は、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上の少なくとも一部に金属層74を有する複合部材である。なお、本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネート含有層22が形成されていない樹脂層40の表面の少なくとも一部に凹部24が形成されている。
【0043】
また、
図11Bは、本実施形態における変形例としての複合部材120bの全体構成を示す側面図である。
図11Bに示すように、複合部材120bは、基材10上に、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層40を有し、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部上の少なくとも一部に金属層74を有する複合部材である。従って、上述の複合部材110は、複合部材120bが製造されるまでの、いわば中間的な構造物とも言える複合部材である。
【0044】
なお、本実施形態の樹脂層40は、代表的には、後述するように、カルボキシル基を有する樹脂を含む樹脂層である。加えて、本実施形態の基材10の材質は特に限定されない。代表的な基材10の材質の例は、各種のガラス材、シリコン、セラミックス、その他の公知の絶縁材料(樹脂材料を含む)又は半導体材料、あるいは鋼板や銅等の金属である。
【0045】
また、本実施形態の基材10は、基材10上に、予め、導電体層、半導体層、又は絶縁体層のパターンが形成されているものを含み得る。従って、基材10は、単一材質のみならず複数の材質からなる構成を含み得る。
【0046】
最初に、上述の樹脂層40について説明し、その後、上述の脂肪族ポリカーボネート含有層22について説明する。
【0047】
(樹脂層について)
本実施形態の樹脂層に含まれる樹脂は、カルボキシル基を有する樹脂である。該樹脂がカルボキシル基を有することにより、金属インクに対する高い親液性と、金属インク内の溶質材料に対する高い吸着性とを発揮し得る。なお、該樹脂は、カルボキシル基を有していれば、樹脂の種類には限定されない。該樹脂の例は、ビニル樹脂(A)及びウレタン樹脂(B)の群から選択される少なくとも1種が好ましい。従って、該樹脂の一例として、ビニル樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とを複合した複合樹脂が採用され得る。
【0048】
また、該ビニル樹脂(A)は、例えば、カルボキシル基を有するビニル単量体や、必要に応じてその他のビニル単量体を含むビニル単量体混合物を重合することによって、ビニル樹脂(A)を製造することができる。
【0049】
また、ビニル樹脂(A)の製造に使用可能な酸カルボキシル基を有するビニル単量体の例は、アクリル酸、メタクリル酸、β−カルボキシエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルプロピオン酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸ハーフエステル、マレイン酸ハーフエステル、無水マレイン酸、無水イタコン酸等である。
【0050】
また、ビニル樹脂(A)の製造に使用可能なビニル単量体混合物の例は、上述のカルボキシル基を有するビニル単量体以外に、その他のビニル単量体を組み合わせ使用することが好ましい。なお、その他のビニル単量体は、上述の特許文献4に開示されている。
【0051】
次に、ビニル樹脂(A)の製造方法について説明する。
ビニル単量体は、上述のビニル単量体混合物を従来から知られている方法を用いて重合することによって製造することができる。なお、乳化重合法を用いて製造することは好適な一態様である。
【0052】
具体的には、本実施形態の乳化重合法として、例えば、次の(1)〜(3)の方法を採用することができる。
(1)水と、ビニル単量体混合物と、重合開始剤と、必要に応じて連鎖移動剤や乳化剤や分散安定剤等とを、反応容器中に一括供給、混合して重合する方法
(2)ビニル単量体混合物を反応容器中に滴下し重合するモノマー滴下法
(3)ビニル単量体混合物と乳化剤等と水とを予め混合したものを、反応容器中に滴下し重合するプレエマルジョン法
【0053】
なお、乳化重合法における、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、及び分散安定剤は、上述の特許文献4に開示されている。
【0054】
一方、該ウレタン樹脂(B)については、例えば、ポリイソシアネート(b1)と、ポリオール(b2)と、必要に応じて鎖伸長剤とを反応させることによって製造することができる。また、該ウレタン樹脂(B)にカルボキシル基を導入するため、本実施形態においては、該ポリオール(b2)の少なくとも一部に、カルボキシル基を有するポリオールを使用する。
【0055】
上述のポリイソシアネート(b1)の例は、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、2,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート、カルボジイミド変性ジフェニルメタンジイソシアネート、クルードジフェニルメタンジイソシアネート、フェニレンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネートなどの芳香族構造を含有するポリイソシアネートや、ヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、シクロヘキサンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート、キシリレンジイソシアネート、テトラメチルキシリレンジイソシアネートなどの脂肪族ポリイソシアネートや脂環式構造を有するポリイソシアネートを使用することができる。
【0056】
上述のカルボキシル基を有するポリオールの例は、2,2−ジメチロールプロピオン酸、2,2−ジメチロールブタン酸、2,2−ジメチロール酪酸、2,2−ジメチロール吉草酸等のカルボキシル基等である。
【0057】
また、該ポリオール(b2)として使用することのできるカルボキシル基を有するポリオール以外のポリオールの例は、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,3−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,5−ヘキサンジオール、2,5−ヘキサンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、ネオペンチルグリコール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール等の脂肪族ポリオール;1,4−シクロヘキサンジメタノール、シクロブタンジオール、シクロペンタンジオール、1,4−シクロヘキサンジオール、シクロヘプタンジオール、シクロオクタンジオール、シクロヘキサンジメタノール、トリシクロ[5.2.1.0
2,6]デカンジメタノール、ビシクロ[4.3.0]−ノナンジオール、ジシクロヘキサンジオール、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカンジオール、ビシクロ[4.3.0]ノナンジメタノール、トリシクロ[5.3.1.1]ドデカンジエタノール、スピロ[3.4]オクタンジオール、ブチルシクロヘキサンジオール、1,1’−ビシクロヘキシリデンジオール、シクロヘキサントリオール、水素添加ビスフェノ−ルA、1,3−アダマンタンジオール等の脂環構造を有するポリオールなどである。
【0058】
また、該ポリオール(b2)として、上述のポリオール以外に、ポリオールとポリカルボン酸とをエステル化したポリエステルポリオール、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオール等を使用することができる。
【0059】
また、上述したビニル樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とを複合した複合樹脂については、該ウレタン樹脂(B)を水性媒体中に溶解または分散した液中で、ビニル単量体を重合することにより、樹脂粒子としての該複合樹脂を製造することができる。
【0060】
また、該複合樹脂の樹脂粒子の例は、コア層としてのビニル重合体(A)と、シェル層としてウレタン樹脂(B)とから構成されるコア・シェル型の複合樹脂粒子である。
【0061】
また、該複合樹脂の樹脂粒子において、該ビニル樹脂(A)と該ウレタン樹脂(B)との質量比[該ウレタン樹脂(B)/該ビニル樹脂(A)]は、90/10〜10/90の範囲であることが好ましく、70/30〜10/90の範囲であることがより好ましい。
【0062】
また、本実施形態における該樹脂中のカルボキシル基の含有量、すなわち酸価は、金属インクに対する高い親液性と、金属インク内の溶質材料に対する高い吸着性とを発揮し得る効果をより高めるため、90以上450以下が好ましい。
【0063】
また、該樹脂の重量平均分子量は、前記樹脂層の耐久性の観点から、10万以上が好ましい。
【0064】
また、該樹脂は、後述する樹脂層を形成する際には、水又は有機溶剤に溶解又は分散した形態で用いられることが好ましい。
【0065】
また、後述するように、本実施形態においては、上述の樹脂層に対して、金属インクを塗布(例えば、ディップ法による塗布、又はインクジェット(印刷)法による塗布)することができる。具体的には、また、該樹脂上に、金属インクを塗布し、次いで、加熱工程を経ることによって、また、該樹脂上に、例えば金属インク中に含まれる銀(Ag)等の金属からなる金属層(例えば、配線又は電極)を形成することができる。
【0066】
なお、金属インクの例は、金属粒子と、溶媒と、必要に応じて分散剤等の添加剤とを含有するものである。
【0067】
また、該金属粒子の例は、遷移金属、又はその化合物である。例えば、銅(Cu)、銀(Ag)、金(Au)、ニッケル(Ni)、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、コバルト(Co)等の遷移金属を使用することが好ましい。
【0068】
また、該金属粒子の平均粒子径は、1nm以上50nm以下が好ましい。ここで、該平均粒子径は、中位粒子径(D50)を意味し、また、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置で測定した場合の値である。
【0069】
また、該金属粒子は、上述の金属インクの全量に対して0.05質量%以上60質量%以下の範囲内で該金属インクに含まれることが好ましい。該金属インクが採用する溶媒の例は、各種有機溶剤、又は水等の水性媒体である。
【0070】
(脂肪族ポリカーボネート前駆体及び脂肪族ポリカーボネート含有層について)
次に、脂肪族ポリカーボネート前駆体及び脂肪族ポリカーボネート含有層について説明する。
【0071】
本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネートをある溶媒(代表的には、有機溶媒)中に溶解させた状態が、「脂肪族ポリカーボネート前駆体」を構成する。また、その脂肪族ポリカーボネート前駆体を加熱することによって、ナノインプリント法又は各種の印刷法(例えば、スクリーン印刷法)に用いることができる程度に溶媒が除去された状態(代表的には、「ゲル状態」)の層は、本実施形態の「脂肪族ポリカーボネート含有層」である。
【0072】
本実施形態の脂肪族ポリカーボネート前駆体は、主として脂肪族ポリカーボネートを含むが、脂肪族ポリカーボネート以外の化合物、組成物、又は材料を含み得る。なお、該脂肪族ポリカーボネート前駆体中の脂肪族ポリカーボネート含有量の下限値は特に限定されないが、代表的には、該脂肪族ポリカーボネートの、溶質の総量に対する質量比が80%以上である。また、該脂肪族ポリカーボネート前駆体中の脂肪族ポリカーボネート含有量の上限値は特に限定されないが、代表的には、該脂肪族ポリカーボネートの、溶質の総量に対する質量比が100%以下である。
【0073】
なお、例えばナノインプリント法又はスクリーン印刷法によって形成されたパターン状の該脂肪族ポリカーボネート含有層を利用して、上述の樹脂層X上又は樹脂層Y上における、該脂肪族ポリカーボネート含有層の無い領域(例えば、該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターン間の領域)内に金属インクを配置した後は、最終的には、該脂肪族ポリカーボネート含有層は、加熱工程、ウェット処理工程、又はその他の処理工程によって分解又は除去される対象となる。
【0074】
なお、該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンの代表的な例は、ナノインプリント分野、あるいは半導体分野において採用され得るライン・アンド・スペース又はドットに代表されるパターンであるが、本実施形態のパターンの形状は、それらに限定されない。例えば、曲導波路、ホール(hole)、櫛歯構造、格子状構造、ハニカム状構造、及びピラー(pillar)などの各種の公知のパターン形状を有する脂肪族ポリカーボネート含有層も、本実施形態の「脂肪族ポリカーボネート含有層のパターン」に含まれ得る。
【0075】
また、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート含有層については、脂肪族ポリカーボネート含有層という材料が、金属インクを配置するために活用されること自身が、極めて有用、かつ特筆すべき効果といえる。上述のとおり、脂肪族ポリカーボネート含有層が分解又は除去される温度以上に加熱することにより、非常に容易に該脂肪族ポリカーボネート含有層の分解又は除去を行うことが可能となることは、半導体素子及び電子デバイスに代表される各種デバイスの製造工程の削減に大きく貢献し得る。また、脂肪族ポリカーボネート含有層が分解又は除去される温度以上に加熱することにより、確度高く該脂肪族ポリカーボネート含有層の分割又は除去を行うためには、脂肪族ポリカーボネート前駆体中に、該脂肪族ポリカーボネート前駆体(又は脂肪族ポリカーボネート含有層)が分解又は除去される温度よりも高い温度によって分解又は除去される他の化合物、組成物、又は材料が含有されていないことが好ましい。
【0076】
なお、前述の加熱工程によって、該脂肪族ポリカーボネート含有層の分解又は除去とともに、該金属インクを金属層に変えることは、製造工程の削減の観点から好適な例である。但し、該金属インクを金属層に変えるが、該脂肪族ポリカーボネート含有層を分解又は除去させない程度の低温での加熱工程を先行して施した後、該金属層を出発材層(いわば、起点)として各種の金属めっき層を形成する金属めっき層形成工程を施すことも、例えば配線の寸法精度を高める観点から言えば、採用し得る好適な一態様である。
【0077】
(脂肪族ポリカーボネート及び脂肪族ポリカーボネート含有層の具体例)
本実施形態においては、熱分解性の良い脂肪族ポリカーボネートが用いられる。このような脂肪族ポリカーボネートは、酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解することが可能であるため、金属酸化物中の炭素不純物に代表される不純物の残存量を低減させることに積極的に寄与する。
【0078】
また、本実施形態において、脂肪族ポリカーボネートを含む溶液である「脂肪族ポリカーボネート前駆体」に採用され得る有機溶媒は、脂肪族ポリカーボネートを溶解可能な有機溶媒であれば特に限定されない。有機溶媒の具体例は、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート(Diethylene-Glycol-Monoethyl Ether Acetate(以下、「DEGMEA」ともいう。))、α−ターピネオール、β−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ニトロプロパン、イソプロピルアルコール、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トルエン、シクロヘキサン、メチルエチルケトン、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネートなどである。これらの有機溶媒の中でも、沸点が適度に高く、室温での蒸発が少ない観点から、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、α−ターピネオール、N−メチル−2−ピロリドン、2−ニトロプロパン及びプロピレンカーボネートが好適に用いられる。
【0079】
また、本実施形態においては、ナノインプリント法又はスクリーン印刷法によって上述の樹脂層上に形成された、パターン状の該脂肪族ポリカーボネート含有層を用いることによって、該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターン間の領域内に金属インクを配置した後は、該脂肪族ポリカーボネート含有層は、最終的には不要物として分解又は除去される対象となる。
【0080】
また、脂肪族ポリカーボネートを含む溶液である脂肪族ポリカーボネート前駆体には、所望により分散剤、可塑剤等をさらに添加することができる。
【0081】
上述の分散剤の具体例は、
グリセリン、ソルビタン等の多価アルコールエステル;
ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のポリエーテルポリオール;ポリエチレンイミン等のアミン;
ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸等の(メタ)アクリル樹脂;
イソブチレンまたはスチレンと無水マレイン酸との共重合体、及びそのアミン塩など
である。
【0082】
上述の可塑剤の具体例は、ポリエーテルポリオール、フタル酸エステルなどである。
【0083】
また、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート含有層を形成する方法は、特に限定されない。低エネルギー製造プロセスによる層の形成は、好適な一態様である。より具体的には、特に簡便な方法であるスクリーン印刷法、あるいはナノインプリント法により、基材上に脂肪族ポリカーボネート含有層を形成することが好ましい。
【0084】
<TG−DTA(熱重量測定及び示差熱)特性>
ここで、比較的低温で低分子化合物に分解することが可能となる脂肪族ポリカーボネートについて、本発明者らは、より具体的にその分解及び消失の過程を調査した。
【0085】
図1は、脂肪族ポリカーボネートの代表例であるポリプロピレンカーボネートを溶質とする溶液(すなわち、本実施形態の脂肪族ポリカーボネート前駆体)のTG−DTA特性の一例を示すグラフである。なお、このグラフは、ポリプロピレンカーボネートを6.25質量%含むDEGMEA溶液の常圧下における結果が示されている。また、
図1に示すように、図中の実線は、熱重量(TG)測定結果であり、図中の点線は示差熱(DTA)測定結果である。
【0086】
図1に示す熱重量測定の結果から、140℃付近から190℃付近にかけて、脂肪族ポリカーボネート前駆体の溶媒の消失とともに、ポリプロピレンカーボネート自身の一部の分解ないし消失による重量の顕著な減少が見られた。なお、この分解により、ポリプロピレンカーボネートは、二酸化炭素と水に変化していると考えられる。また、
図1に示す結果から、190℃付近において、該脂肪族ポリカーボネートが90wt%以上分解され、除去されていることが確認された。さらに詳しく見ると、250℃付近において、該脂肪族ポリカーボネートが95wt%以上分解され、260℃付近において、該脂肪族ポリカーボネートがほぼ全て(99wt%以上)分解されていることが分かる。従って、250℃以上(より好ましくは260℃以上)の加熱処理を行うことによって、実質的に又はほぼ消失又は除去される脂肪族ポリカーボネート前駆体を採用することにより、脂肪族ポリカーボネート前駆体及び該前駆体層から形成される脂肪族ポリカーボネート含有層は、本実施形態の金属層の形成のための犠牲層としての役割を果たす、換言すれば、実質的に自身の残渣を残すことなく分解又は除去されることになる。
【0087】
なお、上述の結果は、比較的短時間の加熱処理による該脂肪族ポリカーボネートの分解についての結果であるが、より長時間加熱処理する場合は、より低温(例えば、180℃)であっても十分に該脂肪族ポリカーボネートが分解することが確認されている。換言すれば、加熱による該脂肪族ポリカーボネートの分解又は除去される温度の下限値が、代表的には180℃であるといえる。但し、この下限値の温度は、該脂肪族ポリカーボネートの中の1つ又は数個の結合だけが切れる温度という意味ではなく、該脂肪族ポリカーボネートの分解によって該脂肪族ポリカーボネートが実質的に又はほぼ分解によって質量の減少が確認される温度である。従って、180℃以上で加熱したときに、実質的に又はほぼ分解又は除去される脂肪族ポリカーボネート含有層を採用することにより、本実施形態の複合部材が備える金属層の形成のための犠牲層としての役割を果たす、換言すれば、実質的に自身の残渣を残すことなく分解又は除去されることが可能となる。
【0088】
上述のとおり、脂肪族ポリカーボネート含有層を分解又は除去させる温度(代表的には180℃以上、好ましくは250℃以上、更に好ましくは260℃以上)で加熱処理を行えば、本実施形態の複合部材が備える金属層の形成のための犠牲層としての役割を果たす、換言すれば、実質的に自身の残渣を残すことなく分解又は除去されることが可能となる点は、特筆に値する。
【0089】
(脂肪族ポリカーボネートの詳細について)
なお、本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネートの例として、ポリプロピレンカーボネートが採用されているが、本実施形態で用いられる脂肪族ポリカーボネートの種類は特に限定されない。例えば、エポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートも、本実施形態において採用し得る好適な一態様である。このようなエポキシドと二酸化炭素とを重合反応させた脂肪族ポリカーボネートを用いることにより、脂肪族ポリカーボネートの構造を制御することで熱分解性を向上させられる、所望の分子量を有する脂肪族ポリカーボネートが得られるという効果が奏される。とりわけ、脂肪族ポリカーボネートの中でも酸素含有量が高く、比較的低温で低分子化合物に分解する観点から言えば、脂肪族ポリカーボネートは、ポリエチレンカーボネート、ポリプロピレンカーボネート、及びポリブチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。さらに、後述するように、脂肪族ポリカーボネート層としてより高い撥液性を実現する観点から言えば、脂肪族ポリカーボネートは、ポリプロピレンカーボネート、及びポリブチレンカーボネートからなる群より選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
【0090】
また、上述のエポキシドは、二酸化炭素と重合反応して主鎖に脂肪族を含む構造を有する脂肪族ポリカーボネートとなるエポキシドであれば特に限定されない。例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1−ブテンオキシド、2−ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1−ペンテンオキシド、2−ペンテンオキシド、1−ヘキセンオキシド、1−オクテンオキシド、1−デセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキセンオキシド、3−フェニルプロピレンオキシド、3,3,3−トリフルオロプロピレンオキシド、3−ナフチルプロピレンオキシド、3−フェノキシプロピレンオキシド、3−ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3−ビニルオキシプロピレンオキシド、及び3−トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等のエポキシドは、本実施形態において採用し得る例である。これらのエポキシドの中でも、二酸化炭素との高い重合反応性を有する観点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、及び1−ブテンオキシドが好適に用いられる。なお、上述の各エポキシドは、それぞれ単独で使用されてもよいし、2種以上を組み合わせて用いられることもできる。
【0091】
上述の脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量は、好ましくは5000以上1000000以下であり、より好ましくは10000以上600000以下である。脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量が5000未満の場合、例えば、粘度の低下による影響等により、例えば、ナノインプリント法又はスクリーン印刷法に用いる材料として適さなくなるおそれがある。また、脂肪族ポリカーボネートの質量平均分子量が1000000を超える場合、脂肪族ポリカーボネートの有機溶媒への溶解性が低下するために、この場合もナノインプリント法又はスクリーン印刷法に用いる材料として適さなくなるおそれがある。なお、前述の質量平均分子量の数値は、次の方法によって算出することができる。
【0092】
具体的には、上述の脂肪族ポリカーボネート濃度が0.5質量%のクロロホルム溶液を調製し、高速液体クロマトグラフィーを用いて測定する。測定後、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、分子量を算出する。また、測定条件は、以下の通りである。
機種:HLC−8020(東ソー株式会社製)
カラム:GPCカラム(東ソー株式会社の商品名:TSK GEL Multipore HXL−M)
カラム温度:40℃
溶出液:クロロホルム
流速:1mL/分
【0093】
また、上述の脂肪族ポリカーボネートの製造方法の一例として、上述のエポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が採用され得る。
【0094】
ここで、脂肪族ポリカーボネートの製造例は、次のとおりである。
攪拌機、ガス導入管、温度計を備えた1L容のオートクレーブの系内をあらかじめ窒素雰囲気に置換した後、有機亜鉛触媒を含む反応液、ヘキサン、及びプロピレンオキシドを仕込んだ。次に、攪拌しながら二酸化炭素を加えることによって反応系内を二酸化炭素雰囲気に置換し、反応系内が約1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、そのオートクレーブを60℃に昇温し、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら数時間重合反応を行った。反応終了後、オートクレーブを冷却して脱圧し、ろ過した。その後、減圧乾燥することによりポリプロピレンカーボネートを得た。
【0095】
また、上述の金属触媒の具体例は、アルミニウム触媒、又は亜鉛触媒である。これらの中でも、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において高い重合活性を有することから、亜鉛触媒が好ましく用いられる。また、亜鉛触媒の中でも有機亜鉛触媒が特に好ましく用いられる。
【0096】
また、上述の有機亜鉛触媒の具体例は、
酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;あるいは、
一級アミン、2価のフェノール、2価の芳香族カルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒など
である。
これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と、脂肪族ジカルボン酸と、脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒を採用することは好適な一態様である。
【0097】
ここで、有機亜鉛触媒の製造例は、次のとおりである。
まず、攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、還流冷却管を備えた四つ口フラスコに、酸化亜鉛、グルタル酸、酢酸、及びトルエンを仕込んだ。次に、反応系内を窒素雰囲気に置換した後、そのフラスコを55℃まで昇温し、同温度で4時間攪拌することにより、前述の各材料の反応処理を行った。その後、110℃まで昇温し、さらに同温度で4時間攪拌して共沸脱水させ、水分のみを除去した。その後、そのフラスコを室温まで冷却することにより、有機亜鉛触媒を含む反応液を得た。なお、この反応液の一部を分取し、ろ過して得た有機亜鉛触媒について、IRを測定(サーモニコレージャパン株式会社製、商品名:AVATAR360)した。その結果、カルボン酸基に基づくピークは認められなかった。
【0098】
また、重合反応に用いられる上述の金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、0.001〜20質量部であることが好ましく、0.01〜10質量部であることがより好ましい。金属触媒の使用量が0.001質量部未満の場合、重合反応が進行しにくくなるおそれがある。また、金属触媒の使用量が20質量部を超える場合、使用量に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0099】
上述の重合反応において必要に応じて用いられる反応溶媒は、特に限定されるものではない。この反応溶媒は、種々の有機溶媒が適用し得る。この有機溶媒の具体例は、
ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;
ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;
クロロメタン、メチレンジクロリド、クロロホルム、四塩化炭素、1,1−ジクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1−クロロプロパン、2−クロロプロパン、1−クロロブタン、2−クロロブタン、1−クロロ−2−メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;
ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒など
である。
【0100】
また、上述の反応溶媒の使用量は、反応を円滑にさせる観点から、エポキシド100質量部に対して、500質量部以上10000質量部以下であることが好ましい。
【0101】
また、上述の重合反応において、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で反応させる方法としては、特に限定されるものではない。例えば、オートクレーブに、上述のエポキシド、金属触媒、及び必要により反応溶媒を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が採用され得る。
【0102】
加えて、上述の重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されない。代表的には、0.1MPa〜20MPaであることが好ましく、0.1MPa〜10MPaであることがより好ましく、0.1MPa〜5MPaであることがさらに好ましい。二酸化炭素の使用圧力が20MPaを超える場合、使用圧力に見合う効果がなく経済的でなくなるおそれがある。
【0103】
さらに、上述の重合反応における重合反応温度は、特に限定されない。代表的には、30℃以上100℃以下であることが好ましく、40℃以上80℃以下であることがより好ましい。重合反応温度が30℃未満の場合、重合反応に長時間を要するおそれがある。また、重合反応温度が100℃を超える場合、副反応が起こり、収率が低下するおそれがある。重合反応時間は、重合反応温度により異なるために一概には言えないが、代表的には、2時間〜40時間であることが好ましい。
【0104】
重合反応終了後は、ろ過等により分別し、必要により溶媒等で洗浄後、乾燥させることにより、脂肪族ポリカーボネートを得ることができる。
【0105】
(複合部材について)
本実施形態においては、基材上の全体に、上述の脂肪族ポリカーボネート含有層を形成した後、ナノインプリント法による型押し構造が形成される。その後、大気圧下において行うプラズマ処理を行うことにより、脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンが形成される。このとき、プラズマ処理対象となる領域全体に亘って、確度高く、不要となる脂肪族ポリカーボネート含有層を除去することにより、パターン状に形成された脂肪族ポリカーボネート含有層の下地層である樹脂層の少なくとも一部の表面に凹部が形成されることになる。そのため、最終的にパターン状に形成された該脂肪族ポリカーボネート含有層が除去された後には、該脂肪族ポリカーボネート含有層が無い、換言すればプラズマに曝露された領域の該樹脂層の厚さが、該脂肪族ポリカーボネート含有層が形成されていた該樹脂層の厚さよりも薄くなるという形状的特徴を持った構造が形成される。
【0106】
その後、該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターン間の領域内に金属インクが配置され、さらにその後に加熱工程において加熱処理されることにより、1つの複合部材が製造される。なお、該金属インクを出発材とする金属層が加熱工程によって形成される過程において、該脂肪族ポリカーボネート含有層は、主として該加熱工程によって分解又は除去される態様と、分解又は除去されずに残される態様とが存在する。以下に、添付の図面に基づいて詳しく説明する。
【0107】
(複合部材の製造方法)
次に、本実施形態の複合部材110及びその変形例である複合部材120bの製造方法を、
図2乃至
図12Cに示しつつ説明する。
【0108】
(樹脂層形成工程)
本実施形態においては、
図2に示すように、基材10であるガラス又はポリイミド上に、上述の樹脂の溶液を公知のスピンコート法、バーコート法等により塗布し、乾燥機等を用いて乾燥することにより樹脂層40を形成する。なお、樹脂層40の厚さは特に限定されないが、その代表的な厚さは、30nm以上500nm以下が好ましい。
【0109】
ここで、本実施形態の樹脂層40を構成する樹脂の具体的な組成の例は、上述のビニル樹脂(A)及びウレタン樹脂(B)の群から選択される少なくとも1種である。従って、ビニル樹脂(A)、又はウレタン樹脂(B)のみではなく、ビニル樹脂(A)とウレタン樹脂(B)とを複合した複合樹脂も該組成の例に含まれる。
【0110】
(脂肪族ポリカーボネート含有層形成工程)
その後、
図3に示すように、樹脂層40上に、脂肪族ポリカーボネート含有層22の一例であるポリプロピレンカーボネートを公知のスピンコート法又はバーコート法を用いて形成する。なお、脂肪族ポリカーボネート含有層22の厚さは特に限定されないが、その代表的な厚さは、100nm以上2000nm以下である。
【0111】
次に、その後のナノインプリント法による型押し構造を形成できる程度まで脂肪族ポリカーボネート含有層22を加熱することにより、脂肪族ポリカーボネート含有層22中に含まれる溶媒成分を除去する工程(予備焼成工程又は乾燥工程、以下、総称して「予備焼成工程」という)が行われる。本実施形態においては、予備焼成工程として、100℃〜150℃の加熱処理が行われた。
【0112】
(型押し工程)
続いて、
図4に示すように、脂肪族ポリカーボネート含有層22に対して、型M1を、0.1MPa以上20MPa以下の圧力を加えて押圧することにより、脂肪族ポリカーボネート含有層22の型押し構造を形成する型押し工程が行われる。型押し加工が施されることにより、
図5に示すように、型M1の凸部によって押圧された領域22aの厚さがその他の領域の厚さに比べて薄くなる。これにより、脂肪族ポリカーボネート含有層22のパターンの原型が形成されることになる。
【0113】
本実施形態のナノインプリント法においては、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22が、50℃以上250℃以下で加熱された状態で型押し加工が施される。なお、型押し加工を施している間、換言すれば、加圧状況下においては、脂肪族ポリカーボネート含有層22は完全に分解されずに残留し得る。また、型押し加工を施している間、例えば、国際公開公報WO2013/069686号において開示される技術思想と同様に、基材10を公知のヒーターによって加熱するとともに、型M1自身も公知のヒーターによって加熱している。型押し加工を施している間の基材10及び型M1の各温度は適宜調整されるが、代表的な基材10の加熱温度は50℃〜250℃であり、また、その間の代表的な型M1の加熱温度は50℃〜250℃である。
【0114】
ここで、上記の圧力を「0.1MPa以上20MPa以下」の範囲内としたのは、以下の理由による。まず、その圧力が0.1MPa未満の場合には、圧力が低すぎて脂肪族ポリカーボネート含有層22を型押しすることができなくなる場合があるからである。なお、脂肪族ポリカーボネートとしてポリプロピレンカーボネートを採用する場合は、ポリプロピレンカーボネートが比較的柔らかい材料であることから、0.1MPa程度であっても、型押し加工が可能となる。他方、その圧力が20MPaもあれば、十分に脂肪族ポリカーボネート含有層22を型押しすることができるため、これ以上の圧力を印加する必要がないからである。前述の観点から言えば、本実施形態における型押し工程においては、0.5MPa以上10MPa以下の範囲内にある圧力で型押し加工を施すことが、より好ましい。
【0115】
(凹部形成工程)
その後、ナノインプリント法によって形成された型押し構造を有する脂肪族ポリカーボネート含有層22を、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに曝露することによってエッチングするエッチング処理が施される。なお、本実施形態のプラズマを形成するために処理室内へ導入された具体的なガスは、酸素、アルゴン、及びヘリウムである。また、印加した高周波電力は約500Wである。本実施形態においては、ヤマト科学株式会社製(型式,YAP510S)の大気圧プラズマ装置が用いられた。
【0116】
その結果、
図6A、
図6B、又は
図6Cに示すように、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成される。なお、
図6A、
図6B、又は
図6Cはいずれも模式図であるため、厳密な正確性を備えていない。
【0117】
ところで、本実施形態においては、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22とともに、エッチング処理におけるプラズマ処理の条件によって、
図6A又は
図6Bに示す凹部24が、樹脂層40の表面の一部に形成され得る。従って、本実施形態においては、上述のエッチング処理が凹部形成工程である。
【0118】
具体的には、該プラズマ処理によってエッチングされる脂肪族ポリカーボネート含有層22のうち、厚さがより薄い領域22aが消失すると、下地層である樹脂層40が該プラズマに曝露されることになる。ここで、処理対象となる基材10の全面において完全に同時に樹脂層40が該プラズマに曝露され始める可能性は実質的に皆無であるため、より早い時期に曝露され始めた領域の樹脂層40は、その後の継続的なプラズマへの曝露により、エッチングされることになる。
【0119】
その結果、比較的に長い時間、該プラズマに曝露された領域の樹脂層40の表面の一部に、凹部24が形成されることになる。凹部24の形状は、プラズマ処理の諸条件(プラズマ密度、ガス種など、プラズマ処理時間など)によって、代表的には、
図6A又は
図6Bに示される形状になる。例えば、プラズマ処理の条件によっては、
図6Bに示すように、エッチング処理を経た後に残される対象の脂肪族ポリカーボネート含有層22が配置されている直下の樹脂層40の一部が削られた領域27が形成され得る。本実施形態においては、樹脂層40がエッチング処理によってエッチングされ得る材質であることから、
図6A又は
図6Bに示す凹部24が、最終的には複合部材110又は複合部材120bの形状の特徴として形成され得る。一方、全く該プラズマに曝露されない、又は比較的短い時間だけ該プラズマに曝露された領域の樹脂層40の表面は、
図6Cの樹脂層40の表面23に示すように、実質的にエッチングされていない状態、換言すれば、略平坦な状態となり得る。
【0120】
なお、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに加えて、補助的に減圧下における酸素プラズマによるエッチング処理を併用することによって、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22を形成することもできる。但し、従来採用されてきた真空(減圧)プロセスのような、比較的長時間及び/又は高価な設備を要するプロセスに代わって、環境負荷の小さい、低エネルギー化を実現するプロセスを採用することは、製造時間の短縮、及び製造コストの低減の観点から非常に有利である。
【0121】
ここで、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに曝露することによって該脂肪族ポリカーボネート含有層のパターンを形成する場合に、該脂肪族ポリカーボネート含有層の撥液性を確認した結果、大変興味深いことに、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が高い撥液性を備えていることが明らかとなった。
【0122】
表1は、本実施形態における脂肪族ポリカーボネート(代表例として、ポリエチレンカーボネート(PEC)、ポリプロピレンカーボネート(PPC)、及びポリブチレンカーボネート(PBC))についての脂肪族ポリカーボネート含有層22、及び比較例としてのポリイミドの層の、各表面における水の接触角(deg.)を示している。なお、表1に示す接触角は、(θ/2)法に準拠した方法によって測定された。また、該接触角の評価においては、液体の代表例として水を選択した。
【0124】
表1に示すように、各種の脂肪族ポリカーボネート含有層(特に、ポリプロピレンカーボネート(PPC)又はポリブチレンカーボネート(PBC)を含有する層)22を採用すれば、ポリイミド層に比べて十分に高い撥水性を有していることが分かる。従って、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに曝露することによっても、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の高い接触角が維持されることが明らかとなったことは特筆に値する。
【0125】
ここで、脂肪族ポリカーボネート含有層22は、その後の金属インクの配置又は塗布が行われる際に、該金属インクに対する高い撥液性を維持することが要求される。これは、もし脂肪族ポリカーボネート含有層22が、該金属インクと高い濡れ性を得てしまうと、金属インクが所望の位置(例えば、
図6A又は
図6Bの表面24、又は
図6Cの表面23で示される領域)とは異なる領域(例えば、脂肪族ポリカーボネート含有層22の上面の領域)にまで濡れ広がってしまうためである。その結果、金属インクを出発材として形成される金属層の寸法精度が悪化するという問題が生じることになる。しかしながら、本実施形態においては、表1に示すように、脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の高い撥液性が確認されたため、金属インクを出発材として形成される金属層の寸法精度を高め得ることが明らかとなった。
【0126】
なお、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22における、各々の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の間、いわばパターン間の最短距離(換言すれば、各々の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の最も短い間隔)は、少なくともインプリント法に代表されるパターン形成方法を用いたときは、原理的には数十nm以上20μm以下を実現し得る。本発明者らの研究と分析によれば、下地層である樹脂層40が備える金属インクの溶質材料に対する引き寄せる能力、いわば「引力」と相俟って、最も微細な各々の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の間隔として、最短で500nmという非常に微細な加工といえる前述の数値範囲を実現することができるという知見を得ている。
【0127】
また、本実施形態においては、大気圧下のプラズマを用いて、型押し構造を有する脂肪族ポリカーボネート含有層22の全面をエッチングする処理を施すことにより、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成されている。しかしながら、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の形成方法は、前述の方法に限定されない。例えば、スクリーン印刷法を用いれば、基材10上に脂肪族ポリカーボネート含有層22を塗布したときに、既に、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22を形成することができる。
【0128】
(塗布工程)
次に、
図7に示すように、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成された後、脂肪族ポリカーボネート含有層22によって覆われていない領域の樹脂層40の表面は、ディップ法により金属インク72に接することになる。具体的には、槽80内の金属インク浴中に、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成された樹脂層40を備える基材10を、一定時間(例えば、約1秒〜5分間)浸漬する。なお、本実施形態の金属インク72の例は、下記の調製例によって得られる銀ナノ粒子インクである。
【0129】
(銀ナノ粒子インクの調製例)
本実施形態においては、エタノール35質量部と、イオン交換水65質量部との混合溶媒に、分散剤としてポリエチレンイミンにポリオキシエチレンが付加した化合物を用いて平均粒子径30nmの銀粒子を分散させることにより、銀ナノ粒子インクを得た。
【0130】
ここで、上述のとおり、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の撥液性が高いため、微細化が進むことによって該パターン間の距離が短くなると、金属インク72を基材10側に引き寄せることが困難となる。しかしながら、本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネート含有層22と基材10との間に樹脂層40が設けられているため、樹脂層40が備える金属インク及び金属インク中の溶質に対する親和性の高さを利用して前述の技術課題を克服することが可能となった。その結果、
図8に示すように、脂肪族ポリカーボネート含有層22が形成されていない、換言すれば、脂肪族ポリカーボネート含有層22によって覆われていない樹脂層40の表面(例えば、凹部24)上に金属インク72が配置される。
【0131】
(金属層形成工程)
その後、本実施形態の一例においては、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去されないように配慮された所定温度(例えば、約70〜約150℃)により、低温加熱工程(乾燥工程)が施される。従って、この低温加熱工程の代表例は、脂肪族ポリカーボネート含有層22及び金属インク72を、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される温度未満であり、かつ金属インク72から金属層74が形成される温度以上となる温度で加熱する工程である。より具体的には、樹脂層40上の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22及び金属インク72に対して、公知のヒーターを用いて、約120〜約150℃で約20分間〜約30分間の加熱処理を施した。なお、本実施形態の公知のヒーターは、アズワン株式会社製のホットプレート(型式,TH−900)であるが、加熱手段はそのようなヒーターに限定されない。例えば、その他の公知のホットプレート等のヒーターは、採用し得る他の一態様である。
【0132】
その結果、
図9に示すように、脂肪族ポリカーボネート含有層22が残された状況下において、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上に微細な幅となり得る金属層74を有する複合部材110が形成される。なお、本実施形態の金属層74の代表的な一例は、銀(Ag)の粒子、又はその粒子が結合した塊状(例えば、拡散的に結合した塊状)の銀(Ag)を含む層である。また、この金属層74は、各種デバイスの配線又は電極等として、又は該配線の一部として活用することができる。
【0133】
なお、
図10に示すように、最終的に脂肪族ポリカーボネート含有層22が加熱工程によって除去された後には、脂肪族ポリカーボネート含有層が形成されていない樹脂層40の厚さ(
図10のt
2)が、脂肪族ポリカーボネート含有層22が形成されていた樹脂層40の厚さ(
図10のt
1)よりも薄くなるという形状的特徴を持った構造が形成される。本実施形態においては、その厚さの差を判断する基準として、凹部24の端部から1〜5ミクロンの距離(
図10のd)における脂肪族ポリカーボネート含有層が形成されていた樹脂層40の厚さを採用する。なお、
図10においては、図を見やすくするために、樹脂層40上の金属層74及び脂肪族ポリカーボネート含有層22は図示されていない。
【0134】
(金属めっき層形成工程)
本実施形態においては、その後、金属層74を出発材層として、公知の無電解めっき法によって金属めっき層(例えば、銅(Cu)層)75を形成する金属めっき層形成工程が行われることにより、
図11Aに示す複合部材120aを製造することができる。
【0135】
さらにその後、脂肪族ポリカーボネート含有層22の溶媒成分の消失とともに、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される温度(例えば、180℃以上、好ましくは250℃以上、更に好ましくは260℃以上)で加熱する加熱工程(除去工程)を行う。なお、既に述べたとおり、加熱工程の代わりに、例えば、脂肪族ポリカーボネート含有層22を溶かすことができる溶剤(具体例として、クロロホルム、アセトン、エチルメチルケトン、酢酸エチル、テトラヒドロフラン)を接触し、散布し、又は該溶剤に浸漬させる等の、ウェット処理方法によって脂肪族ポリカーボネート含有層22を除去する除去工程を採用することができる。この除去工程によって脂肪族ポリカーボネート含有層22を実質的に残渣を残すことなく分解又は除去することができるため、
図12Aに示すように、基材10上に樹脂層40を有し、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上の少なくとも一部に金属層74を有し、さらに、金属層74上に金属めっき層75を有する複合部材130aを製造することができる。従って、例えば各種デバイスの配線を形成する際に脂肪族ポリカーボネート含有層22を採用することにより、金属層74又は金属めっき層75を用いた微細な配線形成の簡便化、及び/又は高品質化の実現に大きく貢献し得る。なお、
図12Aにおいては、図面を分かりやすくするために、金属層74と金属めっき層75との境界を明示しているが、実際には、その境界を明確に判別できない場合がある。金属層74と金属めっき層75とが描かれているその他の図面についても同様である。
【0136】
また、
図11Aに示す複合部材120a、又は
図12Aに示す複合部材130aにおいて、金属めっき層75の形成のために、無電解メッキ法及び/又は電解メッキ法を用いることができる。また、無電解メッキ法及び電解メッキ法の両者を複合的に採用することも、例えば導電性を高める観点から、好適な他の一態様である。
【0137】
<第1の実施形態の変形例(1)>
ところで、
図9に示す複合部材110が形成された後、金属めっき層形成工程が行うことなく、脂肪族ポリカーボネート含有層22の溶媒成分の消失とともに脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される温度で加熱する加熱工程を行うことも、採用し得る他の一態様である。
【0138】
その変形例(1)においては、該加熱工程によって脂肪族ポリカーボネート含有層22を実質的に残渣を残すことなく分解又は除去することができるため、
図11Bに示すように、基材10上に樹脂層40を有し、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上の少なくとも一部に金属層74を有する複合部材120bを製造することができる。
【0139】
また、この変形例(1)においても、
図12Bに示すように、その後、金属層74を出発材層として、公知の無電解めっき法によって金属めっき層(例えば、銅(Cu)層)75を形成する金属めっき層形成工程が行われることにより、複合部材130bを製造することができる。
【0140】
なお、
図6Cの樹脂層40の表面23に示すように、実質的にエッチングされていない状態、換言すれば、略平坦な状態である表面上に形成された金属層74に対して金属めっき層形成工程が施された場合、金属めっき層75の成長方向を制御することが極めて困難となる。その結果、
図12Cに示すように、紙面の横方向への金属めっき層75の成長を許してしまうため、金属めっき層75の寸法精度が悪化する可能性が高まる。一方で、この変形例(1)においては、凹部24上の金属層74を出発材層として金属めっき層75を形成するため、凹部24を構成し得る傾斜状、階段状、又は曲面状等の側面(壁面)の存在によって、金属めっき層75の寸法精度の向上に貢献し得る。
【0141】
ところで、第1の実施形態の複合部材の製造方法においては、金属層形成工程及び金属めっき層形成工程の際に、凹部24以外の樹脂層40上に脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22のパターンが残されていること、換言すれば、既に述べた低温加熱工程(乾燥工程)によって該パターンが除去されていない状態であることは、最終的に形成される金属めっき層75の寸法精度を高める観点から好適な一態様である。
【0142】
従って、
図12Aにおいて示す金属めっき層75の幅(
図12AのW
1)は、第1の実施形態の変形例(1)である
図12Bの金属めっき層の幅(
図12BのW
2)、及び参考例としての
図12Cの金属めっき層75の幅(
図12CのW
3)と比較して、より高い寸法精度を実現し得る。
【0143】
本実施形態において製造した複合部材120bにおける金属層74を実際に写した、光学顕微鏡写真(平面視)の一例を
図13に示す。
図13に示すように、約3μmという微細な幅の配線パターンが実現されている。
【0144】
<第1の実施形態の変形例(2)>
上述のとおり、第1の実施形態、又は第1の実施形態の変形例(1)において示された複合部材120b,130a,130b,130cにおいて、金属層74及び/又は金属めっき層75を、各種のデバイスの金属配線又は導電体層として活用することは、好適な一態様である。
【0145】
例えば、
図14は、採用し得る1つの実施形態としての複合部材300A(
図15に示す)を構成する複合部材120b,130a,130b,130cの一部の平面図である。また、
図15は、採用し得る1つの実施形態としての複合部材300Aの一部の側面図(a)及び一部の平面図(b)である。
【0146】
図14(a)に示す、金属層74及び/又は金属めっき層75を用いた導電体層74aの例である、紙面縦方向のみのストライプ状であってメッシュ状の配線を備えた複合部材120b,130a,130b,130cと、
図14(b)に示す、金属層74及び/又は金属めっき層75を用いた導電体層74bの例である、紙面横方向のみのストライプ状であってメッシュ状の配線を備えた複合部材120b,130a,130b,130cとが準備される。
【0147】
その後、
図15(a)及び(b)に示すように、それら2つの複合部材120b,130a,130b,130cを電極として、誘電体層50を介して2つの複合部材120b,130a,130b,130cを重ね合わせる、導電体層形成工程が行われる。その結果、誘電体層50を介して2つの複合部材120b,130a,130b,130cを重ね合わせた構造を有する複合部材300Aを製造することができる。なお、前述のメッシュ状の配線がストライプ状に形成されることは採用例の一つにすぎない。
図14(a)及び
図14(b)における紙面の全面がメッシュ状の配線であることも採用され得る。また、その他の公知の方法による複数の複合部材120b,130a,130b,130cの重ね合わせの例も採用され得る。また、前述のメッシュ状の代わりにハニカム状構造が採用されても良い。
【0148】
また、代表的な導電体層74a,74bの幅は、約500nm〜約20μmである。これらの配線の幅は、第1の実施形態の少なくともナノインプリント法によって、脂肪族ポリカーボネート含有層22のパターンにおける、各々の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22に挟まれた領域(隙間)の間隔として実現し得る幅である。そのため、この実施形態によれば、従来採用されてきた真空プロセス又はフォトリソグラフィー法を用いたプロセスといった比較的長時間、及び/又は高価な設備を要するプロセスに代わって、環境負荷の小さい、低エネルギー化を実現するプロセスによって、複合部材300Aを製造することができることになる。
【0149】
上述の非常に細い配線の幅を採用することは、たとえその配線自身に透明性が無くても、通常は人間の目には認識されない程度の細さを実現することになる。その結果、例えば複合部材300Aをいわゆる静電容量方式のタッチパネルとして利用した場合に、そのタッチパネルの導電体層として活用することが可能となる。
【0150】
<第1の実施形態の変形例(3)>
なお、複合部材の一例として、
図15及び
図16に示すような静電容量方式のタッチパネルを示しているが、タッチパネルの検出方式は静電容量方式に限定されない。例えば、抵抗膜方式のタッチパネルの導電体層として、第1の実施形態の金属層74及び/又は金属めっき層75を活用することは、採用し得る好適な他の一態様である。
【0151】
例えば、
図16は、採用し得る1つの実施形態としての複合部材300Bの一部の平面図である。
図16に示す複合部材300Bは、金属層74及び/又は金属めっき層75を用いた導電体層74cに示す紙面縦方向のみの配線を備えた複合部材120b,130a,130b,130cと、金属層74及び/又は金属めっき層75を用いた導電体層74dに示す紙面横方向のみの配線を備えた複合部材120b,130a,130b,130cとをある公知の距離を離して重ね合わせた構造を備える。なお、
図16は平面視であるため、2つの複合部材120b,130a,130b,130cが、例えば公知のスペーサーを用いて、該距離を離して重なっていることは直接的には示されていないが当業者であれば理解し得る。なお、この変形例(3)においては、第1の実施形態の変形例(2)において説明した各種のメッシュ状の配線等が採用されることは好適な一態様である。
【0152】
また、代表的な導電体層74c,74dの配線の幅は、約500nm〜約20μmである。これらの配線の幅は、第1の実施形態の少なくともナノインプリント法によって、脂肪族ポリカーボネート含有層22のパターンにおける、各々の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22に挟まれた領域(隙間)の間隔として実現し得る幅である。そのため、この実施形態によれば、従来採用されてきた真空プロセス又はフォトリソグラフィー法を用いたプロセスといった比較的長時間、及び/又は高価な設備を要するプロセスに代わって、環境負荷の小さい、低エネルギー化を実現するプロセスによって、複合部材300Bを製造することができることになる。
【0153】
上述の非常に細い配線の幅を採用することは、たとえその配線自身に透明性が無くても、通常は人間の目には認識されない程度の細さを実現することになる。その結果、例えば複合部材300Bをいわゆる抵抗膜方式のタッチパネルとして利用した場合に、そのタッチパネルの導電体層として活用することが可能となる。
【0154】
なお、第1の実施形態及びその変形例(1)の複合部材120b,130a,130b,130cは、タッチパネル以外のデバイス(例えば、液晶ディスプレイ、有機ELデバイス、フレキシブルプリント配線版、又はフレキシブル圧電センサーシート)への適用も可能である。
【0155】
従って、第1の実施形態又はその変形例(1)の各工程を経た上で、
図14乃至
図16に示すような、複数の複合部材120b,130a,130b,130cを重ね合わせることにより、平面視において格子状の導電体層74a,74b,74c,74dとなるように形成する、配線形成工程を設けることは、タッチパネルに代表される各種のデバイスの製造に際して、環境負荷の低減、及び製造コストの低減を実現し得る。
【0156】
<第1の実施形態の変形例(4)>
ところで、第1の実施形態においては、凹部24上の略全面に金属層74を有する態様が説明されているが、第1の実施形態はそのような態様に限定されない。
【0157】
例えば、
図17は、
図11Bに対応する、この変形例における複合部材120cの製造方法の一過程を示す断面模式図である。複合部材120cにおいては、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24の一部だけが金属層74,74を備えている。この態様においても、その後、例えば公知の無電解めっき法によって金属めっき層(例えば、銅(Cu)層)75を形成する金属めっき層を形成することができる。
【0158】
<第2の実施形態>
本実施形態においては、第1の実施形態と同様にパターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成された後、
図18に示すように、公知の金属インクの塗布装置(例えば、インクジェット法による塗布装置)90を用いて基材10上に設けられた樹脂層40上に金属インク72(銀ナノ粒子インクに代表される、公知の金属触媒ナノ粒子のインク)を配置又は塗布する工程が行われる。また、本実施形態においては、各々の該脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22が形成されていない領域内(一例として凹部24)のうち、一部にのみ金属インク72が配置されているが、全ての該領域内に金属インク72が配置されることも採用し得る他の一態様である。
【0159】
図19に示すように、上述の金属インク72の配置又は塗布する工程を経ることにより、樹脂層40における一部の凹部24にのみ金属インク72が接することになる。
【0160】
なお、本実施形態においても、パターン状の脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22の撥液性が高いため、微細化が進むことによって該パターン間の距離が短くなると、金属インク72を、例えば凹部24に接するように配置することが困難となる。しかしながら、本実施形態においては、脂肪族ポリカーボネート含有層22と基材10との間に樹脂層40が設けられているため、樹脂層40が備える金属インク及び該金属インク中の溶質材料との親和性の高さを利用して前述の技術課題を克服することが可能となった。その結果、金属インク72は、基材10側(樹脂層40側)に、いわば引き寄せられることによって、凹部24上に適切に配置され得る。
【0161】
また、本実施形態においては、例えばインクジェット法による塗布装置を採用することによって選択的な塗布が可能となるため、
図19に示すように、金属インク72が配置されない「V」が示す空間を形成することができる。
【0162】
次に、第1の実施形態及びその変形例(1)において説明したように、その後の加熱工程の条件によって、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される場合と、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去されずに残される場合がある。
【0163】
第1の実施形態の低温加熱工程(乾燥工程)が施された場合は、脂肪族ポリカーボネート含有層22及び金属インク72を、脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される温度未満であり、かつ金属インク72から金属層74が形成される温度以上となる温度で加熱する工程が施される。その結果、
図20Aに示すように、脂肪族ポリカーボネート含有層22が残された状況下で、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上に金属層74を有する複合部材220aが形成される。なお、この金属層74は、各種デバイスの配線又は電極等として、又は該配線の一部として活用することができる。
【0164】
一方、第1の実施形態の変形例(1)において採用した加熱工程、すなわち、脂肪族ポリカーボネート含有層22の溶媒成分の消失とともに脂肪族ポリカーボネート含有層22が分解又は除去される温度で加熱する加熱工程を行うことも、採用し得る他の一態様である。この場合は、該加熱工程によって脂肪族ポリカーボネート含有層22を実質的に残渣を残すことなく分解又は除去することができるため、
図20Bに示すように、基材10上に樹脂層40を有し、樹脂層40の表面の一部に形成された凹部24上の少なくとも一部に金属層74を有する複合部材220bを製造することができる。なお、既に述べたとおり、加熱工程の代わりに、上述のウェット処理方法によって脂肪族ポリカーボネート含有層22を除去する除去工程を採用することができる。
【0165】
さらに、その後、金属層74を出発材層として、公知の無電解めっき法によって金属めっき層(例えば、銅(Cu)層)75を形成する金属めっき層形成工程が行われることにより、第1の実施形態において採用した処理を行った場合は、
図21Aに示す複合部材230aを製造することができる。同様に、第1の実施形態の変形例(1)において採用した処理を行った場合は、
図21Bに示す複合部材230bを製造することができる。
【0166】
ところで、本実施形態の複合部材の製造方法においては、金属層形成工程及び金属めっき層形成工程の際に、凹部24以外の樹脂層40上に脂肪族ポリカーボネート含有層22,22,22のパターンが残されていること、換言すれば、既に述べた低温加熱工程(乾燥工程)によって該パターンが除去されていない状態であることは、最終的に形成される金属めっき層75の寸法精度を高める観点から好適な一態様である。
【0167】
なお、参考例としての
図21Cにおける樹脂層40の表面に示すように、実質的にエッチングされていない状態、換言すれば、略平坦な状態である表面上に形成された金属層74に対して金属めっき層形成工程が施された場合、金属めっき層75の成長方向を制御することが極めて困難となる。その結果、
図21Cに示すように、紙面の横方向への金属めっき層75の成長を許してしまうため、金属めっき層75の寸法精度が悪化する可能性が高まる。
【0168】
<その他の実施形態(1)>
ところで、第1の実施形態においては、加熱処理のみによって該脂肪族ポリカーボネートを分解させているが、本実施形態においては、別の手段によって該脂肪族ポリカーボネートを実質的に分解又は除去することができることが確認されている。例えば、公知の紫外光照射装置(サムコ株式会社製、型式,UV−300H−E)を用いて、180nm以上370nm以下の波長を含む紫外光を照射しながら加熱処理を施した場合は、該脂肪族ポリカーボネートの分解又は除去がより促進されることになる。なお、該紫外光による処理の際に、その処理の雰囲気中にオゾン(O
3)が生成すること、あるいは、積極的に処理雰囲気中にオゾン(O
3)を導入することは許容される。
【0169】
その結果、第1の実施形態の加熱温度よりも低温(例えば、120℃以上180℃未満、代表的には、120℃以上140℃以下)の加熱処理を施すことによって、脂肪族ポリカーボネート含有層22が実質的に又はほぼ消失し得ることが、本発明者らの研究及び分析によって確認された。従って、本実施形態においては、金属インク72から金属層74を形成するために要する加熱処理の温度が、上述の脂肪族ポリカーボネート含有層22が実質的に又はほぼ消失し得る温度と同等の又はより低い温度である場合は、該脂肪族ポリカーボネート含有層22が実質的に又はほぼ消失し得る温度にまで加熱するだけで、複合部材120b,130a,130b,130cを形成することができる。
【0170】
<その他の実施形態(2)>
加えて、第1の実施形態のもう1つの変形例においては、加熱処理を伴わずに脂肪族ポリカーボネート含有層22を分解させる他の手段があることを本発明者らは確認した。例えば、脂肪族ポリカーボネート含有層22を、加熱処理を伴わずに、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに曝露することによって脂肪族ポリカーボネート含有層22を分解させることができる。この変形例においては、大気圧雰囲気において発生させたプラズマに曝露している間、加熱処理が行われないため、該プラズマ処理とは別に、金属インク72から金属層74を形成するために要する加熱処理の温度にまで加熱するだけで、複合部材120b,130a,130b,130cを形成することができる。
【0171】
以上述べたとおり、上述の各実施形態の開示は、それらの実施形態の説明のために記載したものであって、本発明を限定するために記載したものではない。加えて、各実施形態の他の組み合わせを含む本発明の範囲内に存在する変形例もまた、特許請求の範囲に含まれるものである。
本発明の1つの複合部材100の製造方法は、基材10上に、カルボキシル基を有する樹脂を含有する樹脂層40を形成する、樹脂層形成工程と、該樹脂層40上に、脂肪族ポリカーボネート含有層22のパターンを形成する脂肪族ポリカーボネート含有層形成工程と、該脂肪族ポリカーボネート含有層22が形成されていない樹脂層40の表面の少なくとも一部に凹部を形成する凹部形成工程と、凹部上に金属層74を形成する、金属層形成工程と、を含む。