【課題を解決するための手段】
【0011】
規則化された結晶構造を有する磁性合金粒子を製造・利用するにあたっては、上記特許文献2におけるシリカ皮膜のような、合金粒子を支持或いは保護するための担体の適用が好適であり、担体と磁性合金粒子とが組み合わされた磁性材料としての形態を利用することが好ましいと考えられる。磁性合金粒子の製造工程における規則化のためには熱処理が必須であるが、加熱による合金粒子の凝集による粒径増大を回避する必要があり、そのためにはシリカ担体の使用が好ましいからである。担体は、磁気記録媒体等の製造には不要な構成ではあるが、磁性合金粒子と担体との分離は十分に可能であるし、磁性合金粒子のキャリアとして考えると、むしろ有用なものと考えられる。
【0012】
そこで、本発明者等は、担体としてシリカを利用しつつ好適に規則化された結晶構造を有する磁性合金粒子を製造する手法について検討したところ、シリカ担体にBa等のアルカリ土類金属化合物を含有させると共に、磁性合金の生成(還元)と規則化のタイミングを同時に行うことにより、従来よりも規則化が促進され好ましい磁気特性を発揮し得る磁性合金粒子を見出し本発明に想到した。
【0013】
即ち、本発明は、結晶磁気異方性を有する磁性合金粒子と、前記磁性合金粒子を被覆するシリカ担体とからなる磁性材料において、前記シリカ担体は、アルカリ土類金属化合物を含むものである磁性材料である。
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。本発明に係る磁性材料は、磁性合金粒子とこれを被覆するシリカ担体とからなるが、具体的な構成は、磁性合金粒子をコアとし、その少なくとも一部をシリカ担体が被覆するコアシェル型の複合材料の形態を有する。
【0015】
磁性合金粒子の構成材料としては、FePt合金、CoPt合金、FePd合金、Co
3Pt合金、Fe
3Pt合金、CoPt
3合金、FePt
3合金等の強磁性金属と貴金属とからなる合金が好ましい。これらの合金は、結晶構造を規則化することで結晶磁気異方性を発揮し高い保磁力を有する磁性合金である。
【0016】
これらの磁性合金粒子について、強磁性金属(M)と貴金属(PM)との構成比(原子%(at%)基準)は、FePt合金、CoPt合金、FePd合金の場合、M:PM=50:50の±10at%としたものが好ましく、±5at%がより好ましい。また、Co
3Pt合金、Fe
3Pt合金については、M:PM=75:25の±10at%としたものが好ましく、±5at%がより好ましい。さらに、CoPt
3合金、FePt
3合金については、M:PM=25:75の±10at%としたものが好ましく、±5at%がより好ましい。尚、強磁性金属と貴金属との構成比(M:PM)の計算方法としては、例えば、誘導結合プラズマ質量分析計(ICP−MS)及び蛍光X線分析(XRF)による元素分析から測定された構成比を元に算出できる。但し、これらの分析方法で測定される構成比は、不純物も含めた両金属の構成比である。そこで、この構成比に、X線回折(XRD)パターンのリートベルト解析における精密化により得られる磁性合金粒子と不純物との重量比を加味することで、正確な構成比が算出できる。
【0017】
また、上記の磁性合金の構造として、FePt合金、CoPt合金、FePd合金はL1
0構造を形成し、Co
3Pt合金、Fe
3Pt合金はL1
2構造、DO
19構造又はPmm2構造などの規則化構造を形成し、CoPt
3合金、FePt
3合金は、L1
2構造を形成する(
図1参照)。これらの磁性合金は、高度に規則化されたfct構造、fcc構造、及びhcp構造であることが好ましい。
【0018】
尚、磁性合金粒子の粒径については、1nm以上100nm以下の範囲にあるものが好ましく、1nm以上20nm以下の範囲にあるものがより好ましい。磁性粒子として利用する際に微小粒径であることが望まれるからである。
【0019】
以上説明した磁性合金粒子を被覆するシリカ担体は、本発明に係る磁性材料の製造工程において、磁性合金粒子の形成及び規則化を適切な状態とするために利用される。このシリカ担体の量に関しては、シリカ担体に含まれるSiのモル数と、磁性合金粒子を構成する金属の合計モル数(例えば、FePt合金の場合、Feのモル数とPtのモル数との合計となる。)との比(Si/磁性合金粒子)で0.5以上20以下の範囲にあるものが好ましい。0.5未満だと磁性合金粒子が凝集し粗大粒子が生成する可能性があり、20よりも多くシリカ担体を用いても粒子径は顕著には変化しないため、経済的に好ましくないからである。
【0020】
尚、シリカ担体は、磁性合金粒子の全面若しくは一部を被覆するがこのときのシリカの膜厚は、1nm以上100nm以下が好ましく、1nm以上30nm以下がより好ましい。かかる厚さのシリカは、磁性合金粒子同士の凝集を防止するのに十分な厚さの隔壁となる。また、超高密度記録を可能とするビットパターンメディア(BPM)の磁気記録媒体では、非磁性材料により隔壁されたナノメートルスケールの強磁性体を基板上に規則配列させた構造を有するが、かかる厚さのシリカは磁気的に孤立した強磁性体を形成するのに十分な厚さの隔壁となる。このシリカ担体が磁性合金粒子を被覆してなる磁性材料は、粒径0.1μm以上100μm以下の粒子状物質である。
【0021】
そして、本発明におけるシリカ担体は、アルカリ土類金属化合物を含む点に特徴を有する。その機構は明確ではないが、アルカリ土類金属を含むシリカ中で熱処理することで、磁性合金粒子の規則化が促進され好適な磁気特性を有する粒子を形成することができる。このアルカリ土類金属はシリカの内壁に偏析しており、本発明者等は、アルカリ土類金属が磁性合金粒子の形状にも影響を及ぼしていると考察している。アルカリ土類金属は、Ba(バリウム)、Ca(カルシウム)、Sr(ストロンチウム)等の少なくともいずれかを含むものが好ましい。また、本発明に係る磁性材料の状態において、アルカリ土類金属化合物は、BaO等の酸化物の形態で存在することが多いが、水酸化物、ケイ酸化合物である場合もある。
【0022】
また、アルカリ土類金属化合物の存在比率は、アルカリ土類金属の合計モル数と、磁性合金粒子を構成する金属の合計モル数との比(アルカリ土類金属/磁性合金粒子)で0.001以上0.8以下であるものが好ましい。この比率は、より好ましくは0.001以上0.5以下、更に好ましくは0.01以上0.5以下とする。
【0023】
次に、本発明に係る磁性材料の製造方法について説明する。本発明に係る磁性材料の製造方法は、2種以上の金属化合物を含み界面活性剤と結合した水相が油相中で分散する原料ミセル溶液と、中和剤を含み界面活性剤と結合した水相が油相中で分散する中和剤ミセル溶液とを混合することにより、混合液中の水相で複合金属水酸化物粒子を生成する工程と、前記混合液にケイ素化合物を添加することにより、前記複合金属水酸化物粒子をシリカで被覆して、複合金属水酸化物粒子/シリカからなるコア/シェル粒子を形成する工程と、前記複合金属水酸化物粒子/シリカからなるコア/シェル粒子を前駆体として焼成熱処理することにより、前記複合金属水酸化物粒子を還元すると共に、結晶構造を規則化して磁性合金粒子を直接的に生成する工程と、を含み、更に、前記原料ミセル溶液は、その水相中にアルカリ土類金属塩を含むものである、磁性材料の製造方法である。
【0024】
上記本発明の磁性材料の製造方法は、磁性合金の構成金属を含む微小な複合金属水酸化物を形成する段階と、ケイ素化合物添加によって複合金属水酸化物をシリカ担体で被覆する段階と、複合金属水酸化物を熱処理して還元と規則化とを同時に進行させる段階で構成されるものである。
【0025】
本発明に係る磁性材料の製造方法の概略について
図2を用いて説明する。本発明では、まず、磁性合金を構成する金属(Fe、Co、Pt、Pd等)の化合物(金属塩又は金属錯体)の水溶液(水相)に界面活性剤が結合し、これが油相中に分散した原料ミセル溶液と、中和剤水溶液(水相)に界面活性剤が結合したものが油相中に分散した中和剤ミセル溶液とを用意する(
図2(a))。そして、これらを混合した混合溶液を製造する。これにより、水相中で金属塩と中和剤とが反応して各金属で構成する複合金属水酸化物の微粒子を含む逆ミセルが生成される(
図2(b))。
【0026】
次に、上記の逆ミセル状の複合金属水酸化物微粒子にシリカ被覆を行う(
図2(c))。この工程では、上記の混合溶液にケイ素アルコキシド等のケイ素化合物溶液を添加する。これにより、ケイ素化合物の加水分解が水相で生じ、複合金属水酸化物微粒子の表面がシリカにより被覆される。
【0027】
以上のようにして生成した、複合金属水酸化物微粒子/シリカからなるコア/シェル微粒子は、本発明に係る磁性材料の前駆体として作用する。この前駆体については、適宜に混合溶液より分離し(
図2(d))、熱処理することで、還元されて磁性合金となるが、このとき結晶構造の規則化を同時に進行させることができる(
図2(e))。本発明に係る方法では、前駆体に対して還元処理と規則化とを同時に行うことで、各金属原子の自由度を確保しつつ好適な結晶構造を形成させている。
【0028】
本発明に係る磁性材料の製造方法の各工程についてより詳細に説明する。この本発明に係る方法では、原料ミセル溶液と中和剤ミセル溶液を製造する。原料ミセル溶液では、磁性合金の構成金属の金属化合物(金属塩、金属錯体)の水溶液が水相となる。ここに界面活性剤が結合する。
【0029】
FePt合金、CoPt合金、FePd合金、Co
3Pt合金、Fe
3Pt合金、CoPt
3合金、FePt
3合金からなる磁性合金粒子製造のための金属化合物の具体例としては、鉄の金属塩又は錯体として、硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄、酢酸鉄、鉄アンミン錯体、鉄エチレンジアミン錯体、エチレンジアミン四酢酸鉄、トリス(アセチルアセトナート)鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、クエン酸鉄、フェロセン及びフェロセンアルデヒド等が用いられる。コバルトの金属塩又は錯体は、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルト、酢酸コバルト、コバルトアンミン錯体、コバルトエチレンジアミン錯体、エチレンジアミン四酢酸コバルト、コバルトアセチルアセトナート錯体等が用いられる。白金の金属塩又は錯体は、塩化白金酸、酢酸白金、硝酸白金、白金エチレンジアミン錯体、白金トリフェニルホスフィン錯体、白金アンミン錯体及び白金アセチルアセトナート錯体等が用いられる。パラジウムの金属塩又は錯体は、酢酸パラジウム、硝酸パラジウム、硫酸パラジウム、塩化パラジウム、パラジウムトリフェニルホスフィン錯体、パラジウムアンミン錯体、パラジウムエチレンジアミン錯体及びパラジウムアセチルアセトナート錯体等が用いられる。磁性合金の構成金属の構成比率は、この金属塩水溶液の調整時に制御することができる。
【0030】
ここで、本発明に係る磁性材料は、シリカ担体中にアルカリ土類金属の化合物を含むことを特徴としている。本発明者等は、アルカリ土類金属は、後述する前駆体形成後の焼成熱処理による規則化を促進する作用を有すると考察している。このアルカリ土類金属は、原料ミセル溶液にアルカリ土類金属化合物として添加される。具体的には、アルカリ土類金属の硝酸塩、酢酸塩、クエン酸塩、炭酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩素酸塩、過塩素酸塩、オキシハロゲン化物、有機酸の塩等を上記金属塩水溶液に添加する。本発明に係る磁性材料におけるシリカ担体中のアルカリ土類金属の含有量は、このときのアルカリ土類金属化合物の添加量により調整される。
【0031】
そして、金属塩水溶液と油相となる有機溶媒と界面活性剤とを混合して原料ミセル溶液とする。金属塩水溶液に有機溶媒、界面活性剤を添加した後は、均一になるよう攪拌することが好ましい。ここで、油相である有機溶媒としては、アルカン(例えば、n−ヘプタン、n−ヘキサン、イソオクタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン等)、シクロアルカン(例えば、シクロヘキサン、シクロペンタン等)、芳香族炭化水素(例えば、ベンゼン、トルエン等)が適用される。有機溶媒の使用量は、水に対する体積比で1倍以上10倍以下とするのが好ましい。
【0032】
界面活性剤は、臭化セチルトリメチルアンモニウム(CTAB)、塩化セチルトリメチルアンモニウム(CTAC)、オレイン酸カリウム、オレイン酸ナトリウム、塩化セチルピリジウム、塩化ベンズアルコニウム、臭化セチルジメチルエチルアンモニウム等の陽イオン界面活性剤、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウム、コール酸ナトリウム、カプリル酸ナトリウム、ステアリン酸ナトリウム、ラウリル硫酸ナトリウム等の陰イオン界面活性剤、ポリオキシエチレンエステル、ポリオキシエチレンエーテル、ポリオキシエチレンソルビタンエステル、ソルビタンエステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル等の非イオン界面活性剤、N−アルキル−N,N−ジメチルアンモニオ−1−プロパンスルホン酸等の両性イオン界面活性剤等が適用できる。界面活性剤の使用量は、水に対して0.01モル倍以上5モル倍以下とするのが好ましい。具体例としては、CTABの場合には、水に対して0.01モル倍以上0.05モル倍以下、ポリオキシエチレンエーテルの場合には、水に対して0.1モル倍以上5モル倍以下、ジ−2−エチルヘキシルスルホコハク酸ナトリウムの場合には、水に対して0.01モル倍以上0.1モル倍以下とするのが好ましい。
【0033】
一方、中和剤ミセル溶液は、中和剤溶液に油相となる有機溶媒、界面活性剤を混合して作製できる。中和剤としては、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化テトラメチルアンモニウム等のアルカリ溶液が適用できる。有機溶媒、界面活性剤については、原料ミセル溶液と同様のものを使用することができる。
【0034】
そして、以上のようにして用意し原料ミセル溶液と中和剤ミセル溶液とを混合して水相内で金属塩の水酸化反応を生じさせる。この作業は、一方のミセル溶液に他方のミセル溶液を滴下して1分間以上60分間以下攪拌して均一化する。これにより水相の各金属化合物から複合金属水酸化物が生成する。
【0035】
続いて、ケイ素化合物の添加によりシリカ被覆を形成する。混合溶液に添加するケイ素化合物としては、具体的には、テトラアルコキシシラン(例えば、テトラエトキシシラン(TEOS)、テトラメトキシシラン(TMOS))、メルカプトアルキルトリアルコキシシラン(例えば、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシラン(MPS)、γ−メルカプトプロピルトリエトキシシラン)、アミノアルキルトリアルコキシシラン(例えば、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン(APS))、3−チオシアナトプロピルトリエトキシシラン、3−グリシジルオキシプロピルトリエトキシシラン、3−イソシアナトプロピルトリエトイシシラン、及び3−[2−(2−アミノエチルアミノ)エチルアミノ]プロピルトリエトキシシラン等が適用できる。ケイ素化合物の添加量は、そのSiモル数と原料ミセル中の金属の合計モル数との比(Si/原料ミセル)で0.5以上20以下となるようにすることが好ましい。ケイ素化合物の添加により、混合溶液の逆ミセルの水相内で加水分解が生じシリカが生成するが、十分なシリカ皮膜形成のため1時間以上48時間以下混合溶液を攪拌するのが好ましい。
【0036】
シリカ皮膜は複合金属水酸化物粒子を被覆してコア/シェル粒子を形成するが、この微粒子を磁性材料の前駆体として利用するために混合溶液から分離、洗浄を行うのが好ましい。この分離作業は、遠心分離と洗浄を適宜に繰返した後に乾燥する。
【0037】
分離された複合金属水酸化物粒子/シリカからなるコア/シェル粒子は、本発明に係る磁性材料の前駆体として熱処理される。この熱処理は、還元性雰囲気、例えば、水素雰囲気中、300℃以上1300℃以下で行うのが好ましい。300℃未満では磁性合金粒子の結晶構造の規則化が進まないためである。また、この焼成温度はできるだけ高温とするのが好ましいが、シリカの溶融温度を考慮すると1300℃を上限とする。この焼成温度での保持時間は、0.5時間以上10時間以下とするのが好ましい。
【0038】
以上の焼成熱処理によって、シリカ担体で被覆された磁性合金粒子が製造される。焼成処理では、複合金属水酸化物粒子の還元と共に結晶構造の規則化が進行し、焼成後の磁性材料中の磁性合金粒子は好適な磁気特性を有する。
【0039】
そして、この磁性材料については、シリカ被覆を除去することで微細粒径の磁性合金粒子として利用することが可能である。シリカ被覆の除去の方法としては、シリカのみを溶解可能な水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウムエタノール溶液、水酸化テトラメチルアンモニウム水溶液等のアルカリ溶液で本発明に係る磁性材料をエッチング処理するのが好ましい。好適なエッチング方法としては、例えば、濃度5Mの水酸化ナトリウム水溶液で、温度75℃、24時間の浸漬処理を行うことでシリカ被覆を除去することができる。尚、このシリカのエッチングの際には、シリカ以外に不純物やアルカリ土類金属化合物も除去され高純度の磁性合金粒子が得られる。