特許第6347476号(P6347476)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6347476細胞捕捉システム及び細胞捕捉システムの運転方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6347476
(24)【登録日】2018年6月8日
(45)【発行日】2018年6月27日
(54)【発明の名称】細胞捕捉システム及び細胞捕捉システムの運転方法
(51)【国際特許分類】
   C12M 1/26 20060101AFI20180618BHJP
   C12Q 1/24 20060101ALI20180618BHJP
【FI】
   C12M1/26
   C12Q1/24
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2013-238857(P2013-238857)
(22)【出願日】2013年11月19日
(65)【公開番号】特開2015-97499(P2015-97499A)
(43)【公開日】2015年5月28日
【審査請求日】2016年9月21日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年5月24日 Analytical chemistry 2013,85,5692−5698にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月5日 The 7th International Workshop on Approaches to Single−Cellにて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月5日 The 7th International Workshop on Approaches to Single−Cell STANFORD UNIVERSITY(米国、カリフォルニア州)にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年8月25日 第65回日本生物工学会大会講演予稿集,第151頁にて発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成25年9月19日 第65回日本生物工学会大会(広島国際会議場)にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】000004455
【氏名又は名称】日立化成株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【弁理士】
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(72)【発明者】
【氏名】小田切 大平
(72)【発明者】
【氏名】上原 寿茂
(72)【発明者】
【氏名】金友 正文
(72)【発明者】
【氏名】細川 正人
(72)【発明者】
【氏名】吉野 知子
(72)【発明者】
【氏名】松永 是
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−201421(JP,A)
【文献】 特開2010−071710(JP,A)
【文献】 特表2013−523135(JP,A)
【文献】 特開2011−163830(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/016842(WO,A1)
【文献】 特表2008−538509(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12M 1/00− 3/10
C12Q 1/00− 3/00
PubMed
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/BIOSIS/MEDLINE/WPIDS/EMBASE(STN)
Google Scholar
J−Stage
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検液又は前記被検液中の細胞を処理するための処理液を内部に導入するための導入流路と、導入された前記被検液又は前記処理液を外部に排出するための排出流路と、複数の貫通孔が厚み方向に形成されて、前記導入流路と前記排出流路との間の流路上に前記被検液又は前記処理液が該貫通孔を通過するように配置されたフィルタと、を備える細胞捕捉デバイスと、
前記細胞捕捉デバイスに対して供給する液を前記被検液及び前記処理液から選択する選択手段と、
前記選択手段の選択結果に基づいて、前記被検液又は前記処理液を前記細胞捕捉デバイスに対して供給する送液手段と、
前記排出流路に接続されて前記排出流路から排出される前記被検液又は前記処理液を外部に排出する系外排出用流路と、
前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の液圧を測定する液圧測定手段と、
前記液圧測定手段により測定された液圧に基づいて、前記液圧測定手段より上流側が異常動作状態であるか否か判定する異常判定手段と、
を備え
前記異常判定手段は、正常動作時において、所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報である目標液圧情報を予め保持し、前記所定の時点からの所定の経過時間において前記液圧測定手段により測定された液圧と、当該経過時間における前記目標液圧情報とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する、細胞捕捉システム。
【請求項2】
前記目標液圧情報は、前記細胞捕捉デバイスに対して供給される複数種類の液の供給順序に基づいて前記複数種類の液をそれぞれ供給した際の、所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報であって、
前記所定の時点は、1種類目の液の供給開始よりも前の時点として作成されている請求項記載の細胞捕捉システム。
【請求項3】
前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の流量を測定する流量測定手段をさらに備え、
前記異常判定手段は、前記流量測定手段により測定された流量にも基づいて、前記液圧測定手段及び前記流量測定手段の上流側が異常動作状態であるか否か判定する請求項1または2に記載の細胞捕捉システム。
【請求項4】
被検液又は前記被検液中の細胞を処理するための処理液を内部に導入するための導入流路と、導入された前記被検液又は前記処理液を外部に排出するための排出流路と、複数の貫通孔が厚み方向に形成されて、前記導入流路と前記排出流路との間の流路上に前記被検液又は前記処理液が該貫通孔を通過するように配置されたフィルタと、を備える細胞捕捉デバイスと、
前記細胞捕捉デバイスに対して供給する液を前記被検液及び前記処理液から選択する選択手段と、
前記選択手段の選択結果に基づいて、前記被検液又は前記処理液を前記細胞捕捉デバイスに対して供給する送液手段と、
前記排出流路に接続されて前記排出流路から排出される前記被検液又は前記処理液を外部に排出する系外排出用流路と、を備える細胞捕捉システムの運転方法であって、
液圧測定手段により、前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の液圧を測定する液圧測定ステップと、
前記液圧測定ステップにおいて測定された液圧に基づいて、異常判定手段において前記液圧測定手段より上流側が異常動作状態であるか否か判定する異常判定ステップと、
を含み、
前記異常判定ステップにおいて、所定の時点からの所定の経過時間において前記液圧測定ステップにおいて測定された液圧と、予め保持されている、正常動作時において、前記所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報である目標液圧情報のうち、前記所定の時点からの前記所定の経過時間における目標液圧情報と、を比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する、細胞捕捉システムの運転方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、細胞分散液中に含まれる細胞を捕捉する細胞捕捉デバイス、この細胞捕捉デバイスを用いた細胞捕捉システムに関する。
【背景技術】
【0002】
「悪性腫瘍」とも呼ばれる癌は進行した場合生体の生命維持に重大な支障をきたすため、治療方法について種々検討されている。癌患者の治療方針を決める際の目安になるものとして、癌の転移の有無がある。転移は癌細胞が血管やリンパ管中に侵入し、これらを経由して体中に広がって他の臓器に癌細胞が移り住むことによる。したがって、血中の癌細胞の有無及びその量の測定は、癌の転移予測をするに際して重要な情報となる。このような血管又はリンパ管を通じて人の体内を循環する癌細胞は、血中循環癌細胞(Circulating Tumor Cell:CTC)と呼ばれている。
【0003】
転移癌の検査又は抗癌の評価のためにCTCを捕える従来技術としては、例えば、特許文献1に示すように、CTCをフィルタで捕獲する方法が知られている。特許文献1では、フィルタの半導体技術を用いた製造方法、フィルタを収納したセルユニットの形状、並びに、血液及び処理液を流す流路の構造が示されている。具体的には、フィルタを収納したセルユニットに癌細胞を含んだ血液を流すことで癌細胞を捕獲し、フィルタ上に存在する細胞を染色により癌細胞と同定する構成が示されている。また、特許文献2、3には、癌細胞および免疫細胞の少なくとも一方を含む細胞分散液を通過させて、前記癌細胞および前記免疫細胞の少なくとも一方に、物理的作用、化学的作用及び生理活性作用の少なくとも一種を付与することができる細胞処理カートリッジを備える体液処理システムが開示されている。また、特許文献4には、ニッケル基板に微細貫通孔を有するニッケル基板の上下に試料供給口を備えるポリジメチルシロキサン(PDMS)製上部部材と試料排出口を備える下部部材を備えるマイクロ流体デバイスが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】米国特許出願公開第2011/0053152号明細書
【特許文献2】特開2010−227011号公報
【特許文献3】特開2010−75191号公報
【特許文献4】特開2011−163830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、特許文献1〜4に記載の装置を用いた場合、流路の狭窄又はフィルタの目詰まり等が発生した場合には、それらを回復させる必要がある。しかしながら、細胞捕捉システムによる一連の処理を全て目視で監視することは困難である。
【0006】
本発明は上記を鑑みてなされたものであり、細胞捕捉デバイス及びその近隣における異常を検知し、細胞の捕捉に係る処理を精度よく行うことが可能な細胞捕捉システム及び細胞捕捉システムの運転方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る細胞捕捉システムは、被検液又は前記被検液中の細胞を処理するための処理液を内部に導入するための導入流路と、導入された前記被検液又は前記処理液を外部に排出するための排出流路と、複数の貫通孔が厚み方向に形成されて、前記導入流路と前記排出流路との間の流路上に前記被検液又は前記処理液が該貫通孔を通過するように配置されたフィルタと、を備える細胞捕捉デバイスと、前記細胞捕捉デバイスに対して供給する液を前記被検液及び前記処理液から選択する選択手段と、前記選択手段の選択結果に基づいて、前記被検液又は前記処理液を前記細胞捕捉デバイスに対して供給する送液手段と、前記排出流路に接続されて前記排出流路から排出される前記被検液又は前記処理液を外部に排出する系外排出用流路と、前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の液圧を測定する液圧測定手段と、前記液圧測定手段により測定された液圧に基づいて、前記液圧測定手段より上流側が異常動作状態であるか否か判定する異常判定手段と、を備えることを特徴とする。
【0008】
また、本発明に係る細胞捕捉システムの運転方法は、被検液又は前記被検液中の細胞を処理するための処理液を内部に導入するための導入流路と、導入された前記被検液又は前記処理液を外部に排出するための排出流路と、複数の貫通孔が厚み方向に形成されて、前記導入流路と前記排出流路との間の流路上に前記被検液又は前記処理液が該貫通孔を通過するように配置されたフィルタと、を備える細胞捕捉デバイスと、前記細胞捕捉デバイスに対して供給する液を前記被検液及び前記処理液から選択する選択手段と、前記選択手段の選択結果に基づいて、前記被検液又は前記処理液を前記細胞捕捉デバイスに対して供給する送液手段と、前記排出流路に接続されて前記排出流路から排出される前記被検液又は前記処理液を外部に排出する系外排出用流路と、を備える細胞捕捉システムの運転方法であって、液圧測定手段により、前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の液圧を測定する液圧測定ステップと、前記液圧測定ステップにおいて測定された液圧に基づいて、異常判定手段において前記液圧測定手段より上流側が異常動作状態であるか否か判定する異常判定ステップと、を含むことを特徴とする。
【0009】
上記の細胞捕捉システム及び細胞捕捉システムの運転方法によれば、液圧測定手段により、系外排出用流路内を流れる被検液又は処理液の液圧が測定されると共に、この液圧に基づいて、異常判定手段により、液圧測定手段より上流側が異常動作状態であるか否か判定される。これにより、細胞の捕捉に係る処理において細胞捕捉デバイス又はその近隣で何らかの異常が発生した場合には、異常動作状態で処理が行われたことをシステムとして把握することができ、例えば処理を停止して異常状態を回復させる等の対応ができるため、異常動作状態での細胞捕捉に係る処理を継続することを防いで細胞の捕捉に係る処理を効率よく且つ精度よく行うことが可能となる。
【0010】
ここで、前記異常判定手段は、異常動作の有無を判定するための液圧の閾値となる情報を予め保持し、前記液圧測定手段により測定された液圧と、前記閾値とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する態様とすることが好ましい。
【0011】
上記のように、液圧測定手段により測定された液圧について、予め保持された閾値と比較することで異常動作状態であるか否かを判定することで、測定された液圧に基づいた異常動作の有無の判定を速やかに行うことができる。
【0012】
また、前記異常判定手段は、正常動作時において、前記送液手段による前記被検液又は前記処理液の供給開始からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報である目標液圧情報を予め保持し、前記所定の時点からの所定の経過時間において前記液圧測定手段により測定された液圧と、当該経過時間における前記目標液圧情報とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する態様とすることが好ましい。
【0013】
上記のように、前記所定の時点からの所定の経過時間において前記液圧測定手段により測定された液圧と、当該経過時間における前記目標液圧情報とを比較することで異常動作状態であるか否かを判定する態様とした場合、例えば経過時間によって液圧の閾値が変動する場合でも、経過時間に応じて異常動作状態であるか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0014】
さらに、前記目標液圧情報は、前記細胞捕捉デバイスに対して供給される複数種類の液の供給順序に基づいて前記複数種類の液をそれぞれ供給した際の、所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報であって、前記所定の時点は、1種類目の液の供給開始よりも前の時点として作成されている態様とすることが好ましい。
【0015】
上記のように、1種類目の液の供給開始よりも前の時点から、細胞捕捉デバイスに対して供給される複数種類の液を供給順序に基づいて供給した場合の、経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報を目標液圧情報として保持し、これに基づいて異常動作状態であるか否かを判定する態様とすることで、1種類目の液の供給開始以降の一連の作業において異常動作状態であるか否かの判定を一体的に行うことができることから、異常動作状態であるか否かの判定を精度よく且つ効率よく行うことができる。
【0016】
また、前記系外排出用流路内を流れる前記被検液又は前記処理液の流量を測定する流量測定手段をさらに備え、前記異常判定手段は、前記流量測定手段により測定された流量にも基づいて、前記液圧測定手段及び前記流量測定手段の上流側が異常動作状態であるか否か判定する態様とすることが好ましい。
【0017】
上記のように、流量測定手段により測定された流量にも基づいて異常動作状態であるか否か判定する態様とすることで、異常動作状態であるか否かの判定を2つの情報に基づいて行うことができるため、より精度よく判定することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、細胞捕捉デバイス又はその近隣における異常を検知し、細胞の捕捉に係る処理を精度よく行うことが可能な細胞捕捉システム及び細胞捕捉システムの運転方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の実施形態に係る細胞捕捉システムの構成を説明する図である。
図2】細胞捕捉システムを構成する細胞捕捉デバイスの構成を説明する図である。
図3】細胞捕捉システムにおける運転状態監視方法について説明する図である。
図4】運転状態監視方法の一例について説明する図である。
図5】運転状態監視方法の他の一例について説明する図である。
図6】運転状態監視方法の流量計の使用方法について説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照して、本発明を実施するための形態を詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を省略する。
【0021】
(細胞捕捉システム)
図1は本実施形態に係る細胞捕捉システムの構成を説明する図である。細胞捕捉システムは、被検液となる細胞分散液をフィルタによってろ過することで、被検液中に含まれる細胞を捕捉する装置である。また、フィルタにより捕捉された細胞について、染色液等の処理液を用いて染色することで、細胞の特定及び細胞の個体数のカウント等が行われる。被検液となる細胞分散液としては、例えば血液が挙げられる。また、細胞捕捉システムは、例えば、CTCと呼ばれる循環癌細胞を含む血液中から、血液中に含まれる赤血球、血小板及び白血球(以下、これらを総称して「血球成分」とする)を通過させる一方で、CTCを捕捉する目的に好適に用いられる。
【0022】
図1に示すように、細胞捕捉システム100は、細胞を捕捉するためのフィルタが内部に設けられた細胞捕捉デバイス1、細胞捕捉デバイス1に対して処理液(試薬)を供給するための軟質チューブからなる流路3(処理液流路)、細胞捕捉デバイス1に対して被検液を供給するための軟質チューブからなる流路4(被検液流路)が設けられている。流路3の上流側には、互いに異なる処理液(試薬)が入れられている複数の処理液収納容器5が設けられる。処理液収納容器5に投入される処理液としては、細胞を染色するための染色液、フィルタに捕捉された細胞等を洗浄するための洗浄液、細胞を腐敗等から保護するための固定液、染色液が細胞内部に浸透できるようにするための透過液等が挙げられる。図1に示す複数の処理液収納容器5は、封止部材5Aによって封止されているが、この構成は特に限定されない。
【0023】
複数の処理液収納容器5に対してはそれぞれ軟質チューブ6が挿入されて個別の流路(処理液流路)を形成している。そして、これらの流路が選択バルブ8に対して接続されており、選択バルブ8を回転させることにより流路3に対して接続する処理液が選択され、選択された処理液が収容された処理液収納容器5に対して挿入された軟質チューブ6と流路3とが接続される。
【0024】
細胞捕捉デバイス1に対して接続する流路4には、内部に被検液として細胞を含んだ血液が納められた被検液収納容器10が接続されている。細胞捕捉デバイス1に対しては、処理液及び被検液を同時に供給するのではなく、いずれか一方を供給する構成となっている。処理液及び被検液のいずれの液を供給するかの制御は流路3、4のそれぞれに対して取り付けられたバルブ12、13によって切り替える。例えば、被検液を細胞捕捉デバイス1に対して供給する場合は、バルブ12を閉とし、バルブ13を開とする。バルブ12、13としては、軟質チューブを加圧変形させてその流れを遮断するピンチバルブを用いることができる。
【0025】
また、細胞捕捉デバイス1に対して処理液及び被検液のうちのいずれかの液を供給する場合、細胞捕捉デバイス1の下流側の軟質チューブからなる流路9(系外排出用流路)上に設けられたポンプ14(供給手段)の駆動によって目的の液を吸引することで液の供給が行われる。ポンプ14は回転数変化により流路中の液の流速を変えることが可能な構造となっている。ポンプ14としては、例えば軟質チューブに対する加圧による蠕動点を順次移動させる蠕動ポンプ(ペリスタルティックポンプ)を用いることができる。ポンプ14の駆動により、処理液、被検液等の液は流路3又は流路4の内部を細胞捕捉デバイス1に向かう方向に流れ、細胞捕捉デバイス1に供給される。そして、細胞捕捉デバイス1を通過した液は、流路9を経て廃液容器16に流れ込む構造となっている。これらの構造により、被検液中の細胞が細胞捕捉デバイス1内の流路上に設けられたフィルタによって捕捉されると共に、染色液により細胞が染色される。
【0026】
また、細胞捕捉デバイス1の下流側の流路9には、圧力計21(液圧測定手段)と、流量計23(流量測定手段)と、が接続されている。図1では、圧力計21はポンプ14の上流側に接続される。また、圧力計21は、細胞捕捉デバイス1よりも上流側で、処理液収納容器5と細胞捕捉デバイス1とを結ぶ流路3上のバルブ12よりも下流側にも接続される。これにより、圧力計21は、流路9を流れる液の液圧と流路3を流れる液の液圧とが測定可能なように設けられる。本実施形態に係る細胞捕捉システム100では、細胞捕捉デバイス1に対して処理液が流される場合の流路9を流れる液の液圧として、流路3を流れる液の液圧と、流路9を流れる液の液圧との圧力差(差圧)を算出して用いている。また、細胞捕捉デバイス1に対して被検液が流される場合の流路9を流れる液の液圧としては、細胞捕捉デバイス1の上流側での被検液の液圧を測定する構成に代えて大気圧を用い、大気圧と流路9を流れる液の液圧との圧力差(差圧)を算出して用いている。細胞捕捉デバイス1の上流側での被検液の液圧を測定するために、被検液収納容器10と細胞捕捉デバイス1とを接続する流路4において液圧を測定して差圧の測定に利用する構成とすることもできるが、その場合には、異物混入を防止するために新たな被検液を測定する(被検液を交換する)度に圧力計を交換する必要がある。なお、本実施形態のように差圧を算出する構成は必須ではなく、圧力計21による測定位置を細胞捕捉デバイス1の下流側の流路9のみとする構成としてもよい。
【0027】
また、流量計23はポンプ14の下流側に設けられ、流路9を流れる液の流量を測定する。圧力計21及び流量計23により測定された液の圧力及び流量に係る情報は、細胞捕捉システム100による細胞捕捉処理が適切に行われているかを確認するために用いられる。この点は後述する。流路9における圧力計21及び流量計23の測定位置は、細胞捕捉デバイス1よりも下流側であれば、特に限定されない。本実施形態のように細胞捕捉デバイス1よりも上流側においても液圧を測定する場合、その測定位置は、細胞捕捉デバイス1よりも上流側の流路上であれば特に限定されない。
【0028】
上記の各部の制御は、制御部30(選択手段、送液手段、異常判定手段)による制御により行われる。具体的には、選択バルブ8、バルブ12、13、ポンプ14の駆動は、制御部30からの指示によって行われる。制御部30には、上記の各部についての駆動、停止等の制御を可能とするプログラムを入力するためのプログラム入力機能が備えられていて、これにより入力されたプログラムによって上記したように各機器を順に動作させる駆動機構が付加されている。制御部30によって液を流すラインが選択され、その選択結果に基づいて、制御部30から上記のバルブの開閉及びポンプの駆動に係る指示が各部に対して行われる。
【0029】
また、制御部30は、圧力計21及び流量計23からの情報に基づいて細胞捕捉システム100が異常動作状態であるか否かを評価する機能を有する。そして、細胞捕捉システム100に何らかの異常があると評価された場合には、異常動作状態について記録すると共に、場合によっては、細胞捕捉システム100の動作を停止する構成とすることもできる。制御部30による運転状態の評価及び評価結果に基づく制御については後述する。
【0030】
次に、細胞捕捉デバイス1について、図2を用いて説明する。図2(A)は、細胞捕捉デバイス1の上面図、図2(B)は、図2(A)のIIB−IIB断面の矢視図である。
【0031】
細胞捕捉デバイス1は、複数の貫通孔61を有するフィルタ57を蓋部材58と収納部材59とで挟み込んだ構成とされている。フィルタ57は、蓋部材58及び収納部材59を組み合わせた際にその内部に形成された空間に配置されている。フィルタ57は、例えば金属からなり、その厚み方向に貫通孔61が複数形成されたものである。
【0032】
細胞捕捉デバイス1の蓋部材58には、軟質チューブで形成された流路3に接続される流路3A(導入流路)と、流路4に接続される流路4A(導入流路)とが形成されると共に流路3A、4Aと連通してフィルタ57の上方に形成されて液をフィルタ57の貫通孔61に対して誘導するための空間となる導入領域62とが設けられる。すなわち、本実施形態において「導入流路」とは、流路のうち細胞捕捉デバイス1の内部に設けられた流路3A、4Aを指す。また、「処理液流路」、「被検液流路」とは、それぞれ細胞捕捉デバイス1の流路3A、4Aの上流側にそれぞれ接続される流路3、4を指す。
【0033】
細胞捕捉デバイス1の収納部材59には、フィルタ57の下方に形成されて中央部の深さが周縁部よりも深く形成され、フィルタ57の貫通孔61を通過した液を外部に排出するための空間となる排出領域63が設けられる。更に、収納部材59には、排出領域63に対して連通すると共に流路9に対して接続され、排出領域63の液を外部に排出するための流路9A(排出流路)が設けられる。蓋部材58と収納部材59とにより挟み込まれるフィルタ57に設けられた貫通孔61は、捕捉目標となる細胞65が通過できない程度の大きさとされる。
【0034】
(細胞捕捉システムの運転方法)
上記の構成を有する細胞捕捉システム100では、まず被検液収納容器10の被検液が流路4を介して細胞捕捉デバイス1に導入される。細胞捕捉デバイス1において、被検液は被検液用の流路4Aから導入され、フィルタ57を通過した後に流路9Aから排出され、廃液容器16へ送られる。このとき、捕捉目標である細胞は、フィルタ57の貫通孔61を通過できないため、細胞65がフィルタ57上に捕獲される。
【0035】
次に、捕獲した細胞を検出するための洗浄及び染色が行われる。洗浄及び染色は、細胞捕捉デバイス1を用いた被検液のフィルタリングが終了した後、流路3Aに接続されるチューブの流路3から洗浄液、固定液、透過液及び染色液を供給することで行われる。この作業によって、フィルタ57を用いた細胞の捕獲及び処理液による染色が行われる。また、細胞捕捉デバイス1は、必要に応じて細胞の同定及び細胞数の数量計測等のために、流路3、4及び流路9から取り外される。
【0036】
これらの操作は、制御部30による制御によって、細胞捕捉デバイス1のフィルタ57による被検液中の細胞の捕捉と、捕捉された細胞の洗浄及び染色と、が細胞の捕捉に係る一連の動作として行われる。
【0037】
ここで、制御部30による運転状態の監視方法について、図3を用いて説明する。図3は、制御部30による動作状態の監視方法を説明するフローチャートである。
【0038】
まず、運転状態の監視の原理について説明する。上述のように、細胞捕捉システム100の制御部30は、細胞捕捉システム100の運転状態、すなわち、正常動作状態であるか異常動作状態であるかを評価する機能を有する。ここで、異常運転とは、何らかの理由により、流路3、4、9、及び、細胞捕捉デバイス1内の液が想定通りに適切に流れていないことをいう。被検液及び処理液は、ポンプ14の駆動によって、被検液収納容器10又は処理液収納容器5から細胞捕捉デバイス1内に導入され、細胞捕捉デバイス1内のフィルタ57を通過することで、捕捉対象の細胞がフィルタ57に捕捉されると共に、それ以外の細胞を含む液は排出流路9A及び流路9を経て廃液容器16へ排出される。このような細胞捕捉システム100における異常とは、例えば、いずれかの流路での狭窄、フィルタ57の目詰まり等が考えられる。このような現象が起きた場合には、ポンプ14の回転数を一定として、流路内の液を一定の圧力で吸引したとしても、流路内の液をポンプ14によって十分に吸引することができず、その結果、圧力計21における液圧は正常動作状態と比較して上昇すると共に、流量計23における流量は正常動作状態と比較して低下する。
【0039】
また、例えば、流路3、4、9が細胞捕捉デバイス1に対して適切に接続されないということも考えられる。このような現象が起きた場合には、ポンプ14の回転数を一定として、流路内の液を一定の圧力で吸引したとしても、流路内の液をポンプ14によって十分に吸引することができず、その結果、圧力計21における液圧は正常動作状態と比較して低下すると共に、流量計23における流量は正常動作状態と比較して低下する。
【0040】
そこで、細胞捕捉システム100においては、上流側の流路において何らかの問題が発生する際には、流路内の液圧及び流量が大きく変化することを利用し、これらを利用して細胞捕捉システム100の動作状態を監視するという構成を採用した。
【0041】
図3に戻り、制御部30による動作状態の監視方法としては、まず、圧力計21及び流量計23から、動作状態を評価するための情報(評価情報)として、液圧及び流量を取得する(S10、液圧測定ステップ)。圧力計21で測定された液圧に係る情報、及び、流量計23で測定された流量に係る情報は、圧力計21及び流量計23から制御部30に対して送られる。
【0042】
制御部30では、圧力計21及び流量計23から送られた情報に基づいて、動作状態についての評価を行う(S20、異常判定ステップ)。そして、異常動作状態であるか否かの判定が行われ(S30、異常判定ステップ)、その結果、異常動作状態であると判定された場合には、制御部30により、細胞捕捉システム100の動作を停止させる(S40)。また、異常動作状態ではない(正常動作状態である)と判定された場合には、制御部30は評価に係る処理を終了する。このような処理を繰り返すことで、細胞捕捉システム100の動作状態をリアルタイムで評価することが可能となる。なお、異常動作状態であると判定された場合に制御部30によって動作停止を行う(S40)という図3で示す処理は、異常動作状態であると判定された場合の処理の一例であって、適宜変更することができる。
【0043】
(異常動作状態の判定方法)
次に、制御部30において、圧力計21及び流量計23から送られてきた情報に基づいて動作状態を評価する(S20、S30)場合に用いる方法を説明する。大きく分けると、(1)閾値を利用する方法、(2)正常動作時の目標液圧情報を利用する方法、が挙げられる。なお、以下の説明では、本実施形態に係る細胞捕捉システムにおいて必須の構成である圧力計21からの液圧の情報に基づいた判定方法について説明し、その後に、流量計23からの流量の情報も用いた場合の判定方法について説明する。
【0044】
(1−閾値を利用する方法)
まず、閾値を利用する方法とは、異常動作の有無を判定するための液圧の閾値に係る情報を予め制御部30において保持し、圧力計21により測定された液圧と、制御部30において保持された閾値とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する方法である。例えば、正常動作状態の場合に圧力計21において測定される液圧の許容範囲の上限値及び下限値を閾値として、圧力計21における液圧のほうが、上限側の閾値よりも高い場合、又は、下限側の閾値よりも低い場合には、細胞捕捉システム100が異常動作状態であると判定する方法である。この方法を用いることで、異常動作状態であることを簡単に判定することができる。
【0045】
ただし、細胞捕捉システム100では、1つの被検液に含まれる細胞を捕捉する処理を行う一連の動作の間に、粘度が互いに異なる被検液及び処理液を一連の動作の進捗に応じて細胞捕捉デバイス1に対して流していく必要がある。このときの流入速度等は、細胞捕捉デバイス1に対して導入する液によって互いに変える必要があることも考えられる。また、細胞捕捉デバイス1に対して液の導入を停止する時間帯には、液圧又は流量は閾値から外れる可能性も考えられる。そこで、(2)正常動作時の目標液圧情報を利用する方法を用いることが考えられる。
【0046】
(2−正常動作時の目標液圧情報を利用する方法)
正常動作時の目標液圧情報を利用する方法における「目標液圧情報」とは、所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報である。図4では、被検液である血液がフィルタ57を通過している場合について説明していて、所定の時点として、ここでは被検液の送液を開始した時点からの経過時間を横軸に設定し、圧力(液圧)を縦軸に設定した場合、正常動作時に想定される液圧の変動を想定変動C0として示している。図4では、被検液を流すことによって、開始時刻T1で液圧が上昇し、終了時刻T2で液圧が低下していることが記録されている。これは血液に含まれる赤血球等の成分がフィルタ57を通過するために液圧が上昇し、例えば、次の液(例えば、洗浄液)を流すことで血液がフィルタ57を通過し終わった時点(T2)で、液圧が低下することを示している。このとき、正常動作時の液圧の想定変動C0に対して、低圧側及び高圧側に許容範囲を設けて、低圧側の下限変動C1及び高圧側の上限変動C2を設定する。そして、所定の経過時間に対する下限変動C1と上限変動C2との間が、所定の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲となる。
【0047】
目標範囲を上記のように設定した場合、所定の時点からの経過時間tにおける圧力計21により測定された液圧がPであるとすると、制御部30では、図4を参照して、液圧Pが時刻tにおける下限変動C1の値と上限変動C2の値との間に含まれるかに基づいて、正常動作状態であるか否かの判定が行われる。そして、正常動作状態であると判定された場合には、細胞捕捉システム100を用いた被検液に係る処理を継続すると共に、圧力計21による測定及び制御部30による正常動作状態かの判定を繰り返す。これにより、細胞捕捉システム100を用いた被検液に係る一連の処理が正常動作状態で行われているか、すなわち異常の監視が行われ、異常動作状態であると判定した場合には、動作を停止することができる。
【0048】
また、図4では、被検液である血液がフィルタ57を通過する際の液圧の変化に係る目標液圧情報について説明したが、実際には被検液の細胞を捕捉する一連の処理には、被検液の他に複数種類の処理液をフィルタ57に対して通過させることで、捕捉された細胞に対して処理を行う必要がある。したがって、被検液及び複数の処理液をフィルタ57に対して順次通過させた場合の圧力変動についてもまとめて監視することが好ましい。
【0049】
上記の目的を解決する方法として、制御部30において保持される目標液圧情報が、細胞捕捉デバイス1に対して供給される複数種類の液の供給順序に基づいて、複数種類の液をそれぞれ供給した際の、1種類目の液の供給開始よりも前の時点からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報として作成されているものを用いる方法がある。この点について図5を用いて更に説明する。
【0050】
図5では、複数種類の液、すなわち、被検液及び複数種類の処理液を順次細胞捕捉デバイス1に対して供給した場合の液圧の変動を示したものである。具体的には、細胞捕捉システム100における被検液の送液を開始した時点(ポンプ14の駆動開始)を起点(時間0)とし、細胞捕捉プロセス(被検液の供給)L1、洗浄プロセス(洗浄液の供給)L2、固定プロセス(固定液の供給)L3、透過プロセス(透過液の供給)L4、染色プロセス(洗浄液の供給)L5、洗浄プロセス(洗浄液の供給)L6の各プロセスにおける経過時間に応じた液圧の変動を示したものである。図5では、細胞捕捉プロセスL1に関しては、大気圧と流路9を流れる液の液圧との圧力差(差圧)を示し、洗浄プロセスL2以降のプロセスについては、流路3を流れる液の液圧と、流路9を流れる液の液圧との圧力差(差圧)を示している。
【0051】
ここで、図5に示された液圧変動が図4における正常動作時の想定変動C0に対応するとして、図4に示す下限変動C1及び上限変動C2に対応するように正常動作時の液圧の想定変動C0に対して低圧側及び高圧側に許容範囲を設けると、図4に示す低圧側の下限変動C1及び高圧側の上限変動C2に対応する情報が得られる。このようにして得られた下限変動C1及び上限変動C2に対応する情報は、細胞捕捉に係る一連のプロセスに係る目標液圧情報として使用することができる。これにより、制御部30では、所定の時点(ここではポンプ14の駆動開始時点)からの経過時間に応じて圧力計21により測定された液圧が下限変動の値と上限変動の値との間に含まれるかに基づいて、正常動作状態であるか否かの判定が行われる。
【0052】
このような構成とすることで、例えば、固定プロセスL3において、上流側の流路のどこかでの接続が途切れたことにより、液圧が0となった場合には、制御部30において異常動作状態として判定することができ、細胞の捕捉に係る一連の作業を停止することができる。このように、細胞の捕捉に係る一連の作業のどの時点であっても、作業の進捗に応じた監視が可能となると共に異常が発生した場合には適切に対応することができる。
【0053】
(3−流量計からの情報の利用)
上記では、圧力計21において計測された液圧に基づいて、細胞捕捉システム100における異常動作状態を検知する方法について説明したが、本実施形態に係る細胞捕捉システム100においては、圧力計21により計測される液圧に加えて、流量計23において計測される流量に係る情報も異常動作状態の検知に利用することができる。
【0054】
具体的な利用の方法としては、上述の(1−閾値を利用する方法)及び(2−正常動作時の目標液圧情報を利用する方法)において評価対象を液圧としていたものに代えて、流量を評価対象とすればよい。すなわち、(1)異常動作の有無を判定するための流量の閾値に係る情報を予め制御部30において保持し、流量計23により測定された流量と、制御部30において保持された閾値とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定する方法、及び、(2)正常動作時の目標流量情報(所定の時点からの経過時間に対する流量の目標範囲を示す情報)を利用し、流量計23により測定された流量が下限変動と上限変動との間に含まれるか否かによって異常動作状態であるか否かを判定する方法である。
【0055】
図6は、流量計23により測定された流量の計測データの一例を示す図である。図6では、横軸に所定の時点からの経過時間を示し、縦軸に流路9を流れる液の流量を示している。図6では、細胞捕捉に係る一連の作業の開始から終了までの経過を示している。例えば、時刻T5において、200μL/分の流量で液が流され(流路9の流量計23の設置位置を通過し)、続いて20分間の停止後、時刻T6から再度200μL/分の流量で液が流されたことが示されている。その後も、液の流れが停止された状態と決められた流量で液が流された状態とが交互に続き、開始後106分の時刻T7において液の移動が終了していることが示される。この図6の液の移動に係る流量の情報と、正常動作時の目標流量情報とを比較することで、制御部30では異常動作状態であるか否かを判定することができる。
【0056】
また、本実施形態に係る細胞捕捉システム100では、圧力計21による液圧の情報と、流量計23による流量の情報と、を組み合わせて、これらの計器よりも上流側の各装置の状況を制御部30によってより正確に把握することができる。具体的には、細胞を捕捉するための細胞捕捉デバイスのフィルタの細胞の捕捉状況のモニタに使用できる。すなわち圧力が下降し、流量の減少が時間に対して所定の傾き以上で、減少した場合、何らかの理由でフィルタに詰まりが生じていることが分かり、これを解消するための操作を実行するモニタとして使用可能となる。また流量計23は、被検液に係る正確な流量の計測又は制御にも使用することができることから、測定結果の精度を向上させることができる。
【0057】
また、圧力計21により測定された液圧の情報、及び、流量計23により測定された流量の情報は、制御部30において、例えば被検液を特定する情報や作業実施日時を特定する情報と対応付けて保持しておくことにより、被検液の細胞の捕捉に係る一連の作業が適切に行われたことを示すログデータとしても活用することもでき、さらに、捕捉された細胞に係る測定の信頼性を高める情報の一つとして利用することもできる。
【0058】
以上のように、本実施形態に係る細胞捕捉システム100及びその運転方法によれば、圧力計21により、流路9(系外排出用流路)内を流れる被検液又は処理液の液圧が測定されると共に、この液圧に基づいて、異常判定手段たる制御部30により、圧力計21より上流側が異常動作状態であるか否か判定される。これにより、細胞の捕捉に係る処理において細胞捕捉デバイス1又はその近隣で何らかの異常が発生した場合には、異常動作状態で処理が行われたことをシステムとして把握することができ、例えば処理を停止して異常状態を回復させる等の対応ができるため、異常動作状態での細胞捕捉に係る処理を継続することを防いで細胞の捕捉に係る処理を効率よく且つ精度よく行うことが可能となる。
【0059】
特に、本実施形態に係る細胞捕捉システム100に用いられる細胞捕捉デバイス1のフィルタ57が金属製の薄膜フィルタであって、捕捉対象の細胞がCTCのように被検液中に含まれている量が非常に限られている細胞である場合、例えば、配管の詰まり等によって内部の液圧が高くなってしまうと、フィルタ57自体が破損してしまい、捕捉対象の細胞が全て流れていってしまう可能性もある。したがって、本実施形態に係る細胞捕捉システム100のような構成とすることで、フィルタ破損等の取り返しがつかなくなる異常が発生する前の、例えば正常動作状態と比べて±2kPa程度の液圧の変化に基づいて、異常を検知することが可能となる。
【0060】
制御部30による異常動作状態か否かの判定方法としては、圧力計21により測定された液圧について、予め保持された閾値と比較することで異常動作状態であるか否かを判定する方法が挙げられ、このような構成を有することで、測定された液圧に基づいた異常動作の有無の判定を速やかに行うことができる。
【0061】
また、制御部30による異常動作状態か否かの他の判定方法として、制御部30は、正常動作時において、被検液又は処理液の供給開始からの経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報である目標液圧情報を予め保持し、供給開始からの所定の経過時間において圧力計21により測定された液圧と、この経過時間における目標液圧情報とを比較することにより、異常動作状態であるか否かを判定することができる。この場合、例えば経過時間によって液圧の閾値が変動する場合でも、経過時間に応じて異常動作状態であるか否かの判定を精度よく行うことができる。
【0062】
さらに、1種類目の液の供給開始よりも前の時点から、細胞捕捉デバイスに対して供給される複数種類の液を供給順序に基づいて供給した場合の、経過時間に対する液圧の目標範囲を示す情報を目標液圧情報として保持し、これに基づいて異常動作状態であるか否かを判定する態様とすることで、1種類目の液の供給開始以降の一連の作業において異常動作状態であるか否かの判定を一体的に行うことができることから、異常動作状態であるか否かの判定を精度よく且つ効率よく行うことができる。
【0063】
そして、上記のように、流量計23により測定された流量にも基づいて異常動作状態であるか否か判定する態様とすることで、異常動作状態であるか否かの判定を2つの情報に基づいて行うことができるため、より精度よく判定することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、種々の変更を行うことができる。例えば、細胞捕捉システム100の各部の構成は上記に限定されず、例えば、細胞捕捉デバイス1の形状は適宜変更することもできる。
【0065】
また、必要に応じて、上記実施形態で説明した細胞捕捉システム100の各部に加えて、脱気装置等の装置を追加してもよい。
【0066】
また、本発明の細胞捕捉システム及びこのシステムの運転方法は、血液中の細胞(赤血球、白血球、血小板、血中循環がん細胞等)の捕捉に有用であるが、特に血中循環がん細胞(CTC)が血液中の白血球よりも変形しにくいため、白血球を有する血液から血中循環がん細胞を分離、捕捉するときに好適に有用である。
【符号の説明】
【0067】
1…細胞捕捉デバイス、3、4、9…流路、5…処理液収納容器、10…被検液収納容器、21…圧力計、23…流量計、100…細胞捕捉システム。
図1
図2
図3
図4
図5
図6