(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351114
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】モード合分波器及びモード合分波器の設計方法
(51)【国際特許分類】
G02B 6/12 20060101AFI20180625BHJP
G02B 6/122 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
G02B6/12 311
G02B6/122 311
【請求項の数】9
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-28893(P2015-28893)
(22)【出願日】2015年2月17日
(65)【公開番号】特開2016-151660(P2016-151660A)
(43)【公開日】2016年8月22日
【審査請求日】2016年11月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(74)【代理人】
【識別番号】100119677
【弁理士】
【氏名又は名称】岡田 賢治
(74)【代理人】
【識別番号】100115794
【弁理士】
【氏名又は名称】今下 勝博
(72)【発明者】
【氏名】坂本 泰志
(72)【発明者】
【氏名】半澤 信智
(72)【発明者】
【氏名】松井 隆
(72)【発明者】
【氏名】辻川 恭三
(72)【発明者】
【氏名】藤澤 剛
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 晋聖
【審査官】
奥村 政人
(56)【参考文献】
【文献】
特開2013−007808(JP,A)
【文献】
特開2013−037017(JP,A)
【文献】
特開2014−135588(JP,A)
【文献】
特開平03−002806(JP,A)
【文献】
欧州特許出願公開第02372420(EP,A1)
【文献】
HANZAWA et al.,Two-mode PLC-based mode multi/demultiplexer for mode and wavelength division multiplexed transmission,Optics express,米国,Optical Society of America,2013年10月21日,Vol.21,No.22,pp.25752-25760
【文献】
FUJISAWA et al.,Wide-bandwidth, low-waveguide-width-sensitivity InP-based multimode interference coupler designed by wavefront matching method,IEICE Electronics Express,日本,電子情報通信学会,2011年12月25日,Vol.8, No.24,pp.2100-2105
【文献】
高橋 浩,石英平面光波回路デバイスの最新技術とその設計,電子情報通信学会総合大会 エレクトロニクス講演論文集1,日本,電子情報通信学会,2012年 3月 6日,SS-11 - SS-12,CI-1-6
【文献】
HANZAWA et al.,Four-mode PLC-based mode multi/demultiplexer with LP11 mode rotator on one chip for MDM transmission,ECOC,フランス,ECOC,2014年 9月21日,pp.1-3
【文献】
山下陽子他,波面整合法によるPLC型2モード合分波器の広帯域化に関する検討,電子情報通信学会総合大会講演論文集,日本,一般社団法人電子情報通信学会,2015年 2月24日,エレクトロニクス講演論文集1,p.174,C-3-50
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 6/12− 6/14
G02B 6/26− 6/27
G02B 6/30− 6/34
G02B 6/42− 6/43
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
n(nは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な主導波路と、
前記主導波路に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つm本(mは1以上の整数)の副導波路と、
を備えるモード合分波器であって、
前記副導波路は、所望の光の波長範囲に対して、伝搬するモードの実効屈折率が前記主導波路のn−1個のモードの実効屈折率と排他的に一致しており、
前記副導波路の一端に入力した光信号が前記主導波路に移行して前記主導波路の他端から出力する方向を順伝搬とすると、前記副導波路の前記一端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記主導波路の前記他端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、前記主導波路及び前記副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させ、前記副導波路から前記主導波路に完全に光パワーが移行するための前記結合部の長さを複数の波長間および複数のモード間において均一化させたことを特徴とするモード合分波器。
【請求項2】
前記結合部は、前記主導波路及び前記副導波路に非接触である少なくとも1本の中間導波路であることを特徴とする請求項1に記載のモード合分波器。
【請求項3】
前記中間導波路を伝搬する光のモードは、前記光が前記副導波路を伝搬するモードより高次であり、前記光が前記主導波路を伝搬するモードより低次であることを特徴とする請求項2に記載のモード合分波器。
【請求項4】
前記断面面積の変動は、光の伝搬方向1μmあたり±0.2μm以内であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のモード合分波器。
【請求項5】
モード合波する前記主導波路及び前記副導波路に入力される光信号のモード、又はモード分波されて前記主導波路及び前記副導波路から出力される光信号のモードが基本モードであることを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載のモード合分波器。
【請求項6】
n=2、m=1であり、
前記断面面積の変動は、モード変換される波長1.3〜1.7μmの光信号の損失が1dB以下となるように決定されていることを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載のモード合分波器。
【請求項7】
n=2、m=1であり、
前記断面面積の変動は、モードクロストーク量が波長1.46〜1.625μmにおいて−20dB以下となるように決定されていることを特徴とする請求項1から6のいずれかに記載のモード合分波器。
【請求項8】
n(nは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な主導波路と、
前記主導波路に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つm本(mは1以上の整数)の副導波路と、
を備えるモード合分波器の設計方法であって、
所望の光の波長範囲に対して、前記副導波路を伝搬するモードの実効屈折率を、前記主導波路のn−1個のモードの実効屈折率と排他的に一致させ、
前記副導波路の一端に入力した光信号が前記主導波路に移行して前記主導波路の他端から出力する方向を順伝搬とすると、前記副導波路の前記一端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記主導波路の前記他端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、前記主導波路及び前記副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させることで、前記副導波路から前記主導波路に完全に光パワーが移行するための前記結合部の長さを複数の波長間および複数のモード間において均一化することを特徴とするモード合分波器の設計方法。
【請求項9】
前記主導波路及び前記副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させる前の基準構造において、モード変換効率が最大となる波長を使用波長帯の中心からずらすことを特徴とする請求項8のいずれかに記載のモード合分波器の設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マルチモード光ファイバを利用するモード多重伝送システムにおいて、複数のモードを有する光信号の合波又は分波を行なうモード合分波器及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ通信システムでは、光ファイバ中で発生する非線形効果やファイバヒューズが問題となり、伝送の大容量化が制限されている。これらの制限を緩和するためには、光ファイバに導波する光の密度を低減する必要があり、非特許文献1に示すように大コアファイバが検討されている。
【0003】
しかし、曲げ損失低減、単一モード動作領域の拡大、実効断面積の拡大は互いにトレードオフの関係にあり、所定の条件下における実効断面積の拡大量には限界があるという課題があった。そこで、伝送ファイバにマルチモードファイバを用い、伝搬する複数のモードを用いて並列伝送を行うモード多重伝送システムが、飛躍的な大容量化を実現する技術として検討されている(例えば、非特許文献2参照。)。
【0004】
そして、モード多重伝送システムにおいては、送信機から発せられる複数の信号を別々のモードとして光ファイバ中を伝搬させるため、モード合分波器が提案されている(例えば非特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】T. Matsui, et al., “Applicability of Photonic Crystal Fiber With Uniform Air−Hole Structure to High−Speed and Wide−Band Transmission Over Conventional Telecommunication Bands”, J. Lightwave Technol. 27, 5410−5416, 2009.
【非特許文献2】N. Hanzawa et al., “Demonstration of mode−division multiplexing transmission over 10 km two−mode fiber with mode coupler”, OFC2011, paper OWA4 (2011)
【非特許文献3】N.Hanzawa et al.,“Asymmetric parallel waveguide with mode conversion for mode and wavelength division multiplexing transmission”、OFC2012、OTu1l.4.
【非特許文献4】N. Hanzawa et al., “Four−mode PLC−based mode multi/demultiplexer with LP11mode rotator on one chip for MDM transmission”, ECOC2014, We.1.1.1
【非特許文献5】Y. Sakamaki et al., “New optical waveguide design based on wavefront matching method”, IEEE JLT, vol.25 pp.3511−3518 (2007).
【非特許文献6】T. Fujisawa et al., “Wide−bandwidth, low−waveguide−width−sensitivity InP−based multimode interference coupler designed by wavefront matching method”, IEICE ELEX, vol.8, pp.2100−2105 (2011).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、非特許文献3に記載の通り、モード合分波器において合波時に損失が発生することがわかっており、挿入損失の改善が課題となっている。さらに、モード合分波効率は波長依存性を有している。このため、高いモード消光比で合分波できる波長は限定され、モード多重伝送と波長多重伝送を組み合わせて用いる場合には、利用できる波長帯に制限が生じるという課題もある。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するため、特性を改善できるモード合分波器及びその製造方法を提供することを目的とする。なお、ここで、「特性」とは、
図1のようなモード合分波器であれば、ポート1からポート3の経路について透過損失、ポート2からポート3の経路について透過損失とその波長依存性、ポート2からポート4及びポート1からポート4の経路についてクロストークを意味する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、本発明は、光波回路最適設計手法の一つである波面整合法(Wavefront Matching: WFM法)に着目し、このWFM法と塗りつぶし設計で見いだされた各導波路の光伝搬方向に沿った断面面積変動を各導波路に適用することとした。
【0009】
具体的には、本発明に係るモード合分波器は、
n(nは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な主導波路と、
前記主導波路に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つm本(mは1以上の整数)の副導波路と、
を備えるモード合分波器であって、
前記副導波路は、所望の光の波長範囲に対して、伝搬するモードの実効屈折率が前記主導波路のn−1個のモードの実効屈折率と排他的に一致しており、
前記副導波路の一端に入力した光信号が前記主導波路に移行して前記主導波路の他端から出力する方向を順伝搬とすると、前記副導波路の前記一端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記主導波路の前記他端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、前記主導波路及び前記副導波路の断面面積が光の伝搬方向に沿って変動している
ことを特徴とする。
【0010】
また、本発明に係るモード合分波器の製造方法は、
n(nは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な主導波路と、
前記主導波路に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つm本(mは1以上の整数)の副導波路と、
を備えるモード合分波器の製造方法であって、
所望の光の波長範囲に対して、前記副導波路を伝搬するモードの実効屈折率を、前記主導波路のn−1個のモードの実効屈折率と排他的に一致させ、
前記副導波路の一端に入力した光信号が前記主導波路に移行して前記主導波路の他端から出力する方向を順伝搬とすると、前記副導波路の前記一端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、前記主導波路の前記他端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、前記主導波路及び前記副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させる
ことを特徴とする。
【0011】
WFM法と塗りつぶし設計で見いだされた光の伝搬方向の変動を主導波路と副導波路の断面積に適用することで複数の波長、複数のモード間において非対称方向性結合器の結合長を均一化する効果が得られ、モード変換して合分波する経路で透過損失の波長依存性を改善することができた。さらに、当該変動を主導波路と副導波路の断面面積に適用することで、モード合分波する経路以外からのクロストークを低減することができた。また、当該変動をマルチモードの主導波路の断面面積に適用しても、主導波路の経路での透過損失は悪化したとは認められなかった。このため、本発明は、特性を改善できるモード合分波器及びその製造方法を提供することができる。
【0012】
ここで、主導波路と副導波路との前記結合部は、前記主導波路及び前記副導波路に非接触である少なくとも1本の中間導波路であってもよい。この場合、前記中間導波路を伝搬する光のモードは、前記光が前記副導波路を伝搬するモードより高次であり、前記光が前記主導波路を伝搬するモードより低次である。
【0013】
本発明に係るモード合分波器の前記断面面積の変動は、光の伝搬方向1μmあたり±0.2μm以内であることを特徴とする。急激な光導波路の断面面積変動を禁止することで、波長依存性が滑らかとなり、再現性の優れたモード合分波器を提供することができる。
【0014】
本発明に係るモード合分波器は、モード合波する前記主導波路及び前記副導波路に入力される光信号のモード、又はモード分波されて前記主導波路及び前記副導波路から出力される光信号のモードが基本モードであることを特徴とする。前記副導波路にシングルモードファイバを接続することができ、シングルモードファイバをベースとした送受信器と整合性・接続性が良く、損失特性の改善を図ることができる。
【0015】
本発明に係るモード合分波器は、n=2、m=1であり、前記断面面積の変動が、モード変換される波長1.3〜1.7umの光信号の損失が1dB以下となるように決定されていることを特徴とする。
【0016】
本発明に係るモード合分波器は、n=2、m=1であり、前記断面面積の変動が、モードクロストーク量が波長1.46〜1.625umにおいて−20dB以下となるように決定されていることを特徴とする。
【0017】
本発明に係るモード合分波器は、前記主導波路及び前記副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させる前の基準構造において、モード変換効率が最大となる波長が使用波長帯の中心からずれていることを特徴とする。WFM法で主導波路及び副導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させた本モード合分波器の結合効率を改善させることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、特性を改善できるモード合分波器及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】モード合分波器(n=2)の構成を説明する図である。
【
図2】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の構成(波面整合法適用後)を説明する図である。
【
図3】本発明にかかるモード合分波器(n=2)において、Port2からPort3への透過損失の波長依存性を計算した例である。
【
図4】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の各径路における透過損失の波長依存性を計算した結果を説明する図である。
【
図5】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の各径路における透過損失の波長依存性を計算した結果を説明する図である。
【
図6】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の各径路における透過損失の波長依存性を計算した結果を説明する図である。
【
図7】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の各径路における透過損失の波長依存性を計算した結果を説明する図である。
【
図8】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の各径路における透過損失の波長依存性を計算した結果を説明する図である。
【
図9】基準構造の設計が異なるモード合分波器(n=2)について、Port2からPort3への透過損失を比較した例である。
【
図10】本発明にかかるモード合分波器(n=2)の構成(波面整合法適用後)を説明する図である。
【
図11】本発明にかかるモード合分波器(n=4)の構成を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
添付の図面を参照して本発明の実施形態を説明する。以下に説明する実施形態は本発明の実施例であり、本発明は、以下の実施形態に制限されるものではない。なお、本明細書及び図面において符号が同じ構成要素は、相互に同一のものを示すものとする。
【0021】
(実施形態1)
本実施形態のモード合分波器は、n(nは2以上の整数)以上のモードを伝搬可能な主導波路と、前記主導波路に非接触であり、前記主導波路との間でモード変換を発生させ、光パワーを移行させる結合部を持つm本(mは1以上の整数)の副導波路と、を備え、前記副導波路は、所望の光の波長範囲に対して、伝搬するモードの実効屈折率が前記主導波路のn−1個のモードの実効屈折率と排他的に一致している。
【0022】
図1は、n=2、m=1である2モード合分波器の構成を示している。主導波路WG1は、2モードが伝搬する導波路であって、副導波路WG2は、1モードが伝搬する導波路である。なお、ここでは、2モードは基本モードであるLP01モード及び第一高次モードLP11モードを示す。2つの導波路は、一部近接している領域(結合部P0)があり、その部分において、主導波路WG1を伝搬するLP11モードの実効屈折率と副導波路WG2を伝搬するLP01モードを伝搬する実効屈折率が一致するよう導波路幅及び比屈折率差が調整されている。実効屈折率が一致することで、導波路が結合部P0でモード変換が発生し、副導波路WG2を伝搬してきた光は主導波路WG1に周期的にパワーが移行する。
【0023】
ここで、図中の長さLを主導波路WG1にパワーが完全に移行するよう調整すると、Port2より入射した信号光は、主導波路WG1のLP11モードとしてPort3へ出力される。一般に、異なるLPモード間で実効屈折率を一致させるためには、導波路の構造が同一でない非対称平行導波路構造が必要となる。一方で、Port1から入射された光は、基本モードとして主導波路WG1を伝搬し、主導波路WG1のLP01モードと副導波路WG2のLP01モードの実効屈折率が一致していないことから、結合部P0にてモード変換が発生せず、LP01モードとしてPort3へ出力される。
【0024】
結果、Port1及び2に信号を入射することで、Port3において2モードが多重された信号を得ることができ、モード合波器としての機能を実現することができる。また、モード多重された光を、Port3から入射することで、Port1及びPort2に信号をそれぞれ分離することができ、
図1の導波路構造でモード分波器としても利用することができる。このようなモード合分波器の設計手法が非特許文献3に記載されている。
【0025】
なお、n≧3のnモード合分波器を実現する場合、副導波路を増加して結合部を増加することで、容易に合分波するモード数を拡張することができる。この場合、mは、設計によりnより大きくても小さくてもよい。例えば、
図11のようなn=4、m=3の4モード合分波器とすることができる。
図11の4モード合分波器は副導波路がWG2−1からWG2−3の3本ある(m=3)。ここで、主導波路WG1と副導波路WG2−3との結合部P0は中間導波路WG3である。ポート4からの光は中間導波路WG3を経由して主導波路WG1に合波する。このように中間導波路を経由する場合、理論的には中間導波路で導波するモードは何でもよいが、中間導波路WG3のモードは、副導波路WG2−3のモードより高次のモード且つ主導波路WG1で結合するモードより低次のモードである。また、4モード合分波器は
図11の中間導波路構造に限定されず3本の副導波路が直接主導波路に近接する構造でもよい。
【0026】
なお、モード合波する主導波路WG1及び副導波路WG2に入力される光信号のモード、又はモード分波されて主導波路WG1及び副導波路WG2から出力される光信号のモードが基本モードであることを特徴とする。本実施形態のモード合分波器は、モード合波する入力光信号全てを導波路に対して基本モードとすることができる。また、本実施形態のモード合分波器は、分波後の出力光信号全てが導波路に対して基本モードで伝搬する。このため、本実施形態のモード合分波器は、シングルモードファイバをベースとした送受信器と整合性・接続性が良く、損失特性の改善を図ることができる。
【0027】
ここで、
図1のような構造のモード合分波器の結合部P0における結合効率は、波長に対して依存性があり、非特許文献3に記載の通り、例えば使用波長を1.45〜1.65μmとした場合、両端の波長領域では透過損失特性が劣化している。
【0028】
そこで、広帯域で低損失なモード合分波器を実現する為に、本実施形態のモード合分波器は波面整合法適用して導波路の断面面積を光の伝搬方向に沿って変動させる。具体的には、副導波路WG2の一端に入力した光信号が主導波路WG1に移行して主導波路WG1の他端から出力する方向を順伝搬とすると、副導波路WG2の前記一端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、主導波路WG1の前記他端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、主導波路WG1及び副導波路WG2の断面面積が光の伝搬方向に沿って変動している。導波路の断面面積は、プレーナ光波回路(Planar Light Circuit:PLC)型モード合分波器であれば、導波路の幅(
図1のW1やW2)で変化させることができる。
【0029】
本実施形態では、導波路幅の変動を波面整合法(Wavefront Matching:WFM法)で設計する。シングルモードデバイスの設計においては、入力導波路の入力端からの入力フィールドの順伝搬のフィールドの波面と、出力導波路の出力端からの出力フィールドの逆伝搬させたフィールドの波面とが一致するように、波面整合法を用いて導波路幅を光の伝搬方向に沿って変動させ、伝搬損失の波長依存性を向上させる方法が提案されている(例えば、非特許文献5、6を参照。)。しかしながら、非特許文献5、6では、当該方法が入出力導波路がシングルモード導波路の場合に限られており、マルチモード導波路の場合の伝搬損失波長依存性の改善に関してはまったく検討されていない。さらに、非特許文献5、6では、異なるモード間の伝搬定数の一致による共鳴結合を利用した平行導波路でモード変換を生ずるモード合分波器について全く検討が行われていない。さらに、モード合分波器では伝搬損失の波長依存性の他にクロストークについての課題もある。本発明によって初めてモード合分波器に波面整合法を用いて導波路幅を光の伝搬方向に沿って変動させ、モード合分波器の特性を向上(伝搬損失の波長依存性とクロストークを低減)させることができた。
【0030】
図2は、
図1のモード合分波器に波面整合法を適用し、導波路の幅に変動を加えた図である。本実施形態では、ガラス系材料の矩形の埋め込み型導波路を用いたPLC型のモード合分波器を考える。波面整合法を適用する前の基準構造のパラメータは、導波路の高さを12μm,W1=12.2μm、W2=4.7μm、Gap=3μm、Ls=2000μm、L=850μm、Sep=50μm、導波路コアと導波路クラッドの比屈折率差Δ=0.7%としている。なお、
図1のように波面整合法による導波路幅に変動を加えていないモード合分波器を「基準構造」と呼ぶ。
【0031】
図3は、Port2からPort3への透過損失特性の計算結果である。破線は波面整合法を適用しないモード合分波器の透過損失特性であり、実線は波面整合法を適用するモード合分波器の透過損失特性である。波面整合法を適用しないモード合分波器は、波長1.5μmを中心として、波長に対してパラボリックな依存性を有しており、波長1.3μmや波長1.7μmの近傍で2.5dB程度の損失がある。一方、波面整合法を適用した本実施形態のモード合分波器は、波長1.3〜1.7μm全域で0.55dB以下の損失であり、広波長域で1dB以下の損失を実現することができる。
【0032】
これは光の伝搬方向(
図2のz方向)に対し、
図2に示すような、波面整合法による非周期的な導波路幅の変動を設けることで、複数の波長、複数のモード間において、
図1に示すような非対称方向性結合器の結合長(副導波路WG2から主導波路WG1に完全に光パワーが移行するための結合部の長さ)を均一化する効果が得られるためである。換言すると、通常、所定の結合効率(例えば、完全に光パワー移行)を得るための結合長は、波長ごと、モードごとに異なっているが、非周期的な導波路幅の変動を設けることで、結合長の波長間差、モード間差が少なくなるため広波長域で低損失とすることができる。
【0033】
なお、用いた波面整合法は次の通りである。ある光波回路に対する入射光界分布と、所望の出射光界分布をそれぞれ、入射側及び出射側からビーム伝搬法によりビーム伝搬させ、各伝搬ステップで両者の界分布から結合係数を算出する。なお光界分布とは電界分布のことである。そして、上述の導波路構造を変化させて結合係数を算出する作業を、光回路全体の形状が1つの形状に収束するまで反復する。本実施形態の波面整合法では、「塗りつぶし設計(Solid pattern approach)(非特許文献5を参照。)」を用いている。
【0034】
また、導波路間隔が小さくなりすぎないように、Gapの最小値を2μmとした。また、x方向のセルの大きさ、およびz方向のステップサイズをそれぞれ0.1μm、1μmとしている。ここで、ステップサイズとは光の伝搬の様子をシミュレーションするための間隔を意味する。ステップサイズを上述のように設定した場合、
図2の導波路幅の変動量は、z方向1μm毎に±0.1μm以下となる。
【0035】
図4及び
図5は、基準構造のパラメータとして、導波路の高さを10μm,W1=13.5μm、W2=5.5μm、Ls=2000μm、L=2600μm、Sep=50μm、導波路コアと導波路クラッドの比屈折率差Δ=1%とした場合の、ポート間透過損失特性を示す図である。ここで、
図4はGap=3μm、
図5はGap=4μmとした時の結果である。
図4及び
図5も、細線は波面整合法を適用しないモード合分波器の透過損失特性であり、太線は波面整合法を適用するモード合分波器の透過損失特性である。
【0036】
両構造において、LP11モードとして合分波されるPort2からPort3への透過損失が、波面整合法を適用しない従来のモード合分波器より低減し、改善されていることがわかる。また、LP01モードとして合分波されるPort1からPort3への透過損失についても低減し、改善していることがわかる。Port2からPort4、またはPort1からPort4の透過光については、合波においては、多重されずに損失となる光であり、また、分波においては、分波されずにクロストーク成分として他のモードの信号に影響を与える光であるため、透過損失特性の絶対値が大きい方が良い。波面整合法を適用した本実施形態のモード合分波器は、Port2からPort4、またはPort1からPort4の透過光の透過損失特性が従来のモード合分波器と比較して増大しており、クロストーク等の改善がなされている。
【0037】
(実施形態2)
本実施形態では、波面整合法を適用する導波路の設計手順について説明する。
従来の波面整合法を用いた導波路設計では、まず、波面整合法を適用する前の基準構造において、所望波長範囲内の中心波長でモード変換効率が最大(合分波する経路で透過損失特性が最小且つ他の経路でモード消光比が最大)となるよう構造パラメータを最適化したのちに、波面整合法を適用して特性をさらに改善する手順をとる(非特許文献5,6を参照。)。
【0038】
本発明では、使用中心波長でモード変換効率が最大となる基準構造を採用しない。本発明では、モード変換効率が最大となる波長を、使用波長帯の中心からずらした基準構造とする。例えば、モード変換効率が、使用波長帯の中心より小さい波長で最大となり、かつ中心より大きい波長の範囲で最小となるよう基準構造を設計する。そして、その基準構造に波面整合法を適用して、広波長域で低い損失及び高いモード消光比を実現する。
【0039】
図6及び
図7に、基準構造のパラメータとして、導波路の高さを6μm、W2=7.5μm、Ls=3165μm、Sep=50μm、Gap=3μm、導波路コアと導波路クラッドの比屈折率差Δ=0.39%とした場合の透過損失特性を示す。ここで、
図6はW1=19.2μm、L=3000μm、
図7はW1=19.9μm、L=3400μmとした時の結果である。
図6及び
図7も、細線は波面整合法を適用しないモード合分波器の透過損失特性であり、太線は波面整合法を適用するモード合分波器の透過損失特性である。
【0040】
本構造は、O帯〜L帯を使用波長として想定し、おおよその中心として1.5μmを中心波長としている。この基準構造は、Port2からPort4の透過損失特性(細線)のように、中心波長から短波長側で透過損失の絶対値が大きくなる、すなわち、Port2からPort3への透過損失の絶対値が最も小さくなる波長λ1が存在するように基準構造を設計する。つまり、この基準構造では波長λ1の光信号は副導波路WG2から主導波路WG1へ低損失で移行でき、波長λ1のLP11モードのモード変換効率が高い。一方、この基準構造は、Port2からPort3への透過損失特性(細線)のように、中心波長から長波長側で透過損失の絶対値が最大となる波長λ2が存在するよう設計される。つまり、基準構造では波長λ2の光信号は副導波路WG2から主導波路WG1への損失が大きく、波長λ2のLP11モードのモード変換効率が著しく劣化する。
【0041】
細線と太線を比較すれば、LP11モードとして合分波されるPort2からPort3への透過損失特性が改善されている。また、LP01モードとして合分波されるPort1からPort3への透過損失特性は波面整合法の適用後に劣化しているが、その劣化量が0.02dB未満であり、ほとんど劣化していないと言える。一方、Port2からPort4、またはPort1からPort4への透過損失特性は、波面整合法の適用後に大きく劣化している。しかし、Port2からPort4、またはPort1からPort4の透過光は、合波器としては多重されずに損失となる光であり、分波器としては分波されずにクロストーク成分として他のモードの信号に影響を与える光であるため、透過損失特性の絶対値が大きい方が良い。このように基準構造に波面整合法を適用することで、広帯域でモード合分波器としての特性が改善する。
【0042】
具体的には、LP11モードとして多重されるPort2からPort3へ出力される信号に対し、Port2からPort4へのモードクロストーク量を波長1.46〜1.625umにおいて−20dB以下とすることができる。また、LP01モードに対してもPort1からPort4へのモードクロストーク量を波長1.46〜1.625umにおいて−20dB以下とすることができる。
【0043】
図8は、従来の導波路設計で作成したモード合分波器の透過損失特性を説明する図である。基準構造を、使用波長の中心である1.5μmにおいて最適な結合効率を実現するように設計した場合の例である。基準構造のパラメータは、導波路の高さを6μm,W1=19.9μm、W2=7.5μm、Gap=4μm、L=2000μm、比屈折率差Δ=0.39%とした。基準構造に波面整合法を適用していないモード合分波器の透過損失特性を細線で示し、基準構造に波面整合法を適用したモード合分波器の透過損失特性を太線で示している。
図8と本発明で設計した基準構造のモード合分波器の透過損失特性(
図6)とを比較すれば、従来の導波路設計で作成したモード合分波器は、LP11モードとして合分波されるPort2からPort3への透過損失特性及びLP01モードとして合分波されるPort1からPort3への透過損失特性が小さい波長範囲が本発明で設計した基準構造のモード合分波器より狭いことが確認できる。さらに、従来の導波路設計で作成したモード合分波器は、波長1.46〜1.625umにおいてモードクロストーク量−20dB以下を実現することができないことがわかる。
【0044】
図9は、Port2からPort3への透過損失特性の比較であり、本発明で設計した基準構造のモード合分波器の透過損失特性(
図6)が破線、従来の導波路設計で作成したモード合分波器の透過損失特性(
図8)が実線で表されている。基準構造の最適波長を中心からずらし、長波長側で効率が最悪となるよう設計することで、結合効率が向上し、広波長域で高効率な特性を得ることができていることがわかる。逆に基準構造の最適波長を中心からずらして長波長側で効率が最良となるよう設計してもよい。
【0045】
ゆえに、波面整合法を用いたこれまでの設計法(基準構造として所望の波長帯の中心で最も特性の良くなる構造を選ぶ)を用いても、特性の改善は可能であるが、本実施例において示した、基準構造として、所望の波長帯の短波長側で最も特性の良くなる構造を選択することにより、さらなる特性の改善が可能であることがわかる。
【0046】
図10は、本実施形態での波面整合法で設計された導波路構造の上面図である。本実施形態における導波路幅の非周期的な変動は、光の伝搬方向(
図2のz方向)1μmに対して、光の伝搬方向に垂直な方向(
図2のx方向)への変化幅が±0.2μm以内である。これは、急激な光導波路幅の変調を禁止することで、波長依存性が滑らかとなり、再現性の優れた光回路を提供することができるからである。しかしながら、本発明は、この例に限定されるものではなく、より急峻な光導波路幅の変動があっても勿論構わない。
【0047】
なお、実際に波面整合法で得られた伝搬方向に沿った導波路幅の変動に対し、伝搬方向において前後20点の導波路幅を平均化した値でスムージングした構造においても同等の特性が得られ、作製上、好ましい構造とすることができる。
【0048】
なお、本明細書においてはガラス系材料を用いた平面光波回路に関する実施例を記載したが、その材料は当然ほかのものであってもかまわない。たとえば、SiやInGaAsPなどの半導体、またポリマーなどの有機物を用いた平面光波回路であっても、本明細書記載の実施例と同様の効果を得ることができる。
【0049】
また、使用する波長帯に関しても、本明細書記載の実施例では1.3〜1.7μm程度としているが、より波長の長い中赤外領域(2μm以上)や可視光帯であっても構わない。
【0050】
導波路構造に関しても、本明細書記載の実施例においては、矩形の埋め込み型導波路に関するものを記載したが、他の導波構造、たとえば、リッジ導波路構造でも構わない。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明は、波長依存性の小さなモード合分波器を実現することであり、光ファイバ中のモードの利用による大容量・長距離通信を実現することができる。
【符号の説明】
【0052】
WG1:主導波路
WG2:副導波路
WG3:中間導波路
P0:結合部