【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0043】
<実施例1>
グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液を得た。得られた水溶液をオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供した。次に、オートクレーブ容器から取り出した水溶液を120℃に設定したホットプレート上で加熱し、固い水飴状にした。さらに、管状炉を用いてアルゴン気流中400℃で2時間加熱処理(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)し、グラフェン構造を形成させた固体を得た。次に、得られた固体を約100℃の熱水で2回洗い、めのう乳鉢で粉砕して粉体を得た。次に、得られた粉体を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流し、粉体にスルホン酸基を導入した。次に、粉体を取り出して、純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸した。次に、粉体を取り出して50℃で1時間乾燥させ、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸を30mlの水に沈め、濃度0.1NのNaOH水溶液と0.01NのHCl水溶液を用いた逆滴定法により、炭素系固体酸の酸量を測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は4.2mmol/gであった。なお、実施例1と同様にして作製した炭素系固体酸について、マイクロ波酸分解法による前処理の後、ICP発光分光分析法によって、ホウ素元素の含有量を測定したところ、0.004質量%であった。
【0044】
<実施例2>
実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。次に、実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.3mmol/gであり、再現性は良好であった。
【0045】
<実施例3>
オートクレーブの設定温度を140℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.2mmol/gであった。
【0046】
<実施例4>
粉砕して得られた粉体に対して、三酸化硫黄を用いて以下のようにしてスルホン酸基を導入したこと以外は、実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。丸底フラスコに30%発煙硫酸を23ml入れ、フラスコの口の一つからフラスコ内部に開口しているガラス治具を差し込んだ。ガラス治具内には、上記の粉体(0.25g)が配置されている。次に、丸底フラスコを150℃に設定したマントルヒーターで1時間加熱した(発煙硫酸の加熱により、三酸化硫黄ガスが発生している)。ガラス治具内の粉体を取り出し、実施例1と同様にして、洗浄、煮沸し、乾燥させて、炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.2mmol/gであった。
【0047】
<比較例1>
ホウ酸を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.4mmol/gであった。
【0048】
[酢酸とエタノールとのエステル化反応]
実施例1と比較例1で得られた炭素系固体酸をそれぞれ用いて、次のようにして酢酸とエタノールとのエステル化反応を行った。酢酸0.1molとエタノール1.0molを100mLの丸底フラスコに入れて混合した。ここに、それぞれ実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸触媒を約50mg加え、温度80℃で2時間攪拌して、エステル化反応させた。エステル化収率はガスクロマトグラフィーにより求めた。実施例1〜4及び比較例1について、それぞれ、同様のエステル化反応を2回行った。エステル化収率、及びエステル化収率の保持率([2回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の結果を表1に示す。
【0049】
[セロビオース加水分解反応速度の測定]
実施例1〜4と比較例1で得られた炭素系固体酸をそれぞれ触媒として用いて、セロビオース加水分解反応速度(μmol/h/g)を次のようにして測定した。ねじ口試験管(マルエムNR−10)に水(3ml)と、実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸(それぞれ、表1の[ ]内に示した重量)と、セロビオース(15mg)と、撹拌子を加え、キャップを閉めて密閉した。100℃に保った恒温槽の中に設置した耐熱マグネチックスターラーにより、試験管の加熱撹拌を行い反応させた。45分経過後に恒温槽から出して反応液の一部(0.3mL)をサンプリングした後、恒温槽に戻して更に45分反応させ、1回目の反応終了とした。45分、90分にサンプリングした反応液中のグルコース量をMerck社製RQフレックス装置と同装置用のグルコース試験紙(16720−1M)を用いて定量した。グラフの横軸に反応時間(45分(すなわち0.75時間)及び90分(すなわち1.5時間))、縦軸に各々のグルコース生成量(μmol)をプロットし、原点を通る最小二乗法により傾きを求めた。この値を触媒量で除することによりグルコース生成速度(μmol/h/g)を求めた。反応後の炭素系固体酸はろ過して回収し、イオン交換蒸留水中で3回すすいで洗浄した後、室温で乾燥して2回目の反応に用いた。以下、同様に反応を繰り返し、実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸を用いたセロビオース加水分解反応速度の測定をそれぞれ3回ずつ行った。セロビオース加水分解反応速度、及びセロビオース加水分解反応速度の保持率([3回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、グルコースにホウ素をドープした実施例1〜4の炭素系固体酸では、スルホン酸基の量が多くなることが明らかとなった。また、実施例1の炭素系固体酸では、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度が高く、触媒活性が高いことも明らかとなった。さらに、実施例1の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。同様に、グルコースにホウ素をドープした実施例2〜4の炭素系固体酸においても、セロビオース加水分解速度が高く、触媒活性が高いことも明らかとなった。さらに、実施例2〜4の炭素系固体酸は、セロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、グルコースにホウ素をドープしなかった比較例1の炭素系固体酸では、実施例1〜4の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例1の炭素系固体酸では、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0052】
<実施例5>
グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液を得た。得られた水溶液をオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃設定の乾燥機で12時間加熱に供した。次に、グルコース及びホウ素の濃度が2倍になるように、ホットプレートを用いて、水溶液から約半分の水を除去した。次に、濃縮した水溶液に、1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を浸漬し、取り出して乾燥させた。次に、乾燥させた繊維状活性炭を、管状炉を用いてアルゴン気流中400℃で2時間加熱処理(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)した後、約100℃の熱水で2回洗った。なお、繊維状活性炭は、濃縮した水溶液に浸漬する前に、空気中120℃で1時間加熱して乾燥させた後、室温で30秒冷ましてから浸漬した。次に、この繊維状活性炭を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流し、繊維状活性炭にスルホン酸基を導入した。次に、繊維状活性炭を取り出して、純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸した。次に、繊維状活性炭を取り出して50℃で1時間乾燥させ、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量は、実施例1と同様にして測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は2.0mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示されるように、ホウ素をドープしたグルコースをさらに繊維状活性炭に担持させた実施例5の炭素系固体酸においても、スルホン酸基の量は多かった。また、実施例5の炭素系固体酸においては、エステル化収率が高く、高い触媒活性を有することが明らかとなった。さらに、実施例5の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。
【0055】
<実施例6>
グルコース及びホウ素の濃度を2倍にする代わりに、濃度が1/3になるように、水を加えたこと以外は、実施例5と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.2mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示されるように、グルコース及びホウ素の濃度を1/3に希釈して繊維状活性炭を浸漬した実施例6の炭素系固体酸においては、スルホン酸基の量は少なくなり、エステル化収率も濃度に応じて相対的に低くなったが、エステル化収率の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0058】
<実施例7>
グルコース及びホウ素の濃度を2倍にせずにそのままの濃度で用いたこと、及び繊維状活性炭をアルゴン気流中400℃で加熱処理する代わりに空気中400℃で加熱処理したこと以外は、実施例5と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は2.1mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示されるように、繊維状活性炭を空気中で加熱処理した実施例7の炭素系固体酸においては、エステル化収率が高かった。また、実施例7の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0061】
<実施例8>
15 mgの球状カーボンナノホーン(CNH、環境・エネルギーナノ技術研究所製の品名:球状−パウダー)を、100mlの水に分散させて超音波処理15分を2回施し、1μmのメンブレンフィルターで濾過した。次に、グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)を、この濾過液に溶かして約35mlにした。これをオートクレーブ容器に入れ、120℃設定の乾燥器で12時間加熱した後、120℃設定のホットプレートで加熱し固い水飴状にした。さらにアルゴン気流中で400℃処理(1時間かけて昇温、保持時間2時間。)し、得られた試料を約100℃の熱水で、2回洗った。次に、試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に、試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させて炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表5に示す。
【0062】
<比較例2>
ホウ酸(1.00g)を添加しなかったこと以外は、実施例8と同様にして、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
表5の実施例8に示されるように、球状のカーボンナノホーンを担体として用いた場合、酸量が多く、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例2では、実施例8の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例2の炭素系固体酸では、セロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0065】
<実施例9>
球状カーボンナノホーンの代わりに、ダリア状カーボンナノホーン(CNH、環境・エネルギーナノ技術研究所製の品名:ダリア状−パウダー)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表6に示す。
【0066】
<比較例3>
ホウ酸(1.00g)を添加しなかったこと以外は、実施例9と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6の実施例9に示されるように、ダリア状カーボンナノホーンを担体として用いた場合にも、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例3では、実施例9の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例3の炭素系固体酸では、セロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0069】
<実施例10>
フェノール樹脂(DIC株式会社の品番:GA1364)(2.00g)とホウ酸アンモニウム(2.00g)とを混ぜ合わせた後オートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供した。次に、オートクレーブ容器から取り出した試料を磁製ボートに移し、120℃設定の環状炉へ入れ、空気中で1時間加熱した。さらに400℃に加熱しておいた環状炉で空気中1時間加熱した後、めのう乳鉢で粉砕して粉体を得、それを約100℃の熱水で2回洗った。この試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させ炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表7に示す。
【0070】
<比較例4>
ホウ酸アンモニウムを添加しなかったこと、及びオートクレーブ処理を施さなかったこと以外は、実施例10と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7の実施例10に示されるように、炭素質材料前駆体としてフェノール樹脂を用いた場合にも、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加せず、オートクレーブ処理を行わなかった比較例4では、実施例10の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量は多かったものの、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度が小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0073】
<実施例11>
あらかじめ、グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液とし、これをオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供したオートクレーブ処理液を準備した。一方、ニッケルるつぼにKフィルター90.4mgとペレット状のKOH(424mg)を入れ、アルゴン気流中700℃2時間処理し、取り出し後、純水で充分に洗浄した。この処理でKフィルターは43.7mgに重量減少した。このKフィルターを空気中120℃で1時間加熱した後、室温まで完全に冷却されるまでに、前記のオートクレーブ処理液に漬けた。次に、取り出して乾燥した試料を、アルゴン気流中で400℃処理(1時間かけて昇温、保持時間2時間)し、さらに約100℃の熱水で、2回洗った。これを丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させ炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0074】
<実施例12>
実施例11において、Kフィルター(94.0mg)のKOH処理において、KOH514mgを用いて、重量が34.2mgに減少したKフィルターを用い、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0075】
<比較例5>
実施例11において、Kフィルター(99.2mg)のKOH処理において、ペレット状のKOH(486mg)を用いて、重量が53.0mgに減少したKフィルターを用いたこと、Kフィルターをオートクレーブ処理液に漬けなかったこと以外は、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0076】
<比較例6>
実施例11において、Kフィルター(75.0mg)のKOH処理において、ペレット状のKOH(498mg)を用いて、重量が29.1mgに減少したKフィルターを用いたこと、Kフィルターをオートクレーブ処理液に漬けなかったこと以外は、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
表8の実施例11,12に示されるように、Kフィルターを水酸化カリウム水溶液で賦活してから用いた場合、セロビオース加水分解速度の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例5,6では、実施例11,12の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なく、また、比較例6では、セロビオース加水分解速度が小さくなり、セロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0079】
<実施例13>
実施例2で得られた炭素系固体酸を用い、反応条件を100℃の代わりに150℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、セロビオース加水分解反応を行った。なお、温度を高めるために、反応容器はマルエム製のねじ口試験管に代えて耐圧試験管(AceGlass製)を用いた。また、耐熱マグネチックスターラー使用の上限温度が110℃であるために、実施例13では撹拌を行わなかった。なお、セロビオースは完全に水に溶解するため、撹拌の有無によって、反応速度に大きな差が生じないことは、別途、100℃の反応において確認した。反応は4回繰り返して行い、セロビオース加水分解反応速度の保持率は[4回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)とした。測定結果を表9に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
表9の実施例13に示されるように、セロビオースの反応温度を150℃に高めることにより反応速度は非常に大きくなった。また、加水分解速度の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0082】
<比較例7>
市販の酸触媒であるAmberlyst−15(MP Biomedical社)を用いて、セロビオース加水分解反応を行った。市販の試薬は水分を多く含むため、40℃の乾燥器中で7時間乾燥してから反応に用いた。反応温度を70℃、80℃、90℃、100℃とし、反応を繰り返さずに各反応温度で新しい触媒を用いたこと以外は、上記の[セロビオース加水分解反応速度の測定]と同様にしてセロビオース加水分解反応を行った。比較例7の結果と、実施例2で得られた炭素系固体酸を用いて100℃(表1)、150℃(表9)で1回目の反応を行った結果を、反応温度(T/℃)に対する反応速度(R/μmol h
-1 g
-1)のプロットとして、
図1に示す。
【0083】
図1に示されるように、比較例7のAmberlyst−15触媒は、耐熱性に乏しく、100℃を超える温度では使用できない。これに対して実施例2の触媒では、100℃を超える温度でも使用でき、150℃で大きく速度が増加した。
図1の反応温度Tを絶対温度の逆数に換算して横軸とし、反応速度Rの自然対数を縦軸にとったアレニウスプロットを
図2に示す。
【0084】
図2において、比較例7の触媒では、4点のプロットが直線上に乗っており反応速度の測定が良好に行われていることを示している。実施例2の触媒は、比較例7と同じ温度(100℃)で比較すると明らかに速度が大きいことが分かる。さらに、実施例2の触媒では、150℃まで温度を上げても、比較例7の触媒とほぼ同じ傾きで速度が増加しており、熱による触媒の劣化がみられないことが分かる。
【0085】
<実施例14>
セルロース100%の不織布(旭化成株式会社製のBEMCOT、品番:M−3II)を直径3cmの円形に切り(7cm
2、約20mg)、それを50枚積層し(約1g)、オートクレーブ容器に入れた。さらに、ホウ酸(1.00g)のみを水に溶かして約35mlにした液も入れて、不織布が完全に浸るようにし、120℃で12時間オートクレーブ処理した。取り出した試料を空気中で400℃処理(あらかじめ400℃に保持した炉へ入れ、1時間保持)したところ、約1gのBEMCOTから約0.46gの試料が得られた。この試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流してスルホン酸基を導入した。次に、試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥して炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。次に、実施例14で得られた炭素系固体酸を用い、以下の手順により、セルロースの分解反応速度を測定した。
【0086】
[セルロース加水分解反応速度の測定]
セルロースは、グルコースがβ-グリコシド結合により連なった天然高分子であり、全てのグリコシド結合を加水分解で切断すればグルコースが生成する。しかしながら、実際には、セルロースが結晶性の固体であるためにセロビオースと比べてグルコースへの分解は非常に困難である。そこで、反応温度を150℃とし、水に不溶であるセルロースのβ-グリコシド結合が加水分解により部分的に切断されることにより生成する、水溶性のオリゴ糖の総量を求めることにより、本発明の炭素系固体酸の固体酸触媒性能を評価した。
【0087】
具体的には実施例14で得られた炭素系固体酸を触媒として用いて、セルロース加水分解反応速度(μmol/h/g)を次のようにして測定した。耐圧反応容器(ユニシール分解るつぼ)のテフロン製内容器に水(3ml)と、実施例14で得られた炭素系固体酸(表10の[ ]内に示した重量)と、セルロース粉末(Merck社製、微結晶セルロース 102331)15mgと、撹拌子を加え、テフロン蓋およびステンレス製ジャケットにより密閉した。マントルヒーターの中に反応容器を設置し、隙間を熱媒体アルミ合金ビーズ(ラボアームビーズ、ラボアーム社製)で埋め、更に上部を石英ウールで覆って反応器全体を加熱できるようにした。マントルヒーターの下に設置したマグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、CCX−CTRL2)で反応容器中の撹拌子を回転させて撹拌し、反応容器の内温が150℃となるよう温度調節装置(シマデン製、DSP20)で制御しつつマントルヒーターを加熱し反応させた。2時間経過後に加熱を終了し、1回目の反応終了とした。反応容器の内容物を遠心分離機にかけて触媒と未反応のセルロース粉末を沈降させ、上澄みの反応液中の可溶性糖の総量を高感度フェノール硫酸法(竹内ら、帯広畜産大学学術研究報告 自然科学、 22 (2001)103-107)により定量した。液中の可溶性糖の総量(グルコース換算)、使用した触媒量、及び反応時間から可溶性糖の生成速度(μmol/h/g)を求めた。
【0088】
上澄みの反応液を採取した残りの沈降層から触媒を回収するために水3mLを加えた後にろ過し、回収した炭素系固体酸(未反応のセルロース粉末を含む)は、5mLのイオン交換蒸留水ですすいで洗浄し、室温で乾燥した後に新たにセルロース粉末15mgを加えて2回目の反応に用いた。以下、同様に反応を繰り返し、セルロース加水分解反応速度の測定を3回行った。セルロース加水分解反応速度、及びセルロース加水分解反応速度の保持率([3回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の測定結果を表10に示す。
【0089】
【表10】
【0090】
表10の実施例14に示されるように、触媒の前駆体としてセルロースを用いた場合、スルホン酸基量が多い固体酸が得られた。不織布状のセルロースを前駆体としているため、この固体酸は、反応を行う前には不織布状の形状を持っている。反応物であるセルロースも粉末状であり、反応が進行するためには固体の触媒と固体の反応物の「固体−固体」の接触が必要なため、一般に反応は困難である。しかしながら、実施例14で得られた炭素系固体酸を触媒として用い、反応温度を150℃と高温にすることにより、表10に示されるように、セルロースの分解反応を好適に進行させることができた。
【0091】
不織布状の触媒は、セルロース粉末と共に撹拌子で激しく撹拌しながら反応したために、反応を繰り返すと粉末化していった。このため、ろ別による完全な回収は難しく、2、3回目の反応では触媒量が1回目よりも減少した。また、未反応のまま残ったセルロースも粉末であり、触媒粉末との分離はできなかった。3回の反応を終わって回収した触媒は、セルロースを含むため、元の触媒の黒色と比べて明らかに白い色調となっていた。このため表10の[ ]内に記した2回目、3回目の触媒量は、未反応セルロース粉末の重量も含んでおり、正味の触媒量はこれよりも少ない。また、2回目、3回目の反応では、新たにセルロース粉末を加えているため、実質の反応物(セルロース)量は1回目の反応に比べて多くなっている。このように、2、3回目の反応では1回目よりも触媒量が少なく反応物量が多いという、負荷の大きな条件となっているにも関わらず、反応速度は1回目と2回目でほぼ変わらず、3回目では大幅に増加している(反応速度計算の際の触媒量としては[ ]内の触媒重量を使用)。
以上のように本発明の炭素系固体酸を触媒として用い、セルロースの加水分解反応を繰り返し行った結果は、加水分解速度の保持率が非常に高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。