特許第6351181号(P6351181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6351181
(24)【登録日】2018年6月15日
(45)【発行日】2018年7月4日
(54)【発明の名称】スルホン酸基を有する炭素系固体酸
(51)【国際特許分類】
   B01J 27/053 20060101AFI20180625BHJP
   C01B 32/22 20170101ALI20180625BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 37/02 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 37/08 20060101ALI20180625BHJP
   B01J 37/20 20060101ALI20180625BHJP
【FI】
   B01J27/053 Z
   C01B32/22
   B01J35/02 Z
   B01J37/02 101B
   B01J37/02 101E
   B01J37/08
   B01J37/20
   B01J37/02 101C
【請求項の数】8
【全頁数】20
(21)【出願番号】特願2015-526259(P2015-526259)
(86)(22)【出願日】2014年6月27日
(86)【国際出願番号】JP2014067186
(87)【国際公開番号】WO2015005144
(87)【国際公開日】20150115
【審査請求日】2017年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-145945(P2013-145945)
(32)【優先日】2013年7月12日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100156845
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 威一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【弁理士】
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】塩山 洋
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 宏昭
(72)【発明者】
【氏名】徐 強
(72)【発明者】
【氏名】木内 正人
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2007/105802(WO,A1)
【文献】 特開2011−098843(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/004949(WO,A1)
【文献】 SAIDAMINOV,M.I. et al,Expandable graphite modification by boric acid,Journal of Materials Research,2012年 4月14日,Vol.27, No.7,p.1054-1059
【文献】 原 亨和,炭素材料―熱い注目を集める材料―ナノグラフェン固体酸触媒,触媒,2009年 1月15日,Vol.51, No.1,p.39-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 − 38/74
C01B 32/00 − 32/991
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スルホン酸基を有する炭素質材料を含む炭素系固体酸であって、
前記炭素質材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、ホウ素を含有しており、
滴定法によって測定される酸量が、1.0mmol/g以上である、炭素系固体酸。
【請求項2】
前記炭素質材料が、糖質、芳香族化合物、及び樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の炭素質材料前駆体に由来する、請求項1に記載の炭素系固体酸。
【請求項3】
滴定法によって測定される酸量が、1.5mmol/g以上である、請求項1または2に記載の炭素系固体酸。
【請求項4】
前記ホウ素の含有量が、0.0001質量%〜20質量%の範囲にある、請求項1〜3のいずれかに記載の炭素系固体酸。
【請求項5】
前記炭素質材料が、多孔体に担持されてなる、請求項1〜4のいずれかに記載の炭素系固体酸。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の炭素系固体酸からなる、固体酸触媒。
【請求項7】
炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する、ホウ素ドープ工程と、
前記ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、前記ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程と、
前記炭化工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程と、
を備える、炭素系固体酸の製造方法。
【請求項8】
前記ホウ素ドープ工程の後、前記ホウ素含有炭素質材料前駆体を、多孔体に担持させる工程をさらに備える、請求項7に記載の炭素系固体酸の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スルホン酸基を有する炭素系固体酸、これを用いた固体酸触媒、及びこれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、エステル化、加水分解、アルキル化、アルコールの脱水縮合、オレフィンの水和などの各種の化学反応には、種々の酸触媒が用いられており、化学工業などにおいては、酸触媒として硫酸が広く用いられている。硫酸は安価であるため、多量に使用される。しかしながら、硫酸は液体であるため、反応後の生成物からの硫酸の分離、回収、精製、再利用の工程、生成物中に残留する硫酸の中和工程、中和で生成した塩の除去工程、廃水処理工程などに、多大なエネルギーが必要という問題がある。
【0003】
一方、固体酸触媒は、硫酸などの液体酸に比して、分離、回収が容易であり、繰り返し使用しやすいため、硫酸などの液体酸触媒の代替として、固体酸触媒も用いられるようになっている。
【0004】
固体酸触媒しては、例えば、シリカ−アルミナ、ゼオライトなどが使用されている。しかしながら、これらの固体酸触媒は、例えば水中で使用すると触媒活性が低下するため、硫酸の代替として工業的に用いることは困難である。
【0005】
近年、水中でも使用し得る固体酸触媒として、炭素質材料にスルホン酸基を導入した炭素系固体酸が開発されている。
【0006】
炭素質材料にスルホン酸基を導入した炭素系固体酸として、例えば、特許文献1には、多環式芳香族炭化水素類を濃硫酸または発煙硫酸で加熱処理し、多環式芳香族炭化水素の縮合及びスルホン化を行うことによって得られる固体酸が開示されている。また、例えば、特許文献2には、フェノール樹脂を炭化処理及びスルホン化処理して得られるスルホン酸基含有炭素質材料を含む固体酸触媒が開示されている。さらに、例えば、特許文献3には、グルコース、セルロースなどを部分炭化して得られる無定形炭素にスルホン酸基を導入した固体酸が開示されている。
【0007】
しかしながら、これらの炭素系固体酸では、触媒活性が十分でなかったり、繰り返し使用した場合に、触媒活性が低下しやすいという問題がある。このような状況下、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が低下し難い新規な炭素系固体酸の開発が求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−238311号公報
【特許文献2】国際公開第2008/102913号パンフレット
【特許文献3】特開2006−257234号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い新規な炭素系固体酸を提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該炭素系固体酸からなる炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合するホウ素ドープ工程と、ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程と、炭化工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程とを備える方法によって得られた炭素系固体酸が、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性の劣化を生じ難いことを見出した。さらに、スルホン酸基を有する炭素質材料を含む炭素系固体酸において、炭素質材料が少なくとも一部にグラフェン構造を有し、かつ、ホウ素を含有する炭素系固体酸が、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性の劣化を生じ難いことも見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0011】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. スルホン酸基を有する炭素質材料を含む炭素系固体酸であって、
前記炭素質材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、ホウ素を含有している、炭素系固体酸。
項2. 前記炭素質材料が、糖質、芳香族化合物、及び樹脂からなる群から選択された少なくとも1種の炭素質材料前駆体に由来する、項1に記載の炭素系固体酸。
項3. 滴定法によって測定される酸量が、1.0mmol/g以上である、項1または2に記載の炭素系固体酸。
項4. 前記ホウ素の含有量が、0.0001質量%〜20質量%の範囲にある、項1〜3のいずれかに記載の炭素系固体酸。
項5. 前記炭素質材料が、多孔体に担持されてなる、項1〜4のいずれかに記載の炭素系固体酸。
項6. 項1〜5のいずれかに記載の炭素系固体酸からなる、固体酸触媒。
項7. 炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する、ホウ素ドープ工程と、 前記ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、前記ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程と、
前記炭化工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程と、
を備える、炭素系固体酸の製造方法。
項8. 前記ホウ素ドープ工程の後、前記ホウ素含有炭素質材料前駆体を、多孔体に担持させる工程をさらに備える、項7に記載の炭素系固体酸の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い新規な炭素系固体酸を提供することができる。さらに、本発明によれば、当該炭素系固体酸からなる炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法を提供することができる。当該炭素系固体酸触媒は、水中でも使用することができるため、例えば硫酸を酸触媒として用いる化学反応用の酸触媒として好適に使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】比較例7の結果と、実施例2で得られた炭素系固体酸を用いて100℃、150℃で1回目の反応を行った結果を、反応温度(T/℃)に対する反応速度(R/μmol h-1-1)のプロットとして示したグラフである。
図2図1の反応温度Tを絶対温度の逆数に換算して横軸とし、反応速度Rの自然対数を縦軸にとったアレニウスプロットを示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明の炭素系固体酸は、スルホン酸基を有する炭素質材料を含む炭素系固体酸であって、炭素質材料が、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、かつ、ホウ素を含有していることを特徴とする。また、本発明の炭素系固体酸の製造方法は、炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する、ホウ素ドープ工程と、ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程と、炭化工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程とを備えることを特徴とする。以下、本発明の炭素系固体酸、当該炭素系固体酸を用いた炭素系固体酸触媒、及びこれらの製造方法について詳述する。
【0015】
本発明の炭素系固体酸に含まれる炭素質材料は、スルホン酸基を有し、少なくとも一部にグラフェン構造を有している。後述の通り、本発明の炭素系固体酸に含まれる炭素質材料においては、例えば、原料となる炭素質材料前駆体にホウ素をドープしてホウ素含有炭素質材料前駆体とし、次にこれを炭化処理して少なくとも一部にグラフェン構造を形成したホウ素含有炭素質材料とし、さらにこれにスルホン酸基を導入することにより、スルホン酸基を有し、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、さらにホウ素を含有する炭素質材料とすることができる。一方、後述の通り、ホウ素含有炭素質材料にスルホン酸基を導入した後の洗浄などによって、実質的に全てのホウ素が除去される場合がある。このような場合、スルホン酸基を有し、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、実質的にホウ素を含有していない炭素質材料とすることができる。
【0016】
本発明の炭素系固体酸の原料となる炭素質材料前駆体としては、ホウ素をドープでき、かつ、それを加熱して少なくとも一部にグラフェン構造を形成したものにスルホン酸基を導入できるものであれば特に制限されず、好ましくは糖質、芳香族化合物、樹脂などが挙げられる。すなわち、本発明の炭素系固体酸において、炭素質材料は、糖質、芳香族化合物、及び樹脂などの炭素質材料前駆体に由来することが好ましい。炭素質材料前駆体は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0017】
糖質としては、特に制限されないが、好ましくはグルコース、スクロース(砂糖)、マルトース、フルクトース、ラクトース、フラクトオリゴ糖、ガラクトオリゴ糖、マンナンオリゴ糖、セルロース、デンプン、アミロースなどが挙げられる。
【0018】
芳香族化合物としては、特に制限されないが、例えば、単環芳香族化合物、多環芳香族化合物が挙げられる。単環芳香族化合物としては、好ましくはベンゼンまたは置換ベンゼンが挙げられる。置換ベンゼンの置換基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基などの炭素数1〜4のアルキル基;メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトシキ基などの炭素数1〜4のアルコキシ基、フッ素、塩素、臭素、ヨウ素などのハロゲン原子;水酸基、アミノ基、ビニル基などが挙げられる。また、多環芳香族化合物としては、好ましくはナフタレン、ピレン、ベンゾ(α)ピレン、ベンゾアントラセン、アントラセン、フェナントレン、コロネン、ケクレン、ビフェニル、ターフェニルなどが挙げられる。多環芳香族化合物は、置換基を有していてもよい。多環芳香族化合物が有し得る置換基としては、例えば、置換ベンゼンと同様のものが例示できる。なお、これらの芳香族化合物は、タール、ピッチなどに含まれており、タール、ピッチなどを芳香族化合物として用いてもよい。
【0019】
樹脂としては、特に制限されないが、例えば、フェノール樹脂、フラン樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂などが挙げられる。
【0020】
本発明の炭素系固体酸の第1の態様において、炭素質材料は、ホウ素を含有している。本発明の炭素系固体酸の第1の態様においては、炭素質材料がホウ素を含有していることにより、炭素系固体酸におけるスルホン酸基の量を増やすことができると考えることができる。さらに、炭素質材料がホウ素を含有していることにより、酸触媒を用いる化学反応に対して、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能となると考えることができる。炭素質材料がホウ素を含有していることにより、これらの優れた効果が奏されると考えられる機序の詳細は明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、ホウ素は電気陰性度が低い元素であるため、炭素質材料においては、ホウ素は炭素原子に電子を供与する機能を発揮すると考えられる。炭素原子に電子が供与されると、スルホン酸基の硫黄原子とこれが結合した炭素原子との結合が強められ、スルホン酸基が安定化すると考えられる。この結果、スルホン酸基が触媒として効果的に機能し、かつ、繰り返し使用してもスルホン酸基が炭素質材料から脱離し難く、触媒活性の劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能になると考えられる。
【0021】
一方、後述の通り、本発明の炭素系固体酸は、炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合するホウ素ドープ工程と、ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程と、炭化工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程とを備える製造方法により製造することができる。このような製造工程において、ホウ素含有炭素質材料に含まれていたホウ素は、スルホン酸基導入工程、さらに必要に応じて設けられる洗浄工程によって、炭素質材料中の含有量が減少すると考えられる。
【0022】
本発明の炭素系固体酸の第2の態様においては、炭素質材料中にホウ素が実質的に含まれていない。ホウ素の含有量が非常に少なく、ホウ素が実質的に存在していないと評価される本発明の炭素系固体酸の第2の態様においても、上記の第1の態様と同様、酸触媒を用いる化学反応に対して、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能となる。その機序の詳細は明らかではないが、例えば次のように考えることができる。すなわち、炭素質材料の製造工程においてホウ素含有炭素質材料前駆体中に存在していたホウ素が、その後の工程で除去された場合にも、ホウ素が存在していた空間が反応場として保持されており、その反応場においてスルホン酸基が触媒として効果的に機能し、かつ、繰り返し使用してもスルホン酸基が炭素質材料から脱離し難く、触媒活性の劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能になっていると考えられる。ただし、炭素系固体酸の製造工程においては、通常、洗浄工程などによっても、炭素質材料中にはホウ素が残留するため、本発明の炭素系固体酸は、第1の態様のように、通常、ホウ素を含んでいる。
【0023】
原料となる上記の炭素質材料前駆体にホウ素をドープする方法としては、特に制限されず、例えば、原料となる炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する方法が挙げられる。ホウ素含有化合物としては、炭素質材料前駆体にホウ素をドープできるものであれば、特に制限されず、好ましくはホウ酸、フェニルボロン酸、n−ブチルボロン酸、トリフェニルボロキシン、ホウ酸トリメチル、ホウ酸アンモニウムなどが挙げられる。ホウ素含有化合物は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。例えば、ホウ素含有化合物としてホウ酸などを用いる場合、上記の炭素質材料前駆体は、水酸基を有することが好ましい。炭素質材料前駆体が水酸基を有する場合、当該水酸基とホウ酸などの水酸基との間の加熱・脱水でエステル結合を形成することにより、好適にホウ素をドープさせ得るからである。炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物との混合は、加熱下に行うことが好ましい。加熱温度としては、特に制限されないが、好ましくは50℃〜180℃程度が挙げられる。また、ホウ素のドープは、加圧下に行ってよい。さらに、炭素質材料前駆体にホウ素をドープする際には、溶媒を用いてもよい。溶媒としては、炭素質材料前駆体及びホウ含有化合物の溶解性などに応じて、適宜選択することができ、例えば水、エタノールなどが挙げられる。
【0024】
本発明の炭素系固体酸において、ホウ素の含有量としては、好ましくは0.0001質量%〜20質量%の範囲、より好ましくは0.003質量%〜20質量%の範囲、さらに好ましくは0.005質量%〜20質量%の範囲が挙げられる。本発明において、炭素系固体酸中のホウ素の含有量は、元素分析法、ICP発光分光分析法により測定することができる。なお、上記のホウ素ドープ工程などを経て得られる本発明の炭素系固体酸には、上記の第2の態様のように、ホウ素が実質的に含まれていなくてもよい。
【0025】
本発明の炭素質材料は、少なくとも一部にグラフェン構造を有する。本発明の炭素系固体酸においては、炭素質材料の少なくとも一部にグラフェン構造を有しており、スルホン酸基などの酸基が強固に結合されている。炭素質材料の少なくとも一部にグラフェン構造を形成する方法としては、例えば、上記のホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、少なくとも一部を炭化する方法(炭化処理)が挙げられる。なお、ホウ素ドープ工程で加熱する場合、炭化処理は、ホウ素ドープ工程と同時に行ってもよい。
【0026】
炭化処理は、例えば、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下、大気中(空気中)などにおいて、上記のホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱することにより行うことができる。炭化処理の条件は、原料となる炭素質材料前駆体の種類、目的とする炭素系固体酸の特性などにより適宜選択することができる。加熱温度としては、特に制限されないが、グラフェン構造を効果的に形成する観点からは、例えば300℃以上、好ましくは350℃以上、さらに好ましくは400℃以上が挙げられる。なお、加熱温度が高すぎると、スルホン酸基を導入しにくくなる場合があるため、加熱温度の上限値としては、通常、600℃程度、好ましくは550℃程度が挙げられる。炭化処理のための加熱時間としては、特に制限されず、例えば、1〜100時間程度、好ましくは2〜15時間程度が挙げられる。なお、空気中でホウ素含有炭素質材料前駆体を炭化処理することにより、炭素質材料にカルボキシル基、水酸基などの酸基が導入される。カルボキシル基などが導入されることにより、炭素質材料におけるスルホン酸基を安定化することができ、触媒活性を高め、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とし得る。カルボキシル基などによるスルホン酸基の安定化効果は、例えば、次のように考えることができる。カルボキシル基などが炭素質材料中に導入されることより、例えば水中などにおいてイオン化したカルボキシル基などの電子がスルホン酸基に供給され、スルホン酸基の硫黄原子とこれが結合した炭素原子との結合が強められ、スルホン酸基が安定化すると考えられる。この結果、スルホン酸基が触媒として効果的に機能し、かつ、繰り返し使用してもスルホン酸基が炭素質材料から脱離し難く、触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸とすることが可能になると考えられる。
【0027】
本発明の炭素系固体酸において、炭素質材料は、スルホン酸基を有する。上記の通り、本発明においては、例えばホウ素がドープされ、少なくとも一部が炭化したホウ素含有炭素質材料にスルホン酸基を導入することができる。ホウ素含有炭素質材料にスルホン酸基を導入するスルホン化処理の方法としては、特に制限されず、例えば、ホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄の少なくとも一種とを混合する方法が挙げられる。より詳細には、濃硫酸または発煙硫酸とホウ素含有炭素質材料とをアルゴン、窒素などの不活性ガスの存在下に混合する方法や、三酸化硫黄ガスとホウ素含有炭素質材料とをアルゴン、窒素などの不活性ガスの存在下に接触させる方法などが挙げられる。
【0028】
濃硫酸または発煙硫酸を用いてスルホン酸基を導入する場合、ホウ素含有炭素質材料に対する濃硫酸または発煙硫酸の量としては、特に制限されず、ホウ素含有炭素質材料1質量部に対して、濃硫酸または発煙硫酸が、例えば5〜1000質量部程度、好ましくは100〜500質量部程度が挙げられる。濃硫酸または発煙硫酸を用いる場合、スルホン化処理の温度としては、例えば20〜250℃程度、好ましくは50〜200℃程度が挙げられる。濃硫酸または発煙硫酸を用いる場合、スルホン化処理の時間としては、例えば5〜150分間程度、好ましくは30〜120分間程度が挙げられる。
【0029】
三酸化硫黄ガスを用いてスルホン酸基を導入する場合、スルホン化処理における三酸化硫黄ガスの濃度としては、特に制限されず、例えば5〜100体積%程度、好ましくは20〜50体積%程度が挙げられる。三酸化硫黄ガスを用いる場合、スルホン化処理の温度としては、特に制限されず、例えば20〜250℃程度、好ましくは50〜200℃程度が挙げられる。三酸化硫黄ガスを用いる場合、スルホン化処理の時間としては、例えば5〜150分間程度、好ましくは30〜120分間程度が挙げられる。
【0030】
なお、スルホン化処理の後、熱水などによりスルホン化した炭素質材料を洗浄、乾燥することにより、余剰の硫酸、発煙硫酸、三酸化硫黄などを除去することが好ましい。熱水による洗浄は、例えばソックスレー抽出法などにより、約100℃での環流下で行うことができる。さらに、加圧下で洗浄を行うことにより、洗浄時間を短縮することも可能である。
【0031】
本発明の炭素系固体酸の酸量としては、特に制限されないが、滴定法によって測定される酸量が好ましくは1.0mmol/g以上、より好ましくは1.5mmol/g以上が挙げられる。当該酸量が1.0mmol/g未満の場合には、炭素系固体酸を化学反応に対する酸触媒として使用する場合に、酸触媒としての活性が不十分となる場合がある。なお、本発明において、滴定法によって測定される酸量とは、炭素系固体酸を適量の水に沈め、濃度0.1Nまたは0.01NのNaOH水溶液を用いた単純滴定法、または濃度0.1Nまたは0.01NのNaOH水溶液と濃度0.1Nまたは0.01NのHCl水溶液を用いた逆滴定法により測定して求められる値である。単純滴定法は、簡便に行えるため、炭素系固体酸の酸量を予備的に測定する方法として適している。また、逆滴定法は、炭素系固体酸の酸量をより正確に測定する方法として適している。本発明の炭素系固体酸の酸量は、上記の逆滴定法で測定した酸量をいう。また、本発明の炭素系固体酸中において、スルホン酸基以外に例えばカルボキシル基や水酸基などの他の酸基が含まれる場合には、本発明における酸量とは、スルホン酸基と他の酸基とを併せた酸量である。
【0032】
本発明の炭素系固体酸は、ホウ素ドープ工程を経て得られ、少なくとも一部にグラフェン構造を有し、スルホン酸基が導入された上記の炭素質材料を含む。本発明の炭素系固体酸は、当該炭素質材料からなってもよいし、当該炭素質材料が多孔体などに担持された複合体であってもよい。本発明の炭素系固体酸が上記の炭素質材料からなる場合、スルホン基が導入された炭素質材料は、通常、粉末状であるが、必要に応じて成形して、粒状、板状、ペレット状としてもよい。
【0033】
炭素系固体酸が、炭素質材料が多孔体に担持された複合体である場合、多孔体としては、特に制限されず、例えば、活性炭、アルミナ、シリカ、チタニア、マグネシア、ジルコニア、カーボンナノチューブ、カーボンナノホーン(球状、ダリア状など)、カーボンナノファイバー、フラーレンなどの無機多孔体が挙げられ、これの中でも好ましくは活性炭、カーボンナノチューブ、及びカーボンナノホーンが挙げられる。活性炭としては、繊維状活性炭、粒状活性炭、粉末状活性炭、破砕状活性炭、円柱状活性炭、ハニカム状活性炭などが挙げられ、これらの中でも好ましくは繊維状活性炭が挙げられる。繊維状活性炭は、水酸化カリウム水溶液などによって賦活してから用いることが好ましい。多孔体は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0034】
本発明において、繊維状活性炭は、例えばJIS K1477に記載されたような多孔質繊維状の活性炭をいう。本発明において、繊維状活性炭の繊維径は特に制限されないが、好ましくは1〜30μm程度が挙げられる。また、繊維状活性炭の平均繊維長さは、特に制限されないが、好ましくは0.1mm以上が挙げられる。なお、繊維状活性炭の平均繊維長さは、JIS K1477に記載された方法により求めた値である。また、繊維状活性炭の比表面積は、特に制限されないが、好ましくは500〜2000m2/g程度が挙げられる。繊維状活性炭の比表面積は、JIS K1477に記載されたBET法により求めた値である。本発明の炭素系固体酸が、炭素質材料と繊維状活性炭との複合体であることにより、例えば粉末状、粒状の無機多孔体を用いる場合に比して、後述の固体酸触媒として用いる際の取り扱い性(反応後の生成物からの固体酸触媒の分離、回収、精製、再利用のしやすさなど)がより一層高められる。さらに、繊維状活性炭を用いることにより、例えばフィルター状の固体酸触媒などとして好適に使用することができる。
【0035】
本発明の炭素系固体酸が、炭素質材料が多孔体に担持された複合体である場合、多孔体に対する上記の炭素質材料の割合としては、多孔体100質量部に対して、当該炭素質材料が例えば0.01〜50質量部程度、好ましくは0.1〜20質量部程度とすることができる。
【0036】
当該炭素質材料を多孔体に担持させる方法としては、特に制限されず、例えば、ホウ素含有炭素質材料前駆体が溶解した溶液に、多孔体を浸漬し、乾燥させた後、上記の炭化処理及びスルホン化処理を行う方法などが挙げられる。当該ホウ素含有炭素質材料前駆体を溶解する溶媒としては、例えば、水、エタノールなどが挙げられる。
【0037】
本発明の炭素系固体酸は、酸触媒を用いる化学反応に対して、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い。このため、本発明の炭素系固体酸は、固体酸触媒として好適に使用することができる。特に、本発明の炭素系固体酸は、水中においても触媒として機能し得るため、例えば硫酸触媒の代替となる固体酸触媒として好適に使用することができる。
【0038】
本発明の炭素系固体酸が固体酸触媒として触媒し得る化学反応としては、例えば公知の酸触媒を用いた化学反応が挙げられる。このような化学反応としては、例えば、エステル化、加水分解、アルキル化、アルコールの脱水縮合、オレフィンの水和などが挙げられる。また、本発明の炭素系固体酸は、例えば100℃以上、さらには150℃以上の高温下においても、固体酸触媒として好適に機能し得る。このため、例えば後述の実施例14で示されるように、一般には分解反応が進行しにくいセルロースの加水分解反応にも好適に使用することができる。
【0039】
本発明の炭素系固体酸は、例えば、以下のようにして製造することができる。まず、原料となる上記の炭素質材料前駆体と上記のホウ素含有化合物とを混合する、ホウ素ドープ工程を行う。炭素質材料前駆体とホウ素含有化合物とを混合する方法は、上記の通りである。次に、ホウ素ドープ工程を経て得られたホウ素含有炭素質材料前駆体を加熱し、ホウ素含有炭素質材料前駆体の少なくとも一部を炭化する炭化工程を行う。炭化工程は、上記の炭化処理の通りである。次に、ホウ素ドープ工程で得られたホウ素含有炭素質材料と、濃硫酸、発煙硫酸、及び三酸化硫黄からなる群から選択された少なくとも1種とを混合するスルホン酸基導入工程を行う。当該スルホン酸基導入工程についても、上記のスルホン化処理の通りである。
【0040】
本発明の炭素系固体酸として、炭素質材料が多孔体に担持された複合体を製造する場合、ホウ素ドープ工程の後、ホウ素含有炭素質材料前駆体を、多孔体に担持させる工程を行う。ホウ素含有炭素質材料前駆体を多孔体に担持させる方法は、上記の通りである。
【0041】
本発明の製造方法によって製造される炭素系固体酸は、上記第1の態様のように、ホウ素を含む場合と、上記第2の態様のようにホウ素を含まない場合とがある。本発明の炭素系固体酸においては、ホウ素ドープ工程、炭化工程によって得られるホウ素含有炭素質材料に対して、スルホン酸基を導入して製造されることにより、第1の態様及び第2の態様のいずれにおいても、優れた触媒活性を有し、かつ、繰り返し使用しても触媒活性が劣化し難い炭素系固体酸となる。
【実施例】
【0042】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0043】
<実施例1>
グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液を得た。得られた水溶液をオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供した。次に、オートクレーブ容器から取り出した水溶液を120℃に設定したホットプレート上で加熱し、固い水飴状にした。さらに、管状炉を用いてアルゴン気流中400℃で2時間加熱処理(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)し、グラフェン構造を形成させた固体を得た。次に、得られた固体を約100℃の熱水で2回洗い、めのう乳鉢で粉砕して粉体を得た。次に、得られた粉体を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流し、粉体にスルホン酸基を導入した。次に、粉体を取り出して、純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸した。次に、粉体を取り出して50℃で1時間乾燥させ、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸を30mlの水に沈め、濃度0.1NのNaOH水溶液と0.01NのHCl水溶液を用いた逆滴定法により、炭素系固体酸の酸量を測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は4.2mmol/gであった。なお、実施例1と同様にして作製した炭素系固体酸について、マイクロ波酸分解法による前処理の後、ICP発光分光分析法によって、ホウ素元素の含有量を測定したところ、0.004質量%であった。
【0044】
<実施例2>
実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。次に、実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.3mmol/gであり、再現性は良好であった。
【0045】
<実施例3>
オートクレーブの設定温度を140℃としたこと以外は、実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.2mmol/gであった。
【0046】
<実施例4>
粉砕して得られた粉体に対して、三酸化硫黄を用いて以下のようにしてスルホン酸基を導入したこと以外は、実施例1と同様にして、炭素系固体酸を得た。丸底フラスコに30%発煙硫酸を23ml入れ、フラスコの口の一つからフラスコ内部に開口しているガラス治具を差し込んだ。ガラス治具内には、上記の粉体(0.25g)が配置されている。次に、丸底フラスコを150℃に設定したマントルヒーターで1時間加熱した(発煙硫酸の加熱により、三酸化硫黄ガスが発生している)。ガラス治具内の粉体を取り出し、実施例1と同様にして、洗浄、煮沸し、乾燥させて、炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は4.2mmol/gであった。
【0047】
<比較例1>
ホウ酸を加えなかったこと以外は、実施例1と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.4mmol/gであった。
【0048】
[酢酸とエタノールとのエステル化反応]
実施例1と比較例1で得られた炭素系固体酸をそれぞれ用いて、次のようにして酢酸とエタノールとのエステル化反応を行った。酢酸0.1molとエタノール1.0molを100mLの丸底フラスコに入れて混合した。ここに、それぞれ実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸触媒を約50mg加え、温度80℃で2時間攪拌して、エステル化反応させた。エステル化収率はガスクロマトグラフィーにより求めた。実施例1〜4及び比較例1について、それぞれ、同様のエステル化反応を2回行った。エステル化収率、及びエステル化収率の保持率([2回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の結果を表1に示す。
【0049】
[セロビオース加水分解反応速度の測定]
実施例1〜4と比較例1で得られた炭素系固体酸をそれぞれ触媒として用いて、セロビオース加水分解反応速度(μmol/h/g)を次のようにして測定した。ねじ口試験管(マルエムNR−10)に水(3ml)と、実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸(それぞれ、表1の[ ]内に示した重量)と、セロビオース(15mg)と、撹拌子を加え、キャップを閉めて密閉した。100℃に保った恒温槽の中に設置した耐熱マグネチックスターラーにより、試験管の加熱撹拌を行い反応させた。45分経過後に恒温槽から出して反応液の一部(0.3mL)をサンプリングした後、恒温槽に戻して更に45分反応させ、1回目の反応終了とした。45分、90分にサンプリングした反応液中のグルコース量をMerck社製RQフレックス装置と同装置用のグルコース試験紙(16720−1M)を用いて定量した。グラフの横軸に反応時間(45分(すなわち0.75時間)及び90分(すなわち1.5時間))、縦軸に各々のグルコース生成量(μmol)をプロットし、原点を通る最小二乗法により傾きを求めた。この値を触媒量で除することによりグルコース生成速度(μmol/h/g)を求めた。反応後の炭素系固体酸はろ過して回収し、イオン交換蒸留水中で3回すすいで洗浄した後、室温で乾燥して2回目の反応に用いた。以下、同様に反応を繰り返し、実施例1〜4及び比較例1で得られた炭素系固体酸を用いたセロビオース加水分解反応速度の測定をそれぞれ3回ずつ行った。セロビオース加水分解反応速度、及びセロビオース加水分解反応速度の保持率([3回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の測定結果を表1に示す。
【0050】
【表1】
【0051】
表1に示されるように、グルコースにホウ素をドープした実施例1〜4の炭素系固体酸では、スルホン酸基の量が多くなることが明らかとなった。また、実施例1の炭素系固体酸では、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度が高く、触媒活性が高いことも明らかとなった。さらに、実施例1の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。同様に、グルコースにホウ素をドープした実施例2〜4の炭素系固体酸においても、セロビオース加水分解速度が高く、触媒活性が高いことも明らかとなった。さらに、実施例2〜4の炭素系固体酸は、セロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、グルコースにホウ素をドープしなかった比較例1の炭素系固体酸では、実施例1〜4の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例1の炭素系固体酸では、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0052】
<実施例5>
グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液を得た。得られた水溶液をオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃設定の乾燥機で12時間加熱に供した。次に、グルコース及びホウ素の濃度が2倍になるように、ホットプレートを用いて、水溶液から約半分の水を除去した。次に、濃縮した水溶液に、1×3cmに切り出したフェルト状の繊維状活性炭(東洋紡株式会社製の商品名「Kフィルター KF−1000F」)を浸漬し、取り出して乾燥させた。次に、乾燥させた繊維状活性炭を、管状炉を用いてアルゴン気流中400℃で2時間加熱処理(1時間かけて昇温した後、400℃で2時間保持)した後、約100℃の熱水で2回洗った。なお、繊維状活性炭は、濃縮した水溶液に浸漬する前に、空気中120℃で1時間加熱して乾燥させた後、室温で30秒冷ましてから浸漬した。次に、この繊維状活性炭を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流し、繊維状活性炭にスルホン酸基を導入した。次に、繊維状活性炭を取り出して、純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸した。次に、繊維状活性炭を取り出して50℃で1時間乾燥させ、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量は、実施例1と同様にして測定した。その結果、炭素系固体酸の酸量は2.0mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】
【0054】
表2に示されるように、ホウ素をドープしたグルコースをさらに繊維状活性炭に担持させた実施例5の炭素系固体酸においても、スルホン酸基の量は多かった。また、実施例5の炭素系固体酸においては、エステル化収率が高く、高い触媒活性を有することが明らかとなった。さらに、実施例5の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。
【0055】
<実施例6>
グルコース及びホウ素の濃度を2倍にする代わりに、濃度が1/3になるように、水を加えたこと以外は、実施例5と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は1.2mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表3に示す。
【0056】
【表3】
【0057】
表3に示されるように、グルコース及びホウ素の濃度を1/3に希釈して繊維状活性炭を浸漬した実施例6の炭素系固体酸においては、スルホン酸基の量は少なくなり、エステル化収率も濃度に応じて相対的に低くなったが、エステル化収率の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0058】
<実施例7>
グルコース及びホウ素の濃度を2倍にせずにそのままの濃度で用いたこと、及び繊維状活性炭をアルゴン気流中400℃で加熱処理する代わりに空気中400℃で加熱処理したこと以外は、実施例5と同様にして炭素系固体酸を得た。実施例1と同様にして炭素系固体酸の酸量を測定したところ、酸量は2.1mmol/gであった。また、実施例1と同様にして、エステル化反応の収率及び保持率を測定した。結果を表4に示す。
【0059】
【表4】
【0060】
表4に示されるように、繊維状活性炭を空気中で加熱処理した実施例7の炭素系固体酸においては、エステル化収率が高かった。また、実施例7の炭素系固体酸では、エステル化収率の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0061】
<実施例8>
15 mgの球状カーボンナノホーン(CNH、環境・エネルギーナノ技術研究所製の品名:球状−パウダー)を、100mlの水に分散させて超音波処理15分を2回施し、1μmのメンブレンフィルターで濾過した。次に、グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)を、この濾過液に溶かして約35mlにした。これをオートクレーブ容器に入れ、120℃設定の乾燥器で12時間加熱した後、120℃設定のホットプレートで加熱し固い水飴状にした。さらにアルゴン気流中で400℃処理(1時間かけて昇温、保持時間2時間。)し、得られた試料を約100℃の熱水で、2回洗った。次に、試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に、試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させて炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表5に示す。
【0062】
<比較例2>
ホウ酸(1.00g)を添加しなかったこと以外は、実施例8と同様にして、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表5に示す。
【0063】
【表5】
【0064】
表5の実施例8に示されるように、球状のカーボンナノホーンを担体として用いた場合、酸量が多く、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例2では、実施例8の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例2の炭素系固体酸では、セロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0065】
<実施例9>
球状カーボンナノホーンの代わりに、ダリア状カーボンナノホーン(CNH、環境・エネルギーナノ技術研究所製の品名:ダリア状−パウダー)を用いたこと以外は、実施例8と同様にして、炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表6に示す。
【0066】
<比較例3>
ホウ酸(1.00g)を添加しなかったこと以外は、実施例9と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表6に示す。
【0067】
【表6】
【0068】
表6の実施例9に示されるように、ダリア状カーボンナノホーンを担体として用いた場合にも、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例3では、実施例9の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なかった。また、比較例3の炭素系固体酸では、セロビオース加水分解速度も小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0069】
<実施例10>
フェノール樹脂(DIC株式会社の品番:GA1364)(2.00g)とホウ酸アンモニウム(2.00g)とを混ぜ合わせた後オートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供した。次に、オートクレーブ容器から取り出した試料を磁製ボートに移し、120℃設定の環状炉へ入れ、空気中で1時間加熱した。さらに400℃に加熱しておいた環状炉で空気中1時間加熱した後、めのう乳鉢で粉砕して粉体を得、それを約100℃の熱水で2回洗った。この試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させ炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表7に示す。
【0070】
<比較例4>
ホウ酸アンモニウムを添加しなかったこと、及びオートクレーブ処理を施さなかったこと以外は、実施例10と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、エステル化反応及びセロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表7に示す。
【0071】
【表7】
【0072】
表7の実施例10に示されるように、炭素質材料前駆体としてフェノール樹脂を用いた場合にも、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解速度の保持率も高く、酸触媒として繰り返し使用できることも明らかとなった。一方、ホウ素を添加せず、オートクレーブ処理を行わなかった比較例4では、実施例10の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量は多かったものの、エステル化収率及びセロビオース加水分解速度が小さくなり、エステル化収率の保持率及びセロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0073】
<実施例11>
あらかじめ、グルコース(1.40g)とホウ酸(1.00g)とを、水に溶かして約35mlの水溶液とし、これをオートクレーブ容器(50ml)に入れ、120℃に設定した乾燥機で12時間の加熱に供したオートクレーブ処理液を準備した。一方、ニッケルるつぼにKフィルター90.4mgとペレット状のKOH(424mg)を入れ、アルゴン気流中700℃2時間処理し、取り出し後、純水で充分に洗浄した。この処理でKフィルターは43.7mgに重量減少した。このKフィルターを空気中120℃で1時間加熱した後、室温まで完全に冷却されるまでに、前記のオートクレーブ処理液に漬けた。次に、取り出して乾燥した試料を、アルゴン気流中で400℃処理(1時間かけて昇温、保持時間2時間)し、さらに約100℃の熱水で、2回洗った。これを丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流しスルホン酸基を導入した。次に試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥させ炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0074】
<実施例12>
実施例11において、Kフィルター(94.0mg)のKOH処理において、KOH514mgを用いて、重量が34.2mgに減少したKフィルターを用い、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0075】
<比較例5>
実施例11において、Kフィルター(99.2mg)のKOH処理において、ペレット状のKOH(486mg)を用いて、重量が53.0mgに減少したKフィルターを用いたこと、Kフィルターをオートクレーブ処理液に漬けなかったこと以外は、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0076】
<比較例6>
実施例11において、Kフィルター(75.0mg)のKOH処理において、ペレット状のKOH(498mg)を用いて、重量が29.1mgに減少したKフィルターを用いたこと、Kフィルターをオートクレーブ処理液に漬けなかったこと以外は、実施例11と同様にして炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。また、実施例1と同様にして、セロビオース加水分解反応の収率及び保持率を測定した。結果を表8に示す。
【0077】
【表8】
【0078】
表8の実施例11,12に示されるように、Kフィルターを水酸化カリウム水溶液で賦活してから用いた場合、セロビオース加水分解速度の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。一方、ホウ素を添加しなかった比較例5,6では、実施例11,12の炭素系固体酸に比して、スルホン酸基量が少なく、また、比較例6では、セロビオース加水分解速度が小さくなり、セロビオース加水分解反応速度の保持率も低かった。
【0079】
<実施例13>
実施例2で得られた炭素系固体酸を用い、反応条件を100℃の代わりに150℃としたこと以外は、実施例2と同様にして、セロビオース加水分解反応を行った。なお、温度を高めるために、反応容器はマルエム製のねじ口試験管に代えて耐圧試験管(AceGlass製)を用いた。また、耐熱マグネチックスターラー使用の上限温度が110℃であるために、実施例13では撹拌を行わなかった。なお、セロビオースは完全に水に溶解するため、撹拌の有無によって、反応速度に大きな差が生じないことは、別途、100℃の反応において確認した。反応は4回繰り返して行い、セロビオース加水分解反応速度の保持率は[4回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)とした。測定結果を表9に示す。
【0080】
【表9】
【0081】
表9の実施例13に示されるように、セロビオースの反応温度を150℃に高めることにより反応速度は非常に大きくなった。また、加水分解速度の保持率が高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
【0082】
<比較例7>
市販の酸触媒であるAmberlyst−15(MP Biomedical社)を用いて、セロビオース加水分解反応を行った。市販の試薬は水分を多く含むため、40℃の乾燥器中で7時間乾燥してから反応に用いた。反応温度を70℃、80℃、90℃、100℃とし、反応を繰り返さずに各反応温度で新しい触媒を用いたこと以外は、上記の[セロビオース加水分解反応速度の測定]と同様にしてセロビオース加水分解反応を行った。比較例7の結果と、実施例2で得られた炭素系固体酸を用いて100℃(表1)、150℃(表9)で1回目の反応を行った結果を、反応温度(T/℃)に対する反応速度(R/μmol h-1-1)のプロットとして、図1に示す。
【0083】
図1に示されるように、比較例7のAmberlyst−15触媒は、耐熱性に乏しく、100℃を超える温度では使用できない。これに対して実施例2の触媒では、100℃を超える温度でも使用でき、150℃で大きく速度が増加した。図1の反応温度Tを絶対温度の逆数に換算して横軸とし、反応速度Rの自然対数を縦軸にとったアレニウスプロットを図2に示す。
【0084】
図2において、比較例7の触媒では、4点のプロットが直線上に乗っており反応速度の測定が良好に行われていることを示している。実施例2の触媒は、比較例7と同じ温度(100℃)で比較すると明らかに速度が大きいことが分かる。さらに、実施例2の触媒では、150℃まで温度を上げても、比較例7の触媒とほぼ同じ傾きで速度が増加しており、熱による触媒の劣化がみられないことが分かる。
【0085】
<実施例14>
セルロース100%の不織布(旭化成株式会社製のBEMCOT、品番:M−3II)を直径3cmの円形に切り(7cm2、約20mg)、それを50枚積層し(約1g)、オートクレーブ容器に入れた。さらに、ホウ酸(1.00g)のみを水に溶かして約35mlにした液も入れて、不織布が完全に浸るようにし、120℃で12時間オートクレーブ処理した。取り出した試料を空気中で400℃処理(あらかじめ400℃に保持した炉へ入れ、1時間保持)したところ、約1gのBEMCOTから約0.46gの試料が得られた。この試料を丸底フラスコ内の30%発煙硫酸(25ml)中に沈め、このフラスコを150℃の温度に設定したマントルヒーターにセットし、1時間還流してスルホン酸基を導入した。次に、試料を取り出して純水で何度もすすいだ後、80〜100℃の水中で1時間煮沸し、さらに50℃で1時間乾燥して炭素系固体酸を得た。得られた炭素系固体酸の酸量を、実施例1と同様にして測定した。次に、実施例14で得られた炭素系固体酸を用い、以下の手順により、セルロースの分解反応速度を測定した。
【0086】
[セルロース加水分解反応速度の測定]
セルロースは、グルコースがβ-グリコシド結合により連なった天然高分子であり、全てのグリコシド結合を加水分解で切断すればグルコースが生成する。しかしながら、実際には、セルロースが結晶性の固体であるためにセロビオースと比べてグルコースへの分解は非常に困難である。そこで、反応温度を150℃とし、水に不溶であるセルロースのβ-グリコシド結合が加水分解により部分的に切断されることにより生成する、水溶性のオリゴ糖の総量を求めることにより、本発明の炭素系固体酸の固体酸触媒性能を評価した。
【0087】
具体的には実施例14で得られた炭素系固体酸を触媒として用いて、セルロース加水分解反応速度(μmol/h/g)を次のようにして測定した。耐圧反応容器(ユニシール分解るつぼ)のテフロン製内容器に水(3ml)と、実施例14で得られた炭素系固体酸(表10の[ ]内に示した重量)と、セルロース粉末(Merck社製、微結晶セルロース 102331)15mgと、撹拌子を加え、テフロン蓋およびステンレス製ジャケットにより密閉した。マントルヒーターの中に反応容器を設置し、隙間を熱媒体アルミ合金ビーズ(ラボアームビーズ、ラボアーム社製)で埋め、更に上部を石英ウールで覆って反応器全体を加熱できるようにした。マントルヒーターの下に設置したマグネチックスターラー(東京理化器械株式会社製、CCX−CTRL2)で反応容器中の撹拌子を回転させて撹拌し、反応容器の内温が150℃となるよう温度調節装置(シマデン製、DSP20)で制御しつつマントルヒーターを加熱し反応させた。2時間経過後に加熱を終了し、1回目の反応終了とした。反応容器の内容物を遠心分離機にかけて触媒と未反応のセルロース粉末を沈降させ、上澄みの反応液中の可溶性糖の総量を高感度フェノール硫酸法(竹内ら、帯広畜産大学学術研究報告 自然科学、 22 (2001)103-107)により定量した。液中の可溶性糖の総量(グルコース換算)、使用した触媒量、及び反応時間から可溶性糖の生成速度(μmol/h/g)を求めた。
【0088】
上澄みの反応液を採取した残りの沈降層から触媒を回収するために水3mLを加えた後にろ過し、回収した炭素系固体酸(未反応のセルロース粉末を含む)は、5mLのイオン交換蒸留水ですすいで洗浄し、室温で乾燥した後に新たにセルロース粉末15mgを加えて2回目の反応に用いた。以下、同様に反応を繰り返し、セルロース加水分解反応速度の測定を3回行った。セルロース加水分解反応速度、及びセルロース加水分解反応速度の保持率([3回目の収率]/[1回目の収率]×100(%)で定義)の測定結果を表10に示す。
【0089】
【表10】
【0090】
表10の実施例14に示されるように、触媒の前駆体としてセルロースを用いた場合、スルホン酸基量が多い固体酸が得られた。不織布状のセルロースを前駆体としているため、この固体酸は、反応を行う前には不織布状の形状を持っている。反応物であるセルロースも粉末状であり、反応が進行するためには固体の触媒と固体の反応物の「固体−固体」の接触が必要なため、一般に反応は困難である。しかしながら、実施例14で得られた炭素系固体酸を触媒として用い、反応温度を150℃と高温にすることにより、表10に示されるように、セルロースの分解反応を好適に進行させることができた。
【0091】
不織布状の触媒は、セルロース粉末と共に撹拌子で激しく撹拌しながら反応したために、反応を繰り返すと粉末化していった。このため、ろ別による完全な回収は難しく、2、3回目の反応では触媒量が1回目よりも減少した。また、未反応のまま残ったセルロースも粉末であり、触媒粉末との分離はできなかった。3回の反応を終わって回収した触媒は、セルロースを含むため、元の触媒の黒色と比べて明らかに白い色調となっていた。このため表10の[ ]内に記した2回目、3回目の触媒量は、未反応セルロース粉末の重量も含んでおり、正味の触媒量はこれよりも少ない。また、2回目、3回目の反応では、新たにセルロース粉末を加えているため、実質の反応物(セルロース)量は1回目の反応に比べて多くなっている。このように、2、3回目の反応では1回目よりも触媒量が少なく反応物量が多いという、負荷の大きな条件となっているにも関わらず、反応速度は1回目と2回目でほぼ変わらず、3回目では大幅に増加している(反応速度計算の際の触媒量としては[ ]内の触媒重量を使用)。
以上のように本発明の炭素系固体酸を触媒として用い、セルロースの加水分解反応を繰り返し行った結果は、加水分解速度の保持率が非常に高く、酸触媒として繰り返し使用できることが明らかとなった。
図1
図2