特許第6362174号(P6362174)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6362174
(24)【登録日】2018年7月6日
(45)【発行日】2018年7月25日
(54)【発明の名称】酸化グラフェン還元体導電性の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 22/00 20060101AFI20180712BHJP
   B82Y 35/00 20110101ALI20180712BHJP
   B82Y 30/00 20110101ALI20180712BHJP
   H01G 9/20 20060101ALN20180712BHJP
【FI】
   G01N22/00 Y
   B82Y35/00
   B82Y30/00
   G01N22/00 J
   G01N22/00 S
   G01N22/00 U
   !H01G9/20 313
【請求項の数】4
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2015-164460(P2015-164460)
(22)【出願日】2015年8月24日
(65)【公開番号】特開2017-44475(P2017-44475A)
(43)【公開日】2017年3月2日
【審査請求日】2017年6月7日
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(72)【発明者】
【氏名】古川 一暁
(72)【発明者】
【氏名】上野 祐子
(72)【発明者】
【氏名】関 修平
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 庸明
(72)【発明者】
【氏名】佐伯 昭紀
(72)【発明者】
【氏名】酒巻 大輔
【審査官】 立澤 正樹
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2013/024602(WO,A1)
【文献】 特開2011−204982(JP,A)
【文献】 国際公開第2015/001534(WO,A1)
【文献】 特開2015−134706(JP,A)
【文献】 特開2015−020920(JP,A)
【文献】 特開2013−151398(JP,A)
【文献】 LUO Zhengtang et al,High Yield Preparation of Macroscopic Graphen Oxide Membranes,Journal of the American Chemical Society,米国,2009年 1月18日,vol.131,no.3,page 898-899
【文献】 多層酸化グラフェン還元体の電気特性評価,第63回応用物理学会春季学術講演会 講演予稿集,2016年,14-165
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 22/00
B82Y 30/00
B82Y 35/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板の上に第1電極を形成する第1工程と、
前記第1電極の上に絶縁層を形成する第2工程と、
前記絶縁層の上に前記第1電極とは絶縁分離した状態で酸化グラフェンを配置する第3工程と、
酸化グラフェンを還元する雰囲気に晒すことで、前記絶縁層の上に配置した前記酸化グラフェンを還元して還元体とする第4工程と、
前記絶縁層の上で前記還元体に接続する第2電極を形成する第5工程と、
前記第1電極と前記第2電極とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により前記還元体の導電性を評価する第6工程と
を備え、
前記絶縁層は、前記酸化グラフェンを還元する雰囲気に耐性を有する
ことを特徴とする酸化グラフェン還元体導電性の評価方法。
【請求項2】
請求項1記載の酸化グラフェン還元体導電性の評価方法において、
前記第4工程では、ヒドラジンに晒すことで前記絶縁層の上に配置した前記酸化グラフェンを還元して還元体とし、
前記絶縁層は、非晶質のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラールの少なくとも1つから構成する
ことを特徴とする酸化グラフェン還元体導電性の評価方法。
【請求項3】
基板の上に第1電極を形成する第1工程と、
前記第1電極の上に絶縁層を形成する第2工程と、
金属箔の上に酸化グラフェンを配置する第3工程と、
前記金属箔の上に配置した前記酸化グラフェンを還元して還元体とする第4工程と、
前記還元体が配置された前記金属箔の上に、前記還元体を覆う状態で有機材料の薄膜を形成する第5工程と、
前記還元体を覆う前記薄膜を形成した前記金属箔を前記金属を溶解するエッチング溶液中に浸漬して前記金属箔を溶解することで前記還元体が固定された前記薄膜を形成する第6工程と、
前記還元体が固定された前記薄膜を前記絶縁層の上に配置する第7工程と、
前記絶縁層の上に配置された前記薄膜を有機溶剤に溶解させて前記絶縁層の上に前記還元体が配置された状態とする第8工程と、
前記絶縁層の上で前記還元体に接続する第2電極を形成する第9工程と、
前記第1電極と前記第2電極とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により前記還元体の導電性を評価する第10工程と
を備えることを特徴とする酸化グラフェン還元体導電性の評価方法。
【請求項4】
請求項3記載の酸化グラフェン還元体導電性の評価方法において、
前記第4工程では、ヒドラジンに晒すことで前記金属箔の上に配置した前記酸化グラフェンを還元して還元体とする
ことを特徴とする酸化グラフェン還元体導電性の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化グラフェン還元体の導電性を評価する酸化グラフェン還元体導電性の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
グラフェンは、炭素のsp2結合で構成され、2次元平面状構造を有している。ノボセロフ(Novoselov)らによる2004年のグラフェンの単離の報告以降、グラフェンは実用化研究において注目を集めている(非特許文献1参照)。グラフェンは、2次元構造に由来する特異な電子構造に基づいて、高い電荷キャリア移動度を有する。また、グラフェンは、シリコン用のプロセスと共用できるメリットもある。これらのことから、グラフェンは、ポストシリコンを視野に入れた次世代材料として期待されている。
【0003】
このように優れた電導特性を有するグラフェンであるが、グラフェンの作製は必ずしも容易ではない。ノボセロフらが報告した方法は、グラファイトを剥離して転写する極めて単純な方法であり、優れた品質のグラフェンを与える(非特許文献2参照)。しかしながら、この作製方法は、転写の制御性を著しく欠き、得られるグラフェンのサイズも極めて限定的で、デバイス作製に必要な歩留まりはまったく期待できない。
【0004】
実用化においては、ウエハスケールの大面積で均一なグラフェンの作製が求められる。これを実現するいくつかの手法が知られている。代表的なものは化学気相成長法(CVD法)である。この方法によれば、例えば、銅箔の表面に1層のグラフェンを大面積に成長することが可能である(非特許文献3,非特許文献4参照)。
【0005】
しかし銅箔は金属であるから、グラフェンのデバイス応用のためには、銅箔からグラフェンを剥離し、絶縁体基板上に転写するプロセスが必要である。このためには、複数の工程が必要であり、グラフェンを得るための製造上の律速となっている。
【0006】
別のグラフェン製造方法として、シリコンカーバイド(SiC)を熱分解する方法がある(非特許文献5,非特許文献6参照)。SiC基板を高温で加熱することによりSiが昇華し、基板表面にグラフェン薄膜が形成される。この方法の産業応用上の主な短所は、真空中や不活性ガス雰囲気中で1000℃あるいはそれ以上の高温に加熱できる高温炉が必要であることがある。また、大面積のSiC基板が製造されておらず、加えてSiC基板は単位面積あたりの価格も比較的高価であることからコストが高くなることも問題となる。
【0007】
さらに近年は、分子線エピタキシ法によるグラフェンの形成も報告されている(非特許文献7参照)。しかしながら、MBE法は現在は研究段階で、生産性は期待できない。
【0008】
先のノボセロフらによるグラフェンの報告以降、グラフェンに構造が類似している酸化グラフェンもまた、注目を集めるようになった。酸化グラフェンは、グラフェンsp2結合の多くが酸素と反応し、酸化された骨格構造をもつ。酸化グラフェンは、化学合成で作製できるため、安価に大量合成が可能である。さらに酸化グラフェンは水によく分散するため、ウエットプロセスが適用可能である。この特徴は例えば薄膜作製などのプロセスに優位である。
【0009】
酸化グラフェンが絶縁体であることは、グラフェンとの大きな差異である。しかしながら、酸化グラフェンは、熱処理や化学反応による還元によって導電性を回復できる。酸化グラフェンを還元することで得られる酸化グラフェン還元体は、新たな電子材料として期待されている。先に述べたようにウエットプロセスが適用可能であることから、例えば固体基板上にスピンコート法やキャスト法を用いて酸化グラフェンの薄膜を形成し、これを還元すれば導電性の酸化グラフェン還元体の膜を形成することができる。分散液の濃度や薄膜形成条件を変えることにより、得られる還元体膜を透明導電膜とすることが可能である。この他、酸化グラフェン還元体を用いた電極を、太陽電池やスーパーキャパシターやバイオセンシングに用いる例が報告されている。
【0010】
上述のように、酸化グラフェン還元体の還元条件は制御可能であり、還元条件によって導電性を制御できることが期待される。これが実現し、所望の導電性を有する酸化グラフェン還元体を自在に得ることができれば、同材料の電子材料応用の可能性は大きく広がる。
【0011】
このように、酸化グラフェン還元体の需要は大きいにもかかわらず、酸化グラフェン還元体の導電性を迅速に評価する方法は確立しているとはいえない。これは原料となる酸化グラフェンの構造が不定であることが原因の1つとなっている。酸化グラフェンの大きさには分布があり、酸化の形態もCOOH,C−O−C,C−OHなどいくつかの種類があり、これらの分布も一定ではない。酸化グラフェンには、グラフェンの構造を維持したドメインも含まれるが、ドメインの大きさや数にも分布があり、一定ではない。現実問題として、同一サイズで同一の酸化構造を有する酸化グラフェンの化学合成は不可能である。このため、還元条件を統一しても、得られた酸化グラフェン還元体の導電性が同一にはならないという課題があった。
【0012】
これを回避する1つの方法として、個々の原料に対して、還元条件に依存する導電性の変化を決定し、所望の導電性をもつ酸化グラフェン還元体を得る方法がある。このためには、酸化グラフェン試料を作製し、異なる還元条件で処理し、得られた酸化グラフェン還元体の導電性を評価することが重要となる。
【0013】
酸化グラフェン還元体のような、2次元シート状物質の導電性評価には、電界効果トランジスタ構造を用いる方法や、ホール効果を測定する方法がある。これらの方法により酸化グラフェン還元体の導電性を評価するためには、相応のデバイスを作製して導電性を計測する必要がある。しかしながら、デバイスを用いた測定には、酸化グラフェン還元体の導電性の他に、酸化グラフェン還元体間のホッピングや酸化グラフェン還元体への電極からの電荷注入などの過程が含まれる。導電性評価において、これらの影響は小さくなく、また個々のデバイスごとにばらつきがあるため、酸化グラフェン還元体の本質的な導電性の決定を困難にしている。
【0014】
また、既存の酸化グラフェン還元体の導電性評価方法は、微弱な電流量から測定自体が難しく、また得られたデータは電極からの注入過程の影響を強く受けるために酸化グラフェン還元体の導電性を正確に反映しないという欠点があった。
【0015】
上記の方法とは別に、材料のマイクロ波の誘電損失の時間変化から導電性を評価する方法がある(非特許文献8参照)。この評価方法は、時間分解マイクロ波電導度測定法と呼ばれている。この方法は、前述した酸化グラフェン還元体に流れる電流を直接測定する方法とは異なり、空洞共振器内でのマイクロ波吸収が測定対象であるため、酸化グラフェン還元体の微弱な導電性の変化をとらえることが可能である。また酸化グラフェン還元体に電荷キャリアが注入される前後の状態を比較することで、電極による電荷注入過程の影響を排除できるという長所を持つ。さらに、電荷注入電極を必要としないため、接触抵抗などの影響を排除した、材料本来の持つ最高性能を評価することができる。
【0016】
時間分解マイクロ波電導度測定法は、従来はバルク試料に対して用いられる手法であったが、最近これを薄膜試料に対して適応する方法が開発された(非特許文献8参照)。この測定法は、有機半導体蒸着膜や有機半導体スピンコート膜などの薄膜に適用できることが示されている。またこの測定法は、有機半導体膜以外に、材料そのものが2次元構造をもつ物質にも適用できる。
【0017】
この測定法では、次に示すように試料を作製する。まず、図5の(a)に示すように、石英などの絶縁体から構成された基板301の上に第1電極302を形成する。第1電極302は、Tiから構成した厚さ5nmの下層と、Auから構成した厚さ30nmの上層とから構成すれば良い。例えば、よく知られた真空蒸着法により、ステンシルマスクを用いて上述した層構成の第1電極302を形成すれば良い。
【0018】
次に、図5の(b)に示すように、第1電極302を覆う状態に、酸化シリコンからなる厚さ880nm程度の絶縁層303を基板301の上に形成する。例えば、RFスパッタ法により酸化シリコンを堆積することで、絶縁層303を形成すればよい。
【0019】
次に、図5の(c)に示すように、絶縁層303の上にポリメチルメタクリレートから構成された樹脂絶縁層304を形成する。例えば、ポリメチルメタクリレートの3%トルエン溶液を作製し、この溶液を所定箇所に塗布し、窒素ガス中で100℃に加熱することで、樹脂絶縁層304が形成できる。樹脂絶縁層304は、第1電極302の形成領域を覆う状態に形成する。
【0020】
次に、図5の(d)に示すように、樹脂絶縁層304の上に、測定対象の試料薄膜305を形成する。例えば、比較的低分子の有機半導体からなる試料薄膜305は、真空蒸着法により形成できる。また、高分子の有機半導体からなる試料薄膜305は、材料の溶液を塗布することで形成できる。
【0021】
次に、図5の(e)に示すように、試料薄膜305の上に第2電極306を形成する。第2電極306は、Auから構成して厚さ30nm程度とすれば良い。例えば、第1電極302の形成と同様に、真空蒸着法などで第2電極306を形成すれば良い。
【0022】
時間分解マイクロ波電導度測定法では、上述したように作製した試料を図6に示す測定装置を用い、試料の導電性を計測する(非特許文献8参照)。図6に示す測定装置の空洞共振器(Resonance Cavity)の内部に試料を配置した基板(device)を載置し、試料のマイクロ波の誘電損失を測定することで試料の導電性を評価する。この測定方法では試料に流れる電流を測定するのではなく、空洞共振器内でのマイクロ波吸収を測定するために、試料における微弱な導電性の変化もとらえることが可能である。
【0023】
マイクロ波空洞共振器内における材料(試料)のマイクロ波吸収は、材料が持つ電気伝導率に比例することが知られている(非特許文献9参照)。上記測定方法および測定装置では、この現象を利用して材料に電荷キャリアを注入した時のマイクロ波吸収の変化から材料の電荷キャリア移動度を測定する。
【0024】
この測定法の対象は、酸化グラフェン・酸化グラフェン還元体・グラフェン・窒化ホウ素・二硫化モリブデニウム・二セレン化モリブデニウムなどを含み、あるいはこれらの材料からなる2次元層状・複合体物質を含む。この測定は現在、これらの物質が半導体層として形成される素子の界面伝導特性を、非接触・非破壊で、酸化グラフェンの還元状態との相関を迅速にその場で定量分析することができる唯一の方法となっている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0025】
【非特許文献1】K. S. Novoselov et al., "Electric Field Effect in Atomically Thin Carbon Films", SCIENCE, vol.306, pp.666-669, 2004.
【非特許文献2】A. K. Geim, K. S. Novoselov, "The rise of graphene", Nature Materials, vol.6, pp.183-191, 2007.
【非特許文献3】A. Reina et al., "Large Area, Few-Layer Graphene Films on Arbitrary Substrates by Chemical Vapor Deposition", Nano Letters, vol.9, no.1, pp.30-35, 2009.
【非特許文献4】X. Li et al., "Large-Area Synthesis of High-Quality and Uniform Graphene Films on Copper Foils", SCIENCE, vol.324, pp.1312-1314, 2009.
【非特許文献5】A. J. van Bommel et al., "LEED AND AUGER ELECTRON OBSERVATIONS OF THE SiC(0001) SURFACE", Surface Science, vol.48, pp.463-472, 1975.
【非特許文献6】H. Hibino, H. Kageshima, M. Nagase, "Epitaxial few-layer graphene: towards single crystal growth", Journal of Physics D: Applied Physics, vol.43, 374005, 2010.
【非特許文献7】F. Maeda and H. Hibino, "Thin Graphitic Structure Formationon Various Substrates by Gas-Source Molecular Beam Epitaxy Using Cracked Ethanol", Japanese Journal of Applied Physics, vol.49, 04DH13, 2010.
【非特許文献8】Y. Honsho et al., "Evaluation of Intrinsic Charge Carrier Transport at Insulator-Semiconductor Interfaces Probed by a Non-Contact Microwaved Based Technique", Scientific Reports, vol.3, 3182, 2013.
【非特許文献9】John C. Slater, "Microwave Electronics", Review of Modern Physics, vol.18, 441, 1946.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0026】
上述したように、時間分解マイクロ波電導度測定法は、2次元系物質の導電性を評価するのに有効な技術である。しかしながら、酸化グラフェン還元体の還元条件と導電性との相関を決定するためには、次に挙げる課題があった。酸化グラフェンを還元するためには、ヒドラジンなどの強い還元剤、あるいは水素ガス雰囲気化での高温加熱処理が必要であり、これらのプロセスに耐える測定系は、時間分解マイクロ波電導度測定法にはこれまで備えられていなかった。
【0027】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、時間分解マイクロ波電導度測定法により、強い還元性の雰囲気で還元した酸化グラフェン還元体導電性の評価ができるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0028】
本発明に係る酸化グラフェン還元体導電性の評価方法は、基板の上に第1電極を形成する第1工程と、第1電極の上に絶縁層を形成する第2工程と、絶縁層の上に第1電極とは絶縁分離した状態で酸化グラフェンを配置する第3工程と、酸化グラフェンを還元する雰囲気に晒すことで、絶縁層の上に配置した酸化グラフェンを還元して還元体とする第4工程と、絶縁層の上で還元体に接続する第2電極を形成する第5工程と、第1電極と第2電極とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により還元体の導電性を評価する第6工程とを備え、絶縁層は、酸化グラフェンを還元する雰囲気に耐性を有するものとする。
【0029】
上記酸化グラフェン還元体導電性の評価方法において、第4工程では、ヒドラジンに晒すことで絶縁層の上に配置した酸化グラフェンを還元して還元体とし、絶縁層は、非晶質のフッ素樹脂、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルブチラールの少なくとも1つから構成する。
【0030】
また、本発明に係る酸化グラフェン還元体導電性の評価方法は、基板の上に第1電極を形成する第1工程と、第1電極の上に絶縁層を形成する第2工程と、金属箔の上に酸化グラフェンを配置する第3工程と、金属箔の上に配置した酸化グラフェンを還元して還元体とする第4工程と、還元体が配置された金属箔の上に、還元体を覆う状態で有機材料の薄膜を形成する第5工程と、還元体を覆う薄膜を形成した金属箔を、金属を溶解するエッチング溶液中に浸漬して金属箔を溶解することで還元体が固定された薄膜を形成する第6工程と、還元体が固定された薄膜を絶縁層の上に配置する第7工程と、絶縁層の上に配置された薄膜を有機溶剤に溶解させて絶縁層の上に還元体が配置された状態とする第8工程と、絶縁層の上で還元体に接続する第2電極を形成する第9工程と、第1電極と第2電極とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により還元体の導電性を評価する第10工程とを備える。
【0031】
上記酸化グラフェン還元体導電性の評価方法において、第4工程では、ヒドラジンに晒すことで金属箔の上に配置した酸化グラフェンを還元して還元体とする。
【発明の効果】
【0032】
以上説明したことにより、本発明によれば、時間分解マイクロ波電導度測定法により、強い還元性の雰囲気で還元した酸化グラフェン還元体導電性の評価ができるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
図1図1は、本発明の実施の形態における酸化グラフェン還元体導電性の評価方法を説明するためのフローチャートである。
図2図2は、実施例1で作製した測定用基板をXバンドマイクロ波空洞共振器に挿入し、入射するマイクロ波の周波数を共振周波数に合わせた。第1電極および第2電極を用いて酸化グラフェン還元体の膜に対して0〜60Vの電圧を印加し、反射マイクロ波強度の変化をオシロスコープにて観測した。得られた反射マイクロ波強度変化を注入した電荷キャリアの数に対してプロットし、プロットの傾きから電荷キャリア移動度を、X切片からトラップの数を評価した結果を示す特性図である。
図3図3は、本発明の実施の形態における酸化グラフェン還元体導電性の評価方法を説明するためのフローチャートである。
図4図4は、実施例2で作製した測定用基板を、Xバンドマイクロ波空洞共振器に挿入し、入射するマイクロ波の周波数を共振周波数に合わせた。各測定用基板において、第1電極および第2電極を用いて酸化グラフェン還元体の膜に対して0〜60Vの電圧を印加し、反射マイクロ波強度の変化をオシロスコープにて観測し、得られた反射マイクロ波強度変化を注入した電荷キャリアの数に対してプロットし、プロットの傾きから電荷キャリア移動度を、X切片からトラップの数を評価した結果を示す特性図である。
図5図5は、時間分解マイクロ波電導度測定法で用いる従来の試料作製方法を説明するための説明図である。
図6図6は、非特許文献8に示された測定装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
以下、本発明の実施の形態について図を参照して説明する。
【0035】
[実施の形態1]
はじめに、本発明の実施の形態1について、図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態における酸化グラフェン還元体導電性の評価方法を説明するためのフローチャートである。
【0036】
まず、ステップS101で、図1の(a)に示すように、基板101の上に第1電極102を形成する(第1工程)。基板101は、石英、サファイアなどの無機固体材料、ポリイミド、フッ素樹脂などの有機高分子材料などから構成すれば良い。第1電極102は、Tiから構成した厚さ5nmの下層と、Auから構成した厚さ30nmの上層とから構成すれば良い。例えば、公知の真空蒸着法により上述した層構成の第1電極102を形成すれば良い。なお、電極材料は、Au,Pt,Cu,Ni,Tiなどの金属から構成すれば良い。また、堆積法は、抵抗加熱蒸着法,スパッタ法,電子ビーム加熱蒸着法などを用いれば良い。
【0037】
次に、ステップS102で、図1の(b)および(c)に示すように、第1電極102の上に絶縁層を形成する(第2工程)。例えば、図1の(b)に示すように、第1電極102の上に、酸化シリコンから構成した第1絶縁層103を形成し、図1の(c)に示すように、第1絶縁層103の上に有機材料からなる第2絶縁層104を形成する。
【0038】
後述するように、第2絶縁層104は、ヒドラジンなどを用いた還元性雰囲気に晒されるので、これらの環境に耐性を有する材料から構成する。このような材料として、アモルファスフッ素樹脂(旭硝子社製サイトップ)、ポリ塩化ビニリデン(旭化成製サラン[登録商標]樹脂)、ビニルブチラール樹脂などが挙げられる。
【0039】
例えば、RFスパッタ法を用いた酸化シリコンの堆積により第1絶縁層103を形成すれば良い。また、上述した樹脂材料を溶解した溶液を所定箇所に塗布し、加熱することで第2絶縁層104を形成すれば良い。
【0040】
ところで、このような試料チップの形成においては、酸化シリコンなどの層の形成では、一般に、スパッタ法や真空蒸着法などが用いられる。このように形成した酸化シリコンでは、緻密な膜が得られる、測定に必要な厚さの範囲では、必要な絶縁性が得られない場合がある。このため、この上に有機材料を塗布することで緻密な絶縁膜の状態を得るようにしている。
【0041】
次に、ステップS103で、図1の(d)に示すように、第2絶縁層104の上に第1電極102とは絶縁分離した状態で酸化グラフェン105を配置する(第3工程)。酸化グラフェン105は、よく知られた「Modified hammers」法で合成すればよい。この方法で得られる酸化グラフェンは、グラフェンの多くの2重結合が切断され、酸素との結合C−Oと、炭素間単結合C−Cとに変換されている。ただし、得られた酸化グラフェンの構造を正確に決定することは不可能である。酸化グラフェンの大きさには分布があり、酸化の形態もCOOH,C−O−C,C−OHなどいくつかの種類があり、これらの分布も一定ではない。得られる酸化グラフェンには、グラフェンの構造を維持したドメインも含まれるが、ドメインの大きさや数にも分布があり、一定ではない。
【0042】
また、得られた酸化グラフェンをキャスト法、スピンコート法などの方法で堆積することで、酸化グラフェン105とすれば良い。
【0043】
次に、ステップS104で、酸化グラフェンを還元する雰囲気に晒すことで、第2絶縁層104の上に配置した酸化グラフェン105を還元し、図1の(e)に示すように、還元体106とする(第4工程)。例えば、酸化グラフェン105をヒドラジンの蒸気に晒すことで還元し、還元体106とすれば良い。また、酸化グラフェン105をヒドラジンの溶液に晒す(浸漬)ことで還元し、還元体106とすれば良い。また、不活性な雰囲気で数百℃に加熱することで、酸化グラフェン105を還元して還元体106としても良い。
【0044】
次に、ステップS105で、図1の(f)に示すように、第2絶縁層104の上で還元体105に接続する第2電極107を形成する(第5工程)。第1電極102と同様にすることで、例えば、Auから構成した第2電極107を形成すれば良い。第1電極102と第2電極107とにより、還元体106が挟まれた状態とする。
【0045】
上述したように試料を形成した後、第1電極102と第2電極107とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により還元体106の導電性を評価(計測)する(第6工程)。この測定法では、還元体106のマイクロ波の誘電損失を測定することで還元体106の導電性を評価する。この方法では、還元体106に流れる電流を測定するのではなく、マイクロ波空洞共振器内での還元体106のマイクロ波吸収は、還元体106が持つ電気伝導率に比例することを用い、空洞共振器内でのマイクロ波吸収を測定する。このため、上記測定法によれば、還元体106の微弱な導電性の変化もとらえることが可能である。また還元体106に電荷キャリアが注入される前後の状態を比較することで、電極による電荷注入過程の影響を受けないという長所を持つ。
【0046】
[実施例1]
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0047】
はじめに、酸化グラフェンの合成について説明する。
【0048】
まず、ボールミルで粉砕した天然グラファイト(1g)と濃硫酸(34.5ml)とを混合し、撹拌子ながらこの混合物中に硝酸ナトリウム(0.75g)を加えた。これらの混合物を氷冷下におき、さらに、混合物に対して過マンガン酸カリウム(4.5g)を徐々に加え、撹拌を2時間継続した。この後、混合物を室温に戻し、さらに、5日間撹拌を続ける。この結果、濃灰色の生成物が得られた。
【0049】
次に、得られた生成物に、5%希硫酸(100ml)、過酸化水素水(3ml)を加え撹拌して液状とした後、これをさらに過剰量の硫酸(3%)/過酸化水素水(0.5%)混合溶液中に分散し、遠心分離により沈殿物を分取した。 引き続き、沈殿物に純水を加えて分散し、遠心分離により沈殿物を分取した。
【0050】
これらのことにより、最終生成物として、濃褐色の油状物質として酸化グラフェンが得られた。合成した酸化グラフェンを、純水に加えて撹拌することで、酸化グラフェンが分散した分散溶液(均一分散水溶液)を得た。
【0051】
この分散溶液中の酸化グラフェンの小片は、大きさが約1μmから100μm四方のものまで様々な大きさが混在しているが、例えば超音波処理を行うことにより小片を粉砕し、約1μm四方の小片にのみが分散した分散溶液を得ることができる。また、遠心分離によって小片サイズを分離することにより、約5μm四方より小さい小片のみが分散した分散溶液を得ることができる。得られた分散水溶液は、茶褐色であった。
【0052】
この分散溶液中の物質は、原子間力顕微鏡観察およびラマン分光分析から、単層〜3層の酸化グラフェンの小片(膜片)が主要成分であることが確認された。ここで、分散溶液における酸化グラフェンの濃度は、0.01〜0.1wt%程度とすればよい。
【0053】
次に、測定用基板の作製について説明する。
【0054】
測定用基板を以下のように作製した。平面視の形状が49.8×4.9(mm)で板厚1.0(mm)の石英基板を用意する。次に、用意した石英基板の上に、第1電極を形成する。例えば、圧力10-4〜10-3Paの真空条件によるスパッタ法で、厚さ5nmのTi層を形成し、この上に圧力10-4〜10-3Paの真空条件の熱蒸着法で厚さ30nmのAu層を形成することで、第1電極とした。各金属の堆積時に、ステンシルマスクを用いることで、電極および配線などのパターンを形成すれば良い。
【0055】
次に、RFスパッタ法を用いて厚さ200nmのSiO2薄膜よりなる第1絶縁層を形成した。次いで、ブチラール樹脂をエタノールに溶かした3wt%溶液を2000rpmでスピンコートし、150℃で1時間の加熱処理を施すことで、第2絶縁層を形成した。
【0056】
以上のようにして作製した測定用基板の第2絶縁層の上に、前述した酸化グラフェンの分散溶液をドロップキャストし、静置することで、第2絶縁層の上に酸化グラフェンの層を形成した。
【0057】
次に、第2絶縁層の上に酸化グラフェンの層を形成した測定用基板を、ガラス瓶に入れ、ここにヒドラジン5%水溶液を一滴垂らしてから瓶の蓋を封じ、65℃で1時間反応させた。この還元処理により、ガラス瓶の中のヒドラジン蒸気によって酸化グラフェンが還元され、酸化グラフェン還元体の膜が第2絶縁層の上に得られた。
【0058】
以上のようにして酸化グラフェン還元体の膜を得た後、圧力10-4〜10-3Paの真空条件の熱蒸着法で厚さ30nmのAu層を形成することで、酸化グラフェン還元体の膜の上に第2電極を形成し、測定用基板とした。
【0059】
次に、測定について説明する。
【0060】
作製した測定用基板をXバンドマイクロ波空洞共振器に挿入し、入射するマイクロ波の周波数を共振周波数に合わせた。第1電極および第2電極を用いて酸化グラフェン還元体の膜に対して0〜60Vの電圧を印加し、反射マイクロ波強度の変化をオシロスコープにて観測した。得られた反射マイクロ波強度変化を注入した電荷キャリアの数に対してプロットし、プロットの傾きから電荷キャリア移動度を、X切片からトラップの数を評価した結果を図2に示す。
【0061】
図2において、(a)は、還元処理をしていない酸化グラフェンの層に対して同様の測定を行った結果を示し、(b)は、酸化グラフェン還元体の膜に対して行った測定の結果を示している。図2の(b)に示すように、65℃で1時間ヒドラジン還元を行うことで得た酸化グラフェン還元体の膜は、図2の(a)に示す酸化グラフェンでは見えなかった導電性が現れていることが分かる。これらの測定によるマイクロ波信号の解析から、0.5cm2-1-1の正孔移動度、0.1cm2-1-1の電子移動度が、酸化グラフェン還元体の膜に対する測定結果として得られた。
【0062】
[実施の形態2]
次に、本発明の実施の形態2について、図3を用いて説明する。図3は、本発明の実施の形態における酸化グラフェン還元体導電性の評価方法を説明するためのフローチャートである。
【0063】
まず、前述した実施の形態1と同様に、図1の(a)に示すように、基板101の上に第1電極102を形成する(第1工程)。次に、図1の(b)に示すように、第1電極102の上に絶縁層(第1絶縁層103,第2絶縁層104)を形成する(第2工程)。なお、実施の形態2では、第2絶縁層104が、ヒドラジンなどを用いた還元性雰囲気に耐性を有する材料から構成する必要は無い。
【0064】
一方、図3の(a)に示すように、ステップS201で、金属箔201の上に酸化グラフェン202を配置する(第3工程)。例えば、Cuより構成した金属箔201の上に、酸化グラフェンが分散した分散水溶液を塗布することで、金属箔201の上に酸化グラフェン202が配置された状態とする。
【0065】
次に、ステップS202で、酸化グラフェンを還元する雰囲気に晒すことで、金属箔201の上に配置した酸化グラフェン202を還元し、図3の(b)に示すように、金属箔201の上に酸化グラフェンを還元した還元体203が配置された状態とする(第4工程)。例えば、酸化グラフェン202を、90〜100℃の高温とされたヒドラジンの蒸気に晒すことで還元し、還元体203とすれば良い。
【0066】
次に、ステップS203で、図3の(c)に示すように、還元体203が配置された金属箔201の上に、還元体203を覆う状態で有機材料の薄膜204を形成する(第5工程)。例えば、有機材料を溶解した溶液を塗布することで、薄膜204を形成する。
【0067】
次に、ステップS204で、還元体203を覆う薄膜204を形成した金属箔201を、金属を溶解するエッチング溶液中に浸漬して金属箔201を溶解し、図3の(d)に示すように、還元体203が固定(担持)された薄膜204を形成する(第6工程)。
【0068】
次に、ステップS205で、還元体203が固定された薄膜204を第2絶縁層104の上に配置する(第7工程)。例えば、ステップS204において、還元体203を覆う薄膜204を形成した金属箔201を、容器内に収容された塩化鉄水溶液などのCuエッチングに浸漬し、金属箔201を溶解除去する。この後、容器内のCuエッチング液を水に置換することで、還元体203が固定された薄膜204を洗浄し、また、還元体203が固定された薄膜204が、水に浮遊した状態とする。この状態で、還元体203が固定された薄膜204を基板101ですくい取ることで、還元体203が固定された薄膜204を第2絶縁層104の上に配置すれば良い。
【0069】
次に、第2絶縁層104の上に配置された薄膜204を有機溶剤に溶解させて除去することで、図3の(e)に示すように、第2絶縁層104の上に還元体203が配置された状態とする(第8工程)。
【0070】
次に、ステップS206で、図3の(f)に示すように、第2絶縁層104の上で還元体203に接続する第2電極107を形成する(第9工程)。第1電極102と同様にすることで、例えば、Auから構成した第2電極107を形成すれば良い。第1電極102と第2電極107とにより、還元体203が挟まれた状態とする。
【0071】
上述したように試料を形成した後、前述した実施の形態1と同様に、第1電極102と第2電極107とを用いた時間分解マイクロ波電導度測定法により、還元体203の導電性を評価(計測)する(第10工程)。
【0072】
[実施例2]
以下、実施例を用いてより詳細に説明する。
【0073】
まず、前述した実施例1と同様にすることで、酸化グラフェンが分散した分散溶液を得た。
【0074】
次に、前述した実施の形態1と同様にすることで、第2絶縁層までを形成した測定用基板を作製した。
【0075】
次に、酸化グラフェンの還元体作製について説明する。
【0076】
まず、測定用基板の平面視の大きさに合わせた寸法に切り出した銅箔を用意する。次に、用意した銅箔の上に、酸化グラフェンの分散水溶液をドロップキャストし、酸化グラフェンの層を形成した。
【0077】
次に、酸化グラフェンの層を形成した銅箔をガラス瓶に入れ、ここにヒドラジン5%水溶液を一滴垂らしてから瓶の蓋を封じて還元反応を行った。ここで、還元反応の反応温度は、95℃とした。また、反応時間を、各々20分,40分,60分とした、3つの還元体を作製した。
【0078】
次に、各還元体を作製した各々の銅箔の上に、配置されている還元体を覆う状態に、ポリメタクリル酸ブチルの薄膜(PBMA膜)を形成した。ポリメタクリル酸ブチル(Aldrichより購入、重量平均Mw=337,000)のトルエン溶液(3wt%)を作製し、このトルエン溶液をスピンコート法(1500rpm,60秒)により塗布することで、PBMA膜を形成した。
【0079】
次に、上述したように還元体を覆うPBMA膜を形成した各銅箔を、容器内に収容してある濃度38%のFeCl3水溶液に浮かせ、銅のエッチングを行った。エッチング時間は、6時間とした。銅箔がエッチングされて除去され後、容器内のFeCl3水溶液を水に置換し、酸化グラフェン還元体を担持しているPBMA膜を洗浄した。この膜を、前述した第2絶縁層までを形成した測定用基板ですくい取り、第2絶縁その上に配置させる。次いで、水分を乾燥させた後、アセトンにPBMA膜を溶解させて除去した。測定用基板の第2絶縁層の上に、酸化グラフェン還元体が配置された状態を得る。
【0080】
以上のようにして酸化グラフェン還元体の膜を得た後、圧力10-4〜10-3Paの真空条件の熱蒸着法で厚さ30nmのAu層を形成することで、酸化グラフェン還元体の膜の上に第2電極を形成し、測定用基板とした。実施例2では、還元処理時間条件が20分,40分,60分の3つの測定用基板を作製した。
【0081】
次に、測定について説明する。
【0082】
作製された各測定用基板を、Xバンドマイクロ波空洞共振器に挿入し、入射するマイクロ波の周波数を共振周波数に合わせた。各測定用基板において、第1電極および第2電極を用いて酸化グラフェン還元体の膜に対して0〜60Vの電圧を印加し、反射マイクロ波強度の変化をオシロスコープにて観測した。
【0083】
得られた反射マイクロ波強度変化を注入した電荷キャリアの数に対してプロットし、プロットの傾きから電荷キャリア移動度を、X切片からトラップの数を評価した結果を図4に示す。図4の(a)は、還元時間を20分とした測定用基板の測定結果を示している。また、図4の(b)は、還元時間を40分とした測定用基板の測定結果を示している。また、図4の(c)は、還元時間を60分とした測定用基板の測定結果を示している。
【0084】
図4に示すように、酸化グラフェンでは見えなかった導電性が現れ、マイクロ波信号の解析から0.05〜0.42cm2-1-1の正孔移動度、0.04〜0.06cm2-1-1の電子移動度が得られた。
【0085】
以上に説明したように、本発明によれば、酸化グラフェンを還元する雰囲気に耐性を有する絶縁層の上に酸化グラフェンを配置し、この酸化グラフェンを還元するようにしたので、時間分解マイクロ波電導度測定法により、強い還元性の雰囲気で還元した酸化グラフェン還元体導電性の評価ができるようになる。
【0086】
また、本発明によれば、金属箔の上で還元した酸化グラフェンの還元体を有機材料の薄膜で覆った後、金属箔を溶解除去し、薄膜に固定された測定用基板の上に配置して薄膜を溶解することで、酸化グラフェンを還元した還元体を測定用基板の上に配置するようにしたので、時間分解マイクロ波電導度測定法により、強い還元性の雰囲気で還元した酸化グラフェン還元体導電性の評価ができるようになる。
【0087】
従来実施されている一般的な時間分解マイクロ波電導度測定法による測定では、酸化グラフェンを配置した樹脂による絶縁層やこの下層の絶縁層が、酸化グラフェンを還元するときに、損傷を受けて絶縁性を損ない、正確な測定を阻害していた。
【0088】
これに対し、本発明によれば、酸化グラフェンの還元体が配置される絶縁層の絶縁性が損なわれることがない。この結果、本発明によれば、時間分解マイクロ波電導度測定法により、酸化グラフェン還元体導電性の正確な測定が可能となる。これにより、例えば、酸化グラフェン還元体の導電性がより短時間で測定できるようになり、個々に異なる原料から最適な還元体作製条件を求め、酸化グラフェン還元体の電子材料応用に関する研究開発を促進することができるようになる。
【0089】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0090】
101…基板、102…第1電極、103…第1絶縁層、104…第2絶縁層、105…酸化グラフェン、106…還元体、107…第2電極。
図1
図2
図3
図4
図5
図6