(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
液晶性ポリエステルは、機械的特性等に優れ、様々な分野において応用されている。液晶性ポリエステルは、一般的に、構成成分(芳香族ヒドロキシカルボン酸等)の水酸基を無水カルボン酸によってアシル化し、次いで、重縮合反応を行うことによって得られる。このような一連の反応は、従来、回分式(バッチ式)の製造方法にて行われているが(特許文献1参照)、この方法は、バッチ毎間での品質のバラツキを生じることが多い。
【0003】
化合物の製造においては、連続式の製造方法が知られており、具体的には、マイクロリアクターを使用した方法が挙げられる(特許文献2参照)。マイクロリアクターとは、一般的には流通式リアクターの一つで、一つの流路の幅が、通常、1μm以上、数mm以下であり、その断面の形状としては、円や多角形(三角形以上)等が挙げられるが、その形状に関しては特に限定されるものではない。また、マイクロリアクターの流路としては、1本から構成されるものや、複数本を直列又は並列に組み合わせて構成されるもの等、様々なものがあり、反応や処理量によって適宜選択される。この方法によれば、反応場が小さく、体積当たりの表面積が大きいため、熱交換速度、混合速度等が速くなり、反応の条件を瞬時に調整でき、得られる化合物の品質のバラツキを抑制できる(非特許文献1参照)。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、従来のマイクロリアクターを使用した連続式の製造方法においては、反応溶媒を使用するため、該製造方法を液晶性ポリエステルの製造に採用した場合は、得られる液晶性ポリエステルが加水分解等を起こす可能性があった。また、反応溶媒を使用する場合、得られた反応物から反応溶媒を除く工程を設ける必要があるため、より効率的に液晶性ポリエステルを製造できる方法が求められていた。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたものであり、液晶性ポリエステルの製造において、反応溶媒を使用することなく、連続式の製造方法で、液晶性ポリエステルの構成成分のアシル化を行う方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、流通式リアクターに、液晶性ポリエステルの原料である無水カルボン酸及び構成成分を導入し、無溶媒条件下にてアシル化を行うことにより、従来法と比較して、短時間で、かつ、高い収率で構成成分のアシル化を行うことができる点を見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
(1) 流通式リアクターに、芳香族カルボン酸及び/又は水酸基を有する化合物を含む構成成分、並びに、無水カルボン酸を導入し、無溶媒条件下にてアシル化反応を行うアシル化工程を含む、液晶性ポリエステルの製造方法。
【0010】
(2) 前記アシル化工程は無触媒条件下にて行われる、(1)に記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、液晶性ポリエステルの製造方法において、反応溶媒を使用することなく連続的に、液晶性ポリエステルの構成成分のアシル化を行う方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0013】
[液晶性ポリエステル]
本発明における液晶性ポリエステルとは、溶融加工性ポリエステルであり、溶融時に光学的異方性を示す。溶融異方性の性質は直交偏光子を利用した慣用の偏光検査方法により確認することができる。より具体的には溶融異方性の確認は、オリンパス社製偏光顕微鏡を使用しリンカム社製ホットステージにのせた試料を溶融し、窒素雰囲気下で150倍の倍率で観察することにより実施できる。液晶性ポリマーは光学的に異方性であり、直交偏光子間に挿入したとき光を透過させる。試料が光学的に異方性であると、例えば溶融静止液状態であっても偏光は透過する。
【0014】
本発明における液晶性ポリエステルは、構成成分を無水カルボン酸によってアシル化し、次いで重縮合させることで得られる。
【0015】
(液晶性ポリエステルの構成成分)
本発明における液晶性ポリエステルは、芳香族ヒドロキジカルボン酸の縮合重合や、芳香族ジオールと芳香族ジカルボン酸との縮合重合から得られ、芳香族カルボン酸及び/又は水酸基を有する化合物を含む構成成分からなる。芳香族カルボン酸としては、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシカルボン酸等が挙げられ、水酸基を有する化合物としては、芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシアミン等が挙げられる。本発明においては、上記の構成成分のうち、水酸基を有するものの水酸基がアシル化される。
【0016】
液晶性ポリエステルの構成成分(モノマー)の好ましい例は、
(i)2,6−ナフタレンジカルボン酸、2,6−ジヒドロキシナフタレン、1,4−ジヒドロキシナフタレン及び6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸等のナフタレン化合物、
(ii)4,4’−ビフェニルジカルボン酸、4,4’−ジヒドロキシビフェニル、4−ヒドロキシ−4’−ビフェニルカルボン酸等のビフェニル化合物、
(iii)下記一般式(I)、(II)又は(III)で表わされる化合物:
【0018】
(但し、X:炭素数1〜4のアルキレンもしくはアルキリデン、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、−CO−より選ばれる基であり、Y:−(CH
2)n−(n=1〜4)、−O(CH
2)nO−(n=1〜4)、−O−、−SO−、−SO
2−、−S−、−CO−より選ばれる基)、
(iv)p−ヒドロキシ安息香酸(4−ヒドロキシ安息香酸)、テレフタル酸、ハイドロキノン、p−アミノフェノール、4−アセトキシアミノフェノール及びp−フェニレンジアミン等のパラ位置換のベンゼン化合物、及びそれらの核置換ベンゼン化合物(核置換の置換基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン、炭素数1〜4のアルキル、フェニル、1−フェニルエチルより選ばれる。)、及び
(v)イソフタル酸、レゾルシン等のメタ位置換のベンゼン化合物、及びそれらの核置換ベンゼン化合物(核置換の置換基はフッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン、炭素数1〜4のアルキル、フェニル、1−フェニルエチルより選ばれる。)である。
【0019】
上述の構成成分のうち、ナフタレン化合物、ビフェニル化合物、パラ位置換のベンゼン化合物より選ばれる1種又は2種以上の化合物を必須の構成成分として含むものが好ましい。パラ位置換のベンゼン化合物のうち、p−ヒドロキシ安息香酸、メチルハイドロキノン及び1−フェニルエチルハイドロキノンが特に好ましい。
【0020】
(無水カルボン酸)
本発明における無水カルボン酸としては、無水酢酸、無水プロピオン酸等の炭素数が10以下の低級脂肪族カルボン酸無水物、トリフルオロ酢酸無水物等が挙げられるが、コスト及び取扱面から無水酢酸が好ましい。本発明において、上記モノマーの中の、芳香族ジオール、脂環族ジオール、脂肪族ジオール、芳香族ヒドロキシカルボン酸、芳香族ヒドロキシアミンの水酸基、特にフェノール性水酸基をアシル化するための無水カルボン酸の使用量は、水酸基を有する上記化合物、特にフェノール性水酸基を有する芳香族化合物の水酸基当量の1.0〜1.2倍、より好ましくは1.02〜1.08倍、最も好ましくは1.02〜1.06倍の量であってもよい。
【0021】
[流通式リアクター]
本発明においては、上記原料(液晶性ポリエステルの構成成分等)を流通式リアクターに導入して、合成反応を実施する。本発明における流通式リアクターとしては、通常のリアクターと共に、マイクロリアクターと称される装置も使用でき、具体的には、高温高圧フローセル、原料(液晶性ポリエステルの構成成分等)を送液する反応物送液ポンプ、炉体、反応物を炉体に導入する反応物導入管(反応管)、反応溶液を排出する排出液ライン、冷却フランジ及び圧力を設定する背圧弁を具備しているものを使用できるが、これに限定されることなく、得ようとする反応物やその処理量に応じて、流通式リアクターを構成する各部材の長さや径を適宜調整できる。
【0022】
本発明の製造方法においては、副生するカルボン酸及び/又は原料の無水カルボン酸又はこれらの混合物を媒体とすることで、従来、化合物の製造方法において使用されていた反応溶媒(超臨界流体、無機溶媒、有機溶媒等)を追加して使用することなく、液晶性ポリエステルの構成成分を無水カルボン酸によってアシル化できる。つまり、本発明の製造方法によれば、原料(液晶性ポリエステルの構成成分及び無水カルボン酸)と共に反応溶媒を流通式リアクターに導入する必要がない。
【0023】
本発明のアシル化工程においては、触媒は使用しても、使用しなくともよい。反応後の溶液の中和処理、無害化処理等の後処理及び処分の必要がない点で、触媒を使用しないことが好ましい。触媒を使用する場合は、通常、液晶性ポリエステルの合成において使用される均一系触媒、不均一系触媒のいずれのもの(ジアルキル錫酸化物、ジアリール錫酸化物、二酸化チタン、アルコキシチタン珪酸塩類、チタンアルコラート類、カルボン酸のアルカリ及びアルカリ土類金属塩類、BF
3等のルイス酸塩等)も使用できる。
【0024】
アシル化工程における反応条件としては、液晶性ポリエステルの構成成分のアシル化において通常適用されるものが挙げられ、例えば、温度200〜350℃、圧力0.1〜10MPa、反応時間1〜90秒、より好ましくは、200℃〜300℃、圧力2〜8MPa、反応時間1〜60秒、最も好ましくは、200℃〜250℃、圧力5MPa、時間1秒から30秒であってもよい。反応条件は、使用する出発原料、目的とする反応生成物の種類等により適宜設定することができる。
【0025】
本発明による液晶性ポリエステルの製造方法においては、本発明の効果を阻害又は低下させない範囲で、安定剤、着色剤、充填剤等を添加して重合することも可能である。
【0026】
本発明の製造方法によれば、高い転化率、選択率で液晶性ポリエステルの構成成分をアシル化できる。本発明の製造方法によって得られた、アシル化された化合物は、公知の重合反応(溶融重合法、溶液重合法等)に供して、液晶性ポリエステルを得ることができる。
【実施例】
【0027】
以下、実施例により本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:無触媒系における検討−I)
流通式リアクター(使用反応管:ステンレス製、ハステロイ製又はインコネル製、外径=3.18mm、内径=1.78mm、長さ=300mm)において、反応温度250〜350℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒の条件で、4−ヒドロキシ安息香酸及び無水酢酸の混合溶液を、無溶媒及び無触媒条件下にて、0.5ml/minの速度にてポンプで送液し、4−ヒドロキシ安息香酸のアシル化を行った。4−ヒドロキシ安息香酸と無水酢酸との比率は、表1に示したとおりである。
【0029】
なお、表1中の略記の意味は下記のとおりである。
HBA:4−ヒドロキシ安息香酸
Ac
2O:無水酢酸
【0030】
表1に、4−ヒドロキシ安息香酸(HBA)のアシル化の結果を示す。なお、以下、表中の「収率」とは、原料の量(モル量)に対する生成物の量(モル量)を100分率で示した値であり、「選択率」とは生成物全体(アシル体+原料以外の化合物、モル量)に対する目的物の量(アシル体のモル量)を100分率で示した値である。また、「混合比」とは、原料中の水酸基と無水酢酸との比である。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、無溶媒かつ無触媒条件下であるにもかかわらず、高い収率及び選択率にて4−ヒドロキシ安息香酸をアシル化させることができた。
【0033】
(実施例2:無触媒系における検討−II)
実施例1と同様に4−ヒドロキシ安息香酸のアシル化を行った。その結果を表2に示す。なお、以下、表中の「転化率」とは使用した原料の量に対して、反応後に消費された原料の量を100分率で示した値を示す。
【0034】
【表2】
【0035】
表2に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、無溶媒かつ無触媒条件下であるにもかかわらず、高い転化率、収率及び選択率にて4−ヒドロキシ安息香酸をアシル化させることができた。
【0036】
(実施例3:無触媒系又は触媒系における検討−I)
実施例1と同様にして、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸のアシル化を行った。その結果を表3に示す。なお、「触媒添加系」においては、触媒として酢酸ナトリウムを使用した。また、表中「HNA」とは、6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸を示す。
【0037】
【表3】
【0038】
表3に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、触媒の使用の有無に関わらず、無溶媒下において、高い転化率、収率及び選択率にて6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸をアシル化させることができた。
【0039】
(実施例4:無触媒系における検討−III)
実施例1と同様にして、4,4’−ジヒドロキシビフェニルのアシル化を行った。その結果を表4に示す。なお、表中「BP」とは、4,4’−ジヒドロキシビフェニルを示す。
【0040】
【表4】
【0041】
表4に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、無溶媒かつ無触媒条件下であるにもかかわらず、高い収率及び転化率にて4,4’−ジヒドロキシビフェニルをアシル化させることができた。
【0042】
(実施例5:無触媒系又は触媒系における検討−II)
実施例1と同様に4−アセトキシアミノフェノールのアシル化を行った。その結果を表5に示す。なお、「触媒添加系」においては、触媒として酢酸ナトリウムを使用した。また、表中「APAP」とは、4−アセトキシアミノフェノールを示す。
【0043】
【表5】
【0044】
表5に示されるとおり、本発明の製造方法によれば、触媒の使用の有無に関わらず、無溶媒下において、高い転化率、収率及び選択率にて4−アセトキシアミノフェノールをアシル化させることができた。
【0045】
(実施例6:無触媒系における検討−IV)
ガスクロオーブン中に備えられた流通式リアクター(使用反応管:ステンレス製、ハステロイ製又はインコネル製、外径=3.18mm、内径=1.78mm、長さ=300mm又は1000mm)において、反応温度200〜300℃、圧力5MPa、滞留時間9.0秒又は30.0秒の条件で、HBA、HNA、BP、及びAPAPの混合物(HBA/HNA/BP/APAP=1:1:1:1、モル比)並びに無水酢酸の混合溶液を、無溶媒及び無触媒条件下にて、0.5ml/minの速度にてポンプで送液した。
【0046】
【表6】
【0047】
表6に示されるとおり、ほぼ全てのモノマー(HBA、HNA、BP、及びAPAP)がアシル化した。