特許第6371329号(P6371329)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6371329
(24)【登録日】2018年7月20日
(45)【発行日】2018年8月8日
(54)【発明の名称】車両の運転支援制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 7/12 20060101AFI20180730BHJP
   B60R 21/00 20060101ALI20180730BHJP
【FI】
   B60T7/12 C
   B60R21/00 991
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-97595(P2016-97595)
(22)【出願日】2016年5月16日
(65)【公開番号】特開2017-206039(P2017-206039A)
(43)【公開日】2017年11月24日
【審査請求日】2017年6月20日
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度 独立行政法人科学技術振興機構、戦略的イノベーション創出推進事業研究開発テーマ「高齢者の自立を支援し安全安心社会を実現する自律運転知能システム」、産業技術強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504132881
【氏名又は名称】国立大学法人東京農工大学
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100071216
【弁理士】
【氏名又は名称】明石 昌毅
(72)【発明者】
【氏名】井上 慎太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 秀雄
(72)【発明者】
【氏名】ラクシンチャラーンサク ポンサトーン
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 裕一
(72)【発明者】
【氏名】永井 正夫
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 太久磨
(72)【発明者】
【氏名】清水 司
【審査官】 山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】 特開2013−196032(JP,A)
【文献】 特開平11−053694(JP,A)
【文献】 特開2015−082157(JP,A)
【文献】 特開2009−173121(JP,A)
【文献】 特開2013−077153(JP,A)
【文献】 ポンサトーン・ラクシンチャラーンサク,リスクポテンシャル予測による自動車の障害物回避運動制御,計測と制御,日本,公益社団法人 計測自動制御学会,2015年11月20日,第54巻第11号,第820-823ページ,URL,https://doi.org/10.11499/sicejl.54.820
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12
B60R 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の進行方向に於ける車両から見た死角領域を検出する死角領域検出手段と、
運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、
前記死角領域検出手段による死角領域の検出に基づいて車両の自動的な減速制御を実行する自動減速制御手段とを含み、
前記自動減速制御手段は前記死角領域検出手段による死角領域の検出後に前記運転者の制動操作又は操舵操作が検出されたとき又は所定の時間が経過したときに自動的な減速制御を開始することを特徴とする車両の運転支援制御装置。
【請求項2】
前記死角領域が検出されたとき前記死角領域からの歩行者又は自転車の飛び出しのリスクがあることを運転者に提示するリスク提示手段を含むことを特徴とする請求項による車両の運転支援制御装置。
【請求項3】
前記リスク提示手段は、歩行者又は自転車の飛び出しのリスクがあることを視覚的に表示する手段であり、時間の経過と共に歩行者又は自転車の飛び出しのリスクが高くなることが表現される手段であることを特徴とする請求項による車両の運転支援制御装置。
【請求項4】
前記自動減速制御手段が、前記死角領域から歩行者又は自転車が飛び出して前記車両の進行路内へ進入してくることを仮定した場合の歩行者又は自転車の前記進行路内の進入領域と前記車両との相対距離の関数である目標減速度を設定する目標減速度設定手段を含み、前記車両の実減速度が前記目標減速度と一致するよう前記自動的な減速制御を実行することを特徴とする請求項1乃至のいずれかによる車両の運転支援制御装置。
【請求項5】
前記自動的な減速制御に於いて、前記自動減速制御手段の付与する制動力が前記目標減速度と前記運転者の制動操作によって付与される減速度との差分を補填する制動力であることを特徴とする請求項による車両の運転支援制御装置。
【請求項6】
前記目標減速度が、歩行者又は自転車の前記進行路内の前記進入領域とそれよりも手前に設定される目標位置との相対距離と該目標位置に前記車両が到達する際の前記車両の目標車速とに基づいて設定される減速度であり、前記目標位置と前記目標車速とは、前記車両が前記目標位置から前記進入領域に到達するまでに車速を実質的に0まで減速することが可能な位置と車速であることを特徴とする請求項4又は5による車両の運転支援制御装置。
【請求項7】
前記目標減速度が、規範運転者が前記車両の任意位置から前記目標位置までの移動の間に任意車速を前記目標車速まで減速する場合の減速操作に於いて前記車両に付与される制動力を前記歩行者又は自転車からの斥力としてモデル化して得られる仮想ばねポテンシャルに基づいて決定される減速度であることを特徴とする請求項による車両の運転支援制御装置。
【請求項8】
前記自動減速制御手段による前記自動的な減速制御の実行中に前記車両のアクセルペダルに反力を付与するアクセルペダル反力制御手段を含むことを特徴とする請求項1乃至のいずれかによる車両の運転支援制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の車両の運転を支援するための装置に係り、より詳細には、車両の走行中に於いて、道路脇の障害物や建物の影などの、運転者にとって死角となる領域からの歩行者や自転車(歩行者等)の飛び出しによる衝突の回避又は衝突時の衝撃の軽減を図るための運転支援を実行する装置に係る。
【背景技術】
【0002】
車両の走行中に、その進行方向に検出された歩行者等との衝突を回避するための運転支援を実行するシステムが種々の態様にて提案されている。例えば、特許文献1に於いては、走行中の車両の前方に対象物を発見した場合に、その対象物の種類及び自車との相対速度に応じて、対象物を回避するための自車の横移動量を設定し、その設定された横移勤量を達成するように走行制御を実行する構成が開示されている。特許文献2に於いては、走行中の車両の前方に発見した対象物に対する接近度合の変化と運転操作の変化に基づいて運転支援制御を実施するか否かの判定と運転支援の方法(減速、操舵)の決定を行うことが提案されている。更に、緊急回避ブレーキシステム(Autonomous Emergency Braking System)と称される運転支援システムが提案されており、かかるシステムに於いては、走行中の車両の進行路内へ飛び出した歩行者等を検出した場合に、運転者に対して、ブレーキ操作を促す警報が提示され、これに対し、運転者が対応行動を起こさなかったと判定されたときには、システムによる自律的衝突回避ブレーキが実行される。また更に、非特許文献1に於いては、車両の走行中の道路の路側付近にある駐車車両の前方などの死角領域を発見したときに、自律的に、車両の減速及び/又は操舵を実行して、死角領域から歩行者等が実際に飛び出して来ても、歩行者等との接触の回避又は衝撃の軽減が図られるようにするシステムが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−286279
【特許文献2】特開2013−171439
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】「リスクポテンシャルを考慮した最適制御理論による自律運転知能システムに関する研究」 長谷川隆裕他4名 公益社団法人 自動車技術会 学術講演会前刷集 20145871 2014年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の緊急回避ブレーキシステム(AEB)或いはその他の従前のシステムの多くは、道路上へ飛び出してきた歩行者等を検出し、自車との接触のリスクが顕在化したときに、減速及び/又は操舵が作動するよう構成されている。かかる構成の場合、システム(機械)が周囲環境に関する情報を獲得し分析するために或る程度の時間を要することとなるので、駐車車両の背後、物陰、見通しの悪い交差点等の(自車から見た)死角領域から歩行者等が急に飛び出した場合に、好ましい程度にて減速及び/又は操舵が達成されない場合が起き得る。一方、非特許文献1に於いて記載されている如きシステムに於いては、死角領域をシステムが発見した時点に於いて、「歩行者等が飛び出すかもしれない」ことを想定し、歩行者等を発見しないうちに、自車の減速又は操舵が実行される。かかる構成によれば、歩行者等が実際に死角領域から急に飛び出しきたとしても、その前に、AEBが適切に作動しうる速度域まで自車速度を低減し、或いは、自車が歩行者等に接触しないコースを走行させるように操舵することが可能となるので、AEBの制御効果を十分に或いは好ましい程度にて発揮できることとなる。
【0006】
しかし、上記の如く、単に死角領域の発見であって、死角領域から歩行者等が飛び出すかもしれないというリスク(「潜在リスク」)だけで、減速又は操舵などの車両の運動制御を実行する制御(以下、かかる制御を「潜在リスクの予測に基づく運転支援制御」と称する。)を実行すると、歩行者等が発見されていない段階で、即ち、自車と歩行者等との衝突のリスクが顕在化する前に、機械が自動的に人工知能的潜在リスク対応技術によってプログラムされた判断に基づいて車両の運転に対して介入することとなる。また、システム(機械)による「潜在リスク」の予測は、運転者(人)の周囲環境の知覚や理解に基づく潜在リスクと一致するとは限らず、また、潜在リスクに対して機械が運転者と同じように減速や操舵などの操作を行うとは限らないので、運転者にとってシステムの制御作動が理解しづらく、或いは、自身の運転意図が全く反映されないことにより、システムの作動に対して違和感を覚える可能性がある。
【0007】
上記の如き、システムの制御作動に対する運転者の違和感は、避けられるべきである。また、システムの制御によってより安全な車両の運転が達成可能であるとしても、運転者の運転意図が全く反映されない場合には、運転者はやはり違和感を受けるであろう。
【0008】
かくして、本発明の課題は、車両の走行中に「潜在リスク」に基づいて「潜在リスクの予測に基づく運転支援制御」を実行する運転支援システムに於いて、システムの作動に対する運転者の違和感の発生をできるだけ軽減することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、上記の課題は、車両の進行方向に於ける車両から見た死角領域を検出する死角領域検出手段と、運転者の運転操作を検出する運転操作検出手段と、前記死角領域検出手段による死角領域の検出に基づいて車両の自動的な減速制御を実行する自動減速制御手段とを含み、前記自動減速制御手段は前記死角領域検出手段による死角領域の検出後の運転者の運転操作を参照して自動的な減速制御を開始することを特徴とする車両の運転支援制御装置によって達成される。
【0010】
上記の構成に於いて、「死角領域」とは、自車の進行方向の道路脇の駐車車両や障害物の前方や建物の影などの、車両の運転者又は車両に搭載されたカメラやレーダー装置の環境認識手段から見て死角となる領域であり、「死角領域検出手段」とは、車載カメラ、レーダー装置等の車両の周囲の状況を検出することの可能な任意の手段或いはGPS装置などにより得られた車両周囲の情報から「死角領域」となっている領域を検出又は認識する手段であってよい。上記の「運転操作」は、運転者のブレーキペダルの踏込や操舵などの車両の運転に関わる任意の操作であってよい。「運転操作検出手段」は、有意な「運転操作」があったか否かを検出する任意の手段であってよく、例えば、ブレーキペダルの踏込量が所定量を越えたか否か、或いは、ハンドルの操舵角が所定値を越えたか否かを判定するセンサ手段又は判定手段であってよい。
【0011】
上記の装置の構成によれば、基本的には、車両の走行中に「死角領域」を検出したときには、その死角領域から歩行者等が飛び出すかもしれないという潜在リスクを予測して車両の自動的な減速を実行する運転支援制御が提供される。しかしながら、既に述べた如く、かかる運転支援制御が運転者の運転操作と関わりなく実行されると、運転者は支援制御による支援作動に対して違和感を覚える可能性がある。そこで、本発明の装置に於いては、死角領域の検出後、自動支援制御を行う自動支援制御手段は、運転者の運転操作を参照して自動的な減速を実行するよう構成される。即ち、運転支援制御は、死角領域の検出に応答してそのまま実行されるのではなく、運転者の運転操作を参照して実行される。運転支援制御には運転者の運転意図が反映されていることが期待されるので、運転者の運転操作を参照して自動減速を実行することにより、運転支援制御に於いて運転者の運転意図が反映されることとなり、運転者の違和感の軽減が期待される。
【0012】
かかる構成に於いて、より具体的には、運転支援制御は、死角領域の検出後に運転者の制動操作又は操舵操作が検出されたときに開始されてよい。運転者の制動操作又は操舵操作があったということは、運転者が死角領域を発見し、これに応じて潜在リスクを予測し、車両の減速又は潜在リスクの在る領域(歩行者等が飛び出して来るかもしれない領域)からの回避移動を意図したと推定できる。従って、その場合には、その運転者の運転意図に合わせた自動的な減速が実行されることとなり、運転者にとって不意に支援制御による制動が実行されたといった違和感が軽減されることが期待される。一方、死角領域の検出後に、或る程度の時間が経過しても運転者が潜在リスクに対する運転操作を実行せず、そのまま車両が走行する場合には、死角領域から歩行者等が飛び出してきたときに車両が歩行者等と接触してしまうリスクが低減されないこととなるので、所定の時間が経過しても運転者が潜在リスクに対する運転操作を実行しないときにも自動減速制御が実行されるようになっていてよい。このように運転者が期待される時期までに期待される運転操作をしないとき、システムによる減速制御が運転者に代って不意に発動しても、自動減速に合わせて現に死角領域が身近に迫ってくれば、運転者は己の無用心に気付き、自動減速制御が死角領域の検出と同時に早期に発動された場合に比して自動減速制御に対し違和感を抱く度合は大きく低減されると思われる。かくして、自動減速制御手段は、死角領域の検出後、運転者が制動操作又は操舵操作をするか、所定の時間が経過しても制動操作及び/又は操舵操作をしないかの、運転者の運転操作を参照し、運転者の制動操作及び/又は操舵操作が検出されるか、或いは、所定の時間内に運転者の制動操作及び/又は操舵操作が検出されないとき、自動的な減速制御を開始するようになっていてよい。
【0013】
上記の自動減速制御は、任意の態様にて実行されてよい。なお、本発明の装置に於ける減速制御は、上記の如く、死角領域の検出後に、そこから歩行者等が飛び出して来るかもしれない、というリスクに備えて、車両の減速を実行する制御であるので、歩行者等が未検出の状態で実行されるものであり、実際に道路に飛び出した歩行者等を検出した際には、既に述べた如きAEBシステムによる接触回避操作が実行されてよい。従って、本発明の自動減速制御は、歩行者等が実際に飛び出してきたときに、より確実に歩行者等との接触を回避すべく、死角領域を検出した時点で、予備的な車両の減速を実行しておくための制御であってよい。その場合、歩行者等との接触回避のためのAEBシステムの作動又は運転者による制動や操舵が開始されたときの車速が、歩行者等との接触回避のために十分に低減されていることが好ましく、そのような車速まで現在の車速を減速させる際に必要となる減速度は、検出された死角領域から歩行者等が飛び出して車両の進行路内へ進入してくることを仮定した場合の歩行者等の進行路内の進入領域と車両との相対距離に依存することとなる。そこで、本発明の装置に於ける自動減速制御手段は、より具体的には、検出された死角領域から歩行者等が飛び出して車両の進行路内へ進入してくることを仮定した場合の歩行者等の進行路内の進入領域と車両との相対距離の関数として、目標減速度を設定する目標減速度設定手段を含み、車両の実減速度が目標減速度と一致するよう自動的な減速制御を実行するよう構成されていてよい。
【0014】
また、上記の如き車両の実減速度を目標減速度に一致させるための自動的な減速制御の実行中に於いて、運転者自身も制動操作を実行している場合、自動的な減速制御に対する運転者の違和感を軽減するためには、その運転者の制動操作が車両の運動に反映されることが好ましい。また、自動的な減速制御が実行され、更に、運転者による制動作用が加わると、減速が運転者の想定を超える程度にて実行され、運転者が違和感を覚える可能性がある。そこで、本発明の装置は、自動減速制御手段の付与する制動力が目標減速度と運転者の制動操作によって付与される減速度との差分を補填する制動力であるよう構成されてよい。かかる構成によれば、運転者は、自身の制動操作が反映されているとの感覚が得られるともに、車両の実減速度が目標減速度に制御できることとなる。
【0015】
或いはまた、歩行者等が実際に道路内へ飛び出し、歩行者等との接触回避ための制動が実行された場合、車速は、歩行者等の進入領域に到達するまでに実質的に0まで減速されてもよい。かかる車両の運動を達成するためには、仮定される歩行者等の進入領域よりも手前の或る位置にて歩行者等との接触回避のための車両の減速が開始されるときの車速が、歩行者等の進入領域に車両が到達するまでに実質的に0まで減速可能な車速とされる。従って、本発明の装置による目標減速度は、仮定される歩行者等との接触回避のための車両の減速が開始される位置に於ける車速が、その後車両が仮定される歩行者等の進入領域に到達するまでに実質的に0まで減速可能な車速となっている状態をできるだけ実現できるように設定されてよい。そのように目標減速度を設定する場合、非特許文献1にて示されている如く(後述の実施形態の欄参照)、歩行者等の進行路内の進入領域よりも手前の、仮定される歩行者等との接触回避のための車両の減速が開始される位置を目標位置として設定し、その目標位置から車両が歩行者等の想定される進入領域に到達するまでに車速を実質的に0まで減速することが可能な、目標位置に於ける車速を、目標車速として設定し、目標減速度は、目標位置と歩行者等の進行路内の進入領域との相対距離と、目標車速とに依存して設定することが可能である。
【0016】
また更に、目標減速度を目標位置との相対距離と目標車速とに基づいて設定する構成に於いて、目標減速度を、規範運転者、即ち、理想的な運転を実施する運転者が車両を運転した場合の減速度を模擬して設定すると、理想的な車両の運動の実現が期待される。この点に関し、本発明の発明者等の研究によれば、非特許文献1に記載されている如く、規範運転者の運転に於ける車両の任意位置から目標位置までの移動の間に任意車速を目標車速まで減速する場合の減速度は、車両に付与される制動力を歩行者等からの斥力としてモデル化して得られる仮想ばねポテンシャルを用いて表現することが可能である。かくして、本発明の装置に於いて、目標減速度は、規範運転者が車両の任意位置から目標位置までの移動の間に任意車速を目標車速まで減速する場合の減速操作に於いて車両に付与される制動力を歩行者等からの斥力としてモデル化して得られる仮想ばねポテンシャルに基づいて決定される減速度であってよい。かかる構成により、自動的な減速制御を実行する場合に、規範運転者の運転を模擬した理想的な車両の運動が実現可能となる。
【0017】
ところで、本発明の装置が死角領域を検出した際、運転者が同様にその死角領域を認識し、潜在リスクを予測しているとは限らないので、本発明の装置による車両の減速制御は、いずれにしても運転者にとっては不意の実行となる場合がある。そこで、本発明の装置に於いては、死角領域が検出されたとき、その死角領域から歩行者等の飛び出しのリスクがあることを運転者に提示するリスク提示手段が設けられてよい。かかるリスク提示が実行されれば、運転者が潜在リスクを予測することが可能となり、自ら、車両の減速又は操舵を実行することとなり、或いは、自動的な減速制御の実行開始時にも、不意に減速されたとの違和感を覚えることが回避できることとなる。即ち、上記の構成によれば、運転者に対して、装置による潜在リスクの認識及びそれに対する対応を把握させるインターフェースが提供されることとなる。リスク提示手段は、歩行者等の飛び出しのリスクがあることを視覚的に表示する手段であってよく、その場合、時間の経過と共に歩行者等の飛び出しのリスクが高くなることが表現される手段であってよい。例えば、リスク表示の輝度の増大や点滅速度を高くするなどの任意の手法にて、リスクが高くなることが表現されてよい。
【0018】
更にまた、本発明の装置に於いて、自動減速制御手段による自動的な減速制御の実行中に車両のアクセルペダルに反力を付与するアクセルペダル反力制御手段が設けられてよい。かかる構成によれば、自動的な減速制御の実行中には、アクセルペダルが重くなることによって、無用な車両の加速が回避されると伴に、装置が減速を実行中であることを運転者が把握できることとなる。
【発明の効果】
【0019】
かくして、本発明の装置によれば、死角領域が発見された段階でその死角領域から歩行者等が飛び出すかもしれないという潜在リスクの予測に基づく運転支援制御に於いて、システムによる自動的な減速制御が死角領域の検出後の運転者の運転操作を参照して実行されることにより、車両の運転に対する運転者の関与の度合が高められ、制御作動に対する運転者の違和感の発生の軽減が期待される。即ち、死角領域の検出後、運転者の運転操作に関係なく自動減速制御を開始するのではなく、運転者の制動操作又は操舵操作を待つか、或いは、所定の時間が経過したときのいずれかの時点で自動的な減速制御を開始すれば、死角領域の検出後の運転者の運転の様子を参照(モニタリング)し、自動減速制御に運転者の運転意図が反映されることとなるので、運転者(人)と装置(機械)のより高い協調性が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1(A)は、本発明が適用される車両の運転支援制御装置の好ましい実施形態が搭載される車両の模式図である。図1(B)は、本発明の車両の運転支援制御装置の一つの実施形態に於けるシステムの構成をブロック図の形式にて表した図である。
図2図2(A)、(B)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態による運転支援が実行される状況を説明する模式図である。図2(C)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態に於ける処理をフローチャートの形式に表した図である。
図3図3(A)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態に於いて、車両の走行中に、死角領域の検出後、運転者に視覚的に提示される潜在リスクの存在(死角領域からの歩行者等の飛び出し)を表すリスク表示の例を模式的に示した図である。図3(B)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態に於いて、自動減速制御の実行中及び終了時に提示される表示である。図3(C)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態に於いて、死角領域の検出後、実際に歩行者等が飛び出したときに提示される表示の例(右)を模式的に示した図である。
図4図4(A)、(B)は、図2(C)の処理による潜在リスクの表示、車両の減速度、車速の時間変化の例を模式的に示した図である。図4(A)は、死角領域の検出後、所定時間の経過前に、運転者の死角領域に対する運転操作があった場合であり、図4(B)は、死角領域の検出後、所定時間に亙って運転者の死角領域に対する運転操作がなかった場合である。
図5図5(A)は、本発明の車両の運転支援制御装置の実施形態に於ける自動減速制御が実行される状況の模式図であり、制御に於ける目標減速度の決定に於いて参照される目標位置と目標速度とを説明する図である。図5(B)は、規範運転者が車両の任意位置から目標位置までの移動の間に任意車速を目標車速まで減速する場合の減速操作に於いて車両に付与される制動力を歩行者等からの斥力としてモデル化して得られる仮想ばねポテンシャルの模式図である。仮想ばねポテンシャルは、自動減速制御に於ける目標減速度の決定に於いて参照される。図5(C)は、自動減速制御に於ける目標減速度の決定に於いて参照される車両の予測位置の例を模式的に描いた図である。
【符号の説明】
【0021】
10…車両
12FL,FR,RL,RR…車輪
28…差動装置
30…操舵装置
32…ハンドル
34…操舵倍力装置
36R,L…タイロッド
40…制動装置
42…ホイールシリンダ
44…ブレーキペダル
45…マスタシリンダ
46…油圧回路
60…電子制御装置
62…ヨーレート、横加速度センサ
65…前後加速度センサ
70…車載カメラ
72…車載レーダー装置
74…GPS装置
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
車両の構成
図1(A)を参照すると、本発明の運転支援制御装置の好ましい実施形態が組み込まれる自動車等の車両10に於いては、左右前輪12FL、12FRと、左右後輪12RL、12RRと、運転者によるアクセルペダルの踏込みに応じて各輪(図示の例では、後輪駆動車であるから、後輪のみ)に制駆動力を発生する駆動系装置(一部のみ図示)と、前輪の舵角を制御するための操舵装置30(更に、後輪用の操舵装置が設けられていてもよい)と、各輪に制動力を発生する制動系装置40とが搭載されている。駆動系装置は、通常の態様にて、エンジン及び/又は電動機(図示せず。エンジンと電動機との双方を有するハイブリッド式の駆動装置であってもよい)から、変速機(図示せず)、差動歯車装置28を介して、駆動トルク或いは回転力が後輪12RL、12RRへ伝達されるよう構成されている。操舵装置30には、運転者によって作動されるステアリングホイール(ハンドル)32の回転を、その回転トルクを倍力装置34により倍力しながら、タイロッド36L、36Rへ伝達し、前輪12FL、12FRを転舵するパワーステアリング装置が採用されてよい。
【0023】
制動系装置40は、運転者によりブレーキペダル44の踏込みに応答して作動されるマスタシリンダ45に連通した油圧回路46によって、各輪に装備をされたホイールシリンダ42i(i=FL、FR、RL、RR、以下同様)内のブレーキ圧、即ち、各輪に於ける制動力が調節される形式の電子制御式の油圧式制動装置である。油圧回路46には、各輪のホイールシリンダを選択的にマスタシリンダ、オイルポンプ又はオイルリザーバ(図示せず)へ連通する種々の弁(マスタシリンダカット弁、油圧保持弁、減圧弁)が設けられており、通常の作動に於いては、ブレーキペダル44の踏込みに応答して、マスタシリンダ45の圧力がそれぞれのホイールシリンダ42iへ供給される。また、後に説明される如く、死角領域の検出後、自動減速制御が実行される際には、電子制御装置60の指令に基づいて、前記の種々の弁が作動され、各輪のホイールシリンダ内のブレーキ圧が、対応する圧力センサの検出値Pbi(i=FL、FR、RL、RR)に基づいて、それぞれの目標圧に合致するよう制御される。なお、制動系装置40は、空気圧式又は電磁式に各輪に制動力を与える形式又はその他当業者にとって任意の形式のものであってよい。
【0024】
また、本発明の運転支援制御装置の好ましい実施形態が適用される車両10に於いては、車両周辺の状況を検出して、車両周囲の他車、障害物、歩行者等(歩行者、自転車)、道路幅、建物等を検出するための車載カメラ70、レーダー装置72等が設けられ、更に、GPS人工衛星と通信して自車の周囲状況や位置情報等の種々の情報を取得するGPS装置(カーナビゲーションシステム)74が設けられていてよい。
【0025】
上記の車両の各部の作動制御及び本発明による運転支援制御装置の作動制御は、電子制御装置60により実行される。電子制御装置60は、通常の形式の、双方向コモンバスにより相互に連結されたCPU、ROM、RAM及び入出力ポート装置を有するマイクロコンピュータ及び駆動回路を含んでいてよい。後に説明される本発明の運転支援制御装置の各部の構成及び作動は、それぞれ、プログラムに従った電子制御装置(コンピュータ)60の作動により実現されてよい。電子制御装置60には、車載カメラ40、レーダー装置42、GPS装置44等からの情報s1〜s3、ブレーキペダルの踏込量θb、操舵角δ、前後Gセンサ65の検出値ax、車輪速Vwi(i=FL、FR、RL、RR)など、後述の態様にて実行される本発明の運転支援制御のためのパラメータとして用いられる種々のセンサからの検出値が入力され、運転者にリスク表示を提示するための制御指令、自動減速制御に於ける制御量を表す制御指令等が対応する装置へ出力される。なお、図示していないが、本実施形態の車両に於いて実行されるべき各種制御に必要な種々のパラメータ、例えば、ジャイロセンサ62からのヨーレートγ及び/又は横加速度Yg等の各種検出信号が入力され、各種の制御指令が対応する装置へ出力されてよい。
【0026】
装置の構成
本発明による運転支援制御装置のシステム構成に於いては、図1(B)に示す如く、環境認識部、表示系インターフェース部、潜在リスク予測部、支援実行決定部、協調制御部が構成される。環境認識部では、カメラ、センサ等の情報に基づいて、車両周囲の状況の認識が実行されて、自車両から見た死角領域の存在が検出されると、その情報が表示系インターフェース部、潜在リスク予測部、支援実行決定部へそれぞれ与えられる。表示系インターフェース部に於いては、後述の態様にて、車載のディスプレイ上にリスク表示を提示する処理が実行され、潜在リスク予測部では、後述の態様にて、死角領域の位置情報と自車両の状態(車速等)に基づいて、規範運転者の運転挙動をモデル化したドライバモデルを用いて、自動減速制御に於ける目標減速度とそれを実現する制御量の算出が実行される。支援実行決定部は、死角領域の存在の情報を受けた後、後述の態様にて、運転者の運転操作を監視して、自動減速制御の時期を決定し、自動減速制御の実行が決定されると、その情報が協調制御部へ与えられ、協調制御部では、潜在リスク予測部にて決定された自動減速制御のための制御量と運転者の運転操作(制動操作)とに基づいて、制御指令を決定し、制動制御装置へ送信する。また、支援実行決定部は、自動減速制御の実行中、後述の態様にてアクセルペダルの反力を増大する制御を実行するようになっていてよい。
【0027】
装置の作動
(1)支援制御の概要
本発明の運転支援制御装置の作動に於いては、図2(A)、(B)に模式的に描かれている如く、車両(自車)の走行中に、路側帯付近の駐車車両や建物の角が検出され、その背後(自車から見て前方)に死角領域の存在が認識されると、潜在リスクとして、検出された死角領域から歩行者等が飛び出して来るかもしれないというリスクが想定され、その潜在リスクに備えて自車両の自動的な減速が実行される。しかしながら、単に死角領域の検出により直ちに、装置が自動減速制御を実行してしまうと、装置の制御の意図や作動が運転者に理解されなかったり、装置の制御の意図や作動が運転者の意図に沿ったものとはならず、運転者の運転操作が反映されなくなり、運転者が装置の制御作動に対して違和感を覚える可能性がある。そこで、本実施形態の装置による運転支援制御に於いては、死角領域の存在が検出され或いは認識された時点で、直ぐに自動減速制御を実行するのではなく、潜在リスクが存在することが運転者に提示されると共に、運転者の運転操作のモニタリングが実行される。そして、運転者が潜在リスクを回避するべく制動操作又は操舵操作を開始したときに、それに合わせて、装置による自動減速制御が開始されるようになっていてよい。また、死角領域の存在の検出から所定の時間が経過しても、運転者が制動操作又は操舵操作を実行しない場合には、自動減速制御が実行されるようになっていてよい。
【0028】
(2)制御の流れ
図2(C)を参照すると、本実施形態の装置による運転支援制御の処理作動に於いては、まず、車両の走行中に、環境認識部に於いて車両の周辺状況が監視され、死角領域の検出が実行される(ステップ1)。車両の周辺状況の監視は、車載カメラ70、レーダー装置72、GPS装置74等の車両周辺の情報を収集する装置を用いて、任意の態様にて実行されてよい。そして、これらのカメラ等で得られた情報に基づいて駐車車両や障害物、建物の角、見通しの悪い交差点等が認識されると、その背後に死角領域が存在するものとして認識され判定されてよい。
【0029】
死角領域の存在が判定されると、そこからの経過時間を表す時刻TがT=0にリセットされ、経過時間Tを計測しながら(ステップ2〜5)、死角領域の存在による潜在リスクを運転者に提示するための注意喚起表示の開始(ステップ3)と、運転者の運転操作のモニタリング(ステップ4)とが実行される。注意喚起表示処理に於いては、例えば、運転席正面のダッシュボード近傍に配置されるディスプレイ(図示せず)上にて、図3(A)に例示されている如き、歩行者等の飛び出しに対する注意を運転者に伝達するための視覚的な表示が提示される。その場合、好適には、死角領域の検出直後から時間経過と共に、表示の輝度或いは点滅速度を増大するなどして表示を強調し、潜在リスクの度合が次第に高くなることが表現されてよい。かかる構成により、運転者に対して、装置が潜在リスクの存在を認識しているという情報が共有され、装置の制御に対する意図が運転者に伝達されることとなる。
【0030】
運転者の運転操作のモニタリング(ステップ4)に於いては、運転者が潜在リスクを回避するための運転操作として、運転者によるブレーキペダルの踏込み或いはハンドル操作の有無が監視される。例えば、ブレーキペダルの踏込量θbが所定値θthを越えたとき、或いは、ハンドルの操舵角δの変化量が死角領域から離れる方向に所定角度δoを越えたとき、潜在リスク回避のための運転操作が在ったと判定されてよい。
【0031】
かくして、運転者の潜在リスク回避のための運転操作が検出されると、これに応答して、後述の態様にて、自動減速制御が実行される(ステップ6)。また、注意喚起表示が実行されているにも拘らず、潜在リスク回避のための運転操作が実行されない場合には、経過時間Tが所定値Tthを越えたとき、装置の判断により自動減速制御が実行される。なお、自動減速制御の実行中には、図3(B)の左に描かれている如き、減速制御の実行中である旨の表示が、例えば、運転席正面のダッシュボードの任意の部位に表示されてよい。そして、自動減速制御が終了したときには、図3(B)の右に描かれている如き、制御終了の表示が提示されてよい。
【0032】
更に、自動減速制御の実行中に於いては、車両の無用な加速を防止するため及び装置が減速制御の実行中であることを運転者に把握させるために、アクセルペダルの踏み込みに対して反力を付与する制御が実行されてよい。具体的には、自動減速制御の実行中に於いては、アクセルペダル開度Pを0にする方向に、下記の反力Fがアクセルペダルへ付与されてよい。
F=−Ka・P …(1)
Kaは、正の係数である。即ち、アクセルペダル開度Pが大きくなるほど、反力Fは、大きくなる。
【0033】
図4(A)、(B)を参照して上記の制御の一連の流れをまとめると、車両の走行中に死角領域が検出されると、Tが0にリセットされ、注意喚起表示が開始され、その輝度又は点滅速度Iが時間経過と共に増大されるなどして表示が次第に強調され、運転者がより確実に装置の検出した潜在リスクを認識し把握できるようにするための処理が実行される。そして、図4(A)に描かれている如く、運転者の運転操作が検出されると、その時点から、自動減速制御が実行され、車両に減速度aが付与され、車速Vの低減が図られる。一方、図4(B)に描かれている如く、死角領域の検出後、経過時間TがThに達したときには、運転者の運転操作が無くても、その時点から、自動減速制御が実行され、車両に減速度aが付与され、車速Vの低減が図られることとなる。
【0034】
なお、上記の一連の制御の実行中或いは自動減速制御の終了後に、死角領域から実際に歩行者等が飛び出して来た場合には、AEBシステムによる減速制御が実行されてよく、また運転者自身の制動操作又は操舵操作が期待されてよい。その場合、図3(C)に描かれている如く、注意喚起表示が潜在リスクを表示するものから、顕在化したリスク(歩行者等の飛び出し)を表す表示に変換されてよい。
【0035】
(3)自動減速制御
本実施形態の装置に於いて実行される自動減速制御は、図2(A)、(B)に関連して説明された如く、死角領域の存在が検出された際に、歩行者等が死角領域から飛出してくるかもしれないとのリスクを予測し、歩行者等の飛び出しが未検出の状態で、予め車両の減速を実行する制御である。実際、規範的な運転者であれば、図2(A)、(B)に例示された状況に於いて、死角領域を発見したときには、歩行者等の飛び出しのリスクを予測し、実際に歩行者等が飛び出してきたときにより確実に歩行者等との接触を回避できるように、歩行者等が未発見の状態でも、車両の減速が行われることが期待される。本実施形態の自動減速制御は、そのような規範的な運転者の運転を模擬した制御であるということができる。
【0036】
自動減速制御に於いては、潜在リスク予測ドライバモデルに基づくブレーキ制御支援が行われる。この場合、ブレーキ制御支援システムは、図1(B)に示す如く環境認識部、潜在リスク予測ドライバモデル部、支援実行決定部を備えている。潜在リスク予測ドライバモデルは、規範ドライバの減速操作を模擬できるポテンシャル関数と、そのポテンシャル関数を用いたリスク評価項と制御に用いる操作量項で定義される評価関数の最適化から算出される減速度を目標減速度とする。算出された目標減速度は、ペダルストローク量に変換される。ドライバが入力するペダルストローク量と支援システムが入力するペダルストローク量が比較され、高い方を選択するような協調制御を経て車両に入力される。
【0037】
1.環境認識部
環境認識センサ(カメラ)が、駐車車両、物陰、見通しの悪い無信号交差点等を検出するとき、見えていない歩行者等が飛び出すことを想定し、それに対するフラグを潜在リスク予測ドライバモデル部に入力する。
【0038】
2.潜在リスク予測ドライバモデル
環境認識部から制御フラグが潜在リスク予測ドライバモデル部に入力されるとき、目標減速度を算出する。
【0039】
仮想歩行者の斥力ポテンシャル関数が下記の通り定義される。
【数1】
Kpedは仮想歩行者の斥力ポテンシャルのばね定数を示し、Xst、Xfinはそれぞれ斥力を受ける最小X座標と最大X座標であり、減速開始位置と減速終了位置を示す。(図5(B)参照)
【0040】
[ばね定数の算出方法]
走行空間に於いて、仮想ばねによるポテンシャルエネルギと運動エネルギの合計が保存されるとき、
【数2】
となる。ここで、仮想歩行者の斥力ポテンシャルのばね定数Kpedは一定ではない。自車位置Xeと進入速度Vに応じてサンプリング周期毎に変化することが特徴である。
【0041】
式(2)に於けるVmin、Xfinは、それぞれ以下の式(3)、(4)から得られる。
【数3】
【数4】
【0042】
潜在リスク予測ドライバモデルに基づくブレーキ制御が終了する座標位置Xfinは、自車と駐車車両の側方間隔Ypassに基づいて算出される仮想歩行者の位置Ypedに応じて変わる。(図5(A)参照)ここでτxはAEBの反応時間(認識時間)を示し、またamaxはAEBの最大加速度を示す。即ち、歩行者が飛び出したときにAEBの作動によって衝突を回避するには、Xfinの作動位置でVminに減速しておく必要があることを意味する。
【0043】
[潜在リスク予測ドライバモデルの目標減速度の算出方法]
下記の式(5)に示す自車の予測位置における仮想歩行者との斥力ポテンシャルUpedと、目標減速度ax*の大きさのトレードオフを最適化することで、目標減速度ax*を決定する。
【数5】
ここで、評価関数は下記の式(6)で与えられる。
【数6】
【0044】
ただし、目標減速度の制約は、0≦ax(ix)≦axmaxである。
式(6)は、予測時間
【数7】
のもとでのリスクを表現するUpedの合算値と目標減速度の合算値が最小となる減速度を決定する。
【0045】
潜在リスク予測ドライバモデルの目標減速度ax*は、ペダルストローク量に変換される。
【数8】
ここで、Kff a: 加速度FFゲイン
KfbP a: 加速度FB比例ゲイン
KfbP V: 速度FB比例ゲイン
b: ストロークのあそび
【0046】
以上の説明は、本発明の実施の形態に関連してなされているが、当業者にとつて多くの修正及び変更が容易に可能であり、本発明は、上記に例示された実施形態のみに限定されるものではなく、本発明の概念から逸脱することなく種々の装置に適用されることは明らかであろう。
図1
図2
図3
図4
図5