【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
[Epicoccum nigrum種およびその近縁種の採取]
以下の実施例において用いたEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、以下の方法で、植物発芽根および種子から採取したものである。
0.6%次亜塩素酸で表面殺菌したニンジン(三寸人参)の種子を0.75%素寒天培地の上に播種し、20℃、蛍光灯下の条件で発芽させた。発芽根を火炎滅菌したハサミを用いて断片化し(0.5〜1cm程度)、腐葉土培地上に載せ、20℃、暗条件下において根から菌糸を発生させた。この分離源からは3種の菌株を分離した。また、表面殺菌したニンジン(三寸人参)の種子を腐葉土培地上に載せ、20℃、暗条件下において種子から菌糸を発生させた。この分離源からは1種の菌株を分離した。
【0034】
上記の採取区No.1〜4のそれぞれから、Epicoccum nigrum種およびその近縁種を採取した。
採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を明確に特定することはできないが、BLASTによる解析により同定を行った結果、各採取区で採取されたEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、
図1の分子系統樹において、それぞれ
図1に示した近縁種であることが確認された。
【0035】
[Epicoccum nigrum種およびその近縁種の培養]
上記の方法で各採取区から採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を、それぞれPDA寒天培地(ニッスイ製PDA培地)上に植菌し、pH5.6±0.2、温度25℃で培養した。
以下、各採取区No.1、No.2、No.3、No.4から採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を、上記の通りPDA培地で培養したものをそれぞれ「培養物No.1」「培養物No.2」「培養物No.3」「培養物No.4」と称し、それぞれの培養物を接触した評価土壌ないし培土をそれぞれ「接触区No.1」「接触区No.2」「接触区No.3」「接触区No.4」と称す。
【0036】
[実施例1:土壌改質効果の評価試験]
各評価土壌約40Lに米ぬか800mLを入れた培土に、培養物No.1〜No.3をそれぞれPDA培地ごと5mL添加した。土壌と菌体をよく混合した後、22〜27℃で2〜3週間放置した。なお土壌は、1週間に1回程度スコップで撹拌した。土壌表面および内部に各培養物No.1〜No.3のEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌糸が確認された後、その土壌200mLをポットに入れ、トマト苗(りんか409)を定植し、33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。
なお、評価土壌としては、黒土、赤玉+ピートモス(赤玉とピートモスの1:1の混合土壌。以下「赤玉+ピートモス」と記載する。)、マサ土(鳥取県のマサ土)、圃場土壌(埼玉県の野菜農家より採取した、水はけが悪く塩害が生じている実圃場土壌)を用いた。
【0037】
比較のため培養物No.1〜No.3を混合していない各土壌(非接種区)についても同様にして栽培を行った。
【0038】
栽培期間中、以下の方法で、各土壌の飽和透水係数と有効水分量を測定し、結果を表−1、
図2に示した。
【0039】
<飽和透水係数>
土壌飽和透水係数は、土壌環境分析法II.10 定水位法又は変水位法にて測定した。土壌は、各種土壌40Lに米ぬか800mLを入れ、PDA培地で培養した各種Epicoccum属及びその近縁種の菌体を接種し、22℃で3週間放置した。なお、土壌は1回/週スコップにて撹拌した。その後、トマト苗を定植し33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。栽培終了後、根を含めた苗を引き抜き、土壌形態をできるかぎり維持しながら土壌を取り出し上記測定方法にて評価した。なお、評価した赤玉/ピートモス、圃場土壌、マサ土、黒土の仮比重は、それぞれ0.47〜0.54、0.71〜0.8、0.99〜1.11、0.7〜0.9である。
【0040】
<有効水分量>
有効水分量は、土壌環境分析法II.9 加圧板法及び遠心法にて測定した。土壌は、各種土壌40Lに米ぬか800mLを入れ、PDA培地で培養した各種Epicoccum属及びその近縁種の菌体を接種し、22℃で3週間放置した。なお土壌は1回/週スコップにて撹拌した。その後トマト苗を定植し33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。栽培終了後、根を含めた苗を引き抜き、土壌形態をできるかぎり維持しながら土壌を取り出し上記測定方法にて評価した。なお、評価した赤玉/ピートモス、圃場土壌、マサ土、黒土の仮比重は、それぞれ0.47〜0.54、0.71〜0.8、0.99〜1.11、0.7〜0.9である。
【0041】
【表1】
【0042】
表−1、
図2に示した通り、各土壌は菌体を接種することで団粒化が進み、透水性および保水性を栽培に適した環境に改善することができた。
【0043】
[実施例2:高温・乾燥環境下におけるトマトの栽培試験]
評価土壌として、黒土、赤玉+ピートモス、マサ土(鳥取県のマサ土)、圃場土壌(埼玉県の野菜農家より採取した実圃場土壌)を用い、極めて高温環境(28〜38℃:表−2に示す環境条件−1)と高温環境(23〜33℃:表−3に示す環境条件−2)において、水分添加量を変えたトマトの高温環境および水分不足環境での耐性評価を実施した。
【0044】
まず、評価土壌毎に、以下の方法で培土を作製した(接触区No.1〜No.3)。
赤玉/ピートモス培土:赤玉20Lとピートモス20Lの混合土壌に、米ぬか1L、8−8−8化成肥料(粉砕品)4g、および、培養物No.1〜No.3をPDA培地ごとそれぞれ10mL添加して混合した後、25℃で2週間放置した。
マサ土、黒土、圃場土壌:各土壌10Lに、米ぬか500mL、8−8−8化成肥料(粉砕品)1g、および、培養物No.1〜No.3をPDA培地ごとそれぞれ2.5mL添加して混合した後、25℃で2週間放置した。
また、比較のため、それぞれの土壌に、培養物No.1〜No.3の替わりに、菌体を繁殖させていないPDA培地(ニッスイ製)を10mL添加して混合した後、25℃で2週間放置したものを作製した(非接触区)。
【0045】
培養中の経過は、接種区No.1〜No.3では3〜5日程度で、接種菌と推察される菌糸状の物質が土壌表面を覆うように繁殖し、容器の壁面の一部にEpicoccum nigrum種およびその近縁種独特の赤〜茶色の代謝物質が目視で確認された。培土を一部採取し、水に懸濁させたところ赤〜茶色に着色したことから、接種菌が土壌内で繁殖できているものと判断した。
【0046】
その後、トマト苗(桃太郎ファイト(トヨハシ種苗))を、上記で作製した各培土200mLの黒ポットに1本ずつ12本定植した。定植した苗はグロースチャンバー内で2週間環境条件を変えて栽培し、生育度状況を観察し、結果(12本中、萎れ、黄化、枯れが生じた本数)を表−4、表−5に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
表-4、表−5に示す通り、高温環境および低水分環境における栽培条件で、菌体接種区は、非接種区に比べ、萎れ、黄化、枯れの症状が大幅に低減できることが判明した。
【0052】
[実施例3:高温環境下における実圃場でのトマト栽培試験]
実圃場での評価のため、360m
2のビニールハウス内の圃場内で、圃場土壌(野菜栽培)をポット当たり100L入れ、トマト苗(桃太郎ヨーク)をポット当たり1株定植し、非接種区と接種区とで生育度を比較する試験を行った。
接触区No.1、No.2では上記のトマト苗定植時に各培養物No.1、No.2をそれぞれPDA培地ごと2.5mL添加し、その上にトマト苗を定植した。非接触区では培養物を添加せずにトマト苗を定植した。
接触区No.1、No.2および非接触区の評価ポットはそれぞれ13個(13株)作製した。
【0053】
気温は天候の成り行きとし、水分は生育状況に応じ添加した。なお水分量は、ポット間で差がでないように同一日、同一量となるよう添加した。
【0054】
トマト苗の茎丈と気温の経日変化を図−3に示す。なお、茎丈は、地表面から測定し、13本の平均値を算出した。
図3に示す通り、気温が9.7〜44.7℃と大きく変動する環境下において、接触区No.1,No.2は非接種区に比べ、高い生育度を示した。
【0055】
[実施例4:植物の側根の増加と生長促進の評価試験]
各種野菜の育苗は、育苗期間における根の張り方でその後の栽培生育度が大きく変わることから、本試験では、種子から発芽、育苗期間における根の生長具合を評価することを目的として、55日間の育苗試験を行った。
【0056】
培養物No.1〜No.3に適量の殺菌水を添加し、滅菌スパーテル・チップ等で培地上の菌糸を掻き集め、そこにトマト(桃太郎ヨーク)の種子を4時間置くことで、菌の種子感染による接種を行った。菌が接種された種子を、200mLの培土が充填されたポットに播種し、25℃の温室内で発芽・栽培させた。
培土としては、黒土+赤玉土+ピートモス混合培土(黒土:赤玉土:ピートモスの1:1:1の混合土壌)、および市販園芸培土(サカタスーパーミックスA)を用いた。
【0057】
55日後の根の側根数を表−6に示す。また、トマト地上部(茎丈の長さ)の変化を
図4,5に示す。なお、根の側根数は、栽培後に根が切断しないように培土を解体して計測した。
【0058】
【表6】
【0059】
表−6より明らかなように、各培土において、非接種区に比べ接種区No.1〜No.3は、側根数に10〜71%の増加が認められた。
また、
図4,5より、地上部の生育度は非接種区と接種区No.1〜No.3は大きく変わらず、生育を阻害しないことが確認された。
【0060】
また、市販園芸培土に関しては、一部の植物体を栽培開始後29日目に16Lの培土(園芸培土+赤玉土+黒土(園芸培土:赤玉土:黒土の1:1:1の混合土壌))へ移植し、その後42日間栽培した。栽培後に植物を解体し、地上部の1株当たりの湿重量を測定した。
結果は表−7に示す通り、本発明に係る菌体を接種し、側根が増加した苗は、非接種の苗に比べ、生長度の増加が確認され、Epicoccum nigrum種およびその近縁種の接種により、植物の側根数が増加すると共に生育度が向上することが確認された。
【0061】
【表7】
【0062】
[実施例5:フザリウム属菌が蔓延した土壌に対する病害低減効果の評価試験]
埼玉県の複数種の野菜を栽培している圃場で、水はけの悪さからフザリウム属菌による障害が頻発している土壌100Lをポットに入れ、米ぬか1Lと、培養物No.1〜No.4をそれぞれPDA培地ごと約5mLを添加し、7週間程度放置した。その後、ミニ大根(四季姫:渡辺交配製)をポットに2列に播種し、ビニールハウス内で栽培した(接触区No.1〜No.4)。
比較のため培養物No.1〜No.4を添加していないものについても同様に栽培を行った(非接触区)。
灌水は生育状況を見ながら、全てのポットで同一量の水分になるよう添加した。生育状況に応じ1ポット当たり6本になるよう間引きを行い、3ヶ月間栽培を行った。その後、全本収穫し、表面を水で洗い流し、大根表面の皮をむき、全表面積を測定し、大根のフザリウム属菌障害特有のクレーター状およびあばた状の症状が発症している箇所の表面積を割り出し、感染率を算出した。
この結果、表−8に示す通り、非接触区に比べ、接種区は、発症率が大きく低下していることが確認された。
【0063】
【表8】