特許第6384087号(P6384087)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6384087
(24)【登録日】2018年8月17日
(45)【発行日】2018年9月5日
(54)【発明の名称】植物の栽培方法
(51)【国際特許分類】
   C09K 17/32 20060101AFI20180827BHJP
   A01N 63/02 20060101ALI20180827BHJP
   A01P 3/00 20060101ALI20180827BHJP
   C05F 11/08 20060101ALI20180827BHJP
   A01G 7/00 20060101ALI20180827BHJP
   A01M 99/00 20060101ALI20180827BHJP
   A01N 63/00 20060101ALI20180827BHJP
【FI】
   C09K17/32 H
   A01N63/02 P
   A01P3/00
   C05F11/08
   A01G7/00 605A
   A01G7/00 602Z
   A01M99/00
   A01N63/00 F
【請求項の数】1
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2014-71587(P2014-71587)
(22)【出願日】2014年3月31日
(65)【公開番号】特開2015-193708(P2015-193708A)
(43)【公開日】2015年11月5日
【審査請求日】2017年2月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(72)【発明者】
【氏名】青木 哲也
(72)【発明者】
【氏名】青野 俊裕
【審査官】 井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】 特開平02−160684(JP,A)
【文献】 特開平11−060419(JP,A)
【文献】 特開2000−308418(JP,A)
【文献】 特表2012−513376(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/109795(WO,A1)
【文献】 特開2005−137330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 17/00− 17/52
C05B 1/00− 21/00
C05C 1/00− 13/00
C05D 1/00− 11/00
C05F 1/00− 17/02
C05G 1/00− 5/00
A01M 99/00
A01N 1/00− 65/48
A01P 1/00− 23/00
A01G 1/00− 17/18
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を用いて植物を生育させる土壌を処理して、該土壌について土壌環境分析法II.10 定水位法又は変水位法にて測定される飽和透水係数を8.5×10−5〜2.7×10−4m/s、土壌環境分析法II.9 加圧板法及び遠心法にて測定される有効水分量を85〜108L/mすることを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、植物種子および植物発芽根由来のEpicoccum nigrum種およびその近縁種に分類され、根圏土壌改質による環境影響低減、植物の生長促進および土壌伝染性病害の低減機能を有する当該微生物を利用した植物の根圏改質材と植物の栽培方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球の温暖化に伴う気温上昇や極端な気温変化が農作物の生育を大きく阻害している。特に30℃を大きく超えるような高温環境では、野菜の生育が悪く、収穫物の品質が低下する。
【0003】
従来、高温対策としては、ハウス栽培では、生育に影響の出ない程度の遮光・水の噴霧や送風機による送風の強化などが行われているが、近年の異常高温の対応としては不十分であり、水の噴霧を強化すると病原菌の繁殖に繋がる。一方、露地栽培では有力な対応策が見出されていない。
【0004】
また、局地的な雨量増加のために、水はけがあまり良くない圃場では、水が長期間滞留し、土壌伝染性病害が蔓延するケースがある。特にフザリウム属菌による土壌伝染性病害は被害が大きく、各作物の萎凋病を引き起こすことが知られている。
【0005】
従来、これらの病害対策として、臭化メチルなどの化学農薬が使用されているが、地球温暖化因子としての制限を受けている上に、散布時の安全性に懸念があり、残留農薬の問題も孕んでいる。
【0006】
従来、微生物を利用した病害対策として、特許文献1には、植物の根部に感染、共生する能力を有し、かつ感染、共生した植物に発病する土壌伝染性病害を防除する効果を有する、糸状菌SD−F06菌株(FERM BP−10841)又はその変異株を利用した植物の土壌伝染性病害防除資材が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4969961号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、化学農薬を用いずに、高温環境での気候変動による影響や土壌伝染性病害の影響を低減することができる植物の根圏改質資材と、これを利用した植物の生育安定性に寄与する栽培方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するため、本発明者らが鋭意検討した結果、各種植物の種子表面および種子内、発芽根表面および内部に生育しているEpicoccum nigrum種およびその近縁種に分類される微生物が、根圏土壌を改質して環境による悪影響を低減して植物の生長を促進し、また、土壌伝染性病害菌に対して抵抗力を示すことから病害を抑制することができることを見出した。また、本発明者らは、当該微生物株を再現性良く単離、同定することに成功した。
本発明は、この微生物株が有する土壌改質能、植物の環境変動に対する抵抗性の向上による植物の成長促進機能、および土壌伝染性病害菌に対する抵抗性能による病害発症率の低減効果を利用するものであって、以下を要旨とする。
【0010】
[1] 植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を含有することを特徴とする植物の根圏改質資材。
【0011】
[2] 農業向け資材であることを特徴とする[1]に記載の植物の根圏改質資材。
【0012】
[3] 植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を含有することを特徴とする肥料。
【0013】
[4] 植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を用いて植物を生育させる土壌を処理することを特徴とする植物の栽培方法。
【0014】
[5] 植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を、植物の種子に接種させて播種することを特徴とする植物の栽培方法。
【0015】
[6] 植物根圏の土壌改質効果を有し、土壌伝染性病害を防除する効果を有するEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌株、胞子またはその培養物を、植物の根に接種させて定植することを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る植物種子および植物発芽根由来のEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、優れた増殖性能により高い土壌改質効果および植物の生育促進機能と高い土壌伝染性病害菌抵抗性能を有している。従って、本発明に係るEpicoccum nigrum種およびその近縁種を利用することによって、
(1) 優れた植物の生育促進作用を有する植物生育促進剤の提供
(2) 土壌伝染性病害の効果的な防除
(3) 当該微生物を活用した農薬量、灌水量の低減、並びに農薬散布等の手間、コストの削減
(4) 当該微生物を活用した、低農薬・無農薬の安全性の高い野菜の生産
といった優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】ITS−5.8SrDNA塩基配列を用いた分子系統樹図である。左下の線はスケールバーを示す。
図2】実施例1における土壌改質効果の試験結果を示すグラフである。
図3】実施例3における生育度の試験結果を示すグラフである。
図4】実施例4における生育度の試験結果を示すグラフである。
図5】実施例4における生育度の試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
【0019】
<Epicoccum nigrum種およびその近縁種>
本発明に関わる微生物は、Epicoccum nigrum種およびその近縁種に分類され、根圏土壌改質による植物生育促進機能および土壌伝染性病害に対する抵抗性を有する微生物である。
【0020】
植物種子および植物発芽根由来の菌体の分離は次のようにして行うことができる。
植物の種子を純水または70%エタノールで表面洗浄した後、0.6%次亜塩素酸(市販のキッチンハイターを10倍希釈したもので代用できる)に5分間浸漬し、蒸留滅菌水で3回以上(場合によっては10回)洗浄することで種子の表面殺菌を行う。種子そのものを分離源とする場合、表面殺菌された種子を、腐葉土抽出液に1.5%寒天を添加して作製した腐葉土培地に静置し、種子由来から菌糸を発生させる。また、発芽根を分離源とする場合、表面殺菌された種子を0.75%素寒天培地の上に播種し、各植物に適した条件下(温度・光)で発芽させる。この発芽根を火炎滅菌したハサミを用いて断片化し(0.5〜1cm程度)、腐葉土培地上に載せ、根から菌糸を発生させる。なお、腐葉土培地の代わりに1.5%素寒天培地を使用することも可能である。発生した菌糸は、滅菌爪楊枝でPDA培地へと移植し、菌糸を増殖させる。なお、種子表面に付着している菌を分離していないことの確認方法としては、表面殺菌後の洗浄液を1.5%寒天培地に撒布し、菌糸が発生しないことで確認した。
【0021】
このようにして得られるEpicoccum nigrum種およびその近縁種の分子系統樹を図1に示す。
【0022】
本発明に係るEpicoccum nigrum種およびその近縁種を、植物生育促進材、土壌伝染性病害対策のための農業向け資材などとして使用する場合、例えばポテトデキストロース(PDA)寒天培地、麦芽エキス寒天培地、オートミール寒天培地などの上に上記菌体を接種して培養する。その際に、寒天培地上のコロニーが褐色〜淡赤色となったことで培養による菌体の繁殖を確認することができる。このときの培養条件は、培地pH6〜8、培養温度20〜30℃、特に23〜28℃が望ましい。また、米ぬか、でんぷんに直接菌体を接種し、培養の状況に応じて水分を添加し、麹化したものを使用することもできる。
なお、本発明に係るEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、栄養細胞および胞子の何れの状態で使用しても良い。
【0023】
以上のように培養された本発明に係るEpicoccum nigrum種およびその近縁種を使用する場合、菌体を単独で使用しても良いが、他の任意成分を配合して特定の製剤としても用いてもよい。製剤の形態としては、液剤、粉剤、粒剤、乳剤、油剤、懸濁剤、水和剤、水溶剤、ペースト剤、カプセル剤、エアゾール剤等を挙げることができる。
【0024】
液剤の担体としては、りん酸緩衝液、炭酸緩衝液等が挙げられる。固体担体としては、カオリン、粘土、珪藻土などの天然鉱物、珪酸、珪酸塩などの合成鉱物、セルロース、ゼラチン、アルギン酸などの高分子天然物、界面活性剤としては、非イオン性、陽イオン性、陰イオン性および両イオン性のものが使用できる。
【0025】
本発明の植物の根圏改質資材の使用方法については特に制限はなく、剤型等の使用形態、作物や病害、圃場形態などによって適宜選択される。例えば、液剤・固剤の地上散布、水面施用、施設内施用、土壌混和施用による方法や、表面処理による方法として例えば本菌体が繁殖した寒天上に種子を置き、30分以上、例えば2〜4時間程度接種後、播種する方法;菌体を懸濁した水に植物の苗根を接種させて定植する方法;などの方法が挙げられる。また、土壌に施用する場合は、本資材を土壌に施用してから栽培植物を定植しても良く、また栽培植物を植えた後に本資材を土壌に施用してもよい。
【0026】
また、本発明の植物の根圏改質資材を用いる際には、菌体の生育促進補助ないしは有機質肥料として、家畜堆肥、腐葉土、でんぷん、米ぬか、魚粉などの有機物を併用して、土壌などに添加することが望ましく、その添加量は土壌量に対して好ましくは5容量%以下、例えば0.5〜5容量%であり、これらと同時に本資材を添加することが望ましい。
【0027】
以下に、本発明の植物の根圏改質資材を適用することによる効果をより具体的に示す。
【0028】
<根圏土壌改質による環境負荷抵抗性の向上効果>
本発明に関わるEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、これを土壌に添加すると、土壌内で増殖する工程で菌糸を生産することで、土壌粒子の団粒化を促進する。また菌体の呼吸により生じた水分が団粒化が進んだ土壌内で包含されるため、植物が効率よく水分を吸収することができるようになる上に、高温環境における土壌乾燥に対して著しい抵抗性を持つことができるようになる。
【0029】
<土壌改質による植物の生育促進効果>
本発明に係るEpicoccum nigrum種およびその近縁種の土壌改質効果を利用することにより、上記のような植物根圏の土壌の団粒化および水分供給機能で、植物に対して水分や養分を効率よく供給するのみならず、高温における耐乾燥性を向上させることができる。つまり、本発明によるEpicoccum nigrum種およびその近縁種を土壌改質材、根圏改質材、植物生育促進材として使用することができる。
【0030】
<側根数増加による生育促進効果>
本発明に関わるEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、植物の側根数を向上させる効果があり、植物根の表面積および生重量が増加させることができ、また、植物は根圏の水分および養分を効率良く吸収できるようになる。つまり、本発明に関わるEpicoccum nigrum種およびその近縁種の植物への接種により、植物の生育促進や耐乾燥性を促進させることが可能となる。
【0031】
<土壌伝染性病害菌に対する抵抗性>
本発明の関わるEpicoccum nigrum種およびその近縁種の代謝により土壌内で産出された代謝物は、土壌伝染性病害菌、例えばフザリウム属菌に対して抵抗性を示し、土壌伝染性病害を効果的に低減し、しかもその際に植物の生長を阻害しない。
【実施例】
【0032】
以下に実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。
【0033】
[Epicoccum nigrum種およびその近縁種の採取]
以下の実施例において用いたEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、以下の方法で、植物発芽根および種子から採取したものである。
0.6%次亜塩素酸で表面殺菌したニンジン(三寸人参)の種子を0.75%素寒天培地の上に播種し、20℃、蛍光灯下の条件で発芽させた。発芽根を火炎滅菌したハサミを用いて断片化し(0.5〜1cm程度)、腐葉土培地上に載せ、20℃、暗条件下において根から菌糸を発生させた。この分離源からは3種の菌株を分離した。また、表面殺菌したニンジン(三寸人参)の種子を腐葉土培地上に載せ、20℃、暗条件下において種子から菌糸を発生させた。この分離源からは1種の菌株を分離した。
【0034】
上記の採取区No.1〜4のそれぞれから、Epicoccum nigrum種およびその近縁種を採取した。
採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を明確に特定することはできないが、BLASTによる解析により同定を行った結果、各採取区で採取されたEpicoccum nigrum種およびその近縁種は、図1の分子系統樹において、それぞれ図1に示した近縁種であることが確認された。
【0035】
[Epicoccum nigrum種およびその近縁種の培養]
上記の方法で各採取区から採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を、それぞれPDA寒天培地(ニッスイ製PDA培地)上に植菌し、pH5.6±0.2、温度25℃で培養した。
以下、各採取区No.1、No.2、No.3、No.4から採取したEpicoccum nigrum種およびその近縁種を、上記の通りPDA培地で培養したものをそれぞれ「培養物No.1」「培養物No.2」「培養物No.3」「培養物No.4」と称し、それぞれの培養物を接触した評価土壌ないし培土をそれぞれ「接触区No.1」「接触区No.2」「接触区No.3」「接触区No.4」と称す。
【0036】
[実施例1:土壌改質効果の評価試験]
各評価土壌約40Lに米ぬか800mLを入れた培土に、培養物No.1〜No.3をそれぞれPDA培地ごと5mL添加した。土壌と菌体をよく混合した後、22〜27℃で2〜3週間放置した。なお土壌は、1週間に1回程度スコップで撹拌した。土壌表面および内部に各培養物No.1〜No.3のEpicoccum nigrum種およびその近縁種の菌糸が確認された後、その土壌200mLをポットに入れ、トマト苗(りんか409)を定植し、33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。
なお、評価土壌としては、黒土、赤玉+ピートモス(赤玉とピートモスの1:1の混合土壌。以下「赤玉+ピートモス」と記載する。)、マサ土(鳥取県のマサ土)、圃場土壌(埼玉県の野菜農家より採取した、水はけが悪く塩害が生じている実圃場土壌)を用いた。
【0037】
比較のため培養物No.1〜No.3を混合していない各土壌(非接種区)についても同様にして栽培を行った。
【0038】
栽培期間中、以下の方法で、各土壌の飽和透水係数と有効水分量を測定し、結果を表−1、図2に示した。
【0039】
<飽和透水係数>
土壌飽和透水係数は、土壌環境分析法II.10 定水位法又は変水位法にて測定した。土壌は、各種土壌40Lに米ぬか800mLを入れ、PDA培地で培養した各種Epicoccum属及びその近縁種の菌体を接種し、22℃で3週間放置した。なお、土壌は1回/週スコップにて撹拌した。その後、トマト苗を定植し33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。栽培終了後、根を含めた苗を引き抜き、土壌形態をできるかぎり維持しながら土壌を取り出し上記測定方法にて評価した。なお、評価した赤玉/ピートモス、圃場土壌、マサ土、黒土の仮比重は、それぞれ0.47〜0.54、0.71〜0.8、0.99〜1.11、0.7〜0.9である。
【0040】
<有効水分量>
有効水分量は、土壌環境分析法II.9 加圧板法及び遠心法にて測定した。土壌は、各種土壌40Lに米ぬか800mLを入れ、PDA培地で培養した各種Epicoccum属及びその近縁種の菌体を接種し、22℃で3週間放置した。なお土壌は1回/週スコップにて撹拌した。その後トマト苗を定植し33〜23℃のグロースチャンバー内で栽培した。栽培終了後、根を含めた苗を引き抜き、土壌形態をできるかぎり維持しながら土壌を取り出し上記測定方法にて評価した。なお、評価した赤玉/ピートモス、圃場土壌、マサ土、黒土の仮比重は、それぞれ0.47〜0.54、0.71〜0.8、0.99〜1.11、0.7〜0.9である。
【0041】
【表1】
【0042】
表−1、図2に示した通り、各土壌は菌体を接種することで団粒化が進み、透水性および保水性を栽培に適した環境に改善することができた。
【0043】
[実施例2:高温・乾燥環境下におけるトマトの栽培試験]
評価土壌として、黒土、赤玉+ピートモス、マサ土(鳥取県のマサ土)、圃場土壌(埼玉県の野菜農家より採取した実圃場土壌)を用い、極めて高温環境(28〜38℃:表−2に示す環境条件−1)と高温環境(23〜33℃:表−3に示す環境条件−2)において、水分添加量を変えたトマトの高温環境および水分不足環境での耐性評価を実施した。
【0044】
まず、評価土壌毎に、以下の方法で培土を作製した(接触区No.1〜No.3)。
赤玉/ピートモス培土:赤玉20Lとピートモス20Lの混合土壌に、米ぬか1L、8−8−8化成肥料(粉砕品)4g、および、培養物No.1〜No.3をPDA培地ごとそれぞれ10mL添加して混合した後、25℃で2週間放置した。
マサ土、黒土、圃場土壌:各土壌10Lに、米ぬか500mL、8−8−8化成肥料(粉砕品)1g、および、培養物No.1〜No.3をPDA培地ごとそれぞれ2.5mL添加して混合した後、25℃で2週間放置した。
また、比較のため、それぞれの土壌に、培養物No.1〜No.3の替わりに、菌体を繁殖させていないPDA培地(ニッスイ製)を10mL添加して混合した後、25℃で2週間放置したものを作製した(非接触区)。
【0045】
培養中の経過は、接種区No.1〜No.3では3〜5日程度で、接種菌と推察される菌糸状の物質が土壌表面を覆うように繁殖し、容器の壁面の一部にEpicoccum nigrum種およびその近縁種独特の赤〜茶色の代謝物質が目視で確認された。培土を一部採取し、水に懸濁させたところ赤〜茶色に着色したことから、接種菌が土壌内で繁殖できているものと判断した。
【0046】
その後、トマト苗(桃太郎ファイト(トヨハシ種苗))を、上記で作製した各培土200mLの黒ポットに1本ずつ12本定植した。定植した苗はグロースチャンバー内で2週間環境条件を変えて栽培し、生育度状況を観察し、結果(12本中、萎れ、黄化、枯れが生じた本数)を表−4、表−5に示した。
【0047】
【表2】
【0048】
【表3】
【0049】
【表4】
【0050】
【表5】
【0051】
表-4、表−5に示す通り、高温環境および低水分環境における栽培条件で、菌体接種区は、非接種区に比べ、萎れ、黄化、枯れの症状が大幅に低減できることが判明した。
【0052】
[実施例3:高温環境下における実圃場でのトマト栽培試験]
実圃場での評価のため、360mのビニールハウス内の圃場内で、圃場土壌(野菜栽培)をポット当たり100L入れ、トマト苗(桃太郎ヨーク)をポット当たり1株定植し、非接種区と接種区とで生育度を比較する試験を行った。
接触区No.1、No.2では上記のトマト苗定植時に各培養物No.1、No.2をそれぞれPDA培地ごと2.5mL添加し、その上にトマト苗を定植した。非接触区では培養物を添加せずにトマト苗を定植した。
接触区No.1、No.2および非接触区の評価ポットはそれぞれ13個(13株)作製した。
【0053】
気温は天候の成り行きとし、水分は生育状況に応じ添加した。なお水分量は、ポット間で差がでないように同一日、同一量となるよう添加した。
【0054】
トマト苗の茎丈と気温の経日変化を図−3に示す。なお、茎丈は、地表面から測定し、13本の平均値を算出した。
図3に示す通り、気温が9.7〜44.7℃と大きく変動する環境下において、接触区No.1,No.2は非接種区に比べ、高い生育度を示した。
【0055】
[実施例4:植物の側根の増加と生長促進の評価試験]
各種野菜の育苗は、育苗期間における根の張り方でその後の栽培生育度が大きく変わることから、本試験では、種子から発芽、育苗期間における根の生長具合を評価することを目的として、55日間の育苗試験を行った。
【0056】
培養物No.1〜No.3に適量の殺菌水を添加し、滅菌スパーテル・チップ等で培地上の菌糸を掻き集め、そこにトマト(桃太郎ヨーク)の種子を4時間置くことで、菌の種子感染による接種を行った。菌が接種された種子を、200mLの培土が充填されたポットに播種し、25℃の温室内で発芽・栽培させた。
培土としては、黒土+赤玉土+ピートモス混合培土(黒土:赤玉土:ピートモスの1:1:1の混合土壌)、および市販園芸培土(サカタスーパーミックスA)を用いた。
【0057】
55日後の根の側根数を表−6に示す。また、トマト地上部(茎丈の長さ)の変化を図4,5に示す。なお、根の側根数は、栽培後に根が切断しないように培土を解体して計測した。
【0058】
【表6】
【0059】
表−6より明らかなように、各培土において、非接種区に比べ接種区No.1〜No.3は、側根数に10〜71%の増加が認められた。
また、図4,5より、地上部の生育度は非接種区と接種区No.1〜No.3は大きく変わらず、生育を阻害しないことが確認された。
【0060】
また、市販園芸培土に関しては、一部の植物体を栽培開始後29日目に16Lの培土(園芸培土+赤玉土+黒土(園芸培土:赤玉土:黒土の1:1:1の混合土壌))へ移植し、その後42日間栽培した。栽培後に植物を解体し、地上部の1株当たりの湿重量を測定した。
結果は表−7に示す通り、本発明に係る菌体を接種し、側根が増加した苗は、非接種の苗に比べ、生長度の増加が確認され、Epicoccum nigrum種およびその近縁種の接種により、植物の側根数が増加すると共に生育度が向上することが確認された。
【0061】
【表7】
【0062】
[実施例5:フザリウム属菌が蔓延した土壌に対する病害低減効果の評価試験]
埼玉県の複数種の野菜を栽培している圃場で、水はけの悪さからフザリウム属菌による障害が頻発している土壌100Lをポットに入れ、米ぬか1Lと、培養物No.1〜No.4をそれぞれPDA培地ごと約5mLを添加し、7週間程度放置した。その後、ミニ大根(四季姫:渡辺交配製)をポットに2列に播種し、ビニールハウス内で栽培した(接触区No.1〜No.4)。
比較のため培養物No.1〜No.4を添加していないものについても同様に栽培を行った(非接触区)。
灌水は生育状況を見ながら、全てのポットで同一量の水分になるよう添加した。生育状況に応じ1ポット当たり6本になるよう間引きを行い、3ヶ月間栽培を行った。その後、全本収穫し、表面を水で洗い流し、大根表面の皮をむき、全表面積を測定し、大根のフザリウム属菌障害特有のクレーター状およびあばた状の症状が発症している箇所の表面積を割り出し、感染率を算出した。
この結果、表−8に示す通り、非接触区に比べ、接種区は、発症率が大きく低下していることが確認された。
【0063】
【表8】
図1
図2
図3
図4
図5