【実施例】
【0035】
実験例1
本実験例では、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)から、その溶液中におけるアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を推定することができ、その結果、あるアスファルテンにおいて、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)を指標とすれば、凝集を抑制・緩和するのに最適な溶媒を選定することができることを説明する。
(1)アスファルテン溶液試料の調製
アスファルテン試料として、SAGD法で採掘されたカナダのアサバスカビチュメンの脱瀝残渣に含まれるトルエン可溶−ヘプタン不溶成分(C:81.6wt%、H:7.4wt%、N:1.3wt%、S:8.5wt%,O及び他の元素:1.2wt%)を用いた。
上記アスファルテンを、100mg/溶媒1リットル、200mg/溶媒1リットル、500mg/溶媒1リットルの濃度となるように、以下の10種のトルエン系溶媒に加えて撹拌し、10分間の超音波処理後に一晩放置して均一溶液を調製した。5分間の超音波処理直後に可視光透過挙動を測定した。
【0036】
[使用溶媒]
・キノリン100容量%からなる溶媒
・トルエン50容量%、キノリン50容量%からなる溶媒
・ブロモホルム100容量%からなる溶媒
・トルエン50容量%、ブロモホルム50容量%からなる溶媒
・トルエン90容量%、ブロモホルム10容量%からなる溶媒
・ブロモベンゼン100容量%からなる溶媒
・トルエン60容量%、ブロモベンゼン40容量%からなる溶媒
・トルエン80容量%、ブロモベンゼン20容量%からなる溶媒
・トルエン100容量%からなる溶媒
・トルエン95容量%、ペンタン5容量%からなる溶媒
・トルエン90容量%、ペンタン10容量%からなる溶媒
・トルエン90容量%、ペンタン15容量%からなる溶媒
・トルエン80容量%、ペンタン20容量%からなる溶媒
・テトラヒドロフラン100容量%からなる溶媒
・トルエン50容量%、ペンタン50容量%からなる溶媒
【0037】
(2)アスファルテンの凝集度(Mw/r
6)の算出
各溶液の可視光透過挙動を吸光度で評価するために、常温、大気圧下で瞬間測光システム(大塚電子、MCPD3000)を用いて各波長の透過率を測定した。測定条件は、以下のとおりとした。
・光学セルの光路長b:10(mm)
・光源:ハロゲンランプ
・波長λ:600〜800(nm)
・散乱角:180度
・露光時間:107ミリ秒
・積算回数:64回
【0038】
各波長における透過率(I/I
0:I
0は入射光強度、Iは透過光強度を表す)より、次式により吸光度Aを求めた。
A=−log
10(I/I
0)
波長に対し十分に小さい球形粒子(半径r)におけるレーリー散乱は、下記式のように表される。下記式よりMw/r
6を求めた。
【数3】
(式中、bは光路長(10mm)、Cは濃度、λは波長、Mwは凝集体の分子量、mは凝集体の相対屈折率(凝集体の屈折率/溶媒の屈折率)である。)
【0039】
上記式より、縦軸に吸光度、横軸に波長の−4乗をプロットしたグラフを描くと、レーリー散乱に従う場合、直線関係が見られる。その直線の傾きkは下記式(k)で表される。
【数4】
【0040】
測定例として、
図3にトルエン中で測定した吸光度と波長の−4乗の関係を図示したグラフを示す。
尚、凝集体の相対屈折率は1.7と仮定できるので、溶媒の屈折率の値を用いて、凝集体の相対屈折率mを算出する。例えば、溶媒としてトルエンを用いる場合、トルエンの屈折率は1.5であるので、凝集体の相対屈折率mは、下記のとおり計算できる。
m=1.7/1.5=1.13
【0041】
実施例で測定した波長の−4乗に対する吸光度の傾きk、各溶媒の屈折率、凝集体の相対屈折率m、及び計算によって求めたアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を表1に示す。
【0042】
【表1】
【0043】
表記載の使用溶媒は以下の溶媒を表す。
・「QL」:キノリン100容量%からなる溶媒
・「TL−QL50」:トルエン50容量%、キノリン50容量%からなる溶媒
・「BF」:ブロモホルム100容量%からなる溶媒
・「TL−BF50」:トルエン50容量%、ブロモホルム50容量%からなる溶媒
・「TL−BF10」:トルエン90容量%、ブロモホルム10容量%からなる溶媒
・「BB」:ブロモベンゼン100容量%からなる溶媒
・「TL−BB40」:トルエン60容量%、ブロモベンゼン40容量%からなる溶媒
・「TL−BB20」:トルエン80容量%、ブロモベンゼン20容量%からなる溶媒
・「TL」:トルエン100容量%からなる溶媒
・「TL−PT5」:トルエン95容量%、ペンタン5容量%からなる溶媒
・「TL−PT10」:トルエン90容量%、ペンタン10容量%からなる溶媒
・「TL−PT15」:トルエン90容量%、ペンタン15容量%からなる溶媒
・「TL−PT20」:トルエン80容量%、ペンタン20容量%からなる溶媒
・「THF」:テトラヒドロフラン100容量%からなる溶媒
・「TL−PT50」:トルエン50容量%、ペンタン50容量%からなる溶媒
【0044】
(3)アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)の算出
アスファルテンのHSPは、Redeliusらの報告値(δ
dAS=19.6MPa
0.5、δ
pAS=3.4MPa
0.5、δ
hAS=4.4MPa
0.5)を使用した(Redelius,P.,Energy Fuels,18,1087(2004).参照。)。
トルエン、キノリン、ブロモホルム、ペンタン、ブロモベンゼン及びテトラヒドロフランのHSP値は、Hansenの報告値を使用した(Hansen,C.M.,Hansen solubility parameters:a user’s handbook.2nd ed.;CRC:Boca Raton;London,(2007)参照)。
混合溶媒については、各溶媒のHSP値から上述した式(2)〜(4)を用いて計算した。
【0045】
各溶媒とアスファルテンのHSP差(Δδ)は、上述した式(1)によって求めた。
使用溶媒のHSP、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)及びアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を表2に示す。また、ΔδとMw/r
6をプロットしたグラフを
図2に示す。
【0046】
【表2】
【0047】
図2から、(Δδ)と(Mw/r
6)には相関関係があることがわかる。
図2の関係を使用することにより、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)から、その溶液中におけるアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を推定することができる。
その結果、あるアスファルテンにおいて、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)を指標にすれば、その凝集を抑制・緩和するのに最適な溶媒を選定することができる。
【0048】
実験例2
本実験例では、アスファルテンの凝集度(Mw/r
6)が、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)、又は当該Δδ及びアスファルテンの濃度により影響されることを説明する。また、その結果、Δδ、又はΔδ及びアスファルテンの濃度を指標とすれば、凝集を抑制・緩和するのに最適な溶媒を選定することができることを説明する。
(1)アスファルテン溶液試料の調製
アスファルテン試料として、SAGD法で採掘されたカナダのアサバスカビチュメンの脱瀝残渣に含まれるトルエン可溶−ヘプタン不溶成分(C:81.6wt%、H:7.4wt%、N:1.3wt%、S:8.5wt%,O及び他の元素:1.2wt%)を用いた。
上記アスファルテンの濃度が、20mg/溶媒1リットル、500mg/溶媒1リットル、10,000mg/溶媒1リットル、100,000mg/溶媒1リットルとなるように、以下の溶媒に加えて撹拌し、10分間の超音波処理後に一晩放置して均一溶液を調製した。5分間の超音波処理直後に可視光透過挙動を測定した。
【0049】
[使用溶媒]
・トルエン50容量%、キノリン50容量%からなる溶媒
・ブロモベンゼン100容量%からなる溶媒
・トルエン60容量%、ブロモベンゼン40容量%からなる溶媒
・トルエン80容量%、ブロモベンゼン20容量%からなる溶媒
・トルエン100容量%からなる溶媒
・トルエン95容量%、ペンタン5容量%からなる溶媒
・トルエン90容量%、ペンタン10容量%からなる溶媒
・トルエン90容量%、ペンタン15容量%からなる溶媒
・トルエン80容量%、ペンタン20容量%からなる溶媒
・テトラヒドロフラン100容量%からなる溶媒
【0050】
(2)アスファルテンの凝集度(Mw/r
6)の算出
実験例1と同様とした。但し、濃度が10,000mg/溶媒1リットルの場合は光路長0.65mm、濃度が100,000mg/溶媒1リットルの場合は光路長0.14mmのセルを用いた。
アスファルテン濃度が、20mg/溶媒1リットル、10,000mg/溶媒1リットル、及び100,000mg/溶媒1リットルの場合について、測定した波長の−4乗に対する吸光度の傾きk、用いた各溶媒の屈折率、凝集体の相対屈折率m、及び計算によって求めたアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を表3〜5に示す。
【0051】
【表3】
【0052】
【表4】
【0053】
【表5】
【0054】
(3)アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)の算出
実験例1と同様とした。各濃度の場合について、使用溶媒のHSP、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)及び先に求めたアスファルテンの凝集度(Mw/r
6)を表6〜表8に示す。
【0055】
【表6】
【0056】
【表7】
【0057】
【表8】
【0058】
(4)実験例2の結果のまとめ
各濃度におけるΔδとMw/r
6をプロットしたグラフを
図4に示す。
図4から、アスファルテン濃度を変化させても、(Δδ)と(Mw/r
6)には相関関係があることがわかる。
また、アスファルテンと該アスファルテンの凝集を抑制又は緩和するために用いる溶媒における、各々のハンセン溶解度指数の差(Δδ)が6.0以下となるように溶媒を選定することが好ましいことがわかる。
さらに、該溶媒の濃度を100,000mg/溶媒1リットル以下とし、かつ該アスファルテンと該溶媒における、各々のハンセン溶解度指数の差(Δδ)が4.0以下となるように溶媒を選定することが好ましいことがわかる。
【0059】
実験例3
本実験例では、アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)が6程度を示す溶媒種としては、いかなる化合物が該当するかについて説明する。
(1)アスファルテン溶液試料の調製
アスファルテン試料として、SAGD法で採掘されたカナダのアサバスカビチュメンの脱瀝残渣に含まれるトルエン可溶−ヘプタン不溶成分(C:81.6wt%、H:7.4wt%、N:1.3wt%、S:8.5wt%,O及び他の元素:1.2wt%)を用いた。
上記アスファルテンを、500mg/溶媒1リットルの濃度となるように、表9に示す単一溶媒に加えて撹拌し、10分間の超音波処理後に一晩放置して均一溶液を調製した。
【0060】
(2)アスファルテンと溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)の算出
実験例1と同様とした。アスファルテンと各溶媒とのハンセン溶解度指数差(Δδ)を表9に示す。
【0061】
【表9】
【0062】
(3)実験例3の結果のまとめ
表9から、アスファルテンと溶媒における、各々のハンセン溶解度指数の差(Δδ)が概ね6.0以下となるような溶媒の具体例がわかる。これらの化合物自体は公知のものであるが、これらが、アスファルテンの凝集を緩和、抑制する作用を持ち、アスファルテンの凝集を緩和又は抑制する材料として用いられうることは、これまで知られておらず、本発明により初めて明らかにされたものである。