(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6396902
(24)【登録日】2018年9月7日
(45)【発行日】2018年9月26日
(54)【発明の名称】かき揚げの製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 35/00 20160101AFI20180913BHJP
A23L 5/10 20160101ALI20180913BHJP
A23L 19/00 20160101ALI20180913BHJP
A23L 3/36 20060101ALI20180913BHJP
【FI】
A23L35/00
A23L5/10 D
A23L19/00 A
A23L3/36 A
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2015-524562(P2015-524562)
(86)(22)【出願日】2014年8月11日
(86)【国際出願番号】JP2014071220
(87)【国際公開番号】WO2015059985
(87)【国際公開日】20150430
【審査請求日】2017年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2013-218792(P2013-218792)
(32)【優先日】2013年10月22日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小島 和子
(72)【発明者】
【氏名】瀬齊 雄士
(72)【発明者】
【氏名】入江 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】西出 辰徳
【審査官】
北田 祐介
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−259059(JP,A)
【文献】
特開2002−306141(JP,A)
【文献】
特開平07−123933(JP,A)
【文献】
特開2007−166950(JP,A)
【文献】
特開平10−117705(JP,A)
【文献】
特開昭61−209556(JP,A)
【文献】
特開平07−170920(JP,A)
【文献】
特開2000−050816(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 35/00
A23L 5/10
A23L 3/36
A23L 19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
千切り野菜を含む種物100質量部に対して、固形分として30〜50質量部となる範囲で衣原料を付着させる衣原料付着工程と、
前記衣原料が付着した種物に、最終製品の水分含有率が10質量%以下となるように、油ちょうを含む加熱処理を施す加熱工程と、
前記加熱工程を経た種物を冷凍する冷凍工程とを有し、
前記衣原料付着工程において、前記種物に前記衣原料としての小麦粉を付着させた後、さらに該衣原料としてのバッターを付着させ、該バッターは小麦粉及び水を含有し、
前記油ちょうにおける油温が135℃以上155℃以下であり、
前記加熱処理は熱風乾燥処理を含み、該熱風乾燥処理において前記油ちょうを経た前記種物を、ジェット噴射式加熱装置を用いて、120℃を超えて145℃以下の温度で熱風乾燥する、かき揚げの製造方法。
【請求項2】
前記小麦粉が湿熱処理小麦粉である請求項1に記載のかき揚げの製造方法。
【請求項3】
前記衣原料における前記湿熱処理小麦粉の含有量が50〜95質量%である請求項1又は2に記載のかき揚げの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、かき揚げの製造方法に関する。かき揚げは、天ぷらの一種であり、野菜、魚介類等の種物(具材)に衣原料を付着させたものを油ちょうした食品である。
【背景技術】
【0002】
かき揚げにおいて、種物を包む衣には、サクサクした食感(サクミ)や香ばしい風味が求められる。しかし、油ちょう直後は衣にサクミや風味があっても、時間経過と共に衣に包まれた種物中の水分が該衣に移行し、喫食時にサクミや風味が薄れてしまう傾向があり、これを防止し、油ちょう直後と同様の食感や風味が得られる技術が求められている。斯かる事情は、油ちょう済み冷凍かき揚げについても同じである。油ちょう済み冷凍かき揚げは、油ちょう後のかき揚げを冷凍保存したもので、通常、オーブンや電子レンジ等を用いて解凍調理することにより食に供される。
【0003】
特許文献1には、野菜類を主たる種物とするかき揚げの製造方法として、特定の前処理を経た種物100重量部に対して5〜20重量部の衣原料を混合し、この混合物を食用油で水分が7重量%以下となるように、当初160〜200℃の高温油、次に120〜160℃の低温油、最後に140〜180℃の中温油に接触通過させてフライ処理(油ちょう)した後、含油量が70重量%以下となるように、フライ処理を経た種物を120℃以下で熱風乾燥することにより脱油処理する方法が開示されている。特許文献1記載の方法によれば、製品の長期保存性を維持しつつ、種物の主要材料である野菜類の褐変を防ぐことができるとされている。
【0004】
また特許文献2には、解凍・調理した場合に油ちょう直後の揚げ物と同様のサクミや風味を有する、油ちょう済み冷凍揚げ物の製造方法として、種物に特定の衣原料を付着させた後、これを油ちょうし、更に、ジェットオーブン等のジェット噴射式加熱装置で加熱した後冷凍する方法が開示されている。特許文献2記載の野菜類を種物とする実施例では、油ちょうを175〜180℃で2分間とし、また、ジェット噴射式加熱装置による加熱を190℃で2.5分間としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−170920号公報
【特許文献2】特開2008−228607号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、種物100質量部に対して、固形分として30〜50質量部となる範囲で衣原料を付着させ、その衣原料が付着した種物に、最終製品の水分含有率が10質量%以下となるように、油ちょうを含む加熱処理を施す工程を有する、かき揚げの製造方法である。
【発明を実施するための形態】
【0007】
特許文献1記載のかき揚げの製造方法は、種物に対し、油温の異なる3種類の食用油を用いて連続的に3段階の油ちょうを行うため、製造装置の大型化や複雑化、製造コストの高騰等の不都合を招くおそれがある。また、特許文献2記載のかき揚げの製造方法は、油ちょうの際の油温が約180℃と比較的高温であり、しかも、油ちょう後のジェット噴射式加熱装置による加熱温度も190℃と比較的高温であるため、種物が焦げて衣の揚げ色が濃くなり、好ましくない食感や外観を招くおそれがある。
【0008】
本発明は、外観、食感及び保形性に優れ、且つ冷凍保存を含む保存後であっても斯かる優れた特性が維持される、かき揚げの製造方法に関する。
【0009】
本発明のかき揚げの製造方法は、種物に衣原料を付着させる衣原料付着工程と、該衣原料付着工程を経た種物に加熱処理を施す加熱工程とを含んで構成される。必要に応じ、加熱工程を経た種物(かき揚げ)を冷凍する冷凍工程を含ませることもできる。
【0010】
本発明で用いる種物は、最終製品であるかき揚げにおいて衣に包まれる具材であり、この種の天ぷら食品において種物として使用可能なものを特に制限なく用いることができ、野菜類の他、エビ、イカ、キス、アジ等の魚介類、牛肉、豚肉、鶏肉等の畜肉類、及びこれらの加工品等を用いることができる。本発明は、種物として野菜類を使用した場合に特に有効である。野菜類としては、例えば、サツマイモ、カボチャ、ニンジン、ゴボウ、レンコン、タマネギ、ネギ、ナス、アスパラガス、三つ葉、春菊の他、マイタケ・シイタケ・マツタケ・エノキタケ・ブナシメジ・エリンギ等のキノコ類が挙げられる。以上はあくまでも例示であって、本発明で用いる種物はこれらに限定されるものではない。
【0011】
本発明のかき揚げの製造方法は、種物が千切り野菜を含む場合に特に有効であり、千切り野菜の如き、比較的厚みが薄く火が通りやすい種物であっても、これを焦がさずに、外観、食感及び保形性に優れたかき揚げを製造できる。尚、本明細書において、「千切り野菜」には、三つ葉、春菊等のいわゆる葉物野菜を適当な大きさ(長さ)に寸切りしたものも含まれる。千切りのサイズは、長手方向の長さが好ましくは30〜50mm、更に好ましくは30〜40mmであり、該長手方向に直交する方向(幅方向、厚み方向)の長さが、好ましくは2〜5mm、更に好ましくは2〜3mmである。種物の一部が千切り野菜であってもよく、全部が千切り野菜であってもよい。
【0012】
前記衣原料付着工程において、種物に衣原料を付着させる方法は特に制限されず、一回の付着処理で衣原料を種物に付着させてもよく、複数回に分けて付着させてもよい。種物に衣原料を付着させる方法の一例として、種物に衣原料としての打ち粉を付着させた後、更に、衣原料としてのバッターを付着させる方法が挙げられる。バッターは、穀粉を主成分とする粉体のバッターミックス(衣原料)に水を適宜添加、混合して調製することができる。打ち粉及びバッターの付着処理は常法に従って行うことができ、例えば、打ち粉の場合は、打ち粉を種物に直接押し付けたりふりかけたりする等して、いわゆる「打ち粉をまぶした状態」にして付着させることができ、バッターの場合は、液状であることから、バッター中に種物を浸したり、バッターを種物に塗布又は噴霧して付着させることができる。この方法のように、バッターを付着させる前に予め種物に打ち粉を付着させておくと、種物への衣の結着性が良好になり、食感が一層向上し得る。打ち粉は、通常、種物の表面全体にまんべんなく付着させる。前記の「打ち粉をまぶした状態」は、打ち粉が種物の表面全体にまんべんなく付着した状態を意味し、この状態には、種物の表面全体が打ち粉で被覆されている状態のみならず、種物の表面の一部に打ち粉が付着していない部分が存在するものの、全体的に打ち粉が付着している状態も含まれる。
【0013】
衣原料として使用する打ち粉とバッターミックスとには、成分上の区別は無く、どちらであっても主成分として穀粉を用いることができる。穀粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉;トウロモコシ澱粉、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉;澱粉にα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉;米粉等が挙げられ、これら穀粉の1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。必要に応じ、穀粉以外の他の成分、例えば、卵白粉、卵黄粉、全卵粉、蛋白質、ベーキングパウダー、油脂、各種糖類、増粘剤、食塩、調味料、色素、香辛料、乳化剤、デキストリン、食物繊維等を含有させることができる。これらの他の成分も衣原料である。
【0014】
衣原料(打ち粉、バッター)として小麦粉を用いる場合、湿熱処理小麦粉が好ましく用いられる。湿熱処理小麦粉は、小麦粉に水又は水蒸気を加え加熱処理する湿熱処理によって得られるもので、この湿熱処理により、小麦粉に含まれるグルテンが変性し、澱粉が糊化する。衣原料に湿熱処理小麦粉を用いると、これを油ちょうして得られる衣のサクミが増すという効果が奏される。湿熱処理小麦粉の製造方法としては、例えば、1)密閉型容器内に加水した小麦粉を充填した後、飽和水蒸気を用いて加圧状態で加熱処理する方法、2)一軸又は二軸型エクストルーダーを用いて小麦粉を加水・加熱混練する方法、等が挙げられる。例えば、薄力小麦粉を、適宜加水調整した後、アルミパウチに封入密閉し、飽和水蒸気を用いて加圧(1気圧)状態で加熱処理(例えば、110〜130℃で、10〜20分間)することにより、湿熱処理小麦粉を得ることができる。湿熱処理小麦粉としては、特開2008−67675号記載の湿熱処理小麦粉を用いることもできる。衣原料における湿熱処理小麦粉の含有量は、好ましくは50〜95質量%である。
【0015】
前記衣原料付着工程においては、種物100質量部に対して、固形分として30〜50質量部、好ましくは37〜50質量部、更に好ましくは37〜43質量部となる範囲で衣原料を付着させる。即ち、本発明においては、種物の質量に対する衣原料の固形分の質量の割合〔=(衣原料の固形分の質量/種物の質量)×100〕(以下、衣原料固形分付着率ともいう)を30〜50質量%に設定する。衣原料固形分付着率が30質量%未満では、かき揚げの衣が薄く、衣が種物どうしを繋ぐ効果に乏しく、かき揚げの保形性が低下するおそれがある。また本発明においては、後述するように、特に食感(サクミ)の観点から、最終製品であるかき揚げの水分含有率を10質量%以下に調整するところ、衣原料固形分付着率が50質量%を超えると、水分抜けが悪くなり、この水分含有率10質量%以下を実現するのが困難になる。衣原料固形分付着率の調整は、衣原料(打ち粉、バッター)の使用量、付着方法、バッターであれば、更にバッターの粘度等を適宜調整することにより調整可能である。
【0016】
前記加熱工程においては、前記衣原料付着工程を経た、衣原料が付着した種物に対し、加熱処理として少なくとも油ちょうを施す。油ちょうは、種物を油中で加熱して揚げる処理(フライ処理)であり、常法に従って実施することができる。油ちょうに使用する油は特に制限されず、各種食用油を用いることができる。前記加熱工程は、油ちょう以外の他の加熱処理を含んでいてもよく、即ち加熱処理を複数回行ってもよいが、油ちょうは1回だけ行うのが好ましい。特許文献1記載の方法のように、油ちょうを複数回行うことは、製造装置の大型化や複雑化を伴い、生産性が低下するおそれがある。
【0017】
前記加熱工程においては、衣原料が付着した種物に、最終製品であるかき揚げの水分含有率が10質量%以下となるように、油ちょうを含む加熱処理を施す。即ち、最終製品の水分含有率が10質量%以下となるように、本発明に係る加熱処理の条件〔加熱温度(加熱時の品温)、加熱時間、加熱方法等〕を適宜設定する。尤も、最終製品の水分含有率は、加熱処理の条件のみならず、その加熱処理の対象物である、衣原料が付着した種物の構成自体の影響も受けるところ、本発明ではその点を考慮し、前述したように、衣原料固形分付着率を前記特定範囲に設定している。最終製品の水分含有率が10質量%を超えると、サクミが無くなって食感の低下を招くおそれがある。一方、最終製品の水分含有率が低すぎると、食感が硬くなり過ぎてしまうおそれがある。最終製品の水分含有率は、好ましくは9質量%以下、更に好ましくは7〜9質量%である。最終製品の水分は、常圧加熱乾燥法にて、水分測定対象の最終製品を85℃で15時間加熱乾燥後の質量を測定し、その乾燥質量測定値を用い、乾燥前の最終製品の質量に基づいて常法に従って算出した。
【0018】
本発明に係る加熱処理において、油ちょうにおける油温は、好ましくは135℃以上155℃以下、更に好ましくは140℃以上150℃以下である。油ちょうにおける油温を斯かる特定範囲に設定することで、過加熱による揚げ色の濃色化に起因するかき揚げの外観の悪化を効果的に防止しつつ、最終製品の水分含有率10質量%以下をより確実に実現することが可能となる。特に種物が野菜主体である場合、野菜の水分を抜くために、油ちょうにおける油温を135℃未満の低温帯に設定すると、油切れが悪く、かき揚げの食感及び風味が好ましくないものとなるおそれがあり、逆に、該油温を155℃を超える高温帯に設定すると、種物が焦げて衣の色が濃くなり、かき揚げの食感及び外観が好ましくないものとなるおそれがある。尚、油ちょう時間は、かき揚げのサイズ等に応じて適宜設定すればよい。
【0019】
本発明に係る加熱処理は、油ちょうのみを含む形態であってもよく、油ちょうに加えて更に他の加熱処理を含む形態であってもよい。本発明に係る加熱処理において油ちょうと併用し得る他の加熱処理としては、熱風乾燥処理が挙げられる。熱風乾燥処理は、加熱圧力空気を対象となる食品(かき揚げ)に衝突させて直接加熱する処理であるため、食材(種物)の新鮮さや風味を損なわず、油切れの良い仕上がりとなるため、本発明で好ましく用いられる。熱風乾燥処理は、ジェット噴射式加熱装置を用いて実施することができる。ジェット噴射式加熱装置は、一般に、加熱した空気に圧力をかけて、これを加熱対象の食品の上下から吹き付けるように構成されており、ジェットオーブンとも呼ばれる。市販のジェット噴射式加熱装置として、リンカーン社製の「インピンジャー」を挙げることができる。
【0020】
本発明に係る加熱処理が油ちょう及び熱風乾燥処理を含む場合、熱風乾燥処理の特性を最大限に活かす観点から、油ちょう後に熱風乾燥処理を施すことが好ましく、特に、油ちょうを経た種物(かき揚げ)を、120℃を超えて160℃以下の温度で熱風乾燥することが好ましい。即ち、油ちょうを含む加熱処理済みの種物(かき揚げ)に、120℃を超えて160℃以下の熱風を当ててこれを乾燥するのが好ましい。熱風乾燥処理の温度(熱風の温度)は、好ましくは120℃を超えて145℃以下、更に好ましくは120℃を超えて130℃以下である。尚、熱風乾燥処理時間は、かき揚げのサイズ等に応じて適宜設定すればよい。
【0021】
本発明のかき揚げの製造方法は、前記衣原料付着工程及び加熱工程に加えて更に、油ちょうを含む加熱処理済みの種物(かき揚げ)を冷凍する冷凍工程を含んでいてもよい。この冷凍工程は、この種の天ぷら食品の冷凍法を適宜利用して実施することができ、急速冷凍でもよく、緩慢冷凍でもよい。冷凍工程を経て得られた最終製品である冷凍かき揚げは、常温帯若しくはチルド温度帯での自然解凍、又は、オーブンや電子レンジ等を用いて解凍調理することにより食に供される。
【実施例】
【0022】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は実施例によって制限されるものではない。
【0023】
〔実施例1〕
かき揚げの具材(種物)となるニンジン、ゴボウ、タマネギ、春菊を用意し、ニンジン、ゴボウ、タマネギは、それぞれ、植物繊維を細断しないように3mm角(厚み方向及び幅方向の長さがそれぞれ3mm)で且つ長手方向長さ30mmの千切りにし、春菊は5mm長に寸切りして、野菜の種物を調製した。調製した種物に、打ち粉(衣原料)として、種物質量に対して15質量%の天ぷら粉をまぶした後、該種物と所定の衣原料固形分付着率になるように調整したバッターとを混合し(前記衣原料付着工程)、しかる後、なたね油を張った手揚げ式フライヤーを用い、衣原料が付着した種物を、油温145℃で6分間油ちょうした(前記加熱工程)。油ちょうには、市販のかき揚げリング(リング直径10cm)を用い、このリング内に、衣原料が付着した種物を100g入れて油ちょうし、直径10cm、高さ(厚さ)2.5cmのかき揚げを製造した。油ちょう後、フライヤーからかき揚げを金網で掬い上げ十分に油きりをした後、冷凍機(ホシザキ電気株式会社製、「FR−603D−S形」)で急速凍結(設定温度:−30℃)し、野菜のみを種物とした冷凍かき揚げを得た。こうして得られた冷凍かき揚げを−18℃の冷凍庫で1ヶ月間保存した。
【0024】
実施例1で打ち粉として使用した天ぷら粉の組成は次の通り。湿熱処理小麦粉(85.2質量%)、ベーキングパウダー(1.2質量%)、加工でん粉(10質量%)、全卵粉(0.2質量%)、乳化剤(0.3質量%)、トレハロース(2質量%)、食塩(1質量%)、クチナシ色素(0.1質量%)。また、実施例1で使用したバッターは、実施例1で打ち粉として使用した天ぷら粉をバッターミックスとして用いたもので、天ぷら粉100質量部に対して冷水130質量部を加え(加水率130質量%)、その混合物をミキサーで攪拌することにより調製した。
【0025】
〔実施例2〜4及び比較例1〜2〕
衣原料固形分付着率を変更した以外は実施例1と同様にして冷凍かき揚げを得、これを−18℃の冷凍庫で1ヶ月間保存した。
【0026】
〔実施例5〜7及び比較例3〕
油ちょうにおける油温を変更した以外は実施例1と同様にして冷凍かき揚げを得、これを−18℃の冷凍庫で1ヶ月間保存した。
【0027】
〔実施例8〜11及び比較例4〕
油ちょう時間を4分間とし、且つ油ちょう後に油切りした種物(かき揚げ)に対し、ジェット噴射式加熱装置である連続式ジェットオーブン(リンカーン社製、「インピンジャー」)を用いて、該種物の上下から所定温度の熱風を噴射加熱する熱風乾燥処理を施した。以上の点以外は実施例1と同様にして冷凍かき揚げを得、これを−18℃の冷凍庫で1ヶ月間保存した。
【0028】
〔評価〕
各実施例及び比較例の冷凍かき揚げを電子レンジで解凍・調理して、パネラー10名により、下記評価基準に従い外観、食感、保形性についての官能評価を行った。その評価結果(10名のパネラーの平均点)を下記表1〜表3に示す。尚、表1は、各評価項目に対する衣原料固形分付着率の影響をまとめたものであり、表2は、油ちょうにおける油温の影響をまとめたものであり、表3は、熱風乾燥処理の影響をまとめたものである。また各表には、比較容易の観点から、実施例3の結果を再掲している。
【0029】
(外観の評価基準)
5点:揚げ色が非常に薄く、具材の色が鮮明。
4点:揚げ色が薄く、具材の焦げはほとんど無い。
3点:揚げ色がやや濃く、具材の焦げが認められる。
2点:揚げ色が濃く、具材の一部が焦げている。
1点:揚げ色が非常に濃く、具材の大部分が焦げている。
(食感の評価基準)
5点:非常にサクミがあり、引き(硬さ)を全く感じない。
4点:サクミがあり、引きを感じない。
3点:ややサクミに欠け、若干引きが感じられる。
2点:サクミが無く、引きが感じられる。
1点:サクミが全く無く、引きが強く感じられる。
(保形性の評価基準)
5点:保形性が非常に良い。
4点:保形性が良い。
3点:保形性がやや悪い。
2点:保形性が悪く、具材が固まらない。
1点:保形性が非常に悪く、具材が全く固まらない。
【0030】
【表1】
【0031】
表1から明らかなように、比較例1及び2は、衣原料固形分付着率が前記特定範囲(30〜50質量%)から外れているため、衣原料固形分付着率が前記特定範囲内にある各実施例に比して低評価となった。特に比較例1は、衣原料固形分付着率が前記特定範囲の下限値(30質量%)未満であるため、仕上がりの衣が薄く、具材同士を繋ぐ効果に劣り、保形性に劣る結果となった。また比較例2は、衣原料固形分付着率が前記特定範囲の上限値(50質量%)を超えているため、水分抜けが悪く、加熱処理が油ちょうのみでは、最終製品の水分含有率を10質量%以下にすることができず、食感に劣る結果となった。
【0032】
【表2】
【0033】
表2から明らかなように、比較例3は、加熱処理が油ちょうのみで且つその油温が130℃と比較的低温であることに起因して、加熱不十分となって水分抜けが悪く、そのため、最終製品の水分含有率を10質量%以下にすることができず、食感に劣る結果となった。また、実施例7は、加熱処理が油ちょうのみで且つその油温が160℃と比較的高温であることに起因して、過加熱となって揚げ色が濃く焦げたような状態となり、外観に劣る結果となった。
【0034】
【表3】
【0035】
表3から明らかなように、比較例4は、実施例3に比して油ちょう時間が4分間と短いにもかかわらず、油ちょう後に熱風乾燥処理を行っていないため、加熱不十分となって水分抜けが悪く、そのため、最終製品の水分含有率を10質量%以下にすることができず、食感に劣る結果となった。また、実施例8〜11の対比により、熱風乾燥処理が170℃(実施例8)では揚げ色が濃くなって外観に劣る結果となるが、120℃を超えて160℃以下の範囲(実施例9〜11)であれば、冷凍保存後であっても外観、食感及び保形性に優れるかき揚げが得られることがわかる。尚、評価に参加したパネラーのうちの数名から、熱風乾燥処理を行わなかった実施例3とこれを行った実施例11とでは、実施例11の方が油切れの良い仕上がりであったとの評価が聞かれた。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、外観、食感及び保形性に優れ、且つ冷凍保存を含む保存後であっても斯かる優れた特性が維持される、かき揚げを、製造装置の大型化や複雑化を招かずに、既存の設備を用いて効率良く製造することができる。保形性とは、かき揚げの崩れ易さの指標となるもので、保形性が悪いと、油ちょう後にかき揚げを油中から掬い上げた後で、かき揚げが崩れてバラバラになってしまうおそれがある。例えば、本発明の製造方法の実施により得られたかき揚げを冷凍保存した後、電子レンジ等で解凍・調理した場合、油ちょう直後と同等の衣の食感(サクミ)を有し、且つ種物(具材)の食感並びに衣の外観及び風味に優れるかき揚げが得られる。