(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明に係る実施形態について説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0031】
本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法は、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液から貴金属を活性炭吸着により回収する方法である。この回収方法は、前記回収液を含む水溶液に、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物を添加することによって、前記有機化合物が添加された添加後液を調製する添加工程と、前記添加後液を、所定の活性炭を含む活性炭層を通過する工程(通過工程)と、前記活性炭層を、前記活性炭を通過した添加後液から分離する工程(分離工程)とを備える。そして、通過工程で用いられる活性炭層に含まれる活性炭は、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位と0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位との差の絶対値が0〜25mVであり、且つ細孔半径1nm以下の細孔容積が、45〜500mm
3/gである。なお、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液とは、本実施形態に係る回収方法における通過工程に供される水溶液であって、スズと貴金属とを含有する水溶液である、塩酸酸性の回収液である。例えば、スズ化合物と貴金属化合物とを含有する水溶液による無電解めっきの核付け工程で使用した後の塩酸酸性液、及び水洗工程で排出される水洗廃液等が挙げられる。
【0032】
このような方法によれば、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液を活性炭に接触させて、貴金属を回収する方法において、処理対象物である水溶液に、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物を添加するだけで、貴金属の回収率を高めることができる。よって、上記の方法によれば、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液から、簡便な方法で、効率的に貴金属を回収することができる。また、前記有機化合物を添加した添加後液を活性炭層に通過させることによって、活性炭層に含まれる活性炭に吸着された貴金属は、その後に、添加後液等の液体が活性炭層を通過しても、活性炭から容易には脱離しない。このことからも、貴金属の回収率を高めることができる。これらのことから、上記のような回収方法は、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液から、簡便な方法で、効率的に貴金属を回収することができる。
【0033】
本実施形態に係る回収方法における添加工程は、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液に対して、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物を添加することができれば、特に限定されない。添加工程としては、具体的には、有機化合物が後述する濃度となるように、有機化合物を水溶液に添加する工程等が挙げられる。
【0034】
また、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物は、分子中にカルボキシ基を少なくとも1個以上有する有機化合物であれば、特に限定されない。また、前記有機化合物は、分子中に含まれるカルボキシ基の数が、上述したように、1分子当たり1個以上であれば、よく、2個以上であることが好ましい。また、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物は、例えば、ジカルボン酸やヒドロキシ酸等のカルボン酸が挙げられる。このカルボン酸は、炭素数が6以下であることが好ましく、2〜6であることがより好ましい。また、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物としては、具体的には、蟻酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、アクリル酸、マレイン酸、グルタル酸、アジピン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、酒石酸、及びクエン酸等が挙げられる。前記有機化合物としては、例示の化合物の中でも、蟻酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸、及びクエン酸が好ましく、蟻酸、シュウ酸、酒石酸、及びクエン酸がより好ましい。また、前記有機化合物は、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物は、分子中にカルボキシル基を少なくとも1個以上有していればよく、分子中に、カルボキシル基以外に、水酸基や不飽和結合等を有するものであってもよい。
【0035】
本実施形態に係る回収方法における処理対象物は、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であれば、特に限定されない。貴金属の濃度が低くても、本実施形態に係る回収方法であれば、高い回収率で回収することができる。具体的には、前記水溶液の貴金属濃度は、特に限定されないが、1000mg/L以下であれば、効率良く吸着回収できる点で、好ましい。すなわち、前記調整液の貴金属濃度は、前記水溶液の貴金属濃度とほぼ同様であるので、1000mg/L以下であることが好ましい。また、これらの貴金属濃度は、0.1〜1000mg/Lであることが好ましく、0.1〜500mg/Lであることがより好ましく、0.1〜100mg/Lであることがさらに好ましい。また、貴金属の含有量が多くても、回収できるが、充分に回収しようとすると、活性炭を多量に必要とする場合がある。このことは、貴金属の含有量が多いと、活性炭の細孔を、急速に吸着する貴金属で閉塞して、飽和吸着量が減ってしまうこと等によると考えられる。
【0036】
また、本実施形態に係る回収方法における通過工程に供される水溶液は、貴金属を含み、さらに、無機酸を含み、酸濃度が0.8mol/L未満である水溶液であることが好ましい。本発明者等の検討によれば、回収工程に供される水溶液として、無機酸を含み、酸濃度が高いと、貴金属の回収率が高まることを見出している。これに対して、水溶液の酸濃度を比較的低い状態にしても、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法を用いることによって、すなわち、前記有機化合物を添加することによって、貴金属の、高い回収率を実現できる。よって、酸濃度が0.8mol/L未満と、酸濃度をあえて高めなくても、貴金属の、高い回収率を実現できる。なお、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法によれば、酸濃度が比較的高くても、当然に、貴金属の、高い回収率を実現できる。
【0037】
また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液には、貴金属及びスズ(Sn)の他に、他の金属、無機塩や有機物等が含まれていてもよい。本実施形態に係る回収方法によれば、これらの貴金属以外の成分が含まれていても、効率良く活性炭に貴金属を吸着できる。また、鉄、ニッケル、及び銅等の卑金属が混在していても、本実施形態に係る回収方法を利用して、貴金属を効率的に回収することができる。また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液には、水に加えて、他の溶媒、例えば、エタノールやイソプロパノール等のアルコール類、アセトン等のケトン類等の親水性溶媒等を含んでいても差し支えない。
【0038】
塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液としては、具体的には、貴金属を含むめっき触媒付与剤に浸漬させた後の被めっき処理物を水洗して得られる水洗廃液である、使用済み触媒回収液やリンス槽の廃液等が挙げられる。このような水洗廃液は、貴金属の濃度が高くはなく、従来、貴金属の回収にあまり用いられていなかった。本実施形態に係る回収方法であれば、このような水洗廃液からも、含有する貴金属を効率的に回収することができる。
【0039】
前記貴金属は、特に限定されず、例えば、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、及びルテニウム(Ru)等が挙げられる。また、前記水洗廃液は、めっき触媒付与剤由来の貴金属を含有する。めっき触媒付与剤は、例えば、無電解めっきを施すためのめっき触媒を、被めっき処理物に付与するための薬剤等が挙げられる。より具体的には、塩化パラジウムと塩化第一スズとを含む塩酸酸性溶液等の、パラジウム(Pd)とスズ(Sn)とを含む塩酸酸性溶液(PdとSnとが共存する塩酸酸性Pd−Sn溶液)等が挙げられる。なお、パラジウム(Pd)とスズ(Sn)とを含む塩酸酸性溶液を、めっき触媒付与剤として用いた場合の、水洗廃液を、PdSn触媒廃液とも呼ぶ。このような水洗廃液を、本実施形態に係る回収方法における処理対象物とすることで、めっき触媒として用いられるパラジウムを回収することができ、非常に有意義である。この点から、貴金属としては、パラジウムが好ましい。また、無電解めっきを施す際に用いられるめっき触媒付与剤として、パラジウム(Pd)とスズ(Sn)とを含む塩酸酸性溶液が、一般的に用いられる。このため、貴金属がパラジウムであって、他の金属がスズであることが好ましい。すなわち、この比較的一般的に用いられる、パラジウム(Pd)とスズ(Sn)とを含む塩酸酸性溶液を用いた場合における水洗廃液であるPdSn触媒廃液から、貴金属としてパラジウムを回収できる点で、非常に有意義である。また、貴金属を含有する水溶液としては、前記例示の貴金属を1種のみ含有するものであってもよいし、2種以上を含有するものであってもよい。
【0040】
また、前記添加工程後の、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液である添加後液の、前記有機化合物の濃度は、上述したように、貴金属の回収率が高まるような濃度であれば、特に限定されない。前記濃度としては、例えば、前記有機化合物として、シュウ酸又は酒石酸を用いた場合は、0.5〜1.1mol/Lであることが好ましく、0.6〜1mol/Lであることがより好ましく、0.7〜0.9mol/Lであることがさらに好ましい。また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液に、貴金属以外の他の金属を含む場合、具体的には、前記めっき触媒付与剤が、前記貴金属以外の他の金属を含む場合は、前記添加工程後の、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液(添加後液)の、前記有機化合物の濃度が、以下のような濃度が好ましい。前記濃度としては、具体的には、前記水溶液中の、前記他の金属に対する前記有機化合物の含有量が、モル比で、0.3〜5倍となる濃度であることが好ましい。このモル比が、上述したように、0.3〜5倍であることが好ましく、0.5〜4倍であることがより好ましく、0.7〜3倍であることがさらに好ましい。また、前記濃度が低すぎると、前記有機化合物を添加することによる、貴金属の回収率の向上効果を充分に発揮できない傾向がある。また、前記濃度が高すぎると、Pd回収後の排水中のCOD濃度が高くなり、その後の排水処理の負荷が高くなるけいこうがある。また、これ以上に添加しても効果は、ほとんど変わらず、添加する有機化合物が無駄になる傾向がある。よって、前記有機化合物の濃度が上記範囲内であれば、貴金属の回収率をより高めることができる。
【0041】
また、本実施形態に係る回収方法は、上述したような水洗廃液を処理対象物にしてもよい。この具体的な態様として、以下のような態様が挙げられる。
【0042】
まず、触媒槽11に貯留された、貴金属を含むめっき触媒付与剤に、被めっき処理物を浸漬させる。そして、触媒槽11から取り出した、浸漬後の被めっき処理物を、
図1に示すような、複数の水洗槽12、13、14に順次浸漬させる。このような水洗工程を施すことによって、被めっき処理物が水洗される。この複数の水洗槽12、13、14として、前記被めっき処理物を浸漬させる順番が後の水洗槽から前の水洗槽に、槽内の液体が流入するように配置された複数の水洗槽を用いる。ここでは、複数の水洗槽12、13、14として、浸漬させる順番が最初の水洗槽である第1水洗槽12と、前記第1水洗槽12より、前記被めっき処理物を浸漬させる順番が後の水洗槽である第2水洗槽13と、前記第2水洗槽13より、前記被めっき処理物を浸漬させる順番が後の水洗槽である第3水洗槽14との3つの水洗槽を用いるが、4つ以上の水洗槽を用いてもよい。このような、複数の水洗槽12、13、14に、被めっき処理物を順次浸漬させることによって、槽内の液体の清浄度が徐々に高まるので、被めっき処理物を、効率的に水洗することができる。このような水洗工程において、第1水洗槽12の槽内の液体内の、貴金属濃度が最も高い。また、第3水洗槽14の槽内の液体は、第2水洗槽13を介して、最終的には、第1水洗槽12に流入されるし、第2水洗槽13の槽内の液体も、第1水洗槽12に流入される。これらのことから、前記添加工程で、本実施形態に係る回収方法における処理対象物である、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、この第1水洗槽12の槽内の液体を用いることが好ましい。このような態様において、本実施形態に係る添加工程は、
図1に示すように、第1水洗槽12から流出された液体を、回収槽15に貯留し、添加装置16を用いて、その回収槽15に貯留された液体に、前記有機化合物を添加する工程等が挙げられる。このような態様にすることによって、貴金属を回収することが困難な水洗廃液から、より簡便な方法で、効率的に貴金属を回収することができる。なお、
図1は、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法の一例を説明するための概略図である。
【0043】
また、本実施形態に係る回収方法における通過工程は、前記回収液を含む水溶液に、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物が添加された水溶液である添加後液(分子中にカルボキシ基を有する有機化合物が添加された水溶液)を、所定の活性炭を含む活性炭層を通過する工程であれば、特に限定されない。すなわち、この工程は、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物が添加された水溶液(添加後液)を活性炭に接触させて、前記水溶液中の貴金属を活性炭に吸着させる工程である。この通過工程としては、具体的には、活性炭を備えるフィルタ(活性炭保持フィルタ)に、前記有機化合物が添加された水溶液を通過させる工程等が挙げられる。そうすることによって、前記有機化合物が添加された水溶液に含まれる貴金属が、フィルタに備えられた活性炭に吸着される。よって、フィルタを通過させる液体として、上記のような有機化合物が添加された水溶液(添加後液)を用いることによって、高い回収率を実現できる。これは、有機化合物の添加により、活性炭への貴金属吸着能がSnに比べ高まることで、Snと貴金属とが分離し、活性炭へ貴金属が優先的に吸着するからだと考えられる。前記通過工程としては、より具体的には、
図1に示すように、回収槽15内から、槽内の液体を、ポンプ17で、活性炭を備えるフィルタ18を通過させる工程が挙げられる。なお、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液は、
図1に示すように、循環させて、活性炭を備えるフィルタに複数回通過するようにしてもよい。また、前記フィルタを通過させた液体は、流量計19を設置した流路を通って、排出してもよい。
【0044】
また、本実施形態に係る回収方法における、前記活性炭層を、前記活性炭層を通過した添加後液(通過後液)から分離する工程であれば、特に限定されない。この工程を、分離工程とも言う。この分離工程は、例えば、添加後液が通過した後の活性炭層を回収する工程等等が挙げられる。また、前記分離工程としては、活性炭に吸着された貴金属を脱着することで、貴金属として回収することができる。すなわち、前記分離工程としては、より具体的には、添加後液を通過させた後の活性炭層を、前記通過後液から分離し、その活性炭層に含まれる活性炭から、その吸着した貴金属を脱着させる工程等が挙げられる。
【0045】
また、活性炭に吸着した貴金属を脱着する方法としては、特に限定されない。この脱着方法としては、具体的には、貴金属が吸着された活性炭を、直接、王水等の無機強酸等で貴金属塩として解離させ、水素還元や電解還元することにより、金属パラジウムとして回収する方法や、貴金属を吸着した活性炭を燃焼させて灰化し、得られた灰化物から貴金属を、王水等の無機強酸等で抽出し、還元する方法等が挙げられる。
【0046】
また、前記通過工程として、活性炭層に、酸濃度が維持された水溶液を通過させる工程を用いた場合、その空間速度SVは、特に限定されない。空間速度SVとしては、例えば、1〜5000/hであることが好ましく、10〜4500/hであることがより好ましく、100〜4000/hであることがさらに好ましい。空間速度SVは、高いほど、処理量が増えるが、活性炭との接触時間が短くなるので、貴金属の回収率が低下する傾向がある。本実施形態に係る回収方法では、比較的速い空間速度であっても、例えば、空間速度500/h以上という比較的高速な条件下で、フィルタに水溶液を通過させる場合であっても、比較的高い回収率が維持できる。このことから、空間速度SVが上記範囲内であっても、充分に優れた回収率を実現できる。
【0047】
なお、空間速度SVは、公知の方法で測定することができる。空間速度SVは、例えば、流量を測定し、その測定した流量を、フィルタのろ材の体積で除することによって、算出される。
【0048】
前記活性炭層は、所定の活性炭を含み、層状にしたものであれば、特に限定されない。すなわち、この層を通過させる液体が活性炭に接触するように、活性炭を備えたものであれば、特に限定されない。また、前記活性炭層としては、活性炭を備え、フィルタ状にしたものや、活性炭をボンベ等の筒状の容器に詰めたもの等が挙げられる。前記活性炭層としては、この中でも、フィルタ状にしたフィルタが、利便性等から好適に用いられる。
【0049】
前記活性炭層として、フィルタの場合について、説明するが、上述したように、活性炭層は、所定の活性炭を含み、層状にしたものであれば、特に限定されない。
【0050】
上記のようなフィルタとしては、例えば、活性炭とバインダとを含む混合物の成形体であってもよい。
【0051】
前記フィルタに含まれる活性炭の含有量は、20質量%以上であることが好ましい。活性炭の含有量は、多いほうが、貴金属の吸着量を向上させる点で好ましいが、実際には、活性炭のみで、フィルタを形成することは困難である。また、活性炭の含有量は、活性炭をフィルタに保持できる量であればよく、バインダの種類等によって異なるが、97質量%程度が、通常、限界である。これらのことから、前記フィルタに含まれる活性炭の含有量は、20〜97質量%であることが好ましく、30〜95質量%であることがより好ましく、35〜90質量%であることがさらに好ましい。
【0052】
バインダは、活性炭を保持でき、フィルタを構成できるものであれば、特に限定されない。また、バインダとしては、例えば、活性炭を保持でき、フィルタ状に成形することができるバインダであってもよいし、フィルタを構成する基材に活性炭を担持させるためのバインダであってもよい。このようなバインダとしては、具体的には、フィブリル化繊維や熱可塑性バインダ粒子等が挙げられる。また、バインダとしては、これら以外にも用いることができ、また、これらを単独で使用してもよいし、2種以上のバインダを組み合わせて用いてもよい。
【0053】
フィブリル化繊維は、高圧ホモジナイザーや高速離解機等を用いて、フィブリル化可能な繊維を解繊することにより得られるパルプ状の繊維であってもよい。フィブリル化繊維の平均繊維径は、例えば、0.1〜50μmであることが好ましく、1〜20μmであることがより好ましい。また、フィブリル化繊維の平均繊維長は、例えば、0.5〜4mmであることが好ましく、1〜2mmであることがより好ましい。フィブリル化繊維を形成する繊維の具体例としては、例えば、アクリル繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維、ポリアクリロニトリル繊維、セルロース繊維、ポリアミド繊維、及びアラミド繊維等が挙げられる。これらのうち、フィブリル化しやすく、活性炭を拘束する効果が高い点から、アクリル繊維、セルロース繊維が好ましい。市販品としては、例えば、日本エクスラン工業株式会社製のホモアクリルパルプである「Bi−PUL」等が入手できる。
【0054】
また、熱可塑性バインダ粒子は、活性炭を融着可能な熱可塑性ポリマーで形成されていればよい。熱可塑性ポリマーの具体例としては、例えば、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリアクリロニトリル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエステル、ポリアミド、及びポリウレタン等が挙げられる。これらのポリマーは、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。これらのうち、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、エチレン−酢酸ビニル共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリメチルメタクリレート等が汎用され、結着性等の点から、ポリエチレンが特に好ましい。熱可塑性バインダ粒子の平均粒子径は、シート強度と成形性に優れる点から、例えば、0.1〜200μmであることが好ましく、1.0〜50μmであることがより好ましい。
【0055】
前記活性炭を備えるフィルタの製造方法は、上記のような構成のフィルタを製造することができれば、特に限定されない。前記活性炭を備えるフィルタの製造方法としては、例えば、バインダの種類などに応じて、慣用の方法を利用できる。
【0056】
バインダとしてフィブリル化繊維を用いる場合、前記活性炭を備えるフィルタの製造方法としては、湿式成形を用いる方法が好ましい。この方法としては、具体的には、活性炭及びフィブリル化繊維を混合した後、水中に分散させることにより、固形物濃度が、0.1〜10質量%(特に1〜5質量%)程度のスラリーを調製するスラリー調製工程と、調製したスラリーから水分を除去する乾燥工程とを含む方法が挙げられる。乾燥工程は、特に限定されず、例えば、ステンレス鋼製の金網等から形成された通水性の箱型容器にスラリーを流し込み、水分を切り、乾燥する方法を用いてもよい。また、乾燥工程としては、所定の形状のシート状のキャビティを有し、かつキャビティ内部を減圧する多数の貫通孔を有する金型のキャビティに調製したスラリーを充填、貫通孔からスラリー中の水分を吸引除去する方法を用いてもよい。この吸引除去する乾燥工程を含む方法としては、より具体的には、例えば、特許第3516811号公報に記載の方法等が挙げられる。フィブリル化繊維の割合は、通水抵抗、成形性などのバランスに優れる点から、活性炭100質量部に対して、例えば、1〜20質量部であることが好ましく、3〜10質量部であることがより好ましい。さらに、バインダがフィブリル化繊維である場合、活性炭の形状も繊維状であってもよい。
【0057】
バインダとして熱可塑性バインダ粒子を用いる場合、前記活性炭を備えるフィルタの製造方法としては、乾式成形を用いる方法が好ましい。この方法としては、例えば、射出成形を用いた方法等が挙げられ、より具体的には、ヘンシェルミキサ等のミキサを用いて、活性炭粉末と熱可塑性バインダ粒子とを所望の割合で攪拌混合する混合工程、得られた混合物をシート状のキャビティを有する金型に充填し、熱可塑性バインダ粒子の融点以上に金型を加熱してバインダ粒子を溶融又は軟化させた後に、冷却して固化する成形工程を含む方法等が挙げられる。熱可塑性バインダ粒子の割合は、シート強度及び成形性に優れる点から、活性炭100質量部に対して、例えば、5〜50質量部であることが好ましく、7〜20質量部であることがより好ましい。
【0058】
また、ここで用いられる活性炭は、ゼータ電位の関係と細孔容積が、上記の数値範囲を満たすものであれば、特に限定されない。以下のような活性炭である。
【0059】
まず、前記活性炭は、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位と0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位との差の絶対値が0〜25mVであり、0〜18mVであることが好ましい。なお、ここでのゼータ電位は、例えば、常温(25℃)におけるゼータ電位である。ゼータ電位の差が、大きすぎると、活性炭の、貴金属に対する吸着能が低下する傾向がある。このことは、以下のことであると考えられる。まず、四ホウ酸ナトリウム水溶液中で解離可能な官能基が多く存在するため、貴金属イオンを静電的に吸着する能力が高まり還元能力を阻害すると考えられる。さらに、貴金属イオンが酸化物の状態で吸着されやすい上に、貴金属イオンの吸着が官能基の量に依存すると考えられる。これらのことから、高い収率で貴金属イオンを吸着できないと考えられる。
【0060】
また、前記ゼータ電位の差の絶対値は、貴金属の吸着性の観点から、0.01〜15mVであることが好ましく、0.1〜12mVであることがより好ましく、1〜5mVであることがさらに好ましい。さらに、前記ゼータ電位の差の絶対値は、卑金属に対して高い選択性で貴金属を吸着できる観点から、3〜15mVであることが好ましく、5〜12mVであることがより好ましく、8〜11mVであることがさらに好ましい。
【0061】
また、前記活性炭は、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位が、−60〜0mVであることが好ましく、−50〜−5mVであることがより好ましく、−45〜−10mVであることがさらに好ましく、−40〜−20mVであることがさらにより好ましい。この濃度におけるゼータ電位が上記の範囲内であると、水洗廃液等の水溶液に低濃度で含まれる貴金属を効率良く吸着できる。
【0062】
なお、ゼータ電位の測定方法は、公知の方法で測定可能であり、例えば、ゼータ電位測定装置を用いて測定することができる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0063】
また、前記活性炭は、細孔半径1nm以下の細孔容積が、45〜500mm
3/gであり、150〜500mm
3/gであることが好ましく、200〜450mm
3/gであることがより好ましく、250〜420mm
3/gであることがさらに好ましく、300〜400mm
3/gであることが特に好ましく、350〜380mm
3/gであることがさらに特に好ましい。この細孔容積が小さすぎても、大きすぎても、活性炭の、貴金属に対する吸着能が不充分になる傾向がある。このことは、まず、前記細孔容積が小さすぎると、実質的に吸着や還元反応に供する容積が低くなるため、貴金属の吸着量が低くなることによると考えられる。また、前記細孔容積が大きすぎると、嵩密度が低下し、充分な単位体積当たりの貴金属吸着量が得られなくなることによると考えられる。
【0064】
なお、細孔半径1nm以下の細孔容積の測定方法は、公知の方法で測定可能であり、例えば、窒素吸着等温線測定を行い、得られた吸着等温線から算出する方法等が挙げられる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0065】
また、前記活性炭は、吸着速度の観点から、糖液の脱色性能が高いほうが好ましい。具体的には、前記活性炭は、糖液の脱色性能が、30〜100%であることが好ましく、50〜99%であることがより好ましく、70〜98%であることがさらに好ましく、80〜97%であることがさらにより好ましく、85〜95%であることが特に好ましい。前記糖液の脱色性能が上記の範囲内であれば、活性炭内部での、貴金属イオン等の吸着物質の移動や拡散が容易となり、貴金属の吸着速度が速くなる。このため、前記糖液の脱色性能が上記の範囲内の活性炭は、通液フィルタ等の動的なフィルタに適している。一方、前記糖液の脱色性能が低すぎる場合、貴金属の吸着に時間がかかるおそれがある。
【0066】
なお、糖液脱色性能の測定方法は、公知の方法で測定可能であり、例えば、糖液の吸光度を測定することにより評価することができる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0067】
また、前記活性炭は、窒素吸着法により算出されるBET比表面積が、100〜5000m
2/gであることが好ましく、300〜4000m
2/gであることがより好ましく、500〜3000m
2/gであることがさらに好ましく、1000〜2500m
2/gであることがさらにより好ましく、1500〜2300m
2/gであることがさらにより好ましく、1800〜2200m
2/gであることが特に好ましい。前記比表面積が小さすぎても、大きすぎても、活性炭の、貴金属に対する吸着能が不充分になる傾向がある。このことは、まず、前記比表面積が小さすぎると、吸着や還元反応に供する容積の低下により貴金属の吸着量が低下するためと考えられる。また、前記比表面積が大きすぎると、嵩密度の低下により吸着能が低下するためと考えられる。
【0068】
なお、比表面積の測定方法は、公知の方法で測定可能であり、例えば、窒素吸着等温線測定を行い、得られた吸着等温線から算出する方法等が挙げられる。より具体的には、実施例に記載の方法で測定することができる。
【0069】
また、前記活性炭の形状は、特に限定されない。前記活性炭の形状としては、例えば、粒状、繊維状、及び不定形状等が挙げられるが、通常、粒状又は繊維状である。粒状の場合、その活性炭は、平均一次粒が、例えば、1μm〜5mmであることが好ましく、10μm〜2mmであることがより好ましい。また、繊維状の場合、その活性炭は、平均繊維径が、例えば、1〜500μmであることが好ましく、2〜300μmであることがより好ましく、5〜50μmであることがさらに好ましい。
【0070】
また、前記活性炭の製造方法は、特に限定されず、公知の方法等が挙げられる。具体的には、前記活性炭の製造方法として、炭素質材料を炭化した後、炭化された炭素質材料を賦活する方法等が挙げられる。
【0071】
また、前記炭素質材料は、特に限定されない。具体的には、前記炭素質材料として、植物系炭素質材料、鉱物系炭素質材料、合成樹脂系炭素質材料、及び天然繊維系炭素質材料等が挙げられる。より具体的には、植物系炭素質材料としては、木材、鋸屑、木炭、ヤシ殻やクルミ殻等の果実殻、果実種子、パルプ製造副生物、リグニン、廃糖蜜等の、植物由来の材料が挙げられる。また、鉱物系炭素質材料としては、泥炭、亜炭、褐炭、レキ青炭、無煙炭、コークス、コールタール、石炭ピッチ、石油蒸留残査、及び石油ピッチ等の、鉱物由来の材料が挙げられる。また、合成樹脂系炭素質材料としては、フェノール樹脂、ポリ塩化ビニリデン、及びアクリル樹脂等の、合成樹脂由来の材料が挙げられる。また、天然繊維系炭素質材料としては、セルロース等の天然繊維、レーヨン等の再生繊維等の、天然繊維由来の材料が挙げられる。炭素質材料としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、炭素質材料としては、細孔半径1nm以下の細孔容積が発達しやすい点から、ヤシ殻等の植物系炭素質材料が好ましい。
【0072】
また、活性炭を製造する際の賦活の方法としては、特に限定されず、例えば、ガス賦活や薬品賦活のいずれの賦活も採用できる。また、賦活の方法としては、ガス賦活と薬品賦活とを組み合わせてもよい。
【0073】
また、ガス賦活において使用されるガスとしては、例えば、水蒸気、炭酸ガス、酸素、LPG燃焼排ガス、又はこれらの混合ガス等を挙げることができる。この中でも、ガス賦活において使用されるガスとしては、安全性及び反応性を考慮すると、水蒸気を10〜50容量%含有する水蒸気含有ガスが好ましい。
【0074】
また、賦活温度、賦活時間、及び昇温速度等の条件は、特に限定されず、炭素質材料の、種類、形状やサイズ等により適宜選択できる。具体的には、賦活温度としては、700〜1100℃であることが好ましく、800〜1000℃であることがより好ましい。
【0075】
また、薬品賦活において使用される薬品賦活剤としては、脱水、酸化、及び浸食性を有する薬品等が挙げられる。薬品賦活剤としては、具体的には、塩化亜鉛、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、燐酸、硫化カリウム、硫酸、各種アルカリ等が挙げられる。薬品賦活剤としては、1種を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、薬品賦活剤としては、細孔半径1nm以下の細孔容積が発達しやすい点から、塩化亜鉛や燐酸が好ましい。
【0076】
また、薬品賦活剤の濃度及び使用量は、特に限定されず、薬品賦活剤の種類や原料の量等に応じて適宜選択できる。燐酸を使用した場合、炭素質原料を、約30〜95質量%、好ましくは60〜80質量%の燐酸と混合し、この混合物を300〜750℃で20分〜10時間、好ましくは30分〜5時間程度加熱して賦活する。また、塩化亜鉛を使用した場合、塩化亜鉛濃度が40〜70質量%程度の場合、例えば、0.4〜5.0質量倍、好ましくは1.0〜4.5質量倍、さらに好ましくは1.5〜3.5質量倍程度である。賦活時間は、例えば、20分〜10時間、好ましくは30分〜5時間程度である。賦活温度は、塩化亜鉛の沸点(732℃)以下の温度で行う。この温度は、通常450〜730℃、好ましくは550〜700℃程度である。
【0077】
また、賦活後の活性炭は、灰分や薬剤を除去するために、さらに洗浄してもよい。洗浄後の活性炭は、洗浄で充分除去できなかった不純物を除去するために、不活性ガス雰囲気下で熱処理してもよい。熱処理して不純物を充分除去することによって、貴金属を吸着した活性炭を燃焼し灰化させ、得られた灰化物から貴金属を抽出する時に不純物の混入を防止できる。また、賦活後の活性炭は、粉砕してもよく、繊維状の場合は切断してもよい。
【0078】
粉砕は、目的の粒子径に応じて、例えば、ジョークラッシャ、ハンマーミル、ピンミル、ローラーミル、ロッドミル、ボールミル、及びジェットミル等を使用できる。
【0079】
以下に、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0080】
まず、本実施例で用いる活性炭の各物性値は、以下の方法により測定した。
【0081】
[比表面積及び細孔半径1nm以下の細孔容積]
試料(活性炭)の、比表面積及び細孔半径1nm以下の細孔容積は、窒素吸着等温線測定を行い、得られた吸着等温線から算出した。具体的には、まず、サンプル管に、試料を0.1g充填し、300℃で5時間減圧下で前処理を行った。Belsorp28SA(日本ベル(株)製)を用いて、サンプル部を液体窒素温度にて、前記試料に対する窒素吸着等温線測定を行った。得られた吸着等温線を、BEL解析ソフトウェア(Version4.0.13)用いて、最も相関係数が高くなる2点を、相対圧0.01以下と、相対圧0.05〜0.1の間より選択し、比表面積を求めた。また、細孔半径1nm以下の細孔容積は前記ソフトウエアのCI法により算出した。
【0082】
[ゼータ電位差]
試料(活性炭)のゼータ電位は、ゼータ電位測定装置を用いて測定した。具体的には、まず、四ホウ酸ナトリウム濃度が10mmol/L及び0.01mmol/Lの水溶液100mLに対して、活性炭粉末(中心粒子径6〜7μm)を20mg添加し、分散液を調製した。この分散液を、ゼータ電位測定装置(RANK BROTHERS社製「MARKII」)を使用し、ゼータ電位を算出するための25℃における粒子移動速度を測定した。粒子移動速度の測定は、所定のセルに分散液を導入しセル測定部中の分散液中の粒子を顕微鏡により観察し、20V電圧下における粒子移動速度を測定した。粒子移動速度は5〜10粒子について、60.3μmの距離を移動する時の時間(秒)を測定した。測定した時間の平均値(S)を用いて、下記式に従って、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位と、0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位とをそれぞれ求めた。そして、その差(ゼータ電位差)を算出した。算出に必要な電極間距離は8.53cmである。
【0083】
電場A(V/cm)=20/8.53=2.345V/cm
粒子泳動速度L(μm/sec)=60.3/S
移動度(Mobility)(μm・cm/sec・V)=L/A
ゼータ電位(mV)=−12.83×移動度。
【0084】
[糖液脱色性能]
糖液脱色性能は、糖液の吸光度を測定することにより評価した。具体的には、まず、三温糖(三井製糖(株)製)350gを採取しイオン交換水を300ml加えて、70℃以下で攪拌溶解させる。冷却後、NaOH又はHClによりpHを7±0.1に調整する。一方で、グラニュー糖(三井製糖(株)製)300gを採取しイオン交換水を300ml加えて、70℃以下で攪拌溶解させる。冷却後、NaOH又はHClによりpHを7±0.1に調整する。前記2種類の糖液を用いて、波長420nmにおける吸光度を0.75〜0.78の範囲に調整した糖液を糖液脱色性能測定用原液とする。
【0085】
100mlの共栓付三角フラスコに活性炭を0.092g秤量し、前記糖液脱色性能測定用原液を50ml加え、50℃で130〜140往復/分の振幅速度で振騰を1時間行う。50℃の恒温槽中で、ろ紙5Cを用いてろ過を行い、ろ液の波長420nm及び700nmにおける吸光度を測定し、下記式により糖液脱色性能を計算した。
【0086】
吸光度(420nm)−吸光度(700nm)=A
(Aブランク−Aサンプル)/Aブランク=糖液脱色性能(%)
(式中、Aブランクは、活性炭を入れていないときのAであり、Aサンプルは、活性炭を入れたときのAである)。
【0087】
[XPSによる酸素原子%]
パラジウム吸着前の活性炭をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ(株)製「PHI Quantera SXM」)で、X線励起条件:100μm−25W−15kV、対陰極:Al、測定範囲:1000μm×1000μm、圧力:6x10
−7Paの測定条件で測定し、O1sの波形分離解析し、酸素原子%を算出した。
【0088】
[XPSによるパラジウムの結合状態]
パラジウムを吸着させた活性炭をX線光電子分光分析装置(アルバック・ファイ(株)製「PHI Quantera SXM」)でパラジウムの結合状態を、X線励起条件:100μm−25W−15kV、対陰極:Al、測定範囲:1000μm×1000μm、圧力:6x10
−7Paの測定条件で測定し、Pd3dのスペクトルから各種活性炭の結合状態を解析した。Pd3d5/2の結合種の帰属を示す(XPSハンドブック参考)。
【0089】
Pd:335.3eV(±0.2)
PdO:336.3eV(±0.2)
halides:337.1eV(±0.7)
PdO
2:338.0(±0.3)。
【0090】
次に、本実施例で用いる活性炭について、説明する。
【0091】
製造例1(活性炭No.1)
アルカリ土類金属が4g/kgのヤシ殻炭100gを、賦活温度920℃賦活した。賦活時のガス組成は、CO
2分圧が10%、H
2O分圧が30%で、その他ガスはN
2である。賦活時間は、20分で実施した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸水溶液で洗浄し水洗した後、乾燥した。得られた乾燥品を、流動炉にて700℃で30分間熱処理した。熱処理時のガスは、LNG燃焼ガスにより実施した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0092】
製造例2(活性炭No.2)
4000g/L濃度の塩化亜鉛水溶液を、オガ屑100gに対して、100mL添着させた後、速度5℃/分で700℃まで昇温し、700℃で1時間保持後冷却した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸で煮沸洗浄を行い、水洗した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0093】
製造例3(活性炭No.3)
アルカリ土類金属が1g/kgのヤシ殻炭100gを、製造例1と同じ条件で賦活を行った。賦活時間は、3時間で実施した。得られた活性炭を、1mol/Lの塩酸で洗浄し水洗した後、乾燥し、製造例1と同様の熱処理をした。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0094】
製造例4(活性炭No.4)
オガ屑100gに対して、75%濃度のリン酸水溶液をリン酸が150gになるように含浸させ、550℃の温度で熱処理を行った。熱処理時には空気を3L/分の割合で流した。熱処理後、得られた焼成品を煮沸水洗にて洗浄した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0095】
製造例5(活性炭No.5)
オガ屑100gに対して、75%濃度のリン酸水溶液をリン酸が100gになるように含浸させ、550℃の温度で熱処理を行った。熱処理時には空気を3L/分の割合で流した。熱処理後、得られた焼成品を煮沸水洗にて洗浄した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0096】
製造例6(活性炭No.6)
フェノール樹脂繊維を300℃で1時間の酸化処理を行い、その酸化処理品を700℃で乾留処理を1時間行った。得られた乾留処理したフェノール樹脂繊維を賦活温度950℃にてLPG燃焼ガス雰囲気で5時間処理した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0097】
活性炭No.7
市販の活性炭(クラレケミカル(株)製「GW−H」)を、活性炭No.7とした。その各種物性を表1に示す。
【0098】
活性炭No.8
市販の活性炭(クラレケミカル(株)製「KW」)を、活性炭No.8とした。その各種物性を表1に示す。
【0099】
製造例7(活性炭No.9)
オガ屑を乾留して得られる素灰を原料として、実施例1と同条件にて賦活30分行った。得られた活性炭を1mol/Lの塩酸で洗浄し水洗を行い乾燥した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0100】
活性炭No.10
市販の活性炭(クラレケミカル(株)「GW」)を、活性炭No.10とした。その各種物性を表1に示す。
【0101】
製造例8(活性炭No.11)
フェノール樹脂繊維を300℃で1時間の酸化処理を行い、その酸化処理品を700℃で乾留処理を1時間行った。得られた乾留処理したフェノール樹脂繊維を賦活温度950℃にてLPG燃焼ガス雰囲気で3時間処理した。得られた活性炭の各種物性を表1に示す。
【0102】
【表1】
【0103】
製造例A(活性炭保持フィルタA)
100Lの小型ビーター(叩解機)に水道水100Lに対し、活性炭No.6(繊維状活性炭)を、乾燥重量で1.5kg投入し、次いでバインダとしてフィブリル化アクリルパルプ(日本エクスラン工業(株)製「Bi−PUL/F」)を乾燥重量で0.075kg相当分を投入し、繊維状活性炭とバインダの分散混合及びビーターの固定歯と回転歯の隙間を狭めて、繊維状活性炭を細分化する。繊維状活性炭の繊維長が短くなると、一定形の形状に成形したとき、充填性が向上するため、単位容積当りの重量が増加する。この単位容積当りの重量を叩解密度と称し、繊維状活性炭の短さの尺度とした。叩解密度を測定するための成形体として、特許第3516811号公報に記載されている多数の吸引用小孔を設けた二重管状の成形型で、吸引用小孔径3mmφ、ピッチ5mmの中軸に300メッシュの金網を巻きつけ、中軸径18mmφ、外径40mmφ、外径鍔間隔50mmの金型を用意し、中心部からスラリーを吸引することによって円筒型の成形体を作製した。成形体の乾燥品の寸法、重量から叩解密度0.18g/mlのスラリーを得、この叩解密度のスラリーを標準スラリーとした。
【0104】
この標準スラリー7Lに、JIS 30/60Meshとなるように分級した活性炭No.1(粒状)0.735kg、湿式粒度分析装置(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)で測定したD50が約40μmとなるように粉砕した活性炭No.1(粉末状)を0.21kg、及びフィブリル化アクリルパルプ(Bi−PUL/F)を乾燥重量換算で0.053kg投入し、更に水道水を追加して、スラリー量を110Lとした。
【0105】
上記スラリーを使用し、吸引成形して250mm×250mm×5mmの成形体を作製した。
【0106】
作製した成形体を乾燥し、内径10mmφのトムソン刃で打ち抜き、外形10mmφ厚み5mmの活性炭保持フィルタAとした。このとき、成形体の重量は、0.09gであった。
【0107】
また、活性炭保持フィルタAに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、351mm
3/gであった。
【0108】
製造例B(活性炭保持フィルタB)
製造例Aと同様の標準スラリー7Lに対し、JIS 30/60Meshとなるように分級した活性炭No.7(粒状)0.735kg、湿式粒度分析装置(日機装(株)製「マイクロトラックMT3000」)で測定したD50が約40μmとなるように粉砕した活性炭No.7(粉末状)を0.21kg、及びフィブリル化アクリルパルプ(Bi−PUL/F)を乾燥重量換算で0.053kg投入し、更に水道水を追加して、スラリー量を110Lとした。製造例Aと同様に吸引成形、乾燥、及び打ち抜き加工を実施し、活性炭保持フィルタBとした。このとき、成形体の重量は、0.13gであった。
【0109】
また、活性炭保持フィルタBに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、79mm
3/gであった。
【0110】
製造例C(活性炭保持フィルタC)
製造例Aと同様の標準スラリー22Lのみに水道水88Lを加え、製造例Aと同様に吸引成形、乾燥、及び打ち抜き加工を実施し、活性炭保持フィルタCとした。このとき、成形体の重量は、0.07gであった。
【0111】
また、活性炭保持フィルタCに含まれる活性炭上記ゼータ電位差は、14.9mVであった。また、活性炭保持フィルタCに含まれる活性炭の混合状態における上記細孔容積は、200.0mm
3/gであった。
【0112】
活性炭保持フィルタの配合割合を表2に示す。
【0113】
【表2】
【0114】
[実施例]
(実施例1)
まず、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを5.4mg/L、スズを250mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を標準液として使用した。
【0115】
次に、以下に示す方法により、本実施形態に係る回収方法を評価した。
【0116】
まず、
図2に示すように、Pd−Sn触媒模擬廃液を供給槽21に貯留した。この貯留されたPd−Sn触媒模擬廃液を、ポンプ22で汲み上げて、活性炭保持フィルタ23を通過させた。その後、通過した液体(ろ液)を、回収槽24に貯留した。そして、回収槽24に貯留された液体の、パラジウム(Pd)濃度を測定して、パラジウム濃度の減少量から、活性炭保持フィルタ23における、パラジウムの回収率を算出した。なお、ろ液のパラジウム濃度やスズ濃度は、ろ液20mlに有害金属測定用硝酸(和光純薬工業(株)製)50μlを添加し、ICP発光分光分析装置(パーキン・エルマー(株)製「Optical Emission Spectrometer Optima 4300 DV」)を使用し測定した。また、ポンプ22の出力等を調整することで、通液速度や空間速度SV等を適宜調整することができる。なお、
図2は、本発明の実施形態に係る貴金属の回収方法を評価するための装置である。
【0117】
そして、Pd−Sn触媒模擬廃液に塩酸を添加し、酸濃度0.2mol/Lとし、さらに、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物として、シュウ酸(H
2C
2O
4)を、他の金属であるスズ(Sn)に対する有機化合物であるシュウ酸の含有量が、モル比で、表3に示す比にしたものを、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として用い、活性炭保持フィルタとして、上記活性炭保持フィルタAを用いて、活性炭保持フィルタにおける、パラジウムの回収率を測定した。その際、通液速度を240mL/hとし、空間速度SVを600/hと設定した。その結果を、表3に示す。
図3にも、その結果をグラフ化したものを示す。なお、表3には、シュウ酸の含有量、空間速度SV、供給した液体のPd濃度(入口Pd濃度)、ろ液のPd濃度(出口Pd濃度)、及び入口Pd濃度及び出口Pd濃度から算出されたPd回収率を示す。なお、Pd回収率は、入口Pd濃度と出口Pd濃度との差分を、入口Pd濃度で除した値である。また、出口Pd濃度における「<0.2」は、出口Pd濃度が0.2mg/L未満であり、検出限界より濃度が低いことを示す。また、Pd回収率における「>96%」は、Pd回収率が96%より高いものであり、出口Pd濃度が検出限界以下であることによる。また、
図3は、シュウ酸とSnとのモル比と、Pd回収率との関係を示したグラフである。なお、
図3において、この実施例1の結果は、折れ線31で示す。
【0118】
【表3】
【0119】
表3及び
図3からわかるように、Pd−Sn触媒模擬廃液に、少しでもシュウ酸を添加すると、Pd回収率が高まる。また、そのシュウ酸の含有量を高めたほうが、Pd回収率が高まることがわかる。このことから、スズに対するシュウ酸の含有量、すなわち、貴金属以外の他の金属に対する、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物の含有量が、モル比で0.3〜5倍であることが、Pd回収率を高める点で好ましいことがわかる。
【0120】
また、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液に、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物であるシュウ酸を添加しない場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由について検討した。
【0121】
具体的には、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位を測定した。より具体的には、酸濃度を種々変化させたときの、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位を測定した。すなわち、Pd−Sn触媒模擬廃液のゼータ電位と酸濃度との関係を測定した。その際、Pd−Sn触媒模擬廃液にシュウ酸を添加した場合と、添加しない場合とを比較検討した。このときに用いたPd−Sn触媒模擬廃液は、Pd濃度を5mg/L、Sn濃度を250mg/Lに調整した。その結果を
図4に示す。また、
図4において、シュウ酸を、上記モル比が0.35となるように添加した場合の結果は、折れ線41で示し、シュウ酸を、上記モル比が1.05となるように添加した場合の結果は、折れ線42で示し、シュウ酸を、上記モル比が1.76となるように添加した場合の結果は、折れ線43で示し、シュウ酸を添加しない場合の結果は、折れ線44で示す。この
図4から、シュウ酸を添加すると、Pd−Sn触媒模擬廃液の酸濃度にかかわらず、ゼータ電位が低下することがわかった。このことから、シュウ酸を添加せず、また、酸濃度の低いPd−Sn触媒模擬廃液には、パラジウムやスズが、Pd
0・nSnOOH
+の状態で含有されると考えられる。また、シュウ酸を添加したPd−Sn触媒模擬廃液には、その酸濃度にかかわらず、パラジウムやスズが、Pd
0・nSnCl
42−の状態で含有されると考えられる。これらのことから、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液にシュウ酸を添加せず、また、酸濃度の低い場合に、活性炭保持フィルタの表面に、SnO
2やSnO・OHとしてのSnが吸着しやすいと考えられる。これが、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物であるシュウ酸を添加しない場合に、Pd回収率が充分に高まらない理由の1つであると考えられる。なお、
図4は、酸濃度とゼータ電位との関係を示したグラフである。
【0122】
以上のことから、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液にシュウ酸を添加した場合には、パラジウムやスズが、Pd
0・nSnCl
42−の状態で含有されると考えられる。このため、活性炭の細孔を、PdやSnが閉塞させることが少ないと考えられる。これに対して、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液にシュウ酸を添加せず、その酸濃度が低い場合には、パラジウムやスズが、Pd
0・nSnOOH
+の状態で含有されると考えられる。このため、活性炭の細孔にSnがSnO
2として閉塞し、Pdの吸着性を低下させると推察する。これらのことから、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液であるPd−Sn触媒模擬廃液にシュウ酸を添加しない場合には、Pd回収率が高まらず、シュウ酸を添加した場合に、Pd回収率が高まると考えられる。
【0123】
(実施例2)
塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液として、パラジウムを3.5mg/L、スズを200mg/L含有するPd−Sn触媒水溶液(Pd−Sn触媒模擬廃液)を使用し、活性炭保持フィルタとして、活性炭保持フィルタAの代わりに、活性炭保持フィルタBを用いたこと以外、実施例1と同様である。その結果は、表4に示す。
【0124】
【表4】
【0125】
(実施例3)
活性炭保持フィルタとして、活性炭保持フィルタBの代わりに、活性炭保持フィルタCを用いたこと以外、実施例2と同様である。その結果は、表5に示す。
【0126】
【表5】
【0127】
表4及び表5からわかるように、活性炭保持フィルタとして、実施例1で用いたものとは異なるものを用いても、塩酸酸性Sn含有貴金属触媒回収液を含む水溶液の酸濃度が高いほど、Pd回収率が高い。
【0128】
また、表3〜5から、10mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位と0.01mmol/Lの四ホウ酸ナトリウム水溶液中のゼータ電位との差の絶対値が25mV以下であり、且つ細孔半径1nm以下の細孔容積が、45〜500mm
3/gである活性炭を備える活性炭保持フィルタを用いたほうが、Pd回収率を高める点で、好ましいことがわかる。
【0129】
また、この実施例2及び実施例3での結果(表4及び表5に示した結果)も、
図3に示す。なお、実施例2での結果は、折れ線32で示し、実施例3での結果は、折れ線33で示す。
【0130】
また、活性炭保持フィルタに備える活性炭としては、他の活性炭を用いたものであっても、同様の傾向を示すものである。具体的には、活性炭No.10以外の活性炭No.1〜11のいずれを用いてもよい。また、これらの活性炭を単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。なお、活性炭No.10は、本発明の上記効果を発揮しなかった。
【0131】
(実施例4)
次に、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物を変えた場合について、検討する。具体的には、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物として、酒石酸(H
4C
4O
6)を用いたこと以外、実施例1と同様である。その結果を表6に示す。
【0132】
【表6】
【0133】
図5は、酸濃度とPd回収率との関係を示したグラフである。また、この実施例4での結果(表6に示した結果)は、
図5に示す。なお、
図5は、シュウ酸とSnとのモル比と、Pd回収率との関係を示したグラフである。
【0134】
表6及び
図5からわかるように、本実施形態に係る回収方法であれば、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物として、シュウ酸以外であっても、例えば、酒石酸でも、充分に高い、貴金属の回収率を実現することができる。すなわち、分子中にカルボキシ基を有する有機化合物として、特に限定されないことがわかる。
【0135】
蟻酸、クエン酸も、実施例1と同様の効果を示した。
【0136】
また、Pd−Sn触媒模擬回収液を調整し、複数回繰り返し通液させても、実施例1と同様の効果を示した。