(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6404554
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月10日
(54)【発明の名称】銀粉の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/24 20060101AFI20181001BHJP
【FI】
B22F9/24 E
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2013-208670(P2013-208670)
(22)【出願日】2013年10月3日
(65)【公開番号】特開2015-71814(P2015-71814A)
(43)【公開日】2015年4月16日
【審査請求日】2016年7月19日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(72)【発明者】
【氏名】浅野 聡
(72)【発明者】
【氏名】寺尾 俊昭
(72)【発明者】
【氏名】松永 猛裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 賢
(72)【発明者】
【氏名】秋吉 美也子
【審査官】
坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2000−297332(JP,A)
【文献】
特開2005−330529(JP,A)
【文献】
特開2010−024533(JP,A)
【文献】
特開2010−024501(JP,A)
【文献】
特開2006−002228(JP,A)
【文献】
特開2006−097086(JP,A)
【文献】
特開2006−152327(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/169628(WO,A1)
【文献】
国際公開第2012/173245(WO,A1)
【文献】
特開2013−096008(JP,A)
【文献】
特開2013−177688(JP,A)
【文献】
米国特許第04874429(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/00− 9/30
C22B 1/00−61/00
C23C 18/00−20/08
CiNii
Google Scholar
JSTPlus/
JST7580/
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニア水に塩化物塩および/または炭酸塩を添加した後、銀塩を溶解してなる銀溶液中の全塩素および全炭酸の合計モル濃度を該銀溶液中の全銀のモル濃度で除した値が1より大きく5以下となるように銀溶液を調製する工程と、該銀溶液に還元剤を添加して還元により銀微粒子を析出させる工程とを有する雷銀の生成を抑制した銀粉の製造方法であって、水酸化アルカリの濃度が0.2mol/Lを超えない程度に前記銀溶液および/または前記還元剤に水酸化アルカリを添加することを特徴とする銀粉の製造方法。
【請求項2】
前記水酸化アルカリが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムの内の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1に記載の銀粉の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤が、ヒドラジン、ヒドラジニウム塩、アスコルビン酸、ホルマリン、および酒石酸の内の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の銀粉の製造方法。
【請求項4】
前記銀塩が、酸化銀、炭酸銀、塩化銀、および硝酸銀の内の1種以上を含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の銀粉の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粉の製造方法に関し、特に、爆発性を有する雷銀の生成を抑えて安全に銀粉を製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器における配線層や電極などの導電膜の形成には、樹脂型銀ペーストや焼成型銀ペーストのような銀粉を含んだ銀ペーストが多用されている。これら銀ペーストは加熱硬化あるいは加熱焼成によって銀粉が連なり、電気的に接続した電流パスを形成する。従って銀ペーストを塗布または印刷してから加熱硬化または加熱焼成することにより、所望のパターンを有する導電膜を形成することができる。
【0003】
例えば、樹脂型銀ペーストの場合は、銀粉、樹脂、硬化剤、および溶剤などからなる銀ペーストを回路パターンや端子形状に印刷し、100℃〜200℃で加熱硬化させて配線や電極用の導電膜を形成することができる。一方、焼成型銀ペーストの場合は、銀粉、ガラス、および溶剤などからなる銀ペーストを回路パターンや端子形状に印刷し、600℃〜800℃で加熱焼成して配線や電極用の導電膜を形成することができる。
【0004】
かかる銀ペーストに使用する銀粉の粒径は一般に0.1μmから数μm程度であり、形成する配線の幅や電極の厚さに応じて異なる粒径の銀粉が使用される。銀粉はペースト中で均一に分散させることが望ましく、これにより均一な厚みと幅を有する配線や均一な厚みを有する電極を形成することができる。
【0005】
上記した銀ペーストに使用する銀粉の製造方法には、アンモニアを用いた湿式還元法が数多く提案されている。アンモニアはアンモニウムイオンとなって銀イオンと安定な錯体を形成するため還元反応を制御しやすく、湿式還元法による銀粉の製法では有効な成分である。さらにアンモニアは一般に薬剤コストが低い上、廃液処理において容易に処理可能な薬剤である。
【0006】
例えば特許文献1には、銀アンミン錯体を含む銀溶液に還元剤をその濃度が銀濃度に対して0.6〜1.4反応当量となるように添加し、これにより銀イオンを還元して銀粉を作製する方法が示されている。この特許文献1の方法は、還元剤を含んだ溶液のpHを11から12に調整し、その酸化還元電位を安定化させてから銀溶液に添加して還元を行っており、これにより従来よりも高濃度の銀を還元できると記載されている。
【0007】
しかしながら、銀アンミン錯体は水酸化アルカリの存在下で加熱すると爆発性の雷銀を生成すると言われており、製造工程に銀アンミン錯体を用いる場合は安全性に留意する必要があった。例えば非特許文献1には、雷銀の一種である窒化銀の反応性について記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−031526号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】The chemistry and free energy of formation of silver nitride, Industrial & Engineering Chemistry Research, 1991, 30, 2503−2506
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
アンモニアを用いた湿式還元法による銀粉の作製では、還元剤の反応当量が銀に対して不足すると還元反応後に未還元の銀アンミン錯体が残留するため、この銀アンミン錯体を含む溶液が濃縮した場合に雷銀が生成する恐れがある。これは意図的に濃縮する場合に限られず、銀溶液が飛散して乾燥濃縮した場合でも同様に雷銀が生成するリスクがある。また、銀アンミン錯体溶液にアルカリを加えた場合、錯体からアンモニウム配位子が外れることにより雷銀の生成が進行する。従って、アンモニアを用いた湿式還元法では雷銀の生成を抑える安全対策が必要となるが、特許文献1ではそのことについて特に考慮されていない。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記したようにアンモニアを用いた湿式還元法による銀粉の製造方法は、爆発性の雷銀が生成するリスクを孕んでおり、銀粉の製造効率を高めたとしても雷銀生成のリスクが回避されていなければ、その製造方法を採用することは困難であった。本発明の発明者らはこのような従来の事情に鑑み、アルカリの共存下において銀アンミン錯体を含む銀溶液が雷銀を生成する条件について鋭意研究を重ねた結果、該銀溶液に含まれる特定の成分の濃度を調整することで雷銀の生成を抑えて安全に銀粉を製造しうることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
即ち、本発明が提供する銀粉の製造方法は、アンモニア
水に塩化物塩および/または炭酸塩を添加した後、銀塩を溶解してなる銀溶液中の全塩素および全炭酸の合計モル濃度を該銀溶液中の全銀のモル濃度で除した値
が1より大きく5以下となるように銀溶液を調製する工程と、該銀溶液に還元剤を添加して還元により銀微粒子を析出させる工程とを有する雷銀の生成を抑制した銀粉の製造方法であって、水酸化アルカリの濃度が0.2mol/Lを超えない程度に前記銀溶液および/または前記還元剤に水酸化アルカリを添加することを特徴としている。
【0013】
上記本発明による銀粉の製造方法においては、水酸化アルカリが、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、および水酸化カリウムの内の1種以上であることが好ましい。また、還元剤は、ヒドラジン、ヒドラジニウム塩、アスコルビン酸、ホルマリン、および酒石酸の内の1種以上であることが好ましい。更に、銀塩が、酸化銀、炭酸銀、塩化銀、および硝酸銀の内の1種以上であることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、銀粉の生産性が高く、得られる銀粉の粒径や結晶粒径の制御も容易となる上、爆発性の雷銀の生成を抑制できるので、その工業的価値は極めて高い。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の銀粉の製造方法は、アンモニアを含む溶液に銀塩を溶解して銀アンミン錯体を含む銀溶液を調製する工程と、該銀溶液に還元剤を添加することで銀イオンを還元して銀微粒子を析出させる工程とを有する銀粉の製造方法において、還元前の銀溶液中の全塩素および全炭酸の合計モル濃度を該銀溶液中の全銀のモル濃度で除した値が1と等しいか又は1より大きく5以下となるように調整する。また、水酸化アルカリの濃度が0.2mol/Lを超えない程度に前記銀溶液および/または前記還元剤に水酸化アルカリを添加する。
【0016】
銀アンミン錯体を含む銀溶液は乾燥や加熱により雷銀が生成されるが、上記したように銀溶液中の全塩素、全炭酸、および全銀の濃度を限定することにより当該銀溶液が乾燥あるいは濃縮しても雷銀の生成を抑えることができる。なお、雷銀とは爆発性物質である窒化銀、アミド銀、およびイミド銀などの一般的な総称である。例えば非特許文献1に窒化銀の反応性が示されている。
【0017】
また、銀溶液にアルカリ性物質である水酸化アルカリを添加することにより還元時の酸化還元電位が下がり、還元反応を促進することで還元反応の効率を上げることができる。しかしながら、水酸化アルカリの添加により銀溶液中のアンモニア濃度が下がるので、雷銀が生成されるおそれがある。すなわち、水酸化アルカリの添加により銀アンミン錯体からアンモニウム配位子が外れ、雷銀の生成が促進される。そこで、前述したように、還元時の溶液のみならず還元前の溶液においても水酸化アルカリの濃度が0.2mol/Lを超えないようにしている。これにより、雷銀の生成を抑えることと還元反応の促進を両立させることができる。
【0018】
以下、本発明に係る銀粉の製造方法を工程毎に詳細に説明する。まず、塩化物塩および/または炭酸塩を必要に応じて溶解させたアンモニア水に20〜45℃の温度範囲内にて銀塩を溶解し、得られた銀溶液を該温度範囲内にて保持する。ここで、銀溶液中の全塩素および全炭酸の合計モル濃度を銀溶液中の全銀のモル濃度で除した値が1と等しいか又は1より大きく5以下となるように調製する。
【0019】
具体的には、銀溶液に含まれる全塩素のmol濃度をAとし、該銀溶液に含まれる炭酸イオン、炭酸水素イオン、および二酸化炭素分子(以降、これらを合わせて全炭酸と称する)の合計mol濃度をBとし、該銀溶液に含まれる全銀のmol濃度をCとした時、これらA,B、およびCが下記式1または式2のいずれかの関係を満たすように調整する。
【0020】
[式1]
1=((A+B)/C)
[式2]
1<((A+B)/C)≦5
【0021】
なお、銀塩の添加だけで上記した2つの式のいずれかを満たすのであれば、塩化物塩および/または炭酸塩の添加は不要である。例えば、銀塩に塩化銀および/または炭酸銀を用いた場合は、理論上式1の条件を満たすことになるので、塩化物塩および/または炭酸塩の添加は基本的に不要になる。
【0022】
上記した全塩素のモル濃度とは、銀溶液中に含まれる塩素および塩素を含む化学物質を塩素原子に換算したモル濃度である。この塩素には、Cl
−で示される塩素イオンやCl
2で示される塩素分子さらには塩素の化合物が含まれる。また、全炭酸のモル濃度とは、銀溶液中に含まれる二酸化炭素や炭酸イオン等の炭酸を二酸化炭素に換算したモル濃度である。この炭酸には、銀溶液に溶解した状態の二酸化炭素(CO
2)分子、CO
3−2で示される炭酸イオン、HCO
3−で示される炭酸水素イオン、およびこれらの化合物が含まれる。更に、全銀のモル濃度とは、銀溶液中に含まれる銀の化学種を銀原子に換算したモル濃度である。銀溶液中に含まれる銀は、ほとんどが銀アンミン錯体として存在するものであるが、化学平衡により銀アンミン錯体以外の錯体として存在する銀イオンも含まれる。
【0023】
銀塩は酸化銀、炭酸銀、塩化銀、硝酸銀、酢酸銀、および臭化銀の内の1種以上を含むことができるが、これらの中では酸化銀、炭酸銀、塩化銀、硝酸銀が比較的安価な原料であるので望ましい。塩化物塩は、限定するものではないが、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化アンモニウム、および塩化リチウムの内の1種以上を含むことができる。また、炭酸塩は、限定するものではないが、炭酸ナトリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸アンモニウム、および炭酸リチウムの内の1種以上を含むことができる。これら塩化物塩や炭酸塩は、溶解しないものや還元反応中で水酸化物のように沈殿を生じるものは好ましくない。
【0024】
銀溶液を調製する具体的な方法としては、所定の量のアンモニア水が張り込まれた反応槽に必要に応じて塩化物塩および/または炭酸塩を投入し、これにより得られるアンモニア溶液を20〜45℃に保持して撹拌しながら銀塩を投入して十分に溶解すればよい。アンモニア溶液の温度が20℃未満では、銀塩の溶解度が下がり生産性が悪くなる。一方、アンモニア溶液の温度が45℃を超えるとアンモニアの揮発が激しくなり、一旦溶解した銀塩がアンモニアの揮発に伴って析出するため、安定した銀溶液が得られなくなる。得られた銀溶液は、引き続き20〜45℃に保持するのが好ましく、35〜40℃に保持することがより好ましい。
【0025】
上記したアンモニア溶液への銀塩の投入では、得られる銀溶液中の銀濃度が80〜100g/Lとなるように投入量を調整することが好ましい。この銀濃度が80g/L未満であっても得られる銀粉に問題はないが、1バッチ当たりで得られる銀粉の量が少なくなるため生産性が低下する。一方、銀濃度が100g/Lを超えることは、銀塩の析出が開始することから困難である。
【0026】
次に、還元剤に例えばポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の分散剤を混合する。銀粒子の湿式合成においては、還元剤の添加後短時間で銀塩から核生成が起こり、核が成長すると共に凝集して銀粒子が形成される。従って、核生成時から溶液中に分散剤を存在させることにより、生成した銀粒子表面に分散剤を吸着させて、銀粒子の凝集を防ぐことができる。尚、成長した核は銀粒子内の多結晶組織の各結晶となり、また核が凝集せずそのまま成長すると単結晶の銀粒子となる。
【0027】
このように核成長および凝集を制御して銀粒子の分散性を向上させるため、あらかじめ還元剤に分散剤を混合して還元剤混合液としてから銀溶液に添加するのが好ましい。これにより、少ない分散剤でも核の表面に効率よく分散剤を吸着させることができる。還元剤には一般的な還元剤を用いることができるが、反応速度や薬剤のコストの面から、ヒドラジン、ヒドラジニウム塩、ホルマリン、アスコルビン酸、酒石酸が好ましい。なお、分散剤として用いるポリビニルアルコールやポリビニルピロリドンは還元反応時に発泡する場合があるため、銀溶液または還元剤混合液に消泡剤を添加してもよい。
【0028】
還元剤への分散剤の添加量は、分散剤の種類および作製する銀粉の粒径により適宜決めればよいが、前述したいずれの分散剤を用いる場合であっても、銀溶液中に含まれる銀100質量部に対して3〜10質量部とすることが好ましい。また、銀溶液への還元剤混合液の添加量は、還元剤混合液中の還元剤の量が銀溶液中の銀を全て還元できればよく、そのために必要な最少量とすることがコスト面から好ましい。例えば還元剤がアスコルビン酸の場合、銀溶液中の銀1モル当たり0.25モルが化学量論量であるので、その添加量は銀1モル当たり0.25〜1モルとすることが好ましく、0.25〜0.35モルがより好ましい。
【0029】
この還元剤混合液を、前述したように好適には20〜45℃で保持されている銀溶液の保持温度以上で且つ添加後の銀溶液の温度が50℃以下となるように温度調節して、前記温度範囲内に保持した銀溶液に添加する。これにより、銀イオンを還元させて銀微粒子を析出させる。この還元時又は還元前の銀溶液および/または還元剤混合液に0.2mol/Lを超えない程度に水酸化アルカリを添加する。水酸化アルカリの添加は還元剤混合液もしくは銀溶液、またはこれらの両方でも構わないが、銀溶液に添加するとアンモニアが揮発し、銀の溶解度が下がり析出する可能性があるため、還元剤混合液に加えるのが好ましい。
【0030】
還元反応による温度上昇は、1バッチで作製する銀粉の量、還元剤の投入速度、銀溶液の撹拌状態、反応槽の温度管理状態(冷却機能の有無や放熱性)などにより異なるが、再現性があるため、あらかじめ試験を行うことでどの程度温度が上昇するか把握することができる。この試験結果に基づいて、還元反応時に銀溶液の温度が20〜50℃の範囲内に収まるように運転すればよい。その際、還元による温度上昇が大きい場合には、ジャケット付き反応容器を用いて水冷するなど一般的な温度制御を行えばよい。還元剤混合液を添加した銀溶液は、反応を均一化させると共に銀粒子同士の凝集を防止するため、連続的に撹拌することが好ましい。撹拌方法には特に限定がなく、通常用いられる撹拌装置を用いることができる。
【0031】
このようにして得られた銀微粒子を含んだ懸濁液を一般的な濾過手段で濾過した後、得られた湿潤状態の銀粉を洗浄して乾燥する。洗浄方法には特に限定はないが、例えば湿潤状態の銀粉を水に投入し、撹拌機または超音波洗浄器を使用して撹拌した後、再度濾過して銀粉を回収する方法が好ましい。この場合、水への投入、撹拌洗浄および濾過からなる一連の操作を、複数回繰り返すことがより好ましい。また、洗浄に用いる水は、銀粉に対して有害な不純物元素を含有していない水を使用するのが好ましく、純水の使用が特に好ましい。
【0032】
上記洗浄で得られる湿潤状態の銀粉の水分を蒸発することで乾燥した銀粉が得られる。乾燥方法には特に限定がなく、例えば上記洗浄後の湿潤状態の銀粉をステンレスパッド上に敷き詰め、大気オーブンまたは真空乾燥機などの市販の乾燥装置を用いて、40〜80℃の温度で加熱することにより乾燥するのが好ましい。
【実施例】
【0033】
[実施例1]
28%アンモニア水1gに塩化銀60mgを溶解した後、水酸化ナトリウムを濃度0.01mol/Lとなるように添加して試料1の銀溶液を作製した。この試料1の銀溶液をサンプリングして35℃で乾燥したところ塩化銀が析出し、雷銀の生成は認められなかった。次に、上記銀溶液にヒドラジンを1.4当量となるように加えたところ、雷銀を生成することなく安全に銀粉を作製することができた。なお、雷銀の生成の有無は、乾燥後に得られた固形分に波長920nm〜940nm、パルスピーク出力5W、パルス幅2m秒の赤外線レーザを照射して起爆試験を行い、爆発しなければ雷銀は生成していないと判断した。
【0034】
[実施例2]
水酸化ナトリウムを濃度が0.01mol/Lに代えてそれぞれ0.05mol/Lおよび0.1mol/Lとなるように添加した以外は実施例1の試料1と同様にして試料2および試料3の銀溶液を作製した。また、水酸化ナトリウムを濃度が0.01mol/Lに代えて0.2mol/Lとなるように添加し、35℃に代えて39℃で乾燥した以外は実施例1の試料1と同様にして試料4の銀溶液を作製した。これら試料2〜4の銀溶液に対して実施例1の試料1と同様に乾燥する実験とヒドラジンを加える実験を行ったところ、いずれも雷銀が生成することなく塩化銀が析出した。このことから、安全に銀粉を作製できることがわかった。
【0035】
[比較例1]
28%アンモニア水1gに、塩化銀60mgを溶解して、水酸化ナトリウムを0.6mol/Lとなるように添加し、39℃で乾燥したところ雷銀が生成し爆発反応が生じた。この銀溶液は飛散などによって液が乾燥した場合には爆発等の危険性があることがわかった。