(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記加熱処理は、前記穀類全粒粉に飽和水蒸気を直接当てて該穀類全粒粉の全体を加熱する加熱工程を有し、該加熱工程は、導入された原料を排出口まで移送する移送路と、該移送路内に飽和水蒸気を導入する機構とを備えた製造装置を用いて実施される請求項1に記載の熱処理穀類全粒粉の製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で用いる穀類全粒粉は、穀類を粉砕して得られるものである。穀類としては、従来食材として利用可能な穀類粒(種子)を有する植物であれば特に制限されないが、通常はイネ科植物が用いられる。穀類として利用可能なイネ科植物としては、例えば、小麦、デュラム小麦、ライ麦、ライ小麦、大麦、オーツ麦、はと麦、トウモロコシ、ヒエ、アワ、キビ等が挙げられ、これら1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも特に、小麦、ライ麦、大麦が好ましい。
【0009】
本発明で用いる穀類全粒粉は、穀類粒(例えばイネ科植物の頴果)から外皮部等を取り除かずに、穀類(穀類粒)全体を粉砕したものであり、例えば穀類粒が小麦粒の場合は、胚乳、胚芽、外皮(果皮、種皮)等、小麦粒の組織全部を含む。穀類全粒粉は、通常、乾燥粉末化されている。穀類の粉砕方法は特に制限されず、公知の粉砕方法を用いることができ、例えば、ロール式粉砕、衝撃式粉砕、気流式粉砕等が挙げられる。本発明ではこれらの1つを単独で又は2つ以上を組み合わせて用いることができ、例えば、ロール式粉砕と衝撃式粉砕とを組み合わせ、両者をこの順で実施することができる。また、ロール式粉砕等による穀類の粉砕は、1回でも良く、多段階で複数回行っても良い。また、衝撃式粉砕に用いる粉砕機としては、衝撃板と回転ローター間で機械的衝撃により粉砕を行うものであれば特に限定されるものではなく、例えばターボミル、ブレードミル等を用いることができる。また、原料穀類を粉砕する前に加水して調質しても良く、加水・調質せずに穀類をそのまま粉砕しても良い。
【0010】
本発明で用いる穀類全粒粉の平均粒径は、通常は500μm未満、好ましくは150μm未満〜200μm未満、より好ましくは100μm未満、さらに好ましくは40〜80μmの範囲、さらにより好ましくは50〜70μmの範囲である。本明細書において「平均粒径」は、特に断らない限り、動的光散乱法を用いて乾式測定した粒子径分布のメジアン径を意味する。
【0011】
本発明の主たる特徴の1つとして、穀類全粒粉の全体に加熱処理を施す工程を有している点が挙げられる。即ち本発明の熱処理穀類全粒粉の製造方法においては、例えば穀類全粒粉が小麦全粒粉である場合は、小麦全粒粉の一部(例えばふすま画分あるいは小麦粉画分)のみに加熱処理を施すのではなく、全部に加熱処理を施す。斯かる全粒粉の加熱処理により、パン類等の小麦全粒粉の二次加工品において、ふすま臭やふすま独特のエグミが低減され、且つ食感が向上する。
【0012】
穀類全粒粉の加熱処理において、穀類全粒粉の温度(品温)は、好ましくは80〜120℃、さらに好ましくは100〜120℃であり、加熱時間は、好ましくは2〜180秒、さらに2〜15秒である。加熱処理における穀類全粒粉の品温が80℃未満であると、加熱処理による効果(特に二次加工品の食感向上効果)が十分に得られないおそれがあり、逆に該品温が120℃を超えると、製造工程が煩雑になると共に、熱処理穀類全粒粉の粒子の造粒が過剰に起こるおそれがある。熱処理穀類全粒粉の粒子の造粒が過剰に起こると、熱処理穀類全粒粉の平均粒径が増大する結果、二次加工品の食感が硬くなる。また、穀類全粒粉の加熱時間が2秒未満又は180秒を超えると、二次加工品の食感、特に風味や色が低下するおそれがある。
【0013】
穀類全粒粉に施す加熱処理は、湿熱処理でも乾熱処理でも構わないが、湿熱処理が特に好ましい。乾熱処理は、容器中に原料(穀類全粒粉)を入れ、水分を加えずに、該容器の外から加熱する熱処理であり、原料中の水分の蒸発を積極的に行う熱処理である。これに対し、湿熱処理は、原料(穀類全粒粉)中の水分を維持しながら、又は水分を加えながら行う加熱処理である。湿熱処理においては水及び/又は水蒸気が用いられ、水蒸気としては飽和水蒸気が好ましく用いられる。穀類全粒粉の湿熱処理は、穀類全粒粉に加水し、あるいは穀類全粒粉に水蒸気(飽和水蒸気)を直接当てて、穀類全粒粉の全体を加熱することにより実施することができる。
【0014】
穀類全粒粉の湿熱処理の一例として、穀類全粒粉に加水したものをアルミパウチ等の密閉容器に封入密閉し、加圧下で加熱処理する方法が挙げられる。また、穀類全粒粉の湿熱処理の他の一例として、穀類全粒粉に加水したものを密閉容器内に導入した後、必要に応じて該穀類全粒粉を攪拌しつつ、該容器内に飽和水蒸気を導入して加圧下で加熱処理する方法が挙げられる。後者の方法は、例えば、攪拌移送機構を備え且つジャケット等の加温手段で加温された連続粉体移送装置(密封系高速撹拌機)を用い、飽和水蒸気雰囲気下で穀類全粒粉を加熱処理(湿熱処理)することによって実施し得る。尚、ここでいう「加圧下」は、主として容器内に充満する蒸気によって加圧状態となった場合を意味し、押出具(エクストルーダーが備えるスクリューに相当する部材)のような物体を穀類全粒粉に接触させることによって該穀類全粒粉を加圧状態とした場合は含まない。
【0015】
穀類全粒粉の湿熱処理において、穀類全粒粉に加水する場合の加水量は、該穀類全粒粉に対して、好ましくは0〜20質量%、更に好ましくは1〜10質量%である。また、湿熱処理が行われる系(密閉容器)内のゲージ圧(大気圧を圧力ゼロの基準として測った圧力)は、好ましくは0〜200kPa、更に好ましくは30〜100kPaである。
【0016】
尚、穀類全粒粉の加熱処理(湿熱処理)において、前記「穀類全粒粉の温度(品温)」は、「加熱中の穀類全粒粉の品温」としても良く、「加熱処理が行われた系(密閉容器等)から熱処理穀類全粒粉が排出される際の該熱処理穀類全粒粉の品温」(出口温度)としても良い。また、前記「穀類全粒粉の加熱時間(穀類全粒粉の品温の維持時間)」は、「穀類全粒粉が飽和水蒸気と接触する時間」としても良く、「穀類全粒粉が加熱処理の行われる系(密閉容器等)内に滞留する時間」としても良い。
【0017】
穀類全粒粉の加熱処理の好ましい一例として、次の処理が挙げられる。
穀類全粒粉に飽和水蒸気を直接当てて該穀類全粒粉全体を加熱する加熱工程を有し、該加熱工程は、導入された原料(穀類全粒粉)を排出口まで移送する移送路と、該移送路内に飽和水蒸気を導入する機構とを備えた製造装置(以下、特定製造装置ともいう)を用いて実施される、加熱処理(湿熱処理)。この好ましい加熱処理においては、前記移送路内の穀類全粒粉に対し、押出具を用いての前記排出口側への押し出しは行われない。
【0018】
前記の好ましい加熱処理(湿熱処理)の具体例として、穀類全粒粉をジャケット等の加温手段で加温された密閉容器に入れ、攪拌しながら該密閉容器内に加熱水蒸気を吹き込み、該穀類全粒粉を加熱する方法が挙げられる。また、前記の好ましい加熱処理(湿熱処理)の他の具体例として、前記特定製造装置として、攪拌移送機構を備え且つジャケット等の加温手段で加温された連続粉体移送装置(密封系高速撹拌機)を用い、且つ該連続粉体移送装置に、穀類全粒粉を連続的に導入して攪拌移送しながら、該装置内に高圧で飽和水蒸気を導入し、所望の加熱温度及び加熱時間となるように、該穀類全粒粉を加熱攪拌する加熱処理方法が挙げられる。この連続粉体移送装置(特定製造装置)においては、前記移送路内に、原料の移送方向に延びる撹拌軸と該撹拌軸の周囲に螺旋状に植設された撹拌羽根とを含んで構成される攪拌機が設けられ、該攪拌機によって該移送路内の原料(穀類全粒粉)を撹拌可能になされているが、該撹拌機は、あくまで該移送路内の原料を撹拌するための部材であって、原料を前記排出口へ押し出すための押出具ではなく、該熱処理装置は、そのような押出具(エクストルーダーが備えるスクリューに相当する部材)は備えていない。即ち、本発明の熱処理穀類全粒粉の製造方法の好ましい一例においては、穀類全粒粉の加熱処理(湿熱処理)において1軸又は2軸のスクリュー式押出成形機(エクストルーダー)は使用しない。
【0019】
穀類全粒粉の全体に加熱処理(湿熱処理)を施すことで、造粒物を得ることができる。この造粒物は、製造目的物である熱処理穀類全粒粉である。こうして得られた造粒物は、乾燥させて用いるのが好ましい。乾燥の方法としては、棚乾燥、熱風乾燥、流動層乾燥等の方法が挙げられ、穀類全粒粉の加熱処理の方法等に応じて適宜選択すれば良い。乾燥後は、必要に応じ公知の方法により造粒物の粒径を調整する。
【0020】
本発明で用いる穀類全粒粉の好ましい一例として、下記工程(1)〜(5)を経て得られたものが挙げられる。以下、各工程について説明する。
(1)原料穀類を粗粉砕する工程。
(2)工程(1)で得られた粗粉砕物を、平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分と、平均粒径150μm以上〜200μm以上の粗粉画分(但し、この粗粉画分の平均粒径は、前者の微粉画分の平均粒径よりも大きい)とに分離する工程。
(3)工程(2)で得られた粗粉画分を微粉砕する工程。
(4)工程(3)で得られた微粉砕物から平均粒径が150μm未満〜200μm未満の微粉画分を分取する工程。
(5)工程(2)で得られた平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分と、工程(4)で得られた平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分とを混合する工程。
【0021】
工程(1)において、原料穀類を常法に従って精選した後、加水・調質して粗粉砕するか、あるいは加水・調質せずにそのまま粗粉砕するが、加水・調質せずに粗粉砕するのが好ましい。この粗粉砕処理は、ロール式粉砕又は衝撃式粉砕に供しても良いが、ロール式粉砕と衝撃式粉砕との組み合わせで行うことが好ましく、その場合、ロール式粉砕を行った後、衝撃式粉砕を行うことが好ましい。ロール式粉砕は、通常の製粉では多段階で複数回行われるが、工程(1)では2回以下であることが好ましく、より好ましくは1回のみである。衝撃式粉砕に用いる粉砕機としてはターボミルが好ましい。この粗粉砕処理の程度は、原料穀類の加水・調質の有無により異なるが、一般的には次の工程(2)(粗粉砕物の分級工程)において、平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分の割合が50〜80%程度となるように行うのが好ましく、例えば工程(2)を篩で行う場合には、篩を通過する微粉画分の割合が60〜75%となるように行うことが好ましく、65〜70%となるように行うことがより好ましい。工程(1)では、粗粉砕処理をロール式粉砕と衝撃式粉砕との組み合わせで行うと原料穀類の粉砕効率が良い。また、原料穀類を加水・調質せずにそのまま粗粉砕することが好ましく、粉砕効率はさらに向上する。
【0022】
工程(2)において、工程(1)で得られた粗粉砕物は、篩による分級又は空気分級機による分級により、前記の微粉画分と粗分画分とに分離される。微粉画分の平均粒径は、好ましくは150μm未満〜180μm未満であり、粗分画分の平均粒径は、150μm以上〜180μm以上である。工程(2)を篩で行う場合、その篩としては、目開き150〜200μm、好ましくは150〜180μm、より好ましくは150μmの篩を用い、それによって、工程(1)で得られた粗粉砕物は、該篩を通過する平均粒径150μm未満〜200μm未満、好ましくは150μm未満〜180μm未満、より好ましくは150μm未満の微粉画分と、該篩上に残留する平均粒径150μm以上〜200μm以上、好ましくは150μm以上〜180μm以上、より好ましくは150μm以上の粗粉画分とに分離される。また、工程(2)を空気分級機で行う場合、平均粒径150〜200μmを境に粗粉画分と微粉画分とを精度よく分離可能な分級機を用いるのが好ましい。
【0023】
工程(3)の実施前に、工程(2)で得られた粗粉画分を湿熱処理する工程を行っても良い。この湿熱処理は、粗粉画分に含まれる澱粉に損傷を与えない範囲で、アミラーゼやプロテアーゼ等の各種酵素を失活させるように行われ、通常は、水蒸気を導入する密閉系容器内において、品温85〜98℃、好ましくは90〜95℃で、1〜60秒間、好ましくは5〜30秒間滞留させることにより行われる。好ましくは、前記特定製造装置(連続粉体移送装置)に粗粉画分を導入し、飽和水蒸気を導入して前記温度・時間になるように該粗分画分を滞留させる。このように粗粉画分を湿熱処理することにより、次の工程(3)で粗粉画分が微粉砕されやすくなるという効果が奏される。
【0024】
工程(3)において、工程(2)で得られた粗粉画分を微粉砕する方法としては、公知の粉砕方法を用いることができるが、特に衝撃式粉砕が好ましい。衝撃式粉砕による微粉砕処理の程度は、次の工程(4)(微粉砕物の分級工程)において、平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分の割合が80〜100%程度となるように行うことが好ましく、90〜100%となるように行うことがより好ましく、例えば工程(4)を篩で行う場合には、篩を通過する微粉画分の割合が80〜100%となるように行うことが好ましく、90〜100%となるように行うことがより好ましい。次の工程(4)を空気分級機で行う場合、衝撃式微粉砕に供してから、粉砕物を空気分級機に供しても良く、また、空気分級機を内蔵した衝撃式微粉砕機を用いて粉砕と分級をほぼ同時に行っても良く、設備やコストの面から空気分級機内蔵の衝撃式微粉砕機を用いて粉砕及び分級を行うことが好ましい。
【0025】
工程(4)において、工程(3)で得られた微粉砕物は、工程(2)と同様に篩による分級又は空気分級機による分級により、平均粒径150μm未満〜200μm未満の微粉画分と150μm以上〜200μm以上の粗粉画分(但し、この粗粉画分の平均粒径は、前者の微粉画分の平均粒径よりも大きい)、好ましくは150μm未満〜180μm未満の微粉画分と150μm以上〜180μm以上の粗粉画分、より好ましくは150μm未満の微粉画分と150μm以上の粗粉画分とに分離される。工程(4)を篩で行う場合、その篩としては、目開き150〜200μm、好ましくは150〜180μm、より好ましくは150μmの篩を用い、それによって、工程(3)で得られた微粉砕物は、該篩を通過する平均粒径150μm未満〜200μm未満、好ましくは150μm未満〜180μm未満、より好ましくは150μm未満の微粉画分と、該篩上に残留する平均粒径150μm以上〜200μm以上、好ましくは150μm以上〜180μm以上、より好ましくは150μm以上の粗粉画分とに分離される。また、工程(4)を空気分級機で行う場合、平均粒径150〜200μmを境に粗粉画分と微粉画分とを精度よく分離可能な分級機を用いるのが好ましく、前記の通り、空気分級機内蔵の衝撃式微粉砕機を用いて粉砕及び分級を行うことが好ましい。尚、工程(4)を篩で行う場合も、篩を通過する微粉画分の割合を高められることから空気分級機内蔵の衝撃式微粉砕機の使用が好ましい。
【0026】
工程(4)を篩、空気分級機のいずれを用いて行った場合でも、工程(4)で得られた粗粉画分は、その前の工程(3)(粗粉画分の微粉砕工程)に戻すことが好ましく、必要に応じてこの操作を繰り返すことができる。工程(4)で得られた粗粉画分を工程(3)に戻すことで、粉砕されにくい画分(ふすま画分等)が微粉砕される。しかし、この操作を過度に繰り返し行うことは、当該粉砕物中の澱粉やグルテンの構造が損傷を受けるため好ましくない。
【0027】
工程(5)において、工程(2)で得られた微粉画分と工程(4)で得られた微粉画分とを混合することで、風味・食感のみならず、二次加工性に優れた穀類全粒粉が得られる。
【0028】
工程(1)〜(5)を経て得られた穀類全粒粉は、粉砕され難い画分(ふすま画分等)が十分に粉砕されており、その平均粒径が、通常は150μm未満〜200μm未満、好ましくは100μm未満、より好ましくは40〜80μmの範囲、さらに好ましくは50〜70μmの範囲であり、しかも粒径150μm以上〜200μm以上の粗粉画分、好ましくは150μm以上〜180μm以上の粗粉画分、より好ましくは150μm以上の粗粉画分の含有量が、5質量%未満、好ましくは3質量%未満であり、例えば0.3〜3質量%の範囲である。
【0029】
本発明の製造方法によって製造された熱処理穀類全粒粉、又はこれを含む穀粉組成物は、原料穀類を適宜選択することによってパン用粉、麺用粉、菓子用粉等として好適に使用することができる。この熱処理穀類全粒粉を含む穀粉組成物は、該熱処理穀類全粒粉以外の他の成分として、例えば、大豆蛋白、小麦蛋白、卵粉末、食物繊維、増粘剤、膨張剤、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料等の1種以上を含んでいても良い。
【0030】
本発明の製造方法によって製造された熱処理穀類全粒粉を含む穀粉組成物は、各種穀粉含有食品の原料として使用できる。この穀粉含有食品としては、例えば、「パン・ベーカリー」類、「スポンジ状菓子、洋菓子、シュー皮菓子」類、「お好み焼き、たこ焼き」類、「フラワーペースト、ソース」類、「揚げ物用バッター」類、「春巻皮、パイ生地」類等が挙げられる。
【実施例】
【0031】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0032】
(穀類全粒粉の製造法A)
原料穀類として軟質小麦を用い、前記工程(1)〜(5)に準じて穀類全粒粉(小麦全粒粉)Aを製造した。
即ち、先ず、精選した軟質小麦を、加水・調質せずにロール機にて粉砕した後、さらに市販の衝撃式粉砕機を用いて粉砕した〔工程(1)〕。こうして得られた軟質小麦の粗粉砕物を目開き150μmの篩を用いて分級し、篩を通過する粒径150μm未満の微粉画分と、篩上に残留する粒径150μm以上の粗粉画分とに分離した〔工程(2)〕。ここで得られた微粉画分の平均粒径は53μmであり、粗粉画分の平均粒径は321μmであった。次いで、得られた粗粉画分を、前記特定製造装置(連続粉体移送装置)を用いて飽和水蒸気を導入しながら、品温90℃で約5秒間の条件で湿熱処理を行った。次いで、湿熱処理した画分を市販の衝撃式微粉砕機を用いて微粉砕した〔工程(3)〕。次いで、得られた微粉砕物を目開き150μmの篩を用いて分級し、篩を通過する粒径150μm未満の微粉画分(ふすま微粉画分)を分取した〔工程(4)〕。次いで、得られた微粉画分(ふすま微粉画分)を、先に分離した微粉画分と混合し〔工程(5)〕、目的とする小麦全粒粉Aを得た。得られた小麦全粒粉Aの平均粒径は約60μmであった。
【0033】
(穀類全粒粉の製造法B)
原料穀類として軟質小麦を用い、精選した軟質小麦を加水・調質せずに、目開き1.4mmの篩を全量通過できるようにロール機にて粉砕し、目的とする穀類全粒粉(小麦全粒粉)Bを得た。得られた小麦全粒粉Bの平均粒径は約320μmであった。
【0034】
〔実施例1〕
前記(穀類全粒粉の製造法A)に従って製造された小麦全粒粉Aの全体に湿熱処理を施して、熱処理穀類全粒粉を製造した。
即ち、小麦粉全粒粉Aを密封系高速攪拌機に導入し、該攪拌機内に飽和水蒸気を導入しながら、所定の加熱温度(出口温度)で所定時間加熱処理(湿熱処理)した。加熱処理後に乾燥して、実施例1の熱処理穀類全粒粉を得た。ここで用いた密封系高速攪拌機は、前記連続粉体移送装置(特定製造装置)と同様の構成を有しており、即ち、導入された原料を排出口まで移送するための移送路内に、原料の移送方向に延びる撹拌軸と該撹拌軸の周囲に螺旋状に植設された撹拌羽根とを含んで構成される攪拌機を有し、該攪拌機によって該移送路内の原料(小麦粉全粒粉)を撹拌可能に構成されており、原料を前記排出口へ押し出すための押出具は有さないという構成を備えたものである。この小麦粉全粒粉Aの湿熱処理において、加熱温度は120℃、加熱時間は3秒であった。
【0035】
〔実施例2〕
小麦全粒粉Aに代えて、前記(穀類全粒粉の製造法B)に従って製造された小麦全粒粉Bを用いた以外は実施例1と同様にして、熱処理穀類全粒粉を製造した。
【0036】
〔試験例〕
実施例1及び2の熱処理穀類全粒粉を用い、下記方法によりホットケーキ(スポンジ状菓子類、穀粉含有食品)を製造した。ホットケーキは、製造(焼成)後、速やかに−30℃に急速冷凍し、その後−15℃で1週間保存した。その後、冷凍保存したホットケーキを電子レンジで加熱・解凍し、その風味及び食感(歯切れの良さ、しっとり感、口溶けの良さ)を10人のパネラーに下記評価基準に基づき評価してもらった。また、対照例として、前記(穀類全粒粉の製造法A)に従って製造された小麦全粒粉A(非熱処理穀類全粒粉)を用い、前記と同様にホットケーキを製造し、評価した。評価結果(パネラー10名の平均点)を下記表1に示す。
【0037】
<ホットケーキの製造方法>
(1)試験対象の全粒粉77質量部、砂糖20質量部、食塩0.2質量部及び膨張剤(炭酸水素ナトリウム)2.8質量部を混合し(合計100質量部)、穀粉ミックス(穀粉組成物)を調製した。
(2)次に、卵50gと牛乳150gとを混合して調製した卵乳液200gを、前記穀粉ミックス200gに加えてよく混ぜて生地を調製した。
(3)前記生地を、170℃に予め加熱しておいた鉄板の上に流して3分間焼成した後、ひっくり返して3分間焼成してホットケーキを製造した。
【0038】
(風味の評価基準)
3点:えぐみが無く、良好。
2点:えぐみがほとんどなく、違和感がない。
1点:えぐみが強く、不良。
(歯切れの良さの評価基準)
3点:さっくりとしていて噛み切りやすく、良好。
2点:硬さがそれほどなく、ややさっくりしている。
1点:硬くて噛み切りにくく、不良。
(しっとり感の評価基準)
3点:しっとり感があり、良好。
2点:ややしっとり感がある。
1点:パサパサしていてしっとり感がなく、不良。
(口溶けの良さの評価基準)
3点:口の中でほぐれやすく、飲み込みやすく、良好。
2点:口の中でややほぐれやすく、やや飲み込みやすい。
1点:口の中で固まりやすく、飲み込みにくく、不良。
【0039】
【表1】
【0040】
表1に示す通り、実施例1及び2は対照例に比して風味及び食感に優れる。このことから、小麦全粒粉の二次加工品(ホットケーキ)の風味及び食感の向上には、小麦全粒粉の全体に湿熱処理を施すことが有効であることがわかる。また、小麦全粒粉の平均粒径は実施例1の方が実施例2よりも小さいところ、両者を対比すると、二次加工品の風味及び食感は実施例1の方が高評価であったことから、湿熱処理対象である小麦全粒粉の平均粒径は、300μmを超えるような範囲よりも小さいことが好ましく、少なくとも150μm未満の範囲が特に好ましいことがわかる。