(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6405202
(24)【登録日】2018年9月21日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】穀粉組成物
(51)【国際特許分類】
A23L 7/10 20160101AFI20181004BHJP
A23L 7/109 20160101ALI20181004BHJP
A21D 2/14 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
A23L7/10 Z
A23L7/109 A
A21D2/14
【請求項の数】6
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2014-233079(P2014-233079)
(22)【出願日】2014年11月17日
(65)【公開番号】特開2015-171354(P2015-171354A)
(43)【公開日】2015年10月1日
【審査請求日】2017年4月4日
(31)【優先権主張番号】特願2014-30401(P2014-30401)
(32)【優先日】2014年2月20日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】301049777
【氏名又は名称】日清製粉株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002170
【氏名又は名称】特許業務法人翔和国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101292
【弁理士】
【氏名又は名称】松嶋 善之
(74)【代理人】
【識別番号】100112818
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 昭久
(72)【発明者】
【氏名】吉田 匡
(72)【発明者】
【氏名】小峰 法子
(72)【発明者】
【氏名】福留 真一
(72)【発明者】
【氏名】長井 孝雄
【審査官】
柴原 直司
(56)【参考文献】
【文献】
特開2010−252647(JP,A)
【文献】
特開平08−140605(JP,A)
【文献】
特開2014−018142(JP,A)
【文献】
特開2014−018108(JP,A)
【文献】
J. Cereal Sci., (2013), 57, [1], p.67-72
【文献】
財団法人飯島記念食品科学振興財団 平成20年度年報, P.201-206
【文献】
柴田茂久/中江利昭編,「小麦粉製品の知識」, 初版, 株式会社幸書房, 2000年6月15日, p.257-258
【文献】
柴田茂久/中江利昭編,「小麦粉製品の知識」, 初版, 株式会社幸書房, 2000年6月15日, p.158
【文献】
柴田茂久/中江利昭編,「小麦粉製品の知識」, 初版, 株式会社幸書房, 2000年6月15日, p.137-139
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 7/00−7/104
A21D 2/00−17/00
A23L 7/109−7/113
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穀粉及び遊離型フェルラ酸を含有する穀粉組成物を用いて製造される食品であって、
前記遊離型フェルラ酸は、該遊離型フェルラ酸を50質量%以上含有する精製フェルラ酸由来のものであり、該精製フェルラ酸は、植物由来もしくは化学合成品由来のフェルラ酸含有組成物を精製してなるものであり、
前記穀粉組成物中における前記遊離型フェルラ酸の含有量が、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して0.005〜50ppm(ただし、50ppmを除く)である食品。
【請求項2】
前記穀粉組成物中における前記穀粉の50質量%以上が小麦粉である請求項1に記載の食品。
【請求項3】
穀粉及び遊離型フェルラ酸を含有する穀粉組成物に加水して混捏してなる麺生地であって、
前記遊離型フェルラ酸は、該遊離型フェルラ酸を50質量%以上含有する精製フェルラ酸由来のものであり、該精製フェルラ酸は、植物由来もしくは化学合成品由来のフェルラ酸含有組成物を精製してなるものであり、
前記穀粉組成物中における遊離型フェルラ酸の含有量が、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して0.05〜3ppmであり、
前記穀粉組成物への加水量が、該穀粉組成物100質量部に対して30〜45質量部である麺生地。
【請求項4】
前記穀粉組成物中における前記穀粉の50質量%以上が小麦粉である請求項3に記載の麺生地。
【請求項5】
穀粉及び遊離型フェルラ酸を含有する穀粉組成物に加水して混捏してなるパン生地であって、
前記遊離型フェルラ酸は、該遊離型フェルラ酸を50質量%以上含有する精製フェルラ酸由来のものであり、該精製フェルラ酸は、植物由来もしくは化学合成品由来のフェルラ酸含有組成物を精製してなるものであり、
前記穀粉組成物中における遊離型フェルラ酸の含有量が、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して10〜50ppmであり、
前記穀粉組成物への加水量が、該穀粉組成物100質量部に対して60〜80質量部であるパン生地。
【請求項6】
前記穀粉組成物中における前記穀粉の50質量%以上が小麦粉である請求項5に記載のパン生地。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、小麦粉等の穀粉を主体とする穀粉組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類、パン類、菓子類等の穀粉含有食品の製造には、通常、小麦粉等の穀粉を主体とする穀粉組成物が原料として用いられている。穀粉組成物に関し、例えば特許文献1には、穀粉組成物から製造した生地にその製造直後から経時的に黒褐色の斑点(スペック)が発生し、あるいは生地の変色や退色が発生するという課題を解決することを目的として、小麦粉に該小麦粉の全量に対して0.01〜1重量%のフェルラ酸を添加配合することが記載されている。また特許文献1の〔0014〕には、特許文献1記載の発明で使用するフェルラ酸に関し、「化学合成品でも天然物起源から得られたものでも良く、純品である必要はないが、フェルラ酸以外の成分により小麦を原料にした生地の色調に悪影響を与えない程度にまで精製されていることが好ましい」旨も記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平8−140605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
麺類やパン類の製造工程には、通常、穀粉組成物に加水して生地を調製する工程が含まれ、例えば麺類の製造であれば麺生地、パン類の製造であればパン生地が調製されるところ、これらの生地の強度が低く保形性に劣るものであると、製麺、製パン工程における作業性、生産性が低下し、延いては麺類やパン類の食感や風味等に悪影響を及ぼすおそれがある。例えば麺生地の場合にその強度が低いと、麺生地の熟成工程においていわゆる生地ダレが発生しやすい。またパン生地の場合にその強度が低いと、パン生地を調製する際のミキシングにおいて弾力性が低下するいわゆるブレークダウンが発生しやすい。生地にしたときに実用上十分な強度を有して保形性・二次加工性に優れ、麺生地にした場合は、生地ダレの発生を抑制し、パン生地にした場合は、十分なミキシング耐性を有しミキシング時のブレークダウンの発生を抑制し得る穀粉組成物は未だ提供されていない。
【0005】
本発明は、実用上十分な強度を有し二次加工性に優れる生地を調製可能な穀粉組成物に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、穀粉及び遊離型フェルラ酸を含有し、該遊離型フェルラ酸の含有量が該穀粉の全量に対して0.005〜50ppmである穀粉組成物である。
また本発明は、前記穀粉組成物を用いて製造される食品、麺生地又はパン生地である。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、実用上十分な強度を有し二次加工性に優れる生地を調製可能な穀粉組成物が提供される。本発明の穀粉組成物を用いて製造された食品は、その製造工程において生地の保形性に優れているため、生産性が高い。例えば、本発明の穀粉組成物を用いて麺生地を調製した場合には、麺生地の熟成工程で生地ダレが起こり難く、また、パン生地を調製した場合には、ミキシング耐性に優れブレークダウンを起こし難いパン生地が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、麺帯の熟成工程において生地ダレが発生している状態を模式的に示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の穀粉組成物は穀粉を含有する。本発明の穀粉組成物に含まれる穀粉としては、麺類、パン類、菓子類等の各種穀粉含有食品に通常用いられるものを特に制限無く用いることができ、例えば、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉等の小麦粉の他、コーンフラワー、大麦粉、ライ麦粉、オーツ麦粉、そば粉、米粉、豆粉等が挙げられ、穀粉組成物の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。穀粉の含有量は、本発明の穀粉組成物中、通常50質量%以上であり、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは90質量%以上である。
【0010】
本発明の穀粉組成物に含有されている穀粉の50質量%以上、特に75質量%以上、とりわけ90質量%以上は、小麦粉であることが好ましい。このように、穀粉組成物に用いられる穀粉の主体が小麦粉であることにより、後述する遊離型フェルラ酸による作用効果(生地ダレの発生抑制効果)がより確実に発現される。小麦粉の種類は問わず、強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム小麦粉でも良い。
【0011】
本発明の穀粉組成物は、穀粉に加えてさらに遊離型フェルラ酸を含有する。本発明において、遊離型フェルラ酸は、穀粉組成物に優れた生地ダレ抑制能を付与するための必須成分である。本発明において生地ダレ抑制能の向上に用いるのは遊離型フェルラ酸であって、エステル型フェルラ酸や結合型フェルラ酸ではない。フェルラ酸がチロシナーゼ阻害作用、抗酸化作用、紫外線吸収作用等を有することは知られており(特許文献1の〔0011〕参照)、また特許文献1では、フェルラ酸が生地におけるスペックの発生や色調の変化を抑制することが開示されているが、フェルラ酸を遊離型、結合型等の存在様式別に分類した上で、遊離型フェルラ酸が生地ダレ抑制作用を有することには言及していない。
【0012】
遊離型フェルラ酸の含有量は、本発明の穀粉組成物中、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して0.005〜50ppmである。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、遊離型フェルラ酸の対穀粉含有量は少なすぎても多すぎても所望の効果(生地ダレ抑制効果)は得られない。
【0013】
本発明で用いる遊離型フェルラ酸は、イネ科植物等の天然物を給源とするものであっても、化学合成品であっても良く、特に限定はされない。本発明の穀粉組成物に含有されている遊離型フェルラ酸は、実質的に、小麦粉等の穀粉とは別の原料由来のものである。一般に、小麦粉等の穀粉には遊離型フェルラ酸が含有されているが、その含有量は極少量であるため、遊離型フェルラ酸の対穀粉含有量を前記特定範囲に調整するためには、遊離型フェルラ酸の給源として穀粉以外の他の原料、例えば後述する精製フェルラ酸を用いることが好ましい。
【0014】
本発明の穀粉組成物に含有されている遊離型フェルラ酸は、該遊離型フェルラ酸を50質量%以上、好ましくは75質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上含有する精製フェルラ酸由来のものであっても良い。即ち、本発明の穀粉組成物は、遊離型フェルラ酸を50質量%以上含有する精製フェルラ酸を原料として用いたものであっても良い。この精製フェルラ酸は、イネ科植物等の植物由来又は化学合成品由来のフェルラ酸含有組成物を公知の精製法に従って精製し、遊離型フェルラ酸の含有量を精製前よりも高めたものである。精製フェルラ酸としては市販品(例えばオリザ油化株式会社製の精製フェルラ酸)を用いることもできる。
【0015】
本発明の穀粉組成物は、穀粉及び遊離型フェルラ酸以外にさらに、澱粉及び加工澱粉からなる群から選択される1種又は2種以上の添加物を含有していても良い。この添加物としては、麺類、パン類、菓子類等の各種穀粉含有食品に通常用いられる澱粉又は加工澱粉を特に制限無く用いることができ、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉等の澱粉;前記各種澱粉にα化、アセチル化、エーテル化、エステル化、酸化処理、架橋処理等の処理を施した加工澱粉等が挙げられ、穀粉組成物の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。前記添加物の含有量は、本発明の穀粉組成物中、好ましくは0〜50質量%、さらに好ましくは0〜25質量%である。
【0016】
本発明の穀粉組成物は、前記した成分以外の他の成分を含有していても良い。この他の成分としては、例えば、小麦グルテン、大豆蛋白質、卵黄粉、卵白粉、全卵粉、脱脂粉乳等の蛋白質素材;動植物油脂、粉末油脂等の油脂類;食物繊維、膨張剤、増粘剤、乳化剤、かんすい、食塩、糖類、甘味料、香辛料、調味料、ビタミン類、ミネラル類、色素、香料、デキストリン、アルコール、酵素剤等が挙げられ、穀粉組成物の用途等に応じて、これらの1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
本発明の穀粉組成物は、穀粉及び遊離型フェルラ酸をはじめとする各種成分を混合することで製造することができ、各種成分の添加順序は特に制限されない。遊離型フェルラ酸を穀粉等の他の成分と混合する際には、予め、遊離型フェルラ酸あるいは精製フェルラ酸を適量の水に溶解させてフェルラ酸水溶液を調製し、このフェルラ酸水溶液を他の成分と混合するようにしても良い。
【0018】
本発明の穀粉組成物は、常温常圧で粉体であり、各種穀粉含有食品の原料として使用できる。本発明の穀粉組成物に適用可能な穀粉含有食品、即ち、本発明の穀粉組成物を用いて製造される食品としては、例えば、麺・麺皮類、パン・ベーカリー類、菓子・ケーキ類等が挙げられる。
【0019】
本発明の穀粉組成物を用いて食品を製造する工程には、通常、該穀粉組成物に加水して生地を調製する工程が含まれる。この生地調製工程は、例えば、麺生地を調製する場合には、穀粉組成物に所定量の水を加え、必要に応じさらに、かんすい、食塩等を加えて混捏すれば良い。また、パン生地を調製する場合には、麺生地と同様に、穀粉組成物に所定量の水を加え、その後さらに、食塩、砂糖、脱脂粉乳、固形油脂といった副材料を加えて混捏すれば良い。穀粉組成物への加水量は、食品の種類等に応じて適宜調整すれば良い。
【0020】
本発明の穀粉組成物を用いて麺を製造する場合、調製された麺生地を常法に従って圧延することで麺帯が得られる。こうして得られた麺帯は、通常、所定環境下に所定時間放置する等して、熟成される。この麺帯の熟成工程は、例えば、長尺帯状の麺帯を麺棒の外周側に同心状に巻き取って巻玉を作製し、この巻玉を、該麺棒の軸方向を水平にした状態で所定環境下に所定時間放置することで行われる。熟成後、巻玉から麺帯を巻き出し、常法に従って麺線を切り出すことで、生麺が得られる。本発明の穀粉組成物が適用可能な麺の種類は特に制限されず、例えば、パスタ、中華麺、うどん、そばが挙げられる。
【0021】
麺帯(巻玉)の熟成工程に関し、作製直後の巻玉においては、麺帯と麺棒の外周面とは密着しており、熟成中もなるべく長い時間、麺帯が麺棒に同心状に巻き取られた状態が維持されていることが、作業性、生産性等の観点から望ましい。しかしながら、麺帯(麺生地)の原料として従来の穀粉組成物を用いた場合には、生地ダレ抑制効果に乏しいため、
図1に示すように、巻玉12の熟成中に、麺棒11に下方から支持されていない麺帯10の下部が自重により垂れ下がるように変形しやすく、熟成時間が長くなると、麺帯10の下部厚h(熟成中の巻玉12における、軸方向が水平状態の麺棒11の最下点と麺帯10の最下点との間の長さ)が巻玉12の作製直後から著しく増加し、その後の作業の効率、生産性等に悪影響を及ぼすおそれがあった。これに対し、麺帯10の原料として本発明の穀粉組成物を用いた場合には、生地ダレ抑制効果に優れているため、麺帯10の下部厚hの増加が効果的に抑制され、作製直後の巻玉12の状態を比較的長時間維持することができる。
【0022】
また、パン生地の調製工程に関し、原料に加水したものを混捏する手段としてはミキサーが一般的である。例えば、ミキシングボウルに原料及び水を投入して混合し、その混合物をフック等の撹拌部材でミキシングすることによってパン生地を調製することができる。このミキシング工程においては通常、撹拌部材の回転速度(回転数)が比較的小さい低速ミキシングと、該回転速度が比較的大きい高速ミキシングとをこの順で実施する。低速ミキシングは主として、混合物中の複数成分を均一に混合するための工程であり、高速ミキシングは主として、低速ミキシングで形成された生地の前駆体に適切な粘弾性を発現させるための工程である。また、パン生地に油脂を含有させる場合は、油脂の投入時期によってパン生地の調製法が異なり、低速ミキシングの後で高速ミキシングの途中、即ち、生地がある程度形成された段階で油脂を投入する製法と、ミキシング工程(低速ミキシング)の開始時に他の原料と共に油脂を投入するオールイン製法とが一般的である。
【0023】
このようなパン生地調製におけるミキシング工程は、得られる製品の品質に重要な影響を及ぼす。一般に、パン生地の最適なミキシング状態は、生地の粘弾性が最大に達したところであり、その最適な状態からさらにミキシングを続けてしまうとパン生地は弾力性を失い、湿った粘着性の強い状態になる。この現象をブレークダウンといい、このような生地は工程中の加工性に劣り、得られるパンは容積、食感などが低下している。そのため、パン生地には、それを調製する際のミキシング工程において、生地の弾力性が失われず、べたつき、伸びのないブレークダウンが抑制された最適な生地状態が安定して得られること、即ち、ミキシング耐性が高いことが求められる。ミキシング耐性の評価は、現状ではミキシング中の回転している状態の生地の粘弾性を正確に把握するための測定手法はないため、本発明においては、ミキシング中の生地がドロップするまでの時間を測定することにより行った。具体的には下記の通りである。
【0024】
<生地のドロップ時間の測定方法>
フック型の撹拌部材及びミキシングボウルを備えた製パン用ミキサー(例えば、株式会社ダルトン製の万能混合機型式5DM−03−r)を用いて測定を行う。ミキシングボウル中に測定対象の生地の原料を投入し、撹拌部材を用いてミキシングボウル中で原料をミキシングすることによってパン生地を調製する。調製直後のパン生地は、撹拌部材に固着した状態で一塊となっている。次いで、その撹拌部材を一塊のパン生地ごと回転させることでミキシングボウルから離れる上方向に移動させ、パン生地をミキシングボウルから引き離して両者を離間状態にする。そして、斯かる離間状態の開始時からパン生地が弾性を失うことで自重により垂れ下がり、撹拌部材から脱落して生地全体がミキシングボウルの底に付着するまでの時間を計測し、その計測値をドロップ時間とする。
【0025】
前記ドロップ時間が長いほど、ミキシング耐性が高く、生地物性が良好なパン生地であると評価できる。パン生地の原料として本発明の穀粉組成物を用いた場合には、前記ドロップ時間が長く、ミキシング耐性の高いパン生地が得られる。つまり、本発明の穀粉組成物は、主として遊離型フェルラ酸の作用により、二次加工性に優れ、また、これを用いて製造された麺類、パン類等の食品は、その製造工程において生地の物性維持に優れているため、特に生地を所定形状に成形した後の作業性に優れ、生産性が高い。前述した通り、本発明の穀粉組成物中における遊離型フェルラ酸の含有量は、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して0.005〜50ppmの特定範囲に設定されるが、より好ましくは、該穀粉組成物の用途、例えば、該穀粉組成物を用いて調製する生地の組成等に応じて、斯かる特定範囲の中で調整される。
【0026】
例えば、本発明の穀粉組成物を用いて麺生地を調製する場合、その麺生地用穀粉組成物中における遊離型フェルラ酸の含有量は、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して、好ましくは0.005〜3ppm、さらに好ましくは0.01〜2ppmである。また、ここでいう麺生地は、その調製時に穀粉組成物に対して加えられる水の量が、該穀粉組成物100質量部に対して、好ましくは30〜45質量部、さらに好ましくは35〜40質量部のものである。
【0027】
また、本発明の穀粉組成物を用いてパン生地を調製する場合、そのパン生地用穀粉組成物中における遊離型フェルラ酸の含有量は、該穀粉組成物に含有されている穀粉の全量に対して、好ましくは10〜50ppm、さらに好ましくは20〜30ppmである。また、ここでいうパン生地は、その調製時に穀粉組成物に対して加えられる水の量が、該穀粉組成物100質量部に対して、好ましくは60〜80質量部、さらに好ましくは65〜75質量部のものである。パン生地は通常、麺生地に比して、その調製時に穀粉組成物に対して加えられる水の量が多い。
【実施例】
【0028】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0029】
〔実施例1〜4、比較例1〜2、参考例1〕
市販のミキサー((有)秋田機工製、型式03、番号100)に、中力粉(日清製粉株式会社製、商品名「さざんか」)3kgと、対中力粉4質量%の食塩と、適正量の水とを投入し、回転速度100rpmでミキシング工程を実施し、麺生地を調製した。ミキシング工程は、ミキシングを2分間行った後、ミキサー中の生地を掻き落として、再びミキシングを2分間行い、ミキサー中の生地を掻き落として、最後にミキシングを8分間行うことで実施した。生地に遊離型フェルラ酸を意図的に含有させる場合、即ち、本発明の穀粉組成物を用いた麺生地を調製する場合(実施例1〜4及び参考例1)は、中力粉と混合される水に、予め所定量の精製フェルラ酸(オリザ油化株式会社製)を溶解させて、該水をフェルラ酸水溶液とした。このフェルラ酸水溶液中の遊離型フェルラ酸含量を、公知の方法(「樋口誠一、外2名、『小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発(2)』、埼玉県産業技術総合センター研究報告、第6巻、2008年」に記載のフェルラ酸の定量方法)に従って測定したところ、98質量%以上であった。麺生地を調製するに際しての穀粉組成物への加水量は、該穀粉組成物100質量部に対して40質量部とした。
【0030】
〔試験例1:麺生地の強度(生地ダレ抑制能)の評価試験〕
各実施例、比較例及び参考例の生地を、6mmの間隙を置いて相対向する一対の圧延ロ−ル間の該間隙に2回に亘って導入することにより、帯状に圧延して麺帯を調製した。より具体的には、一対の圧延ロ−ル間の間隙に生地を導入して圧延することにより、製造中間体としての帯状の麺帯を得、該麺帯をその短手方向に二つ折りした状態で、再度一対の圧延ロ−ル間の間隙に導入して圧延することにより、目的とする帯状の麺帯を得た。こうして得られた各実施例、比較例及び参考例の麺帯は、いずれも幅方向長さが一定の長尺帯状をなし、厚さ6mm、幅15cm、重量3kgであった。
次に、各実施例、比較例及び参考例の麺帯を、直径4cmの麺棒の外周側に同心状に巻き取って巻玉を作製し、この巻玉を、該麺棒の軸方向を水平にした状態で、室温27℃、湿度75%に管理した区画にて、所定時間放置することで熟成させた。この麺帯(巻玉)の熟成中、随時、麺帯下部厚(
図1の符号hで示す長さに相当)を測定した。麺帯下部厚が10cmに達するのに要した時間及び20cmに達するのに要した時間をそれぞれ下記表1に示した。麺帯下部厚が所定値に達するのに要した時間が長いものほど、生地ダレの発生抑制効果が高く、高評価となる。
【0031】
【表1】
【0032】
表1に示す通り、各実施例は各比較例及び参考例に比して、麺帯下部厚が10cmに達するのに要した時間及び20cmに達するのに要した時間のいずれもが長く、生地ダレ抑制能に優れる。特に、実施例1(遊離型フェルラ酸の対穀粉混合量0.01ppm)及び実施例4(同混合量3ppm)は、遊離型フェルラ酸無添加の比較例1に比して、麺帯下部厚が10cmに達するのに要した時間が約1.3倍、麺帯下部厚が20cmに達するのに要した時間が約1.3倍遅延され、また、実施例3(同混合量2ppm)は、比較例1に比して、麺帯下部厚が10cmに達するのに要した時間が約1.8倍、麺帯下部厚が20cmに達するのに要した時間が約1.6倍遅延された。これに対し、遊離型フェルラ酸の対穀粉混合量が0.001ppmと比較的少量の比較例2は、遊離型フェルラ酸無添加の比較例1と同様の挙動を示し、また、同混合量が5ppmと比較的多量の参考例1は、比較例1よりも生地が早くダレる結果となった。
以上のことから、麺生地に関し、生地ダレの発生を抑制し、優れた二次加工性を有する穀粉組成物を得るためには、穀粉に対して特定量(対穀粉混合量0.005〜3ppm、特に0.01〜2ppm)の遊離型フェルラ酸を混合することが有効であることがわかる。尚、ここでいう「混合」とは、生地(穀粉組成物)に遊離型フェルラ酸を意図的に含有させることを意味し、「対穀粉混合量」は、混合された(即ち意図的に含有された)遊離型フェルラ酸の「対穀粉含有量」と同じである。
【0033】
〔実施例5〜9、比較例3〜5、参考例2〕
市販の製パン用ミキサー(株式会社ダルトン製、万能混合機 型式5DM−03−r)におけるミキシングボウルに、強力粉(日清製粉株式会社製、商品名「カメリヤ」)300gと、副材料として、対強力粉2質量%の食塩と、対強力粉5質量%の砂糖と、対強力粉2質量%の脱脂粉乳と、対強力粉5質量%の油脂と、適正量の水とを投入し、いわゆるオールイン製法によってミキシング工程を実施し、パン生地を調製した。ミキシング工程は、回転速度63rpmの低速ミキシングで強力粉及び副材料を含む全原料を均一に混合後、さらに回転速度126rpmの高速ミキシングを実施することによって行った。また、ミキシング工程中は、ミキシングボウルを1分に1回冷却することにより生地温度を27度付近に維持した。生地に遊離型フェルラ酸を意図的に含有させる場合、即ち、本発明の穀粉組成物を用いたパン生地を調製する場合(実施例5〜9及び参考例2)は、強力粉と混合される水に、予め所定量の精製フェルラ酸(オリザ油化株式会社製)を溶解させて、該水をフェルラ酸水溶液とした。このフェルラ酸水溶液中の遊離型フェルラ酸含量を、公知の方法(「樋口誠一、外2名、『小麦由来機能性成分の新規利用技術の開発(2)』、埼玉県産業技術総合センター研究報告、第6巻、2008年」に記載のフェルラ酸の定量方法)に従って測定したところ、98質量%以上であった。パン生地を調製するに際しての穀粉組成物への加水量は、該穀粉組成物100質量部に対して73質量部とした。
【0034】
〔試験例2:パン生地の強度(生地ダレ抑制能)の評価試験〕
各実施例、比較例及び参考例の生地それぞれの調製直後に、前記方法によりドロップ時間を測定した。ドロップ時間が長いほど、ミキシング耐性が高く、高評価となる。下記表2には、遊離型フェルラ酸無添加の比較例3のドロップ時間を100とした場合の、他の例のドロップ時間の比較例3に対する割合を示した。
【0035】
【表2】
【0036】
表2に示す通り、各実施例は、遊離型フェルラ酸無添加の比較例3に比してドロップ時間が長く、即ち、ミキシング中の生地感が適切に保たれている時間が長く、ミキシング耐性能に優れる。特に、遊離型フェルラ酸無添加の比較例3のドロップ時間に対し、実施例5(遊離型フェルラ酸の対穀粉混合量10ppm)のドロップ時間は1.06倍、実施例9(同混合量50ppm)は1.07倍、実施例7(同混合量25ppm)は1.26倍遅延された。これに対し、遊離型フェルラ酸の対穀粉混合量が5ppmと比較的少量の参考例2、並びに同混合量が50ppmを超える比較例4及び5は、何れも遊離型フェルラ酸無添加の比較例3とほぼ同様の挙動を示した。
以上のことから、パン生地に関し、製パン時のミキシング時の生地感の低下を抑制し、ミキシング耐性能に優れた二次加工性を有する穀粉組成物を得るためには、穀粉に対して特定量(対穀粉混合量10〜50ppm、特に20〜30ppm)の遊離型フェルラ酸を混合することが有効であることがわかる。尚、ここでいう「混合」の意味は、前述した通りである。
【符号の説明】
【0037】
10 麺帯
11 麺棒
12 巻玉
h 麺帯の下部厚