特許第6408046号(P6408046)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6408046光硬化性接着剤、並びにそれを用いた偏光板及び積層光学部材
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6408046
(24)【登録日】2018年9月28日
(45)【発行日】2018年10月17日
(54)【発明の名称】光硬化性接着剤、並びにそれを用いた偏光板及び積層光学部材
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/30 20060101AFI20181004BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20181004BHJP
   B32B 27/16 20060101ALI20181004BHJP
【FI】
   G02B5/30
   C09J163/00
   B32B27/16 101
【請求項の数】10
【全頁数】32
(21)【出願番号】特願2017-17606(P2017-17606)
(22)【出願日】2017年2月2日
(65)【公開番号】特開2017-146591(P2017-146591A)
(43)【公開日】2017年8月24日
【審査請求日】2017年4月27日
(31)【優先権主張番号】特願2016-28156(P2016-28156)
(32)【優先日】2016年2月17日
(33)【優先権主張国】JP
【早期審査対象出願】
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】特許業務法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久米 悦夫
(72)【発明者】
【氏名】古川 達也
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 和徳
(72)【発明者】
【氏名】松土 和彦
(72)【発明者】
【氏名】松本 拓也
【審査官】 小西 隆
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−257199(JP,A)
【文献】 特開2012−001690(JP,A)
【文献】 特開2014−001367(JP,A)
【文献】 特開2015−143290(JP,A)
【文献】 特開2013−185133(JP,A)
【文献】 特開2016−018164(JP,A)
【文献】 特開2014−191005(JP,A)
【文献】 特開2012−208250(JP,A)
【文献】 特開2014−181268(JP,A)
【文献】 特開2011−219450(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/30
B32B 1/00−43/00
C09J 1/00−5/10
C09J 9/00−201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリビニルアルコール系偏光子と、前記ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一方の面に、光硬化性接着剤の硬化物を介して積層された熱可塑性樹脂フィルムと、を含む、偏光板であって、
前記光硬化性接着剤は、
芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とし、
光カチオン硬化性成分(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含み、
前記光カチオン硬化性成分(A)は、下記式(I):
【化1】

(式中、nは1以上の整数を表す。Vは脂環式環で構成される縮合環〔ただし、ヘテロ原子を含む縮合環を除く。〕を含むn価の基を表す。)
で表される第1エポキシ化合物(A1)、及び、下記式(II):
【化2】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基又は下記式(IIa)〜(IId):
【化3】

のいずれかで表される2価の基を表し、ここでY1〜Y4はそれぞれ炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
a及びbはそれぞれ0〜20の整数を表す。)
で表される第2エポキシ化合物(A2)を含有する、偏光板。
【請求項2】
ポリビニルアルコール系偏光子と、前記ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一方の面に、光硬化性接着剤の硬化物を介して積層された熱可塑性樹脂フィルムと、を含む、偏光板であって、
前記光硬化性接着剤は、
芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とし、
光カチオン硬化性成分(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含み、
前記光カチオン硬化性成分(A)は、下記式(I):
【化4】

(式中、nは1以上の整数を表す。Vは脂環式環で構成される縮合環を含むn価の基を表し、該縮合環は3環式である。)
で表される第1エポキシ化合物(A1)、及び、下記式(II):
【化5】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基又は下記式(IIa)〜(IId):
【化6】

のいずれかで表される2価の基を表し、ここでY1〜Y4はそれぞれ炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
a及びbはそれぞれ0〜20の整数を表す。)
で表される第2エポキシ化合物(A2)を含有する、偏光板。
【請求項3】
ポリビニルアルコール系偏光子と、前記ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一方の面に、光硬化性接着剤の硬化物を介して積層された熱可塑性樹脂フィルムと、を含む、偏光板であって、
前記光硬化性接着剤は、
芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とし、
光カチオン硬化性成分(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含み、
前記光カチオン硬化性成分(A)は、下記式(I):
【化7】

(式中、nは1以上の整数を表す。Vは脂環式環で構成される縮合環、及び該縮合環と式(I)中のグリシジルオキシ基とを連結する連結基からなるn価の基を表す。)
で表される第1エポキシ化合物(A1)、及び、下記式(II):
【化8】

(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基又は下記式(IIa)〜(IId):
【化9】

のいずれかで表される2価の基を表し、ここでY1〜Y4はそれぞれ炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
a及びbはそれぞれ0〜20の整数を表す。)
で表される第2エポキシ化合物(A2)を含有する、偏光板。
【請求項4】
前記連結基は、2価の脂肪族炭化水素基である、請求項3に記載の偏光板。
【請求項5】
前記光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、
前記第1エポキシ化合物(A1)を5〜85重量%、及び
前記第2エポキシ化合物(A2)を15〜85重量%含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項6】
さらに、前記光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、
下記式(III):
【化10】

(式中、Zは炭素数3〜8の分岐アルキレン基、又は式−Cm2m−Z1−Cn2n−で表される2価の基を表し、ここで−Z1−は、−O−、−CO−O−又は−O−CO−を表し、m及びnの一方は1以上、他方は2以上の整数を表すが、両者の合計は8以下であり、かつCm2m及びCn2nの一方は、分岐した2価の飽和炭化水素基を表す。)
で表される第3エポキシ化合物(A3)を1〜70重量%含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項7】
さらに、前記光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、下記式(IVa):
【化11】

(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を表し、R5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表されるアントラセン系化合物、及び下記式(IVb):
【化12】

(式中、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表されるナフタレン系化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を0.1〜5重量部含有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項8】
水分含有量が、前記光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、0重量部超4重量部以下である、請求項1〜7のいずれか1項に記載の偏光板。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか1項に記載の偏光板と、1層以上の他の光学層との積層体からなる、積層光学部材。
【請求項10】
前記他の光学層が位相差板を含む、請求項9に記載の積層光学部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリビニルアルコール系偏光子に熱可塑性樹脂フィルムを接着するための光硬化性接着剤、並びにそれを用いた偏光板及び積層光学部材に関する。
【背景技術】
【0002】
偏光板は、液晶表示装置を構成する光学部品の1つとして有用である。偏光板は通常、偏光子の両面に保護フィルムが積層された構造を有し、液晶表示装置に組み込まれる。偏光子の片面にのみ保護フィルムを設けることも知られているが、多くの場合、もう一方の面には、単なる保護フィルムではなく、別の光学機能を有するフィルムが保護フィルムを兼ねて接着される。偏光子の製造方法としては、二色性色素により染色された一軸延伸ポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸処理し、水洗後、乾燥する方法が広く採用されている。
【0003】
通常、偏光子には、上述の水洗及び乾燥の後、直ちに保護フィルムが接着される。これは、乾燥後の偏光子は物理的強度が弱く、一旦これを巻き取ると、加工方向に裂けやすい等の問題があるためである。従って通常は、乾燥後の偏光子に直ちに、ポリビニルアルコール系樹脂の水溶液である水系接着剤が塗布され、この接着剤を介して偏光子の両面に同時に保護フィルムが接着される。通例、保護フィルムには、厚み30〜100μmのトリアセチルセルロースフィルムが使用されている。
【0004】
トリアセチルセルロースは、透明性に優れ、各種の表面処理層や光学機能層をその表面に形成しやすく、また透湿度が高く、上記のような水系接着剤を用いて偏光子に接着した後の乾燥がスムーズに行えるといった、保護フィルムとして優れた利点を有する反面、透湿度が高いことに起因して、これを保護フィルムとする偏光板は、湿熱下、例えば温度70℃、相対湿度90%といった条件下では劣化を引き起こしやすいという問題があった。そこで、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い、例えばノルボルネン系樹脂を代表例とする非晶性ポリオレフィン系樹脂を保護フィルムとすることも知られている。
【0005】
透湿度の低い樹脂からなる保護フィルムをポリビニルアルコール系偏光子に接着する場合、ポリビニルアルコール系偏光子とトリアセチルセルロースフィルムとの接着に従来用いられているポリビニルアルコール系樹脂の水溶液を接着剤とすると、接着強度が十分でなかったり、得られる偏光板の外観が不良になったりする問題があった。これは、透湿度の低い樹脂フィルムは一般的に疎水性であることや、透湿度が低いために溶媒である水を十分に乾燥できないこと等の理由による。一方で、偏光子の両面に異なる種類の保護フィルムを接着することも知られている。例えば、偏光子の一方の面には非晶性ポリオレフィン系樹脂のような透湿度の低い樹脂からなる保護フィルムを接着し、偏光子の他方の面にはトリアセチルセルロースをはじめとするセルロース系樹脂のような透湿度の高い樹脂からなる保護フィルムを接着する提案もある。
【0006】
そこで、透湿度の低い樹脂からなる保護フィルムとポリビニルアルコール系偏光子との間で高い接着力を与えるとともに、セルロース系樹脂のような透湿度の高い樹脂とポリビニルアルコール系偏光子との間でも高い接着力を与える接着剤として、光硬化性接着剤を用いる試みがある。例えば、特開2008−257199号公報(特許文献1)には、脂環式エポキシ化合物と脂環式エポキシ基を有しないエポキシ化合物とを組み合わせ、さらに光カチオン重合開始剤を配合した光硬化性接着剤を、偏光子と保護フィルムとの接着に用いる技術が開示されているが、密着力が十分でなく、裁断加工の際に偏光子と保護フィルムとが剥離することがあった。
【0007】
また、特開2014−037477号公報(特許文献2)には、ナフタレン型エポキシ樹脂を含有する光硬化性接着剤が提案されているが、光照射によって着色が生じてしまい、光学用途としては不適であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−257199号公報
【特許文献2】特開2014−037477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ポリビニルアルコール系偏光子に熱可塑性樹脂フィルムを接着するための光硬化性接着剤であって、硬化物である接着剤層の貯蔵弾性率が高く、ポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを強い密着力で接着することができ、もって耐久性の高い偏光板を作製することができる光硬化性接着剤の提供を目的とする。本発明の他の目的は、上記光硬化性接着剤を用いてポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを貼合してなる偏光板、並びに、当該偏光板に他の光学層を積層してなる、液晶表示装置に好適に用いられる積層光学部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、以下に示す光硬化性接着剤、偏光板、及び積層光学部材を提供する。
[1] ポリビニルアルコール系偏光子に、熱可塑性樹脂フィルムを接着するための光硬化性接着剤であって、
芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とし、
光カチオン硬化性成分(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含み、
前記光カチオン硬化性成分(A)は、下記式(I):
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、nは1以上の整数を表す。Vは脂環式環で構成される縮合環を含むn価の基を表す。)
で表される第1エポキシ化合物(A1)を含有する、光硬化性接着剤。
【0013】
[2] 前記光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、
前記第1エポキシ化合物(A1)を5〜85重量%、及び
下記式(II):
【0014】
【化2】
【0015】
(式中、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
Xは酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基又は下記式(IIa)〜(IId):
【0016】
【化3】
【0017】
のいずれかで表される2価の基を表し、ここでY1〜Y4はそれぞれ炭素数1〜20のアルカンジイル基を表すが、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよく;
a及びbはそれぞれ0〜20の整数を表す。)
で表される第2エポキシ化合物(A2)を15〜85重量%含有する、[1]に記載の光硬化性接着剤。
【0018】
[3] さらに、前記光カチオン硬化性成分(A)は、その全体量を基準に、
下記式(III):
【0019】
【化4】
【0020】
(式中、Zは炭素数3〜8の分岐アルキレン基、又は式−Cm2m−Z1−Cn2n−で表される2価の基を表し、ここで−Z1−は、−O−、−CO−O−又は−O−CO−を表し、m及びnの一方は1以上、他方は2以上の整数を表すが、両者の合計は8以下であり、かつCm2m及びCn2nの一方は、分岐した2価の飽和炭化水素基を表す。)
で表される第3エポキシ化合物(A3)を1〜70重量%含有する、[1]又は[2]に記載の光硬化性接着剤。
【0021】
[4] さらに、前記光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、下記式(IVa):
【0022】
【化5】
【0023】
(式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を表し、R5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表されるアントラセン系化合物、及び下記式(IVb):
【0024】
【化6】
【0025】
(式中、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。)
で表されるナフタレン系化合物からなる群より選択される1種以上の化合物を0.1〜5重量部含有する、[1]〜[3]のいずれかに記載の光硬化性接着剤。
【0026】
[5] 水分含有量が、前記光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、0重量部超4重量部以下である、[1]〜[4]のいずれかに記載の光硬化性接着剤。
【0027】
[6] ポリビニルアルコール系偏光子と、
前記ポリビニルアルコール系偏光子の少なくとも一方の面に、[1]〜[5]のいずれかに記載の光硬化性接着剤の硬化物を介して積層された熱可塑性樹脂フィルムと、
を含む、偏光板。
【0028】
[7] [6]に記載の偏光板と、1層以上の他の光学層との積層体からなる、積層光学部材。
【0029】
[8] 前記他の光学層が位相差板を含む、[7]に記載の積層光学部材。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、熱可塑性樹脂フィルムを溶解させにくく、硬化物である接着剤層の貯蔵弾性率が高く、ポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを強い密着力で接着することができ、もって耐久性の高い偏光板を作製することができる光硬化性接着剤を提供することができる。本発明の光硬化性接着剤によれば、耐久性に優れた偏光板、及びこれを用いた積層光学部材を提供することが可能である。したがって、本発明の光硬化性接着剤によれば、裁断加工の際にも偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の剥離が生じにくく、例えば冷熱サイクル試験によっても偏光子が割れにくい偏光板、及びこれを用いた積層光学部材を提供することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
<光硬化性接着剤>
本発明に係る光硬化性接着剤は、ポリビニルアルコール系偏光子に熱可塑性樹脂フィルムを接着するための接着剤であり、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とし、光カチオン硬化性成分(A)と、光カチオン重合開始剤(B)とを含有する。
【0032】
光硬化性接着剤は、芳香環を含まないエポキシ化合物を主成分とする。芳香環を含まないエポキシ化合物は、芳香族系エポキシ化合物以外のエポキシ化合物であり、以下、脂肪族系エポキシ化合物と称する。「エポキシ化合物」とは、エポキシ基を分子内に少なくとも1つ有する化合物である。主成分である脂肪族系エポキシ化合物は、2種以上のエポキシ化合物を含んでいてもよい。「主成分」とは、脂肪族系エポキシ化合物の含有量が、光硬化性接着剤100重量%中、50重量%以上であることをいう。脂肪族系エポキシ化合物の含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、なおさらに好ましくは90重量%以上である。
【0033】
脂肪族系エポキシ化合物は、脂環式環を有するエポキシ化合物であってもよいし、脂環式環を含まず、直鎖状炭化水素構造及び/又は分岐鎖状炭化水素構造のみから構成されるエポキシ化合物であってもよい。また脂肪族系エポキシ化合物は、二重結合等の不飽和結合を含んでいてもよいし、エポキシ基に含まれる酸素原子以外のヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等)をさらに含んでいてもよい。
【0034】
(1)光カチオン硬化性成分(A)
光カチオン硬化性成分(A)は、活性エネルギー線の照射による重合硬化により接着力を与える成分であり、以下に詳述する第1エポキシ化合物(A1)を含有する。光カチオン硬化性成分(A)は、好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、以下に詳述する第2エポキシ化合物(A2)又は第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有し、より好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、少なくとも第2エポキシ化合物(A2)をさらに含有する。光カチオン硬化性成分(A)は、さらに好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有する。
【0035】
(1−1)第1エポキシ化合物(A1)
第1エポキシ化合物(A1)は、下記式(I):
【0036】
【化7】
【0037】
で表されるグリシジル化合物である。式(I)中、nは、Vに結合するグリシジルオキシ基の数を表し、1以上の整数である。Vは、脂環式環で構成される縮合環を含むn価の基を表す。「脂環式環で構成される縮合環」とは、脂環式環のみによって構築された縮合環を指し、換言すれば、芳香環ではない、又は芳香環を含まない縮合環を意味する。縮合環は、2環式であってもよいし、3環式であってもよいし、4環式以上の多環式であってもよいが、好ましくは2環式又は3環式である。縮合環は、二重結合等の不飽和結合や、ヘテロ原子(酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ハロゲン原子等)、その他の置換基(アルキル基等)を含んでいてもよい。縮合環を構成する各脂環式環の炭素数は、それぞれ独立して、通常4〜8であり、好ましくは5又は6である。
【0038】
光カチオン硬化性成分(A)が第1エポキシ化合物(A1)を含有することは、ポリビニルアルコール系偏光子に接着される熱可塑性樹脂フィルムを溶解する光硬化性接着剤の能力(以下、この能力を単に「溶解力」ともいう。)を小さくするうえで有利であり、また、光硬化性接着剤の硬化物の貯蔵弾性率、及びポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力を高めるうえで有利である。また光硬化性接着剤の耐着色性を高めるうえでも有利である。例えば、上記n価の基Vが芳香族の縮合環を含む場合には、そのようなエポキシ化合物を比較的多く含有する光硬化性接着剤は、上記芳香族の縮合環自体が可視光域に吸収を示すために着色を生じることがある。また、上記n価の基Vが可視光域に吸収のない芳香族の縮合環を含む場合であっても、活性エネルギー線の照射によって2量体又はそれ以上のオリゴマーが生成する反応を起こして光硬化性接着剤に着色を生じる可能性が高い。
【0039】
上記n価の基Vは、脂環式環で構成される縮合環(例えば、多環炭化水素系、架橋炭化水素系等の縮合環)からなるn価の基であってもよいし、当該縮合環とこれに結合する1又は2以上の連結基とで構成されるn価の基であってもよい。連結基とは、縮合環と、第1エポキシ化合物(A1)が有するグリシジルオキシ基とを連結する基である。n価の基Vが上記縮合環とこれに結合する1又は2以上の連結基とで構成される場合、縮合環及び連結基のそれぞれがグリシジルオキシ基との結合手を有していてもよいし、連結基のみが結合手を有していてもよい。
【0040】
nは、通常6以下の整数であり、上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点、さらには光硬化性接着剤(硬化させる前の光硬化性接着剤。以下同様。)の低粘度化の観点から、好ましくは1〜4の整数であり、より好ましくは2又は3である。
【0041】
縮合環と、第1エポキシ化合物(A1)が有するグリシジルオキシ基とを連結する連結基としては、2価の脂肪族炭化水素基を挙げることができる。2価の脂肪族炭化水素基は、脂環式環を含んでいてもよいし、脂環式環を含まず、直鎖状炭化水素構造及び/又は分岐鎖状炭化水素構造のみから構成されてもよい。2価の脂肪族炭化水素基は、好ましくは炭素数1〜8のアルキレン基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキレン基である。炭素数は、さらに好ましくは1〜3であり、特に好ましくは1又は2(すなわち、メチレン基、エチレン基)である。アルキレン基を構成する少なくとも1つのCH2基は、酸素原子又は硫黄原子で置換されていてもよい。アルキレン基は、直鎖状であってもよいし、分岐鎖状であってもよい。
【0042】
脂環式環で構成される縮合環を含むn価の基Vの具体例を挙げると、例えば、次の表のとおりである。下記表中、Qは、それぞれ独立して、単結合であるか、又は上記連結基である。*は、第1エポキシ化合物(A1)が有するグリシジルオキシ基との結合手を表す。なお、下記に示す基Vの具体例はいずれも2価の基(n=2)であるが、上述のとおり、2価の基に限定されるものではない。
【0043】
【表1】
【0044】
さらに、基Vとしては、以下の基も挙げられる。
【0045】
【化8】
【0046】
(1−2)第2エポキシ化合物(A2)
第2エポキシ化合物(A2)は、下記式(II):
【0047】
【化9】
【0048】
で表される脂環式ジエポキシ化合物である。光カチオン硬化性成分(A)が第1エポキシ化合物(A1)に加えて、第2エポキシ化合物(A2)をさらに含有することは、光硬化性接着剤の硬化物の貯蔵弾性率、及びポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力を高めるうえで有利である。また光硬化性接着剤の耐着色性を高めるうえでも有利である。
【0049】
上記式(II)において、R1及びR2は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表すが、アルキル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。このアルキル基は、式(II)においてXに結合するシクロヘキサン環の位置を1−位として(したがって、2つのシクロヘキサン環におけるエポキシ基の位置はいずれも3,4−位となる)、1−位〜6−位のいずれの位置に結合することもできる。このアルキル基は、もちろん直鎖状であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐鎖状であってもよい。また上述のとおり、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。脂環構造を有するアルキル基の典型的な例としては、シクロペンチル基やシクロヘキシル基がある。
【0050】
上記式(II)において、2つの3,4−エポキシシクロヘキサン環を連結するXは、酸素原子、炭素数1〜6のアルカンジイル基又は下記式(IIa)〜(IId):
【0051】
【化10】
【0052】
のいずれかで表される2価の基である。上記アルカンジイル基は、アルキレンやアルキリデンを含む概念であり、アルキレンは直鎖状であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐鎖状であってもよく、脂環構造を有していてもよい。式(IIa)中のa及び式(IId)中のbはそれぞれ0〜20の整数を表す。a及びbはそれぞれ、好ましくは0〜12の整数であり、より好ましくは0〜8の整数であり、さらに好ましくは0〜4の整数である。
【0053】
Xが上記式(IIa)〜(IId)のいずれかで表される2価の基である場合、各式における連結基Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ炭素数1〜20のアルカンジイル基であり、このアルカンジイル基が炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。これらのアルカンジイル基ももちろん、直鎖状であってもよいし、炭素数3以上の場合は分岐鎖状であってもよい。また上述のとおり、炭素数3以上の場合は脂環構造を有していてもよい。脂環構造を有するアルカンジイル基の典型的な例としては、シクロペンチレン基やシクロヘキシレン基がある。
【0054】
式(II)で表される第2エポキシ化合物(A2)について具体的に説明する。式(II)におけるXが上記式(IIa)で表される2価の基であり、その式中のaが0である化合物は、3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)と、3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)とのエステル化物である。その具体例を挙げると、
3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔式(II)(ただし、Xはa=0である式(IIa)で表される2価の基)において、R1=R2=Hの化合物〕、
3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(II)において、R1=6−メチル、R2=6−メチルの化合物〕、
3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−1−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(II)において、R1=1−メチル、R2=1−メチルの化合物〕、
3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシ−3−メチルシクロヘキサンカルボキシレート〔上と同じXを有する式(II)において、R1=3−メチル、R2=3−メチルの化合物〕
等がある。
【0055】
式(II)におけるXが式(IIb)で表される2価の基である化合物は、アルキレングリコール類と3,4−エポキシシクロヘキサンカルボン酸(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)とのエステル化物である。
【0056】
式(II)におけるXが式(IIc)で表される2価の基である化合物は、脂肪族ジカルボン酸類と3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)とのエステル化物である。
【0057】
式(II)におけるXが式(IId)で表される2価の基である化合物は、3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)のエーテル体(b=0の場合)、又は、アルキレングリコール類もしくはポリアルキレングリコール類と3,4−エポキシシクロヘキシルメタノール(そのシクロヘキサン環に炭素数1〜6のアルキル基が結合していてもよい。)とのエーテル化物(b>0の場合)である。
【0058】
中でも、式(II)におけるXが上記式(IIa)で表される2価の基である脂環式ジエポキシ化合物は、光硬化性接着剤の硬化物の貯蔵弾性率、及びポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力を高めるうえで好適な化合物の1つである。式(II)におけるXが上記式(IIa)で表される2価の基である脂環式ジエポキシ化合物は、上記式(IIa)におけるaが、好ましくは0〜4の整数であり、より好ましくは0〜2の整数であり、さらに好ましくは0又は1である。
【0059】
(1−3)第3エポキシ化合物(A3)
第3エポキシ化合物(A3)は、下記式(III):
【0060】
【化11】
【0061】
で表されるジグリシジル化合物である。光カチオン硬化性成分(A)が第1エポキシ化合物(A1)に加えて、第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有すること、とりわけ、第1エポキシ化合物(A1)に加えて、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有することは、光硬化性接着剤の硬化物の貯蔵弾性率、及びポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力を高めるうえで有利である。また光硬化性接着剤の耐着色性を高めるうえでも有利である。
【0062】
上記式(III)において、Zは、炭素数3〜8の分岐アルキレン基、又は式−Cm2m−Z1−Cn2n−で表される2価の基である。ここで、−Z1−は、−O−、−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−であり、m及びnの一方は1以上、他方は2以上の整数であるが、両者の合計は8以下であり、かつCm2m及びCn2nの一方は、分岐した2価の飽和炭化水素基である。光カチオン硬化性成分(A)が第1エポキシ化合物(A1)に加えて、Z中に分岐鎖構造を含む第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有することは、上記溶解力を小さくするうえで有利であり、また、光硬化性接着剤の粘度を低下させるうえでも有利である。
【0063】
光硬化性接着剤の溶解力を小さくすることにより、硬化後の接着剤層に気泡欠陥が生じる不具合を抑制することができる。これは、光硬化性接着剤に熱可塑性樹脂フィルムが溶け込むことによる光硬化性接着剤の粘度上昇を抑制できるためと推測される。
【0064】
上記分岐アルキレン基の炭素数は、上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点、さらには光硬化性接着剤の低粘度化の観点から、好ましくは3〜6の整数である。
【0065】
式(III)において、Zが分岐アルキレン基である化合物は、分岐アルキレングリコールのジグリシジルエーテルである。その具体例を挙げると、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、1,3−ブタンジオールジグリシジルエーテル、1,2−ブタンジオールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、3−メチル−1,5−ペンタンジオールジグリシジルエーテル、2−メチル−1,8−オクタンジオールジグリシジルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノール等がある。
【0066】
式(III)において、Zが上記の式−Cm2m−Z1−Cn2n−で表される2価の基である化合物は、Zが分岐アルキレン基であり、そのアルキレン基のC−C結合が、−O−、−C(=O)−O−又は−O−C(=O)−で中断されている場合に相当する。
【0067】
中でも、式(III)におけるZが炭素数3〜8、好ましくは3〜6の分岐アルキレン基であるジグリシジル化合物は、上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点、さらには光硬化性接着剤の低粘度化及び上記溶解力の低減の観点から、好適な化合物の1つである。
【0068】
(1−4)第1〜第3エポキシ化合物(A1)〜(A3)の含有量
光カチオン硬化性成分(A)は、第1エポキシ化合物(A1)のみで構成されていてもよい。ただし、上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点から、光カチオン硬化性成分(A)は、好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、第2エポキシ化合物(A2)又は第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有し、より好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、少なくとも第2エポキシ化合物(A2)をさらに含有し、さらに好ましくは、第1エポキシ化合物(A1)とともに、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)をさらに含有する。
【0069】
上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点から、光カチオン硬化性成分(A)における第1エポキシ化合物(A1)の含有量を、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、すなわち、光カチオン硬化性成分(A)100重量%中、好ましくは5〜85重量%、より好ましくは10〜50重量%、さらに好ましくは12〜40重量%、なおさらに好ましくは15〜30重量%とし、そのうえで、光カチオン硬化性成分(A)に第2エポキシ化合物(A2)、又は第2エポキシ化合物(A2)と第3エポキシ化合物(A3)とを含有させることが好ましい。光カチオン硬化性成分(A)における第1エポキシ化合物(A1)の含有量が小さすぎると、上記溶解力が大きくなり気泡欠陥が生じやすくなるとともに、上記貯蔵弾性率も低くなりやすい。また光カチオン硬化性成分(A)における第1エポキシ化合物(A1)の含有量が大きすぎると、光硬化性接着剤の粘度が大きくなりやすいうえ、活性エネルギー線照射時の硬化収縮が大きくなり上記密着力が低くなりやすい。
【0070】
光カチオン硬化性成分(A)が第2エポキシ化合物(A2)を含有する場合、光カチオン硬化性成分(A)における第2エポキシ化合物(A2)の含有量は、上記貯蔵弾性率を高める観点から、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、好ましくは15〜85重量%であり、より好ましくは20〜85重量%であり、さらに好ましくは25〜60重量%であり、なおさらに好ましくは30〜50重量%である。光カチオン硬化性成分(A)における第2エポキシ化合物(A2)の含有量が小さすぎると、活性エネルギー線照射時の硬化が不十分となりやすく、これによりポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力が低くなりやすい。光カチオン硬化性成分(A)における第2エポキシ化合物(A2)の含有量は85重量%を超えてもよいのであるが、第3エポキシ化合物(A3)を十分な量で含有させるためには85重量%以下とすることが好ましい。また、上記密着力を高める観点からは、光カチオン硬化性成分(A)における第2エポキシ化合物(A2)の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、65重量%以下とすることが好ましく、60重量%以下とすることがより好ましく、55重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0071】
光カチオン硬化性成分(A)が第3エポキシ化合物(A3)を含有する場合、光カチオン硬化性成分(A)における第3エポキシ化合物(A3)の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、上記粘度を小さくする観点から、好ましくは1〜70重量%であり、より好ましくは5〜60重量%であり、さらに好ましくは5〜55重量%であり、なおさらに好ましくは10〜50重量%である。第3エポキシ化合物(A3)を1重量%以上含有させることは、光硬化性接着剤の低粘度化及び上記密着力を高める観点からも有利である。硬化前の光硬化性接着剤の低粘度化、及びその硬化物による偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力向上をより一層効果的に図るうえでは、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、第3エポキシ化合物(A3)の含有量を25重量%以上にすることが好ましい。光カチオン硬化性成分(A)における第3エポキシ化合物(A3)の含有量が大きすぎると、活性エネルギー線照射時の硬化が不十分となりやすく、これにより上記密着力が低くなりやすい。また、上記貯蔵弾性率及び上記溶解力の観点からは、光カチオン硬化性成分(A)における第3エポキシ化合物(A3)の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)の全体量を基準に、60重量%以下とすることが好ましく、55重量%以下とすることがより好ましく、50重量%以下とすることがさらに好ましい。
【0072】
脂肪族系エポキシ化合物の含有量における第1エポキシ化合物(A1)、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)の合計含有量は、上記貯蔵弾性率及び上記密着力を高める観点から、脂肪族系エポキシ化合物100重量%中、通常50重量%以上であり、好ましくは60重量%以上、より好ましくは70重量%以上、さらに好ましくは80重量%以上、なおさらに好ましくは90重量%以上、特に好ましくは95重量%以上、最も好ましくは100重量%である。
【0073】
(1−5)その他の光カチオン硬化性成分
光カチオン硬化性成分(A)は、第1エポキシ化合物(A1)、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)以外の他の光カチオン硬化性化合物を含むことができる。他の光カチオン硬化性化合物としては、オキセタン化合物;ビニルエーテル化合物;脂肪族系エポキシ化合物以外のエポキシ樹脂(芳香族系エポキシ化合物);第1エポキシ化合物(A1)、第2エポキシ化合物(A2)及び第3エポキシ化合物(A3)以外の脂肪族系エポキシ化合物等が挙げられる。
【0074】
(2)光カチオン重合開始剤(B)
光硬化性接着剤は、光カチオン重合開始剤(B)を含有する。これにより、光カチオン硬化性成分(A)を活性エネルギー線の照射によるカチオン重合で硬化させて接着剤層を形成することができる。光カチオン重合開始剤(B)は、可視光線、紫外線、X線、電子線のような活性エネルギー線の照射によって、カチオン種又はルイス酸を発生し、光カチオン硬化性成分(A)の重合反応を開始させるものである。光カチオン重合開始剤(B)は光で触媒的に作用するため、光カチオン硬化性成分(A)に混合しても保存安定性や作業性に優れる。光カチオン重合開始剤(B)として使用し得る活性エネルギー線の照射によりカチオン種やルイス酸を生じる化合物として、例えば、芳香族ジアゾニウム塩;芳香族ヨードニウム塩や芳香族スルホニウム塩のようなオニウム塩;鉄−アレーン錯体等を挙げることができる。
【0075】
芳香族ジアゾニウム塩としては、例えば、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ベンゼンジアゾニウム ヘキサフルオロボレート
が挙げられる。
【0076】
芳香族ヨードニウム塩としては、例えば、
ジフェニルヨードニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート、
ジフェニルヨードニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
ジ(4−ノニルフェニル)ヨードニウム ヘキサフルオロホスフェート
が挙げられる。
【0077】
芳香族スルホニウム塩としては、例えば、
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロホスフェート、
トリフェニルスルホニウム ヘキサフルオロアンチモネート、
トリフェニルスルホニウム テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
4,4’−ビス〔ジフェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロアンチモネート、
4,4’−ビス〔ジ(β−ヒドロキシエトキシ)フェニルスルホニオ〕ジフェニルスルフィド ビスヘキサフルオロホスフェート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン ヘキサフルオロアンチモネート、
7−〔ジ(p−トルイル)スルホニオ〕−2−イソプロピルチオキサントン テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、
4−フェニルカルボニル−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロホスフェート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジフェニルスルホニオ−ジフェニルスルフィド ヘキサフルオロアンチモネート、
4−(p−tert−ブチルフェニルカルボニル)−4’−ジ(p−トルイル)スルホニオ−ジフェニルスルフィド テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート
が挙げられる。
【0078】
鉄−アレーン錯体としては、例えば、
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロアンチモネート、
クメン−シクロペンタジエニル鉄(II) ヘキサフルオロホスフェート、
キシレン−シクロペンタジエニル鉄(II) トリス(トリフルオロメチルスルホニル)メタナイド
が挙げられる。
【0079】
光カチオン重合開始剤(B)は、1種のみを単独で使用してもよいし2種以上を併用してもよい。上記の中でも特に芳香族スルホニウム塩は、300nm付近の波長領域でも紫外線吸収特性を有することから、硬化性に優れ、良好な機械強度や接着強度を有する接着剤層を与えることができるため、好ましく用いられる。
【0080】
光カチオン重合開始剤(B)の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)全体100重量部に対して、好ましくは1〜10重量部であり、より好ましくは2〜6重量部である。光カチオン重合開始剤(B)を1重量部以上含有させることにより、光カチオン硬化性成分(A)を十分に硬化させることができ、得られる偏光板に高い機械強度と接着強度を与えることができる。一方、その含有量が多くなると、硬化物中のイオン性物質が増加することで硬化物の吸湿性が高くなり、偏光板の耐久性能を低下させる可能性があるため、光カチオン重合開始剤(B)の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して10重量部以下であることが好ましい。
【0081】
(3)光硬化性接着剤に配合し得るその他の成分
光硬化性接着剤は、一般の光硬化性樹脂又は接着剤に配合することが知られているその他の成分を含有することができる。他の成分の好適な例として、光増感剤及び光増感助剤を挙げることができる。光増感剤は、光カチオン重合開始剤(B)が示す極大吸収波長よりも長い波長に極大吸収を示し、光カチオン重合開始剤(B)による重合開始反応を促進させる化合物である。また光増感助剤は、光増感剤の作用を一層促進させる化合物である。熱可塑性樹脂フィルムの種類によっては、このような光増感剤、さらには光増感助剤を配合することが好ましいことがある。
【0082】
光増感剤及び光増感助剤としては、アントラセン系化合物、ナフタレン系化合物等が挙げられる。アントラセン系化合物としては、例えば、下式(IVa)で表されるものが挙げられる。
【0083】
【化12】
【0084】
式中、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基又は炭素数2〜12のアルコキシアルキル基を表し、R5は水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。上記式(IVa)で表されるアントラセン系化合物の具体例を挙げると、次のような化合物がある。
【0085】
9,10−ジメトキシアントラセン、
9,10−ジエトキシアントラセン、
9,10−ジプロポキシアントラセン、
9,10−ジイソプロポキシアントラセン、
9,10−ジブトキシアントラセン、
9,10−ジペンチルオキシアントラセン、
9,10−ジヘキシルオキシアントラセン、
9,10−ビス(2−メトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(2−エトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(2−ブトキシエトキシ)アントラセン、
9,10−ビス(3−ブトキシプロポキシ)アントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジメトキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジエトキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジプロポキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジイソプロポキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジブトキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジペンチルオキシアントラセン、
2−メチル−又は2−エチル−9,10−ジヘキシルオキシアントラセン等。
【0086】
ナフタレン系化合物としては、例えば、下式(IVb)で表されるものが挙げられる。
【0087】
【化13】
【0088】
式中、R6及びR7は、それぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。上記式(IVb)で表されるナフタレン系化合物の具体例を挙げると、次のような化合物がある。
【0089】
4−メトキシ−1−ナフトール、
4−エトキシ−1−ナフトール、
4−プロポキシ−1−ナフトール、
4−ブトキシ−1−ナフトール、
4−ヘキシルオキシ−1−ナフトール、
1,4−ジメトキシナフタレン、
1−エトキシ−4−メトキシナフタレン、
1,4−ジエトキシナフタレン、
1,4−ジプロポキシナフタレン、
1,4−ジブトキシナフタレン等。
【0090】
光硬化性接着剤に上記のような光増感剤、光増感助剤を配合することにより、それを配合しない場合に比べ、接着剤の硬化性を向上させることができる。光カチオン硬化性成分(A)の100重量部に対して光増感剤、光増感助剤を0.1重量部以上配合することにより、このような効果を発現させることができる。
【0091】
上記アントラセン系化合物の含有量は、偏光板のニュートラルグレーを維持する観点、及び低温保管時に析出する等の問題を抑制する観点から、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して0.1〜0.3重量部とすることが好ましい。また、ナフタレン系化合物の含有量は、低温保管時に析出する等の問題を抑制する観点から、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して5重量部以下とすることが好ましく、3重量部以下とすることがより好ましい。
【0092】
光硬化性接着剤には、本発明の効果を損なわない限り、光増感剤及び光増感助剤以外のその他の添加剤成分を含有させることができる。その他の添加剤成分としては、熱カチオン重合開始剤、アルコール化合物(ポリオール類等)、イオントラップ剤、酸化防止剤、光安定剤、連鎖移動剤、粘着付与剤、熱可塑性樹脂、充填剤、流動調整剤、可塑剤、消泡剤、レベリング剤、色素、有機溶剤等を挙げることができる。添加剤成分を含有させる場合、その含有量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して1000重量部以下であることが好ましい。
【0093】
(4)光硬化性接着剤の水分含有量
光硬化性接着剤は、水分を含有してもよい。水分の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、通常4重量部以下であり、好ましくは3重量部以下、より好ましくは3重量部未満である。0重量部を超える若干量の水分を含有することによりポリビニルアルコール系偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の接着強度が向上することがある。水分の含有量は、光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対して、通常0.01重量部以上であり、好ましくは0.03重量部以上であり、より好ましくは0.04重量部以上である。ただし、水分含有量があまりに多いと、光硬化性接着剤と水との分離が起こり、光硬化性接着剤を偏光子や熱可塑性樹脂フィルムの表面に均一に塗工することができなくなったり、光硬化性接着剤の硬化性が悪くなったりすることがある。光硬化性接着剤に意図的に水分を添加してもよく、この場合、特に限定されないが、蒸留水及び純水等の精製水を用いることができる。水分は、原料に由来する水分、製造工程で混入する水分等であってもよい。光硬化性接着剤の水分含有量は、カールフィッシャー容量法により測定される。
【0094】
(5)光硬化性接着剤の物性
本発明に係る光硬化性接着剤は、上述のとおり、低粘度性を有することができ、これにより、ポリビニルアルコール系偏光子に熱可塑性樹脂フィルムをこの光硬化性接着剤を用いて貼合するにあたって、優れた塗工適性を示すことができる。本発明に係る光硬化性接着剤は、具体的には、25℃において2〜300mPa・sの範囲の粘度を示すことができる。ここでいう粘度は、溶剤を実質的に含まない状態での粘度である。粘度が2mPa・sより小さいと、貼合後の搬送中に偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとが剥がれることがあり、粘度が300mPa・sを超えると、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを光硬化性接着剤を介して貼合する際、特に接着剤層が薄いときに、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間、すなわち接着剤層に気泡が混入しやすくなる。上記粘度は、好ましくは5〜200mPa・sであり、より好ましくは10〜150mPa・sであり、さらに好ましくは100mPa・s以下であり、特に好ましくは80mPa・s以下である。光硬化性接着剤の粘度は、E型粘度計を用いて測定される。
【0095】
本発明に係る光硬化性接着剤は、ポリビニルアルコール系偏光子に熱可塑性樹脂フィルムを貼合して偏光板を製造するために用いることができる。この際、接着剤が熱可塑性樹脂フィルムを溶解すると、上述のとおり、その溶解が原因となって偏光板の接着剤層に気泡欠陥を生じることがある。本発明に係る光硬化性接着剤は、上述のとおり、熱可塑性樹脂フィルムを溶解する能力(溶解力)が小さいものとなり得る。上記式(III)におけるZが分岐構造を有する、好ましくは分岐アルキレン基である第3エポキシ化合物(A3)を含有させることは、溶解力の上昇を抑えるうえで有利である。本発明に係る光硬化性接着剤は、ポリビニルアルコール系偏光子に接着される熱可塑性樹脂フィルムを23℃において2日間浸漬したとき、当該熱可塑性樹脂フィルムの重量減少が0〜30重量%、さらに好ましくは25重量%以下であることができる。本発明に係る光硬化性接着剤は、例えば、延伸されたアセチルセルロース系樹脂フィルムに対して、小さい溶解力を有することができる。延伸されたアセチルセルロース系樹脂フィルムとしては、例えば、波長590nmにおける面内位相差値が10nm以上である、さらには50nm以上であるアセチルセルロース系樹脂フィルムが挙げられる。
【0096】
熱可塑性樹脂フィルムを光硬化性接着剤に浸漬したときの重量減少は、以下のようにして求められる。すなわち、まず、熱可塑性樹脂フィルムを適当な大きさに裁断し、その重量を求める。次に、この裁断された熱可塑性樹脂フィルムを、液体状態で調製され、温度が23℃に保たれた光硬化性接着剤に浸漬して2日間放置した後に取り出し、表面に付着した接着剤を拭き取った後、その重量を求める。そして、以下の式:
重量減少(%)={(浸漬前のフィルム重量−浸漬後のフィルム重量)/浸漬前のフィルム重量}×100
から、浸漬後の重量減少を求める。
【0097】
<偏光板>
本発明に係る偏光板は、ポリビニルアルコール系偏光子と、その少なくとも一方の面に、上記光硬化性接着剤の硬化物である接着剤層を介して貼合される熱可塑性樹脂フィルムとを含むものである。
【0098】
また本発明に係る偏光板において硬化した接着剤層は、高い貯蔵弾性率を有することができるとともに、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の密着力に優れたものとすることができる。本発明に係る偏光板において上記接着剤層の貯蔵弾性率は、80℃において、例えば1000MPa以上、さらには1500Mpa以上であることができる。本発明に係る偏光板において偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の剥離強さは、0.5N/25mm以上であることができ、0.6N/25mm以上、さらには0.7N/25mm以上、なおさらには1.0N/25mm以上であることもできる。接着剤層の80℃における貯蔵弾性率、及び偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の剥離強さは、後述する実施例の項の記載に従って測定される。
【0099】
(1)ポリビニルアルコール系偏光子
ポリビニルアルコール系偏光子は、二色性色素が吸着配向されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムで構成される。偏光子を構成するポリビニルアルコール系樹脂は、ポリ酢酸ビニル系樹脂をケン化することにより得られる。ポリ酢酸ビニル系樹脂としては、酢酸ビニルの単独重合体であるポリ酢酸ビニルのほか、酢酸ビニル及びこれと共重合可能な他の単量体の共重合体等が例示される。酢酸ビニルに共重合される他の単量体としては、例えば、不飽和カルボン酸類、オレフィン類、ビニルエーテル類、不飽和スルホン酸類等が挙げられる。ポリビニルアルコール系樹脂のケン化度は、通常85〜100モル%、好ましくは98〜100モル%の範囲である。ポリビニルアルコール系樹脂は、さらに変性されていてもよく、例えば、アルデヒド類で変性されたポリビニルホルマールやポリビニルアセタール等も使用し得る。ポリビニルアルコール系樹脂の重合度は、通常1000〜10000、好ましくは1500〜5000の範囲である。
【0100】
偏光子は、上記ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを一軸延伸する工程、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを二色性色素で染色して、その二色性色素を吸着させる工程、二色性色素が吸着されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液で処理する工程を経て、製造される。
【0101】
一軸延伸は、二色性色素による染色の前に行ってもよいし、二色性色素による染色と同時に行ってもよいし、二色性色素による染色の後に行ってもよい。一軸延伸を二色性色素による染色後に行う場合、この一軸延伸は、ホウ酸処理の前に行ってもよいし、ホウ酸処理中に行ってもよい。これらの複数の段階で一軸延伸を行うことも可能である。一軸延伸の方法は特に制限されず、周速の異なるロール間で一軸に延伸してもよいし、熱ロールを用いて一軸に延伸してもよい。また、大気中で延伸を行う乾式延伸であってもよいし、溶剤により膨潤した状態で延伸を行う湿式延伸であってもよい。延伸倍率は、通常4〜8倍程度である。
【0102】
ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを、二色性色素を含有する水溶液に浸漬することにより、二色性色素を吸着させることができる。二色性色素としてはヨウ素又は二色性有機染料が用いられる。
【0103】
二色性色素としてヨウ素を用いる場合は通常、ヨウ素及びヨウ化カリウムを含有する水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液におけるヨウ素の含有量は通常、水100重量部あたり0.01〜0.5重量部程度であり、ヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり0.5〜10重量部程度である。この水溶液の温度は、通常20〜40℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0104】
一方、二色性色素として二色性有機染料を用いる場合は、通常、水溶性の二色性有機染料を含む水溶液に、ポリビニルアルコール系樹脂フィルムを浸漬して染色する方法が採用される。この水溶液における二色性有機染料の含有量は通常、水100重量部あたり1×10-3〜1×10-2重量部程度である。この水溶液は、硫酸ナトリウム等の無機塩を含有していてもよい。この水溶液の温度は、通常20〜80℃程度であり、また、この水溶液への浸漬時間(染色時間)は、通常30〜300秒程度である。
【0105】
染色後のホウ酸処理は、染色されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムをホウ酸水溶液に浸漬することにより行われる。ホウ酸水溶液におけるホウ酸の含有量は通常、水100重量部あたり2〜15重量部程度、好ましくは5〜12重量部程度である。二色性色素としてヨウ素を用いる場合には、このホウ酸水溶液はヨウ化カリウムを含有することが好ましい。ホウ酸水溶液におけるヨウ化カリウムの含有量は通常、水100重量部あたり2〜20重量部程度、好ましくは5〜15重量部である。ホウ酸水溶液への浸漬時間は、通常100〜1200秒程度、好ましくは150〜600秒程度、さらに好ましくは200〜400秒程度である。ホウ酸水溶液の温度は、通常50℃以上、好ましくは50〜85℃である。
【0106】
ホウ酸処理後のポリビニルアルコール系樹脂フィルムは通常、水洗処理される。水洗処理は、例えば、ホウ酸処理されたポリビニルアルコール系樹脂フィルムを水に浸漬することにより行うことができる。水洗後は乾燥処理が施されて、偏光子が得られる。水洗処理における水の温度は、通常5〜40℃程度であり、浸漬時間は、通常2〜120秒程度である。その後に行われる乾燥処理は通常、熱風乾燥機や遠赤外線ヒーターを用いて行うことができる。乾燥温度は、通常40〜100℃である。また、乾燥処理の時間は、通常120〜600秒程度である。ポリビニルアルコール系偏光子の厚みは、2〜50μm程度(例えば5〜20μm)であることができる。
【0107】
(2)熱可塑性樹脂フィルム
熱可塑性樹脂フィルムは、従来から偏光子用の保護フィルムとして最も広く用いられているトリアセチルセルロースをはじめとするアセチルセルロース系樹脂フィルムや、トリアセチルセルロースよりも透湿度の低い透明樹脂フィルムで構成することができる。トリアセチルセルロースの透湿度は、概ね400g/m2/24hr程度である。熱可塑性樹脂フィルムの透湿度は、JIS Z 0208に規定されるカップ法により、40℃の温度及び90%の相対湿度で測定される。
【0108】
熱可塑性樹脂フィルムは、延伸されていないフィルム、又は、一軸若しくは二軸延伸されたフィルムのいずれであってもよい。熱可塑性樹脂フィルムは、例えば偏光子用の保護フィルムであることができるほか、位相差フィルム等の光学補償フィルムであってもよい。
【0109】
一つの好ましい実施形態において、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される熱可塑性樹脂フィルムは、アセチルセルロース系樹脂で構成される。このアセチルセルロース系樹脂フィルムは、紫外線吸収剤を含有していてもよい。他の好ましい実施形態において、偏光子の少なくとも一方の面に貼合される熱可塑性樹脂フィルムは、トリアセチルセルロースより透湿度の低い熱可塑性樹脂樹脂フィルム、例えば、透湿度が300g/m2/24hr以下の熱可塑性樹脂樹脂フィルムで構成される。このような透湿度の低い熱可塑性樹脂樹脂フィルムを構成する樹脂として、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、鎖状ポリオレフィン系樹脂等を挙げることができる。これらの中でも、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル系樹脂、鎖状ポリオレフィン系樹脂が好ましく用いられる。さらに他の好ましい実施形態においては、偏光子の一方の面に本発明に係る光硬化性接着剤の硬化物である接着剤層を介して、アセチルセルロース系樹脂からなる第1熱可塑性樹脂フィルムが貼合され、偏光子の他方の面に同じく本発明に係る光硬化性接着剤の硬化物である接着剤層を介して、上記のような透湿度のより低い透明樹脂からなる第2熱可塑性樹脂フィルムが貼合される。
【0110】
アセチルセルロース系樹脂は、セルロースにおける水酸基の少なくとも一部が酢酸エステル化されている樹脂であり、一部が酢酸エステル化され、一部が他の酸でエステル化されている混合エステルであってもよい。アセチルセルロース系樹脂の具体例として、トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネート、セルロースアセテートブチレート等を挙げることができる。
【0111】
非晶性ポリオレフィン系樹脂は、ノルボルネンやテトラシクロドデセン(別名ジメタノオクタヒドロナフタレン)、あるいはそれらに置換基が結合した化合物のような、環状オレフィンの重合単位を有する重合体であり、環状オレフィンに鎖状オレフィン及び/又は芳香族ビニル化合物を共重合させた共重合体であってもよい。環状オレフィンの単独重合体、あるいは2種以上の環状オレフィンの共重合体の場合は、開環重合によって二重結合が残るので、そこに水素添加されたものが、非晶性ポリオレフィン系樹脂として一般的に用いられる。中でも、熱可塑性ノルボルネン系樹脂が代表的である。
【0112】
ポリエステル系樹脂は、二塩基酸と二価アルコールとの縮合重合によって得られる重合体であり、ポリエチレンテレフタレートが代表的である。(メタ)アクリル系樹脂は、メタクリル酸メチルを主な単量体とする重合体であり、メタクリル酸メチルの単独重合体のほか、メタクリル酸メチルと、これ以外のモノマー(アクリル酸メチルのようなアクリル酸エステル等の(メタ)アクリル系モノマーや、芳香族ビニル化合物等)との共重合体であってもよい。なお、本明細書において「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルから選択される少なくとも一方を意味する。
【0113】
ポリカーボネート系樹脂は、主鎖にカーボネート結合(−O−CO−O−)を有する重合体であり、ビスフェノールAとホスゲンとの縮合重合によって得られるものが代表的である。鎖状ポリオレフィン系樹脂は、エチレンやプロピレンの如き鎖状オレフィンを主な単量体とする重合体であり、単独重合体や共重合体であることができる。中でも、プロピレンの単独重合体や、プロピレンに少量のエチレンが共重合されている共重合体が代表的である。
【0114】
熱可塑性樹脂フィルムは、必要に応じて公知の添加剤を含有していてもよい。公知の添加剤としては、例えば、滑剤、ブロッキング防止剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、帯電防止剤、耐光剤、耐衝撃性改良剤、界面活性剤等を挙げることができる。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等がある。ただし、偏光子に積層される熱可塑性樹脂フィルムとして透明性が必要とされるため、これら添加剤の量は最小限にとどめておくことが好ましい。
【0115】
熱可塑性樹脂フィルムとして、光学補償機能が付与されたフィルムを用いることもできる。アセチルセルロース系樹脂フィルムを用いることもできる。かかる光学補償フィルムとして例えば、アセチルセルロース系樹脂に位相差調整機能を有する化合物を含有させた位相差フィルム、アセチルセルロース系樹脂の表面に位相差調整機能を有する化合物が塗布された位相差フィルム、アセチルセルロース系樹脂を一軸又は二軸に延伸して得られる位相差フィルム等が挙げられる。光学補償フィルムとして他の熱可塑性樹脂からなるフィルムを用いてもよい。
【0116】
熱可塑性樹脂フィルムの厚みは、通常5〜200μm程度の範囲であり、好ましくは10〜120μm、さらに好ましくは10〜100μmである。熱可塑性樹脂フィルムは、偏光子への接着面とは反対側の表面に、ハードコート層、反射防止層、防眩層、帯電防止層、光拡散層等の各種表面処理層(コーティング層)を有していてもよい。
【0117】
(3)偏光板の製造
上述の光硬化性接着剤を用いて、偏光子の少なくとも一方の面に熱可塑性樹脂フィルムを接着することにより偏光板が得られる。具体的には、上述の光硬化性接着剤の塗布層を偏光子及び/又は熱可塑性樹脂フィルムの接着面に形成し、その塗布層を介して偏光子と熱可塑性樹脂フィルムを貼合した後、未硬化の光硬化性接着剤の塗布層を、活性エネルギー線の照射により硬化させ、熱可塑性樹脂フィルムを偏光子上に固着させる。光硬化性接着剤の塗布層の形成には、例えば、ドクターブレード、ワイヤーバー、ダイコーター、カンマコーター、グラビアコーター等、種々の塗工方式が利用できる。また、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムを両者の接着面が内側となるように連続的に供給しながら、その間に接着剤を流延させる方式を採用することもできる。
【0118】
光硬化性接着剤の塗工方式に応じて、溶剤を用いて光硬化性接着剤の粘度調整を行ってもよい。溶剤には、偏光子の光学性能を低下させることなく、光硬化性接着剤を良好に溶解するものが用いられるが、その種類に特別な限定はない。例えば、トルエンに代表される炭化水素類、酢酸エチルに代表されるエステル類等の有機溶剤が使用できる。ただし、溶剤を含有させた場合、活性エネルギー線の照射する前に、溶剤を除去する乾燥工程を設ける必要が生じるため、できるだけ溶剤を使用しないことが好ましい。
【0119】
硬化後の接着剤層の厚みは、偏光板の特性設計により、任意に設定できるが、接着剤材料費低減の観点からは小さい方が好ましい。一般的には、0.01〜20μm、好ましくは、0.1〜10μm、さらに好ましくは0.5〜5μmである。接着剤層の厚みを小さくすると接着剤層への気泡混入や、密着性及び耐久性の低下が生じやすくなるが、本発明の光硬化性接着剤によれば、これを効果的に抑制することができる。接着剤層が過度に厚くなると、接着剤の反応率が低下し、偏光板の耐湿熱性が悪化する傾向にある。
【0120】
偏光子の片面にのみ熱可塑性樹脂フィルムを接着する場合は、例えば、偏光子の他面に、液晶セル等の他の光学部材に接着するための粘着剤層を直接設ける等の形態をとることもできる。一方、偏光子の両面に熱可塑性樹脂フィルムを接着する場合、これらの熱可塑性樹脂フィルムは同種の樹脂からなっていてもよいし、異種の樹脂からなっていてもよい。偏光子の一方の面に接着される熱可塑性樹脂フィルムは、上述した本発明に係る光硬化性接着剤を用いて接着されるが、偏光子の他方の面に接着される熱可塑性樹脂フィルムは、本発明に係る光硬化性接着剤を用いて接着されてもよいし、他の接着剤を用いて接着されてもよい。
【0121】
熱可塑性樹脂フィルムの偏光子への接着に先立って、熱可塑性樹脂フィルム及び/又は偏光子の接着面に、ケン化処理、コロナ処理、プラズマ処理、プライマ処理、アンカーコーティング処理、火炎処理等の易接着処理が施されてもよい。
【0122】
光硬化性接着剤の塗布層に活性エネルギー線を照射するために用いる光源は、紫外線、電子線、X線等を発生できるものであればよい。特に波長400nm以下に発光分布を有する、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、ケミカルランプ、ブラックライトランプ、マイクロウェーブ励起水銀灯、メタルハライドランプ等が好適に用いられる。
【0123】
光硬化性接着剤への活性エネルギー線照射強度は特に制限されないが、光カチオン重合開始剤(B)の活性化に有効な波長領域の照射強度が0.1〜3000mW/cm2であることが好ましい。0.1mW/cm2未満であると、反応時間が長くなりすぎ、3000mW/cm2を超えると、ランプから輻射される熱及び光硬化性接着剤の重合時の発熱により、光硬化性接着剤の黄変や偏光子の劣化を生じる可能性がある。
【0124】
光硬化性接着剤への光照射時間も特に制限されないが、照射強度と照射時間の積として表される積算光量が10〜5000mJ/cm2となるように設定されることが好ましい。10mJ/cm2未満であると、光カチオン重合開始剤(B)由来の活性種の発生が十分でなく、得られる接着剤層の硬化が不十分となる可能性があり、一方でその積算光量が5000mJ/cm2を超えると、照射時間が非常に長くなり、生産性向上には不利なものとなる。
【0125】
偏光子の両面に熱可塑性樹脂フィルムを接着する場合、活性エネルギー線の照射はどちらの熱可塑性樹脂フィルム側から行ってもよいが、例えば、一方の熱可塑性樹脂フィルムが紫外線吸収剤を含有し、他方の熱可塑性樹脂フィルムが紫外線吸収剤を含有しない場合には、紫外線吸収剤を含有しない熱可塑性樹脂フィルム側から活性エネルギー線を照射することが、照射される活性エネルギー線を有効に利用し、硬化速度を高めるうえで好ましい。
【0126】
光硬化性接着剤を硬化させて得られる偏光板は、後述する実施例の項の記載に従って測定される偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間の剥離強さが0.5N/25mm以上であることが好ましく、0.6N/25mm以上であることがより好ましく、0.7N/25mm以上であることがさらに好ましい。剥離強さが0.5N/25mm未満であると、偏光板を裁断したときに偏光子と接着剤層との間で剥がれを生じることがある。
【0127】
<積層光学部材及び液晶表示装置>
本発明の偏光板は、偏光板以外の光学機能を有する光学層を積層して積層光学部材とすることができる。典型的には、偏光板の熱可塑性樹脂フィルム上に接着剤や粘着剤を介して光学層を積層貼着することにより積層光学部材とされるが、その他、例えば、偏光子の一方の面に本発明に係る光硬化性接着剤を介して熱可塑性樹脂フィルムを接着し、偏光子の他方の面に接着剤や粘着剤を介して光学層を積層貼着することもできる。後者の場合、偏光子と光学層を貼着するための接着剤として、本発明に係る光硬化性接着剤を用いれば、その光学層は、同時に熱可塑性樹脂フィルムともなり得る。偏光板に2以上の光学層が積層されてもよい。
【0128】
偏光板に積層される光学層としては、液晶セルの背面側に配置される偏光板に対して、その偏光板における液晶セルとは反対側に積層される、反射層、半透過反射層、光拡散層、集光板、輝度向上フィルム等が挙げられる。また、液晶セルの前面側に配置される偏光板及び/又は液晶セルの背面側に配置される偏光板に対して、その偏光板における液晶セル側に積層される位相差板(位相差フィルム)等が挙げられる。
【0129】
反射層、半透過反射層、光拡散層はそれぞれ、反射型偏光板、半透過反射型偏光板、拡散型偏光板である積層光学部材とするために設けられる。反射型偏光板は、視認側からの入射光を反射させて表示するタイプの液晶表示装置に用いられ、バックライト等の光源を省略できるため、液晶表示装置を薄型化しやすい。また半透過型偏光板は、明所では反射型として、暗所ではバックライトからの光で表示するタイプの液晶表示装置に用いられる。反射型偏光板は、例えば、偏光子上の熱可塑性樹脂フィルムにアルミニウム等の金属からなる箔や蒸着膜を付設して反射層を形成することにより作製できる。半透過型偏光板は、上記の反射層をハーフミラーとしたり、パール顔料等を含有させて光透過性を示す反射板を偏光板に接着したりすることで作製できる。一方、拡散型偏光板は、例えば、偏光板上の熱可塑性樹脂フィルムにマット処理を施す方法、微粒子含有の樹脂を塗布する方法、微粒子含有のフィルムを接着する方法等、種々の方法を用いて表面に微細凹凸構造を形成することによって作製できる。
【0130】
さらに、積層光学部材は、反射拡散両用の偏光板であることもできる。反射拡散両用の偏光板は、例えば、拡散型偏光板の微細凹凸構造面にその凹凸構造を反映した反射層を設けることにより作製できる。微細凹凸構造の反射層は、入射光を乱反射により拡散させ、指向性やギラツキを防止し、明暗のムラを抑制し得る等の利点を有する。また、微粒子を含有した樹脂層やフィルムは、入射光及びその反射光を拡散させるため、明暗ムラを抑制し得る等の利点も有する。表面微細凹凸構造を反映させた反射層は、例えば、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリングのような蒸着やメッキ等の方法により、金属を微細凹凸構造の表面に直接付設することで形成できる。表面微細凹凸構造を形成するために配合する微粒子は、例えば、平均粒径が0.1〜30μmであるシリカ、酸化アルミニウム、酸化チタン、ジルコニア、酸化錫、酸化インジウム、酸化カドミウム、酸化アンチモンのような無機系微粒子、架橋又は非架橋のポリマーのような有機系微粒子等であることができる。
【0131】
集光板は、光路制御等を目的に用いられるもので、プリズムアレイシートやレンズアレイシート、あるいはドット付設シート等として形成することができる。
【0132】
輝度向上フィルムは、液晶表示装置における輝度の向上を目的に用いられるもので、その具体例は、屈折率の異方性が互いに異なる薄膜フィルムを複数枚積層して反射率に異方性が生じるように設計された反射型偏光分離シート、コレステリック液晶ポリマーの配向フィルムやその配向液晶層をフィルム基材上に支持した円偏光分離シートを含む。
【0133】
位相差板(位相差フィルム)は、液晶セルによる位相差の補償等を目的として使用される。その具体例は、各種プラスチックの延伸フィルム等からなる複屈折性フィルム、ディスコティック液晶やネマチック液晶が配向固定されたフィルム、フィルム基材上に上記の液晶層が形成されたものを含む。フィルム基材上に液晶層を形成する場合、フィルム基材として、トリアセチルセルロースのようなアセチルセルロース系樹脂フィルムが好ましく用いられる。
【0134】
複屈折性フィルムを形成するプラスチックとしては、例えば、非晶性ポリオレフィン系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、(メタ)アクリル系樹脂、ポリプロピレンのような鎖状ポリオレフィン系樹脂、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリアリレート、ポリアミド等が挙げられる。延伸フィルムは、一軸や二軸等の適宜な方式で処理したものであることができる。位相差板は、広帯域化等、光学特性の制御を目的として、2枚以上を組み合わせて使用してもよい。
【0135】
液晶表示装置に適用したときに有効に光学補償を行えることから、積層光学部材としては、偏光板以外の光学層として位相差板(位相差フィルム)を含むものが好ましく用いられる。位相差板の位相差値(面内及び厚み方向)は、適用される液晶セルに応じて調整される。
【0136】
積層光学部材は、偏光板と、上述した各種の光学層から使用目的に応じて選択される1層又は2層以上とを組み合わせ、2層又は3層以上の積層体とすることができる。その場合、積層光学部材を形成する各種光学層は、接着剤や粘着剤(感圧接着剤とも呼ばれる)を用いて偏光板と一体化されるが、そのために用いる接着剤や粘着剤は、接着剤層や粘着剤層が良好に形成されるものであれば特に限定はない。接着作業の簡便性や光学歪の発生防止等の観点から、粘着剤を使用することが好ましい。粘着剤には、(メタ)アクリル系重合体や、シリコーン系重合体、ポリエステル、ポリウレタン、ポリエーテル等をベースポリマーとするものを用いることができる。中でも、(メタ)アクリル系粘着剤のように、光学的な透明性に優れ、適度な濡れ性や凝集力を保持し、基材との接着性にも優れ、さらには耐候性や耐熱性等を有し、加熱や加湿の条件下で浮きや剥がれ等の問題を生じないものを選択して用いることが好ましい。(メタ)アクリル系粘着剤においては、メチル基、エチル基、ブチル基等の炭素数が20以下のアルキル基を有する(メタ)アクリル酸のアルキルエステルと、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル等の官能基含有(メタ)アクリル系モノマーとを、ガラス転移温度が好ましくは25℃以下、さらに好ましくは0℃以下となるように配合した、重量平均分子量が10万以上の(メタ)アクリル系共重合体が、ベースポリマーとして有用である。
【0137】
偏光板への粘着剤層の形成は、例えば、トルエンや酢酸エチル等の有機溶媒に粘着剤組成物を溶解又は分散させて10〜40重量%の溶液を調製し、これを偏光板上に直接塗工する方式や、予めセパレートフィルム(剥離フィルム)上に粘着剤層を形成しておき、それを偏光板上に移着する方式等により行うことができる。粘着剤層の厚みは、その接着力等に応じて決定されるが、1〜50μm程度の範囲が適当である。
【0138】
粘着剤層には必要に応じて、ガラス繊維やガラスビーズ、樹脂ビーズ、金属粉やその他の無機粉末等からなる充填剤、顔料や着色剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等が配合されていてもよい。紫外線吸収剤には、サリチル酸エステル系化合物やベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、シアノアクリレート系化合物、ニッケル錯塩系化合物等がある。
【0139】
液晶表示装置は、液晶セルと、その少なくとも一方の面上に配置される上記偏光板又は上記積層光学部材とを含むものである。偏光板や積層光学部材は、粘着剤層を介して液晶セルの片側又は両側に積層することができる。偏光板及び積層光学部材はそれぞれ、液晶セルに貼合するための粘着剤層がそれらの外面に積層された粘着剤層付の偏光板及び積層光学部材であってもよい。用いる液晶セルは任意であり、例えば、薄膜トランジスタ型に代表されるアクティブマトリクス駆動型のもの、スーパーツイステッドネマチック型に代表される単純マトリクス駆動型のもの等、種々の液晶セルを使用して液晶表示装置を形成することができる。
【実施例】
【0140】
以下、実施例及び比較例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの例によって限定されるものではない。以下、使用量ないし含有量を表す部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。また、以下の例で用いた光カチオン硬化性成分(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及び光増感剤・光増感助剤(C)は次のとおりであり、以下それぞれの記号で表示する。なお、表2中では、光カチオン硬化性成分(A)、光カチオン重合開始剤(B)、及び光増感剤・光増感助剤(C)をそれぞれ(A)、(B)、(C)と略記している。
【0141】
〔光カチオン硬化性成分(A)〕
(a1)3,4−エポキシシクロヘキシルメチル 3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔上記式(II)において、R1=R2=H、X=−C(=O)−O−CH2−である化合物〕、
(a2)ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル〔上記式(III)において、Z=−CH2C(CH32CH2−である化合物〕、
(a3)株式会社ADEKA製の商品名「アデカレジンEP−4088S」〔上記式(I)において、Vがトリシクロデカンジメタノールから2つのOHを取り除いた2価の基であり、nが2である化合物〕、
(a4)東亞合成社製のオキセタン化合物、商品名「OXT−221」、
(a5)DIC社製のナフタレン型エポキシ樹脂、商品名「HP−4032D」、
(a6)イソソルバイトジグリシジルエーテル。
【0142】
〔光カチオン重合開始剤(B)〕
(b1)下記式(V)で表される化合物と下記式(VI)で表される化合物との混合物のプロピレンカーボネート50%溶液。
【0143】
【化14】
【0144】
〔光増感剤・光増感助剤(C)〕
(c1)1,4−ジエトキシナフタレン、
(c2)9,10−ジブトキシアントラセン。
【0145】
<実施例1〜15、比較例1〜3>
(1)光硬化性接着剤の調製
表2及び表3に示される各成分を表2及び表3に示される配合割合で混合した後、脱泡して、光硬化性接着剤(液状)を調製した。表2及び表3における各成分の配合量の単位は「部」である。なお、光カチオン重合開始剤(B)は、50%プロピレンカーボネート溶液であるが、表2及び表3にはその固形分量に基づく配合量を示している。
【0146】
【表2】
【0147】
【表3】
【0148】
(2)光硬化性接着剤の25℃における粘度の測定
上記(1)で調製したそれぞれの光硬化性接着剤(接着剤液)について、東機産業(株)製のE型粘度計「TVE−25L」を用いて、温度25℃における粘度(mPa・s)を測定した。結果を表4及び表5に示す。
【0149】
(3)光硬化性接着剤の25℃における水分の測定
上記(1)で調製したそれぞれの光硬化性接着剤(接着剤液)について、平沼産業(株)製の水分計「AQV−2100ST」を用いて、温度25℃における水分(光カチオン硬化性成分(A)100重量部に対する重量部)を測定した。結果を表4及び表5に示す。
【0150】
(4)熱可塑性樹脂フィルムを溶解する光硬化性接着剤の能力(溶解力)の測定
トリアセチルセルロース(TAC)からなる厚み40μmの位相差フィルム〔コニカミノルタオプト(株)製の商品名「N−TAC KC4FR−1」〕を用意した。この位相差フィルムは、ポリビニルアルコール系偏光子に、光学補償機能を兼ね備える熱可塑性樹脂フィルムとして貼合され、偏光板を製造するのに用いられるものである。この位相差フィルムを10mm×40mmの大きさに裁断した後、上で調製したそれぞれの光硬化性接着剤(接着剤液)20gに、23℃の温度で2日間浸漬した。2日後、位相差フィルムを取り出し、ベンコットンで位相差フィルムに付着している接着剤液を拭き取り、重量を測定した。接着剤液への浸漬前のフィルム重量と浸漬後のフィルム重量から、下記式:
重量減少(%)={(浸漬前のフィルム重量−浸漬後のフィルム重量)/浸漬前のフィルム重量}×100
によりそのフィルムの重量減少を求め、これを溶解力とした。結果を表4及び表5に示す。重量減少が大きいほど溶解力が高い。
【0151】
(5)接着剤層の80℃における貯蔵弾性率の測定
上記(1)で調製したそれぞれの光硬化性接着剤(接着剤液)について、未処理ポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡(株)製の商品名「ソフトシャイン」)にバーコーター#20で塗布し、ベルトコンベア付き紫外線照射装置(メタルハライドランプ)を用いて積算光量が3000mJ/cm2(UVA)となるように紫外線を照射した。24時間後にポリエチレンテレフタレートフィルムから接着剤硬化物(硬化した接着剤層)を剥離して、硬化フィルムを得た。得られた硬化フィルムをその長辺が引張り方向となるように、(株)日立ハイテクサイエンス製の粘弾性測定装置「DMA7100」を用いてつかみ具の間隔2cmで把持し、引張りと収縮の周波数を10Hz、昇温速度を3℃/分に設定して、80℃における貯蔵弾性率(MPa)を測定した。その結果を表4及び表5に示す。
【0152】
(6)偏光板の作製
トリアセチルセルロース(TAC)からなる厚み40μmの位相差フィルム〔コニカミノルタオプト(株)製の商品名「N−TAC KC4FR−1」〕(表4及び表5中、「位相差TAC」と略記する。)、紫外線吸収剤を含む厚み80μmのトリアセチルセルロース(TAC)からなる延伸されていない熱可塑性樹脂フィルム(表4及び表5中、「TAC」と略記する。)、又はノルボルネン系樹脂(環状ポリオレフィン系樹脂)からなる厚み50μmの位相差フィルム〔日本ゼオン(株)製の商品名「ZEONOR」〕(表4及び表5中、「COP」と略記する。)の片面にコロナ処理を施し、これらのコロナ処理面に、上記(1)で調製した光硬化性接着剤(接着剤液)を接着剤塗工装置を用いて塗工した。この接着剤の塗工層上に厚み25μmのポリビニルアルコール−ヨウ素系偏光子を積層し、ニップロールを用いて貼合した(押し付け圧:1.5MPa)。次いで、総積算光量(波長320〜400nmの波長領域における光照射強度の積算量)が約350mJ/cm2(測定器:FusionUV社製UV Power PuckIIによる測定値)の紫外線(UVA)を照射することにより接着剤層を硬化させて、偏光子の片面に熱可塑性樹脂フィルムが貼合された偏光板を得た。接着剤層の厚みは、硬化後の厚みで2.8μmとした。
【0153】
(7)偏光板の180度剥離試験
上記(6)で作製した偏光板を長さ200mm×幅25mmの大きさに裁断した後、熱可塑性樹脂フィルム側にアクリル系粘着剤層を設けて、当該熱可塑性樹脂フィルムと偏光子との間の剥離強さを測定するための試験片とした。試験片をその粘着剤層を用いてガラス板に貼り、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとの間にカッターの刃を入れ、長さ方向に端から30mm剥がして、その剥がした部分を試験機のつかみ部でつかんだ。この状態の試験片について、温度23℃及び相対湿度55%の雰囲気中にて、JIS K 6854−2:1999「接着剤−はく離接着強さ試験方法−第2部:180度はく離」に準じて、つかみ移動速度300mm/分で180度剥離試験を行い、つかみ部の30mmを除く170mmの長さにわたる平均剥離力を求め、これを、熱可塑性樹脂フィルムと偏光子との間の剥離強さとした。熱可塑性樹脂フィルムが上記3種である場合のそれぞれについて剥離強さを測定した。なお、測定時は、偏光板を作製してから24時間後である。結果を表4及び表5に示す。表4及び表5中、「剥離不可」とは、上記条件では、偏光子と熱可塑性樹脂フィルムとを剥離できなかったことを意味する。
【0154】
【表4】
【0155】
【表5】