【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、円筒導波管内で被炭素化繊維にマイクロ波を照射することにより、常圧下、被炭素化繊維を十分に炭素化できることを見出した。さらには、方形導波管で構成される予備炭素化炉と円筒導波管で構成される炭素化炉とを組み合わせて用いることにより、被炭素化繊維に電磁波吸収剤等を添加することなく、且つ外部加熱による予備炭素化を行わずに、常圧下、被炭素化繊維を十分に炭素化できることを見出した。
また、炭素繊維の製造においては、被炭素化繊維が有機繊維(誘電体)から無機繊維(導電体)に連続的に変化する。即ち、加熱対象物のマイクロ波吸収特性が漸次変化する。本発明の炭素繊維製造装置は、加熱対象物のマイクロ波吸収特性が変化しても、効率良く炭素繊維を製造できることを見出した。
【0011】
また、本発明者らは、筒状の炭素化炉内にマイクロ波を透過させる筒状の断熱スリーブを配設し、この中に被炭素化繊維を走行させてマイクロ波を照射することに想到した。さらには、この断熱スリーブの終端側に加熱ヒーターを設けることにより、炭素繊維の炭素含有量をより高めることができることを見出した。
この断熱スリーブはマイクロ波を透過させるため、内部を走行する被炭素化繊維を直接加熱することができる。また、該加熱によって生じる輻射熱を遮断して放熱を抑制することにより断熱スリーブ内が高温に保持されるため、被炭素化繊維の炭素化速度を飛躍的に向上させることができることを見出した。
これらの知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0012】
上記課題を解決する本発明は以下に記載するとおりである。以下の〔1〕〜〔5〕は、第1実施形態に関する。
【0013】
〔1〕 一端が閉塞した円筒導波管から成る筒状炉体であって、前記円筒導波管の前記一端に繊維導出口が形成されるとともに前記円筒導波管の他端に繊維導入口が形成されて成る筒状炉体と、
前記筒状炉体内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器と、
一端が前記マイクロ波発振器側に接続され、他端が前記筒状炉体の一端に接続される接続導波管と、
を含んで成ることを特徴とする炭素繊維製造装置。
【0014】
上記〔1〕の炭素繊維製造装置は、円筒導波管を炉体とし、その内部を走行する被炭素化繊維に常圧下でマイクロ波を照射する炭素化炉を含んで構成される炭素繊維製造装置である。
【0015】
〔2〕 前記円筒状炉体内の電磁界分布がTMモードである請求項1に記載の炭素繊維製造装置。
【0016】
〔3〕 前記円筒導波管に接続される前記接続導波管内の電磁界分布がTEモードであり、且つ繊維走行方向と平行に電界成分を有する請求項2に記載の炭素繊維製造装置。
【0017】
上記〔3〕の炭素繊維製造装置は、円筒状炉体内の電磁界分布がTMモードであり、管軸と平行方向に電界成分を有する。且つ、接続導波管内の電磁界分布がTEモードであり、管軸と垂直方向に電界成分を有する。この接続導波管は、その管軸を円筒状炉体の管軸と垂直にして配設される。そのため、円筒状炉体内及び接続導波管内の何れもが、繊維走行方向と平行に電界成分を有する。
【0018】
上記〔1〕〜〔3〕の炭素繊維製造装置を用いる炭素繊維の製造方法としては、以下の〔4〕及び〔5〕が挙げられる。
【0019】
〔4〕 繊維走行方向と平行に電界成分を有するマイクロ波加熱により炭素化を行うことを特徴とする炭素繊維製造方法。
【0020】
上記〔4〕の炭素繊維の製造方法は、被炭素化繊維の走行方向と平行に電界成分が形成されるマイクロ波加熱により、被炭素化繊維の炭素化を行う炭素繊維の製造方法である。
【0021】
〔5〕 〔1〕に記載の炭素繊維製造装置を用いる炭素繊維製造方法であって、
炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を前記繊維導入口から前記円筒状炉体内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記円筒状炉体内を走行する前記中間炭素化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記炭素繊維を前記繊維導出口から連続的に取り出す炭素繊維取り出し工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維製造方法。
【0022】
上記〔5〕の炭素繊維の製造方法は、炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を被炭素化繊維とし、電磁界分布がTMモードである円筒導波管中で炭素化する炭素繊維の製造方法である。
【0023】
以下の〔6〕〜〔11〕は第2実施形態に関する。
【0024】
〔6〕 少なくとも一端が閉塞した筒状炉体と、
前記筒状炉体内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器と、
前記筒状炉体の軸心と平行軸心上に配設され、繊維がその一端から導入されるとともに他端から導出されるマイクロ波透過性の断熱スリーブと、
を含んで成ることを特徴とする炭素繊維製造装置。
【0025】
〔7〕 前記断熱スリーブのマイクロ波透過率が、常温で90%以上である〔6〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0026】
〔8〕 前記筒状炉体と前記マイクロ波発振器とが、一端が前記マイクロ波発振器側に接続され他端が前記筒状炉体に接続される接続導波管を介して接続されている〔6〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0027】
上記〔6〕〜〔8〕の炭素繊維製造装置は、前記筒状炉体内に挿入されたマイクロ波透過性の断熱スリーブを有することを特徴とする。この断熱スリーブは、マイクロ波を透過させて内部を走行する被炭素化繊維を加熱するとともに、該加熱に起因する輻射熱を遮断して放熱を抑制することにより断熱スリーブ内を高温に保持し、被炭素化繊維の炭素化を促進する。
【0028】
〔9〕 前記筒状炉体が、円筒導波管である〔6〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0029】
〔10〕 前記断熱スリーブの前記他端側に加熱ヒーターがさらに配設されて成る〔6〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0030】
上記〔10〕の炭素繊維製造装置は、前記断熱スリーブの繊維が導出される側に加熱ヒーターが配設されている。この加熱ヒーターは、マイクロ波の照射によって炭素化された被炭素化繊維を前記断熱スリーブ内でさらに加熱する。
【0031】
〔11〕 〔6〕に記載の炭素繊維製造装置を用いる炭素繊維製造方法であって、
炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を前記断熱スリーブ内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記断熱スリーブ内を走行する前記中間炭素化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記炭素繊維を前記断熱スリーブ内から連続的に取り出す炭素繊維取り出し工程と、
を有することを特徴とする炭素繊維製造方法。
【0032】
上記〔11〕の炭素繊維の製造方法は、炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を被炭素化繊維とし、これを前記断熱スリーブ内で連続的に炭素化する炭素繊維の製造方法である。
【0033】
以下の〔12〕〜〔18〕は第3実施形態に関する。この実施形態は、上記〔1〕又は〔6〕に記載の炭素繊維製造装置に、方形導波管を用いて構成する予備炭素化炉をさらに含む炭素繊維製造装置である。
【0034】
〔12〕
(1) 一端が閉塞した方形導波管から成る炉体であって、前記方形導波管の前記一端に繊維導出口が形成されるとともに前記方形導波管の他端に繊維導入口が形成されて成る角筒状炉体と、
前記角筒状炉体内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器と、
一端が前記マイクロ波発振器側に接続され、他端が前記角筒状炉体の一端に接続される接続導波管と、
からなる第1炭素化装置と;
(2) 〔1〕に記載の炭素繊維製造装置からなる第2炭素化装置と;
を有することを特徴とする炭素繊維製造装置。
【0035】
上記〔12〕の炭素繊維製造装置は、上記〔1〕〜〔3〕の炭素繊維製造装置を第2炭素化炉として用いる炭素繊維製造装置である。第2炭素化炉の前段には、第1炭素化炉が配設されている。第1炭素化炉は、電磁界分布が繊維走行方向と直交する方向に電界成分を有するTEモードである方形導波管を炉体とし、その内部を走行する被炭素化繊維に常圧下でマイクロ波を照射する炭素化炉である。
【0036】
〔13〕
(1) 一端が閉塞した方形導波管から成る炉体であって、前記方形導波管の前記一端に繊維導出口が形成されるとともに前記方形導波管の他端に繊維導入口が形成されて成る角筒状炉体と、
前記角筒状炉体内にマイクロ波を導入するマイクロ波発振器と、
一端が前記マイクロ波発振器側に接続され、他端が前記角筒状炉体の一端に接続される接続導波管と、
からなる第1炭素化装置と;
(2) 〔6〕に記載の炭素繊維製造装置からなる第2炭素化装置と;
を有することを特徴とする炭素繊維製造装置。
【0037】
上記〔13〕の炭素繊維製造装置は、上記〔6〕〜〔10〕の炭素繊維製造装置を第2炭素化炉として用いる炭素繊維製造装置である。第2炭素化炉の前段には、第1炭素化炉が配設されている。
【0038】
〔14〕 前記角筒状炉体が、前記角筒状炉体の内部をその軸心に沿ってマイクロ波導入部と繊維走行部とに分割する仕切板が配設された角筒状炉体であるとともに、
前記仕切板が所定間隔で形成されたスリットを有する〔12〕又は〔13〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0039】
上記〔14〕の炭素繊維製造装置は、方形導波管内が仕切板によってマイクロ波導入部と繊維走行部とに二分されている。マイクロ波導入部内を共鳴するマイクロ波は、仕切板に形成されたスリットを通じて繊維走行部を走行する被炭素化繊維に照射される。繊維走行部には、仕切板のスリットを通じてマイクロ波導入部から繊維走行部に漏出するマイクロ波による電磁界分布が形成される。なお、仕切板のスリットを通じて繊維走行部に漏出するマイクロ波の漏出量は、被炭素化繊維の炭素含有量の上昇に伴って増加する。
【0040】
〔15〕 第1炭素化装置の炉体内の電磁界分布がTEモードであり、第2炭素化装置の炉体内の電磁界分布がTMモードである〔12〕又は〔13〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0041】
上記〔15〕の炭素繊維製造装置は、電磁界分布が繊維走行方向に直交する方向に電界成分を有するTEモードである方形導波管を炉体とする第1炭素化炉と、電磁界分布がTMモードである円筒導波管を炉体とする第2炭素化炉とを組み合わせて構成される炭素繊維製造装置である。
【0042】
〔16〕 前記接続導波管内の電磁界分布がTEモードであり、繊維走行方向と平行に電界成分を有する〔12〕又は〔13〕に記載の炭素繊維製造装置。
【0043】
上記〔16〕の炭素繊維製造装置は、円筒導波管に接続される接続導波管内の電磁界分布がTEモードであり、繊維走行方向と平行に電界成分を有する炭素繊維製造装置である。この接続導波管は、その管軸を円筒状炉体の管軸と垂直にして配設される。そのため、円筒状炉体内及び接続導波管内の何れもが、繊維走行方向と平行に電界成分を有する。
【0044】
〔17〕 〔12〕に記載の炭素繊維製造装置を用いる炭素繊維製造方法であって、
(1)耐炎化繊維を第1炭素化炉の前記繊維導入口から前記角筒状炉体内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記角筒状炉体内を走行する前記耐炎化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記中間炭素化繊維を第1炭素化炉の前記繊維導出口から連続的に取り出す中間炭素化繊維取り出し工程と;
(2)前記中間炭素化繊維を第2炭素化炉の前記繊維導入口から前記円筒状炉体内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記円筒状炉体内を走行する前記中間炭素化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記炭素繊維を第2炭素化炉の前記繊維導出口から連続的に取り出す炭素繊維取り出し工程と;
を有することを特徴とする炭素繊維製造方法。
【0045】
上記〔17〕の炭素繊維の製造方法は、耐炎化繊維を被炭素化繊維とし、電磁界分布が繊維走行方向と直交する方向に電界成分を有するTEモードである方形導波管中で炭素化して炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を得、この中間炭素化繊維を電磁界分布がTMモードである円筒導波管中でさらに炭素化する炭素繊維の製造方法である。
【0046】
〔18〕 〔13〕に記載の炭素繊維製造装置を用いる炭素繊維製造方法であって、
(1)耐炎化繊維を第1炭素化炉の前記繊維導入口から前記角筒状炉体内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記角筒状炉体内を走行する前記耐炎化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記中間炭素化繊維を第1炭素化炉の前記繊維導出口から連続的に取り出す中間炭素化繊維取り出し工程と;
(2)前記中間炭素化繊維を前記断熱スリーブ内に連続的に供給する繊維供給工程と、
前記断熱スリーブ内を走行する前記中間炭素化繊維に不活性雰囲気下でマイクロ波を照射して炭素繊維を得るマイクロ波照射工程と、
前記炭素繊維を前記断熱スリーブ内から連続的に取り出す炭素繊維取り出し工程と;
を有することを特徴とする炭素繊維製造方法。
【0047】
上記〔18〕の炭素繊維の製造方法は、耐炎化繊維を被炭素化繊維とし、電磁界分布が繊維走行方向と直交する方向に電界成分を有するTEモードである方形導波管中で炭素化して炭素含有率が66〜72質量%の中間炭素化繊維を得、この中間炭素化繊維を断熱スリーブ内でさらに炭素化する炭素繊維の製造方法である。