【文献】
富永 健一他,Ru−Co錯体触媒を用いたギ酸メチルによるアルケン類のヒドロエステル化反応,第106回触媒討論会、討論会A予稿集,日本,触媒学会,2010年,第269頁
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩とを含む触媒系の存在下で、分子内に少なくとも1つの不飽和炭素結合を有する有機化合物と、ギ酸エステルとを反応させるエステル化合物の製造方法において、非環状アミド系溶媒を含む非プロトン性極性溶媒と、メトキシフェノールを含むフェノール化合物とを加えることを特徴とする、エステル化合物の製造方法。
前記分子内に少なくとも1つの不飽和炭素結合を有する有機化合物に対して、0.5モル当量以上の前記非プロトン性極性溶媒を加える、請求項1に記載のエステル化合物の製造方法。
前記ルテニウム化合物が、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とをあわせ持つルテニウム錯体を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のエステル化合物の製造方法。
【背景技術】
【0002】
従来から、実質的に一酸化炭素を使用することなく、不飽和結合を有する有機化合物と、ギ酸化合物とを原料として使用し、上記有機化合物にエステル基が付加したエステル化合物を製造する様々な方法が知られている。
【0003】
例えば、非特許文献1は、ホスフィン配位子を有するルテニウム化合物を触媒として用いて、エチレンとギ酸メチルとを、190℃の温度条件下で、18時間にわたって反応させ、エチレンにギ酸メチルが付加したプロピオン酸メチルを製造する方法を開示している。この開示された方法によれば、ルテニウム化合物に対して、286当量のプロピオン酸メチルが生成する。
【0004】
非特許文献2は、カルボニル配位子と塩素配位子とを有するルテニウム化合物を触媒として用い、ジメチルホルムアミド(以下、「DMF」と称す)溶媒中、エチレンとギ酸メチルとを、160℃の温度条件下で、2時間にわたって反応させ、エチレンにギ酸メチルが付加したプロピオン酸メチルを製造する方法を開示している。この開示された方法によれば、ルテニウム化合物に対し、345当量のプロピオン酸メチルが生成する。
【0005】
特許文献1は、カルボニル配位子、塩素配位子及びアミン配位子からなる群から選ばれる配位子を有するルテニウム化合物と、四級アンモニウムヨウ化物とからなる触媒系の存在下で、DMF溶媒中、エチレンとギ酸メチルとを、190℃の温度条件下で、1時間にわたって反応させ、プロピオン酸メチルを製造する方法を開示している。この開示された方法によれば、ルテニウム化合物に対し、1530当量のプロピオン酸メチルが生成する。
【0006】
非特許文献3は、ルテニウムカルボニルクラスター化合物と三級ホスフィン化合物とを組み合わせて触媒として用い、トルエン中で、ノルボルネンとギ酸メチルとを、170℃の温度条件下で、15時間にわたって反応させ、ノルボルネンにエステル基が付加した化合物を製造する方法を開示している。この開示された方法によれば、ギ酸メチルを基準として、ノルボルネンにエステル基が付加した化合物が収率22%で生成する。また、ギ酸メチルに代えてギ酸ベンジルを用いた場合には、対応するエステル化合物が収率77%で得られる。
【0007】
また、非特許文献4は、ルテニウムカルボニルクラスター化合物を触媒として用い、DMF溶媒中で、1−ヘキセンとピリジン基を有するギ酸化合物とを、135℃の温度条件下で、4時間にわたって反応させ、対応するエステル化合物を製造する方法を開示している。この開示された方法によれば、ギ酸化合物を基準として、エステル化合物が収率98%で得られる。
【0008】
これらの手法は、一酸化炭素等の有毒な原料を必要とせず、比較的低い圧力で反応が進行する点で優れている。しかし、上述の各種方法を適用し、ギ酸エステルとして最も安価なギ酸メチルを用いて収率良くエステル化合物を製造するためには、160℃以上の高い反応温度を必要とし、これよりも反応温度を下げるためには、特殊な構造を持つギ酸化合物を用いる必要があった。
【0009】
これに対し特許文献2には、先に、ルテニウム化合物とコバルト化合物とハロゲン化物塩とを含む触媒系の存在下で、不飽和有機化合物とギ酸エステルとを反応させた時、従来法で必要となる反応温度よりも低い温度で反応が進行し、効率良く所望とするエステル化合物が得られることが開示されている(特許文献2)。
【0010】
これにより、実質的な量の一酸化炭素を用いることなく、不飽和有機化合物とギ酸エステルを原料として、原料有機化合物にエステル基が付加したエステル化合物を製造すること、特に、ギ酸エステルとして安価なギ酸メチルを用いた場合であっても、従来技術に比べて低い反応温度で、かつ効率良く、目的とするエステル化合物を製造することが可能になった。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明についてより詳細に説明する。本発明の一実施形態は、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩とを含む触媒系の存在下で、分子内に少なくとも1つの不飽和炭素結合を有する有機化合物(以下、「不飽和有機化合物」と称す)と、ギ酸エステルとを反応させるエステル化合物の製法方法において、反応系に非プロトン性極性溶媒を加えることを特徴とする。
【0030】
(不飽和有機化合物)
本発明において原料として使用可能な不飽和有機化合物は、分子内に1以上の不飽和炭素結合を有する化合物であればよく、特に制限されない。すなわち、不飽和有機化合物は、脂肪族鎖状不飽和化合物、脂肪族環状不飽和化合物、及び芳香族化合物等を含む各種化合物が挙げられる。ここで、不飽和炭素結合は、分子鎖末端に存在しても、又は分子鎖内部に存在してもよい。また、分子内に複数の不飽和炭素結合を有する化合物であってもよい。分子内に複数の不飽和炭素結合を有する化合物を原料として使用することによって、分子内に複数のエステル基を持つ化合物を製造することが可能である。
【0031】
上記肪族鎖状不飽和化合物の具体例として、エチレン、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン、ヘプテン、オクテン、ノネン、デセン、ウンデセン、ドデセン、トリデセン、テトラデセン、ペンタデセン、ヘキサデセン、ヘプタデセン、オクタデセン、ノナデセン、ブタジエン、ペンタジエン、ヘキサジエン、ヘプタジエン、オクタジエン、ノナジエン、ヘキサントリエン、ヘプタトリエン、オクタトリエン、並びにこれらの異性体及び誘導体が挙げられる。
【0032】
上記脂肪族環状不飽和化合物の具体例として、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン、テトラヒドロインデン、メチルテトラヒドロインデン、ノルボルネン、ノルボルナジエン、メチルビニルノルボルネン、ジシクロペンタジエン、メチルジシクロペンタジエン、トリシクロペンタジエン、テトラシクロペンタジエン、並びにこれらの異性体及び誘導体が挙げられる。
【0033】
上記芳香族化合物は、芳香族鎖状不飽和化合物及び芳香族環状不飽和化合物を含む。上記芳香族鎖状不飽和化合物の具体例として、スチレン、スチルベン、トリフェニルエチレン、テトラフェニルエチレン及びその誘導体が挙げられる。上記芳香族環状不飽和化合物として、インデン、ジヒドロナフタレン、インドール及びその誘導体が挙げられる。
【0034】
上述の不飽和有機化合物は、分子内の水素原子が、アルキル基、環状脂肪族基、芳香族基、複素環式基、カルボニル基、カルボン酸基、エステル基、アルコキシ基、シアノ基、アミノ基、アミド基、ニトロ基、ハロゲン、及び含リン置換基からなる群より選ばれる1種以上の官能基で置換されていてもよい。特に限定するものではないが、そのような化合物の一例として、ノルボルネンジカルボン酸メチル、ノルボルネンカルボン酸メチルが挙げられる。
【0035】
(ギ酸エステル)
本発明において原料として使用可能なギ酸エステルには、特に制限は無く、例えば、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸アミル、ギ酸イソアミル、ギ酸アリル、ギ酸ビニル、ギ酸ベンジル等から適宜選択して使用することができる。コスト及び反応性の観点から、ギ酸メチルが好適である。
【0036】
本発明では、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩とを含む触媒系を使用する。後述する実施例によって明らかにされるように、本発明では、ルテニウム化合物と、コバルト化合物と、ハロゲン化物塩との特定の組み合わせによって、所期の目的が達成可能となる。理論によって拘束するものではないが、本発明による不飽和有機化合物のエステル化反応は、ルテニウム化合物がギ酸エステルのC−H結合を開裂し、不飽和化合物の不飽和基に付加したコバルト化合物と反応することによって進行し、このような反応をハロゲン化物塩が促進するものと考えられる。以下、各種化合物について説明する。
【0037】
(ルテニウム化合物)
本発明で使用可能なルテニウム化合物は、ルテニウムを含む化合物であればよく、特に制限はない。例えば、ルテニウム原子を中心として、周囲に配位子が結合した構造を有するルテニウム錯体化合物が挙げられる。本発明の一実施形態では、分子内にカルボニル配位子とハロゲン配位子とをあわせ持つ、ルテニウム化合物が好ましい。そのようなルテニウム化合物の具体例として、[RuCl
2(CO)
3]
2、[RuCl
2(CO)
2]
n、[Ru(CO)
3Cl
3]
−、[Ru
3(CO)
11Cl]
−及び[Ru
4(CO)
13Cl]
−等が挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、[Ru(CO)
3Cl
2]
2、[Ru(CO)
2Cl
2]
nがより好ましい。
【0038】
本発明で使用するルテニウム化合物は、当技術分野において周知の方法に従って製造することもできるが、市販品として入手することもできる。また、[Ru(CO)
2Cl
2]
nは、M.J.Cleare,W.P.Griffith,J.Chem.Soc.(A),1969,372.(非特許文献5)に記載された方法に従って製造することができる。
【0039】
本発明で使用するルテニウム化合物は、例えば、RuCl
3、Ru
3(CO)
12、RuCl
2(C
8H
12)、Ru(CO)
3(C
8H
8)、Ru(CO)
3(C
8H
12)、及びRu(C
8H
10)(C
8H
12)等を前駆体化合物として使用し、本発明におけるエステル化の反応前又は反応中に、上記ルテニウム化合物を調製して、反応系に導入してもよい。
【0040】
上記ルテニウム化合物の使用量は、製造コストを考えると、可能な限り少量にすることが好ましい。しかし、上記ルテニウムの使用量が1/10000当量未満となると、エステル化反応の速度が極端に遅くなる傾向にある。そのため、上記ルテニウム化合物の使用量は、原料として使用する不飽和有機化合物に対して、1/10000〜1当量の範囲が好ましく、1/1000〜1/50当量の範囲がより好ましい。
【0041】
(コバルト化合物)
本発明で使用可能なコバルト化合物は、コバルトを含む化合物であればよく、特に制限はない。好適な化合物の具体例として、Co
2(CO)
8、HCo(CO)
4、Co
4(CO)
12等のカルボニル配位子を持つコバルト化合物、酢酸コバルト、プロピオン酸コバルト、安息香酸コバルト、クエン酸コバルト等のカルボン酸化合物を配位子に持つコバルト化合物、及びリン酸コバルトが挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、カルボニル配位子を持つコバルト錯体化合物が好ましい。
【0042】
上記コバルト化合物の使用量は、上記ルテニウム化合物に対して、1/100〜10当量、好ましくは1/10〜5当量である。上記ルテニウム化合物に対する上記コバルト化合物の比率が1/100当量より低くても、または10当量より高くても、エステル化合物の生成量は著しく低下する傾向にある。
【0043】
(ハロゲン化物塩)
本発明で使用可能なハロゲン化物塩は、塩化物イオン、臭化物イオン及びヨウ化物イオン等のハロゲンイオンと、カチオンとから構成される化合物であればよく、特に限定されない。上記カチオンは、無機物イオン及び有機物イオンのいずれであってもよい。また、上記ハロゲン化物塩は、分子内に1以上のハロゲンイオンを含んでもよい。
【0044】
ハロゲン化物塩を構成する無機物イオンは、アルカリ金属及びアルカリ土類金属から選択される1種の金属イオンであってよい。具体例として、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウムが挙げられる。
【0045】
また、有機物イオンは、有機化合物から誘導される1価以上の有機基であってよい。一例として、アンモニウム、ホスホニウム、ピロリジニウム、ピリジウム、イミダゾリウム及びイミニウムが挙げられ、これらイオンの水素原子はアルキル及びアリール等の炭化水素基によって置換されていてもよい。特に限定するものではないが、好適な有機物イオンの具体例として、テトラメチルアンモニウム、テトラエチルアンモニウム、テトラプロピルアンモニウム、テトラブチルアンモニウム、テトラペンチルアンモニウム、テトラヘキシルアンモニウム、テトラヘプチルアンモニウム、テトラオクチルアンモニウム、トリオクチルメチルアンモニウム、ベンジルトリメチルアンモニウム、ベンジルトリエチルアンモニウム、ベンジルトリブチルアンモニウム、テトラメチルホスホニウム、テトラエチルホスホニウム、テトラフェニルホスホニウム、ベンジルトリフェニルホスホニウム、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムが挙げられる。なかでも、反応率向上の観点から、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド等の第4級アンモニウム塩がより好ましい。
【0046】
本発明で使用するハロゲン化物塩は、固体の塩である必要はなく、室温付近または100℃以下の温度領域で液体となる、ハロゲン化物イオンを含むイオン性液体を用いてもよい。このようなイオン性液体に用いられるカチオンの具体例として、1−エチル3−メチルイミダゾリウム、1−プロピル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ペンチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘプチル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ドデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−テトラデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−ヘキサデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクタデシル−3−メチルイミダゾリウム、1−エチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ブチル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−ヘキシル−2,3−ジメチルイミダゾリウム、1−エチルピリジニウム、1−ブチルピジリニウム、1−ヘキシルピリジニウム、8−メチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−エチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−プロピル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ブチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ペンチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘキシル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−ヘプチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン、8−オクチル−1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]−7−ウンデセン等の有機物イオンが挙げられる。本発明では、上述のハロゲン化物塩を単独で用いても、複数組み合わせて用いてもよい。
【0047】
上述のハロゲン化物塩のうち、好適なハロゲン化物塩は、塩化物塩、臭化物塩、ヨウ化物塩であり、カチオンが有機物イオンである化合物である。特に限定するものではないが、本発明において好適なハロゲン化物塩の具体例として、ブチルメチルピロリジニウムクロリド、ビス(トリフェニルホスフィン)イミニウムアイオダイド、トリオクチルメチルアンモニウムクロリド、テトラエチルアンモニウムクロリドが挙げられる。
【0048】
ハロゲン化物塩の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、反応速度を効果的に高めることができる。一方、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0049】
本発明による製造方法では、ルテニウム化合物とコバルト化合物とハロゲン化物塩とを含む特定の触媒系に、必要に応じて、塩基性化合物、フェノール化合物、又は有機ハロゲン化合物を追加することによって、上記触媒系による反応促進の効果をより高めることが可能である。以下、各種化合物について説明する。
【0050】
(塩基性化合物)
本発明において、塩基性化合物による反応促進の効果は、原料として使用する不飽和有機化合物の種類によって異なる。本発明において使用可能な塩基性化合物は、無機化合物であっても、有機化合物であってもよい。塩基性の無機化合物の具体例として、アルカリ金属及びアルカリ土類金属の各種金属の炭酸塩、炭酸水素塩、水酸化物塩、アルコキシドが挙げられる。塩基性の有機化合物の具体例として、一級アミン化合物、二級アミン化合物、三級アミン化合物、ピリジン化合物、イミダゾール化合物、キノリン化合物が挙げられる。上述の塩基性化合物のなかでも、反応促進効果の観点から、三級アミン化合物が好適である。本発明において好適な三級アミン化合物の具体例として、トリアルキルアミン、N−アルキルピロリジン、N−アルキルピペリジン、キヌクリジン、及びトリエチレンジアミンが挙げられる。
【0051】
塩基性化合物の添加量は、特に限定されるものではないが、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜200当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0052】
(フェノール化合物)
本発明において、フェノール化合物を添加することによる反応促進の効果は、原料として使用する不飽和有機化合物の種類によって異なる。本発明において好適なフェノール化合物の具体例として、フェノール、クレゾール、アルキルフェノール、メトキシフェノール、フェノキシフェノール、クロルフェノール、トリフルオロメチルフェノール、ヒドロキノン及びカテコールが挙げられる。
【0053】
フェノール化合物の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現がより顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0054】
(有機ハロゲン化合物)
本発明において、有機ハロゲン化合物を添加することによる反応促進の効果は、原料として使用する不飽和有機化合物の種類によって異なる。本発明において好適な有機ハロゲン化合物としては、ハロゲン化メチル、ジハロゲンメタン、ジハロゲンエタン、トリハロゲンメタン、テトラハロゲン炭素、ハロゲン化ベンゼン等が挙げられる。
【0055】
有機ハロゲン化合物の添加量は、例えば、ルテニウム化合物に対して1〜1000当量、好ましくは2〜50当量である。添加量を1当量以上とすることによって、促進効果の発現が顕著になる傾向がある。また、添加量が1000当量を超えると、添加量をさらに増加したとしても、反応促進のさらなる向上効果は得られない傾向がある。
【0056】
(溶媒)
本発明は、上記特定の触媒系を使用する不飽和有機化合物とギ酸エステルとの反応を、非プロトン性極性溶媒の共存下で実施することを特徴とする。本発明において使用可能な非プロトン性極性溶媒は、特に限定されない。例えば、γ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン、α−アセチル−γ−ブチロラクトン等のラクトン化合物、N−メチルピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルアセトアミド(DMA)、ジグリコールアミド、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等の含窒素溶媒が挙げられ、これらを単独で使用しても、複数種を組合せて使用してもよい。例示した各種非プロトン性極性溶媒は、極性が高く、かつ分子構造が金属触媒の活性を阻害する可能性が低い点で望ましい。
【0057】
本発明の一実施形態では、非プロトン性極性溶媒の中でも、含窒素溶媒を使用することが好ましい。反応系に含窒素の非プロトン性極性溶媒を加えることによって、優れた収率で所望とするエステル化合物を製造することが容易となる傾向がある。本発明で使用可能な含窒素の非プロトン性極性溶媒は、先に例示した化合物に限定されることなく、分子内に窒素を含む非プロトン性極性溶媒であればよく、環状構造及び鎖状構造のいずれを有する化合物であってもよい。また、分子内に他の官能基を含んでいてもよい。
【0058】
本発明の一実施形態では、含窒素の非プロトン性極性溶媒の中でも、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及びジグリコールアミド等のアミド系溶媒を使用することが好ましい。本発明の一実施形態では、ジメチルアセトアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、及びジグリコールアミド等の非環状アミド系溶媒を使用することがより好ましい。一実施形態では、ジメチルアセトアミド(DMA)及びN,N−ジメチルホルムアミド(DMF)の少なくとも一方を使用することが特に好ましい。このようなアミド系溶媒を使用することによって、より高い収率で所望とするエステル化合物を得ることが容易となる。
【0059】
一般的に、反応系に使用する原料及び溶媒等の組合せによって、金属触媒の活性が変化することが知られており、原料又は溶媒の電子が金属触媒の空軌道にトラップされると、金属触媒の活性低下が生じることになる。また、原料と溶媒との相溶性も反応性に影響を与えることになる。そのため、金属触媒を使用する反応系では、金属触媒と原料と溶媒との組合せが重要となる。理論によって拘束するものではないが、ルテニウムをベースとする特定の触媒系を使用する本発明の反応系では、触媒系のルテニウム及びコバルトに非プロトン性極性溶媒からの電子のトラップが起こり難く、触媒系の配位環境が適切に維持されるものと推測される。また、非プロトン性極性溶媒は、原料として使用するオレフィン及びギ酸アルキルとの相溶性の点でも優れている。このような観点から、特に、非環状アミド系溶媒は、ルテニウムをベースとする特定の触媒系との組合せにおいて好ましく、優れた反応性を得ることができると推測される。
【0060】
後述の実施例によって具体的に示されるように、本発明によれば、反応系に非プロトン性極性溶媒を加えることによって、ギ酸エステルの使用量を低減することができ、また反応速度を効果的に高めることができる。反応系への非プロトン性極性溶媒の添加方法は、特に限定されず、反応時に触媒系と非プロトン性極性溶媒とが共存できる状態となればよい。例えば、触媒系の調製後に、上記触媒系に原料(不飽和有機化合物及びギ酸エステル)と一緒に非プロトン性極性溶媒を加えても、上記原料と非プロトン性極性溶媒とを別々に加えてもよい。
【0061】
特に限定するものではないが、一実施形態において、非プロトン性極性溶媒の添加量は、不飽和有機化合物の1モルに対して、少なくとも0.5モル当量とすることが好ましい。一方、非プロトン性極性溶媒の添加量の増加は、生産性を低下する可能性があるため、添加量は5当量以下とすることが好ましい。したがって、反応性及び生産性の観点から考えあわせると、上記添加量は0.5〜3.5モル当量の範囲であることが好ましい。
【0062】
(反応温度)
本発明の製造方法において、不飽和有機化合物とギ酸エステルとの反応は、使用する原料及び非プロトン性極性溶媒の特性に応じて、80℃〜200℃の温度範囲で実施することが好ましい。上記反応は、100℃〜160℃の温度範囲で実施することがより好ましい。80℃以上の温度で反応を実施することによって、反応速度が速まり、効率良く反応を進めることが容易となる。一方で、反応温度を200℃以下に制御することによって、原料として使用するギ酸エステルの分解を抑制することが容易となる。ギ酸エステルが分解すると、不飽和有機化合物に対するエステル基の付加が達成されなくなるため、高すぎる反応温度は望ましくない。反応温度が、原料として使用する不飽和有機化合物又はギ酸エステルのいずれかの沸点を超える場合には、耐圧容器内で反応を実施する。反応の終結は、ガスクロマトグラフ、NMR等の周知の分析技術を用いて確認することができる。
【0063】
本発明の一実施形態によれば、特定の触媒系を使用することによって、従来法に見られる反応温度よりも低い温度条件(具体的には140℃以下)でも、所望とするエステル化合物を得ることが容易である。140℃以下の低い温度条件は、ギ酸メチルの分解を抑制することが可能であり、反応効率面、安全面、及び工業利用面といった種々の利益を提供することになる。また、本発明の製造方法によれば、非プロトン性極性溶媒の使用によって、従来法と比較して、原料となるギ酸メチルの使用量を減少させた場合であっても、高い収率で所望とするエステル化合物を得ることが可能である。このことは、後述の実施例によって具体的に示されている。例えば、不飽和有機化合物とギ酸エステルとの反応を含窒素の非プロトン性極性溶媒の共存下で実施した場合、不飽和有機化合物に対するギ酸エステルの使用量は2〜4当量であればよい。このようなギ酸エステルの使用量は、従来法におけるギ酸エステルの使用量(8当量)の1/2〜1/4の量であることは、本発明の注目すべき効果である。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例によってより詳細に説明する。しかし、本発明の範囲は以下の実施例によって限定されるものではない。
【0065】
各実施例において、反応生成物のガスクロマトグラフによる分析は、それぞれ以下の条件下で実施した。
【0066】
検 出 器 :水素炎イオン検出器
カ ラ ム :ジーエルサイエンス(株)製 TC−1(60m)
キャリアガス:ヘリウム(300kPa)
温 度
注入口:200℃
検出器:200℃
カラム:40℃〜240℃(昇温速度:5℃/min)
【0067】
(実施例1)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを1.50mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを1.50mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを30.0mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを617mmol、ギ酸メチルを161mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを123mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを30.0mmol、溶媒としてDMFを138mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは530mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率86%)であった。
【0068】
(実施例2)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを1.97mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを1.97mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを39.4mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを788mmol、ギ酸メチルを206mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを158mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを39.4mmol、溶媒としてDMFを63.0mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは733mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率93%)であった。
【0069】
(実施例3)
室温下、内容積50mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを0.025mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを0.025mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを0.5mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを10mmol、ギ酸メチルを2.5mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを2mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを0.5mmol、溶媒としてDMFを0.5mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは8.7mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率87%)であった。
【0070】
(実施例4)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを2.40mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを2.40mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを48.0mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを959mmol、ギ酸メチルを177mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを192mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを48.0mmol、溶媒としてDMFを59mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて、反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは878mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率91.6%)であり、収量は184gであった。
【0071】
(実施例5)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを2.40mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを2.40mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを48.0mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを960mmol、ギ酸メチルを177mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを192mmol、フェノール化合物としてp−クレゾールを48.0mmol、溶媒としてDMFを59mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは810mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率84.3%)であり、収量は170gであった。
【0072】
(実施例6)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを2.44mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを2.44mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを48.7mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを975mmol、ギ酸メチルを180mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを195mmol、溶媒としてDMFを59mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは533mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率54.7%)であり、収量は112gであった。
【0073】
(実施例7)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを2.69mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを2.70mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを53.9mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを1078mmol、ギ酸メチルを133mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを216mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを53.9mmol、溶媒としてDMFを80mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは768mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率71.2%)であり、収量は161gであった。
【0074】
(実施例8)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを5.39mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを5.39mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを53.9mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを1077mmol、ギ酸メチルを133mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを215mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを53.9mmol、溶媒としてDMFを80mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは770mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率71.5%)であり、収量は162gであった。
【0075】
(実施例9)
室温下、内容積50mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを0.025mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを0.025mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを0.5mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを10mmol、ギ酸メチルを2.5mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを2mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを0.5mmol、溶媒としてγ-バレロラクトンを2.5mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは6.5mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率65%)であった。
【0076】
(実施例10)
実施例9で使用した触媒系に、溶媒としてはN-メチルピロリドンを2.5mL使用したことを除き、全て実施例9と同じ条件下で反応を行った。得られた反応混合物をガスクロマトグラフを用いて分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは7.0mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率70%)であった。
【0077】
(実施例11)
実施例9で使用した触媒系に、溶媒としては1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノンを2.5mL使用したことを除き、全て実施例9と同じ条件下で反応を行った。得られた反応混合物をガスクロマトグラフを用いて分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは6.4mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率64%)であった。
【0078】
(実施例12)
実施例9で使用した触媒系に、溶媒としてはジメチルアセトアミドを2.5mL使用したことを除き、全て実施例9と同じ条件下で反応を行った。得られた反応混合物をガスクロマトグラフを用いて分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは8.8mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率88%)であった。
【0079】
(実施例13)
実施例9で使用した触媒系に、溶媒としてはアセトニトリルを2.5mL使用したことを除き、全て実施例9と同じ条件下で反応を行った。得られた反応混合物をガスクロマトグラフを用いて分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは4.6mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率46%)であった。
【0080】
(比較例1)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを1.97mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを1.97mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを39.4mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを788mmol、ギ酸メチルを206mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを158mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを39.4mmol、溶媒としてトルエンを68.5mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは63.0mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率6.7%)であった。
【0081】
(比較例2)
室温下、内容積50mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを0.025mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを0.025mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを0.5mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを10mmol、ギ酸メチルを2.8mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを2.0mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを0.5mmol、溶媒としてオクタンを1.6mL添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。その後、反応装置を室温まで冷却し、放圧し、残存有機相の一部を抜き取り、ガスクロマトグラフを用いて反応混合物の成分を分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは検出されなかった(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率0%)。
【0082】
(比較例3)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを2.39mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを2.39mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを47.7mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを954mmol、ギ酸メチルを235mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを191mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを47.7mmol添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは592mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率62.0%)であった。
【0083】
(比較例4−参考例)
室温下、内容積1000mLのステンレス製加圧反応装置内に、ルテニウム化合物として[Ru(CO)
2Cl
2]
nを1.53mmol、コバルト化合物として酢酸コバルトを1.53mmol、ハロゲン化物塩としてテトラエチルアンモニウムクロリドを30.6mmol加え、混合して触媒系を得た。この触媒系に、ノルボルネンカルボン酸メチルを611mmol、ギ酸メチルを301mL加え、さらに、塩基性化合物としてトリエチルアミンを122mmol、フェノール化合物として4−メトキシフェノールを30.6mmol添加した。次いで窒素ガス0.5MPaで反応装置内をパージし、120℃で8時間保持した。得られた反応混合物を実施例1と同様にして分析した。分析結果によれば、反応によって生成したノルボルナンジカルボン酸メチルは573mmol(ノルボルネンカルボン酸メチル基準で収率93.7%)であり、収量は120gであった。
【0084】
実施例1〜13及び比較例1〜4で得られた結果を表1にまとめて示す。
【0085】
【表1】
注記
(1) ノルボルネンモノカルボン酸メチル(周知の方法に従って予め合成して得たものを使用)
(2) [Ru(CO)
2Cl
2]
n(株式会社フルヤ金属製)
(3) 酢酸コバルト(日本化学産業株式会社製)
(4) テトラエチルアンモニウムクロリド(ライオン株式会社製)
(5) ギ酸メチル(三菱ガス化学株式会社製)
(6) トリエチルアミン(株式会社ダイセル製)
(7) ジメチルホルムアミド(三菱ガス化学株式会社製)
【0086】
実施例1〜3及び9〜13と、比較例1及び2との比較から明らかなように、反応系に非プロトン性極性溶媒を加えることによって、特定の触媒系におけるエステル化反応を効率良く促進できることが分かる。また、実施例1〜7及び実施例12のように、DMF及びDMAといった非環状アミド系溶媒を添加した場合には、エステル化反応をより効果的に促進し、収率を著しく向上できることが分かる。さらに、実施例1〜3及び実施例12と、従来法の実施形態に相当する比較例3及び比較例4(参考例)との比較から、反応系に非環状アミド系溶媒を加えた場合には、ギ酸エステルの使用量を低減させた場合であっても、高い収率を維持できることが分かる。より具体的には、本発明によれば、ギ酸エステルの使用量を、従来法での8当量から最大で2当量まで低減させた場合であっても、効率よくエステル化合物を製造できることが分かる。
【0087】
以上のように、本発明によれば、反応系に特定の溶媒を加えることによって、原料(不飽和有機化合物)の仕込み量を増加させることができ、バッチ当たりの出来高を上げ、生産性を向上できることが分かる。また、本発明によれば、ギ酸エステルの使用量を従来法で必要となる量よりも低減することが可能であるため、廃棄材料が少なく、より低コストで実施可能な製造方法を実現することができる。