特許第6556083号(P6556083)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2015.5.11 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6556083
(24)【登録日】2019年7月19日
(45)【発行日】2019年8月7日
(54)【発明の名称】六価クロム回収用樹脂及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20190729BHJP
   C08J 7/18 20060101ALI20190729BHJP
   B01J 20/30 20060101ALI20190729BHJP
   C02F 1/28 20060101ALI20190729BHJP
【FI】
   B01J20/26 E
   C08J7/18CES
   B01J20/30
   C02F1/28 J
【請求項の数】9
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2016-64483(P2016-64483)
(22)【出願日】2016年3月28日
(65)【公開番号】特開2017-176934(P2017-176934A)
(43)【公開日】2017年10月5日
【審査請求日】2018年8月2日
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】山辺 秀敏
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 啓太
(72)【発明者】
【氏名】相川 達男
(72)【発明者】
【氏名】湯浅 真
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
(72)【発明者】
【氏名】岩倉 寛人
【審査官】 駒木 亮一
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭53−047389(JP,A)
【文献】 特開2016−013500(JP,A)
【文献】 特開平09−173835(JP,A)
【文献】 特開昭54−135684(JP,A)
【文献】 特開2014−083485(JP,A)
【文献】 特開2009−113034(JP,A)
【文献】 エポキシ活性化セルロース繊維の調整と反応,繊維学会誌,1990年,Vol.46,No.2,pp.63-68,https://www.jstage.jst.go.jp/article/fiber1944/46/2/46_2_63/_pdf/-char/ja
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J20/00−20/34 C02F1/28−1/28
B29C71/04
C08J7/00−7/02
C08J7/12−7/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
Japio−GPG/FX
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子基材に電離性放射線を照射する電離性放射照射工程と、
電離性放射線を照射した前記高分子基材にエポキシ系化合物をグラフト重合し、エポキシ基を有するグラフト鎖を形成するグラフト重合工程と、
前記エポキシ基に、アミノ基を有するピリジン系誘導体を付加するピリジン系誘導体付加工程と、を含む
六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項2】
前記グラフト重合工程では、
エポキシ系化合物、水及び界面活性剤を混合してエマルジョン化して得られた溶液と、前記高分子基材とを混合することによってグラフト重合させる
請求項1に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である
請求項2に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項4】
前記エポキシ系化合物が、グリシジルメタクリレートである
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項5】
前記アミノ基が、第1級アミノ基である
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項6】
前記ピリジン系誘導体が、4−アミノピリジンである
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項7】
前記高分子基材が、ポリオレフィン系高分子基材である
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の六価クロム回収用樹脂の製造方法。
【請求項8】
高分子基材の主鎖と、エポキシ系化合物モノマー由来のグラフト鎖とを含み、
前記グラフト鎖に、ピリジン系誘導体が結合している
六価クロム回収用樹脂。
【請求項9】
下記一般式で表されるグラフト率が10%以上900%以下である、
請求項8に記載の六価クロム回収用樹脂。
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100
(但し、Wはグラフト後の樹脂質量、Wはグラフト前の樹脂質量である。)
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、六価クロム回収用樹脂に関するものであり、さらに詳しくは、電離放射線照射によるグラフト重合により合成される有機高分子を主鎖とする樹脂により、高い回収率で六価クロムを回収することができる六価クロム回収用樹脂及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、メッキ工場の廃水、セメントを使用する現場の廃水、鉱山廃水等に含まれ得る六価クロムによる環境負荷を軽減させるため、廃水中の六価クロムの除去方法が開発されてきた。
【0003】
最も知られた六価クロムの除去方法として、例えば、六価クロムを還元剤処理により環境負荷の極めて小さい三価クロムへ還元する方法が挙げられる。しかしながら、還元剤処理には専用の設備が必要である上、その工程は複雑である。また、鉱山廃水等自然に流れ出る廃水に対し、このような還元剤処理を適用することは困難である。さらに、この還元工程において生ずるスラッジの処理も容易ではない。
【0004】
特許文献1には、六価クロムを含有する廃水をpH1〜6に調整した後、酸化還元電位(ORP)が+100〜−100mVの範囲に維持されるように第1鉄塩水溶液を添加するとともに、pHの値を、前述のとおり調整したpHの値に対し±0.5の範囲に維持されるように還元処理する、六価クロムの除去方法が開示されている。しかしながら、引用文献1の方法は、大規模な設備と精度の高いpH制御を要するという問題がある。
【0005】
一方で、六価クロムを還元するための設備を有しない現場においても、廃水から効率良く六価クロムを除去するために、三価クロムへの還元処理を要さず、六価クロムを短時間で回収することができる六価クロム吸着材が提案されている。
【0006】
例えば、特許文献2には、アカマツやアカシアの樹皮、樹葉等の天然物を用いた六価クロム吸着材や、セルロース等の多糖を基材に用い放射線グラフト重合により金属を吸着する官能基を導入した吸着材が報告されている。しかしながら、これらの吸着材は、基材に糖を使用しており、生分解性を有するため、屋外で長期間使用するには耐久性に問題がある。
【0007】
また、特許文献3には、基材に無機材料を用いた六価クロム吸着剤の報告もされているが、基材と吸着基との化学的な結合が無いため、耐久性に問題がある。
【0008】
ところで、六価クロム吸着材の経済性及び耐久性を高める観点からは、経済性及び耐久性を併せ持つポリオレフィン等の汎用樹脂を基材として使用することが望ましい。しかしながら、汎用樹脂を基材とする六価クロム回収用樹脂であって、高い回収率で六価クロムを回収することができる六価クロム回収用樹脂はこれまで提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平6−304578号公報
【特許文献2】特開2011−120973号公報
【特許文献3】特公昭61−52741号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、汎用樹脂を基材とする六価クロム回収用樹脂であって、主として六価クロムを有する廃液中から、高い回収率で六価クロムを回収することができる六価クロム回収用樹脂及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上述した目的を達成するために鋭意検討を重ねた。その結果、ピリジン系誘導体が付加した六価クロム回収用樹脂を用いることで、高い回収率で六価クロムを回収できること、及び、主鎖となる汎用樹脂基材にエポキシ系化合物をグラフト重合させた後、そのグラフト鎖にピリジン系誘導体を付加することで、そのような六価クロム回収用樹脂を製造することができることを見出し、本発明を完成させた。より具体的に、本発明は以下のものを提供する。
【0012】
(1)本発明の第1の発明は、高分子基材に電離性放射線を照射する電離性放射照射工程と、電離性放射線を照射した前記高分子基材にエポキシ系化合物をグラフト重合し、エポキシ基を有するグラフト鎖を形成するグラフト重合工程と、前記エポキシ基に、アミノ基を有するピリジン系誘導体を付加するピリジン系誘導体付加工程とを含む六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0013】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記グラフト重合工程では、エポキシ系化合物、水及び界面活性剤を混合してエマルジョン化して得られた溶液と、前記高分子基材とを混合することによってグラフト重合させる六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0014】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、前記界面活性剤が、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤からなる群より選ばれる少なくとも1種以上である六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0015】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至3の発明において、前記エポキシ系化合物が、グリシジルメタクリレートである六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0016】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4の発明において、前記アミノ基が、第1級アミノ基である六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0017】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5の発明において、前記ピリジン系誘導体が、4−アミノピリジンである六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0018】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6の発明において、前記高分子基材が、ポリオレフィン系高分子基材である六価クロム回収用樹脂の製造方法である。
【0019】
(8)本発明の第8の発明は、高分子基材の主鎖と、エポキシ系化合物モノマー由来のグラフト鎖とを含み、前記グラフト鎖に、ピリジン系誘導体が結合している六価クロム回収用樹脂である。
【0020】
(9)本発明の第9の発明は、第8の発明において、下記一般式で表されるグラフト率が10%以上900%以下である、六価クロム回収用樹脂である。
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100
(但し、Wはグラフト後の樹脂質量、Wはグラフト前の樹脂質量である。)
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、汎用樹脂を基材とする六価クロム回収用樹脂であって、主として六価クロムを有する廃液中から、高い回収率で六価クロムを回収することができる六価クロム回収用樹脂を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明するが、以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。
【0023】
≪1.六価クロム回収用樹脂≫
先ず、本実施の形態に係る六価クロム回収用樹脂について説明する。六価クロム回収用樹脂は、例えば六価クロムを含有する廃液中から六価クロムを高い回収率で回収することができる樹脂である。具体的に、この六価クロム回収用樹脂は、高分子基材の主鎖と、エポキシ系化合物モノマー由来のグラフト鎖とを含む。そして、このグラフト鎖には、ピリジン系誘導体が結合している。
【0024】
[主鎖]
主鎖は、高分子基材を含むものである。このように、主鎖として高分子基材を使用することにより、安価且つ環境負荷の低い六価クロム回収用樹脂とすることができる。
【0025】
[グラフト鎖]
グラフト鎖は、エポキシ系化合物モノマーの重合により形成された高分子鎖であり、上述した主鎖である高分子基材に対して構成されるものである。このように、グラフト鎖をエポキシ系化合物由来の骨格とし、グラフト鎖が有するエポキシ基と、ピリジン系誘導体が有するアミノ基とが結合した構造を有している。
【0026】
このような六価クロム回収用樹脂は、グラフト鎖にピリジン系誘導体が付加されていることにより、高い回収率で六価クロムを回収することができる。
【0027】
≪2.六価クロム回収用樹脂の製造方法≫
本実施の形態に係るクロム回収樹脂の製造方法は、ポリエチレン基材に電離性放射線を照射する電離性放射照射工程(I)と、電離性放射線を照射したポリエチレン基材にエポキシ系化合物をグラフト重合し、エポキシ基を有するグラフト鎖を形成するグラフト重合工程(II)と、エポキシ基に、アミノ基を有するピリジン系誘導体を付加するピリジン系誘導体付加工程(III)とを含む。
【0028】
式(1)は、六価クロム回収用樹脂の製造過程の概要の反応式である。なお、式(1)に示す例においては、高分子基材としてポリエチレン、エポキシ系化合物としてグリシジルメタクリレート、ピリジン系誘導体として4−アミノピリジン、電離性放射線として電子線(EB)を用いる場合を一例として示しているが、これに限定されない。
【0029】
【化1】
・・・ (1)
【0030】
このような製造方法により、高い回収率で六価クロムを回収することができる六価クロム回収用樹脂を製造することができる。
【0031】
[電離性放射線照射工程(I)]
電離性放射線照射工程(I)は、ポリエチレン基材に電離性放射線を照射する工程である。このように、ポリエチレン基材に電離性放射線を照射することで、基材を活性化させ、基材にグラフト重合させるための反応活性点を生成させる。これにより、続くグラフト重合工程(II)において、基材に対してエポキシ基を有するモノマーをグラフト重合させることができる。
【0032】
高分子基材としては、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリビニルアルコール、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレタン、セルロース等を用いることができる。その中でも、安価で入手しやすい点から、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィン系高分子基材を用いることが好ましく、ポリエチレンを用いることがより好ましい。
【0033】
ポリエチレン基材としては、特に限定されるものではなく、後述するグラフト重合率を高くできる点で、低結晶性である低密度ポリエチレンであることが好ましい。ここで、低密度ポリエチレンとは、旧JIS K6748:1995によるものであり、密度0.910g/cm以上、0.930g/cm未満のポリエチレンをいう。また、高分子基材に用いるポリエチレンとしては、ポリエチレンのみからなるものや、回収性能に悪影響を与えない限りにおいて他の成分を含むものを用いることができる。
【0034】
また、ポリエチレン基材の形状は、特に限定されないが、六価クロム回収用樹脂としてのハンドリング性を向上させ、且つ表面積の増大によって六価クロム回収率を高めるために、織布、不織布、組み紐等の繊維状であることが好ましい。
【0035】
照射する電離性放射線の線量としては、特に限定されるものではないが、例えば、1kGy以上とすることが好ましく、5kGy以上とすることがより好ましく、10kGy以上とすることがさらに好ましい。このような線量の電離性放射線を高分子基材に照射することで、グラフト重合の開始点となる活性点を十分に生成させることができる。一方で、高分子基材に照射する電離性放射線の線量の上限値としては、200kGy以下とすることが好ましく、100kGy以下とすることがより好ましく、40kGy以下とすることがさらに好ましい。高分子基材に照射する電離性放射線の線量が100kGyを超えると、高分子基材を構成する分子が切断され、損傷が生じるおそれがある。
【0036】
また、高分子基材に照射する電離性放射線としては、特に限定されるものではなく、例えば、アルファ線、ベータ線、ガンマ線、エックス線、電子線、紫外線等を用いることができる。その中でも、工業的に適用が容易である点で、ガンマ線又は電子線を用いることが好ましく、短時間で処理が可能である点で電子線を用いることが特に好ましい。
【0037】
電離性放射線の照射雰囲気としては、特に限定されないが、酸素を除去した雰囲気下であることが好ましい。酸素を除去した雰囲気下で照射することで、反応活性点を安定化させることができるため、グラフト重合反応を効率的に進行させることができる。
【0038】
[グラフト重合工程(II)]
グラフト重合工程(II)は、電離性放射線を照射したポリエチレン基材にエポキシ系化合物をグラフト重合し、エポキシ基を有するグラフト鎖を形成する工程である。このようにして、後述のピリジン系誘導体付加工程(III)においてピリジン系誘導体を効率的に付加させることできるエポキシ基を有するグラフト鎖を形成する。
【0039】
ここで、「エポキシ系化合物」とは、エポキシ基と重合性反応基とを有する化合物の総称をいう。エポキシ系化合物としては、特に限定されるものではないが、例えば、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等のエポキシ基含有アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステルを用いることが好ましく、立体障害が少ない点から、グリシジルメタクリレートを用いることがより好ましい。
【0040】
グラフト重合反応により形成されるグラフト鎖の割合としては、特に限定されるものではないが、例えば、式(2)によって算出されるグラフト率が10%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、100%以上であることがさらに好ましく、300%以上であることが特に好ましい。形成されるグラフト鎖のグラフト率を10%以上にすることで、得られる六価クロムの回収率を高めることができる。一方で、形成されるグラフト鎖のグラフト率の上限値は、900%以下であることが好ましく、700%以下であることがより好ましく、500%以下であることがさらに好ましい。形成されるグラフト鎖のグラフト率が900%以下であれば、得られる基材の強度を維持できる。
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100 ・・・ (2)
(但し、Wはグラフト後の樹脂質量、Wはグラフト前の樹脂質量である。)
【0041】
グラフト重合反応は、例えば、水系エマルジョン下で行うことが好ましい。水系エマルジョン下で行うことにより、有機溶媒を使用せず、プロセスのコスト低減、環境に対する負荷の低減、及びプロセスの安全性向上を達成することができる。水系エマルジョン下での重合反応としては、例えば、予めエポキシ系化合物と界面活性剤と水とを混合して室温で撹拌することによりエマルジョン溶液を作製し、次いで、そのエマルジョン溶液と電離性放射線を照射された高分子基材とを混合して反応させることにより、行うことができる。エポキシ系化合物の濃度としては、例えば、エマルジョン液中で3質量%以上10質量%以下であることが好ましい。
【0042】
エマルジョン化に用いられる界面活性剤としては、特に限定されないが、非イオン性界面活性剤及びイオン性界面活性剤より選択される少なくとも1種以上を用いることが好ましい。非イオン性界面活性剤としては、例えば、モノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、モノステアリン酸ポリオキシエチレンソルビタン、ソルビタン脂肪酸エステル類(Span80、Span20等)等が挙げられる。また、イオン性界面活性剤としては、例えば、ドデシル硫酸ナトリウム、セチルトリメチルアンモニウムブロミド等が挙げられる。
【0043】
また、エマルジョン溶液としては、特に限定されないが、アルゴンガス又は窒素ガス等の不活性ガスで置換した溶液を用いることが好ましい。
【0044】
[ピリジン系誘導体付加工程(III)]
ピリジン系誘導体付加工程(III)は、上述したグラフト重合工程で得られたグラフト鎖が有するエポキシ基に、アミノ基を有するピリジン系誘導体を付加する工程である。
【0045】
ここで、「ピリジン系誘導体」とは、ピリジン誘導体、ビピリジン誘導体、フェナントロリン誘導体、イミダゾール誘導体等、ヒュッケル則を満たす含窒素環状化合物であり、例えば、炭素数が5〜20である化合物の総称をいう。また、「誘導体」とは、その主骨格(環状骨格)に、アミノ基そのもの又はアミノ基を部分的に含む官能基が結合したものをいい、その他に各種の官能基が置換されていてもよい。
【0046】
ピリジン系誘導体が有するアミノ基としては、特に限定されないが、例えば、第1級アミノ基等、求核性の高い置換基であることが好ましい。ピリジン系誘導体がこのような置換基を有することで、グラフト鎖が有するエポキシ基と効率的に反応が進行する。
【0047】
ピリジン誘導体としては、特に限定されないが、例えば、4−アミノピリジン、2−アミノピリジン、3−アミノピリジン、2−ピコリルアミン、3−ピコリルアミン、4−ピコリルアミン、イソニコチンアミド、4−(2−アミノエチル)ピリジン等が挙げられる。その中でも、エポキシ基との反応性や立体構造の観点から4−アミノピリジンを用いることが好ましい。
【0048】
また、ビピリジン誘導体としては、例えば、4−アミノ−2,2’−ビピリジン等を用いることができる。フェナントロリン誘導体としては、例えば、5−アミノ−1,10’−フェナントロリン等を用いることができる。イミダゾール誘導体としては、例えば、5−アミノベンゾイミダゾールを用いることができる。
【0049】
グラフト鎖にピリジン系誘導体を反応させる方法としては、特に限定されない。例えば、グラフト鎖を有するポリエチレン基材と、アミノ基を有するピリジン系誘導体とを、溶媒中で混合、撹拌することで行うことができる。
【0050】
反応溶媒としては、特に限定されるものではなく、例えば、イソプロピルアルコール、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、N−メチル−2−ピロリドン等を用いることができる。
【実施例】
【0051】
以下、本発明の実施例を示してさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0052】
<試料の調製及び評価>
実施例1、2及び比較例1〜3の六価クロム回収用樹脂をそれぞれ調製するとともに、グラフト率と官能基密度を測定した。
【0053】
[実施例1]
芯部がポリプロピレン、鞘部が低密度ポリエチレンからなる芯鞘構造のポリオレフィン不織布(シンワ株式会社製、スパンボンド不織布6550A−1A、目付量50g/m)を2.08g量り取り、アルミ袋に封入後、このアルミ袋内を脱気して酸素を除去した後、加熱シールして袋口を閉じた。次に、コッククロフト・ワルトン型の電子線照射装置(株式会社NHVコーポレーション製)により120kGy照射し、電子線照射された不織布基材を得た。
【0054】
一方、500mlメディウム瓶に、グリシジルメタクリレート(以下、「GMA」という)(関東化学製)10.1g、界面活性剤としてモノラウリン酸ポリオキシエチレンソルビタン(製品名:Tween−20)1.0g、純水189.0gを加え、室温で1時間撹拌し、5質量%グリシジルメタクリレートエマルジョン溶液を得た。
【0055】
次いで、このエマルジョン溶液を窒素ガス置換し、電子線照射された不織布基材2.08gと混合し、50℃で3時間撹拌した後、純水、エタノールで順に洗浄し、吸引濾過によりポリエチレン基材を回収し、60℃、一晩減圧乾燥させることで、グリシジルメタクリレートによって、グラフト鎖が重合された不織布基材を得た。乾燥後、グラフト鎖が重合された不織布基材の質量を測定し、後述の(2)式によりグラフト率を算出したところ、370%であった。
【0056】
その後、500mlメディウム瓶に、グラフト重合された不織布基材7.0g、イソプロピルアルコール(関東化学製)204g、ピリジン系誘導体として4−アミノピリジン(関東化学製)5gを加え、60℃で4時間撹拌した後、エタノールで洗浄し、60℃で一晩減圧乾燥させ、樹脂試料を得た。後述の手法により、官能基密度を算出したところ、1.36(mmol/g−adsorbent)であった。
【0057】
[実施例2]
不織布基材としてシンワ株式会社製のスパンボンド不織布(6520A−1A)(目付量20g/m)を使用したこと以外は、実施例1と同様にして樹脂試料を得た。
【0058】
グラフト率は800%、官能基密度は1.49(mmol/g−adsorbent)であった。
【0059】
[比較例1]
基材に対して電子線照射を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂試料を得た。
【0060】
電子線未照射によりグラフト重合は進行せず、グラフト率は0%、官能基密度は0(mmol/g−adsorbent)であった。
【0061】
[比較例2]
GMAによりグラフト鎖を形成しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂試料を得た。モノマーが存在しないため、グラフト率は0%、官能基密度は0(mmol/g−adsorbent)であった。
【0062】
[比較例3]
グラフト鎖に4−アミノピリジンを付加しなかったこと以外は、実施例1と同様にして樹脂試料を得た。
【0063】
グラフト重合は進行し、グラフト率は350%であったが、ピリジン系誘導体が付加されていないため、官能基密度は0(mmol/g−adsorbent)であった。
【0064】
<評価方法>
(グラフト率の算出)
ポリエチレン・ポリプロピレン製不織布基材のグラフト率、すなわち、不織布に対するグラフト重合されたGMAの量(質量百分率)は、以下の方法により求めた。
【0065】
グラフト重合後、エポキシ基を有するグラフト鎖が導入された不織布基材を、エタノール等の有機溶媒で超音波洗浄し、未反応のグリシジルメタクリレートを除去した。その後、吸引濾過により回収した不織布を、減圧下60℃で一晩乾燥した。この乾燥後の不織布の質量を、グラフト後の樹脂質量(W)とし、エポキシ基を有するグラフト鎖を導入する前の不織布の乾燥質量を、グラフト前の樹脂質量(W)として、グラフト率を(2)式により算出した。
グラフト率(%)=((W−W)/W)×100 ・・・(2)
(但し、Wはグラフト後の樹脂質量、Wはグラフト前の樹脂質量である。)
【0066】
(官能基密度の算出)
不織布樹脂(主鎖)の単位質量あたりに付加した4−アミノピリジンの物質量を、不織布基材の官能基密度と定義し、以下の方法で求めた。
【0067】
4−アミノピリジンと反応させたグラフト重合後の不織布をエタノールで洗浄し、未反応の4−アミノピリジンを除去したあと、60℃、一晩減圧乾燥させ、4−アミノピリジンが付加された六価クロム回収用樹脂を得た。
【0068】
4−アミノピリジン付加後の樹脂質量及び4−アミノピリジン付加前の樹脂質量から、(3)式に基づき官能基密度(mmol/g−adsorbent)を求めた。
官能基密度=(W−W)/W×1000/M ・・・(3)
(但し、Wは4−アミノピリジン付加前の樹脂質量、Wは4−アミノピリジン付加後の樹脂質量、Mは4−アミノピリジンの分子量である。)
【0069】
<六価クロムの回収率の評価>
100mlビーカーに、実施例1、2及び比較例1〜3の六価クロム回収用樹脂1.0g、pH8.0に調整したCr6+濃度1mg/lの二クロム酸カリウム水溶液を入れ、室温で1時間撹拌した後に、濾過により六価クロム回収用樹脂とCr6+濾液を分離した。ICP−AES分析により、回収されたCr6+濾液中の残存Cr6+濃度を測定し、それに基づきCr6+回収率を算出した。
【0070】
表1に、実施例1、2及び比較例1〜3それぞれのグラフト率(%)、官能基密度(mmol/g−adsorbent)、及びCr6+回収率(%)を示す。
【0071】
【表1】
【0072】
以上のとおり、実施例1及び実施例2において製造された六価クロム回収用樹脂では、90%以上の高いCr6+回収率を示した。
【0073】
一方で、比較例1及び比較例2においては製造された六価クロム回収用樹脂では、Cr6+が全く回収されなかった。また、グラフト鎖にピリジン系誘導体を付加していない、比較例3の六価クロム回収用樹脂でも、Cr6+は全く回収されなかった。