【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人科学技術振興機構 戦略的創造研究推進事業(チーム型研究CREST) 研究課題「海洋生態系の酸性化応答評価のための微量連続炭酸系計測システムの開発」事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【文献】
斉藤秀 他,気象庁における全炭酸濃度・全アルカリ濃度観測,測候時報,2015年 8月31日,第82巻特別号,P.S81−S97
【文献】
石井雅男 他,電量滴定法による海水中の全炭酸濃度の高精度分析および大気中の二酸化炭素と海水中の全炭酸の放射性同位体比の測定,気象研究所技術報告,2000年 3月,第41号,p.1-64
【文献】
SAITO Shu et al.,Precise Spectrophotometric Measurement of Seawater pHt with an Automated Apparatus using a Flow Cell in a Closed Circuit,Technical Reports of the MRI,2008年,No.57,P.1-28,URL,http://mri-jma.go.jp/Publish/Technical/DATA/VOL_57/tec_rep_mri_57.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記標準電圧測定ステップまたは前記試料電圧測定ステップは、前記電圧を所定時間おきに複数回測定するステップである請求項1または請求項2に記載の海水の炭酸系パラメータの精密測定方法。
【発明を実施するための形態】
【0020】
次に、本発明に係る海水の炭酸系パラメータの精密測定方法および該方法に用いる測定装置の各実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、以下に説明する各実施の形態は、特許請求の範囲に係る発明を限定するものではなく、また、各実施の形態の中で説明されている諸要素及びその組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須であるとは限らない。
【0021】
<1.測定装置の構成>
図1は、本発明の実施の形態に係る測定装置の概略図を示す。
【0022】
この実施の形態に係る測定装置1は、海水の炭酸系パラメータを測定する測定装置である。本願では、海水の炭酸系パラメータとは、海水における「pH」、「二酸化炭素分圧」、「全アルカリ度」および「全炭酸濃度」という4種類の計測可能なパラメータを意味する。測定装置1は、海水をフローさせる場となるプレート10と、ポンプモジュール30と、制御部40とを少なくとも備える。ポンプモジュール30は、それと接続されるポンプ駆動装置60によって駆動制御される。
【0023】
(1)プレート
プレート10は、炭酸系パラメータの内の全アルカリ度および全炭酸濃度の各値が特定されている少なくとも2種類の標準海水70,71、酸溶液80、炭酸系パラメータを特定されていない少なくとも1種の試料海水72、各種の標準海水70,71と酸溶液80との標準混合液および各種の試料海水72と酸溶液80との試料混合液をフローさせる流路を備える基板である。この実施の形態では、透明な樹脂製のプレートの内部に液体の流路を形成した基板(より具体的には、miniTAS Flow Plateと称する)をプレート10として用いている。なお、酸溶液80は、酸のみ、酸+水など、酸を少なくとも含む液体であれば良い。この実施の形態では、酸溶液80として塩酸水溶液を用いている。
【0024】
流路は、標準海水70,71、試料海水72、標準海水70,71と酸溶液80とを混合した液(以後、「標準混合液」という。)、および試料海水72と酸溶液80とを混合した液(以後、「試料混合液」という)が流れる主流路25と、酸溶液80が流れる流路であって主流路25の途中に合流する副流路18とを含む。主流路25は、流路13、流路15、流路16、流路17、流路19および流路21を含む。流路13および流路15は、第一電圧センサ14を挟んで連続形成される流路であって、標準海水70,71あるいは試料海水72が流れる流路である。流路16は、その途中の合流点Mに副流路18を合流させて成る流路であって、合流点Mよりも川上側には標準海水70,71あるいは試料海水72が流れ、合流点Mよりも川下側には標準混合液あるいは試料混合液が流れる流路である。流路17は、標準混合液あるいは試料混合液が流れる流路であって、混合器としての機能も有する。流路19および流路21は、第二電圧センサ20を挟んで連続形成される流路であって、標準混合液あるいは試料混合液が流れる流路である。
【0025】
プレート10は、主流路25および副流路18のそれぞれの最も川上側にある出発点に、チューブコネクタとして機能する第一ホール部11および第二ホール部12を備える。第一ホール部11は、プレート10の外部から内部の流路13につながる孔であり、標準海水70,71あるいは試料海水72を主流路25に供給するための入口となる。第二ホール部12は、プレート10の外部から内部の副流路18につながる孔であり、酸溶液80を副流路18に供給するための入口となる。また、プレート10は、主流路25の最も川下側にある帰着点に、チューブコネクタとして機能する第三ホール部22を備える。第三ホール部22は、プレート10の外部から内部の流路21につながる孔であり、標準混合液あるいは試料混合液を外部に排出する出口となる。
【0026】
第一電圧センサ14は、酸溶液80と混合する前の標準海水70,71あるいは試料海水72の各電圧を計測するためのセンサである。第二電圧センサ20は、酸溶液80と混合した後の標準海水70,71(すなわち、標準混合液)あるいは酸溶液80と混合した後の試料海水72(すなわち、試料混合液)の各電圧を計測するためのセンサである。第一電圧センサ14および第二電圧センサ20は、好ましくは、イオン応答電界効果トランジスタ方式の電圧センサ(ISFETセンサ)である。ISFETセンサを用いることにより、プレート10への第一電圧センサ14および第二電圧センサ20の組み込みが容易になり、測定およびフロー系の小型化を図り、もって測定装置1の小型化を実現できる。なお、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20の両方をISFETセンサとするのが最も好ましいが、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20のいずれか一方のセンサのみをISFETセンサとすることもできる。
【0027】
第一電圧センサ14は、ソースライン51およびドレインライン52によって制御部40と接続されている。合流点Mより川上側の主流路25を流れる標準海水70,71あるいは試料海水72の各電圧は、第一電圧センサ14によって検知される。第一電圧センサ14による電圧のセンシング時間間隔は、所望に設定でき、この実施の形態では、1秒間隔に設定されている。第二電圧センサ20は、ソースライン55およびドレインライン56によって制御部40と接続されている。合流点Mより川下側の主流路25を流れる標準混合液あるいは試料混合液の各電圧は、第二電圧センサ20によって検知される。第二電圧センサ20による電圧のセンシング時間間隔も、第一電圧センサ14と同様、所望に設定でき、この実施の形態では、1秒間隔に設定されている。なお、制御部40は、参照ライン53につながる参照電極54と、参照ライン57につながる参照電極58とを備える。参照電極54は流路13に接し、また、参照電極58は流路21に接する。この結果、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20を用いた正確な電圧の測定が可能となる。
【0028】
(2)ポンプモジュール
ポンプモジュール30は、海水供給ポンプ31と、酸溶液供給ポンプ32とを備える。海水供給ポンプ31は、標準海水70,71および試料海水72を主流路(プレート10に形成された流路の一部に相当)25に供給するポンプである。酸溶液供給ポンプ32は、酸溶液80を副流路(プレート10に形成された流路の一部に相当)18に供給するポンプである。海水供給ポンプ31は、標準海水70,71および試料海水72の入口31aと、標準海水70,71および試料海水72の出口31bとを備える。入口31aは、標準海水70、標準海水71あるいは試料海水72を入れた第一容器73から、標準海水70、標準海水71あるいは試料海水72を海水供給ポンプ31に吸引するためのチューブ74と接続される。出口31bは、標準海水70、標準海水71あるいは試料海水72を海水供給ポンプ31からプレート10の第一ホール部11に送るためのチューブ35と接続される。酸溶液供給ポンプ32は、酸溶液80の入口32aと、酸溶液80の出口32bとを備える。入口32aは、酸溶液80を入れた第二容器83から、酸溶液80を酸溶液供給ポンプ32に吸引するためのチューブ84と接続される。出口32bは、酸溶液80を酸溶液供給ポンプ32からプレート10の第二ホール部12に送るためのチューブ36と接続される。
【0029】
海水供給ポンプ31を駆動すると、第一容器73内の標準海水70、標準海水71あるいは試料海水72は、チューブ74を経由して入口31aから海水供給ポンプ31に入り、出口31bからチューブ35を経由して第一ホール部11に入る。また、酸溶液供給ポンプ32を駆動すると、第二容器83内の酸溶液80は、チューブ84を経由して入口32aから酸溶液供給ポンプ32に入り、出口32bからチューブ36を経由して第二ホール部12に入る。海水供給ポンプ31および酸溶液供給ポンプ32は、好ましくは、ピエゾマイクロポンプである。ピエゾマイクロポンプを用いることにより、フロー系の小型化を図り、もって測定装置1の小型化を実現できる。なお、海水供給ポンプ31および酸溶液供給ポンプ32の両方をピエゾマイクロポンプとするのが最も好ましいが、海水供給ポンプ31および酸溶液供給ポンプ32のいずれか一方のポンプのみをピエゾマイクロポンプとすることもできる。ピエゾマイクロポンプとしては、例えば、高砂電気工業株式会社製の「APP−20KG」を用いることができる。
【0030】
(3)制御部
制御部40は、プレート10に備える測定器としての第一電圧センサ14および第二電圧センサ20、ならびにそれら以外の外部からの信号あるいは情報を受け付けて、海水の炭酸系パラメータを特定するための構成部である。制御部40は、中央処理装置(CPU)45と、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20からの信号をそれぞれ受け取る電圧信号受付部41,42と、を少なくとも備える。なお、電圧信号受付部42は、ソースライン55、ドレインライン56および参照ライン57を、それぞれ、
図1中の点P、点Qおよび点Rにて、プレート10側と接続されている。この実施の形態において、制御部40は、上記構成部以外に、好ましくは、A/Dコンバータ43,44、記憶部46およびバッテリ47を備える。制御部40内の各構成部は、バスと称する通信線にて互いに電気的に接続されている。
【0031】
A/Dコンバータ43は、第一電圧センサ14からの電圧のアナログ信号をデジタル信号に変換する構成部である。A/Dコンバータ44は、第二電圧センサ20からの電圧のアナログ信号をデジタル信号に変換する構成部である。記憶部46は、各種の情報、例えば、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20により計測された各電圧の値、炭酸系パラメータの1または2以上を算出するための計算式、海水温、測定場の気温、酸溶液80のpHおよび濃度、標準海水70,71あるいは試料海水72を主流路25に流す流量、酸溶液80を副流路18に流す流量などの値の少なくとも一部若しくは全部が格納された構成部である。記憶部46は、CPU45の制御プログラムも格納している。記憶部46は、好ましくは、各種の情報を読み書き可能に構成される。ただし、記憶部46は、情報の読み書き可能なRAMと、読み出しのみ可能なROMとを含んでも良い。記憶部46としては、例えば、ハードディスク、EEPROMなどを採用できる。バッテリ47は、制御部40、プレート10上の各種計測器(第一電圧センサ14、第二電圧センサ20を含む)に電力を供給するための電源である。
【0032】
CPU45は、標準海水70,71を第一電圧センサ14にて計測した電圧、標準混合液を第二電圧センサ20にて計測した電圧、試料海水72を第一電圧センサ14にて計測した電圧、試料混合液を第二電圧センサ20にて計測した電圧、標準海水70,71の全アルカリ度および全炭酸濃度の各値を利用して、試料海水72の炭酸系パラメータである全炭酸濃度および二酸化炭素分圧の内の少なくとも全炭酸濃度を算出することができる。かかるCPU45の処理については、後ほど詳述する。
【0033】
(4)ポンプ駆動装置
ポンプ駆動装置60は、ポンプドライバ61と、バッテリ62とを備える。ポンプドライバ61は、海水供給ポンプ31および酸溶液供給ポンプ32を駆動制御するドライバ回路である。ポンプドライバ61は、この実施の形態では、好ましくは、ピエゾポンプドライバ回路である。バッテリ62は、ポンプドライバ61、海水供給ポンプ31および酸溶液供給ポンプ32の内の少なくともポンプドライバ61に電力を供給するための電源である。
【0034】
(5)容器
第一容器73は、標準海水70、標準海水71あるいは試料海水72(これらを総称して「海水」ともいう)を別個に入れるための容器である。第一容器73は、その中に入れた上記各海水に接するようにチューブ74を挿入して備える。
【0035】
第二容器83は、酸溶液80を入れるための容器である。第二容器83は、その中に入れた酸溶液80に接するようにチューブ84を挿入して備える。
【0036】
第三容器93は、流路21を経てプレート10の外部にて、廃液(標準混合液あるいは試料混合液)を貯める容器である。第三容器93には、第三ホール部22に接続されたチューブ94が挿入され、流路21からチューブ94を経由して送られてくる廃液を受ける。
【0037】
<2.測定原理>
次に、標準海水70,71の既知の炭酸系パラメータと、標準海水70,71および試料海水72の酸溶液80の混合前後の電圧とに基づき、試料海水72の未知の炭酸系パラメータを特定する方法について説明する。
【0038】
海水中の無機炭酸は、主にCO
2(=H
2CO
3),HCO
3−,CO
32−の形をとり、式(1)に示すような平衡が成り立っている。
CO
2+H
2O⇔HCO
3−+H
+⇔CO
32−+2H
+・・・(1)
このとき、平衡係数K
1,K
2を介して、下記のような関係が成り立つ。
K
1=[HCO
3−][H
+]/[CO
2]・・・(2)
K
2=[CO
32−][H
+]/[HCO
3−]・・・(3)
また、H
2Oの平衡として、下記の関係が成り立っている。
K
W=[H
+][OH
−]・・・(4)
【0039】
海水の炭酸系パラメータを求めるためには、測定可能な全アルカリ度(A
T)、全炭酸濃度(C
T)、pH、二酸化炭素分圧(pCO
2)の内の少なくとも2つを測定する必要がある。A
T、C
TおよびpHは、それぞれ、以下のように定義されている(DOE, 1994)。
A
T=[HCO
3−]+2[CO
32−]+[B(OH)
4−]+[OH
−]−[H
+]+minor components([HPO
42−]+2[PO
43−]+[H
3SiO
4−]+[NH
3]+[HS
−]−[HSO
4−]−[HF]−[H
3PO
4])・・・(5)
C
T=[CO
2]+[HCO
3−]+[CO
32−]・・・(6)
pH=−log
10[H
+]・・・(7)
【0040】
ホウ素(B)については、下記の関係が成り立っている(Millero, 1979)。
K
B=[B(OH)
4−][H
+]/[B(OH)
3]・・・(8)
B
T=[B(OH)
3]+[B(OH)
4−]
=1.212*10
−5S(mol kg
−1)・・・(9)
ここで、Sは、塩分である。
Millero, F.J. (1979) The thermodynamics of the carbonate system in sea water. Ceochimi. Cosmochimi. Acta, Vol. 43, p.1651−1661.
(上記の平衡定数K
1,K
2,K
W,K
Bは、水温・塩分・圧力によって決まっている。)
【0041】
次に、上記の式(1)〜(9)を参照しながら、全アルカリ度と全炭酸濃度とが既知である2種類の標準海水70,71を利用して、炭酸系パラメータが未知の試料海水72の炭酸系パラメータを算出する。
【0042】
(1)全アルカリ度の特定
標準海水70,71(A
T=A
T1, A
T=A
T2)に一定量の塩酸若しくは塩酸水溶液(以後、単に、「塩酸」という。)を加えた際、第二電圧センサ20にて計測した電圧V’が(V’
1, V’
2)であったとする。その際、A
Tと10
(V’/(RTln10/F))との間には直線性がある(ここで、R=8.3145, T=273.15+t(測定温度℃), F=96485)。このため、標準海水70の座標(10
(V’1/(RTln10/F)),A
T1)と標準海水71の座標(10
(V’2/(RTln10/F)),A
T2)との2点から直線式(I)を求め、その直線式(I)に試料海水72の塩酸添加後の電圧(V’x)を代入すると、試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)を求めることができる。
【0043】
(2)全炭酸濃度の特定
次に、試料海水72のpH(計算で求めるpHであるため、「calc.pH」と称する)を求める。
【0044】
まず、A
TとC
Tとが既知の標準海水70,71から、下記の平衡式を解き、標準海水70,71の各pHを計算する。
DOE (1994)より、A
TとC
Tについて、下記の関係が成り立っている。
A
T=[CO
2](K
1/[H
+]+2K
1K
2/[H
+]
2)
+B
TK
B/(K
B+[H
+])+K
W/[H
+]−[H
+]・・・(10)
C
T=[CO
2](1+K
1/[H
+]+K
1K
2/[H
+]
2)・・・(11)
【0045】
上記(10),(11)を整理すると、下記の式(12)が成り立つ。
C
T(K
1/[H
+]+2K
1K
2/[H
+]
2)
=(A
T−B
TK
B/(K
B+[H
+])
−K
W/[H
+]+[H
+])(1+K
1/[H
+]+K
1K
2/[H
+]
2)・・・(12)
【0046】
上記式(12)をさらに展開すると、下記式(13)の五次方程式が得られる。
[H
+]
5+(A
T+K
B+K
1)[H
+]
4+{−K
W(K
B+K
1)+K
1(K
B(A
T−B
T−C
T)+K
BK
1+K
1K
2}[H
+]
3+{−K
W(K
B+K
1)+K
1[K
B(A
T−B
T−C
T)+(A
T−2C
T)K
2]+K
BK
1K
2}[H
+]
2+{−K
WK
1(K
B+K
2)+K
BK
1K
2(A
T−2C
T−B
T)}[H
+]−K
WK
BK
1K
2
=0・・・(13)
【0047】
上記式(13)を解くと、正の解が一つと、負の解4つとが得られるが、正の解が[H
+]となる。上記式(7)に代入することでpHが得られる(DOE (1994), Handbook of Methods for the Analysis of the Various Parameters of the Carbon Dioxide System in Sea Water, v. 2, edites by: Dickson, A. G. and Goyet, C., ORNL/CDIAC−74.)。
【0048】
標準海水70,71について算出されたcalc.pH(calc.pH
1,calc.pH
2)と、標準海水70,71の第一電圧センサ14にて計測された電圧V(V
1,V
2)との間には直線性がある。このため、標準海水70の座標(V
1, calc.pH
1)と標準海水71の座標(V
2, calc.pH
2)との2点から直線式(II)を求め、その直線式(II)に試料海水72の塩酸添加前の電圧(Vx)を代入すると、試料海水72のcalc.pH
xを求めることができる。
【0049】
次に、試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)とcalc.pH
xとから、下記の方法でcalc.C
Txを求める。
【0050】
上記式(10)から、下記の関係が成り立ち、[CO
2]を求めることができる。
[CO
2]
=(A
T−B
TK
B/(K
B+[H
+])−K
W/[H
+]+[H
+])/(K
1/[H
+]
+2K
1K
2/[H
+]
2)・・・(14)
【0051】
一方、上記式(2)、(3)および(6)から、下記式(15)が成り立つ。
[CO
2]=C
T/(1+K
1/[H
+]+K
1K
2/[H
+]
2)・・・(15)
ゆえに、上記式(14)で求めた[CO
2]を下記式(16)に代入することで、試料海水72のC
T(=calc.C
Tx)を計算することができる。また、同時に、二酸化炭素分圧も求まる。
C
T=[CO
2](1+K
1/[H
+]+K
1K
2/[H
+]
2)・・・(16)
なお、試料海水72の全炭酸濃度(calc.C
Tx)を、試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)より先に求めても良い。
【0052】
<3.測定装置のCPUの演算処理>
図2は、
図1の中央処理装置(CPU)の機能に着目したときの構成と、
図1の記憶部に格納される計算式の一例とを示す。
【0053】
CPU45は、情報格納部(情報格納手段ともいう)101と、情報読出部(情報読出手段ともいう)102と、全アルカリ度算出部(全アルカリ度算出手段ともいう)103と、pH算出部(pH算出手段ともいう)104と、全炭酸濃度算出部(全炭酸濃度算出手段ともいう)105と、二酸化炭素分圧算出部(二酸化炭素分圧算出手段ともいう)106として機能する。記憶部46は、上記式(1)〜(16)に加えて、下記式(17)および式(18)を格納することができる。
【0054】
A
T=a*10
(V’/(RTln10/F))+b・・・(17)
calc.pH=c*V+d・・・(18)
【0055】
上記式(17)において、変数aは直線式(I)の傾きを、変数bは直線式(I)の切片を、それぞれ示す。また、上記式(18)において、変数cは直線式(II)の傾きを、変数dは直線式(II)の切片を、それぞれ示す。
【0056】
情報格納部101は、第一電圧センサ14および第二電圧センサ20によって計測された各電圧、その他に外部から入力される情報を記憶部46に格納する処理を行う部分である。情報読出部102は、記憶部46からの各種データ、各種プログラム、各種式等の情報を読み出す処理を行う部分である。
【0057】
全アルカリ度算出部103は、標準海水70,71のそれぞれの全アルカリ度(A
T1, A
T2)とそれぞれの標準混合液の電圧(V’
1, V’
2)を変数の一部とする計算値(10
(V’/(RTln10/F)))との比例関係を利用して、試料混合液の電圧(V’x)から試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)を算出する処理を行う部分である。具体的には、全アルカリ度算出部103は、情報読出部102によって読み出された式(17)に、標準海水70,71のそれぞれの全アルカリ度A
Tx(A
T1, A
T2)とそれぞれの標準混合液の電圧V’(V’
1, V’
2)を代入し、変数aと変数bを求め、直線式(I)を求める。全アルカリ度算出部103は、直線式(I)に、試料混合液の電圧(V’x)を代入して、試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)を算出する。
【0058】
pH算出部104は、標準海水70,71のそれぞれのpH(calc.pH
1, calc.pH
2)とそれぞれの酸溶液80の添加前の電圧V(V
1, V
2)との比例関係を利用して、試料海水72の電圧Vxから試料海水72のpH(=calc.pH
x)を算出する処理を行う部分である。具体的には、pH算出部104は、情報読出部102によって読み出された式(18)に、標準海水70,71のそれぞれのpH(calc.pH
1, calc.pH
2)とそれぞれの酸溶液80の添加前の電圧V(V
1, V
2)を代入し、変数cと変数dを求め、直線式(II)を求める。pH算出部104は、直線式(II)に、試料海水72の電圧Vxを代入して、試料海水72のpH(calc.pH
x)を算出する。pH算出部104は、標準海水70,71のそれぞれのpH(calc.pH
1, calc.pH
2)を算出するため、最低限、式(7)と式(13)とを利用する。なお、pH算出部104は、式(1)〜(18)の内の他の式を利用しても良い。
【0059】
全炭酸濃度算出部105は、全アルカリ度算出部103により算出された試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)と、pH算出部104により算出された試料海水72のpH(=calc.pH
x)とを利用して、試料海水72の炭酸系パラメータの一つである全炭酸濃度(C
Tx)を算出する処理を行う部分である。全炭酸濃度算出部105は、試料海水72の全炭酸濃度(C
Tx)を算出するため、最低限、式(14)および式(16)を利用する。なお、全炭酸濃度算出部105は、式(1)〜(18)の内の他の式を利用しても良い。
【0060】
二酸化炭素分圧算出部106は、試料海水72の全アルカリ度(A
Tx)と、pH算出部104により算出された試料海水72のpH(=calc.pH
x)とを利用して、試料海水72の炭酸系パラメータの一つである二酸化炭素分圧を算出する処理を行う部分である。二酸化炭素分圧算出部106は、試料海水72の二酸化炭素分圧を算出するため、最低限、式(16)を利用する。なお、二酸化炭素分圧算出部106は、式(1)〜(18)の内の他の式を利用しても良い。また、二酸化炭素分圧算出部106を備えず、全炭酸濃度算出部105に二酸化炭素分圧算出部106の機能を発揮させても良い。その場合、全炭酸濃度算出部105は、全炭酸濃度(C
T)および二酸化炭素分圧の両方を算出する処理を行う部分となる。これは、4種の炭酸系パラメータの内のpHと全アルカリ度とが決まると、式(14)と式(16)によって、全炭酸濃度と二酸化炭素分圧との両方を算出できるからである。
【0061】
<4.海水の炭酸系パラメータの精密測定方法>
次に、測定装置1を用いた海水の炭酸系パラメータの精密測定方法について、説明する。
【0062】
図3は、本発明の実施の形態に係る海水の炭酸系パラメータの精密測定方法の一例の処理の流れを示す。
【0063】
この実施の形態に係る海水の炭酸系パラメータの精密測定方法は、標準混合液フローステップと、標準電圧測定ステップと、試料混合液フローステップと、試料電圧測定ステップと、全アルカリ度算出ステップと、pH算出ステップと、全炭酸濃度算出ステップとを含む。
【0064】
(1)標準混合液フローステップ(S201,S203)
このステップは、炭酸系パラメータの内の全アルカリ度および全炭酸濃度の各値が特定されている少なくとも2種類の標準海水70,71を用意し、各種の標準海水70,71を別個に主流路25内にフローさせ、当該主流路25の途中から酸溶液80を合流させ、各種の標準海水70,71と酸溶液80との標準混合液をフローさせるステップである。
【0065】
(2)標準電圧測定ステップ(S202,S204)
このステップは、標準混合液フローステップでのフロー中に、酸溶液80の混合前における各種の標準海水70,71の電圧および酸溶液80の混合後における標準混合液の電圧をそれぞれ測定するステップである。
【0066】
(3)試料混合液フローステップ(S205)
このステップは、炭酸系パラメータを特定されていない少なくとも1種の試料海水72を用意し、試料海水72を主流路25内にフローさせ、主流路25の途中から酸溶液80を合流させ、各種の試料海水72と酸溶液80との試料混合液をフローさせるステップである。
【0067】
(4)試料電圧測定ステップ(S206)
このステップは、試料混合液フローステップのフロー中に、酸溶液80の混合前における試料海水72の電圧および酸溶液80の混合後における試料混合液の電圧をそれぞれ測定するステップである。
【0068】
図3の処理では、ステップS201とステップS202とを最初に行い、続いてステップS203とステップS204とを行い、続いてステップS205とステップS206とを行っている。しかし、ステップS201とステップS202、ステップS203とステップS204、およびステップS205とステップS206の各順番は、変更しても良い。例えば、ステップS203とステップS204を最初に行い、続いてステップS201とステップS202とを行い、続いてステップS205とステップS206を行っても良い。また、ステップS205とステップS206を最初に行い、続いてステップS203とステップS204とを行い、続いてステップS201とステップS202を行っても良い。
【0069】
(5)直線式(I)算出ステップ(S301)
このステップは、全アルカリ度算出部103によって実行されるステップであり、記憶部46から読み出された直線式(I)、すなわち、式(17)を求めるステップである。
【0070】
(6)全アルカリ度算出ステップ(S302)
このステップは、全アルカリ度算出部103によって実行されるステップであり、少なくとも2つの標準海水70,71のそれぞれの全アルカリ度とそれぞれの標準混合液の電圧を変数の一つとする計算値との比例関係を利用して、試料混合液の電圧から試料海水72の全アルカリ度を算出するステップである。この実施の形態では、上記「計算値」の一例を、10
(V’/(RTln10/F))としている。具体的には、全アルカリ度算出ステップは、直線式(I)に、試料混合液の電圧を入力して、試料海水72の全アルカリ度を算出する。
【0071】
図4は、直線式(I)の一例(4A)および直線式(I)に試料混合液の電圧を入力して、試料海水の全アルカリ度を算出する処理を説明するための図(4B)をそれぞれ示す。
【0072】
標準海水70の座標(10
(V1’/(RTln10/F)),A
T1)と標準海水71の座標(10
(V2’/(RTln10/F)),A
T2)とを結ぶ直線式(I)を求め、直線式(I)に、試料混合液の電圧V
x’に基づき計算された10
(Vx’/(RTln10/F))を代入すると、全炭酸濃度A
Txの算出が可能である。
【0073】
(7)直線式(II)算出ステップ(S303)
このステップは、pH算出部104によって実行されるステップであり、記憶部46から読み出された直線式(II)、すなわち、式(18)を求めるステップである。
【0074】
(8)pH算出ステップ(S304)
このステップは、pH算出部104によって実行されるステップであり、標準海水70,71のそれぞれのpHと電圧との比例関係を利用して、試料海水72の電圧から試料海水72のpH(=calc.pH
x)を算出するステップである。具体的には、pH算出ステップは、直線式(II)に、試料海水72の電圧を入力して、試料海水72のpH(=calc.pH
x)を算出する。
【0075】
図5は、直線式(II)の一例(5A)および直線式(II)に試料海水の電圧を入力して、試料海水のpHを算出する処理を説明するための図(5B)をそれぞれ示す。
【0076】
標準海水70の座標(V
1,calc.pH
1)と標準海水71の座標(V
2,calc.pH
2)とを結ぶ直線式(II)を求め、直線式(II)に、試料海水72の電圧V
xを代入すると、試料海水72のcalc.pH
xが算出可能である。
【0077】
(9)全炭酸濃度算出ステップ(S305)
このステップは、全炭酸濃度算出部105によって実行されるステップであり、全アルカリ度算出ステップにより算出された試料海水72の全アルカリ度と、pH算出ステップにより算出された試料海水72のpHとを利用して、試料海水72の炭酸系パラメータである全炭酸濃度および二酸化炭素分圧の内の少なくとも全炭酸濃度を算出するステップである。
【0078】
なお、上記S301〜S305の順番は、
図3の順番に限定されず、いかなる順番に入れ替えても良い。例えば、S303、S304、S305、S301、S302の順番に処理を行っても良い。また、S301、S303、S302、S304、S305の順番に処理を行っても良い。
【0079】
この実施の形態では、標準海水を2種類用意し、全アルカリ度算出ステップを、2種類の標準海水70,71のそれぞれの全アルカリ度(A
T1, A
T2)とそれぞれの計算値(10
(V1’/(RTln10/F)),10
(V2’/(RTln10/F)))とを座標とする直線上において、試料混合液の電圧に対応する試料海水72の全アルカリ度を算出するステップとしている。しかし、標準海水を3種類以上用意し、10
(V’/(RTln10/F))−A
T座標系上の3以上の座標に最も近接する直線を最小二乗法により求め、当該直線を利用して、試料海水72の全アルカリ度を算出しても良い。かかる場合には、式(17)の直線式を記憶部46に格納しておく必要は無く、その代わりに、最小二乗法により各座標に最も近接する直線を求める式を記憶部46に格納するのが好ましい。また、標準海水を3種類以上用意し、V−calc.pH座標系上の3以上の座標に最も近接する直線を最小二乗法により求め、当該直線を利用して、試料海水72のpHを算出しても良い。かかる場合には、式(18)の直線式を記憶部46に格納しておく必要は無く、その代わりに、最小二乗法により各座標に最も近接する直線を求める式若しくはプログラムを記憶部46に格納するのが好ましい。さらに、上記最小二乗法に代えて、多項式近似(曲線近似)を行っても良い。その場合、多項式近似を行うための式若しくはプログラムを記憶部46に格納するのが好ましい。
【0080】
標準電圧測定ステップまたは試料電圧測定ステップは、標準海水70,71または試料海水72の各電圧を、所定時間おきに複数回測定するステップであるが、複数回ではなく1回のみ測定しても良い。
【0081】
従来のバッチ式では一試料当たり最低100mlを必要とするのに対して、本実施の形態の連続フロー式では、試料海水72を1ml/minでフローさせて酸溶液80を加える条件で一試料あたり5mlもあれば測定可能となる。また、測定精度は、従来の滴定と同等の2μmol/kgの精度が得られる。また、本実施の形態に係る測定装置1をブイに搭載して、1カ月間の自動運転も可能である。さらに、測定装置1は、消費電力を40W、重量を5kgとなる小消費電力型でかつ軽量の装置である。
【0082】
<5.海水の炭酸系パラメータの測定例>
次に、2種類の標準海水における既知の炭酸系パラメータと酸溶液添加前後の各電圧の値を利用して、試料海水の酸溶液添加前後の各電圧から、試料海水の炭酸系パラメータを算出した例について説明する。
【0083】
標準海水として、全アルカリ度(A
T)と全炭酸濃度(C
T)とが特定された2種類の海水を用いた。用いた標準海水の情報を表1に示す。また、標準海水に酸溶液を添加する前後に測定した各電圧を表2に示す。
【0086】
炭酸系パラメータの算出対象となる試料海水として、3種類の海水を用いた。表3に、各試料海水に酸溶液を添加する前後に測定した各電圧、表1,2の標準海水の情報を利用して算出された計算上の全アルカリ度(calc.A
T)、計算上の全炭酸濃度(calc.C
T)、計算上のpH(calc.pH)、別法により計測した「別法A
T」、「別法C
T」、別法A
Tと別法C
Tとから算出された「別法pH」、および塩分を示す。ここで、全炭酸濃度を測定するための「別法」とは、海水にリン酸を加えることで海水中に溶け込んでいる炭酸系溶存種をすべて気相の二酸化炭素に変換し、NDIR(LI−820)を用いて二酸化炭素濃度を測定することによりC
Tを求める方法を意味する。また、全アルカリ度を測定するための「別法」とは、全アルカリ度計測器(ATT−05, Kimoto)を使い塩酸の滴定により全アルカリ度を求める方法を意味する。さらに、pHを求める「別法」とは、先に別法により測定された全アルカリ度と全炭酸濃度とからpHを算出する方法を意味する。
【0088】
試料海水1〜3について電圧の測定と計算を行った結果、本法による計算上のアルカリ度、計算上の全炭酸濃度および計算上のpHは、それぞれ、別法のアルカリ度、別法の全炭酸濃度および別法のpHに非常に近い値であることがわかった。よって、本発明の測定の信頼性は非常い高いと考えられる。