【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明の水素発生電極を詳細に説明する。本発明は、以下に説明する水素発生電極の実施形態に限定されるものではない。
なお、以下において数値範囲を示す「〜」とは両側に記載された数値を含む。例えば、εが数値α〜数値βとは、εの範囲は数値αと数値βを含む範囲であり、数学記号で示せばα≦ε≦βである。
【0012】
図1(a)は、本発明の実施形態の水素発生電極の構成を示す模式的断面図であり、(b)は、本発明の実施形態の水素発生電極の混合層を拡大して示す模式図である。
水素発生電極10は、光を受けて電解質水溶液から水素を発生させるものである。水素発生電極10は、絶縁基板12上に形成されるものであり、導電層14と、無機半導体層16と、混合層18とを有する。
【0013】
絶縁基板12は、水素発生電極10を支持するものであり、電気絶縁性を有するもので構成される。絶縁基板12は、特に限定されるものではないが、例えば、ソーダライムガラス基板(以下、SLG基板という)またはセラミックス基板を用いることができる。また、絶縁基板12には、金属基板上に絶縁層が形成されたものを用いることができる。ここで、金属基板としては、Al基板またはSUS基板等の金属基板、またはAlと、例えば、SUS等の他の金属との複合材料からなる複合Al基板等の複合金属基板が利用可能である。なお、複合金属基板も金属基板の一種であり、金属基板および複合金属基板をまとめて、単に金属基板ともいう。さらには、絶縁基板12としては、Al基板等の表面を陽極酸化して形成された絶縁層を有する絶縁膜付金属基板を用いることもできる。絶縁基板12は、フレキシブルなものであっても、そうでなくてもよい。なお、上述のもの以外に、絶縁基板12として、例えば、高歪点ガラスおよび無アルカリガラス等のガラス板、またはポリイミド材を用いることもできる。
【0014】
絶縁基板12の厚みは、特に限定されるものではなく、例えば、20〜20000μm程度あればよく、100〜10000μmが好ましく、1000〜5000μmがより好ましい。なお、p型半導体層20に、CIGS(Cu(In
1−xGa
x)Se
2)化合物半導体を含むものを用いる場合には、絶縁基板12側に、アルカリイオン(例えば、ナトリウム(Na)イオン:Na
+)を供給するものがあると、光電変換効率が向上するので、絶縁基板12の表面12aにアルカリイオンを供給するアルカリ供給層を設けておくことが好ましい。なお、SLG基板の場合には、アルカリ供給層は不要である。
【0015】
導電層14は、絶縁基板12の表面12aに形成され、無機半導体層16に電圧を印加するものである。導電層14は、導電を有していれば、特に限定されるものではないが、例えば、Mo、CrおよびW等の金属、またはこれらを組み合わせたものにより構成される。この導電層14は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。この中で、導電層14は、Moで構成することが好ましい。導電層14の膜厚は、一般的に、その厚みが800nm程度であるが、導電層14は厚みが400nm〜1μmであることが好ましい。
【0016】
無機半導体層16は、起電力を発生するものである。無機半導体層16は、p型半導体層20とn型半導体層22とを有し、p型半導体層20は、n型半導体層22との界面でpn接合を形成する。p型半導体層20が導電層14上に形成されている。
無機半導体層16では、n型半導体層22を透過して到達した光を吸収して、p側に正孔を、n側に電子を生じさせる層である。p型半導体層20は、光電変換機能を有する。p型半導体層20では、pn接合で生じた正孔をp型半導体層20から導電層14側に移動させ、pn接合で生じた電子をn型半導体層22から透明電極層50側に移動させる。p型半導体層20の膜厚は、好ましくは0.5〜3.0μmであり、1.0〜2.0μmが特に好ましい。
【0017】
p型半導体層20は、例えば、カルコパイライト結晶構造を有するCIGS化合物半導体またはCu
2ZnSnS
4等のCZTS化合物半導体で構成されるのが好ましい。CIGS化合物半導体層は、Cu(In,Ga)Se
2(CIGS)のみならず、CuInSe
2(CIS)、CuGaSe
2(CGSe)等で構成してもよい。p型半導体層20は、CGSe化合物半導体で構成してもよい。
なお、CIGS層の形成方法としては、1)多源蒸着法、2)セレン化法、3)スパッタ法、4)ハイブリッドスパッタ法、および5)メカノケミカルプロセス法等が知られている。
その他のCIGS層の形成方法としては、スクリーン印刷法、近接昇華法、MOCVD(Metal Organic Chemical Vapor Deposition)法、およびスプレー法(ウェット成膜法)等が挙げられる。例えば、スクリーン印刷法(ウェット成膜法)またはスプレー法(ウェット成膜法)等で、11族元素、13族元素、および16族元素を含む微粒子膜を基板上に形成し、熱分解処理(この際、16族元素雰囲気での熱分解処理でもよい)を実施する等により、所望の組成の結晶を得ることができる(特開平9−74065号公報、特開平9−74213号公報等)。
【0018】
n型半導体層22は、上述のようにp型半導体層20との界面でpn接合を形成するものである。また、n型半導体層22は、入射した光をp型半導体層20に到達させるため、光が透過するものである。
n型半導体層22は、例えば、CdS、ZnS,Zn(S,O)、および/またはZn(S,O,OH)、SnS,Sn(S,O)、および/またはSn(S,O,OH)、InS,In(S,O)、および/またはIn(S,O,OH)等の、Cd,Zn,Sn,Inからなる群より選ばれる少なくとも1種の金属元素を含む金属硫化物を含むもので形成される。n型半導体層22の膜厚は、10nm〜2μmが好ましく、15〜200nmがより好ましい。n型半導体層22の形成には、例えば、化学浴析出法(以下、CBD法という)により形成される。
【0019】
図1(a)に示す水素発生電極10では、無機半導体層16上、すなわち、後述するn型半導体層22の表面22aに混合層18が形成されている。
混合層18は、
図1(b)に示すように、電子輸送能を有する微粒子24と、水素生成触媒粒子26とを有するものである。混合層18では、微粒子24と水素生成触媒粒子26とが混在しているが、微粒子24が結合して積層されて構成され、この微粒子24の表面に水素生成触媒粒子26が担持されている。なお、水素生成触媒粒子26は、n型半導体層22と混合層18との界面にも、混合層18内部にも、微粒子24の表面にも担持されていることが好ましい。これにより、水素生成触媒粒子26が水との接触する面積を増やすことができ、水素の発生量を増やすことができる。
【0020】
また、コアが微粒子24でシェルが水素生成触媒粒子26のコアシェル粒子を用いて混合層18は形成してもよい。さらに、微粒子24の積層体表面に水素生成触媒が膜状に担持されてもよい。また、
図1(a)に示す水素発生電極10では、微粒子24の表面に水素生成触媒粒子26が担持されているが、水素生成触媒は粒子状のものに限定されるものではなく、片状または膜状の水素生成触媒が微粒子24の表面に担持されてもよい。
混合層18の厚みtは、300nm以下であることが好ましい。300nm以下であれば、単位面積あたりの水素の発生量に相当する光電流密度を確実に高くすることができる。
【0021】
混合層18の微粒子24は、電子輸送能を有するものであり、電解質水溶液に浸漬された場合に変質しないものである。なお、微粒子24は、後述するように、微粒子24間でのキャリアの移動が可能、本件では電子の移動が可能であること、表面積が増加し、水素生成触媒粒子26を担持した場合に水を還元するための反応サイト数が増えること、電子輸送能を持っていることの条件を満たすものであれば、特に限定されるものではない。例えば、微粒子24は、例えば、TiO
2で構成される。微粒子24の大きさは、例えば、5〜10nm程度である。
【0022】
混合層18の水素生成触媒粒子26は、例えば、Pt、Pd、Ni、Au、Ag、Ru、Cu、Co、Rh、Ir、Mn等により構成される単体、およびそれらを組み合わせた合金、ならびにその酸化物、例えば、NiOxおよびRuO
2で形成することができる。また、水素生成触媒粒子26のサイズは、特に限定されるものではないが、水素生成触媒粒子26は微粒子24の表面に付くため、例えば、0.5nm〜5nm程度である。
なお、水素生成触媒粒子26の担持方法は、特に限定されるものではなく、例えば、光電着法、スパッタ法を用いることができる。
【0023】
図1(b)に示す混合層18は、例えば、微粒子24が分散された分散液を、n型半導体層22の表面22aに塗布する。その後、乾燥させる。これにより、微粒子24で構成された層が形成される。そして、例えば、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬し、光電着法により、水素生成触媒粒子26として、Pt粒子(白金粒子)を微粒子24の表面に担持させる。このようにして、混合層18を形成することができる。
また、混合層18は、例えば、微粒子24の表面に予め水素生成触媒粒子26が担持された粒子を用いて形成することができる。また、ゾルゲル法を用いて混合層18を形成することもできる。
【0024】
水素発生電極10では、pn接合を有する無機半導体層16上に上述の混合層18を設けることにより、高電位側において光電流密度を大きくすることができ、これにより、水素生成量を多くすることができる。
本発明では、pn接合を有する無機半導体層16上に設けた混合層18を、例えば、スパッタ法等で形成された緻密な膜構成ではなく、電子輸送能を有する微粒子24同士が結合した積層構造とし、微粒子24の表面に水素生成触媒粒子26を担持することで、表面積が増加する。その結果、微粒子24上に担持した水素生成触媒粒子26と水を含む電解水溶液と接する面積が、上述の緻密な膜構成の場合および電子輸送層がない構造のものと比較して増加したことにより、高電位側において、単位面積あたりの水素の発生量に相当する光電流密度を大きくできたと推測される。
なお、電解水溶液の水分解開始電圧+0.6V>水素生成領域と酸素生成領域間における光起電力>電解水溶液の水分解開始電圧の条件を満たす場合、上述の高電位側において、単位面積あたりの水素の発生量に相当する光電流密度を大きくできる効果がより大きくなる。
【0025】
上述の水素発生電極10は、光により電解水溶液を水素と酸素に分解する人工光合成モジュールに用いることができる。
以下、
図1(a)、(b)に示す水素発生電極10を用いた人工光合成モジュールについて説明する。
図2は、本発明の実施形態の水素発生電極を用いた人工光合成モジュールの構成を示す模式的断面図である。
なお、
図2に示す人工光合成モジュール30において、
図1(a)、(b)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。
【0026】
人工光合成モジュール30は、容器32内に隔壁34により水素用電解室36と酸素用電解室38とが並んで配置されている。容器32内に電解水溶液AQ供給される。電解水溶液AQを容器32内に供給するために配管、ポンプ等が必要であるが、これらの図示は省略している。
容器32は、人工光合成モジュール30の外殻を構成するものであり、電解水溶液AQが漏れることなく内部に保持することができ、かつ外部からの光Lを内部に透過させることができれば、その構成は特に限定されるものではない。
【0027】
ここで、電解水溶液AQとは、例えば、H
2Oを主成分とする液体であり、蒸留水であってもよく、水を溶媒とし溶質を含む水溶液であってもよい。水の場合、例えば、電解質を含む水溶液である電解液であってもよく、冷却塔等で用いられる冷却水であってもよい。電解液の場合、例えば、電解質を含む水溶液であり、例えば、強アルカリ(KOH)、ポリマー電解質(ナフィオン(登録商標))、0.1MのH
2SO
4を含む電解液、0.1M硫酸ナトリウム電解液、0.1Mリン酸カリウム緩衝液等である。
【0028】
隔壁34は、水素用電解室36で生成された水素ガスと、酸素用電解室38で生成された酸素ガスとが混合されないように隔離するためのものである。このため、隔壁34は、上述の隔離機能を有するものであれば、その構成は、特に限定されるものではない。
なお、隔壁34は、水素用電解室36内での水素の生成によって増加した水酸イオン(pHも増加)と酸素用電解室38内での酸素の生成によって増加した水素イオン(pHは減少)とが中和するように、水酸イオンおよび水素イオンを通過させるために、容器32内を、水素用電解室36と酸素用電解室38と分離するためのものであってもよい。この場合、隔壁34は、例えば、イオン透過性、かつガス非透過性を有するもので構成される。具体的には、例えば、イオン交換膜、セラミックフィルタ、多孔質ガラス等により構成される。隔壁34の厚みは、特に限定されるものではなく、10〜1000μmであることが好ましい。
【0029】
人工光合成モジュール30では、平面状の絶縁基板12上に、例えば、2つの光電変換ユニット40と水素ガス生成部42と酸素ガス生成部44とが形成されており、これらは方向Mに電気的に直列に接続されている。
水素用電解室36に光電変換ユニット40と水素ガス生成部42が配置され、酸素用電解室38に光電変換ユニット40と酸素ガス生成部44が配置されている。
【0030】
光電変換ユニット40は、光を受光して電力を発生させ水素ガス生成部42で水素ガスを発生させるための電力および酸素ガス生成部44で酸素ガスを発生させるための電力を供給するためのものである。
光電変換ユニット40は、絶縁基板12側から順に、導電層14、p型半導体層20、n型半導体層22、透明電極層50および保護膜52が積層されて構成されており、太陽電池に用いられる光電変換素子と同様の構成を有する。
光電変換ユニット40では、上述のようにp型半導体層20とn型半導体層22で無機半導体層16が構成され、p型半導体層20とn型半導体層22の界面においてpn接合が形成されている。
【0031】
無機半導体層16は、入射された光Lを吸収して、p側に正孔を、n側に電子を生じさせる層である。p型半導体層20は、光電変換機能を有する。p型半導体層20では、pn接合で生じた正孔をp型半導体層20から導電層14側に移動させ、pn接合で生じた電子をn型半導体層22から透明電極層50側に移動させる。p型半導体層20の膜厚は、好ましくは0.5〜3.0μmであり、1.0〜2.0μmが特に好ましい。
【0032】
2つの光電変換ユニット40が方向Mに直列に接続されているが、水素ガスおよび酸素ガスを発生させることができる起電力を得ることができれば、その数は限定されるものではなく、1つでも、2つ以上であってもよい。複数の光電変換ユニットを直列に接続する方が高い電圧を得ることができるため、複数の光電変換ユニットを直列接続することが好ましい。
光電変換ユニット40間に、n型半導体層22およびp型半導体層20を貫き導電層14の表面に達する開口溝P2が方向Mにおいて分離溝P1の形成位置とは異なる位置に形成されている。開口溝P2に隔壁34が設けられている。
【0033】
人工光合成モジュール30では、光電変換ユニット40に、保護膜52側から光Lが入射されると、この光Lが、保護膜52、各透明電極層50および各n型半導体層22を通過し、各p型半導体層20で起電力が発生し、例えば、透明電極層50から導電層14に向かう電流(正孔の移動)が発生する。このため、人工光合成モジュール30では、水素ガス生成部42が負極(電気分解のカソード)となり、酸素ガス生成部44が正極(電気分解のアノード)になる。
なお、人工光合成モジュール30における生成ガスの種類(極性)は、光電変換ユニットの構成および人工光合成モジュール30構成等に応じて適宜変わるものである。
【0034】
保護膜52は、弱酸性溶液および弱アルカリ性溶液に不溶であり、かつ光透過性、遮水性および絶縁性を兼ね備えるものである。
保護膜52は、透光性を有し、光電変換ユニット40を保護するため、具体的には、水素用電解室36内の水素ガス生成領域以外の部分、酸素用電解室38内の酸素ガス発生領域以外の部分を覆うように設けられるものである。具体的には、保護膜52は、透明電極層50の全面および水素発生電極10の側面を覆うものである。
保護膜52は、例えば、SiO
2、SnO
2、Nb
2O
5、Ta
2O
5、Al
2O
3およびGa
2O
3等により構成される。また、保護膜52の厚みは、特に限定されるものではなく、100〜1000nmであることが好ましい。
【0035】
なお、保護膜52の形成方法は、特に限定されるものではなく、RF(高周波)スパッタ法、DC(直流)リアクティブスパッタ法およびMOCVD法等により形成することができる。
また、保護膜52は、例えば、絶縁性エポキシ樹脂、絶縁性シリコーン樹脂、絶縁性フッ素樹脂等により構成できる。この場合、保護膜52の厚みは、特に限定されるものではなく、2〜1000μmが好ましい。
【0036】
水素ガス生成部42は、基本的に上述の水素発生電極10で構成されており、側面が保護膜52で覆われている。水素ガス生成部42では、n型半導体層22の表面22aに機能層19が形成されており、この機能層19の表面19aに混合層18が形成されている。このようなことから、水素ガス生成部42においては、水素発生電極10の構成について、その詳細な説明は省略する。水素発生電極10は、電解水溶液AQ中に浸漬され、電解水溶液AQと接する。なお、水素発生電極10の側面の保護膜52により、電解水溶液AQとの接触による短絡が防止される。
混合層18で、水分子からイオン化した水素イオン(プロトン)H
+に電子を供給して水素分子、すなわち、水素ガスを発生させる(2H
++2e
− ―>H
2)。水素ガス生成部42では、混合層18が水素ガスの発生領域を構成する。
【0037】
機能層19は、無機半導体層16内部への水分侵入を防ぎ、無機半導体層16内部での気泡形成を抑制するものである。機能層19には、透明性、耐水性、遮水性および導電性が要求される。機能層19により、水素発生電極10の耐久性が向上する。
【0038】
機能層19は、例えば、金属または導電性酸化物(過電圧が0.5V以下)もしくはその複合物であることが好ましい。より具体的には、機能層19は、ITO(Indium Tin Oxide)、Al、B、Ga、およびIn等がドープされたZnO、またはIMO(Moが添加されたIn
2O
3)等の透明導電膜を用いることができる。機能層19は単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、機能層19の厚さは、特に限定されるものではなく、好ましくは、10〜1000nmであり、50〜500nmがより好ましい。
なお、機能層19の形成方法は、特に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタ法およびCVD法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。水素ガス生成部42においても機能層19は必ずしも設ける必要はない。
【0039】
酸素ガス生成部44は、右側の光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60で構成され、この領域60が酸素ガスの発生領域となる。
具体的には、光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60は、水分子からイオン化した水酸イオンOH
−から電子を取り出して酸素分子、すなわち、酸素ガスを発生させる(2OH
− ―>H
2O+O
2/2+2e
−)酸素ガス生成部44であり、表面60aがガス生成領域として機能する。
導電層14の領域60の表面60aには、酸素生成用の助触媒(図示せず)を形成してもよく、この場合、助触媒は、例えば、点在するように島状に形成してもよい。
酸素生成用の助触媒は、例えば、IrO
2、CoO
x等により構成される。また、酸素生成用の助触媒のサイズは、特に限定されるものではなく、0.5nm〜1μmであることが好ましい。なお、酸素生成用の助触媒の形成方法は、特に限定されるものではなく、塗布焼成法、浸漬法、含浸法、スパッタ法および蒸着法等により形成することができる。
【0040】
上述のように、光電変換ユニット40は光電変換素子として機能するものであり、p型半導体層20とn型半導体層22を有する。p型半導体層20およびn型半導体層22は、上述の通りであるため、その詳細な説明は省略する。
なお、p型半導体層20を形成する無機半導体の吸収波長は、光電変換可能な波長域であれば、特に限定されるものではない。吸収波長としては、太陽光等の波長域、特に、可視波長域から赤外波長域を含んでいればよいが、その吸収波長端は800nm以上、すなわち、赤外波長域までを含んでいることが好ましい。その理由は、できるだけ多くの太陽光エネルギーを利用できるからである。一方、吸収波長端が長波長化することは、すなわち、バンドギャップが小さくなることに相当し、これは水分解をアシストするための起電力が低下することが予想でき、その結果、水分解のために、光電変換ユニット40を直列接続する接続数を増すことが予想できるので、吸収端が長ければ長い方がよいというわけでもない。
【0041】
透明電極層50は、透光性を有し、光をp型半導体層20に取り込み、かつ導電層14と対になって、p型半導体層20で生成された正孔および電子を移動させる(電流が流れる)電極として機能すると共に、2つの光電変換ユニット40を直列接続するための透明導電膜として機能するものである。
透明電極層50は、例えばAl、B、Ga、In等がドープされたZnO、またはITOにより構成される。透明電極層50は、単層構造でもよいし、2層構造等の積層構造でもよい。また、透明電極の厚みは、特に限定されるものではなく、0.3〜1μmが好ましい。
なお、透明電極の形成方法は、特に限定されるものではなく、電子ビーム蒸着法、スパッタ法およびCVD法等の気相成膜法または塗布法により形成することができる。
【0042】
次に、人工光合成モジュール30の製造方法について説明する。
なお、人工光合成モジュール30の製造方法は、以下に示す製造方法に限定されるものではない。
まず、例えば、絶縁基板12となるソーダライムガラス基板を用意する。
次に、絶縁基板12の表面に導電層14となる、例えば、Mo膜等をスパッタ法により形成する。
次に、例えば、レーザースクライブ法を用いて、Mo膜の所定位置をスクライブして、絶縁基板12の幅方向に伸びた分離溝P1を形成する。これにより、分離溝P1により互いに分離された導電層14が形成される。
【0043】
次に、導電層14を覆い、かつ分離溝P1を埋めるように、p型半導体層20として、例えば、CIGS膜を形成する。このCIGS膜は、前述のいずれか成膜方法により、形成される。
次に、p型半導体層20上にn型半導体層22となる、例えば、CdS層をCBD法により形成する。
次に、方向Mにおいて、分離溝P1の形成位置とは異なる位置に、絶縁基板12の幅方向に伸び、かつn型半導体層22からp型半導体層20を経て導電層14の表面14aに達する2つの開口溝P2を形成する。この場合、スクライブ方法としては、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いることができる。
【0044】
次に、絶縁基板12の幅方向に伸び、かつn型半導体層22上に、開口溝P2を埋めるように、透明電極層50となる、例えば、Al、B、Ga、Sb等が添加されたZnO:Al層を、スパッタ法または塗布法により形成する。
次に、開口溝P2内のZnO:Al層の一部を残すようにして除去し、導電層14の表面に達する2つの少し幅の狭い開口溝P2を再び形成する。これにより、3つの積層体(図示せず)が形成される。1つは水素発生電極10になり、残りの2つは光電変換ユニット40になる。スクライブ方法としては、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いることができる。
【0045】
次に、積層体の外面および側面と、2つの開口溝P2の底面の導電層14の表面に保護膜52となる、例えば、SiO
2膜をRFスパッタ法で形成する。
次に、2つの積層体の間で、開口溝P2に相当する位置に再度、溝を形成し、この溝に隔壁34を設ける。
次に、光電変換ユニット40のZnO:Al層を、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いて剥離し、露出したn型半導体層22の表面22aに機能層19として、例えば、アモルファスITO層を、パターニングマスクを用いたスパッタ法により形成する。
次に、n型半導体層22の表面22aに、例えば、微粒子24が分散された分散液を、n型半導体層22の表面22aに塗布する。その後、乾燥させる。これにより、微粒子24で構成された層が形成される。そして、微粒子24の形成層以外にマスクをして、例えば、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬し、光電着法により、水素生成触媒粒子26を微粒子24の表面に担持させる。これにより、水素発生電極10が形成されて、水素ガス生成部42が形成される。
【0046】
次に、光電変換ユニット40の導電層14の延長部分の領域60上の堆積物を、レーザースクライブ法またはメカスクライブ法を用いて取り除き、領域60を露出させる。これにより、酸素ガス生成部44が形成される。
絶縁基板12と略同じ大きさの容器32を用意し、この容器32内に、光電変換ユニット40、水素ガス生成部42および酸素ガス生成部44が形成された絶縁基板12を収納する。これにより、隔壁34で水素用電解室36および酸素用電解室38が形成される。このようにして、人工光合成モジュール30を製造することができる。
【0047】
人工光合成モジュール30においても、上述の水素発生電極10と同じく、水素ガス生成部42は、高電位側において単位面積あたりの水素の発生量に相当する光電流密度が大きい。これにより、優れた性能の人工光合成モジュール30を得ることができる。
【0048】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明の水素発生電極について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0049】
以下、本発明の水素発生電極の効果について詳細に説明する。
本実施例においては、本発明の効果を確認するために、以下に示す実施例1〜4および比較例1〜5の水素発生電極を作製した。実施例1〜4および比較例1〜5の水素発生電極の構成のうち、無機半導体層の組成、混合層の厚み、TiO
2層の厚みを下記表1に示す。なお、下記表1において混合層の厚みの欄、TiO
2層の厚みの欄に示す「−」は層がないことを示す。
実施例1〜4および比較例1〜5の水素発生電極について、I−E(電流−電圧)測定を行い、還元電流密度(相対値)を求めた。その結果を下記表1に示す。還元電流密度(相対値)は、水素生成量に比例するパラメータであることが知られている。
なお、I−E測定は、水素発生電極を作用極とし、参照電極としてAg/AgCl、対向電極としてPtワイヤーを用いて、これらを0.5M Na
2SO
4水溶液中に浸し、AM1.5G相当の擬似太陽光を照射して行った。
以下、実施例1〜4および比較例1〜5の水素発生電極について説明する。
【0050】
(実施例1)
実施例1の水素発生電極は、
図1(a)に示す水素発生電極10と同じ構成である。
実施例1の水素発生電極においては、まず、ソーダライムガラス基板上にスパッタ法にてMoを厚さ約500nm成膜し、導電層14としてMo電極を形成した。次に、Mo電極上に、p型半導体層20として、CuGaSe
2(CGSe)薄膜を形成した。このCuGaSe
2(CGSe)薄膜は、蒸着源として高純度銅(純度99.9999%)、高純度Ga(純度99.999%)、高純度Se(純度99.999%)の粒状原材料を用いた。基板温度モニターとして、クロメル−アルメル熱電対を用いた。主真空チャンバーを10
−8Torr(1.3×10
−5Pa)まで真空排気した後、各蒸発源からの蒸着レートを制御して、最高基板温度530℃の製膜条件で、膜厚約1.2μmのCGSe薄膜を製膜した。
続いて、溶液成長法により、厚み90nm程度のCdS薄膜を形成した。このCdS薄膜は、バッファ層として機能するn型半導体層22である。
次に、n型半導体層22の表面22aに、solaronix社製TiO
2ナノ粒子分散液(HT−L/SC)をスピンコートで塗布し、温度120℃で30分乾燥させて、粒径5〜10nmのTiO
2ナノ粒子を厚み150nm積層した。これに対して、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて、水素生成触媒粒子26としてPt助触媒を微粒子24の表面に担持させた。このようにして、厚み150nmの混合層18を形成した。
【0051】
(実施例2)
実施例2の水素発生電極は、実施例1の水素発生電極と同じ構成であり、すなわち、
図1(a)に示す水素発生電極10と同じ構成である。実施例2は、実施例1に比して、p型半導体層20として、CuGaSe
2(CGSe)薄膜に代えて、後述のようにしてCIGS薄膜を形成した点以外は、実施例1の水素発生電極と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
なお、実施例2では、蒸着源として高純度銅(Cu)とインジウム(In)(純度99.9999%)、高純度ガリウム(Ga)(純度99.999%)、高純度セレン(Se)(純度99.999%)の粒状原材料を用いた。基板温度モニターとして、クロメル−アルメル熱電対を用いた。主真空チャンバーを10
−6Torr(1.3×10
−3Pa)まで真空排気した後、各蒸発源からの蒸着レートを制御して、最高基板温度530℃の製膜条件で、膜厚約1.2μmのCIGS薄膜を製膜した。
【0052】
(実施例3)
実施例3の水素発生電極は、実施例1の水素発生電極と同じ構成であり、すなわち、
図1(a)に示す水素発生電極10と同じ構成である。実施例3は、実施例1に比して、厚み300nmの混合層18を形成した点以外は、実施例1の水素発生電極と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
(実施例4)
実施例4の水素発生電極は、実施例1の水素発生電極と同じ構成であり、すなわち、
図1(a)に示す水素発生電極10と同じ構成である。実施例3は、実施例1に比して、厚み50nmの混合層18を形成した点以外は、実施例1の水素発生電極と同じであるため、その詳細な説明は省略する。
【0053】
(比較例1)
比較例1の水素発生電極の構成は、
図3(a)に示す水素発生電極100と同じ構成である。水素発生電極100において、
図1(a)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。比較例1は、混合層18がなく、n型半導体層22の表面22aに水素生成触媒粒子102が形成されている点が異なり、それ以外の構成は
図1(a)に示す水素発生電極10と同じである。
水素生成触媒粒子102は、実施例1と同じく、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて形成されたものである。
【0054】
(比較例2)
比較例2の水素発生電極の構成は、
図3(b)に示す水素発生電極100aと同じ構成である。水素発生電極100aにおいて、
図1(a)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。比較例2は、n型半導体層22の表面22aにTiO
2層104が形成されており、このTiO
2層の表面に水素生成触媒粒子102が形成されている点が異なり、それ以外の構成は
図1(a)に示す水素発生電極10と同じである。
TiO
2層104は、スパッタ法により厚さ5nmに形成されたものである。水素生成触媒粒子102は、実施例1と同じく、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて形成されたものである。
【0055】
(比較例3)
比較例3の水素発生電極の構成は、
図3(b)に示す水素発生電極100aと同じ構成である。水素発生電極100aにおいて、
図1(a)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。比較例2は、n型半導体層22の表面22aにTiO
2層104が形成されており、このTiO
2層の表面に水素生成触媒粒子102が形成されている点が異なり、それ以外の構成は
図1(a)に示す水素発生電極10と同じである。
TiO
2層104は、スパッタ法により厚さ10nmに形成されたものである。水素生成触媒粒子102は、実施例1と同じく、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて形成されたものである。
【0056】
(比較例4)
比較例4の水素発生電極の構成は、
図3(a)に示す水素発生電極100と同じ構成である。水素発生電極100において、
図1(a)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。比較例4は、混合層18がなく、n型半導体層22の表面22aに水素生成触媒粒子102が形成されている点、p型半導体層20として、CuGaSe
2(CGSe)薄膜に代えてCIGS薄膜が形成されている点が異なり、それ以外の構成は
図1(a)に示す水素発生電極10と同じである。
CIGS薄膜は、上述の実施例2のCIGS薄膜と同様に作製した。水素生成触媒粒子102は、実施例1と同じく、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて形成されたものである。
【0057】
(比較例5)
比較例5の水素発生電極の構成は、
図3(b)に示す水素発生電極100aと同じ構成である。水素発生電極100aにおいて、
図1(a)に示す水素発生電極10と同一構成物には同一符号を付して、その詳細な説明は省略する。比較例5は、p型半導体層20として、CuGaSe
2(CGSe)薄膜に代えてCIGS薄膜が形成されている点、n型半導体層22の表面22aにTiO
2層104が形成されており、このTiO
2層の表面に水素生成触媒粒子102が形成されている点が異なり、それ以外の構成は
図1(a)に示す水素発生電極10と同じである。
CIGS薄膜は、上述の実施例2のCIGS薄膜と同様に作製した。TiO
2層104は、スパッタ法により厚さ5nmに形成されたものである。水素生成触媒粒子102は、実施例1と同じく、塩化白金酸を含む水溶液に浸漬させて、光電着法にて形成されたものである。
【0058】
【表1】
【0059】
上記表1に示すように、実施例1〜4は、いずれもp型半導体層の組成によらず、水素発生量に比例する還元電流密度(相対値)が高い。
一方、比較例1〜4は、いずれも還元電流密度(相対値)が低い。なお、比較例2、3、5はTiO
2層を形成しているが、形成方法がスパッタ法であるため、TiO
2層がない比較例1、比較例4に比して還元電流密度(相対値)が高いが、実施例1〜4よりも低い。