【文献】
O'MAHONY, C. et al.,Altered Immunometabolism As a Result of Colonic Inflammation and Westernized Diet in Experimental Mo,Gastroenterology,2015年 4月,Vol. 148, No. 4, Supplement 1,S-335
【文献】
古川健司ほか,ステージIV進行再発大腸がん、乳がんに対する修正MCTケトン食による安全性と有効性の評価(pilot study),日本静脈経腸栄養学会雑誌,2017年 8月25日,Vol. 32, No. 3,pp. 1154-1161
【文献】
ANDERSON, C.M. et al.,A Phase 1 Trial of Ketogenic Diet With Concurrent Chemoradiation (CRT) in Head and Neck Squamous Cell Carcinoma (HNSCC),International Journal of Radiation Oncology *Biology* Physics,2016年 3月15日,Vol. 94, No. 4,p. 898, 168
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0013】
本発明において、ケトン食とは、ケトン比(脂質:(蛋白質+炭水化物))が重量比で2:1〜1:1程度の食事をさす。ケトン食療法とは、こうしたケトン食を所定期間(例えば3ヶ月間)摂取すればよく、他の栄養素については特に制限されない。ケトン食療法中、必要な微量元素やビタミンは、サプリメントなどを使用して適宜摂取することができる。
【0014】
本明細書において使用される「癌」は、例えば、正常な細胞が突然変異を起こして発生する腫瘍を含む。悪性腫瘍は、全身のあらゆる臓器や組織から生じ得る。本明細書における癌患者としては、例えば、肺癌、卵巣癌、膀胱癌、口唇腺様嚢胞癌、腎癌、尿路上皮癌、大腸癌、前立腺癌、多形神経膠芽腫、膵癌、乳癌、メラノーマ、肝癌、胃癌、および食道癌等の癌に罹患した患者が挙げられる。ケトン食を摂取可能であれば、性別および年齢は特に制限されず、任意の癌患者が本発明の対象となる。
【0015】
本発明の選択方法においては、ケトン食を摂取前の癌患者から採取した血清を検体として用いる。検体中の物質のうち、予め決定された摂取前候補物質の少なくとも1種の分析結果を指標として、ケトン食療法が有効な癌患者を選択する。摂取前候補物質は、アシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、尿酸、アラニン、シトルリン、トリプトファン、およびリシンである。
【0016】
検体は、例えば、後述するメタボローム解析により分析することができる。検体中の摂取前候補物質は、例えば高速液体クロマトグラフ(HPLC)を用いたアミノ酸測定等により個別に分析することが好ましい。少なくとも1種の摂取前候補物質の分析結果を指標として、ケトン食療法が有効な癌患者を選択することができる。摂取前候補物質の数が多いほど、ケトン食療法が有効な癌患者を高い精度で選択できる。
【0017】
本発明の予測方法においては、ケトン食を摂取した癌患者から採取した血清を検体として用いる。「ケトン食を摂取した癌患者」とは、ケトン食療法が完遂する前のケトン食療法を実施中の癌患者をさす。検体中の物質のうち、予め決定された摂取後候補物質の少なくとも1種の分析結果を指標として、ケトン食療法の有効性を予測する。摂取後候補物質は、ジエタノールアミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ステアロイルエタノールアミド、スチグマステロール、シスチンおよびチロシンである。
【0018】
検体中の摂取後候補物質は、上述したようにHPLCを用いたアミノ酸測定等により分析して、分析結果を得ることが好ましい。少なくとも1種の摂取後候補物質の分析結果を指標とすることで、ケトン食療法の有効性を予測することができる。摂取後候補物質の数が多いほど、癌患者におけるケトン食療法の有効性を高い精度で予測できる。
【0019】
摂取前候補物質および摂取後候補物質は、被験患者群にケトン食療法を実施した結果に基づいて決定することができる。被験患者とは、上述したような癌に罹患した患者をさす。被験患者は、ケトン食を摂取可能であれば、性別および年齢は特に制限されない。
【0020】
摂取前候補物質は、以下に説明する方法により決定することができる。まず、ケトン食を摂取前の被験患者群に由来する血清をメタボローム解析により分析して、血清中の多数の物質の分析結果を得る。メタボローム解析には、例えば、キャピラリー電気泳動−飛行時間型質量分析計(CE−TOF/MS)、および液体クロマトグラフ−飛行時間型質量分析計(LC−TOF/MS)を用いることができる。
【0021】
各物質について検出されたピークに対し、代謝物質ライブラリーによるアノテーション付けを行って統計解析を実施して、分析結果が得られる。一般的には、メタボローム解析によって血清中の200種程度の物質を分析することができる。それぞれの被験患者に由来する血清中の各物質についての分析結果は、「ケトン食摂取前の分析結果」として記録しておく。
【0022】
被験患者群には、所定のケトン食を摂取させてケトン食療法を実施する。3ヶ月後、臨床評価が可能な被験患者について治療効果を評価する。なお、「臨床評価が可能な被験患者」とは、「少なくともケトン食を3ヶ月摂取した被験患者」を指す。治療効果は、CT画像における腫瘍の大きさに基づいて以下のように判定する。
完全寛解(CR) 腫瘍が完全に消失
進行(PD) 腫瘍の大きさの和が20%以上増加かつ絶対値でも5mm以上増加、あるいは新病変が出現
維持(SD) 腫瘍の大きさに変化なし
【0023】
完全寛解と判定された被験患者を寛解群(以下、CR群とも称する)とし、進行と判定された被験患者と維持と判定された被験患者とを合わせて進行維持群(以下、PD/SD群とも称する)とする。記録されている「ケトン食摂取前の分析結果」を、CR群の結果とPD/SD群の結果とに分ける。
【0024】
CR群の結果とPD/SD群の結果とを物質毎に比較して、ウェルチのt−検定により両者の間の有意差を判定する。有意差の認められた物質を、摂取前候補物質として抽出する。
【0025】
摂取後候補物質は、以下に説明する方法により決定することができる。所定のケトン食を摂取して3ヶ月後の被験患者群のうち、臨床評価が可能な被験患者について、上述と同様に治療効果を評価する。治療効果の評価結果に基づいて、上述したようにCR群とPD/SD群とを被験患者から選択する。
【0026】
CR群およびPD/SD群に由来する血清をメタボローム解析して、血清中の多数の物質の分析結果を得る。血清中の各物質についての分析結果は、「ケトン食摂取後の分析結果」となる。「ケトン食摂取後の分析結果」を、CR群とPD/SD群とで物質毎に比較して、上述と同様に両者の間の有意差を判定する。
【0027】
多数の物質のなかから、CR群とPD/SD群との間に有意差の認められた物質を、摂取後候補物質として抽出する。
【0028】
<作用および効果>
本実施形態の選択方法では、血清中の所定の物質を摂取前候補物質として用いている。ケトン食を摂取前の癌患者に由来する血清について、摂取前候補物質の少なくとも1種の分析結果を指標とすることによって、ケトン食を摂取する前に、ケトン食療法が有効な癌患者を選択することができる。
【0029】
本実施形態の予測方法では、摂取前候補物質とは異なる所定の物質を、摂取後候補物質として用いている。ケトン食を摂取した癌患者に由来する血清について、摂取後候補物質の少なくとも1種の分析結果を指標とすることによって、癌患者におけるケトン食療法の有効性を予測することができる。
【0030】
<実施例>
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0031】
被験患者群の人数は、5名(女性2名、男性3名)とした。患者背景は、女性については、ともに肺癌、1例は56才、159cm、49.8kg、もう1例は53才、151cm、44.3kgであり、男性については、肺癌1例、膀胱癌1例、口唇腺様嚢胞癌1例、60.6±13.0才、174.1±0.23cm、61.5±5.8kg、BMI 20.3±1.9である。
【0032】
ケトン食を摂取する前の被験患者群から採取した血清5検体を、上述したようにCE−TOF/MSおよびLC−TOF/MSを用いたメタボローム解析により分析して、血清中の多数の物質について統計解析を行った。用いた分析計は、CE−TOF/MSについてはAgilient CE-TOFMS system(Agilient Technologies社製、Capillary:Fused silica capillary i.d. 50μm×80cm およびLC−TOF/MSについてはLC system: Agilient 1200 series RPLC system SL(Agilient Technologies社製)、Column: ODS Column 2×50mm, 2μm, MS system: Agilient LC/MSD TOF(Agilient Technologies社製)である。
【0033】
CE−TOF/MSでの分析では、合計173のピーク(うち、カチオンモードで108、アニオンモードで65)が検出された。LC−TOF/MSの分析では、合計169のピーク(うち、ポジティブモードで80、ネガティブモードで89)が検出された。各物質についての分析結果は、それぞれの被験患者について、「ケトン食摂取前の分析結果」として記録しておいた。
【0034】
ケトン食摂取前に分析された物質の中には、アシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、および尿酸等が含まれていた。
【0035】
被験患者群に対しては、以下のようなケトン食療法を行う。本臨床研究は、大阪大学ゲノム審査委員会の承認を得て実施した。
(1)最初の1週間は、カロリーは、実質体重をもとに30kcal/kgとし、脂質制限なし、蛋白質制限なし、炭水化物10g以下を目標とした。具体的には、例えば、実質体重を50kgとすると、1日カロリー1500kcal、脂質140g、蛋白質60g、炭水化物10gとした。
【0036】
ケトン食におけるケトン比(脂質:(蛋白質+炭水化物))は2:1を目標とした。その他の栄養素は制限なく摂取可能とし、必要な微量元素やビタミンは、サプリメントなどを用いて適宜摂取させた。
【0037】
(2)2週目〜3ヶ月の間は、血中ケトン体の値を参考に食事内容を設定した。血中ケトン体は、アセト酢酸、β−ヒドロキシ酪酸の濃度を測定した。炭水化物の1日摂取量は20g以下とし、1日カロリー1400〜1600kcal、脂質120〜140g、蛋白質70g、炭水化物20gとし、ケトン比は2:1〜1:1を目標とした。カロリー補給に際しては、「MCTオイル」(日清オイリオグループ株式会社製)または「ケトンフォーミュラ」(株式会社明治製)を使用した。
【0038】
ケトン食療法の実施に際しては、被験患者群に対し、一時的な低血糖、嘔気、倦怠感などが発現する可能性を説明し、実際の栄養学的な指導は、栄養士の指導の下で行った。
【0039】
ケトン食を摂取して3ヶ月後の被験患者群に由来する血清5検体を、上述と同様にメタボローム解析により分析して、血清中の多数の物質について統計解析を行った。各物質についての分析結果は、それぞれの被験患者について、「ケトン食摂取後の分析結果」として記録しておいた。
【0040】
ケトン食摂取後に分析された物質の中には、ジエタノールアミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ステアロイルエタノールアミド、およびスチグマステロール等が含まれていた。
【0041】
さらに、ケトン食を摂取して3ヶ月後の被験患者群について、ケトン食療法の治療効果を評価した。治療効果は、上述した基準に基づいて、完全寛解(CR)、進行(PD)、および維持(SD)に分類した。
【0042】
寛解群(CR群)および進行維持群(PD/SD群)は、以下のとおりであった。
CR群: 2例(女性2名、ともに肺癌、1例は56才、159cm、49.8kg、もう1例は53才、151cm、44.3kg)
PD/SD群: 3例(男性3名、肺癌1例、膀胱癌1例、口唇腺様嚢胞癌1例、50.6±13.0才、174.1±0.23cm、61.5±5.8kg、BMI 20.3±1.9)
【0043】
記録されている「ケトン食摂取前の分析結果」をCR群(2検体)とPD/SD群(3検体)とに分けて、物質毎にピーク面積の平均値および標準偏差を算出した。さらに、各物質についてピーク面積比(CR/(PD/SD))を求めるとともに、p値により有意差を判定した。有意差判定は、ウェルチのt−検定で実施した。CR群とPD/SD群との間に有意差の認められた物質を、算出結果とともに下記表1にまとめる。
【0044】
「ケトン食摂取後の分析結果」も同様に、CR群(2検体)とPD/SD群(3検体)とに分けて、物質毎にピーク面積の平均値および標準偏差を算出した。さらに、各物質についてピーク面積比(CR/(PD/SD))を求めるとともに、p値により有意差を判定した。CR群とPD/SD群との間に有意差の認められた物質を、算出結果とともに下記表2にまとめる。
【0047】
上記表1および表2には、CR群とPD/SD群とで、血清中の物質の分析結果に違いがあることが示されている。上記表1によれば、CR群とPD/SD群とで、ケトン食摂取前に有意差が認められた物質は、アシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、および尿酸である。
【0048】
ケトン食摂取前の血清中のアシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、および尿酸は、ケトン食療法が有効な患者であるか否かの指標となる。すなわち、これら18種の物質は、摂取前候補物質である。
【0049】
したがって、ケトン食摂取前の癌患者に由来する血清を分析し、アシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、および尿酸の少なくとも1種の分析結果を指標として、ケトン食療法が有効な癌患者を選択することができる。
【0050】
また、上記表2によれば、CR群とPD/SD群とで、3ヶ月間のケトン食摂取後に有意差が認められた物質は、ジエタノールアミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ステアロイルエタノールアミド、およびスチグマステロールである。
【0051】
ケトン食摂取後の血清中のジエタノールアミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ステアロイルエタノールアミド、およびスチグマステロールは、ケトン食療法が有効に作用したか否かの指標となる。すなわち、これら5種の物質は、摂取後候補物質である。
【0052】
したがって、ケトン食を摂取した癌患者に由来する血清を分析し、ジエタノールアミン、ヒスチジン、ヒドロキシプロリン、ステアロイルエタノールアミド、およびスチグマステロールの少なくとも1種の分析結果を指標として、癌患者におけるケトン食療法の有効性を予測することができる。
【0053】
なお、CR群で2例、PD/SD群で1例、ケトン食療法を12か月間実施した被験患者があり、その患者から得られた血清も上記と同様にメタボローム解析を実施し、上記の開始前と3ヶ月のデータと合わせて、主成分分析、および群情報を与えたPLS解析を行った。
図1に、その結果を示す。
【0054】
図1中、黒丸印(CR0-1,CR0-2)がCR群の開始前の検体、黒三角印(CR3-1,CR3-2)がCR群の3か月後の検体、黒菱形印(CR12-1,CR12-2)がCR群の12か月後の検体、白丸印(PD/SD0-1,PD/SD0-2,PD/SD0-3)がPD/SD群の開始前の検体、白三角印(PD/SD3-1,PD/SD3-2)がPD/SD群の3か月後の検体、白菱形印(PD/SD12-1)がPD/SD群の12か月後の検体を示している。
【0055】
CR群とPD/SD群の検体の結果が、PLS1軸方向に乖離していることから、PLS1軸と検体の群との間に相関があることが見出された。PLS1軸に対応する因子負荷量を調べることで、相関の高い物質を抽出することができる。PLS1軸に相関の高い物質は、キナ酸、カフェイン、パラキサンチン、トリゴネリン、テオブロミン、N−アセチルスフィンゴシン、アナンダミドであった。したがって、キナ酸、カフェイン、パラキサンチン、トリゴネリン、テオブロミン、N−アセチルスフィンゴシン、アナンダミドについても、ケトン食療法を評価する何らかのバイオマーカーになる可能性が示唆された。
【0056】
<他の分析法による検証例>
ケトン食摂取前後の癌患者から採取された血清を、HPLCを用いたアミノ酸測定により分析し、得られたピーク面積を用いて統計解析を実施した。
【0057】
癌患者の人数は、13名(女性9名、男性4名)とした。患者背景は、肺腺癌1例、卵巣癌1例、非小細胞肺癌1例、乳癌2例、左口唇腺様嚢胞癌、盲腸癌腹膜幡腫、乳癌直腸癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、直腸S状結腸癌、左副咽頭間隙悪性腫瘍、転移性肺腫瘍が各1例である。
【0058】
ケトン食を摂取する前の癌患者から採取した血清13検体を、HPLCを用いたアミノ酸測定により分析して、血清中の多数の物質について統計解析を行った。用いた分析計は、L−8800形高速アミノ酸分析計(株式会社日立製作所製)である。各物質についての分析結果を、それぞれの癌患者について「ケトン食摂取前の分析結果」として記録した。
【0059】
大阪大学ゲノム審査委員会の承認を得て実施した臨床研究において、同意を取得した症例のうち、ケトン食療法を3か月完遂し、臨床評価が可能であった症例を対象とした。ケトン食療法の内容は、上述したとおりである。
【0060】
ケトン食を摂取して3ヶ月後の癌患者から採取した血清13検体を、上述と同様にHPLCを用いたアミノ酸測定により分析して、血清中の多数の物質について統計解析を行った。各物質についての分析結果は、それぞれの癌患者について「ケトン食摂取後の分析結果」として記録した。
【0061】
ケトン食摂取後、寛解群(CR群)および進行維持群(PD/SD群)は、以下のとおりであった。
CR群: 3例(女性3名、肺腺癌1例、卵巣癌1例、非小細胞肺癌1例、55.0±1.7才、155±4.0cm、46.5±2.9kg)
PD/SD群: 10例(女性6名、男性4名、乳癌2例、左口唇腺様嚢胞癌、盲腸癌腹膜幡腫、乳癌直腸癌、非小細胞肺癌、膀胱癌、直腸S状結腸癌、左副咽頭間隙悪性腫瘍、転移性肺腫瘍が各1例、58.5±15.5才、162.1±7.7cm、54.4±9.5kg)
【0062】
記録されている「ケトン食摂取前の分析結果」をCR群(3検体)とPD/SD群(10検体)とに分けて、物質毎にピーク面積の平均値および標準偏差を算出した。さらに、各物質についてピーク面積比(CR/(PD/SD))を求めるとともに、p値により有意差を判定した。有意差判定は、ウェルチのt−検定で実施した。CR群とPD/SD群との間に有意差の認められた物質を、算出結果とともに下記表3にまとめる。
【0063】
「ケトン食摂取後の分析結果」も同様に、CR群(3検体)とPD/SD群(10検体)とに分けて、物質毎にピーク面積の平均値および標準偏差を算出した。さらに、各物質についてピーク面積比(CR/(PD/SD))を求めるとともに、p値により有意差を判定した。CR群とPD/SD群との間に有意差の認められた物質を、算出結果とともに下記表4にまとめる。
【0066】
上記表3によれば、CR群とPD/SD群とで、ケトン食摂取前にピーク面積値に有意差が認められた物質は、アラニン、シトルリン、トリプトファン、およびリシンである。ケトン食摂取前の血清中のアラニン、シトルリン、トリプトファン、およびリシンは、ケトン食療法が有効な患者であるか否かの指標となる。これら4種の物質は、前述の18種の物質と同様、摂取前候補物質である。
【0067】
ケトン食摂取前の癌患者に由来する血清を分析して、アラニン、シトルリン、トリプトファン、およびリシンの少なくとも1種の分析結果を指標とした場合も、ケトン食療法が有効な癌患者を選択することができる。
【0068】
また、上記表4によれば、CR群とPD/SD群とで、3ヶ月間のケトン食摂取後にピーク面積値に有意差が認められた物質は、シスチン、チロシン、およびヒスチジンである。ケトン食摂取後の血清中のシスチン、チロシン、およびヒスチジンは、ケトン食療法が有効に作用したか否かの指標となる。ヒスチジンについては既に述べたが、残りの2種の物質も同様に摂取後候補物質である。
【0069】
ケトン食を摂取した癌患者に由来する血清を分析して、シスチンおよびチロシンの少なくとも1種の分析結果を指標とした場合も、癌患者におけるケトン食療法の有効性を予測することができる。
ケトン食療法が有効な癌患者の選択方法および癌患者におけるケトン食療法の有効性の予測方法を提供する。ケトン食を摂取前の癌患者に由来する血清について、アシルカルニチン(12:0)、アシルカルニチン(12:1)−2、アシルカルニチン(12:1)−3、アシルカルニチン(14:1)−1、アシルカルニチン(14:2)−1、アシルカルニチン(14:2)−2、アシルカルニチン(14:3)−2、アシルカルニチン(16:1)、アシルカルニチン(16:2)、アナンダミド、ヘプタデセン酸、ヒポタウリン、リノレールエタノールアミド、パルミトレイン酸、パルミトイルカルニチン、フィトスフィンゴシン、キナ酸、尿酸、アラニン、シトルリン、トリプトファン、およびリシンからなる群から選択される少なくとも1種の摂取前候補物質の分析結果を得、前記分析結果を指標とすることを特徴とする。