(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記フィルターの一次側に試料を注入可能な第一空間部と、前記第一空間部とは独立して前記フィルターの二次側に前記構造材を収容する第二空間部と、を形成する筐体が更に備えられたことを特徴とする請求項12に記載の流体デバイス。
前記構造材が前記フィルターの二次側を覆い、前記構造材の周縁部が前記フィルターの二次側の周縁部に固定され、前記構造材の中央部が前記フィルターの二次側の面から前記第二空間部を構成する筐体までの間で可動自在に配置されたことにより、 前記構造材と前記フィルターの二次側の面との間隙に、体積可変の前記濾液収容部が形成された請求項13に記載の流体デバイス。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明者らは前述の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、フィルターの下面(フィルターの二次側の面)に構造材を接触させることによって、フィルター下面に到達した液体成分(分析物)の表面張力によって生じるフィルター外への流出に対する抵抗を低減させること、及び、その流出に対する抵抗の低減を継続させることによって、外部からフィルターへ圧力をかけることなく穏やかに濾過を継続できることを見出し、本発明を完成させるに至った。以下、本発明の実施形態の一例を説明する。
【0011】
《流体デバイス》
図1は、本発明にかかる流体デバイスの実施形態の一例である。本実施形態の流体デバイス1には、一例として、10×8×0.5cmサイズの蓋体を構成する透明樹脂製の上板2と、同じサイズの底体を構成する透明樹脂製の下板3と、メンブレンフィルター及びその下面を覆う構造材を有する分離ユニット4と、が備えられている。例えば、本実施形態における流体デバイス1の本体部は上板2と下板3とで構成される。分離ユニット4を構成するメンブレンフィルターの上面に、固体成分及び液体成分を含む試料Sが注入されている。なお、試料Sは本実施形態の流体デバイスの必須な構成要素ではない。
【0012】
図2に示すように、一例として、上板の下面2aには、深さ0.8mmの矩形の窪み2bが形成されており、四つの角が丸く取られている。窪み2bの外側の周囲にはゴム製のOリングを嵌め込むことが可能な深さ1.3mmの溝2cが設けられている。窪み2b内の対向する二つの角の近くに、空気が流通可能な貫通孔2dがそれぞれ一つずつ開けられている。
【0013】
図3に示すように、一例として、下板の上面3aには、上板に設けられた窪み2bと同形の深さ3.0mmの矩形の窪み3bが形成されており、四つの角が丸く取られている。
窪み3bの外側の周囲にはゴム製のOリングを嵌め込むことが可能な溝3cが設けられている。窪み3b内の一角には、空気が流通可能な貫通孔3dが開けられている。また、溝3cの外側に、溝3cを囲む深さ0.3mmの矩形の段部3eが形成されている。段部3eには分離ユニット4を構成するメンブレンフィルター及び構造材の周縁部が嵌合可能とされている。さらに、窪み3bの一辺から下板の側部に通じるように切り込まれた溝3fが形成されている。この溝3fは、濾液(濾過された液体成分)を流体デバイスの外へ流通させる濾液導出用アウトレットとして機能し得る管(不図示)を接続することができる。
【0014】
図4に示すように、上板の窪み2bと下板の窪み3bの向きを揃えて対向させ、両板の間にメンブレンフィルター及び構造材を有する分離ユニット4を挟み、両基板を押し付けた状態でクリップ等を用いて固定することにより、流体デバイス1を組み立てることができる。分離ユニット4を構成するメンブレンフィルター及びその下面を覆う構造材(不図示)の周縁部は、下板3の段部3eに嵌合し、更に上板2によって挟まれることによって、上板2及び下板3の間に固定される。
【0015】
図5に、流体デバイス1の模式的な断面図を示す。上板2の窪み2bと下板3の窪み3bとが向かい合わされて形成された空間は、両基板の間において、メンブレンフィルター5及び構造材6によって、上板2側の第一の空間部2zと、下板3側の第二の空間部3zとに仕切られている。また、上板及び下板の窪み2b、3bに沿って設けられた溝2cには一例として、直径2mm程度のOリング7が嵌め込まれているため、窪み2b及び窪み3bが向かい合って形成された空間は、貫通孔2d,3d及び溝3fを除いて、液体が漏れ出ない液密構造(気密構造)とされている。
【0016】
下板3の側部に設けられた溝3fにはアウトレットを構成する管8が挿入されている。
管8の第一端部は、分離ユニット4を構成するメンブレンフィルター5と構造材6の間隙に挿入されている。管8の第二端部は流体デバイス1の外部にある。
【0017】
図6に、流体デバイス1の作動メカニズムを簡略に示す。まず、上板2の貫通孔2dから第一空間部2zにシリンジを用いて試料Sを注入する。注入された試料Sはメンブレンフィルター5の上面に広がる(
図6(a))。試料Sはメンブレンフィルター5の内部に浸透し、液体成分がメンブレンフィルター5の下面に到達する。メンブレンフィルター5の下面には、構造材6としての薄い樹脂フィルムが密着又は近接するように予め配置されている。このため、メンブレンフィルター5の下面において、液体成分が構造材6に接触する。この接触により、液体成分は構造材6の表面に引き寄せられて、構造材6とメンブレンフィルター5の下面の間隙を満たす。
【0018】
仮に、構造材6が配置されていない場合には、メンブレンフィルター5の下面に到達した液体成分は、その下面に開口する空孔から滴り落ちることはない、あるいは、滴り落ちるのが遅い。これは、メンブレンフィルター5の下面における液体成分の表面張力が、液体成分にかかる重力と比べて強力であるためである。一方、本実施形態においては、メンブレンフィルター5の下面を覆うように構造材6である薄い樹脂フィルムが配置されており、液体成分が前記下面に到達すると直ぐに構造材6に接触するため、前記下面における液体成分の表面張力が容易に解消される。つまり、前記下面に到達した液体成分は、構造材6に接触している限り、自身の表面張力に妨げられることなく重力に従う。また、構造材上の隙間にたまった液体がその自重の作用により構造材の変形とともに降下する際に、メンブレンフィルター下面に負圧が発生し、メンブレンフィルターの空孔内の液体成分を吸引する効果が発生することにより、更に濾過が促進される。
【0019】
この結果、試料Sはメンブレンフィルター5の毛細管現象及び重力によって自然に濾過され、その濾過速度に合わせて液体成分は構造材6を押し下げる。濾過は自然に継続され、濾過された液体成分によってメンブレンフィルター5の下面と構造材6の間隙によって構成される濾液収容部6zの体積が拡大され、液溜まりWを形成する(
図6(b))。濾液収容部6zの体積と液溜まりWの体積は殆ど同じであり、濾液収容部6に空気が入る余地は殆どない。
【0020】
メンブレンフィルター5の上面の試料Sが無くなるまで、濾過が自然に継続し得る。このため、第一空間部2zに外部から圧力をかけて、第一空間部2zを陽圧にする必要はない。この結果、試料Sに含まれる固体成分を損傷又は崩壊させることなく、液体成分を選択的に濾過して得ることができる。
【0021】
メンブレンフィルター5の下面と同じ水準(高さ)において、濾液収容部6zに挿入された管8の第一端部は液溜まりW内にある。管8を第二端部から軽く吸引して、管内を陰圧にし、第二端部を第一端部よりも低い位置に置くことにより、サイホンの原理が働き、濾液収容部6z内に濾過された液体成分からなる液溜まりWは、管8を通って流体デバイス1の外部へ導出される(
図6(c))。
【0022】
液体成分が導出されて濾液収容部6zの体積が減少するにつれて、構造材6が自然に上昇する。濾液収容部6内の液溜まりWが殆ど全て無くなるまで、サイホンの原理による液体成分の導出は自然に継続される。液体成分を取り出すことにより、構造材6はメンブレンフィルター5の下面に再び密着するため、メンブレンフィルター5の下の空間を限りなくゼロに近づけることができる。このため、液体成分が少量であっても残らず取り出すことが可能である。
以上の作動メカニズムによって、管8の第二端部から、目的の液体成分を高い回収率で得ることができる。
【0023】
<フィルター下面における液体成分の挙動に関する考察>
液体成分は毛細管現象を利用してフィルター内を透過すると考えられる。このフィルターの毛細管を親水性のキャピラリー(細管)でモデル化し、フィルターの下面における液体成分の挙動を考察する。
【0024】
図7(a)は、キャピラリーの上部から開口部に向けて、液体成分が重力に従って降りてきた様子を示している。この状態において、キャピラリー内の液体成分には、親水性のキャピラリー壁に対する親和力、表面張力δ、液体成分の圧力PI、キャピラリー外部の気体圧力Pg、及び重力gがかかっている。この重力は、キャピラリー内の液体成分自身にかかる重力と、キャピラリー上部の液体成分(メンブレンフィルターの上面の試料Sに相当)にかかる重力との和、即ち、キャピラリー先端部よりも上方にある液体成分の自重(重量)である。キャピラリーが親水性であれば、外部から圧力を加えなくても、液体成分の重力とキャピラリー壁面に対する親和力によって、液体成分はキャピラリーの先端の開口部(メンブレンフィルターの下面の開口部に相当)に向かって流れる。
【0025】
キャピラリーの開口部に到達した液体成分は、更に開口部の先端へ引っ張られる。開口部の先端においては、液体に対するキャピラリーの親和力が水平方向(
図7(b)における紙面左右方向)に向かうため、液体成分の重力のみによっては、その表面張力を破れない。この結果、図示するようにキャピラリーの先端から液体成分が垂れ下がった状態で停止する。
【0026】
この停止した状態において、キャピラリーの上部から大きな圧力をかければ、その表面張力を破って液体を流出させることは可能と考えられる。しかし、メンブレンフィルターの下面における挙動を考えた場合、メンブレンフィルターの下面の全体に存在するキャピラリーの全ての先端から同時に流出させることは事実上不可能と考えられる。よって、メンブレンフィルター内の流れが不均一になり、フィルターが有する濾過面積を有効に使用することができなくなり、また、部分的に流速が速くなることによって固体成分の損傷又は崩壊を招きやすくなる問題が発生すると考えられる。
【0027】
次に、キャピラリーの先端から液体成分が垂れ下がった状態(前記停止した状態)において圧力をかける代わりに、キャピラリー開口部に板材を配置した場合(メンブレンフィルターの下面に板材を配置した場合に相当)を考える。
図8に示すように、下向きの液滴の厚みをd
2として、キャピラリー開口部の下にd
2’の距離で平滑な板を近づけた時、d
2≧d
2’であれば、開口部と平滑な板材の間で濡れが進行し、開口部から液体が引き出されて、間隙d
2’は液体成分で満たされる。
【0028】
メンブレンフィルターの下面の全体に存在するキャピラリーの開口部と、その距離d
2’の間隙が液体成分に満たされると、開口部に到達した液体成分が自身の表面張力を破る必要はない。このため、メンブレンフィルターを構成する全キャピラリー内において、液体成分の流出に対する抵抗力は流路抵抗のみとなる。
【0029】
しかしながら、キャピラリー開口部(メンブレンフィルターの下面)と板材の間隙の距離d
2’は、前記距離d
2よりも更に短いため、この間隙に満たされた液体成分を取り出すことは容易ではない。なぜならば、板材の上面とキャピラリー開口部(メンブレンフィルターの下面)の間隙を液体成分が流れるためには、平板間流れにおける流路抵抗を破る必要があるからである。この流路抵抗を破るために、仮にキャピラリーの上部(メンブレンフィルターの上面)を陽圧にしたとしても、実際にはキャピラリー(メンブレンフィルターの毛細管)の孔径d
1が極めて細いため、キャピラリー開口部と板材の間隙にある液体成分を横方向に押し出す程の圧力は伝達されず、上記流路抵抗を破ることは難しい。また、仮にキャピラリー開口部(メンブレンフィルターの下面)と板材の間隙にある液体成分を吸い出してその間隙を陰圧にしたとしても、板材がキャピラリー開口部(メンブレンフィルターの下面)に吸い付いてしまい、平板間の流路(前記間隙)を押し潰すことになる。このため、メンブレンフィルターの下面と板材の間隙を満たした液体を取り出すことは困難である。このように困難である理由は、板材を構成する材料が、メンブレンフィルター下面に到達した微量な液体成分の自重によっては容易に変形しない程度に剛直であるためである。
【0030】
次に、キャピラリーの先端から液体成分が垂れ下がった状態(前記停止した状態)においてキャピラリー開口部に板材を配置する代わりに、そのキャピラリー開口部に柔軟な薄膜材を配置した場合(メンブレンフィルターの下面に柔軟な薄膜材を配置した場合に相当)を考える。
図9に示すように、前記板材を配置した場合と同様に、キャピラリー開口部と柔軟な薄膜材の間で濡れが進行し、開口部から液体が引き出されて、距離d
2’の間隙は液体成分で満たされる。
【0031】
メンブレンフィルターの下面の全体に存在するキャピラリーの先端と、その距離d
2’の間隙が液体成分に満たされると、開口部に到達した液体成分が自身の表面張力を破る必要はない。このため、メンブレンフィルターを構成する全キャピラリー内において、液体成分の流出に対する抵抗力は流路抵抗のみとなる。
【0032】
この間隙に液体成分が満たされるとともに、この液体成分の自重によって柔軟な薄膜材が変形して降下する。この際、溜まった液体成分の重さに対する柔軟な薄膜材の反力はほぼゼロであり、溜まった液体成分に対する重力は、キャピラリー内の液体成分を引き出す力に寄与する。この結果、キャピラリー内の液体成分が継続して引き出されるとともに、引き出されて溜まった液体成分の自重の増加に従って、柔軟な薄膜材は降下し続け、間隙の距離d
2”は許容される限り広がる。この際、メンブレンフィルターの下面に濾過された液体成分と押し下げられる薄膜材の接触は維持される。
【0033】
距離d
2”の間隙に満たされた液体成分は、その流路抵抗が小さいため、容易に取り出すことができる。メンブレンフィルターの下面と薄膜材の間隙を吸引して、その間隙を陰圧にすると、液体成分が取り出されるにつれて、薄膜材が変形しながら上昇し、最終的には元の位置、即ちメンブレンフィルターの下面に接触する位置に戻る。このように、間隙を陰圧にしても、薄膜材が下降することにより流路が拡大されているため、液体成分を吸引するための流路が直ちに押し潰されることはなく、間隙内の液体成分を残さずに効率的に回収することができる。
【0034】
本実施形態の流路デバイス1においては、上記の様に、構造材6としての柔軟な薄膜材を、メンブレンフィルター5の下面を覆うように配置している。
【0035】
<柔軟な薄膜材>
流路デバイス1の構造材6として好適な、柔軟かつ可塑性又は弾性を有する薄膜材を、
図10を参照しながら以下に説明する。
厚み(H)の柔軟な薄膜材の変位量(L)は、(L)∝曲げモーメント(M)/{弾性率(E)×断面2次モーメント(I)}と表せる。変位に必要な力(P)は、(P)∝(E)×(I)であり、(I)∝(H)
3であるため、(P)∝(E)×(H)
3となる。
このように、薄膜材を変形させるために必要な力Pは弾性率(E)と厚み(H)の3乗との積であるため、厚み(H)が特に重要である。つまり、厚み(H)が薄いことが好ましい。また、弾性率(E)が小さいことが好ましい。
【0036】
例えば、食品分野で市販されている樹脂製薄膜材であるラップは、耐水性及び水不透過性を有し、弾性率が低く、厚みが極めて薄いので、変形に必要な力(P)は実質的にゼロといえる。したがって、本実施形態の構造材6として、ラップやフィルム等の樹脂製薄膜材が好適である。
【0037】
このような耐水性及び水不透過性を有する樹脂製薄膜材として、例えば、以下に例示する複数の合成樹脂からなる群から選ばれる何れか1以上の合成樹脂を原材料とする薄膜材が挙げられる。
・低密度ポリエチレン(通称:LDPE、引張弾性率:100〜240MPa、伸び:90〜800%)
・高密度ポリエチレン(通称:HDPE、引張弾性率:400〜1000MPa、伸び:15〜100%)
・ポリプロピレン(引張弾性率:1000〜1400MPa、伸び:200〜700%)
・ポリ塩化ビニリデン(引張弾性率:340〜550MPa、伸び:250%)
・ポリ塩化ビニル(引張弾性率:150〜300MPa、伸び:200〜450%)
・ポリメチルテンペン(引張弾性率:800〜2000MPa、伸び:50〜100%)
・エチレン・酢酸ビニル共重合体(引張弾性率:10〜50MPa、伸び:650〜900%)
・ポリエチレンテレフタレート(引張弾性率:3000〜4000MPa、伸び:70〜130%)
・ポリアミド(引張弾性率:600〜2800MPa、伸び:25〜320%)
・ポリカーボネート(引張弾性率:1100〜2500MPa、伸び:60〜100%)
【0038】
<構造材6の概要>
本実施形態の流体デバイス1に備えられた分離ユニット4は、少なくともフィルター5及び構造材6を有する。
分離ユニット4に適用可能な構造材6は、上記の薄膜材に限られず、フィルター5の下面を覆うように配置することが可能であり、フィルター5から濾過される液体成分との接触を維持したままの状態において降下又は上昇が可能な様に、フィルター5の下面側に可動自在に配置できる構造材であれば制限なく適用可能である。
【0039】
ここで、「可動自在」の用語は、能動的に可動である場合と受動的に可動である場合の両方を意味する。能動的に可動である場合としては、例えば構造材6を制御する別の部材を取り付けて、この部材を押し上げたり押し下げたりすることにより、構造材6の上昇及び降下を制御する場合が例示できる。この場合、構造材6は、柔軟である必要はない。また、受動的に可動である場合としては、前述したように、濾過された液体成分の荷重によって自然に変形して降下し、濾過された液体成分(液溜まり)を吸引することによって自動的に変形して上昇したりする場合が例示できる。
【0040】
また、「可動自在」の用語は、上記の意味に基づいて、「移動自在」または「自由に移動可能」の用語に置換することができる。
【0041】
本実施形態の分離ユニット4における構造材6は、一例として、前記濾過された液体成分の荷重によって降下するように配置されている。また、本実施形態における構造材6は、メンブレンフィルター5から濾過される分析物の荷重によって所定の方向(例、フィルター5の面(例、下面)と交差又は直交する方向、下方や重力方向など)に移動(例、降下)するように配置されている。
【0042】
本実施形態の分離ユニット4においては、構造材6が、フィルター5の下面を覆い、前記下面から液体成分が流出するにつれて前記下面から離れるように変形可能な柔軟性又は可撓性を有する。また、本実施形態の分離ユニット4における構造材6は、例えば、水不透過性を有することが好ましい。なお、本実施形態における構造材6は、メンブレンフィルター5によって濾過される液体成分(例、分析物)を透過させない不透過性を有している。
ここで、「柔軟性又は可撓性」は、前記下面から液体成分が流出することを妨げない程度の柔軟な性質又は撓み等の変形が可能な性質を含む。可撓性を有する構造材6としては、例えば、公知の可撓性フィルム、可撓性シート、可撓性基板、薄膜材等が挙げられる。
【0043】
一例として、構造材6の厚みは、1.0μm〜200μmが好ましく、1μm〜100μmがより好ましく、3μm〜20μmが更に好ましい。例えば、1.0μm以上の厚みであると、十分な構造的強度及び水不透過性が得られ易い。また、例えば、200μm以下であると、十分な柔軟性、可撓性及び/又は弾性が得られ易い。なお、前記厚みはJIS K7130 A法の規格に準拠した方法によって測定できる。
【0044】
一例として、構造材6の引張弾性率は、10MPa〜4000MPaが好ましい。例えば、10MPa以上の引張弾性率であると、十分な構造的強度が得られ易い。また、例えば、4000MPa以下であると、十分な柔軟性、可撓性及び/又は弾性が得られ易い。
なお、前記引張弾性率はASTMD638:95の規格に準拠した方法によって、23℃で測定した縦方向の測定値と横方向の測定の平均値として求めることができる。
なお、本明細書及び請求の範囲における「引張弾性率」は初期引張弾性率を意味する。
【0045】
一例として、構造材6の密着性は、0.5mJ〜5.0mJが好ましく、0.5mJ〜3.0mJがより好ましく、0.7mJ〜2.5mJが更に好ましい。例えば、0.5mJ以上の密着性であると、メンブレンフィルターの下面に対する薄膜材の十分な密着力が得られ易い。また、例えば、2.5mJ以下であると、濾過された液体成分の重量に従ってメンブレンフィルターの下面から薄膜材が離れ、更に薄膜材自身の密着が解除され易い。なお、前記密着性は、公知方法である旭化成法に準拠した方法によって、23℃において25cm
2の薄膜材を使用した際の所定の仕事量として求めることができる。
【0046】
また、構造材6が合成樹脂によって構成される、薄膜材、シート又はフィルムである場合、その表面が凹凸加工されていてもよい。その凹凸加工としては、例えば、皺加工、エンボス加工又はプリーツ加工が好ましい加工として挙げられる。
これらの凹凸加工が施された構造材6を用いると、濾過された液体成分によって自然に降下することが一層容易になる。さらに、濾過された液体成分の液溜まりを吸引して、構造材6を上昇させながら液体成分を導出する際に、構造材6に深い溝(偏った皺)が形成されることを防止し、その深い溝の中に濾過された液体成分がトラップされて回収不能になることを防止することができる。
【0047】
<フィルター5の概要>
本実施形態の流体デバイス1に備えられた分離ユニット4は、少なくともフィルター5及び構造材6を有する。
分離ユニット4に適用可能なフィルター5は、上記のメンブレンフィルターに限られず、前述の構造材6を配置可能な下面と、その下面に対向し、試料の液体成分を展開することが可能な上面を有するフィルターであれば制限なく適用可能である。
【0048】
フィルター5は試料Sに含まれる固体成分を透過させず、液体成分を選択的に透過させる機能を有する。このため、フィルター5は、固体成分の直径よりも小さい孔径を有することが好ましい。この孔径は、固体成分の直径の5〜8割程度の長さであることが好ましい。
【0049】
一例として、試料Sが血液を含む試料又は血液(全血)であり、固体成分が血球を含む成分又は血球であり、液体成分が血漿を含む成分又は血漿である場合、フィルター5の孔径は、1μm〜10μmであることが好ましく、2μm〜7μmであることがより好ましく、3μm〜5μmであることがさらに好ましい。
ここで、血球は赤血球、白血球、好中球及び好酸球からなる群から選ばれる何れか1以上の血球を指す。分離する血球の種類に応じて、上記範囲から適宜、フィルター5の孔径を選択すればよい。
【0050】
フィルター5の孔径は、厚み方向に均一である必要はなく、固体成分を透過させない程度に小さい孔径の空孔(細管)が、少なくともフィルター5の厚み方向の何れかの位置に分布していればよい。例えば、メンブレンフィルター5の上面において前記空孔の開口部が面方向に配置されていてもよいし、メンブレンフィルターの下面において前記空孔の開口部が面方向に配置されていてもよいし、メンブレンフィルター5の上面と下面の間において前記空孔が面方向に配置されていてもよい。
【0051】
フィルター5の下面に配置された空孔は、下面において所定の孔径を有する開口部を有する。この開口部に到達した液体成分の表面張力を破るために、前述したように、構造材6がフィルター5の下面に密着又は近接して配置される。
【0052】
試料Sが血液を含む場合、フィルター5として、一例には、フィルターの空孔の孔径が上面から下面へ向けて徐々に小さくされた、上面側と下面側とで孔径が異なる非対称設計のメンブレンフィルターを使用する。このように空孔の孔径が漸次的に小さくなるように配置されていると、フィルター上面において血球が目詰まりすることを低減し、より多くの血液試料を濾過することができる。あるいは、空孔の孔径の異なる複数のフィルターを組み合わせて用い、上面側に空孔の孔径が大きいフィルターを配置し、下面側に空孔の孔径が小さいフィルターを配置することでも、同様の効果が得られる。
【0053】
一例として、フィルター5の厚みは、100μm〜1000μmが好ましく、200μm〜600μmがより好ましく、300μm〜500μmが更に好ましい。例えば、100μm以上の厚みであると、固体成分の除去を充分に行うことができる。また、例えば、1000μm以下の厚みであると、フィルター厚み方向の流路抵抗が大きくなり過ぎず、液体成分の毛細管現象及び重力による自然な濾過が容易になる。また、フィルター内部に残留する液体成分の量が少なくなるため、処理効率がより向上する。
【0054】
一例として、フィルター5の単位面積当たりの濾過速度は、1μL〜100μL/cm
2・分が好ましく、5μL〜60μL/cm
2・分がより好ましく、10μL〜50μL/cm
2・分が更に好ましい。濾過速度が遅すぎるフィルターを用いると、処理効率が悪くなる。フィルターの濾過速度が速いに越したことはないが、濾過速度が速すぎるフィルターを用いると、実際には血球がフィルターを透過してしまう恐れがある。
【0055】
<分離ユニット4の概要>
本実施形態の分離ユニット4は、少なくともフィルター5及び構造材6を有する。
フィルター5は、液体成分及び固体成分を含む試料から液体成分を選択的に濾過することが可能なフィルターであり、例えば前述した性質を有するフィルターが好適である。
本明細書及び請求の範囲において、「液体成分を選択的に濾過する」とは、液体成分を固体成分よりも優先的に濾過し、且つ、その優先度合が極めて高いことを意味する。
前記試料から液体成分を選択的に濾過するフィルターは、実質的には固体成分を透過させないことが好ましい。
【0056】
フィルター5は、液体成分及び固体成分を含む試料から液体成分を選択的に抽出することが可能なフィルターであってもよい。
【0057】
構造材6は、フィルター5から濾過される液体成分との接触を維持したまま、濾過が促進されるようにフィルター5の下面側に可動自在に配置されていることが好ましく、例えば、前述した性質を有する構造材を用いることにより、濾過を促進することができる。
本明細書及び請求の範囲において、「濾過が促進される」とは、液体成分が重力及びフィルターの毛細管現象の少なくとも一方に従って、自然に濾過される状態を継続させ得ることを含む意味である。また、この継続によって、濾過速度が向上することを含む意味である。
【0058】
分離ユニット4によれば、外部からフィルター5へ圧力をかけることなく穏やかに濾過を継続し、濾過された液体成分をスムーズに回収できるため、試料に含まれる固体成分の損傷又は崩壊を防ぎ、固体成分の一部が液体成分中に混入することを防ぐことができる。
この結果、不要な夾雑物の混入が低減された液体成分を得ることができる。
【0059】
本実施形態の分離ユニットによって濾過される前記液体成分は、より広義には、分析物と言い換えることができる。したがって、フィルター5は、分析物を含む試料から分析物を選択的に濾過するフィルターである。この言い換えは、本明細書を通じて適用され得る。
【0060】
本実施形態の分離ユニットを構成するフィルター5について、便宜的に、上面とその上面に対向する(上面と対をなす)下面とを有するフィルターの場合を例示して説明した。
ただし、「フィルター5の上面」は、フィルター5の一次側の面、フィルター5が前記分析物を含む試料と接触する面、又はフィルター5において前記分析物が浸み込む面と言い換えることができる。また、「フィルター5の下面」は、フィルター5の二次側の面、フィルター5の一次側の面に対向する面、又はフィルター5において前記分析物が表出する(浸み出す)面と言い換えることができる。ここで、上記一次側の面と二次側の面とは互いに略平行であってもよいし、平行でなくても構わない。これらの言い換えは、本明細書を通じて適用され得る。
【0061】
本明細書及び請求の範囲において、「フィルター5の一次側」は、基本的にはフィルター5の一次側の面(表面(ひょう面))を意味するが、当該面の近傍の空間を含む意味であってもよい。同様に、「フィルター5の二次側」は、基本的にはフィルター5の二次側の面(表面(ひょう面))を意味するが、当該面の近傍の空間を含む意味であってもよい。フィルター5の表面を特に指す場合は、フィルター5の一次側の面(フィルター5の上面)又はフィルター5の二次側の面(フィルター5の下面)、というように明記する。
また、フィルター5の一次側、二次側は、それぞれフィルター5の一方面の側、他方面の側と言い換えても構わない。
【0062】
<流体デバイス1の概要>
本実施形態の流体デバイス1は、少なくともフィルター5及び構造材6を有する分離ユニット4を備えている。
流体デバイス1は、フィルター5の上面側に試料Sを注入可能な第一空間部2zを形成し、且つ、第一空間部2zとは独立してフィルター5の下面側に構造材6を収容する第二空間部3zを形成する筐体(即ち、上板2及び下板3)と、前記筐体に設けられ、第一空間部2zに連通する試料導入用のインレット(即ち、上板2の貫通孔2d)と、前記筐体に設けられ、第二空間部3zにおいてフィルター5と構造材6との間隙に連通する
アウトレット(即ち、溝3fに挿し込まれた管8)と、を更に備えている。
【0063】
流体デバイス1において、構造材6がフィルター5の下面を覆い、構造材6の周縁部がフィルター5の下面の周縁部に固定され、構造材6の中央部がフィルター5の下面から第二空間部3zを構成する筐体(即ち、下板3)までの間で可動自在に配置されたことにより、構造材6とフィルター5の下面との間隙に、体積可変の濾液収容部6zが形成されている。また、前記アウトレットを構成する管8が、濾液収容部6zと流体デバイス1の外部とを連通している。
【0064】
流体デバイス1において、濾過された液体成分を流体デバイス1の外へ導出するアウトレットを構成する溝3f及び管8は、フィルター5の下面と同じ水準(高さ)に設けられている。アウトレットの設置箇所は、この位置に限られず、例えば、下板3の窪み3bの一角に設けられた空気抜き用の貫通孔3dをアウトレットとして使用してもよい。この場合、貫通孔3dから管8を第二空間部3zへ挿入し、さらに管8の第一端部を濾液収容部6zに挿入すればよい。
【0065】
サイホンの原理を利用して濾液収容部6zから液体成分を回収する場合、液体成分の粘度にもよるが、管8の内径は0.2〜2mm程度であることが好ましい。内径が小さ過ぎると流路抵抗が大きくなり、内径が大き過ぎると管を吸引することなく濾液が漏れ出し、サイホンの原理を利用できなくなる恐れがある。
【0066】
流体デバイス1を構成する筐体は、第一空間部2zを形成し、フィルター5の上面を覆う凹部(窪み)2bを備えた蓋体(即ち、上板2)と、第二空間部3zを形成し、フィルター5の下面及び構造材6を覆う凹部(窪み)3bを備えた底体(即ち、下板3)と、によって構成されている。蓋体及び底体の形状は必ずしも板状でなくてもよい。
【0067】
流体デバイス1を構成する上板2及び下板3の変形例として、
図11及び
図12の上板12及び下板13が挙げられる。上板12の下面12aに形成された窪み12bは八角形であり、その底面に2つの貫通孔12dが設けられている。また、窪み12bの外周に沿って、Oリングを嵌め込むことが可能な溝12cが形成されている。下板13の上面13aに形成された窪み13bも上板12の窪み12bと同様に八角形であり、その底面に一つの貫通孔13dが設けられている。
【0068】
また、下板13の窪み13bの中央部に、その長手方向に沿って直方体状の支柱13gが設けられている。支柱13gの高さは窪み13bと同じか又は少し低くされている。支柱13gは、メンブレンフィルター5及び構造材6からなる分離ユニット4を下から支えるために配置されている。支柱13gは細身であるため、液体成分によって構造材6が降下する際、構造材6の一部の降下を妨げることはあっても、構造材6の全部の降下を妨げることはない。支柱13gを設けることにより、流体デバイス1の運搬時などの、未使用時における構造材6の不要な降下を防止することができる。
【0069】
下板13の窪み13bの外周に沿って、Oリングを嵌め込むことが可能な溝13cが形成されており、さらに溝13cを囲むように、溝13及び窪み13bよりも浅い段部13eが設けられている。段部13eには分離ユニット4を構成するメンブレンフィルター及び構造材の周縁部が嵌合可能とされている。さらに、窪み13bの一辺から下板の側部に通じるように切り込まれた溝13fが形成されている。この溝13fは、濾液を流体デバイスの外へ流通させる濾液導出用アウトレットとして機能し得る管(不図示)を接続することができる。
【0070】
流体デバイス1を構成する上板2及び下板3並びに変形例の上板12及び下板13は、それぞれメタクリルスチレンからなる透明樹脂材料によって構成されている。上板2及び下板3の構成材料は、観察や操作が容易であり、加工し易いことから、透明樹脂であることが好ましいが、例えば、不透明な樹脂、金属、セラミック等の透明樹脂以外の材料を使用しても構わない。前記透明樹脂及び不透明樹脂を構成する合成樹脂の種類は特に制限されず、公知の合成樹脂を適用できる。
【0071】
流体デバイス1によれば、外部からフィルター5へ圧力をかけることなく穏やかに濾過を継続し、濾過された液体成分をスムーズに回収できるため、試料に含まれる固体成分の損傷又は崩壊を防ぎ、固体成分の一部が液体成分中に混入することを防ぐことができる。
この結果、不要な夾雑物の混入が低減された液体成分を得ることができる。
【0072】
《分離方法》
本発明にかかる分離方法の実施形態の一つは、前述の分離ユニット4又は流体デバイス1を使用して、液体成分及び固体成分を含む試料から固体成分を分離し、液体成分を得る方法である。以下、分離ユニット4を備えた流体デバイス1を使用した分離方法の一例を、
図6を参照して説明する。
【0073】
液体成分及び固体成分を含む試料Sをフィルター5の上面に供給し、試料Sのうち少なくとも液体成分を毛細管現象によりフィルター5内部に浸み込ませ、フィルター5の下面に到達した液体成分を、フィルター5の下面に密着又は近接させた構造材6に接触させることにより前記毛細管現象を継続させる(
図6(a))。
【0074】
これにより、フィルター5の上面から供給される試料Sをフィルター5で徐々に濾過するにつれて、フィルター5の下面から流出する液体成分(濾過された成分)が構造材6を押し下げ、フィルター5と構造材6との間隙(濾液収容部6z)の体積を拡大するとともに、押し下げられた構造材6が、濾過された液体成分を介して更に毛細管現象を継続させる(
図6(b))。
【0075】
上記の様に濾過を進行させるためには、濾過された液体成分の表面張力による張り出し部分がフィルター5の下面の極近傍(表面)において構造材6と接触することが重要である。このため、試料Sを供給する前に、フィルター5と構造材6との間の濾液収容部6zの空気を抜く予め抜いておき、フィルター5の下面に構造材6を密着又は近接させておくことが好ましい。
【0076】
濾過が進行すると、フィルター5の下の濾液収容部6zに液溜まりWが形成される。気泡がフィルター5の下面に入ると、フィルター5の上面から下面に到達した液体成分が自身の表面張力を破れず、濾過の流れが止まってしまう恐れがある。よって、濾過を継続して進行させるためには、液溜まりWは常にフィルター5の下面及び構造材6に接触していることが重要である。通常、濾過の前に予め濾液収容部6zの空気を抜いておき、構造材6をフィルター5の下面に密着させておけば、濾過処理中に空気が入ることは殆どない。
【0077】
濾過前のフィルター5の内部に含まれる空気を除くために、例えば、予めフィルター5に液体を含ませておき、フィルター5を液体で湿潤状態にしておく。さらには、一例として、フィルター5を液体に浸漬しておき、フィルター5内部を液体で満たしておく。フィルター5に含ませる液体は、濾過される液体成分に悪影響を与える性質を有さなければ特に制限されない。例えば、試料Sが血液を含む場合、固体成分である血球を溶血させないことを考慮して、生理的塩類溶液の使用が挙げられる。
【0078】
濾液収容部6zに溜まった液溜まりWは、適当なタイミングで管8から流体デバイス1の外部へ回収することができる。管8を外部から吸引することにより、濾液収容部6zを減圧すれば、サイホンの原理によって容易に濾過された液体成分を外部へ導出することができる。また、液溜まりWの体積が減少するにつれて、構造材6が徐々に上昇し、最終的には元の位置に戻り、フィルター5の下面に密着する。この際、管8の第一端部をフィルター5の下面と同じ水準(高さ)に設置しておくと、構造材6がフィルター5の下面に戻って密着するまで、濾過された液体成分を濾液収容部6zから残さずに管8を介して外部へ導出することができる。
【0079】
上記の濾過において、フィルター5の下面と構造材6との離間距離が広がる速度と、フィルター5の単位面積当たりの濾過速度とは、通常、正の相関を有する。また、一例として、フィルター5の下面から構造材6の中央部が離れる速度を10μm/分〜1000μm/分となるように調整することが好ましく、50μm/分〜500μm/分がより好ましく、100μm/分〜300μm/分がさらに好ましい。上記速度が遅すぎると濾過処理の効率が悪くなる。上記速度が速すぎると、濾液収容部6zに外部から空気を引き込む恐れが出てくる。
【0080】
また、フィルター5の下面と構造材6との離間距離が広がる速度が、フィルター5の単位面積当たりの濾過速度以下であることが好ましい。
例えば、前記離間距離が広がる速度が100μm/分〜300μm/分である場合、前記濾過速度が100μL/(mm
2・分)〜300μL/(mm
2・分)であることが好ましい。
【0081】
上記速度を調整する方法は特に制限されず、例えば、フィルター5の上面に注入する試料Sを多くすれば、上記速度を速めることができるし、その逆もまた然りである。また、構造材6の中央部にタブを取り付けて、そのタブを機械的に下方へ引くことによって上記速度を速めても構わない。
【0082】
以上で説明した分離方法を、分離ユニット4を備えた流体デバイス1に適用することにより、血液を含む試料Sから固体成分である血球を分離して、液体成分である血漿を得ることができる。この分離方法によれば、濾過するために外部からフィルター5の上面及び/又は下面に強い圧力をかける必要がなく、フィルター5の毛細管現象と液体成分の重力を利用して自然に濾過するので、溶血させることなく血漿を得ることができる。
本実施形態に係る分離ユニット4によれば、一例として、免疫したウサギやヒツジから採取した血液からポリクローナル抗体を含む血漿を得ることができる。
【0083】
《キット》
前述したように分離ユニット4を構成するフィルター5には、例えば、予め液体を含ませておく。したがって、分離ユニット4と、分離ユニット4が備えるフィルター5に含まれる液体と、を有するキットを準備してもよい。
【0084】
《複合型流体デバイス》
図13は、本発明にかかる複合型流体デバイス51の実施形態の一例を示す模式図である。複合型流体デバイス51は、分離ユニット4又は分離ユニット4を備えた流体デバイス1を使用して、血液を含む試料から血球を分離して得られた血漿中のエキソソームが内包する生体分子を検出する複合型流体デバイスであって、分離ユニット4又は流体デバイス1を備えた前処理部71と、疎水性鎖と親水性鎖を有する化合物で修飾された層を有するエキソソーム精製部52と、生体分子精製部53と、生体分子検出部54と、前処理部71とエキソソーム精製部52を繋ぐ第一の流路72と、エキソソーム精製部52と生体分子精製部53を繋ぐ第二の流路55と、生体分子精製部53と生体分子検出部54を繋ぐ第三の流路56と、を備えている。
【0085】
本実施形態の複合型流体デバイス51は、前処理部71において血液を含む試料から血球を除去した血漿を含むサンプルを得て、第一の流路72を通じてエキソソーム精製部52に供給される前記サンプル中のエキソソームが内包する生体分子を検出するデバイスである。
【0086】
本実施形態において、第二の流路55は、エキソソームの破砕液をエキソソーム精製部52から生体分子精製部53に送液する流路であり、第三の流路56は、精製された生体分子を含む溶液を生体分子検出部54に送液する流路である。
【0087】
エキソソームは、細胞の分泌物であり、分泌元の細胞由来の生体分子、例えばタンパク質、核酸、miRNAなどを内包している。生体内に存在するがん細胞等の異常細胞は、その細胞膜の内部に特有のタンパク質や核酸、miRNAなどを発現している。
そのため、エキソソームに内包される生体分子を分析することで分泌元の細胞の異常を検出することができる。エキソソームに内包される生体分子を取り出す(抽出する)手段として、一例にはエキソソームの脂質二重膜の破砕などが挙げられる。
更に、エキソソームは、生体内で循環している血液、尿、唾液などの体液中で検出されるため、エキソソームを分析することで、バイオプシー検査をしなくとも、生体内の異常を検出することができる。
【0088】
分析に用いるサンプルによる二次感染を防止する観点から、本実施形態の複合型流体デバイス51は、一例として
図14に示すように更に廃液槽57、58、59を備えている。なお、
図14においては三つの廃液槽を示しているが一つ又は二つの廃液槽に集約しても構わない。
【0089】
本実施形態の複合型流体デバイス51における各構成の一例について、
図15を用いて説明する。
エキソソーム精製部52は、前処理部71から供給されるサンプルに含まれるエキソソームの固定と、エキソソームの破砕を行う部分であり、インレットと、疎水性鎖と親水性鎖を有する化合物で修飾された層を有するエキソソーム固定部52dを備える。
図15に示すように、エキソソーム精製部52は、導入する試薬別にインレットを備えることが好ましい。即ち、エキソソーム精製部52は、サンプル導入用インレット52bと破砕液導入用インレット52cを備えることが好ましく、更に洗浄液導入用インレット52aを備えることがより好ましい。
【0090】
サンプル導入用インレット52bには、前処理部71から血漿を含むサンプルが導出される第一の流路72(アウトレット)が接続されている。
【0091】
本実施形態の複合型流体デバイス51において、前処理部71以外の各部の液体の駆動は、外部吸引ポンプによってなされ、液体の流れはバルブの開閉によって制御される。
【0092】
図15に示すように、エキソソームの分析において、まず上述したエキソソーム精製部において、前処理部71からサンプル導入用インレット52bに血漿を含むサンプルを注入し、流路52iのバルブ52fを開き、吸引によりサンプルをエキソソーム固定部52dに導入する。
【0093】
エキソソーム固定部52dに導入されたサンプル中のエキソソームは、上述した疎水性鎖と親水性鎖を有する化合物によって捕捉される。
【0094】
血液を構成する血漿中には、エキソソーム以外にもマイクロベシクルやアポトーシス小体等の細胞外小胞が含まれており、これら細胞外小胞もエキソソーム固定部52dに固定される可能性がある。エキソソーム固定部52dからこれらの細胞外小胞を除去する観点から、エキソソーム固定部52d上のエキソソームを洗浄することが好ましい。
【0095】
次いで、エキソソーム固定部52dに固定されたエキソソームを破砕する。
図15に示すように、流路52j上のバルブ52gを開き、破砕液導入用インレット52cに破砕液を注入し、吸引により破砕液をエキソソーム固定部52dへ導入する。破砕液としては、例えば細胞溶解に用いられる従来公知のものが挙げられる。
【0096】
破砕液がエキソソーム固定部52dを通ることにより、エキソソーム固定部52d上に捕捉されたエキソソームが破砕され、エキソソームに内包される生体分子が放出される。
エキソソームから放出された生体分子は、バルブ55aを介して第二の流路55を通り生体分子精製部53へ送られる。
【0097】
図15に示すように、生体分子精製部53は、生体分子回収液導入用インレット53bと、生体分子固定部53cとを備えることが好ましく、更に生体分子洗浄液導入用インレット53aを備えることがより好ましい。
【0098】
本実施形態において、生体分子固定部53cが固定する生体分子はmiRNAであることが好ましい。生体分子固定部53cをエキソソーム破砕液が通過することにより、生体分子固定部53c上に生体分子が捕捉される。
【0099】
次いで、生体分子固定部53cに固定された生体分子を溶出させる。
図15に示すように、流路53gのバルブ53fを開け、生体分子回収液導入用インレット53bに生体分子回収液を注入し、生体分子回収液を生体分子固定部53cに導入する。
【0100】
次いで、生体分子固定部53cから生体分子を回収する。生体分子は第三の流路56を通り、生体分子検出部54へ送られる。
【0101】
生体分子検出部54は、一例として、生体分子に親和性を有する物質が固定されてなる基板を備えている。生体分子をmiRNAとする場合には、標的miRNAに相補的なプローブが固定されてなる基板54cを備えていることが好ましい(
図15参照。)。標的miRNAに相補的なプローブが固定されてなる基板としては、例えば従来公知のDNAチップが挙げられる。
【0102】
図15に示すように、生体分子検出部54は、更に洗浄液導入用インレット54bを備えていることが好ましい。
【0103】
生体分子が生体分子検出部54へ送られた後、バルブ54dを開け、検出プローブ導入用インレット54aに検出プローブ溶解液を注入する。
【0104】
次いで、生体分子と検出プローブ溶解液を生体分子検出部内で循環させ、混合する。
【0105】
次いで、捕捉プローブが固定されてなる基板(
図15における基板54c)を洗浄し、該基板上の非特異的吸着物を取り除くことが好ましい。
【0106】
次いで、基板54c上に形成された複合体の標識物質の強度を測定する。標識物質の強度は、生体分子の存在量を反映するため、本実施形態によれば、サンプル中に含まれる生体分子の量を定量することができる。
標識物質の強度の測定は、一例として、図示略の顕微鏡、光源、パソコンなどの制御部により行われる。
【0107】
本実施形態によれば、従来は1日以上要したエキソソームの分析をわずか一時間程度で迅速に行うことができる。
【0108】
本デバイスのエキソソーム精製部で上述のようにエキソソームを固定した後、エキソソーム精製部においてエキソソームの表面に存在する生体分子を検出してもよい。
基板に固定されたエキソソームの表面に存在する生体分子の検出方法は、エキソソームの表面に存在する生体分子と該生体分子と特異的に結合する第1の分子とを相互作用させて複合体を形成し、基板上の複合体(第1の分子−エキソソーム複合体)を検出することを含む。
【0109】
第1の分子−エキソソーム複合体を検出する方法は、例えば蛍光標識した第1の分子−エキソソーム複合体の蛍光を検出する工程である。また、ELISAによる検出方法を利用してもよい。
【0110】
第1の分子とエキソソームの相互作用の一例として、例えば抗原−抗体反応といった結合反応が挙げられる。また、第1の分子としては、抗体に限られず、アプタマーも好適に用いられる。アプタマーの一例として、核酸アプタマーやペプチドアプタマーが挙げられる。
【0111】
上記のようなエキソソームの表面に存在する生体分子の検出と、そのエキソソームに内包されるmiRNAの検出とを本デバイス上で行うことによって、エキソソームを二段階で分析することができる。
本実施形態の複合型流体デバイスによれば、バイオプシー検査をしなくとも、一例として、生体内で循環している血液中のエキソソームを分析することで、生体内の異常を検出することができる。
【0112】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0113】
<実施例1>
[血漿分離デバイスの作製]
10×8×0.5cmのメタクリルスチレン樹脂の2枚の板材に、
図2及び
図3のような切削加工を行い、上板2及び下板3を作製した。具体的には、上板の下面2aに、角を丸く取った深さ0.8mmの窪み2bを施し、その窪み2bの周辺に直径2mmのOリングを嵌め込むための深さ1.3mmの溝2cを形成した。下板の上面3aには、上板2と同様の角を取った3mmの窪み3bを設けた。窪み3bの面積は約40cm
2となった。
更に、上板2の上面から窪み2bに貫通する2つの孔が、血液導入孔及び空気抜き孔として2カ所開けられており、下板3には、窪み3bの一辺から板材の側面に通じる溝3fと空気抜きとしての貫通孔3d、及びメンブレンを収納する深さ0.3mmの四角形の段部3eを形成した。
【0114】
図4に示すように、厚み10μm、引張弾性率220MPaの低密度ポリエチレン薄膜フィルム6(図示された分離ユニット4の一部である。以下、薄膜フィルム6と呼ぶ。)を下板の段部3eの上に置き、血漿分離用メンブレンフィルター5(日本ポール株式会社製“ビビッド血漿分離メンブレン”GRグレード)(図示された分離ユニット4の一部である。以下、メンブレン5と呼ぶ。)を薄膜フィルム6の上に重ねた。
【0115】
図5に示すように、メンブレン5と薄膜フィルム6の間に、外径2mmのシリコーンチューブ8(以下、チューブ8と呼ぶ。)の一方の端部(第一端部)を約2mm差し入れ、他方の端部(第二端部)を下板の窪み3bの外部へ出した状態で、チューブ8を下板の窪み3bから側面に通じる溝3fに嵌め込んだ。
【0116】
上板の窪み2bの外周を囲む溝2cに、直径2mmのシリコーン製Oリング7を嵌め込み、メンブレン6と薄膜フィルム5からなる分離ユニット4をセットした下板3に重ね置き、締め付け金具を用いて上板2と下板3とを一体化することによって、
図5に示すような流体デバイス1(血漿分離デバイス)を組み立てた。メンブレン5と薄膜フィルム6は、ともにOリング7で下板3に押さえつけられた状態であり、メンブレン5側の第一空間部2z及び薄膜フィルム6側の第二空間部3zによって形成された空間は、貫通孔2d,3dを除いて、気密構造(液密構造)とされている。
【0117】
[前準備]
流体デバイス1の上板2内の窪み2bとメンブレン5で構成される第一空間部2zに、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)0.7mlを導入し、メンブレン5の上面の全体にPBSを展開させた。PBSがメンブレン5に吸収された後、メンブレン5と薄膜フィルム6の間に差し込んだチューブ8から内部(濾液収容部6z)の空気を吸引し、薄膜フィルム6をメンブレン5の下面に密着させた。
【0118】
[血漿分離操作]
常法により凝固防止処理を施したヒト全血3mlをメンブレン5上方の第一空間部2zに導入した。使用したヒト全血には血漿55%が含まれる。第一空間2zには、空気が少し残った以外は、血液(全血)でほぼ満たされた状態になった。
【0119】
メンブレン5上面から血液が吸収されるにつれ、メンブレン5下面と薄膜フィルム6の間の濾液収容部6zに血漿を含む黄色い水分が溜まった。これに伴い、薄膜フィルム6はその重さで降下し、メンブレン5から最大1.5mm離れ、血漿が溜まった水袋状態となった。この状態において、メンブレン5上方の第一空間部2zには、まだ少量の血液が残留していた。
【0120】
血液を導入してから約3分後に、流体デバイス1の濾液収容部6zに挿し込んであるシリコーンチューブ8を吸引して、血漿及びPBSを含む液体成分をチューブ8の外に引き出した。サイホンの原理によって濾液収容部6zから外部へ液体成分が流れ出すにつれて、メンブレン5上面に残っていた血液が、次第にメンブレン5に吸収された。
【0121】
メンブレン5上の血液が減り、メンブレン5下の液体成分の導出が進むと、メンブレン5から離れて下降していた薄膜フィルム6は、血漿が減少するにつれて上昇してメンブレン5に近づいた。さらにメンブレン5上の血液が減るにつれて、メンブレン5は上板2に引き寄せられ、窪み2bの天井に貼り付いた。血液を導入してから10分後には、ほとんどの液体成分がチューブ8から外部へ導出されて、薄膜フィルム6は再びメンブレン5の下面の全体に密着した。メンブレン5上の血液はほとんど全て濾過された。
【0122】
チューブ8の第二端部から回収できた液体成分の体積は、1.7mlであり、溶血による血球の混入は無かった。前準備において導入したPBS0.7mlと、その後に導入した3mlの血液中の血漿量1.65mlとの合計の液体量は2.35mlである。よって、液体成分の回収率は72.3%であった。前準備においてメンブレン5中に浸透したPBSが全て回収されているとすると、チューブ8の第二端部から回収できた液体成分からPBS分を差し引いた血漿の体積は1.0mlであり、血漿の回収率は60.6%であった。この結果を表1に併記する。
【0123】
<実施例2>
実施例1の流体デバイス1の作製において、薄膜フィルム6に皺加工を施したフィルム6を用い、たるみを持たせて下板3に乗せた。その他については実施例1同様にして流体デバイス1を作製した。
PBS0.7mlを導入してメンブレン5を湿らせ、メンブレン5と薄膜フィルム6内の空気を吸引したところ、予め皺加工を施した薄膜フィルム6はメンブレン5の下面に密着し、その薄膜フィルム6の表面に細かい縮緬皺が現れた。
【0124】
流体デバイス1の第一空間部2zに、凝固防止処理を施した全血3mlを導入し、実施例1と同様に血漿分離操作を行った。その結果、シリコーンチューブ8から血漿を含む液体成分を回収することができた。溶血は起こらず、液体成分中に血球の混入は無かった。
その処理スピードは実施例1よりも早く、8分程度でほぼ完了した。回収した液体成分の体積は、実施例1よりも若干多く、1.9mlであった。この結果を表1に併記する。
【0125】
<実施例3>
実施例2の流体デバイス1の作製において、
図16に示す上板22を用いた以外は実施例2と同様に血漿分離操作を行った。
上板22の下面22aには、角が丸められた矩形の深さ0.8mmの窪み22bを形成し、窪み22bの外側の周囲には深さ1.3mmの溝22cを設けた。窪み22bの天井面(底面)には、対向する二つの角の近くに貫通孔22d−1,22d−2をそれぞれ一つずつ開けた。さらに、窪み22bの天井面には、
図16に示すように、血液の流れを制御する凸型の模様22hを付けた。模様22hは、天井面から0.2mm程度突き出した、幅0.5mmのライン形状である。第一の貫通孔22d−1(血液導入孔)から、円弧と放射線(直線)を組み合わせた模様22hによって、血液を窪み22hの全体に広げ、第二の貫通孔22d−2(空気抜き孔)に導くように配置してある。その他については実施例2と同様にして流体デバイス1を作製した。
【0126】
実施例2と同様に、流体デバイス1にPBSを導入してメンブレン5を湿らせた後、チューブ8から空気を抜き、薄膜フィルム6をメンブレン5に密着させた。
流体デバイス1の上板2の第一空間部2zに、凝固防止剤を入れた全血3mlを導入したところ、血液は上板2の天井面につけた模様22hに沿って展開され、第一空間部2zの全体にスムーズに広がった。この模様22hによって血液の流れ及び空気の排出を制御できたため、実施例1及び2よりも、第一空間部2zに残った空気の量が少なかった。
【0127】
実施例2と同様に、シリコーンチューブ8から血漿を含む液体成分を回収することができた。血液の導入から液体成分の回収までに要する時間は実施例1及び2よりも短く、7分程度であった。回収した液体成分の体積は、2.0mlであった。溶血は起こらず、液体成分中に血球の混入は無かった。この結果を表1に併記する。
血液を導入する際にメンブレン5上方の第一空間部2zから空気が効率的に排出され、空気の残留が少なかったため、効率的に濾過が進行した。このため、第一空間部2z内に残留する血液量は実施例1よりも少なく、ほとんど全ての血液を濾過することができた。
【0128】
【表1】
【0129】
<比較例1>
実施例1の流体デバイスの作製において、メンブレン5の下面に薄膜フィルム6を用いず、メンブレン5のみを流体デバイス内に配置した以外は、実施例1と同様にして、流体デバイスを作製した。実施例1と同様に、この流体デバイスにPBS0.7mlを導入してメンブレン5を湿らせた後、凝固防止済を入れた血液3mlを導入した。
メンブレン5上の血液はメンブレン5に少し吸収されたが、ほとんどの血液はメンブレン5上に留まり続け、血漿を含む液体成分はメンブレン5の下面から落ちなかった。
【0130】
シリコーンチューブ8の第二端部を吸引して、下板の第二空間部3zに負圧をかけたが、メンブレン5の下に血漿を引き出すことはできず、血漿を含む液体成分を回収することはできなかった。そこで、さらに強い負圧をかけたところ、メンブレン5の下面から赤く色付いた液体が出てきた。この液体中には赤血球及び溶血した成分が混入していた。さらに、この流体デバイスの上板の第一空間部2zに対して、シリンジポンプを用いて加圧したが、メンブレン5の下面へ血漿を含む液体成分を押し出すことは殆どできなかった。この加圧により、メンブレン5の形状が変形して凹み、メンブレン5上には血液溜まりができてしまった。
【0131】
<比較例2>
実施例1の流体デバイスの作製において、メンブレン5の下面に設置する薄膜フィルム6の代わりに、樹脂製の厚み2mmの比較的剛直な平板(以下、樹脂板と呼ぶ。)を接触させて配置した他は、実施例1と同様にして流体デバイスを作製した。チューブ8を設置するために、樹脂板に溝を切り、そこにチューブ8を嵌め込んだ。
【0132】
実施例1と同様に血液を流体デバイスに導入したところ、樹脂板とメンブレン5との間隙に、血漿を含む液体成分が浸み出した。しかし、チューブ8に負圧をかけても、液体成分を回収することは困難であった。チューブ8に負圧をかけると、少量の液体成分を取ることができたが、負圧の影響でメンブレン5の下面に樹脂板が強力に貼り付き、メンブレン5の下面に液体成分が浸み出すことを妨げてしまった。このため、濾過処理が遅々として進まず、長い時間を費やしても濾過処理を完了することはできなかった。
また、チューブ8に負圧をかけず、徐々に出てくるのを待ったが、20分以上かけても、メンブレン5の上部には血液が溜まったままであった。
【0133】
<実施例4:メンブレンの血液ろ過速度の測定>
[実験装置の作製]
図17に示す上板32を作製した。上板32の下面32aの中央に直径2cmの円柱型の窪み32bを切削し、窪み32b内に第一の貫通孔32d−1(血液導入孔)と第二の貫通孔32d−2(空気抜き孔)を設けた。また、上板の窪み32bに嵌合可能な直径1.6cmの円柱を上面に設置した下板(不図示)を作製した。
実施例1で使用したメンブレンと同じメンブレンを用意した。このメンブレンを円柱状の窪み32bの底面よりも大きな円形に成形して、窪み32bを覆うように下面32aに貼り付けた。この下面32aを下に向けた状態の上板32をスタンド式の治具に固定した。また、下板を上下移動可能なステージに乗せ、上板の円柱状の窪み32bに下板の円柱が重なる位置でステージ上に固定した。
【0134】
[下板の降下速度の測定]
下板の円柱の上面が上板のメンブレンに接触する位置までステージを上げ、その高さを原点とした。次に、原点から下板を5mm下げた。
上板の血液導入孔から凝固防止済を入れた血液を導入し、上板の窪み32b内を血液で満たした。この際、血液導入孔および空気抜き孔も血液で満たした。血液はメンブレンに浸透しているが、メンブレンからは滴り落ちない状態であった。
【0135】
下板を乗せたステージを上昇させ、下板の円柱の上面とメンブレンを接触させた後、ステージを一定速度で降下させた。この降下にともない、濾過が促進され、メンブレンと円柱の間隙に血漿が引き出された。2分おきに、上板の円柱空間からメンブレン下へ濾過された血液の量を測定した。この測定は、上板の円柱空間を血液で再度満たす際に必要な血液量を計測して行った。
【0136】
ステージの降下中に横から観察したところ、メンブレン下面と円柱の間には血漿が満たされており、その液溜まりは表面張力で柱状になっていた。この際、ステージの降下速度が速いと、メンブレン下面からの血漿の供給(濾過)が追いつかず、血漿の柱は下板の円柱より細った状態になった。このため、血漿の柱の直径が下板の円柱の直径の2/3以下になった場合は下板の降下を一時停止した。その後、血漿の柱が下板の円柱と同様の太さになるまで待ってから、再び降下を再開した。上板の血液の減少がほとんどなくなったときに実験を終了し、下板のステージを下げて観察したところ、下板の円柱上には血漿が溜まった状態であった。
【0137】
この実験における構造材(下板の円柱)の降下速度と血漿取得量の関係を
図18のグラフに示す。なお、グラフにおける500μm/分と750μm/分の降下速度の実験においては、血漿の柱が細ったため、途中で降下を一時停止している。
このグラフから、血漿分離用メンブレン(日本ポール(株)製“ビビッド血漿分離メンブレン”GRグレード)の下面に構造材を当接させて、構造材を降下させながら血液を濾過させる場合、構造材の降下速度は、250μm/分以上500μm/分未満が好ましいといえる。