(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記液溜め構造の底面に、前記液溜め構造に溜められた液を前記排出流路に向けて排出する排出口が形成され、前記斜面は前記排出口に向かって下方に傾斜してなる、請求項4に記載の分離装置。
前記液溜め構造と前記導入流路とをつなぐ連通口が前記液溜め構造の内壁面に開口し、前記連通口の少なくとも一部分が、前記液溜め構造に溜められた液の液面よりも、高さ方向において上方に設けられている、請求項1〜13のいずれか一項に記載の分離装置。
導入流路と排出流路と気体排出流路とを備え、前記排出流路に排出流路バルブが設けられ、前記気体排出流路に気体排出流路バルブが設けられた液溜め構造に溜められた液中に含まれる気体を分離する分離方法であって、
前記液溜め構造と前記導入流路とをつなぐ連通口が前記液溜め構造の内壁面に開口し、前記導入流路の少なくとも底面の一部が前記液溜め構造の側面に対して傾斜して連通する傾斜部が設けられており、
前記排出流路に設けられた前記排出流路バルブが閉じられた状態及び、前記気体排出流路に設けられた前記気体排出流路バルブが開かれた状態で、前記導入流路から前記液を前記液溜め構造へと送液する送液工程と、
前記排出流路バルブが閉じられた状態及び前記気体排出流路バルブが開かれた状態で、前記液中に含まれる前記気体を分離させる分離工程と、を含むことを特徴とする分離方法。
【発明を実施するための形態】
【0015】
≪分離装置≫
<第一実施形態>
本実施形態の分離装置は、液中に含まれる物質を分離する分離装置であって、液溜め部と、導入流路と、排出流路と、排出流路バルブと、を備えたものである。
図1Aは、本実施形態の分離装置を示す断面図である。また、
図1Bは、本実施形態の分離装置を模式的に示す斜視図である。本実施形態の分離装置1は、液溜め構造12を有する液溜め部2と、導入流路3と、液溜め構造12の底面に配置され、液溜め構造12に溜められた液を排出する排出流路4と、排出流路4に設けられた排出流路バルブ4aと、を備えたものである。
【0016】
液溜め部2は、液溜め構造12を有している。液溜め構造12は、それぞれ内壁面である天井面、側面及び底面に囲まれた空間であり、互いに対向する天井面および底面と、天井面および底面をつなぐように形成された側面を有する。液溜め構造12内では、導入流路3から導入された液を前記空間内に溜めておくことができる。液溜め構造12に液を溜め、好ましくは液溜め構造12内に液を所定の時間保持することで、例えば、液溜め構造12内に溜められた物質を重力により区分し、分離することが可能となる。
【0017】
液溜め構造12の高さh1は導入流路3の高さh2よりも大きいことが好ましい。例えば、液溜め構造12の高さh1は導入流路3の高さh2の2倍以上であることが好ましく、5倍以上であることがより好ましく、10倍以上であることがさらに好ましい。一例として、導入流路3の高さh2が0.1〜0.5mmであり、液溜め構造12の高さh1は0.2〜5mmである。液溜め構造12の高さh1を導入流路3の高さh2よりも大きくすることにより、上方と下方に分離された物質を効率よく回収又は除去することが可能となる。
【0018】
液溜め構造12内においては、例えば、比重の異なる物質同士を液溜め構造12内に溜め、液溜め構造12内の上方と下方に物質を区分して、物質を分離することができる。比重の異なる物質同士の組み合わせの例としては、液体と気体の組み合わせが挙げられる。
【0019】
例えば、液溜め構造に溜められ得る液が気体を含む場合がある。μ−TASの流路内を送液される液は、μ−TAS内に存在していた空気が送液中に混ざり、液が空気を含んでしまう場合がある。このような空気を含んだ液を液溜め構造12に溜めて、液溜め構造12内に液を所定の時間保持することで、液溜め構造12内の上方には空気が、下方には液が区分され、液から空気を分離することができる。
【0020】
液溜め構造12内に溜められ区分される物質の組み合わせとしては、液体と気体の組み合わせの他にも、液体と液体の組み合わせ、液体と固体の組み合わせ、固体と固体の組み合わせ等も挙げることができる。液体と液体の区分としては、水と油のような比重の異なる液体同士を区分することが挙げられる。液体と固体の分離としては、例えば、液体中に分散した粒子(固体)を区分することが挙げられる。
【0021】
液溜め構造12内に溜められた液は、液溜め構造12の底面に配置された排出流路4を通って液溜め構造12から排出させることができる。このとき、排出流路4に排出流路バルブ4aが設けられており、排出流路バルブ4aの開閉を制御することにより、液溜め構造12に液を溜めることと、液溜め構造12に溜められた液を排出することとを制御することが可能となる。排出流路バルブ4aを設けたことで、液溜め構造内の物質が十分に分離されるまでの時間、排出流路バルブ4aが閉じた状態を継続させ、液溜め構造12内に液を溜めておくことがで
きる。
【0022】
例えば、液溜め構造12内に溜められた液から十分に空気が分離されるまで、排出流路バルブ4aを閉じた状態とし、その後、排出流路バルブ4aを開くことで、下方に溜められた液を液溜め構造12から排出流路4を通して排出する。このように、排出流路4に排出流路バルブ4aを設けたことで、十分に空気が除去された液のみを容易に得ることができる。更には、排出流路に排出流路バルブ4aを設けたことで、液を液溜め構造12内のみに留めておくことができるので、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。このことは、限られた量の液の処理にあたっては液をなるべく無駄にしない必要があるため、特に有効である。
【0023】
液溜め部2への液の導入の促進は、排出流路4から液溜め構造12内の物質を排出させることによっても実施することが可能である。
【0024】
導入流路と排出流路の内径は特に制限されない。しかし、液溜め構造12への液の導入にかかる時間を液溜め構造12からの排出にかかる時間よりも短くするという観点から、導入流路3は排出流路4よりも大きい流路断面積を有することが好ましい。流路断面が略円形である場合、例えば、導入流路3の流路内径d1は排出流路4の流路内径d2と比べて√2倍以上であることが好ましく、液溜め構造12近傍の導入流路3の流路内径d1は液溜め構造12近傍の排出流路4の流路内径d2と比べて√5倍以上であることがより好ましい。また、例えば、d1をd2の√10倍以上とすることで、排出流路バルブ4aが閉じられていない状況であっても、液溜め構造内に液が留まりやすくなり、液溜め構造12から液が無駄に排出さ
れてしまうおそれが低減される。
【0025】
液を液溜め構造へと導入する導入箇所については、特に限定されない。しかし、液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口が
液溜め構造の内壁に開口している場合、液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口の少なくとも一部分が、液溜め構造に溜められた液の液面よりも、高さ方向において上方に設けられていてもよい。
【0026】
例えば、空気を含んだ液を液溜め構造へと導入し、液溜め構造内で液と空気を分離させようとする場合、連通口が液溜め構造に溜められた液の液面よりも下にあると、液溜め構造へと導入される液が、既に液溜め構造内に溜められた液中に直接導入されてしまう。すると、液溜め構造へと導入される液が、既に液溜め構造内に溜められた液に接触するまでの間に空気が分離される機会がないために、液と空気の分離の効率を低下させてしまう場合がある。したがって、連通口の少なくとも一部分が液溜め構造に溜められた液の液面よりも、高さ方向において上方に設けられることで、より効率よく分離を行うことができる。
【0027】
液溜め構造において、液が溜められ得る空間の空間容積は、液溜め構造内に溜められる液の容積よりも大きいことが好ましい。例えば、空間容積は液容積に対して1.5倍以上であることが好ましく、また、一例として、3倍以上、であることがより好ましく、5倍以上であることがさらに好ましい。空間容積を液容積よりも大きい構造とすることで、より効率的に物質を分離することができる。また、後述するように、液溜め構造内で複数の液を混合する場合にも、空間容積を液容積よりも大きい構造とすることで、より効率的に物質を混合することができる。
【0028】
液溜め構造において、液が溜められ得る空間は導入流路の断面積と排出口の断面積が充分に収まる面積をもつ壁面および底面を有しており、液が溜められ得る空間の空間容積は、前記導入流路の断面積および排出口の断面積に依存して決まる。例えば、目安として、1μL〜10mLを例示できる。一例として、導入流路が流路幅100μmで深さ100μmの矩形、排出口が縦50μm×横50μmの矩形の場合、液が溜められ得る空間の空間容積を5μL程度になるよう設計される。
【0029】
<第二実施形態>
本実施形態の分離装置は、前述した第一実施形態の分離装置を構成する液溜め構造の底面に、斜面が形成されているものである。
本実施形態の分離装置は、前述した第一実施形態の分離装置を構成する液溜め構造の底面に、斜面、及び、液溜め構造に溜められた液を排出流路に向けて排出する排出口が形成され、斜面は前記排出口に向かって下方に傾斜してなるものであってもよい。
【0030】
図2Aに示す第二実施形態の分離装置11には、液溜め構造12の底面に斜面12aと排出口12bが形成されている。このように液溜め構造12の底面に斜面12aが形成されており、これにより、液溜め構造の下方に溜められた物質が溜められる位置を制御することができる。前記斜面12aが排出口12bに向かって下方に傾斜していることにより、液溜め構造12の下方に溜められた物質を効率的に排出口12bへと向かわせることができる。したがって、液溜め構造12の下方に溜められた物質を、排出流路4を通して液溜め構造12から効率的に排出することができる。特に、斜面が側面から排出口まで連続的に勾配を有することで、液量が少ない場合に排出時の液残りを低減することができる。底面のうち排出口の周縁は斜面とは異なる面に形成されていてもよい。
【0031】
斜面12aの傾斜角は特に制限されるものではない。しかし、
図2A中に示す傾斜角θは、一例として15〜60°に設定することが挙げられる。例えば傾斜角θが15°以上であると、液が速やかに排出口12bへと移動し、液を効率的に排出させることができるため好ましい。また、例えば、傾斜角θが60°以下であると、液が斜面を伝う際にも液からの物質の分離が促進されるため好ましい。
【0032】
排出流路4は、排出口12bに接続する第1流路と、前記第1流路に接続し、前記第1流路とは異なる方向に流体が流れる第2流路を有してもよい。また、排出流路バルブ4aは前記第1流路に位置するものであってもよい。
排出流路が互いに異なる送液方向の少なくとも2つの流路を有している場合、排出流路バルブ4aが排出口12b近傍に位置することにより、液溜め構造内に液を溜めやすくすることができる。
互いに異なる送液方向の少なくとも2つの流路を有する排出流路4として、例えば、流体の流れる方向が互いに異なる第1流路と第2流路から構成され、第1流路は鉛直方向に平行に形成され、第2流路は第1流路と直角方向に形成された排出流路を例示できる(後述の実施例、
図15A〜19C参照)。この場合、第1流路は液溜め構造の下方に形成され、第1流路上に排出流路バルブ4aが位置するので、液溜め構造を通過した液が排出流路バルブ4aと排出口12bとの間の空間に、重力にしたがって流れ込むが、第1流路は鉛直方向に平行に形成されているために物質の分離が進みやすく、第1流路における前記空間に液を溜めるための空間として用いることも可能である。
【0033】
本実施形態の分離装置は、前述した第一実施形態の分離装置を構成する液溜め構造の底面に斜面及び排出口が形成され、液溜め構造の底面に形成された排出口が前記底面の中央部に位置し、液溜め構造の斜面は前記排出口に向かって集中して下方に傾斜してなるものであってもよい。前記斜面を含む構造としては、漏斗形状、すり鉢状、円錐状、多角錐状等を挙げることができる。
図2Bに示す第二実施形態の分離装置21には、排出口12bが液溜め構造12の底面の中央部に位置し、排出口12bに向かって斜面12aが集中して下方に傾斜している。このように排出口12bを液溜め構造12の底面の中央部に配置することで、液溜め構造12へと
導入された液体が巻き込み
の流れを生じながら排出口に向かう形になり、巻き込みの際に液から気体の分離が促進される。また、後述するように、液溜め構造内で複数の液を混合する場合にも、巻き込みにより液混合が起こりやすくなる。
【0034】
なお、斜面に設ける排出口の位置は円の中心(又は重心)からずらした位置に設けてもよい。この場合には、斜面の排出口に向かう傾斜角は、導入口が位置する側面側と、導入口が位置する側面と反対の側面側とで異なっていてもよい。例えば、分離装置21’のように(
図2C)、排出口が底面の中央部よりも導入口が位置する側面と反対の側面側へずれている場合、導入口が位置する側面側の斜面の傾斜角よりも、導入口が位置する側面と反対側の側面の傾斜角の方が急である。
【0035】
<第三実施形態>
本実施形態の分離装置は、前述した第二実施形態の分離装置を構成する液溜め構造が、液溜め構造から気体を排出する気体排出口を更に備えるものである。
図3は、本実施形態の分離装置31を示す断面図である。分離装置31を構成する液溜め構造12は、液溜め構造12から気体を排出する気体排出口12cを備えている。導入流路3から液が液溜め部2へと導入されて液体に混入している気体が液溜め構造に入ると容器内の気圧が上昇する。そのため、気体排出口12cにつながる気体排出流路の先が大気解放している場合、気体排出口12cから液溜め構造内に存在していた気体が吸引等の操作を行わずとも自然と排出され、よりスムーズに液を液溜め部2へと導入させることができる。また、液溜め構造12内で分離され放出された気体を気体排出口12cから排出させることができる。そのため、液溜め構造内に溜めることのできる液量を増やすことも可能である。
【0036】
液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口が液溜め構造の内壁面に開口している場合、
図3に示すように、液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口の少なくとも一部分が、気体排出口よりも高さ方向において下方に設けられていることが好ましい。
【0037】
また、導入流路の最下部が、液溜め構造の天井面の最上部よりも、高さ方向において下方に設けられていることが好ましい。例えば、導入流路の最下部が、液溜め構造の天井面の最上部よりも、高さ方向において0.5mm以上下方に設けられていることが好ましく、1mm以上下方に設けられていることがより好ましく、2mm以上下方に設けられていることがさらに好ましい。
また更には、気体排出口は、液溜め構造に溜められた液の液面よりも、高さ方向において上方に設けられていることが好ましい。これは、導入流路3より導入された液体が気体排出口より排出されることを防ぐためである。例えば、液面のメニスカスを考慮し、気体排出口は、液溜め構造に溜められた液の液面よりも、高さ方向において0.5mm以上上方に設けられていることが好ましく、1mm以上上方に設けられていることがより好ましく、1.5mm以上上方に設けられていることがさらに好ましい。
【0038】
これらの連通口及び気体排出口の位置に係る規定により、液溜め構造へと導入された液が
気体排
出口12cへ到達しづらくすることができる。そのため、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。
【0039】
本実施形態の分離装置は、気体排出口につながる気体排出流路を備え、前記気体排出流路と、導入流路とに各々バルブを備えていてもよい。分離装置31は、気体排出流路5に気体排出流路バルブ5aを備え、導入流路3に導入流路バルブ3aを備える。気体排出流路バルブ5aを備えることにより、液溜め構造12からの気体排出量、気体排出のタイミング等の制御が容易となる。導入流路バルブ3aを備えることにより、液溜め構造12への液の導入量、液の導入タイミング等の制御が容易となる。液溜め構造へと導入され得る液量が液溜め構造内の容積に比べて多い場合でも、導入流路バルブ3aを閉じて、液溜め構造へと導入する分の液の切り出しが可能となる。液溜め構造内への液の導入、分離、排出を繰りかえすことで、液から気体を除去された連続流体を作ることができる。
【0040】
本実施形態の分離装置は、液溜め部へと液を導入するための吸引ポンプを更に備えていてもよい。液溜め部へと液を導入する際には、吸引ポンプ(不図示)は、吸引が気体排出口12cを介するよう接続されていてもよい。気体排出口12cから液溜め構造内12内の気体を吸引することにより、液溜め構造内に溜められた物質の意図しない排出を回避しつつ、液溜め部2へと液の導入を促進することができる。
【0041】
<第四実施形態>
本実施形態の分離装置は、前述した第二実施形態の分離装置が導入流路を複数備えるものである。
図4に示される、本実施形態の分離装置41では、液溜め部2へと液を導入する第1の導入流路3及び第2の導入流路3’を備えている。複数の導入流路を備えた分離装置は、複数種類の液を液溜め部内へと導入する場合に好適に用いることができる。液溜め構造に複数の物質が導入された場合、液溜め部においては、液溜め構造内に溜められた物質の混合と分離の両方が行われ得る。
【0042】
各導入流路の位置関係は特に制限されるものではない。しかし、後述の実施例2(
図19A〜C)で示される分離装置のように導入流路が放射線状に配置された場合、巻き込み効果が起きてより効率よく液を混合できる。
【0043】
その他、公知の複数種の液体を混合するために用いられる他の構造としては、Y字型の流路が挙げられる。Y字型の流路で2液を合流させると、送液中に拡散や流路抵抗による流速の不均一分布により次第に混合され得る。しかしながら、Y字型の流路を用いた場合、混合が達成されるまでの所要時間が長くなり、またそれに伴って流路長も長くなる傾向があるため、デバイスの迅速化や小型化には不向きである。
【0044】
対して、本発明に係る液溜め部を用いて2液の混合を行った場合、液の混合効率が良いため、混合を促進させる手段を用いずとも液体同士を混合することが可能である。混合を促進させる手段としては、例えば外部から振動を与える、吸引と加圧を繰り返すことで混合させる等の仕組みが挙げられる。しかし、このような仕組みを追加することは、制御系が複雑になり、やはり小型化を妨げる要因となる。液溜め部を用いて液を混合するのであれば、例えば、液を液溜め部へと導入する吸引操作のみで、液同士の混合を行うことが可能である。液溜め部を利用すれば、液の混合を短時間に小スペースで行うことができる。
【0045】
<第五実施形態>
本実施形態の分離装置は、前述した第三実施形態の分離装置において、液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口が液溜め構造の内壁面に開口し、導入流路の少なくとも底面の一部が液溜め構造の側面に対して傾斜して連通する傾斜部が設けられたものである。傾斜部は連通口の近傍に設けられていることが好ましい。本実施形態の分離装置51を示す断面図を
図5に示す。導入流路3を通じて液を液溜め構造12へと導入する際、導入された液が液溜め構造12の内壁面を伝って、気体排出口12cへと到達し、液が排出されてしまう場合がある。本実施形態の分離装置51は導入流路3の少なくとも底面の一部に傾斜部3bを形成してなるものである。導入流路3を流れる液は傾斜部3bの底面を伝って液溜め構造12内へと導入される。そのため、液の導入位置を天井面から遠ざけることができ、液が液溜め構造内壁を伝って
気体排
出口12cへと到達することを防止することができる。そのため、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。
また、液が傾斜部3bを伝って導入される場合、傾斜部3bが無い場合と比較して、液の空気層への接触機会が高められる。そのため、傾斜部3bを設けることで液の表面張力を利用して液に含まれた気泡の分離を促進することができる。傾斜部3bの傾斜角は斜面12aと同一であってもよいし、異なってもよい。
【0046】
<第六実施形態>
液溜め構造への液の流入にあたっての傾斜部として、分離装置は、液を液溜め構造へと導入するための傾斜部材が、液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口に連接して設けられ、傾斜部材は液溜め構造の内部に向かって突出し、傾斜部材のうち液溜め構造と導入流路とをつなぐ連通口と連接する部分が最も上方に位置するように連接された形態としてもよい。本実施形態の分離装置61を示す断面図を
図6に示す。傾斜部材22を設けたことで導入流路3を流れる液は傾斜部材22を伝って液溜め構造12内へと導入される。そのため、液の導入位置を天井面から遠ざけることができ、液が液溜め構造内壁を伝って
気体排
出口12cへと到達することを防止できる。そのため、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。傾斜部材22の傾斜角は傾斜部3bと同一であってもよいし、異なってもよい。
【0047】
<第七実施形態>
図7は本実施形態の分離装置を示す断面図である。本実施形態の分離装置71は、前述した第五実施形態の分離装置において、導入流路3から導入される液の飛散又は液溜め構造の内壁面の伝いを防止するための防止壁3cが、導入流路3の内壁面に形成されてなるものである。例えば防止壁3cは導入流路3の天井面に形成される。上述の第5実施形態及び第6実施形態において説明したように、導入流路3から導入されてきた液が液溜め構造12の内壁面を伝って、気体排出口12cへと到達してしまう場合がある。特に、強い吸引圧力で液体を吸引する場合等においては、より導入流路3から導入されてきた液が液溜め構造12の内壁面を伝って、気体排出口12cへと到達しやすい。また、強い吸引圧力で液体を吸引する場合等においては、導入流路3から導入されてきた液が液溜め構造12内部を飛散し、気体排
出口12cへと到達してしまう場合がある。本実施形態の分離装置71では、導入流路3の天井面に形成された防止壁3cが設けられたことで、導入流路3を流れてきた液が液溜め構造12の内壁面を伝って気体排出口に到達することを防止できる。また防止壁3cは、導入流路3から導入されてきた液が液溜め構造12内部を飛散して気体排
出口12cに到達すること
を防止できる。そのため、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。
【0048】
<第八実施形態>
上記防止壁にあたる構造は、液溜め構造12内部に形成されていてもよい。すなわち、分離装置は、導入流路から導入される液の飛散又は液溜め構造の内壁面の伝いを防止する防止壁が、液溜め構造の内壁面に形成されており、防止壁は、導入流路の開口部から導入された液が気体排出口へ到達しうる経路を遮るように形成されているものであってもよい。
例えば、前記防止壁は液溜め構造の天井面に形成されている。
図8は本実施形態の分離装置を示す概略断面図である。本実施形態の分離装置81は、前述した第五実施形態の分離装置において、防止壁32が、液溜め構造12の天井面に形成されており、防止壁32は、導入流路3の開口部から導入された液が気体排出口12cへ到達しうる経路を遮るように形成されている。防止壁32は、前述の<第七実施形態>で説明した防止壁3cの場合と同様に、導入流路3を流れてきた液が液溜め構造12の内壁面を伝って気体排出口に到達すること、又は、導入流路3から導入されてきた液が液溜め構造12内部を飛散して気体排
出口12cに到達することを防止できる。そのため、液を無駄に排出させてしまうおそれを回避できる。
【0049】
分離装置の構成材料は特に制限されず、例えば樹脂、エラストマー、金属、セラミックス、ガラス等が挙げられる。分離装置の構成材料は特に制限されない。しかし、分離装置の材質としては、ガス透過性の低い材料が好ましい。また、材料自体にガスが含まれていないものが好ましい。これは、容器内を低圧にしたときに、容器壁面からガスが発生し、容器内に溜めた液に溶け込む可能性があるためである。また、液溜め構造内に液を溜めつつ気体排出する場合、吸水率の低い材料を選択するのが望ましい。吸水率の高い材料は、液がかかるとその液を吸水し、液溜め構造内を低圧にすると含んでいた水を液溜め構造内に排出し、意図しない液の混入につながるおそれがある。
【0050】
液を液溜め構造空間の下部へ効率よく溜め、且つ効率よく気泡を除去するという観点から、液溜め構造の側面及び/又は底面は、液溜め構造へ導入され得る液との親和性が高められていてもよい。また同様の観点から液溜め構造の天井面及び/又
は気体排出流路は、液溜め構造へ導入され得る液との親和性が低められていてもよい。即ち、液溜め構造へ導入され得る液に対する液溜め構造の天井面及び/又
は気体排出流路への親和性よりも、液溜め構造の側面及び/又は底面への親和性の方が高められていてもよい。
【0051】
例えば、液溜め構造へと水溶液が導入される場合、液溜め構造の側面及び/又は底面は親水性とすることが好ましい。同様に、例えば、液溜め構造へと水溶液が導入される場合、液溜め構造の天井面及び/又
は気体排出流路は疎水性とすることが好ましい。例えば、液溜め構造の側面及び/又は底面を親水性とすることにより、液溜め構造内へ導入された液との親和性が高められているので、液から効率よく気泡を分離することができる。また、液溜め構造の天井面及び/又
は気体排出流路は疎水性とすることにより、液が天井面を伝って気体排出流路へと到達することを防止できる。
【0052】
≪流体デバイス≫
<第一実施形態>
本実施形態の流体デバイスは、上記の第五実施形態の分離装置を備えた流体デバイスである。なお、本実施形態の流体デバイスを構成する流路は、マイクロメートルのスケールであっても、ミリメートルのスケールであってもよい。何れのスケールの流体デバイスについても、微細な流路を有するデバイスという意味において、「マイクロ流体デバイス」と呼ぶことができる。
【0053】
図9は、本実施形態の流体デバイスの基本構成を示す模式図である。本実施形態の流体デバイス101は、基板に、分離装置51と、インレット102と、アウトレット103と、を備えたものである。アウトレット103は、吸引送液を行う場合には、吸引ポンプ等とのコネクタとしての機能も有し、インレット102からの押し込み送液を行う場合又は駆動力が流体デバイス内に存在する場合には、ベントフィルター等の空気抜きとしての機能も有する。
【0054】
<第二実施形態>
本実施形態の流体デバイスは、上記の第一実施形態の流体デバイスに、更に生体分子精製部を備えたものである。
図10に本実施形態の流体デバイスの基本構成を示す。流体デバイス111は生体分子精製部53の下流に分離装置51を有しており、生体分子精製部53において得られた液は、分離装置51へと送液される。
【0055】
生体分子精製部は多孔質構造を有するものであってもよい。多孔質構造を有するものとしては、例えば、核酸精製技術として一般に用いられるシリカメンブレン53hを挙げることができる。このような多孔質構造を通過した液には空気が混入しやすい。
また、連続して実施する生体物質検出アプリケーションにおいて生体分子の正確な定量を行いたい場合等、生体分子精製部53から生体分子を含む溶出液をできる限り完全に回収する必要が生じる場合がある。しかし、そのために生体分子精製部53から強い吸引力で液を回収しようとすると、液の一部は飛沫あるいは気泡を含む状態で生体分子精製部53から溶出されてしまう。その点、本実施形態の流体デバイス111では、生体分子精製部53と分離装置51とを組み合わせて用いることで、生体分子精製部53において得られた精製された生体分子を含む溶出液から、容易に気泡を分離することができる。
【0056】
また、流体デバイスは、試料中のエキソソームが内包する生体分子を検出する流体デバイスであってもよい。このような流体デバイスとしては、例えば、上記の第五実施形態の分離装置と、疎水性鎖と親水性鎖を有する化合物で修飾された層を有するエキソソーム精製部と、生体分子検出部と、を備えた流体デバイスが挙げられる。
【0057】
流体デバイスの一例として、
図11に示す流体デバイス151が挙げられる。流体デバイス151は、試料中のエキソソームが内包する生体分子を検出する流体デバイスであって、疎水性鎖と親水性鎖を有する化合物で修飾された層を有するエキソソーム精製部152と、生体分子精製部153と、生体分子検出部154と、エキソソーム精製部152と生体分子精製部153を繋ぐ第一の流路155と、生体分子精製部153と生体分子検出部154を繋ぐ第二の流路156と、各流路の所望の箇所に配設された第一態様のバルブとを備えている。第二の流路156の全部または一部は、分離装置51の導入流路3及び排出流路4であってもよい。
【0058】
≪分離方法≫
本実施形態の分離方法は、上述した分離装置を用いて、液溜め構造に溜められた液中に含まれる物質を分離する分離方法であって、液を液溜め構造へと送液する送液工程と、液溜め構造に溜められた物質を重力により区別し、物質同士を分離させる分離工程と、を有する。
本実施形態の分離方法について、
図12を参照して説明する。
図12中には一例として、上述の≪分離装置≫の第5実施形態である分離装置の変形例である51’を用いた分離方法を図示してある。
【0059】
分離工程は、液溜め構造へと送液される液が物質として気体を含み、液溜め構造において前記気体を前記液から分離させる工程であってもよい。液が気体を含む場合として、流路を流れる流体において、液体中に気泡が混入している場合、液体の間に気体の層ができている場合、例えば炭酸水のように液中に気体が溶解している場合等が挙げられる。
【0060】
送液工程は、前記排出流路バルブが閉じられた状態で行うことが好ましい。さらに、分離工程において、前記排出流路バルブが閉じられた状態を所定時間継続し、その後、分離工程の後に、前記排出流路バルブを開き前記液溜め構造に溜められた液を排出する排出工程をさらに有することが好ましい。
【0061】
或いは、本実施形態の分離方法は、導入流路と排出流路と気体排出流路とを備え、排出流路に排出流路バルブが設けられ、気体排出流路に気体排出流路バルブが設けられた液溜め構造に溜められた液中に含まれる気体を分離する分離方法であって、
前記排出流路に設けられた排出流路バルブが閉じられた状態及び、前記気体排出流路に設けられた気体排出流路バルブが開かれた状態で、前記導入流路から前記液を前記液溜め構造へと送液する送液工程と、
前記排出流路バルブが閉じられた状態および前記気体排出流路バルブが開かれた状態で、前記液中に含まれる前記気体を分離させる分離工程と、を含むものである。
【0062】
以下、上述の分離方法における各工程について説明する。
まず、本実施形態の送液工程について
図12(a)〜(b)を参照して説明する。
本実施形態の分離方法において、
図12(a)に示される分離装置51’は、液溜め構造12へと送液される液6が気泡7を含んでいる。
【0063】
次いで、
図12(b)に示すように、液6を液溜め構造12へと送液する。ここであらかじめ、液溜め構造内を導入流路内よりも低圧状態としておき、導入流路バルブ3aを開けると液が自然と流れ込むようにして、液を送液させてもよい。
送液工程は、排出流路バルブが閉じられた状態で行うことが好ましい。
図12(b)に示す分離装置51’では、排出流路バルブ4aは閉じられている。排出流路バルブ4aが閉じられた状態で送液工程を行うことにより、液溜め構造12に溜められた液6が気泡7を含んだ状態で排出流路から排出されてしまうことを防止できる。
【0064】
また、
図12(a)〜(b)に示すように、導入流路バルブ3aの他に、気体排出流路バルブ5aも開けられていることが好ましい。気体排出流路バルブ
が開かれた状態で気体排出流路5から吸引操作を行うことで、液溜め構造へと液を送液してもよい。前記吸引操作には、公知の吸引ポンプを用いればよく、吸引が気体排出流路5を介して行われるよう、吸引ポンプを接続すればよい。なお、送液工程で気体排出バルブが開かれている場合、尚且つ特に液溜め構造内の気体を吸引した場合には、重力に加え、前記気体排出流路を介して液溜め構造内の気体を吸引する吸引操作による吸引力も、前記液中に含まれる前記気体を分離する力として働くので、より効率的に気体の分離を行うことができる。
【0065】
以下、本実施形態の分離工程について
図12(c)〜(d)を参照して説明する。
図12(c)は、送液が完了した後の分離装置51’の様子を示すものである。分離装置51’の液溜め構造12には気泡7を含んだ状態にある液6が溜められている。なお、本実施形態においては、分離工程を送液工程の後に行う場合を示しているが、前記分離工程は送液工程と同時又は一部同時に行われてもよい。
【0066】
ここで、本実施形態の分離工程においては、排出流路バルブが閉じられた状態を所定時間継続してもよい。
図12(c)、(d)に示す分離装置51’では、排出流路バルブ4aは閉じられ、気体排出流路バルブ5aが開かれている。排出流路バルブ4aが閉じられた状態を所定時間継続することで、より確実に液6から気泡7を分離することができる。排出流路バルブ4aが閉じられた状態を継続する時間は、液溜め構造に溜められた液と、前記液から分離される物質の種類、組み合わせを考慮して適宜定めることができる。一例としては1〜5秒間程度、排出流路バルブ4aが閉じられた状態を継続することが挙げられる。
気体排出流路バルブ5aが開かれていることで、分離された気体を気体排出流路
5から排出
し易くすることができる。またこの時、導入流路バルブ3aを閉じることで、分離された気体を導入流路へと侵入させないようにすることができる。
【0067】
本実施形態の分離方法は、上述した分離工程の後に、排出流路バルブを開き液溜め構造に溜められた液を排出する排出工程をさらに有していてもよい。以下、本実施形態の
排出工程について
図12(e)〜(f)を参照して説明する。
【0068】
図12(e)に示すように、分離装置51’の排出流路バルブ4aを開き、
図12(f)に示すように、液溜め構造12に溜められた気泡7との分離が完了した液6を排出流路4を通して排出する。この時、気体排出流路バルブ5aを閉じ、気体排出流路バルブが閉じられた状態としてもよい。気体排出流路バルブを閉じられた状態とすることにより、気体排出流路へと移行した物質が再度液溜め構造へと導入されてしまうことを防ぐことができる。
【0069】
また、排出流路4から吸引操作を行うことで、液溜め構造12から液を排出してもよい。前記吸引操作には、公知の吸引ポンプを用いればよく、吸引が排出流路4を介して行われるよう、吸引ポンプを接続すればよい。なお、
図12では、導入流路バルブ3aと排出流路バルブ4aとの組み合わせのバルブが開かれた状態を示している。しかし、気体排出流路バルブ5aと排出流路バルブ4aとの組み合わせのバルブが開かれた状態とさせて、液を排出させることも可能である。更には、導入流路バルブ3a、排出流路バルブ4a、気体排出流路バルブ5aの全てのバルブが開かれた状態とさせて、液を排出させることも可能である。
このようにして、気泡7を含んだ液6から気泡を分離し、気泡7との分離が完了した液6を得ることができる。本発明の実施態様によれば、液を無駄にすることなく、液中からより確実に物質を分離することができる。
【0070】
≪混合方法≫
本実施形態の混合方法は、上述した分離装置を用いて、液溜め構造において液を混合する混合方法であって、第1の液及び/又は第2の液を導入流路を通して液溜め構造へと送液し、液溜め構造において、第1の液および第2の液を混合させる方法である。本実施形態の混合方法について、
図13を参照して説明する。
【0071】
図13(a)及び
図13(a’)に示す分離装置では、互いに混合される前の第1の液16及び第2の液26の様子を示してある。
図13(a’)に示すように、第1の液および第2の液は、第2の液26が溜められた状態にある液溜め構造12へと、第1の液16を導入流路3を通して液溜め構造12へと送液してもよい。あるいは、
図13(a’ ’)に示すように第1の液16及び第2の液26を導入流路3を通して液溜め構造12へと順次送液してもよい。
【0072】
又は、本実施形態の混合方法は、一方の導入流路を通して第1の液を、他方の導入流路を通して第2の液を、前記液溜め構造へと送液し、前記液溜め構造において、前記第1の液および前記第2の液を混合させてもよい。前記液の送液については、例えば、
図13(a)に示すように第1の液16及び第2の液26を導入流路3及び導入流路3’を通して液溜め構造12へと同時に送液することが挙げられる。複数の導入流路から液を導入することで短時間で液の混合を達成できるほか、各液の導入タイミング、導入量などの制御が容易となる。
【0073】
分離装置としては、導入流路を複数備える分離装置41’又は分離装置51を用いることを例示できる。分離装置41’は、上述の≪分離装置≫の第四実施形態で説明した分離装置の変形例である。分離装置51は、上述の≪分離装置≫の第五実施形態で説明した分離装置である。液溜め構造へと導入された第1の液16及び第2の液26は、液導入に際して生じる乱流により、互いに混合される。
【0074】
仮に、本発明に係る分離装置を用いずにY字の流路を用いて2液を混合させる場合には、2液を同じタイミングで送液しなければならない。一方、本発明に係る分離装置を用いて2液を混合する場合、送液のタイミングを合わせる必要はない。更には、2液の混合比率が異なる場合、Y字流路では流路長を調整する必要があるが、液溜め構造にはその必要がない。
【0075】
本実施形態の混合方法によって液溜め構造において混合された液に対して、液溜め構造において前記液中に含まれる物質を分離してもよい。
図13(b)〜(b’ ’)に示す分離装置41’又は分離装置51では、第1の液16及び第2の液26が混合されて得られた第3の液36が、液溜め構造12内に溜められている。
図13(c)に示すように、第3の液36は、第1の液16及び第2の液26との混合により発生した気泡17を含んでいる。
【0076】
上述の≪分離方法≫における実施形態では、液溜め構造12へと送液される液6が気泡7を予め含んだ状態で送液されていた。しかし、本実施形態の混合方法で示されるように、液溜め構造内で分離される物質は導入流路3を通して液溜め構造12へと導入されたものでなくともよい。
【0077】
図13(c)、(d)に示す分離装置51では、排出流路バルブ4aが閉じられている。排出流路バルブ4aが閉じられた状態を所定時間継続することで、より確実に第3の液36から気泡17を分離することができる。
【0078】
液溜め構造において混合された液に対して、液溜め構造において液中に含まれる物質を分離する場合の別例として、導入流路を通して液溜め構造へと導入される液が2種類以上の物質を含んでおり、液溜め構造に溜められた液中に含まれる前記2種類以上の物質を分離してもよい。
【0079】
図14(a)〜(b)に示すように、分離装置51の液溜め構造12内には、予め第5の液56が溜められており、そこに第1の粒子27及び第2の粒子37を含んだ第4の液46が、導入流路3を通して液溜め構造12へと送液され、第4の液46及び第5の液56が混合される。
【0080】
図14(c)には、液溜め構造12内において、第4の液46、第5の液56、第1の粒子27、第2の粒子37は互いに混合された状態を示している。
【0081】
ここで、第4の液46と第5の液56とは比重が異なっているので、液溜め構造12内において、上方と下方へとそれぞれ分離される。
図14(d)では、上方へ第5の液56が、下方へ第4の液46が分離された状態を示している。また、第2の粒子37は第5の液56の方へと移行する。これは第2の粒子37の第5の液56への親和性が、第4の液46への親和性よりも高いためである。このように、第4の液46と第5の液56との分離に伴い、第1の粒子27と第2の粒子37とを分離することができる。
【0082】
その後、排出流路バルブ4aを開き、液中から第2の粒子が分離された状態の第4の液46を、排出流路4を通して排出する。このようにして、第1の粒子27及び第2の粒子37を含む第4の液46から第2の粒子37を分離し、第2の粒子37との分離が完了した第4の液46を得ることができる。
【0083】
以下、実施例により本発明を説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0084】
<実施例1:気泡の分離>
[分離装置、及び分離装置を備えた流体デバイスの作製]
プラスチック板(日本アクリエース株式会社 アクリエース
(登録商標)MS)を切削加工し、分離装置Aを作製した。分離装置Aの構造を説明する図を
図15A及び
図15Bに示す。また、分離装置Aの構成に加えて、導入流路に傾斜部を設けた分離装置Bを作製した。分離装置Bの構造を説明する図を
図16A及び
図16Bに示す。さらに、分離装置Bの構成に加えて、導入流路3の内壁面にポリジメチルシロキサン(PDMS)製の防止壁をさらに設けた分離装置Cを作製した。分離装置Cの構造を説明する図を
図17A及び
図17Bに示す。
図15A〜
図17Bに示す構造寸法の単位はmmである。
【0085】
プラスチック板(日本アクリエース株式会社 アクリエースMS)を切削加工し、上記分離装置Aと生体分子精製部とを備えた流体デバイスA1を作製した。生体分子精製部には、QIAGEN社miRNeasy Mini Kitに付属のRNeasy Mini Spin Columnに使用されているシリカメンブレンを設置した。また同様に、上記分離装置Bと生体分子精製部とを備えた流体デバイスB1、並びに、上記分離装置Cと生体分子精製部とを備えた流体デバイスC1を作製した。例として、流体デバイスB1の構造を説明する図を
図18に示す。
【0086】
[検証実験]
上記のとおり作製した流体デバイスA1、流体デバイスB1及び流体デバイスC1を用いて、以下のように検証実験を行った。
(1)核酸のシリカメンブレンへの捕捉
生体分子精製部に埋め込まれたシリカメンブレンに核酸捕捉液を通過させることで核酸を捕捉した。核酸捕捉液には、カオトロピック剤である1Mグアニジンチオシアネート、80%エタノール、生体分子として100amol miRNAが含まれる。前記核酸捕捉液1mlを吸引圧力50〜70kPaで送液し、1分かけて前記核酸捕捉液がシリカメンブレンを通過させるように送液した。バルブ161aを開き、流路161よりメンブレンを通過した液体を排出した。尚この時バルブ3a、バルブ4a、
バルブ5aは閉じている(
図18参照)。
【0087】
(2)シリカメンブレンの洗浄
続いて、洗浄液をシリカメンブレンへ導入しグアニジンチオシアネートを洗い流した。
洗浄液は80%エタノール、使用量は1mLである。洗浄液を吸引圧力50〜70kPa、1分かけて送液することで洗浄を行った。バルブ161aを開き、流路161よりメンブレンを通過した液体を排出した。尚この時バルブ3a、バルブ4a、
バルブ5aは閉じている。
【0088】
(3)シリカメンブレンの乾燥
エタノールの持ち込みを防ぐため、シリカメンブレンを乾燥させた。洗浄液導入口から大気を吸引し、シリカメンブレンを通過させることで乾燥を行った。この時、吸引圧力50〜70kPa、所要時間2分であった。バルブ161aを開き、流路161より大気を吸引した。尚この時バルブ3a、バルブ4a、
バルブ5aは閉じている。
【0089】
(4)核酸の溶出
核酸溶出液をメンブレンに導入し、核酸を溶出した。核酸溶出液はRNase-free waterである。核酸溶出液の使用量は30μlであり、吸引圧力50〜70kPa、10秒かけて吸引することでフィルターから核酸を含む溶出液を回収した。バルブ3a、バルブ5aを開き、気体排出流路5より吸引することで、導入流路3へ溶出液を送液した。尚この時バルブ4a、バルブ161aは閉じている。この時点では、核酸溶出液は飛沫あるいは気泡を含む状態でシリカメンブレンから溶出された。
【0090】
(5)核酸溶出液の分離装置への導入
核酸溶出液から気泡を分離するため、核酸溶出液を分離装置へ導入した。
核酸溶出液を気体排出流路より吸引圧力10〜50kPa、5秒かけて吸引し、液溜め構造内に核酸溶出液を導入した。バルブ3a、バルブ5aを開き、気体排出流路5より吸引することで、液溜め構造12へ溶出液を送液した。尚この時バルブ4a、バルブ161aは閉じている。流体デバイスA1〜C1のいずれを用いた場合でも、液体は空間下部へ留まった。
この時、液溜め構造の空間容積は30μLの溶出液に対して十分に大きいことが好ましいことが判明した。30μLの溶出液に対して、空間容量が45μLの場合、気体排
出口から液体も排出されてしまう場合があった。空間容量が100μLの場合では、気体のみが排出され、液体は空間下部へ留まった。
【0091】
(流体デバイスA1)
流体デバイスA1
を用いた場合でも、液体は液溜め構造の空間下部へ留まり、効率の良い分離が達成された。だが、流体デバイスA1を用いた場合、核酸溶出液を分離装置Aへと導入した際に、核酸溶出液の一部が液溜め構造の天井面を伝って気体排出口へ到達してしまう場合もあった。
(流体デバイスB1)
流体デバイスB1を用いた場合、流体デバイスA1を用いた場合と比較して、核酸溶出液が液溜め構造の天井面を伝って気体排出口へ到達してしまう頻度及び量を低く抑えることができた。これは、分離装置B1では、導入流路に傾斜部を設けたことにより、液体の流入位置を液溜め構造の天井面から遠ざけることができたためと考えられる。
(流体デバイス1)
しかし、さらに強い吸引圧力で液体を吸引する必要がある場合には分離装置Bの構造だけでは液体が液溜め構造の天井面を伝うことを防ぎきれない場合があった。また、導入する液体組成とデバイス素材の親和性が強い場合にも、液体が液溜め構造の天井面を伝うことを防ぎきれない場合があると考えられた。
そこで、流体デバイスC1を用いたところ、強い吸引圧力で液体を吸引した場合であっても、核酸溶出液が液溜め構造の天井面を伝って気体排出口へ到達してしまう頻度及び量を低く抑えることができた。これは、分離装置Cでは、導入流路に天井面に三角柱を横にした形状の防止壁を設けたことにより、液体の流入位置をさらに天井面から遠ざけることができたためと考えられる。
【0092】
(6)核酸溶出液の液溜め構造からの排出
液溜めに溜まった気体を含まない核酸溶出液は、吸引操作によって排出流路より排出した。バルブ3a、バルブ4aを開き、排出流路4より吸引することで、溶出液を排出した。尚この時バルブ5a、バルブ161aは閉じている。
【0093】
(7)回収した核酸溶出液の確認
上述の方法で回収された核酸溶出液には気泡の残留がないことを目視により確認した。
また、回収できた核酸溶出液量は23μlであった。液溜め構造を設けない場合にも回収された溶出液量は23μlであり、この構造の追加に伴う液体のロスは無いことが確認された。
【0094】
この結果は、流体デバイス内でシリカメンブレンを用いた核酸の精製、及び精製した核酸を用いたアプリケーションを連続して行う場合に、液体サンプルへの気泡の混入を防ぐ目的を達成可能であることを示す。
【0095】
<実施例2:2液の混合>
[分離装置、及び分離装置を備えた流体デバイスの作製]
プラスチック板(日本アクリエース株式会社 アクリエースMS)を切削加工し、分離装置Dを作製した。分離装置Dの構造を説明する図を
図19A〜
図19Cに示す。
図19A〜
図19Cに示されるように分離装置Dは2つの導入流路3及び導入流路3’を備える。
図19A〜
図19Cに示す構造寸法の単位はmmである。
さらに、プラスチック板(日本アクリエース株式会社 アクリエースMS)を切削加工し、上記分離装置Dを備えた流体デバイスD1を作製した。
【0096】
[検証実験]
上記のとおり作製した流体デバイスD1を用いて以下のように検証実験を行った。
(試薬)
混合する2種類の液体には超純水と100%エタノールを用いた。混合が判断しやすいように、超純水には色素を加え着色した。
【0097】
(1)液溜め構造への超純水の導入
一方の導入流路を通して着色した超純水0.5mLを吸引操作により液溜め構造内へ導入した。この時の吸引圧力は1〜30kPa、所要時間は15秒であった。バルブ3a、バルブ5aを開き、気体排出流路5より吸引することで、導入流路3より超純水を液溜め構造12へ送液した。尚この時バルブ
3a’、バルブ4aは閉じている(
図19A〜
図19C参照)。
【0098】
(2)液溜め構造へのエタノールの導入
他方の導入流路を通してエタノール0.5mL を吸引操作により液溜め構造内へ導入した。
この時の吸引圧力は1〜30kPa、所要時間は15秒であった。バルブ
3a’、バルブ5aを開き、気体排出流路5より吸引することで、導入流路3’よりエタノールを液溜め構造12へ送液した。尚この時バルブ3a、バルブ4aは閉じている。
【0099】
(3)2液の混合
エタノールの導入と並行して、2液の混合を目視により確認した。エタノール導入に伴い生じた乱流によって混合が確認できた。
また、混合の達成には、空間の容積、特に高さに十分な余裕があることが好ましいことが判明した。高さ5mm、直径20mm、容量約1.1mLの空間を用いた場合、液体が空間の壁面に表面張力で張り付いてしまい、メニスカス部分が
気体排
出口へ到達して外部に流出してしまう場合があった。高さ10mm、直径20mm、容量約2mLの空間を用いた場合、液体を一層容易に空間下部に収容できた。
【0100】
(4)混合溶液の排出
混合後の溶液を、排出流路から吸引操作によって排出した。バルブ
3a’、バルブ4aを開き、排出流路4より吸引することで、排出流路4より混合後の液体を排出した。尚この時バルブ3a、バルブ5aは閉じている。
【0101】
以上の検討より、合計1mLの2液を混合するために要した時間は30秒であり、必要なスペースは5mm×20mmの空間で十分であった。また、液体駆動は全て吸引ポンプにより行うことができた。この結果は、流体デバイス内でミリオーダーの2液混合を、短時間に小スペースで、吸引操作のみによって実施可能であることを示す。