【文献】
Mitsui, Chikahiko,Dinaphtho[1,2b:2',1'd]chalcogenophenes: Comprehensive Investigation of the Effect of the Chalcogen A,Chemistry of Materials,2013年 9月14日,25(20),pp. 3952-3956
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0014】
[有機薄膜トランジスタ]
本発明の有機薄膜トランジスタは、その有機半導体膜(有機半導体層)に、後述する一般式(1)で表され、かつ、分子量が3,000以下である化合物を含むことを特徴とする。
【0015】
一般式(1)で表される化合物は、微結晶薄膜から形成される有機半導体層において、微結晶中の分子の電子軌道の位相が良好にそろい、且つ、各分子間の相互作用が強くパッキングに優れるため、分子のHOMO(Highest Occupied Molecular Orbital)軌道同士が重なりやすい特徴を有する。
すなわち、一般式(1)で表されるようなジナフト骨格構造において、分子中に含まれる芳香族複素環をカルコゲン原子含有複素環としたこと、更に、硫黄原子よりも分子サイズが大きいセレン原子又はテルル原子としたことで、従来文献1,2に挙げられるようなジナフトチオフェン化合物、又は、ジベンゾカルバゾール骨格化合物と比べて母骨格間の相互作用が更に強まり、分子のHOMO軌道同士がより重なりやすくなったものと考えられる。この結果、特許文献1及び2に示される化合物よりもキャリア移動度が優れたものとなる。
【0016】
<一般式(1)で表される化合物>
一般式(1)で表される化合物は、有機薄膜トランジスタの有機半導体膜(有機半導体層)に含まれる。
一般式(1)で表される化合物は、新規な化合物であり、有機薄膜トランジスタの有機半導体膜に好適に使用されることはもちろんのこと、後述する他の用途にも用いることができる。
【0018】
一般式(1)中、Xは、酸素原子、セレン原子又はテルル原子を表し、R
1〜R
12は、それぞれ独立に下記式(W)で表される基を表す。ただし、R
1〜R
12のうち、少なくとも一つ以上は水素原子以外の基である。
−L
W−R
W (W)
式(W)中、L
Wは、単結合、−O−、−S−、−NR
13−、−CO−、−SO−、−SO
2−若しくは−Si(R
14)(R
15)−のいずれかの2価の連結基、又は、これらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であり、R
Wは、水素原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
R
13〜R
15は、水素原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
【0019】
なお、本明細書における「アルキル基」及び「アルケニル基」には、特に断りの無い限り、直鎖、分岐及び環状のいずれも含むものとする。なお、環状のアルキル基としては、例えば、シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、及びトリシクロアルキル基などが挙げられる。また、環状のアルケニル基としては、シクロアルケニル基、及びビシクロアルケニル基などが挙げられる。
また、本明細書における「ヘテロアリール基」に含まれるヘテロ原子としては、例えば、硫黄原子(S)、酸素原子(O)、及び窒素原子(N)などが挙げられる。
【0020】
一般式(1)で表される化合物の分子量は、3,000以下であり、250〜2,000であることが好ましく、300〜1,000であることがより好ましく、350〜800であることが更に好ましい。分子量を上記範囲とすることにより、溶媒への溶解性をより高めることができるため好ましい。
【0021】
一般式(1)において、Xは、酸素原子、セレン原子又はテルル原子を表し、分子サイズが大きくHOMO軌道の重なりが良好であるという観点から、セレン原子又はテルル原子であることが好ましく、特にセレン原子が好ましい。セレン原子は、テルル原子と比較して分子サイズが適切であり、すなわち、Xがセレン原子である場合には、Xがテルル原子である場合と比較して、結晶構造が乱されずに(換言すると、特に母骨格間のズレを生じさせずに)カルコゲン原子の軌道係数が向上するため、HOMO軌道の重なりがより良好となる。
【0022】
一般式(1)においてR
1〜R
12は、それぞれ独立に上記式(W)で表される基を表す。
L
Wとしては、単結合、−O−、−S−、−NR
13−、−CO−、−SO−、−SO
2−若しくは−Si(R
14)(R
15)−のいずれかの2価の連結基、又は、これらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であり、単結合、−O−、−S−、−NR
13−、−CO−、−O−CO−、−CO−O−、−NR
13−CO−、−CO−NR
13−、−O−CO−O−、−NR
13−CO−O−、−OCO−NR
13−又は−NR
13−CO−NR
13−であることが好ましく、単結合、−O−、−S−、−NR
13−、−CO−、−O−CO−又は−CO−O−であることがより好ましく、単結合であることが更に好ましい。
【0023】
上記R
13〜R
15は、水素原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基(好ましくは炭素数1〜20)、アルケニル基(好ましくは炭素数2〜6)、アルキニル基(好ましくは炭素数2〜6)、アリール基(好ましくは炭素数6〜14)若しくはヘテロアリール基(好ましくは炭素数3〜12)を表し、水素原子、アルキル基又はアリール基であることが好ましく、水素原子又はアルキル基であることがより好ましく、炭素数1〜8のアルキル基であることが更に好ましい。
【0024】
R
Wとしては、水素原子、又は置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
アルキル基としては、炭素数1〜20のアルキル基が好ましく、炭素数2〜15のアルキル基がより好ましく、炭素数3〜10のアルキル基が更に好ましい。アルキル基としては、直鎖アルキル基が好ましい。
アルケニル基としては、炭素数2〜6のアルケニル基が好ましく、炭素数2〜4のアルケニル基がより好ましく、炭素数2のアルケニル基が更に好ましい。
アルキニル基としては、炭素数2〜6のアルキニル基が好ましく、炭素数2〜4のアルキニル基がより好ましく、炭素数2のアルキニル基が更に好ましい。
アリール基としては、炭素数6〜20のアリール基が好ましく、炭素数6〜14のアリール基がより好ましく、炭素数6〜10のアリール基が更に好ましい。
ヘテロアリール基としては、炭素数3〜20のヘテロアリール基が好ましく、炭素数3〜12のヘテロアリール基がより好ましく、炭素数3〜8のヘテロアリール基が更に好ましい。
【0025】
一般式(1)において、R
1〜R
12のうち、少なくとも一つ以上は水素原子以外の基(以下、「置換基W」と称する)である。一般式(1)のR
1〜R
12において、置換基Wの個数は2〜4であることが好ましく、2であることがより好ましい。
【0026】
置換基Wは、分子間相互作用及び溶解性の観点から、炭素数が30以下であることが好ましく、25以下であることがより好ましく、20以下であることが更に好ましく、16以下であることが特に好ましい。言い換えると、R
1〜R
12に含まれる炭素数(上記式(W)におけるL
WとR
Wを合わせた総炭素数)がそれぞれ独立に上記の数値範囲となることが好ましい。
【0027】
上記一般式(1)において、R
1〜R
12に置換基Wを導入する場合には、分子全体が線対称の構造となることが好ましい。すなわち、R
1〜R
12の構造を含めて分子全体が線対称の構造となるように、置換基Wを分子全体が線対称の構造となる位置に導入することが好ましい。具体的には、R
1及びR
12の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、R
2及びR
11の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、R
3及びR
10の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、R
4及びR
9の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、R
5及びR
8の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、R
6及びR
7の位置に置換基W(好ましくは同じ基)をともに有する場合、ならびにこれらの2以上の場合の組み合わせが好ましい。これらの中でも、結晶構造及び分子間相互作用の観点から、R
3及びR
10の位置に置換基Wをともに有する場合がより好ましい。
【0028】
一般式(1)においては、分子間相互作用及び溶解性の観点から、R
1〜R
12の少なくともいずれか1つが、R
Wとして、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を有することが好ましく、R
1とR
12、R
2とR
11、R
3とR
10、R
4とR
9、R
5とR
8又はR
6とR
7の組み合わせのうち、少なくともいずれか1つの組み合わせが上述の基をそれぞれ独立に有することが好ましく、R
3とR
10が上述の基をそれぞれ独立に有することがより好ましい。なお、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数2〜6のアルキニル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数3〜20のヘテロアリール基の更に好適な範囲については上述のとおりである。なかでも、炭素数1〜20のアルキル基については、炭素数が2以上であることが好ましい。
【0029】
一般式(1)中、分子間相互作用及び溶解性の観点から、R
1〜R
12の少なくともいずれか1つがそれぞれ独立に直鎖アルキル基を含むことが好ましく、R
1とR
12、R
2とR
11、R
4とR
9、R
5とR
8若しくはR
6とR
7の少なくともいずれか1つの組み合わせがそれぞれ独立に直鎖アルキル基を含むことがより好ましく、R
3とR
10の組み合わせがそれぞれ独立に直鎖アルキル基を含むことが特に好ましい。例えば、R
3及びR
10が、上述の如くR
Wとして炭素数1〜20のアルキル基を有する場合、この炭素数1〜20のアルキル基は直鎖アルキルであることが好ましく、一方、例えば、R
Wとして炭素数6〜20のアリール基を有する場合、かかるアリール基は置換基としてさらに直鎖アルキル基を有することが好ましい。つまり、言い換えると、R
Wがアルキル基以外であって、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表す場合、R
Wの有する置換基としては直鎖アルキル基であることが好ましい。
【0030】
一般式(1)において、R
1〜R
13におけるアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基及びヘテロアリール基が有してもよい置換基としては、例えば、ハロゲン原子、アルキル基(シクロアルキル基、ビシクロアルキル基、トリシクロアルキル基を含む。)、アリール基、複素環基(「ヘテロ環基」とも称する。)、シアノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、カルボキシ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、シリル基、シリルオキシ基、ヘテロ環オキシ基、アシルオキシ基、カルバモイルオキシ基、アルコキシカルボニルオキシ基、アリールオキシカルボニルオキシ基、アミノ基(アニリノ基を含む。)、アンモニオ基、アシルアミノ基、アミノカルボニルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルファモイルアミノ基、アルキル及びアリールスルホニルアミノ基、メルカプト基、アルキルチオ基、アリールチオ基、ヘテロ環チオ基、スルファモイル基、スルホ基、アルキル及びアリールスルフィニル基、アルキル及びアリールスルホニル基、アシル基、アリールオキシカルボニル基、アルコキシカルボニル基、カルバモイル基、アリール及びヘテロ環アゾ基、イミド基、ホスフィノ基、ホスフィニル基、ホスフィニルオキシ基、ホスフィニルアミノ基、ホスホノ基、シリル基、ヒドラジノ基、ウレイド基、ボロン酸基(−B(OH)
2)、ホスファト基(−OPO(OH)
2)、スルファト基(−OSO
3H)、及び、その他の公知の置換基が挙げられる。また、置換基が更に置換基により置換されていてもよい。
これらの中でも、置換基としては、ハロゲン原子、アルキル基(アルキル基としては、直鎖アルキル基が好ましい)、アルコキシ基、アルキルシリル基、又はアリール基が好ましく、フッ素原子、炭素数1〜10の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは無置換のアルコキシ基、炭素数1〜30の置換若しくは無置換のアルキルシリル基、又はフェニル基がより好ましく、フッ素原子、炭素数1〜10の置換若しくは無置換のアルキル基、炭素数1〜10の置換若しくは無置換のアルコキシ基、又は、炭素数1〜30の置換若しくは無置換のアルキルシリル基が更に好ましく、フッ素原子、炭素数1〜10の置換若しくは無置換のアルキル基、又は、炭素数1〜30の置換若しくは無置換のアルキルシリル基が特に好ましい。
【0031】
分子の対称性をより良好とし、これにより分子間相互作用が向上する観点から、R
1とR
12とが同一の基、且つ、R
2とR
11とが同一の基、且つ、R
3とR
10とが同一の基、且つ、R
4とR
9とが同一の基、且つ、R
5とR
8とが同一の基、且つ、R
6とR
7とが同一の基であることが好ましい。
【0032】
上記一般式(1)で表される化合物は、下記一般式(2)で表され、かつ、分子量が3,000以下である化合物であることが好ましい。
【0034】
一般式(2)中、R
3及びR
10は同一の基であり、それぞれ下記式(W)で表される基を表す。
−L
W−R
W (W)
式(W)中、L
Wは、単結合、−O−、−S−、−NR
13−、−CO−、−SO−、−SO
2−若しくは−Si(R
14)(R
15)−のいずれかの2価の連結基、又は、これらの2価の連結基が2以上結合した2価の連結基であり、R
Wは、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基又は炭素数3〜20のヘテロアリール基を表す。
R
13〜R
15は、それぞれ独立に水素原子、又は、置換基を有していてもよい、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基若しくはヘテロアリール基を表す。
なお、一般式(2)中のR
3及びR
10の好ましい態様については、一般式(1)中におけるR
3及びR
10と同じである。
【0035】
上記一般式(1)で表される化合物の具体例を以下に示す。
尚、下記表中において、「TMS」はトリメチルシリル基であり、「TIPS」はトリイソプロピルシリル基であり、「Bu」はブチル基であり、「Et」はエチル基であり、「Me」はメチル基であり、「Ph」はフェニル基である。
【0054】
一般式(1)で表される化合物の合成方法は、特に制限されず、公知の方法を参照して合成できる。
合成方法としては、例えば、下記一般式(3)で表される化合物を、下記一般式(4)で表される化合物と、遷移金属触媒及び有機溶媒の存在下で加熱して反応させる工程を含む方法が好ましく挙げられる。
【0056】
一般式(3)中、
Wはそれぞれ独立に、ハロゲン原子又はパーフルオロアルキルスルホニルオキシ基を表す。
一般式(4) R
11−M(R
12)
i
一般式(4)中、R
11はアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又はヘテロアリール基を表し、更に置換基を有していてもよく、Mはマグネシウム、珪素、ホウ素、錫又は亜鉛を表し、R
12はそれぞれ独立に、ハロゲン原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルコキシ基又はヒドロキシル基を表し、互いに同じでも異なっていてもよく、互いに環を形成していてもよく、iは1〜3の整数を表し、Mの価数−1であり、ただし、Mがホウ素である場合は、iが3をとってもよい。
【0057】
上記遷移金属触媒としては、特に制限はなく、熊田−玉尾−コリューカップリング、檜山カップリング、鈴木−宮浦カップリング、右田−小杉−スティルカップリング、園頭−萩原カップリング、溝呂木−ヘック反応、又は根岸カップリング等のカップリング反応に用いられる遷移金属触媒を好適に用いることができる。中でも、パラジウム触媒又はニッケル触媒が好ましく、パラジウム触媒がより好ましい。また、上記金属触媒は、反応に応じて、任意の配位子を有することができる。
上記有機溶媒としては、特に制限はなく、基質又は触媒に応じて、適宜選択することができる。
また、一般式(3)〜(4)で表される化合物、遷移金属触媒、及び、有機溶媒の使用量は、特に制限はなく、必要に応じて適宜選択すればよい。
反応時の加熱温度は、特に制限はないが、25℃〜200℃であることが好ましく、40℃〜150℃であることがより好ましい。
【0058】
本発明の有機薄膜トランジスタにおける有機半導体膜には、一般式(1)で表される化合物を、1種のみ含有していても、2種以上含有していてもよいが、配向性の観点から、1種のみ含有していることが好ましい。
また、後述する有機半導体膜、有機薄膜トランジスタ用材料又は有機薄膜トランジスタ用組成物中には、一般式(1)で表される化合物が、1種のみ含まれていても、2種以上含まれていてもよいが、配向性の観点から、1種のみ含まれていることが好ましい。
【0059】
本発明の有機薄膜トランジスタにおける有機半導体膜における一般式(1)で表される化合物の総含有量は、30〜100質量%であることが好ましく、50〜100質量%であることがより好ましく、70〜100質量%であることが更に好ましい。また、後述するバインダーポリマーを含有しない場合は、上記総含有量が、90〜100質量%であることが好ましく、95〜100質量%であることがより好ましい。
【0060】
<有機薄膜トランジスタの構造、有機薄膜トランジスタの製造方法>
次に、上記一般式(1)で表される化合物を有機薄膜トランジスタの有機半導体膜に用いた本発明の有機薄膜トランジスタの構造及びその製造方法について説明する。
本発明の有機薄膜トランジスタは、上述した一般式(1)で表される化合物を含む有機半導体膜(有機半導体層)を有し、さらに、ソース電極と、ドレイン電極と、ゲート電極と、を有することができる。
本実施形態に係る有機薄膜トランジスタは、その構造は特に限定されるものでなく、例えばボトムコンタクト型(ボトムコンタクト−ボトムゲート型及びボトムコンタクト−トップゲート型)又はトップコンタクト型(トップコンタクト−ボトムゲート型及びトップコンタクト−トップゲート型)など、いずれの構造であってもよい。
以下、本発明の有機薄膜トランジスタの一例について、図面を参照しながら説明する。
【0061】
図1は、本発明の一実施形態に係るボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタ100の断面模式図である。
図1の例では、有機薄膜トランジスタ100は、基板(基材)10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁膜30と、ソース電極40と、ドレイン電極42と、有機半導体膜(有機半導体層)50と、封止層60と、を有する。ここで、有機半導体膜50は、上述した一般式(1)で表される化合物を使用して作製されたものである。
以下、基板(基材)、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体膜(有機半導体層)及び封止層ならびにそれぞれの作製方法について詳述する。
【0062】
(基板)
基板は、後述するゲート電極、ソース電極、又はドレイン電極などを支持する役割を果たす。
基板の種類は特に制限されず、例えば、プラスチック基板、ガラス基板、及びセラミック基板などが挙げられる。なかでも、各デバイスへの適用性及びコストの観点から、ガラス基板又はプラスチック基板であることが好ましい。
【0063】
(ゲート電極)
ゲート電極の材料としては、例えば、金(Au)、銀、アルミニウム、銅、クロム、ニッケル、コバルト、チタン、白金、マグネシウム、カルシウム、バリウム、及びナトリウム等の金属;InO
2、SnO
2、及びITO(Indium Tin Oxide)等の導電性の酸化物;ポリアニリン、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリアセチレン、及びポリジアセチレン等の導電性高分子;シリコン、ゲルマニウム、及びガリウム砒素等の半導体;フラーレン、カーボンナノチューブ、及びグラファイト等の炭素材料などが挙げられる。なかでも、金属であることが好ましく、銀、又はアルミニウムであることがより好ましい。
ゲート電極の厚みは特に制限されないが、20〜200nmであることが好ましい。
なお、ゲート電極は基板としても機能してもよく、その場合、上記基板はなくてもよい。
【0064】
ゲート電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、基板上に、電極材料を真空蒸着又はスパッタする方法、及び、電極形成用組成物を塗布又は印刷する方法などが挙げられる。また、電極をパターニングする場合のパターニング方法としては、例えば、フォトリソグラフィー法;インクジェット印刷、スクリーン印刷、オフセット印刷、凸版印刷(フレキソ印刷)等の印刷法;マスク蒸着法などが挙げられる。
【0065】
(ゲート絶縁膜)
ゲート絶縁膜の材料としては、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリビニルフェノール、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリウレタン、ポリスルフォン、ポリベンゾキサゾール、ポリシルセスキオキサン、エポキシ樹脂、及びフェノール樹脂等のポリマー;二酸化珪素、酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の酸化物;窒化珪素等の窒化物などが挙げられる。これらの材料のうち、有機半導体膜との相性から、ポリマーであることが好ましい。
ゲート絶縁膜の膜厚は特に制限されないが、100〜1000nmであることが好ましい。
【0066】
ゲート絶縁膜を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ゲート電極が形成された基板上に、ゲート絶縁膜形成用組成物を塗布する方法、及び、ゲート絶縁膜材料を蒸着又はスパッタする方法などが挙げられる。
【0067】
(ソース電極、ドレイン電極)
ソース電極及びドレイン電極の材料の具体例は、上述したゲート電極と同じである。なかでも、金属であることが好ましく、銀であることがより好ましい。
ソース電極及びドレイン電極を形成する方法は特に制限されないが、例えば、ゲート電極とゲート絶縁膜とが形成された基板上に、電極材料を真空蒸着又はスパッタする方法、及び、電極形成用組成物を塗布又は印刷する方法などが挙げられる。パターニング方法の具体例は、上述したゲート電極と同じである。
【0068】
(有機半導体膜)
有機半導体膜の作製方法は、上述した一般式(1)で表される化合物を含む有機半導体膜を作製できる限り、特に限定されるものではないが、例えば上述した一般式(1)で表される化合物を含む有機薄膜トランジスタ用組成物(後述)を基板上に塗布して、乾燥させることにより有機半導体膜を作製することができる。
なお、有機薄膜トランジスタ用組成物を基板上に塗布するとは、有機薄膜トランジスタ用組成物を基板に直接付与する態様のみならず、基板上に設けられた別の層を介して基板の上方に有機薄膜トランジスタ用組成物を付与する態様も含むものとする。
有機薄膜トランジスタ用組成物の塗布方法としては、公知の方法を用いることができ、例えば、バーコート法、スピンコート法、ナイフコート法、ドクターブレード法、インクジェット印刷法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、及びスクリーン印刷法が挙げられる。さらに、有機薄膜トランジスタ用組成物の塗布方法としては、特開2013−207085号公報に記載の有機半導体膜の形成方法(いわゆるギャップキャスト法)、及び、国際公開第2014/175351号公報に記載の有機半導体膜の製造方法(いわゆるエッジキャスト法や連続エッジキャスト法)などが好適に用いられる。
乾燥(乾燥処理)は、有機薄膜トランジスタ用組成物に含まれる各成分の種類により適宜最適な条件が選択され、自然乾燥であってもよいが、生産性を向上させる観点から加熱処理を行うことが好ましい。例えば、加熱温度としては30〜200℃が好ましく、40〜150℃がより好ましく、加熱時間としては10〜300分が好ましく、30〜180分がより好ましい。
作製される有機半導体膜の膜厚は特に制限されないが、本発明の効果がより優れる点で、10〜500nmが好ましく、20〜200nmがより好ましい。
【0069】
このように、一般式(1)で表される化合物を含有する有機半導体膜は、有機薄膜トランジスタに好適に使用されるが、この用途に限定されるものではなく、一般式(1)で表される化合物を含有する有機半導体膜は、後述するその他の用途にも適用することができる。
【0070】
(封止層)
本発明の有機薄膜トランジスタは、耐久性の観点から、最外層に封止層を備えるのが好ましい。封止層には公知の封止剤(封止層形成用組成物)を用いることができる。
封止層の厚みは特に制限されないが、0.2〜10μmであることが好ましい。
【0071】
(その他の有機薄膜トランジスタ)
図2は、本発明の一実施形態に係るトップコンタクト型の有機薄膜トランジスタ200を表す断面模式図である。
図2の例では、有機薄膜トランジスタ200は、基板10と、ゲート電極20と、ゲート絶縁膜30と、ソース電極40と、ドレイン電極42と、有機半導体膜(有機半導体層)50と、封止層60を有する。ここで、有機半導体膜50は、後述する本発明の有機薄膜トランジスタ用組成物を用いて形成されたものである。
基板、ゲート電極、ゲート絶縁膜、ソース電極、ドレイン電極、有機半導体膜及び封止層については上述の通りであるので、その説明を省略する。
【0072】
(有機薄膜トランジスタの用途)
上述した有機薄膜トランジスタは単独でスイッチング素子として用いることができる。また、複数の素子をマトリクス上に配列することにより、例えば、電子ペーパー若しくはディスプレイデバイスの画像を表示する表示部、又は、X線フラットパネルディテクターの画像を受光する受光部などに用いることができる。また、複数の素子を組み合わせることにより、インバータ、リングオシレーター、若しくはd−フリップフロップなどの小規模回路、又は、RFID(radio frequency identifier:RFタグ)若しくはメモリなどの論理回路に適用することができる。それぞれのデバイスは、公知の構造を有することができるので、その説明を省略する。
【0073】
[有機薄膜トランジスタ用組成物]
本発明の有機薄膜トランジスタ用組成物は、上述した有機薄膜トランジスタの有機半導体膜の作製に使用される。
なお、以下に説明する有機薄膜トランジスタ用組成物は、後述するその他の用途に使用してもよく、この場合には、「有機薄膜トランジスタ用組成物」を単に「有機半導体組成物」という。
有機薄膜トランジスタ用組成物は、上述した一般式(1)で表される化合物を含有するものであるが、通常、その塗布性を向上させる点から有機溶媒をさらに含有する。
有機溶媒を含有する場合の含有量は、塗布性を良好とする観点から、有機薄膜トランジスタ用組成物の全質量に対して、0.01〜80質量%であることが好ましく、0.05〜10質量%であることがより好ましく、0.1〜5質量%であることがさらに好ましい。
【0074】
(有機溶媒)
有機溶媒としては、特に限定されるものではなく、ヘキサン、オクタン、デカン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンゼン、デカリン、テトラリン、2−メチルベンゾチアゾール、及び1−メチルナフタレンなどの炭化水素系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系溶媒、ジクロロメタン、クロロホルム、テトラクロロメタン、ジクロロエタン、トリクロロエタン、テトラクロロエタン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン、1−フルオロナフタレン、2,5−ジクロロチオフェン、2,5−ジブロモチオフェン、1−クロロナフタレン、及びクロロトルエンなどのハロゲン化炭化水素系溶媒、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸アミル、及び乳酸エチルなどのエステル系溶媒、メタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、シクロヘキサノール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、及びエチレングリコールなどのアルコール系溶媒、ブトキシベンゼン、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、及びアニソールなどのエーテル系溶媒、N,N−ジメチルホルムアミド、及びN,N−ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒、1−メチル−2−ピロリドン、及び1−メチル−2−イミダゾリジノン等のイミド系溶媒、ジメチルスルフォキサイドなどのスルホキシド系溶媒、並びに、アセトニトリルなどのニトリル系溶媒などが挙げられる。
上記有機溶媒は、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0075】
(バインダーポリマー)
有機薄膜トランジスタ用組成物は、さらに、バインダーポリマーを含有してもよい。
バインダーポリマーの種類は特に制限されず、公知のバインダーポリマーを用いることができる。バインダーポリマーとしては、ポリスチレン、ポリカーボネート、ポリアリレート、ポリエステル、ポリアミド、ポリイミド、ポリウレタン、ポリシロキサン、ポリスルフォン、ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、セルロース、ポリエチレン、及びポリプロピレンなどの絶縁性ポリマー、並びにこれらの共重合体;エチレン−プロピレンゴム、アクリロニトリル−ブタジエンゴム、水素化されたニトリルゴム、フッ素ゴム、パーフルオロエラストマー、テトラフルオロエチレンプロピレン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体、スチレン−ブタジエンゴム、ポリクロロプレン、ポリネオプレン、ブチルゴム、メチル・フェニルシリコーン樹脂、メチル・フェニルビニル・シリコーン樹脂、メチル・ビニル・シリコーン樹脂、フルオロシリコーン樹脂、アクリルゴム、エチレンアクリルゴム、クロロスルホン化ポリエチレン、クロロポリエチレン、エピクロロヒドリン共重合体、ポリイソプレン−天然ゴム共重合体、ポリイソプレンゴム、スチレン−イソプレンブロック共重合体、ポリエステルウレタン共重合体、ポリエーテルウレタン共重合体、ポリエーテルエステル熱可塑性エラストマー、及びポリブタジエンゴム等のゴム又は熱可塑性エラストマー;ポリビニルカルバゾール、及びポリシランなどの光伝導性ポリマー;ポリチオフェン、ポリピロール、ポリアニリン、及びポリパラフェニレンビニレンなどの導電性ポリマー;例えばChemistry of Materials,2014,26,647.等に記載の半導体ポリマー;を挙げることができる。
ポリマーバインダーは、単独で使用してもよく、あるいは複数併用してもよい。
なかでも、バインダーポリマーとしては、ベンゼン環を有する高分子化合物(ベンゼン環基を有する単量体単位を有する高分子)が好ましい。ベンゼン環を有する単量体単位の含有量は特に制限されないが、全単量体単位中、50モル%以上が好ましく、70モル%以上がより好ましく、90モル%以上がさらに好ましい。上限は特に制限されず、例えば100モル%である。
上記バインダーポリマーの具体例としては、例えば、ポリスチレン、ポリ(α−メチルスチレン)、ポリビニルシンナメート、ポリ(4−ビニルフェニル)、ポリ(4−メチルスチレン)、ポリ[ビス(4−フェニル)(2,4,6−トリメチルフェニル)アミン]、及びポリ[2,6−(4,4−ビス(2−エチルヘキシル)−4Hシクロペンタ[2,1−b;3,4−b’]ジチオフェン)−アルト−4,7−(2,1,3−ベンゾチアジアゾール)]などが挙げられ、ポリスチレン、又はポリ(α−メチルスチレン)がより好ましく、ポリ(α−メチルスチレン)が更に好ましい。
パインダーポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、1000〜200万が好ましく、3000〜100万がより好ましく、5000〜60万がさらに好ましい。
パインダーポリマーの重量平均分子量は、特に制限されないが、1000〜200万が好ましく、3000〜100万がより好ましく、5000〜60万がさらに好ましい。
バインダーポリマーを含有する場合の含有量は、有機薄膜トランジスタ用組成物に含まれる一般式(1)で表される化合物100質量部に対して、1〜10,000質量部であることが好ましく、10〜1,000質量部であることがより好ましく、25〜400質量部であることが更に好ましく、50〜200質量部であることが最も好ましい。上記範囲内であると、得られる有機半導体膜及び有機半導体素子のキャリア移動度及び膜の均一性により優れる。
【0076】
(その他の成分)
有機薄膜トランジスタ用組成物は、上記以外のその他の成分を含有してもよい。その他の成分としては、公知の添加剤等を用いることができる。
【0077】
(調製方法)
有機薄膜トランジスタ用組成物の調製方法は、特に制限されず、公知の方法を採用できる。例えば、有機溶媒中に所定量の一般式(1)で表される化合物などを添加して、適宜攪拌処理を施すことにより、本発明の有機薄膜トランジスタ用組成物を得ることができる。
【0078】
[有機薄膜トランジスタ用材料]
本発明の有機薄膜トランジスタ用材料は、上述した一般式(1)で表される化合物を含有する。有機薄膜トランジスタ用材料とは、有機薄膜トランジスタに使用され、半導体の特性を表す材料のことを指す。
上記一般式(1)で表される化合物は、半導体としての性質を示す材料であり、電子をキャリアとして伝導するp型(正孔輸送型)の有機半導体材料である。
なお、有機薄膜トランジスタ用材料は、後述するその他の用途に使用してもよく、この場合には、「有機薄膜トランジスタ用材料」を単に「有機半導体材料」という。
【0079】
[一般式(1)で表される化合物のその他の用途]
上記一般式(1)で表される化合物は、上記のように優れた性質を有するため、有機薄膜トランジスタ以外のその他の用途にも好適に使用できる。
その他の用途としては、例えば、非発光性有機半導体デバイスが挙げられる。非発光性有機半導体デバイスとは、発光することを目的としないデバイスを意味する。
このような非発光性有機半導体デバイスとしては、上述した有機薄膜トランジスタの他に、有機光電変換素子(光センサ用途の固体撮像素子、及びエネルギー変換用途の太陽電池など)、ガスセンサ、有機整流素子、及び情報記録素子などが挙げられる。
非発光性有機半導体デバイスは、有機半導体膜をエレクトロニクス要素として機能させることが好ましい。有機半導体膜は、上記一般式(1)で表される化合物を含む有機半導体膜を含む。
【実施例】
【0080】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0081】
[実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−4]
≪合成例≫
<化合物1の合成>
以下のスキームに示した具体的合成手順に準じて、一般式(1)で表される化合物である、化合物1を合成した。
【化4】
【0082】
【化5】
【0083】
<化合物2〜8の合成>
上記化合物1の合成方法に準じて、一般式(1)で表される化合物である化合物2〜8を、それぞれ合成した。
【0084】
【化6】
【0085】
<比較化合物1〜4の合成>
比較素子の有機半導体層に用いる比較化合物1〜4を、各文献に記載の方法に準じて合成した。比較化合物1〜4の構造を以下に示す。
【0086】
【化7】
【0087】
なお、上記構造の比較化合物1はChem. Mater., 2013, 25 (20), pp 3952-3956に記載されている合成法に従って合成した。上記構造の比較化合物2は特許文献1(特開2015−48346号公報)に記載された化合物であり、同文献に記載されている合成法に従って合成した。また、上記構造の比較化合物3は特許文献2(特開2014−168059号公報)に記載された化合物であり、同文献に記載されている合成法に従って合成した。上記構造の比較化合物4は特表2012−503889号公報に記載された化合物であり、同文献に記載されている合成法に従って合成した。
【0088】
≪素子作製・評価≫
素子作製に用いた有機薄膜トランジスタ用材料(上記の各化合物)は、高速液体クロマトグラフィー(東ソーTSKgel ODS−100Z)により純度(254nmの吸収強度面積比)が99.0%以上であることを確認した。
【0089】
<塗布プロセスによるボトムゲート・トップコンタクト型素子の作製>
上記で合成した化合物1と溶媒としてのトルエンとを混合して0.1質量%溶液を調製し、40℃に加熱したものを、有機薄膜トランジスタ用組成物1とした。
また、化合物1の代わりに化合物2〜8あるいは比較化合物1〜4のいずれかを用いた以外は同様の方法により、有機薄膜トランジスタ用組成物2〜8、比較用有機薄膜トランジスタ用組成物1〜4を各々調製した。
【0090】
実施例及び比較例では、
図3〜
図5に記載の方法により有機半導体膜の形成を実施した。
図3〜
図5は、実施例及び比較例の有機半導体膜の製造方法を示す模式図である。
有機薄膜トランジスタ用組成物1を用いた場合を例に挙げて、有機半導体膜の形成方法の詳細を以下に示す。
n型シリコン基板(0.4mm厚さ)の表面に、SiO
2の熱酸化膜500nmを形成した10mm×10mm基板を基板212として使用した。基板212の熱酸化膜側の表面に対して、UV(紫外線)−オゾン洗浄を施した後、β−フェニチルトリメトキシシラン処理を行った。
基板212のβ−フェニチルトリメトキシシラン処理面上であって、
図3に示すように基板212の中央部に、部材214を、基板212と接触させた状態となるように置いた。部材214はガラス製で、縦6mm×横1mm×高さ2mmのものを用い、
図3の左右方向(X軸方向)が部材214の横方向であり、
図3の上下方向(Z軸方向)が部材214の高さ方向であり、
図4Bの上下方向(Y軸方向)が部材214の縦方向である。
基板212を40℃に加熱し、ここに上記の方法で調製した有機薄膜トランジスタ用組成物1(
図3〜
図5に示す有機薄膜トランジスタ用組成物210)の1滴(約0.02ml)を、ピペット216を用いて、
図3に示すとおり基板212と部材214の両方に接するように部材214の側部からたらしたところ、
図4A及び
図4Bに示すとおり基板212の表面内の一部に有機薄膜トランジスタ用組成物1が滴下された。部材214との界面においては凹状のメニスカスを形成していた。
図5に示すとおり、基板212と部材214を接触させた状態を維持しながら、また、基板212と部材214との位置関係を静止させた状態で、滴下した有機薄膜トランジスタ用組成物1を自然乾燥させた。その後30℃で8時間、10
−3MPaの圧力下で減圧乾燥させることで化合物1の結晶を析出させて、有機半導体膜を形成した。結晶が析出したか否かは、偏光顕微鏡による観察によって確認した。なお、得られた有機半導体膜の膜厚は、70nmであった。
得られた有機半導体膜に、さらにマスクをつけて電荷注入アクセプターとしてF4−TCNQ(2,3,5,6-テトラフルオロ-7,7,8,8-テトラシアノキノジメタン)2nmと金電極40nmをそれぞれ蒸着することによりFET(電界効果トランジスタ)特性測定用の有機薄膜トランジスタ素子1(以下「素子1」ともいう。)を得た。
【0091】
また、有機薄膜トランジスタ用組成物1の代わりに有機薄膜トランジスタ用組成物2〜8又は比較用有機薄膜トランジスタ用組成物1〜4のいずれかを用いた以外は上記素子1の作製方法に準じて、有機薄膜トランジスタ素子1−2〜1−8(以下「素子1−2〜1−8」ともいう。)及び比較有機薄膜トランジスタ素子1−1〜1−4(以下「比較素子1−1〜1−4」ともいう。)を各々作製した。得られた素子1−1〜1−8及び比較素子1−1〜1−4を、実施例1−1〜1−8及び比較例1−1〜1−4の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0092】
<評価>
各有機薄膜トランジスタ素子(素子1−1〜1−8及び比較素子1−1〜1−4)のFET特性は、セミオートプローバー(ベクターセミコン製、AX−2000)を接続した半導体パラメーターアナライザー(Agilent製、4156C)を用いて常圧・大気下でのキャリア移動度の観点で評価した。
【0093】
(キャリア移動度)
各有機薄膜トランジスタ素子(FET素子)のソース電極−ドレイン電極間に−50Vの電圧を印加し、ゲート電圧を20V〜−150Vの範囲で変化させ、ドレイン電流I
dを表わす式I
d=(w/2L)μC
i(V
g−V
th)
2(式中、Lはゲート長、Wはゲート幅、C
iは絶縁層の単位面積当たりの容量、V
gはゲート電圧、V
thは閾値電圧)を用いてキャリア移動度μを算出し、以下の5段階で評価した。
得られた結果を下記表に示す。
【0094】
「AA」:≧4cm
2/Vs
「A」:2cm
2/Vs以上〜4cm
2/Vs未満
「B」:1cm
2/Vs以上〜2cm
2/Vs未満
「C」:0.1cm
2/Vs以上〜1cm
2/Vs未満
「D」:<0.1cm
2/Vs
【0095】
【表19】
【0096】
[実施例2−1〜2−8及び比較例2−1〜2−4]
≪素子作製・評価≫
<塗布プロセスによるボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の作製>
実施例2−1〜2−8及び比較例2−1〜2−4ではボトムゲート・ボトムコンタクト型の有機薄膜トランジスタ素子を作製した。詳細を下記に示す。
上記実施例1において化合物1の0.1質量%トルエン溶液を40℃に加熱することにより得た有機薄膜トランジスタ用組成物1を、窒素雰囲気下、40℃に加熱した下記FET特性測定用基板上にキャスト(ドロップキャスト法)することで、非発光性有機薄膜トランジスタ素子2−1(以下「素子2−1」ともいう。)を得た。
FET特性測定用基板としては、ソース及びドレイン電極としてくし型に配置されたクロム/金(ゲート幅W=100mm、ゲート長L=100μm)、絶縁膜としてSiO
2(膜厚500nm)を備えたボトムゲート・ボトムコンタクト構造のシリコン基板を用いた。
【0097】
有機薄膜トランジスタ用組成物1の代わりに有機薄膜トランジスタ用組成物2〜8又は比較用有機薄膜トランジスタ用組成物1〜4のいずれかを用いた以外は上記素子2−1の作製方法に準じて、有機薄膜トランジスタ素子2−2〜2−8(以下「素子2−2〜2−8」ともいう。)及び比較有機薄膜トランジスタ素子2−1〜2−4(以下「比較素子2−1〜2−4」ともいう。)を各々作製した。得られた素子2−1〜2−8及び比較素子2−1〜2−4を、実施例2−1〜2−8及び比較例2−1〜2−4の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0098】
<評価>
各有機薄膜トランジスタ素子(素子2−1〜2−8及び比較素子2−1〜2−4))のFET特性を、実施例1−1と同様の方法で評価した。その結果を下記表に示す。
【0099】
【表20】
【0100】
[実施例3−1〜3−7及び比較例3−1〜3−4]
≪素子作製・評価≫
<蒸着プロセスによるボトムゲート・トップコンタクト型素子の作製>
上記実施例1−1と同様の方法で、基板212の酸化膜側の表面に対して、UV−オゾン洗浄を施した後、ドデシルトリクロロシラン処理を行った。
この基板212のドデシルトリクロロシラン処理面上に、化合物1を0.05nm/sの蒸着速度で膜厚40nmになるように蒸着成膜した。
得られた有機半導体膜に、さらにマスクをつけて電荷注入アクセプターとしてF4−TCNQ2nmと金電極40nmをそれぞれ蒸着することによりFET特性測定用の有機薄膜トランジスタ素子3−1(以下「素子3−1」ともいう。)を得た。
化合物1の代わりに化合物2、4〜8又は比較化合物1〜4のいずれかを用いた以外は素子3−1と同様の方法により、有機薄膜トランジスタ素子3−2〜3−7(以下「素子3−2〜3−7」ともいう。)及び比較有機薄膜トランジスタ素子3−1〜3−4(以下「比較素子3−1〜3−4」ともいう。)を各々作製した。得られた素子3−1〜3−7及び比較素子3−1〜3−4を、実施例3−1〜3−7及び比較例3−1〜3−4の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0101】
<評価>
有機薄膜トランジスタ素子(素子3−1〜3−7及び比較素子3−1〜3−4)のFET特性を、実施例1と同様の方法で評価した。その結果を下記表に示す。
【0102】
【表21】
【0103】
上記の評価結果より、上記一般式(1)で表される化合物を用いた各実施例の有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が高いことが確認され、上記一般式(1)で表される化合物は有機薄膜トランジスタ用材料として好ましく用いられることが分かった。
また、化合物1〜8を用いた各実施例を比較することにより(表2〜4参照)、上記一般式(1)で表される化合物は、いずれの膜形成手段及びトランジスタ層構成においても優れたキャリア移動度を与えることが分かった。
一方、一般式(1)の範囲外である比較化合物1〜4を有機薄膜トランジスタ用材料として有機半導体層に用いた有機薄膜トランジスタ素子は、いずれにおいてもキャリア移動度が低いことが分かった。
【0104】
[実施例4−1〜4−8及び比較例4−1〜4−4]
<ポリマーバインダーを用いたボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の作製>
実施例2−1で化合物1の代わりに化合物1とポリα−メチルスチレンを質量比1:1で含有した材料(材料1’)を用いた以外は実施例2−1と同様にボトムゲート・ボトムコンタクト型有機薄膜トランジスタ素子4−1(以下「素子4−1」ともいう。)を作製した。 素子4−1の作製において、化合物1の代わりに化合物2〜8又は比較化合物1〜4のいずれかを用いた以外は同様の方法により、有機薄膜トランジスタ素子4−2〜4−8(以下「素子4−2〜4−8」ともいう。)及び比較有機薄膜トランジスタ素子4−1〜4−4(以下「比較素子4−1〜4−4」ともいう。)を各々作製した。得られた素子4−1〜4−8及び比較素子4−1〜4−4を、実施例4−1〜4−8及び比較例4−1〜4−4の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0105】
<評価>
各有機薄膜トランジスタ素子(素子4−1〜4−8及び比較素子4−1〜4−4)のFET特性を、実施例1と同様の方法で評価した。その結果を下記表に示す。
【0106】
【表22】
【0107】
上記表5より、本発明の一般式(1)で表される化合物を用いた各実施例の有機薄膜トランジスタ素子は、ボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の場合及びポリマーバインダーを用いた場合でもキャリア移動度が高いことが確認され、本発明の一般式(1)で表される化合物は有機薄膜トランジスタ材料として好ましく用いられることが分かった。
一方、一般式(1)の範囲外である比較化合物1〜4を有機薄膜トランジスタ材料として有機半導体層に用いた有機薄膜トランジスタ素子は、キャリア移動度が低いことが分かった。
【0108】
[実施例5−1〜5−16]
≪素子作製・評価≫
<印刷法によるボトムゲート・ボトムコンタクト型素子の作製>
−インクジェット法―
化合物1と溶媒としてのテトラリンとを混合して0.1質量%溶液を調整し、これを有機薄膜トランジスタ用組成物21とした。また、化合物1の代わりに各々化合物2〜8を用いた以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ用組成物22〜28を調整した。
上記有機薄膜トランジスタ用組成物21を用い、インクジェット法により、実施例2−1と同様のボトムゲート・ボトムコンタクト型FET特性測定用基板上に有機半導体膜を形成し、非発光性有機薄膜トランジスタ素子5−1(以下「素子5−1」ともいう。)を得た。
なお、インクジェット法による有機半導体膜の具体的な作製方法は、下記の通りである。
インクジェット装置としてはDMP2831(富士フイルムグラフィックシステムズ(株)製)、10plヘッドを用い、吐出周波数2Hz、ドット間ピッチ20μmでベタ膜を形成した。その後70℃で1時間乾燥することで有機半導体膜を形成した。
【0109】
有機薄膜トランジスタ用組成物21の代わりに有機薄膜トランジスタ用組成物22〜28を用いた以外は上記素子5−1の作製方法に準じて、有機薄膜トランジスタ素子5−2〜5−8(以下「素子5−2〜5−8」ともいう。)を各々作製した。得られた素子5−1〜5−8を、実施例5−1〜5−8の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0110】
−フレキソ印刷法―
テトラリン中に化合物1を0.5質量%、ポリα−メチルスチレンを0.5質量%、界面活性剤としてBYK323(BYK社製)を0.05%溶解した塗布液を調製し、これを有機薄膜トランジスタ用組成物31とした。また、化合物1の代わりに各々化合物2、5〜8を用いた以外は同様にして、有機薄膜トランジスタ用組成物32〜36を調整した。
上記有機薄膜トランジスタ用組成物31を用い、フレキソ印刷法により、実施例2−1と同様のボトムゲート・ボトムコンタクト型FET特性測定用基板上に有機半導体膜を形成し、非発光性有機薄膜トランジスタ素子5−9(以下「素子5−9」ともいう。)を得た。
なお、フレキソ印刷法による有機半導体膜の具体的な作製方法は、下記の通りである。
印刷装置として、フレキソ適性試験機F1(アイジーティ・テスティングシステムズ(株)製)を用い、フレキソ樹脂版として、AFP DSH1.70%(旭化成(株)製)/ベタ画像を用いた。版と基板間の圧は、60N、搬送速度0.4m/秒で印刷を行った後、そのまま、60℃下で2時間乾燥することで、有機半導体膜(膜厚:50nm)を作製した。
【0111】
有機薄膜トランジスタ用組成物31の代わりに有機薄膜トランジスタ用組成物32〜36を用いた以外は上記素子5−9の作製方法に準じて、有機薄膜トランジスタ素子5−10〜5−14(以下「素子5−10〜5−14」ともいう。)を各々作製した。得られた素子5−9〜5−14を、実施例5−9〜5−14の有機薄膜トランジスタ素子とした。
【0112】
<評価>
各有機薄膜トランジスタ素子(素子5−1〜5−14)のFET特性を、実施例1−1と同様の方法で評価した。その結果を下記表に示す。
【0113】
【表23】
【0114】
表6より、本発明の一般式(1)で表される化合物をインクジェット法又はフレキソ印刷法により成膜してなる有機半導体層を備えた各実施例の有機薄膜トランジスタ素子は、いずれもキャリア移動度が高いことが確認された。この結果から、本発明の一般式(1)で表される化合は有機薄膜トランジスタ材料として好ましく用いられることが分かる。
【0115】
[実施例6−1〜6−8]
<インバータの作製>
図6に示すように、実施例1−1の有機薄膜トランジスタ素子に可変抵抗を接続し、可変抵抗の抵抗値を適切な値に設定して、インバータ素子6−1を作製した。また、実施例1−1の有機薄膜トランジスタ素子に変えて実施例1−2〜実施例1−8の有機薄膜トランジスタ素子を用いて、インバータ素子6−2〜6−8を作製した。いずれのインバータ素子もゲイン10以上の良好なインバータ特性を示した。
【0116】
[実施例7−1〜7−8]
<リングオシレーターの作製>
図7に示すように、実施例6−1のインバータ素子を3段連結することによりリングオシレーター素子7−1を作製した。また、実施例6−1のインバータ素子に変えて実施例6−2〜実施例6−8のインバータ素子を用いて、リングオシレーター素子7−2〜7−8を作製した。いずれのリングオシレーター素子も安定して発振した。
【0117】
以上のように本発明の化合物用いることにより、各種デバイスの作製が可能なことが示された。