【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、環境省、未来のあるべき社会・ライフスタイルを創造する技術イノベーション事業「高品質GaN基板を用いた超高効率GaNパワー・光デバイスの技術開発とその実証」に係る委託業務、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
液相成長法で成長させたIII族窒化物単結晶を種結晶基板として、その主面上に気相成長法でIII族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法において、
前記種結晶基板の主面が+c面であり、
前記種結晶基板は、面内全域に亘って、その主面近傍における結晶中の酸素原子濃度が1×1017cm−3以下であり、
前記種結晶基板の少なくとも主面の結晶領域は、その結晶成長時に2次元成長モードの平坦な成長界面形状を保った状態で成長された結晶領域により構成されていることを特徴とする、III族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
液相成長法で成長させたIII族窒化物単結晶を種結晶基板として、その主面上に気相成長法でIII族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法において、
前記種結晶基板の主面が+c面であり、
前記種結晶基板は、面内全域に亘って、その主面近傍における結晶中の酸素原子濃度が1×1017cm−3以下であり、
前記種結晶基板は、その結晶成長時に3次元成長モードの凹凸な成長界面形状を徐々に2次元成長モードの平坦な成長界面形状に移行させて成長された結晶からなることを特徴とする、III族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
前記気相成長法がHVPE法であり、HVPE法により前記種結晶基板上に前記種結晶基板の厚さよりも厚く前記III族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
前記種結晶基板は、基板上に複数のIII族窒化物種結晶が形成された種結晶形成基板(ポイントシード基板)を出発基板として作製されていることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従来技術では、Naフラックス法等の液相成長法で成長したIII族窒化物(例えば、GaN)種結晶基板上に、HVPE法でIII族窒化物(例えば、GaN)結晶を厚く成長させると、成長した結晶中に新たに転位が発生してしまうことがあった。また、III族窒化物(例えば、GaN)結晶を厚く成長させることで、基板が成長面を凹面側にして大きく反ったり、ひどい場合は結晶中にクラックが発生することもあった。
【0010】
これらの現象は、結晶の成長ロット毎に発生の頻度や程度がばらついており、また、基板の面内で部分的に発生することもあり、結晶の製造歩留りを大きく下げる要因になっていたが、これまでその発生メカニズムが解明されておらず、従って対策も確立されていなかった。
【0011】
そこで、本発明の目的は、Naフラックス法などの液相成長法で成長したIII族窒化物種結晶基板上に、HVPE法などの気相成長法でIII族窒化物(例えば、GaN)結晶を厚く成長させた場合においても、成長した結晶中に新たに転位が発生することや、基板の反りや結晶中のクラックが発生することを抑制できるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の一態様は、上記目的を達成するために、下記[1]〜[
13]のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法を提供する。
【0013】
[1]液相成長法で成長させたIII族窒化物単結晶を種結晶基板として、その主面上に気相成長法でIII族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法において、前記種結晶基板の主面が+c面であり、前記種結晶基板は、面内全域に亘って、その主面近傍における結晶中の酸素原子濃度が1×10
17cm
−3以下
であり、前記種結晶基板の少なくとも主面の結晶領域は、その結晶成長時に2次元成長モードの平坦な成長界面形状を保った状態で成長された結晶領域により構成されていることを特徴とする、III族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0014】
[2]
液相成長法で成長させたIII族窒化物単結晶を種結晶基板として、その主面上に気相成長法でIII族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法において、前記種結晶基板の主面が+c面であり、前記種結晶基板は、面内全域に亘って、その主面近傍における結晶中の酸素原子濃度が1×1017cm−3以下であり、前記種結晶基板は、その結晶成長時に3次元成長モードの凹凸な成長界面形状を徐々に2次元成長モードの平坦な成長界面形状に移行させて成長された結晶からなることを特徴とする、III族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0015】
[3]
前記種結晶基板上に気相成長法で成長される前記III族窒化物単結晶は、結晶中の酸素原子濃度が1×1017cm−3以下であることを特徴とする、[1]又は[2]に記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0017】
[
4]前記種結晶基板は、少なくとも主面に鏡面研磨加工が施されていることを特徴とする、[1]〜[
3]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0018】
[
5]前記種結晶基板の表面における平均転位密度が、1×10
7cm
−2以下であることを特徴とする、[1]〜[
4]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0019】
[
6]前記種結晶基板のc面は、結晶内部で主面に向かって凹面型の反りを有していることを特徴とする、[1]〜[
5]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0020】
[7]前記種結晶基板の直径が50mm以上であり、かつそのc面が、結晶内部で主面に向かって曲率半径5m以上の凹面型の反りを有していることを特徴とする、[
6]に記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0021】
[8]前記液相成長法が、フラックス法であることを特徴とする、[1]〜[
7]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0022】
[
9]前記気相成長法がHVPE法であり、HVPE法により前記種結晶基板上に前記種結晶基板の厚さよりも厚く前記III族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させることを特徴とする、[1]〜[
8]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0023】
[
10]前記種結晶基板は、基板上に複数のIII族窒化物種結晶が形成された種結晶形成基板(ポイントシード基板)を出発基板として作製されていることを特徴とする、[1]〜[
9]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0024】
[
11]前記種結晶基板は、少なくとも主面には極性反転領域が存在していないことを特徴とする、[1]〜[
10]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0025】
[
12]前記気相成長法で成長したIII族窒化物単結晶から、少なくとも1枚以上のIII族窒化物単結晶自立基板を作製することを特徴とする、[1]〜[
11]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0026】
[
13]前記III族窒化物が、GaNであることを特徴とする、[1]〜[
12]のいずれか1つに記載のIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法。
【0027】
本発明者らは、Naフラックス法などの液相成長法で作製したIII族窒化物(例えば、GaN、以下「GaN」を例に説明する)基板上にHVPE法などの気相成長法でGaN結晶を厚膜エピタキシャル成長させた際に、転位欠陥や反りの発生するメカニズムを鋭意調査研究した結果、液相成長法で成長したGaN結晶と気相成長法で成長したGaN結晶の間で微妙な格子不整合を生じる場合があること、それが、液相成長法でGaN結晶を成長させる際の成長モードに依存した不純物元素、とりわけ酸素の取り込み量の差に起因していることを突き止めた。
【0028】
Naフラックス法は、比較的高純度なGaN結晶を成長することのできる結晶成長法であるが、例外的に酸素はGaN結晶中に取り込まれやすい。GaN結晶への酸素の取り込み量は、結晶成長炉内の雰囲気や部材の純度及び結晶成長条件に依存するが、多い時は19乗cm
−3台の酸素がGaN結晶中に取り込まれることがある。
【0029】
酸素がGaN結晶中に多量に取り込まれると、GaN結晶の格子はc軸と垂直な方向に伸ばされ、その上にHVPE法で成長されるGaN結晶との格子不整は0.01%以上になる。この格子不整がHVPE法で成長したGaN結晶中に歪を発生させ、転位を生じたり、基板を成長方向に向かって凹面に反らせ、甚だしい場合はクラックを生じさせる原因になっていたことが判明した。
【0030】
Naフラックス法による成長においてどのような時にGaN結晶中に酸素が取り込まれやすいかというと、結晶成長界面が平坦になっていない時、即ちc軸方向の成長であれば、成長界面に非c面が出現した状態で成長されたGaN結晶には酸素が取り込まれやすい。非c面で成長した結晶は、c面で成長した結晶に比べて、実に100倍も高濃度の酸素が取り込まれていることが判明した。
【0031】
Naフラックス法でGaN結晶を成長させるメリットは、転位密度の低いGaN結晶を成長させやすいことにある。従って、Naフラックス法による成長に供する下地基板にも低転位基板が求められるが、そのような基板は一般には入手が困難なため、通常はELO(Epitaxial Lateral Overgrowth)法や前述の特許文献3や非特許文献1〜2に記載された方法(いわゆる、ポイントシード法)などの、核発生領域を限定した下地基板が用いられる。
【0032】
核発生領域を限定した下地基板上にGaN結晶を成長させる場合、始めに各核発生領域上にGaNの結晶核が発生し、次いでそれぞれの結晶核が大きく成長して複数のアイランドが形成される。この状態を3次元島状成長モードと呼ぶ。その後、更にGaNのアイランドが大きく成長すると、隣接するアイランド同士が結合してGaNの連続膜となる。この時、結晶成長条件によっては、成長界面はアイランドの凹凸形状を保ったまま、非c面が出現した状態の3次元成長モードで成長を継続する場合もあり、また成長界面が徐々に平坦化し、c面で成長が進行する2次元成長モードへと移行する場合もある。
【0033】
フラックス法の種結晶基板に、核発生領域を限定した下地基板がよく用いられるのは、3次元成長モードでは、下地基板から引き継がれた転位や下地基板と初期成長核の界面で発生した転位が、結晶中をgrown-inで伝播する過程で、その進行方向を曲げられて、上面へ到達しにくくなることが知られているからであり、この効果により非常に転位密度の低いGaN結晶を成長させることができるからである。従って、結晶成長の初期には、故意に3次元成長モードが出現するようにしているのである。
【0034】
ところが、3次元成長モードで成長したGaNには、上述のように結晶中の酸素濃度が高くなる傾向がある。しかし、従来は、その結晶中の酸素が次にHVPE法で成長するGaN結晶にどのような影響を及ぼしているか判っていなかったため、結晶中の酸素の分布形態に着目した結晶成長の制御が行われていなかった。即ち、フラックス法で作製したGaN基板には、3次元成長モードのまま成長された結晶や、部分的に2次元成長モードに移行した界面で成長された結晶や、2次元成長モードで成長された結晶が混在している状況であった。また、2次元成長モードで成長された結晶であっても、その領域が十分に厚く成長されていなかったため、その後の研磨加工で2次元成長モードで成長された結晶領域が除去されてしまい、3次元成長モードで成長された結晶領域が基板表面に現れている場合も多々あった。
【0035】
尚、フラックス法で作製されたGaN基板上にGaN結晶を成長させた例は、これまでも報告されていたが、多くはMOCVD法による薄膜成長である。成長する結晶が数十μmまでの薄膜の場合、成長結晶の格子が弾性変形で歪んだまま成長するため、転位の発生や反り、クラックの発生といった不具合が出現しない場合が多い。しかし、GaN基板の取得を目的として、数百μmを超える厚膜を成長すると、結晶内で歪みを蓄積しきれなくなって、上記の不具合が発生する。
【0036】
しかし、数百μmを超える厚膜結晶であっても、結晶欠陥を多数含む場合、即ち高密度の転位や欠陥集中領域を伴う結晶を成長させる場合は、それらの欠陥が歪みの開放端となるため、上記の不具合は発生しない。従って、上記の現象は高品質なGaNの厚膜結晶が成長できるようになって初めて判明した知見なのである。
【0037】
本発明は、上記の知見に基づいて考案されたものである。
【発明の効果】
【0038】
本発明によれば、Naフラックス法などの液相成長法で成長したIII族窒化物種結晶基板上に、HVPE法などの気相成長法でIII族窒化物(例えば、GaN)結晶を厚く成長させた場合においても、成長した結晶中に新たに転位が発生することや、基板の反りや結晶中のクラックが発生することを抑制できるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0040】
本発明の実施の形態に係るIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法は、液相成長法で成長させたIII族窒化物単結晶を種結晶基板として、その主面上に気相成長法でIII族窒化物単結晶をホモエピタキシャル成長させるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法において、前記種結晶基板の主面が+c面であり、前記種結晶基板は、面内全域に亘って、その主面近傍における結晶中の酸素原子濃度が1×10
17cm
−3以下であることを特徴とする。1×10
17cm
−3以下という酸素原子濃度は、GaNを厚く(例えば、500μm以上)成長させたときに酸素原子による格子歪みの影響が無視できるようになる濃度である。
なお、本実施の形態において、「主面」とは、結晶に存在する表面のうち最も広い面を意味し、種結晶基板の「主面」は通常結晶成長が行われるべき面となる。また、本実施の形態において、「c面」とは、六方晶構造(ウルツ鉱型結晶構造)における{0001}面であり、c軸に直交する面である。かかる面は極性面であり、III族窒化物半導体結晶では「+c面」はIII族金属面(窒化ガリウムの場合はガリウム面)である。また、本実施の形態において、「面内全域に亘って」とは、基板表面の任意の複数箇所、例えば、基板表面の中心及びそこから5〜10mm離れた同心円上の2〜3点及び15〜20mm離れた同心円上の2〜3点(具体的には、例えば、後述する実施例のように、基板表面の中心及びそこから左右に10mm及び20mm離れた点の計5点)について酸素原子濃度を測定することで「面内全域に亘って」の測定であるとみなすことができる。更に、本実施の形態において、「主面近傍」とは、主面から深さ方向に20μmの範囲内の領域を意味する。
【0041】
また、本発明の実施の形態においては、前記種結晶基板の主面近傍における結晶中の酸素原子濃度とともに、前記種結晶基板上に気相成長法で成長される前記III族窒化物単結晶の結晶中の酸素原子濃度も1×10
17cm
−3以下であることが望ましい。GaN結晶中の酸素濃度が1×10
17cm
−3以下であれば、種基板側の格子歪みは無視できる程度に小さくできるが、成長結晶側の酸素濃度が高ければ意味が無い。両者の濃度を合わせれば歪みを相殺することは可能であるが、精度良く制御するためには両者が共に1×10
17cm
−3以下であることが望ましい。
【0042】
また、フラックス法などの液相成長法(以下、フラックス法を例に説明する)で成長した前記GaN種結晶基板の少なくとも主面の結晶領域は、その結晶成長時に2次元成長モードの平坦な成長界面形状を保った状態で成長された結晶領域により構成されていることが望ましい。更には、フラックス法で成長した前記GaN種結晶基板は、その結晶成長時に3次元成長モードの凹凸な成長界面形状を徐々に2次元成長モードの平坦な成長界面形状に移行させて成長された結晶からなることが望ましい。主面の結晶領域が、2次元成長モードの平坦な界面形状を保った状態で成長された結晶領域により構成されていることは、GaN結晶中に取り込まれる酸素濃度を低減するのに有効である。GaN結晶中の酸素濃度を低減する他の方法として、フラックス法の炉内に混入する酸素や水分を極めて低濃度に管理することが考えられるが、原料の純度や炉への出し入れのプロセスを考えると、あまり現実的ではない。結晶成長の初期に3次元成長を行うのは、前述の通り転位欠陥の低減効果が期待できるからである。
【0043】
前記種結晶基板は、少なくとも主面に鏡面研磨加工が施されていても良い。特にフラックス法で成長させたアズグロウンのGaN結晶の表面モフォロジに段差や湾曲などが現れている場合は、平坦に鏡面研磨加工が施されていることが望ましい。この場合、研磨表面には残留加工歪が無いようにすることが重要である。
【0044】
また、フラックス法で成長させた前記GaN種結晶基板の表面における平均転位密度は、1×10
7cm
−2以下であることが望ましい。更に、前記GaN種結晶基板は、少なくとも主面には極性反転領域が存在していないことが望ましい。本発明は、前述の通り低欠陥なGaN結晶の製造に好適な方法であり、その効果を発現させるためには、HVPE法などの気相成長法で成長する結晶中の転位密度は1×10
7cm
−2以下であることが望ましく、そのためにはフラックス法で成長した種結晶基板の表面における平均転位密度も1×10
7cm
−2以下であることが望ましい。なお、本発明の実施の形態において、「平均転位密度」とは、基板表面の任意の複数箇所、例えば、基板表面の中心及びそこから5〜10mm離れた同心円上の2〜3点及び15〜20mm離れた同心円上の2〜3点(具体的には、例えば、後述する実施例のように、基板表面の中心及びそこから左右に10mm及び20mm離れた点の計5点)について測定した転位密度の平均を意味する。極性反転領域とは、主面のGa極性面の一部に極性の反転したN極性面の微小領域が現れたものを言う。種結晶に極性反転領域が存在すると、その上にエピタキシャル成長を行ったときに、極性反転領域上にピットなどのモフォロジ異常が出現するといった不具合が生じる。極性反転領域は、CBED法(収束電子回折法)で検出が可能であるが、より簡便に有無を検出するには、正常な領域とのエッチングレート差を利用して、例えば溶融アルカリ中でエッチングを施すことにより、容易に検出することができる。
【0045】
また、本発明の実施の形態においては、前記種結晶基板のc面が結晶内部で反りを有していないことが望ましいが、もし有している場合にあっては、結晶内部で主面に向かって凹面型の反りを有していることが望ましく、更には、前記種結晶基板の直径が50mm以上であり、かつそのc面が結晶内部で主面に向かって曲率半径5m以上の凹面型の反りを有していることが望ましい。種結晶基板のc面が結晶内部で主面に向かって凸面型の反りを有していると、その上に成長するGaN結晶に引張り歪みを生じ、厚膜の結晶を成長させると歪みを開放しようとして逆に凹面型の反りを生じてクラックに至るリスクが高まる。この傾向は成長結晶の直径が大きくなるほど顕著であり、前記種結晶基板の直径が50mm以上の場合は、c面の反りは曲率半径が5m以上でないとクラックの発生確率が高まる。
【0046】
また、本発明の実施の形態においては、前記液相成長法がフラックス法であることが望ましい。金属ナトリウム(Na)を融液の基材として使用するいわゆるNaフラックス法により好適にGaN結晶を成長させることができる。
【0047】
また、本発明の実施の形態においては、前記気相成長法がHVPE法であり、HVPE法により前記種結晶基板の厚さよりも厚くGaN単結晶をホモエピタキシャル成長させることが望ましい。本発明の目的は、気相成長で成長したGaN結晶領域を高品質なGaN基板として利用することにあり、従って気相成長でGaN結晶を厚膜成長させることでその効果が効率的に発揮される。従って、少なくとも種結晶基板より厚く成長させることが望ましく、具体的には500μm以上の厚さに成長させることが望ましい。
【0048】
また、本発明の実施の形態において、前記種結晶基板は、前述の特許文献3や非特許文献1〜2に記載された、基板上に複数のIII族窒化物種結晶が形成された種結晶形成基板(いわゆる、ポイントシード基板)を出発基板として作製してもよい。ポイントシード基板を出発基板とすることで、低転位密度のGaN結晶基板を再現良く成長させることができる。
【0049】
本発明の実施の形態にかかるGaN単結晶基板の製造方法では、前記気相成長法で成長したGaN単結晶層から、少なくとも1枚以上のGaN単結晶自立基板を作製することができる。気相成長法で成長したGaN単結晶層から、GaN単結晶の自立基板を作製するに当たっては、作製する基板が1枚だけの場合は、種結晶基板を研削や研磨などで除去する手法を採ることもできるが、複数枚の基板を取得する場合は、ワイヤーソーやワイヤー放電加工機などで基板を切り出す手法を採用することが望ましい。切り出した基板は、表裏面に研磨加工を施すことで、GaNデバイス作製用に好適な基板となる。
【0050】
本発明の実施の形態との比較のため、以下に従来技術の実施の形態を説明する。
【0051】
図9は、従来技術に係る、Naフラックス法でGaN単結晶を結晶成長させて種結晶基板を製造する工程を示す断面模式図である。
ここでは、フラックス法用の種結晶基板として、予め複数のc面(Ga面)を表面とするGaN結晶(ポイントシード)2が下地基板1上に配置された基板10を用いる(
図9(a))。このフラックス法用種結晶基板10を、窒素を含む雰囲気下で、フラックスとなるGaを含有するアルカリ金属融液に接触させ、Ga元素と窒素とをアルカリ金属融液中で反応させてGaN結晶を生成させ、ポイントシード2上にGaN結晶3を成長させる(
図9(b))。ポイントシード2上に成長するGaN結晶3は、はじめ独立した六角錐形の島状結晶であるが、成長が進行するにつれて島状結晶が肥大化し、隣接する結晶どうしが会合して連続膜状のGaN単結晶13となる(
図9(c))。隣接するGaN結晶どうしが会合して連続膜状のGaN単結晶13となった後も、通常は表面(結晶成長界面)に島状結晶の凹凸を残した形態のまま結晶成長が進行し、連続膜状のGaN単結晶13の厚みが増していく。フラックス法の結晶成長速度は10μm/h程度と非常に遅いため、通常は成長結晶が自立基板として十分な強度を発現する厚さ(300〜400μm程度)まで結晶が成長した段階で成長をやめて結晶を取り出してしまう。このため、c面を呈した状態でさらに結晶成長を持続させるに十分な時間が取られておらず、
図9に示したような凹凸のある結晶成長界面で成長した結晶が得られていた。成長を終了し、フラックスから取り出されたGaN単結晶13は、下地基板1から自発的に(自然に)剥離してGaNの単結晶自立基板13となる(
図9(d))。これの外径を整え、表裏面に研磨加工を施すことで、エピタキシャル成長用のGaN自立単結晶基板14が得られる(
図9(e))。
【0052】
前述した通り、フラックス法で成長したGaN結晶中には、不純物として酸素が取り込まれるが、その取り込み量は、結晶の成長界面の面方位によって大きく変わる。即ち、c面(Ga面)で結晶を成長させた時は、17乗cm
−3台の濃度であるが、非c面で成長させると、19乗cm
−3台まで跳ね上がる。このため、凹凸のある成長界面で成長させた結晶は、その凹凸面の成長履歴に該当する領域がc面で成長させた結晶の成長履歴に該当する領域に比べて高酸素濃度となってしまう。この様子を模式的に示したのが
図10〜11である。
【0053】
図10(a)は、従来技術に係る、Naフラックス法で成長させたアズグロウンGaN結晶中の高酸素濃度領域分布の一例を示す断面模式図であり、
図10(b)は、従来技術に係るNaフラックス法で成長させたアズグロウンGaN結晶中の高酸素濃度領域分布の他の例を示す断面模式図であり、
図10(c)は、従来技術に係るNaフラックス法で成長したGaN結晶基板中の高酸素濃度領域分布を示す断面模式図である。
島状結晶3が会合した領域が凹面部として成長界面に残った形態のまま結晶が成長されているため、凹面の成長履歴に該当する領域が高酸素濃度領域16となって、c面で成長した低酸素濃度領域15と混在している。結晶成長界面の凹凸の度合いによって、この高酸素濃度領域16と低酸素濃度領域15の比率は変化し、ほとんどが高酸素濃度領域16からなる結晶ができてしまうこともある。また、最終的な結晶成長界面が平坦なc面形状を呈していたとしても、そこに至る過程で凹凸のある成長界面での成長が長時間続いていたような場合は、
図10(b)に模式的に示すように、低酸素濃度領域15が均一に存在しているのは、結晶の表面近傍のみであり、結晶の内部には高酸素濃度領域16が広範囲に埋まっている場合がある。
図10(a)や
図10(b)のような結晶の表裏面を除去し、研磨加工を施してGaN単結晶基板を作成すると、外観はきれいなGaN単結晶基板が得られるものの、その内部に
図10(c)に模式的に示すような高酸素濃度領域16を含み、従って結晶の格子定数のばらつきが大きい基板ができてしまうのである。結晶中の高酸素濃度領域16は、結晶に紫外線を照射してその発光状態を観察することで検知が可能である。即ち、酸素濃度の低い領域はルミネッセンス光の発光で明るく光るが、酸素濃度の高い領域は発光が弱いため、暗い影のようなコントラストのついた領域として明確に区別できる。具体的な酸素濃度がどの程度かを調べるには、上記観察で狙いをつけた場所のSIMS分析を行えばよい。
【0054】
このような高酸素濃度領域16を含むGaN基板を種結晶として、その上にHVPE法でGaNの厚膜17をホモエピタキシャル成長させると、HVPE成長結晶中の酸素濃度は通常17乗cm
−3台程度であるため、種結晶の高酸素濃度領域16とは格子定数が合わず、結晶の格子に歪が発生する。そのイメージを模式的に
図11に示す。
図11は、従来技術に係る、Naフラックス法で成長させたGaN結晶基板上にHVPE法で厚膜のGaN結晶をホモエピタキシャル成長させたときの欠陥発生状況を説明する断面模式図である。酸素の入ったGaN結晶の格子はわずかに伸びているため、その上に成長する結晶の格子も伸びた形に歪んで結晶成長が始まるが、結晶が厚くなるに従ってGaN結晶本来の格子定数に戻ろうとする応力が発生するため、結晶全体としては成長方向に向かって凹面に反りを生じ、結晶が弾性変形に耐えられないと、結晶中に転位が発生したりクラックが発生してしまう。格子不整合で転位の発生が見られる結晶では、表面モフォロジも荒れている場合が多く、X線回折による評価でも高い結晶性を示す結果は得られない。苦労してフラックス法とHVPE法を組み合わせて結晶成長を行っても、従来はたまたまc面成長領域が広かったところで部分的に結晶性の良い結晶が得られる程度で、基板全面に渡って高品位な結晶を得ることは至難の技であった。
【0055】
次に、本発明の実施の形態を説明する。
【0056】
図1は、本発明の実施の形態に係る、Naフラックス法でGaN単結晶を結晶成長させて種結晶基板を製造する工程を示す断面模式図である。
ポイントシード結晶2が下地基板1上に配置された基板を種結晶基板10として、フラックス法でGaN結晶を成長させるところ((
図1(a)、(b)))までは従来技術と同じであるが、本発明の実施の形態においては、フラックス法の結晶成長条件を制御して、結晶3の横方向の成長速度を促進させて固液界面を早期に平坦なc面とし(
図1(c)、(d)のGaN単結晶3A→GaN単結晶3B)、その平坦な界面形状を保ったまま、結晶を厚く成長させる(
図1(e))点が従来技術とは異なる。結晶の横方向の成長速度を促進させて固液界面を平坦なc面とするためには、具体的には結晶成長中の結合界面の凹部への窒素供給を促進する、或いはポイントシードのピッチを短くするなどの条件調整を行えば良い。本技術においては、この後の基板表面の研磨加工工程を考慮して、結晶表面を研磨で一部除去しても尚十分なc面成長領域が残るように、平坦な界面形状を保ったまま、結晶を厚く成長させることが肝要である。成長を終了してフラックスから取り出されたGaN単結晶3Cは、従来技術同様に、下地基板1から自発的に(自然に)剥離してGaNの単結晶自立基板3Cとなり(
図1(f))、これの外径を整え、表裏面に研磨加工を施せば、エピタキシャル成長用のGaN自立単結晶基板4が得られる(
図1(g))。
【0057】
図2(a)は、本発明の実施の形態に係る、Naフラックス法で成長させたアズグロウンGaN結晶中の高酸素濃度領域分布を示す断面模式図であり、
図2(b)は、本発明の実施の形態に係る、Naフラックス法で成長させたGaN結晶基板中の高酸素濃度領域分布の一例を示す断面模式図である。
本結晶においても、成長の初期は3次元島状成長モードで結晶成長が進行するため、結晶の裏面近傍には高酸素濃度領域6が存在しているが、早期に固液界面を平坦化させたことで、高酸素濃度領域6は基板の裏面側だけにとどまり、結晶成長の中盤以降は、低酸素濃度領域5が均一に広がっている。この結晶の表裏面に研磨加工を施すことで、
図2(b)のように高酸素濃度領域6が総て除去された酸素濃度が低位で均一なGaN単結晶基板4を得ることができる。
【0058】
また、
図3は、本発明の実施の形態に係る、Naフラックス法で成長させたGaN結晶基板中の高酸素濃度領域分布の他の例を示す断面模式図である。仮に、
図3のように基板裏面側の除去量が不足して、一部に高酸素濃度領域6が残ったとしても、表面側に十分な厚さの低酸素濃度領域5が均一に広がっていれば、問題は無い。
【0059】
このようにして得られたGaN単結晶基板4上であれば、HVPE法でGaN結晶を厚くホモエピタキシャル成長させても、格子の不整合に伴う歪みや転位の発生が起こらず、品質の良いGaN結晶を成長させることが可能になる。
【0060】
図4は、本発明の実施の形態に係る、Naフラックス法で成長させた種結晶基板上にHVPE法で厚膜のGaN結晶をホモエピタキシャル成長させ、成長結晶からGaN基板を複数枚取得する工程を説明する断面模式図である(
図4(a)は
図1(g)と同じ)。
得られた上記GaN種結晶基板(
図4(a))上に、HVPE法でGaN単結晶7を厚く成長させ(
図4(b))、更にHVPE成長結晶7から複数のGaN基板8を切り出す(
図4(c))。結晶をスライスする手段には、内周刃スライサー、外周刃スライサー、ワイヤーソー、放電加工機などの既存スライス技術がそのまま適用できる。
【0061】
(本発明の他の実施形態)
上記本発明の実施の形態においては、III族窒化物(InxAlyGazN(0≦x≦1、0≦y≦1、0≦z≦1、x+y+z=1))としてGaNを例に説明したが、GaN以外のIII族窒化物結晶、例えばAlN、AlGaN、InGaN、AlInGaN、これらの積層構造結晶などにも適用が可能である。
【0062】
また、上記本発明の実施の形態においては、GaNのc面(Ga面)結晶基板の作製技術を例に説明したが、成長方位にオフ角が付けられている場合でも本発明は有効である。また、c面以外の成長方位を採る場合でも、成長の主面とそれ以外の凹凸面とで、取り込まれる不純物の濃度差が生じているような場合には、本発明を有効に適用することができる。
【0063】
(実施の形態の効果)
上記本発明の実施の形態によれば、Naフラックス法などの液相成長法で成長したIII族窒化物種結晶基板上に、HVPE法などの気相成長法でIII族窒化物(例えば、GaN)結晶を厚く成長させた場合においても、成長した結晶中に新たに転位が発生することや、基板の反りや結晶中のクラックが発生することを抑制できるIII族窒化物半導体結晶基板の製造方法を提供できる。
【0064】
また、上記本発明の実施の形態によれば、従来技術と同等の設備を用いて、転位密度が低く、基板面内で結晶方位のばらつきが少ない高品質なGaN基板を効率よく製造することができる。特に、HVPE法などの気相成長法で成長した結晶中の残留歪が低減されるため、従来は結晶加工時のクラック発生などが問題になっていた大口径GaN単結晶基板の作製においても、これらの問題が解決され、歩留り良く基板の製造が可能となる。
【0065】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【実施例】
【0066】
はじめに、液相成長(Naフラックス法)でGaN結晶を成長する装置について述べる。
図5は、本発明の実施の形態に係る製造方法に用いるNaフラックス法結晶成長装置の構成を示す模式図である。
図示の通り、このNaフラックス法結晶成長装置100は、ステンレス製の育成炉110と原料ガスタンク120とを備え、育成炉110と原料ガスタンク120とは管130で連結されている。管130において、育成炉110と原料ガスタンク120との間には、圧力調整(調節)器140および流量調整(調節)器150が取り付けられている。育成炉110は、加熱用のヒータ111および熱電対112が配置され、50atm(50×1.013×10
5Pa)の気圧に耐えられるようになっている。さらに育成炉110内には、坩堝固定台113がある。坩堝固定台113内に酸化アルミニウム(Al
2O
3)からなる坩堝114を固定し、坩堝114内に融液115およびフラックス法用種結晶基板10を配置する。この状態で、原料ガスタンク120から、管130を通じて、原料ガスである窒素ガス、またはアンモニアガス(NH
3ガス)と窒素ガスとの混合ガスを、図中の矢印方向(雰囲気ガス供給方向)に供給して反応(結晶成長)を行う。前記原料ガス(雰囲気ガス)は、ガス精製部(図示せず)によって不純物が除去されたのちに、育成炉110内に送られる。また、前記原料ガスの圧力(雰囲気圧力)は、圧力調整器140および流量調整器150によって調整される。
【0067】
次に、気相成長(HVPE法)でGaN結晶を成長する装置について述べる。
図6は、本発明の実施の形態に係る製造方法に用いるHVPE法結晶成長装置の構成を示す断面模式図である。
このHVPE法結晶成長装置(HVPE炉)200は、800℃程度に加熱された原料加熱用ヒータ201、及び、1000℃程度に加熱された結晶成長領域加熱用ヒータ202の2ゾーンからなるヒータの中に、石英製の反応管203を挿入した構成となっている。石英反応管203の上流側には、原料ガスの導入用配管が設けられている。V族原料であるアンモニアガスは、アンモニアガス導入配管207を通じて炉内に導入される。III族原料である金属ガリウム206は、石英製のボートに収容されて、ガリウム原料加熱用ヒータ201で加熱された領域に載置されている。結晶成長時には、このボート内部に、石英製の塩化ガリウム生成用塩酸ガス導入配管208を通じて塩酸ガスを流す。すると、金属ガリウム206と塩酸ガスが反応して塩化ガリウムガスが発生し、これが配管を通じて種結晶基板4の表面に到達する。塩化ガリウムと、アンモニアが加熱された基板表面で反応し、III-V族窒化物系半導体結晶が成長される。炉内には、ドーピングガス導入配管209を通じて、ドーピングガスを流すことも可能である。結晶成長の下地とする種結晶基板4は、回転軸205によって支持された基板フォルダ204に固定されており、成長中は回転されている。反応管内に導入されたガスは、下流の排気管210によって除害設備に導かれ、無害化処理を施された後、大気に排出される。
【0068】
(実施例)
本実施例では、以下のとおり、まず、液相成長法(Naフラックス法)によりGaN結晶を製造し、さらにその上に、気相成長法(HVPE法)によりGaN結晶を製造した。
【0069】
<液相成長法によるGaN結晶の製造>
まず、直径65mmのサファイア基板上に、MOCVD法(気相成長法)によりGaN種結晶層が積層された基板を準備した。サファイア基板の厚みは1mm、GaN種結晶層の厚みは5μmであった。次に、GaN種結晶層およびサファイア基板の上部の一部をエッチングにより除去した。こうして、基板の複数の凸部上に種結晶が配置されたGaN種結晶基板を作製した。凸部の形状は、直径は0.25mmの円形のドット状とし、また、その配置パターンは、一辺が0.55mmの正三角形の各頂点上に凸部が配置されたパターンの繰り返しとした。
【0070】
次に、前記GaN種結晶基板を用いて、
図5に示す装置で、窒素ガス雰囲気下、下記の条件で結晶成長を行い、GaN結晶を製造した。
温度[℃] 870
圧力[MPa] 4.0
時間[h] 72
GaNa 27:73
C[mol%] 0.5
坩堝 Al
2O
3
なお、上記の「C[mol%]0.5」とは、炭素粉末を、ガリウム(Ga)、ナトリウム(Na)および前記炭素粉末の物質量の合計に対し、0.5mol%添加したことを示す。
【0071】
操作としては、まず、坩堝114をステンレス容器113の中に入れ、ステンレス容器113を、電気炉(耐熱耐圧容器)110の中に入れた。原料ガスタンク120から、窒素ガスをステンレス容器113内に導入すると同時に、ヒータ(図示せず)により加熱して電気炉(耐熱耐圧容器)110内を、870度、40atm(約4.0MPa)の高温高圧条件下とし、72時間反応させて結晶成長を行い、目的とするGaN結晶を製造した。ここで、結晶成長界面を平坦なc面とするために、結晶成長条件を過飽和度の高い溶液に種結晶を浸漬する、かつ攪拌等により、ポイントシード間の凹部に窒素が効率的に供給される条件にした。
【0072】
図7に、上述の液相成長法により製造したGaN結晶層表面の写真を示す。
図7(a)は、本発明の1実施例に係る、成長界面を平坦なc面として成長させたGaN結晶の概観写真であり、
図7(b)は、GaN結晶の表面の顕微鏡写真(
図7(a)中の四角で囲った部分の拡大写真)である。
図示の通り、結晶全体にわたって平坦で均質な表面を有するGaN結晶が得られた。このGaN結晶の上部および前記サファイア基板を、更に研削および研磨により除去して、c面成長部だけを残し、直径60mm、厚み1.0mmの鏡面GaN結晶基板とした。こうして得られたGaN基板表面の中心及びそこから左右に10mm及び20mm離れた点の計5点について、SIMS分析で酸素濃度を測定したところ、いずれも4×10
16〜8×10
16cm
−3の範囲内に入っており、非常に低濃度でかつ均一に分布していることが確認された。また、同点における転位密度を、カソードルミネッセンスの暗点測定により行ったところ、いずれも1×10
6〜9×10
6cm
−2の範囲内に入っており、低密度でかつ均一に分布していることが確認された。更に、この基板のc面の曲率をX線回折測定から見積もったところ、その曲率半径は基板の表面に対して凹面型に5.2mであり、反りも小さいことが確認された。このGaN基板を、次の気相成長法によるGaN結晶製造用基板として供した。
【0073】
<気相成長法によるGaN結晶の製造>
液相成長法により製造した上記GaN結晶基板上に、気相成長法によりGaN結晶を製造した。
直径60mmのGaN基板を種結晶として、
図6に示したHVPE成長装置を用いてGaNの厚膜結晶を成長した。HVPE成長時のガス流量条件は、キャリアガスとして水素:920sccm、窒素:8200sccm、塩化ガリウム:180sccm、アンモニア:600sccmとした。成長圧力は100kPa、成長時の基板温度は1060℃とし、成長時間は15時間とした。成長中は、基板を5rpmで回転させた。この結果、約4.6mmの厚さのアンドープGaN結晶が、種結晶基板上にホモエピタキシャル成長した。得られた結晶の表面には、ピットなどの目立ったモフォロジの異常は無く、種結晶に極性反転領域が無かったことが確認できた。
【0074】
上記で得られた結晶に、以下の加工を施した。
はじめに、研削機を用いて結晶の直径φ52mmよりも外側の領域を研削砥石でゆっくり研削除去した後、ワイヤーソーを用いてスライスし、新たに成長した結晶領域から厚さ635μmのGaN自立基板を5枚取得した。更に、スライスした基板に外形面取り加工を施して直径をφ50.8mmに成型し、オリエンテーションフラット、インデックスフラットを加工した後、表裏面に鏡面研磨加工を施し、厚さ400〜450μmのGaN自立基板5枚を得た。
【0075】
以上の加工を施す間、GaN結晶にクラックやチッピング等の不良が発生することはなかった。また、基板の反り(BOW)はいずれも10μm以内に抑えられていた。得られた基板の1枚を用いて前記と同様に転位密度をカソードルミネッセンス法を用いて計数したところ、面内5点で5.8×10
5〜9.6×10
5cm
−2という値が得られた。基板表面におけるc軸の傾きばらつきをX線回折法で測定したところ、いずれの基板も面内で±0.05°以内に収まっていた。得られたGaN基板表面の中心及びそこから左右に10mm及び20mm離れた点の計5点について、SIMS分析で酸素濃度を測定したところ、いずれも3×10
16〜5×10
16cm
−3の範囲内に入っていることが確認された。
【0076】
(比較例)
<液相成長法によるGaN結晶の製造>
実施例と同様の種結晶基板を用意し、実施例と同じ成長装置で、従来技術で良く用いられている窒素ガス雰囲気下、下記の条件で結晶成長を行い、GaN結晶を製造した。
温度[℃] 870
圧力[MPa] 3.4
時間[h] 96
GaNa 27:73
C[mol%] 0.5
坩堝 Al
2O
3
【0077】
操作としては、まず、坩堝114をステンレス容器113の中に入れ、ステンレス容器113を、電気炉(耐熱耐圧容器)110の中に入れた。原料ガスタンク120から、窒素ガスをステンレス容器113内に導入すると同時に、ヒータ(図示せず)により加熱して電気炉(耐熱耐圧容器)110内を、870度、34atm(約3.4MPa)の高温高圧条件下とし、96時間反応させて結晶成長を行い、目的とするGaN結晶を製造した。ここでは、実施例とは異なり、特に結晶成長界面を平坦なc面とするための方策は採っていない。
【0078】
図8に、こうして得られた従来技術に係る液相成長法により製造したGaN結晶層表面の写真を示す。
図8(a)は、従来例に係る、成長界面を凹凸のある面で成長させたGaN結晶の概観写真であり、
図8(b)は、GaN結晶の表面の顕微鏡写真(
図8(a)中の四角で囲った部分の拡大写真)である。
図示の通り、結晶表面は全面が凹凸を有する荒れたモフォロジのGaN結晶が得られた。このGaN結晶の上部および前記サファイア基板を、更に研削および研磨により除去して、直径60mm、厚み1.0mmの鏡面GaN結晶基板とした。こうして得られたGaN基板表面の中心及びそこから左右に10mm及び20mm離れた点の計5点について、SIMS分析で酸素濃度を測定したところ、測定点によって値がばらついており、それぞれ1×10
18〜1×10
20cm
−3であった。また、同点における転位密度を、カソードルミネッセンスの暗点測定により行ったところ、こちらはいずれも1×10
5〜5×10
6cm
−2の範囲内に入っており、低密度でかつ均一に分布していることが確認された。更に、この基板のc面の曲率をX線回折測定から見積もったところ、その曲率半径は基板の表面に対して凹面型に10m以上であり、これもほぼ平坦に近いことが確認された。このGaN基板を、次の気相成長法によるGaN結晶製造用基板として供した。
【0079】
<気相成長法によるGaN結晶の製造>
液相成長法により製造した上記GaN結晶基板上に、気相成長法によりGaN結晶を製造した。
上記のGaN基板を種結晶として、実施例と同条件でGaNの結晶をホモエピタキシャル成長した。この結果、約4.7mmの厚さのアンドープGaN結晶が種結晶上に成長したが、その表面には細かい凹凸状のモフォロジが見られ、鏡面にはなっていなかった。また、結晶の内部には細かい無数のクラックが発生している領域があった。
【0080】
上記で得られた結晶に、研削機を用いて結晶の直径φ52mmよりも外側の領域を研削砥石でゆっくり研削除去した後、ワイヤーソーを用いてスライスしようとしたところ、ワイヤーで切り込みをいれた途端にクラックが発生して結晶が2つに割れてしまい、それ以上作業を続行することができなかった。
【0081】
以上、本発明の実施の形態及び実施例を説明したが、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず、発明の主旨を逸脱しない範囲内において種々変形実施が可能である。
【0082】
また、上記に記載した実施の形態及び実施例は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態及び実施例の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。