特許第6578596号(P6578596)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6578596金属(X)ドープバナジン酸ビスマスの製造方法および金属(X)ドープバナジン酸ビスマス
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6578596
(24)【登録日】2019年9月6日
(45)【発行日】2019年9月25日
(54)【発明の名称】金属(X)ドープバナジン酸ビスマスの製造方法および金属(X)ドープバナジン酸ビスマス
(51)【国際特許分類】
   C01G 31/00 20060101AFI20190912BHJP
   B01J 23/31 20060101ALI20190912BHJP
   B01J 35/02 20060101ALI20190912BHJP
【FI】
   C01G31/00
   B01J23/31 M
   B01J35/02 J
【請求項の数】11
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2015-181358(P2015-181358)
(22)【出願日】2015年9月15日
(65)【公開番号】特開2016-64976(P2016-64976A)
(43)【公開日】2016年4月28日
【審査請求日】2018年9月13日
(31)【優先権主張番号】特願2014-189175(P2014-189175)
(32)【優先日】2014年9月17日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託研究の成果に係る特許出願(平成26年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「二酸化炭素原料化基幹化学品製造プロセス技術開発」に係る委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000005887
【氏名又は名称】三井化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】ジア チンシン
(72)【発明者】
【氏名】堂免 一成
(72)【発明者】
【氏名】山田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】工藤 昭彦
(72)【発明者】
【氏名】岩瀬 顕秀
(72)【発明者】
【氏名】新城 亮
【審査官】 森坂 英昭
(56)【参考文献】
【文献】 特開昭56−145120(JP,A)
【文献】 特公昭51−031800(JP,B1)
【文献】 特開2011−178638(JP,A)
【文献】 特開2001−002419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 31/00 − 31/04
B01J 21/00 − 38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)をドープしたバナジン酸塩をビスマスイオンと接触させるビスマス化工程を含む、金属(X)ドープバナジン酸ビスマスの製造方法。
【請求項2】
前記金属(X)の仕込み量が、バナジウム(V)と前記金属(X)のモル数の和に対する前記金属(X)のモル数の比{X/(V+X)}として0.01〜1.0mol%である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ビスマスイオンは、前記ビスマスイオンの供給源を含む液体又は雰囲気に存在する請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
更に、金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを、ファセットを有する粒子形状が壊れない温度範囲で、アニール処理するアニール工程を含む請求項1〜3のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項5】
前記金属(X)ドープバナジン酸ビスマスは、金属(X)ドープシーライト構造モノクリニック相バナジン酸ビスマスである請求項1〜4のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項6】
前記金属(X)がモリブデン又はタングステンから選ばれる1種以上の元素である請求項1〜5のいずれか1項に記載の製造方法。
【請求項7】
周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)がドープされており、ファセットを有する粒子を含む金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
【請求項8】
光触媒機能を有する請求項7に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
【請求項9】
前記金属(X)がモリブデン又はタングステンから選ばれる1種以上の元素である請求項7又は8に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
【請求項10】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを含有する光触媒。
【請求項11】
請求項7〜9のいずれか1項に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを含有する光電極。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属(X)ドープバナジン酸ビスマスの製造方法および金属(X)ドープバナジン酸ビスマスに関する。
【背景技術】
【0002】
水素製造技術の一つとして、太陽エネルギーを利用して水を分解し水素を製造する光触媒技術が注目されている。この技術は、化石資源に依存しない、クリーンかつ持続可能な水素製造技術であることから、エネルギー・環境問題の観点で、非常に意義がある。太陽エネルギーを広い波長範囲で利用するためには、太陽エネルギーの約半分を占める可視光を吸収することにより光触媒作用が発現する材料の開発が重要である。
【0003】
シーライト構造モノクリニック相(以下、「s−m相」と略記することがある。)のバナジン酸ビスマス(以下、「BiVO」と略記することがある。)は520nmまでの太陽エネルギーを吸収できる光触媒として知られている。例えば、Rhをドープしたチタン酸ストロンチウム(SrTiO:Rh)とs−m相BiVOとを組み合わせたZスキーム型光触媒による疑似太陽光照射下での水分解反応が報告されている(非特許文献1)。このZスキーム型光触媒において、SrTiO:Rhが水素発生、s−m相BiVOが酸素発生の役割を担っており、水分解反応速度を向上させるためにはs−m相BiVOの高性能化が必要である。
【0004】
s−m相BiVOの高性能化の手法の一つとして、金属ドープによる高性能化の手法が知られている(非特許文献2)。ここで、金属ドープとは、金属が単体のイオンの状態でBiVO結晶の格子点又は格子間に存在する状態又は金属酸化物等の金属化合物がBiVO結晶の格子間その他の隙間に内包されている状態をいい、金属の種類としてはMoやW等が知られている。金属がドープされたs−m相BiVOは、固相法によって高温条件下で製造される。
【0005】
また、粒子形状の制御もs−m相BiVOの高性能化の手法の一つとして知られている(非特許文献3)。この手法により、s−m相BiVOは、ファセットを持つ粒子形状にすることによって電荷分離を促進させ、高性能化することができる。しかしながら、該先行技術のような低温条件での合成では、s−m相BiVOに金属をドープすることは困難であることが容易に想像され、現に、高温条件で合成する固相法でしか達成されていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】佐々木康吉、外3名、「電子媒介のないZスキーム型粒子間電子移動により駆動される粉末光触媒を用いたソーラー水分解」(Solar Water Splitting Using Powdered Photocatalysts Driven by Z−Schematic Interparticle Electron Transfer without an Electron Mediator)、J. Phys. Chem. C, 2009, 113, p.17536−17542.
【非特許文献2】ウェイフェン・ヤオ(Weifeng Yao)、外2名、「BiVO4の光触媒作用におけるモリブデン置換の効果」(Effects of molybdenum substitution on the photocatalytic behavior of BiVO4)、Dalton Trans.、英国、2008, p.1426−1430.
【非特許文献3】工藤昭彦、外2名、「室温で層状構造のバナジン酸塩から結晶形が制御された高結晶性BiVO4粉末を調製するための新規の水性処理と、その光触媒と光物性」(A Novel Aqueous Process for Preparation of Crystal Form−Controlled and Highly Crystalline BiVO4 Powder from Layered Vanadates at Room Temperature and Its Photocatalytic and Photophysical Properties)、J. AM. Chem. Soc., 1999, 121, p.11459−11467.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、固相法は粒子形状を制御するには不向きな合成法であるため、不定形な形状の粒子が生成し、s−m相BiVOに金属をドープした場合にはファセットを有する高結晶性粒子は生成しない。以上のように、従来よりも緩和された合成条件で金属をドープしたs−m相BiVOの例は未だ無く、更に、ファセットを有する粒子を含む金属をドープしたs−m相BiVOの例も未だ無い。このように、光触媒として十分な性能を持つ金属ドープs−m相BiVOの完成には至っていない。
【0008】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであり、金属がドープされたBiVO、および、その製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、金属がドープされたBiVO、および、その製造方法に関するものである。つまり、従来のBiVO構造を有する光触媒よりも高い活性を示すと考えられる光触媒に関する。
本発明者らは、液固相法をベースとして製造条件を種々検討した結果、困難とされていた、粒子のモルフォロジー制御も可能な金属ドープBiVOの製造方法の開発に成功した。この製造方法により、ファセットを有する粒子を含み、かつ、金属がドープされたs−m相BiVOをも開発するに至った。
【0010】
すなわち、本発明には以下の事項が含まれる。
【0011】
[1] 周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)をドープしたバナジン酸塩をビスマスイオンと接触させるビスマス化工程を含む、金属(X)ドープバナジン酸ビスマスの製造方法。
[2] 上記金属(X)のドープ量が、バナジウム(V)と上記金属(X)のモル数の和に対する上記金属(X)のモル数の比{X/(V+X)}として0.01〜1.0mol%である[1]に記載の製造方法。
[2] 上記ビスマスイオンは、上記ビスマスイオンの供給源を含む液体又は雰囲気に存在する[1]又は[2]に記載の製造方法。
[4] 更に、金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを、ファセットを有する粒子形状が壊れない温度範囲で、アニール処理するアニール工程を含む[1]〜[3]のいずれか1項に記載の製造方法。
[5] 上記金属(X)ドープバナジン酸ビスマスは、金属(X)ドープシーライト構造モノクリニック相バナジン酸ビスマスである[1]〜[4]のいずれか1項に記載の製造方法。
[6] 上記金属(X)がモリブデン又はタングステンから選ばれる1種以上の元素である[1]〜[5]のいずれか1項に記載の製造方法。
【0012】
[7] 周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)がドープされており、ファセットを有する粒子を含む金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
[8] 光触媒機能を有する[7]に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
[9] 上記金属(X)がモリブデン又はタングステンから選ばれる1種以上の元素である[7]又は[8]に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマス。
【0013】
[10] [7]〜[9]のいずれか1項に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを含有する光触媒。
[11] [7]〜[9]のいずれか1項に記載の金属(X)ドープバナジン酸ビスマスを含有する光電極。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、従来得られていた金属ドープs−m相BiVOおよび金属未ドープs−m相BiVOに比べて、光触媒活性が高い金属ドープBiVOを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】試験例1〜4で得られたK14のXRD測定チャートである。
図2】試験例1〜4および比較例1で得られたs−m相BiVOのXRD測定チャートである。
図3】試験例1〜4および比較例1で得られたs−m相BiVOの電子顕微鏡像である。
図4】試験例5〜8で得られたK14のXRD測定チャートである。
図5】試験例5〜8および比較例2で得られたs−m相BiVOのXRD測定チャートである。
図6】試験例5〜8および比較例2で得られたs−m相BiVOの電子顕微鏡像である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
【0017】
本発明の金属(X)ドープBiVOの製造方法は、周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)をドープしたバナジン酸塩をビスマスイオンと接触させるビスマス化工程を含む。
本発明の上記製造方法の特徴は、周期律表の第2族〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属(X)をバナジン酸塩に予めドープし、更にビスマスイオンと接触させることにある。金属(X)をバナジン酸塩に予めドープすることにより、金属(X)ドープバナジン酸塩を安定化することができる。また、本発明の製造方法により、得られる金属(X)ドープBiVOの粒子形状を制御することもできる。本発明により、初めて、ファセットを有する粒子を含み、かつ、金属(X)がドープされたBiVOを得ることもできる。
【0018】
[金属(X)]
BiVOにドープする金属(X)は、周期律表の第2〜第15族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属元素であり、かかる金属(X)としては、例えば、アルカリ土類金属元素、希土類元素(ランタノイド)であってもよいが、Ti、Zr、Hf等の周期律表の第4族;Nb、Ta等の周期律表の第5族;およびMo、W、Cr等の周期律表の第6族;からそれぞれ選ばれる1種以上の元素が好ましく、周期律表の第5〜第6族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属元素がより好ましく、周期律表の第6族に含まれる元素から選ばれる1種以上の金属元素が更に好ましく、BiVOの電気伝導率を高めることができる点で、Mo、Wが最も好ましい。
BiVOにドープする金属(X)の仕込み量としては、特に限定されないが、バナジウム(V)と金属(X)のモル数の和に対する金属(X)のモル数の比{X/(V+X)}として0.01〜1.0mol%が好ましく、0.01〜0.5mol%がより好ましく、0.01〜0.45mol%が更に好ましく、0.02〜0.4mol%が更により好ましく、0.02〜0.3mol%が最も好ましい。
【0019】
金属(X)の原料としては、金属(X)の供給源となるものであれば特に限定されず、例えば、金属(X)の酸化物;水酸化物;塩化物;炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等の塩;等が挙げられ、金属(X)の酸化物、水酸化物が好ましい。
【0020】
[金属(X)をドープしたバナジン酸塩]
本発明において、金属(X)をドープしたバナジン酸塩を合成するために用いるバナジン酸塩については、金属(X)をドープすることが可能な一般的なバナジン酸塩が適用可能である。バナジン酸塩としては、例えば、V143−、V1−、V112−等の各種バナジン酸イオンを含む塩等が挙げられ、具体的には、K14、KV、CsV、Cs11等が挙げられる。
バナジン酸塩の原料としては、バナジウムの供給源となるものであれば特に限定されず、例えば、バナジウムの酸化物;水酸化物;塩化物;炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等の塩;等が挙げられ、バナジウムの酸化物が好ましく、五酸化バナジウムがより好ましい。
金属(X)をドープしたバナジン酸塩としては、上述のバナジン酸塩に金属(X)がドープされたものであれば特に限定されないが、ビスマスイオンと反応しやすい層状構造を有するK14又はKVに金属(X)をドープしたものが好ましく、K14に金属(X)をドープしたものがより好ましい。
【0021】
上記金属(X)をドープしたバナジン酸塩の合成方法としては、特に限定されず、公知のあらゆる方法が適用できる。例えば、金属(X)をドープしたK14を固相法で合成する場合についての具体例を以下に示す。
カリウム、バナジウム、および金属(X)の各原料を混合し、焼成により固相反応を起こさせ金属(X)をドープしたK14を得る。カリウムおよびバナジウムの各原料としては、特に限定されず、カリウム又はバナジウムの酸化物;水酸化物;塩化物;炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等の塩;等が挙げられ、炭酸カリウム等のカリウム塩と五酸化バナジウム等のバナジウム酸化物が好ましい。金属(X)の原料としては、特に限定されず、金属(X)の酸化物;水酸化物;塩化物;炭酸塩、硝酸塩、アンモニウム塩等の塩;等が挙げられ、金属(X)の酸化物、水酸化物が好ましく、金属(X)の酸化物がより好ましい。カリウム、バナジウム、および金属(X)の量としては、特に限定されないが、バナジウム(V)と金属(X)のモル数の和に対するカリウム(K)の仕込み量のモル数の比{K/(V+X)}として、K/(V+X)=0.600〜0.660(mol/mol)が好ましく、0.600〜0.618(mol/mol)がより好ましい。焼成温度は300〜600℃が好ましく、400〜500℃がより好ましい。焼成時間は1〜20時間が好ましく、3〜10時間がより好ましく、5〜10時間が更に好ましい。
【0022】
[金属(X)ドープBiVO
金属ドープBiVOは、金属(X)をドープしたバナジン酸塩を、ビスマスイオンと接触させる工程(本明細書および特許請求の範囲において、「ビスマス化工程」ということがある。)を含む方法により合成する。
上記の工程において、ビスマスイオンは、ビスマスイオンを含む液体又は雰囲気に存在するものであることが好ましく、具体的には、ビスマスイオンの供給源を含む液体又は雰囲気に存在するものであってよく、従って、これらの液体又は雰囲気を、金属(X)をドープしたバナジン酸塩と接触させることができる。本明細書において、金属(X)をドープしたバナジン酸塩を固相として用い、該固相を、ビスマスイオンを含む液体又は雰囲気と接触させる方法を「液固相法」ということがある。
【0023】
ビスマスイオンの供給源を含む液体としては、例えば、ビスマスイオンの供給源を含む溶液の場合、ビスマスの供給源を溶媒に溶かすことにより調製することができる。溶媒としては、使用するビスマスの供給源が可溶な溶媒であれば特に限定されず、例えば、水、あらゆる有機溶媒、水と有機溶媒との混合溶媒等を使用することができ、また、pH調整のために硝酸、塩酸、硫酸等の酸を含んでいてもよい。好ましい溶媒としては、実用化の観点からは中性の水が挙げられる。
【0024】
ビスマスイオンの供給源を含む液体としては、また、ビスマスイオンの供給源を含む懸濁液であってもよく、ビスマスの供給源を溶媒に分散することにより調製することができる。
ビスマスイオンの供給源を含む雰囲気としては、例えば、ビスマスイオンの供給源を含む液体をその沸点以上の温度におくことにより調製することができる。
【0025】
上記ビスマスイオンの供給源としては公知のビスマス化合物又はビスマス単体を用いることができ、ビスマス化合物としては、例えば、硝酸ビスマス、塩化ビスマス、オキシ炭酸ビスマス、オキシ塩化ビスマス、水酸化ビスマス等のビスマス塩;三酸化ビスマス等のビスマス酸化物;等が挙げられ、ビスマス塩が好ましく、硝酸ビスマスがより好ましい。
金属(X)をドープしたバナジン酸塩と接触させるビスマスイオンの量としては、特に限定されないが、バナジウム(V)と金属(X)のモル数の和に対するビスマス(Bi)のモル数の比{Bi/(V+X)}として0.9〜1.0(mol/mol)の範囲であることが好ましく、0.95〜1.0(mol/mol)の範囲であることがより好ましい。
【0026】
金属(X)をドープしたバナジン酸塩を、ビスマスイオンと接触させる条件としては、特に限定されないが、好ましい実施温度や実施形態は使用する溶媒の種類によって異なる。例えば水の場合、100℃以下の温度では特に実施の態様に制限は無いが、沸点を超える100℃以上の温度では耐圧容器を使っての水熱処理とすることが好ましい。水を溶媒とする場合について、実施する温度は5〜200℃の範囲であることが好ましく、5〜100℃の範囲がより好ましく、40〜80℃の範囲が更に好ましく、40〜70℃の範囲が更に好ましい。水を溶媒とする場合について、接触させる時間としては、特に限定されないが、3〜500時間が好ましく、3〜100時間がより好ましい。また、接触させる際に、液体全体を攪拌子や攪拌羽を用いて攪拌しながら実施しても良いものとする。撹拌子を用いる場合について、回転速度としては、特に限定されないが、1〜3000rpmの範囲が好ましく、1000〜2000rpmの範囲がより好ましい。
【0027】
金属(X)をドープしたバナジン酸塩をビスマスイオンと接触させる際に、液体又は雰囲気中の酸素が供給されることとなってもよく、その場合、例えば、バナジン酸イオンに酸素が供給されることがある。
金属(X)をドープしたバナジン酸塩としては、特に限定されないが、解砕してビスマスイオンと接触することが好ましい。
【0028】
上記液固相法において、金属(X)ドープBiVOは、液体又は雰囲気中に溶出されたビスマスイオンがバナジン酸塩の塩基(カリウムイオン等)とイオン交換することによって合成される。従って、イオン交換をよりスムーズに進行させることができる層状のバナジン酸塩が好ましい。とはいえ、電荷やイオン半径の違いから、層状バナジン酸塩の層間にモリブデンやタングステン等のイオンを入れることは通常困難である。一方、層状バナジン酸塩のカリウム等は液体又は雰囲気中で容易にイオン交換されてしまうが、バナジン酸イオンは液体又は雰囲気中でも安定に存在する。本発明は、この特性を生かして、バナジン酸塩に予め金属(X)をドープすることにより、金属(X)ドープBiVOの合成を可能にしたものであり、例えば、層状バナジン酸塩のバナジウムサイトに予めモリブデンをドープすることによりモリブデンドープBiVOの合成が可能である。
【0029】
金属(X)ドープBiVOは、上述の仕込み量におけるバナジウムと金属(X)のモル比と同等又は略同等となるモル比からなるものを得ることができる。即ち、金属(X)ドープBiVOに含有される、バナジウム(V)と金属(X)とのモル数の和に対する金属(X)のモル数の比{X/(V+X)}は、0.01〜1.0mol%が好ましく、0.01〜0.5mol%がより好ましく、0.01〜0.45mol%が更に好ましく、0.02〜0.4mol%が更により好ましく、0.02〜0.3mol%が最も好ましい。
金属(X)ドープBiVOに含有される、バナジウム(V)と金属(X)とのモル比及び{X/(V+X)}は、JIS K0116に規定される誘導結合プラズマ発光分光分析法(ICP−AES,Inductively coupled plasma−Atomic emission spectroscopy)により定量測定することができる。本明細書においては、ICP−AES法において、溶液として濃硝酸を試料に加えて用意する試料溶液をプラズマ炎中に噴霧(ミスト)状態で注入し、バナジウムについて特定波長292.403nm、モリブデンについて特定波長167.079nmの各発光強度により、試料中の各元素量を定量して得られる値をいう。
【0030】
[金属(X)ドープBiVOの構造]
本発明により製造される金属(X)ドープBiVOとしては、特に限定されず、金属(X)ドープs−m相BiVO以外の金属(X)ドープBiVOを製造することもできるが、太陽エネルギーを広い波長範囲で利用しやすい点で、金属(X)ドープs−m相BiVOが好ましい。金属(X)ドープs−m相BiVOとしては、金属未ドープのs−m相BiVOと同等の結晶構造を持ち、XRD測定により判断することができる。BiVOには複数の結晶構造と結晶相が存在するが、その中でも一般的に可視光を吸収して高い光触媒活性を示すのはシーライト構造モノクリニック相(s−m相)である。s−m相に特徴的な回折線は、2θ=15°近傍と、2θ=28°近傍と、2θ=31°近傍に観測される。ここでいう近傍とは、±0.5°をいう。
【0031】
本明細書において、「金属(X)ドープBiVO」とは、金属(X)がドープされたBiVOを意味し、「s−m相」等と明記する場合を除いて、s−m相以外のBiVOを含むものであってもよい。s−m相以外にはジルコン構造テトラゴナル相等がある。s−m相以外のBiVOの含有量は、s−m相BiVOのXRDピークの面積と、s−m相以外のBiVOのXRDピークの面積との和に占める、後者のs−m相以外のBiVOのXRDピークの面積の割合として算出される値として、30%以下が好ましく、10%以下がより好ましい。
【0032】
製造される金属(X)ドープs−m相BiVOの粒子形状は走査型電子顕微鏡(SEM)等の電子顕微鏡で確認することができ、電子顕微鏡像の目視によりファセットを有する粒子を確認することができる。
【0033】
ファセットとは、単結晶表面のように、ある程度の広さの結晶面が露出している粒子上の該結晶面を意味する。本発明におけるファセットを有する粒子とは、該粒子を電子顕微鏡像で目視した場合に、粒子1つあたりについて平面視される表面の面積の20%以上の領域がファセットで占められている粒子であって、粒子径が100nm以上の単結晶様の粒子のことである(本明細書において、「ファセット粒子」ということがある。)。本明細書において、電子顕微鏡像で目視した場合に、粒子1つあたりについて平面視される表面の面積のうちファセットが占める領域の面積の割合を「ファセット占有率」ということがある。
上記の粒子表面のファセット占有率は、好ましくは50%以上である。
【0034】
本発明において、ファセットを有する粒子を含む金属(X)ドープバナジン酸ビスマスと表現する場合には、電子顕微鏡で観察した場合の視野内の粒子全体の個数の70%以上がファセットを有する粒子で占められていることを意味する。
上記視野内の粒子全体の個数に占める、ファセットを有する粒子の割合は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上である。
【0035】
本発明の金属(X)ドープバナジン酸ビスマスに含まれる粒子が有するファセットとしてはどのような結晶面であっても構わないが、好ましい結晶面としては、酸化反応場となる(011)面と(110)面が挙げられる。光触媒反応は光触媒粒子上で酸化反応と還元反応が同時に進行するため、酸化反応場に加えて、還元反応場となる(010)面がバランス良く粒子表面に露出していることがより好ましい。
【0036】
[アニール処理]
金属(X)をドープしたバナジン酸塩を、ビスマスイオンと接触させることで得られた金属(X)ドープBiVOについて、ファセットを有する粒子形状が壊れない温度範囲であれば、アニール処理を施しても良い。アニール温度は100〜550℃の範囲が好ましく、400〜500℃の範囲がより好ましい。かかるアニール処理を施すことにより、金属(X)ドープBiVOの結晶が成長する傾向にあり、結晶性を向上することができる。
【0037】
[光触媒機能]
本発明において製造された金属(X)ドープBiVOは、光触媒機能を有し、特に250〜520nmの太陽エネルギーに対して優れた光触媒機能を有する。
本明細書において、「光触媒機能」とは、250〜520nmの光を照射する場合に何らかの触媒機能を発揮することをいい、例えば、後述の実施例における光触媒活性の評価方法に従って、評価することができる。本明細書において、「光触媒機能」を「光触媒活性」ともいうことがある。
【0038】
製造された金属(X)ドープBiVOを光触媒として用いる場合の実施形態には特に制限は無く、白金、ルテニウム、酸化ルテニウム、イリジウム、酸化イリジウム、金、銀、銅、酸化銅、酸化鉄、水酸化酸化鉄、ニッケル、酸化ニッケル、酸化ガリウム、コバルト、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化コバルト−酸化マンガン固溶体等を担持して利用することもできる。
【0039】
製造された金属(X)ドープBiVOは、導電性基板の上に堆積させることにより光電極として用いることもでき、その実施形態としては、特に限定されない。この場合、金属(X)ドープBiVOを単独で用いてもよいが、金属(X)ドープBiVOに白金、ルテニウム、酸化ルテニウム、イリジウム、酸化イリジウム、金、銀、銅、酸化銅、酸化鉄、水酸化酸化鉄、ニッケル、酸化ニッケル、酸化ガリウム、コバルト、酸化コバルト、酸化マンガン、酸化コバルト−酸化マンガン固溶体等を担持させて用いることもできる。
【実施例】
【0040】
以下、実施例に基づいて本発明の金属(X)ドープBiVO、およびそれらの光触媒活性について具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔試験例1〕
K/V/Mo=3.03/4.9975/0.0025(mol比)になるように、KCO(1.0469g)とV(2.2724g)、MoO(0.0018g)、エタノール(10mL)をメノー乳鉢で30分間混合した。得られた混合物を磁性坩堝に入れて、電気炉にて大気中450℃で5時間焼成した。焼成後、室温まで放冷させた後、解砕した。
【0042】
得られた粉末をXRD測定した結果を図1(a)に示す。Mo種に帰属される不純物が無かったことから、MoドープK14の単一相であることを確認した。Bi/V/Mo=1.00/0.9995/0.0005(mol比)になるように、得られた粉末(2.3844g)を、100mlの水とBi(NO・5HO(9.702g)が入った300mL三角フラスコに入れて、70℃、10時間、攪拌子を用いて1500rpmで撹拌した。得られた沈殿物は吸引濾過により回収して水洗浄を行った後、60℃の乾燥機で12時間乾燥させ粉末試料を得た。
試験例1における以上のmol比は仕込み量を表す。
【0043】
得られた粉末試料をXRD測定した結果を図2(a)に示す。ここでも、Mo種に帰属される不純物が無かったことから、Moドープs−m相BiVOの単一相であることを確認した。XRD測定は、リガク製の粉末X線回折装置SmartLab(X線源:CuKα線)を使用し、室温にて行った。かかるXRD測定の条件は、試験例2〜8並びに比較例1および2においても同様である。
また、得られた粉末試料のSEM写真を図3(a)に示す。ファセットが明瞭にみられる粒子が観察された。
さらに、得られた粉末試料のV/Mo(mol比)を、JIS K0116に準拠したICP−AES法により測定した。結果を表1に示す。
【0044】
〔試験例2〜4〕
表1に示すとおりにK/V/Mo(mol比)およびBi/V/Mo(mol比)を変更した以外は、試験例1と同様にして粉末試料を得た。
ビスマスイオンと接触する前後においてXRD測定した結果を図1(b)〜(d)および図2(b)〜(d)に示し、得られた粉末試料のSEM写真を図3(b)〜(d)に示す。
さらに、得られた粉末試料のV/Mo(mol比)をJIS K0116に準拠したICP−AES法により測定した。結果を表1に示す。
【0045】
〔比較例1〕
仕込み量がBi/V/Mo=1.00/0.9990/0.0010(mol比)になるようにBi(2.3298g)とNHVO(1.1686g)、MoO(0.0014g)をアルミナ乳鉢で30分間混合した。得られた混合物をアルミナ坩堝に入れて電気炉にて、大気中、900℃、10時間、焼成した。焼成後、室温まで放冷し、解砕した。得られた粉末試料のXRD測定チャートを図2(e)に示す。不純物の無いMoドープs−m相BiVOの単一相であることを確認した。得られた粉末試料のSEM写真を図3(e)に示す。ファセットは無く、不定形の粒子が観察された。
試験例1〜4および比較例1の製造条件をV/Mo実測モル比とともに[表1]としてまとめて示す。
【表1】
【0046】
〔試験例5〕
K/V/W=3.03/4.9975/0.0025(mol比)になるように、KCO(1.0469g)とV(2.2724g)、WO(0.0058g)、エタノール(10mL)をメノー乳鉢で30分間混合した。得られた混合物を磁性坩堝に入れて、電気炉にて大気中450℃で5時間焼成した。焼成後、室温まで放冷させた後、解砕した。
【0047】
得られた粉末をXRD測定した結果を図4(a)に示す。W種に帰属される不純物が無かったことから、WドープK14の単一相であることを確認した。Bi/V/W=1.00/0.9995/0.0005(mol比)になるように、得られた粉末(2.3844g)を、100mlの水とBi(NO・5HO(9.702g)が入った300mL三角フラスコに入れて、70℃、72時間、攪拌子を用いて1500rpmで撹拌した。得られた沈殿物は吸引濾過により回収して水洗浄を行った後、60℃の乾燥機で12時間乾燥させ粉末試料を得た。
試験例5における以上のmol比は仕込み量を表す。
【0048】
得られた粉末試料をXRD測定した結果を図5(a)に示す。ここでも、W種に帰属される不純物が無かったことから、Wドープs−m相BiVOの単一相であることを確認した。
また、得られた粉末試料のSEM写真を図6(a)に示す。ファセットが明瞭にみられる粒子が観察された。
【0049】
〔試験例6〜8〕
表2に示すとおりにK/V/W(mol比)およびBi/V/W(mol比)を変更した以外は、試験例5と同様にして粉末試料を得た。
ビスマスイオンと接触する前後においてXRD測定した結果を図4(b)〜(d)および図5(b)〜(d)に示し、得られた粉末試料のSEM写真を図6(b)〜(d)に示す。
【0050】
〔比較例2〕
仕込み量がBi/V/W=1.00/0.9950/0.0050(mol比)になるようにBi(2.3298g)とNHVO(1.1636g)、WO(0.0116g)をアルミナ乳鉢で30分間混合した。得られた混合物をアルミナ坩堝に入れて電気炉にて、大気中、900℃、10時間、焼成した。焼成後、室温まで放冷し、解砕した。得られた粉末試料のXRD測定チャートを図5(e)に示す。不純物の無いWドープs−m相BiVOの単一相であることを確認した。得られた粉末試料のSEM写真を図6(e)に示す。ファセットは無く、不定形の粒子が観察された。
試験例5〜8および比較例2の製造条件を[表2]としてまとめて示す。
【表2】
【0051】
〔光触媒活性の評価〕
光触媒活性は、疑似太陽光照射下における硝酸銀水溶液からの酸素生成反応で評価した。評価には閉鎖循環型反応装置に接続した上方照射型反応セルを用いた。試験例1〜8および比較例1、2により得られた触媒粉末0.3gを0.020mol/LのAgNO水溶液200mlに懸濁させ、マグネチックスターラーで評価中は撹拌した。Pyrex(登録商標)ガラス製の窓の上から、ソーラーシミュレーター(三永電機製作所製;XES−40S2−CE)を用いて、疑似太陽光を照射した。発生した酸素は、オンラインのガスクロマトグラフ(島津製作所製;GC−8A、MS−5A、TCD、Arキャリアー)で定量した。
【0052】
試験例1〜8および比較例1、2で得られたs−m相BiVOの粉末試料についてMo又はWドープの有無と、ファセット粒子の量、光触媒活性の評価を実施した結果を表3に示す。
表3中、「Moドープ」又は「Wドープ」の欄の○は、Mo又はWがドープされたことを示し、×はMo又はWがドープされなかったことを示す。「ファセット粒子が70%以上あるか」の欄の○は、電子顕微鏡像を目視で確認した場合、視野内の粒子全体の個数に占めるファセット粒子の個数の割合が70%以上あることを示し、×は、該割合が70%に満たないことを示す。
【表3】
【0053】
表3から理解されるように、固相法でMo又はWを仕込み量で0.05〜0.5%ドープしたK14を用いて液固相法で製造したMoドープ又はWドープs−m相BiVO(試験例1〜8)は、電子顕微鏡像で見られる粒子全体の70%以上がファセットを有する粒子であり、かつ、比較例1、2において予めMo又はWをバナジン酸塩にドープしない固相法で合成したMoドープ又はWドープs−m相BiVOよりも高活性であった。
図1
図2
図3
図4
図5
図6