【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年3月18日、第64回高分子学会年次大会のポスター発表のプログラムにて、「シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の力学物性とモルフォロジー評価」に関する研究(発表番号1Pc109)、及び、「シルクフィブロイン−ポリエチレンカーボネート複合膜の作製と心臓修復パッチへの応用」に関する研究(発表番号1Pd110)について、ポスター発表のタイトルを公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月12日、公益社団法人高分子学会『第64回高分子学会年次大会予稿集』、第64巻第1号にて、「シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の力学物性とモルフォロジー評価」に関する研究(発表番号1Pc109)、及び、「シルクフィブロイン−ポリエチレンカーボネート複合膜の作製と心臓修復パッチへの応用」に関する研究(発表番号1Pd110)について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年5月27日、第64回高分子学会年次大会にて、「シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の力学物性とモルフォロジー評価」に関する研究(発表番号1Pc109)、及び、「シルクフィブロイン−ポリエチレンカーボネート複合膜の作製と心臓修復パッチへの応用」に関する研究(発表番号1Pd110)について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月8日、一般社団法人繊維学会『繊維学会予稿集2015』、第70巻第1号にて、「シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の作製と構造・物性評価」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年6月10日、平成27年度繊維学会年次大会にて、シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の作製と構造・物性評価」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月16日、特定非営利活動法人日本小児循環器学会『第51回日本小児循環器学会総会・学術集会電子媒体予稿集』にて、「シルクフィブロインを基盤とした生分解性を有する心臓修復用パッチ材の開発(第2報)」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月17日、第51回日本小児循環器学会総会・学術集会「シルクフィブロインを基盤とした生分解性を有する心臓修復用パッチ材の開発(第2報)」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月25日、公益社団法人高分子学会『「最先端高分子−未来の夢をかなえる材料!」要旨集』にて、「カイコのまゆ玉から作られた透明フィルム」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月25日、公益社団法人高分子学会「最先端高分子−未来の夢をかなえる材料!」にて、「カイコのまゆ玉から作られた透明フィルム」に関する研究について公開した。
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成27年7月31日、東京農工大学大学院生物システム応用科学府生物機能システム科学専攻 平成27年度修士論文研究計画発表会、「シルクフィブロイン/ポリエチレンカーボネート複合膜の開発および心臓修復パッチへの応用」に関する研究について公開した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、農林水産業・食品産業科学技術研究推進事業委託事業(新規課題)、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
フィブロイン及び高分子材料が溶媒中に溶解した混合溶液から、前記溶媒の少なくとも一部を除去して、前記フィブロイン及び前記高分子材料の複合材料を形成する段階と、
フィブロインの貧溶媒を利用して、前記複合材料を不溶化する段階と、
を有する、
前記フィブロイン及び前記高分子材料を含む組成物を製造する方法であって、
前記高分子材料は、
前記フィブロインとは異なる材料であって、
ポリエチレンカーボネート及びポリジオキサノンの少なくとも1つを含み、
ラット腹腔内での分解期間が、4日以上360日以下であり、
ヤング率が、0.4MPa以上4,000MPa以下である、
方法。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、発明の実施の形態を通じて本発明を説明するが、以下の実施形態は特許請求の範囲にかかる発明を限定するものではない。また、実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせの全てが発明の解決手段に必須であるとは限らない。なお、図面において、同一または類似の部分には同一の参照番号を付して、重複する説明を省く場合がある。
【0013】
[組成物の組成]
本実施形態において、組成物は、フィブロインと、高分子材料とを含む。ここで、「フィブロインを含む」とは、フィブロインを含むことだけでなく、フィブロインに由来する成分を含むことも意味する。同様に、「高分子材料を含む」とは、高分子材料を含むことだけでなく、高分子材料に由来する成分を含むことも意味する。
【0014】
(フィブロイン)
本実施形態において、フィブロインは、組成物に優れた引っ張り強度を与える。一実施形態において、フィブロインは、蚕又はクモにより作製された天然の絹に由来するシルクフィブロインであってよい。フィブロインは、蚕により作製された絹(カイコ絹と称される場合がある。)に由来するシルクフィブロインであることが好ましい。他の実施形態において、フィブロインは、遺伝子工学的に作製された絹たんぱく質に由来するものであってもよい。遺伝子工学的に作製された絹たんぱく質としては、絹たんぱく質を作製するように遺伝子を改変された細菌、酵母、動植物の細胞、トランスジェニック植物、トランスジェニック動物などにより作製された絹たんぱく質を例示することができる。
【0015】
カイコ絹においてフィブロインは、セリシンにより被覆されている。天然のカイコ絹に由来するフィブロインは、カイコ絹からセリシンを除去することで得られる。一実施形態において、組成物は、フィブロインの質量に対して、10〜35%の質量のセリシンを不純物として含んでもよい。他の実施形態において、組成物中のセリシンの含有量は、フィブロインの質量に対して20%未満(質量比)であることが好ましく、10%未満(質量比)であることがより好ましく、5%未満(質量比)であることがさらに好ましい。
【0016】
(高分子材料)
本実施形態において、高分子材料は、フィブロインとは異なる材料である。高分子材料は、1種類のモノマーからなる高分子であってもよく、2種以上のモノマーからなる高分子であってもよい。高分子材料は、2種以上の高分子を含む材料であってもよい。高分子材料は、医療機器の材料として使用実績のある高分子を含むことが好ましく、医療機器の材料として使用実績のある高分子からなることがより好ましい。
【0017】
本実施形態において、高分子材料は、フィブロインよりも小さなヤング率を有する。高分子材料は、フィブロインと複合化する前の状態において、ヤング率(引張弾性率と称される場合がある。)が、0.2MPa以上6,000MPa以下の材料である。高分子材料のヤング率は、0.4MPa以上4,000MPa以下であることが好ましく、0.5MPa以上400MPa以下であることがより好ましく、0.5MPa以上10MPa以下であることがさらに好ましい。これにより、フィブロインを利用した組成物であって、破断強度(引張強さと称される場合がある。)及び破断伸度(引張伸びと称される場合がある。)に優れた組成物を提供することができる。組成物の破断強度は、例えば、ASTM−D−882に準じて測定される。
【0018】
フィブロインと複合化する前の状態においてヤング率が6,000MPa以下の高分子材料を用いることで、当該ヤング率が6,000MPa超の高分子材料を用いた場合と比較して、高分子材料及びフィブロインが複合化された組成物のヤング率と、生体組織(例えば、心臓組織である。)のヤング率との差が小さくなる。これにより、組成物を生体内に配置した場合の異物反応を抑制することができる。一方、フィブロインと複合化する前の状態においてヤング率が0.2MPa以上の高分子材料を用いることで、高分子材料及びフィブロインが複合化された組成物の力学強度を確保することができる。特に、フィブロインと複合化する前の状態においてヤング率が0.5MPa以上の高分子材料を用いることで、医療用組成物に要求される程度の力学的強度が得られる。
【0019】
本実施形態において、高分子材料のヤング率は、ISO 527−1、JIS K 7161に準じて算出される。具体的には、まず、測定対象となる高分子材料の40mm×5mmの試験片を準備する。また、試験片の厚みを測定する。試験片の厚みは、試験片の単一の箇所の厚みであってもよく、複数の箇所の厚みの平均値であってもよい。次に、20℃の大気中で、毎分10mm/minの引張荷重を試験片に印加して、試験片をその長辺方向に引っ張りながら、引張応力(垂直応力と称される場合もある。)及びひずみ(伸び率と称される場合もある。)を測定する。
【0020】
引張応力[MPa]は、引張荷重[N]を、試験開始前の試験片の断面積[mm
2]で除して算出する。上記の断面積は、試料片を引張方向に略垂直な面で切断した面の面積である。また、ひずみ[%]は、下記の数式1によって算出する。
[数式1]
ひずみ[%]=100×(L−Lo)/Lo
数式1において、Loは試験開始前の試料の長さであり、Lは試験時の試料の長さである。
【0021】
ヤング率は、引張比例限度内(弾性域と称される場合もある。)における、ひずみに対する引張応力の比として算出される。本実施形態において、ヤング率は、SSカーブ(応力−歪み線図と称される場合もある。)の接線の傾きから算出される。接線の傾きは、例えば、応力が0.2N/mm
2の場合の歪み、及び応力が0.6N/mm
2の場合の歪みのデータから算出する。
【0022】
本実施形態において、高分子材料は、フィブロインと比較して、生分解性に優れる。これにより、高分子材料とフィブロインとの組成比により、組成物の生分解性を調整することができる。材料の生分解性は、ラット腹腔内での分解期間により評価されてよい。高分子材料は、フィブロインと複合化する前の状態において、ラット腹腔内での分解期間が、4日以上360日以下の材料であってよい。高分子材料のラット腹腔内での分解期間は、4日以上200日以下であることが好ましく、4日以上120日以下であることがより好ましく、4日以上90日以下であることがさらに好ましい。
【0023】
上記の分解期間が4日以上の高分子材料を用いることで、例えば、高分子材料及びフィブロインが複合化された組成物を生体組織の修復又は再生の用途に使用する場合に、生体組織が十分に再生するまで、当該組成物の機能を維持することができる。一方、上記の分解期間360日以下の高分子材料を用いることで、当該高分子材料が生体内に残留することによる組織再生の阻害を抑制することができる。また、組成物内の石灰化を抑制することができる。
【0024】
本実施形態において、ラット腹腔内での分解期間は、下記の手順により測定される。まず、測定対象となる高分子材料の試験片を準備する。試験片の形状は、直径20mm、厚さ0.6mmのペレット状とする。次に、試験片をラット腹腔内に埋植する。その後、一定期間ごとに試験片を犠牲死により取り出し、試験片を注意深く洗浄する。洗浄後の試験片を十分に乾燥させた後、当該試験片の質量を測定する。埋植された試験片が完全に消失するまで、上記の作業を繰り返す。データフィッティングにより、埋植された試験片が完全に消失するまでの期間を推定し、当該推定値を分解期間として算出する。
【0025】
本実施形態において、高分子材料の分子量は、100,000以上1,000,000以下であってよい。高分子材料の分子量は、150,000以上500,000以下であることが好ましく、150,000以上300,000以下であることがより好ましく、150,000以上250,000以下であることがさらに好ましい。
【0026】
高分子材料は、生分解性を有する合成高分子であってよい。高分子材料は、ポリエチレンカーボネート及びポリジオキサノンの少なくとも一方を含んでよい。高分子材料は、ポリエチレンカーボネート又はポリジオキサノンであってもよい。ポリエチレンカーボネート及びポリジオキサノンは、置換又は非置換の任意の官能基が導入されていてもよい。高分子材料は、高分子主鎖に任意の官能基が導入されたポリエチレンカーボネートであってもよい。
【0027】
なお、ポリエチレンカーボネートのヤング率は、11.74MPaである。ポリエチレンカーボネートのラット腹腔内での分解期間は、16日間である。ポリジオキサノンのヤング率は、3,332MPaである。ポリジオキサノンのラット腹腔内での分解期間は、240日間である。これにより、フィブロインを利用した組成物であって、破断強度及び破断伸度に優れた組成物を提供することができる。
【0028】
(高分子材料の組成比)
本実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、1質量%以上99%質量%以下の高分子材料を含むことが好ましい。これにより、フィブロイン単体と比較して、破断強度及び破断伸度を向上させることができる。また、本実施形態において、フィブロインは生体適合性に優れた材料であり、高分子材料はフィブロインと比較して生分解性に優れるので、本実施形態の組成物は、医療用組成物に特に適した特性を示す。医療用組成物としては、縫合糸に用いられる材料、生体組織の修復又は再生に用いられる材料、人工臓器に用いられる材料などを例示することができる。
【0029】
一実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、50質量%以上90質量%以下の高分子材料を含む。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、50質量%超90質量%未満の高分子材料を含んでもよい。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、55質量%以上85質量%以下の高分子材料を含んでもよく、60質量%以上80質量%以下の高分子材料を含むことが好ましく、65質量%以上75質量%以下の高分子材料を含むことがより好ましく、67質量%以上73質量%以下の高分子材料を含むことがさらに好ましい。これにより、組成物の破断強度及び破断伸度が向上する。特に、高分子材料がポリエチレンカーボネートである場合、フィブロイン単体及びポリカーボネート単体と比較して、破断強度及び破断伸度が顕著に向上した組成物が得られる。
【0030】
他の実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、1質量%以上60質量%以下の高分子材料を含む。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、1質量%以上50質量%以下の高分子材料を含んでもよく、10質量%以上40質量%以下の高分子材料を含んでもよい。これにより、強度に優れた材料を提供することができる。組成物の強度は、例えば、最大引張応力により評価することができる。本実施形態の組成物は、硬組織に関連する医療機器に利用される医療用組成物に特に適した特性を示す。上記の硬組織としては、大腿骨、踵骨、神経、脊椎、外耳等の弾性軟骨、硝子軟骨などを例示することができる。
【0031】
最大引張応力の具体的な値は、組成物が適用される硬組織に応じて調整される。例えば、組成物が適用される硬組織が大腿骨である場合、最大引張応力は約162MPaである。上記の硬組織が踵骨である場合、最大引張応力は約54MPaである。上記の硬組織が神経である場合、最大引張応力は約13MPaである。上記の硬組織が脊椎である場合、最大引張応力は約3.5MPaである。上記の硬組織が外耳などの弾性軟骨である場合、最大引張応力は約3.1MPaである。上記の硬組織が硝子軟骨である場合、最大引張応力は約2.9MPaである。組成物の最大引張応力は、組成物におけるフィブロイン及び高分子材料の組成比、高分子材料の材質、高分子材料の分子量などを調整するによって制御することができる。
【0032】
他の実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、40質量%以上80質量%以下の高分子材料を含む。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、45質量%以上75質量%以下の高分子材料を含んでもよく、50質量%以上70質量%以下の高分子材料を含んでもよい。これにより、破断強度及び破断伸度に優れた材料を提供することができる。本実施形態の組成物は、循環器系の組織に関連する医療機器に利用される医療用組成物に特に適した特性を示す。循環器系の組織に関連する医療機器としては、心臓修復パッチ、人工心臓弁、血管修復パッチ、人工血管、チューブ、カテーテルなどを例示することができる。
【0033】
例えば、シルクフィブロイン及びポリウレタン樹脂を含む従来の医療用組成物は、強度には優れるものの、柔軟性に乏しかった。そのため、心臓修復パッチ、人工心臓弁、血管修復パッチ、人工血管のように、柔軟性が要求される医療機器の材料として用いることが難しかった。また、当該材料と臓器とを吻合又は縫合した場合に、パッチからの血液の漏れ量が多い、縫合糸の通過孔からの出血量が多いという問題があった。
【0034】
しかしながら、一実施形態において、本実施形態の組成物は、37℃の水中において、1MPa以下のヤング率を示す。他の実施形態において、本実施形態の組成物は、37℃の水中において、1MPa以下の貯蔵弾性率を示す。これにより、フィブロイン単体のパッチ、又は、シルクフィブロイン及びポリウレタン樹脂の複合材料からなるパッチを利用した場合と比較して、縫合糸の通過孔からの出血量を抑制することができる。さらに、パッチからの血液の漏れ量を1ml/cm
−2・minに抑制することができる。加えて、本実施形態に係る組成物は生分解性を有するものの、生体内における分解速度は、生体組織の修復速度よりも小さい。そのため、本実施形態の組成物は、生体内に移植された後、1年程度の時間をかけて、徐々に生体組織と置換される。
【0035】
他の実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、60質量%以上99質量%以下の高分子材料を含む。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、65質量%以上90質量%以下の高分子材料を含んでもよく、70質量%以上80質量%以下の高分子材料を含んでもよい。組成物は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、70質量%以上99質量%以下の高分子材料を含んでもよい。これにより、弾性に優れた材料を提供することができる。本実施形態の組成物は、膜組織に関連する医療機器に利用される医療用組成物に特に適した特性を示す。膜組織に関連する医療機器としては、人工心膜、血管新生心膜シート、人工硬膜、人工皮膚、大腸・小腸などの管腔構造を有する消化器官代替材料などを例示することができる。
【0036】
(その他の成分)
本実施形態において、組成物は、原材料又は製造工程に起因する不可避な不純物を含んでもよい。また、組成物は、当該組成物の特性を損なわない範囲で、各種の添加剤を含んでもよい。添加剤は、単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。添加剤を添加する場合、当該添加剤の添加量の下限値は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、0.01質量%であることが好ましく、0.05質量%であることがより好ましく、0.1質量%であることがさらに好ましい。一方、添加剤の添加量の上限値は、フィブロイン及び高分子材料の合計に対して、10質量%であることが好ましく、5質量%であることが好ましく、1質量%であることがさらに好ましい。
【0037】
添加剤としては、熱安定剤、光安定剤、着色剤、無機充填剤、難燃剤、相溶化剤、界面活性剤、潤滑剤、離形剤、紫外線吸収剤、紫外線防止剤、酸化防止剤、粘着防止剤、帯電防止剤などを例示することができる。添加剤は、医療機器における使用実績のある化合物であることが好ましい。
【0038】
熱安定剤としては、リン化合物、フェノール系誘導体、イオウを含む化合物、スズ系化合物などを例示することができる。リン化合物としては、燐酸、亜燐酸の脂肪族、芳香族又はアルキル基置換芳香族エステル及び次亜燐酸誘導体、フェニルホスホン酸、フェニルホスフィン酸、ジフェニルホスホン酸、ポリホスホネート、ジアルキルぺンタエリスリトールジホスファイト並びにジアルキルビスフェノールAジホスファイトなどを例示することができる。フェノール系誘導体としては、Irganox1010(商品名:チバガイギー社製)およびIrganox1520(商品名:チバガイギー社製)などのヒンダードフェノール化合物を例示することができる。
【0039】
イオウを含む化合物としては、チオエーテル系、ジチオ酸塩系、メルカプトベンズイミダゾール系、チオカルバニリド系およびチオジプロピオン酸エステル系の化合物などを例示することができる。チオエーテル系の化合物としては、ジラウリルチオプロピオネート(DLTP)およびジステアリルチオプロピオネート(DSTP)などを例示することができる。スズ系化合物としては、スズマレート、ジブチルスズモノオキシドなどを例示することができる。
【0040】
光安定剤としては、ベンゾトリアゾール系化合物、ベンゾフェノン系化合物などを例示することができる。具体的には、「TINUVIN622LD」、「TINUVIN765」(以上、チバ・スペシャリティー・ケミカルズ社製)、「SANOL LS−2626」および「SANOL LS−765」(以上、三共社製)などを使用してよい。
【0041】
着色剤としては、染料、無機顔料、有機顔料などを例示することができる。染料としては、直接染料、酸性染料、塩基性染料、金属錯塩染料などを例示することができる。無機顔料としては、カーボンブラック、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化鉄、マイカなどを例示することができる。有機顔料としては、カップリングアゾ系、縮合アゾ系、アンスラキノン系、チオインジゴ系、ジオキサゾン系、フタロシアニン系の化合物などを例示することができる。
【0042】
無機充填剤としては、ガラス短繊維、カーボンファイバー、アルミナ、タルク、グラファイト、メラミン、白土などを例示することができる。難燃剤としては、燐及びハロゲン含有有機化合物、臭素又は塩素含有有機化合物、ポリ燐酸アンモニウム、水酸化アルミニウム、酸化アンチモンなどを例示することができる。
【0043】
[組成物の物性]
本実施形態において、組成物は、0.4MPa以上4,000MPa以下のヤング率を有する。組成物のヤング率は、0.5MPa以上1,000MPa以下であることが好ましく、0.5MPa以上400MPa以下であることがより好ましく、0.5MPa以上10MPa以下であることがさらに好ましい。
【0044】
本実施形態において、組成物は、0.1MPa以上100MPa以下の破断強度を有する。組成物の破断強度は、0.3MPa以上20MPa以下であることが好ましく、0.3MPa以上10MPa以下であることがより好ましく、0.3MPa以上5MPa以下であることがさらに好ましい。組成物の破断強度は、ASTM−D−882に準じて測定される。
【0045】
本実施形態において、組成物は、10%以上2,000%]以下の破断伸度を有する。組成物の破断伸度は、75%以上2,000%以下であることが好ましく、154%以上1,500%以下であることがより好ましく、154%以上1,400%以下であることがさらに好ましい。組成物の破断強度は、ASTM−D−882に準じて測定される。
【0046】
本実施形態において、組成物のラット腹腔内での分解期間の下限値は、例えば、30日である。上記の下限値は、50日であってもよく、60日であってもよく、90日であってもよい。組成物のラット腹腔内での分解期間の上限値は、例えば、480日である。上記の上限値は、360日であってもよく、240日であってもよく、120日であってもよい。
【0047】
[組成物の形状及び構造]
組成物の形状は、特に限定されるものではないが、糸状、繊維状、布状、不織布状、膜状、ゲル状、スポンジ状、粒子状などの形状を例示することができる。本実施形態において、フィブロイン及び高分子材料は、組成物中で、フィブロインからなる第1相、及び、高分子材料からなる第2相を有する相分離構造(海島構造と称される場合がある。)を形成してもよい。一実施形態において、フィブロインからなる第1相が孤立相(島構造と称される場合がある。)であり、高分子材料からなる第2相が連続相(海構造と称される場合がある。)である。他の実施形態において、フィブロインからなる第1相が連続相であり、高分子材料からなる第2相が孤立相である。連続相中には、複数の孤立相が分散していてよい。各孤立相の形状は、球状態又は略球状であってよい。
【0048】
一実施形態において、例えば、組成物をフィルム状に成形した場合、高分子材料及びフィブロインの凝集塊から構成される海島構造は、例えば、走査型電子顕微鏡(SEMと称される場合がある。)を用いた観察により、1μm×1μm以上2,000μm×2,000μm以下の観察範囲内に確認される。高分子材料及びフィブロインの凝集塊から構成される海島構造は、5μm×5μm以上1,000μm×1,000μm以下の観察範囲で確認できることが好ましく、50μm×50μm以上500μm×500μm以下の観察範囲で確認できることがより好ましく、100μm×100μm以上300μm×300μm以下の観察範囲で確認できることがさらに好ましい。
【0049】
他の実施形態において、組成物を不織布状に成形した場合、高分子材料及びフィブロインの複合体が、複合化前後において相溶性を有してもよい。相溶性の有無は、貯蔵弾性率(G'と称される場合がある)に対する損失弾性率(G''と称される場合がある)の比(G''/G')である損失係数(tanδと称される場合がある)を用いて評価してよい。貯蔵弾性率及び損失弾性率は、動的粘弾性装置を用いて測定することができる。
【0050】
相溶性の有無は、上記の測定結果から、損失係数が極大となる温度(ガラス転移温度Tgと称される場合がある。)を算出することにより評価してよい。相溶性の有無は、例えば、(複合化前の)高分子材料の損失係数が極大となる温度と、(高分子材料がフィブロインと複合化された)組成物の損失係数が極大となる温度との差を用いて評価される。高分子材料の損失係数が極大となる温度と、組成物の損失係数が極大となる温度との差が、1℃以上30℃以下の場合、相溶性を有すると判断してよい。上記の温度差は、1℃以上20℃以下であることが好ましく、1.5℃以上10℃以下であることがさらに好ましい。
【0051】
[組成物の製造方法]
本実施形態において、組成物の製造方法は特に限定されない。一実施形態において、組成物は、フィブロイン及び高分子材料が溶媒中に溶解した混合溶液から、溶媒の少なくとも一部を除去して、フィブロイン及び高分子材料の複合材料を形成する段階と、フィブロインの貧溶媒を利用して、複合材料を不溶化する段階とを有する方法により製造される。フィブロインの貧溶媒としては、メタノールなどの低級アルコールを例示することができる。
【0052】
複合材料の形状は、フィブロイン及び高分子材料の複合材料を形成する段階における成形方法によって決定される。一実施形態において、フィブロイン及び高分子材料が溶媒中に溶解した混合溶液を基板上に塗布した状態で、溶媒を蒸発させることで、膜状の複合材料が得られる。他の実施形態において、上記の混合溶液を容器に入れたまま溶媒を蒸発させることで、スポンジ状の複合材料が得られる。さらに他の実施形態において、フィブロイン及び高分子材料が溶媒中に溶解した混合溶液を利用して、エレクトロスピニング法などの公知の手法を適用することで、繊維状又は不織布状の複合材料が得られる。
【実施例】
【0053】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明をさらに具体的に説明する。本発明は、その要旨を越えない限り、下記の実施例に限定されるものではないことに留意すべきである。
[実施例1]
下記の手順により、膜状の組成物を作製した。まず、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIPと表記する場合がある。)2.2638g中に、0.1200gの絹フィブロイン(SFと表記する場合がある。)を添加した後、22℃、撹拌速度100rpmの条件下で2時間撹拌して、SF溶液を得た。なお、絹フィブロインとしては、東京農工大学農学部フィールドサイエンスセンターにおいて収穫された繭を繰糸・精練してセリシンを除去ものを利用した。次に、HFIP19.404g中に、0.4795gのポリエチレンカーボネート(PECと表記する場合がある。)(QPAC25 poly(ethylene carbonate)、EMPOWER MATERIALS株式会社製)を添加した後、22℃、撹拌速度100rpmの条件下で2時間撹拌して、PEC溶液を得た。
【0054】
次に、SF溶液と、PEC溶液とを混合して、22℃、撹拌速度100rpmの条件下で24時間撹拌して、SF及びPECの混合溶液を得た。次に、直径5.0cmのPFAシャーレに、13.4cm
3の混合溶液を注入した。混合溶液の入ったPFAシャーレを、室温(20〜22℃)の減圧雰囲気下に13.5時間静置して、混合溶液の減圧乾燥処理を実施した。さらに、混合溶液の入ったPFAシャーレを、室温(20〜22℃)の真空雰囲気下に24時間静置して、混合溶液の真空乾燥処理を実施した。これにより、膜状のSF及びPECの複合材料を得た。
【0055】
次に、膜状の複合材料を、37℃、相対湿度100%環境下において24時間静置させ、SFの不溶化処理を実施した。これにより、SF:PEC=8:2(質量比)である組成物が得られた。組成物の厚さは、最も薄い場所で297μmであり、最も厚い場所で373μmであった。組成物の写真を
図1に示す。
【0056】
[実施例2〜8]
PECの添加量を変えて組成物におけるSF:PECの比率を変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2〜8の組成物を得た。各実施例におけるSF:PECは、7:3(実施例2)、6:4(実施例3)、5:5(実施例4)、4:6(実施例5)、3:7(実施例6)、2:8(実施例7)、1:9(実施例8)であった。各組成物の厚さの平均値は、約150μm〜250μmであった。実施例2〜8の組成物の写真を、
図2〜8に示す。
【0057】
[比較例1及び2]
PECを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例1の組成物を得た。SFを添加しなかった以外は、実施例1と同様にして、比較例2の組成物を得た。比較例1及び2の組成物の写真を、
図9及び
図10に示す。
【0058】
[評価方法]
実施例及び比較例は、(1)SEM観察、(2)SEM−EDS(Energy Dispersive X−ray Spectroscop)解析、及び、(3)引張試験により評価した。
【0059】
(1)SEM観察
実施例2、4、5、6、7及び8の組成物を、日本電子社製JSM−6510を用いて観察した。なお、各実施例において、組成物の試料片は、薄切せず、また、非蒸着の状態で、試料室内へ挿入した。加速電圧は15kVに設定した。実施例2のSEM画像を
図11に示す。
図11の拡大画像を
図12に示す。実施例4のSEM画像を
図13に示す。実施例5のSEM画像を
図14に示す。
図14の拡大画像を
図15に示す。実施例6のSEM画像を
図16に示す。
図16の拡大画像を
図17に示す。実施例7のSEM画像を
図18に示す。
図18の拡大画像を
図19に示す。実施例8のSEM画像を
図20に示す。
図20の拡大画像を
図21に示す。
図11〜
図21から、連続相中に、孤立相が分散した相分離構造が形成されていることがわかる。
【0060】
(2)SEM−EDS解析
相分離構造の各相の組成を調べる目的で、実施例2、4及び6の組成物について、SEM−EDS解析を実施した。実施例2の組成物のSEM−EDS解析結果を、
図22に示す。実施例4の組成物のSEM−EDS解析結果を、
図23に示す。実施例6の組成物のSEM−EDS解析結果を、
図24に示す。
図22〜24のそれぞれは、左上の図面が、SEM画像を示し、右上の図面が、当該SEM画像で示された領域における炭素(C)の分布を示し、左下の図面が、当該SEM画像で示された領域における窒素(N)の分布を示し、右下の図面が、当該SEM画像で示された領域における酸素(O)の分布を示す。
【0061】
シルクフィブロインは窒素を含み、ポリエチレンカーボネートは窒素を含まないので、窒素の分布と、SEM画像とを比較することで、孤立相及び連続相の主成分を決定することができる。窒素の分布と、SEM画像とを比較すると、孤立相の分布と、窒素の分布とがよく一致する。したがって、孤立相の主成分はシルクフィブロインであり、連続相の主成分はポリエチレンカーボネートであることがわかる。
【0062】
(3)引張試験
実施例2、4及び6の組成物、並びに、比較例1及び2の組成物のそれぞれについて、引張試験を実施した。引張試験は、下記の手順で実施した。なお、各組成物の中央部分から、5mm×40mmの組成物を切り取って、引張試験用の試料として用いた。引張試験用の試料は、フィルム中央部分を用いて行った。引張試験には、株式会社島津製作所社製のEZ−Test/CEを用いた。変位速度は、10mm/minに設定した。また、測定は、室温(20.4℃)で実施した。
【0063】
引張試験により得られた応力−歪曲線を
図25に示す。
図25の一部を拡大したものを
図26に示す。
図25及び
図26において、曲線2512は、実施例2の応力−歪曲線を示す。曲線2514は、実施例4の応力−歪曲線を示す。曲線2516は、実施例6の応力−歪曲線を示す。曲線2522は、比較例1の応力−歪曲線を示す。曲線2524は、比較例2の応力−歪曲線を示す。
【0064】
引張試験により得られた破断応力及び破断歪みのPEC割合による変化を
図27に示す。
図27において、折れ線2710は、組成物中のPECの割合[質量%]と、組成物の破断応力[MPa]との関係を示す。折れ線2720は、組成物中のPECの割合[質量%]と、組成物の破断歪み[−]との関係を示す。
【0065】
図25〜27から、SFにPECを添加することで、組成物の柔軟性が向上することがわかる。また、組成物中のPECの割合が30%を超えると、組成物の柔軟性が急激に向上することがわかる。特に、組成物中のPECの割合が50%以上の場合、SF単独の場合よりも、柔軟性に優れた組成物が得られたことがわかる。
【0066】
[実施例9]
下記の手順により、不織布状の組成物を作製した。まず、ヘキサフルオロイソプロパノール(HFIPと表記する場合がある。)6.0ml中に、252mgの絹フィブロインスポンジと108mgのポリエチレンカーボネート(PECと表記する場合がある。)(QPAC25ペレットフォーム、EMPOWER MATERIALS株式会社製)とを添加した後、室温(22〜27℃)、撹拌速度100rpm程度の条件下で2〜3時間撹拌して、SF及びPECの混合溶液を得た。なお、絹フィブロインスポンジとしては、東京農工大学農学部フィールドサイエンスセンターにおいて収穫された繭を繰糸・精練してセリシンを除去ものを利用した。
【0067】
次に、Fuence社製のEsprayer ES−2000S2Aを用いて、上記の混合溶液を利用して、不織布状の複合材料を作製した。エレクトロスピニングは、温度29〜32℃、相対湿度28〜34%、溶液吐出速度15μL/min、印加電圧22kV、シリンジ−ターゲット間距離10cm、紡糸時間2時間の条件で行った。
【0068】
次に、不織布状の複合材料を、37℃、相対湿度100%の環境下に24時間静置させて、SFの不溶化処理を実施した。その後、不織布状の複合材料を、精製水中に72時間浸漬させて、残留溶媒を除去した。これにより、SF:PEC=7:3(質量比)である組成物が得られた。作製された不織布状の組成物を滅菌バックに入れ、121℃20分間の滅菌処理を施すことで、心臓修復パッチとした。不織布状の組成物のSEM画像を
図28に示す。また、平均繊維径[μm]を
図33に示す。平均繊維径は、SEM画像から画像解析ソフトImageJを用いて算出した。
【0069】
[実施例10及び11]
PECの添加量を変えて組成物におけるSF:PECの比率を変更した以外は、実施例9と同様にして、実施例10及び11の組成物を得た。各実施例におけるSF:PECは、5:5(実施例10)、3:7(実施例11)であった。実施例10及び11の組成物のSEM画像を、
図29及び
図30に示す。また、平均繊維径[μm]を
図33に示す。
【0070】
[比較例3及び4]
PECを添加しなかった以外は、実施例9と同様にして、比較例3の組成物を得た。SFを添加しなかった以外は、実施例9と同様にして、比較例4の組成物を得た。比較例3及び4の組成物のSEM画像を、
図31及び
図32に示す。また、平均繊維径[μm]を
図33に示す。
【0071】
[評価方法]
実施例9〜11及び比較例3は、引張試験により評価した。引張試験により得られた応力−歪曲線を
図34に示す。応力−歪曲線に関する引張試験は、37℃の水中にて測定した点を除いて、実施例2、4及び6、並びに、比較例1及び2と同様の手順に基づいて実施した。
図34において、曲線3412は、実施例9の応力−歪曲線を示す。曲線3414は、実施例10の応力−歪曲線を示す。曲線3416は、実施例11の応力−歪曲線を示す。曲線3422は、比較例3の応力−歪曲線を示す。
【0072】
引張試験により得られた引張強さ[MPa]を
図35に示す。引張強さに関する引張試験は、株式会社島津製作所社製のEZ−Test/CEを用いて実施した。変位速度は、10mm/minに設定した。測定は、37℃の水中にて実施した。試料は、実施例2、4及び6、並びに、比較例1及び2と同様の手順に基づいて作製した。上記条件にて引張試験を実施し、破断に至るまでに到達した公称応力の最大値、すなわち最大荷重を負荷前の断面積で除した値を引張強さとした。
【0073】
引張試験により得られた破断点伸び[%]を
図36に示す。破断点伸びに関する引張試験は、株式会社島津製作所社製の型式:EZ−Test/CEを用いて実施した。変位速度は、10mm/minに設定した。測定は、37℃の水中にて実施した。試料は、実施例2、4及び6、並びに、比較例1及び2と同様の手順に基づいて作製した。上記条件にて引張試験を実施し、破断に至るまでに到達したひずみを破断点伸びとした。破断点伸びは下記の数式2によって算出した。
[数式2]
破断点伸び[%]=100×(L−Lo)/Lo
数式2において、Loは試験開始前の試料の長さであり、Lは試験時の試料の長さである。
【0074】
図34〜36から、SFにPECを添加することで、組成物の柔軟性が向上することがわかる。また、組成物中のPECの割合が50%を超えると、組成物の柔軟性が急激に向上することがわかる。
【0075】
[実施例12]
実施例9により得られた組成物を、心臓修復パッチとして、ビーグル犬の後大静脈に埋植した。埋植直後の心臓修復パッチの写真を
図37に示す。具体的には、実施例9により作製された組成物の不織布状のパッチ(5cm×5cm)を、長径2.5cm、短径1.0cmの楕円形状に切断して、心臓修復パッチ3710とした。ビーグル犬の後大静脈を長さ約1cmにわたって正中切開し、準備した心臓修復パッチ3710を埋植した。一定期間後にビーグル犬を犠牲死させ、心臓修復パッチ3710の埋植部分を採取した。採取された埋植部分に対して、肉眼による評価及び組織学的な評価を行った。
【0076】
[比較例5]
市販のePTFE製の心臓修復パッチ(ダブリュ.エル.ゴア・アンド・アソシエ−ツ社(アメリカ合衆国)製、ゴアテックス EPTFパッチ 35273100)を、ビーグル犬の後大静脈に埋植した。上記の心臓修復パッチは、日本では、日本ゴア株式会社から入手することができる。心臓修復パッチの埋植及び評価は、実施例12と同様にして実施した。
【0077】
[評価方法]
実施例12及び比較例5は、(1)パッチからの血液漏出量及び縫合糸の通過孔からの出血量、(2)生体適合性により評価した。
【0078】
(1)パッチからの血液漏出量及び縫合糸の通過孔からの出血量
手術時のパッチ自体からの血液漏出量、及び、縫合糸の通過孔からの出血量を、目視により確認した。実施例12の修復パッチは、比較例5の修復パッチと比較して、パッチ自体からの血液漏出量、及び、縫合糸の通過孔からの出血量が少なかった。
【0079】
(2)生体適合性
埋植後98日目に犠牲死させたビーグル犬から摘出した心臓修復パッチ埋植部を、後大静脈の長手方向の軸線に沿って切断した断面のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)像を
図38に示す。埋植後203日目に犠牲死させたビーグル犬から摘出した心臓修復パッチ埋植部を、後大静脈の長手方向の軸線に沿って切断した断面のヘマトキシリン・エオジン染色(HE染色)像を
図39に示す。
【0080】
図38及び
図39から、実施例12のパッチ3810が、時間の経過とともに徐々に分解され、生体組織に置き換えられていることがわかる。
図38によれば、パッチ3810は、厚い膠原繊維3820で被覆されている。
図39によれば、パッチ3910が分断され、いくつかの断片化したパッチ3910が観察された。断片化されたパッチ3910は、侵蝕されるように丸みを帯びていることがわかる。パッチの周囲には所々に異物巨細胞を含むマクロファージの細胞層が確認され、界面での活発なパッチの分解・吸収が観察された。以上よりパッチの生分解性を確認することができた。
【0081】
[動的粘弾性測定による相溶性評価]
実施例4及び実施例9の組成物の動的粘弾性を測定して、各実施例の組成物の相溶性を評価した。各実施例の組成物の動的粘弾性は、アイティー計測制御株式会社のDVA−225を用いて測定した。各実施例の試料の中央部から、5mm×2.5mmの試験片を切り出した。試験片をDVA−225の試料室内に固定し、引張モードにて、動的粘弾性を測定した。測定温度範囲は−100〜200℃に設定し、昇温速度は2℃/minに設定した。相溶性を評価するための参考例として、比較例4の資料から切り出した試験片についても同様の測定を実施した。
【0082】
参考例(PEC)、実施例4(SF:PEC=5:5)及び実施例9(SF:PEC=7:3)のそれぞれについて、温度変化に伴う損失係数の変化から、損失係数が極大となる温度を決定した。参考例の上記温度と、実施例4の上記温度との差は、0.7℃であった。したがって、実施例4の組成物は、相溶状態にはなく、相分離構造が形成されていることがわかる。一方、参考例の上記温度と、実施例9の上記温度との差は、3.7℃であった。したがって、実施例9の組成物は、相溶状態にあることがわかる。
【0083】
上記のとおり、本実施形態の組成物は、フィブロインと、弾性及び生分解性を有する高分子材料とを含む。これにより、柔軟性に優れたフィブロイン含有組成物を提供することができる。また、破断強度及び破断伸度に優れた組成物を提供することができる。
【0084】
以上、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。上記実施の形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者に明らかである。また、技術的に矛盾しない範囲において、特定の実施形態について説明した事項を、他の実施形態に適用することができる。その様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【0085】
特許請求の範囲、明細書、および図面中において示した材料及びその製造方法における動作、手順、ステップ、および段階等の各処理の実行順序は、特段「より前に」、「先立って」等と明示しておらず、また、前の処理の成果物を後の処理で用いるのでない限り、任意の順序で実現しうることに留意すべきである。特許請求の範囲、明細書、および図面中の動作に関して、便宜上「まず、」、「次に、」等を用いて説明したとしても、この順で実施することが必須であることを意味するものではない。