特許第6592110号(P6592110)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6592110ナトリウムイオン電池用のカソード材料としてのナトリウム酸化マンガンに対する2価金属ドーピング
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6592110
(24)【登録日】2019年9月27日
(45)【発行日】2019年10月16日
(54)【発明の名称】ナトリウムイオン電池用のカソード材料としてのナトリウム酸化マンガンに対する2価金属ドーピング
(51)【国際特許分類】
   H01M 10/054 20100101AFI20191007BHJP
   C01G 45/12 20060101ALI20191007BHJP
   C01G 53/00 20060101ALI20191007BHJP
   H01M 4/131 20100101ALI20191007BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20191007BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20191007BHJP
   H01M 10/0566 20100101ALI20191007BHJP
   H01M 10/058 20100101ALI20191007BHJP
【FI】
   H01M10/054
   C01G45/12
   C01G53/00 A
   H01M4/131
   H01M4/505
   H01M4/525
   H01M10/0566
   H01M10/058
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2017-561314(P2017-561314)
(86)(22)【出願日】2016年5月20日
(65)【公表番号】特表2018-518806(P2018-518806A)
(43)【公表日】2018年7月12日
(86)【国際出願番号】EP2016061364
(87)【国際公開番号】WO2016188877
(87)【国際公開日】20161201
【審査請求日】2017年11月24日
(31)【優先権主張番号】15169133.4
(32)【優先日】2015年5月26日
(33)【優先権主張国】EP
(31)【優先権主張番号】15183815.8
(32)【優先日】2015年9月4日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】501094270
【氏名又は名称】ユミコア
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 真一
(72)【発明者】
【氏名】駒場 慎一
(72)【発明者】
【氏名】久保田 圭
(72)【発明者】
【氏名】田原 禎之
【審査官】 藤原 敬士
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−209037(JP,A)
【文献】 特開2014−010973(JP,A)
【文献】 特開2014−143013(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第103840149(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/054
C01G 45/12
C01G 53/00
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/0566
H01M 10/058
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Cmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を有し、かつ組成NaMn1−yを有し、式中、0.60<x<0.95であり、MはCu、Zn、及びNiからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素からなり、0<y<0.20である、ナトリウム遷移金属系カソード材料を含む、充電式ナトリウム電池。
【請求項2】
ナトリウム遷移金属系カソード材料を含み、組成NaMn1−yがNa、酸素、及び非ナトリウム金属MMn1−yからなり、前記非ナトリウム金属が少なくとも80mol%のマンガンを含み、前記マンガンの原子価状態が3.33〜3.67である、請求項1に記載の充電式ナトリウム電池。
【請求項3】
ナトリウム遷移金属系カソード材料を含み、0.64≦x≦0.85かつ0.05≦y≦0.15である、請求項1に記載の充電式ナトリウム電池。
【請求項4】
充電式ナトリウム電池セルを調製するための方法であって、
電解液、アノード電極、及びカソード電極を用意する工程と、
前記アノード電極及び前記カソード電極をセルに組み立てる工程と、
前記電解液を前記セルに添加する工程と、を含み、
前記カソード電極が、ナトリウム遷移金属系カソード材料、集電体、バインダ、及び導電性添加剤を含み、
前記ナトリウム遷移金属系カソード材料が、Cmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造及び組成NaMn1−yを有し、式中、0.60<x<0.95であり、MはCu、Zn、及びNiからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素からなり、0<y<0.20である、方法。
【請求項5】
前記ナトリウム遷移金属系カソード材料が、
MnOOH、Mn、MnO、及びMnCOからなる群からいずれか1つのマンガン前駆体を用意する工程と、
NaOH及びNaCOからなる群からいずれか1つのナトリウム前駆体を用意する工程と、
CuO、CuO、Cu(OH)、ZnO、NiO、及びNi(OH)からなる群からいずれか1つ以上のM前駆体を用意する工程と、
化学量論量の前記マンガン前駆体及びM前駆体を、化学量論に対して1〜5%過剰量の前記ナトリウム前駆体と混合する工程と、
得られた混合物を、600〜1100℃の温度で酸素含有雰囲気で焼成する工程と、
焼成された前記混合物を急冷し、それによってCmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を得る工程と、を含む方法によって製造される、請求項に記載の方法。
【請求項6】
前記ナトリウム遷移金属系カソード材料が、
Mnと、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、及びオキシ炭酸塩からなる群からのCu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含む、いずれか1つの混合金属前駆体を用意する工程と、
NaOH及びNaCOからなる群からいずれか1つのナトリウム前駆体を用意する工程と、
MnとCu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含む化学量論量の前記混合金属前駆体を、化学量論に対して1〜5%過剰量の前記ナトリウム前駆体と混合する工程と、
得られた混合物を、600〜1100℃の温度で酸素含有雰囲気で焼成する工程と、
焼成された前記混合物を急冷し、それによってCmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を得る工程と、を含む方法によって製造される、請求項に記載の方法。
【請求項7】
前記マンガン前駆体がMnであり、前記ナトリウム前駆体がNaCOであり、銅前駆体がCuOである、請求項に記載の方法。
【請求項8】
前記マンガン前駆体がMnであり、前記ナトリウム前駆体がNaCOであり、亜鉛前駆体がZnOである、請求項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電式ナトリウム電池用のナトリウム遷移金属カソード材料に関する。遷移金属は、主にマンガンと、銅、亜鉛、及びニッケルなどの少量の2価金属ドーパントとから構成される。
【背景技術】
【0002】
電気自動車のような「グリーンカー」を導入することによって化石燃料の消費を制限する世界規模の努力が行なわれている。近年では、これらの車にLi充電式電池が使用される傾向がある。しかしながら、このアプローチは、持続可能な方法で十分なリチウム前駆体を生産することが環境的に困難となりうることから問題となっている。
【0003】
リチウムは豊富に存在する。海水中のみでも、Liの含量は2300億トンと推定される。しかし、最近の調査によると、リチウムは、一般に低濃度で存在し、実際に利用可能な量は1300万トンに限られる。これらの資源では「グリーンカー」を世界中に行き渡らせるには不十分である。リチウムの入手可能性を拡大するための努力に加えて、例えば、海水からの抽出、リチウムを使用しない充電式電池、例えばナトリウム充電式電池が新たに関心を集めている。
【0004】
多くの局面で、ナトリウムはリチウムと電気化学的に同様の反応を示す。ナトリウムイオン電池の理論上の実現性は70年代後半に開示されていた。カソード材料(NaCoO)におけるナトリウムイオンの可逆的な吸蔵及び放出が成功したことは、Delmasにより1981年に既に記載されており、Delmasは、半セル(Naカソード及びナトリウム金属アノード)のデータを示している。しかし、リチウム電池と同様に、ナトリウム金属は樹枝状結晶を形成するため、商業用電池ではアノード材料として使用することができず、そのためナトリウムイオン電池に適したアノード材料が必要とされる。1999年には、Dalhousie大学のあるグループが、Na吸蔵アノード材料として硬質炭素を開発した。その時以来、Na電池の実現性が原理上は受け入れてられているが、増え続けるLi充電式電池の世界に隠れて、実用にむけてのナトリウム吸蔵電池の開発には比較的わずかな努力しかあてられてこなかった。
【0005】
ナトリウムイオン電池はこのように技術開発において初期段階にある。層状ナトリウムイオンカソードは、少量のコバルトしか必要としない又は更にはコバルトを含まないため、安価となりうることが既に明らかになっている。コバルトの使用が回避される可能性には、基本的な結晶物理的特性が関連する。ナトリウムブロンズはコバルトを含まない完全な層状となっている一方で、LiMOにおいて、Coは層状結晶構造を安定化させ、サイクル中のカチオン転位(遷移金属のリチウムサイトへの移動)を防ぐために重要である。
【0006】
マンガン系Na含有カソード材料についてのいくつかの先行研究が存在する。三洋電機による米国特許出願第2010/0248040号(A1)及び米国特許出願第2011/0200879号(A1)では、ナトリウム並びにリチウムを含むカソードのLiイオン電池(ナトリウムイオンではない)への適用が教示されている。米国特許出願第2010/0248040号(A1)にはNaLiが記載されており、ここではMは、Mn、Fe、Co、Niから選択される。しかし、カソードにはLiイオン電池のみが使用されていた。「P2−type Na[Fe1/2Mn1/2]O made from earth−abundant elements for rechargeable Na batteries」(Yabuuchi et al.,Nature Materials 11(2012),512−517)では、カソード材料であるNaxFe1/2Mn1/2Oが開示されている。このカソード材料は希少元素又は有毒元素を含まず、かつNaイオン電池内で高可逆容量を示す。このカソード材料は、真の吸蔵材料である。このFe−Mn−酸化物ホスト構造は、ナトリウム放出及び再挿入の間は損なわれないままである。NaFe1/2Mn1/2などの高容量ナトリウムカソード及び硬質炭素などのアノードを含むナトリウムイオン電池が、特にグリーンカー用のLiイオン電池の優勢に次第に対抗できるようになっていくであろう。しかし、既知の層状ナトリウム金属酸化物において、電気化学的サイクル中の容量損失はLiMOと比較して十分に低くはない。Naのイオン半径は、Liよりも大きいため、(デ)吸蔵中の単位セルの容量変化により多くの影響を与え、サイクル中に層状構造の連続的な崩壊をもたらす。国際公開第2014/132174号では、Li、Mg、及びNiなどの低原子価状態のドーパントを含むNa2/3MnO系材料で高容量が達成された。近年では、銅をドープした材料であるNa2/3Cu1/3Mn2/3O2がXu et al.(in Chin.Phys.B 23(2014)118202)及びMason et al.(in ECS Electrochemistry Letters 4(2015)A41−A44)によって報告され、Cu2+/Cu3+酸化還元対の可逆変化が特許請求された。更に、Cu及びFeの共ドーピングがLi et al.(in Adv.Sei.2(2015)1500031)によって適用され、かつCu、Fe、Al、Mg、Ti、Co、Ni、及びZnの一連の共ドーピングが中国特許第104617288号で報告された。大量のCuのドーピングによりMn3+/Mn4+酸化還元対のMnの反応が犠牲になるため、銅を含むMn系材料の全てが100mAh/g未満の低容量を示す。Energy&Environmental Science,vol.4,N°4,p.1387,J.Billaudでは、ナトリウムイオン電池用のNa0.67Mn1−xMg(0≦x≦0.2)カソードが開示されている。P2型Na0.67Mn0.65Fe0.2Ni015カソード材料は、Electrochimica Acta,vol.116,2013,pages300−305で開示されている。
【0007】
上述の従来技術の全ての材料は六方晶構造を有するが、NaMnOは、歪んだP2型層状構造である斜方晶構造を有することができる。P2斜方晶層状Na2/3Mn2/3は、Paulsen et al.(in Solid State Ionics 126(1999)3−24)及びStoyanova et al.(in J.Solid State Chem.183(2010)1372)によって開示されたが、電気化学的特性は特定されていない。両論文では、六方晶と斜方晶との混合相が得られたため、NaMnOの純粋な斜方晶相を得ることの難しさが指摘されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
リチウムイオン電池技術と比較した際に異なる設計が可能になることによって、ナトリウム充電式電池技術が産業的に成功するかどうかは未解決のままである。しかし、高容量の安価なナトリウムカソード材料により、低コストで高い安全性及び良好なカレンダー寿命を達成することが可能になる場合、充電式ナトリウム電池技術がリチウム技術に取って代わる可能性を有することは明らかである。こうした問題が、本発明において取り組まれる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明において、特定の2価金属イオン、より具体的にはCu、Ni、及びZnのうちの任意の1つ以上のドーピングが、高度なレート性能及び良好なカレンダー寿命を有するナトリウムイオン電池を提供するためのナトリウムカソード材料に適用される。第1の態様から鑑みると、本発明は、以下の製品実施形態を提供することができる。
【0010】
実施形態1:Cmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を有し、かつ組成NaMyMn1−yを有し、式中、0.60<x<0.95であり、MはCu、Zn、及びNiからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素からなり、0<y<0.20である、充電式ナトリウム電池用のナトリウム遷移金属系カソード材料。
【0011】
実施形態2:Cmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を有し、かつ組成NaMn1−yLiy’を有し、式中、0.60<x<0.95であり、MはCu、Zn、及びNiからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素からなり、AはMg、Ti、Fe、Cr、及びCoからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素からなり、0<y<0.20、0≦z<0.2、0≦y’<0.33、かつz+y’>0である、充電式ナトリウム電池用のナトリウム遷移金属系カソード材料。ドーパントLi及びAの添加は、優れた安定性(特にTiの場合)及び良好な容量(特にLiの場合)を達成するために好適である。
【0012】
これらの2つの実施形態において、yの値は≧0.05であってもよい。zの値は<0.1、又は更には<0.05であってもよい。他の実施形態においてx>2/3である。
【0013】
実施形態3:組成NaMn1−yがNa、酸素、及び非ナトリウム金属MMn1−yからなり、非ナトリウム金属が少なくとも80mol%のマンガンを含み、マンガンの原子価状態が3.33〜3.67である、ナトリウム遷移金属系カソード材料。
【0014】
実施形態4:0.64≦x≦0.85かつ0.05≦y<0.20、又は0.64≦x≦0.85かつ0.05≦y≦0.15のいずれかである、ナトリウム遷移金属系カソード材料。
【0015】
上述の各個々の製品実施形態は、その前に記載された製品実施形態のうちの1つ以上と組み合わせることができる。
【0016】
種々の実施形態において、材料は非ドープ材料(y=0)よりも充電及び放電中の構造変化が少ないことを示し、したがって高度なレート性能及び安定なサイクル挙動を有し、更に場合により25サイクル後に90%超の容量保持率をもたらす。材料は、充電式ナトリウム電池の電圧範囲1.5〜4.4Vにおいて、半セル対ナトリウム金属でサイクルされる際に、170mAh/g超の可逆容量を有しうる。
【0017】
Xu et al.(in Chin.Phys.B 23(2014)118202)、Mason et al.(in ECS Electrochemistry Letters 4(2015)A41−A44)、Li et al.(in Adv.Sei.2(2015)1500031)、及び中国特許第104617288号が、Mn系銅含有カソード材料は、P63/mmc空間群のP2型六方晶層状構造を有すると記載していることに言及すべきである。これは、典型的には非ナトリウム金属層中に80%超のMnを含み、主にJahn−Teller活性イオンMn3+によって斜方晶の歪みが生じたCmcm空間群の構造を有する本発明とは異なる。更に、2価金属ドーピングはCmcm構造の安定化に有効であり、文献(Solid State Ionics 126(1999)3−24及びJ.Solid State Chem.183(2010)1372)で論じられるような純粋な相を得ることの難しさを克服すると推測される。
【0018】
第2の態様から鑑みると、本発明は、以下の方法実施形態を提供することができる。
【0019】
実施形態5:前述のナトリウム遷移金属カソード材料を調製するための方法であって、
MnOOH、Mn、MnO、及びMnCOからなる群から選択されるいずれか1つのマンガン前駆体を用意する工程と、
NaOH及びNaCOからなる群から選択されるいずれか1つのナトリウム前駆体を用意する工程と、
CuO、CuO、Cu(OH)、ZnO、NiO、及びNi(OH)からなる群から選択されるいずれか1つ以上のドーパント前駆体を用意する工程と、
化学量論量のマンガン前駆体及びドーパント前駆体を、化学量論に対して1〜5%過剰量のナトリウム前駆体と混合する工程と、
得られた混合物を、600〜1100℃の温度で酸素含有雰囲気で焼成する工程と、
焼成された混合物を急冷し、それによってCmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を得る工程と、を含む方法。急冷は、例えば、焼成された混合物を加熱炉から25℃の通常雰囲気に取り出すことによって行うことができる。ある実施形態において、マンガン前駆体はMnであり、かつナトリウム前駆体はNaCOである。
【0020】
実施形態6:前述のナトリウム遷移金属カソード材料を調製するための方法であって、
Mnと、水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、及びオキシ炭酸塩からなる群からのCu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含むいずれか1つの混合金属前駆体を用意する工程と、Mnと、Cu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含む化学量論量の混合金属前駆体を、化学量論に対して1〜5%過剰量のナトリウム前駆体と混合する工程と、
得られた混合物を、600〜1100℃の温度で酸素含有雰囲気で焼成する工程と、
焼成された混合物を急冷し、それによってCmcm空間群のP2斜方晶層状ブロンズ結晶構造を得る工程と、を含む方法。
【0021】
実施形態7:実施形態5において、Mn前駆体は、Mg、Ti、Fe、Cr、及びCoからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素を更に含む。
【0022】
実施形態8:実施形態6において、Mnと、Cu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含む混合金属前駆体は、Mg、Ti、Fe、Cr、及びCoからなる群のうちのいずれか1つ以上の元素を更に含む。
【0023】
実施形態9:実施形態5は、化学量論量のマンガン前駆体及びドーパント前駆体を化学量論に対して1〜5%過剰量のナトリウム前駆体と混合する工程の前に、LiOH及びLiCOからなる群からのリチウム前駆体を用意する工程を更に含んでもよく、リチウム前駆体を混合物に添加する。
【0024】
実施形態10:実施形態6は、MnとCu、Zn、及びNiのうちのいずれか1つ以上とを含む化学量論量の混合金属前駆体を化学量論に対して1〜5%過剰量のナトリウム前駆体と混合する工程の前に、LiOH及びLiCOからなる群からのリチウム前駆体を用意する工程を更に含んでもよく、リチウム前駆体を混合物に添加する。
【0025】
実施形態11:別の方法実施形態において、マンガン前駆体はMnであってもよく、ナトリウム前駆体はNaCOであってもよく、銅前駆体はCuOであってもよい。
【0026】
実施形態12:別の方法実施形態において、マンガン前駆体はMnであってもよく、ナトリウム前駆体はNaCOであってもよく、亜鉛前駆体はZnOであってもよい。
【0027】
第3の態様から鑑みると、本発明は、充電式ナトリウム電池における、前述のナトリウム遷移金属カソード材料の使用を提供することができる。第4の態様から鑑みると、本発明は、前述のナトリウム遷移金属カソード材料を含む充電式ナトリウム電池の正極電極を提供することができる。第5の態様から鑑みると、本発明は、前述のナトリウム遷移金属カソード材料を含む充電式ナトリウム電池を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】調製されたままのNa2/3MnOカソード材料のXRD粉末回折パターン。
図2】調製されたままのNa2/3Cu0.1Mn0.9カソード材料のXRD粉末回折パターン。
図3】調製されたままのNa2/3Cu0.2Mn0.8カソード材料のXRD粉末回折パターン。
図4】調製されたままのNa2/3Zn0.1Mn0.9カソード材料のXRD粉末回折パターン。
図5】Na2/3MnOカソード材料の電気化学的試験の結果。
図6】Na2/3Cu0.1Mn0.9カソード材料の電気化学的試験の結果。
図7】Na2/3Cu0.2Mn0.8カソード材料の電気化学的試験の結果。
図8】Na2/3Zn0.1Mn0.9カソード材料の電気化学的試験の結果。
図9】Na2/3Ni0.1Mn0.9カソード材料の電気化学的試験の結果。
図10】Na2/3Mn1−yカソード材料のサイクル安定性の結果。
図11】Na2/3MnO、Na2/3Cu0.1Mn0.9、Na2/3Zn0.1Mn0.9、及びNa2/3Ni0.1Mn0.9のレート能力。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、銅、ニッケル、及び亜鉛などの2価金属ドーパントをMnサイトに有する、ナトリウムイオン電池用のP2−Na2/3MnO系材料を開示する。本発明の実行を可能にするために、図面及び以下の発明を実施するための形態において、好ましい実施形態を詳細に記載する。本発明は、これらの特定の実施形態に関して記載するが、本発明はこれらの好ましい実施形態を限定するものと理解するべきではない。それとは対照的に、本発明は、発明を実施するための形態及び添付図面を考慮することから明らかになるように、多数の代替物、変形物、及び均等物を含む。
【0030】
本発明は以下の態様を実施する。
【0031】
1)カソード材料はナトリウムブロンズ材料に属し、Cmcm空間群の層状P2構造を有する。
【0032】
2)NaxMMn1−yにおいて、Naは結晶構造のナトリウム層内に位置し、Mn及びMは非ナトリウム金属層内に位置し、xは約2/3又は好ましくは2/3超である。この場合、通常P2結晶構造は安定しており、xの値が高くなるほど完全セルにおいて可逆容量が増加する可能性がある。
【0033】
3)非ナトリウム金属層は、3価又は4価の原子価状態であるマンガンを主に含む。
【0034】
4)非ナトリウム金属層内のMイオンは、おそらく2価原子価状態、典型的にはCu2+、Zn2+、又はNi2+である。このタイプの低原子価状態のドーピングにより、電気的中性が必要とされるため、マンガンはほぼ4価原子価状態に変化する。
【0035】
5)好ましくは、NaMn1−yのyの値は(約)0.2未満である。
【0036】
6)NaMn1−yのサイクル安定性は、Naと空間との秩序性と関連する構造変化が抑制されるため、非ドープ材料であるNa2/3MnOのサイクル安定性と比較して十分に改善される。
【0037】
ナトリウムマンガン酸化物にドープされた2価Mイオンは、通常は3価Mnに取って代わり、八面体サイトに4価Mnを生じることができる。3価MnはJahn−Teller活性を示し、斜方晶Cmcm構造を得るために重要であるため、NaMn1−yにおいてx=2/3と仮定すると、yの上限は0.20とすることができ、組成Na2/30.2Mn0.8が得られる。xの上限値をここで検討しなかったとしても、xを更に増加させることが可能である場合、ひいてはyの上限値を増加させることができる。しかし、ドーピングレベルが高い(y>0.2など)と、不利である。第1に、斜方晶相を得ることが困難となりうる。第2に、酸化還元活性カチオンであるマンガンの量が減少し、可逆容量が減少する。1つの実施形態において、最適なドーピングレベルはy=0.05〜0.2であり、その結果、高度な容量、レート性能、及び良好な安定性を有する化合物が得られる。
【0038】
本発明のカソード材料は、多くの異なった方法で調製することができる。1つの実施形態において、この方法は、マンガン前躯体(MnOOH、Mn、MnO、MnCOなど)、ナトリウム前躯体(典型的にはNaCO)、及びドーパント前躯体(典型的にはCuO、ZnO、NiO、Ni(OH))を使用する単純な固相反応である。Mn及び2価Mイオンを含む混合前駆体(金属の水酸化物、オキシ水酸化物、炭酸塩、及びオキシ炭酸塩)も可能であり、これらは典型的には共沈法によって得られる。化学量論量のMn、ドーパント、及び化学量論より5%過剰のNa前躯体を混合し、次いで空気などの酸素含有雰囲気で焼成する。高温での調製の間にNaが消失する可能性があるため、過剰のNaが有用である。焼成温度は、完全な反応及び結晶子の形成が可能となるように十分高温であるべきだが、過度な焼成を避けるため高温になりすぎるべきでない。好ましい温度範囲は600℃〜1100℃である。1つの実施形態において、温度範囲は900℃〜1100℃である。斜方晶相は、700℃超などの高温のみで安定であるため、冷却条件もまた重要である。全ての焼成サンプルは、Cmcm空間群のP2構造を固定するために、例えば炉から取り出すことによって急冷するべきである。1つの方法実施形態において、ナトリウム、マグネシウムの前駆体、及び2価Mドーパントを含む混合物は、酸化物、過酸化物、及び硫化物などの銅塩をそれ以外の前駆体と乾燥混合することによって得られる。
【0039】
ナトリウムカソード材料は、電極又は集電体、典型的には、カソード材料、バインダ、及び導電性添加剤の混合物を含むフィルムで覆われているアルミニウム箔に融合される。典型的なバインダはPVDFなどのポリマーであり、典型的な導電性添加剤は炭素繊維又はフレークである。次いで、カソード電極をアノード電極(活性材料は典型的には硬質炭素である)とともにセルに組み立て、電解液を添加する。典型的な電解液は、有機溶媒(ポリプロピレンなど)中に溶解されたNa塩(NaPF又はNaClOなど)である。サイクル安定性、安全性、高温性能などを改良するために、様々な電解液添加剤を添加することができる。典型的な添加剤はフッ素化エチレンカーボネート(fluorinated ethylene carbonate、FEC)である。
【0040】
本発明のNaMn1−y材料は以下の特定の実施形態を有し、これらはまた組み合わせることもできる:
Cmcm空間群のP2層状ブロンズ結晶構造を有する正極電極材料;
充電式電池用の正極電極材料であって、式NaMn1−yで表され、ここで、MはCu、Ni、及びZnのうちのいずれか1つ以上であり、0.60<x<0.95、0.00<y<0.20、好ましくは0.64≦x≦0.85及び0.05≦y≦0.15である、正極電極材料。
【0041】
この正極電極材料を含む充電式電池は以下の実施形態を有しうる。
【0042】
半セル対Naにおいて1.5〜4.4Vでサイクルする際に、少なくとも170mAh/g又は更に180mAh/gの可逆カソード容量を有する。
【0043】
ナトリウム金属アノードを備える電池での第1の充電−放電サイクル中の非可逆容量は−9%超である。
【0044】
ここで、本発明を次の実施例において例示する。
【0045】
実施例1:NaMn1−yの調製
非ドープNa2/3MnOをNaCO及びMn粉末から調製する。試薬を混合した後、混合物を空気中で1050℃に加熱し、500℃に徐冷し、次いで反応生成物を加熱炉から取り出すことによって急冷し、次いでアルゴン充填グローブボックスへ直ぐに移動させ、R1とする。P2型Na−Cu−Mn酸化物をNaCO、Mn、及び銅過酸化物(CuO)粉末から調製する。試薬を混合した後、混合物を空気中で1050℃に加熱し、続いて急冷するとNa2/3Cu0.1Mn0.9(E1とする)、Na2/3Cu0.2Mn0.8(E2とする)、及びNa2/3Cu1/3Mn2/3(E3とする)が得られる。また、Na−Zn−Mn酸化物をNaCO、Mn、及び酸化亜鉛(ZnO)粉末から調製する。試薬を混合した後、混合物を空気中で900℃に加熱し、続いて急冷すると、Na2/3Zn0.1Mn0.9(E4とする)が得られる。また、Na−Ni−Mn酸化物をNaCO、Mn、及び水酸化ニッケル(Ni(OH))粉末から調製する。試薬を混合した後、混合物を空気中で1050℃に加熱し、続いて急冷すると、Na2/3Ni0.1Mn0.9(E5とする)が得られる。得られた粉末を、波長0.5オングストロームのシンクロトロンX線(シンクロトロン放射光装置SPring8、日本)を使用することにより粉末X線回折(XRD)によって調査する。得られたR1のXRDパターンを、Rietveld解析のフィッティング曲線とともに図1に示す。R1をアサインし、P63/mmc空間群の六方晶P2型層状構造に完全にフィットさせる。同様に、得られたE1のXRDパターンを、Rietveld解析のフィッティング曲線とともに図2に示す。E1をアサインし、Cmcm空間群の斜方晶P2型斜方晶層状構造に完全にフィットさせる。得られたE2のXRDパターンを、Rietveld解析のフィッティング曲線とともに図3に示す。E2をアサインし、P63/mmc空間群の六方晶P2型層状構造に完全にフィットさせる。E3もまた、P63/mmc空間群の六方晶P2型層状構造にアサインする。E1と同様に、E4及びE5をアサインし、E4に関して図4に示されるように、Cmcm空間群の斜方晶P2型斜方晶層状構造に完全にフィットさせる。各XRD図において、観察されたXRDパターンは小円によって示され(任意単位の強度対2θ度)、Rietveldシミュレーション曲線をできるだけ正確にパターンと一致させると、曲線下にパターンとフィッティング曲線との間の差を表す線が得られる。最後に、ブラッグピークの位置がパターンと差線との間に示される。
【0046】
実施例2:NaMn1−yの電気化学的試験
得られた粉末を、ナトリウム金属アノードを備えるコインセルで試験する。電極活性物質のロードは3.2mg/cmであり、電極組成は8:1:1(活性材料:バインダ(PVDF):炭素)である。電解液は、PC:EC:DEC=1:1:3中の1M NaPFである。充放電電圧範囲は1.5〜4.4Vであり、電流密度は10mA/gである。
【0047】
図5、6、及び7に、それぞれy=0.0(R1)、0.1(E1)、及び0.2(E2)の場合のNaCUMn1−yの電気化学的特性を示す。充電曲線は、左から右に1〜15サイクルであり、放電曲線は、右から左に1〜15サイクルである。R1は、Naイオンと空間との秩序性を示す、充電及び放電中に多段階を示すが、E1及びE2は、電気化学的サイクル中の構造変化が少ないことを示す平滑なプロファイルを示す。図8及び図9は、NaxZn0.1Mn0.9(E4)及びNaxNi0.1Mn0.9(E5)の電気化学的特性をそれぞれ示す。両サンプルともまた、R1と比較して滑らかなプロファイル及び大容量を示す。
【0048】
図10は、R1及びE1〜5のサイクル安定性を示し、表1は電気化学的結果の概要を示す。25サイクル後の容量保持は、(25回目の放電容量)/(1回目の放電充電容量)として定義される。E1とE2の両方が、R1より良好なサイクル安定性を、かつ25サイクル後に95%超の容量保持率を有する。E2は良好なサイクル安定性を示すが、高レベルのCuが、酸化還元活性カチオンであるマンガンを置換するために、その可逆容量は減少する。更に、E3は、E1及びE2と比較して、極めて低容量をかつ相対的に不十分なサイクル安定を示し、Mnイオンの酸化還元反応の消失を示唆する。E4及びE5はE1と比較して相対的に大容量及び急速なフェーディングを示し、25サイクルでR1より依然として高容量のままである。要約すると、E1及びE4は斜方晶Cmcm構造を有し、重要な容量の損失を伴わずに最良の容量及びサイクル安定性をもたらす。Cu及びZnイオンは酸化還元反応に関与しないが、結晶構造の安定剤として作用すると推測される。E5の場合、Mnは依然として主要な酸化還元中心であるが、Niイオンもまた反応に関与し、動作電圧をわずかに増加させる。
【0049】
【表1】
【0050】
実施例3:NaMn1−yのレート性能
実施例2と同様の方法で作製されたコインセルのレート性能を検討する。充放電電圧範囲は1.5〜4.4Vであり、様々な電流密度を有する。全てのサンプルに対して1C=200mAh/gと設定し、全ての充電プロセスをC/20(=10mAh/g)で行う。C/20、C/10、C/5、C/2、1C、及び2Cレートを、放電のためにコインセルに加え、各電流密度に対して5サイクルした。図11は、Na2/3MnO(R1)、Na2/3Cu0.1Mn0.9(E1)、Na2/3Zn0.1Mn0.9(E4)、及びNa2/3Ni0.1Mn0.9(E5)のそれぞれのレート性能を示す。高レートでの容量保持は、10%のCu、Ni、又はZnのドーピングによって十分に改善される。2Cレートでの容量保持を表2に示す。充電及び放電中の構造変化は、R1の極めて不十分なレート性能の主な要因となるはずである。少量のCu、Zn、及びNiのドーピングは、層構造を安定化させ、Naイオンの急速な拡散を支持する。
【0051】
【表2】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11