特許第6606501号(P6606501)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6606501
(24)【登録日】2019年10月25日
(45)【発行日】2019年11月13日
(54)【発明の名称】冷凍食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 3/37 20060101AFI20191031BHJP
   A23L 7/109 20160101ALI20191031BHJP
   A23L 7/10 20160101ALI20191031BHJP
【FI】
   A23L3/37 A
   A23L7/109 E
   A23L7/109 A
   A23L7/10 E
【請求項の数】16
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2016-545417(P2016-545417)
(86)(22)【出願日】2015年8月7日
(86)【国際出願番号】JP2015072497
(87)【国際公開番号】WO2016031525
(87)【国際公開日】20160303
【審査請求日】2018年3月20日
(31)【優先権主張番号】特願2014-173574(P2014-173574)
(32)【優先日】2014年8月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000226998
【氏名又は名称】株式会社日清製粉グループ本社
(73)【特許権者】
【識別番号】398012306
【氏名又は名称】日清フーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000084
【氏名又は名称】特許業務法人アルガ特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100077562
【弁理士】
【氏名又は名称】高野 登志雄
(74)【代理人】
【識別番号】100096736
【弁理士】
【氏名又は名称】中嶋 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100117156
【弁理士】
【氏名又は名称】村田 正樹
(74)【代理人】
【識別番号】100111028
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 博人
(72)【発明者】
【氏名】伊東 貴史
(72)【発明者】
【氏名】小島 和子
(72)【発明者】
【氏名】入江 謙太朗
(72)【発明者】
【氏名】川田 可南子
【審査官】 福間 信子
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−208636(JP,A)
【文献】 特開2007−236382(JP,A)
【文献】 国際公開第2009/054100(WO,A1)
【文献】 特開平02−117353(JP,A)
【文献】 高田 洋樹ほか,ブランチングエンザイムの実用化と高度分岐環状デキストリン(クラスターデキストリンTM)の開発,生物工学会誌, 2006, vol.84, no.2, p.61-66
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L
DWPI(Derwent Innovation)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷凍食品の製造方法であって、
調理済み食品に、イヌリン、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を付着させることと、該組成物を付着させた食品を冷凍することとを含み、
該組成物は、イヌリン1〜19質量%と、油脂95〜5質量%と、増粘剤0.005〜0.4質量%とを含有し、
該組成物中における該イヌリン、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリンの量が20質量%以下であり、
該増粘剤が、キサンタンガム、タマリンドガム、グアガム、及びカラギーナンからなる群より選択される少なくとも1種である、
方法。
【請求項2】
前記調理済み食品に対する前記組成物の付着量が、該調理済み食品100質量部に対して3〜15質量部である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記水と前記増粘剤との合計含有量が4〜94質量%である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記調理済み食品に前記組成物を付着させることが、該調理済み食品に該組成物を噴霧若しくは塗布すること、該調理済み食品に該組成物を添加し混合すること、又は該調理済み食品を該組成物に浸漬させることである、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記調理済み食品が、調理済み麺類又は調理済み米である、請求項1〜4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記組成物がさらに食塩、乳化剤及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項1〜5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
冷凍食品の冷凍焼け防止方法であって、
調理済み食品に、イヌリン、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を付着させることと、該組成物を付着させた食品を冷凍することとを含み、
該組成物は、イヌリン1〜19質量%と、油脂95〜5質量%と、増粘剤0.005〜0.4質量%とを含有し、
該組成物中における該イヌリン、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリンの量が20質量%以下であり、
該増粘剤が、キサンタンガム、タマリンドガム、グアガム、及びカラギーナンからなる群より選択される少なくとも1種である、
方法。
【請求項8】
前記調理済み食品に対する前記組成物の付着量が、該調理済み食品100質量部に対して3〜15質量部である、請求項7記載の方法。
【請求項9】
前記水と前記増粘剤との合計含有量が4〜94質量%である、請求項7又は8記載の方法。
【請求項10】
前記調理済み食品に前記組成物を付着させることが、該調理済み食品に該組成物を噴霧若しくは塗布すること、該調理済み食品に該組成物を添加し混合すること、又は該調理済み食品を該組成物に浸漬させることである、請求項7〜9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
前記調理済み食品が、調理済み麺類又は調理済み米である、請求項7〜10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
前記組成物がさらに食塩、乳化剤及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項7〜11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
イヌリン、水、増粘剤、及び油脂を含有し、該イヌリンの含有量が1〜19質量%であり、該油脂の含有量が95〜5質量%であり、該増粘剤の含有量が0.005〜0.4質量%であり、該イヌリン、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリンの量が20質量%以下であり、かつ該増粘剤が、キサンタンガム、タマリンドガム、グアガム、及びカラギーナンからなる群より選択される少なくとも1種である、冷凍食品の冷凍焼け防止剤。
【請求項14】
前記水と前記増粘剤との合計含有量が4〜94質量%である、請求項13記載の冷凍焼け防止剤。
【請求項15】
前記冷凍食品が、冷凍調理済み麺類又は冷凍調理済み米である、請求項13又は14記載の冷凍焼け防止剤。
【請求項16】
さらに食塩、乳化剤及び調味料からなる群より選択される少なくとも1種を含有する、請求項13〜15のいずれか1項記載の冷凍焼け防止剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冷凍焼けの生じにくい冷凍食品の提供に関する。
【背景技術】
【0002】
冷凍食品では、冷凍庫内の温度変化などに起因して、冷凍保存中に食品から水分が昇華し、いわゆる「冷凍焼け」と呼ばれる現象が起きることが知られている。冷凍焼けした冷凍食品は、食品本来の色が部分的に又は全体的に失われて白っぽくなる等の変色や、食感の低下などを引き起こすため、商品価値が著しく損なわれる。
【0003】
従来、冷凍食品の冷凍焼けを防止するための手段が提供されている。例えば、特許文献1には、調理済み麺類に、少なくとも、水、食塩、油脂及び増粘剤を付着させた後、冷凍することで、冷凍麺類の冷凍焼けを防止することが記載されている。また特許文献2には、少なくとも水、油脂及び増粘多糖類を含有し、かつ60℃での粘度が30〜2000mPa・sである組成物を調理済み麺類に付着させ、次いで該麺類を冷凍することを含む、冷凍麺類の冷凍焼け防止方法が記載されている。また特許文献3には、冷凍された食品の表面に、食品として許容可能な単糖類又は二糖類の一以上からなる糖成分を溶解した液を提供して食品の表面で凍結させることにより糖成分を含む氷粒を食品の表面に付着させる工程を含む冷凍食品の製造方法により、冷凍食品の冷凍保存中に生じる冷凍焼けを抑制することが記載されている。また特許文献4には、融点が5℃以上30℃以下の範囲にある油脂を含有する冷凍麺の冷凍焼け防止剤が記載されている。
【0004】
さらに、特許文献5及び6には、冷凍で長期保存が可能な冷凍麺類の製造方法が開示されている。特許文献5に記載の方法では、調理済み麺類に対して、融点10℃以下の油脂、あるいはさらに水、乳化剤、増粘剤を含む液を付着させ、次いで該麺類を冷凍する。特許文献6に記載の方法では、調理済み麺類に対して、キサンタンガム、あるいはさらに水、油脂、キサンタンガム以外の多糖類などを含有し、かつ60℃での粘度が30〜2000mPa・sである組成物を付着させ、次いで該麺類を冷凍する。
【0005】
特許文献7には、具材、ソース原料、調味料、水を含み、全脂質量が6.0g/100g以下のパスタソースであって、該パスタソース全量基準で、イヌリン2.0〜20.0質量%と、アラビアガム1.0〜5.0質量%又はガッティガム0.5〜2.0質量%とを含むことを特徴とするパスタソース及びその冷凍品が記載されている。但しこれは、低脂質でありながら味とテクスチャーの良いパスタソースとして提供されているものであって、冷凍焼け防止のために使用されるものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】国際公開公報第2009/054100号
【特許文献2】国際公開公報第2013/172118号
【特許文献3】特開2013−255453号公報
【特許文献4】特開2013−034445号公報
【特許文献5】国際公開公報第2013/171930号
【特許文献6】国際公開公報第2013/172117号
【特許文献7】特開2011−205966号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、冷凍食品の冷凍保存中に発生する冷凍焼けを防止することができる冷凍焼け防止剤、及び当該冷凍焼け防止剤を用いた冷凍焼けの生じにくい冷凍食品の製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決すべく、種々研究を重ねた結果、冷凍前の食品に、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を少なくとも含有する組成物を付着させ、次いでこれを凍結して製造された冷凍食品が、冷凍耐性が高く冷凍で長期保存しても冷凍焼けが生じにくいことを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、冷凍食品の製造方法であって、
調理済み食品に、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を付着させることと、該組成物を付着させた食品を冷凍することとを含み、
該組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ1〜19質量%と、油脂95〜5質量%と、増粘剤0.005〜0.4質量%とを含有し、
該組成物中における該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量が20質量%以下である、
方法を提供する。
【0010】
また本発明は、冷凍食品の冷凍焼け防止方法であって、
調理済み食品に、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を付着させることと、該組成物を付着させた食品を冷凍することとを含み、
該組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ1〜19質量%と、油脂95〜5質量%と、増粘剤0.005〜0.4質量%とを含有し、
該組成物中における該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量が20質量%以下である、
方法を提供する。
【0011】
また本発明は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有し、該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの含有量が1〜19質量%であり、該油脂の含有量が95〜5質量%であり、該増粘剤の含有量が0.005〜0.4質量%であり、かつ該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量が20質量%以下である、冷凍食品の冷凍焼け防止剤を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、冷凍食品の冷凍保存中における冷凍焼けを防止することができるため、冷凍焼けのない高品質の冷凍食品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本明細書において、冷凍食品の「冷凍焼け」とは、冷凍保存中に食品の表面が乾燥した状態をいい、より具体的には、食品の表面の水分が蒸発や他の部位に移動したりすることにより、食品が縮んだり、表面が変色したり、又は硬くなることをいう。
【0014】
本明細書において「冷凍食品」とは、好ましくは冷凍調理済み食品をいう。
【0015】
本明細書において「調理済み食品」とは、茹で、蒸し、揚げ、煮る、焼く、マイクロ波加熱等の任意の調理法で加熱調理した食品をいう。「調理済み食品」の種類は特に限定されないが、好ましくは、アルファ化した澱粉を多く含みかつ水分の比較的多い調理済み食品、例えば、加熱調理済みの穀類やその加工物であり、より好ましくは加熱調理済みの米や麺類が挙げられる。調理済みの米としては、例えば米飯、炊き込みご飯、おこわ、チャーハン、ピラフ、ドリア、リゾット、餅、団子などが挙げられるが、これらに限定されない。調理済み麺類のための「麺類」としては、例えばパスタ、ピザ、うどん、平めん、日本蕎麦、素麺、冷麦、中華麺、麺皮類(例えば、餃子、焼売、春巻き、ワンタン、包子、饅頭等の皮)、ビーフンなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0016】
より好ましくは、「冷凍食品」は、冷凍調理済みパスタである。調理済みパスタは、パスタを茹で、蒸し、マイクロ波加熱等の手段で喫食可能な程度に加熱調理することにより製造することができる。当該パスタの種類は特に制限されないが、小麦粉を含む粉原料から得られた生地から公知の手段で製造したパスタであればよい。小麦粉としては、強力粉、準強力粉、中力粉、薄力粉、デュラム粉(デュラムセモリナを含む)、及びそれらの混合物が挙げられる。当該粉原料は、小麦粉以外の穀粉や、澱粉又は加工澱粉をさらに含有していてもよい。本発明で使用される調理済みパスタは、生パスタの調理物であっても、半乾燥パスタや乾燥パスタの調理物であってもよい。
【0017】
本発明は、冷凍食品の製造方法を提供する。当該方法は、調理済み食品に、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を少なくとも含有する組成物を付着させ、次いで該組成物を付着させた食品を冷凍することを含む。当該方法で製造された冷凍食品は、冷凍焼けが生じにくいという利点を有する。したがって、本発明はまた、調理済み食品に、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を少なくとも含有する組成物を付着させ、次いで該組成物を付着させた食品を冷凍することを含む、冷凍食品の冷凍焼け防止方法を提供する。
【0018】
本発明において、調理済み食品に付着させる上記組成物中に含まれる水としては、精製水、水道水など、通常調理に使用することができる水であればよい。
【0019】
イヌリンは、キク科植物の塊茎や球根などに含有される多糖類であり、果糖が多数重合した構造を有する。イヌリンが種々の重合度のイヌリンの混合物である場合、混合物中のイヌリンの鎖長は、平均重合度で表すことができる。本発明において、上記組成物中に含まれるイヌリンは、平均重合度が10〜30のものであることが好ましい。
【0020】
イヌリンは、イヌリンを含有する植物、例えばキクイモ、ダリア、ゴボウ、アザミ、ヤムイモ、チコリ等から抽出することができる。さらに、抽出されたイヌリンを分画(例えば、特開平9−324002号公報参照)することにより、所望の鎖長のイヌリンを得ることができる。イヌリンはまた、イヌリン合成酵素を用いて製造することもでき(例えば、特開2009−50281号公報参照)、又は市販品(例えば、フジ日本精糖株式会社製)を使用することもできる。
【0021】
本発明において、上記組成物中に含まれるデキストリンとしては、デキストロース当量(DE)の値が4〜9、好ましくはDE値が4〜5であるデキストリンが使用される。デキストリンのDE値は、固形分中の還元糖をブドウ糖に換算して測定し、全固形分に対する還元糖の割合として表される。還元糖の測定は、主にウィルシュテッターシューデル法(Wilstatter Schudel法)、レインエイノン法(Lane−Eynon法)、ベルトラン法(Bertrand法)、ソモギー−ネルソン法(Somogyi−Nelson法)等に従って行うことができる。
【0022】
上記組成物は、上述したイヌリンとデキストリンのいずれか一方のみを含有していてもよいが、両方を組み合わせて含有していてもよい。好ましくは、上記組成物は上述したイヌリンを含有する。
【0023】
本発明において、上記組成物中に含まれる増粘剤としては、通常食品に使用されている増粘剤であればよく、例えば、キサンタンガム、タマリンドガム、グアガム、カードラン、カラギーナン、寒天、ローカストビーンガム、ジェランガム、アラビアガム、グルコマンナン、プルラン、ヒアルロン酸、ペクチン酸、アルギン酸、セルロース、メチルセルロース等の増粘多糖類;コラーゲン、アルブミン、ゼラチン及びカゼイン等のタンパク質などが挙げられるが、増粘多糖類が好ましく、このうち、キサンタンガム、タマリンドガム、グアガム及びカラギーナンがより好ましい。これらの増粘剤は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
本発明において、上記組成物中に含まれる油脂としては、通常食品に使用されている植物性又は動物性の食用油脂であればよく、例えば大豆油、マーガリン、ショートニング、バター、オリーブ油、カカオ脂、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、菜種油、ヒマワリ油、牛脂、豚脂、乳脂、魚油等が挙げられるが、大豆油及びマーガリンが好ましい。これらの油脂は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0025】
したがって、一実施形態において、本発明において調理済み食品に付着させる組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する。該組成物中における該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの含有量は、1〜19質量%であればよいが、好ましくは2〜18質量%であり、より好ましくは5〜15質量%である。また、該組成物中における油脂の含有量は、95〜5質量%であればよいが、好ましくは10〜90質量%であり、より好ましくは25〜75質量%である。また、該組成物中における増粘剤の含有量は、0.005〜0.4質量%であればよい。また、該組成物中において、該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、該水及び該増粘剤の合計量中の該イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量は、20質量%以下であればよいが、好ましくは4〜20質量%、より好ましくは6〜20質量%、さらに好ましくは10〜20質量%である。好ましい実施形態において、該組成物中における該水と該増粘剤との合計量は、4〜94質量%、より好ましくは8〜80質量%、さらに好ましくは20〜70質量%である。
【0026】
好ましい実施形態において、本発明において調理済み食品に付着させる組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ1〜19質量%と、水及び増粘剤を合計で4〜94質量%と、油脂95〜5質量%とを含有し、かつ該組成物中におけるイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水及び増粘剤の合計量中のイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量は20質量%以下である。
より好ましい実施形態において、本発明において調理済み食品に付着させる組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ2〜18質量%と、水及び増粘剤を合計で8〜80質量%と、油脂10〜90質量%とを含有し、かつ該組成物中におけるイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水及び増粘剤の合計量中のイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量は4〜20質量%、好ましくは6〜20質量%である。
さらに好ましい実施形態において、本発明において調理済み食品に付着させる組成物は、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ5〜15質量%と、水及び増粘剤を合計で20〜70質量%と、油脂25〜75質量%とを含有し、かつ該組成物中におけるイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水及び増粘剤の合計量中のイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせの量は6〜20質量%、好ましくは10〜20質量%である。
上記の好ましい実施形態において、本発明の組成物中における増粘剤の含有量は、0.005〜0.4質量%である。
【0027】
上記の含有量でイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物に対して、さらにその他の成分、例えば食塩、乳化剤、調味料等を添加することができる。該食塩は、通常使用されている食用の塩であればよい。該乳化剤としては、例えば、ショ糖脂酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、レシチン等が挙げられる。これらの乳化剤は、単独で又は2種以上を混合して用いることができる。該組成物における食塩、乳化剤、調味料等の含有量は、合計で好ましくは3質量%以下、より好ましくは1質量%以下である。さらに好ましくは、該組成物は、上記のイヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂からなる。
【0028】
上記イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物は液状組成物であり、水溶液、懸濁液、分散液、又は乳化液等のいずれの形態であってもよいが、好ましくは乳化液の形態である。該乳化液は、例えば、イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせを溶解させた水と、増粘剤と、油脂とを混合することによって調製することができる。
【0029】
本発明においては、上記イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を調理済み食品に適用し、該食品の表面に付着させる。より詳細には、該組成物を調理済み食品に適用し、該食品の表面を覆う。該組成物が付着した冷凍食品は、冷凍焼けが防止される。したがって、該組成物は、冷凍食品の冷凍焼け防止用の組成物であり、より詳細には冷凍食品の冷凍焼け防止用コーティング液である。
【0030】
上記イヌリン若しくはDE値4〜9のデキストリン又はそれらの組み合わせ、水、増粘剤、及び油脂を含有する組成物を調理済み食品に付着させる手段としては、該組成物で調理済み食品の表面を覆うことができる手段が好ましく、例えば、該調理済み食品に該組成物を噴霧又は塗布する方法、該調理済み食品に該組成物を添加し混合する方法、及び該調理済み食品を該組成物に浸漬させる方法が挙げられる。このうち、経済性及び簡便性の点からは、噴霧が好ましい。調理済み食品に付着させる該組成物の量は、調理済み食品100質量部に対して、好ましくは3〜15質量部、より好ましくは5〜15質量部、さらに好ましくは5〜10質量部であり得る。上記組成物の付着の際の調理済み食品の品温は、好ましくは15℃以下である。
【0031】
次いで、上記組成物が付着した調理済み食品は、凍結処理に付される。本発明の製造方法における凍結処理としては、食品に対して通常行われる凍結処理を採用することができる。冷凍焼けをより生じにくくさせるため、又はマイクロ波加熱等の解凍処理を簡便にするため、該組成物が付着した調理済み食品は、凍結の前又は後に、トレー等の包装容器に充填されてもよい。例えば、上記調理済み食品を、所定の分量、例えば、一人分ずつに分けて容器に入れた後、凍結処理に付すことができる。また例えば、上記調理済み食品を、所定の分量、例えば、一人分ずつに分け、凍結させた後、容器に充填することができる。凍結処理は、急速冷凍、緩慢冷凍いずれも採用できるが、急速冷凍が好ましい。一旦急速冷凍で凍結させた後は、通常の冷凍保存条件で保存すればよい。
【0032】
上記凍結処理では、調理済み食品はソース類とともに凍結されてもよい。例えば、上記組成物が付着した調理済み食品をトレー等に取り分けた後、ソース類をかけて又はソース類と絡めてから、トレーに盛り付けて凍結させてもよく、あるいは該組成物が付着した調理済み食品を一旦凍結させ、そこにソース類を載せて再度凍結させてもよい。ソース類としては、調理済み食品の種類や消費者の嗜好に応じて、適宜選択され得る。例えば、パスタやピザに対してはミートソース、ナポリタンソース、アラビアータソース、トマトソース、カルボナーラソース、チーズソース、クリームソース、ホワイトソース、オイルソース、ブラウンソース等が挙げられ;うどん、平めん、日本蕎麦、冷麦、素麺等に対してはめんつゆ、カレーソース等が挙げられ;中華麺に対しては中華スープ、ウスターソース等が挙げられ;調理済みの米に対しては、ホワイトソース、カレーソース、ハヤシライスソース、たれ、あんかけ等が挙げられるが、これらに限定されない。さらに、当該ソース類には、野菜類、キノコ類、肉類、魚介類、卵類、香辛料類等の具材が適宜含まれていてもよい。
【0033】
以上の手順で、冷凍食品を製造することができる。本発明で得られた冷凍食品の喫食時の解凍手段としては、自然解凍や緩慢解凍でもよいが、電子レンジ処理、ボイル処理、加熱蒸気処理、オーブン処理等の加熱処理により急速解凍することが好ましい。また、当該冷凍麺類が包装容器に包装されている場合には、衛生上の点から包装容器ごと当該冷凍麺類を電子レンジ処理にて解凍することが好ましい。
【実施例】
【0034】
以下、実施例を挙げて、本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例にのみ限定されるものではない。
【0035】
冷凍焼け防止用コーティング液の材料としては、以下を使用した。
イヌリン:フジFF(フジ日本精糖株式会社)
デキストリン(DE=2):パセリSA−2(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=4):パインデックス#100(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=5):フードテックス(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=8):パインデックス#1(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=9):マックス1000(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=11):パインデックス#2(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=15):グリスターP(松谷化学工業株式会社)
デキストリン(DE=19):パインデックス#4(松谷化学工業株式会社)
砂糖(フジ日本精糖株式会社)
トレハロース(株式会社林原)
ソルビトール(三菱商事フードテック株式会社)
キサンタンガム(DSP五協フード&ケミカル株式会社)
大豆油(株式会社Jオイルミルズ)
【0036】
試験例1
(冷凍焼け防止用コーティング液の調製)
イヌリンを水(20℃)に溶解させ、次いでこれに油脂(大豆油)と増粘剤(キサンタンガム)を加えて混合することにより、冷凍焼け防止用コーティング液を調製した。該コーティング液中、イヌリンの量は、0、1、2、5、10、15、18、19又は20質量%であり、かつ油脂の量は0、5、10、25、50、75、90、95、又は100質量%であり、残部は水と増粘剤であった。キサンタンガムは、組成物全量中0.005〜0.4質量%になる範囲で、組成物が乳化する量を添加した。
【0037】
(冷凍調理済みスパゲッティの製造)
市販の乾燥スパゲッティ(セレクト1.7、マ・マーマカロニ株式会社製)を歩留まり220〜235%内になるように茹でた後、冷水で冷却し、ざるに入れて水分を十分に切った。得られた調理済みスパゲッティ200gに上記冷凍焼け防止用コーティング液のいずれか20gを噴霧し、該コーティング液の全量をスパゲッティ表面に付着させた。コーティング液を付着させたスパゲッティをトレーに充填し、−20℃で急速冷凍し、冷凍スパゲッティを得た。
冷凍スパゲッティの入ったトレーを密閉し、−20℃に設定した冷凍庫内で−5℃に設定したヒートシート上において保管した。24時間後、冷凍スパゲティをマイクロ波加熱解凍し、冷凍焼けの状態(麺の白色化)を下記評価基準に基づいて評価し、10個のサンプルの平均値を求めた。
〔冷凍焼けの評価基準〕
5 麺表面の白色化した部分が5%未満である。
4 麺表面の白色化した部分が5%〜10%未満である。
3 麺表面の白色化した部分が10%〜20%未満である。
2 麺表面の白色化した部分が20%〜50%未満である。
1 麺表面の白色化した部分が50%以上である。
【0038】
結果を表1〜3に示す。表中の「%」は全て「質量%」を表す。表1ではコーティング液中の水と増粘剤の合計量(%)を、表2ではイヌリンと水と増粘剤の合計量中のイヌリン量(%)を、表3ではコーティング液の冷凍焼け防止効果の評価結果を、コーティング液中のイヌリンと油脂の含有量(%)を基準に並べて記載している。表1〜3に示す一部のコーティング液ではイヌリンが完全に溶解しなかったため、冷凍焼け防止効果の評価を行わなかった(表中n.d.)。
【0039】
【表1】
【表2】
【表3】
【0040】
試験例2
試験例1と同様の手順で、表4記載の組成を有する冷凍焼け防止用コーティング液を調製した。試験例1と同様の手順で調理済みスパゲッティ200gを準備し、表4記載の量で該コーティング液を付着させ、容器に充填して−20℃で急速冷凍し、冷凍スパゲッティを得た。試験例1と同様の手順で、24時間冷凍保管後、マイクロ波加熱解凍した冷凍スパゲティの冷凍焼けの状態を評価した。結果を表4に示す。
【0041】
【表4】
【0042】
試験例3
イヌリンに代えて他の糖類をコーティング液に添加した以外は、製造例4と同じ手順で冷凍スパゲッティを製造し、冷凍焼けの状態を評価した。結果を表5に示す。
【0043】
【表5】
【0044】
試験例4
イヌリンとデキストリンを併用した以外は、製造例4と同じ手順で冷凍スパゲッティを製造し、冷凍焼けの状態を評価した。結果を表6に示す。
【0045】
【表6】