【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者等は、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、原料となるイリジウム化合物としてβ−ジケトナートを有する所定のイリジウム化合物を用い、このイリジウム化合物と芳香族2座配位子とを特定の反応条件の下で反応させると、ハロゲン架橋イリジウムダイマーを収率良く、特に純度良く製造できることを見出し、本発明に想到した。
【0017】
即ち、本発明は、一般式(1)で表されるイリジウム化合物と一般式(2)で表される芳香族2座配位子とを溶媒中で反応させ、一般式(3)で表されるハロゲン架橋イリジウムダイマーを製造する方法において、前記溶媒として沸点が50℃以上350℃未満の溶媒を用い、前記芳香族2座配位子を前記イリジウム化合物1モルに対し、0.5倍モル以上10倍モル未満の範囲で添加し、反応温度を50℃以上300℃未満として反応させることを特徴とするハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造方法である。
【0018】
【化5】
(一般式(1)中、Irはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、Yはカウンターカチオンを表す。R
1〜R
6は各々独立に、水素原子、アルキル基、又は、アリール基であり、前記記載のアルキル基、又は、アリール基の水素原子が、一部又は全部がハロゲン原子で置換されても良い。また隣り合ったR
1〜R
6は互いに結合し、環構造を形成しても良い。)
【0019】
【化6】
(一般式(2)中、Nは窒素原子を表し、Cは炭素原子を表し、Hは水素原子を表し、CyAは窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、CyBは炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、CyAとCyBとが結合し環構造を形成しても良い。)
【0020】
【化7】
(一般式(3)中、Irはイリジウム原子を表し、Nは窒素原子を表し、Cは炭素原子を表し、Xはハロゲン原子を表し、CyAは窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該窒素原子を介してイリジウムと結合しており、CyBは炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該炭素原子を介してイリジウムと結合している。CyAとCyBとが結合し、更に環構造を形成しても良い。)
【0021】
以上の通り、本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造方法は、一般式(1)のβ−ジケトナートを有するイリジウム化合物を用いて、一般式(2)の芳香族2座配位子を反応させている。そして、所定の溶媒を用いつつ、芳香族2座配位子とイリジウム化合物との存在比率と反応温度を一定範囲に制限することでハロゲン架橋イリジウムダイマーを合成する。本発明による効果、即ち、ハロゲン架橋イリジウムダイマーを高純度で収率良く製造できことの理由については、未だ明らかではないが、現時点で発明者は以下のように考えている。
【0022】
ハロゲン架橋イリジウムダイマーの生成反応において、イリジウム化合物と芳香族2座配位子とが反応すると、イリジウム−炭素結合が形成されることに伴いプロトンが放出される。このプロトンは、反応溶液のpH等の反応系の環境変動の要因となり、プロトンの蓄積により反応速度の低下が生じ得る。本発明では、一般式(1)で表されるイリジウム化合物から脱離したβ−ジケトナートが、前記した反応溶液中のプロトンをトラップすることにより、β−ジケトンとなり、溶液のpHを一定に保つ働きがあるものと考えられる。これにより、反応速度に影響を生じさせることなくイリジウムダイマーの生成反応を進行させることができる。上記した従来技術である、3塩化イリジウム等のハロゲン化イリジウムにおいては、このようなプロトンのトラップ作用がないので、反応系に蓄積したプロトンの影響で反応速度が遅くなっていると予測される。また、主反応であるイリジウムダイマーの生成反応以外の、望ましくない分解反応等が進行すると考えられる。このようなプロトンによる影響を排したことにより、本発明は収率良くかつ不純物発生を抑制してハロゲン架橋イリジウムダイマーを生成できると推察される。
【0023】
また、本願発明においては、ハロゲン架橋イリジウムダイマーの合成反応を所定の溶媒中で進行させる。引用文献2記載の方法では、無溶媒で反応を行っている。無溶媒での反応は、不均一反応となる傾向があり、望ましくない副反応が進行し易くなるので、生成物の純度が低下することが多い。また、反応効率も低い。本発明では、溶媒を使用しつつ、反応条件を設定することでハロゲン架橋イリジウムダイマーを製造する。
【0024】
以下、本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造方法について詳細に説明する。以下の説明では、本発明を特徴付けている、(I)イリジウム原料、(II)芳香族2座配位子、(III)反応条件について、それらの内容を説明する。
【0025】
(I)イリジウム原料について
上記の通り、本発明で適用するイリジウム原料は、一般式(1)で表されるイリジウム化合物である。この一般式(1)中のIrはイリジウム原子を表し、Oは酸素原子を表す。
【0026】
Xはハロゲン原子を表す。具体的には、塩素原子、臭素原子、又は、ヨウ素原子が好ましく、塩素原子、又は、臭素原子がより好ましく、塩素原子が特に好ましい。
【0027】
Yはカウンターカチオンを表す。カウンターカチオンは、一般式(1)で表されるイリジウム化合物全体の電荷を0にして、塩を形成する役割を果たすものであれば何でも良い。その中でも1価のカチオンが好ましい。具体的には、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、スルホニウムイオン、イミダゾリウムイオン、ピリジニウムイオン、ピペリジニウムイオン、ピロリジニウムイオン、又は、プロトン等が挙げられ、アルカリ金属イオン、アンモニウムイオン、4級アンモニウムイオン、ホスホニウムイオン、又は、スルホニウムイオンが好ましく、アルカリ金属イオンがより好ましく、ナトリウムイオン、又は、カリウムイオンが特に好ましい。
【0028】
尚、以上のIr、O、H、X、Yの説明は、一般式(2)〜(14)でも共通する。
【0029】
そして、一般式(1)中のR
1〜R
6は、各々独立に、水素原子、アルキル基、又は、アリール基であり、前記記載のアルキル基、又は、アリール基の水素原子が、一部又は全部がハロゲン原子で置換されても良い。また隣り合ったR
1〜R
6は互いに結合し、環構造を形成しても良い。R
1〜R
6がアルキル基、アリール基である場合、それらの望ましい範囲は、後述するCyA及びCyBに結合可能なアルキル基とアリール基の範囲と同様である。
【0030】
R
1、R
3、R
4及びR
6は、アルキル基、又は、アリール基が好ましく、アルキル基が特に好ましい。ハロゲン原子(好ましくはフッ素)で置換されたアルキル基も好ましい。具体的には、メチル基、イソプロピル基、tert−ブチル基、又は、トリフルオロメチル基が好ましい。
【0031】
R
2及びR
5は、水素原子、又は、アルキル基であることが好ましく、水素原子、又は、メチル基であることがより好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0032】
また、R
1、R
3、R
4、及び、R
6については、R
1=R
3、R
4=R
6のように、対称のβ−ジケトン配位子でも良いし、R
1≠R
3、R
4≠R
6のように、非対称のβ−ジケトン配位子でも良い。この中でも、R
1とR
3とが異なる置換基であり、R
4とR
6とが異なる置換基であることがより好ましい。つまり、本発明の製造方法で用いられるイリジウム化合物は非対称なβ−ジケトン配位子を具備していることがより好ましい。これは、イリジウム化合物の安定性や反応性を適切に調整し、ハロゲン架橋イリジウムダイマーの合成を好適に進行させるためである。
【0033】
本発明の製造方法に用いられる一般式(1)で表されるイリジウム化合物にはトランス体とシス体があるが、どちらかを選択的に用いても良く、シス体とトランス体の混合物を用いていても良い。一般式(1)で表されるイリジウム化合物のシス体は一般式(15)であり、トランス体は一般式(16)である。
【0034】
【化8】
【0035】
【化9】
(一般式(15)及び(16)中の記号は、一般式(1)中の記号と同義であり、望ましい範囲も同じである。)
【0036】
また、上記で言及した、イリジウム化合物の配位子が非対称構造である場合(すなわち、R
1≠R
3、R
4≠R
6となる場合)、複数の幾何異性体が存在する。例えば、後述する化11の(Ir−17)の場合は、化10に記載の幾何異性体が存在する(ここで、X=Clであり、カウンターカチオンであるYは省略している)。本発明の製造方法で用いられるイリジウム化合物は、これらの幾何異性体のいずれかのみからなる状態であっても良いし、2種以上の幾何異性体の混合状態にあっても良い。本発明のハロゲン架橋イリジウムダイマーを製造する目的において、原料となるイリジウム化合物が幾何異性体の混合状態にあるか否かは特段の影響を与えるものではない。
【0037】
【化10】
【0038】
一般式(1)で表されるイリジウム化合物の例を化11に示すが、本発明ではこれらのイリジウム化合物に限定されない。
【0039】
【化11】
【0040】
(II)芳香族2座配位子について
本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造方法は、上記で説明したイリジウム化合物(一般式(1))からなる原料と、一般式(2)の芳香族2座配位子とを反応させる。
【0041】
本発明の芳香族2座配位子を示す一般式(2)において、式中のNは窒素原子を表し、Cは炭素原子を表し、Hは水素原子を表す。CyAは、CyAは窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該窒素原子を介してイリジウムと結合している。CyAは、5員環又は6員環の含窒素芳香族複素環であることが好ましい。
【0042】
窒素原子を含む5員環又は6員環の環状基としては、例えば、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、又は、チアジアゾール環が挙げられる。この中でも好ましくは、ピリジン環、ピリミジン環、キノリン環、イソキノリン環、イミダゾール環、ピラゾール環、又は、トリアゾール環、であり、より好ましくは、ピリジン環、キノリン環、イソキノリン環、又は、イミダゾール環である。
【0043】
CyAは、置換基がついても良く、隣り合った置換基が結合し環構造を形成しても良く、更に置換されても良い。具体的には、後述の置換基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基、シリル基、シリルオキシ基)が挙げられる。これらの置換基の望ましい範囲は後述の通りであり、上記の置換基で更に置換されても良い。
【0044】
また、一般式(2)の式中のCyBは、炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基を表し、当該炭素原子を介してイリジウムと結合している。CyBは、5員環又は6員環の芳香族炭素環又は芳香族複素環であることが好ましく、5員環又は6員環の芳香族炭素環又は含窒素芳香族複素環であることがより好ましく、5員環又は6員環の芳香族炭素環であることが特に好ましい。
【0045】
炭素原子を含む5員環又は6員環の環状基としては、具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環、カルバゾール環、フルオレン環、フラン環、チオフェン環、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、ピリダジン環、キノリン環、イソキノリン環、キノキサリン環、シンノリン環、フタラジン環、キナゾリン環、ナフチリジン環、イミダゾール環、ピラゾール環、トリアゾール環、テトラゾール環、オキサゾール環、オキサジアゾール環、チアゾール環、又は、チアジアゾール環が挙げられる。ベンゼン環、ナフタレン環、ピリジン環、又は、ピリミジン環が好ましく、ベンゼン環、ピリジン環、又は、ピリミジン環がより好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
【0046】
CyBは、置換基がついても良く、隣り合った置換基が結合し環構造を形成しても良く、更に置換されても良い。具体的には、後述の置換基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基、シリル基、シリルオキシ基)が挙げられる。これらの置換基の望ましい範囲は後述の通りであり、上記の置換基で更に置換されても良い。
【0047】
CyAとCyBとが結合し新たに環構造を形成しても良い。この場合、CyAとCyBとが結合し、新たな飽和環もしくは不飽和環を形成することが好ましく、不飽和環を形成することがより好ましい。より具体的には、CyAとCyBとが結合することでベンゾキノキサリン環、ベンゾキノリン環、ジベンゾキノキサリン環、ジベンゾキノリン環、フェナントリジン環を形成することが好ましく、ベンゾキノリン環、ジベンゾキノキサリン環、フェナントリジン環を形成することがより好ましい。ベンゾキノリン環としてはベンゾ[h]キノリン環が好ましい。ジベンゾキノキサリン環としては、ジベンゾ[f,h]キノキサリン環が好ましい。フェナントリジン環としては、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン環が好ましい。
【0048】
CyAとCyBとが結合することで生成した環には、置換基がついても良く、隣り合った置換基が結合し更に環構造を形成しても良く、更に置換されても良い。具体的には、後述の置換基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、複素環オキシ基、アシル基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、アシルオキシ基、アシルアミノ基、アルコキシカルボニルアミノ基、アリールオキシカルボニルアミノ基、スルホニルアミノ基、スルファモイル基、カルバモイル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、スルホニル基、スルフィニル基、ウレイド基、リン酸アミド基、ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基、シリル基、シリルオキシ基)が挙げられる。これらの置換基の望ましい範囲は後述の通りであり、上記の置換基で更に置換されても良い。
【0049】
CyA、CyB、及び、CyAとCyBとが結合することで生成した環に結合する置換基としては、例えば、以下のものがある。
【0050】
・アルキル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上10以下であり、例えばメチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。)
・アルケニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル等が挙げられる。)
・アルキニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニル等が挙げられる。)
・アリール基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニル等が挙げられる。)
・アミノ基(好ましくは炭素数0以上30以下、より好ましくは炭素数0以上20以下、特に好ましくは炭素数0以上10以下であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上10以下であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシ等が挙げられる。)
・アリールオキシ基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ等が挙げられる。)
・複素環オキシ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシ等が挙げられる。)
・アシル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上12以下であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7以上30以下、より好ましくは炭素数7以上20以下、特に好ましくは炭素数7以上12以下であり、例えばフェニルオキシカルボニル等が挙げられる。)
・アシルオキシ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシ等が挙げられる。)
・アシルアミノ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上10以下であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2以上30以下、より好ましくは炭素数2以上20以下、特に好ましくは炭素数2以上12以下であり、例えばメトキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7以上30以下、より好ましくは炭素数7以上20以下、特に好ましくは炭素数7以上12以下であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。)
・スルファモイル基(好ましくは炭素数0以上30以下、より好ましくは炭素数0以上20以下、特に好ましくは炭素数0以上12以下であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイル等が挙げられる。)
・カルバモイル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイル等が挙げられる。)
・アルキルチオ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。)
・アリールチオ基(好ましくは炭素数6以上30以下、より好ましくは炭素数6以上20以下、特に好ましくは炭素数6以上12以下であり、例えばフェニルチオ等が挙げられる。)
・複素環チオ基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオ等が挙げられる。)
・スルホニル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメシル、トシル等が挙げられる。)
・スルフィニル基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニル等が挙げられる。)
・ウレイド基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイド等が挙げられる。)
・リン酸アミド基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、特に好ましくは炭素数1以上12以下であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミド等が挙げられる。)
・ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上12以下であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的にはイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基等が挙げられる。)
・シリル基(好ましくは炭素数3以上40以下、より好ましくは炭素数3以上30以下、特に好ましくは炭素数3以上24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリル等が挙げられる。)
・シリルオキシ基(好ましくは炭素数3以上40以下、より好ましくは炭素数3以上30以下、特に好ましくは炭素数3以上24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシ等が挙げられる。)
【0051】
以上の置換基の中で、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、複素環基、又は、シリル基が好ましく、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、又は、複素環基がより好ましく、アルキル基、又は、アリール基が特に好ましい。これらの置換基として望ましい範囲は前記の通りであり、R
7〜R
94で定義される置換基で更に置換されていてもよい。また隣り合った置換基は互いに結合し環構造を形成して良い。
【0052】
アリール基や複素環基の望ましい形態として、デンドロン(原子又は環を分岐点とする規則的な樹枝状分岐構造を有する基)であることも好ましい。デンドロンの例としては、国際公開第02/067343号、特開2003−231692号公報、国際公開第2003/079736号、国際公開第2006/097717号、国際公開第2016/006523号等の文献に記載の構造が挙げられる。
【0053】
本発明で用いられる芳香族複素環2座配位子の具体的な構造としては、例えば、一般式(4)〜(14)で表されるものが挙げられる。これらの中でも、一般式(4)〜(7)で示す構造を有するものが好ましく、一般式(5)で示す構造を有するものがより好ましい。
【0054】
【化12】
(式(4)〜(14)中、R
7〜R
94は、各々独立に、水素原子または置換基を表す。隣り合った置換基は結合し、更に環構造を形成しても良い。)
【0055】
上記式中、R
7〜R
94は、各々独立に、水素原子又は置換基を表す。隣り合った置換基は結合し、更に環構造を形成しても良い。R
7〜R
94の置換基としては、上記した、CyA及びCyBに結合し得る置換基と同様のものが適用でき、また、各種置換基における望ましい範囲も同様である。
【0056】
(III)反応条件について
そして、本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造方法では、一般式(1)で表されるイリジウム化合物と一般式(2)で表される芳香族2座配位子とを所定の溶媒中で、特定条件の下で反応させることで行われる。
【0057】
本発明で使用される溶媒は、その沸点が50℃以上350℃未満のものである。溶媒の沸点は、50℃以上300℃未満が好ましく、100℃以上300℃未満がより好ましく、150℃以上250℃未満が更に好ましく、150℃以上220℃未満がより特に好ましい。尚、ここで示す沸点とは常圧での値である。
【0058】
溶媒としては上記沸点を有すれば特に限定されないが、例えば、アルコール類、飽和脂肪族炭化水素、エステル類、エーテル類、ニトリル類、非プロトン性極性溶媒、ケトン類、アミド類、芳香族炭化水素、含窒素芳香族化合物、イオン性液体、水が好ましい。この中でも、アルコール類、飽和脂肪族炭化水素、エステル類、エーテル類、非プロトン性極性溶媒、又は、アミド類がより好ましく、アルコール類、又は、非プロトン性極性溶媒(DMF、DMSOなど)が特に好ましく、アルコール類(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、更に好ましくは炭素数1以上10以下)がより特に好ましく、アルコール類の中でもジオール(好ましくは炭素数1以上30以下、より好ましくは炭素数1以上20以下、更に好ましくは炭素数1以上10以下)が最も好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールが好ましい。
【0059】
上記溶媒は、1種を単独で使用しても良いし、2種以上の溶媒を組み合わせて用いても良い。
【0060】
本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造において、原料イリジウム化合物(一般式(1))の反応系内の濃度は、特に制限されるものではない。本発明においては10
−4モル/L以上10
4モル/L以下の範囲が好ましく、10
−3モル/L以上10
3モル/L以下の範囲がより好ましく、10
−2モル/L以上10
2モル/L以下の範囲が更に好ましく、10
−2モル/L以上10モル/L以下の範囲が特に好ましく、5×10
−2モル/L以上1モル/L以下の範囲が最も好ましい。
【0061】
一方、芳香族2座配位子(一般式(2))の使用量については、イリジウム化合物(一般式(1))1モルに対し、0.5倍モル以上10倍モル未満とすることを要する。
【0062】
芳香族2座配位子の使用量が上記範囲より多くなると、ハロゲン架橋イリジウムダイマーの純度や収率が大きく低下する傾向にある。更に、未反応の芳香族2座配位子がハロゲン架橋イリジウムダイマーに混じると、芳香族2座配位子の除去が困難になる。よって、芳香族2座配位子の使用量は、一般式(1)で表されるイリジウム化合物1モルに対し10倍モル未満とする。
【0063】
また、芳香族2座配位子の使用量が少ないと、一般式(1)で表されるイリジウム化合物が分解しやすくなり、その除去が困難になる。そこで、芳香族2座配位子の使用量は、イリジウム化合物1モルに対し、0.5倍モル以上とする。
【0064】
尚、芳香族2座配位子の使用量は、一般式(1)で表されるイリジウム化合物1モルに対し、0.5倍モル以上4倍モル未満が好ましく、1倍モル以上3倍モル未満がより好ましく、1倍モル以上2.4倍モル未満が更に好ましく、1.5倍モル以上2.4倍モル未満が特に好ましく、1.7倍モル以上2.2倍モル未満が最も好ましい。
【0065】
本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造において、反応温度は、50℃以上300℃未満とする。反応温度については、50℃以上250℃未満が好ましく、100℃以上250℃未満がより好ましく、150℃以上250℃未満が更に好ましく、150℃以上220℃未満が特に好ましい。尚、このときの加熱手段は特に限定されない。具体的には、オイルバス、サンドバス、マントルヒーター、ブロックヒーター、熱循環式ジャケットによる外部加熱、更にはマイクロ波照射による加熱等を利用できる。
【0066】
本発明に係るハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造において、イリジウム化合物と芳香族2座配位子との配合比及び反応温度を上記のように適切にすれば、反応時間は特に限定されない。本発明においては、反応時間は、0.5時間以上72時間未満が好ましく、1時間以上48時間未満がより好ましく、1時間以上24時間未満が更に好ましく、1時間以上10時間以下が特に好ましい。
【0067】
また、ハロゲン架橋イリジウムダイマーの合成反応は、不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下で行うことが好ましい。
【0068】
そして、本発明におけるハロゲン架橋イリジウムダイマーの製造は常圧(大気圧下)で行うことが好ましい。以上説明した条件を満足することで、反応系を加圧することなく反応を進行させることができる。上記した特許文献2記載の方法では、ガラスチューブ中での加圧を適用するが、ガラス容器破裂の危険性があるため好ましくない。
【0069】
以上説明した製造方法により得られたハロゲン架橋イリジウムダイマーは、一般的な後処理方法で処理した後、必要があれば精製し、又は、精製せずに高純度品として用いることができる。後処理の方法としては、例えば、抽出、冷却、水や有機溶媒を添加することによる晶析、反応混合物からの溶媒を留去する操作等を、単独又は組み合わせて行うことができる。精製の方法としては、再結晶、蒸留、昇華又はカラムクロマトグラフィー等を、単独又は組み合わせて行うことができる。
【0070】
本発明で得られたハロゲン架橋イリジウムダイマーは、ビスシクロメタル化イリジウム錯体の前駆体や、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の前駆体として好適に用いることができる。