特許第6643804号(P6643804)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6643804希土類金属錯体及びそれを用いる発光装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6643804
(24)【登録日】2020年1月9日
(45)【発行日】2020年2月12日
(54)【発明の名称】希土類金属錯体及びそれを用いる発光装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 33/50 20100101AFI20200130BHJP
   H01S 5/02 20060101ALI20200130BHJP
   C09K 11/06 20060101ALI20200130BHJP
   C07F 5/00 20060101ALN20200130BHJP
   C07C 49/92 20060101ALN20200130BHJP
   C07F 9/53 20060101ALN20200130BHJP
【FI】
   H01L33/50
   H01S5/02
   C09K11/06 660
   !C07F5/00 D
   !C07C49/92
   !C07F9/53
【請求項の数】5
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2015-3282(P2015-3282)
(22)【出願日】2015年1月9日
(65)【公開番号】特開2016-128392(P2016-128392A)
(43)【公開日】2016年7月14日
【審査請求日】2017年10月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100158
【弁理士】
【氏名又は名称】鮫島 睦
(74)【代理人】
【識別番号】100138863
【弁理士】
【氏名又は名称】言上 惠一
(74)【代理人】
【識別番号】100138885
【弁理士】
【氏名又は名称】福政 充睦
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 靖哉
(72)【発明者】
【氏名】柳澤 慧
(72)【発明者】
【氏名】中西 貴之
(72)【発明者】
【氏名】北川 裕一
(72)【発明者】
【氏名】伏見 公志
(72)【発明者】
【氏名】小飯塚 徹
【審査官】 伊藤 幸司
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第05658494(US,A)
【文献】 欧州特許出願公開第00556005(EP,A1)
【文献】 特表2005−500388(JP,A)
【文献】 国際公開第95/014698(WO,A1)
【文献】 国際公開第03/016428(WO,A1)
【文献】 特開2005−252250(JP,A)
【文献】 特表2005−519988(JP,A)
【文献】 中国特許出願公開第1329128(CN,A)
【文献】 韓国特許第2010−1423589(KR,B1)
【文献】 ロシア国特許出願公開第02485163(RU,A)
【文献】 特開2003−081986(JP,A)
【文献】 Bull. Jpn. Soc. Coord. Chem.,2014年,64,pp.14-24
【文献】 J. C. S. Dalton,1975年,(3),pp.221-226
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C
C07F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I):
【化1】
[一般式(I)において、
Lnは、Eu、Tb、Sm又はDyの少なくとも1種を示し、n1は、2又は3を示す。
n2は1、3又は5を示す。n3は1、2又は3を示す。
Xは、芳香族基であり、
Yは、イソプロピル基又はt−ブチル基であり、
Zは水素原子または重水素原子を示す。]
で示され、
放射失活速度定数が950s−1以上である、配位数が奇数の単核希土類金属錯体を含む光機能材料用透明固体担体と、光波長の中心が465nmである発光ダイオード又は半導体レーザーとを組み合わせた、発光装置
【請求項2】
一般式(I)において、n2とn3が、n2+2×n3=7となる組み合わせであることを特徴とする、請求項1に記載の発光装置
【請求項3】
希土類金属錯体の無放射失活速度定数が、500s−1以下であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の発光装置
【請求項4】
希土類金属錯体の発光量子効率が、60%以上であることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の発光装置
【請求項5】
芳香族基は、フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基から選択される、請求項1〜4のいずれか1項に記載の発光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、波長変換効率に優れる希土類金属錯体およびその製造方法、並びにそれを用いる波長変換材料及び発光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
希土類金属錯体は、蛍光プローブ、レーザー発光体、バイオイメージング、センサー、及び照明などの発光部材として期待されている。特に、希土類金属錯体は、例えば、青色の比較的短波長の可視光により励起されて長波長の光を発光することができるので、発光ダイオードなどの半導体発光素子と組み合わせて種々の発光色の発光装置が実現できると期待されている。この発光ダイオード(LED)及びレーザーダイオード(LD)等の半導体発光素子を用いた発光装置は、発光効率が高く、水銀等の有害物質を含まないことから、照明用途へのさらなる拡大が期待され、最近では、LED又は半導体レーザーと希土類金属錯体の発光部材を組み合わせた発光装置の検討が盛んに行われている。
【0003】
本発明者らは、優れた発光特性を有する6配位及び8配位の希土類金属錯体を含む組成物、及びそれらと発光ダイオード又は半導体レーザーとを組み合わせた発光装置を開発し、報告した(特許文献1及び2参照)。
【0004】
これらの組成物は優れた発光特性を有し、高い発光量子効率を示す。ここで発光量子効率は、下記(数式1)で示される。
(数式1):[発光量子効率]=[放射失活速度定数]/([放射失活速度定数]+[無放射失活速度定数])
この(数式1)から、[放射失活速度定数]を大きくし、[無放射失活速度定数]を小さくすると、[発光量子効率]が高くなることが理解できる。
特許文献1及び2の組成物が、優れた[発光量子効率]を示す理由は、[放射失活速度定数]が大きくなったからではなく、[無放射失活速度定数]が小さくなったからであると考えられる(特許文献2及び非特許文献1参照)。
【0005】
一方、7配位の2核希土類金属イオン錯体が、Eliseevaらによって報告された(非特許文献2参照)。その7配位の2核希土類金属イオン錯体について、高い[発光量子効率]は、観察されなかった(具体的には、発光量子効率=51〜71%)。これは、2つの希土類金属イオン間の距離が短い(約3.7Å)ので、濃度消光が起こるからであると考えられた(非特許文献3参照)。
【0006】
更に、特許文献3は、7配位の希土類金属錯体を報告したが、その発明者らは、後ほどその希土類金属錯体の構造は、8配位の構造であると訂正した(非特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】国際公開WO02/091487号
【特許文献2】特開2003−81986号公報
【特許文献3】特開2013−121921号公報
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】「ケムプラスケム」(Chem Plus Chem)、第77巻、2012年、pp.277−280)
【非特許文献2】「ジャーナル・オブ・フィジカルケミストリー・エー」(Journal of Physical Chemistry A)、第112 巻、2008年、pp.3614−3626
【非特許文献3】「発光材料の基礎と新しい展開」(オーム社)pp.116−119
【非特許文献4】「ケミストリー・ア・ヨーロピアン・ジャーナル」(Chemistry-A European Journal)、第20巻、2014年、pp.8621−8627
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、発光装置の照明用途への拡大進むにつれ、希土類金属錯体等の波長変換部材にはさらなる発光量子効率(波長変換効率)向上が求められている。
そこで、本発明の目的は、発光量子効率の高い(波長変換効率の高い)希土類金属錯体及びその製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記実情に鑑み鋭意研究を重ねた結果、驚くべきことに、配位子のβ-ジケトナト基に、より嵩高いt−ブチル基を導入した、Eu(III)錯体を合成したところ、7配位構造を有する希土類金属錯体を製造することができた。更にその発光特性を検討したところ、従来報告された希土類金属錯体より、その錯体が大きな放射失活速度定数を有することを見いだして、本発明を完成させるに至った。
【0011】
即ち、本発明に係る実施形態は、1の要旨において、
下記一般式(I):
【化1】
[一般式(I)において、
Lnは、希土類原子を示し、n1は、2又は3を示す。
n2は1、3又は5を示す。n3は1、2又は3を示す。
X及びYは、同一でも異なってもよく、
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基などの芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;
水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、及びメルカプト基などから選択される少なくとも1種の置換基を有する上述の芳香族基;
水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、及びメルカプト基などから選択される少なくとも1種の置換基を有しても有さなくてもよい、N、O、及びSから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む上述の芳香族基(以下「ヘテロ芳香族基」ともいう);
直鎖又は分枝を有するC3〜C20のアルキル基(C2n+1:n=3〜20);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=3〜20)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=3〜20)などの、直鎖又は分枝を有するC3〜C20のパーハロゲン化アルキル基;
アリル基及びブテニル基などの直鎖又は分枝を有するC3〜C20のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基などのパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基などの、直鎖又は分枝を有するC3〜C20のパーハロゲン化アルケニル基;
C3〜C20のシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n−1:n=3〜20)などのC3〜C20のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基などのC3〜C20のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基などのC3〜C20のパーハロゲン化シクロアルケニル基;又は
C3〜C20のアルキニル基を示す。
Zは水素原子または重水素原子を示す。]
で示される、配位数が奇数の単核希土類金属錯体を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る実施形態は、配位数が奇数の単核希土類金属錯体を提供することができる。配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、より非対称となり得るので、従来報告された6配位及び8配位の希土類金属錯体より、大きな放射失活速度定数を有する。従って、本発明に係る実施形態は、発光量子効率(波長変換効率)のより高い希土類金属錯体を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、実施形態の配位数が奇数の単核希土類金属錯体の一般式(I)を示す。
図2図2は、実施例1の7配位のEu(tmh−H)(TPPO)錯体のORTEP図を示す。
図3図3は、実施例1の7配位のEu(tmh−H)(TPPO)錯体の励起スペクトルを示す。
図4図4は、実施例1の7配位のEu(tmh−H)(TPPO)錯体の発光スペクトルと、比較例1の8配位のEu(hfa−H)(TPPO)錯体の発光スペクトルを示す。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照しながら本発明に係る実施形態の一の要旨の配位数が奇数の単核希土類金属錯体及びそれを含む光機能材料用透明固定担体などを詳細に説明する。
【0015】
本発明に係る実施形態の一の要旨の配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、
下記一般式(I):
【化2】
[一般式(I)において、
Lnは、希土類原子を示し、n1は、2又は3を示す。
n2は1、3又は5を示す。n3は1、2又は3を示す。
X及びYは、同一でも異なってもよく、
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基などの芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基、及びパークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;
水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基、及びメルカプト基などから選択される少なくとも1種の置換基を有する上述の芳香族基;
上述の少なくとも1種の置換基を有しても有さなくてもよい、N、O、及びSから選択される少なくとも1種のヘテロ原子を含む上述の芳香族基(以下「ヘテロ芳香族基」ともいう);
直鎖又は分枝を有するC3〜C20のアルキル基(C2n+1:n=3〜20);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=3〜20)及びパークロロアルキル基(CCl2n+1:n=3〜20)などの、直鎖又は分枝を有するC3〜C20のパーハロゲン化アルキル基;
アリル基及びブテニル基などの直鎖又は分枝を有するC3〜C20のアルケニル基;
パーフルオロビニル基、パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基などのパーフルオロアルケニル基及びパークロロアルケニル基などの、直鎖又は分枝を有するC3〜C20のパーハロゲン化アルケニル基;
C3〜C20のシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20);
パーフルオロシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20)及びパークロロシクロアルキル基(CCl2n−1:n=3〜20)などのC3〜C20のパーハロゲン化シクロアルキル基;
シクロペンテニル基及びシクロヘキセニル基などのC3〜C20のシクロアルケニル基;
パーフルオロシクロアルケニル基及びパークロロシクロアルケニル基などのC3〜C20のパーハロゲン化シクロアルケニル基;又は
C3〜C20のアルキニル基を示す。
Zは水素原子または重水素原子を示す。]
で示される。
【0016】
実施形態にかかる配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、配位子のβ−ジケトナト基に、より嵩高い基を導入することによって得ることができる。そのため、導入される基(一般式(I)のY)は、C3以上の炭素原子を有する。配位子のホスフィンオキサイド(PO)の置換基Xについても、同様に、C3以上の炭素原子を有する。そのような基として、下記の基を示すことができる。
【0017】
直鎖又は分枝を有するC3〜C20のアルキル基(C2n+1:n=3〜20);
パーフルオロアルキル基(C2n+1:n=3〜20)、パークロロアルキル基(CCl2n+1:n=3〜20)などのC3〜C20の直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;
C3〜C20の直鎖又は分枝を有するアルケニル基(アリル基及びブテニル基など);
C3〜C20のパーフルオロアルケニル基(パーフルオロアリル基及びパーフルオロブテニル基など)及びC3〜C20のパークロロアルケニル基などのC3〜C20の直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルケニル基;
C3〜C20のシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20);
C3〜C20のパーフルオロシクロアルキル基(C2n−1:n=3〜20)及びC3〜C20のパークロロアルキル基(CCl2n−1:n=3〜20)などのC3〜C20の直鎖又は分枝を有するパーハロゲン化アルキル基;
C3〜C20のシクロアルケニル基(シクロペンチル基及びシクロヘキシル基等);
C3〜C20のパーフルオロシクロアルケニル基及びC3〜C20のパークロロアルケニル基などのC3〜C20のパーハロゲン化アルケニル基;
C3〜C20のアルキニル基(C2n−3:n=3〜20);
フェニル基、ナフチル基及びビフェニル基等の芳香族基;
パーフルオロフェニル基、パーフルオロナフチル基、パーフルオロビフェニル基、パークロロフェニル基、パークロロナフチル基及びパークロロビフェニル基などのパーハロゲン化芳香族基;
ピリジル基等のヘテロ芳香族基;
パーフルオロピリジル基等のパーハロゲン化ヘテロ芳香族基;
ベンジル基及びフェネチル基等のアラルキル基;及び
パーフルオロベンジル基などのパーハロゲン化アラルキル基等を例示することができる。
【0018】
上述の基は、必要に応じて重水素原子、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びI)、水酸基、ニトロ基、アミノ基、スルホニル基、シアノ基、シリル基、ホスホン酸基、ジアゾ基及びメルカプト基などの置換基で置換されていてもよい。
【0019】
また、上述の基は、その任意の位置のC−C単結合の間に、−O−、−COO−及び−CO−を一又は複数挿入することで、エーテル、エステル及びケトン構造を含んでも良い。
【0020】
上述の基がアルケニル基である場合、一般式(I)の配位数が奇数の希土類金属錯体を、必要に応じてエチレン及びプロピレンなどのオレフィンおよびハロゲン化オレフィン重合させて高分子化した希土類金属錯体を得ることができる。
【0021】
一般式(I)で示される配位数が奇数の希土類金属錯体において、配位子ホスフィンオキサイド(PO)の置換基Xとして、前記の基を使用できる。配位数が奇数の希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体の安定性及び発光強度などを考慮すると、Xは、C3〜C20のパーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基、ヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化ヘテロ芳香族基から選択されることが好ましく、C3〜C20のパーフルオロアルキル基、芳香族基、ヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化芳香族基から選択されることが特に好ましい。
【0022】
一般式(I)で示される配位数が奇数の希土類金属錯体において、配位子β−ジケトナトの置換基Yとして、前記の基を使用できる。配位数が奇数の希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体の安定性及び発光強度などを考慮すると、Yは、炭素数3〜4のアルキル基、C3〜C20のパーハロゲン化アルキル基、芳香族基、パーハロゲン化芳香族基、ヘテロ芳香族基及びパーハロゲン化ヘテロ芳香族基から選択されることが好ましく、C3〜C20のパーフルオロアルキル基、芳香族基、ヘテロ芳香族基及び炭素数3〜4のアルキル基から選択されることがより好ましく、イソプロピル基及びt−ブチル基が特に好ましい。
【0023】
Lnで示される中心の希土類元素として、La、Ce、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuなどのランタン系列元素を例示でき、Eu、Tb、Sm及びDyが好ましい。これらの希土類元素は、単独で又は2種以上組み合わせて使用することができる。
【0024】
n1は、2又は3であり、好ましくは3である。
n2は、1、3又は5であり、n3は、1〜3のいずれかである。従って、中心希土類金属の配位数は、3〜11の奇数であり、錯体はよりおおきな非対称となる。n2とn3が、n2+2×n3=7(即ち7配位)となる組み合わせであることが好ましい。更に、n2は、より好ましくは1であり、n3は、より好ましくは3である。
【0025】
一般式(I)の希土類金属錯体のZは、水素原子Hであっても重水素原子Dであってもよい。ZがHである一般式(I)の希土類金属錯体に、重水素化剤を作用させて、重水素置換反応することにより、一般式(I)の錯体の重水素化錯体(Zが重水素原子Dである錯体)を得られる。
そのような重水素化剤は、例えば、重水素を含むプロトン性化合物、具体的には、重水;重水素化メタノール及び重水素化エタノールなどの重水素化アルコール;重塩化水素;及び重水素化アルカリなどを含む。重水素置換反応を促進するために、トリメチルアミン及びトリエチルアミンなどの塩基剤及び添加剤を加えてもよい。
【0026】
重水素置換反応は一般式(I)で示される錯体と重水素化剤を混合することにより行うことができるが、反応時に非プロトン性の溶媒を加えてもよい。非プロトン性溶媒は、例えば、アセトン及びメチルエチルケトン等のケトン系溶媒;ジエチルエーテル及びテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及び塩化メチレン等のハロゲン系溶媒;DMSO及びDMF等を含む。一般式(I)の錯体が溶解可溶な溶媒が、好ましい。
【0027】
重水素化剤は、重水素置換反応の際に、一般式(I)で示される錯体の総量(1重量部とする)に対して、1〜100重量部程度の量で使用することが好ましく、1〜20重量部程度の量で使用することがより好ましい。
【0028】
一般式(I)の錯体と重水素化剤を混合する方法は、重水素化された錯体が得られる限り特に限定されることはない。そのような混合方法として、例えば、室温から150℃の温度で、好ましくは30℃から100℃の温度で、必要に応じて撹拌しながら、0.1〜100時間、好ましくは0.1〜20時間混合する方法を例示することができる。
撹拌後、重水素化剤及び溶媒を蒸留で除くことにより、一般式(I)示される非対称希土類金属錯体(Z=重水素D)を得られる。
必要に応じて、再結晶、カラムクロマトグラフィー及び昇華等の方法を用いて、更に精製することができる。
【0029】
上記の方法を用いて、一般式(I)示される希土類金属錯体(Z=D)を製造することができる。
【0030】
尚、一般式(I)で示される配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、それが得られる限り、その製造方法は特に制限されることはない。一般式(I)で示される希土類金属錯体は、例えば、実施例に示すように、希土類金属塩(例えば、塩化物及び酢酸塩など)、目的とする配位子と対応するβ−ジケトン及び目的とする配位子と対応するホスフィンオキサイドを反応させて得ることができる。通常、Z=Hの錯体を製造し、その後、上述したように、Z=HをZ=Dに変換して、Z=Dの錯体を得ることができる。
【0031】
実施形態の配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、その配位子の構造及び/又は希土類原子の種類を変更することにより、発光波長を変化させることができ、任意の波長の発色を得ることができる。
【0032】
上述の一般式(I)示される希土類金属錯体は、例えば、発光補助体、光学レンズ、蛍光プローブ等の種々の光機能材料として用いることができる。
更に、上述の一般式(I)示される希土類金属錯体を、透明固体担体に含有させることにより、同様に種々の光機能材料に用いることができる。透明固体担体に、希土類金属錯体を含有させることで、取り扱い易さ、安定性及び成形加工性等が向上するので好ましい。
従って、実施形態は、上述の一般式(I)示される希土類金属錯体を含む光機能材料用透明固体担体及びその製造方法を提供する。
【0033】
上記の透明固体担体は、透明で固体で有り、一般式(I)の希土類金属錯体の担体として使用することができる限り、特に制限されるものではない。例えば、透明ポリマーマトリックス及び透明ガラス等を使用することができる。
【0034】
透明ポリマーマトリクスとして、例えば、ポリメチルメタクリレート(PMMA)、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリブテン等)、含フッ素ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、含フッ素ポリビニルエーテル、ポリ酢酸ビニル、ポリ塩化ビニル、及びそれらの共重合体、セルロース、ポリアセタール、ポリエステル、ポリカーボネート、エポキシ樹脂、ポリアミド樹脂、ポリイミド樹脂、ポリウレタン、ナフィオン、石油樹脂、ロジン、ケイ素樹脂などを例示できる。好ましくはポリメチルメタクリレート、含フッ素ポリメタクリレート、ポリアクリレート、含フッ素ポリアクリレート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルエーテル、及びそれらの共重合
体、ケイ素樹脂、及びエポキシ樹脂等を使用することができる。これらは、単独又は2種以上を組み合わせて使用することができる。
【0035】
上述の一般式(I)示される希土類金属錯体は、放射失活速度定数が、950s−1以上であることが好ましく、950〜2000s−1であることがより好ましく、1000〜2000s−1であることが特に好ましい。
上述の一般式(I)示される希土類金属錯体は、無放射失活速度定数が、500s−1以下であることが好ましく、500〜100s−1であることがより好ましく、300〜100s−1であることが特に好ましい。
上述の一般式(I)示される希土類金属錯体は、発光量子効率が、60%以上であることが好ましく、60〜99%であることがより好ましく、80〜99%であることが特に好ましい。
【0036】
実施形態の配位数が奇数の単核希土類金属錯体およびそれを含む透明固体担体は、偶数の単核希土類金属錯体より非対称(対称性が低い)であるから、従来の希土類金属錯体に比較して、より高い波長変換効率を有する。また、そのような単核希土類金属錯体を用いることにより発光効率の高い発光装置を得ることができる。
【0037】
実施形態の発光装置は、希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体と、発光ダイオード又は半導体レーザーと組み合わせることによって構成される。
実施形態の希土類金属錯体又はそれを含む透明固体担体は、従来の蛍光体と同様、導光板の上面(光射出面)、側面(LEDの光入射面)、発光装置のカップ内及びLEDチップを封止する樹脂内等に配置することができる。
【0038】
発光ダイオード又は半導体レーザーは、その希土類金属錯体の中心イオンのf−f遷移又は配位子の吸収に対応する励起スペクトルのピーク波長にほぼ一致する波長の光を発することが好ましい。発光ダイオード又は半導体レーザーとして、例えば、Inを含む窒化物半導体層を発光層として含む窒化物半導体発光素子を用いることができる。この窒化物半導体発光素子の発光ピーク波長は、発光層のInの含有率を変化させることにより、発光ピーク波長の調整が可能である。
【0039】
さらに、後述の実施例で示すように、本実施形態の希土類金属錯体は、2以上のピークを有する励起スペクトルを持ち得る。そのような場合、それぞれのピークに対応して複数の発光素子を用いて発光装置を構成することもできる。
【0040】
発光装置は、例えば、一般照明装置、信号装置及び表示装置等として使用することができる。より具体的には、例えば、自動車のブレーキランプ、ドアの表示灯、店舗等に設置する装飾用パネル、パソコン、携帯端末、携帯電話、スマートフォン、タブレットなどの表示装置用バックライト及びサイドライト等を例示することができる。
【0041】
尚、実施形態の希土類金属錯体がより大きな放射失活速度定数を有する理由は、単核錯体でありながら、配位子数が奇数なので、構造がより非対称になり、中心の希土類金属のf−f遷移が、より許容遷移になったからと考えられる。その結果、錯体の発光量子収率を高くすることができたと考えられる。ここで非対称型構造とは、錯体全体の構造が非対称形をとるように配位子を選択した錯体構造を言う。実施形態の希土類金属錯体がより大きな放射失活速度定数を有する理由は、このような理由によると考えられるが、本願はそのような理由によって、何ら拘束されるものではない。
【実施例】
【0042】
以下、本発明に係る実施形態を実施例及び比較例を用いて説明するが、これらの例は、本発明に係る実施形態を説明するためのものであり、本発明を何ら限定するものではない。
【0043】
実施例1:Eu(tmh−H)(TPPO)錯体の合成
塩化ユウロピウム(Eu(Cl)(HO):1g)を2mLの蒸留水に溶かした。エタノール(20mL)と2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオン(以下「tmh」ともいう)((CHC−CO−CH−CO−C(CH:1.46g)を加えて、攪拌した。そこへアンモニア水を加えて、pHを7〜8に調整し、室温で3時間撹拌した。攪拌後、蒸留水を加えて、沈澱した固体を濾過した。得られた固体(1g)とトリフェニルホスフィンオキサイド(以下「TPPO」ともいう)((CPO:0.4g)を20mLのメタノールに溶かして、12時間加熱還流した。12時間後、メタノールを減圧留去により取り除き、白色生成物を得た。メタノール、蒸留水の混合溶媒により再結晶を行うことにより、目的の実施例1のEu(tmh−H)(TPPO)錯体を得た。
IR(cm−1)(KBr錠剤法):2960、1588、1573、1505、1410、1178、1138、1120
実施例1のEu(tmh−H)(TPPO)錯体の構造は、単結晶X線構造解析により行なった。その結果得られたORTEP図を図2に示す。図2から、実施例1のEu(tmh−H)(TPPO)錯体は、中心のEuに、1つのTPPOと3つのtmh−Hが配位している、即ち、合計で7つの酸素が配位している、7配位構造を有し、より非対称な構造を有することが確認された。
【0044】
比較例1:Eu(hfa−H)(TPPO)錯体の合成
酢酸ユウロピウム、ヘキサフルオロアセチルアセトン(以下「hfa−H」ともいう)(CF−CO−CH−CO−CF)及びトリフェニルホスフィンオキサイドを用いて、特許文献2に記載した方法に基づいて、比較例1のEu(hfa−H)(TPPO)錯体を合成した。この比較例1の錯体の構造は、IR、NMR及び単結晶X線構造解析などによって、確認した。比較例1の錯体は、中心のEuに、2つのTPPOと3つのtmh−Hが配位している、即ち、合計で8つの酸素が配位している、8配位構造を有する。
【0045】
図3に、実施例1の7配位Eu(tmh−H)(TPPO)錯体の励起スペクトルを示す。465nmに鋭い吸収を有し、更に532nm及び580nmにブロードな吸収帯を有する。これらの吸収は中心イオンEu3+のf−f遷移によるものである。
【0046】
図4に実施例1の7配位錯体及び比較例1の8配位錯体の発光スペクトルを示す。波長(横軸)に対して、発光強度がプロットされている。いずれの発光スペクトルも、磁気双極子遷移(590nm)で規格化されている。実施例1の錯体のスペクトルと比較例1の錯体のスペクトルを比較すると、615nmのスペクトル形状に顕著な差が観測された。実施例1のスペクトルは、比較例1のスペクトルと比べて、わずかに短波長側にシフトし、ピーク強度が約2倍になった。
【0047】
表1に実施例1の7配位錯体及び比較例1の8配位錯体の各々の発光量子効率、放射失活速度定数及び無放射失活速度定数を示す。実施例1の7配位希土類金属錯体は、比較例1の8配位希土類金属錯体と比較して、放射失活速度定数がより大きいので、発光量子効率がより大きいことが理解できる。
【0048】
【表1】
【0049】
ここで、放射失活速度定数の算出は下記数式(2)により定義される。
数式(2):放射失活速度定数 = AMD,0×n(Itot/IMD
ここで、AMD,0は、磁気双極子遷移(590nm)の遷移確率に依存した定数であり、14.65s−1である。nは媒質の屈折率であり、一般的なケイ素樹脂の1.5を使用した。(Itot/IMD)は発光スペクトルの面積比であり、Itotはスペクトル全体の積分値を意味し、IMDはスペクトルの磁気双極子遷移()の部分の積分値を意味する。
【0050】
青色発光LEDの上に、実施例1の7配位Eu(tmh−H)(TPPO)錯体をかぶせて、発光スペクトルを測定する。発光波長の中心が465nmである青色発光LEDを使用する。実施例1の7配位Eu(tmh−H)(TPPO)錯体の中心イオンであるEu3+のf−f遷移による急峻な吸収ピークが、465nmに生じている。これに対し、615nmに大きな発光ピークが現れている。更に、590nm付近、660nm付近、及び700nm付近にも小さな発光ピークが現れている。表1に示すように、実施例1の7配位錯体では、約80%という高い発光量子効率が得られた。
【0051】
青色発光LEDの上に、実施例1の7配位Eu(tmh−H)(TPPO)錯体と黄色発光蛍光体YAGをかぶせて、同様の測定を行って、発光スペクトルを測定する。465nm付近に、Eu3+のf−f遷移による吸収ピークが明瞭に認められる。これに対し、615nm付近に大きな発光ピークが現れている。
【0052】
実施例1の7配位錯体を用いて製造される発光装置は、従来の白色発光LEDにおいて欠けていた赤色成分を補うことができる。この発光装置を用いた光源は非常に演色性の高い白色光源となる。これは、手術や商品ディスプレイ等、色識別力或いは演色性が特に必要とされる分野において有用な光源として利用することができる。
【0053】
実施形態の配位数が奇数の希土類金属錯体はこのような吸光特性及び発光特性を有するため、LEDまたは半導体レーザーをその励起光源として組み合わせることにより、高効率な波長変換光機能材料として有用に利用することができる。
【0054】
このような波長変換光機能材料、及びそれとLEDまたは半導体レーザーとの組み合わせによる発光装置の有用性については、上記の特許文献1に記載されている。配位数が奇数の希土類金属錯体及びそれを含む透明固体担体である光機能材料、更にはそれとLED、半導体レーザー及びその他の発光体との組み合わせによる発光装置は、同様の産業的有用性を社会に提供する。
【産業上の利用可能性】
【0055】
配位数が奇数の単核希土類金属錯体は、好ましくは波長変換効率に優れ、それを用いる波長変換材料及び発光装置として有用である。
図1
図2
図3
図4