【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 (1)発行者:公益社団法人 高分子学会 刊行物名:高分子学会予稿集 63巻第2号〔2014〕 第63回高分子討論会 発行日:平成26年9月3日 (2)集会名:第63回高分子討論会 開催日:平成26年9月24日
【文献】
DARENSBOURG Donald J., MONCADA Adriana I., WEI Sheng‐Hsuan,Aliphatic Polycarbonates Produced from the Coupling of Carbon Dioxide and Oxetanes and Their Depolymerization via Cyclic Carbonate Formation,Macromolecules,2011年,Vol.44 No.8,p.2568-2576
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の熱分解性バインダーは、式(1):
【0020】
(式中、R
1、R
2及びR
3は同一又は異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、nは1又は2である)
で表される構成単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂を含むものである。式(1)で表される構成単位は、メチレン基又はエチレン基に結合したカルボキシ基を側鎖に有しており、これにより、脂肪族ポリカーボネート樹脂の低温での分解が実現する。
【0021】
式(1)において、アルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜4である。アルキル基としては、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。アルキル基は、例えば、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、ハロゲン原子等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0022】
また、アリール基の炭素数は、6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の別のアリール基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0023】
本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、式(1)で表される構成単位のみにより構成されるものであってよいが、式(1)で表される構成単位以外に、式(2):
【0025】
(式中、R
4、R
5及びR
6は同一又は異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又は炭素数6〜20のアリール基であり、Xは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、エーテル結合含有基、エステル結合含有基、又はアリル基である)
で表される構成単位を含んでいることが好ましい。
【0026】
式(2)において、アルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜4である。アルキル基としては、直鎖又は分岐の置換又は非置換のアルキル基が好ましく、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等が挙げられる。アルキル基は、例えば、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、アリール基、ハロゲン原子等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0027】
また、アリール基の炭素数は、6〜20であり、好ましくは6〜14である。アリール基としては、例えば、フェニル基、インデニル基、ナフチル基、テトラヒドロナフチル基等が挙げられる。アリール基は、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基等のアルキル基、フェニル基、ナフチル基等の別のアリール基、アルコキシ基、エステル基、シリル基、スルファニル基、シアノ基、ニトロ基、スルホ基、ホルミル基、ハロゲン原子等から選択される1又は2以上の置換基で置換されていてもよい。
【0028】
式(2)において、Xは、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、炭素数1〜10のハロアルキル基、エーテル結合含有基、エステル結合含有基、又はアリル基であり、Xは、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、水素原子又はメチル基がより好ましい。
【0029】
Xで表されるアルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜4である。アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
【0030】
ハロアルキル基の炭素数は、1〜10であり、好ましくは1〜4である。ハロアルキル基としては、フルオロメチル基、クロロメチル基、ブロモメチル基、ヨードメチル基等が挙げられる。
【0031】
エーテル結合含有基としては、炭素数1〜4のアルコキシ基、アリルオキシ基等で置換された炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、メトキシメチル基、エトキシメチル基、アリルオキシメチル基等が挙げられる。
【0032】
エステル結合含有基としては、炭素数1〜4のアシルオキシ基、ベンジルオキシカルボキシ基等で置換された炭素数1〜4のアルキル基が好ましく、アセトキシメチル基、ブチリロキシメチル基等が挙げられる。
【0033】
脂肪族ポリカーボネート樹脂の製造方法としては、エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法等が挙げられる。
【0034】
式(1)で表される構成単位を形成するために用いられるエポキシドとしては、特に限定されないが、カルボキシ基が炭素数1〜10のアルキル基、炭素数7〜20のアラルキル基、アリル基、トリオキサビシクロ[2,2,2]オクチル基等の保護基により保護されていることが好ましく、例えば、2-オキシラニル酢酸メチル、3-オキシラニルプロピオン酸メチル、2-オキシラニル酢酸ベンジル、3-オキシラニルプロピオン酸ベンジル、2-オキシラニル酢酸アリル、3-オキシラニルプロピオン酸アリル、2-オキシラニル酢酸tert-ブチル、3-オキシラニルプロピオン酸tert-ブチル、2-オキシラニル酢酸トリオキサビシクロ[2,2,2]オクチル、3-オキシラニルプロピオン酸トリオキサビシクロ[2,2,2]オクチル等が挙げられる。これらのエポキシドを二酸化炭素と共重合させて、カルボキシ基を保護したカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂の前駆体を得た後に、適切な脱保護反応を行うことにより、式(1)で表される構成単位を有する脂肪族ポリカーボネート樹脂が得られる。なかでも、合成の容易さの観点から、エポキシドとして2-オキシラニル酢酸ベンジルを用い、水素添加反応により脱保護する方法が好ましい。
【0035】
式(2)で表される構成単位を形成するために用いられるエポキシドとしては、例えば、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1-ブテンオキシド、2-ブテンオキシド、イソブチレンオキシド、1-ペンテンオキシド、2-ペンテンオキシド、1-ヘキセンオキシド、1-オクテンオキシド、1-ドデセンオキシド、シクロペンテンオキシド、シクロヘキセンオキシド、スチレンオキシド、ビニルシクロヘキサンオキシド、3-フェニルプロピレンオキシド、3,3,3-トリフルオロプロピレンオキシド、3-ナフチルプロピレンオキシド、3-フェノキシプロピレンオキシド、3-ナフトキシプロピレンオキシド、ブタジエンモノオキシド、3-ビニルオキシプロピレンオキシド、3-トリメチルシリルオキシプロピレンオキシド等が挙げられる。なかでも、高い反応性を有する観点から、エチレンオキシド及びプロピレンオキシドが好ましい。
【0036】
金属触媒としては、例えば、亜鉛系触媒、アルミニウム系触媒、クロム系触媒、コバルト系触媒等が挙げられる。これらの中では、エポキシドと二酸化炭素との重合反応において、高い重合活性を有することから、亜鉛系触媒及びコバルト系触媒が好ましい。
【0037】
亜鉛系触媒としては、例えば、酢酸亜鉛、ジエチル亜鉛、ジブチル亜鉛等の有機亜鉛触媒;一級アミン、2価のフェノール(ベンゼンジオール)、芳香族ジカルボン酸、芳香族ヒドロキシ酸、脂肪族ジカルボン酸、脂肪族モノカルボン酸等の化合物と亜鉛化合物とを反応させることにより得られる有機亜鉛触媒等が挙げられる。これらの有機亜鉛触媒の中でも、より高い重合活性を有することから、亜鉛化合物と脂肪族ジカルボン酸と脂肪族モノカルボン酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒が好ましく、酸化亜鉛とグルタル酸と酢酸とを反応させて得られる有機亜鉛触媒がより好ましい。
【0038】
前記コバルト系触媒としては、例えば、式(3):
【0040】
(式中、R
7及びR
8は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換の芳香族基、又は置換もしくは非置換の芳香族複素環基であるか、又は2個のR
7もしくは2個のR
8が互いに結合して置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和の脂肪族環を形成してもよく、R
9、R
10及びR
11はそれぞれ独立して水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換のアルケニル基、置換もしくは非置換の芳香族基、置換もしくは非置換の芳香族複素環基、置換もしくは非置換のアルコキシ基、置換もしくは非置換のアシル基、置換もしくは非置換のアルコキシカルボニル基、置換もしくは非置換の芳香族オキシカルボニル基、置換もしくは非置換のアラルキルオキシカルボニル基であるか、又は隣り合う炭素原子上のR
10とR
11とが互いに結合して置換もしくは非置換の脂肪族環又は置換もしくは非置換の芳香環を形成してもよく、Zは、F
-、Cl
-、Br
-、I
-、N
3-、CF
3SO
3-、p-CH
3C
6H
4SO
3-、BF
4-、NO
2-、NO
3-、OH
-、PF
6-、BPh
4-、SbF
6-、ClO
4-、OTf
-、OTs
-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及び芳香族オキシドからなる群より選択されるアニオン性配位子である)
で表されるコバルト錯体を用いることができる。
【0041】
式(3)で表されるコバルト錯体のなかでも、式(4):
【0043】
(式中、R
7及びR
8は、同一でも異なっていてもよく、互いに独立して、水素原子、置換もしくは非置換のアルキル基、置換もしくは非置換の芳香族基、又は置換もしくは非置換の芳香族複素環基であるか、又は2個のR
7もしくは2個のR
8が互いに結合して置換もしくは非置換の飽和もしくは不飽和の脂肪族環を形成してもよく、複数のR
12は、それぞれ独立して、水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、置換もしくは非置換の芳香族基、又はハロゲン原子であり、Zは、F
-、Cl
-、Br
-、I
-、N
3-、CF
3SO
3-、p-CH
3C
6H
4SO
3-、BF
4-、NO
2-、NO
3-、OH
-、PF
6-、BPh
4-、SbF
6-、ClO
4-、OTf
-、OTs
-、脂肪族カルボキシラート、芳香族カルボキシラート、アルコキシド、及び芳香族オキシドからなる群から選択されるアニオン性配位子である)
で表されるコバルト錯体が好ましい。
【0044】
式(4)で表されるコバルト錯体の中で、好適な具体例として、次の式(4-1)〜(4-5)で表されるコバルト錯体が挙げられる。
【0046】
前記重合反応に用いられる金属触媒の使用量は、エポキシド100質量部に対して、重合反応の進行を促進する観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、使用量に見合う効果を得る観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは10質量部以下である。
【0047】
前記重合反応は、必要に応じて、金属触媒に加えて、助触媒の存在下で行ってもよい。助触媒としては、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド(PPNCl)、ピペリジン、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムフルオリド(PPNF)、ビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムペンタフルオロベンゾエート(PPNOBzF
5)、テトラ-n-ブチルアンモニウムクロライド(nBu
4NCl)、テトラ-n-ブチルアンモニウムブロマイド(nBu
4NBr)、テトラ-n-ブチルアンモニウムアイオダイド(nBu
4NI)、テトラ-n-ブチルアンモニウムアセテート(nBu
4NOAc)、テトラ-n-ブチルアンモニウムナイトレート(nBu
4NO
3)、トリエチルホスフィン(Et
3P)、トリ-n-ブチルホスフィン(nBu
3P)、トリフェニルホスフィン(Ph
3P)、ピリジン、4-メチルピリジン、4-ホルミルピリジン、4-(N,N-ジメチルアミノ)ピリジン、N-メチルイミダゾール、N-エチルイミダゾール、N-プロピルイミダゾール等が挙げられる。これらのなかでは、PPNCl、PPNF、PPNOBzF
5及びnBu
4NClが好ましく、高い反応活性を有する観点から、PPNCl及びPPNFがより好ましい。
【0048】
助触媒の使用量は、金属触媒1モルに対して、好ましくは0.1〜10モル、より好ましくは0.3〜5モル、さらに好ましくは0.5〜1.5モルである。
【0049】
前記重合反応には、必要に応じて反応溶媒を用いてもよい。反応溶媒としては、特に限定されないが、種々の有機溶媒を用いることができる。有機溶媒としては、例えば、ペンタン、ヘキサン、オクタン、デカン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;塩化メチレン、クロロホルム、四塩化炭素、1,1-ジクロロエタン、1,2-ジクロロエタン、エチルクロリド、トリクロロエタン、1-クロロプロパン、2-クロロプロパン、1-クロロブタン、2-クロロブタン、1-クロロ-2-メチルプロパン、クロルベンゼン、ブロモベンゼン等のハロゲン化炭化水素系溶媒;ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、1,3-ジオキソラン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸n-プロピル、酢酸イソプロピル等のエステル系溶媒;N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等のアミド系溶媒;ジメチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒等が挙げられる。
【0050】
反応溶媒の使用量は、反応を円滑に進行させる観点から、エポキシド100質量部に対して、100〜10000質量部が好ましい。
【0051】
エポキシドと二酸化炭素とを金属触媒の存在下で重合反応させる方法としては、特に限定されないが、例えば、オートクレーブに、エポキシド、金属触媒、及び必要により助触媒、反応溶媒等を仕込み、混合した後、二酸化炭素を圧入して、反応させる方法が挙げられる。
【0052】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用量は、エポキシド1モルに対して、好ましくは1〜10モル、より好ましくは1〜5モル、さらに好ましくは1〜3モルである。
【0053】
前記重合反応において用いられる二酸化炭素の使用圧力は、特に限定されないが、反応を円滑に進行させる観点から、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは0.2MPa以上、さらに好ましくは0.5MPa以上であり、使用圧力に見合う効果を得る観点から、好ましくは20MPa以下、より好ましくは10MPa以下、さらに好ましくは5MPa以下である。
【0054】
前記重合反応における重合反応温度は、特に限定されないが、反応時間短縮の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは20℃以上であり、副反応を抑制し、収率を向上させる観点から、好ましくは100℃以下、より好ましくは90℃以下、さらに好ましくは80℃以下である。
【0055】
重合反応時間は、重合反応条件により異なるために一概には決定できないが、通常、1〜40時間程度であることが好ましい。
【0056】
かくして得られる脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は、脂肪族ポリカーボネート樹脂を無機微粒子と混合してペースト組成物として用いる場合に、無機微粒子の分散性が低下し、成形した際に、無機微粒子の偏在により焼結体の性能が低下することを避ける観点から、好ましくは3,000以上、より好ましくは10,000以上であり、脂肪族ポリカーボネート樹脂の溶媒への溶解性の低下による取り扱い性の低下を避ける観点から、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは500,000以下、さらに好ましくは300,000以下である。
【0057】
本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、前記の如く、メチレン基又はエチレン基に結合したカルボキシ基を側鎖に有しており、熱分解温度が低温であることに特徴を有するものである。従って、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、熱重量分析測定における160℃での1時間保持後の質量減少率が、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99%以上であり、加熱分解工程前のプロセス中における分解を防ぐ観点から、100℃での1時間保持後の質量減少率が、好ましくは5%以下、より好ましくは3%以下、さらに好ましくは1%以下である。熱分解温度は、式(1)で表される構成単位の含有量により調整することができる。
【0058】
従って、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂における式(1)で表される構成単位の含有量は、脂肪族ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位中、熱分解後の残留炭素を低減する観点から、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下であり、分解温度を低下させる観点から、好ましくは0.001モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは0.5モル%以上、さらに好ましくは1.0モル%以上である。かかる観点から、式(1)で表される構成単位の含有量は、脂肪族ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位中、好ましくは0.001〜30モル%、より好ましくは0.1〜20モル%、さらに好ましくは0.5〜20モル%、さらに好ましくは1.0〜10モル%である。
【0059】
本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂の熱分解開始温度は、分解工程前のプロセス中に分解することを防ぐ観点から、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上、さらに好ましくは120℃以上であり、分解工程での昇温時間を短縮する観点から、好ましくは160℃以下、より好ましくは155℃以下、さらに好ましくは150℃以下である。
【0060】
本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂のガラス転移温度は、焼結前に成型したときの成型体の強度の観点から、好ましくは0℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上であり、焼結前に成型したときの成型体の柔軟性の観点から、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下、さらに好ましくは30℃以下である。
【0061】
本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、焼結後の残留炭素が少なく、160℃以下での脱脂処理が可能であるため、成形体の製造に用いるバインダー樹脂として有用であり、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂を用いることにより、脱脂工程の大幅な省エネが可能になるのみならず、耐熱性があまり高くない基板への適用も可能である。
【0062】
本発明の熱分解性バインダーは、例えば、脂肪族ポリカーボネート樹脂を溶解可能な溶媒に溶解させて、用いることができる。
【0063】
脂肪族ポリカーボネート樹脂を溶解可能な溶媒としては、特に限定されないが、例えば、トルエン、酢酸エチル、酢酸ブチル、イソプロピルアルコール、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、N-メチル-2-ピロリドン、エチレングリコールエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、ターピネオール、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオール、ジヒドロターピネオールアセテート、テキサノール、イソホロン、乳酸ブチル、ジオクチルフタレート、ジオクチルアジペート、ベンジルアルコール、フェニルプロピレングリコール、クレゾール、N,N-ジメチルホルムアミド、プロピレンカーボネート等が挙げられる。なかでも、適度に沸点が高く、焼結時に均一に揮発しやすいという観点から、N-メチル-2-ピロリドン、ターピネオール、ターピネオールアセテート、エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート、テキサノール、及びプロピレンカーボネートが好ましい。なお、これらの有機溶剤は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0064】
溶媒の混合量は、得られるバインダーのハンドリングのし易さの観点から、脂肪族ポリカーボネート樹脂100質量部に対して、好ましくは100〜2000質量部、より好ましくは200〜1500質量部、さらに好ましくは300〜1000質量部である。
【0065】
また、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、非酸化性雰囲気下であっても脱脂処理が可能であるため、酸素と反応するため非酸化性雰囲気下での脱脂が望まれる無機微粒子と混合して用いることができる。
従って、本発明は、さらに、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂をバインダー樹脂として含有する無機微粒子分散ペースト組成物を提供する。
【0066】
なお、熱分解性バインダー及び無機微粒子分散ペースト組成物には、本発明の式(1)で表される構成単位を含む脂肪族ポリカーボネート樹脂だけでなく、式(1)で表される構成単位を含まない脂肪族ポリカーボネート樹脂が含まれていてもよい。
【0067】
従って、熱分解性バインダー及び無機微粒子分散ペースト組成物に含まれる脂肪族ポリカーボネート樹脂を構成する全構成単位中の式(1)で表される構成単位の含有量が、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂における式(1)で表される構成単位の含有量として記載した範囲であることが好ましい。
即ち、熱分解性バインダーが本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂のみからなる場合、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂における式(1)で表される構成単位の含有量は、前記範囲であることが好ましい。
また、熱分解性バインダーが、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂と式(1)で表される構成単位を含まない脂肪族ポリカーボネート樹脂の混合物である場合は、熱分解性バインダーに含まれる複数の脂肪族ポリカーボネート樹脂を合わせた全構成単位中の式(1)で表される構成単位の含有量が、前記範囲であることが好ましい。
無機微粒子分散ペースト組成物が、バインダー樹脂として、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂のみを含む場合、及び本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂と式(1)で表される構成単位を含まない脂肪族ポリカーボネート樹脂とを含む場合についても同様である。
【0068】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂、無機微粒子、及び溶媒を含有するものである。
【0069】
無機微粒子としては、特に限定されないが、導電体粒子、セラミック粉末、ガラス粉末、及び無機蛍光体微粒子からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0070】
導電体粒子としては、例えば、銅、鉄、ニッケル、パラジウム、白金、金、銀、アルミニウム、タングステン、これらの合金等からなる金属粒子等が挙げられる。
【0071】
ガラス粉末としては、例えば、CaO−Al
2O
3−SiO
2系、MgO−Al
2O
3−SiO
2系、LiO
2−Al
2O
3−SiO
2系等の各種ケイ素酸化物、酸化ビスマスガラス、ケイ酸塩ガラス、鉛ガラス、亜鉛ガラス、ボロンガラス等のガラス粉末等が挙げられる。
【0072】
また、ガラス粉末として、PbO−B
2O
3−SiO
2混合物、BaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2混合物、ZnO−Bi
2O
3−B
2O
3−SiO
2混合物、Bi
2O
3−B
2O
3−BaO−CuO混合物、Bi
2O
3−ZnO−B
2O
3−Al
2O
3−SrO混合物、ZnO−Bi
2O
3−B
2O
3混合物、Bi
2O
3−SiO
2混合物、P
2O
5−Na
2O−CaO−BaO−Al
2O
3−B
2O
3混合物、P
2O
5−SnO混合物、P
2O
5−SnO−B
2O
3混合物、P
2O
5−SnO−SiO
2混合物、CuO−P
2O
5−RO混合物、SiO
2−B
2O
3−ZnO−Na
2O−Li
2O−NaF−V
2O
5混合物、P
2O
5−ZnO−SnO−R
2O−RO混合物、B
2O
3−SiO
2−ZnO混合物、B
2O
3−SiO
2−Al
2O
3−ZrO
2混合物、SiO
2−B
2O
3−ZnO−R
2O−RO混合物、SiO
2−B
2O
3−Al
2O
3−RO−R
2O混合物、SrO−ZnO−P
2O
5混合物、SrO−ZnO−P
2O
5混合物、BaO−ZnO−B
2O
3−SiO
2混合物等のガラス粉末も用いることができる。ここで、前記Rは、Zn、Ba、Ca、Mg、Sr、Sn、Ni、Fe及びMnからなる群より選択される元素を表す。
【0073】
セラミック粉末としては、例えば、アルミナ、ジルコニア、酸化チタン、チタン酸バリウム、窒化アルミナ、窒化ケイ素、窒化ホウ素、炭化ケイ素等の粉末が挙げられる。また、透明電極材料に用いられるナノITO(錫ドープ酸化インジウム)や色素増感太陽電池に用いられるナノ酸化チタン等も好適に用いることができる。
【0074】
無機蛍光体微粒子としては、例えば、BaMgAl
10O
17:Eu、Zn
2SiO
4:Mn、(Y、Gd)BO
3:Eu等が挙げられる。
【0075】
無機微粒子分散ペースト組成物における脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量は、前記無機微粒子100質量部に対して、無機微粒子の分散性が低下し、成形した際に、無機微粒子の偏在により焼結体の性能が低下することを避ける観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上であり、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、無機微粒子分散ペースト組成物を焼結する際に、脂肪族ポリカーボネート樹脂の過剰な分解により生成する分解物を低減し、緻密な焼結体を得る観点から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下であり、さらに好ましくは10質量部以下である。なお、ここでいう脂肪族ポリカーボネート樹脂の含有量とは、式(1)で表される構成単位を有する脂肪族ポリカーボネートのみに限らず、2種以上の脂肪族ポリカーボネート樹脂が併用されている場合はその総量を指す。
【0076】
溶媒としては、前記熱分解性バインダーに用いられる溶媒と同様のものが好ましい。
【0077】
無機微粒子分散ペースト組成物における溶媒の含有量は、無機微粒子100質量部に対して、無機微粒子の分散性の観点から、好ましくは0.001質量部以上、より好ましくは0.01質量部以上、さらに好ましくは0.1質量部以上であり、無機微粒子分散ペースト組成物の粘度調整の観点から、好ましくは100質量部以下、より好ましくは80質量部以下、さらに好ましくは50質量部以下である。
【0078】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物は、必要に応じて添加剤を含有していてもよい。
【0079】
添加剤としては、密着促進剤、界面活性剤、可塑剤、保存安定剤、消泡剤等が挙げられる。
【0080】
密着促進剤としては、アミン系シランカップリング剤、グリシジル系シランカップリング剤等が挙げられる。界面活性剤としては、ポリオキシエチレン系界面活性剤、脂肪酸エステル系界面活性剤等が挙げられる。可塑剤としては、ポリエーテルポリオール、フタル酸エステル等が挙げられる。保存安定剤としては、アミン化合物、カルボン酸化合物、リン化合物、硫黄化合物、トリアゾール系化合物等が挙げられる。消泡剤としては、疎水性シリカ、ポリアルキレン誘導体、ポリエーテル誘導体等が挙げられる。
【0081】
無機微粒子分散ペースト組成物における添加剤の含有量は、無機微粒子100質量部に対し、好ましくは50質量部以下、より好ましくは30質量部以下である。
【0082】
本発明の無機微粒子分散ペースト組成物の製造方法としては、特に限定されないが、脂肪族ポリカーボネート樹脂、溶媒、無機微粒子、及び必要に応じて添加剤を、従来公知の攪拌方法を用いて混合、攪拌する方法等が挙げられる。
【0083】
前記公知の攪拌方法としては、例えば、ボールミル、ブラベンダーミル、3本ロールミル等の装置を用いて混練する方法、乳鉢を用いて混練する方法等が挙げられる。
【0084】
本発明の熱分解性バインダー又は無機微粒子分散ペースト組成物を原料と混練し、成形した後、焼結により脱脂して成形体を得ることができる。焼結工程において、本発明の脂肪族ポリカーボネート樹脂は、低温での加熱により、熱分解し、除去することができる。
【実施例】
【0085】
以下に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によってなんら限定されるものではない。脂肪族ポリカーボネート樹脂等の物性は、以下の方法により測定した。
【0086】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂中の式(1)で表される構成単位の含有量〕
1H-NMRにより樹脂中の構成単位の組成比を分析し、脂肪族ポリカーボネート樹脂中のカルボキシ基含有割合を式(1)で表される構成単位の含有量とする。
脂肪族ポリカーボネート樹脂を重クロロホルム中、25℃で
1H-NMRを測定し、5.0ppm付近に現れるカーボネート基に隣接するメチン基由来のピークの積分値(A)と、2.8ppm付近に現れるカルボキシ基に隣接するメチレン基由来のピークの積分値(B)を求め、以下の計算式よりカルボキシ基含有割合を算出する。
カルボキシ基含有割合(モル%)=B/(2×A)×100
また、カルボキシ基含有割合が小さいとき、上記方法では算出が困難な場合がある。その場合は、カルボキシ基が保護されたカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂前駆体からカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂を得る工程で、カルボキシ基の量は変化しないとみなし、前駆体を重クロロホルム中、25℃で
1H-NMRを測定し、保護基に含まれる基由来のピークの積分値(C)と、保護基を含まない構成単位に含まれる基由来のピークの積分値(D)を求め、以下の計算式よりカルボキシ基含有割合を算出する。例えば、実施例1の場合は、7.3〜7.4ppm付近に現れるフェニル基由来のピークの積分値(C)と1.3〜1.4ppm付近に現れるメチル基由来のピークの積分値(D)を用いる。
カルボキシ基含有割合(モル%)=5×D/(3×C+5×D)×100
【0087】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量(Mw)〕
脂肪族ポリカーボネート樹脂濃度が0.5質量%のクロロホルム溶液を調製し、高速液体クロマトグラフを用いて測定する。測定後、同一条件で測定した質量平均分子量が既知のポリスチレンと比較することにより、質量平均分子量を算出する。また、測定条件は、以下の通りである。
カラム:GPCカラム(昭和電工株式会社の商品名、Shodex K-804L)
カラム温度:40℃
溶出液:クロロホルム
流速:1.0mL/min
【0088】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の熱分解開始温度〕
日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA6200を用い、窒素雰囲気下、20℃/minの昇温速度で室温から400℃まで昇温して、熱分解挙動を測定する。熱分解開始温度は、試験加熱開始前の質量を通る横軸に平行な線と、分解曲線における屈曲点間の勾配が最大となるように引いた接線との交点とする。
【0089】
〔脂肪族ポリカーボネート樹脂の所定温度で1時間保持後の質量減少率〕
日立ハイテクサイエンス社製TG/DTA7220を用い、窒素雰囲気下、50℃/minの昇温速度で室温から所定の温度(160℃又は100℃)まで昇温し、その後、その温度で1時間保持して、熱分解挙動を測定する。質量減少率は、分解曲線から加熱1時間後の質量(W1)を読み取り、初期質量(W0)との比〔(W0−W1)/W0×100〕から算出する。
【0090】
〔脂肪族ポリカーボネートのガラス転移温度(Tg)〕
日立ハイテクサイエンス社製DSC7020を用い、窒素雰囲気下、10℃/minの昇温速度、降温速度で-30℃から60℃までそれぞれ昇温、降温することにより、ガラス転移温度を測定する。ガラス転移温度は、低温側のベースラインを高温側に延長した直線と、ガラス転移の階段状変化部分の曲線のこう配が最大になるような点で引いた接線との交点とする。
【0091】
製造例1〔コバルト錯体の製造〕
攪拌機及びガス導入管を備えた0.2L容の三つ口フラスコに、(S,S)-N,N’-ビス(3,5-ジ-tert-ブチルサリチリデン)-1,2-シクロヘキサンジアミノコバルト(Aldrich社より購入)5.0g(8.3mmol)、ペンタフルオロ安息香酸1.80g(8.5mmol)、及びジクロロメタン100mLを仕込み、空気を導入しながら12時間攪拌し反応させた。揮発分を減圧留去した後、得られた固体を冷ヘキサン100mLで洗浄し、前記式(4-3)で表されるコバルト錯体を茶色固体として得た(収量6.6g、収率98.5%)
【0092】
製造例2〔2-オキシラニル酢酸ベンジルの製造〕
【0093】
【化9】
【0094】
攪拌機、窒素ガス導入管、温度計、及び滴下ロートを備えた1L容の四つ口フラスコに、3-ブテン酸51.3g(0.59mol)、ピリジン117.9g(1.49mol)、及びジクロロメタン752gを仕込んだ。次に、反応容器を氷水浴で10℃以下まで冷却し、窒素雰囲気下、滴下ロートからクロロギ酸ベンジル106.7g(0.62mol)を2.5mL/minの速度で添加し、内温が20℃を超えないように8時間攪拌して反応させた。その後、析出した固体をろ過で除去し、ろ液を飽和塩化アンモニウム水で洗浄し、過剰のピリジンを除去した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、ジクロロメタンを留去した。残留する黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=40/1(v/v)、Rf値0.33)で精製し、3-ブテン酸ベンジルを薄黄色液体として得た(収量74.4g、収率72.3%)。
【0095】
【化10】
【0096】
攪拌機、窒素ガス導入管、及び温度計を備えた1L容の四つ口フラスコに、3-ブテン酸ベンジルエステル37.6g(0.21mol)及びジクロロメタン528gを仕込み、反応容器を氷水浴で5℃以下まで冷却し、窒素雰囲気下、70%m-クロロ過安息香酸100g(0.40mol)を10回に分けて加えた。内温が20℃を超えないように18時間攪拌して反応させた。その後、内温が5℃以下になるまで冷却し、生じた固体をろ過で除去し、得られたろ液に飽和チオ硫酸ナトリウム水溶液、及び飽和重曹水を添加し、未反応のm-クロロ過安息香酸を消費させた。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥後、濃縮し、ジクロロメタンを留去した。残留する黄色液体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(ヘキサン/酢酸エチル=10/1(v/v)、Rf値0.31)で精製し、2-オキシラニル酢酸ベンジルを薄黄色液体として得た(収量37.8g、収率92.0%)。
【0097】
実施例1
〔カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂前駆体の製造〕
【0098】
【化11】
【0099】
50mL容のオートクレーブに、製造例1より得られたコバルト錯体11mg(0.015mmol)、及びビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド8.0mg(0.014mmol)を仕込み、系内をアルゴン雰囲気に置換した後、プロピレンオキシド1.62g(28mmol)及び製造例2で得られた2-オキシラニル酢酸ベンジル0.153g(0.78mmol)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内が1.5MPaとなるまで二酸化炭素を充填した(二酸化炭素仕込量30mmol)。その後、22℃で22時間重合反応を行った。二酸化炭素の消費量は、20.2mmolであった。反応終了後、オートクレーブを脱圧し、内容物をメタノールに注ぎ白色固体を析出させた。得られた白色固体を減圧乾燥して脂肪族ポリカーボネート樹脂1.92gを得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は15,700であり、ベンジルエステル基の導入量は1.6mol%であった。
【0100】
得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の構造は、
1H-NMRにより同定した。
【0101】
1H-NMR(CDCl
3)δ=7.4-7.3 (5H, -C
6H
5), 5.3 (1H, -C-CH-C-CO-), 5.2-5.1 (2H, -O-CH
2-Ph), 5.1-4.9 (1H, -(CO)O-CH-), 4.4-4.1 (2H, -CH
2-O(CO)-), 2.8-2.7 (2H, -C-CH
2-CO-) 1.4-1.3 (3H, -CH
3) ppm.
【0102】
〔カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂の製造〕
【0103】
【化12】
【0104】
攪拌機、ガス導入管、及び温度計を備えた20mL容のシュレンク管に、得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂1.0g、10%パラジウム炭素0.5g、酢酸エチル13.5g、及びメタノール12.0gを仕込み、凍結脱気を行った。その後、反応容器内を水素で置換し、40℃、水素1気圧下で、24時間攪拌した。固体をろ過で除去し、得られたろ液を濃縮した後、ろ液をメタノールに注ぎ、ポリマーを析出させた。得られたポリマーを乾燥させ、カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂0.927gを得た。
【0105】
得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の構造は、
1H-NMR及び
13C-NMRにより同定した。
【0106】
1H-NMR(CDCl
3)δ=5.3(1H, -C-CH-C-), 5.1-5.0(1H, -(CO)O-CH-), 4.5-4.1(2H, -CH
2-O(CO)-), 2.8-2.7(2H, -C-CH
2-CO-), 1.4-1.3(3H, -CH
3) ppm.
13C-NMR(CDCl
3)δ=173.9(-COOH),154,6-154.2(-O(CO)O-), 72.4-71.8(-O-CH-CH
2-O-),69.2-68.9(-O-CH-CH
2-O-), 35.1(-CH
2-COOH), 16.0(-CH
3)
【0107】
実施例2〜4
プロピレンオキシド及び2-オキシラニル酢酸ベンジルの使用量を表1に示す量に変更した以外は、実施例1と同様に反応を行い、カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂を得た。
【0108】
比較例1
2-オキシラニル酢酸ベンジルを使用しない以外は、実施例1と同様の反応を行い、カルボキシ基を含有しない脂肪族ポリカーボネート樹脂2.06gを得た。
【0109】
比較例2
〔カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂前駆体の製造〕
【0110】
【化13】
【0111】
50mL容のオートクレーブに、製造例1より得られたコバルト錯体13.8mg(0.018mmol)、及びビス(トリフェニルホスフォラニリデン)アンモニウムクロリド10mg(0.018mmol)を仕込み、系内をあらかじめ二酸化炭素雰囲気に置換した後、プロピレンオキシド8.0g(140mmol)、及びアリルグリシジルエーテル0.49g(4.3mmol)を仕込んだ。次に、攪拌下、二酸化炭素を加え、反応系内が1.0MPaとなるまで二酸化炭素を充填した。その後、反応により消費される二酸化炭素を補給しながら、25℃で20時間重合反応を行った。反応終了後、オートクレーブを脱圧し、内容物をメタノールに注ぎ白色固体を析出させた。得られた白色固体を減圧乾燥して脂肪族ポリカーボネート樹脂9.75gを得た。得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量は61,000であり、アリル基の導入量は1.9mol%であった。
【0112】
得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の構造は、
1H-NMRにより同定した。
【0113】
1H-NMR(CDCl
3)δ=5.8-6.0(1H, -CH=C), 5.3-5.1(2H, -C=CH
2), 5.1-5.0(1H, (CO)O-CH-), 4.5-4.2(2H, -CH
2-O(CO)), 4.0(2H, -CH
2O-), 3.63(2H, -OCH
2-C=C), 1.3(3H, -CH
3) ppm.
【0114】
〔カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂の製造〕
【0115】
【化14】
【0116】
攪拌機、ガス導入管、及び温度計を備えた100mL容の四つ口フラスコに、得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂5g(アリル基量1.0mmol相当)、炭酸ジメチル10g、及びトルエン10gを仕込み、反応容器内を窒素で置換し、2,2’-アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)23.6mg(0.5mmol)、及びチオグリコール酸0.44g(5.0mmol)を添加し、60℃で15時間攪拌した。その後、反応溶液を濃縮し、残留溶液をメタノールに注ぎ、ポリマーを析出させた。得られたポリマーを乾燥させ、カルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂4.7gを得た。
【0117】
得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の構造は、
1H-NMRにより同定した。
【0118】
1H-NMR(CDCl
3)δ=5.1-5.0(1H, (CO)O-CH-), 4.5-4.2(2H, -CH
2-O(CO)), 3.6-3.4(4H, -CH
2O-), 3.24(2H, -S-CH
2-(CO)O), 2.71(2H, -O-C-CH
2-S-), 1.86(2H, O-CH
2-C-S-), 1.3(3H, -CH
3) ppm.
【0119】
実施例1、比較例1、及び比較例2により得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂のTG−DTA(熱重量示差熱分析)曲線を
図1に示す。
【0120】
また、各実施例及び比較例で得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂の質量平均分子量、カルボキシ基含有率、熱分解開始温度、160℃で1時間保持後の質量減少率、100℃で1時間保持後の質量減少率及びガラス転移温度を表1に示す。
【0121】
【表1】
【0122】
実施例5
5mL容のナスフラスコに、実施例1で得られたカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂0.12g、及びN-メチル-2-ピロリドン0.88gを仕込み、溶解させ、均一なバインダー溶液1.0gを得た。
乳鉢に、銀粒子(大研化学工業株式会社製、商品名:S-211、中位粒子径:0.311μm)4.0gを計りとり、混練しながら、前記バインダー溶液の全量を徐々に加えた。均一なペーストになるまで混練し、銀粒子分散ペースト組成物5.0gを得た。
【0123】
実施例6
脂肪族ポリカーボネート樹脂を、実施例1で得られたカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂0.03g、及び比較例1で得られたカルボキシ基を有していない脂肪族ポリカーボネート樹脂0.09gの樹脂混合物に変更した以外は、実施例5と同様にして、銀粒子分散ペースト組成物5.0gを得た。かかる樹脂混合物の160℃で1時間保持後の減少重量率は95.5%、100℃で1時間保持後の重量減少率は1.0%であった。
【0124】
比較例3
脂肪族ポリカーボネート樹脂を、比較例1で得られたカルボキシ基を含有しない脂肪族ポリカーボネート樹脂0.12gに変更した以外は、実施例5と同様にして、銀粒子分散ペースト組成物5.0gを得た。
【0125】
比較例4
脂肪族ポリカーボネート樹脂を、比較例2で得られたカルボキシ基含有脂肪族ポリカーボネート樹脂0.12gに変更した以外は、実施例5と同様にして、銀粒子分散ペースト組成物5.0gを得た。
【0126】
実施例5、6、及び比較例3、4で得られた銀粒子分散ペースト組成物を用いて焼結体を作製し、得られた焼結体の体積抵抗率を測定した。結果を表2に示す。体積抵抗率が高いということは、抵抗となる成分が存在すること、即ち、バインダー樹脂が完全に分解していないか、分解していても残留炭素分が多いことを意味する。一方、体積抵抗率が低いということは、抵抗となる成分が存在しないこと、即ちバインダー樹脂が完全に分解し、且つ、残留炭素分がほとんどないことを意味する。
【0127】
〔焼結体の作製〕
絶縁基板としてスライドガラス(幅:26mm、長さ:76mm、厚み:1mm)を用意し、アセトンを用いて表面を洗浄した。その後、UV-オゾン処理装置(セン特殊光源株式会社製、商品名:卓上型光表面処理装置 PL16-110)を用いて、スライドガラスの表面処理を行い、試験用スライドガラスとした。
試験用スライドガラスに、マスキングテープを用いて、長方形(10mm×40mm)のパターンを形成し、銀粒子分散ペースト組成物を流し込んだ。塗布後、マスキングテープを除去し、25℃で、6時間乾燥させた。同様の方法にて、一つの条件に対して、塗布物を3個ずつ作製した。
得られた塗布物を、卓上型電気マッフル炉(EYELA社製、商品名:KDF S90)を用いて、25℃から10分間でそれぞれ150℃、160℃まで昇温し、前記温度で30分間保持した後、25℃まで空冷して焼結体をそれぞれ3個ずつ得た。
【0128】
〔焼結体の厚み〕
得られた焼結体の厚みを、膜厚測定装置(株式会社小坂研究所製、商品名:微細形状測定機 surfcorder ET3000i)を用いて測定し、3個の焼結体の平均値を求めた。結果を表2に示す。
【0129】
〔焼結体の体積抵抗率〕
焼結体の体積抵抗率を、抵抗率計(三菱化学株式会社製、商品名:ロレスタEP MCP-T360)を用いて測定し、3個の焼結体の平均値を求めた。なお、体積抵抗率は、前記抵抗率計に、前記焼結体の厚みを入力することにより、自動的に算出された。結果を表2に示す。
【0130】
【表2】
【0131】
実施例5と比較例3の対比より、いずれの焼結温度においても実施例5の脂肪族ポリカーボネート樹脂をバインダーとして用いたほうが、焼結体の体積固有抵抗が低く、脱脂がきちんと完了していることが分かる。また、実施例6から、式(1)で表される構成単位を有する脂肪族ポリカーボネート樹脂と有していない脂肪族ポリカーボネート樹脂を混合して使用しても、本発明と同様の効果があることがわかる。一方、実施例5と比較例4の対比より、比較例2で得られた脂肪族ポリカーボネート樹脂は、カルボキシ基を有しているものの、主鎖からの距離が遠いため、体積抵抗率が高く、熱分解温度が低下していないことがわかる。