特許第6647544号(P6647544)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6647544牛の第一胃鼓脹症検出方法及び第一胃鼓脹症検出システム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6647544
(24)【登録日】2020年1月17日
(45)【発行日】2020年2月14日
(54)【発明の名称】牛の第一胃鼓脹症検出方法及び第一胃鼓脹症検出システム
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/00 20060101AFI20200203BHJP
【FI】
   A01K67/00 D
【請求項の数】5
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2015-23112(P2015-23112)
(22)【出願日】2015年2月9日
(65)【公開番号】特開2016-144428(P2016-144428A)
(43)【公開日】2016年8月12日
【審査請求日】2017年10月3日
【審判番号】不服2019-2195(P2019-2195/J1)
【審判請求日】2019年2月18日
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100129300
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 俊輔
(72)【発明者】
【氏名】新井 鐘蔵
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 寿浩
(72)【発明者】
【氏名】野上 大史
【合議体】
【審判長】 秋田 将行
【審判官】 有家 秀郎
【審判官】 森次 顕
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2009/0182207(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2012/0310054(US,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2004/0133131(US,A1)
【文献】 国際公開第2010/147175(WO,A1)
【文献】 米国特許第5984875(US,A)
【文献】 特開2013−75176(JP,A)
【文献】 特開平6−276877(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K67/00
A61B5/06-5/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略筒形状で、重量密度1.8〜8.0gf/cm3であり、位置変化を検出できる変位検出手段及び該変位検出手段の測定データを無線送信する無線送信手段を備えた無線センサ端末を経口投与により牛の第一胃内に留置させ、該牛個体の体外で前記変位検出手段の測定データとして、前記無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向における第一胃内での位置変化を経時的に表す波形を取得し、該波形の変動を検知することによって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出方法。
【請求項2】
前記無線センサ端末より送信された前記測定データを受信するとともに該受信データをデータ処理手段へ送信する中継手順を含む請求項1記載の牛の第一胃鼓脹症検出方法。
【請求項3】
前記変位検出手段が、有機圧電薄膜で形成された圧電体を備え、圧電効果による電荷の変化により位置変化を検出する構造である請求項1又は請求項2記載の牛の鼓脹症検出方法。
【請求項4】
前記変位検出手段が加速度センサである請求項1〜3のいずれか一項記載の牛の鼓脹症検出方法。
【請求項5】
略筒形状で、重量密度1.8〜8.0gf/cm3であり、位置変化を検出できる変位検出手段及び該変位検出手段の測定データを無線送信する無線送信手段を備え、牛への経口投与により第一胃内に留置させる経口投与型の無線センサ端末と、
前記無線センサ端末より送信された前記測定データを受信するとともに該受信データをデータ管理手段へ送信する中継手段と、
前記中継手段より送信された前記測定データを処理するデータ処理手段と、を備え、
前記測定データとして、前記無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向における第一胃内での位置変化を経時的に表す波形を取得し、該波形の変動を検知することによって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、位置変化を検出できる変位検出手段を備えた無線センサ端末を経口投与により牛の第一胃内に留置させ、その測定データの変動によって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出方法及び第一胃鼓脹症検出システムなどに関連する。
【背景技術】
【0002】
近年の牛の畜産においては、肉牛飼育では成長性・肥育性の向上、乳牛飼育では産乳量の向上などのため、牛の飼育の際、粗飼料に、マメ科牧草や濃厚飼料など、タンパク質含量が高く粗線維の少ない飼料を配合して給餌する場合が多い。一方、これらの飼料の多量摂取は、第一胃内での異常発酵を引き起こしやすく、牛の第一胃鼓張症の主な原因にもなるとされている。
【0003】
牛の第一胃鼓張症は、第一胃内容の著しい発酵の亢進などによって第一胃内にガスが大量に充満して第一胃が過度に膨張し、それにより呼吸が障害される疾患である。診断自体は、急速な左けん部の膨大とその打診による所見、呼吸速拍、うっ血症状などにより比較的容易な場合も多いが、急性に経過した場合は、摂食後2〜3時間以内に腹囲が急激に膨大し、迅速に治療を施さなければ、呼吸困難の状態を呈して横倒しとなり、数時間以内に死亡する場合がある。そのため、特に、飼育頭数が多い畜産農家ではその発症を早期に発見することが難しく、発見や治療が遅れて死亡する場合も多い。畜産農家にとって、この疾患での飼育牛の死亡による経済的損失は大きい。
【0004】
牛の第一胃内の異常の早期発見には、例えば、ルーメン検査(第一胃内容物を採取して行う検査)が有用な手段の一つである。しかし、牛の口腔より第一胃内容物を採取しその成分分析を行う必要があり、また、X線撮影装置などの特殊な機器を必要とする場合もあるため、この検査のために必要な労力・コスト、及び、牛各個体にかかる負担などを考慮すると、現実的には、各農場現場で日常的にその検査を実施することは難しい。そのため、第一胃内の状況を日常的に監視する手段の開発が求められている。
【0005】
なお、例えば、特許文献1には、ルーメンアシドーシスなどの検出を目的として、容器内に収容された測定部にpHセンサを含み、反芻動物に経口投与されることで第一胃内に留まって第一胃内の内部状態を検出する検出装置などが、特許文献2には、反芻胃を持つ動物に飲み込ませ、反芻動物の第一胃又は第二胃の中に留めて使用する動物用体内型個体識別器具であって、容器内に、温度センサ・pHセンサ・振動センサ・電導度センサなどのセンサが設けられたものが、特許文献3には、温度センサを備えた大丸薬を反芻動物に飲み込ませ、反芻動物の内臓温度などを検出して送信するモニターシステムが、特許文献4には、反芻動物の胃のpH及び温度の監視により、反芻動物の生理状態を判定するシステムが、それぞれ開示されている。その他、特許文献5及び6は、圧電効果による電荷の変化により加速度を検出する加速度センサに関する文献である。
【特許文献1】国際公開WO2010/147175
【特許文献2】特開平6-276877号公報
【特許文献3】US5,984,875
【特許文献4】US2004-133131
【特許文献5】特開2011-226995号公報
【特許文献6】特開2012-242250号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述の通り、牛の第一胃内の異常を早期に発見できるようにするために、第一胃内の状況を日常的に監視する手段が必要である。しかし、たとえセンサを第一胃内に留置させたとしても、温度センサでは牛の第一胃鼓脹症の発症を充分に検知できない。また、pHセンサを第一胃内に留置させ、ルーメンアシドーシスの発症を検出する方法は、鼓脹症の検知にもある程度有効な可能性もあるが、pHセンサは、約2カ月ごとに参照液の交換が必要であるため、長期間、第一胃内にセンサを留め、監視を続けることは、実質的に難しい。
【0007】
そこで、本発明では、長期間に亘って日常的に監視することが可能で、検出精度も高い牛の第一胃鼓張症の検出手段を提供することなどを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、略筒形状で、位置変化を検出できる変位検出手段を備え、経口投与により牛の第一胃内に留置させることが可能で、牛個体の外部にその測定データを送信することが可能な経口投与型無線センサ端末を開発するとともに、(1)重量密度を1.8gf/cm3以上にすることで、この無線センサ端末を第一胃内に長時間留置させることができること、(2)第一胃内に略筒形状の無線センサ端末を留置させた場合、無線センサ端末の位置変化を変異検出手段で検出することによって第一胃内の内容物の流動性を検出することができること、(3)この第一胃内の内容物の流動性と第一胃収縮運動とはほぼ完全に同調すること、従って、第一胃内の内容物の流動性を評価することで、第一胃収縮運動を検知することができること、並びに(4)この変位検出手段の測定データの変動によって牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を検出することができることを新規に見出した。
【0009】
そこで、本発明では、略筒形状で、重量密度1.8gf/cm3以上であり、位置変化を検出できる変位検出手段及び該変位検出手段の測定データを無線送信する無線送信手段を備えた無線センサ端末を経口投与により牛の第一胃内に留置させ、該牛個体の体外で前記変位検出手段の測定データを取得し、前記測定データの変動を検知することによって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出方法などを提供する。
【0010】
略筒形状で変位検出手段を備えた無線センサ端末を牛の第一胃内に留置させることで、第一胃内の内容物の流動性を検出することができ、その第一胃内の内容物の流動性を評価することで、第一胃収縮運動を検知することができる。一方、牛の第一胃鼓脹症は第一胃収縮運動の低下を伴うため、第一胃鼓脹症が発症した場合には、その測定データ(波形)が明瞭に変動する。従って、牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を高感度、高精度かつ確定的に検出することができる。
【0011】
本発明では、無線センサ端末の重量密度を調整することで、この無線センサ端末が第一胃内に留まる時間を調節することができ、例えば、無線センサ端末の重量密度を1.8gf/cm3以上とすることで、この無線センサ端末を第一胃内に長時間留置させることができる。また、本発明では加速度センサなどの変位検出手段を採用しているため、例えば、pHセンサにおける参照液の交換のように、定期的に無線センサ端末を回収してそれを保守する必要がない。さらに、加速度センサなどの変位検出手段を採用することにより消費電力を低減できるため、電池交換などをほとんど必要とせず、この無線センサ端末を長期間に亘って作動させることが可能である。従って、本発明により、第一胃鼓脹症の発症の有無の監視を長期間に亘って日常的に行うことが可能となる。
【0012】
そして、本発明では、長期間に亘って日常的に監視することが可能であり、経時的な測定データを連続的に取得することが可能であるため、第一胃鼓脹症の発症を早期に発見することができる。従って、発症初期の段階で対処することが可能になるため、第一胃鼓脹症の重篤化を未然に防止でき、この疾患での飼育牛の死亡による経済的損失も抑制できる。
【0013】
加えて、本発明には、第一胃鼓脹症の発症の有無の検出・監視を非侵襲的に行うことができるという利点がある。本発明では、無線センサ端末を経口投与により第一胃内に留置させることで、第一胃鼓脹症の発症の有無の検出・監視を行うことができ、外科手術などによる牛個体への測定手段の取り付けなどを必要としない。また、加速度センサなどの変位検出手段を採用することにより無線センサ端末を小型化できるため、無線センサ端末の経口投与も比較的簡易に行うことができる。従って、監視対象となる牛個体への負荷を極力軽減でき、非侵襲的な検出・監視が可能である。
【0014】
また、本発明は、変位検出手段及びその測定データを無線送信する無線送信手段を備えた無線センサ端末を経口投与により第一胃内に留置させ、その牛個体の体外で測定データを長期間連続的に取得することで、第一胃鼓脹症の発症の有無を検出することができるため、比較的簡易かつ安価に、第一胃鼓脹症検出のための仕組みを構築することが可能である。
【0015】
このように、第一胃鼓脹症検出のための仕組みを比較的簡易かつ安価に構築することが可能であり、加えて、無線送信された測定データをサーバコンピュータなどで一括して管理・監視・解析することも可能であるため、本発明は、多数の飼育牛を同時に監視する場合にも適用できる。従って、本発明は、例えば、飼育頭数の多い畜産農家において、飼育牛全頭に対して第一胃鼓脹症の発症の有無を監視したい場合にも有用であり、これによって、第一胃鼓脹症の発見の遅れを防止でき、この疾患での飼育牛の死亡による経済的損失も抑制できる。
【0016】
その他、本発明に係る無線センサ端末は不具合を起こしにくく、長期間に亘る安定的な監視が可能であるという有利性もある。本発明に係る無線センサ端末は、加速度センサなどの変位検出手段によって第一胃収縮運動を検知するため、例えば、pHセンサのように、試料(第一胃液など)を端末の内部に誘導させる必要がない。そのため、無線センサ端末の内部構造を常に外部から略隔離することが可能であり、外部環境(第一胃内の環境)から保護されているほか、目詰まりの発生などもない。そのため、不具合の発生を低く抑えることができる。また、変位検出手段を採用することで構造を単純化できるため、不具合も発生しにくい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、牛の第一胃鼓張症を比較的高精度に検出することができる。また、本発明は、第一胃鼓脹症の発症の有無を、比較的長期間に亘って日常的に監視することが可能であり、多数の飼育牛を一括して監視したい場合などにも適用可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
<本発明に係る牛の第一胃鼓脹症検出システム>
本発明は、略筒形状で、重量密度1.8gf/cm3以上であり、位置変化を検出できる変位検出手段及び該変位検出手段の測定データを無線送信する無線送信手段を備え、牛への経口投与により第一胃内に留置させる経口投与型の無線センサ端末と、前記無線センサ端末より送信された前記測定データを受信するとともに該受信データをデータ管理手段へ送信する中継手段と、前記中継手段より送信された前記測定データを処理するデータ処理手段と、を備え、前記測定データの変動を検知することによって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出システムをすべて包含する。以下、図1及び図2を用いて、その例を説明する。なお、本発明は、この実施形態のみに狭く限定されない。
【0019】
図1は、本発明に係る牛第一胃鼓脹症検出システムの全体構成の例を示す模式図である。
【0020】
図1の牛第一胃鼓脹症検出システムAは、牛個体Cの第一胃C1内に留置された無線センサ端末Bと、無線センサ端末Bの変位検出手段の測定データを処理するデータ処理手段Sと、を備えている。また、図1の牛第一胃鼓脹症検出システムAでは、前記無線センサ端末Bより送信された前記測定データを受信するとともに該受信データをデータ処理手段Sへ送信する中継手順Iを含む構成となっている。
【0021】
図1では、無線センサ端末Bの変位検出手段の測定データは、無線送信で中継手段Iに送信された後、中継手段Iからデータ処理手段Sへ送信される。
【0022】
中継手段Iは、無線センサ端末Bからデータ処理手段Sへの測定データの送信を中継する。中継手段Iの設置は任意であるが、例えば、中継手段Iを設置するとともに、中継手段Iを牛個体C(無線センサ端末B)の近傍に設置することにより、無線センサ端末Bから無線送信を行う際の電力消費を低減できるため、無線センサ端末Bを、牛第一胃C1内に留置させたまま長期間に亘って作動させることが可能になる。
【0023】
中継手段Iは公知のものを広く採用でき、特に限定されない。また、中継手段Iの設置場所は特に限定されないが、例えば、首輪など、牛個体C(の外表面)に取り付けるようにしてもよく、若しくは牛舎内の所定箇所に設置するようにしてもよい。その他、複数の無線センサ端末B、即ち、複数の牛個体Cから同時期に送信された測定データを一つの中継手段Iで中継する構成にしてもよい。
【0024】
データ処理手段Sは、無線センサ端末B内の変位検出手段の測定データを処理する部位である。データ処理手段Sとしては、サーバコンピュータ、パーソナルコンピュータ、タブレット型携帯端末など、公知のものを広く採用できる。データ処理手段Sでは、例えば、無線センサ端末Bより送信された測定データの受信、記憶、表示、出力、解析、データ管理などのうちのいずれか又は複数の処理を行う。
【0025】
中継手段Iとデータ処理手段Sとの間のデータの通信は、公知の方法を広く採用でき、無線及び有線のいずれで接続されている場合も広く包含され、また、インターネットなどのネットワークを介して接続されていてもよい。
【0026】
図2は本発明に係る無線センサ端末の内部構成の例を示す模式図である。
【0027】
図2の無線センサ端末Bでは、容器1内に電子基板が収容され、電子基板には、位置変化を検出できる変位検出手段2と、該変位検出手段2の測定データを直流に変換する変換回路3と、該測定データを外部に無線送信する無線送信手段4と、CPU5、記憶部6、電源部7が実装されている。
【0028】
無線センサ端末Bの外観形状は特に限定されないが、長手方向と短手方向を有する形状、例えば、略筒形状(本発明において、略円筒状、略多角筒状、略弾丸状、略卵形状、略楕円形状などを含む。)が、牛第一胃C1内での無線センサ端末Bの位置変化を確実に検出する上で好適である。また、この形状に形成することにより、経口投与による牛個体Cへの負荷を極力軽減できるという利点もある。
【0029】
無線センサ端末Bの大きさは特に限定されないが、無線センサ端末Bは経口投与により牛第一胃内に留置させるものであるため、牛個体Cに投与する際に過剰な負担をかけない程度の大きさがよい。例えば、略筒形状に形成されている場合、長さ(長手方向の最大径)が好適には50.0〜150.0mm、より好適には50.0〜120.0mm、さらに好適には50.0〜80.0mmに、幅(短手方向の最大径)が好適には15.0〜45.0mm、より好適には15.0〜35.0mm、さらに好適には15.0〜30.0mmに、それぞれ形成してもよい。
【0030】
無線センサ端末Bの重量密度を調整することにより、牛第一胃C1内における無線センサ端末Bの留置時間を調節することができる。例えば、無線センサ端末Bの重量密度を1.3gf/cm3に調整した場合、無線センサ端末Bは経口投与の約3日後に肛門より排出され、1.5gf/cm3に調整した場合、無線センサ端末Bは経口投与の約1カ月後に肛門より排出されるのに対し、1.8gf/cm3以上(例えば、1.8〜8.0gf/cm3)に調整した場合は、無線センサ端末Bは経口投与後長期間に亘って牛第一胃C1内に留置される。その他、無線センサ端末Bの重量を変化させることができる構造、例えば、牛個体Cの外部から着脱を調節できる錘部分を無線センサ端末Bに取り付けておき、加速度センサ2などに不具合があった場合にその錘部分を脱落させることで、無線センサ端末Bを牛個体Cの体外へ排出させることができる。
【0031】
容器1は、原則的には、変位検出手段2、その変位検出手段2の測定データを無線送信する無線送信手段3などが実装された電子基板を収容する部材であり、容器1内に電子基板が固定された状態で収容される。容器1は略密封され、牛第一胃C1内の内容物と容器1の内部とは原則的には完全に遮断される。これによって、無線センサ端末Bが第一胃内に留置される期間に亘って電子基板上の各部品を正常に動作させることができ、また、電子基板上の各部品の不具合や劣化を防止できる。
【0032】
容器1の材質については、第一胃内容物に長期間接しても耐えうる程度の耐劣化性能、及び、第一胃内運動などによる物理的圧力に対して一定期間以上形状を保持できる強度を有していればよく、公知のものを広く採用でき、限定されない。
【0033】
変位検出手段2は、無線センサ端末Bの位置変化を検出する部位である。本発明では、変位検出手段2の測定データを、牛第一胃C1内における無線センサ端末Bの位置変化を経時的に表す波形(時間ごとの変位を表す波形)として取得する。この測定データは、牛第一胃C1内の内容物の流動性、さらには第一胃収縮運動と相関する。
【0034】
変位検出手段2としては、第一胃内において無線センサ端末Bの位置変化を検出可能なものであればよく、公知のものを広く採用でき、特に限定されない。例えば、一軸(一方向)、二軸(XY軸の二方向)又は三軸(XYZ軸の三方向)の位置変化を検出可能な変位検出手段2を用いてもよい。変位検出手段2として、例えば、公知の加速度センサを用いることができる。また、第一胃内においては、無線センサ端末Bに特定の方向からの外力が加わった場合は、その強さに相関して無線センサ端末Bの位置変化が生じると推測されるため、例えば、無線センサ端末Bの外表面に、それぞれ検出面が複数の軸方向を向くように複数の圧電体を敷設し、各方向からの圧力の変化を検出できる構成にすることによっても、第一胃内における無線センサ端末Bの位置変化を検出することができる。その場合は、変異検出手段2のみ、容器1の外部に敷設されることになるが、変異検出手段2の端末を上記の電子基板に接続するとともに、変異検出手段2以外の部材を容器1内に略密閉することで、ほぼ同等の強度・耐久性を保持できる。
【0035】
変位検出手段2に加速度センサを採用する場合、加速度センサとしては、公知の小型の加速度センサ、例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical System)技術によって作成された加速度センサを広く採用できる。例えば、静電容量の変化、ピエゾ抵抗効果による電気抵抗の変化、歪ゲージ、圧電効果による電荷の変化のいずれかにより、センサ質量部分の変位を計測する加速度センサを広く採用できる。
【0036】
例えば、採用する前記変位検出手段2が、有機圧電薄膜で形成された圧電体を備え、圧電効果による電荷の変化により位置変化を検出する構造である場合、(1)駆動電力を必要とせず、原則的に待機電力をゼロにできるため、電池交換などをほとんど必要とせず、より長期間に亘って無線センサ端末Bを作動させることが可能となる、(2)ADコンバータを用いずに測定データをデジタル化できるため、実装部品の構成を簡略化でき、無線センサ端末Bをより小型化できる、(3)圧電素子に有機圧電薄膜を用いることにより、より強固な圧電体を形成でき、加速度測定時に大きな変形・応力・圧力を与えられても壊れないため、より高精度かつ高感度な位置変化の検知が可能となる、(4)位置変化測定時における大きな変形・応力・圧力に耐えられ、その圧力を電圧に変換することで発電量も大きくできるため、例えば、その電力を電源部7で蓄電することで、消費電力をより低減化できる、などの点において有利性がある。その他、例えば、変位検出手段2が、CMOSスイッチを内蔵する構成にすることにより、消費電力を更に大幅に低減できる。有機圧電薄膜としては、公知のもの、例えば、PVDF薄膜などを採用できる。
【0037】
本発明者らは、独自の検討の結果、略筒形状の無線センサ端末Bを牛第一胃C1内に留置させた場合、その無線センサ端末Bの長軸方向と略一致する軸方向における位置変化を経時的に表す波形が、第一胃収縮運動と同調することを新規に見出した。従って、例えば、前記測定データとして、前記無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向における位置変化を経時的に表す波形を取得し、該波形の変動を検知することによって牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する構成とすることで、高感度、高精度かつ確定的に同疾患の発症の有無を検出できる。
【0038】
その場合、一軸(一方向)のみの位置変化を検出可能な変位検出手段2によっても、無線センサ端末Bの長軸方向と略一致する軸方向における位置変化を検知できる。但し、二軸(XY軸の二方向)又は三軸(XYZ軸の三方向)の位置変化を検出可能な変位検出手段2を用いることで、牛個体Cの動作・移動や、牛第一胃C1内での無線センサ端末Bの移動・回転・向きなども検知できるため、それらを考慮した判定が可能となり、同疾患の発症有無の検出確度をより高めることができる。
【0039】
この変位検出手段2の測定データの評価は、例えば、一定時間内における波形のピークの大きさや回数、波形の変化量、一定時間内における測定データの積算値などに基づいて行うことができる。
【0040】
正常時(第一胃鼓脹症を発症していない時)には、無線センサ端末Bの長軸方向と略一致する軸方向の位置変化を表す波形が大きく変動し、ピークが現れる。この波形の変動は、牛個体Cの行動状態によって異なり、採食時に最も大きく、反芻時、休息時の順に低くなるが、いずれの行動状態の場合においても、波形の変動を検知できる。一方、第一胃鼓脹症発症時には、波形のピークが消失し、変動も小さくなる。そこで、例えば、測定データの波形が正常時の波形と異なる場合に、第一胃鼓脹症の発症の可能性があると判定するようにすることで、牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を早期に検出することができる。
【0041】
変位検出手段2が圧電効果による電荷の変化によりセンサ質量部分の変位を計測する構造である場合、例えば、CPU5において、加速度によって圧電素子に発生した出力電圧が予め設定された閾値を越えた回数をカウントし、予め設定した数値にそのカウント数が達した場合に、無線送信手段4にその旨若しくは測定データを送信する構成にしてもよい。この場合、データの送信頻度で、第一胃鼓脹症の発症の有無を判定する。この場合、イベントドリブン方式となるため、無線送信のために使用する電力を低減できるため、消費電力を更に大幅に低減できる。
【0042】
変換回路3は、変位検出手段2の測定データを直流に変換する部位であり、変位検出手段2の測定データを直流出力として得られない場合に配置する。その他、変位検出手段2の測定データがアナログである場合には、ADコンバータなどを、変位検出手段2の測定データが微弱である場合には、増幅器などを、それぞれ併せて配置してもよい。
【0043】
無線送信手段4は、変位検出手段2の測定データを牛個体Cの体外へ送信する部位である。無線送信手段4としては、公知のものを広く用いることができ、特に限定されない。無線送信手段4によるデータの送信頻度を多くすることで、測定データの正確性を増加させることができる一方、送信頻度を減らすことで、消費電力を低減でき、長期間に亘る測定が可能になる。
【0044】
電源部7は、無線センサ端末B内の電子部品の電力供給源である。電源部7としては、公知のものを広く用いることができ、特に限定されない。例えば、変位検出手段2が圧電体を用いて位置変化を検出する構造である場合、電源部7を、圧電体に負荷された圧力によって圧電素子に発生した出力電圧を蓄電できるものとすることにより、消費電力を更に大幅に低減できる。
【0045】
<本発明に係る牛第一胃鼓脹症検出方法>
本発明は、上記の牛第一胃鼓脹症検出システムによるものを含め、略筒形状で、重量密度1.8gf/cm3以上であり、位置変化を検出できる変位検出手段及び該変位検出手段の測定データを無線送信する無線送信手段を備えた無線センサ端末を経口投与により牛の第一胃内に留置させ、該牛個体の体外で前記変位検出手段の測定データを取得し、前記測定データの変動を検知することによって第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する牛の第一胃鼓脹症検出方法を全て包含する。
【0046】
この方法により、第一胃鼓脹症の発症の有無の監視を長期間に亘って日常的に行うことが可能となり、また、高感度、高精度かつ確定的に検出することが可能になる。
【0047】
上述の通り、例えば、前記測定データとして、前記無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向における位置変化を経時的に表す波形を取得し、該波形の変動を検知することによって牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を検出する構成とすることにより、高感度、高精度かつ確定的に同疾患の発症の有無を検出できる。
【0048】
この牛第一胃鼓脹症検出方法では、前記無線センサ端末より送信された前記測定データを受信するとともに該受信データをデータ処理手段へ送信する中継手順を含む構成にしてもよい。これにより、無線センサ端末から無線送信を行う際の電力消費を低減できるため、無線センサ端末を、牛第一胃内に留置させたまま長期間に亘って作動させることが可能になる。
【0049】
その他、前記変位検出手段が、有機圧電薄膜で形成された圧電体を備え、圧電効果による電荷の変化により位置変化を検出する構造である場合、消費電力をより低減化でき、より長期間に亘って無線センサ端末Bを作動させることが可能となる、より高精度かつ高感度な加速度の検知が可能となる、などの利点がある。
【実施例1】
【0050】
実施例1では、加速度センサによって、第一胃収縮運動を検出できるかどうかを調べた。
【0051】
本発明に係る無線センサ端末を試作した。電子基板上に、市販の三軸加速度センサ(商品名「CMA3000-D01」、Murata Electronics社製)、その測定データを送信する無線送信回路及びアンテナ、電池を実装し、その電子基板を、長さ80mm、直径35mmの円筒形の容器内に固定して収容した。また、実験室内に、無線センサ端末より送信された測定データを受信するとともにその受信データをコンピュータへ送信する中継器を準備し、測定データを記録・出力するコンピュータに接続した。そして、加速度センサの測定データを、コンピュータで記録した。
【0052】
Force transducer法は、外科手術により消化管などにForce transducerを直接縫着して消化管などの収縮運動を導出する方法で、消化管運動を導出する試験において、従来用いられている方法である。この方法を参照して、外科手術により、供試牛の第一胃にフィステルを形成するとともに、Force transducerを縫着し、測定を行った。その結果、Force transducerによって、第一胃収縮運動を記録することができた。
【0053】
次に、試作した無線センサ端末をフィステルより第一胃内に投入して留置させ、無線センサ端末による加速度の測定を行うとともに、Force transducerによる測定も同時に行った。
【0054】
結果を図3に示す。図3は、本発明に係る無線センサ端末による加速度の測定結果とForce transducerによる測定結果を重ね合わせたグラフである。図3中の横軸は時間の経過を(単位:min)、左側の縦軸は無線センサ端末による測定値(加速度、単位:unit(50 unit=9.8m/S2と設定した値、以下同じ))を、右側の縦軸はForce transducerによる測定値(収縮力、単位:g)を、それぞれ表わす。また、図1中の符号R1は無線センサ端末による加速度の経時的変化を表す波形であり、三軸加速度センサによる複数の軸方向の測定データのうち、無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向の加速度変化を表す波形である。符号T1はForce transducerによる測定値の経時的変化を表す波形である。図1中の丸で囲まれた部分(例えば、符号a)は、無線センサ端末による加速度の波形とForce transducerによる測定値の波形が同調している部分を表す。
【0055】
図3に示す通り、無線センサ端末による三軸の加速度の波形のうち、無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向の加速度変化を表す波形と、Force transducerによる測定値の波形は高度に同調して出現することが分かった。
【0056】
この結果は、加速度センサによる三軸の加速度の波形のうち、無線センサ端末の長軸方向と略一致する軸方向の加速度変化を表す波形が第一胃収縮運動に同調すること、即ち、牛の第一胃内に加速度センサを留置させることで、第一胃収縮運動を検知することができることを示す。
【実施例2】
【0057】
実施例2では、加速度センサによって、牛の第一胃鼓脹症の発症の有無を検出することができるかどうかを検証した。
【0058】
図4は、実施例1の供試牛の第一胃内に、実施例1で試作した無線センサ端末を留置させ、加速度の経時的変化を記録したグラフである。図4中の横軸は時間の経過を(単位:min)、左側の縦軸は無線センサ端末による測定値(加速度、単位:unit)を表す。また、同図中の符号R2は、無線センサ端末による加速度の経時的変化を表す波形である。図4に示す通り、測定時間の全体において概ね1分間に1〜3回程度のピークが検出された。
【0059】
一方、図5は、実施例1の供試牛の第一胃収縮運動を停止させて第一胃鼓脹症を再現させ、その第一胃内に、実施例1で試作した無線センサ端末を留置させ、加速度の経時的変化を記録したグラフである。図5中の横軸は時間の経過を(単位:min)、左側の縦軸は無線センサ端末による測定値(加速度、単位:unit)を表す。また、同図中の符号R3は、無線センサ端末による加速度の経時的変化を表す波形である。図5に示す通り、第一胃鼓脹症を再現させた場合、測定データの波形において、明瞭なピークが検出されなかった。
【0060】
この結果は、牛の第一胃内に加速度センサを留置させることで、第一胃鼓脹症の発症の有無を検出することができることを示す。
【実施例3】
【0061】
実施例3では、無線センサ端末の重量密度と、第一胃内における留置時間との関係を検討した。
【0062】
それぞれ、重量密度を1.3gf/cm3、1.5gf/cm3、2.0gf/cm3に調整した無線センサ端末を供試牛に経口投与した。
【0063】
その結果、無線センサ端末Bの重量密度を1.3gf/cm3に調整した場合、無線センサ端末は経口投与の約3日後に肛門より排出され、1.5gf/cm3に調整した場合、無線センサ端末Bは経口投与の37日後に肛門より排出された。一方、無線センサ端末の重量密度を2.0gf/cm3に調整した場合は、無線センサ端末は経口投与後長期間に亘って第一胃C1内に留置された。
【0064】
この結果より、無線センサ端末の重量密度を調整することにより、第一胃内における無線センサ端末の留置時間を調節できること、及び、無線センサ端末の重量密度を1.8gf/cm3以上に調整することで無線センサ端末を長期間に亘って第一胃内に留置させることができることが分かった。
【図面の簡単な説明】
【0065】
図1】本発明に係る牛の第一胃鼓脹症検出システムの全体構成の例を示す模式図。
図2】本発明に係る無線センサ端末の内部構成の例を示す模式図。
図3】実施例1において、本発明に係る無線センサ端末による加速度の測定結果とForce transducerによる測定結果を重ね合わせたグラフ。
図4】実施例2において、正常牛の第一胃内に無線センサ端末を留置させた場合における加速度の経時的変化を記録したグラフ。
図5】実施例2において、実験的に第一胃鼓脹症を発症させた牛の第一胃内に無線センサ端末を留置させた場合における加速度の経時的変化を記録したグラフ。
【符号の説明】
【0066】
1 容器
2 変位検出手段
3 変換回路
4 無線送信手段
5 CPU
6 記憶部
7 電源部
A 牛の第一胃鼓脹症検出システム
B 支持体
I 中継手段
S データ処理手段
図1
図2
図3
図4
図5