【課題を解決するための手段】
【0018】
上記課題を解決すべく、本発明者等は非塩素系イリジウム原料からシクロメタル化イリジウム錯体を一段階で製造する方法を開発するためのイリジウム原料を鋭意検討した。この検討の結果、本発明者等は非塩素系イリジウム原料として、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを適用することで上記課題を解決することができることを見出した。
【0019】
これまで、イリジウム化合物と芳香族複素環2座配位子との反応においては、反応系中の強酸の存在は忌避されるべきものと考えられていた。これは、イリジウム−炭素結合を形成する際に塩酸等の強酸が副生すると、シクロメタル化反応が阻害され、所望とするシクロメタル化イリジウム錯体の収率が大きく低下すると考えられてきたことによる。
【0020】
これに対して、本発明者らは、これまで用いられてこなかった強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを用いると、強酸存在下でもシクロメタル化イリジウム錯体を1段階で収率良く得られることを見出した。
【0021】
加えて、従来の非塩素系イリジウム原料である酢酸イリジウムを用いた場合よりも、有機EL素子用の燐光材料として好適なフェイシャル体のシクロメタル化イリジウム錯体を純度良く製造できることを見出し本発明に至った。
【0022】
以上は従来全く知られていない予想外の現象であり、本発明者らの、数多くの緻密な実験の積み重ねによって初めて見いだされた新規な知見である。そして、本発明者等は、この知見を基に上記課題を解決可能な本発明に想到した。
【0023】
即ち、本発明は、イリジウム化合物からなる原料と、イリジウム−炭素結合を形成しうる芳香族複素環2座配位子と、を反応させてシクロメタル化イリジウム錯体を製造する方法において、前記原料として強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを反応させることを特徴とするシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法である。
【0024】
以下、本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法について詳細に説明する。まず本発明で用いる強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムについて説明する。
【0025】
強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムとは、強酸の共役塩基を配位子として有するイリジウム化合物であって、ハロゲン化イリジウムではないイリジウム化合物である。ここで、本発明で除外されるハロゲン化イリジウムとしては、特開2015−189687号、特開2014−005223号、特開2007−091718号、特表2014−505041号、特表2007−513159号等に記載されたイリジウム化合物がある。具体的なハロゲン化イリジウムとしては、塩化イリジウム(III)、臭化イリジウム(III)、ヨウ化イリジウム(III)、塩化イリジウム(IV)酸、臭化イリジウム(IV)酸、ヨウ化イリジウム(IV)酸、および、これらの塩(アンモニウム塩、カリウム塩、ナトリウム塩など)や水和物が挙げられる。
【0026】
強酸としては、pKaが3以下の酸であり、pKaが2以下の酸であることが好ましく、pKaが1以下の酸であることがより好ましい。このような酸としては、例えば、硝酸、硫酸、トリフルオロ酢酸、アリールスルホン酸(p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸等)、パーフルオロアルキルスルホン酸、(トリフルオロメタンスルホン酸、ノナフルオロブタンスルホン酸等)、アルキルスルホン酸(メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ブタンスルホン酸等)が挙げられる。その中でも、硝酸又は硫酸が好ましく、硝酸がより好ましい。
【0027】
そして、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムは、具体的には硝酸イリジウム、硫酸イリジウム、トリフルオロ酢酸イリジウム、p−トルエンスルホン酸イリジウム、ベンゼンスルホン酸イリジウム、トリフルオロメタンスルホン酸イリジウム、ノナフルオロブタンスルホン酸イリジウム、メタンスルホン酸イリジウム、エタンスルホン酸イリジウム、ブタンスルホン酸イリジウムであり、硝酸イリジウム又は硫酸イリジウムが好ましく、硝酸イリジウムがより好ましい。
【0028】
強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウム中のイリジウムの価数は3価又は4価が好ましく、4価がより好ましい。また3価と4価の混合物でも良い。
【0029】
本発明で好適に使用できる硝酸イリジウムは、Ir(NO
3)
3、Ir(NO
3)
4で表される硝酸イリジウムが挙げられ、これらのいずれか、或いは、これらの混合物が適用できる。また、[Ir(NO
3)
2(OH)
2]、[Ir(NO
3)
2(OH)
2]、[Ir(NO
3)
2(H
2O)
2]
+、[Ir(NO
3)
2(H
2O)
2]
2+で表される水酸化物イオンや水を配位子として有するイリジウム化合物が含まれていても良い。更に、[(NO
3)
2Ir(OH)
2Ir(NO
3)
2]等で表される水酸化物イオン配位子で架橋した複核イリジウム化合物が含まれていても良い。硝酸イリジウムの製造方法として好ましい方法としては、例えば、特開2001−106536号に記載の水酸化イリジウムを経由する方法が挙げられる。
【0030】
また、本発明で好適に使用される硫酸イリジウムの構造例としては、Ir
2(SO
4)
3、又は、Ir(SO
4)
2等がある。
【0031】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法に用いられる、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムは、固体の状態で使用することができる。固体の状態としては、特に限定されるものではなく、例えば、塊状、小片状、粒状等が挙げられる。また、固体の場合は、当該非ハロゲン化イリジウムに結晶水や結晶溶媒が含まれていても良い。
【0032】
また、本発明で用いられる強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムは、水やアルコール等の溶媒に溶解又は分散していても良い。その場合の溶媒としては、水が特に好ましく、水に溶解又は分散していることがより好ましい。
【0033】
特に、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを水溶液として用いるとき、この水溶液はpH0〜3の強酸性溶液であることが好ましい。pHが3を超えると、時間の経過とともに徐々に沈殿(IrO
2・nH
2O)を生じるおそれがあるからである。強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを含む溶液のpHについては、製造する燐光材料の特性に応じて適宜、塩基(水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸水素ナトリウム等)を添加することで、調整することも好ましい。
【0034】
また、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを含む溶液のイリジウム濃度は、0.01〜99.9wt%が好ましく、0.1〜90wt%がより好ましく、1〜70wt%が特に好ましく、5〜50wt%がより特に好ましい。
【0035】
強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムに含まれる残留ハロゲン濃度は、1000ppm以下が好ましく、100ppm以下がより好ましく、10ppm以下が特に好ましい。
【0036】
次に、本発明でイリジウム化合物原料と反応させる、芳香族複素環2座配位子について説明する。本発明に用いる芳香族複素環2座配位子としては、イリジウム−炭素結合を形成できる芳香族複素環2座配位子である。芳香族複素環2座配位子は、1つのイリジウム−窒素結合と1つのイリジウム−炭素結合とを形成する芳香族複素環2座配位子、又は、2つのイリジウム−炭素結合を形成する芳香族複素環2座配位子が好ましく、1つのイリジウム−窒素結合と1つのイリジウム−炭素結合とを形成する芳香族複素環2座配位子がより好ましい。
【0037】
芳香族複素環2座配位子は、具体的には一般式(1)で表される芳香族複素環2座配位子である。そして、本発明は、上記説明した強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと、一般式(1)で表わされる芳香族複素環2座配位子とを反応させて、一般式(2)で表わされるシクロメタル化イリジウム錯体を製造することができる。
【0038】
【化6】
【0039】
【化7】
(一般式(1)及び一般式(2)中、Nは窒素原子を表す。Cは炭素原子を表す。Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、5員環又は6員環を形成するに必要な非金属原子群を表す。形成される環はさらに別の環と縮合環を形成しても良い。L
1は単結合又は2価の基を表す。Y
1はそれぞれ窒素原子又は炭素原子を表す。Y
1が窒素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1とが単結合で結合していることを表す。Y
1が炭素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1とが2重結合で結合していることを表す。)
【0040】
また、本発明は、上記説明した強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと、上記の一般式(1)で表わされる芳香族複素環2座配位子と、一般式(3)で表わされる芳香族複素環2座配位子とを反応させて、一般式(4)で表わされるシクロメタル化イリジウム錯体を製造することができる。
【0041】
【化8】
【0042】
【化9】
(一般式(3)及び一般式(4)中、Nは窒素原子を表す。Cは炭素原子を表す。Z
1及びZ
2は、それぞれ独立に、5員環又は6員環を形成するに必要な非金属原子群を表す。形成される環はさらに別の環と縮合環を形成しても良い。L
1は単結合又は2価の基を表す。Y
1はそれぞれ窒素原子又は炭素原子を表す。Y
1が窒素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1とが単結合で結合していることを表す。Y
1が炭素原子の時は、Q
1は炭素原子とY
1とが2重結合で結合していることを表す。Z
3及びZ
4は、それぞれ独立に、5員環又は6員環を形成するに必要な非金属原子群を表す。形成される環はさらに別の環と縮合環を形成しても良い。L
2は単結合又は2価の基を表す。Y
2はそれぞれ窒素原子又は炭素原子を表す。Y
2が窒素原子の時は、Q
2は炭素原子とY
2とが単結合で結合していることを表す。Y
2が炭素原子の時は、Q
2は炭素原子とY
2とが2重結合で結合していることを表す。また、一般式(1)で表わされる芳香族複素環2座配位子と、一般式(3)で表わされる芳香族複素環2座配位子は同一ではない。m=1又は2であり、n=1又は2である。ただし、m+n=3である。)
【0043】
本発明で用いられる芳香族複素環2座配位子の具体的な構造としては、例えば、以下の構造例1〜3で示す構造を有するものが挙げられる。また、一般式(5)〜(12)で表されるものが挙げられる。これら一般式(5)〜(12)で示す構造を有する芳香族複素環2座配位子は、好ましいものであり、これらの中でも一般式(5)、(7)、(10)、又は、(11)で示す構造を有するものがより好ましく、一般式(5)、(7)、又は、(10)で示す構造を有するものが特に好ましい。尚、構造例1〜3、及び、一般式(5)〜(12)中の*は、イリジウムとの結合部位である。
【0044】
【化10】
【0045】
【化11】
【0046】
【化12】
【0047】
【化13】
【0048】
【化14】
【0049】
【化15】
【0050】
【化16】
【0051】
【化17】
【0052】
【化18】
【0053】
【化19】
【0054】
【化20】
【0055】
構造例1〜3、及び、一般式(5)〜(12)において、R及びR
1〜R
73は、水素原子又は置換基である。置換基としては、例えば、以下の置換基が挙げられる。
【0056】
・アルキル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメチル、エチル、Iso−プロピル、tert−ブチル、n−オクチル、n−デシル、n−ヘキサデシル、シクロプロピル、シクロペンチル、シクロヘキシル等が挙げられる。)
・アルケニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばビニル、アリル、2−ブテニル、3−ペンテニル等が挙げられる。)
・アルキニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばプロパルギル、3−ペンチニル等が挙げられる。)
・アリール基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニル、p−メチルフェニル、ナフチル、アントラニル等が挙げられる。)
・アミノ基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜10であり、例えばアミノ、メチルアミノ、ジメチルアミノ、ジエチルアミノ、ジベンジルアミノ、ジフェニルアミノ、ジトリルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜10であり、例えばメトキシ、エトキシ、ブトキシ、2−エチルヘキシロキシ等が挙げられる。)
・アリールオキシ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルオキシ、1−ナフチルオキシ、2−ナフチルオキシ等が挙げられる。)
・ヘテロ環オキシ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルオキシ、ピラジルオキシ、ピリミジルオキシ、キノリルオキシ等が挙げられる。)
・アシル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばアセチル、ベンゾイル、ホルミル、ピバロイル等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニル基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニル、エトキシカルボニル等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニル基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニル等が挙げられる。)
・アシルオキシ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセトキシ、ベンゾイルオキシ等が挙げられる。)
・アシルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜10であり、例えばアセチルアミノ、ベンゾイルアミノ等が挙げられる。)
・アルコキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数2〜30、より好ましくは炭素数2〜20、特に好ましくは炭素数2〜12であり、例えばメトキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・アリールオキシカルボニルアミノ基(好ましくは炭素数7〜30、より好ましくは炭素数7〜20、特に好ましくは炭素数7〜12であり、例えばフェニルオキシカルボニルアミノ等が挙げられる。)
・スルホニルアミノ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルホニルアミノ、ベンゼンスルホニルアミノ等が挙げられる。)
・スルファモイル基(好ましくは炭素数0〜30、より好ましくは炭素数0〜20、特に好ましくは炭素数0〜12であり、例えばスルファモイル、メチルスルファモイル、ジメチルスルファモイル、フェニルスルファモイル等が挙げられる。)
・カルバモイル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばカルバモイル、メチルカルバモイル、ジエチルカルバモイル、フェニルカルバモイル等が挙げられる。)
・アルキルチオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメチルチオ、エチルチオ等が挙げられる。)
・アリールチオ基(好ましくは炭素数6〜30、より好ましくは炭素数6〜20、特に好ましくは炭素数6〜12であり、例えばフェニルチオ等が挙げられる。)
・ヘテロ環チオ基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばピリジルチオ、2−ベンズイミゾリルチオ、2−ベンズオキサゾリルチオ、2−ベンズチアゾリルチオ等が挙げられる。)
・スルホニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメシル、トシル等が挙げられる。)
・スルフィニル基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばメタンスルフィニル、ベンゼンスルフィニル等が挙げられる。)
・ウレイド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばウレイド、メチルウレイド、フェニルウレイド等が挙げられる。)
・リン酸アミド基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜12であり、例えばジエチルリン酸アミド、フェニルリン酸アミド等が挙げられる。)
・ヒドロキシ基、メルカプト基、ハロゲン原子(例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子)、シアノ基、スルホ基、カルボキシル基、ニトロ基、トリフルオロメチル基、ヒドロキサム酸基、スルフィノ基、ヒドラジノ基、イミノ基、複素環基(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜12であり、ヘテロ原子としては、例えば窒素原子、酸素原子、硫黄原子、具体的にはイミダゾリル、ピリジル、キノリル、フリル、チエニル、ピペリジル、モルホリノ、ベンズオキサゾリル、ベンズイミダゾリル、ベンズチアゾリル、カルバゾリル基、アゼピニル基等が挙げられる。)
・シリル基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリル、トリフェニルシリル等が挙げられる。)
・シリルオキシ基(好ましくは炭素数3〜40、より好ましくは炭素数3〜30、特に好ましくは炭素数3〜24であり、例えばトリメチルシリルオキシ、トリフェニルシリルオキシ等が挙げられる。)
【0057】
以上の置換基の中で、より好ましくは、アルキル基、アリール基、アミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、又は複素環基であり、特に好ましくは、アルキル基、アリール基、ハロゲン原子、シアノ基、トリフルオロメチル基、又は複素環基であり、より特に好ましくは、アルキル基、アリール基、又は、ハロゲン原子である。これらの置換基として望ましい範囲は前記の通りであり、前述のR、及びR
1〜R
73で定義される置換基でさらに置換されていてもよい。
【0058】
芳香族複素環2座配位子について、上記構造式に基づき具体的に説明すると以下の配位子が挙げられる。即ち、2−フェニルピリジン誘導体、2−フェニルキノリン誘導体、1−フェニルイソキノリン誘導体、3−フェニルイソキノリン誘導体、2−(2−ベンゾチオフェニル)ピリジン誘導体、2−チエニルピリジン誘導体、1−フェニルピラゾール誘導体、1−フェニル−1H−インダゾール誘導体、2−フェニルベンゾチアゾール誘導体、2−フェニルチアゾール誘導体、2−フェニルベンゾオキサゾール誘導体、2−フェニルオキサゾール誘導体、2−フラニルピリジン誘導体、2−(2−ベンゾフラニル)ピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、7,8−ベンゾキノキサリン誘導体、ジベンゾ[f,h]キノリン誘導体、ジベンゾ[f,h]キノキサリン誘導体、ベンゾ[h]−5,6−ジヒドロキノリン誘導体、9−(2−ピリジル)カルバゾール誘導体、1−(2−ピリジル)インドール誘導体、1−(1−ナフチル)イソキノリン誘導体、1−(2−ナフチル)イソキノリン誘導体、2−(2−ナフチル)キノリン誘導体、2−(1−ナフチル)キノリン誘導体、3−(1−ナフチル)イソキノリン誘導体、3−(2−ナフチル)イソキノリン誘導体、2−(1−ナフチル)ピリジン誘導体、2−(2−ナフチル)ピリジン誘導体、6−フェニルフェナントリジン誘導体、6−(1−ナフチル)フェナントリジン誘導体、6−(2−ナフチル)フェナントリジン誘導体、ベンゾ[c]アクリジン誘導体、ベンゾ[c]フェナジン誘導体、ジベンゾ[a,c]アクリジン誘導体、ジベンゾ[a,c]フェナジン誘導体、2−フェニルキノキサリン誘導体、2,3−ジフェニルキノキサリン誘導体、2−ベンジルピリジン誘導体、2−フェニルベンゾイミダゾール誘導体、3−フェニルピラゾール誘導体、4−フェニルイミダゾール誘導体、2−フェニルイミダゾール誘導体、1−フェニルイミダゾール誘導体、4−フェニルトリアゾール誘導体、5−フェニルテトラゾール誘導体、2−アルケニルピリジン誘導体、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール誘導体、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン誘導体、1−フェニルベンズイミダゾリウム塩誘導体、又は、1−フェニルイミダゾリウム塩誘導体が好ましい。
【0059】
芳香族複素環2座配位子としては、上記のうち、2−フェニルピリジン誘導体、2−フェニルキノリン誘導体、1−フェニルイソキノリン誘導体、3−フェニルイソキノリン誘導体、1−フェニルピラゾール誘導体、7,8−ベンゾキノリン誘導体、7,8−ベンゾキノキサリン誘導体、ジベンゾ[f,h]キノリン誘導体、ジベンゾ[f,h]キノキサリン誘導体、ベンゾ[h]−5,6−ジヒドロキノリン誘導体、6−フェニルフェナントリジン誘導体、2−フェニルキノキサリン誘導体、2,3−ジフェニルキノキサリン誘導体、2−フェニルベンゾイミダゾール誘導体、3−フェニルピラゾール誘導体、4−フェニルイミダゾール誘導体、2−フェニルイミダゾール誘導体、1−フェニルイミダゾール誘導体、4−フェニルトリアゾール誘導体、5−フェニルテトラゾール誘導体、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール誘導体、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン誘導体、1−フェニルベンズイミダゾリウム塩誘導体、又は、1−フェニルイミダゾリウム塩誘導体がより好ましい。また、2−フェニルピリジン誘導体、7,8−ベンゾキノキサリン誘導体、1−フェニルイソキノリン誘導体、1−フェニルピラゾール誘導体、2−フェニルイミダゾ−ル誘導体、5−フェニル−1,2,4−トリアゾール誘導体、又は、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン誘導体が特に好ましく、2−フェニルピリジン誘導体、1−フェニルイソキノリン誘導体、2−フェニルイミダゾ−ル誘導体、又は、イミダゾ[1,2−f]フェナントリジン誘導体がより特に好ましい。
【0060】
そして、本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法では、上記で説明した強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと、前述の芳香族複素環2座配位子とを反応させることで行われる。
【0061】
上記反応は、空気又は不活性ガス(窒素、アルゴン等)雰囲気下で行うことができ、不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0062】
また、本発明においては、上記反応を更に円滑に進めるため、合成反応の反応系に溶媒を添加してもよい。
【0063】
反応系に添加する溶媒としては、飽和脂肪族炭化水素、ハロゲン化脂肪族炭化水素、ケトン類、アミド類、エステル類、芳香族炭化水素、ハロゲン化芳香族炭化水素、含窒素芳香族化合物、エーテル類、ニトリル類、アルコール類、イオン性液体等、種々の有機溶媒が挙げられ、アルコール類(好ましくは炭素数1〜30、より好ましくは炭素数1〜20、特に好ましくは炭素数1〜30)がより好ましい。具体的には、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、2−メトキシエタノール、2−エトキシエタノール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール等が挙げられる。その中でも、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオールが好ましい。また、以上の溶媒を2種以上含む混合溶媒を用いることも好ましい。
【0064】
上記溶媒としては、常圧における沸点が、100℃〜400℃のものが好ましく、150℃〜350℃のものがより好ましく、180℃〜300℃のものが特に好ましい。
【0065】
シクロメタル化イリジウム錯体の製造において、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムの反応系内の濃度は特に制限されるものではないが、0.001モル/L〜10.0モル/Lが好ましく、0.001モル/L〜1.0モル/Lがより好ましく、0.01モル/L〜1.0モル/Lが特に好ましく、0.05モル/L〜0.5モル/Lが最も好ましい。
【0066】
シクロメタル化イリジウム錯体の製造において、反応温度は100℃〜300℃が好ましく、150℃〜250℃がより好ましく、160℃〜220℃が特に好ましく、170℃〜200℃が特に好ましい。本発明では、200℃以下の低温条件であってもシクロメタル化イリジウム錯体の合成が可能である。
【0067】
シクロメタル化イリジウム錯体の製造において、反応時間は1〜100時間が好ましく、3〜80時間がより好ましく、5〜50時間が特に好ましい。
【0068】
シクロメタル化イリジウム錯体の製造において、加熱手段は特に限定されない。具体的には、オイルバス、サンドバス、マントルヒーター、ブロックヒーター、熱循環式ジャケットによる外部加熱、さらにはマイクロ波照射による加熱等を利用できる。
【0069】
シクロメタル化イリジウム錯体の合成は、通常、常圧で行われるが、必要に応じ加圧下、又は、減圧下で行ってもよい。
【0070】
シクロメタル化イリジウム錯体の合成において、芳香族複素環2座配位子の使用量は特に制限はないが、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムに対し、3〜100倍モルが好ましく、3〜50倍モルがより好ましく、3〜30倍モルが特に好ましく、3〜10倍モルが最も好ましい。
【0071】
以上説明した合成方法により得られたシクロメタル化イリジウム錯体は、一般的な後処理方法で処理した後、必要があれば精製し、又は、精製せずに高純度品として用いることができる。後処理の方法としては、例えば、抽出、冷却、水や有機溶媒を添加することによる晶析、反応混合物からの溶媒を留去する操作等を、単独又は組み合わせて行うことができる。精製の方法としては、再結晶、蒸留、昇華又はカラムクロマトグラフィー等を、単独又は組み合わせて行うことができる。
【0072】
本発明に係るシクロメタル化イリジウム錯体の製造方法は、ビスシクロメタル化イリジウム錯体、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造に好適である。特に、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造に好適である。これらのシクロメタル化イリジウム錯体の具体例としては、特開2007−224025号公報、特開2006−290891号公報、特開2006−213723号公報、特開2006−111623号公報、特開2006−104201号公報、特開2006−063080号公報、特表2009−541431号公報、特表2009−526071号公報、特表2008−505076号公報、特表2007−513159号公報、特表2007−513158号公報、特表2002−540572号公報、特表2009−544167号公報、特表2009−522228号公報、特表2008−514005号公報、特表2008−504342号公報、特表2007−504272号公報、特表2006−523231号公報、特表2005−516040号公報、国際公開第2010/086089号パンフレット等に記載がある。
【0073】
また、トリスシクロメタル化イリジウム錯体は、3つのシクロメタル化配位子が同一のものであるホモレプティックイリジウム錯体(例えば、一般式(2)の化合物)と、3つのシクロメタル化配位子に異なったものを含むヘテロレプティックイリジウム錯体(例えば、一般式(4)の化合物)とに分類できる。本発明は、トリスシクロメタル化イリジウム錯体として、ホモレプティックイリジウム錯体とヘテロレプティックイリジウム錯体のいずれも製造可能である。ホモレプティックイリジウム錯体を製造するために同一の芳香族複素環2座配位子を導入する場合は、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと単一の芳香族複素環2座配位子を反応させることでイリジウム錯体を得ることができる。一方、ヘテロレプティックイリジウム錯体を製造するために異なった芳香族複素環2座配位子を導入する場合は、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと複数種の芳香族複素環2座配位子を反応させれば良く、又は、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと芳香族複素環2座配位子を反応させ、引き続き、異なった芳香族複素環2座配位子と反応させることで所望のイリジウム錯体を得ることができる。尚、本発明では、ホモレプティックイリジウム錯体とヘテロレプティックイリジウム錯体を同時に生成した場合、カラムクロマトグラフィー等を用いて分離精製し、それぞれ単離することも可能である。
【0074】
また、本発明は、ビスシクロメタル化イリジウム錯体の製造にも有用であり、この場合は、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムと芳香族複素環2座配位子を反応させ、引き続き、補助配位子(βジケトン配位子、ピコリン酸配位子等)と反応させることでイリジウム錯体を得ることができる。
【0075】
本発明の方法で製造可能なシクロメタル化イリジウム錯体の例を以下に示す。
【化21】
【0076】
【化22】
【0077】
【化23】
【0078】
上記の通り、本発明は、トリスシクロメタル化イリジウム錯体の製造に特に有用である。ここで、トリスシクロメタル化イリジウム錯体は、イリジウム金属を中心として3つのβ−ジケトン配位子が八面体型に配置した立体構造を有する。この立体構造により、トリスシクロメタル化イリジウム錯体には、フェイシャル体とメリジオナル体の2種の幾何異性体が存在する。フェイシャル体とメリジオナル体については、6配位8面体型錯体の異性体の命名法であり、有機金属化学−基礎と応用―山本明夫著(裳華房)143頁に記載がある。
【0079】
そして、上記したように、発光効率が高く発光材料として望ましいのはフェイシャル体である。本発明では、強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを用いることにより、フェイシャル体のトリスシクロメタル化イリジウム錯体を効率良く製造できる。その理由は未だ明らかではないが、現時点で発明者は以下のように考えている。
【0080】
即ち、フェイシャル体のシクロメタル化イリジウム錯体は、メリジオナル体より熱力学的に有利で高温反応で生成し易い。一方、メリジオナル体のシクロメタル化イリジウム錯体は、速度論的に有利で低温反応で生成しやすいことが知られている。上記したイリジウム原料として酢酸イリジウムを用いる従来技術においは、酢酸配位子が低温で脱離しやすいために、速度論的に有利なメリジオナル体が生成しやすいと考えられる。一方、本発明のように強酸の共役塩基を配位子として有する非ハロゲン化イリジウムを用いた場合、硝酸等の強酸の効果により、速度論的に有利なメリジオナル体の生成が抑制されると考えられる。そして、このメリジオナル体の生成抑制に伴い、フェイシャル体の生成が促進されると考えている。
【0081】
尚、シクロメタル化イリジウム錯体中の幾何異性体の同定は、
1H−NMR等各種機器分析により行うことができる。フェイシャル体とメリジオナル体の各含有率は、
1H−NMR、又は高速液体クロマトグラフィー等を用いて定量できる。
【0082】
但し、本発明は、トリスシクロメタル化イリジウム錯体やビスシクロメタル化イリジウム錯体の製造に限定されることはない。本発明は、フェイシャル体のトリスシクロメタル化イリジウム錯体を効率良く製造できるというメリットがあるが、それ以外に比較的低温条件下でハロゲン残留のないシクロメタル化イリジウム錯体の製造を可能とするというメリットもある。これらのメリットはトリスシクロメタル化イリジウム錯体以外のシクロメタル化イリジウム錯体の製造でも享受できるからである。