【実施例】
【0153】
<予備実験>
密閉系内において、助触媒源が溶解した溶液のみで光半導体を存在させないものをマイクロ波で加熱した場合と当該溶液と光半導体粒子とをマイクロ波で加熱した場合について、それぞれ助触媒粒子の析出の有無を確認した。
【0154】
(光半導体粒子を存在させない場合)
Co(NO
3)
2(29mg、0.1N)をエチレングリコール(3ml)に溶解させて溶液とし、当該溶液に対して密閉系内でマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射して250℃に昇温させて、15分間加熱した。しかしながら、加熱の前後で溶液の見た目に変化はなく、助触媒粒子の析出は認められなかった。
【0155】
(光半導体粒子を存在させる場合)
上記した溶液に光半導体としてBiVO
4を100mg投入し、上記と同様にしてマイクロ波を照射したうえで、濾過及び洗浄をして固形分を得た。加熱処理前においては黄色であったBiVO
4は、加熱処理後においては黒く変色しており、BiVO
4の表面に助触媒としてCoO、Co
2O
3、又はこれらの混合物(以下、CoO
xという。)を担持することができた。
【0156】
以上の予備実験の結果を踏まえて、マイクロ波による加熱を利用して、液中にて、複数種類の異なる光半導体を助触媒とともにコンポジット化して複合光触媒を得て、水分解活性を評価した。
【0157】
1.第1の本発明に関して
1.1.TaON:LaTiO
2N複合光触媒
<実施例1−1、1−2、1−3>
(TaON:LaTiO
2N複合光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、複数種類の光半導体として、TaON粒子(粒度分布数μm)とLaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)とを下記表1に示す所定の質量比にて合計150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、TaON:LaTiO
2N複合粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された複合光触媒を得た。
【0158】
(光水分解反応用電極の作製)
図8に示すような方法で、光水分解反応用電極を作製した。すなわち、得られた複合光触媒(30mg)を1mLの2−プロパノールに懸濁させ、この懸濁液200μLを第1のガラス基材(ソーダライムガラス30×30mm)上に滴下、乾燥を3回繰り返して光触媒層を形成した。次に、接触層となるNbをスパッタ法により積層した。装置はULVAC VPC−260Fを使用し、数百nm程度積層した。次に、集電導体層となるTiをスパッタ法により数μm程度積層した。その後、エポキシ樹脂を用いて集電導体層に第2のガラス基材(ソーダライムガラス;図示せず)を接着した。最後に第1のガラス基材を除去し、純水中で10分間超音波洗浄することで、複合光触媒層/接触層/集電層を備えた光水分解反応用電極を得た。
【0159】
(性能評価)
得られた光水分解反応用電極を用いて、以下の測定条件によって、電解液の分解を行った。測定電位0.7V、1.0V、及び1.2Vにおける光電流密度を評価の指標とした。結果を以下の表1に示す。
【0160】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液NaOH、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.1V、E
1=0.3V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0161】
<実施例1−4>
(TaON/CoO
x光触媒粒子の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、TaON粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、TaON粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子(以下、光触媒粒子(A)という。)を得た。
【0162】
(LaTiO
2N/CoO
x光触媒粒子の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、LaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、198℃まで昇温させたうえで、30分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、LaTiO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子(以下、光触媒粒子(B)という。)を得た。
【0163】
(TaON:LaTiO
2N複合光触媒の作製)
エチレングリコール中に、光触媒粒子(A)及び光触媒粒子(B)を表1に示す所定の質量比で投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、光触媒粒子(A)と光触媒粒子(B)とがコンポジット化された複合光触媒を得た。
【0164】
(光水分解反応用電極の作製及び性能評価)
TaON:LaTiO
2N複合光触媒として実施例1−4に係る複合光触媒を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0165】
<実施例1−5>
(TaON:LaTiO
2N複合半導体の作製)
エチレングリコール中に、TaON粒子(粒度分布数μm)とLaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)とを下記表1に示す所定の質量比にて投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、TaON:LaTiO
2N複合半導体を得た。
【0166】
(TaON:LaTiO
2N複合光触媒の作製)
複数種類の光半導体として上記TaON:LaTiO
2N複合半導体を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、マイクロ波照射によりTaON:LaTiO
2N複合光触媒を得た。
【0167】
(光水分解反応用電極の作製及び性能評価)
TaON:LaTiO
2N複合光触媒として実施例1−5に係る複合光触媒を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0168】
<実施例1−6>
(TaON/CoO
x光触媒粒子の作製)
水0.2mL中に、助触媒源としてCo(NO
3)
2を0.17mM溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、0.3mLの水に分散させたTaON粒子(粒度分布数μm)100mgを投入し、さらに水を0.3mL加えた。超音波を1分かけた後、水を除去し、得られた粉末をアンモニア50mL/min気流下、600℃で一時間加熱することにより、CoO
xが担持されたTaON光触媒粒子(光触媒粒子(C))を得た。
【0169】
(LaTiO
2N/CoO
x光触媒粒子の作製)
水0.2mL中に、助触媒源としてCo(NO
3)
2を0.17mM溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、0.3mLの水に分散させたLaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)100mgを投入し、さらに水を0.3mL加えた。超音波を1分かけた後、水を除去し、得られた粉末をアンモニア50mL/min気流下、600℃で一時間加熱することにより、CoO
xが担持されたLaTiO
2N光触媒粒子(光触媒粒子(D))を得た。
【0170】
(TaON:LaTiO
2N複合光触媒の作製)
複数種類の光半導体として上記光触媒粒子(C)と光触媒粒子(D)を用いた以外は実施例1−4と同様にして、マイクロ波照射により光触媒粒子(C)と光触媒粒子(D)とがコンポジット化された複合光触媒を得た。
【0171】
(光水分解反応用電極の作製及び性能評価)
TaON:LaTiO
2N複合光触媒として実施例1−6に係る複合光触媒を用いたこと以外は実施例1−4と同様にして、光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0172】
<比較例1−1>
(TaON:LaTiO
2N光触媒混合物の作製)
実施例1−4に係る光触媒粒子(A)及び光触媒粒子(B)を、下記表1に示す所定の質量比にて混合して光触媒混合物を得た。
【0173】
(光水分解反応用電極の作製及び性能評価)
TaON:LaTiO
2N複合光触媒に替えて当該光触媒混合物を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0174】
<比較例1−2:含浸担持>
(TaON:LaTiO
2N複合光触媒の作製)
下記表1に示す質量比にてTaON粒子及びLaTiO
2N粒子を混合し、当該混合物合計0.1gに水300μLを加えた後、10mMのCo(NO
3)
2を加え、2質量%の溶液とした後、超音波を1分照射し、溶媒を減圧留去した。得られた粉末をアンモニア(200mL/min)気流下、500℃で1時間焼成することにより、TaON:LaTiO
2N複合光半導体の表面に助触媒としてCoOxが担持されたTaON:LaTiO
2N複合光触媒を得た。
【0175】
(光水分解反応用電極の作製及び性能評価)
TaON:LaTiO
2N複合光触媒として比較例1−2に係る複合光触媒を用いたこと以外は実施例1−1と同様にして、光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0176】
<参考例1−1>
TaON:LaTiO
2N複合光触媒に替えてTaON粒子を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。
【0177】
<参考例1−2>
TaON:LaTiO
2N複合光触媒に替えてLaTiO
2N粒子を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表1に示す。なお、表中のLTONはLaTiO
2Nの略号である。
【0178】
【表1】
【0179】
1.2.BiVO
4:LaTiO
2N複合光触媒
<実施例1−7>
TaONの代わりにBiVO
4を用いた以外は実施例1−1と同様に実験を行った。結果を以下の表2に示す。
【0180】
<参考例1−3>
TaON:LaTiO
2N複合光触媒に替えてBiVO
4粒子を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表2に示す。
【0181】
【表2】
【0182】
1.3.TaON:BaTaO
2N複合光触媒
<実施例1−8>
LaTiO
2Nの代わりにBaTaO
2Nを用いた以外は実施例1−1と同様に実験を行った。結果を以下の表3に示す。
【0183】
<参考例1−4>
TaON:LaTiO
2N複合光触媒に替えてBaTaO
2N粒子を用いたこと以外は、実施例1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、同様の評価基準にて性能を評価した。結果を以下の表3に示す。
【0184】
【表3】
【0185】
(TEM、STEM−EDSによる評価)
実施例1−1、比較例1−1、1−2に係る複合光触媒について、TEM、STEM−EDSにより表面性状を評価した。結果を
図9〜11に示す。
なお、
図9(a)はTEM観察画像、
図9(b)は
図9(a)の一部を拡大した拡大画像、
図9(c)は
図9(a)と同一視野におけるCoの元素EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)マッピングの画像、
図9(d)は
図9(b)と同一視野におけるCoの元素EDSマッピングの画像である。
図9、10から明らかなように、実施例1−1に係る複合光触媒については、TaON粒子とLaTiO
2N粒子との合間にも存在し、また、複合光触媒表面を被覆するようにも存在していた。すなわち、実施例1−1に係る複合光触媒は、助触媒が、複数種類の光半導体の表面に存在するとともに、複数種類の光半導体の接合面に介在または光半導体を被覆した状態で存在することが分かった。さらに、実施例1−1に係る複合光触媒においては助触媒部分にも結晶格子が観察された。
一方、
図11から明らかなように、比較例1−2に係る複合光触媒については、助触媒が光触媒上に凝集しており、界面にもほとんど存在しない。
なお、
図11(a)はTEM観察画像、
図11(b)は
図11(a)の一部を拡大した拡大画像、
図11(c)は
図11(a)と同一視野におけるCoの元素EDS(Energy Dispersive x-ray Spectroscopy)マッピングの画像、
図11(d)は
図11(b)と同一視野におけるCoの元素EDSマッピングの画像である。
【0186】
以上の通り、溶媒と、助触媒又は助触媒源と、複数種類の光半導体と、を含む固液混合物に対して、マイクロ波を照射して、固液混合物を加熱する、加熱工程を経ることにより、光半導体の表面に粒子サイズの小さな助触媒を高分散にて効率良く担持させることができるとともに、優れた水分解活性を有する光触媒を製造することができることが分かった。
【0187】
2.第2の本発明に関して
2.1.BaNbO
2N
<
参考例2−1−1>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NO
3)
2を溶解し、2質量%の溶液とした後、ここに、BaNbO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、250℃まで昇温させたうえで、15分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、BaNbO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0188】
(光水分解反応用電極の作製)
図8に示すような方法で、光水分解反応用電極を作製した。すなわち、得られた光触媒(30mg)を1mLの2−プロパノールに懸濁させ、この懸濁液200μLを第1のガラス基材(ソーダライムガラス30×30mm)上に滴下、乾燥を3回繰り返して光触媒層を形成した。次に、接触層となるNbをスパッタ法により積層した。装置はULVAC VPC−260Fを使用し、数百nm程度積層した。次に、集電導体層となるTiをスパッタ法により数μm程度積層した。その後、エポキシ樹脂を用いて集電導体層に第2のガラス基材(ソーダライムガラス;図示せず)を接着した。最後に第1のガラス基材を除去し、純水中で10分間超音波洗浄することで、光触媒層/接触層/集電層を備えた光水分解反応用電極を得た。
【0189】
(性能評価)
得られた光水分解反応用電極を用いて、以下の測定条件によって、電解液の分解を行った。測定電位1.2Vにおける光電流密度を評価の指標とした。結果を以下の表4に示す。
【0190】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液NaOH、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.1V、E
1=0.3V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0191】
<
参考例2−1−2>
(光触媒の作製)
助触媒源として、Co(NH
3)
6Cl
3を用いた以外は、
参考例2−1−1と同様にしてBaNbO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0192】
<
参考例2−1−3>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてFe(NO
3)
2を溶解させ、2質量%の溶液とした後、この溶液に、BaNbO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内にCo(NH
3)
2Cl
3を2質量%加え、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、BaNbO
2N粒子の表面に助触媒としてFeO
x(FeO、Fe
2O
3、又はその混合物)とCoO
x、若しくは、その複合酸化物が担持された光触媒粒子を得た。
【0193】
<比較例2−1−1:アンミン浸漬担持>
(光触媒の作製)
助触媒源として10mMのCo(NO
3)
25mL、0.1Nのアンモニア水5mLをそれぞれ純水40mLに加え、pH8.5に調整した後 、BaNbO
2Nを0.1g加え、1時間浸漬した。遠心分離で上澄みを除去したのち、吸引濾過し、70℃で一晩乾燥させることによりBaNbO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0194】
<比較例2−1−2:含浸担持>
(光触媒の作製)
BaNbO
2N(0.1g)に水300μLを加えた後、10mMのCo(NO
3)
2を加え、2質量%の溶液とした後、超音波を1分照射し、溶媒を減圧留去した。得られた粉末をアンモニア(200mL/min)気流下、500℃で1時間焼成することにより、BaNbO
2N粒子の表面に助触媒としてCoOxが担持された光触媒粒子を得た。
【0195】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
参考例2−1−2、2−1−3、比較例2−1−1、2−1−2に係る光触媒粒子それぞれについて、
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、性能を評価した。結果を以下の表4に示す。
【0196】
【表4】
【0197】
表4に示す結果から明らかなように、密閉系内でマイクロ波加熱を行った
参考例2−1−1乃至
参考例2−1−3については、従来法であるアンミン浸漬担持法(比較例2−1−1)及び含浸担持法(比較例2−1−2)と比較しても、光水分解反応用電極の光電流密度が大きく、性能に優れていた。
【0198】
図12〜14に、
参考例2−1−1、比較例2−1−1、及び比較例2−1−2に係る光触媒のTEM観察画像を示す。
図12が
参考例2−1−1、
図13が比較例2−1−1、
図14が比較例2−1−2と対応する。
図12から明らかなように、
参考例2−1−1に係る光触媒は、極めて小さな助触媒粒子が、高分散で担持されていることが分かる。一方で、
図13、14から明らかなように、比較例に係る光触媒は、光半導体の表面で助触媒が凝集していることが分かる。
【0199】
2.2.TaON
<
参考例2−2−1>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、TaON粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、TaON粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0200】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
光触媒の種類を変更し導電層としてTiを利用したこと以外は、
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、以下の条件で性能を評価した。測定電位0.6V、1.2Vそれぞれにおける光電流密度を評価の指標とした。結果を以下の表5に示す。
【0201】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液0.1M Na
3PO
4、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.267V、E
1=0.333V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0202】
<比較例2−2−1:含浸担持>
(光触媒の作製)
TaON(0.1g)に水を300μL加えたのち、0.17mMのCo(NO
3)
2を2質量%加え、さらに水を300μL加えたのち、超音波を1分照射し、溶媒を減圧留去した。得られた粉末をアンモニア(50mL/min)気流下、600℃で1時間焼成することにより、TaON粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0203】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
比較例2−2−1に係る光触媒粒子について、
参考例2−2−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、性能を評価した。結果を以下の表5に示す。
【0204】
【表5】
【0205】
表5に示す結果から明らかなように、密閉系内でマイクロ波加熱を行った
参考例2−2−1については、従来法である含浸担持法(比較例2−2−1)と比較して、光水分解反応用電極の光電流密度が大きく、性能に優れていた。特に低電位(0.6V)での電流密度が二倍以上向上しており、無バイアスでの水分解を行う上で有用であることが分かった。
【0206】
図15に、
参考例2−2−1及び比較例2−2−1に係る光水分解反応用電極のPEC評価結果を示す。
図15(A)が
参考例2−2−1、
図15(B)が比較例2−2−1と対応する。
図15から明らかなように、
参考例2−2−1は比較例2−2−1と比較して、特に低電位で大きく活性が向上していることが分かる。
【0207】
図16、17に、
参考例2−2−1、比較例2−2−1に係る光触媒のTEM観察画像を示す。
図16が
参考例2−2−1、
図17が比較例2−2−1と対応する。
図16から明らかなように、
参考例2−2−1に係る光触媒は、極めて小さな助触媒粒子が、高分散で担持されていることが分かる。一方、
図17から明らかなように、比較例に係る光触媒は、光半導体の表面で助触媒が凝集していることが分かる。
【0208】
2.3.Ta
3N
5
<
参考例2−3−1>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、Ta
3N
5粒子(粒子分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、Ta
3N
5粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0209】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
光触媒の種類を変更したこと以外は、
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、以下の測定条件で性能を評価した。結果を以下の表6に示す。
【0210】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液0.1M Na
3PO
4、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.3V、E
1=0.33V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0211】
<比較例2−3−1:含浸担持>
Ta
3N
5(0.1g)に水300μLを加えた後、0.17mMのCo(NO
3)
2を加え、2質量%の溶液を得た。これに水を300μL加えた後、超音波を1分照射し、溶媒を減圧留去した。得られた粉末をアンモニア(50mL/min)気流下、600℃で1時間焼成することにより、Ta
3N
5粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0212】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
比較例2−3−1に係る光触媒粒子について、
参考例2−3−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、性能を評価した。結果を以下の表6に示す。
【0213】
【表6】
【0214】
表6に示す結果から明らかなように、密閉系内でマイクロ波加熱を行った
参考例2−3−1は、従来法である含浸担持法(比較例2−3−1)と比較して、光水分解反応用電極の光電流密度が大きく、性能に優れていた。
【0215】
図18に、
参考例2−3−1及び比較例2−3−1に係る光水分解反応用電極のPEC評価結果を示す。
図18(A)が
参考例2−3−1、
図18(B)が比較例2−3−1と対応する。
図18から明らかなように、
参考例2−3−1は比較例2−3−1と比較して、高電位で大きく活性が向上していることが分かる。
【0216】
図19、20に、
参考例2−3−1、比較例2−3−1に係る光触媒のTEM観察画像を示す。
図19が
参考例2−3−1、
図20が比較例2−3−1と対応する。
図19から明らかなように、
参考例2−3−1に係る光触媒は、表面において助触媒粒子の凝集は確認されなかった。上述の通り、高電位での活性向上が認められることから、TEMでは確認できない極めて小さな助触媒粒子が担持されているものと推測される。一方で、
図20から明らかなように、比較例に係る光触媒は、光半導体の表面で助触媒が凝集していることが分かる。
【0217】
2.4.LaTiO
2N
<
参考例2−4−1>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、LaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、198℃まで昇温させたうえで、30分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、LaTiO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0218】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
光触媒の種類を変更したこと以外は、
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、以下の測定条件で性能を評価した。結果を以下の表7に示す。
【0219】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液1M NaOH、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.07V、E
1=0.54V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0220】
<比較例2−4−1:開放系でのマイクロ波加熱>
(光触媒の作製)
還流管を連結した反応容器にエチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を溶解し、2質量%の溶液とした後、LaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)150mgを投入した。その後、容器内にマイクロリアクター(四国計測機器)を用いてマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、198℃まで昇温させたうえで、30分間加熱還流した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、LaTiO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0221】
<比較例2−4−2:含浸担持>
(光触媒の作製)
LaTiO
2N(0.1g)に水300μLを加えた後、0.17mMのCo(NO
3)
2を加え、2質量%の溶液とした後、水を300μL加え、超音波を1分照射し、溶媒を減圧留去した。得られた粉末をアンモニア(50mL/min)気流下、600℃で1時間焼成することにより、LaTiO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0222】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
比較例2−4−1、2−4−2に係る光触媒粒子それぞれについて、
参考例2−4−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、性能を評価した。結果を以下の表7に示す。
【0223】
【表7】
【0224】
表7に示す結果から明らかなように、密閉系内でマイクロ波加熱を行った
参考例2−4−1については、開放系でマイクロ波加熱を行った比較例2−4−1よりも、光水分解反応用電極の光電流密度が大きく、性能に優れていた。また、
参考例2−4−1は、従来法である含浸担持法(比較例2−4−2)と比較しても、光水分解反応用電極の光電流密度が大きく、性能に優れていた。
【0225】
(光半導体表面における助触媒の被覆率の測定)
参考例2−4−1及び比較例2−4−2で作製したCo担持光触媒(Co
x/LaTi
2ON)の表面をSEMで確認した。SEM−EDXにより得られたデータから、Photoshop CCソフトを用いて、光触媒表面のCo(黄緑)部分の面積(ピクセル)を導き出し、以下の計算式により算出した。
被覆率=(Co部分の面積/光触媒全体の面積)X100 (%)
【0226】
算出した結果、
図21(A)に示すようにマイクロ波で処理した光触媒表面には、粒子径5〜10nmのCo
xが被覆率75.2%で被覆されていた。これに対し、
図21(B)に示すように従来法(含浸担持法)で処理した光触媒表面には、粒子径20nm超40nm以下のCo
xが被覆率9.6%で被覆されていることが確認できた。これにより、本発明の光触媒は担持された助触媒の粒子径が小さく、かつ、よく分散された状態で光触媒表面に高い被覆率で担持されていることが分かる。
【0227】
3.第3の本発明に関して
3.1.LaTiO
2N
<光半導体の製造>
(
参考例3−1)
LaTiO
2N(平均粒子径700nm)500mgを、ポリスチレンスルホン酸(PSS、重合度:75,000)の水溶液(PSS:水=18:82重量%)10gに含浸させ、27℃にて17時間放置することにより酸処理を行った。その後、固形分として残ったLaTiO
2N粒子を吸引濾過により回収し、回収した粒子に水100mLを加え吸引濾過し、さらにエタノール100mLを加え吸引濾過することにより粒子を洗浄し、実施例3−1に係る光半導体を460mg得た。尚、酸処理によって、例えば、以下の酸加水分解反応が生じるものと考えられる。窒化物についても同様である。
M-O-M’+ H
+ → M-OH-M’+ H
2O → M-OH + M’-OH
【0228】
(
参考例3−2〜3−6)
酸処理に係る放置時間を15分間、30分間、60分間、90分間、2時間としたこと以外は
参考例3−1と同様にして、
参考例3−2〜3−6に係る光半導体を得た。なお、時間の増加に伴って、得られる光半導体の量が減少した。
図22に、放置時間と光半導体の減少量との関係を示す。
【0229】
(
参考例3−7)
酸処理用の水溶液として、PSS水溶液に替えて、トルエンスルホン酸(TS)の水溶液(TS:水=18:82重量%)を用いたこと以外は、
参考例3−1と同様にして、
参考例3−7に係る光半導体を得た。
【0230】
(
参考例3−8)
酸処理用の水溶液として、PSS水溶液に替えて、トルエンスルホン酸(TS)の水溶液(TS:水=18:82重量%)を用い、酸処理に係る放置時間を2時間としたこと以外は、
参考例3−1と同様にして、
参考例3−8に係る光半導体を得た。
【0231】
(
参考例3−9)
酸処理用の水溶液として、PSS水溶液に替えて、メタンスルホン酸(MS)の水溶液(MS:水=18:82重量%)を用い、酸処理に係る放置時間を2時間としたこと以外は、
参考例3−1と同様にして、
参考例3−9に係る光半導体を得た。
【0232】
(比較例3−1)
参考例3−1において使用したLaTiO
2Nに対して酸処理を行わずに、比較例3−1に係る光半導体を得た。
【0233】
(比較例3−2)
酸処理用の水溶液として、PSS水溶液に替えて、王水(原液、濃塩酸HCl:濃硝酸HNO
3(3:1)、触媒1gに対して15mL:5mL)を用いて
参考例3−1と同様の操作を行ったところ、光半導体がすべて溶解してしまい、固形分を回収することができなかった。
【0234】
(比較例3−3)
酸処理用の水溶液として、PSS水溶液に替えて王水(原液、濃塩酸HCl:濃硝酸HNO
3(3:1)、触媒1gに対して15mL:5mL)を用い、且つ、LaTiO
2Nを含浸させた後で直ちに固形分を回収したこと以外は、
参考例3−1と同様にして、比較例3−3に係る光半導体を得た。
【0235】
<光触媒の製造>
実施例及び比較例に係る光半導体それぞれについて、助触媒としてCoO
xを担持させ、光触媒とした。助触媒の担持は以下のようにして行った。
【0236】
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NO
3)
2を溶解し、2質量%の溶液とした後、ここに、光半導体を150mg投入して、所定の容器に密閉した。その後、密閉した容器にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射して、容器内の内容物を250℃まで昇温させたうえで、15分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、光半導体の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0237】
<光水分解反応用電極の作製>
図8に示すような方法で、光水分解反応用電極を作製した。すなわち、得られた光触媒(30mg)を1mLの2−プロパノールに懸濁させ、この懸濁液200μLを第1のガラス基材(ソーダライムガラス30×30mm)上に滴下、乾燥を3回繰り返して光触媒層を形成した。次に、接触層となるNbをスパッタ法により積層した。装置はULVAC VPC−260Fを使用し、数百nm程度積層した。次に、集電導体層となるTiをスパッタ法により数μm程度積層した。その後、エポキシ樹脂を用いて集電導体層に第2のガラス基材(ソーダライムガラス;図示せず)を接着した。最後に第1のガラス基材を除去し、純水中で10分間超音波洗浄することで、光触媒層/接触層/集電層を備えた光水分解反応用電極を得た。
【0238】
<評価1:X線回折測定>
参考例3−1及び3−4並びに比較例3−1に係る光半導体について、CuKα線を用いたX線回折測定を行った。結果を
図23に示す。
図23に示す結果から明らかなように、PSS水溶液による酸処理の前(比較例3−1)と酸処理の後(
参考例3−1及び3−4)において、光半導体のX線回折ピークに変化はなかった。
【0239】
<評価2:光半導体の表面元素分析>
PSS溶液により酸処理を行った
参考例に係る光半導体についてSTEM−EDX装置により、表面に存在するSの分析を行った。結果を表8に示す。
【0240】
【表8】
【0241】
表8に示すように、PSS水溶液による酸処理によって、光半導体の表面にS分が0.39atm%の存在していた。すなわち、酸化物等をPSS水溶液で酸処理した場合、その表面には通常存在し得ないS分が残存することが分かった。
【0242】
<評価3:光半導体の形態観察>
比較例3−1、
参考例3−1及び3−4に係る光半導体について、TEMによりその形態を観察した。結果を
図24〜26に示す。
図24が比較例3−1、
図25が
参考例3−1、
図26が
参考例3−4と対応する。
なお、
図24〜26の(A)はHRTEM観察画像であり、それぞれ、(B)は(A)の一部を拡大した拡大画像、(C)は(B)の一部を拡大した拡大画像である。また、
図24〜26の(D)は[210]面から入射した回折格子像であり、単一の結晶であるかどうかを確認可能である。
【0243】
図24に示すように、比較例3−1に係る光半導体は、観察範囲において、結晶が厚く、結晶同士の凝集が確認できた(
図24(A)、(B))。結晶格子が厚いと光により励起された電荷の移動パスが長くなるため再結合しやすくなり、触媒活性が低くなると考えられる。また結晶同士の凝集も再結合の要因となると考えられる。一方で、
図25及び26から、
参考例に係る光半導体は、観察範囲において、結晶の一つ一つが薄く、結晶同士の凝集が解砕されていることが分かった。酸処理によって、表層全面を溶解しつつ、結晶間の接点も溶解し、個々の結晶へと分離できたことが分かる。
【0244】
また、
図24に示すように、比較例3−1に係る光半導体は、観察範囲において、結晶格子の歪みやズレが確認できた(
図24(C)、(D))。特に
図24(D)から、光半導体粒子の最表面部分における[210]面と、それよりも深部にある[210]面とで、結晶面の位置が一致していない(紙面左右方向にズレている)。一方で、
図25及び26から、
参考例に係る光半導体は、観察範囲において、いずれも結晶格子の歪みやズレは認められず、酸処理によって表面欠陥及び界面欠陥が低減されていることが分かった。
【0245】
<評価4:光水分解活性>
ポテンショスタットを用いた3電極系での電流−電位測定によって光水分解反応用電極の性能を評価した。平面窓付きのパイレックス(登録商標)ガラス製電気化学セルを用い、参照極にAg/AgCl電極、対極にPtワイヤを用いた。電解液にはNaOH水溶液(pH=13.0)100mLを用いた。電気化学セル内部はアルゴンで満たし、かつ、測定前に十分にバブリングを行うことによって溶存する酸素、二酸化炭素を除去した。光電気化学測定には、ソーラーシミュレーター(AM1.5G(100mW/cm
2))を光源として用い、電気化学セルの平面窓から光を照射した。LSV測定条件をE
0=−1.1V、E
1=0.3V、T
0=1s、T
1=10ms/Vとして、測定電位1.23Vにおける光電流密度を評価の指標とした。結果を表9及び
図27に示す。
【0246】
【表9】
【0247】
尚、上記の表9において、括弧無の値は光電流密度の測定を複数回行って得られた平均値であり、括弧書きで示した値は実際の測定値の一例である。
【0248】
表9及び
図27に示すように、ポリ有機酸又はスルホン酸によって光半導体の酸処理を行うことで、水分解活性を向上させることができた。また、酸処理に係る放置時間を極めて短時間とした場合でも水分解活性の向上が認められ、且つ、放置時間を17時間と長時間とした場合でも水分解活性が低下するどころか、さらなる向上が認められた。すなわち、ポリ有機酸又はスルホン酸を用いて酸処理を行う場合、光半導体が固形分として残存している限り、酸処理時間を短時間としても長時間としても水分解活性を向上でき、酸処理の制御が容易であることが分かった。
【0249】
尚、上記
参考例では、ポリ有機酸としてポリスルホン酸(PSS)を用いた場合について説明したが、PSS以外のポリ有機酸を用いた場合でも、本発明の効果が奏されるものと考えられる。例えば、ポリ有機酸としてポリアクリル酸(PAA)を用いた場合でも、比較例3−1よりも優れた性能を備えた光半導体が製造できるものと考えられる。ただし、PAAはPSSよりも酸性度が小さいため、PAAを用いる場合は、酸化物等の表面を適切に溶解させるために長時間を要すると考えられる。すなわち、酸処理の制御を容易とする観点からはPAA等の酸性度の小さなポリ有機酸を用いることも可能と言えるものの、酸性度が低く、やや効率性に欠ける可能性がある。したがって、酸処理の制御を容易としつつも、光水分解活性が顕著に向上した光半導体を一層効率的に製造できる観点からは、ポリ有機酸としてPSSを用いることが最も好ましいと考えられる。
【0250】
図28に、比較例3−1に係る光半導体を用いた電極と、
参考例3−1に係る光半導体を用いた電極とのそれぞれについて、電圧と光電流密度との関係の一例を示す。
図28から、
参考例3−1の電極は、いずれの測定電圧においても、比較例3−1の電極よりも光電流密度が高い。すなわち、
参考例3−1に係る光半導体が優れた水分解活性を有することが分かる。
【0251】
以上の通り、有機酸としてポリ有機酸又はスルホン酸を用いた酸処理によって、光半導体の表面欠陥及び界面欠陥を制御良く低減することができ、光半導体の水分解活性を向上させることができた。この作用効果は、ポリ有機酸やスルホン酸に溶解可能な結晶性無機化合物であれば、同様に奏されるものと考えられる。すなわち、LaTiO
2N以外にも、例えば、BaNbO
2N等のニオブ含有酸窒化物や、Ta
3N
5等のタンタル含有窒化物、BaTaO
2N等のタンタル含有酸窒化物、BiVO
4等のバナジウム含有酸化物、GaN:ZnO等のガリウム含有窒化物、ZnGeN
2:ZnO等のゲルマニウム含有窒化物等に対しても同様の効果が奏されることが自明である。
【0252】
4.その他の実施形態に関するデータ
4.1.その他の助触媒
CoO
x以外の助触媒を用いた場合について検討を行った。
【0253】
<
参考例4−1−1>
(光半導体の酸処理)
LaTiO
2N(平均粒子径700nm)500mgを、ポリスチレンスルホン酸(PSS、重合度:75,000)の水溶液(PSS:水=18:82重量%)10gに含浸させ、27℃にて1時間放置することにより酸処理を行った。その後、固形分として残ったLaTiO
2N粒子を吸引濾過により回収し、回収した粒子に水100mLを加え吸引濾過し、さらにエタノール100mlを加え吸引濾過することにより粒子を洗浄し、酸処理がなされたLaTiO
2N粒子を得た。
【0254】
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてIrCl
3を溶解し、2質量%の溶液を得た。ここに、LaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、LaTiO
2N粒子の表面に助触媒としてIrO
2が担持された光触媒粒子を得た。
【0255】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
光触媒の種類を変更したこと以外は、上記の
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、以下の測定条件で性能を評価した。結果を以下の表10に示す。
【0256】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液1M NaOH、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.07V、E
1=0.54V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0257】
<
参考例4−1−2>
助触媒源が溶解した溶液の濃度を3質量%としたこと以外は
参考例4−1−1と同様にして光触媒粒子を得て、
参考例4−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表10に示す。
【0258】
<
参考例4−1−3>
マイクロ波による加熱保持温度を200℃としたこと以外は
参考例4−1−1と同様にして光触媒粒子を得て、
参考例4−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表10に示す。
【0259】
<
参考例4−1−4>
マイクロ波による加熱保持温度を250℃としたこと以外は
参考例4−1−1と同様にして光触媒粒子を得て、
参考例4−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表10に示す。
【0260】
<
参考例4−1−5>
(光触媒粒子の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてGa(NO
3)
2を溶解し、1.8質量%の溶液を得た。ここに、LaTiO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、200℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、助触媒源としてCo(NH
3)
6Cl
3を追加して2質量%の溶液を調整したのち、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、200℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、光触媒前駆体の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。得られた光触媒粒子を用いて、
参考例4−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表10に示す。
【0261】
【表10】
【0262】
表10に示す結果から明らかなように、マイクロ波照射によってCoOx以外の助触媒を担持させた場合でも、光水分解活性の極めて高い光触媒粒子を得ることができた。
【0263】
4.2.その他の光半導体
光半導体としてBaTaO
2NやGaN:ZnOを用いた場合について検討した。
【0264】
<
参考例4−2−1>
(光触媒の作製)
エチレングリコール18mL中に、助触媒源としてCo(NO
3)
2を溶解し、2質量%の溶液とした後、ここに、BaTaO
2N粒子(粒度分布数μm)を150mg投入して、容器中に密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、60分間加熱保持した。加熱処理後、容器内から固形分を取り出し、濾過及びエタノール洗浄を行うことで、BaTaO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。
【0265】
(光水分解反応用電極の作製、評価)
光触媒の種類を変更したこと以外は、上記の
参考例2−1−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、以下の測定条件で性能を評価した。結果を以下の表11に示す。
【0266】
(測定条件)
・ 光源 AM1.5ソーラーシミュレーター[AM1.5G(100mW/cm
2)]
・ pH=13.0 電解液NaOH、100mL
・ アルゴン雰囲気
・ 参照電極 Ag/AgCl、対電極Ptワイヤ
・ LSV測定(E
0=−1.1V、E
1=0.3V、T
0=1s、T
1=10ms/V)
【0267】
<
参考例4−2−2>
BaTaO
2N粒子に替えてGaN:ZnO粒子を用いたこと以外は
参考例4−2−1と同様にして光触媒粒子を得て、
参考例4−2−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表11に示す。
【0268】
<比較例4−2−1>
助触媒源として10mMのCo(NO
3)
25mL、0.1Nのアンモニア水5mLをそれぞれ純水40mLに加え、pH8.5に調整した後 、BaTaO
2N粒子を0.1g加え、1時間浸漬した。遠心分離で上澄みを除去したのち、吸引濾過し、70℃で一晩乾燥させることによりBaTaO
2N粒子の表面に助触媒としてCoO
xが担持された光触媒粒子を得た。得られた光触媒粒子を用いて、
参考例4−2−1と同様にして光水分解反応用電極を作製し、評価を行った。結果を以下の表11に示す。
【0269】
<比較例4−2−2>
助触媒を担持していないGaN:ZnO粒子を用いて、
参考例4−2−1と同様にして光水分解反応用電極を作製した。得られた光水分解反応用電極に対し、硝酸コバルト0.5mMになるように調液された0.1Mのリン酸バッファー溶液100mL(pH=7.0)中で、AM1.5Gの光を照射して、10μA/cm
2の電流密度で5分間、光電着を行った。その後、電極を取り出し、水洗したのち、
参考例4−2−1と同様にして電極評価を行った。結果を以下の表11に示す。
【0270】
【表11】
【0271】
表11に示す結果から明らかなように、光半導体としてBaTaO
2NやGaN:ZnOを用いた場合であっても、マイクロ波照射によって助触媒を担持させることで、光水分解活性の極めて高い光触媒粒子を得ることができた。
【0272】
4.3.光半導体の形状の変更
上記実施例では、粒子状の光半導体を用いた場合について検討した。以下、シート状の光半導体を用いた場合について検討する。
【0273】
<実施例4−3>
(LaTiO
2N/TaN/Ta電極の作製)
以下の手順で、LaTiO
2N層(厚み300nm)、TaN層(厚み200nm)をTa基板上に作製し、3層構成の電極シート(LaTiO
2N/TaN/Ta電極)を作製した。
【0274】
まず、Ta鏡面基板(10mm×10mm)上にTaNをスパッタで200nm成膜したのち、その上に、La
2Ti
2O
7をスパッタで300nm成膜(エイコー社製のスパッタ装置を用い、90W、working pressure:1×10
0Pa、3時間の条件とした。)し、さらに窒化炉にてアンモニア流量200sccm、温度900℃の条件で1時間窒化させることにより、電極シートを得た。
【0275】
(助触媒の担持)
図29に示すように、Co(NH
3)
6Cl
3(3mg)を含むエチレングリコール溶液(20mL)の中に上記の電極シートを浸漬し密閉した。その後、容器内にマイクロ波(周波数2.45GHz)を照射し、150℃まで昇温させたうえで、6分間加熱保持した。その後、電極シートを取り出し、水洗することで、助触媒としてCoOxが担持された光水分解反応用電極を得た。得られた光水分解反応用電極に対して、
参考例4−2−1と同様にして評価を行った。
【0276】
<比較例4−3>
実施例4−3と同様にして3層構成の電極シート(LaTiO
2N/TaN/Ta電極)を作製した。得られた電極シートに対し、硝酸コバルト0.5mMになるように調液された0.1Mのリン酸バッファー溶液100mL(pH=7.0)中で、AM1.5Gの光を照射して、10μA/cm
2の電流密度で5分間、光電着を行った。その後、電極シートを取り出し、水洗したのち、実施例4−3と同様にして電極評価を行った。
【0277】
図30に、実施例4−3、比較例4−3に係る光水分解反応用電極のPEC評価結果を示す。
図30から明らかなように、実施例4−3は比較例4−3と比較して、光水分解活性が向上していることが分かる。このように、粒子状の光半導体だけでなくシート状等の各種成形体とした光半導体であっても、マイクロ波照射によって助触媒を担持させることで、本発明に係る効果が奏されることが分かる。