特許第6675648号(P6675648)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6675648
(24)【登録日】2020年3月13日
(45)【発行日】2020年4月1日
(54)【発明の名称】結晶成長方法
(51)【国際特許分類】
   C30B 23/06 20060101AFI20200323BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20200323BHJP
   C23C 14/28 20060101ALI20200323BHJP
   H01L 21/203 20060101ALI20200323BHJP
【FI】
   C30B23/06
   C30B29/36 A
   C23C14/28
   H01L21/203 Z
【請求項の数】2
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2017-36173(P2017-36173)
(22)【出願日】2017年2月28日
(65)【公開番号】特開2018-140897(P2018-140897A)
(43)【公開日】2018年9月13日
【審査請求日】2018年11月9日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 [公開の事実] 1.ウェブサイト掲載日:2016年9月1日 2.ウェブサイトのアドレス:2016年第77回応用物理学会秋季学術講演会ウェブサイト https://confit.atlas.jp/guide/event/jsap2016a/top 3.公開者:関根 佳明、熊倉 一英、日比野 浩樹
(73)【特許権者】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503092180
【氏名又は名称】学校法人関西学院
(74)【代理人】
【識別番号】100098394
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 茂樹
(74)【代理人】
【識別番号】100153006
【弁理士】
【氏名又は名称】小池 勇三
(74)【代理人】
【識別番号】100064621
【弁理士】
【氏名又は名称】山川 政樹
(72)【発明者】
【氏名】関根 佳明
(72)【発明者】
【氏名】熊倉 一英
(72)【発明者】
【氏名】日比野 浩樹
【審査官】 今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2000−053493(JP,A)
【文献】 特開2004−225066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C30B 23/06
C23C 14/28
C30B 29/36
H01L 21/203
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
原材料から構成した昇華源の主表面と基板の結晶成長面とを向かい合わせてセルの内部に固定する第1工程と、
前記昇華源および前記基板が固定された前記セルを炉の内部に配置する第2工程と、
前記炉の内部に配置された前記セルに固定されている前記昇華源の裏面側から電子線を照射して前記昇華源を加熱し、昇華法により前記原材料からなる結晶を前記基板の前記結晶成長面に成長させる第3工程と
を備えることを特徴とする結晶成長方法。
【請求項2】
請求項1記載の結晶成長方法において、
前記第2工程の後で、前記炉の内部を、真空排気状態またはAr雰囲気とする第4工程を備え、
前記第3工程は、前記炉の内部が、真空排気状態またはAr雰囲気とされた状態で実施する
ことを特徴とする結晶成長方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、昇華法による結晶成長方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、SiCの単結晶を高速成長できる技術として昇華法がある。昇華法は、原料となるターゲットより昇華した構成元素(原子や分子)を、基板に堆積して結晶性薄膜を形成する技術である。昇華法による結晶の成長速度は速く、高融点の材料にも応用できるため有効な結晶成長技術である。
【0003】
従来の昇華法について、結晶成長装置の模式図を図5に示す。まず、閉鎖的(気密)なセル401の中に、原材料の基板402と成長基板403を配置する。この状態で基板402を加熱する。昇華法において、SiCなどの融点が高い原材料の加熱には、一般には誘導加熱が用いられている。図5に示すように、セル401の周りに配置したコイル404に交流電流を流すことで、電磁誘導によりセル401,基板402,成長基板403を加熱する。ここで、成長基板403の温度T1は、原材料の基板402の温度T2より低くする。結晶成長条件は、温度、セル内の全体圧力、原材料の昇華による材料種の分圧などである。このような条件で加熱することで、基板402から昇華した材料を、成長基板403に付着させることで結晶成長する。
【0004】
さらに、昇華法において特徴的な条件に、基板402と成長基板403との距離Δz、および、基板402の温度T1と成長基板403の温度T2との温度差ΔT(=T1−T2)がある。Δzが小さく、|ΔT|が大きいほど、成長速度が速いことが実験的に確かめられている(非特許文献1)。効率的な結晶成長には、Δzがμmやmmスケールで、大きい|ΔT|を実現する必要がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】C. L. Harris 編,"Properties of Silicon Carbide", INSPEC the Institute of Electric Engineers, London, pp. 170-203, 1995.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように、従来の昇華法では、電磁誘導を用いた加熱装置が用いられている。しかしながら、一般に市販されている電磁誘導による加熱を用いた昇華装置は、大きな面積の基板が対象で、装置全体が大型になり、導入やメンテナンスが高コストになるという問題点がある。しかも、装置が大きくなるため、対象の加熱や冷却に多くの時間がかかる。小さな試料基板を用いて多様なパラメータを設定して結晶成長を行う試料探索の実験では、電磁誘導による加熱を用いた従来の昇華装置を用いることは、試料基板の交換に時間がかかるなど、利便性やコスト面などの面で不利である。このように、従来では、試料基板などを用いた昇華法による結晶成長の実験などが、容易にかつ迅速に行えないという問題があった。
【0007】
本発明は、以上のような問題点を解消するためになされたものであり、試料基板などを用いた昇華法による結晶成長の実験などが、より容易にかつ迅速に行えるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る結晶成長方法は、原材料から構成した昇華源の主表面と基板の結晶成長面とを向かい合わせてセルの内部に固定する第1工程と、昇華源および基板が固定されたセルを炉の内部に配置する第2工程と、炉の内部に配置されたセルに固定されている昇華源の裏面側から電子線を照射して昇華源を加熱し、昇華法により原材料からなる結晶を基板の結晶成長面に成長させる第3工程とを備える。
【0009】
上記結晶成長方法において、第2工程の後で、炉の内部を、真空排気状態またはAr雰囲気とする第4工程を備え、第3工程は、炉の内部が、真空排気状態またはAr雰囲気とされた状態で実施するようにしてもよい。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、昇華法による結晶成長の加熱を、赤外線または電子線の照射により行うようにしたので、試料基板などを用いた昇華法による結晶成長の実験などが、より容易にかつ迅速に行えるという優れた効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1A図1Aは、本発明の実施の形態における結晶成長方法を説明するための構成図である。
図1B図1Bは、本発明の実施の形態における結晶成長方法を説明するための構成図である。
図1C図1Cは、本発明の実施の形態における結晶成長方法を説明するための構成図である。
図2図2は、本発明の実施の形態における結晶成長方法を実施する他の結晶成長装置の構成を示す構成図である。
図3図3は、本発明の実施の形態における結晶成長方法を実施する他の結晶成長装置の構成を示す構成図である。
図4図4は、本発明の実施の形態における結晶成長方法で作製したSiCの層を用いて製造した電界効果トランジスタの構成を示す断面図である。
図5図5は、従来の昇華法を実施する装置の構成を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施の形態に係る結晶成長方法ついて図1A図1Cを参照して説明する。
【0013】
まず、図1Aに示すように、原材料から構成した昇華源101の主表面121と基板102の結晶成長面122とを向かい合わせてセル103の内部に固定する(第1工程)。例えば、昇華源101は、板状とされ、4H−SiCから構成され、平面視で10mm×10mm、厚さ300μmとされている。また、基板102は、板状とされ、4H−SiC(0001)から構成され、平面視で10mm×10mm、厚さ300μmとされている。
【0014】
次に、図1Bに示すように、昇華源101および基板102が固定されたセル103を、結晶成長装置の炉104の内部に配置する(第2工程)。例えば、炉104の内部に設けられている試料台105の上に、セル103を載置すればよい。ここで、セル103を炉104内に搬入して試料台105の上に配置した後、例えば、炉104の内部を、真空排気状態またはAr雰囲気としてもよい(第4工程)。
【0015】
図1Bに示すように、炉104の内部には、赤外線ランプ106が配置され、炉104の外部に配置された電源107により電力が供給可能とされている。電源107より電力を供給して赤外線ランプ106を点灯すると、赤外線ランプ106より放射される赤外線が集光ミラー108で集光され、昇華源101の裏面を照射する。
【0016】
次に、図1Cに示すように、炉104の内部に配置されたセル103に固定されている昇華源101の裏面側から、赤外線109を照射して昇華源101を加熱し、昇華法により原材料からなる結晶を基板102の結晶成長面122に成長させる(第3工程)。
【0017】
前述したように、炉104の内部を、真空排気状態またはAr雰囲気としてれば、上述した昇華法による結晶成長は、炉104の内部が、真空排気状態またはAr雰囲気とされた状態で実施されることになる。
【0018】
この例では、4H−SiCの基板102の結晶成長面122に、昇華法により3C−SiC(111)を結晶成長させる。SiCの結晶成長では、上述したように、昇華源101および基板102にSiC基板が利用できる。市販されているSiC基板は、高純度であり、かつ不純物種も既知であり、原材料として適している。
【0019】
赤外線ランプ106を用いた加熱は、高融点材料を昇華できるような高温にすることが可能であり、かつ短時間で所望とする高温にすることができる。また、赤外線ランプ106を用いた加熱は、昇華源101の平面視の大きさが、15mm×15mm程度であれば、均一に加熱ができる。
【0020】
赤外線109は、昇華源101、基板102、およびセル103に照射されるが、主に昇華源101に照射される。照射された赤外線109は、各部分で吸収される。このため、赤外線ランプ106を用いた加熱では、昇華源101を優先的に加熱することができ、昇華源101と基板102との間に温度勾配を作り出すことができる。
【0021】
なお、図2に示すように、赤外線ランプ106からの赤外線を、石英棒110を用い、昇華源101などに対する集光や伝熱を実施してもよい。また、図3に示すように、電子銃206を用いてもよい。電源207より電力を供給して電子銃206を動作させて電子209を放出させ、放出させた電子(加速電子)で、例えば昇華源101の裏面を衝撃して加熱する。電子の衝撃により、電子のエネルギーが熱に変換され、上述した加熱が実施できる。
【0022】
ここで、上述した昇華源101と基板102とを向かい合わせる配置は、「Sandwich法」と呼ばれている。この配置方法は、簡便に閉鎖的な空間を作ることができる。このため、セル103の内部を小さくすることができる。この結果、セル103を配置する炉104を小型化することもできる。凹凸の少ない平坦な基板を用いることで、昇華源101と基板102との距離Δzをμmスケールで制御することもできる。実際の成長時には、距離Δzは150μm程度である。また、昇華源101温度T1と基板102の温度T2との温度差|ΔT|は、20℃程度である。
【0023】
実施の形態の結晶成長方法による上述した条件におけるSiCの結晶成長は、1700℃程度と、通常のSiC成長より低温の加熱条件でも、成長速度が15μm/hと比較的速く、均質な結晶膜が成長できる。
【0024】
Sandwich法を用いることで、セル103内の構造を単純にすることができる。また、セル103は、昇華源101や基板102を支える固定機構(不図示)を内部に備える構成であればよく、複雑な構造とする必要が無く、熱容量も小さくすることができる。これにより、短時間での昇温と降温が可能となる。実際の成長時には、10℃/sで1800℃まで加熱ができる。また、基板102などは、30分程度で室温(25℃程度)まで冷却できる。また、セル103の構造が単純なため、昇華源101や基板102の交換も容易である。なお、セル103(固定機構を含む)の材料は、カーボンやタンタルから構成すればよい。セル103は、昇華源101を昇華させる温度で溶融しない材料から構成すればよい。
【0025】
ここで、上述した結晶成長により形成したSiCの層により、例えば、図4に示すような電界効果トランジスタが作製できる。この電界効果トランジスタは、3C−SiC(111)から構成されてp型とされた半導体層301の上に、ゲート絶縁層302を介してゲート電極303を備える。また、この電界効果トランジスタは、ゲート電極303の形成領域を挟み、半導体層301にn型とされたn領域304,305を備える。また、n領域304には、ソース電極306がオーミック接続し、n領域305には、ドレイン電極307がオーミック接続している。
【0026】
上述した電界効果トランジスタは、ゲート長をμm〜サブμmとすることができる。ソース電極306,ドレイン電極307は、導電性を確保できる材料から構成すればよく、例えば、Au、Cr、Ni、Ti、Pdなどの金属から構成すればよい。また、ゲート絶縁層302は、Al23、SiO2、HfO2、Y23などの絶縁材料から構成すればよい。
【0027】
以上に説明したように、本発明によれば、昇華法による結晶成長の加熱を、赤外線または電子線の照射により行うようにしたので、試料基板などを用いた昇華法による結晶成長の実験などが、より容易にかつ迅速に行えるようになる。
【0028】
なお、本発明は以上に説明した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の技術的思想内で、当分野において通常の知識を有する者により、多くの変形および組み合わせが実施可能であることは明白である。
【符号の説明】
【0029】
101…昇華源、102…基板、103…セル、104…炉、105…試料台、106…赤外線ランプ、107…電源、109…赤外線、121…主表面、122…結晶成長面。
図1A
図1B
図1C
図2
図3
図4
図5