(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態に係る充填材の製造方法について詳細に説明する。なお、以下に説明する実施形態においては、鋼材の周囲に充填される充填材としてセメント系充填材を用いる場合を例として説明を行うが、本発明はこれに限らず、充填材としてセメント系や石膏系などの有機系、又は樹脂系などの有機系の充填材を用いてもよい。
【0014】
[第1実施形態]
本発明の第1実施形態について説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る充填材の製造方法に用いられるミキサ1を示す模式図である。
【0015】
ミキサ1は、充填材を組成する充填材組成物として例示するセメント系充填材の粉体(セメント粉体)と窒素微細気泡溶液として例示する窒素ナノバブル水との混合物Sを収容する、上部が開放された容器2と、容器2の開放上部を封鎖する蓋体3と、容器2内部の混合物Sを撹拌する撹拌器4と、撹拌器4を回転駆動する駆動部5とを備えて構成されている。
【0016】
セメント系充填材に混合される窒素ナノバブル水は、ナノスケールの窒素気泡を含有した水である。窒素ナノバブル水は、溶存酸素を含んだ水に窒素ガスをマイクロナノバブル状態にして連続的に送り込むことにより生成される。
【0017】
本実施形態に係る窒素微細気泡含有溶液である窒素ナノバブル水は、モル分率が充分に小さいといえるマイクロ・ナノバルブとなった酸素より重い不活性ガスである窒素の微細気泡を含有している。よって、この窒素の微細気泡は、気体の溶解度は圧力に比例するというヘンリーの法則に従って、大気圧と同じ比率と溶液である水への溶解度を考慮した比率になろうとする。このため、窒素の微細気泡は、酸素を取り込んで気泡ごと溶液である水から抜け出すものと考えられる。その結果、水中の溶存酸素は、通常の水、すなわち窒素ナノバブルを含有しない水と比較して10分の1以下に減少した状態となっている。
【0018】
容器2は、その内部にセメント系充填材の粉体と窒素ナノバブル水との混合物Sを投入可能とするため、上部が開放された中空の円筒状の部材である。
【0019】
蓋体3は、容器2の開放上部を密閉する蓋である。蓋体3は円盤状の基底面32及び基底面32の周縁部に沿い基底面32に垂直に立設して設けられた周壁33を有して構成されている。基底面32には貫通孔31が形成されていて、この貫通孔には撹拌器4の軸41が回転可能に挿通されている。
【0020】
蓋体3が取り外された状態において、この解放された上部から容器2内部にセメント系充填材の粉体と窒素ナノバブル水が投入され、蓋体3が取り付けられる。
【0021】
撹拌器4は、円筒状の軸41と、軸41の先端部分に形成された複数枚の羽根よりなる撹拌子42と、軸41を回転させる駆動部43とを有して構成されている。
【0022】
撹拌器4の軸41は、蓋体3の基底面32に形成された貫通孔31を通じて容器2の外部から内部へと挿通されている。
【0023】
軸41の容器2内部側にある先端部分には、複数枚の羽根よりなり、軸41の回転動作に伴い回転し混合物Sを混合する撹拌子42が設けられている。
【0024】
軸41の回転動作は、容器2の外部において軸41に連結された駆動部43により行われる。駆動部43は各種のモータにより形成されている。
【0025】
次に、上述したミキサ1により行われる充填材の製造方法について説明する。
図2は、本発明の第1実施形態に係る充填材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【0026】
第1実施形態に係る充填材の製造方法では、まず充填材組成物であるセメント系材料の粉体が容器2内に投入される(ステップS1)。また、これに先立ち窒素ナノバブル水の製造も行われる。
【0027】
次に、セメント系材料が投入されている容器2に、更に窒素ナノバブル水が投入される(ステップS2)。
【0028】
次に、容器2に蓋体3が取り付けられ、撹拌器4によりセメント系材料と窒素ナノバブル水の混合物Sが練り混ぜられる(ステップS3)。
【0029】
こうして練り混ぜられ製造されたセメント系充填材は、従来の水よりも残存酸素の少ない窒素ナノバブル水を用いて製造されたものであり、従来の水を用いて製造されたセメント系充填材と比較して充填剤内に残存する酸素の量が10分の1以下に低減されている。
【0030】
そのため、本実施形態に係る充填材が鋼材の周囲に充填された場合でも残存酸素による鋼材の腐食を効果的に防止することができる。
【0032】
次に、本発明の第2実施形態に係る充填材の製造方法について説明する。
図3は、本発明の第2実施形態に係る充填材の製造方法に用いられるミキサ10を示す模式図である。
【0033】
図3に示すミキサ10は、
図1に示すミキサ1と異なり、セメント系材料と窒素ナノバブル水の混合物Sの練り混ぜを、窒素ガスを充填しながら行うことのできる構成となっている。
【0034】
そのため、ミキサ10には、ミキサ1と異なり、蓋体3の基底面32に配管35が接続され、配管35を介して外部の窒素タンク6から窒素ガスが供給されるとともに、内部の酸素が、供給された窒素ガスとともに容器2と蓋体3との間に形成された間隙34から放出されるようになっている。
【0035】
また、
図3に示すように、ミキサ10の撹拌器4’は、前述のミキサ1の撹拌器4と相違して、磁力を利用して撹拌子42’を回転させるマグネッチックスターラとなっている。
【0036】
なお、配管35、窒素タンク6及び間隙34以外の構成は上述したミキサ1と同様であるためその他の構成の説明は省略する。
【0037】
次に、第2実施形態に係る充填材の製造方法の手順について説明する。
図4は、本発明の第2実施形態に係る充填材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【0038】
第2実施形態に係る充填材の製造方法では、まず粉体であるセメント系材料が容器2内に投入される(ステップS11)。また、これに先立ち窒素ナノバブル水の製造もおこなわれる。
【0039】
次に、セメント系材料が投入されている容器2に、更に窒素ナノバブル水が投入される(ステップS12)。
【0040】
次に、容器2に蓋体3が取り付けられ、撹拌器4によりセメント系材料と窒素ナノバブル水の混合物Sが練り混ぜられる。練り混ぜの最中には、窒素ガスが窒素タンク6から配管35を通じて容器2内部に供給される(ステップS13)。
【0041】
こうした第2実施形態に係る充填材の製造方法によると、混合物Sの原材料である水の中の残存酸素を減少させることができる。更にセメント系材料の粒子間隙に存在する酸素を減少させることができるとともに、練り混ぜ中に混合物S内に酸素が混入することを効果的に防止することができる。
【0042】
そのため、第2実施形態に係る充填材が鋼材の周囲に充填された場合でも残存酸素による鋼材の腐食を効果的に防止することができる。
【0043】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態に係る充填材の製造方法について説明する。
図3は、本発明の第3実施形態に係る充填材の製造方法が適用されるミキサ100を示す模式図である。
【0044】
図5に示すミキサ100は、
図1に示すミキサ1と異なり、セメント系材料と窒素ナノバブル水の混合物Sの練り混ぜを、容器2内部を真空にしながら行うことのできる構成となっている。
【0045】
具体的には、ミキサ1と異なり、ミキサ10には蓋体3の基底面32に配管35が接続され、配管35を介して真空ポンプ7が接続された態様となっている。
【0046】
なお、配管35及び真空ポンプ7以外の構成は上述したミキサ1と同様であるためその他の構成の説明は省略する。
【0047】
次に、第3実施形態に係る充填材の製造方法の手順について説明する。
図6は、本発明の第3実施形態に係る充填材の製造方法の手順を示すフローチャートである。
【0048】
第3実施形態に係る充填材の製造方法では、まず粉体であるセメント系材料が容器2内に投入される(ステップS21)。また、これに先立ち窒素ナノバブル水の製造もおこなわれる。
【0049】
次に、セメント系材料が投入されている容器2に、更に窒素ナノバブル水が投入される(ステップS22)。
【0050】
次に、容器2に蓋体3が取り付けられ、撹拌器4によりセメント系材料と窒素ナノバブル水の混合物Sが練り混ぜられる。練り混ぜの最中には、真空ポンプ7が容器2内部の残存空気を吸引し、容器2内部が真空状態に保たれる(ステップS23)。なお、ここで真空状態とは、大気圧より一定程度圧力が低い状態を指しており、100kPa〜100Pa程度の低真空状態を含むものである。
【0051】
こうした第3実施形態に係る充填材の製造方法によると、混合物Sの原材料である水の中の残存酸素を減少させることができる。更にセメント系材料の粒子間隙に存在する酸素を減少させることができるとともに、練り混ぜ中に混合物S内に酸素が混入することを効果的に防止することができる。
【0052】
そのため、本実施形態に係る充填材が鋼材の周囲に充填された場合でも残存酸素による鋼材の腐食を効果的に防止することができる。
【0053】
以上、本発明の実施形態に係る充填材の製造方法について詳細に説明したが、前述した又は図示した実施形態は、いずれも本発明を実施するにあたって具体化した一実施形態を示したものに過ぎず、これらによって本発明の技術的範囲が限定的に解釈されてはならないものである。
【0054】
特に、充填材組成物としてセメント系充填材粉体を例示して説明したが、本発明に係る充填材組成物は、セメント組成物などの水和反応により硬化する材料に限られず、樹脂系などの有機系の組成物であっても構わない。要するに、本発明に係る充填材組成物は、窒素微細気泡含有溶液と混合させることにより一定時間経過後に硬化する材料を主成分とする材料であればよい。
【0055】
また、窒素微細気泡含有溶液として窒素ナノバルブ水を例示して説明したが、窒素微細気泡含有溶液は、溶質として窒素の微細気泡を含有する溶液、即ち、ヘンリーの法則に従うような理想希薄溶液であれば、水に限られず、2成分硬化型の樹脂などの他の溶液であっても構わない。
【0056】
次に、
図7〜
図10を用いて、本発明の効果を確認するために行った確認実験について説明する。
【0057】
[確認実験1]
まず、2種類の窒素供給量により窒素ナノバブル水中の溶存酸素量の時間経過を計測して窒素ナノバブル水中の溶存酸素が目的の通り低減しているかを確認した。
図7は、窒素ナノバブル水をバブリングしている最中の溶存酸素量の時間経過を示すグラフである。
【0058】
図7のグラフから明らかなように、時間当たりの窒素供給量が多い1.0L/minの方が、溶存酸素が低減され、30分で溶液中の溶存酸素量は下限となる。よって、時間当たりの窒素供給量を多くして30分程度バブリングすればよいことが分かる。
【0059】
図8は、窒素ガスのバブリングを終了した後の窒素ナノバブル水中の溶存酸素の時間経過を測定したグラフである。
図8のグラフから明らかなように、時間当たりの窒素供給量に関係なく、バブリング終了直後からすぐに元に戻り始め窒素ナノバブル水中の溶存酸素の時間経過により徐々に増えていくことが確認できる。但し、6時間後でも3mg/L以下である。
【0060】
[確認実験2]
次に、練混ぜ水、塩化物イオン量、気圧を変えてグラウト試験体を作製し、グラウト硬化後は側面から鉄筋の自然電位等を測定した。一般的に、自然電位が低くなると鉄筋は錆び易くなる。なお、グラウト試験体は、型枠脱型後、鉄筋露出部は接着剤で被覆し、グラウト部は含水させたウエス(布きれ)で湿潤養生した。
【0061】
図9は、練混ぜ水として水道水を使用して、塩化物イオン量、気圧を変えてグラウト試験体を作製し、鉄筋の自然電位の材齢(日)による変化を計測したグラフであり、
図10は、練混ぜ水として窒素ナノバブル水を使用して、塩化物イオン量、気圧を変えてグラウト試験体を作製し、鉄筋の自然電位の材齢(日)による変化を計測したグラフである。
【0062】
図9のグラフから、水道水を用いてグラウト試験体を作製した場合は、塩化物イオンがあっても減圧して作製すれば、自然電位は高く錆び難い傾向にあることが分かる。
【0063】
図10のグラフから、窒素ナノバブル水を用いて試験体を作製した場合は、常圧、減圧、塩化物イオンの有無にかかわらず全て自然電位が高く錆び難い傾向にあることが明らかである。
【0064】
以上の実験により、窒素ナノバブル水を用いて充填材であるグラウトを製造すれば、鉄筋の自然電位が高く錆び難い充填材を製造することができることが確認できた。