【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成27年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「SiC次世代パワーエレクトロニクスの統合的研究開発 研究開発項目I SiCに関する拠点型共通基盤技術開発」 委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に本発明の第1及び第2の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。但し、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各装置や各部材の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判定すべきものである。また、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることは勿論である。
【0016】
また、以下の説明における「左右」や「上下」の方向は、単に説明の便宜上の定義であって、本発明の技術的思想を限定するものではない。よって、例えば、紙面を90度回転すれば「左右」と「上下」とは交換して読まれ、紙面を180度回転すれば「左」が「右」に、「右」が「左」になることは勿論である。また本明細書及び添付図面においては、n又はpを冠した領域や層では、それぞれ電子又は正孔が多数キャリアであることを意味する。またnやpに付す+や−は、+及び−が付記されていない半導体領域に比して、それぞれ相対的に不純物濃度が高い又は低い半導体領域であることを意味する。
【0017】
<第1の実施の形態>
(エピタキシャルウェハの製造方法)
第1の実施の形態に係るエピタキシャルウェハの製造方法を、
図1のフローチャートを参照して説明する。
まずSiCからなる基板を用意し、エピタキシャル成長炉内に搬送する(ステップS1)。次に炉内に水素(H
2)ガスを導入し、1300〜40000Pa程度の圧力を調整した後、1600〜1700℃に昇温する(ステップS2)。その後、SiC原料ガスの導入(ステップS3)、導電型を決める主ドーパントを含む主ドーパントガスの導入(ステップS4)、少数キャリアを捕獲する副ドーパントを含む副ドーパントガスの導入(ステップS5)を行う。ステップS3〜S5は同時でも、或いは例えばステップS5をS4より僅かに遅らせて行う等タイミングをずらしても構わない。ここまでで基板の上に、耐圧維持層から基板の方向に流れる少数キャリアの捕獲及び消滅を促進する、SiCを主成分とするバッファ層が形成される。
【0018】
続いて副ドーパントガスの供給を停止し、SiC原料ガス、主ドーパントガスの流量を、耐圧維持層を形成するように調整する(ステップS6)。これによりバッファ層より高抵抗の耐圧維持層がバッファ層の上に形成される。すなわちバッファ層が耐圧維持層より低抵抗であるように、バッファ層及び耐圧維持層は構成されている。その後、降温、不活性ガス置換(ステップS7)を行った後に、ウェハ(基板)を炉外に搬出する(ステップS8)。上記はバッファ層と耐圧維持層を連続して形成する場合であるが、別々に形成する場合もあり得る。その際は、ステップS1〜S5の後にステップS7〜S8を行いバッファ層を形成した後に、ステップS1〜S4、S7〜S8とそれぞれ等価な処理を行い耐圧維持層を形成する処理を行う。以上のようにして第1の実施の形態に関わるエピタキシャルウェハが製造される。
【0019】
第1の実施の形態における主ドーパントと副ドーパントの組み合わせパターンとしては、例えば
図2(a)に示すように、主ドーパントとしてドナーレベルを形成する不純物元素の窒素(N)を選択した場合には、副ドーパントとなる不純物元素としては、アルミニウム(Al)、ボロン(B)、バナジウム(V)、チタン(Ti)、鉄(Fe)及びクロム(Cr)等のうち、少なくとも1種類以上が選択可能である。
また
図2(b)に示すように、主ドーパントとしてアクセプタレベルを形成する不純物元素のAlを選択した場合には、副ドーパントとなる不純物元素としては、N、B、V、Ti、Fe及びCr等のうち少なくとも1種類以上が選択可能である。
【0020】
副ドーパントのドーピング濃度は、主ドーパントより低濃度、かつ、1×10
14cm
−3程度以上、5×10
18cm
−3程度未満であることが望ましい。副ドーパントのドーピング濃度が1×10
14cm
−3程度未満の場合、少数キャリアの捕獲が不十分であり、帯状積層欠陥の発生を有効に防止することができない。一方、副ドーパントのドーピング濃度が、主ドーパントのドーピング濃度以下であっても5×10
18cm
−3程度以上の場合、ドーピング濃度が高くなりすぎ、エピ層における抵抗の増加や絶縁破壊電界の低下等の問題が大きくなる。
【0021】
また
図3のグラフ図に示すように、主ドーパントのドーピング濃度が高くなるほど、少数キャリアの寿命は短くなる。特に、ドーピング濃度が1×10
17cm
−3オーダレベルの領域における少数キャリアの寿命が700ns程度や1000ns程度であるのに対し、ドーピング濃度が1×10
18cm
−3程度以上の高濃度領域では、少数キャリアの寿命は約300ns程度以下と、非常に短くなることがわかる。これはオージェ再結合メカニズムによるものと推測される。
一方、主ドーパントのドーピング濃度が、1×10
19cm
−3程度以上であると、ダブルショックレー(Double Shockley)型の積層欠陥が発生し易くなる。そのため主ドーパントのドーピング濃度は、1×10
18cm
−3程度以上、1×10
19cm
−3程度未満であることが望ましい。
【0022】
図4で採用したpinダイオードのバッファ層では、約250℃における少数キャリア寿命が120ns程度であるように、主ドーパントのドーピング濃度を高めて、n型のバッファ層の厚みを変化させている。
またpinダイオードのバッファ層の上には、半導体装置の耐圧を維持するためのn
―型の耐圧維持層を積層し、高抵抗のエピ層として成膜している。耐圧維持層の厚みは約10μm、不純物元素のドーピング濃度は約1×10
16cm
−3程度である。
【0023】
また耐圧維持層の上部の一部には、Alを不純物元素としてイオン注入して、p型のアノード領域を形成している。アノード領域の厚みは約0.3μm、Alのドーピング濃度は約1×10
20cm
−3程度のボックスプロファイルに設定している。またアノード領域の上面にはアノード電極を成膜して設けると共に、裏面側でn型のカソード領域をなす基板の下面には、カソード電極を成膜して設けている。またpinダイオードの端部の耐圧を向上させるために、耐圧維持層の上部のアノード領域の周囲にAlをイオン注入して、アノード領域より低濃度のp型の半導体領域をさらに形成し、接合終端(JTE)構造を具備させている。
【0024】
図4に示すように、エピタキシャルウェハのバッファ層の厚みが厚くなるほど、帯状積層欠陥の発生頻度は低下していることがわかる。
図4の結果より、少数キャリア寿命が120ns程度である場合、帯状積層欠陥の発生を零(ゼロ)にするには、バッファ層の厚みは少なくとも10μm以上、より確実性を高めるためには15μm以上であることが望ましい。
【0025】
しかしバッファ層の厚みを厚くすると、エピタキシャル成長時の成膜プロセスのコストが増大する。そこで本発明者らは、研究の結果、少数キャリア寿命を更に短くすることを試み、帯状積層欠陥の発生頻度が零となる変化点をなすバッファ層の厚みを小さくするように試みた。そして、例えば厚みを5μm程度以下に抑えてバッファ層を成膜した場合であっても、帯状積層欠陥の発生頻度を著しく低下させることができるという知見を得た。この知見に基づいて行われた実験結果の一例を
図5のグラフ図に示す。
【0026】
図5中には、エピタキシャルウェハに、厚みを約5μmとし、少数キャリア寿命を変化させて成膜したバッファ層を設け、このエピタキシャルウェハを半導体ウェハとして用いたpinダイオードに、600A/cm
2で1時間程度の通電を行い、少数キャリア寿命と帯状積層欠陥の発生頻度との相関を調べた結果が示されている。
【0027】
図5に示したように、少数キャリア寿命を短くするほど、帯状積層欠陥の発生頻度が低下する。特に、少数キャリア寿命が100ns以下である場合、帯状積層欠陥の発生頻度が零となることがわかる。少数キャリア寿命を短くする方法としては、主ドーパントの濃度を高める方法が挙げられるが、先に述べたダブルショックレー(Double Shockley)型積層欠陥の発生の懸念があるために少数キャリア寿命を十分に小さくすることが困難である。そこで筆者らは深い準位を形成する副ドーパントの濃度を高めることにより、100ns以下の短い少数キャリア寿命を得ることができた。このようにして筆者らは5μm程度の実用的な膜厚のバッファ層で帯状積層欠陥の発生を防止することができた。原理的には少数キャリア寿命が短くなるほど、バッファ層膜厚を薄くすることができるが、0.1μm以下に薄くなると膜厚の制御が難しくなる。バッファ層膜厚としては0.1μm以上5μm以下程度が望ましい。
【0028】
特許第4364945号公報では少数キャリア寿命を短くするために、エピタキシャル成長時に再結合中心を形成する不純物を導入することが示されている。しかしながら、発明者らが検討した結果、従来の再結合中心による少数キャリア寿命の低減は、150℃程度以上の高温にすると効果が薄れ、長寿命になってしまうことが判明した。例えば
図6のグラフ図中の○印のデータ点で例示するように、主ドーパントであるNの濃度を5×10
17cm
−3程度としたときエピタキシャルウェハの場合、少数キャリア寿命は、温度が150℃では40nsを超え、更に温度が250℃では170ns以上に到達する。
【0029】
一方で、発明者らが提案する主ドーパントの濃度を1×10
18cm
−3程度以上に高める方法では、
図6中の菱形のデータ点で示すように、150℃程度以上の高温においても短い少数キャリア寿命を保てることが判明した。菱形のデータ点で示したエピタキシャルウェハは、主ドーパントであるNの濃度を5×10
18cm
−3程度とした。また少数キャリア寿命は、温度が150℃であっても20ns程度に留まると共に、更に温度が250℃に上昇しても、60ns未満に抑えることができた。これは再結合中心による再結合メカニズムは高温では有効に働かなくなる一方、発明者らの提案する手法はオージェ再結合メカニズムを利用しており温度依存性が小さいためと考えられる。
【0030】
(半導体装置の製造方法)
次に、第1の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を、pinダイオードを製造する場合を例として、
図7〜
図9を参照して説明する。
まず、
図7の断面図で示したようなエピタキシャルウェハを半導体ウェハとして用意する。
図7中には、カソード領域となるn
+型のSiCからなる基板21、この基板21の上に設けられた高濃度のn
+型のバッファ層22及びこのバッファ層22の上に設けられた低濃度のn
−型の耐圧維持層23の3層構造を有するエピタキシャルウェハが例示されている。耐圧維持層23は、pinダイオードの真性半導体層(i層)として機能する。
【0031】
次に
図8の断面図に示すように、p型を呈するAlイオンを耐圧維持層23のバッファ層22と反対側の表面に、例えばイオン注入法により注入すると共に、注入後に所定の活性化処理を施して、耐圧維持層23の上部の一部に高濃度のp
+型のアノード領域24を形成する。アノード領域24は、本発明の「第2導電型の半導体領域」に相当する。尚、
図8中には、アノード領域24の周囲の耐圧維持層23の上部にJTE構造をなすために、更にAlイオンを注入して、アノード領域24より低濃度のp型の半導体領域25,25が形成された場合のpinダイオードが例示されている。
【0032】
次に
図9の断面図に示すように、ニッケル(Ni)等で、アノード領域24の上面にアノード電極27を成膜すると共に、裏面側をなす基板21をカソード領域として、カソード領域の下面にカソード電極26を成膜する。
図7〜
図9を参照して説明した一連の工程により、バッファ層22をカソード側に有するpinダイオードが、半導体装置として製造できる。
【0033】
第1の実施の形態に係る半導体装置の製造方法によれば、エピタキシャルウェハのバッファ層22によって少数キャリアの捕獲を積極的に促進させることにより、バッファ層22の厚みを抑制しつつ、大電流でバイポーラ動作させた際にバッファ層22と基板21との界面から拡張する帯状積層欠陥の発生を効果的に抑制できる半導体装置を製造することができる。
【実施例1】
【0034】
次に、第1の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を用いた実施例1を説明する。まず<11−20>方向に4°オフしたn
+型の4H−SiCからなる基板21のSi面を、化学的機械研磨(CMP)した径(φ)3インチのSiC基板からなる基板21を、エピタキシャル成長装置の中に入れた。そして温度約1680℃で圧力10.3kPa程度の雰囲気中に、原料ガスとしてH
2を流量約1.69×10
2Pa・m
3/s(約100slm)、モノシラン(SiH
4)を流量約143.65×10
−3Pa・m
3/s(約85sccm)、プロパン(C
3H
8)を流量約38.87×10
−3Pa・m
3/s(約23sccm)、窒素(N
2)を流量約84.5×10
−3Pa・m
3/s(約50sccm)及びトリエチルボロン(C
6H
15B)を流量約16.9×10
−3Pa・m
3/s(約10sccm)でそれぞれ導入して、30分間程度、SiCの単結晶層のエピタキシャル成長を行った。Nは主ドーパントであり、Bは副ドーパントである。
【0035】
そして基板21のSi面側に、エピタキシャル成長層を厚さ約5μm成膜し、Nをドーピング濃度5×10
18cm
−3程度、Bをドーピング濃度1×10
15cm
−3程度でそれぞれ添加したバッファ層22を形成した。すなわち実施例1では、エピタキシャル成長装置の内側で、N及びBを並行して同時に、かつ、それぞれのドーピング濃度を制御してSiCの単結晶層に添加し、バッファ層22をエピタキシャル成長した。
【0036】
次に、バッファ層22のエピタキシャル成長条件のうち、SiH
4を流量約312.65×10
−3Pa・m
3/s(約185sccm)、C
3H
8を流量約116.61×10
−3Pa・m
3/s(約69sccm)及びN
2を流量約8.45×10
−3Pa・m
3/s(約5sccm)にそれぞれ変更すると共に、他の原料ガスの導入条件は同じ条件で、7時間程度、SiCの単結晶層のエピタキシャル成長を行った。そしてバッファ層22の上に、Nをドーピング濃度1×10
14cm
−3程度で添加した耐圧維持層23を厚さ約120μmでエピタキシャル成長した。
【0037】
そして耐圧維持層23の上部の一部に、Alを不純物元素としてイオン注入して、厚みを約0.3μm、ドーピング濃度を約1×10
20cm
−3程度のボックスプロファイルに設定したアノード領域24を形成した。またアノード領域24の上面にアノード電極27を成膜すると共に、基板21の下面にカソード電極26を成膜した。また半導体装置の端部の耐圧を向上させるために、耐圧維持層23の上部のアノード領域24の周囲にAlをイオン注入して、アノード領域24より低濃度のp型の半導体領域25,25をさらに形成し、JTE構造を備えるpinダイオードを複数個製造した。
【0038】
尚、バッファ層22の250℃における少数キャリア寿命は、主ドーパント及び副ドーパントのドーピング濃度の調節により50nsに制御して設定した。そして、それぞれのpinダイオードに600A/cm
2で1時間程度の通電実験を行い、帯状積層欠陥の発生頻度を調べた。
通電実験の結果、実施例1に係るpinダイオードには、バッファ層22が5μm程度の厚みであっても、帯状積層欠陥は一切発生せず、バッファ層22の厚みの抑制と、製品としてのpinダイオードの品質の向上とを好適に両立できることがわかった。
【0039】
(比較例)
一方、主ドーパント、副ドーパントのドーピング濃度の調節による少数キャリア寿命の制御を行わなかったpinダイオードを比較例として用意した。そして比較例に係るpinダイオードを、実施例1の場合と同様の通電実験を行ってバイポーラ動作させた後、アノード電極を剥離し、室温で420nm近傍のバンドパスフィルターを用いて、エピタキシャルウェハに対してフォトルミネッセンス発光の測定を行った。その結果、比較例に係るpinダイオードには、
図10の上面図中に白みがかった略台形状の領域で示すように、バッファ層22と基板21との界面から拡がる帯状積層欠陥SFbが観察された。
図10中には、エピタキシャルウェハの上下の両端に亘って長く延びた帯状積層欠陥SFbが、三角形状積層欠陥SFt
1,SFt
2と共に発光した状態が示されている。
【0040】
<第2の実施の形態>
第2の実施の形態における主ドーパントと副ドーパントの組み合わせパターン及びそれぞれの濃度は、第1の実施の形態の場合と同じである。
(エピタキシャルウェハの製造方法)
次に第2の実施形態に関わるエピタキシャルウェハの製造方法を
図11をもとに説明する。
【0041】
まず
図1のステップS1〜S4、S7〜S8を行い(ステップSa)、基板21上に主ドーパントのみをドープしたバッファ層22を形成したウェハ(下地基板)を作製する。その後、当該ウェハに対し、イオン注入装置を用いて副ドーパントのイオン注入を実施する(ステップS9〜S11)。続いて活性化熱処理装置を用いて当該ウェハの熱処理を行い、注入したイオンを活性化する(ステップS12〜S14)その後、
図1のステップS1〜S4、S7〜S8を行い、耐圧維持層23を形成する(ステップSb)。上記はイオン注入の後に引き続いて活性化熱処理を実施する場合であるが、活性化熱処理を耐圧維持層23形成後に実施してもよい。その際は、S12〜S14をステップSbの後に実施する。以上のようにして第2の実施形態に関わるエピタキシャルウェハを製造する。
【0042】
(半導体装置の製造方法)
第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法については、
図7〜
図9を参照して説明した第1の実施の形態に係る半導体装置の製造方法と同様であるため、重複説明を省略する。第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法によれば、第1の実施の形態に係る半導体装置の製造方法と同様に、バッファ層22の厚みを抑制しつつ、大電流でバイポーラ動作させた際にバッファ層22と基板21との界面から拡張する帯状積層欠陥の発生を効果的に抑制できる半導体装置を製造することができる。
【実施例2】
【0043】
次に、第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法を用いた実施例2を説明する。<11−20>方向に4°オフしたn
+型の4H−SiCからなる基板21のSi面を、化学的機械研磨(CMP)した径(φ)3インチのSiC基板からなる基板21を、エピタキシャル成長装置の中に入れた。そして温度約1680℃で圧力10.3kPa程度の雰囲気中に、原料ガスとしてH
2を流量約1.69×10
2Pa・m
3/s(約100slm)、SiH
4を流量約143.65×10
−3Pa・m
3/s(85sccm)、C
3H
8を流量約38.87×10
−3Pa・m
3/s(約23sccm)及びN
2を流量約84.5×10
−3Pa・m
3/s(約50sccm)でそれぞれ導入して、30分間程度、SiCの単結晶層のエピタキシャル成長を行って、単結晶層を厚さ約5μm成膜した。Nは主ドーパントである。
【0044】
次に、SiCの単結晶層が成膜された基板21をイオン注入装
置に搬送し、注入
室の内部に固定して、単結晶層にVイオンを、7×10
11cm
-2程度のドーズ量で注入した。Vは副ドーパントである。その後、基板21に活性化のための熱処理を施し、Vが主ドーパントのドーピング濃度より低く、1×10
14cm
-3程度以上、5×10
18cm
-3程度未満の範囲内で添加されたバッファ層22を形成した。
【0045】
次に実施例1の場合と同様に、バッファ層22のエピタキシャル成長条件のうち、SiH
4を流量約312.65×10
−3Pa・m
3/s(約185sccm)、C
3H
8を流量約116.61×10
−3Pa・m
3/s(約69sccm)及びN
2を流量約8.45×10
−3Pa・m
3/s(約5sccm)にそれぞれ変更すると共に、他の原料ガスの導入条件は同じ条件で、7時間程度、SiCの単結晶層のエピタキシャル成長を行った。そしてバッファ層22の上に、Nをドーピング濃度1×10
14cm
−3程度で添加した耐圧維持層23を、厚さ約120μmでエピタキシャル成長した。
【0046】
そして耐圧維持層23の上部の一部に、Alを不純物元素としてイオン注入して、厚みを約0.3μm、ドーピング濃度を約1×10
20cm
−3程度のボックスプロファイルに設定したp
+型のアノード領域24を形成した。またアノード領域24の上面にアノード電極27を成膜すると共に、基板21の下面にカソード電極26を成膜した。また半導体装置の端部の耐圧を向上させるために、耐圧維持層23の上部のアノード領域24の周囲にAlをイオン注入して、アノード領域24より低濃度のp型の半導体領域25をさらに形成し、JTE構造を備えるpinダイオードを複数個製造した。
【0047】
尚、バッファ層22の250℃における少数キャリア寿命は、主ドーパントおよび副ドーパントのドーピング濃度の調節により80nsに制御して設定した。そして、それぞれのpinダイオードに600A/cm
2で1時間程度の通電実験を行い、帯状積層欠陥の発生頻度を調べた。
通電実験の結果、イオン注入を用いてバッファ層22を形成した実施例2に係るpinダイオードは、バッファ層22が5μm程度の厚みであっても、帯状積層欠陥は一切発生せず、実施例1の場合と同様に、バッファ層22の厚みの抑制と、製品としてのpinダイオードの品質の向上とを好適に両立できることがわかった。
【0048】
また第1及び第2の実施の形態に係る半導体装置の製造方法では、pinダイオードを例として説明したが、半導体装置としてはpinダイオードに限定されるものではない。例えば、i層若しくはi層に近似できる程度の低濃度の半導体層をpn接合の間に挟まない「pnダイオード」、又は、ツェナーダイオードやトンネルダイオードのような「p
+n
+ダイオード」等でも構わない。
【0049】
更に本発明は、バイポーラトランジスタ、IGBT、サイリスタ等、各種のバイポーラ動作を行う半導体装置や、これらをモノ
リシックに集積化した半導体集積回路等に適用できる。
図7〜
図9ではn
+型の基板21の上にn
+型のバッファ層22及びn
−型の耐圧維持層23を備えた半導体装置を例示したが、これに限定されず、例えばp
+型の基板の上にp
+型のバッファ層及びn
−型の耐圧維持層が設けられた構成であってもよい。
【0050】
またSiCと、SiCとは禁制帯幅の異なる半導体材料とのヘテロ接合をエミッタ・ベース間等に用いたヘテロ接合バイポーラトランジスタ(HBT)等にも適用できる。更にMOSFETのようなユニポーラデバイスに適用した場合であっても、スイッチング時にMOSFETのボディダイオードに順方向電流が流れるため、本発明を適用すれば、帯状積層欠陥の発生の抑制に効果的である。
【0051】
また
図10中には帯状積層欠陥として、上面から見て上底及び下底が直線状の形態が例示されているが、本発明は他の形態を有する帯状積層欠陥の発生防止についても有効である。例えば矩形状の帯状積層欠陥、或いは矩形状であって矩形の長辺が鋸歯状であるような帯状積層欠陥、或いは台形の高さや矩形の短辺に相当する帯の幅が一定でない帯状積層欠陥等、各種の形態の帯状積層欠陥の発生を防止可能である。
以上のとおり本発明は、上記に記載していない様々な実施の形態等を含むとともに、本発明の技術的範囲は、上記の説明から妥当な特許請求の範囲に係る発明特定事項によってのみ定められるものである。