特許第6756483号(P6756483)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許6756483ε酸化鉄を含む配向体とその製造方法、並びに製造装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6756483
(24)【登録日】2020年8月31日
(45)【発行日】2020年9月16日
(54)【発明の名称】ε酸化鉄を含む配向体とその製造方法、並びに製造装置
(51)【国際特許分類】
   C01G 49/06 20060101AFI20200907BHJP
   G11B 5/706 20060101ALI20200907BHJP
   G11B 5/70 20060101ALI20200907BHJP
   G11B 5/845 20060101ALI20200907BHJP
   H01F 1/11 20060101ALI20200907BHJP
【FI】
   C01G49/06 Z
   G11B5/706
   G11B5/70
   G11B5/845 Z
   H01F1/11
【請求項の数】3
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2016-6230(P2016-6230)
(22)【出願日】2016年1月15日
(65)【公開番号】特開2016-135737(P2016-135737A)
(43)【公開日】2016年7月28日
【審査請求日】2018年11月16日
(31)【優先権主張番号】特願2015-8160(P2015-8160)
(32)【優先日】2015年1月19日
(33)【優先権主張国】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成26年度、独立行政法人科学技術振興機構、戦略的創造研究推進事業 チーム型研究(CREST)事業、産業技術力強化法第19条の適用と、国立研究開発法人科学技術振興機構、平成27年度戦略的創造研究推進事業(ACCEL)フィージビリティ課題「高性能ハードフェライト磁石の創出と実用化研究」、産業技術力強化法19条の適用とを受けるもの
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【弁理士】
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】大越 慎一
(72)【発明者】
【氏名】所 裕子
(72)【発明者】
【氏名】中林 耕二
(72)【発明者】
【氏名】生井 飛鳥
(72)【発明者】
【氏名】井元 健太
(72)【発明者】
【氏名】正田 憲司
【審査官】 須藤 竜也
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−063199(JP,A)
【文献】 特開昭57−162125(JP,A)
【文献】 特開2009−223970(JP,A)
【文献】 特開2009−259402(JP,A)
【文献】 特開2011−138565(JP,A)
【文献】 国際公開第2010/150853(WO,A1)
【文献】 国際公開第2008/029861(WO,A1)
【文献】 特開2008−174405(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/06
G11B 5/70
G11B 5/706
G11B 5/845
H01F 1/11
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性粒子として、Ga置換タイプのε酸化鉄粒子を含み、
ビヒクルとして、ウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂とを含み、
配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される磁性粒子の配向度の値が4.6以上であることを特徴とするGa置換タイプのε酸化鉄を含む配向体。
【請求項2】
請求項1に記載のGa置換タイプのε酸化鉄を含む配向体の製造方法であって、
溶媒と、ビヒクルとしてウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂とを含む混合溶液と、Ga置換タイプのε酸化鉄粒子とを振盪式の撹拌によって混合し、前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子を前記混合溶液に分散させる工程と、
前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子が分散した混合溶液を所定の基体上に設ける工程と、
前記混合溶液が設けられた基体へ2テスラ以上の磁場をかけながら前記溶媒を除去して、配向体を得る工程とを有することを特徴とする、Ga置換タイプのε酸化鉄を含む配向体の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載のGa置換タイプのε酸化鉄を含む配向体の製造方法を実施するための製造装置であって、
溶媒と、ビヒクルとしてウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂とを含む混合溶液と、前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子とを振盪式の撹拌によって混合し、前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子を前記混合溶液に分散させる分散機能と、
前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子が分散した混合溶液を、所定の基体上へ設ける塗布機能と、
前記Ga置換タイプのε酸化鉄粒子が分散した混合溶液へ2テスラ以上の磁場をかけながら前記溶媒を除去する、磁場印加機能を、有することを特徴とするGa置換タイプのε酸化鉄を含む配向体の製造装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ε酸化鉄を含む配向体とその製造方法、並びに製造装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ε酸化鉄は酸化鉄の中でも極めて稀な相である。そして、ナノオーダーの粒子サイズで室温において20kOe(1.59×10A/m)という巨大な保磁力(Hc)を示すε酸化鉄の存在が確認されている。酸化鉄の組成を有しながら結晶構造が異なる多形には最も普遍的なものとしてα酸化鉄およびγ酸化鉄があるが、ε酸化鉄もその一つである。
このε酸化鉄は巨大なHcを示すことから、高記録密度の磁気記録媒体その他の磁性用途、あるいは電波吸収用途への適用が期待されている。
【0003】
一方、磁性粒子の充填構造によって構築される磁気記録媒体をはじめとする磁性材料では、一般に特定方向の磁場に対する磁気特性を特に顕著に向上させる目的で、磁性粒子の磁化容易軸が一方向に揃うように、製造過程において配向処理が施される場合がある。
そして、代表的な配向処理として磁場配向が挙げられる。これは、磁性粉体の粒子を樹脂等のバインダーとともに混練して、所定形状の充填構造を形成させ、バインダーがまだ流動性を有しているあいだにその充填構造に対して一方向の磁場を印加し、粒子の磁化容易軸を印加磁場の方向に揃える処理である。この配向処理を終えた後、バインダーを硬化させると、充填構造を構成する粒子は磁化容易軸が一定方向に揃った状態で固着される。
【0004】
そして本発明者らは特許文献1において、磁化容易軸の配向方向に対して平行方向の磁場を印加することにより測定される磁気ヒステリシスループにおいて、20kOe(1.59×10A/m)を超える保磁力(Hc)が観測される磁性材料を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第5124825号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
高記録密度媒体や高効率の電波吸収体に用いられる磁性材料である磁気シートは、磁性粒子が一方向に沿って配向していることが望まれる。しかし、磁性材料中における磁性粒子の配向度を上げることは一般的に困難であった。
例えば、磁性粒子の配向度を、式(1)に示すように角形比(SQ)の値で定義した場合、当該配向度の値が3.5を超えるものは得られていなかった。
配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)・・・・式(1)
一方、磁気シート等の配向体における磁性粒子の配向度の値が3.5を超えて高まれば、磁気的な挙動がシャープになると考えられる。この結果、当該磁気シート等の配向体においても、磁性材料の単結晶に近い水準にて磁気記録密度向上や、ファラデー効果の効率向上が期待できるものである。
【0007】
本発明は上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、上述した磁性粒子の配向度の値が3.5を超える磁気シート等の配向体とその製造方法、並びに製造装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の課題を解決するため、本発明者らは研究を進めた。
そして、(1)磁性粒子:磁性粒子として、高い保磁力(Hc)を有するε酸化鉄粒子を用いることが好ましいこと、(2)磁性粒子の配向方法:媒体中の磁性粒子を配向させる際、配向の確実性を高める観点から2テスラ以上の強磁場の磁束密度下で行うことにより、得られる磁気シート等の配向度を、3.5を超えて上げることが出来るとの知見を得た。
さらに、上記(1)(2)の構成をもって、本発明に係る磁気シート等を製造するに際し、従来は、分散能力の高い遊星ボールミルや超音波式分散機といった装置を用いて磁性粉を分散させていたが、本発明によれば簡便な振盪式の分散攪拌装置であっても、磁気応答性の高い磁性分散体を製造し得ることも知見した。
【0009】
即ち、上述の課題を解決する第1の発明は、
磁性粒子としてε酸化鉄粒子を含み、
配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される磁性粒子の配向度の値が3.5を超えることを特徴とするε酸化鉄を含む配向体である。
第2の発明は、
溶媒とビヒクルとを含む混合溶液と、ε酸化鉄粒子とを振盪式の撹拌によって混合し、ε酸化鉄粒子を前記混合溶液に分散させる工程と、
前記ε酸化鉄粒子が分散した混合溶液を所定の基体上に設ける工程と、
前記混合溶液が設けられた基体へ磁場をかけながら前記溶媒を除去して、配向体を得る工程とを有することを特徴とする、ε酸化鉄を含む配向体の製造方法である。
第3の発明は、
前記磁場の磁束密度の値が、2テスラ以上であることを特徴とする第2の発明に記載のε酸化鉄を含む配向体の製造方法である。
第4の発明は、
第2または第3の発明を実施するための製造装置であって、
溶媒とビヒクルとを含む混合溶液と、ε酸化鉄粒子とを振盪式の撹拌によって混合し、ε酸化鉄粒子を前記混合溶液に分散させる分散機能と、
前記ε酸化鉄粒子が分散した混合溶液を、所定の基体上へ設ける塗布機能と、
前記ε酸化鉄粒子が分散した混合溶液へ磁場をかけながら前記溶媒を除去する、磁場印加機能を、有することを特徴とするε酸化鉄を含む配向体の製造装置である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、配向度の値が3.5を超える磁性シート等の配向体を得ることが出来た。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施例1に係るε酸化鉄を含む配向体の±70kOeにおける磁化曲線を示すグラフである。
図2図1の±30kOeにおける磁化曲線の拡大図である。
図3】実施例1に係るε酸化鉄を含む配向体における、自発磁化と、磁化困難軸との角度との関係を示すグラフである。
図4】本発明に係るε酸化鉄を含む配向体の製造装置例の模式図である。
図5図4に示す製造装置が振盪動作を行っているときの模式図である。
図6図4に示す製造装置が分散液の塗布動作を行っているときの模式図である。
図7図4に示す製造装置が磁場を印加する動作を行っているときの模式図である。
図8図4に示す製造装置において、本発明に係る配向体が得られた際の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について、(1)磁性粒子、(2)磁性粒子の分散方法、(3)磁性粒子の配向方法、(4)ビヒクル、(5)本発明に係るε酸化鉄を含む配向体の磁気特性、(6)本発明に係るε酸化鉄を含む配向体の製造装置、の順で説明する。
【0013】
(1)磁性粒子
本発明にて用いる磁性粒子は、高い保磁力(Hc)を有するε酸化鉄粒子が好ましい。
当該ε酸化鉄粒子の製造方法について、Ga置換タイプのε−Fe結晶粒子(例えば、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときx=0.45であるもの。)を、水−界面活性剤の系において合成する場合を例として、後述する実施例1にて説明する。
【0014】
(2)磁性粒子の分散方法
振盪式の撹拌装置を用い、ε酸化鉄粒子を所定の溶媒に分散させて分散液を得る際の操作について説明する。
遠沈管等の容器内へ、ε酸化鉄粒子、所定溶媒、ビヒクル、混合用ボール(例えば、0.3mmφのジルコニアボール)を装填する。そして、当該容器を振盪数100〜3000回/min、振幅1〜10mm、0.5〜10時間、振盪させることで、分散液が得られる。
【0015】
従来の技術では撹拌において、例えば特許第5124825号に開示したように、超音波式の撹拌分散装置や、遊星ボールミルのような大がかりな回転式の撹拌分散装置を用いて、当該磁性粒子を所定の媒体中に分散させていた。
【0016】
これに対し本発明では、ε酸化鉄粒子を磁性粒子として、本発明に係る所定の溶媒中へ分散させる際には、振盪式の撹拌装置という簡便な方法、装置を用いて分散させた場合であっても、配向度の高い配向体が得られることを知見したものである。
【0017】
(3)磁性粒子の配向方法
上述したε酸化鉄粒子を所定の溶媒に分散させて得られた本発明に係る分散液を、基体上に設ける。例えば、ガラス基板上にポリエステルフィルムを貼り付け、当該フィルム上へ分散液を滴下すればよい。
得られた基体上に設けられた本発明に係る分散液を、配向の確実性を高める観点から2テスラ以上の磁束密度下に置き、混合溶媒を揮散させてビヒクルを硬化させ、配向体として磁気シートを得た。
【0018】
(4)ビヒクル
本発明において、分散液を硬化させるビヒクルについて説明する。
本発明において用いるビヒクルは、ε酸化鉄粒子の配向度を上げ、且つ、これを保つ観点から、ウレタン樹脂、塩化ビニル樹脂、等から選択される1種以上を用いることが好ましく、なかでもウレタン樹脂と塩化ビニル樹脂との併用が好ましい。
これらの樹脂を、アセチルアセトン、ステアリン酸n−ブチル、シクロヘキサン、トルエン、メチルエチルケトン等から選択される1種以上の溶剤中に溶解したものをビヒクルとして用いれば良い。
【0019】
(5)ε酸化鉄を含む配向体の磁気特性
この結果、基体上に、ε酸化鉄を含む配向体であって配向度の値が3.5を超える磁気シートを得ることが出来た。
そして、詳細は実施例1にて説明するが、配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される磁性粒子の配向度の値が4.6と、3.5を大きく超えることが判明した。
つまり、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートは、ε酸化鉄固有の性質を発揮しており磁気的な挙動がシャープであると考えられる。この結果、当該配向体においても単結晶に近い水準にて、磁気記録密度の向上や、ファラデー効果の効率向上が期待できるものである。
【0020】
(6)本発明に係るε酸化鉄を含む配向体の製造装置
本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートは、専用の製造装置を用いることなく製造することも可能である。しかしながら、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートを、高い均一性や生産性をもって製造しようとするなら、後述する本発明に係る製造装置を用いることが好ましい。
【0021】
以下、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートの製造装置について、図面を参照しながら説明する。
図4〜8は本発明に係るε酸化鉄を含む配向体の製造装置例の模式図であるが、図4は当該装置の全体を示し、図5〜8は当該装置の動作状態を示す。
【0022】
図4に示すように、当該装置は、振盪部10、磁場印加部20、搬送部30を備えている。
振盪部10は、容器12を振盪装置11により振盪する部分である。当該振盪は例えば上下動であり振盪回数は100〜3000回/min、振盪の振幅は1〜10mmである。容器12中には、ε酸化鉄粒子とビヒクルと所定溶媒との混合液13と、混合用ボール14とが装填されている。
【0023】
混合用ボールは、直径0.1mmφ〜2mmφのジルコニアボールが好ましい。
【0024】
磁場印加部20は、磁場印加対象物を磁界に置く為の電磁石21を有する。電磁石21は永久磁石や超電導磁石であっても良い。そして、電磁石21は、磁場印加対象物へ2テスラ以上の磁束密度をもって磁力を及ぼすことが出来るものである。
【0025】
搬送部30は、搬送対象物である基板32を、振盪部10や磁場印加部20へ搬送するコンベア31を有する。
【0026】
まず、図5に示すように、容器12へε酸化鉄粒子とビヒクル、所定溶媒との混合液13と、混合用ボール14とを装填する。そして、当該容器12を振盪装置11へ設置し振盪を行って、混合液13と混合用ボール14とを撹拌し、混合液13をε酸化鉄粒子の分散液とする。
【0027】
次に、図6に示すように、コンベア31を用いて基板32を容器12下の所定位置に搬送する。そして、当該分散液となった混合液13を、容器12より基板32上へ注ぐ。このとき、容器12を傾斜させても良いし、容器12の下部を開口しても良いし、その他の方法でも良い。いずれにしても、混合用ボール14が基板32上へ落下しないように容器12にメッシュ等を設けておくことが好ましい。
【0028】
次に、図7に示すように、コンベア31を用いて、混合液13を設けた基板32を電磁石21内に設置する。そして、当該分散液となった混合液13を設けた基板32を、磁束密度2テスラ以上の磁界内に置き、当該分散液となった混合液13中のε酸化鉄を配向させながら、溶媒を揮散させて固化させる。
【0029】
当該分散液となった混合液13中の溶媒が揮散して固化したら、図8に示すように、コンベア31を用いて固化成膜した磁気シートを有する基板32を、電磁石21内から搬出すれば良い。
【0030】
以上説明したように、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートの製造装置を用いることで、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体である磁気シートを、高い均一性や生産性をもって製造することが出来る。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を参照しながら、本発明をより具体的に説明する。
(実施例1)
(1)ε酸化鉄粒子の調製
Ga置換タイプのε−Fe結晶粒子(但し、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときx=0.45であるもの。)を調製した。
〈手順1〉
原料溶液と中和剤溶液の2種類の溶液を調製した。
【0032】
《原料溶液の調製》
ガラス製の5Lビーカーに、純水4153mL、硝酸鉄(III)9水和物(純度99%)を442g、硝酸ガリウム(III)8水和物(純度99%)を127g添加し、室温でよく撹拌しながら溶解させ、原料溶液とした。
このときの仕込み組成は、GaとFeのモル比をGa:Fe=x:(2−x)と表すときx=0.45であった。
【0033】
《中和剤溶液の調製》
21.3%アンモニア水374.3gを、中和剤溶液とした。
【0034】
〈手順2〉
原料溶液を1200rpmでよく撹拌しながら、原料溶液中に中和剤溶液を毎時約500mLの速度で滴下することにより、両液を撹拌混合し、中和反応を進行させた。全量を滴下した後、混合液を30分間撹拌し続けた。液は赤褐色となり、鉄およびガリウムの水酸化物が生じたことがわかった。
【0035】
〈手順3〉
手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン469mL(仕込み割合でSi/(Fe+Ga)×100=150モル%に相当する。)を毎時約125mLの速度で滴下した。約1日そのまま、撹拌し続けた。
【0036】
〈手順4〉
手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理した。この処理で得られた沈殿物を回収した。回収された沈殿物(前駆体)を、純水を用いて複数回洗浄した。
【0037】
〈手順5〉
手順4で得られた沈殿物(前駆体)を乾燥した後、その乾燥粉に対し、大気雰囲気の炉内において1100℃で4時間の熱処理を施した。
【0038】
〈手順6〉
手順5で得られた熱処理粉を2モル/LのNaOH水溶液中で24時間撹拌し、粒子表面の珪素酸化物の除去処理を行った。次いで、ろ過・水洗し、乾燥した。
【0039】
以上の手順1から6を経ることによって、目的とするε酸化鉄粒子を得た。
得られたε酸化鉄粒子のTEM平均粒子径は25.4nm、標準偏差は11.1nm、(標準偏差/TEM平均粒径)×100で定義される変動係数は43.7%であった。
【0040】
(2)ε酸化鉄粒子分散液の調製
ε酸化鉄粒子10mgと、混合溶媒(トルエン:メチルエチルケトン=1:1)1.4mlと、ビヒクル(アセチルアセトン0.25gと、ステアリン酸n−ブチル0.25g、シクロヘキサン97.9mLとの混合溶媒へ、ウレタン樹脂(東洋紡社製UR−8200)34.9gと、塩化ビニル樹脂(日本ゼオン社製MR−555)15.8gとを溶解したもの)0.5mLと、0.3mmφのジルコニアボール20gとを、50mLの遠沈管に装填した。そして、当該遠沈管を振盪機に設置し、振盪数2000回/min、振幅3mm、4時間の振盪撹拌を実施して、ε酸化鉄粒子を混合溶媒中へ分散させて、ε酸化鉄粒子分散液を得た。
【0041】
(3)ε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの調製
2cm角のガラス基板を準備し、当該ガラス基板上にポリエステルフィルム(東レ株式
会社製、ルミラー)を設置した。
当該ポリエステルフィルム上へ、ピペットを用いて、得られたε酸化鉄粒子分散液を約0.03mL滴下した。
当該ε酸化鉄粒子分散液を滴下したガラス基板を、超電導磁石下において8テスラの磁束密度を印加しながら36時間静置し、混合溶媒を揮散させてビヒクルを硬化させ、実施例1に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートを調製した。
【0042】
(4)ε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの磁気特性
実施例1に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの磁気特性について、図面を参照しながら説明する。
図1は、実施例1に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの70kOe(5.57×10A/m)における常温(300K)における磁気ヒステリシスループを示すグラフであり、図2は、当該図1の±30kOeにおけるグラフの拡大図である。
図1,2は、磁化困難軸方向を0°とし、それに垂直(90°)な方向を磁化容易軸方
向として、15°毎に磁気ヒステリシスループを測定した結果を重ねて記載したものである。
ここで、図1,2において、磁化困難軸方向から0°のループを〇、15°のループを●、30°のループを△、45°のループを▽、60°のループを▲、75°のループを□、90°(磁化容易軸)のループを■でプロットした。
尚、磁気ヒステリシスループの測定は、カンタムデザイン社製のMPMS7の超伝導量子干渉計(SQUID)を用いた。そして、測定された磁気モーメントの値は、酸化鉄の質量で規格化してある。
図1,2より、本発明に係るε酸化鉄を含む配向体は、ε酸化鉄固有の性質を発揮していることが判明した。
【0043】
一方、図3は、実施例1に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートにおける自発磁化と、磁化困難軸との角度との関係を示すグラフである。
【0044】
図1〜3に示す結果から、磁化容易軸方向から磁化困難軸方向へ向けての、飽和磁化、残留磁化、角形比(SQ)の値を求めた。当該結果を表1に示す。
そして、当該表1の結果より、配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される配向度の値が4.6と、3.5以上であることが判明し、磁気的な挙動がシャープであると考えられる。この結果、実施例1に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートにおいても、単結晶に近い水準にて磁気記録密度の向上や、ファラデー効果の効率向上が期待できるものである。
【0045】
【表1】
【0046】
(実施例2)
実施例1にて説明した「(3)ε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの調製」において、ε酸化鉄粒子分散液を滴下したガラス基板を、超電導磁石下において2テスラの磁束密度を印加しながら36時間静置し、混合溶媒を揮散させてビヒクルを硬化させた以外は、実施例1と同様の操作を行い、実施例2に係る磁気シートを調製した。
そして、当該実施例2に係る磁気シートの磁気特性を実施例1と同様に測定した。
その結果、配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される配向度の値は4.8と、3.5以上であることが判明し、磁気的な挙動がシャープであると考えられる。この結果、実施例2に係るε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートにおいても、単結晶に近い水準にて磁気記録密度の向上や、ファラデー効果の効率向上が期待できるものである。当該結果を表2に示す。
【0047】
【表2】
【0048】
(比較例1)
(1)ε酸化鉄粒子の調製
〔手順1〕
ミセル溶液Iとミセル溶液IIの2種類のミセル溶液を調整した。
・ミセル溶液Iの作製
テフロン(登録商標)製のフラスコに、純水9mL、n−オクタン27.4mLおよび1−ブタノール5.4mLを入れた。そこに、硝酸鉄(III)9水和物を0.0060モル添加し、室温で良く撹拌しながら溶解させた。さらに、界面活性剤としての臭化セチルトリメチルアンモニウムを、純水/界面活性剤のモル比が35となるような量で添加し、撹拌により溶解させ、ミセル溶液Iを得た。
【0049】
・ミセル溶液IIの作製
25%アンモニア水4mLを純水2mLに混ぜて撹拌し、その液に、さらにn−オクタン18.3mLと1−ブタノール3.6mLを加えてよく撹拌した。その溶液に、界面活性剤として臭化セチルトリメチルアンモニウムを、(純水+アンモニア中の水分)/界面活性剤のモル比が30となるような量で添加し、溶解させ、ミセル溶液IIを得た。
【0050】
〔手順2〕
ミセル溶液Iをよく撹拌しながら、ミセルI溶液に対してミセル溶液IIを滴下した。滴下終了後、混合液を30分間撹拌し続けた。
【0051】
〔手順3〕
手順2で得られた混合液を撹拌しながら、当該混合液にテトラエトキシシラン6.0mLを加える。約1日そのまま、撹拌し続けた。
【0052】
〔手順4〕
手順3で得られた溶液を遠心分離機にセットして遠心分離処理した。この処理で得られた沈殿物を回収した。回収された沈殿物をクロロホルムとメタノールの混合溶液を用いて複数回洗浄した。
【0053】
〔手順5〕
手順4で得られた沈殿物を乾燥した後、大気雰囲気の炉内にて1150℃で4時間の熱処理を施した。
【0054】
〔手順6〕
手順5で得られた熱処理粉を、メノウ製乳鉢により丁寧に解粒を実施したのち、水酸化テトラメチルアンモニウム(N(CHOH)水溶液1モル/Lにより72時間、70℃で撹拌して粒子表面に存在するであろうシリカの除去処理を行った。その後溶液を、遠心分離器(日立工機製CR21GII)を用いて8000rpmで遠心分離して、ε−Fe結晶粉体からなる沈殿物を得た。この段階で、上澄みは濁っていたが、上澄み中の粒子は粒子径が小さく、超常磁性粒子を多く含有しているため、廃棄した。
当該手順6により、ε−Fe結晶粉体を得た。
【0055】
得られたε−Fe結晶粒子のTEM平均粒子径は27.6nm、粒子径の標準偏差は13.0nm、[粒子径の標準偏差]/[TEM平均粒子径]×100により算出される変動係数は47.0%であった。
【0056】
(2)ε酸化鉄粒子分散液の調製
上記ε−Fe結晶粉体に純水を添加し、超音波洗浄器に3時間かけ分散させることにより、ε−Fe結晶粉体の粒子が分散したコロイド溶液を得た。このとき、コロイド溶液中のε−Fe結晶粉体の濃度は15g/Lとした。
【0057】
(3)ε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの調製
上記コロイド溶液にテトラメトキシシラン(Si(CHO))を加え、2テスラの磁場中で、水との加水分解反応によりSiOゲルを生成させる手法により作製した。まず上記コロイド水溶液0.3mLと純水0.6mLをよく混ぜておく。この液にテトラメトキシシランを0.09mL加えて、すばやく撹拌して容器(ガラス製シャーレ)に流し込んだ。超伝導磁石を使った2テスラの磁場中に容器をセットし、24時間待った。その間に、磁場を受けながらコロイドがゲル化し、磁気シートが得られた。
【0058】
(4)ε酸化鉄粒子を含む配向膜である磁気シートの磁気特性
得られた磁気シートに対して、実施例1と同様に磁気特性を測定した。
その結果、配向度=SQ(磁化容易軸方向)/SQ(磁化困難軸方向)にて定義される配向度の値が3.2と、3.5に到達しないことが判明し、磁気的な挙動のシャープさは、実施例1に及ばないことが判明した。
【符号の説明】
【0059】
10振盪部
11振盪装置
12容器
13混合液
14混合用ボール
20磁場印加部
21電磁石
30搬送部
31コンベア
32基板
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8