(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記アディショナルガス導入管部の中心軸方向と、前記第一管部の円筒部の中心軸方向とのなす角度は、90°〜130°の範囲である、請求項1に記載のスプレーチャンバー。
前記二重管部の外側側面に、廃液用開口および該廃液用開口を介して前記二重管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有する、請求項1〜10のいずれか1項に記載のスプレーチャンバー。
前記試料霧化導入装置が設置された設置面の水平方向と、前記スプレーチャンバーの第一管部の円筒部の中心軸方向とがなす角度は、20°〜90°の範囲である、請求項13に記載の分析装置。
【発明の概要】
【0004】
上記試料霧化導入装置において、試料液はネブライザーにおいて液滴化される。一方、スプレーチャンバーは、試料液滴の粒径を選別する役割を果たすことができる。詳しくは、スプレーチャンバーは、主に、液滴の粒径の違いによる重さの違いを利用して重力差によって試料液滴の粒径を選別し、微細な液滴を分析装置の分析部に導入する役割を果たすことができる。
【0005】
一般に、上記試料霧化導入装置と分析部を備えた分析装置の分析部における分析感度(例えば信号強度)は、試料導入効率に比例する。したがって、スプレーチャンバーにおける試料液滴ロスを低減してより多くの液滴を分析部に導入することは、分析感度を向上するために望ましい。
【0006】
本発明の一態様は、試料液滴を導入して試料の分析を行う分析装置の高感度化を可能とするための新たな手段を提供する。
【0007】
本発明の一態様は、
ネブライザーにより霧化された試料液滴を含むガス流が導入される試料導入口部と、
上記試料導入口部へ導入された上記ガス流の少なくとも一部を外部へ排出する排出口部と、
一方の端部に上記試料導入口部を有し他方の端部に上記排出口部を有し、上記導入されたガス流の流路となる流路管部と、
を有し、
上記流路管部は、一方の端部に上記排出口部を有する第一管部と、一方の端部に上記試料導入口部を有する第二管部と、を有し、
上記第一管部は、上記排出口部を有する端部とは反対の端部を含む円筒部を有し、かつ上記排出口部の側に向かって内径が小さくなる円錐部を有し、
上記第二管部は、上記試料導入口部を有する端部とは反対の端部を含む円筒部を有し、上記第二管部の円筒部の外径は、上記第一管部の円筒部の内径より小さく、
上記第一管部の円筒部と上記第二管部の円筒部とが少なくとも一部で重なり合うことにより構成された二重管部を有し、
上記二重管部の外側側面に、アディショナルガス導入用開口およびこのアディショナルガス導入用開口を介して上記二重管部内にアディショナルガスを導入する導入路となるアディショナルガス導入管部を有する、スプレーチャンバー、
に関する。
【0008】
一態様では、上記アディショナルガス導入管部の中心軸方向と、上記第一管部の円筒部の中心軸方向とのなす角度は、90°〜130°の範囲であることができる。
【0009】
一態様では、上記アディショナルガス導入用開口は、上記二重管部の外側側面の第二管部寄りの位置に位置することができる。
【0010】
一態様では、上記二重管部の長さは、10.0mm〜30.0mmの範囲であることができる。
【0011】
一態様では、上記第一管部の円筒部の内径と上記第二管部の円筒部の外径との差は、1.0mm〜6.0mmの範囲であることができる。
【0012】
一態様では、上記第一管部の円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は、0.5〜3.0の範囲であることができる。
【0013】
一態様では、上記スプレーチャンバーは、全長が80.0mm〜200.0mmの範囲であることができる。
【0014】
一態様では、上記試料導入口部の中心軸方向と上記第一管部の円筒部の中心軸方向となす角度は、10°〜60°の範囲であることができる。
【0015】
一態様では、上記試料導入口部の中心軸方向と上記第一管部の円筒部の中心軸方向とは同一方向であることができる。
【0016】
一態様では、上記第一管部および上記第二管部は、ガラス、石英またはフッ素樹脂製の部材であることができる。
【0017】
一態様では、上記二重管部の外側側面に、廃液用開口およびこの廃液用開口を介して上記二重管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有することができる。
【0018】
本発明の更なる態様は、上記スプレーチャンバーおよびネブライザーを含む試料霧化導入装置に関する。
【0019】
本発明の更なる態様は、上記試料霧化導入装置および分析部を含む分析装置に関する。
【0020】
一態様では、上記試料霧化導入装置が設置された設置面の水平方向と、上記スプレーチャンバーの第一管部の円筒部の中心軸方向とがなす角度は、20°〜90°の範囲であることができる。
【0021】
一態様では、上記分析装置は誘導結合プラズマ分析装置であって、上記分析部はプラズマトーチを含むことができる。
【0022】
一態様では、上記分析装置は、誘導結合プラズマ質量分析装置であることができる。
【0023】
本発明の更なる態様は、
分析対象試料液中の成分を、上記分析装置により分析することを含み、
上記ネブライザーにより霧化された上記試料液の液滴を含むガス流が上記スプレーチャンバーの流路管部に流通される際、上記アディショナルガス導入管部からのアディショナルガスの導入を行うことを更に含む、試料液中の成分分析方法
に関する。
【0024】
本発明の一態様によれば、分析装置の高感度化に寄与し得るスプレーチャンバーを提供することができる。
更に本発明の一態様によれば、上記スプレーチャンバーを含む試料霧化導入装置、この試料霧化導入装置を含む分析装置、およびこの分析装置を用いる試料液中の成分分析方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下では、図面に基づき説明することがあるが、図面に示す態様は例示である。本発明は、図面に示された態様に限定されるものではない。
【0027】
[スプレーチャンバー]
本発明の一態様にかかるスプレーチャンバーは、ネブライザーにより霧化された試料液滴を含むガス流が導入される試料導入口部と、上記試料導入口部へ導入された上記ガス流の少なくとも一部を外部へ排出する排出口部と、一方の端部に上記試料導入口部を有し他方の端部に上記排出口部を有し、上記導入されたガス流の流路となる流路管部と、を有する。上記流路管部は、一方の端部に上記排出口部を有する第一管部と、一方の端部に上記試料導入口部を有する第二管部と、を有する。上記第一管部は、上記排出口部を有する端部とは反対の端部を含む円筒部を有し、かつ上記排出口部の側に向かって内径が小さくなる円錐部を有する。上記第二管部は、上記試料導入口部を有する端部とは反対の端部を含む円筒部を有する。ただし上記第二管部の円筒部の外径は、上記第一管部の円筒部の内径より小さい。そして、上記スプレーチャンバーは、上記第一管部の円筒部と上記第二管部の円筒部とが少なくとも一部で重なり合うことにより構成された二重管部を有し、上記二重管部の外側側面に、アディショナルガス導入用開口およびこのアディショナルガス導入用開口を介して上記二重管部内にアディショナルガスを導入する導入路となるアディショナルガス導入管部を有する。
【0028】
以下、上記スプレーチャンバーについて、更に詳細に説明する。
【0029】
まず従来用いられていたスプレーチャンバーについて説明する。
図5は、誘導結合プラズマ分析装置のスプレーチャンバーとして広く用いられているスコット型スプレーチャンバーの一例を示す概略図(側面図)である。
図5に示すスコット型スプレーチャンバー(スコットダブルパススプレーチャンバー)20では、試料液がネブライザー21において霧化されて生成された試料液滴が、キャリアガスとともにガス流として導入される。スコット型スプレーチャンバー20は、スプレーチャンバー全体が二重管構造を有する管状部材であって、試料液滴を含むガス流がネブライザーから二重管の内管22内へ導入される。そしてスプレーチャンバー20内では、液滴の粒径の違いによる液滴の重さの違いを利用して、重力差によって粒径の小さな液滴と粒径の大きな液滴が選別される。粒径の小さな液滴は、二重管の外管23内を経てスプレーチャンバー上方から(
図5に示す態様では排出口24から)排出されて分析部に導入される。これに対し、粒径の大きな液滴はスプレーチャンバー内の下方に落下し、
図5に示す態様ではスプレーチャンバー下方に設けられた廃液口25からスプレーチャンバー外部へ廃液される。
【0030】
上記スコット型スプレーチャンバーは、一般に、他のタイプのスプレーチャンバーと比べて試料液滴を含むガス流の流路が長いため、重力差に基づく粒径選別能が高いと言われている。しかし、上記スコット型スプレーチャンバーや、その他従来のスプレーチャンバーでは、スプレーチャンバー内部の壁面に液滴が付着して液滴の壁面付着ロスが発生することが、分析部への試料導入効率を低下させる原因になると考えられる。
これに対し本発明の一態様にかかる上記スプレーチャンバーでは、上記二重管部から導入されるアディショナルガスが、試料液滴の壁面付着ロスを低減することに寄与することができる。詳しくは、二重管部に導入されるアディショナルガスが、二重管部から第一管部の円錐部に向かって壁面に沿ってらせん状に旋回するアディショナルガス流をもたらし、このアディショナルガス流が壁面への液滴の付着を抑制するとともに試料液滴を取り込み試料液滴を排出口に導く役割を果たすことにより、試料液滴の壁面付着ロスを低減することができる。
以下、本発明の一態様にかかるスプレーチャンバーについて、更に詳細に説明する。
【0031】
図1は、本発明の一態様にかかるスプレーチャンバーの一例を示す概略図(側面図)である。
図1に示すスプレーチャンバー10は、第一管部11および第二管部12を含む流路管部13からなる。
図1に示す態様のスプレーチャンバー10では、第一管部11が、詳細を後述する分析部と接続されている。詳しくは、第一管部11は、分析部の最もスプレーチャンバー側に位置する部分であるプラズマトーチの入口部14と継手部材15を介して接続されている。また、
図1に示す態様のスプレーチャンバー10において、第二管部12はネブライザー16と接続されている。更に、スプレーチャンバーのみの概略図を示した図面が、
図2Aおよび
図2Bである。
図2Aは上面図、
図2Bは側面図である。なお図中、点線は厚みを示すものであり、二重管を示すものではない。
【0032】
図2Aおよび
図2Bに示すスプレーチャンバー10は、一方の端部に排出口部110を有し、他方の端部に試料導入口部121を有する流路管部13からなる。流路管部13は、第一管部11と第二管部12により構成されている。第一管部11は、排出口部110、円錐部111および円筒部112からなる。一方、第二管部12は、円筒部120および試料導入管部121からなる。そして、第一管部11の円筒部112と第二管部12の円筒部120とが少なくとも一部で重なり合って連結することにより、二重管部100が構成されている。したがって、二重管部100の二重管の空間の内側壁面は、第二管部12の円筒部120の外側側面であり、二重管部100の二重管の空間の外側壁面は、第一管部11の円筒部112の壁面である。
【0033】
次に、第一管部、第二管部について、更に詳細に説明する。
【0034】
図2Aおよび
図2B中、第一管部11は、一方の端部に排出口部110を有し、排出口部110は円錐部111と連通している。円錐部111は、排出口部の側に向かって内径が小さくなる円錐形状を有する。この円錐部111には、第一管部の他方の端部を含む円筒部112が連通している。
一方、第二管部12は、第二管部の一方の端部を含む円筒部120と他方の端部を含む試料導入口部121とが連通している。
以上の構造を有する第一管部11と第二管部12とによって、流路管部13が構成されている。更に、第一管部11と第二管部12との接続部において、両管部の円筒部が重なり合って二重管部100が構成されている。二重管部とは、第一管部の円筒部の端部開口と第二管部の円筒部の端部開口との間の部分である。したがって二重管部の両端は開口であるが、開口で囲まれる仮想平面を、以下では底面と呼ぶ。
図2Aおよび
図2Bに示す態様では、第一管部11と第二管部12とは別部材であって、第一管部11の円筒部112の端部開口に、第二管部12の円筒部120を挿入することにより両管部が接続されて流路管部13が構成されている。例えば、第一管部11の円筒部112が、端部においてテーパー状に先細り端部開口の内径が第二管部12の円筒部120の端部開口の外径と略同一の形状であることにより、両管部を接続して形成される二重管部100に導入されるアディショナルガスが、両管部の接続部から外部に漏出することを抑制することができる。または、シール部材等により接続部の密閉性を確保してもよい。なお接続部の密閉性については、アディショナルガスの漏出を完全に防ぐことは必須ではなく、二重管部に導入されたアディショナルガスがガス流となって流れることを妨げない程度の漏出は許容されるものとする。または、第一管部と第二管部とを一体成形して流路管部を構成してもよい。
【0035】
二重管部100は、外側側面、即ち第一管部11の円筒部112の外側側面に開口を有する。この開口は、二重管部内(即ち二重管部の内側壁面と外側壁面とに囲まれる空間)にアディショナルガスを導入するための開口(アディショナルガス導入用開口)である。アディショナルガス導入管部101は、上記開口を介して二重管部内にアディショナルガスを導入する導入路となる。アディショナルガス導入管部から開口を介して二重管部内にアディショナルガスを導入することにより、導入されたアディショナルガスは二重管部内を旋回して第一管部11の円錐部111に向かってらせん状のガス流(アディショナルガス流)をもたらすことができる。スプレーチャンバーの排出口部側に向かって内径が小さくなる円錐部の存在も、アディショナルガス流がらせん状のガス流となることに寄与することができる。こうして発生するアディショナルガス流は、円錐部の壁面に沿ってらせん状に排出口部に向かうガス流になることができる。このようなアディショナルガス流により、試料液滴が円錐部の壁面に付着することを抑制することができ、更にはアディショナルガス流が試料液滴を取り込み排出口部へ導くことができる。
【0036】
図2Aおよび
図2Bに示す態様では、第一管部11の円筒部112は、アディショナルガス導入用開口以外に廃液用開口と廃液用開口を介して廃液するための廃液管部113を有する。この廃液管部113は、二重管部100の内部から外部へ廃液する廃液路としての役割を果たすことができる。また、
図2Aおよび
図2Bに示す態様では、第二管部12も廃液管部122を有する。この廃液管部122は第二管部12の内部から外部へ廃液する廃液路としての役割を果たすことができる。
【0037】
次に、上記スプレーチャンバーの各部について、更により詳細に説明する。
【0038】
図3A〜
図3Cは、
図2Aおよび
図2Bに示すスプレーチャンバーにおけるアディショナルガス導入管部の配置の説明図である。
図3Aは
図2Aに示す上面図に説明のための矢印を示した図面であり、
図3Bは二重管部のアディショナルガス導入管部を含む部分の断面図である。
図3Cは、
図2Bに示す側面図に説明のための矢印を示した図面である。図中の矢印は、それぞれ以下の方向を示している。X方向は、アディショナルガス導入管部の中心軸方向である。Y方向は、第一管部の円筒部の中心軸方向であり、第一管部の円錐部の中心軸方向および第二管部の円筒部の中心軸方向と一致する。また、Y方向は、流路管部の中心軸方向とも一致する。Z方向は、導入管部の中心軸方向である。
【0039】
他の態様のスプレーチャンバーの上面図が
図4Aであり、側面図が
図4Bである。
図4Aおよび
図4Bに示す態様は、アディショナルガス導入管部101および試料導入口部121の配置が異なる点以外、
図1〜
図3Cに示すスプレーチャンバーと同様である。同様の点の説明は省略する。
【0040】
X方向とY方向とのなす角度θ1は、
図3A〜
図3Cに示す態様では90°であり、
図4Aおよび
図4Bに示す態様では110°である。角度θ1は、0°〜180°の範囲で規定されるものとする。角度θ1は、アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点から90°〜130°の範囲であることが好ましい。また、アディショナルガス導入用開口は、二重管部の外側側面の任意の位置に設けることができる。例えば、二重管部の外側側面の中央を基準として、第二管部寄りの位置に設けてもよく、第一管部寄りの位置に設けてもよく、アディショナルガス導入用開口の中心が二重管部の外側側面の中央と一致する位置に設けてもよい。アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点からは、アディショナルガス導入用開口は、二重管部の外側側面の第二管部よりの位置に設けることが好ましく、より第二管部に近い位置に設けるほど好ましい。
【0041】
アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点からは、二重管部の長さ、即ち第一管部側の底面を第一底面と第二管部側の底面との間の最短距離は、10.0mm〜30.0mmの範囲であることが好ましい。また、アディショナルガス導入用開口の直径は、0.1〜3.0mmの範囲であることが好ましい。なお廃液用開口の直径についても、同様である。
【0042】
第一管部において、円錐部は、円筒部と排出口部との間に位置し、排出口部の側に向かって内径が小さくなる部分である。第一管部において、円筒部側から排出口部側に向かう内径変化が開始する位置を円錐部の一方の端部とし、内径変化が終了する位置を円錐部の他方の端部とする。円錐部の一方の端部から他方の端部までの最短距離を、円錐部の長さと呼ぶ。円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は、円錐部での試料液滴の壁面付着ロスを低減する観点から0.3以上であることが好ましい。上記の比が0.3以上(より好ましくは0.5以上、更に好ましくは0.8以上)であることにより、円錐部においてアディショナルガスのガス流を、より円滑にらせん状に旋回させることができる。また、上記の比が大きくなるほど円錐部の最大内径に対して円錐部の長さが長くなることを意味する。上記の比は、例えば4.0以下または3.5以下であることができる。ただし円錐部の長さを長くして上記の比を大きくするほど、スプレーチャンバーの全長が長くなりスプレーチャンバーは大型になる。一方、本発明者らの検討によれば、上記の比が3.0超になるほど円錐部を長くしてもそれ以上の分析感度の変化は見られなかった。したがって、分析感度の向上とスプレーチャンバーの小型化の両観点から、上記の比は、3.0以下であることが好ましい。
【0043】
第一管部の円錐部の最大内径は、例えば25.0〜65.0mmの範囲であることが好ましい。円錐部の最大内径とは、即ち円錐部と連通する円筒部の内径である。なお円筒部は、先に記載したように端部においてテーパー状に先細る形状を有していてもよい。この場合、ここでいう円筒部の内径とは、円筒部の最大内径をいう。また、第一管部の円錐部の最小内径は、例えば5.0〜10.0mmの範囲であることが好ましい。円錐部は、中心軸を通る断面の形状が完全な三角形の一部であることは必須ではなく、上記断面形状の少なくとも一部に曲線が含まれることも許容されるものする。
【0044】
上記スプレーチャンバーにおいて、第二管部の円筒部の外径は、上記第一管部の円筒部の内径より小さい。これにより、第一管部の円筒部と上記第二管部の円筒部とが少なくとも一部で重なり合うことにより二重管部を形成することができる。第一管部の円筒部の内径と第二管部の円筒部の外径との差は、1.0mm〜6.0mmの範囲であることが好ましい。上記の差が1.0mm〜6.0mmの範囲であれば、二重管部において、第一管部の円筒部の壁面と第二管部の円筒部の外側側面とにより囲まれる空間、即ちアディショナルガスが導入される空間の幅を、0.5mm〜3.0mmの範囲とすることができる。上記空間の幅が0.5mm以上であることは、二重管部からの廃液を容易にする観点から好ましい。また、上記空間の幅が3.0mm以下であることは、アディショナルガス導入管部から導入されたアディショナルガスのガス流を二重管部内で円滑に旋回させる観点から好ましい。一例として、第二管部の円筒部の内径は、例えば20.0mm〜60.0mmの範囲であることが好ましい。例えば第二管部の円筒部の内径が20mm以上であれば、試料導入口部から導入されたガス流中の試料液滴同士の衝突を効果的に抑制することができ、液滴同士の衝突による液滴ロスを低減することができる。また、例えば第二管部の円筒部の内径が60mm以下であれば、第二管部の小型化、更にはスプレーチャンバーの小型化の観点から好ましい。
【0045】
第二管部は、円筒部および試料導入口部を有し、好ましくは円筒部と試料導入口部とからなる。
図3Cに示す態様では、試料導入口部121の中心軸方向(Z方向)と第一管部の円筒部の中心軸方向(Y方向)となす角度θ2は、30°である。一方、
図4Bに示す態様では、Z方向はY方向と同一方向(即ち、Z方向とY方向とのなす角度θ2=0°)。θ2は、0°〜90°の範囲で規定されるものとする。θ2が0°の場合、試料導入口部の中心軸方向と略同一の方向から試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバー内に導入すると、試料液滴は第二管部の円筒部の壁面と衝突し難くなる。これによりスプレーチャンバー内での液滴壁面付着ロスをより一層効果的に低減することができると考えられる。したがって、分析感度のより一層の向上の観点からは、Z方向とY方向とは同一方向であることが好ましい。
一方、Z方向がY方向に対して傾斜している場合、試料導入口部の中心軸方向と略同一の方向から試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバー内に導入すると、試料液滴の少なくとも一部が第二管部の円筒部の壁面と衝突し易くなる。第二管部の円筒部の壁面と衝突すると、液滴は衝突粉砕され、より微細な液滴となることができるため、スプレーチャンバーから排出される液滴がより微細化される傾向がある。試料液滴の微細化は、分析装置の分析部における感度の安定性の観点から好ましい。したがって、安定性を重視する場合には、Z方向はY方向に対して傾斜していることが好ましく、例えばθ2は10°〜60°の範囲であることが好ましい。
【0046】
上記スプレーチャンバーにおいて、第二管部の円筒部の長さは、例えば10.0〜70.0mmであることが好ましい。円筒部の少なくとも一部は、二重管部を構成しているが、上記長さとは、二重管部を構成している部分の長さも含むものとする。なお第二管部の円筒部は、例えば
図2Bおよび
図3Cに示す態様のように、完全な円筒形状ではなく試料導入口部側の底面部が、第二管部の円筒部の中心軸方向に対して傾斜していてもよい。この場合、円筒部の長さとは、最短長さ(例えば
図3C中のl)をいうものとする。
【0047】
上記スプレーチャンバーにおいて、第一管部の排出口部は、排出口となる開口を有する限り、その形状および長さは特に限定されるものではない。排出口部の先端は、通常、分析装置において分析部との接続部分となるため、分析部の形状に応じて先端形状を決定すればよい。
一方、第二管部の試料導入口部は、ネブライザーから試料液滴を含むガス流を導入するための開口を有する限り、その形状および長さは特に限定されるものではない。試料導入口部は、通常、ネブライザー先端を挿入する挿入口部となる。試料導入口部は、例えば円筒形状を有することができるが、上記の通り形状は特に限定されるものではない。
【0048】
上記スプレーチャンバーの全長については、一般に、全長が短いほどスプレーチャンバー内での液滴ロスは低減できる傾向があり、一方、全長が長いほど粒径選別能は高くなる傾向がある。以上の点を考慮し、上記スプレーチャンバーの全長は、例えば80.0mm〜200.0mmの範囲であることが好ましい。スプレーチャンバーの全長とは、側面視において、一方の最端部から他方の最端部までの最短距離をいうものとする。例えば、
図3C中の長さL、
図4B中の長さLである。
【0049】
上記スプレーチャンバーは、二重管部からアディショナルガスを導入することができ、これにより試料液滴の壁面付着ロスを低減することができる。ただしスプレーチャンバー内での重力差を利用した試料液滴の粒径選別によって、液滴として導入された試料液の一部がスプレーチャンバーから排出されずにスプレーチャンバー内に残留することがあり得る。また、壁面付着が起こることにより液滴として導入された試料液の一部がスプレーチャンバー内に残留することもあり得る。上記スプレーチャンバーは、このように残留した試料液を外部へ廃液するための廃液路を少なくとも1つ有することが好ましい。例えば、第一管部内に残留した試料液を排出するための廃液路は、第一管部の任意の位置に設けることができ、一態様では二重管部を構成する部分に設けることができる。即ち、上記スプレーチャンバーは、二重管部の外側側面に廃液用開口および廃液用開口を介して二重管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有することができる(例えば
図2B中、廃液管部113)。また、第二管部の外側側面に、第二管部内に残留した試料液を廃液するための廃液用開口と廃液用開口を介して第二管部内から外部へ廃液する廃液路となる廃液管部を有することもできる(例えば
図2B中、廃液管部122)。
【0050】
なお本発明および本明細書において、円筒部に関して記載する「円筒」とは、完全な円筒形状を意味するものに限定されず、先に記載したように円筒形状の部分と連続する端部に内径が異なる部分が含まれる態様も包含されるものとする。円錐部に関して記載する「円錐」とは、先に記載したように、完全な円錐形状を意味するものに限定されるものではない。また、2つの方向の位置関係について記載する略同一、2つの径の大きさに関して記載する略同一とは、完全な同一に加えて一般に許容される誤差範囲を含む意味で用いるものとする。上記誤差範囲とは、2つの方向の位置関係については、例えば0.1°以内の範囲を意味し、2つの径の大きさに関しては、例えば1%以内の範囲を意味する。
【0051】
以上説明した第一管部および第二管部は、任意の材料製の部材であることができる。上記材料としては、耐酸性、耐アルカリ性等の化学的耐久性の観点からは、各種ガラス、石英、フッ素樹脂、および、エンジニアリングプラスチックまたはスーパーエンジニアリングプラスチックに分類される各種樹脂等が好ましい。フッ素樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン等の各種フッ素樹脂を挙げることができる。エンジニアリングプラスチックとしてはポリカーボネート(PC)等の各種エンジニアリングプラスチックを挙げることができ、スーパーエンジニアリングプラスチックとしてはポリエーテルエーテルケトン(PEEK)等の各種スーパーエンジニアリングプラスチックを挙げることができる。また、第一管部および第二管部は、単管構造の部材であることができる。第一管部および第二管部は、公知の成形方法により製造することができる。
【0052】
[試料霧化導入装置]
本発明の一態様は、上記スプレーチャンバーおよびネブライザーを含む試料霧化導入装置に関する。
【0053】
上記試料霧化導入装置については、スプレーチャンバーが本発明の一態様にかかるスプレーチャンバーである点以外、試料霧化導入装置に関する公知技術を何ら制限なく適用することができる。ネブライザーとしては、試料液を霧化して試料液滴を含むガス流をもたらすことができる公知のネブライザーを用いることができる。
【0054】
上記試料霧化装置は、試料液を霧化して各種分析装置に導入するために好適に用いることができる。上記試料霧化装置は、従来の試料霧化装置と比べて高い試料導入効率を達成することができ、分析装置の分析感度向上に寄与することができる。
【0055】
[分析装置]
本発明の一態様は、本発明の一態様にかかる試料霧化導入装置および分析部を含む分析装置に関する。
【0056】
図1に示す態様において、プラズマトーチの入口部14は、分析部において、最も試料霧化導入装置側に位置する部分である。プラズマトーチは、例えば、上記分析装置の一例である誘導結合プラズマ質量分析装置(ICP−MS;Inductively Coupled Plasma−Mass Spectrometer)または誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP−AES;Inductively Coupled Plasma−Atomic Emission Spectrometer)において、プラズマによりイオン化を行う部分である。
【0057】
上記分析装置における試料霧化導入装置の設置角度は、試料霧化導入装置が設置された設置面の水平方向(
図1中、H方向)と、スプレーチャンバーの第一管部の円筒部の中心軸方向(
図1中、Y方向)とがなす角度θ3が、0°〜90°(即ち設置面の水平方向と平行〜設置面の水平方向と垂直)の範囲であることが好ましい。これにより、ネブライザーからスプレーチャンバーに導入された試料液滴の中で、粒径の大きな液滴を重力によって落下させて粒径を選別する粒径選別能を向上することができる。なお角度θ3は、0°〜±90°の範囲で規定するものとする。θ3がマイナスの値を取る場合、スプレーチャンバーは、第二管部より第一管部が下方に位置するように設置されている。また、スプレーチャンバーの排出口部の外側側面の任意の位置に、排出口部内に残留した試料液を廃液するための廃液用開口を1つ以上設けてもよい。中でも、θ3がマイナスの値を取る場合、そのような廃液用開口をスプレーチャンバーの排出口部の外側側面に設けることが好ましい。
角度θ3は、分析部への試料導入効率と粒径選別能との両観点を考慮すると、20°〜90°の範囲であることがより好ましく、20°〜70°の範囲であることが更に好ましく、20°〜50°の範囲であることが一層好ましく、20°〜30°の範囲であることがより一層好ましい。
【0058】
上記分析装置は、試料液を微細な液滴として導入することが求められる各種分析装置であることができる。そのような分析装置としては、誘導結合プラズマ分析装置等を挙げることができる。誘導結合プラズマ分析装置は、分析部の最も試料霧化導入装置側の部分にプラズマトーチを含む。プラズマトーチに導入された試料液滴に含まれる分析対象試料は、プラズマトーチ先端で生成されたプラズマによってイオン化される。誘導結合プラズマ分析装置の具体例としては、ICP−MS、ICP−AES等を挙げることができる。例えば、ICP−MSの場合、質量分析計に上記イオン化により発生したイオンが導入され、質量分析計によって質量選別されてイオン検出器によって検出される。こうしてイオン検出器によって検出されるイオンの質量に基づき定性分析を行うことができ、各質量のイオンの信号強度に基づき定量分析を行うことができる。一般に、試料霧化導入装置から導入される試料量が多いほど信号強度(分析感度)は高まる。本発明の一態様にかかる試料霧化導入装置によれば、従来の試料霧化導入装置と比べて試料導入効率を向上させることができるため、分析感度の向上が可能となる。また、ICP−MSに限らずICP−AES等の各種分析装置において、試料導入効率の向上は分析感度の向上に寄与し得るため、本発明の一態様にかかる試料霧化導入装置を使用することは好ましい。
【0059】
[成分分析方法]
本発明の一態様は、
分析対象試料液中の成分を、本発明の一態様にかかる分析装置により分析することを含み、
上記ネブライザーにより霧化された上記試料液の液滴を含むガス流が上記スプレーチャンバーの流路管部に流通される際、上記アディショナルガス導入管部からのアディショナルガスの導入を行うことを更に含む、試料液中の成分分析方法、
に関する。以下に、上記成分分析方法について、更に詳細に説明する。
【0060】
上記成分分析方法において用いられる分析装置の詳細は、先に記載した通りである。分析対象試料液は、分析装置の試料霧化装置に導入されてネブライザーにおいて霧化され、スプレーチャンバーの流路管部に流通された後、分析部に導入されて成分分析に付される。
【0061】
ネブライザーでは、試料液をキャリアガスと混合して噴霧することにより、試料液滴を含むガス流を生成(試料を霧化)することができる。キャリアガスとしては、不活性ガスの一種または二種以上が一般に使用される。キャリアガスの具体例としては、例えばアルゴンガスを挙げることができる。ネブライザーにおける試料霧化については、公知技術を何ら制限なく適用することができる。
【0062】
ネブライザーにより霧化された試料液滴を含むガス流は、本発明の一態様にかかるスプレーチャンバーに導入され、スプレーチャンバーの流路管部に流通される。キャリアガス流量およびネブライザーにより霧化されてスプレーチャンバーに導入される試料液滴量(噴霧量)は、スプレーチャンバーのサイズ等を考慮して設定することができる。一例として、キャリアガス流量は、例えば0.5〜1.2L/minとすることができ、ネブライザーにより霧化されて噴霧される試料液滴量(噴霧量)は、例えば25〜100μL/minとすることができる。なお、キャリアガス流量および試料液滴量は、分析対象試料液に含まれる成分の種類(例えば元素種)等を考慮して適宜設定することができるため、上記範囲に限定されるものではない。上記成分分析方法では、試料液滴を含むガス流が流路管部に流通される際、アディショナルガス導入管部からアディショナルガスを導入する。これにより、先に記載したように、導入されたアディショナルガスは、二重管部内を旋回し第一管部の円錐部に向かってらせん状のガス流(アディショナルガス流)をもたらすことができる。アディショナルガスとしては、例えば、キャリアガスの例として例示した各種ガスを用いることができる。アディショナルガスは、例えば、ガス供給源とアディショナルガス導入管部とを樹脂製チューブ等のチューブで接続してアディショナルガス供給源からアディショナルガス導入管部およびアディショナルガス導入用開口を経て、二重管部へ導入することができる。樹脂製チューブとしては、耐久性の観点から、ポリテトラフルオロエチレン等のフッ素樹脂製のチューブが好適である。アディショナルガス流量は、例えば、0.3〜0.5L/minとすることができるが、二重管部のアディショナルガスが導入される空間の幅、円錐部のサイズ等を考慮し適宜設定すればよいため上記範囲に限定されるものではない。スプレーチャンバーの排出口部から排出された試料液滴を含むガス流は、分析装置の分析部に導入されて定性分析および/または定量分析が行われる。分析部の具体例等の詳細は、先に本発明の一態様にかかる分析装置について説明した通りである。分析対象成分は、例えば重金属等の各種金属成分、非金属成分等を挙げることができる。
【0063】
以上説明した本発明の一態様にかかる成分分析方法によれば、従来の成分分析方法と比べて分析感度の向上が可能となる。これは、スプレーチャンバーにおける試料液滴の壁面付着ロスを低減することができるため分析装置の分析部への試料導入効率が向上することによるものと本発明者らは考えている。このような分析感度の高感度化は、各種分野における成分分析において好ましい。一例として、例えば半導体基板等として使用される各種シリコンウェーハ、シリコンウェーハを切り出す単結晶インゴット等の各種シリコン試料については、シリコン試料の金属成分分析を行い、金属不純物汚染の有無や程度を評価することが行われている。金属不純物汚染は半導体デバイスにおけるデバイス不良の原因となるため、金属不純物汚染の有無や程度を把握し、金属不純物で汚染されたシリコンウェーハを不良品として排除することや、製造条件の変更や製造装置の交換・補修を行うことにより金属不純物汚染を低減することが望ましいためである。近年、デバイスの高性能化等に伴い、半導体基板にはより一層高い品質を有することが要求されている。かかる要求に応えるためには、シリコン試料の金属不純物汚染は微量でも低減することが望ましい。そのような微量金属不純物汚染の有無や程度を精度よく評価するためには、分析装置の高感度化が求められる。この点に関して、本発明の一態様にかかる分析装置によれば、分析感度の向上が可能となる。したがって、かかる分析装置を用いる本発明の一態様にかかる成分分析方法は、各種シリコン試料の金属成分分析方法として好適である。上記成分分析方法を用いることにより、シリコン試料の金属不純物汚染が微量であっても、金属成分の定性分析および/または定量分析を高感度に行うことが可能となる。シリコン試料の金属不純物汚染の評価を行う場合、評価対象のシリコン試料の一部または全部を溶解して得られた試料液や、シリコン試料の表面に酸溶液等の回収液を走査させて表面に付着していた金属成分を回収液に取り込ませて得た試料液を、必要に応じて酸溶液等によって希釈する等の前処理を行った後にネブライザーに導入して金属成分分析に付すことができる。こうして得られる分析結果によって、シリコン試料の表層部金属不純物汚染、バルク金属不純物汚染、表面金属不純物汚染等の各種金属不純物汚染の有無や程度を評価することができる。
ただし本発明は、シリコン試料の金属不純物汚染評価に限らず、様々な分野における成分分析に適用することができ、適用することにより分析感度の向上を達成することができる。
【実施例】
【0064】
以下、本発明を実施例により更に説明する。ただし本発明は、実施例に示す態様に限定されるものではない。
以下において、スプレーチャンバーのアディショナルガス導入管部にはポリテトラフルオロエチレン製チューブを接続してガスの導入を行い、廃液管部にはポリ塩化ビニル製チューブを接続して廃液を行った。また、以下に記載の実施例のスプレーチャンバーの第一管部および第二管部はガラス製であった。
【0065】
[実施例1]
市販のICP−MSのスプレーチャンバーを、θ1=90°である点を除き
図4Aおよび
図4Bに示す態様のスプレーチャンバーに変更して実施例1のICP−MSを準備した。実施例1のICP−MSにおいて、θ1=90°、θ2=0°、θ3=30°、第一管部の円錐部の最大内径は45.0mm、円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は0.5、二重管部の長さは20.0mm、アディショナルガス導入用開口ならびに二重管部および第二管部の廃液用開口の直径は3.0mm、第一管部の円筒部の内径(最大内径)は45.0mm、第二管部の円筒部の外径は42.0mm、スプレーチャンバー全長は130.0mmであった。
実施例1のICP−MSにおいて、0.2ppb(体積基準)の
115Inを含む0.5規定硝酸水溶液(試料液)の分析を行った。ネブライザーにより試料液をキャリアガス(アルゴンガス;流量0.75L/min)を用いて霧化して試料液滴を含むガス流を生成し、この試料液滴を含むガス流をスプレーチャンバーの試料導入管部からスプレーチャンバーの流路管部へ導入した(試料液滴量(噴霧量):100μL/min)。上記ガス流が流路管部に流通している間、アディショナルガスとしてアルゴンガスを流量約0.4L/minでアディショナルガス導入管部からアディショナルガス導入用開口を介して二重管部へ導入し続けた。分析は10回行い、10回の分析でそれぞれ得られたInイオンの信号強度の算術平均を求めた。
比較のため比較例1として、スプレーチャンバーとして
図5に示す態様のスコット型スプレーチャンバー(スコットダブルパススプレーチャンバー)を用いた点以外は実施例1と同様の方法で上記試料液の分析を10回行い、10回の分析でそれぞれ得られたInイオンの信号強度の算術平均を求めた。こうして比較例1で得られたInイオンの信号強度(算術平均)を1.0として、実施例1のICP−MSを用いた分析により得られたInイオンの信号強度(算術平均)を比較例1に対する相対値として求めたところ、表1に示す値であった。
【0066】
[実施例2〜4]
円錐部の長さを変えることにより円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)を変えた点以外は実施例1と同様にして、実施例2〜4のICP−MSを準備した。実施例2〜4のICP−MSを用いて上記と同様に試料液の分析を行い得られた信号強度(算術平均)を比較例1に対する相対値として表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
表1に示す結果から、実施例1〜4のICP−MSによれば、従来のスプレーチャンバーを用いたICP−MSと比べて分析感度(信号強度)の向上が可能になることが確認できる。これは、試料液の液滴を含むガス流がスプレーチャンバーの流路管部を流通している間、スプレーチャンバーの二重管部にアディショナルガスを導入したことにより、アディショナルガス流が二重管部から第一管部の円錐部に向かって壁面に沿ってらせん状に旋回するアディショナルガス流をもたらしたことにより液滴の壁面付着ロスの低減が可能になったことによるものと考えられる。
【0069】
実施例1〜4について、それぞれ10回の分析で得られた信号強度の標準偏差(ばらつき)を求めた。実施例3について得られた標準偏差を1.0として、各実施例について得られた標準偏差を実施例3に対する相対値として表2に示す。
【0070】
【表2】
【0071】
表1に示す実施例1〜3の信号強度と実施例4の信号強度とを対比すると、円錐部の長さと最大内径との比(長さ/最大内径)を3.0超まで大きくしても、分析感度(信号強度)のより一層の向上は確認されなかった。一方、上記の比が大きくなるほどスプレーチャンバーの全長は長くなるため、スプレーチャンバーの小型化と分析感度の向上を両立する観点から、表1に示す結果に基づき、上記の比は3.0以下であることが好ましいと言える。
一方、表2に示す信号強度のばらつきは、円錐部の長さと最大内径との比(長さ/最大内径)が大きくなるほど小さくなっている。なお実施例1では、円錐部の壁面に微量の液滴付着が確認されたが、そのような液滴付着は実施例2〜4では確認されなかった。
分析感度(信号強度)のばらつきが小さいことは、分析結果の信頼性向上の観点から好ましい。分析感度(信号強度)のばらつきをより一層低減する観点からは、円錐部の長さと最大内径との比(長さ/最大内径)は、表2に示す結果に基づき、0.8以上であることが好ましいと言える。
【0072】
[実施例5〜8]
θ1および/または二重管部の長さを表3に示すように変更した点以外、実施例1と同様にICP−MSを準備し試料液の分析を行った。
各実施例について得られた信号強度(10回の分析の算術平均)を、実施例1と同様に比較例1に対する相対値として表3に示す。表3に示すように、実施例5〜実施例8において信号強度(相対値)は1.0超であり、従来のスプレーチャンバーを用いたICP−MS(比較例1)と比べて分析感度(信号強度)の向上が可能であったことが確認できる。なお実施例8では、円錐部の壁面に微量の液滴付着が確認されたが、そのような液滴付着は実施例5〜7では確認されなかった。
【0073】
【表3】
【0074】
[実施例9]
市販のICP−MSのスプレーチャンバーを、
図1〜
図3Cに示す態様のスプレーチャンバーに変更して実施例9のICP−MSを準備した。実施例9のICP−MSにおいて、θ1=90°、θ2=10°、θ3=30°、第一管部の円錐部の最大内径は50.0mm、円錐部の長さと円錐部の最大内径との比(長さ/最大内径)は0.5、二重管部の長さは20.0mm、アディショナルガス導入用開口ならびに二重管部および第二管部の廃液用開口の直径は3.0mm、第一管部の円筒部の内径(最大内径)は45.0mm、第二管部の円筒部の外径は42.0mm、スプレーチャンバー全長は130.0mmであった。
実施例9のICP−MSを用いて実施例1と同様に試料液の分析を行い得られた信号強度を、実施例1と同様に比較例1に対する相対値として表4に示す。
また、実施例9について、上記と同様に信号強度のばらつき(実施例3に対する相対値)も求めた。
【0075】
[実施例10]
θ2=45°とした点以外は実施例9と同様に実施例10のICP−MSを準備した。
実施例10のICP−MSを用いて実施例1と同様に試料液の分析を行い得られた信号強度を、実施例1と同様に比較例1に対する相対値として表4に示す。
また、実施例10について、上記と同様に信号強度のばらつき(実施例3に対する相対値)を求めた。
【0076】
[実施例11]
θ2=60°とした点以外は実施例9と同様に実施例11のICP−MSを準備した。
実施例11のICP−MSを用いて実施例1と同様に試料液の分析を行い得られた信号強度を、実施例1と同様に比較例1に対する相対値として表4に示す。
また、実施例11について、上記と同様に信号強度のばらつき(実施例3に対する相対値)を求めた。
【0077】
併せて、実施例2について得られた結果も表4に示す。
【0078】
【表4】
【0079】
表4に示すように、実施例9〜実施例11において信号強度(相対値)は1.0超であり、従来のスプレーチャンバーを用いたICP−MS(比較例1)と比べて分析感度(信号強度)の向上が可能であったことが確認できる。
また、実施例2と実施例9〜11との対比からは、信号強度のばらつきは実施例9〜11が実施例2よりも小さいことが確認された。
以上の結果から、信号強度のより一層の向上を優先するならば、θ2は0°〜10°であることが好ましく、信号強度の向上と信号強度のばらつきの低減の両立を優先するならば、θ2は10°〜60°の範囲が好ましいと言える。
【0080】
以上の結果から、本発明の一態様によれば分析感度の向上が可能になること、ならびに本発明の一態様によれば分析感度のばらつきを低減しつつ分析感度の向上が可能になること、が確認できる。