【実施例】
【0038】
〔実施例1〕
(蛍光指紋の測定)
エキストラバージンオリーブオイル(EVOO)(日清オイリオグループ株式会社製、スペイン産)及び/又は精製オリーブオイル(ROO)(日清オイリオグループ株式会社製)からなる油脂組成物の蛍光指紋を分光蛍光光度計(商品名:F−7000、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)により測定した。測定結果を
図1に示す。
【0039】
図1は、種々の含量比のエキストラバージンオリーブオイル(EVOO)と精製オリーブオイル(ROO)とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(EVOO:ROO)は、(a)は100:0、(b)は99:1、(c)は97.5:2.5、(d)は95:5、(e)は90:10、(f)は75:25、(g)は50:50、(h)は25:75、(i)は10:90、(j)は5:95、(k)は0:100である。
【0040】
また、各油脂組成物について25℃における屈折率(RI)を屈折計(京都電子工業株式会社製)により測定した結果も
図1に示す。
【0041】
(特徴的なピークの選択)
得られた蛍光指紋を比較してEVOO及び/又はROOに特徴的な10個のピークを選択した。なお、特徴的なピークは、目視にて判別したが、多変量解析ソフトウェア等を用いて行ってもよい。
【0042】
図2(a)は
図1(g)の蛍光指紋において選択した10個のピークの位置を示す図であり、
図2(b)は
図2(a)に示す10個のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)である。
【0043】
各蛍光指紋の比較により、No.2〜4がROOに特徴的なピーク、No.5〜10がEVOOに特徴的なピークであると考察した。
【0044】
(蛍光強度の測定)
上記分光蛍光光度計を用いて、10個のピークの波長(励起波長、蛍光波長)でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定した。測定した油脂組成物は11種であり、その含量比は、EVOO:ROO=100:0、99:1、97.5:2.5、95:5、90:10、75:25、50:50、25:75、10:90、5:95、0:100である。なお、蛍光強度は、硫酸キニーネ補正をかけて求めた(以下、同様)。
【0045】
10個のピークのうちのNo.1を除くNo.2〜10の9個のピークについて、測定した蛍光強度を横軸とし、EVOOの濃度を縦軸として検量線を作成した。決定係数(R
2)はいずれも0.9以上となり、非常に良好な検量線を得ることができた。
【0046】
No.1の励起波長(EX)300nm、蛍光波長(EM)325nmについては、EVOO濃度やROO濃度に依存せずに一定の蛍光強度を得られた。よって、油脂固有の蛍光強度と考え、検量線を描かなかった。
【0047】
図3は、
図2(a)に示すNo.2〜10のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)で測定した蛍光強度(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。(a)〜(i)は、順にNo.2〜10のピークにおける検量線である。
【0048】
上記分光蛍光光度計を用いて、選択した10個のうちのNo.1を除くNo.2〜9の9個のピークの波長(励起波長、蛍光波長)のいずれか1以上で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定する。
【0049】
(含量比の判定)
測定して得られる判定対象の油脂組成物の蛍光強度を上記検量線と比較することにより、判定対象の油脂組成物中の油脂Aと油脂Bの含量比を判定することができる。
【0050】
(含量100質量%であるか否かの判定)
次に、油脂組成物中のEVOOの含量が100質量%であるか否かを以下の方法により判定した。
【0051】
図1の各蛍光指紋を比較してROOに特徴的な3個のピーク(No.2〜4)及びEVOOに特徴的な6個のピーク(No.5〜10)を選択した。
【0052】
前述の分光蛍光光度計を用いてROOに特徴的な3個のピーク(No.2〜4)の波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度Aを測定し、かつEVOOに特徴的な6個のピーク(No.5〜10)の波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度Bを測定した。測定データは、
図3の検量線の作成に用いた蛍光強度のデータを使用した。
【0053】
「蛍光強度Bの合計値/蛍光強度Aの合計値」(判別式)で算出した値を判定値として検量線を作成した。なお、「蛍光強度Aの合計値/蛍光強度Bの合計値」(判別式)を算出して判定値とすることもできる。
【0054】
EVOOにおいてNo.4(EX360,EM400)はほとんど出ない蛍光強度であり、ROO(精製植物油)では検出される特徴的な蛍光強度であった。そこで、その点を考慮した判別式1〜4を作成した。
【0055】
判別式1:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式2:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.3〜4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式3:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.2及び4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式4:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.2〜4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
【0056】
図4〜7は、それぞれ判別式1〜4で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。決定係数(R
2)はいずれも0.9以上となり、非常に良好な検量線を得ることができた。
【0057】
参考までに
図4の作成に使用したデータを表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
図4の検量線より、判別式1での判定値200以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0060】
図5の検量線より、判別式2での判定値41以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0061】
図6の検量線より、判別式3での判定値26以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0062】
図7の検量線より、判別式4での判定値17以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0063】
判定対象の油脂組成物の上記判定値を算出して上記100質量%判定値(例えば、判別式1であれば200以上)と比較することにより、判定対象の油脂組成物中のEVOOの含量が100質量%であるか否かを判定できる。
【0064】
判別式1を用い、単一食用油での判定値を算出したところ、表2に示す通りであった。
【0065】
【表2】
【0066】
EVOOの判定値はいずれも200以上、その他の食用油脂の判定値は200未満であり、判別式1の有効性を確認することができた。なお、EVOOとして販売されているにもかかわらず判定値が200未満となる場合には、他油種がコンタミネーションしたものである可能性が高い。すなわち、判別式1はまがい物であるか否かの判定にも有効である。
【0067】
また、海外製品における混合食用油としてクッキングオイル(ベトナム製品)について調べた結果、判定値は0.028であり、200未満となり、判別式1の有効性を確認することができた。
【0068】
次に、スペイン産EVOOに他の食用油を1質量%混合させたコンタミネーション品を作成し、判別式1にて判別できるのか調べた。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示した通り、いずれの検体も200未満となり、EVOO100質量%品ではないと判別することができた。本結果から、EVOO以外の油種が1質量%コンタミネーションしていても首尾よく判定でき、判別式1は精度の高いものと判断された。
【0071】
オリーブオイルの規格はIOC(国際オリーブ協会)及びEU規格で定められており、紫外線吸光度K232(2.5以下)、K270(0.22以下)、ΔK(0.01以下)で特徴を決定づけている。しかし、紫外線吸光度では、以下の通りであった。
・EVOOにマカダミアナッツオイルがコンタミネーションした場合は、見破れない。
・EVOOにROOがコンタミネーションした場合は、ROOが50%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOに精製ひまわり油がコンタミネーションした場合は、精製ひまわり油が50%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOにヘーゼルナッツオイルがコンタミネーションした場合は、ヘーゼルナッツオイルが10%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOに精製綿実油がコンタミネーションした場合は、精製綿実油5%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
以上より、判別式1は、同じ非破壊分析の紫外線吸光度と異なり、より良い精度で判別できるものであることがわかった。
【0072】
前述の判別式2〜4についても判別式1と同様に精度の高いものと判断された。
【0073】
〔実施例2〕
(蛍光指紋の測定)
食用大豆油(精製大豆油:日清オイリオグループ株式会社製)及び/又は食用菜種油(精製キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)からなる油脂組成物の蛍光指紋を分光蛍光光度計(商品名:F−7000、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)により測定した。測定結果を
図8に示す。
【0074】
図8は、種々の含量比の食用大豆油と食用菜種油とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(食用大豆油:食用菜種油)は、(a)は0:100、(b)は1:99、(c)は2:98、(d)は10:90、(e)は20:80、(f)は50:50、(g)は80:20、(h)は90:10、(i)は95:5、(j)は98:2、(k)は99:1、(l)は100:0である。
【0075】
また、各油脂組成物について25℃における屈折率(RI)を屈折計(京都電子工業株式会社製)により測定した結果も
図8に示す。
【0076】
図8から得られた情報より特徴的な蛍光強度を調査した。調査方法は、食用菜種油100%の蛍光強度から食用大豆油100%の蛍光強度を差し引いた結果から勘案した。その結果、食用大豆と食用菜種で異なる蛍光指紋を示している励起波長(EX)250〜350、蛍光波長(EM)250〜600における範囲にて検量線を求めることとした。
【0077】
図9は、
図8(a)、(f)、(l)の蛍光指紋において、食用大豆油と食用菜種油に特徴的なピークが見られる励起波長(EX)250〜350、蛍光波長(EM)250〜600の範囲(図の斜線部分)を示す図である。
【0078】
得られた食用菜種油100%の蛍光強度から食用大豆油100%の蛍光強度を引いた結果、またはその逆から求めた結果から検量線を描く。
図10に示したのは一部の結果であり、食用菜種油と食用大豆油の各配合(%)から蛍光強度をプロットして得られた検量線である。本事例を基に、他の蛍光強度にて検量線を描き、配合割合を求めることが可能である。
【0079】
図10は、励起波長(EX)285nm、蛍光波長(EM)330nmで測定した蛍光強度(横軸)と食用大豆油濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
【0080】
一例として挙げた
図10の検量線においては、蛍光強度<57.1の場合は食用大豆油100%、蛍光強度93.8<の場合には食用菜種油100%と判断することができる。
【0081】
食用菜種油5検体及び食用大豆油5検体について、前述の分光蛍光光度計を用いて励起波長285nm、蛍光波長330nmにて硫酸キニーネ補正をかけた蛍光強度を求めた。当該蛍光強度及び
図10の検量線からの結果を表4に示した。
【0082】
【表4】
【0083】
表4に示す結果より、
図10の検量線は概ね良好な検量線であることがわかった。なお、本結果に囚われることなく、n数を増やすことでさらに良好な検量線を得ることが可能である。
【0084】
次に、
図10の検量線から食用調合油(食用大豆油80%、食用菜種油20%)について、前述の分光蛍光光度計を用いて励起波長285nm、蛍光波長330nmにて硫酸キニーネ補正をかけた蛍光強度を求めた。当該蛍光強度と、
図10の検量線からの結果を表5に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示す結果より、
図10の検量線は概ね良好な検量線であることがわかった。
【0087】
なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。