特許第6817844号(P6817844)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日清オイリオグループ株式会社の特許一覧 ▶ 株式会社日立ハイテクサイエンスの特許一覧

特許6817844油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法
<>
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000007
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000008
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000009
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000010
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000011
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000012
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000013
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000014
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000015
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000016
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000017
  • 特許6817844-油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法 図000018
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6817844
(24)【登録日】2021年1月4日
(45)【発行日】2021年1月20日
(54)【発明の名称】油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/64 20060101AFI20210107BHJP
   A23D 9/02 20060101ALI20210107BHJP
   G01N 33/03 20060101ALI20210107BHJP
【FI】
   G01N21/64 Z
   A23D9/02
   G01N33/03
【請求項の数】9
【全頁数】19
(21)【出願番号】特願2017-29392(P2017-29392)
(22)【出願日】2017年2月20日
(65)【公開番号】特開2018-136151(P2018-136151A)
(43)【公開日】2018年8月30日
【審査請求日】2019年10月17日
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】特許業務法人平田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100071526
【弁理士】
【氏名又は名称】平田 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】木全 弘一
(72)【発明者】
【氏名】堀込 純
【審査官】 吉田 将志
(56)【参考文献】
【文献】 特開2009−198124(JP,A)
【文献】 特開平10−038878(JP,A)
【文献】 特開2009−216525(JP,A)
【文献】 特開2010−185719(JP,A)
【文献】 特開平10−128094(JP,A)
【文献】 国際公開第2014/181209(WO,A1)
【文献】 堀込純,F-7000形分光蛍光光度計を用いた蛍光指紋による食品分析技術,THE HITACHI SCIENTIFIC INSTRUMENT NEWS,2015年 3月,Vol.58/No.1,PP.4982-4988
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 21/62−74
A23D 9/02
G01N 33/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂A、油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂A及び/又は前記油脂Bの含量割合を判定する油脂組成物の判定方法。
【請求項2】
分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定し、当該蛍光強度を横軸又は縦軸とし、前記油脂Aの濃度を縦軸又は横軸として検量線を作成し、前記判定対象の油脂組成物の前記蛍光強度を前記検量線と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定することを特徴とする請求項1に記載の油脂組成物の判定方法。
【請求項3】
前記油脂Aが未精製植物油であり、前記油脂Bが精製植物油であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油脂組成物の判定方法。
【請求項4】
前記油脂A及び前記油脂Bが、精製植物油であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載の油脂組成物の判定方法。
【請求項5】
前記各蛍光指紋を比較して前記油脂Aに特徴的な1個以上のピーク及び前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて前記油脂Aに特徴的な1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度Aを測定し、かつ前記油脂Bに特徴的な1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度Bを測定し、「蛍光強度Aの合計値/蛍光強度Bの合計値」の比率又は「蛍光強度Bの合計値/蛍光強度Aの合計値」の比率を判定値として算出して検量線を作成し、前記油脂Aの含量比が100質量%であると判定できる100質量%判定値を求め、前記判定対象の油脂組成物の前記判定値を算出して前記100質量%判定値と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aの含量が100質量%であるか否かを判定することを特徴とする請求項1に記載の油脂組成物の判定方法。
【請求項6】
油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加し、混合装置により混合して油脂組成物を得る混合工程と、
前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークの蛍光強度を測定することにより、前記油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定する判定工程と、
前記判定された含量割合が前記所望の含量割合を外れている場合に、前記混合工程において、前記所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす、及び/又は前記所望の含量割合を超えている方の油脂の添加量を減らす調整工程を有し、
前記油脂A及び前記油脂Bが植物油であることを特徴とする油脂組成物の製造方法。
【請求項7】
油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加し、混合装置により混合して油脂組成物を得る混合工程と、
下記判定方法を用いて前記油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定する判定工程と、
前記判定された含量割合が前記所望の含量割合を外れている場合に、前記混合工程において、前記所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす、及び/又は前記所望の含量割合を超えている方の油脂の添加量を減らす調整工程を有することを特徴とする油脂組成物の製造方法。
判定方法:油脂A、油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂A及び/又は前記油脂Bの含量割合を判定する。
【請求項8】
前記判定方法が、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定し、当該蛍光強度を横軸又は縦軸とし、前記油脂Aの濃度を縦軸又は横軸として検量線を作成し、前記判定対象の油脂組成物の前記蛍光強度を前記検量線と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定することを特徴とする請求項に記載の油脂組成物の製造方法。
【請求項9】
前記混合装置が、インライン式混合装置又はバッチ式混合装置であることを特徴とする請求項のいずれか一項に記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、油脂組成物の判定方法及び油脂組成物の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
2種の植物油脂を所望の含量比となるように添加混合して油脂組成物を大量生産する場合、各植物油脂を添加する速度(流速)を管理して所望の含量比の油脂組成物を製造することが一般的である。
【0003】
しかし、流速を管理して植物油脂を添加しているため誤差が生じやすく、製造された油脂組成物中の各植物油脂の含量比が所望の含量比から外れてしまうことがある。
【0004】
そこで、製造された油脂組成物中の各植物油脂の含量比を算出して、算出された含量比が所望の含量比を外れている場合には、所望の含量比を下回っている方の油脂の添加量を増やす(流速をアップする)、及び/又は所望の含量比を超えている方の油脂の添加量を減らす(流速をダウンする)ことにより調整を行なっている。油脂組成物中の各植物油脂の含量比は、油脂組成物の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーを使用して分析すること等により算出できる(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2016−116486号公報(段落番号0058)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、ガスクロマトグラフィー等を使用した従来の算出方法では、脂肪酸組成が類似の油脂の場合、精度が十分でなく、所望の含量比から外れた油脂組成物が製造されてしまうことがある。また、測定に時間がかかるため、製造効率も悪くなる。
【0007】
また、100%純正の油脂であるか(他の油脂が混ざっていないか)否か、あるいは産地偽装等の偽造品であるか否かの検査においてもガスクロマトグラフィー等が使用されていたが、他の油脂の混入率が低い場合(例えば、混入率が5質量%以下)や双方の油脂の脂肪酸組成が類似している場合には正確な判定が困難であった。
【0008】
従って、本発明の目的は、油脂組成物中の油脂の含量比を精度良く判定できる油脂組成物の判定方法及び所望の含量比の油脂組成物を製造できる油脂組成物の製造方法を提供することである。また、本発明の目的は、ガスクロマトグラフィーを使用する場合に比べて油脂組成物中の油脂の含量比を短時間で判定できる油脂組成物の判定方法及び所望の含量比の油脂組成物を効率よく製造できる油脂組成物の製造方法を提供することである。
【0009】
また、本発明の目的は、他の油脂の混入率が低い場合や双方の油脂の脂肪酸組成が類似している場合であっても100%純正の油脂であるか否かや偽造品であるか否かの正確な判定ができる油脂組成物の判定方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するために、下記の[1]〜[]の油脂組成物の判定方法及び下記の[]〜[]の油脂組成物の製造方法を提供する。
[1]油脂A、油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂A及び/又は前記油脂Bの含量割合を判定する油脂組成物の判定方法。
[2]分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定し、当該蛍光強度を横軸又は縦軸とし、前記油脂Aの濃度を縦軸又は横軸として検量線を作成し、前記判定対象の油脂組成物の前記蛍光強度を前記検量線と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定することを特徴とする前記[1]に記載の油脂組成物の判定方法。
[3]前記油脂Aが未精製植物油であり、前記油脂Bが精製植物油であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の油脂組成物の判定方法。
[4]前記油脂A及び前記油脂Bが、精製植物油であることを特徴とする前記[1]又は[2]に記載の油脂組成物の判定方法。
[5]前記各蛍光指紋を比較して前記油脂Aに特徴的な1個以上のピーク及び前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて前記油脂Aに特徴的な1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度Aを測定し、かつ前記油脂Bに特徴的な1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度Bを測定し、「蛍光強度Aの合計値/蛍光強度Bの合計値」の比率又は「蛍光強度Bの合計値/蛍光強度Aの合計値」の比率を判定値として算出して検量線を作成し、前記油脂Aの含量比が100質量%であると判定できる100質量%判定値を求め、前記判定対象の油脂組成物の前記判定値を算出して前記100質量%判定値と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aの含量が100質量%であるか否かを判定することを特徴とする前記[1]に記載の油脂組成物の判定方法。
6]油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加し、混合装置により混合して油脂組成物を得る混合工程と、前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークの蛍光強度を測定することにより、前記油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定する判定工程と、前記判定された含量割合が前記所望の含量割合を外れている場合に、前記混合工程において、前記所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす、及び/又は前記所望の含量割合を超えている方の油脂の添加量を減らす調整工程を有し、前記油脂A及び前記油脂Bが植物油であることを特徴とする油脂組成物の製造方法。
]油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加し、混合装置により混合して油脂組成物を得る混合工程と、下記判定方法を用いて前記油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定する判定工程と、前記判定された含量割合が前記所望の含量割合を外れている場合に、前記混合工程において、前記所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす、及び/又は前記所望の含量割合を超えている方の油脂の添加量を減らす調整工程を有することを特徴とする油脂組成物の製造方法。判定方法:油脂A、油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂A及び/又は前記油脂Bの含量割合を判定する。
]前記判定方法が、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定し、当該蛍光強度を横軸又は縦軸とし、前記油脂Aの濃度を縦軸又は横軸として検量線を作成し、前記判定対象の油脂組成物の前記蛍光強度を前記検量線と比較することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定することを特徴とする前記[]に記載の油脂組成物の製造方法。
]前記混合装置が、インライン式混合装置又はバッチ式混合装置であることを特徴とする前記[]〜[]のいずれか1つに記載の油脂組成物の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によると、油脂組成物中の油脂の含量比を精度良く判定できる油脂組成物の判定方法及び所望の含量比の油脂組成物を製造できる油脂組成物の製造方法を提供することができる。本発明によると、ガスクロマトグラフィーを使用する場合に比べて油脂組成物中の油脂の含量比を短時間で判定できる油脂組成物の判定方法及び所望の含量比の油脂組成物を効率よく製造できる油脂組成物の製造方法を提供することができる。
【0012】
また、本発明によると、他の油脂の混入率が低い場合や双方の油脂の脂肪酸組成が類似している場合であっても100%純正の油脂であるか否かや偽造品であるか否かの正確な判定ができる油脂組成物の判定方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】種々の含量比のエキストラバージンオリーブオイル(EVOO)と精製オリーブオイル(ROO)とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(EVOO:ROO)は、(a)は100:0、(b)は99:1、(c)は97.5:2.5、(d)は95:5、(e)は90:10、(f)は75:25、(g)は50:50、(h)は25:75、(i)は10:90、(j)は5:95、(k)は0:100である。
図2】(a)は図1(g)の蛍光指紋において選択した10個のピークの位置を示す図であり、(b)は(a)に示す10個のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)である。
図3図2(a)に示すNo.2〜10のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)で測定した蛍光強度(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。(a)〜(i)は、順にNo.2〜10のピークにおける検量線である。
図4】判別式1で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
図5】判別式2で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
図6】判別式3で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
図7】判別式4で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
図8】種々の含量比の食用大豆油と食用菜種油とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(食用大豆油:食用菜種油)は、(a)は0:100、(b)は1:99、(c)は2:98、(d)は10:90、(e)は20:80、(f)は50:50、(g)は80:20、(h)は90:10、(i)は95:5、(j)は98:2、(k)は99:1、(l)は100:0である。
図9図8(a)、(f)、(l)の蛍光指紋において、食用大豆油と食用菜種油に特徴的なピークが見られる励起波長(EX)250〜350、蛍光波長(EM)250〜600の範囲(図の斜線部分)を示す図である。
図10】励起波長(EX)285nm、蛍光波長(EM)330nmで測定した蛍光強度(横軸)と食用大豆油濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
図11】本発明の実施の形態に係る油脂組成物の製造方法におけるインライン式混合装置を示す概略図である。
図12】本発明の実施の形態に係る油脂組成物の製造方法におけるバッチ式混合装置を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
〔油脂組成物の判定方法〕
本発明の実施形態に係る油脂組成物の判定方法は、油脂A、油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて1個以上の前記ピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定することにより、前記判定対象の油脂組成物中の前記油脂A及び/又は前記油脂Bの含量割合を判定する。
【0015】
本実施の形態における判定方法においては、判定対象の油脂組成物中に含有されている油脂が油脂A及び/又は油脂Bであると分かっている(既知である)ことが前提である。なお、必ずしも油脂Aや油脂Bの原料や産地等まで既知でなくてもよく、同じ物が入手できる程度に特定できていればよい。
【0016】
(蛍光指紋の測定)
初めに、油脂A、油脂B、及び油脂Aと油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nm全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して各蛍光指紋を得る。
【0017】
測定対象としては、油脂A(100質量%)、油脂B(100質量%)、及び油脂Aと油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれるいずれか2つ以上であるが、3つすべてを測定対象とすることが好ましい。また、油脂Aと油脂Bとを含む油脂組成物は、種々の含量比のものを測定対象とすることが好ましい。例えば、油脂Aと油脂Bの含量比(質量)が、油脂A:油脂B=99:1、95:5、90:10、75:25、50:50、25:75、10:90、5:95、1:99のものを測定対象とする。
【0018】
油脂A及び油脂Bとしては、特に限定されることなく、種々の油脂に適用できる。例えば、好適な一実施形態では、油脂Aが未精製植物油であり、油脂Bが精製植物油である。また、好適な別の一実施形態では、油脂A及び油脂Bが、精製植物油である。
【0019】
本発明の実施形態に適用可能な植物油としては、例えば、大豆油、菜種油、高オレイン酸菜種油、オリーブ油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、高オレイン酸紅花油、ひまわり油、高オレイン酸ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、カボチャ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、米油、小麦胚芽油、パーム油、パーム核油、ヤシ油、カカオ脂、品種改良によって低飽和化されたこれらの油脂等が挙げられる。植物油以外では、牛脂、ラード、鶏脂、乳脂、魚油、アザラシ油、藻類油等が挙げられる。
【0020】
使用する分光蛍光光度計は、高精度かつ高速に測定を行なうことができる装置であることが望ましく、例えば、株式会社日立ハイテクサイエンス製のF−7000形やF−7100形が好適に使用できる。
【0021】
分光蛍光光度計による測定においては、測定対象の油脂又は油脂組成物を励起波長250〜700nm全部あるいは一部の光(励起光)で励起させる。そして、蛍光波長250〜700nmの全部あるいは一部を測定する。一部とは、例えば、励起波長300〜450nmで蛍光波長645〜700nm、あるいは、励起波長340〜400nmで蛍光波長360〜560nm、励起波長285〜320nmで蛍光波長370〜530nmを含むものである。
【0022】
(特徴的なピークの選択)
次に、得られた蛍光指紋を比較して油脂A及び/又は油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択する。油脂A及び油脂Bに特徴的な1個以上のピークをそれぞれ選択することが好ましい。選択方法としては、例えば、油脂Aと油脂Bを含有する油脂組成物において油脂Aの含有量が増えるほどより顕著に現れるピークを油脂Aに特徴的なピークとして選択し、油脂Bの含有量が増えるほどより顕著に現れるピークを油脂Bに特徴的なピークとして選択する。
油脂A又は油脂Bに特徴的な1種のピークが分かれば、そのピークの蛍光強度から油脂Aと油脂Bの各含量割合が分かる。
【0023】
(蛍光強度の測定)
次に、分光蛍光光度計を用いて、選択した1個以上のピークの波長(励起波長、蛍光波長)で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定する。この時用いる分光蛍光光度計は、測定対象の波長が測定できるものであればよく、単波長、又は複数波長を測定する分光蛍光光度計、あるいは前述の蛍光指紋の測定で用いた分光蛍光光度計等を用いることができる。
【0024】
(含量比の判定)
測定して得られた蛍光強度を用いることにより、判定対象の油脂組成物中の油脂A及び/又は油脂Bの含量割合を判定することができる。
【0025】
例えば、本発明の一実施形態においては、分光蛍光光度計を用いて、選択した1個以上のピークの波長(励起波長、蛍光波長)で油脂Aと油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定し、当該蛍光強度を横軸とし、油脂Aの濃度を縦軸として検量線を作成しておき、判定対象の油脂組成物の蛍光強度を当該検量線と比較することにより、判定対象の油脂組成物中の油脂A及び/又は油脂Bの含量割合を判定することができる。横軸と縦軸とを逆にした検量線でもよい。
【0026】
(含量100質量%であるか否かの判定)
また、本発明の実施形態に係る油脂組成物の判定方法の別の一実施形態においては、上記の得られた各蛍光指紋を比較して油脂Aに特徴的な1個以上のピーク及び油脂Bに特徴的な1個以上のピークを選択し、分光蛍光光度計を用いて油脂Aに特徴的な1個以上のピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で油脂Aと油脂Bの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度Aを測定し、かつ油脂Bに特徴的な1個以上のピークの波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上で油脂Aと油脂Bの含量割合が既知の油脂組成物の蛍光強度Bを測定し、「蛍光強度Aの合計値/蛍光強度Bの合計値」の比率又は「蛍光強度Bの合計値/蛍光強度Aの合計値」の比率を判定値として算出して検量線を作成し、油脂Aの含量比が100質量%であると判定できる100質量%判定値を求め、判定対象の油脂組成物の上記判定値を算出して上記100質量%判定値と比較することにより、判定対象の油脂組成物中の油脂Aの含量が100質量%であるか否かを判定する。
【0027】
詳細な具体例については、後述する実施例にて説明するが、本実施形態によれば、他の油脂の混入率が低い場合や双方の油脂の脂肪酸組成が類似している場合であっても100%純正の油脂であるか否かや偽造品であるか否かの正確な判定をすることができる。
【0028】
また、本発明の実施形態に係る油脂組成物の判定方法の別の一実施形態においては、油脂Aを、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた第1の蛍光指紋と、第1の蛍光指紋の測定条件と同条件で測定して得られる判定対象の油脂組成物の第2の蛍光指紋とを比較することにより、判定対象の油脂組成物が油脂Aのみからなるか否かを判定することができる。
【0029】
本実施形態における適用可能な油脂A、使用する分光蛍光光度計、及び分光蛍光光度計による蛍光指紋の測定条件は、前述の実施形態と同様である。
【0030】
第1の蛍光指紋と第2の蛍光指紋とを比較した結果、同一の蛍光指紋であれば、判定対象の油脂組成物が油脂Aのみからなると言える。
【0031】
〔油脂組成物の製造方法〕
本発明の実施形態に係る油脂組成物の製造方法の一実施形態は、油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合で含有する油脂組成物の製造方法であって、油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加し、インライン式混合装置又はバッチ式混合装置により混合して油脂組成物を得る混合工程と、油脂A及び/又は油脂Bに特徴的なピークの蛍光強度を測定することにより、前記油脂組成物中の前記油脂Aと前記油脂Bの含量割合を判定する判定工程と、前記判定された含量割合が前記所望の含量割合を外れている場合に、前記混合工程において、前記所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす、及び/又は前記所望の含量割合を超えている方の油脂の添加量を減らす調整工程を有する。以下、これらの工程を順に説明する。
【0032】
(混合工程)
混合工程においては、油脂Aと油脂Bとを所望の含量割合となるように添加しインライン式混合装置又はバッチ式混合装置により混合して油脂組成物を得る。
【0033】
図11は、本発明の実施の形態に係る油脂組成物の製造方法におけるインライン式混合装置10を示す概略図である。
油脂A(符号1、以下省略)は油導入管11の流入口11Aから供給され、油脂B(符号2、以下省略)は流入口11Bから供給される。油脂A及び油脂Bの供給量は、流入口11A及び流入口11Bに設けられたバルブ(図示省略)により流速(流量)制御がなされている。油導入管11に供給された油脂A及び油脂Bは、スタティックミキサー12を通過する際に混合されて混合油C(符号3、以下省略)となり、油送管13へ流れていく。本実施形態においてはスタティックミキサーを用いたが、インラインで設置できるものであればよく、混合機はこれに限られない。
【0034】
図12は、本発明の実施の形態に係る油脂組成物の製造方法におけるバッチ式混合装置20を示す概略図である。
油脂A及び油脂Bは、撹拌槽21に供給され、モーター23を備えた攪拌機22により撹拌混合されて混合油Cとなる。油脂A及び油脂Bの供給量は、図示を省略したバルブにより流速(流量)制御がなされている。
【0035】
(判定工程)
判定工程においては、前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークの蛍光強度を測定することにより、油脂組成物(混合油C)中の油脂Aと油脂Bの含量比を判定する。なお、前記油脂A及び/又は前記油脂Bに特徴的な1個以上のピークは、前記油脂A、前記油脂B、及び前記油脂Aと前記油脂Bとを含む油脂組成物から選ばれる2つ以上を、分光蛍光光度計を用いて、励起波長250〜700nmの全部あるいは一部で励起させ、蛍光波長250〜800nmの全部あるいは一部を測定して得られた各蛍光指紋を比較して選択する。詳細は上記本発明の実施形態に係る油脂組成物の判定方法に記載の通りである。
蛍光指紋や蛍光強度の測定は、図11のインライン式混合装置10では、油送管13に設置された分光蛍光光度計14により行なう。インラインでの設置が困難な場合には、油送管13に混合油Cの採取口を設け、混合油Cを採取し、外部の分光蛍光光度計により測定することとしてもよい。
なお、使用する分光蛍光光度計は、測定するピークが検出可能な範囲のものでよく、前述の蛍光指紋を測定できる分光蛍光光度計の他、単波長のみの蛍光波長を測定する分光蛍光光度計も使用できる。
一方、図12のバッチ式混合装置20では、蛍光指紋や蛍光強度の測定は、撹拌槽21内部又は外部に設置した分光蛍光光度計(図示省略)により行なう。
【0036】
(調整工程)
調整工程においては、上記判定工程で判定された含量比が所望の含量比を外れている場合に、上記混合工程において、所望の含量割合を下回っている方の油脂の添加量を増やす(流速をアップする)、及び/又は所望の含量比を超えている方の油脂の添加量を減らす(流速をダウンする)ことにより調整を行なう。
【0037】
次に実施例により本発明を説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【実施例】
【0038】
〔実施例1〕
(蛍光指紋の測定)
エキストラバージンオリーブオイル(EVOO)(日清オイリオグループ株式会社製、スペイン産)及び/又は精製オリーブオイル(ROO)(日清オイリオグループ株式会社製)からなる油脂組成物の蛍光指紋を分光蛍光光度計(商品名:F−7000、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)により測定した。測定結果を図1に示す。
【0039】
図1は、種々の含量比のエキストラバージンオリーブオイル(EVOO)と精製オリーブオイル(ROO)とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(EVOO:ROO)は、(a)は100:0、(b)は99:1、(c)は97.5:2.5、(d)は95:5、(e)は90:10、(f)は75:25、(g)は50:50、(h)は25:75、(i)は10:90、(j)は5:95、(k)は0:100である。
【0040】
また、各油脂組成物について25℃における屈折率(RI)を屈折計(京都電子工業株式会社製)により測定した結果も図1に示す。
【0041】
(特徴的なピークの選択)
得られた蛍光指紋を比較してEVOO及び/又はROOに特徴的な10個のピークを選択した。なお、特徴的なピークは、目視にて判別したが、多変量解析ソフトウェア等を用いて行ってもよい。
【0042】
図2(a)は図1(g)の蛍光指紋において選択した10個のピークの位置を示す図であり、図2(b)は図2(a)に示す10個のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)である。
【0043】
各蛍光指紋の比較により、No.2〜4がROOに特徴的なピーク、No.5〜10がEVOOに特徴的なピークであると考察した。
【0044】
(蛍光強度の測定)
上記分光蛍光光度計を用いて、10個のピークの波長(励起波長、蛍光波長)でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度を測定した。測定した油脂組成物は11種であり、その含量比は、EVOO:ROO=100:0、99:1、97.5:2.5、95:5、90:10、75:25、50:50、25:75、10:90、5:95、0:100である。なお、蛍光強度は、硫酸キニーネ補正をかけて求めた(以下、同様)。
【0045】
10個のピークのうちのNo.1を除くNo.2〜10の9個のピークについて、測定した蛍光強度を横軸とし、EVOOの濃度を縦軸として検量線を作成した。決定係数(R)はいずれも0.9以上となり、非常に良好な検量線を得ることができた。
【0046】
No.1の励起波長(EX)300nm、蛍光波長(EM)325nmについては、EVOO濃度やROO濃度に依存せずに一定の蛍光強度を得られた。よって、油脂固有の蛍光強度と考え、検量線を描かなかった。
【0047】
図3は、図2(a)に示すNo.2〜10のピークにおける励起波長(EX)と蛍光波長(EM)で測定した蛍光強度(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。(a)〜(i)は、順にNo.2〜10のピークにおける検量線である。
【0048】
上記分光蛍光光度計を用いて、選択した10個のうちのNo.1を除くNo.2〜9の9個のピークの波長(励起波長、蛍光波長)のいずれか1以上で判定対象の油脂組成物の蛍光強度を測定する。
【0049】
(含量比の判定)
測定して得られる判定対象の油脂組成物の蛍光強度を上記検量線と比較することにより、判定対象の油脂組成物中の油脂Aと油脂Bの含量比を判定することができる。
【0050】
(含量100質量%であるか否かの判定)
次に、油脂組成物中のEVOOの含量が100質量%であるか否かを以下の方法により判定した。
【0051】
図1の各蛍光指紋を比較してROOに特徴的な3個のピーク(No.2〜4)及びEVOOに特徴的な6個のピーク(No.5〜10)を選択した。
【0052】
前述の分光蛍光光度計を用いてROOに特徴的な3個のピーク(No.2〜4)の波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度Aを測定し、かつEVOOに特徴的な6個のピーク(No.5〜10)の波長(励起波長、蛍光波長)のうちの1以上でEVOOとROOの含量比が既知の油脂組成物の蛍光強度Bを測定した。測定データは、図3の検量線の作成に用いた蛍光強度のデータを使用した。
【0053】
「蛍光強度Bの合計値/蛍光強度Aの合計値」(判別式)で算出した値を判定値として検量線を作成した。なお、「蛍光強度Aの合計値/蛍光強度Bの合計値」(判別式)を算出して判定値とすることもできる。
【0054】
EVOOにおいてNo.4(EX360,EM400)はほとんど出ない蛍光強度であり、ROO(精製植物油)では検出される特徴的な蛍光強度であった。そこで、その点を考慮した判別式1〜4を作成した。
【0055】
判別式1:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式2:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.3〜4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式3:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.2及び4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
判別式4:No.5〜10の波長で測定した蛍光強度Bの合計値/No.2〜4の波長で測定した蛍光強度Aの合計値
【0056】
図4〜7は、それぞれ判別式1〜4で算出した判定値(横軸)とEVOO濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。決定係数(R)はいずれも0.9以上となり、非常に良好な検量線を得ることができた。
【0057】
参考までに図4の作成に使用したデータを表1に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
図4の検量線より、判別式1での判定値200以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0060】
図5の検量線より、判別式2での判定値41以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0061】
図6の検量線より、判別式3での判定値26以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0062】
図7の検量線より、判別式4での判定値17以上がEVOO100質量%であると判定できる。
【0063】
判定対象の油脂組成物の上記判定値を算出して上記100質量%判定値(例えば、判別式1であれば200以上)と比較することにより、判定対象の油脂組成物中のEVOOの含量が100質量%であるか否かを判定できる。
【0064】
判別式1を用い、単一食用油での判定値を算出したところ、表2に示す通りであった。
【0065】
【表2】
【0066】
EVOOの判定値はいずれも200以上、その他の食用油脂の判定値は200未満であり、判別式1の有効性を確認することができた。なお、EVOOとして販売されているにもかかわらず判定値が200未満となる場合には、他油種がコンタミネーションしたものである可能性が高い。すなわち、判別式1はまがい物であるか否かの判定にも有効である。
【0067】
また、海外製品における混合食用油としてクッキングオイル(ベトナム製品)について調べた結果、判定値は0.028であり、200未満となり、判別式1の有効性を確認することができた。
【0068】
次に、スペイン産EVOOに他の食用油を1質量%混合させたコンタミネーション品を作成し、判別式1にて判別できるのか調べた。結果を表3に示す。
【0069】
【表3】
【0070】
表3に示した通り、いずれの検体も200未満となり、EVOO100質量%品ではないと判別することができた。本結果から、EVOO以外の油種が1質量%コンタミネーションしていても首尾よく判定でき、判別式1は精度の高いものと判断された。
【0071】
オリーブオイルの規格はIOC(国際オリーブ協会)及びEU規格で定められており、紫外線吸光度K232(2.5以下)、K270(0.22以下)、ΔK(0.01以下)で特徴を決定づけている。しかし、紫外線吸光度では、以下の通りであった。
・EVOOにマカダミアナッツオイルがコンタミネーションした場合は、見破れない。
・EVOOにROOがコンタミネーションした場合は、ROOが50%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOに精製ひまわり油がコンタミネーションした場合は、精製ひまわり油が50%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOにヘーゼルナッツオイルがコンタミネーションした場合は、ヘーゼルナッツオイルが10%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
・EVOOに精製綿実油がコンタミネーションした場合は、精製綿実油5%以上含まれていないとコンタミネーションしていることがわからない。
以上より、判別式1は、同じ非破壊分析の紫外線吸光度と異なり、より良い精度で判別できるものであることがわかった。
【0072】
前述の判別式2〜4についても判別式1と同様に精度の高いものと判断された。
【0073】
〔実施例2〕
(蛍光指紋の測定)
食用大豆油(精製大豆油:日清オイリオグループ株式会社製)及び/又は食用菜種油(精製キャノーラ油:日清オイリオグループ株式会社製)からなる油脂組成物の蛍光指紋を分光蛍光光度計(商品名:F−7000、株式会社日立ハイテクサイエンス社製)により測定した。測定結果を図8に示す。
【0074】
図8は、種々の含量比の食用大豆油と食用菜種油とからなる油脂組成物の蛍光指紋である。各図の油脂組成物の含量比(食用大豆油:食用菜種油)は、(a)は0:100、(b)は1:99、(c)は2:98、(d)は10:90、(e)は20:80、(f)は50:50、(g)は80:20、(h)は90:10、(i)は95:5、(j)は98:2、(k)は99:1、(l)は100:0である。
【0075】
また、各油脂組成物について25℃における屈折率(RI)を屈折計(京都電子工業株式会社製)により測定した結果も図8に示す。
【0076】
図8から得られた情報より特徴的な蛍光強度を調査した。調査方法は、食用菜種油100%の蛍光強度から食用大豆油100%の蛍光強度を差し引いた結果から勘案した。その結果、食用大豆と食用菜種で異なる蛍光指紋を示している励起波長(EX)250〜350、蛍光波長(EM)250〜600における範囲にて検量線を求めることとした。
【0077】
図9は、図8(a)、(f)、(l)の蛍光指紋において、食用大豆油と食用菜種油に特徴的なピークが見られる励起波長(EX)250〜350、蛍光波長(EM)250〜600の範囲(図の斜線部分)を示す図である。
【0078】
得られた食用菜種油100%の蛍光強度から食用大豆油100%の蛍光強度を引いた結果、またはその逆から求めた結果から検量線を描く。図10に示したのは一部の結果であり、食用菜種油と食用大豆油の各配合(%)から蛍光強度をプロットして得られた検量線である。本事例を基に、他の蛍光強度にて検量線を描き、配合割合を求めることが可能である。
【0079】
図10は、励起波長(EX)285nm、蛍光波長(EM)330nmで測定した蛍光強度(横軸)と食用大豆油濃度(縦軸)との関係を示す検量線である。
【0080】
一例として挙げた図10の検量線においては、蛍光強度<57.1の場合は食用大豆油100%、蛍光強度93.8<の場合には食用菜種油100%と判断することができる。
【0081】
食用菜種油5検体及び食用大豆油5検体について、前述の分光蛍光光度計を用いて励起波長285nm、蛍光波長330nmにて硫酸キニーネ補正をかけた蛍光強度を求めた。当該蛍光強度及び図10の検量線からの結果を表4に示した。
【0082】
【表4】
【0083】
表4に示す結果より、図10の検量線は概ね良好な検量線であることがわかった。なお、本結果に囚われることなく、n数を増やすことでさらに良好な検量線を得ることが可能である。
【0084】
次に、図10の検量線から食用調合油(食用大豆油80%、食用菜種油20%)について、前述の分光蛍光光度計を用いて励起波長285nm、蛍光波長330nmにて硫酸キニーネ補正をかけた蛍光強度を求めた。当該蛍光強度と、図10の検量線からの結果を表5に示した。
【0085】
【表5】
【0086】
表5に示す結果より、図10の検量線は概ね良好な検量線であることがわかった。
【0087】

なお、本発明は、上記実施の形態及び実施例に限定されず種々に変形実施が可能である。
【符号の説明】
【0088】
1:油脂A、2:油脂B、3:混合油C
10:インライン式混合装置
11:油導入管、11A,11B:流入口
12:スタティックミキサー、13:油送管、14:分光蛍光光度計
20:バッチ式混合装置
21:撹拌槽、22:攪拌機、23:モーター
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12