特許第6851588号(P6851588)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】6851588
(24)【登録日】2021年3月12日
(45)【発行日】2021年3月31日
(54)【発明の名称】銀粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B22F 9/24 20060101AFI20210322BHJP
   B22F 9/14 20060101ALI20210322BHJP
   B22F 1/00 20060101ALI20210322BHJP
【FI】
   B22F9/24 E
   B22F9/14 Z
   B22F1/00 K
【請求項の数】8
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2016-248183(P2016-248183)
(22)【出願日】2016年12月21日
(65)【公開番号】特開2018-100440(P2018-100440A)
(43)【公開日】2018年6月28日
【審査請求日】2019年9月27日
(73)【特許権者】
【識別番号】504173471
【氏名又は名称】国立大学法人北海道大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】米澤 徹
(72)【発明者】
【氏名】西本 大夢
【審査官】 酒井 英夫
(56)【参考文献】
【文献】 特開2008−013810(JP,A)
【文献】 Susumu Sato et al.,Synthesis of nanoparticles of silver and platinum by microwave-induced plasmain liquid,Surface & Coatings Technology,2011年,Vol.206,p.955-958
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/14,9/24,
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子系保護剤を使用しない銀粒子の製造方法であって、
銀イオンと、過酸化水素とを含み、
前記銀イオンの濃度が、0.05mM以上2mM以下であり、
前記銀イオンの量に対する前記過酸化水素の量(過酸化水素/銀イオン)が、モル比で0.0005以上1以下であり、
pHが9以上である反応溶液中に、
プラズマを発生させる
銀粒子の製造方法。
【請求項2】
前記反応溶液にマイクロ波を印加することによって前記プラズマを発生させる
請求項1に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項3】
セラミックコート電極を用いて、前記反応溶液にマイクロ波を印加する
請求項2に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項4】
前記セラミックコート電極は、酸化イットリウムコート電極である
請求項3に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項5】
前記反応溶液のpHは、アンモニア又は水酸化ナトリウムにより調整される
請求項1乃至4のいずれか1項に記載の銀粒子の製造方法。
【請求項6】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の銀粒子の製造方法により得られた銀粒子を分散媒に分散する
銀粒子分散液の製造方法。
【請求項7】
請求項1乃至のいずれか1項に記載の銀粒子の製造方法により得られた銀粒子を水で洗浄する工程と、
分散媒に分散する工程と、を有する
銀粒子分散液の製造方法。
【請求項8】
前記分散媒が水である
請求項又は7に記載の銀粒子分散液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、銀粒子は、電子材料、光学材料、バイオセンサー、触媒等の用途において特異な性質を示すため、その合成方法について盛んに研究が行われている。
【0003】
金属粒子の合成方法としては、例えば、化学還元法、レーザーアブレーション法、スパッタ法等が用いられている。このうち、化学還元法は、ヒドラジン、クエン酸、NaBH等の還元剤を用いて金属イオンを還元する方法であり、液相プロセスを経由するため、コスト、環境負荷、生産性等において優位な合成方法である。
【0004】
しかしながら、化学還元法においては、上述した還元剤を使用することに起因して副生成物が生成する。この副生成物は、有機溶媒によって洗浄除去する必要がある等、処理が容易でないことから、低コスト・低環境負荷という液相プロセスの優位性を充分に活かすことができない。
【0005】
以上のような背景から、高分子系保護剤の存在下において、過酸化水素を還元剤として用いて化学還元を行う金属粒子の合成方法が報告されている(例えば、非特許文献1)。過酸化水素は水により容易に洗浄除去できるため、このような合成方法においては、有機溶媒による洗浄を必須とせず、洗浄液の処理等の観点からコストや環境性に優れる。
【0006】
しかしながら、この合成方法においては、粒子間の凝集を防ぎ、分散媒への分散性を高めるために、ポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の高分子系保護剤を用いる必要がある。高分子系保護剤は、一旦粒子表面に吸着させると脱離させることが難しい上に、粒子表面に高分子系保護剤が吸着されたまま粒子を材料として用いると、材料の特性を低下させるおそれがあるため、なお改良の余地があった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】B.R.Panda,A.Chattopadhyay,Synthesis of Au nanoparticles at “all” pH by H2O2 reduction of HAuCl4, J. Nanosci. Nanotechnol. 7 (2007) 1911−1915.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、かかる問題点に鑑みてなされたものであり、副生成物を生成する還元剤や銀粒子表面からの除去が困難である高分子系保護剤を使用することなく、分散性が高い銀粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、銀イオンと過酸化水素とを含む反応溶液に、マイクロ波を印加することで、分散媒に対して分散性が高い銀粒子を合成することができることを見出し、本発明を完成するに至った。具体的に、本発明は、以下のものを提供する。
【0010】
(1)本発明の第1の発明は、銀イオンと、過酸化水素とを含み、前記銀イオンの濃度が、0.05mM以上2mM以下であり、前記銀イオンの量に対する前記過酸化水素の量(過酸化水素/銀イオン)が、モル比で0.0005以上1以下であり、pHが9以上である反応溶液中に、プラズマを発生させる銀粒子の製造方法である。
【0011】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記反応溶液にマイクロ波を印加することによって前記プラズマを発生させる銀粒子の製造方法である。
【0012】
(3)本発明の第3の発明は、第2の発明において、セラミックコート電極を用いて、前記反応溶液にマイクロ波を印加する銀粒子の製造方法である。
【0013】
(4)本発明の第4の発明は、第3の発明において、前記セラミックコート電極は、酸化イットリウムコート電極である銀粒子の製造方法である。
【0014】
(5)本発明の第5の発明は、第1乃至第4のいずれかの発明において、前記反応溶液のpHは、アンモニア又は水酸化ナトリウムにより調整される銀粒子の製造方法である。
【0015】
(6)本発明の第6の発明は、第1乃至第5のいずれかの発明において、高分子系保護剤を使用しない銀粒子の製造方法である。
【0016】
(7)本発明の第7の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明に係る銀粒子の製造方法により得られた銀粒子を分散媒に分散する銀粒子分散液の製造方法である。
【0017】
(8)本発明の第8の発明は、第1乃至第6のいずれかの発明に係る銀粒子の製造方法により得られた銀粒子を水で洗浄する工程と、分散媒に分散する工程と、を有する銀粒子分散液の製造方法である。
【0018】
(9)本発明の第9の発明は、第7又は第8の発明において、前記分散媒が水である銀粒子分散液の製造方法である。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、副生成物を生成する還元剤や銀粒子表面からの除去が困難である高分子系保護剤を使用することなく、分散性が高い銀粒子を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】プラズマ反応装置の模式図である。
図2】実施例1において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図3】実施例2において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図4】実施例3において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図5】実施例4において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図6】実施例5において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図7】実施例6において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図8】実施例7において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図9】実施例8において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図10】実施例9において得られた銀粒子のTEM写真図である。
図11】実施例10において得られた銀粒子のTEM写真図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下「本実施の形態」という)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的の範囲内において適宜変更を加えて実施することができる。
【0022】
≪1.銀粒子の製造方法≫
本実施の形態に係る銀粒子の製造方法は、銀イオンを含有する反応溶液にプラズマを発生させることにより、銀粒子を生成させる方法である。具体的に、この銀粒子の製造方法では、銀イオンと、過酸化水素とを含み、銀イオンの濃度が、0.05mM以上2mM以下であり、銀イオンの量に対する過酸化水素の量(過酸化水素/銀イオン)が、モル比で0.0005以上1以下であり、pHが9以上である反応溶液中に、プラズマを発生させる。
【0023】
反応溶液においては、例えばマイクロ波を印加することによって、プラズマが発生する。このプラズマにより、反応溶液中の水が分解されて水素ラジカル等が生成する。水素ラジカル等は、還元剤として作用して反応溶液中の銀イオン(Ag)を還元させることができ、したがって、ヒドラジン等の還元剤を使用せずに、銀粒子を合成することができる。
【0024】
具体的に、この方法においては、以下の反応式(1)〜(4)に示すように還元反応が生じ、銀粒子が生成する。なお、これらの反応式において、H・は水素ラジカル、OH・はヒドロキシルラジカルを表す。すなわち、先ず、反応溶液に例えばマイクロ波を印加することによりプラズマが発生し、式(1)に示すように、そのプラズマにより水が分解されて、水素ラジカルとヒドロキシルラジカルが生成する。次に、銀イオンの還元反応が進行する。ここで、銀イオンの還元反応は、式(2)に示すように、水素ラジカルによって還元される場合と、式(3)、(4)に示すように、ヒドロキシルラジカルにより生成する過酸化水素(H)によって還元される場合がある。
【0025】
O→H・+OH・ ・・・(1)
Ag+H・→Ag+H ・・・(2)
2OH・→H ・・・(3)
Ag+1/2H→Ag+1/2O+H ・・・(4)
【0026】
本実施の形態に係る製造方法においては、反応溶液に別途所定の割合で過酸化水素を含有させることを特徴としている。これにより、銀粒子の表面に水酸基を形成させることができる。そして、この水酸基により、銀粒子表面と分散媒との親和性を高め、銀粒子の分散性を向上させることができる。
【0027】
このような方法においては、銀粒子の表面を高分子系保護剤で保護しなくても、銀粒子表面に静電反発力が発生するため、銀粒子が凝集せずに分散媒に対する分散安定性を維持できる。なお、この静電反発力は、銀粒子表面に形成した水酸基によると考えられる。
【0028】
〔反応溶液〕
反応溶液は、銀イオンと過酸化水素とを含む。この反応溶液に、例えばマイクロ波を印加してプラズマを発生させることで、銀イオンが還元される。
【0029】
反応溶液中の銀イオンの濃度は0.05mM以上2mM以下である。銀イオンの濃度が0.05mM以上であることにより、一つのバッチあたりで得られる銀粒子の収量を高めることができる。また、銀イオンの濃度が2mM以下であることにより、銀粒子の粒径を小さくすることができる。また、銀イオンの濃度としては、0.07mM以上であることが好ましく、0.1mM以上であることがより好ましく、0.15mM以上であることがさらに好ましい。一方で、銀イオンの濃度としては、2mM以下であることが好ましく、1.5mM以下であることがより好ましく、1.2mM以下であることがさらに好ましい。
【0030】
反応溶液中においては、過酸化水素を含有する。この過酸化水素は、銀イオンを還元する還元剤として作用すると考えられるとともに、さらに、以下の反応式(5)、(6)の反応により水酸化物イオンやヒドロキシラジカルを生成し、銀粒子の表面に水酸基を形成させる。銀粒子では、表面に形成された水酸化物イオンによって静電反発力が発生し、これにより、粒子同士の凝集を抑制して分散安定性を高めることができる。
【0031】
+e→OH・+OH ・・・(5)
+H・→HO+OH・ ・・・(6)
【0032】
過酸化水素は、銀イオンの量に対する過酸化水素の量(過酸化水素/銀イオン)として、モル比で0.0005以上1以下の割合で反応溶液中に含まれている。反応溶液中における過酸化水素が、過酸化水素/銀イオンのモル比で0.0005以上の割合で含まれていることにより、粒子表面に有効に水酸基を形成させることができ、高い分散性を付与することができる。また、還元速度を高め、短時間で銀粒子を得ることもできる。一方で、過酸化水素が、過酸化水素/銀イオンのモル比で1以下の割合で含まれていることにより、銀粒子の粒径を小さくすることができる。また、過酸化水素は、過酸化水素/銀イオンのモル比で0.001以上の割合で含まれていることが好ましく、0.002以上の割合で含まれていることがより好ましく、0.003以上の割合で含まれていることがさらに好ましい。一方で、過酸化水素は、過酸化水素/銀イオンのモル比で0.7以下の割合で含まれていることが好ましく、0.5以下の割合で含まれていることがより好ましく、0.3以下の割合で含まれていることがさらに好ましい。
【0033】
銀イオンの供給源としては、特に制限されないが、具体的には、硝酸銀、酸化銀、塩化銀、硫酸銀、酢酸銀等を用いることができる。
【0034】
反応溶液のpHは9以上である。反応が9以上であることにより、プラズマ反応によって、銀イオンを還元し銀粒子を得ることができる。pHとしては、9.2以上であることが好ましく、9.5以上であることがより好ましく、9.7以上であることがさらに好ましい。
【0035】
反応溶液のpHを9以上に調整するために、アルカリを用いることができる。アルカリとしては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化バリウムや、アンモニア水等を用いることができる。コストの観点から、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。また、銀アンミン錯体([Ag(NH)を形成させ、還元速度を制御可能である点から、アンモニア水を用いることが好ましい。
【0036】
銀のプラズマ反応においては、銀イオン還元速度が遅いほど、銀粒子の粒径は小さくなる。したがって、上述したとおり、アルカリ源としてアンモニア水を用いて銀アンミン錯体([Ag(NH)等の錯体を形成させることで、銀イオンを保護し、還元速度を抑制することで粒径が小さい銀粒子を得ることができる。また、過酸化水素の量を小さくし、還元速度を抑制することでも粒径が小さい銀粒子を得ることができる。
【0037】
一方で、例えば水酸化ナトリウム等、銀の錯体を形成しないアルカリ源を用いた場合、酸化銀(AgO)が生成する。pHが高いほど酸化銀は安定性が高くなるため、高pH領域において、還元が抑制され、粒径が小さい銀粒子を得ることができる。
【0038】
溶媒としては、銀イオンと過酸化水素とを溶解させることができるものであれば特に制限されないが、銀イオンと過酸化水素に対し高い溶解度を有することから水を用いることが好ましい。
【0039】
〔プラズマ発生手法〕
上述したように、本実施の形態に係る銀粒子の製造方法では、所定量の銀イオンと過酸化水素とを含有する反応溶液に、プラズマを発生させることを特徴としている。プラズマの発生方法としては、特に制限されず、公知のプラズマ反応装置等を用いて行うことができる。以下に、プラズマ発生手法の一例について、図を参照しながら説明するが、この例に何ら制限されない。
【0040】
図1は、プラズマ反応装置の一例を示す模式図である。プラズマ反応装置1は、マイクロ波を反応溶液に印加してプラズマを発生させる装置であり、導波管11と、同軸変換装置12と、同軸管13と、電極14とからなり、電極先端141はセラミックコートされている。また、電極先端141は、反応溶液格納容器2に充填された反応溶液に接触している。
【0041】
導波管11は、例えばマグネトロン発振器等のマイクロ波発生装置に接続されている。この導波管11は、マイクロ波発生装置から出力されたマイクロ波を、同軸変換装置12へ伝搬するものである。図示しないが、導波管11には、出射、反射それぞれのマイクロ波電力を測定するパワーモニタや、負荷インピーダンスの整合を行うチューナ(例えばスリースタブチューナ)等の立体回路を設けることができる。また、導波管11の終端には、終端プランジャ等を設けることができる。
【0042】
同軸変換装置12は、導波管11を通じて到達したマイクロ波の伝搬方向を変更するものである。プラズマ反応装置1においては、導波管11と同軸管13は垂直に接続されているため、マイクロ波の伝搬方向を垂直方向に変更させ、最終的に反応溶液までマイクロ波を伝搬させる。
【0043】
同軸管13は、同軸変換装置12の一部を構成しており、導波管11から受けたマイクロ波を反応溶液に伝搬させる。この同軸管13は、同軸管構造で構成されており、同軸管内部導体13aと、同軸管外部導体13bとを有している。同軸管内部導体13aは、ステンレス等の金属からなる電極14がその内部に挿入され、同軸管外部導体13bの中空に、同軸管外部導体13bと同軸に配置されている。この同軸管内部導体13aは、胴部が円柱形状に形成されるとともに、その一方の端部は同軸変換装置12に接続され、他方の端部は電極14が延設されている。電極14の電極先端141は反応溶液に接触されており、この電極14の電極先端141と反応溶液との接触部分にプラズマが発生する。
【0044】
電極14を支持するとともに、同軸管13の内部に液体が流入するのを防止するために、同軸管内部導体13aと同軸管外部導体13bの間に、封止部材を設けてもよい。封止部材としては、例えば、マイクロ波帯における誘電損失が少なく、過大な誘電率がなく、かつ耐熱性の高いPTFE等を用いることができる。
【0045】
反応溶液格納容器2は、反応溶液を格納する容器である。この反応溶液格納容器2に格納された反応溶液中でプラズマを発生させる。
【0046】
反応溶液には、プラズマを発生させ、微粒子を生成するエネルギーを確保するために、マイクロ波電力が印加される。マイクロ波電力としては、2.45GHz、5.8GHz、9.5GHz帯等の周波数スペクトルが単一のマイクロ波を用いることができる。このようなマイクロ波を用いることにより、共振構造、伝送路インピーダンスの最適化等により、高い電力供給効率ができ、また、電極14への負荷を小さくすることもできる。
【0047】
マイクロ波電力としては、複数周期を一パルスとするパルス状のマイクロ波電力を用いることが好ましい。このようなマイクロ波電力を用いることにより、印加するマイクロ波電力を高く維持しながらも、電極に生じる激しい発熱による電極の破壊を抑制できる。
【0048】
マイクロ波発生装置のマイクロ波発生出力としては、特に制限されないが、180W以上であることが好ましく、200W以上であることがより好ましく、220W以上であることがさらに好ましい。マイクロ波発生出力が180W以上であることにより、安定してマイクロ波が発生させることができる。一方で、マイクロ波発生出力の上限値としては、600W以下であることが好ましく、500W以下であることがより好ましく、450W以下であることが特に好ましい。マイクロ波発生出力が、600W以下であることにより、粒径が小さく、分散性の高い銀粒子を得ることができる。
【0049】
導波管11及び同軸管13内のガス雰囲気としては、特に制限されるものではないが、不活性ガス又は還元性ガスを電極周囲に供給することで、得られた銀粒子が酸化することを抑制することができる。
【0050】
電極16を構成する金属としては、特に制限されず、例えばステンレス電極やタングステン電極等を用いることができる。金属電極としては、表面がセラミックスでコートされた電極を用いることが好ましく、酸化イットリウムでコートされた電極を用いることがより好ましい。セラミックスでコートされた電極を用いることにより、電極を構成する金属が反応溶液へ溶け出し、銀粒子に不純物が混入することを防止できる。
【0051】
反応溶液格納容器2に反応溶液を格納した後、マイクロ波発生装置の稼働を開始し、マグネトロンからマイクロ波を出力させる。マイクロ波は、導波管11を伝搬し、同軸変換装置12、そして液中プラズマ源を介して反応溶液に印加される。これにより、反応溶液内にプラズマが発生し、銀イオンが還元し、銀粒子が得られる。
【0052】
このような銀粒子の製造方法によれば、表面に水酸基を有する銀粒子が得られる。このような粒子は、分散媒との親和性が強く、分散性が高い。また、粒子間には静電的反発力が生じ、粒子の凝集を抑制できる。
【0053】
また、このような銀粒子の製造方法においては、例えばポリビニルアルコールやポリビニルピロリドン等の高分子系保護剤を使用しない。高分子系保護剤を使用することなく、凝集が生じない銀粒子を得ることができる。そのため、従来、高分子系保護剤を除去するために用いていた有機溶媒を使用する必要がなく、コストや環境負荷の観点から利点を有する。
【0054】
銀粒子の粒径としては、特に制限されず、銀粒子の用途に応じて適宜選択することができるが、例えば、平均粒径で500nm以下であることが好ましく、300nm以下であることがより好ましい。銀粒子の平均粒径が500nm以下であることにより、銀粒子の分散性が良好となる。なお、銀粒子の粒径は、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0055】
銀粒子の形態としては、特に制限されず、銀粒子の用途に応じて適宜選択することができる。例えば、銀の晶系及び晶癖に依存した形状の定形粒子や、擬球状等の不定形粒子が挙げられる。なお、銀粒子の形態は、製造条件を調整することにより制御することができる。
【0056】
≪2.銀粒子分散液の製造方法≫
本実施の形態に係る銀粒子分散液の製造方法は、上述した銀粒子の製造方法により得られた銀粒子を、分散媒に分散することにより、銀粒子分散液を製造する方法である。上述した銀粒子の製造方法により得られた銀粒子は、表面に水酸基が露出していることから、例えば、水やアルコール等多くの溶媒に対する分散性が良好である。
【0057】
銀粒子の分散方法としては、特に制限されないが、例えば、撹拌、超音波照射等の方法を用いることができる。
【0058】
得られた銀粒子は、分散媒に分散する前に水で洗浄することが好ましい。銀粒子表面に吸着した過酸化水素等は水により除去可能である。一方で、銀粒子は、その表面に高分子系保護剤を有さないため、有機溶媒を使用して洗浄することを要しない。
【0059】
分散媒としては、表面に水酸基を有する銀粒子を分散させることができるものであれば特に制限されず、具体的には、分散安定性の観点から、極性分子であることが好ましく、粒子表面の水酸基と水素結合を形成する分子であることがより好ましい。銀粒子表面の水酸基と水素結合を形成する分子の具体例としては、例えば、水やアルコール等が挙げられる。特に、水は取扱いの安全性や後処理の容易性の観点から優位である。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら制限されるものではない。
【0061】
〔プラズマ反応装置の構成〕
図1の模式図に示された構成と同様のプラズマ反応装置1を構成した。具体的に、プラズマ反応装置1は、導波管11(109.22mm×54.61mm)、同軸変換装置12、同軸管13及び電極14を備える。また、導波管11は、マグネトロン発振器(Micro Denshi UW−1500)に接続されている。
【0062】
このようなプラズマ反応装置1においては、マグネトロン発振器から周波数2.45GHzのマイクロ波が放出される。このマイクロ波は、導波管11を通り、同軸変換装置12、同軸管13及び電極14を介して、反応溶液へ印加される。電極14は、同軸管13の中央に取り付けられ、電極14の電極先端141は反応溶液と接している。電極14はステンレス製であり、その電極先端141はYでコートされている。反応溶液格納容器2は、容量が500mLであり、その内部はPTFEでコートされている。マイクロ波を印加している際に、反応溶液は、5℃の冷却水により冷却されている。プラズマ反応装置1内の圧力は、真空ポンプにより減圧される。
【0063】
〔粒子の合成及び評価〕
以下の実施例1〜10及び比較例1〜2に示す操作により、銀イオンを含む水溶液にプラズマ処理を施した。これらにおいて、原料として、硝酸銀(Ag(NO),関東化学株式会社製)、過酸化水素水(35%,純正化学株式会社製)、アンモニア水(28%,純正化学株式会社製)及び水酸化ナトリウム(純正化学株式会社製)を使用した。なお、過酸化水素水、アンモニア水は、脱イオン水で希釈して濃度を調整し使用した。水酸化ナトリウムは、脱イオン水に溶解させ、水酸化ナトリウム水溶液を調製し使用した。
【0064】
<実施例1>
脱イオン水500mLに硝酸銀を25.5mg添加し、次いで0.35%過酸化水素水を6.5μL添加した後、2.8%アンモニア水を用いてpHを11に調整し、5分間撹拌混合して反応溶液を得た。ここで、反応溶液中の銀イオン濃度は0.3mM、H農度は0.0015mM、H/銀イオンのモル比は0.005(mol/mol)である。反応溶液を反応装置へ投入し、マイクロ波出力を350Wに設定して、反応溶液中にプラズマを発生させ、沈殿物を生成させた。プラズマによる還元反応の推移は、サンプリングした溶液のUV−Vis測定により判断した。なお、この実施例1においては、銀イオンの還元反応は120分で終了した。
【0065】
生成した沈殿物をろ過、乾燥し、得られた粉末について、リガク社製MiniFlex2を用いてX線回折(XRD)測定を行った。測定は、CuKα線を用い、スキャン速度は10°min−1に設定した。このXRDパターンは銀のパターンと一致し、銀の結晶相が形成したことが分かった。
【0066】
また、このXRDパターンにおいて、副相(不純物相)のピークは見られなかった。一方で、電極として未コートのタングステンを用いた場合には、反応溶液に溶解したタングステンイオンに由来する副相のピークが見られたことから、電極にセラミックコート電極を用いることにより、副相の生成を抑制できることが分かった。
【0067】
生成した沈殿物を分散させた分散液を、透過型電子顕微鏡(TEM)用のグリッド上に滴下し、自然乾燥させた。このようにして得られたTEM用グリッドを用いて、TEM観察を行った。TEM観察は、JEOL社製JEM2000−ESを用いて、加速電圧200kVの条件で行った。図2は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0068】
プラズマ反応終了(マイクロ波印加終了)後の反応後液をデュラン瓶に移し、5時間静置した。静置後の反応後液を目視で確認したところ、粒子は沈降せず高い分散性を有していた。
【0069】
<実施例2>
反応溶液のH濃度を0.015mM(H/銀イオンのモル比0.05(mol/mol))に変更した以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0070】
その結果、銀粒子が得られた。図3は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0071】
<実施例3>
反応溶液のH濃度を0.075mM(H/銀イオンのモル比0.25(mol/mol))に変更した以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0072】
その結果、銀粒子が得られた。図4は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0073】
<実施例4>
反応溶液のpHを10に変更した以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0074】
その結果、銀粒子が得られた。図5は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0075】
<実施例5>
反応溶液のpHを12に変更した以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0076】
その結果、銀粒子が得られた。図6は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0077】
<実施例6>
脱イオン水500mLに硝酸銀を25.5mg添加し、次いで0.35%過酸化水素水を6.5μL添加した後、0.25%の水酸化ナトリウム水溶液を用いてpHを11に調整し、5分間撹拌混合して得た反応溶液を用いた以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。なお、実施例1と同様に、反応溶液中の銀イオン濃度は0.3mM、H農度は0.0015mM、H/銀イオンのモル比は0.005(mol/mol)である。
【0078】
その結果、銀粒子が得られた。図7は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0079】
プラズマ反応終了(マイクロ波印加終了)後の反応後液をデュラン瓶に移し、5時間静置した。静置後の反応後液を目視で確認したところ、粒子は沈降せず高い分散性を有していた。
【0080】
<実施例7>
反応溶液のH濃度を0.015mM(H/銀イオンのモル比0.05(mol/mol))に変更した以外、実施例6と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0081】
その結果、銀粒子が得られた。図8は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0082】
<実施例8>
反応溶液のH濃度を0.075mM(H/銀イオンのモル比0.25(mol/mol))に変更した以外、実施例6と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0083】
その結果、銀粒子が得られた。図9は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0084】
<実施例9>
反応溶液のpHを10に変更した以外、実施例6と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0085】
その結果、銀粒子が得られた。図10は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0086】
<実施例10>
反応溶液のpHを12に変更した以外、実施例6と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0087】
その結果、銀粒子が得られた。図11は、銀粒子のTEM写真図である。得られた銀粒子において、凝集粒子は殆ど見られなかった。
【0088】
<比較例1>
脱イオン水500mLに硝酸銀を25.5mg添加した後、過酸化水素水を添加せずに、2.8%アンモニア水を用いてpHを11に調整し、5分間撹拌混合して得た反応溶液を用いた以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0089】
その結果、比較例1においては、反応溶液が過酸化水素を含まないためプラズマ印加による銀イオンの還元反応が極端に遅くなり、銀粒子は得られなかった。
【0090】
<比較例2>
反応溶液のpHを7に変更した以外、実施例1と同様にしてプラズマ反応を行った。
【0091】
その結果、比較例2において銀粒子は得られなかった。
【符号の説明】
【0092】
1 プラズマ反応装置
11 導波管
12 同軸変換器
13 同軸管
13a 同軸管内部導体
13b 同軸管外部導体
14 電極
141 電極先端
2 反応溶液格納容器
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11